『――すみません、手のかかる子ですよね。もっと、才能がある個だったらよかったんですけど……』
『でも、ゆっくり、気長に育ててくれませんか。いつかきっと、小さくても、花を咲かせてみせますからっ』
『私みたいに、競うのが苦手な人間がアイドルになろうだなんて、あんまり向いてないかもしれないですよね』
『でも、私、たくさんの人を幸せにしたいんです。易しい気持ちで包んであげたいと思っているんです』
(ぷちデレラ:高森藍子より)
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1437987985
初っ端から修正……
誤:易しい気持ちで 正:優しい気持ちで
――2013年 4月
北条加蓮「ん~~~~?」テヲノバス
高森藍子「…………」ジー
加蓮「うんっ。やっぱり私と同じ身長だ。えっと、この前に測った時は確か……155cmだったかな?」
藍子「…………」ジー
加蓮「意外と背が高かったんだね……って、藍子? さっきからどしたの? そんなに私をジーっと見て」
加蓮「なんかついてる?」
藍子「あっ、いえっ。加蓮ちゃんは今日もオシャレだなって」
あ、最初の方誤字ってる?
「才能がある個だったら…」になってます
加蓮「そうかな……今朝はバタバタしてたから、とりあえずテキトーに引っ張ってきたんだけど」
藍子「適当でそれですか!? うう、私も見習いたいな……」
加蓮「見習うって何を」
藍子「ほら、アイドルだったら、やっぱりお仕事がない日もオシャレにした方がいいのかな、って」
藍子「でも、あんまりアイドルらしくない私が変なことしたら、おかしくなっちゃうのかな?」
>>4 orz <アリガトウゴザイマス モウシワケナイ...
>>1 修正
誤:才能がある個だったら 正:才能がある子だったら
加蓮「身長、私と同じだよね。服とか貸そっか? 何ならコーデもやってみるけど」
藍子「いいんですかっ。加蓮ちゃんのアドバイスから安心ですね♪」
加蓮「……や、人のコーデとかそんなに経験ないから、あんまりアテにしないでよ?」
加蓮「ああ、でも私の服を貸すとちょっと不格好になるか……」
藍子「……?」
加蓮「いや、ほら」
藍子「??」
加蓮「……胸」
藍子「……あ、あはは……ごめんなさい、その、アイドルらしくない体型で」
加蓮「誰もそこまで言ってないわよ……。新しく探した方がいいのかな、こういうのは」
道明寺歌鈴「おはっ、おはようございまふ!」
加蓮「おはよー、歌鈴」
藍子「おはようございます、歌鈴ちゃんっ♪」
歌鈴「じ、時間大丈夫でしたか!?」
加蓮「んー」チラッ
加蓮「10分前くらい? うちのPさん、そんなにうるさく言う人じゃないし大丈夫大丈夫」
藍子「大丈夫だと思いますよ。それより歌鈴ちゃん……顔、汗だらけですから、これで拭いてください」つハンカチ
歌鈴「わわっ、ありがとうございますっ!」フキフキ
加蓮「……あれ、今思ったんだけどさ。もしかして歌鈴も背ぇ私と同じくらい?」
藍子「言われてみれば、目線がほとんど同じような……歌鈴ちゃん。こう、ちょっと背筋を伸ばしてもらえますか?」
歌鈴「はいっ!」ビシ
藍子「ん~?」テヲノバス
藍子「あはっ、ほとんど同じですっ」
歌鈴「そうなんですかぁ! 私、前に身長を測った時は155cmでした!」
歌鈴「……測る時に転んじゃって、測る機械が倒れそうになったり……」
加蓮「ドジ」
歌鈴「あうぅ」
藍子「もうっ、加蓮ちゃん!」
藍子「私も155cmなんです。同じですね♪」
歌鈴「藍子ちゃんと同じ……!」
加蓮「あ、やっぱり同じなんだ。へー、偶然だね。アニバLIVEで妙に動きが合いやすかったのって、もしかしてそういうのがあったから?」
歌鈴「…………」ジー
加蓮「……え、何? ああうん、私と同じことは喜ばないんだね、うん、いや別にいいけど」
歌鈴「べっつにー。前に藍子ちゃんに膝枕をされていたことなんて、ぜーんぜん思い出していませんからっ」
加蓮「膝枕? あー、前にへばってた時ね……あれは私がぜーぜー言ってたから藍子がどうかってやってくれただけだよ?」
歌鈴「藍子ちゃんからやってもらったんですかっ!? うう、羨ましいです! 私もやってほしいですっ!」ガシッ
藍子「えっ、え?」
加蓮「………………。ちょっと待った。藍子の膝の上は私の特等席だよ。歌鈴には譲れないね」ガシッ
藍子「加蓮ちゃんまでっ」
歌鈴「む~~~! たまにはいいじゃないですかっ。加蓮ちゃん、いつも藍子ちゃんと一緒にいるしっ」
加蓮「歌鈴こそ、よく藍子とレッスンやってるじゃん。プライベートくらい譲ってくれてもいいと思わない?」
歌鈴「そんなこと言って、ホントは藍子ちゃんに迷惑をかけてるんじゃないですか?」
加蓮「ドジ巫女には言われたくないんだけど? 今週は何回転んだのよ、ん?」
歌鈴「わ、私は転んでも頑張るんですぅ!」
加蓮「私だって体力ないなりに頑張ってるんだけど!」
歌鈴「ぐぬぬ……」
加蓮「むむむ……」
藍子「あ、あのっ、おふたりとも! ……もうっ、なんですぐに喧嘩しちゃうんですか!」
加蓮・歌鈴『だって歌鈴が(加蓮ちゃんが)!』
藍子「ひゃっ。え、ええと、私でいいなら膝枕くらいしますから、ね?」
歌鈴「ふふん」ドヤァ
加蓮「……へー、そー。アイドルの癖に? 何もしないでもらう物だけもらう? ふぅーん?」
歌鈴「(ぶちっ)そこまで言うなら勝負です! 藍子ちゃんの膝枕を賭けて!」
加蓮「お、いいね、その賭け乗った。なんなら藍子の今度の休日まで賭けてもいいよ?」
藍子「え、あの」
歌鈴「休日!? そそそれは、一緒にカフェに行ったり、雑貨店に行ったり、神社でゆっくりお茶をしても……!?」
加蓮「何をしようが自由だよ。その代わり負けたら1日連絡も禁止」
歌鈴「かっ、加蓮ちゃんには、ぜーったい負けませんから!」
加蓮「私だって負けないよ。じゃあ勝負は――」
モバP(以下「P」)「おーっす。お、もう揃ってるな。ちょっと遅れ――」
加蓮「Pさん!」
歌鈴「Pさん!」
加蓮「歌鈴と勝負したいんだけど何か勝負することない!?」
歌鈴「加蓮ちゃんと勝負したいんですけど何か勝負することないですかっ!?」
P「…………は?」
加蓮「勝った方が今度の藍子の休日をもらえるって賭けでね、歌鈴が膝枕をしてもらいたいなんて言うからそれを阻止するの」
歌鈴「いつも加蓮ちゃんばっかり藍子ちゃんを独占しててじゅるいです!(噛んだ……!)たまには私だって!」
P「…………はあ」チラッ
藍子「あ、あはは、あの、おふたりとも、私――」
加蓮・歌鈴『藍子(ちゃん)は黙ってて!』
藍子「いや賭けの対象って私なんですよね!? 勝手に休日を奪わないでくださいっ」
藍子「それに、それなら3人で過ごせばいいんじゃ――」
加蓮「……」ピクッ
歌鈴「……」ピクッ
加蓮「…………」ミアワセ
歌鈴「…………」ミアワセ
P「え、えーっと、喧嘩は終わったか? それじゃあ今日の予定を、」
加蓮「藍子は頭がいいね、でもこれそういう問題じゃないんだ」
歌鈴「もう後には引けないんです! 歌鈴、一世一代の大勝負、参りばずっ!(また噛んだ……!)」
藍子「ええっ!?」
P「せめて藍子の予定くらい聞いてやれよ……。まあいいや、勝負できればいいんだな?」
P「じゃあこうしよう。今日のレッスンはもともと合同にしようと思っていたんだ」
P「そこで通しのパフォーマンスでもやって、勝った方が勝ちってことでいいだろ。判定は俺とトレーナーさんで」
加蓮「いいねPさん。さすが話を分かってるじゃん。それならこの子も文句なんて言えないでしょ」
歌鈴「ふーんだ。今のうちに寂しい休日を送る心配でもしたらどうですか?」
加蓮「ふふっ、私は藍子にべったりな歌鈴と違って他にも友達がいるからね」
歌鈴「私にだっていますー! 前に響子ちゃんにお掃除のことを教えてもらったんですー!」
加蓮「じゃあそっち行きなさいよ」
歌鈴「加蓮ちゃんだって、ユニットで自主レッスンでもやっていたらどうですか?」
加蓮「ぐぬぬ……」
歌鈴「むむむ……」
P「……分かった、お前ら実は仲良しなんだな? 俺にはそう見えるぞ」
藍子「だと、思いますけど……もうっ」
加蓮「ほらもう。Pさん、さっさと行こっ」グイグイ
歌鈴「今ならドジせずにできる気がしますからっ」グイグイ
P「分かった分かった、分かったから引っ張るな!」ズリズリ
<バタン
藍子「……あ、行っちゃった……じゃなくてっ、私もレッスンの準備しなきゃ。待ってくださーい!」パタパタ
藍子(でも、なんであのおふたりは、いつも喧嘩してばっかりなのでしょうか)
藍子(歌鈴ちゃんも加蓮ちゃんも、そんな子じゃない筈なのに……)
――後日 街中――
加蓮「……で、こうなる訳ね」(藍子の右隣)
歌鈴「あそこで上手くターンできてたら勝ててたのにっ」(藍子の左隣)
藍子「も、もう、おふたりとも。同点だって決まったんですから、ね?」(挟まれる)
加蓮「なんで点が伸びなかったかなぁ……なんか動きがワンパターンって言われたんだよね」
歌鈴「うぅ、落ち着きがないって言われても……やり始めると、つい緊張で」
加蓮「アンタの場合はPさんがいるからでしょ? 意識しすぎなのよ、パッと見て分かるくらいに」
歌鈴「わっ、私はいつもPさんにいいところを見せようと思って……加蓮ちゃんが気を抜きすぎなんですっ!」
藍子「もう、おふたりとも!」フリホドク
藍子「喧嘩ばっかりするんだったら、そのことをPさんに報告しますよ?」
加蓮「……はぁい」
歌鈴「……藍子ちゃんがそう言うなら」
加蓮「……」
歌鈴「……」
加蓮「……歌鈴もさ。藍子が藍子がPさんがPさんって、周りにべったりしすぎなんだって」
歌鈴「加蓮ちゃんみたいにひとりで寂しくやりたくはないですぢ!(噛んだ……)」
加蓮「え? ひとりでって、私……あーっ! アンタ、この前の夜に覗いてたのアンタでしょ!?」
歌鈴「たまたま見ちゃっただけですよ?」
加蓮「誰か見てるなって思ったら! あのね、あれは秘密なんだから勝手に話さないでよ! 特にPさんとか藍子の前でそれ言われると――」
藍子「秘密の? 歌鈴ちゃん、加蓮ちゃんが何かしていたんですか?」
歌鈴「はいっ。夜の9時くらいに、自主レッスン室に加蓮ちゃんがいて、こっそり練習していたんです!」
加蓮「げっ」
歌鈴「ああやっていつもズルするんです、加蓮ちゃんは!」
加蓮「ちょ、ちょっと待って、ズルって私はただLIVEでちょおっとミスっちゃったかなーって思って反省会をしていただけで決して無理なレッスンとかは、」
藍子「…………加蓮ちゃん?」
藍子「いつもへばっちゃうなら、無茶はしないで、疲れたらゆっくり家で休んでくださいって」
藍子「私、膝枕をしている時に、いつも言っていますよね?」
加蓮「スミマセン」
歌鈴(藍子ちゃんが鬼だ……っ!)
藍子「もうっ……。歌鈴ちゃんからも言ってあげてください。加蓮ちゃん、いつも無理してばっかりで」
歌鈴「って言ってますよ、加蓮ちゃん」
加蓮「ぐぬぬ……ここに私の味方はいないのか……」
歌鈴「でも加蓮ちゃんの気持ち、なんとなく分かるなぁ」
藍子「え?」
加蓮「歌鈴に共感されると逆に気持ち悪いんだけど……」
歌鈴「こっそり練習してみんなの前でお披露目するなんて、カッコイイじゃないですかっ」
歌鈴「……それで失敗したらただのマヌケですけど(ボソッ)」
加蓮「ん~? 今なにか言ったかな、すってんころりん」
歌鈴「誰も加蓮ちゃんのことなんて言っていませんよ?」
藍子「こっそり練習……」
加蓮「歌鈴こそ自主レッスンでもやったら? いくらなんでも転びすぎでしょ」
歌鈴「わ、私はいつも転ばないように頑張ってるつもりなんですっ」
加蓮「できてないから言ってんだけどなぁ……。ねえ藍子。藍子も迷惑してるよね、歌鈴のドジに」
藍子「え? いえ、そんなことはぜんぜん……?」
藍子「私だって、失敗してしまって、Pさんに迷惑をかけることはよくありますし」
加蓮「……って藍子が甘やかすから、いつまでも歌鈴のドジが直らないんじゃないの?」
歌鈴「藍子ちゃんは優しいですからね! どこかの誰かさんと違って!」
加蓮「そのどこかの誰かさんは、藍子に叱られてるからこそ頑張れてるんだけどなー?」
歌鈴「ぐぬぬ……」
加蓮「むむむ……」
藍子「はぁ……もう、どうしてすぐにこうなるんですかっ」
加蓮「だって歌鈴が変なこと言うし」
歌鈴「加蓮ちゃんがひねくれたことばっかり言うのがいけないんですっ」
藍子「もう……。ええと……ほらっ、今日は服を買いに行くんですから! あのっ、そうだ、私に似合う服、"2人で一緒に"探してください!」
加蓮「…………」ミアワセ
歌鈴「…………」ミアワセ
藍子「……ねっ?」オソルオソル
加蓮「オッケー。藍子と言えば洋服だよね。夏を先取りするくらいがいいかな?」
歌鈴「藍子ちゃんと言えば和服ですっ。それに、春っぽくしたらもっとステキになれますよ、きっと!」
加蓮「……それもう今までさんざんやってるじゃん、そろそろ冒険してみないとね」
歌鈴「いい物は何度見てもいいんです。藍子ちゃんだって、きっとそういうところがファンの人に好かれてるんです!」
加蓮「いやいや、同じことばっかじゃそろそろ飽きられるよ?」
歌鈴「いやいや、変なことするよりは見てて安心していたいですからっ」
加蓮「…………」バチバチ
歌鈴「…………」バチバチ
藍子「なんでこうなるんですか~~~!」
――2013年 6月
――レッスンスタジオ――
北条加蓮「ワン、ツー、スリー、フォー、ワン、ツー、スリー、フォー」
加蓮「んー……ここのステップどうなってんの? 左、右、右……うわっとっと」ズテッ
道明寺歌鈴「…………」ジー
加蓮「危なななな……うわっ!? ちょ、びっくりしたぁ……歌鈴!? いたならいたって言ってよ!?」
歌鈴「ついさっき来たところですよ? それより加蓮ちゃん! 今の、次の私の、ステージの振り付けですよね!?」
加蓮「え? あー……」
歌鈴「一緒にLIVEをやるって話も聞いてないですけど……はっ、まさか乱入してくるつもりですかっ!?」
加蓮「…………あー、うん、そんな感じ」
歌鈴「また加蓮ちゃんはぁ! 知ってるんですよ、この前、藍子ちゃんのLIVEに急に乱入して、めちゃくちゃにしたって!」
加蓮「いや、あれはつい……藍子が楽しそうにやってたのを見ると身体が止まらなかったっていうか」
歌鈴「むー……」
加蓮「……ご、ごめん」
歌鈴「ふんだ」
歌鈴「また乱入するっていうならいいですよっ。それなら勝負ですっ」
歌鈴「今の私なら、加蓮ちゃんにも負ける気がしませんから!」
加蓮「ほー。そんなこと言うんだったらちょっとやってみせてよ。ほら、音源あるから」
歌鈴「はいっ! 見ててください、歌鈴の舞を!」
高森藍子「こんにちは~……」
加蓮「そこ右足を伸ばしすぎだって言ってんでしょーが! だから転ぶのよ! ここ、こう!」
歌鈴「こっ、こうですか!?」
加蓮「違うって! ああもう、ちょっと身体の重心を落としてこういう風に――」
歌鈴「身体の重心を落とし――」グラッ
歌鈴「ひゃわっ!?」
加蓮「きゃっ!?」
<ずてっ
加蓮「イタタタ……」(下)
歌鈴「はわわっ……」(上)
藍子「……お、おふたりとも、大丈夫ですか?」
歌鈴「藍子ちゃんっ!」ギュム
加蓮「ぐえ」
藍子「わ、わぁ……今、なにかが潰れたような音が」
加蓮「イタタ……。藍子。ちょっと歌鈴に言ってやってよ。ほんっとに転んでばっかりなんだけど!」
歌鈴「それは加蓮ちゃんが無茶を言うからです! それに加蓮ちゃんが言ってる振り付け、ちょっと間違ってますっ!」
加蓮「え、マジ。コピーしただけだしな、どっか記憶違いがあったのかも」
歌鈴「正しいのをお見せしますから、そこでよーく見ててください!」
加蓮「とか言ってアンタ絶対どっかで転ぶでしょ……」
歌鈴「転びばせんっ!(あうぅ……)」
――実際にやってみた――
歌鈴「ぎゃっ!」ズテッ
藍子「歌鈴ちゃん……もう、膝が真っ赤になっちゃってますっ」シュー
加蓮「5回目っと……。なんでこんなに転ぶんだろうね」
歌鈴「うぅ……」シュン
藍子「あの、加蓮ちゃん、あまり強く言い過ぎると――」
加蓮「ちょっと真剣に考えてみようよ。ほら、藍子も」
藍子「えっ。わ、私もですか? えっと……歌鈴ちゃんがどうして転んでしまうか、ですよね?」
歌鈴「お、お願いしますっ。私、ちょっとづつでもいいのでドジを減らしたくてっ」
歌鈴「Pさんに迷惑はかけたくありませんから! ……いえっ、LIVEを成功させて、Pさんのお役に立ちたいですから!」
藍子「あはっ……歌鈴ちゃん、前向きに考えられるようになったんですねっ」
歌鈴「失敗してしまうって考えたら、ホントに失敗してしまいそうだから……成功する為に頑張るといいって、Pさんに言われたんです」
藍子「そうですねっ。じゃあ、私も頑張って考えちゃいます」
加蓮「……」チラッ,スタッ
歌鈴「はい、お願いします!」
藍子「ううん……。そう、ですね……。歌鈴ちゃんが転んでしまうのは、やっぱり、焦りすぎじゃないかなって、私はいつも思います」
歌鈴「はうぅ……」
藍子「ドジを減らそうって思いすぎた方が、逆に失敗してしまったり? もっとリラックスしてみてはどうでしょうか」
歌鈴「リラックス……藍子ちゃん。藍子ちゃんみたいに落ち着いた人になるには、どうしたらいいですかっ!」
藍子「その……私はただてきぱきできないだけだから……」
歌鈴「そんなことないです。藍子ちゃんはいつも落ち着いててステキです!」
藍子「あ、ありがとう?」
加蓮「ワンツースリーフォー、ワンツースリーフォー……違うなぁ、ここで前に出た方がいいのかな?」
藍子「じゃあっ、ステージに上がる前に深呼吸をしてみるとか、今日は落ち着いて頑張ろうって言い聞かせてみるとか……」
藍子「失敗しないっ、じゃなくて、落ち着いて頑張ろう、って思うのがコツですよ」
藍子「私も、LIVEの前にはよく緊張しますけど……いつも通りの自分でやろうって、口に出して言っているんです」
藍子「そうしたら、自然と緊張もなくなっていくというか……」
歌鈴「LIVEの前に言い聞かせる……はいっ! やってみます!」
藍子「あとは――」
加蓮「ワンツースリーフォー……あれ? うまくできた。ここでターンっ。決めっ」
歌鈴「…………」
藍子「…………」
加蓮「あ、できてる。…………え? 何? どしたの?」
歌鈴「…………」
歌鈴「――――!」スクッ
歌鈴「わっ」ズルッ
歌鈴「いたたた……!」タチアガル
歌鈴「……い、今のっ、どうやってうまくやったんですかっ、教えてくだちゃ!」
歌鈴「……お、教えてください!」
加蓮「う、うん」
藍子「落ち着いてって言ったばっかりなのに……」アハハ
加蓮「今のは……えーっと、ここで右足を控え目に伸ばして、それからすぐに左手を出して――」
歌鈴「こう、こう! ですかっ。あ、なんだか今の、とってもいい感じ!」
加蓮「でしょ? 次のステップは――」
歌鈴「確かに、こうやったら転ばないで――」
藍子「あはっ……解決しちゃったみたいですね」
藍子「……負けませんから……か」ボソッ
歌鈴「やったっ! うまくできました! ありがとうございます加蓮ちゃ――」ハッ
歌鈴「ま、まだまだこれくらいじゃないですからね! 歌鈴、Pさんの為にもっとドジを減らないとっ!」
加蓮「Pさんの為、ねー……そろそろ目的を変えた方がいいんじゃない?」
加蓮「だってその目的、私がいる限りどうやっても達成できないし」
歌鈴「どどどういう意味ですかぁ!?」
加蓮「さて、私もレッスンレッスン」
歌鈴「わ、私だって成長してっ、ぜーったい、加蓮ちゃんにはPさんを渡さないんですから!」
藍子「でも、私はやっぱり……みんなで仲良くやる方が……って、あれ?」
藍子「歌鈴ちゃん、加蓮ちゃん……? あれ? いない? ……あれ?」
――事務所の食堂――
加蓮「~~~♪ ~~~♪」
歌鈴「はふ……あたたかいお茶を飲むと落ち着きますねぇ……はふ」
加蓮「ん? 歌鈴じゃん。ここいい?」
歌鈴「あぁ、加蓮ちゃんですか。どうぞぉ……」
加蓮「あ、うん」ゴトッ
加蓮「……」ゴソゴソ
歌鈴「……はふ……」
加蓮「……ポテト、食べる?」
歌鈴「いただきますねぇ」アーン
加蓮「……」
加蓮「えい」
歌鈴「もぐ」
歌鈴「んぐんぐ……あれ、ちょっぴり辛め……?」
加蓮「いつも行くバーガーショップがね、頼んだら塩多めにしてくれるんだ」
加蓮「持ち帰ったらしなしなになるかなと思ったけど、そうでもなかったみたい」パク
歌鈴「そうなんですねぇ」
歌鈴「加蓮ちゃんって、いつもそんなのばっかり食べてませんか?」
加蓮「……」ピコーン
加蓮「ジャンクフードが好きなんだ。にゅうい……味っ気の無い物が嫌いでさ。たまに食べると生きてるって実感できて」
歌鈴「大げさですねー……」ハフゥ
加蓮「うん。でも栄養が偏るからちゃんとご飯も食べろって、Pさんが言うんだ。ホント、過保護で困るよ」
歌鈴「Pさん、私の面倒もよく見てくれるんですよ。よくサポートしてもらって。今の私がいるのは、Pさんのおかげですねー……」
加蓮「ふうん……」
歌鈴「……」
加蓮「…………」アレ?
歌鈴「ずずー…………」
加蓮「…………でもさ。私が料理なんてできる訳ないし、今から覚えるつもりもないし」
加蓮「藍子あたりに頼んでみよっかな。お弁当作って~、とかさ」
歌鈴「どうせならみんなでお弁当を作ってみるのもいいですねぇ。それで、Pさんにお渡ししたり……はわわ」アウアウ
歌鈴「あ、でも私、ドジだから迷惑をかけちゃうかも……?」
歌鈴「ううんっ、やる前から無理って言ったら駄目。頑張るのよ歌鈴!」
加蓮「え、あ、うん」
加蓮「…………」ウン?
加蓮「いや、だから私は料理しないんだって」
歌鈴「そうですかー……はふー……」オチャオカワリ
加蓮「…………それ、水筒?」
歌鈴「あったかいまま入れていられるんですよ。ドジしたり、慌てた時には、こうしてお茶を淹れて、ゆっくりと……」
歌鈴「私だって、まったりやれば、ドジしなくて済むんですよ、きっと」
加蓮「……じゃー普段からやれば?」
歌鈴「Pさんが見ているって思うと、どうしても……いいところ見せないと! って思っちゃって」
歌鈴「はー……これでも最近は、失敗、減っているんですけどね……」
歌鈴「はふぅー……」
加蓮「……」
加蓮(……誰だこれ)
歌鈴「はわー……加蓮ちゃんもどうですか? お茶。一緒に飲んでまったりしましょう、まったり」
加蓮「あ、うん、ありがと」
加蓮(にしても、お茶1つでここまでおばあちゃんみたいになるか)ゴクゴク
加蓮(不思議だな……。普段、グループを間違えたんじゃないかってくらいにドタバタしてるのに)ゴクゴク
加蓮(……でも分かるなぁ、その気持ち。こうしてゆっくりしてるのもいいな……)ゴクゴ...
歌鈴「あーっ! 加蓮ちゃん、ちょ、ぜんぶ飲まないでください! 私の分がー!」
加蓮「え? あっ」
歌鈴「ま、またそういう意地悪をっ。やっぱり加蓮ちゃんなんて大っ嫌いです!」
加蓮「ご、ごめんって、もう」アハハ
歌鈴「むー……」ナミダメ
加蓮(なんというか……なんなんだろうね、ホント)ヤレヤレ
歌鈴「加蓮ちゃんも何かください。私のお茶を飲んだ分を!」
加蓮「何かって言っても……。ああ、じゃあこれあげる」ガサゴソ
加蓮「昨日、仕事現場で貰ったビー玉。よそのプロダクションの子からね。なんかそれ持ってると幸運があるんだって」
加蓮「幸運……かは知らないけどさ、それをつけてたら、ドジも減ったりするんじゃない?」
歌鈴「もしかして、それって、あのラッキーアイドルで有名な……!?」
加蓮「はい」スッ
歌鈴「あっ……」ウケトル
歌鈴「はわー……綺麗ですね、これ。これを持ってたら、私もドジしなくなるかな?」
歌鈴「ありがとうございます加蓮ちゃん。大切にしますねっ」
加蓮「う、うん……」
加蓮(…………うん。素直じゃないのは私の方なんだろうなぁ)
歌鈴「~~♪」(鼻歌唄いながら巾着袋にビー玉を入れる)
加蓮(ま、いいや……)
――2013年 11月
――事務所――
道明寺歌鈴「こ~んどはいっしょに、ろ~じうらのおきにいりの~、かふぇへ~、いこうね~♪」ガチャ
北条加蓮「…………」パラパラ
歌鈴「てのひらのうえにちょこんとのるしあわせを~♪ さがしに~いこ~♪」テクテク
加蓮「…………」パタン
歌鈴「あっ、加蓮ちゃん! 藍子ちゃんのCD聞きましたか? いつ聞いてもステキな歌ですよねっ!」
加蓮「聞いた聞いた。何回目よその話題……」
歌鈴「何度聞いたってステキな歌だからですっ。だって、あの藍子ちゃんのCDですよ!」
歌鈴「私、家族のみんなにも買ってきちゃいました!」
歌鈴「お父さんもお母さんも、藍子ちゃんを応援してるって。なんだか私のことみたいに嬉しいですねっ」
加蓮「そ。よかったね。ところでさ、Pさん見てない?」
歌鈴「Pさんですか? 見てないですよ。それより藍子ちゃ――」
加蓮「ならいいや。ちょっと仕事のことで聞きたいことがあったんだけどな……もし見つけたら私が探してたって言ってて。じゃ」バタン
歌鈴「はあ……」
歌鈴「……」
歌鈴「こもれびのした~を~ひとり~、みぎてに~かめら~♪」
高森藍子「おはようございますっ!」
歌鈴「あ、おはようございます、藍子ちゃん!」
藍子「Pさん見ませんでしたか? 今日はすぐ収録に向かわないといけないので……あっPさん! はいっ、準備ばっちりです!」
歌鈴「あ――」
藍子「?」
歌鈴「え、えっと、行ってらっしゃいです、藍子ちゃんもPさんもっ」
藍子「はいっ、行ってきます!」バタン
歌鈴「……」
歌鈴「…………」
歌鈴「…………てくてく~あるこう~……」
――数日後 事務所――
歌鈴「きょ~おは~、てんきがい~いから~、みぎてにかめら~、もってで~か~け~よう~♪」
加蓮「おはよ」バタン
加蓮「まだ歌ってたんだ。外まで聞こえてたよ」
歌鈴「おはようございます加蓮ちゃん! えへへっ、私、やっと歌詞をぜんぶ覚えたんですよ! 音程だって完璧です!」
歌鈴「今度、カラオケに行った時に藍子ちゃんと一緒に歌うんです!」
加蓮「……そ」
加蓮「雑誌のサンプルが届くって聞いたけど、荷物まだ来てない?」
歌鈴「荷物ですか? 見てないですね。それで――」
加蓮「そっか。トレーナーさんのところに行ってるのかな。ちょっと探してくるね」バタン
歌鈴「は、はあ……」
歌鈴「……」
歌鈴「……」
歌鈴「お~ひるね~してる、ねこっぱしゃり! そ~よ~かっぜっがわらってる~♪」
藍子「おはようございますっ! あ、歌鈴ちゃん、トレーナーさんを見ませんでしたか? 来週のレッスンの予定をもらいそびれちゃってっ」
歌鈴「おはようございますっ。トレーナーさんは……見てないですけど……」
藍子「そうですか……レッスンスタジオにいるのかな? ちょっと見てきますね」バタン
歌鈴「はあ……」
歌鈴「……」
歌鈴「…………」
歌鈴「…………そらをな~がれる~、し~ろ~いくもみてたら~……」
――数日後 事務所――
歌鈴「……」
歌鈴「…………」
歌鈴(あれ?)
歌鈴(最近、Pさんとも藍子ちゃんとも、あまりお話をしていないような……)
歌鈴(それに、最近、レッスンもお仕事も……あんまり、していないような……)
<……でしょ、私の言いたいこと!
歌鈴「ふえっ」
<黙ってちゃ分かんないよ! 無理なら無理ってはっきり言ってよ! そういう曖昧なのが――
歌鈴「加蓮ちゃんの声……?」スタスタ
――会議室――
加蓮「~~~っ! 分かってるの! ぜんぶ分かってる!」
加蓮「自分が自分勝手だってことも、馬鹿なこと言ってるってことも!」
加蓮「それでもやっぱり、どうしても納得がいかないから……Pさんなら、私を傷つけてでも答えてくれるって思ったのに!」
P「…………」
加蓮「答えてよ!」
加蓮「なんでそんな気遣うみたいな目するの? なんで……病院の人達みたいな目をするの……っ」
加蓮「はっきり言ってよ! 傷つけてよ! ねえっ!」
加蓮「Pさんの言葉で教えてよ。今回のCDデビューが、私や歌鈴じゃなくて藍子だった訳!」
歌鈴(…………)
P「…………」
加蓮「……なんとか言えないの? ……担当アイドルが、こうして不満を言ってるんだよ?」
加蓮「何考えてるのって詰ってるんだよ?」
加蓮「何も言わないの? 何か言ってよ。お前が間違ってるってだけでもいいから!」
加蓮「私より藍子の方が売れるから? テレビ映えするから? 私の態度がいけないの? プロダクションの上の方が決めたの? Pさんの判断?」
加蓮「……言ってくれないと分かんないの!」
加蓮「お願いだから……何も教えてくれないなんてこと、やめてよ!」
P「…………」
加蓮「……っ。分かった。質問を変えるね。ねえ、私たちは何をしたらいいの? どうしたらデビューできるの?」
加蓮「欲張りだって分かってる。そうだよね、私みたいなのが贅沢だよね!」
加蓮「でもアイドルになったんだよ私。せっかくだから……もっと上を目指してみたいじゃん」
加蓮「アニバーサリーLIVEの時にそう思ったんだ。それに、ウェディングドレスを着せてもらった時も」
加蓮「頑張れば、なんだってできるって! どんな夢だって叶うんだって!」
加蓮「……ねえ! 私は何をやればいいの!? 教えてよPさん!!」
P「…………」
加蓮「Pさん!!」
歌鈴「あ、あのぉ~…………」オソルオソル
加蓮「!?」クルッ
P「歌鈴!?」
歌鈴「あ、あはは、外まで聞こえてたから、何かな~って……それに、藍子ちゃんの名前が聞こえて……」
歌鈴「えっと、その、えと、……あっ! 加蓮ちゃんがまた余計なことを言ったんですね!?」
歌鈴「いっつも私にも意地悪を言うんですから! Pさん、かっ、かっ、加蓮ちゃんの言うことなんて気にしなくていいですよっ!」
加蓮「アンタ…………」
P「…………」
P「加蓮」
加蓮「っ」
P「――シンデレラガールズプロダクションがCDを出すのは、これが初めてじゃない」
P「これまではだいたい上が動向を見て、可能性がある子を決めていた。売れそうな子、将来有望そうな子、波に乗っている子――」
P「その基準だけなら、今回のCDメンバーには加蓮が選ばれていたと思う。事実、最終候補まで加蓮の名前は残った」
P「だが、前回のメンバー決定から、ファンによる投票も意見として加わるようになった。できるだけ優先して……って形だ」
P「加蓮よりも、それに歌鈴よりも」
P「藍子にCDデビューしてほしいという声の方が――ファンからは、多かった」
加蓮「!!」
歌鈴「あのぅ、それってつまり、ファンの皆さんがCDデビューに選んだのは藍子ちゃんってことですか……? 私じゃ、加蓮ちゃんじゃなくて……?」
P「……そういうことになる。だから違うんだ加蓮。お前が実力不足という訳ではないし、仕事をやり足りていないということでもない」
P「知名度なら藍子よりお前の方が上だった……今回は、そういうことじゃないんだ」
P「たぶん、聡い加蓮なら分かっ」
加蓮「……っ!!」ダッ
P「加蓮!」バッ
P「…………」
P「………………」スクッ
歌鈴「Pさん……?」
P「………………はあぁ………………だから言えなかったんだよ……」
P「どう言えってんだよ。お前より他のアイドルの方がファンから選ばれてるなんてよ……!」
P「あんなに頑張ってる奴に、何言えばいいんだよっ……!」
歌鈴「Pさん……」
P「……歌鈴もすまないな……一応、一応言っておくけど、加蓮や歌鈴にCDデビューしてほしいって声もメチャクチャ多かった」
P「……それでも現実ってのはシビアなんだ……いや、そんなのは言い訳だな。クソっ……」
歌鈴「……」
歌鈴「私、加蓮ちゃんの様子を見てきます」
P「……すまん……頼む」
歌鈴「加蓮ちゃん!」タタッ
加蓮「!」
加蓮「……」グシグシ
加蓮「やほ、歌鈴。Pさんにお使いでも頼まれた? 連れ戻して来いって言われた?」
加蓮「説得して来いって言われた? ……心配しててくれてた?」
加蓮「伝えておいてよ。ちゃんとレッスンには行くから安心しろって。ぶっ倒れでもしない限り、私はアイドルを辞めないから」ニコッ
歌鈴「……………………あのっ、Pさんは……その…………」
加蓮「――自分の言葉なんて、持ってきてない癖に」
歌鈴「……!」
加蓮「そうだよね。いつも藍子だPさんだってべったりで、役に立ちたいからってだけで頑張る歌鈴」
加蓮「すごいよね。私なんていっつも自分の為。夢に見たからって言ってもぜんぶ自分の為。歌鈴や藍子を見てると、つくづく自分が嫌になるよ」
加蓮「……だから、もっとやれると思ってたのにさ」
歌鈴「え……あの、なんのこと――」
加蓮「ねえ、歌鈴」
加蓮「アンタ悔しくない訳!?」ガバッ
歌鈴「……!」ビクッ
加蓮「アンタがさ、藍子とPさんどっちが好きなのか知らないけど! あんだけPさんの為になるんだPさんの役に立つんだって言ってたのに、藍子に先越されたんだよ!?」
加蓮「知ってるわよ。最近、Pさんとも藍子ともロクに話もしてないでしょ! あの子のCDのことで忙しくてばっかりだからね!」
加蓮「なのにアンタは何!? 追いつこうとするでもない、ただ藍子が好きだからって藍子の歌を歌ってばっかり」
加蓮「それなのにPさんが藍子につきっきりになったら寂しそうな顔をしてさ!」
加蓮「ちょっとは……続こうとか、何か無いの!?」
加蓮「アンタ藍子に庇ってもらってばっかりでいいの!?」
歌鈴「…………」
加蓮「…………」ゼェハァ
歌鈴「…………」グス
歌鈴「!」グシグシ
歌鈴「ひくっ……ううんっ」グシグシ
歌鈴「私……藍子ちゃんが好きです。CDデビューできたって聞いて、本当に、私のことみたいに嬉しかったんです」
歌鈴「毎日、おめでとうって言いたくて……でも……っ」
歌鈴「Pさんも藍子ちゃんも、急に遠くに行っちゃった気がして……っ!」
歌鈴「加蓮ちゃんの言う通りですよ!」
歌鈴「追いつけばいいって思いました、頑張ろうと思いました!」
歌鈴「でもっ、私っ、ドジで可愛くなくてノロマだから……藍子ちゃんみたいになれる訳がないって、Pさんのお役になんて立てる訳がないって」
歌鈴「私、ドジで失敗ばっかりだから――どれだけアイドルを続けてても、いっつも転んでしまうんですよ!」
歌鈴「私なんて、って……頑張ろうって思っても、すぐに……」
歌鈴「誰でも加蓮ちゃんみたいに、自信まんまんでできる訳じゃないんです!」
加蓮「…………」
歌鈴「……ひぐっ」
加蓮「…………フザケンナ……ワタシガソンナジシンナンテ――! ………………!」ブンブン
加蓮「…………アンタは本物だ」
歌鈴「え?」
加蓮「アンタの想いは本物だ。Pさんの為にって頑張る気持ちは本物だ。誰にも笑うことなんてできない。笑わせない」
加蓮「ううん。最初は馬鹿っぽいって思ったよ」
加蓮「なにそれ。人にしがみついて生きてるだけって……でも、ホントにそれだけなら、転んでも転んでも起き上がるなんてできっこないよね」
加蓮「夏の舞台、見たよ。すごかったじゃん」
加蓮「100回転んでも1回上手くできるまでやる、なんて、そこら辺の馬鹿じゃ言えっこない。付和雷同ってだけの奴はそんなに強くならない」
加蓮「間違えなく、アンタの想いは本物だ」
歌鈴「……っ、でもっ……」
加蓮「なんでそこまでできるのに胸を張らないのよ。胸を張りなさいよ。今は負けてるかもしれないけどいつかPさんの隣に並ぶんだって」
加蓮「その為にアイドルやってるんでしょうが!」
歌鈴「――!!」
加蓮「げほっごほっ……! ハァ、ハァ……げほっ!」
加蓮「ったく、ちょっと怒鳴ったらこの有り様だし……」
歌鈴「あ、あのっ、加蓮ちゃん!? ……普通じゃないですよ!?」
加蓮「へーき、へーき……ふうっ……。このザマで言うのもマヌケだけど、いい機会だから言っておくね歌鈴」
加蓮「次のCDデビュー、絶対に私が掴み取る。藍子なんてすぐに追い抜いて、Pさんの隣に並んでやるんだ」
加蓮「私……ちっちゃい頃に入院してたんだ。何もない世界で、たった1つ、テレビの向こうに夢を見つけた」
加蓮「やっと夢が叶ったんだ……でもまだ足りない。キラキラしたアイドルに、もっともっと近づきたい」
加蓮「夢って叶えられるんだって、思いっきり叫びたい」
加蓮「絶対、CDデビューしてやる。例え無理なことがあっても、絶対にアンタみたいに諦めたりしない」
歌鈴「加蓮ちゃん――」グスッ
加蓮「……黙って見てるんならそうしなさい。藍子の歌を歌っていたいならそうしなさい」
加蓮「ただ、そうするなら――」
歌鈴「……」
加蓮「……これだけ言っても何も思わないなら……もういい。私が悪かったし私が馬鹿だった。さっさとアイドルなんて、」
歌鈴「――――加蓮ちゃんには、負げまぜんっ!!」
加蓮「!」
歌鈴「ぐすっ……私は、Pさんにっ、あの時、手を伸ばしてもらったんです! Pさんがいたから、今の幸せがあるんです!」
歌鈴「アイドルになる前の私に教えてあげたいくらいに、今が幸せなんです! Pさんが、私を見つけてくれたから!」
歌鈴「だから、Pさんにお役を立ちたいって思いは、何があっても捨てたくありません!」
加蓮「…………」
歌鈴「悔しいです」
歌鈴「藍子ちゃんもPさんも、どこか遠くに行っちゃった」
歌鈴「私には無理だって思った。転んでドジばっかりの私なんかじゃ――だけど」
歌鈴「加蓮ちゃんが、私を本物って言ってくれたから」
歌鈴「噛んだら言い直します。転んだら起き上がります。何度だって何度だって何度だって何度だって!」
歌鈴「もう、自分のことを可愛くないなんて、2度と言いませんから!」
加蓮「……!」
加蓮「……上等……ッ! いい顔してるね……!」
歌鈴「……っ、なんてったって……ひぐっ(ぐしぐしっ)、アイドルでずがらね!」
加蓮「ねえ、歌鈴。Pさんの……げほっ!」
加蓮「……Pさんの為に……好きな人の為に全力で頑張るのって、どういう気持ち?」
歌鈴「楽しいですっ! ……私を選んでくれた人の笑顔の為に頑張れるってことは、すっごく楽しいです」
歌鈴「私がうまくできて、Pさんが笑ってくれてる時、いっつも、このあたりがぽかぽかするんです」
歌鈴「何かが胸の中から湧き上がってくるんです。次も絶対に失敗したくない、ドジしたくないって」
歌鈴「……ドジをした時も、Pさんは笑って許してくれますけど、そんな時は、失敗した自分が嫌になるんです」
歌鈴「もっともっと……Pさんのお役に立ちたいのに、って……!」
加蓮「そっか。……やっぱりすごいよ、歌鈴。私はどこまでいっても、私の為にしか生きられないもん。ぜんぶ、私のやりたいことだけ」
加蓮(……こうして歌鈴に怒鳴っているのも、ただ、私がやりたいだけ)
加蓮「ああでもちょっとだけ思い出したな……私をアイドルにしてくれた最高のプロデューサーを、もっともっとトッププロデューサーに、って」
歌鈴「……私、加蓮ちゃんのこと、今でも嫌いです」
歌鈴「でも、スゴイ人だとは思ってます。藍子ちゃんと、同じくらいに」
加蓮「私だって歌鈴のことが嫌いだよ。でも凄いって思ってる。……遅すぎんのよ、その顔になるの!」
……。
…………。
加蓮「……で……さぁ……私って、Pさんに頭を下げないといけないのかな」
歌鈴「そうですねっ。あのままじゃPさん、かわいそうですよ」
加蓮「うわ、やだなぁ……。……いっそあっちから謝ってくれるのを待つとか」
歌鈴「それはだめです! Pさんにお願いされちゃいましたからね、加蓮ちゃんのこと」
加蓮「おのれPさんの犬め。アンタは尻尾振ることしか知らんのかっ」
歌鈴「悪いことをしたら謝る、当たり前のことですよっ」
加蓮「うわーすっごいムカつくぅ……。しょうがない、頭を下げに行こっか……うぁ、喉が痛い」
歌鈴「あっ、私、のど飴を持っているので、よければどうぞっ」スッ
加蓮「ありがと……なんでのど飴なんて持ってたの? アンタ、ここのところレッスンなんてしてなかったのに」
歌鈴「それは、その……藍子ちゃんの歌を歌ってたら喉が……で、でもっ、今度はレッスン用に使うことにするんですからっ」
加蓮「じゃあ私にも1つ分けてよ。ううん、2つかな? それくらい気合を入れてやらなきゃ」
加蓮「…………すぅ……」
加蓮「うん」ガチャ
P「…………」
加蓮「…………」
歌鈴「…………」
加蓮「…………や、やほ、Pさん」
P「あ、ああ。……ええと……加蓮、」
歌鈴(つんつん)
加蓮(分かってるわよ)
加蓮「さ、さっきは、ご、ごめんねぇPさん……」アハハ
歌鈴(げしげし)
加蓮(分かってるってばっ)
加蓮「その……ご、めんな……さい……」
P「…………こっちこそごめん。ちょっと藍子の方ばっかり見過ぎてた」
加蓮「分かってる……藍子、今が一番大切な時期だからね。私、言ったじゃん……分かってるけどPさんの言葉で聞きた」
歌鈴(つんつん)
加蓮(…………)
加蓮「………………でも、もうちょっとだけ、私のことも見てくれると……嬉しい……かな」
歌鈴「はいっ! 私も、私もっ」ハイッ
P「……ああ。加蓮に気付かなかった……歌鈴のこともだ。悪かった。これからはちゃんと見ていく」
P「だから、もし……良ければ、これからも――」
加蓮「もちろんだよ。私たち、何が何でも次のCDデビューを掴み取るって決めたんだから」
歌鈴「あっ、でも選ばれるのは、私か加蓮ちゃんのどっちかだけなんです!」
P「お……おう? あれ、そこは2人でってんじゃ――」
加蓮「先越されたからってこれで終わりじゃないもんね」
歌鈴「負けちゃっても、きっと負けるもんかって思うことはできますっ!」
加蓮「だからPさん」
歌鈴「それまで、私のこと、よろしくお願いします!」
P「え、あ、おう」
加蓮「ちょっと、そこは"私たち"じゃないの?」
歌鈴「べーっ」
加蓮「うっわあムカつく。ね、Pさん。すぐ転ぶドジ巫女なんかより、健気に頑張る女の子の方が応援したくなるよね?」
歌鈴「すぐに捻くれたことばっかり言う子より、がんばって起き上がる子の方がいいとは思いませんか!?」
加蓮「誰が捻くれ物よ。アイドルへの気持ちに嘘をついたことはないわよ」
歌鈴「私だって、最近は3回に1回は転ばなくなったんです」
加蓮「ぐぬぬ……」
歌鈴「むむむ……」
P「わ、わかったわかった! わかったから、な?」
P(藍子はいつもこんな目に遭っていたのか……いや、それじゃ駄目だな、俺)
P(俺がちゃんと見て、ちゃんと言わないと……プロデューサー失格だ)
P(あの時だって、ホントは俺が加蓮を追いかけていなければ――)
P(……また、やり直していこう。きちんと、正面から向かい合って)
――2013年 12月
――公園――
高森藍子「ん~~~~♪ 風が気持ちいいっ。今日はいつもよりちょっとだけあったかいですねっ。久しぶりに、薄いジャケットを持ってきちゃいました!」
北条加蓮「そうだね……あんまり寒いと外に出たくなくなるけど、こういう日は藍子に付き合うのも悪くないね」
道明寺歌鈴「あうぅ、私はやっぱりマフラーは手放せないです……」
加蓮「寒いなら無理しないで事務所に戻ったら?」
歌鈴「そ、そうやって除け者にしようとしても無駄なんですからねっ!」
歌鈴「最近は、あまり藍子ちゃんともお話できなかったから、今日はいっぱいするんです!」
藍子「はいっ。久しぶりに、ゆっくりしましょう」
加蓮「藍子もやっと一段落したよね。CDを出すってだけなのに、ドタバタしすぎだって……」
歌鈴「……その"出すってだけ"で怒鳴っていたのは誰でしたっけ?(小声)」
加蓮「忘れろ(小声)」
藍子「そうですね……ここのところは、ずっとゆっくりできなくて。Pさんにも、負担をかけすぎちゃいました」
藍子「私がもっと、てきぱきできる子だったらよかったんですけど……」
歌鈴「藍子ちゃんは今のままでもステキです! いえっ、今のままがステキです!」
加蓮「そーそー。藍子までせかせかやりだしたら、私は誰の膝枕で休めばいいの?」
藍子「あはっ……ありがとうございます、おふたりとも♪」
歌鈴「むー……いつも加蓮ちゃんばっかり……」
加蓮「ま、日頃の頑張りの賜物だね」
歌鈴「私が藍子ちゃんにお願いしたら、どこからともかくすっ飛んでくるのやめてくださいよっ」
加蓮「だって悔しいし。私だけの膝の上なんて、なんかちょっといい感じじゃない?」
歌鈴「もーっ!」
藍子「あはは……どうしてそんなに、勝負したがるんですか?」
加蓮「どうしてって……どうしてだろうね。ねえ歌鈴」
歌鈴「さあ……。加蓮ちゃんを見てると、なんだかやらないとってなりますね」
歌鈴「あ! 分かりましたっ。加蓮ちゃんが、Pさんも藍子ちゃんも盗っていく人だからです! だから加蓮ちゃんが悪いんです!」
加蓮「人聞きが悪いなぁ。当然の結果って言ってくれない?」
歌鈴「じゃあ私が加蓮ちゃんに勝負を挑むのも、当然の出来事です!」
加蓮「ってことだよ、藍子」
藍子「どういうことですか、もう……ほらっ、せっかくのお休みですから。仲良くしましょう?」
藍子「例えばこうやって……手をつないでみるとかっ」ピト
加蓮「はーい」
歌鈴「藍子ちゃんがそう言うなら……」
加蓮「…………」テヲミル
歌鈴「…………」テヲミル
藍子「うんっ。そうやって一緒に歩いていると、仲良しの姉妹みたいですよ」
加蓮「姉妹かー。ドジな姉を持つと、妹って大変なんだね」
歌鈴「みっ、見てないと暴走しちゃう妹を持つと、お姉ちゃんは大変ですっ」
加蓮「…………」バチバチ
歌鈴「…………」バチバチ
藍子「も、もうっ!」
加蓮「こうして公園を歩いてると、PV撮影の時を思い出すな」
藍子「シンデレラプロダクション2周年記念のPVですよね。近々、大きい発表を行うってPさんが言ってました」
歌鈴「……私、選ばれませんでした」
加蓮「ふふん」ドヤァ
歌鈴「むー……」ムムム
藍子「か、歌鈴ちゃんだっていつか出番が来ますよ! ねっ?」
加蓮「当然でしょ。歌鈴だもん」
藍子「そうです! 歌鈴ちゃんなら…………あ、あれ?」
歌鈴「こ、これくらいでへこたれる私じゃありません! 年末にはPさんからお仕事ももらってますしっ」
藍子「歌鈴ちゃんの巫女さん姿、また見られますね」
加蓮「いや、アンタが年末に何の仕事ももらえてなかったら、もういよいよ本格的にPさんから見捨てられたって思うべきじゃない?」
歌鈴「Pさんはそんな冷たい人じゃありませんよーだ」
加蓮「知ってる。見に行くよ、歌鈴の姿。もしドジをやってたら笑ってやるんだ」
歌鈴「年末はもう大忙しですから、ドジをしている暇なんてありませんっ」
加蓮「へー、キリッとした歌鈴か」
歌鈴「Pさんにも加蓮ちゃんにも、もちろん藍子ちゃんにも、いっぱいいいところを見せるんですから。巫女ならではのできることっ、とくとご覧あれ!」
加蓮「……そうやって張り切りすぎるから転ぶんだよ。もうちょっとリラックスしたら?」
歌鈴「はうっ、そうでした……」
加蓮「言わなくても、歌鈴のいいところを見ている人なんていっぱいいるんだから」
歌鈴「ファンの皆さんからファンレターをもらうと、そうだって思えます。……アイドルって、いいものですね」
加蓮「あ、それ私も思うな……出会った時Pさんが熱心にスカウトしてきた理由、ちょっとは分かるっていうか……」
歌鈴「はいっ!」ニコッ
藍子「……あ、あの? なんだかおふたりとも、前より仲が良くなりました?」
加蓮「ん、そうかな……」
歌鈴「うーん……」ジー
藍子「前はこう、もっと……ケンカみたいなことをしていたような。というか、ついさっきまでケンカを……」
藍子「いえっ、いいんですっ、仲良しなのはいいことです!」
加蓮「だってさ」
歌鈴「えへへっ……」
藍子「そうだ。私、何かお飲み物を買ってきますね。何がいいですか?」
加蓮「あったかいココア。はいお金」チャリーン
歌鈴「で、でしたらレモンティーを……はわわっ、お財布がっ」パラッ
加蓮「はー。はい、これ歌鈴の分」チャリーン
藍子「じゃ、行ってきますねっ」タタッ
歌鈴「あうぅ……ありがとうございます、加蓮ちゃん」
加蓮「別に。ちょっとベンチにでも座らない?」
歌鈴「はーい」
歌鈴「すっかり冬ですねぇ」
加蓮「うん。冬だね」
歌鈴「雪が降ったら道路が凍っちゃうかも?」
加蓮「ゆっくり歩けば大丈夫だよ。私も、体調とか気をつけないとな……」
歌鈴「ですねぇ……」
加蓮「……冬って、あんまりいい思い出がないんだ……って、どの季節にもいい思い出なんてそんなにないけど」
加蓮「ああ、強いていうならPさんと出会えたことかな」
歌鈴「私もですっ」
加蓮「……」
歌鈴「はわー……」
加蓮「……今日はまったりモードなんだ。もっとケンカとか売ってきてもいいのに」ニカッ
歌鈴「そうしたら藍子ちゃんに怒られちゃいますからっ」
歌鈴「それに、慌てちゃうと、ついドジが。まったりだー、まったりだー、って言い聞かせたら、ちょっとは楽になる気がして……あまり藍子ちゃんにも迷惑をかけたくありませんし」
加蓮「ふぅん。私にはいいんだ」
歌鈴「加蓮ちゃんは、そんなのいいっ! って言ってくれますからねぇ」
加蓮「……そ」
歌鈴「藍子ちゃんの、あの許してくれてるけど困ってるって顔は、見ていてキツイんです」
加蓮「そだね。私もそう思う」
加蓮「また春が来るね……ねえ、Pさんから聞いた? あと1ヶ月くらいしたら、CDのメンバーがまた決まるんだって」
歌鈴「聞きましたっ。私……どうでしょうか。選ばれる……ううんっ、選ばれる確率、ちょっとはあるんでしょうか」
加蓮「さあ。ちらっと聞いた限りではなんか戦争状態なんだってさ。それぞれのプロデューサーさんが上の……CDのメンバーを決めるところにかな? に、詰め寄ってるって」
加蓮「あとファンの皆へのプロモーションが加速したって。独自のPVやら新規ファン向けへのイベントやらいっぱいやってるってさ」
歌鈴「へぇー……あれ? その割に私、あんまり忙しくないですよ? ……ま、まさか」
加蓮「あははっ、うちのPさんはのんびりやるタイプだからね。私に気を遣ってんのかな……別に、いいんだけどな」
加蓮「ちゃんと売り込む時には売り込んでるし、私も歌鈴もかなり好印象だった、って言ってたよ」
歌鈴「そうなんですか……よかった」
加蓮「相変わらず、見捨てられるかも? って思うのはやめないんだね」
歌鈴「あうぅ……」
加蓮「あははっ、歌鈴、未だにすってんころりんだもんねー」
歌鈴「わっ、笑わないでくださいよ! もぅ……加蓮ちゃんはいつも絶好調でいいですよねっ」
加蓮「……あの時さ、敢えて言わなかったんだけど、私だっていつも自信満々にやってる訳じゃないんだよ?」
歌鈴「えっ、そうなんですか!? だって加蓮ちゃん、いっつもこう、こんなふうに! 不敵な笑顔って感じで――」
加蓮「ぷくっ」
歌鈴「あーっ! 笑ったぁ!」
加蓮「くくっ、だって、歌鈴の顔がおかしくて……くくくっ」
歌鈴「むー」
加蓮「あはははっ、ごめんごめん。私なんて強がってるだけだよ。弱音を吐くのって好きじゃないし、それに――」
歌鈴「それに?」
加蓮「……なんでもない」
加蓮「はー。いつになったら私の体はアイドルになってくれることか」
歌鈴「……忙しい時にも、藍子ちゃんのお世話になってるって聞きました」
加蓮「あ、話そこ行くんだ……。あれはしょうがないんだよ。藍子の方が言ってくるんだからさ。大丈夫ですか? って」
加蓮「10分だけでいいなら……って、膝をぽんぽんってしてくれるんだ」
加蓮「羨ましいでしょ」
歌鈴「…………」
加蓮「言ってくれれば、譲ってあげてもいいんだけどな~?」
歌鈴「……加蓮ちゃんになんて、ぜーったい、頭を下げたりしませんもんっ」
加蓮「あははっ、それでこそ歌鈴だ」
歌鈴「藍子ちゃん、今年、大活躍でしたよね」
加蓮「そうだね。MVにラジオに音楽番組。藍子の声を聞かなかった日なんてないよね」
歌鈴「私も、もっと頑張れば、ああいう風になれますか?」
歌鈴「Pさんに、満足してもらえますか?」
加蓮「答えなんて知ってるくせに。それとも、たまに聞かないと不安になっちゃうタイプ?」
歌鈴「……あうぅ」
加蓮「ふふっ……でも気持ちは分かる。私だっていつも不安だよ。今日、倒れるかもしれない。明日、倒れるかもしれない。いつアイドルを続けられなくなるか分からない」
歌鈴「じゃあ加蓮ちゃんは、どうやって不安を吹き飛ばしてるんですか?」
加蓮「どうやって……ねえ。考えるだけ無駄だから、考えないようにしてる」
歌鈴「……そーですねっ。それを考えるくらいなら、どうやって加蓮ちゃんから藍子ちゃんを取り戻すか考えますっ」
加蓮「人聞きが悪いなー。このっ」グワシ
歌鈴「あうあうあう」
藍子「ただいま戻りましたっ。ごめんなさい、自動販売機がなかなかみつからなくて……はいっ、歌鈴ちゃん。こっちは加蓮ちゃんっ」
加蓮「さんきゅ」プシュ
歌鈴「ありがとうございますっ」カチッ
藍子「ごくごく……あっ、歌鈴ちゃん。髪が乱れちゃってますっ」サワッ
歌鈴「ひゃっ」
加蓮「うん、私がやった。……ふふっ、藍子がジト目なんてしてもなんにも怖くな――」
藍子「…………加蓮ちゃん?」
加蓮「スミマセンデシタ」
歌鈴(藍子ちゃんが怖い……! わっ、私も、真似したらキリってなれるかな?)
歌鈴「あ、あのっ、……加蓮ぢゃ!? ……あうぅ、舌噛んだ」
藍子「ちょっと見せてください……ああ、真っ赤になっちゃってる。戻ったら、薬を探しましょうね?」
歌鈴「はひ……」
加蓮「で、私がどうかした? 歌鈴」
歌鈴「ひゃい……はいっ。いえいえっ、なんでもないですよ!」
加蓮「そ、そう」
藍子「そういえば、おふたりは何のお話をしていたんですか……?」
加蓮「ん? 何って……」チラッ
歌鈴「……私と加蓮ちゃんの、ひみつのお話ですっ」
藍子「えーっ、なんですかそれっ。私も混ぜてくださいよー」グイグイ
加蓮「こればっかりは藍子の頼みでも聞けないなぁ」
藍子「あはっ♪ でも安心しました。やっぱり加蓮ちゃんと歌鈴ちゃん、前よりずっと仲良しさんですっ」
加蓮「えー、分からないよ? 歌鈴の髪をぐしぐししたりするんだよ?」
藍子「それは加蓮ちゃんが意地悪だから……でもっ、ホントに嫌いな相手には、そんなことしませんよね?」
加蓮「……お見通し、か。っと」ポイッ
加蓮「ま、人をからかってないと死んじゃう病気だし」
藍子「またそんなこと言って……」
加蓮「そうやって生きてきたからねー。しょうがないっていうか、なんというか」
歌鈴「んー……」ネライヲサダメテ
藍子「なんだって諦めない加蓮ちゃんなんです。自分のことも、諦めないでください」
加蓮「頑張ってみる。それなら藍子も手伝ってよ」
藍子「じゃあ、加蓮ちゃんが変なことを言ったら、ほっぺたをつねっちゃいますね」
加蓮「やめて、リンゴってあだ名がつくのはヤダ」
歌鈴「えいっ!」ポイッ
歌鈴「あ、あれ!?」アサッテノホウコウヘ
こんっ
加蓮「あたっ!?」
歌鈴「……………………あ」
藍子「あ」
加蓮「……………………か~り~ん~? そんなに私が藍子と喋ってるのが気に入らないのかなぁ~?」ゴゴゴゴゴ
歌鈴「ごご、ごめんなさいっ、わざとじゃないんです~~~!」ヒャー!
(汚れた部分は軽く洗いました)
加蓮「ちょっと歩かない? お腹が空いてきちゃった」
藍子「いいですね。今日は、どこに行きましょうか」
歌鈴「はわわっ、待って、マフラーがほどけかけてて……」
藍子「ゆっくりで大丈夫ですよ。ゆっくりで……ねっ、加蓮ちゃん」
加蓮「早く行かないと置いてくよー?」テクテク
藍子「あれっ!?」
歌鈴「や、やっぱり加蓮ちゃんは意地悪ですーっ!」スタスタ
藍子「ぽつーん……あっ、ま、待ってくださいおふたりともーっ!」
――2014年 5月
――車内――
北条加蓮「もうっ、Pさん! まだ着かないの!? ほら、早く早くっ!」
P「待てっての、そうせかすなよ……あと30分くらいはかかるぞ」
加蓮「えーっ!? 早く行って調子を整えていたいのに、もーっ!」
高森藍子「ま、まあまあ加蓮ちゃん……ゆっくり、落ち着きましょう? ほら、すぅー、はぁー」
加蓮「はぁ……」グタッ
加蓮「……」ウズウズ
加蓮「Pさんまだぁ!?」
P「まだ10秒も経ってねーよ!」
藍子「加蓮ちゃん、そわそわしすぎです」
加蓮「だってやっと私の歌が歌えるんだよテレビの収録で! うぅ……なのにこんなに移動に時間がかかるとか! ホント聞いてないんだけど!?」
P「無茶言うなって。とにかくちょっと待ってくれ……仮にもCDデビューしたんだからどっしり構えててくれよ! お前にはこう、プライドとか! そういうのあるだろ!」
加蓮「プライドなんて何の役にも立たない物ならとっくの昔に窓から捨ててるし!」
P「……ああもう藍子頼む!」
藍子「はぁ……。ね、加蓮ちゃん。そうだっ、どうせなら私の膝をお貸し――」
加蓮「うぅぅぅぅぅっぅぅ……」ウズウズウズウズ
藍子「……あうぅ」
P「確かに、CDデビューが嬉しくてはしゃぐのは分かるけどよ、」
加蓮「はしゃいでるんじゃないもん! たくさん仕事がしたいしもっともっと歌いたいだけ!」
P「お、おう」
加蓮「もう! ……あああああああイライラするぅぅぅぅぅ……」カタカタ
P「なんか、藍子がCDデビューした時とはえらい違いだな」
藍子「私も、もっとはしゃいだ方が良かったのかな……?」
P「いや藍子はそのままでいてくれ、今んところ唯一の癒やしだ」
P「俺が加蓮に付き合って何日寝てないと思う? なあ!?」
藍子「え。……じ、じゃあ、車の運転をされると危ないんじゃ……!?」ビクッ
P「あ、それは安心しろ。昨日はぐっすり眠ったから」
藍子「よかった……」ホッ
加蓮「」カタカタカタカタ
藍子「ああっ、加蓮ちゃんが今にも外に飛び出しそうな顔を……ほ、ほらー、落ち着いてください、加蓮ちゃん」ナデナデ
加蓮「はふぅ……ハッ! ……あああああああ」カタカタカタカタ
P「何の拾い食いをしたんだよ……」
P「落ち着けって加蓮。初めての収録だからこそいつも通りの加蓮で――」
加蓮「ううううう、あっ、藍子っ!」
藍子「は、はい!」
加蓮「……Pさん!」
P「お、おう!」
加蓮「………………あああああぁぁぁ」
P「駄目だこりゃ……」
藍子「どうしたら……あ、そうだっ。こうしたらっ」ムギュ
加蓮「わぷっ」
藍子「駄目ですよ~、加蓮ちゃん。ゆっくり、落ち着いていないと。加蓮ちゃんの素敵な歌を、しっかり発揮することができなくなっちゃいます」ナデナデ
加蓮「はふぅ……」
P「お――」
加蓮「はふぅ……」グニャ
藍子「やったっ」
P「さすが藍子。……にしてもなんか抱きしめ慣れてるように見えるのは気のせいか」
藍子「たまに、こうしてあげているんです。加蓮ちゃんが不安に思っている時とか、なにか焦っている時とか」
藍子「ほら……前の撮影の時まで、加蓮ちゃん、大きな仕事がぜんぜん来なかったから、大丈夫かな、大丈夫かな、って不安に思っていたみたいですよ」
P「……色々と励ましたり話を聞いたりしたつもりだが、やっぱりまだうまくできてないか……」
加蓮「Pさんも抱きついてくれたら落ち着けると思うー、抱きつけー」ハフゥ
P「できるかっ!」
藍子「あはは……でも、Pさんの言葉で、加蓮ちゃんもずっと元気づけられていたみたいですから……それでも、たまに」
P「そうか……」
加蓮「抱きつけー」
P「できんっての!」
加蓮「はふぅ……うん、落ち着いた。ありがとね、藍子」スッ
藍子「いえいえっ」
加蓮「……ねえ、Pさん、藍子」
加蓮「私、CDデビューできたんだよね」
P「ん? 何を今さら。夢なんかじゃないぞ?」
加蓮「うん……藍子に、追いつけたのかな」
藍子「追いつかれちゃいましたね」アハハ
加蓮「そっか……そうなんだよね。それに、歌鈴を置いてきちゃった」
P「歌鈴ならすぐ追っかけてくるよ。ま、転ばないでくれると助かるが」
藍子「歌鈴ちゃん、加蓮ちゃんがCDデビュー決まったって聞いた時、すっごく悔しそうでしたね……それに、絶対に負けるもんかーっ! って。えいえいおー、ってしてました」
加蓮「そっか。……ねえ、Pさん。藍子も。私……あの子に、酷いことしてないかな」
藍子「え……?」
P「……お前そういうこと気にするタイプだっけ」
加蓮「あ、ひどーい! 私だって歌鈴のことが嫌いでやってるんじゃないんだからねっ」
P「じゃあなんでいっつも突っかかってんだよ」
加蓮「それは……その、なんていうかさ……ほら、歌鈴って負けず嫌いだからさ。自分のドジとか特に。その癖、ミスする度に落ち込んでばっかだったから」
加蓮「だったら私にも負けず嫌いになってくれたら、どんどん成長してくれるかなって。エネルギーになるといいなって」
加蓮「……でも私、自分でどこまでやっているのか、たまに分かんなくなっちゃうんだ」
加蓮「ねえ、Pさん、藍子。私、歌鈴に――――」
藍子「……」
P「……」
加蓮「ふふっ、なんて私らしくないっか。さ、Pさん、もっと車を飛ばし――
P「届いてるぞ」
加蓮「……え?」
P「加蓮の気持ちは、きっと歌鈴に届いてる。そりゃまあ喧嘩とかでよく嫌いだって言ってるところは見るけど……ちゃんと、加蓮に負けるもんかって頑張ってるよ」
藍子「そうですよ、加蓮ちゃん。加蓮ちゃんがいたから、歌鈴ちゃんはこんなに頑張れているんだと思いますっ」
加蓮「藍子……」
藍子「私とお話している時も、よく……加蓮ちゃんにこういうこと言われた、こういうことされたって」
藍子「でも、その後に歌鈴ちゃん、決まってこう言うんです」
藍子「だから頑張る、もう言われないようにする。……ふふっ。それから、ドジを直すんだって」
加蓮「…………ん」
加蓮「私はただ、後押しをしてるだけだよ……。もともと、歌鈴はすごく強い子だったから」
加蓮「……追いついてくれるかな、私に」
P「すぐに突っ走ってくるさ」
藍子「心配ばかりしていると、あっという間に追い越されちゃうかもしれませんね♪」
加蓮「……そだね! うん、センチメンタルごっこなんてやってる暇はないよ! もうっ、Pさん、もっと速度出ないの!?」
P「そこに戻ってくるのかよ」
加蓮「あははっ。……ねえ、藍子は? 藍子こそ、このままだと私がすぐ追い抜いちゃうよ?」
藍子「私は……やっぱり、争うのは嫌いですから。追いぬかれた時には、追いぬかれた時でいいかなって。それでアイドルが終わっちゃうのでもないですから……」
加蓮「なーんだ。でも藍子らしいなぁ」
藍子「……でも」
藍子(でも、最近は、加蓮ちゃんや歌鈴ちゃんを見ているうちに――)
藍子「ううん……それより、加蓮ちゃん」
藍子「加蓮ちゃんが優しいってこと、知っていますけど……あんまり、自分を傷つけるやり方はしないでくださいね?」
加蓮「え? 何言ってんの……歌鈴のことは傷つけてるかもしれないけど、私は別に」
藍子「傷つけちゃってるかもしれない、って、不安に思って、傷ついちゃってるじゃないですか」
加蓮「…………あー」
藍子「私でよければ、何度だって抱きしめてあげますし……加蓮ちゃんがいるから、今の歌鈴ちゃんはいるんだと思いますけど」
藍子「それで加蓮ちゃんが傷つく姿は、あんまり見たくないな……」
加蓮「……ん。気をつける」
P「俺からも頼む。いい加減、お前の無茶には見ててヒヤヒヤさせられるんだよ」
加蓮「うん……だってさ、やりたいことができるんだよ。ちょっとくらい傷ついても、思いっきりやりたいじゃん――」
加蓮「……だめか……心配してくれるんだよね、Pさんも藍子も」
P「当たり前だろ。なんで気づいてないんだよ」
加蓮「ごめん」
加蓮「分かった……ちょっとだけ、気をつけてみるね」
藍子「はいっ。……でも、実は私、加蓮ちゃんが頑張っているところを見るのは好きなので、あんまり我慢されたら寂しくなっちゃいそうで」
加蓮「えー、もう、何それっ。藍子はワガママだね!」
藍子「えへへ」
P「……………………うんまあぶっちゃけ俺も、加蓮の無茶には時々だが勇気づけられる。俺もやらねえと、って」
加蓮「Pさんまで。もう、私はどうしたらいいの!?」
P「どうしたら、って……」
藍子「……どうしたらいいんでしょうか?」
加蓮「ぐ、ぐぬぬ、私よりずっと自分勝手だこの2人……!」
藍子「じゃあ、私は加蓮ちゃんが傷ついたり落ち込んだりした時に、ぎゅって抱きしめてあげます♪」
P「……え、じゃあ俺は? 俺プロデューサーなんだけど」
加蓮「抱きしめてくれたらいいんじゃないの?」
P「そればっかりだなぁ!」
藍子「そういえばPさん。目的地、あと何分くらいですか?」
P「え? この距離ならあと5分……あと5分!? もう!? 俺らそんなに喋ってたか!?」
加蓮「あ、また発動してたんだね。藍子のゆるふわ空間」
P「みたいだなぁ」
藍子「そ、そんなっ、悪い魔法使いみたいにっ」
加蓮「藍子に膝枕してもらってると、いつの間にか1時間が経ってて焦っちゃうんだよね」
P「すぐに挨拶に回れるように準備をしておいてくれ」
加蓮「はーい」
藍子「とうとう加蓮ちゃんの歌のお披露目ですね!」
加蓮「ふふっ。ラジオとかでもう流してるでしょ。藍子だって、試聴版を何度も聞いてくれたくせに」
藍子「それとこれとは違いますよ」
加蓮「まあね。じゃあ……叶った夢と、向い合いにいこっか」
加蓮(それと、まだここまで至っていない子に、エネルギーを分けに――)
加蓮(ね、歌鈴。やればできる。夢は叶う。私を見て、そう思ってくれるといいな――)
加蓮(それに、藍子)
加蓮(……まだ不安だ。私は、藍子の隣に並べるだけのアイドルになれたのかな)
加蓮(ううんっ、なれたんだよね。臆病になってちゃ駄目だ。歌鈴のことが笑えなくなるもんっ)
P「……? 加蓮?」
加蓮「ん、なんでもない。大丈夫。私の準備はバッチリだよ。さあ――」
加蓮「私をちゃんと見ててね、Pさん。私が、どれだけ先に進めたかを!」
――2015年 1月
――事務所――
北条加蓮「…………」
テレビ <『騎士団長役は、この私……槍使いカリンがもらったわ!』
加蓮「…………」パラパラ
雑誌 <「あのドジっ子は実は和菓子好きの大和撫子だった!? 道明寺歌鈴の素顔を暴く――」
加蓮「…………」
歌鈴「そうだっ。加蓮ちゃん、あけましておめでとうございます!」
加蓮「おめでと」
歌鈴「って、これは神社で言いましたっけ……」アハハ
加蓮「そうだね……」
歌鈴「でも、あの時はバタバタしてて……やっぱりこうして、まったりしながら言うのがいいかなって」
加蓮「まったり、か。地元でLIVEしたんだって? 去年の夏に」
歌鈴「はいっ。私、1度もドジをせずにできたんですよ!」
歌鈴「……鹿さんにはスカートを食べられましたけど」
加蓮「え、何。じゃあ公園かどっかをパンツ丸出しで歩いてたの?」
歌鈴「そっ、そこまでは食べられてません~~~!」
加蓮「あははっ。冗談冗談……ごめんね、地元でのLIVE、見に行けなくて。さすがに遠すぎて、時間がとれなかった」
歌鈴「い、いえいえっ。むしろ加蓮ちゃんがいたら緊張しちゃいそうっていうか、Pさんの前でやっているだけでもいっぱいいっぱいだったというか」
加蓮「へぇ。それなら藍子と一緒に襲撃すればよかったかな?」ニヤニヤ
歌鈴「そっ、そんなことしたら歌えなくなっちゃいます~~~!」
加蓮「駄目だよ。アイドルがあがっちゃ。……Pさんの前では、まだ緊張するの?」
歌鈴「あうぅ……どうしても」
加蓮「いいところを見せようって思わなくても、もう歌鈴は十分すぎるくらい立派なのに」
歌鈴「それでも、やっぱり心のどこかで思っちゃうんです。私なんかでいいのかな、って」
歌鈴「……ああっ! これは加蓮ちゃんの前では言っちゃ駄目なんですよね!」クチヲオサエ
加蓮「ふふっ」
加蓮「代わり……じゃないけど、そのLIVEの映像を見たよ。DVDってなんであんなに高いんだろうね」
歌鈴「いっ、言ってくださればお渡ししてたのにっ」
加蓮「それじゃフェアじゃないもん。歌鈴が頑張った結果でしょ? ズルはよくないよ」
加蓮「……自分のLIVE、自分でチェックした?」
歌鈴「いえっ。その、失敗ばっかりで恥ずかしくなっちゃうから……」
加蓮「じゃあちょうどいいタイミングだ。ちょっと見てみようよ」
歌鈴「ええっ!? か、加蓮ちゃんとですか!?」
加蓮「それ以外に誰が」
歌鈴「はわわ……お、お優しくしてくださいね?」
加蓮「誤解を招くこと言わないの」
――DVD視聴――
歌鈴「はわ~……」
加蓮「…………」パクパク
歌鈴「ほぇ~…………」
加蓮「…………」モグモグ
歌鈴「……これ、誰ですか?」
加蓮「歌鈴」
歌鈴「はわわ……私、こんなに落ち着けてできてたんですね。自分でもびっくりですっ」
加蓮「だからアンタは落ち着きを持って……まあいいや」モグモグ
歌鈴「わぁ……画面の中の私、すごいっ。こんなに落ち着けてやってるなんて、私じゃないみたい……」
歌鈴「ああっ、転びそう! 頑張れ私!」
加蓮「結果を知ってることに応援してて楽しい!?」
歌鈴「よかった、転んでない……」ホッ
加蓮「……楽しいんだね」
加蓮「ねえ、歌鈴。さっきも言ったけど、歌鈴が来る前に歌鈴が出てた公演を見てたんだ。歌鈴が騎士団長をやってたヤツ」
歌鈴「あぁ、幻想公演ですねぇ……幻想公演ッ!? あれ見ちゃったんですか!?」
加蓮「あ、うん。さっきも言ったじゃん……え? マズかった?」
歌鈴「あうぅ……あれはちょっと、その、あんまりやらない役だからつい楽しくなっちゃって、だいぶはしゃいじゃったから……」
加蓮「だろうね。よく分かるよ」
歌鈴「最初は槍騎士なんて無理だって思っちゃってたんですけど、槍をいざ握るとつい楽しくて……」
歌鈴「こう……ほりゃーっ! って感じで!」
歌鈴「加蓮ちゃんは魔法使いとか似合いそうですね」
加蓮「私? 私がやるなら魔法使いより魔女かな」
歌鈴「……ああ」ポン
加蓮「否定しなさいよ――ああ、うん、いい。もういい。その顔で分かったから」
加蓮「……ね。歌鈴は、まったりするのと、わいわいやるの、どっちが好きなの?」
歌鈴「そうですねぇー……」
歌鈴「……私はマイペースがいいです。転ばないように、噛まないように。ほらっ、画面の中の私みたいに!」
歌鈴「でもイベントとかに参加しちゃうと、ついはしゃいじゃうんですよねぇ~……ど、ドジは減ってるんですよ? ホントですっ」
加蓮「そっか。ね、幻想公演、楽しかった?」
歌鈴「それはもうとっても楽しかったですよ! こうやって!」スクッ
歌鈴「『秘技、カリン・トルネード!』とぁーっ! って!」
歌鈴「最後のオークを倒すシーンは、我ながらビシッって決まってたと思いますっ!」
歌鈴「Pさんも、とっても褒めてくれました! よくやった、って!」
加蓮「そうなんだ。ううん、じゃあいいんだ」
歌鈴「……??」
加蓮「ん。歌鈴が無茶をしてるんじゃないかなって。ほら、転んだりするのはペースが違ってて、周りに合わせてしまうからって言ってたから」
加蓮「それに、いつもPさんの為にって必死になってたから……周りに合わせすぎなのかなぁって不安に思ってたけど、そうじゃないんだね」
歌鈴「べーっだ。余計なお世話ですーっ!」
加蓮「世話を焼かせるドジっ娘はどこの誰よ」
歌鈴「最初の頃はそうだったかもしれませんけど、今は自分がどんなアイドルかよく分かっていますからっ!」
加蓮「へー。どんなアイドル?」
歌鈴「それはっ…………………………こ、転ばないでPさんのお役に立てるアイドル、です」
加蓮「あははっ、なにそれ、普通のことじゃん」
歌鈴「わっ、私にとっては普通なんかじゃないですっ! これでもいっつも必死なんですからね!」
加蓮「ふふっ、ごめん。……おっ、DVDを見ようよ。歌鈴の見せ場だよ」
歌鈴「あ、はいっ。……画面の中の私、すごいなぁ」
加蓮「……………………」
歌鈴「ううっ……はっ、つい自分のLIVEで泣きそうにっ」
加蓮「……………………」
歌鈴「終わっちゃいました……も、もう1回見ませんかっ!?」
加蓮「……やっぱアンタ、自己評価ちょっと低すぎでしょ」
歌鈴「ふぇ?」
加蓮「なんでもない。歌鈴の中でも最高傑作のLIVEだね。もう1回見てみよっか」ポチポチ
歌鈴「ふふん。余裕をかましているのも今の内ですからね加蓮ちゃん」
歌鈴「加蓮ちゃんなんてこう、えいっ! やあっ! ってやって、すぐ追い抜いちゃいますから!」
加蓮「言ってくれるね。今が旬のアイドルだってたくさんのテレビやら雑誌やらで言われてる私に? ふうん」
歌鈴「むんっ」
加蓮「ふふっ……」
加蓮(……ついてきてくれた歌鈴に、嬉しいって気持ちと)
加蓮(……絶対に負ける物か、って燃える気持ち)
加蓮(あはは。私ってば、変なの)
加蓮(今さらか)
――2015年 7月
――事務所――
P「――という訳で、またシンデレラプロダクションを舞台としたアニメが放送されることになった」
P「これがその台本だ」スッ
北条加蓮「待ってましたっ」
高森藍子「あはっ……もう、そんなに時間が経ったんですね」
道明寺歌鈴「………………」
P「まだセリフは少ないが、そのうちみんなにもスポットが当たっていくらしい」
加蓮「(ぱらぱら)へー、私は奈緒と一緒に凛に出会うシーンなんだ。そういえば凛と同じ中学って設定になってたっけ」
藍子「私は……あっ、またラジオのシーンですね。慌てず、ゆっくりしなきゃ」
P「2人とも、前回の収録じゃ監督がいいって褒めてたぞ。思い描いた通りの演技だって」
加蓮「前回って、私なんて一言だけだったんだよ?」
P「それで分かる人は分かるんだよ。それに言っただろう、そのうちスポットが当たるって」
加蓮「そっか。楽しみに待っておくね」
藍子「私は、これくらい控え目な方が……」
加蓮「えー。藍子なんて前回のアニメの収録、ほとんど1発OKだったでしょ? 凛たちの方がミスったってくらいで」
藍子「あれは、たまたま調子が良かっただけで……」アハハ
加蓮「私がトチったら、藍子がフォローしてね?」
藍子「共演するシーンがあるといいんですけどね」
P「――それで」
加蓮「!」チラッ
藍子「!」チラッ
歌鈴「……………………」
P「それで、だ」スッ
P「これが、歌鈴の分の台本だ」
歌鈴「………………………………………………え?」
P「第1話……って第14話か。ホントにワンシーンだけだけれどな。幽霊騒ぎに困っているメンバーの前に、専門家として登場するってシーンだ」
P「こっちも監督からは、いつもの歌鈴でって頼まれている。……まああれがいつもの歌鈴らしいと言われるのもちょいと癪だが、」
加蓮「ちょ、ちょっと待ってPさん!」
藍子「歌鈴ちゃんがアニメで……ってことは、もしかして――」
P「ああ、そうだ」
P「――――アニメ第14話の放送を機に、歌鈴もボイスグループの仲間入りとなる」
P「おめでとう、歌鈴。よくやったぞ」
加蓮「……!」
藍子「……!」
歌鈴「!!!! わたっ……私っ……私も仲間入りできたんですかっ……!?」
P「ああ。待たせて済まなかった」
歌鈴「そんなこどない゛でっ! ……私、私が、ボイスグループの仲間入り……」
藍子「すっ、すごいじゃないですか歌鈴ちゃん! やりましたねっ!」
加蓮「よかったぁ……! ……ごほん。ふふっ、やっと追いついてきたってところかな?」
歌鈴「私……! やっとっ……!」
P「アニメが放送された後は、きっともっとオファーが来るぞ。それはもういっぱいな」
P「プロダクションとしてのプロモーションもあるし、前回のアニメでボイスグループになった面々との挨拶回りもある」
P「これから忙しくなるぞ!」
歌鈴「は、いっ! ……あの、Pさんっ」
歌鈴「私だけずっと、加蓮ちゃんや藍子ちゃんみたいになれなくて……」
歌鈴「私だけずっと、Pさんのお役になかなか立てなくて……」
歌鈴「でっ、でも! これからはもっと、もっと、いっぱいお仕事できるんですよね!」
歌鈴「もっともっと、アイドルできるんですよね!」
P「ああ!」
歌鈴「私のこと…………アイドルにしてよかったって、思ってくれますか……?」
P「当たり前だろぉが……グスッ、っと、はは、大の男が泣いたらみっともね――」
歌鈴「Pさああああああああああん!!!」ダキッ
P「うおっ、っと……」
歌鈴「うう、よかったです、よかったです……! 私、頑張ってよかった……!」
P「……ああ。今までずっと、頑張ってきてくれてありがとうな、歌鈴」グスッ
歌鈴「はいっ! うわああああああああああああああん!!!!」
P「よ、よーしよーし……」
藍子「歌鈴ちゃん、よかった……!」グスッ
加蓮「…………」
加蓮「ま、大変なのはここからだし、CDデビューしたのともちょっと違うし、むしろ歌鈴がやっていけるんだかって」
加蓮「ってかPさんにひっつきすぎなのよ、いくら感動したからって。そーいうのよくないと思うんだけどなー」
藍子「ふふっ」
加蓮「…………何?」
藍子「加蓮ちゃん、ずっと笑ってますっ♪」
加蓮「…………涙で視界が曇ってるんでしょ。藍子の」
藍子「さっき、よかったって言ってましたよね?」
加蓮「涙で耳が腐ってるんでしょ。藍子の」
藍子「涙で耳は濡れませんよ?」
加蓮「………………だいたいPさんがノロマすぎるんだって。歌鈴だよ? あの子のポテンシャルならもうとっくの昔にCDが出てオリコンに入るくらいでお釣りが来るのに」
藍子「素直じゃないんですね、加蓮ちゃん♪」
加蓮「うっさいっ」グニッ
藍子「ひゃっ♪」ツネラレ
加蓮「ったくもー」グシグシ
加蓮「ほらほら、2人とも。いつまでひっついてんのっ」ガシッ
歌鈴「きゃっ」
P「うわっと。い、今になって俺すげえ泣きそう……いかんいかん」
P「と、とにかく! ごほん……これで歌鈴のアイドル活動もまた大幅に変わることになると思う。これまで以上に気を引き締め――」
加蓮「Pさん女心がわかってなーい。今それ言うこと?」
P「お前は俺に何をさせたいの!?」
藍子「あはっ。おめでとうございます、歌鈴ちゃん……ほらっ、大丈夫ですか? 立てますか?」
歌鈴「…………な、泣きすぎたら、嬉しすぎて腰が……アハハ……」
加蓮「どうせ今日は台本だけでしょ? 収録まで結構あるし、そもそもセリフそんなに多くないんだから時間はあるんでしょ」
P「い、いや、歌鈴はアニメ放送後のオマケラジオに登場する予定もあって」
藍子「あっ、私が前に、夕美さんと一緒に出させてもらったラジオですね」
P「それだ。あれも流れだけだが台本があるそうだから――」
加蓮「ラジオなんて即興とノリでなんとかすればいいじゃん。デレラジに出た時なんか、私そんな感じだったよ?」
P「収録にアドリブを挟んでないと死ぬ病気の患者はちょっと黙ってろな」
歌鈴「わっ、私はやっぱり、しっかり練習しなきゃ……」
加蓮「じゃあさっさと済ませよう。Pさん、台本は?」
P「……いや、それなんだが、その台本、まだこっちに届いてないんだよなぁ。構成はできているって言っていたが色々と未定の部分が多くて、」
加蓮「つまり、今できることはないんだよね?」
藍子「じゃあ、今から歌鈴ちゃんのお祝いをしちゃいましょうっ。私、飲み物とお皿を出してきますね」タタタ
加蓮「じゃ私は食べ物。冷蔵庫からテキトーに持ってきていいよね」タタタ
P「あっ、おい、コラ! ……はぁ……」
歌鈴「…………」ジー
P「……そうだな。よし、今日は盛大にお祝いするか! 祝・歌鈴のボイスグループ参加決定!」
歌鈴「はは、はいっ! あのっPさん、私、家から奈良漬けを持ってきてもいいですかっ」
P「べ、別にいいが、転ぶなよ?」
歌鈴「はい! 歌鈴にお任せあれ!」
<ズルッ きゃーっ! どうしてバナナの皮がーっ!?
P「……………………アニメの監督に文句言えねえわ、これ」
……。
…………。
――数日後 事務所――
歌鈴「は、はひっ! いえ、はいっ! そうですね、最近は……あうぅ、やっぱりドジを直す為に頑張ってるのがマイブームで……」
歌鈴「趣味、ですか? はいっ、神社のお掃除です! 私、こう見えても巫女なので――知ってる!? そうでしたっ」
歌鈴「お掃除はいいですよ。こう、ほわ~、ってできて……私、のんびりする方が好きで」
歌鈴「……あうぅ。そうですよね、やっぱりドジなアイドルだって思われてますよね……」
歌鈴「し、しゅきな人!? いいいいませんよっそんなの! いません、いませんってばー!」
歌鈴「ホントですっ……あうぅ……ひ、ヒントって、いないんだからいないんですーっ! た、助けてーっ!」ガシッ
加蓮「……はぁ。いい調子でいってたのにね。私? うん、私と藍子が歌鈴のお姉ちゃんみたいなものなんだ」
加蓮「やっぱりまだ頼りないかもしれないけど、もっと見てあげてほしいな」
加蓮「ドキュメンタリーアニメでボイスグループになったのは絶対に出来レースとかじゃない、本当の実力だって」
加蓮「……ああ、それとこの子に好きな異性がいないのはホントだと思うよ? 隠し事ができる子じゃないし」
加蓮(……っていうのが"私の"隠し事だけど)アハハ
――数日後 撮影現場――
歌鈴「こ、こんな感じでいいですか? ……もっと自然な笑顔? や、やってみますね!」
歌鈴「宣材の撮影は久しぶりで……やっぱりカタイですか。ドジをしないようにって思うと……」
歌鈴「次はちょっと動いてみて? ははは、はいっ! え、えーっと」カチコチ
歌鈴「み、右足を出して、左足を出して……ぎゃんっ!」ズテッ
歌鈴「いたたた……や、やっちゃったっ、歌鈴のドジ……! は、はいっ、大丈夫です! よいしょっと」
歌鈴「も、もう転ぶのも慣れましたから、アハハハ……」
歌鈴「あ、はいっ。笑顔ですね! えがおえがお……あれ?」
藍子(じー)
歌鈴(藍子ちゃんがいる……見ててくれたんだっ。あ! 隣にはPさんまで! ……うう、緊張する)
歌鈴(あれ? 藍子ちゃんがPさんをぐいぐいって押して……戻ってきた。「Pさんには出来上がりを期待してもらいますっ」? ひゃーっ!)
歌鈴(ううう、が、頑張らないと……ううんっ)
歌鈴(焦っちゃだめ。身構えすぎちゃだめ。Pさんが歌鈴をここまで連れてきてくれたんだから、大丈夫、大丈夫……)
歌鈴「……♪」
歌鈴「えっ、今の、いい笑顔だった……? は、はいっ! 分かりました、こんな感じですね!」
――数日後 収録現場――
歌鈴「はいっ、次のLIVEは4日後にょっ! ……ご、ごめんなさい……」
歌鈴「あうぅ、これで何テイク目だろ……加蓮ちゃんも、ごめんなさい」
加蓮「10分休憩だって。行こ、歌鈴。ん? 何テイク目だったっけなー……5テイクくらい?」
歌鈴「そんなに!?」
加蓮「で、歌鈴のドジでカットを食らったのが4回」
歌鈴「はわわ……! うぅ、やっぱり私、」
加蓮「はいはい、私だってセリフ飛んじゃったんだからおあいこでしょ? ……あ、"おあいこ"って、なんか藍子が「まあまあっ♪」って言ってるのが思い浮かんだ」
歌鈴「……あはっ、もう、加蓮ちゃんっ、次から言う度に藍子ちゃんを思い出しちゃう!」
加蓮「まーまー、おあいこおあいこ」
歌鈴「あはっ、あはははっ、ひーっ、ひーっ――」
加蓮「ちょっとはスッキリした?」
歌鈴「……あ! 今ならきっと大丈夫ですっ! ちょっと練習を……」
歌鈴「すぅー、はぁー……次のLIVEは4日後で、場所は――です。……ど、どうですかっ加蓮ちゃん!」
加蓮「うん、いい感じじゃん」
歌鈴「きっと私なら大丈夫ですよね。転んでも、みんながいて、笑えてますから!」
加蓮「そだね。まだ休憩あるのかな……何か飲み物でももらってこよっか」
歌鈴「私もお伴しますね!」
――数日後 事務所――
歌鈴「えーっと、んーっと……こ、コラムって難しいんですね……巫女のことを簡単に説明しろって言われても……」
加蓮「ずずーっ……なんかこのお茶、渋くない?」
藍子「ずずっ……私は、これくらいが好きですよ?」
加蓮「歌鈴につられて変な味覚になったんじゃないの?」
藍子「あはっ、歌鈴ちゃんに影響されちゃったのかもしれませんね」
加蓮「私が激辛カレーを毎日持ち込んで辛党に矯正してやるっ」
藍子「か、辛いものはできればあまり……」
歌鈴「うぅー……へ、へるぷです、藍子ちゃんっ加蓮ちゃんっ」
加蓮「や、ヘルプって言われても……」スタスタ
藍子「私たち、巫女さんのことは知らないですよ?」スタスタ
歌鈴「ううぅ……」
加蓮「ん……ここんところもっと説明してみたら? 巫女服にはいろいろあるってところ。女の子なら興味持つよ」
藍子「お掃除をしている時のお話なんて、もっと書いちゃってもいいかもしれないですね。ほらっ、前の雑誌で、歌鈴ちゃんと言えばお掃除ってなっていましたから」
加蓮「家の掃除をしてほしいランキング第3位だってね。代わりに窓ガラスが破壊されるけどそれでもいいのかな」
藍子「いくら歌鈴ちゃんでもそこまでは…………で、ですよね?」
歌鈴「巫女服に、お掃除……」カリカリ
加蓮「あとこの辺、ちょっとわかりにくいかも。ほら、ネイルのコラムとかでもさ、いきなり専門用語を連発しすぎたらPさんにストップ食らって」
藍子「破魔矢のことは、もっとわかりやすい方が、私だったら嬉しいです。そもそも破魔矢って何なのか、ちょっと難しくて」
加蓮「知ってることを簡単に説明するって難しいよねー。初心に帰る、じゃないけどさ」
藍子「でも、分かりやすく書こうって思って書いた文章って、ホントに分かりやすくなりますよね。加蓮ちゃんのコラムを見てると、よく分かります」
歌鈴「ここは、分かりやすく……」カリカリ
……。
…………。
歌鈴「できたーっ!」
加蓮「ばりぼり……おー、お疲れー」
藍子「もぐもぐ……お疲れ様です、歌鈴ちゃんっ。今、お菓子を持ってきますね」スタタ
加蓮「はい、お茶。私の残りだけど」
歌鈴「いただきます……はふぅ……」
加蓮「お疲れ」
藍子「はい、お茶菓子です♪」コト
歌鈴「ありがとうございます……はふぅ……」
加蓮「……終わったらレッスンでもって思ったけど、まったりモード入っちゃったね」
藍子「焦らずゆっくり行きましょう。お仕事の方から来ちゃうんですから、歌鈴ちゃんが焦っちゃったら大変です」
加蓮「お、数カ月ぶりに自分から営業しないと仕事が来なくなった子の言うことは違うね」
藍子「…………わ、私はこれくらいでいいんです、うん、いいんです」
加蓮「LIVEやればいいのに。藍子がLIVEやってるとこ、最近あんまり見てないような気がするなぁ」
藍子「そうですね……。でも、今は……」チラ
歌鈴「すぅ……すぅ……」zzz
加蓮「……だね」
――数日後 事務所――
加蓮「ねえ歌鈴。いつか渡したビー玉、まだ持ってる?」
歌鈴「びーだま……?」
加蓮「あれいつ頃だったっけ。ほら、幸運のって言って。これを持ってたら転ばないよって言ったじゃん。確か歌鈴はあの時、巾着袋に入れてなかったっけ?」
歌鈴「ああ! あれならまだ……はい。思えば私がドジを減らせたのは、それのお陰かもしれませんねっ」
加蓮「うん、ごめん、それはない」
歌鈴「え?」
加蓮「だってそれ、私の嘘だもん」
歌鈴「…………はいぃ!?」
加蓮「あの時って何って言ったんだっけ……そうそう、仕事場で貰ったって言ったんだったっけ」
加蓮「いやほら、あの頃って幸運アイドルとか流行ってたからさ、こういう風に言えば歌鈴も信じこんでくれるかなって」
加蓮「ホントはそこら辺で買った……いや拾っただったっけ? ビー玉をぽいって渡しただけなんだ。うん、ごめんね?」
歌鈴「かっ、かっ、加蓮ちゃんはやっぱりイジワルです! ばかぁ!」
加蓮「あはは。まあいいじゃん。それでドジを減らせたなら」
歌鈴「ううぅ~~~……加蓮ちゃんは詐欺師ですっ。ホントに効果のあるお守りって、たくさんあるんですからね!」
加蓮「ごめんってば」
歌鈴「…………それで、加蓮ちゃんの嘘つきがどうかしたんですか?」
加蓮「うん。謝りたかったのと……はい、これ」スッ
歌鈴「これ……わぁ、綺麗なビー玉……ってまた私を騙そうとしてるんですか!?」
加蓮「騙そうとしてるならわざわざネタばらしはしないよ」
加蓮「これ、前にガラス球工芸の体験をした時に作った物なんだ」
加蓮「幸運なんてもたらさないし、何の効果もない。持ってても転ぶ時には転ぶよ……でも、ま」
加蓮「それ、あげる」
歌鈴「…………」
加蓮「いらない?」
歌鈴「…………"友達のプレゼント"ってことでもらっておきます! あと、前のビー玉も返しませんからね!」
歌鈴「偽物だったとしても、私には効果がありましたからっ!」
歌鈴「加蓮ちゃんには負けないって気持ちが!」
加蓮「そっか…………よかった」
加蓮「歌鈴もいつか何か頂戴よ? 渡してくれる時を待ってるから」
歌鈴「べーっ!」
歌鈴(…………本当は)
歌鈴(巾着袋に入った、偽物で本物のビー玉)
歌鈴(あれはもう、手元にないんです。去年の夏に、地元でLIVEをした時、倉庫の奥にしまっちゃって)
歌鈴(あれが偽物だっていうなら、もうずっと前からいらなかった)
歌鈴(加蓮ちゃんに発破をかけられた日から、誰かに頼らなくてもドジを克服するって決めましたから!)
歌鈴「~~♪」
加蓮「……何? どしたの、急に」
歌鈴「なんでもないですよーっだ」ベー
そして、月日が流れていく。
――収録現場――
歌鈴「ドジっ子の役ですか!? ……あ、それなら自然体でできるかも」
歌鈴「『待ってください~……きゃあっ! はわわ、転んじゃった……いっ、いつまで見てるんですかっ!』」
歌鈴「『私、ドジばかりですけど、側に置いてくれますか……?』」
歌鈴「『もう転ばないって決めたんです。あなたの隣に、いたいから』」
歌鈴「……え、ええ~っ!? は、拍手!? ひゃあ~~~っ!」
――事務所――
歌鈴「はいっ。次のLIVEでは、新曲を披露する予定です!」
歌鈴「今回の歌は、しっとりとした……バラード? って言うんでしたっけ。Pさ――じゃなくて、プロデューサーさんが、作曲家さんと話し合って決めてくれた歌なんです」
歌鈴「もうドジはしないのかって? ……実はまだ、ちょっぴり自信もなくて」
歌鈴「で、でもっ、せいいっぱい頑張りますので、みっ、見に来てください!」
歌鈴「……あーっ! 加蓮ちゃん、そんなにじーって見なくても、私はもう噛んだりしませんからね!」
――撮影現場――
歌鈴「あっ、運ぶの手伝います! ……いいんですっ。私の為の撮影ですから、私も手伝わないと」
歌鈴「違いますよ~。私、こういう雑多なことは好きなんです。神社の境内をよく掃除してるからかも?」
歌鈴「ととっ。はい! 転びません! ……え? ま、前の私を撮ってくれてたスタッフさん!? あっ、あの時の私はその、あ、あうぅ……」
歌鈴「あ、Pさん、藍子ちゃん! はい、もう大丈夫です。でも来てくれてありがとうございます!」
歌鈴「歌鈴、お役に立ててますかっ!?」
――事務所――
テレビ < 歌鈴『巫女服って言ってもいろいろあるんですよ! 例えば、こんなのとか、こんなのとか』
テレビ < 歌鈴『神社に行けば、巫女の体験ができます。◯◯神社でなら私もときどき教えますのでっ、ぜひ参加してみてください!』
テレビ < 歌鈴『はいっ。今日は、ありがとうございました!』
テレビ < ワアアアアア...
加蓮「……ふふっ。なんだかプロデューサーさんになった気分だな」
藍子「Pさんに、ですか?」
加蓮「ううん、プロデューサーさん。それとも、お姉ちゃんかな?」
藍子「……あはっ。前、私がCDデビューをした時に、Pさんが言っていたんです。娘をお嫁に出す気持ちってこうなのかな、って」
藍子「あれは、初めてテレビで歌を披露した時だったかな……?」
加蓮「あ、それ私も言われた! つい『娘なの?』って真顔で返しちゃった」
藍子「何やっているんですか……」
加蓮「あはは。きっとそういうものなんだろうね。私が、そんなことを思う日が来るとは思わなかったな……」
藍子「ふふっ。私もです。ずっと、子どもとして、大人にお世話になっていくのかなって思っちゃって」
加蓮「取材もコラムも、私たちに助けを求める歌鈴はもういなくてさ」
藍子「最近ではPさんと一緒に、何のお仕事を受けるか決めているみたいですよ?」
加蓮「最後にあの子が転んだところ見たの、いつだったっけな……」
藍子「噛んで慌てる歌鈴ちゃんを見なくなって、ちょっぴり寂しい気もしますね」
加蓮「あ、なにそれひどーい。藍子が実はそんなことを考えてたなんて!」
藍子「え? あ、ち、違いますっ、そうじゃなくて、その……か、加蓮ちゃん、分かってるくせにっ!」
加蓮「あはははっ。分かってる分かってる。……さて、と」スタッ
藍子「……? 加蓮ちゃん、どこかに行くんですか?」
加蓮「うん。今の時間なら歌鈴はいないし、Pさんが帰ってくる頃だから……ちょっと、相談があってね。その為の準備」
藍子「そうなんですか……行ってらっしゃい、加蓮ちゃん」
加蓮「ん。あ、そうだ……」
加蓮「先に謝っとく。ごめんね、藍子」
藍子「……?」
そして、いつかのハレの日。
――LIVE会場――
『さあ、途中でまさかの乱入があっての2対1、変則LIVEバトル! ファンの選択は!? その結果は!?』
『――WINNER 道明寺歌鈴&北条加蓮!』
<ワアアアアアアアアアア――!!!
<ヒューヒューーーー!
<やったぞおおおおおお!
北条加蓮「はぁっ、はぁっ……ふふっ」
道明寺歌鈴「やっ、やっやっやっ……やりましたっ! 私、藍子ちゃんに、あの藍子ちゃんに勝ったんです!」
<ワアアアアアアアアアア――!!!
高森藍子「あはっ……負けちゃいました」
歌鈴「ううっ……あ! ううんっ、今のは加蓮ちゃんがいたから勝てたんですよね」
加蓮「そんなことないよ。私なんて途中から勝手に乱入しただけだし、みんなは歌鈴が頑張ってるのを見て感動したんだよ」
加蓮「そうだよねーーー! みんなーーーーーっ!」
<ワアアアアアアアアアア――!!!
加蓮「ねー! 私なんていなくても歌鈴は勝ってたよねー!」
<ワアアアアアアアアアア――!!!
<そんなことねえぞー!
<ああ、いらなかったな
<ああ
加蓮「うん、そこの前列3列目の人たちはちょっと後で舞台裏ね♪」ニッコリ
<\(^o^)/
<南無
歌鈴「う、うううっ……」グシグシ
藍子「そうですよ。歌鈴ちゃんの実力ですっ」
歌鈴「は、はいっ!」
加蓮「お墨付き、もらっちゃったね」
歌鈴「わっ、私はっ……えと、そのっ……私、私は! ……私っ……私……私は!」
<がんばれー!
歌鈴「はは、はい! 頑張りますねっ! すぅ……はぁ……すぅ……私は! 藍子ちゃんに、勝ちましたああああああああっ!」
<ワアアアアアアアアアアアアアアアアア――!!!!!!!!
歌鈴「はぁ、はぁ、え、えへへっ」
加蓮「……ふふっ。いい顔してるじゃん、歌鈴」
加蓮(いつか藍子にべったりだったなんて、とても思えないくらいに)
藍子「あはっ……」
加蓮(さて、と……)
加蓮「――ごほん! ここで私から、重大な発表があります!」
歌鈴「え?」
藍子「え?」
<シーン
<ザワザワ……ザワザワ……
<発表だと……?
<次のCDが決まったとか!?
<いや、まさか……引退……?
<引退!?
<とうとう余命半年か……
加蓮「……いや別に悪い知らせじゃないからね? ごめんね紛らわしくて。でも余命半年って言った前列5列目の人はちょっと後で舞台裏ね」
<\(^o^)/
<お前の余命があと半時間だな
加蓮「ごほん。今度また、歌鈴のLIVEが2週間後にあるけど――」
加蓮「――私、北条加蓮は、歌鈴の"LIVEバトル相手"として乱入することをここに宣言します!!」
<エエエエエエエエエ――っ!!!
<ワアアアアアアアアアア――!!!
<乱入!?
<乱入だと!?
<おい、聞いたか今の!?
<加蓮ちゃんと歌鈴ちゃんがバトル!? やべえ俺どっち応援しよう!?
<またこの2人のLIVEが見れるのか!
<加蓮! 加蓮! 加蓮!
歌鈴「わわわわわわわ……!? か、加蓮ちゃんが私のLIVEに……!?」
加蓮「うん。……ファンの皆もよく聞いて!」
加蓮「ほら、歌鈴がボイスグループに入ってから、もうずっと経つでしょ? みんなは知ってると思うけど、歌鈴、もう1人でもぜんぜん大丈夫なんだ!」
加蓮「もう転ばないし、私たちが助けなくても大丈夫」
加蓮「歌鈴は十分に一人前だよ!」
加蓮「……じゃあさ、次は先輩の私たちが立ちふさがってあげなきゃ! そうだよね!」
<ワアアアアアアアアアア――!!!
歌鈴「そんなっ……や、やっぱり無理です私! 藍子ちゃんに勝てたのもやっぱりっ加蓮ちゃんが私をサポートしてくれたおかげで、」
加蓮「そんなこと言って、ホントは心のどこかで思ってんじゃないの? 今の自分なら勝てる、なんて」
加蓮「ま……それにさ。そろそろどっちが上かってことを思い知らせないと、私のプライドにも関わるからね」ニヤッ
歌鈴「……!」
歌鈴「…………はいっ!」
歌鈴「し……その、勝負! 受けて立ちますっ!」
<ワアアアアアアアアアアアアアアアアア――!!!!!!!!
<パシャパシャパシャパシャ!
<キタアアアアアアアアアアア――!!!
<歌鈴! 歌鈴! 歌鈴! 歌鈴!
<加蓮! 加蓮! 加蓮! 加蓮!
<チケット、チケットの予約今すぐ!
<ネットが重いぞ! 反応早すぎだろ!
加蓮「ふふっ。それでこそ歌鈴だね」
歌鈴「むむっ……!」
藍子「……あはっ♪」
藍子(前に、プライドなんて、とか言ってたの、どこの誰ですか?)
加蓮「! ……あはは」ニコッ
藍子「! ……ふふ」ニコッ
歌鈴「むむむっ……!」
藍子(……)
藍子(…………歌鈴ちゃんが、ここに立つまでに、どれくらいの時間が経過したでしょうか)
藍子(なんだかもう、ずっと昔から、加蓮ちゃんと歌鈴ちゃん、2人と一緒にいる気がします)
藍子(最近は仲良くなってるけど、やっぱり2人は、よくケンカをしてて。レッスンの時も、張り合ってばっかりで)
藍子(でも、2人とも、それがすごく楽しそうです)
藍子(……私は)
藍子「――――――あのっ!」ビシッ
加蓮「!」
歌鈴「!」
藍子「私も……その、言いたいことがっ!」
<シーン……ザワザワ……
<なんだなんだ?
<まさか今度こそ――
<違うよな? 違うよな?
藍子「ごほんっ。その――」
藍子「歌鈴ちゃんのLIVE……私も、入らせてもらっていいですかっ!?」
藍子「私も――」
藍子「私も、おふたりと、勝負してみたいからっ!!」
加蓮「……!!」
歌鈴「……!!」
<ワアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――!!!!!!!!
<パシャパシャパシャパシャ!
<藍子ちゃんまで!?
<マジか、マジか!?
<ゆるふわガールがついに!?
<あの藍子ちゃんが宣戦布告だと!?
<やべえこれもう伝説になるぞ!?
藍子「あ、あはは、やっぱりご迷惑でしたか……?」
加蓮「ううん。大歓迎だよ、藍子。どっちにつくの? 歌鈴と組んで私を倒してみる?」
歌鈴「あ、あのあの、えとっ、あうぅ……で、できればその、私といっしょに……」
藍子「――どちらにも、つくつもりはありません。第三者として、参加させてください」
藍子「私と、加蓮ちゃんと、歌鈴ちゃんで、勝負ですっ!」
加蓮「っ!」
歌鈴「あああ、藍子ちゃんまで~~~っ!?」
藍子「……!」ムンッ
加蓮「……………………」
歌鈴「どど、どうすればいいのっ……大丈夫、落ち着いて、落ち着くにょにょ歌鈴っ、あうぅ噛んじゃ……! ううんっ、大丈夫……!」
加蓮「――――――――」
歌鈴「大丈夫、大丈夫……ヨシッ!」
加蓮「――もう藍子には、デビューの順番も、LIVEも、負けるつもりはないからね!!」
歌鈴「私も……っ! お、遅くなっちゃいましたけど、私だって2人と同じ、アイドルですから!」
藍子「――――――はい!」
<ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――!!!!!!!!!!!!!
『私みたいに、競うのが苦手な人間がアイドルになろうだなんて、あんまり向いてないかもしれないですよね』
――今も、それは変わっていないかもしれません。それに、そんな自分でいいかな、って思ってたり……。
でも、私。
2人から、いっぱい、頂きましたから。
たまには……アイドルらしく競ってみたいって思っても、いいですよね?
おしまい。
ちょっと遅くなりましたが、道明寺歌鈴、ボイス追加おめでとう!
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