女「もう講義終わりましたよ?」
男「あ、ああ」
・・・外を見ていた。
空はいつのまにか茜色をしていた。
時計を見ると5時近い。
講義はとっくに終わっていたようだ。
3階41講義室に残っているのは、オレと、オレに話しかけてきた女だけだった。
男「あ、すみません。ちょっとボーっとしてました。もう帰るんで」
女「あの・・・余計なお世話かもしれませんけど、そのまま外にはいかない方がいいと思いますよ」
男「えっ?」
なぜだか分からないが、シャツの襟が濡れていた。
男「・・・すみません」
女「あの・・・結構前から気になってたんです。全然講義聞いてないみたいですし、あまりに・・」
男「いえ、大したことじゃないんで大丈夫です」
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そう言うとオレは、机に出しっぱなしになっていた経済原論の教科書を鞄に仕舞った。
外からは他の学生たちの声が聞こえる。
なんだかいつもより騒がしいな、と思った。
男「じゃあオレはこれで」
女「待ってください」
男「?」
女「あの・・・初対面の人にいきなりこんなこと言うの失礼かもしれませんが、もしよかったらあなたがいつも外を見ている理由を教えてください」
男「・・・」
女「誰かに話すことで、少しは気持ちが晴れることだってあると思います」
男「あなたには・・関係のないことですから」
女「そうかもしれません・・・でもあなたの尋常じゃない様子が気になって私も講義に集中できないんです。服が乾くまででいいですから」
男「・・・」
確かに初対面の人間にしては、他人の領域に踏み込みすぎだと思った。
だが、その真剣な表情は、言葉とは裏腹に、見ず知らずの人間を本当に心配しているようにも見えた。
・・・人の好意は素直に受けるべきだと思った。
そういう訳でオレは、本当に気まぐれに、名前も知らない女に、おそらくは面白くもない話をすることにした。
男「長くなるけどいいですか?」
女「はい」
***
***
ピンポンパンポーン
校内放送『2年C組の男君、昼休みに生徒会室に来てください』
「おーい、お前呼ばれてるぞ」
男「はぁー・・なんだよ。飯食う時間無くなるじゃん」
「じゃあオレら今日は先購買行ってるからな」
男「あー・・じゃあさなんかついでに買っといてくんねー?」
「しょうがねーな。何がいいんだ?」
男「甘くないのなら何でもいい」
「オッケー」
コンコン
男「しつれいしまーす」
ガラガラ
「ん?君誰?」
男「なんか校内放送でここに来いって言われたんですけど」
「?誰か呼んだの?」
女「あ、会長。私が呼びました」
「あ、女さん。どうしたの?」
女「彼のノートを拾ったので」
「そうだったんだ。あ、3年生午後プールだから僕たちもう行くけど、任せていい?」
女「はい。お疲れ様です」
ガラガラ・・・バタン
男「あ、ノート拾ってくれたんですか。すいません」
女「・・ええ。コレ、返します」
男「どーも。じゃあオレもう行くんで」
女「ちょっと待ちなさい」
男「?」
女「あなたに言っておきたいことが3つあります」
男「は?」
女「まず、名前はノートの表面に書きなさい。中に書いたら内容を確認しなければ誰のだかわかりません」
女「次に、ノートに落書きをするのはやめなさい。ノートは勉強のためにあるものです」
女「最後に、もっときれいな字で書きなさい。復習するとき自分で書いた字が読めないんじゃないのかしら?」
男「・・・・は?余計なお世話だし」
女「それともう一個。部屋に入る時のノックは3回、あるいは4回です。2回は“入っていますか?”ですから」
男「・・・・うるせーな」
女「あなたの将来のために言っているんだけど?」
男「ッチ」
ガラガラ・・・バタン!
男「・・・」
「お、早かったな」
男「あーすまん」
「ほれ、サンドイッチ」
男「サンキュー・・・・はぁムカつくなー」
「なんかあったのか?」
男「あー・・・生徒会の女が超うざかった」
「マジ?3年?」
男「いや、リボン緑だから2年だな」
「2年で生徒会の女ってA組の女さんか?」
男「知らねーよ。名前なんて」
「眼鏡かけてて髪長い奴」
男「あー・・たぶんそれだわ」
「ウザいってどんな感じだったんだ?」
男「良く知りもしねーオレのノートの書き方に文句言いやがった」
「意味わからん」
男「いや、オレも分かんねーよ」
「あれじゃね?セーリで機嫌悪かったとか」
男「はー、キモイわ」
「はは・・相当イラついてんなー」
男「・・・」
「ま、女さんって車椅子だし、虫の居所悪いこともあるんだろ」
男「ん?車椅子?」
「あれ?車椅子乗ってなかった?」
男「いや、普通に椅子座ってたけど」
「そうか?まあいいや。俺食いおわったからちょっとフットサルしてくるわ」
男「ああ、俺も食いおわったら行く」
「おー」
サンドイッチを齧りながら、さっきの生徒会室の様子を思い出した。
そう言えば、部屋の隅に車椅子あったな。
車椅子に乗ってる人にさっきの言い方は無かったかな、とも思った。
が、あれだけ初対面の人間に悪態つける奴に、同情はいらないと、オレはなんとなく納得した。
ここまでにします
つづきです
―――――ある日の朝。
男「朝から集会ウゼー」
「ねみーよな」
男「せめて椅子用意しろよな。そしたら眠れるのに」
「そうだな、てかお前立ったまま寝てることあるだろ」
男「マジ?ばれてた?」
「はははっ」
『・・・これで生徒集会を終わります』
「おい、教室行こうぜ」
男「ああ・・・・」
「ん?どうした?・・・・ああ。ほら、あれだろ。A組の。な、車椅子だろ?」
男「ああ・・・行こうぜ」
「おう」
壇上の生徒会役員たちの中に、一人だけ覚束ない足取りの女生徒がいた。
しかしその女生徒は、誰の手も借りず、しかしゆっくりと壇下に置いてある車椅子まで歩を進めていた。
長い黒髪が、しっかりと伸びた背筋を覆いながら静かに揺れ動いていた。
凛としていた。
「おーい男」
男「なんすかキャプテン」
「明日の放課後予算会議あるんだけどさ、悪いんだけどお前行ってくれない?」
男「えーマジっすか?オレ何していいか分かんないすよ」
「ただ座ってるだけでいいから。行かないと予算減らされるんだよ」
男「はー了解っす」
「ワリィな」
***
「それでは、予算会議を始めます。まず昨年度の資料をご覧ください・・」
男(はー・・眠ぃ)
男「・・・ZZZ」
「では、次は会計から今年度予算配分の報告です」
女「はい、会計の女です・・・報告の前に。サッカー部の男さん、起きなさい!」
男「おわっ?!」
女「会議中は寝ないように。では、報告です」
「くすくす」
男「・・・チッ」
「それでは、これで予算会議を終わります。お疲れ様でした」
男「・・・おい」
女「何?私に用?」
男「何?じゃねーよ。お前さ、オレに恨みでもあんの?」
女「は?何言ってるの?さっきのはあなたが悪いんでしょ」
男「だからってあの場で怒鳴ることねーだろ」
女「あそこで起きなければ、あの後の会議聞いてなかったでしょ?」
男「チッ・・・うるせー奴」
女「あなたね、もうちょっと真面目になりなさい」
男「だから、そういうとこがウゼーんだよ」
女「・・いい加減にそこ退いてくれない?あなたがそこにいると、私手をつくところが無くて立ち上がれないの」
男「・・・チッ」
すっ
女「あなたの生活態度を見てると、いくらでも文句を言いたくなってしまうから、私はこれで戻ります。さようなら」
男「・・・」
「男ーこの前は予算会議出てくれてありがとな」
男「キャプテン・・オレ、今後あの会議には出たくないです」
「ん?何かあった?予算別に減ってないと思うけど」
男「なんかスゲームカつく奴いるんで」
「??まあいいや。てか予算会議は年に2回しかないから。次回は俺が行くよ」
男「そうしてもらえると助かります」
「おし、じゃあランニングから始めるか」
「うーっす!」
男(かったりーな)
「イチニ、ソーレ!!イチニ、ソーレ・・・」
男「はっ・・はっ・・・・(たりーからゆっくりいこう)」
男「・・・・・ん?」
男(あの窓って確か生徒会室か・・・何覗いてやがるんだよ、あの女)
女「・・・・ふん」ぷいっ
男「・・チッ」
「最近お前不機嫌だなー」
男「そう見えるか?」
「見えるわー」
男「A組の女がムカつく。とにかくムカつく」
「ん?あれ以来なんか絡みあったのか?」
男「部活のとき、生徒会室からオレの事見てやがる」
「は?なにそれ。ラブコメかよ」
男「は、死ねよ?」
「おい、冗談だよ。てかなんでお前の事見てるの?」
男「・・・知らねーよ」
「てかさ、別にお前の事見てる訳じゃないんじゃないのか?」
男「は?」
「女さんって足悪いんだろ?よく知らねーけど」
男「・・ああ」
「運動できねーから、運動部のこと見てるんじゃないのか」
男「・・・」
―――――ある日の放課後。
女「・・・・」ぼーっ
コンコンコン
女「あ、ハイどうぞ」
ガラガラ
男「・・・」
女「わっ!」
男「・・あ?」
女「・・なんでもないわ。生徒会に何か用ですか?」
男「いや、別に」
女「?用がないならあなたが来る必要はないですよ」
男「お前さ、なんでいつも放課後に外見てんの?」
女「・・別に見ていないわ」
男「嘘つけよ。じゃあなんで窓際に椅子置いてんだよ」
女「・・別にいいでしょう。あなたには関係ありません」
男「関係はないけど、練習してるときチラチラ見られると気が散るんだよ」
女「そんな事を言うなら、もっとマジメに練習に取り組んだらどうなの?あなた、ランニングするとき明らかに手を抜いてるでしょう」
男「やっぱり見てんじゃねーか」
女「そ・・それに今日はどうしたの?練習をさぼってこんなとこに来ていていいの?」
男「昨日の練習で足突き指したんだよ」
女「あ・・・そうなの。ごめんなさい」
男「・・・・はぁ」
女「・・・とりあえずドアの前にいつまでも立っていないで、椅子に座ったらどうなの・・・足、痛いんでしょう?」
男「・・・じゃあ」
がたっ
女「・・・お茶でも入れますか?」
男「あ、わりーよ・・てかお前も・・その、動くのめんどうだろ」
女「大丈夫よ。歩けるときは歩くことにしてるの」
そう言うと女は、机に手をついて立ち上がり、ゆっくりとポットと急須の方に向かって歩き出した。
女「どうぞ」
男「あ、どうも」
ずずっ
女「・・・」
てく・・てく・・てく
男「・・・」
がしっ
女「何をしているの?」
男「椅子おさえてるから、座れよ」
女「別にそんな事してもらわなくても自分で座れますから」
男「危なっかしくて見てらんねーんだよ。てか、目の前で転ばれたら困る」
女「・・・どうも」
とさっ
男「あー・・・」
女「何?」
男「お前さ、運動したいから校庭見てるのか?」
女「違うわ」
男「・・・」
女「あなたみたいに、運動できるのに、真面目にやらない人を見ているとイライラするの」
男「・・・悪かったな」
女「・・・私も悪かったわ。これからはあまり外を見ないようにします」
男「いや・・別にそんなことは言ってねーよ」
女「・・・」
男「・・・」
女「同情とか、やめてくれるかしら」
男「は?」
女「満足に歩けないからって、私は別に困っていないわ」
男「・・・お前さ、ここ3階だけど、帰る時どうやって階段降りてんの?」
女「時間をかければ、降りられるから」
男「それは見てれば分かるけど、その車椅子どうしてるんだよ。持って階段降りられないだろ」
女「・・・母が迎えに来てくれるから」
男「・・・じゃあ迎え来るまでここにいるってわけか」
女「そうよ」
男「迎え、何時くらいなんだ?」
女「なんでそんな事を聞くの?」
男「お前が、いつも部活終わるまで校庭見てるから、ずいぶん遅くまでいるなって思ってたんだよ」
女「・・・6時半ごろよ」
男「そうか。だから部活終わりまで見てるんだな」
女「・・・悪かったわね」
男「・・・突き指治るまでヒマだから、階段降りるの手伝ってやるよ」
女「は?どういう風の吹き回しなの?」
男「その代わり、治るまでここからサッカー部見させてくれよ」
女「どういう事?見学ならグラウンドでするべきじゃないの?」
男「練習やらねー奴がグラウンドにいると邪魔なんだよ。それに、さっき気づいたんだけど、ここからだと全体の動き見えるからな」
女「・・・そう。真面目な理由なら別にいいと思うけど。一応明日、会長に許可を取りますから」
男「ああ」
**
男「そろそろ時間だろ」
女「・・ええ」
男「じゃあ行くか」
女「あ、湯呑」
男「あ、ワリィ」
ジャー・・ガチャガチャ
女「・・・あなたが洗う事は無いのに」
男「いや、オレが使ったんだからオレが洗うよ」
女「・・・」
男「大丈夫か?」
女「手を貸す必要はないわ」
男「・・・わかった。転ぶなよ。オレは車椅子持って先に降りるわ」
女「ええ」
男「・・・」
女「・・なんで、私の前にいるの?下にいればいいじゃない」
男「別に」
女「・・転ばないから大丈夫よ。今まで一度も転んだことないわ」
男「へいへい」
タッタッタ
女「・・・・お待たせ」
男「・・おう」
女「車椅子、押さえてもらわなくても、ちゃんと座れるわ」
男「お前さ、人の好意は素直に受け取れよ」
女「・・・それは、私が普通に歩ける人だったとしても同じことするの?私が教室で座る時、いちいち椅子を引くの?」
男「お前、結構めんどくさい奴だな」
女「なっ!」
男「体調悪い時は、ソイツの事助けんのは普通だろ」
女「・・・そうかもしれないけど」
男「お前が、出来るだけ人の手借りたくないってのは、見てりゃ分かるよ。だけど、座る時とか転ばないように支えることで、別にお前の運動量は減らないだろ?余計な事故が起こらないようにしてるだけなんだから、それくらい別にいーだろーが」
女「・・・・意外にも、理論的なのね」
男「なんで一々そういう言い方すんだよ」
女「・・・ごめんなさい」
男(だからって素直に謝るなよ)
女「分かったわ・・・確かにあなたの言う通りだと思います。ありがとう」
男「お、おう」
女「・・じゃあ座ります」
とす
男「・・・・あー生徒会室の鍵、返すんじゃねーの?」
女「ええ。返してきます」
男「おう」
女「・・・なんであなたもついてくるの?」
男「はぁ・・・例えば、ダチと2人でだべってて、そいつが職員室にちょっと寄る用事あったら、ついて行くのくらいフツーだろ」
女「・・・」
女「・・・今日はありがとうございました」
男「別に畏まって礼とか言わないでいいんだけど」
女「そう」
男「そういや、迎えまだ来てないのか?」
女「ええ。うち、母も働いてるから、仕事帰りに寄ってくれるの」
男「車?」
女「そうよ・・あ、あの近づいてくる車よ」
男「あ、そ。じゃあ俺も帰るわ。明日も放課後行かせてもらうから、会長さんに聞いといてくれよ」
女「あ・・はい」
ブロロロ・・キッ
女母「あら?今日はどうしたの?」
女「えっと、友達が送ってくれたの」
女母「あら!お礼言わなきゃ。生徒会の方?」
女「いえ・・もう帰ってしまったわ」
女母「そうなの・・まあとにかく帰りましょう」
女「うん」
今日はここまでにします
こんばんは
つづきです
***
コンコンコン
女「どうぞ」
ガラガラガラ
男「・・・」
女「・・なんですか?」
男「いや・・昨日の話。会長さんに聞いてくれたんじゃねーのか?」
女「ええ、その話なら、別に良いという事です。ただし、会議のある金曜はダメです」
男「そ。そりゃどうも。じゃあおじゃまします」
女「はい」
がた
てく・・てく・・てく
かちゃ
トポポポポ・・
女「お茶、どうぞ」
男「あ、すまん・・・てか別に毎回お茶入れてくれなくてもいいけどな」
女「人の好意は素直に受け取ったらどうなの?」
男「・・・ッチ・・お前やっぱウザいわ」
女「お返しよ」くすくす
男「・・・」
男「・・・あっバカ、オフサイドラインこえてるだろ・・」
女「・・・」
男「・・・ん、そう言えばお前は外見ないのか?」
女「なんであなたといっしょに、並んで窓から顔を出さなければいけないの?」
男「・・・ホント一々嫌味言う奴だな」
女「・・・」
男(あー・・・そっか。オレがここいるとコイツの習慣を妨害しちまうのか・・?)
女「私は今日は勉強しているから、気にしないでいいわ」
男「勉強?期末まで3週間以上あるだろ?」
女「定期試験の直前にしか勉強しないあなたとは違うの」
男「うぜ・・・ん?お前マジで何の勉強してんの?学校の勉強じゃないだろ、ソレ」
女「資格の勉強をしているのよ・・のぞき込まないでくれる?」
男「資格?なんの?」
女「・・・アナタには関係ないでしょ?」
男「まあそうだけど、気になったこと聞くくらい良いだろ」
女「・・・公認会計士の資格を取りたいの」
男「会計士?それって大学卒業後とかに取るもんじゃないのか?」
女「・・・別に受験資格は大卒ではないわ」
男「でも、高校生が取れるもんなのか?確かすげー難しいやつだろ?大学行ってからでも」
女「私は・・・あなたと違って部活もしていないし時間があるの。そ・・それに、私のことで家族に迷惑をかけている。だから早く独り立ちしたいの」
男「・・・そっか。まあ、がんばれよ」
女「・・・あ、あなたこそこの部屋使わせてあげてるんだから、ちゃんと自分のすべきことをしなさい」
男「いや、今日の練習もう終わりみたいだ」
女「・・・そう」
男「さて」
すくっ
ジャー・・ガチャガチャ
男「もう時間だし、お前も帰るしたくしろよ」
女「・・・ええ」
女「じゃあ職員室に鍵返してくるから」
男「もう返してきたぞ。お前が階段降りてる間に」
女「なっ・・余計な事を!」
男「時間短縮だよ・・・つーかアレ、お前の家の車だろ?親待たせるの悪いだろ?」
女「・・・」
男「じゃあ俺帰るわ」
女「待って!」
男「あ?」
女「あ・・ありがとう」
男「あ、おう」
コンコンコン
女「どうぞ」
ガラガラ
男「おす」
女「・・こんにちは。今日はずいぶん遅かったのねもう6時よ」
男「あ、今日はお茶はいいぞ」
女「?」
男「今日から、試験2週間前だからもう練習ねーよ。結局突き指治んなかったし、復帰は試験後だ」
女「あ・・そう言えばそうね」
男「窓から外見てたんじゃないのか?」
女「今日は勉強してたから」
男「あー・・・そういう訳だからもう放課後ここから外見ねーから。試験後はもう来ねーよ」
女「そう」
男「あー・・いままでどうもありがとうございました」
女「どういたしまして」
男「・・じゃあ帰るぞ。支度しろよ」
女「うん・・・あ、別に今日はあなたに送ってもらう必要はないんじゃないのかしら」
男「まあ、そうかもしれないけど、来ちまったから今日は送ってやるよ」
女「別にそんな!・・・・・・いえ、好意は素直に受け取るわ。ありがとう」
男「あ・・おう」
**
ガラガラ
女「・・・よいしょ」
ガチャ
女「・・・」
男「・・・」
女「あなた、毎日階段のところで待っているのやめてくれないかしら。別に生徒会室に来てないのだから、あなたにそうしてもらう義理は無いわ」
男「偶然だよ、グーゼン。てか人の好意はす」
女「ちょっと黙りなさい」
男「・・・なんだよ」
女「来週の月曜日で試験1週間前なんだけど、あなた毎日この時間まで学校に残って、ちゃんと勉強してるの?」
男「・・・してるよ。うるせえな」
女「どこで?」
男「あー・・図書室」
女「・・・そう。じゃあ来週の月曜からは、私も放課後図書室で勉強することにします」
男「げ」
女「なに?」
男「・・・ッチ。なんでもねーよ」
**
女「・・・やっぱり全然勉強進んでなかったわね」
男「うるせーな、今日からちゃんとやるつもりだからいいんだよ」
女「やらない人はみんなそう言うのよ。あなたの苦手な歴史科目は重点的にやるわよ」
男「お前、なんでオレが歴史苦手って・・ああ、ノート見たからか・・・じゃなくて!なんでお前がオレに勉強教える感じになってるんだよ!」
女「静かにしなさい。ここ、図書館よ」
男「・・クソが」
女「・・・部活禁止期間の今、あなたに階段を降りる手助けをしてもらう理由がないわ。だから、そのお礼に勉強を教えます」
男「・・・そうかよ」
女「・・まずあなたが授業中寝てて板書を写してないところを、私のノートから写しなさい。結局定期試験は授業で先生が言ったところから出るのだから、ノートをちゃんととってそれを覚えるだけで7割は取れるものよ」
男「つーか、なんでオレが授業中寝てること知ってるんだよ」
女「カンよ。やっぱり寝てたのね」
男「・・・はぁ・・・」
女「とにかく、今日は、全科目ノート書いてないとこ写し終わりなさい」
男「まじかよ・・・」
女が差し出したノートに並んだ文字は、まるで教科書の印刷のように整っていた。
しかも板書だけでなく、授業中に教師が口頭で言ったであろうこともメモされていた。
いわゆる優等生ノートというやつだ。
足が不自由で、体育も部活も出られない。
そういう環境なら、確かにこうなるしかないのかもしれないな、とオレは妙な納得をした。
写す作業だけだから、そんな余計な事を考えながら手を動かしていた。
気が付くと、夏の近い空も西日が傾きかけていた。
ガラガラ
女母「・・あら」
女「あ」
男「ん?」
女母「まだお勉強中だったかな?」
女「えっと・・」
男「いや、もう終わる・・・ってか、お前の母さん?」
女「うん」
女母「あなた男君かしら?」
男「あ、はい」
女母「やっぱり。最近うちの子がお世話になってるみたいで、お礼言わなきゃと思ってたのよ。いつもうちの子を助けてくれてありがとうね」
男「あ、イヤ別に。オレも色々世話になったんで、そのお礼みたいなもんです」
女「えっと、終わったの?」
男「あ、おう」
女「じゃ、じゃあ帰りましょう。もう遅いし。お母さんも、図書館であまりうるさくしないで」
女母「あら、そうね」
男「よいしょ・・じゃあオレ階段の下にいるから」
女「・・・うん」
男「あ、鍵」
女「あ、うん。ありがとう」
女母「大丈夫?」
女「うん。一人で降りられるから」
女母「うん」
男「じゃあ、俺帰るから」
女「あ、はい。さようなら」
女母「女ちゃん」
女「なに?」
女母「お勉強教えてるの?」
女「うん」
女母「そうなんだ」
女「?」
女母「・・・じゃあうちも帰りましょう。車乗って」
女「うん」
男「・・・」
カリカリ・・
女「ねえ」
男「・・ん?」
女「今日は金曜日なんだけど」
男「知ってるけど」
女「あなた、土曜はどうするつもりなの?」
男「どうするって、何が?」
女「世界史も日本史も、覚えきれてないでしょう?テストは月曜からなんだけど、このままでは高得点はとれないわよ」
男「いや・・オレ別に高得点目指してないんだけど。赤点じゃなければそれでいいし。ていうか、お前が心配することじゃないだろ」
女「ここまでちゃんと教えたんだから、高得点とってもらわなきゃ私の気分が悪いわ」
男「なんだよその理屈。てか、お前のせいで今までにないくらいテスト勉強させられてるから、それなりに高得点はとれんだろ」
女「ダメよ。歴史系科目に明らかに穴があるでしょ」
男「赤点じゃなけりゃいーだろーが」
女「ダメよ。だから・・・・土日はうちで勉強しましょう」
男「は?」
女「家の場所分からないと思うから、明日はお母さんがあなたを迎えに行きます」
男「は?・・なに?マジで意味分かんねーんだけど?」
女「連絡を取り合うため、携帯の番号を教えなさい」
男「いや、お前・・・ていうか、そこまでしてもらう義理は無い」
女「・・・・お母さんに、あなたに階段を降りることを手伝ってもらっていたことを言ったら、お礼がしたいから家に連れてきなさいと言って聞かないのよ・・・」
男「・・・・・・はー」
オレと目を合わせない女の顔からは、どこか困ったようにうつむいた表情が見て取れた。
さっきの強引な物言いも、おそらくは母親からの言づけを直接オレに言うのがもどかしかったからだろう。
もう充分赤点回避の可能性を感じていたオレからすれば、迷惑極まりない話だったが、女の母親の気持ちも分からないでもない。
それに、ここでオレが行かなかったら、こいつの母親は自分の娘が学校内で友人にどう思われているか、という点について、良からぬ勘違いをするかもしれない。
なんとなくそれは嫌だったので、オレは諦めのため息をついた。
男「赤外線。オレが送信でいいか?」
女「・・・へ?」
男「ケータイだよ。連絡先交換すんだろ?」
女「あ、うん」
男「明日の時間は、家帰ってから連絡するんでいいか?」
女「・・・ええ」
***
ピンポーン
ガチャ
男「あ・・どうも。おはようございます」
女母「おはようございます。乗ってくださいな」
男「はい」
バタン
ブロロロロ・・
男「あの・・なんかすいません。別にオレ、そんなに感謝されるようなことしてないですから。オレの方も女さんに世話になったので」
女母「生徒会室でサッカー部の練習見てたんでしょ?」
男「あ、ハイそうです。知ってるんですね」
女母「ええ。娘から聞いてますよ」
男「はぁ」
女母「・・・でも、今日お招きしたのは、そんな事じゃあ無いんです」
男「?」
女母「うちの子は、あの通り車椅子で他の人と比べて出来ないことがたくさんあります」
男「・・・」
女母「でもあの子は、自分がそうだからといって他人に迷惑をかけたくないと言って、なんでも自分でやろうとします」
男「・・・そうですね」
女母「階段を降りるのだって、最初は生徒会の皆さんが手伝おうとしてくれたみたいだったんですが、どうやら断ったようで」
男「・・・」
女母「だから、あなたが娘が階段を降りるの手伝ってるって聞いた時はびっくりしました」
男「いや・・まあ、手伝ってるといっても車椅子を持って先に階段降りてるだけですが・・」
女母「それに、あの子は自分からあまり人と関わろうとしなかったんですが」
男(いや・・・最初めっちゃ因縁つけてきたんだが)
女母「今はあなたといっしょに勉強しているそうですね」
男「あ・・いえ。色々あって勉強教わってます」
女母「・・小学生ぐらいまでは、友達といっしょに勉強することも多かったようなんですが、最近はうちに友達を連れてくることもなくなりました」
男「・・・」
女母「また昔みたいに、仲のいいお友達を作ってほしくて、こんな形であなたを強引に呼んでしまいました。ごめんなさい」
男「・・・いえ。別に気にしてないっす」
女母「ありがとう。うちの子、結構キツイこと言うことあるけど、根はやさしい子だからよかったら仲良くしてあげてください」
女の母親の言葉は、なんとなく感じていた予感と一致した。
女はたぶん、自分で自分を律することができる強い人間なんだろう。
だが、親からすれば良く見えない学校生活でのわが子の様子は不安であるはずだ。
増してや、ハンディを持つ子であれば。
だからこれは、女のためやオレのためというより、むしろ女の家族のためという気持ちからの行動だ。
**
女「・・・えっと、今日はお疲れ様です」
男「なんだそりゃ」
女「・・・」
男「あー・・・まあおかげで嫌いな世界史も少し覚えた気がする」
女「そう」
男「どーも」
女「ええ」
男「じゃあ、オレ帰るわ」
女「あ・・明日の時間は」
男「今日と同じでいいんじゃねー?」
女「お母さんに伝えときます」
男「あ、うん」
オレは、次の日も同じように夕食までご馳走になって帰路についた。
女の家には、母と姉がいた。
女の姉も、女の母と同じように女のことを案じていたようだった。
これで少しは女の家族も安心するだろう。
あなたの家族の一員である女は、学校でちゃんと友達とうまくやっていますよ。
と、言ってきたつもりだ。
別に女にそんな事をする義理は無いし、女はそんな事をしてもらわなくても自分で何でもできそうだと思ったが。
そういう訳で、かつてないほど定期試験のために勉強したオレは、赤点なく夏休みに突入するはずだった。
ここまでにします
こんばんは
つづきです
ミーン
ミーン
ミーン・・
女「・・・なんで、あなたがここにいるの?」
男「・・・補習」
女「あれだけ勉強教えたのに!日本史?世界史?」
男「・・・・数学」
女「え?・・・数学得意なんじゃなかった?」
男「たぶんだけど・・・・マークミスだ。最後なんでマークシートが余ったんだろうと疑問を感じた記憶がある」
女「はぁ・・・バカじゃないの?」
男「ッチ・・・うるせーな!オレが一番ダメージ受けてんだよ!ていうか、なんでお前も学校来てんだよ」
女「生徒会は休みのときも活動があるんです。ヒマなあなたと違って」
男「オレだって補習なきゃ部活やってんだよ」
女「補習ある人が何偉そうに言ってるの?」
男「・・クソが」
「おい、男。何廊下で騒いでんだよ。そろそろ補習はじまるぞ」
男「あ・ああ」
女「・・・ふんっ!」
男「・・・ッチ!」
「なあ」
男「あんだよ」
「なんでお前が数学の補習にいるんだ?」
男「・・・たぶんマークミスだ」
「バーカ」
男「うっせ!」
「ははは」
男「はぁ・・・おかげで部活も出れねーよ」
「・・・そういやさ、お前さっきA組の女さんと話してなかった?」
男「あー・・・なんかムカついてきた」
「てゆーか・・・なんか仲良さげだったように見えたけど」
男「仲良くはない。色々あって話すようになっただけだ」
「おい、青春か?」
男「はぁ?死ねよ」
「おいこらお前ら!真面目に補習受けろ!!」
「うーっす」
男「・・・」
「つーかさ、お前突き指した後生徒会行ってなかった?」
男「え?なんで知ってんだ?」
「いや、グラウンド使う運動部のやつは結構知ってるぞ。お前、生徒会の窓からグラウンド見てただろ」
男「あー・・・いやうちの部のキャプテンとかには言っといたんだけど、あそこからだと練習の風景良く見えるから、あそこから見学してたんだよ」
「女さんといっしょにか?」
男「・・・は?」
「いや、俺はお前に言われるまで女さんが覗いてるの知らなかったんだけど、うちの陸部とか野球の奴とか、結構知ってる奴いたみたいで、噂になってたぞ」
男「噂?何の?」
「最近、生徒会の窓から、女さんじゃなくお前が覗いてるって」
男「・・・・いや、意味わからんし」
「いつの間に女さんと仲良くなったんだ?」
男「いやだから、仲良くはない。グラウンド覗いてんの気が散るからやめろって言いに行った後、あそこからだとうちの部がよく見えるから、突き指治るまで見学させてくれって言っただけだ」
「・・・まあ別にいいけど、なんつーかあれだな。青春ってやつか?」
男「なんか引っかかる言い方やめろ。蹴り入れるぞ」
「じゃあ今日はここまで。ちゃんと復習しろよ」
「へーい」
ガラガラ
男「あーかったりー・・・オレ帰るけどお前は?」
「俺も帰るわ。どうせ補習者は部活出してもらえないしなー」
男「じゃあさ、うちでモンハンでもしねー?」
「いいな、久しぶりに狩るか!」
女「ダメよ」
「え?」
男「は?」
女「あなた、ちょっと話があるから来てくれない?」
男「はっ?!」
ざわざわ・・ざわざわ・・
女「生徒会室に居ますから」
がらがらがらがらがら・・・
「マジかよ」
「え、やっぱり男って女さんと?」
男「おい・・なんだこの空気」
「いや・・・行くしかないだろ。行ってこい。後で報告しろよ」
男「え?すげー行きたくないんだけど」
「いや、行くべきだろ」
「男、最低野郎だな」
男「・・・・ッチ」
コンコンコン
女「どうぞ」
ガラガラ
男「おい・・・お前、何のつもりだよ」
女「何が?」
男「お前のせいで、いらん注目集めただろうが!」
女「ちょっと待って。私の仕事ももう少しで終わるから」
男「おい!」
女「気が散るからちょっと黙っててくれる?」
男「・・・ッチ」
女「あ、お茶は入れてあるから飲んで待ってて」
男「・・・」
ずず・・
女「よし、終わり」
男「・・・はぁ・・・で?何?俺帰ってモンハンしたいんだけど」
女「ゲームなんて夏休みじゃなくてもできるでしょ?」
男「いちいちうるせーな」
女「あ、ごめんなさい」
男「は?」
女「あなたに、お願いがあります」
男「へ?」
女「私に勉強を教えてください」
男「・・・・・・は?」
女「あなた、数学かなり得意でしょ?」
男「・・・まぁ」
女「数学補習のあなたにお願いするのはなんか変な気分だけど」
男「おい・・・ていうかお前別に補習じゃないし、数学苦手ってわけでもないだろ」
女「私、文系だから、どちらかと言えば数学は苦手」
男「そうなのか?でも別に人に教わるほどじゃないだろ」
女「いえ、あなたに教わりたいのは“統計学”です」
男「統計学?いや、オレもそんな勉強したことねーし」
女「私のとりたい資格の科目に統計学があるの。でも文系の私には参考書を読んでもよく分からないところが多々あるのよ。だからあなたに教えてもらいたいと思って」
男「・・・それって、つまりまず俺が、その統計学の参考書を読んだうえでお前に噛み砕いて教えるって意味?」
女「まあ、そういう事になるかしらね」
男「パス。オレにメリット無いうえにすごい時間かかりそう」
女「ちゃんとアルバイト代出します」
男「は?」
女「勉強するときは喫茶店とかファミレスとかでやろうと思うの。そこでのご飯代は私が出します」
男「いや・・別にそんなんいらんし」
女「それに、あなたが部活ある時は頼みません」
男「・・・でもオレも夏休みの宿題とかやる時間必要だし」
女「いっしょにやれば早く終わります」
男「・・・」
男(正直・・宿題が早く終わるのは魅力的だけど・・オレの時間どれくらい削られるのか全く想像がつねーな)
『よかったら仲良くしてあげてくださいね』
男「はぁ・・・」
女「?」
男「お前は明日も来んの?」
女「えっと・・はい、来ます」
男「じゃあ参考書持ってきて。それ見てから決める。あまりに難しそうだったらオレだって無理だから諦めてくれ」
女「ありがとう!」
―――――次の日。
「よ」
男「おう」
「で、俺に報告は?」
男「は?ねーよ」
「はー?」
男「オレが“はー?”だよ」
「ま、いいや。補習終わったら今日こそモンハンしよーぜ」
男「あー・・・今日は帰るわ。なんか夏バテっぽいし」
「マジか。大丈夫かサッカー部」
男「うっせ、陸上部」
「ハハハ」
「おーしお前ら席つけ、補習始めるぞ」
「じゃあ今日はここまで。明日は昨日今日の内容から小テストするからな」
「げー」
「マジかよー」
男「・・・さて」
「帰ろうぜ」
男「あー・・・なんか腹痛えから先帰ってて」
「マジか、じゃーn」
女「男君、とりあえず生徒会室で待ってるから」
がらがらがらがらがら・・・
男「・・・」
「・・・」
「・・・」
コンコンコン
女「どうぞ」
ガラガラ
男「・・・」
女「参考書、持ってきたわ」
男「あのさ・・・オレがここ来るから教室まで来るのやめてくんない?あるいはメールしてくれ」
女「そう?じゃあ私もその方が楽だし、明日はここで待っているわね」
男「・・・・はぁ」
男「・・・で、参考書見せてくんない?」
女「ええ」
男「・・・」ぺら
女「・・・」
男「・・・」ぺら・・ぺら・・
女「・・・・どうかしら?」
男「もうちょっと待て」
女「じゃあお茶を新しいのに変えます」
男「あ・・おう」
トポポポポポ・・・
男「・・・はー」
女「終わった、の?」
男「これさ、とりあえず電卓ないとダメだな。お前、関数電卓持ってる?」
女「え?普通の電卓ではなくて?」
男「あー持ってないか」
女「それが無いと勉強できないの?」
男「無いとキツイ」
女「じゃあ買いに行くわ」
男「結構するぞ」
女「いくら位?」
男「確か安くても1万弱はしたはず」
女「・・・それくらいなら買えます。でも一旦家に帰らないといけないわ」
男「ああ、じゃあ買ったらまた連絡くれ。メールで」
女「今日買いに行くわ」
男「・・・そうか」
女「ついてきてくれないかしら」
男「え?」
女「だって、私どんなものを選んだらいいか分からないから」
男「店員に聞けば教えてくれるんじゃないのか?」
女「・・・いつも買い物に行くときはお母さんかお姉ちゃんに、」
男「わかったよ。ついてくよ。で、何時だ?」
女「・・・うん。ありがとう。私、移動とかに時間かかってしまうから早めの方がいいわ。14時ごろでもいい?」
男「いいけど・・・暑い時間で大丈夫かよ」
女「・・・・うん」
男「?まあ、お前がいいんならいいけど」
女「・・・じゃあ一旦帰りましょう」
男「ん」
女の言いたいことは分かった。
『いつも買い物に行くときはお母さんかお姉ちゃんに、』
続く言葉はたぶん『段差とかがあった時に車椅子を持ってもらう』だろう。
出来るだけ他人の手を借りず、出来ることは自分でやる。
そういう強い心を持っているこいつに、その続きを言わせるのは酷だと思った。
ここまでにします
マジかよ俺6000位だったぞ
こんばんは
調べてみたら最近は安い関数電卓があるんですね
私が買った時は>>71くらいでしたね
それでは続きです
ピンポーン
女母「はーい、あら」
男「あ、えっとこんにちは」
女母「ちょっと待っててくださいね。今支度してるから」
男「あ、ハイ」
女「あ、お待たせしました」
男「あ、おう」
女母「じゃあ、申し訳ないけどよろしくお願いしますね」
男「いえ、買い物だけなんで」
女「行ってきます」
ガチャン
てくてく
男「・・・おい」
からから
女「なに?」
男「今日買い物するにあたって条件がある」
女「?」
男「今お前が被ってる麦わら帽子、店の中ではとるだろ?」
女「え?うん」
男「その帽子とか、あと買ったものとかはオレが持つ」
女「え?」
男「それと、段差とか必要な時は遠慮せずにオレに頼れ」
女「・・・は?何言ってるの?そんな事、あなたにしてもらわなくても、」
男「じゃなきゃオレがついて行く意味ねーし、それに全然知らん他人から見たらオレどんだけ鬼畜だよって映るだろ」
女「・・・でも」
男「俺は、お前が自分で大体の事出来るのは知ってる。でもお前の事知らない他人はそうじゃないだろ」
女「・・・」
男「・・・オレがその役やんなきゃ、見ず知らずの優しい他人がお前を助けようとするぞ。それはお前、嫌なんだろ?俺は、お前が本当は自分で出来ること知ってる。知ってる上で敢えて手助けする。その方がまだいいだろ?」
女「・・・・わかったわ。よろしくお願いします」
男「・・おう・・・ホントお前めんどくさい奴だな」
女「何か言った?」
男「べつにー」
女「今日はありがとう」
男「いや、オレもついでに買うものあったし。まあ安いのあって良かったな」
女「うん・・・あ、えっと。明日は早速教えてもらってもいい?」
男「あー・・しょうがねーな。じゃあ補習終わったら生徒会室行くわ。てか生徒会室私物化していいのか?」
女「いえ、さすがに生徒会室でやるのはいけないと思うので、喫茶店に行きましょう」
男「まあいいけど。じゃあ昼飯は喫茶店で食う感じ?」
女「そのつもりです」
男「はいよ。じゃあまた明日」
女「うん。おやすみなさい」
男「いや、まだそんな時間じゃないだろ」
女「ふふ・・そうね」
男「?まあいいや、じゃーな」
女「ただいま」
女母「お帰り、いいの買えた?」
女「うん。思ったより安いのがあったの」
女母「そう。良かったわね」
女「あ、明日は外でお昼ご飯を食べながら勉強します」
女母「そうなの?あ、男君と勉強?」
女「・・そうだけど」
女母「お迎えはいらないかな」
女「・・・分からないから連絡します」
女母「うん」
**
コンコンコン
「どうぞ」
ガラガラ
男「・・あれ?」
「あ、男君・・だっけ?」
男「あ、ハイ。えーっと」
「僕、3年の会長だよ。女さんはちょっと席外してるけど、すぐ戻ると思うからここで待ってれば?」
男「あ、そうっすか。すいません」
「あのさ、君って女さんと同じクラスなんだっけ?」
男「え?いや、違いますけど」
「ん?そうなんだ。仲良いから同じクラスなのかと思ったよ」
男「・・・」
「君さ、女さんにずいぶん信頼されてるね」
男「は?いや、そんな事ないですけど・・」
「だって、彼女、君には車椅子持ってもらったりしてるだろ?それに、一緒に勉強したりしてるようだし」
男「あー・・いやそれは成り行きで」
「彼女はさ、自分からは絶対人に頼らないからさ。ちょっと驚いててさ」
男「はぁ・・」
「昨日も一昨日も生徒会活動無かったんだけど、君と勉強するためにわざわざ学校来てたみたいだし」
男「え?」
「なんにせよ、彼女にとって信頼できる友人がいてちょっと安心したよ」
男「・・・」
ガラガラ
女「あ」
男「・・おう」
女「あ、すみません会長」
「うん、勉強しに行くんだろ?僕はまだ居るから先に帰って大丈夫だよ」
女「すみません、ありがとうございます」
男「・・・行くか?」
女「ええ」
男「じゃあ、失礼しました」
ガラガラ
**
女「今日で補習は終わりだったかしら?」
男「おー」
女「今度はマークシートを正しく使えたのかしら?」
男「うるせぇ」
女「ふふ」
男「あー・・・で、今日も喫茶店か?」
女「ええ、お願いします」
男「あのさ」
女「?」
男「いや・・・何でもない」
女「??」
男「そう言えば、来週からオレ、部活あるんだけど」
女「ああ、そうね。忘れてたわ」
男「・・・とりあえずこの1週間でざっくりと説明したけど、理解できたのか?」
女「ええ、完璧じゃないけど」
男「じゃあとりあえず、この勉強会は今日でお終いだな」
女「そうね。色々ありがとうございました」
男「・・・・まあ、分かんないとこあったら連絡しろ」
女「え?・・・意外と面倒見がいいのね」
男「バカ、オレまだ夏休みの宿題写させてもらってねーから」
女「“一緒にやる”とは言いましたけど、写していいとは言っていません」
男「・・・」
女「・・・とりあえず、部活が無いのは何曜日ですか?」
男「あー・・土日は無いけど。あと、8月の2週目からは何も無い」
女「そう」
からから
女「今日も送ってくれてありがとうございました」
男「いや、そんくらいは普通だ」
女「あと、1週間ありがとうございました」
男「・・・それはもう聞いた」
女「じゃあ・・・分からないところがあったらまた聞いていいかしら」
男「良いって言っただろ・・・あー」
女「?」
男「アドレス知ってんだから、生徒会のない日にわざわざ学校来なくていいぞ・・・めんどうだろ」
女「あ・・・うん」
男「じゃあな」
女「あ・・・あの」
男「?」
女「来週の金曜日は生徒会あるので・・」
男「部活終わってからでいいか?」
女「・・・はい」
―――――1週間後。
女「今日はありがとう」
男「おう、オレも宿題進んだし」
女「今日は真面目に練習していたわね」
男「なんだそれ。オレはいつだってマジメだ」
女「ウソおっしゃい」
男「失礼な奴だな」
女「あ、それと」
男「ん?」
女「今日こそは私が奢ります」
男「いーよ。めんどくせーな」
女「だって、最初にそう約束したでしょ」
男「あのさ、よく考えてくれ。毎回オレがお前に奢らせてる絵って、すごいオレ感じ悪くない?」
女「・・・・じゃあ、今お金出します」
男「いーよ、もう。やめてくれ」
女「でも、このままではあなたに借りを作ったままでとても不愉快です」
男「悪かったな不愉快の原因作って」
女「何か、欲しいものはありますか?」
男「宿題見せてくれ」
女「ダメ。それは分担制でしょ」
男「えー」
女「私、どこか遊び行ってりしないから、お小遣い意外とあるのよ」
男「はー?」
・・・その言葉からオレは夏休みも一人家で過ごす女の姿が浮かんだ。
可能な限り、誰にも頼らないで生きてきたであろうこいつは、今まで友達と出かけたことなど殆ど無いんじゃないのか?
こいつの場合、誰かと出かけるということは、その誰かに依存しなければいけない。
盛夏だというのに、白い肌をしたこいつは、たぶん海で泳いだことなどないだろう。
もしかしたら、そもそも外出自体嫌いなのかもしれない。
しかしその瞬間、一緒に関数電卓を買いに行った日の光景を思い出した。
・・・・いや、そんなはずはない。
夏に外に出るのを嫌う奴が、あんな夏らしいロングスカートを持っているはずがない。
あんな麦わら帽子を持っているはずがない。
男「・・・じゃあさ、どっか遊び行こうぜ」
女「・・・・・・は?」
男「お前があんまり体力使わないで済むとこだとすると・・・水族館なんてどうだ?」
女「え?・・・え?」
男「そういや、○○水族館ってリニューアルしたばっかりだったよな。水族館てあんまり階段とかないだろうしいいんじゃね?」
女「ちょ・・・・ちょっと!」
男「ん?」
女「あなた・・・私とどこか遊びに行きたいって・・・どういう事?」
男「それもダメか?」
女「ダメというか・・・」
男「別に、オレは今更迷惑とか感じないぞ」
女「・・・」
男「?」
女「・・・じゃあ、8月に入ってあなたの部活終わってからでいいですか?」
男「え?ああ。別にいいけど」
女「・・・・わかりました。考えておきます」
男「都合のいい日決まったら、メールしてくれ」
女「・・・うん」
サッカー弱小校であるわが校は、オレの予想通り1回戦で敗退した。
どこでその情報を得たのかは知らないが、試合の帰り、バスの中で女からのメールを受け取った。
メールの文面は、オレが真面目に走り込みをしないからのも、試合に負けた遠因であるという皮肉と、水族館に行く日を指定するものだった。
×真面目に走り込みをしないからのも
○真面目に走り込みをしないのも
すいません
今日はここまでにします
こんばんは、続きです
**
ピンポーン
女母「はーい」
ガチャ
男「あ、こんにちは」
女母「こんにちは。上がってくださいな。今支度してるからちょっと待ってあげてね」
男「はい、おじゃまします」
女母「あの子のこと、誘ってくれてありがとね」
男「え・・・いや・・はい」
女母「ふふ」
男「?」
女母「あのね、男君。あなたにお願いがあるの」
男「え?なんですか?」
女母「あの子、友達と遠出したことあまりないの」
男(やっぱりそうなのか)
女母「家族で外に行くときは車で移動することが多いけど、今回は電車で移動して、駅からも歩きでしょ」
男「はい」
女母「あの子は、自分でできるって言うかもしれないけど、可能な限り車椅子を押してあげてほしいの」
男「・・・そうですか」
女母「あまり体力がある方ではないから」
男「そうですね・・・・でも女さん嫌がりそうですね」
女母「うん。いつもはね。でも、あなたなら大丈夫だと思うから」
男「・・・そうですかね」
女母「せっかくのデートなんだから、疲れちゃって休んでばっかりは嫌でしょう。あの子も、あなたも」
男「いや・・・えっと・・そういう訳じゃ」
女母「ふふ・・・友達と遊びに行くのは久しぶりでちょっと心配だけど、あなたを信じてあの子を預けますので、よろしくお願いしますね」
男「あー・・・えっと、はい」
女「・・・行きましょうか」
壁に手をつきながら、ゆっくりとした足取りで女がリビングに入ってきた。
長い髪は、背中で緩く留められていた。
女は玄関に置かれた車椅子に座ると、リボンのついた麦わら帽子をかぶった。
女「行ってきます」
ガチャ
男「・・・」がし
女「え、ちょっと。自分で動かせるわ」
男「いや、今日はオレが押すよ」
女「大丈夫よ。言ったでしょ?自分でできることは自分でやるって」
男「・・・お前の親にも言われたんだよ。押すのだって疲れるだろ?今日は一日中外なんだから無駄な体力使うなよ」
女「お母さんが余計なこと言ったのね・・・まったく」
男「それに・・・せっかくいい服着てるんだから無駄に汗かくな」
女「・・・服のこともお母さん言ったの?」
男「ん?服の事?・・よく分かんねーけど・・」
女「そ・・・そう」
男「?」
女「・・・でも、あなたが無駄に疲れてしまうのも気が引けるから・・・あなたが疲れたら自分で動かしますから」
男「・・・おう」
ガタン・・ゴトン・・
女「・・・実は電車に乗るの、久しぶりなの」
男「あー・・いつも車か」
女「ええ・・・こういう車椅子用の広いスペースがあったのね」
男「最近は大体ついてるぞ。まあだいたい一車両に一か所とかだけど」
女「・・・ここ、座る席ないから、あなたは座席行っていいわよ」
男「いや、オレ立ってる方が楽だから」
女「・・・そう」
男「なあ」
女「何?」
男「水族館でよかったか?」
女「・・はい?」
男「あ、いや・・水族館嫌いじゃないか?」
女「あまり行ったこと無いから分からいわ」
男「そっか」
女「・・・でも、たのしみ」
男「ん」
『次は終点○○駅です。ご乗車ありがとうございました』
男「暑くないか?」
女「ええ、大丈夫。あなたこそ」
男「俺は平気だ。部活のが暑いし」
女「そう言えばそうね。あなたいつも疲れるとさっさと木陰入って休んでるものね」
男「ッチ・・なんか引っかかる言い方しやがって」
女「ふふ・・まあ暑くなったら、私の帽子貸してあげるから言いなさいよ」
男「お前な。そんなリボンのついた帽子なんかオレが被ったらへんな奴だろ」
女「なによ、この帽子お気に入りなのよ」
男「いや、お前には似合ってるよ。オレが被ったらおかしいだろって話だ」
女「え・・・・・うん」
男「ん?」
女「あ・・えっと、あの建物かしら?」
男「ああ、たぶんそうだと思う」
女「かなり人が多いわね」
男「やっぱり夏休みだからな。平日だけど混んでるな」
女「別にいいじゃない・・ゆっくり見ましょう」
男「そうだな」
男「あーーーー涼しい」
女「ふふ、そうね。空調が効いてるのもそうだけど、水槽に囲まれていると涼しく感じるわね」
男「ああ、それあるな」
女「それにしても、小学生くらいの子供たちが多いわね」
男「ああ、なんかグループに当たっちゃったみたいだな。まあでもイルカとアシカのショーとやらが始まったら空くだろ」
女「そうね」
男「それまで、あそこのフードコーナーでアイスでも食べようぜ」
女「うん。賛成」
男「はい、ミックスな」
女「ソフトクリーム代、出すわ」
男「いや、別にいいよ。面倒だし」
女「あなたにお礼する名目で来てるのよ」
男「ああ。だから、ここに来ただろ。それでいいし」
女「・・・もう」
『まもなく、イルカさん、アシカさんのショーが始まります!』
男「お、やっぱり空いてきたな。行こうぜ」
女「うん」
**
男「なあ」
女「なに?」
男「ここに泳いでる魚、うまそうじゃないか?」
女「・・確かに食卓にのぼる魚だけど、その感想はどうかと思うわ」
男「はは・・そうか」
女「でも、サメも居るわよね。食べられたりしないのかしら」
男「えっと・・プランクトンを食べるサメなんだとさ」
女「そうなの」
男「あ、あっちはクラゲの水槽みたいだぞ」
女「クラゲだけ?」
男「ああ、ほら、見ようぜ」
からから
女「うん・・・あら・・これは綺麗ね」
男「すごい色んな種類のクラゲがいるな」
女「そうね。なんか神秘的だわ」
男「なー」
女「うん」
男「・・・お前の足さ・・・治療とかで歩けるようにならないのか?」
女「・・・ならないわ」
男「・・そっか」
女「ええ」
男「・・・」
女「・・・」
男「あー・・・ごめん」
女「別に、気にしていないわ。それに前に言ったでしょう?私は歩けないからって、困っていないわ」
男「そうだったな」
女「それに、まだ歩こうと思えば歩けるわ」
ぐっ
男「おい、無理して立ち上がろうとするな」
女「・・・でも、つかまるところがないと立ち上がれないのも確かだけど」
男「・・・オレの手につかまれよ」
女「・・・・・いいの?」
男「・・・別に構わねーよ」
がし
女「・・・」
すくっ
女の小さな手が、オレの左腕をつかんだ。
その握力は、とても弱弱しかった。
気が付くとクラゲコーナーにはオレたち以外に人は居なかった。
立ち上がった彼女は、すらりと背筋を伸ばしていた。
薄暗い水槽に囲まれて、白いワンピースが映えていた。
男「大丈夫か?」
女「ええ」
そう言うと、女はゆっくりと歩を進める。
緩く結んだ黒髪が、ふわりと揺れる。
女「あ」
男「おい!」
がし
彼女の輪郭がぶれた。
瞬間、オレは彼女の肩を後ろから抱いた。
女「・・・・ごっ・・・ごめんなさい・・・その・・・足とは関係無いの。たぶん急に立ち上がったから」
男「あ・・・ああ。だ、大丈夫だな」
女「う・・うん」
彼女は大丈夫だと言った。
だが、彼女の控え目すぎる体重は、オレに預けたままだった。
男「・・・座るか?」
女「嫌・・・大丈夫。軽い貧血だからもう少し待って・・そうすれば歩けるから」
男「あ、ああ」
しばらく二人とも無言で水槽を見つめていた。
正確には、水槽に映ったお互いを見つめていた。
・・・
女「大丈夫・・・その、もう大丈夫だから」
男「お・・・おう」
すっ
女「このコーナー出るまでは、歩いてもいい?」
男「・・お前が大丈夫だと思うなら、そうすればいいだろ」
女「うん、ありがとう」
クラゲコーナーを出た後、オレたちは無言になった。
イルカ・アシカショーの声が遠くに聞こえる。
室内の水槽は依然として空いていた。
4つのコーナーを無言で見た後、彼女がぽつりと言った。
女「・・・ごめんなさい」
男「・・・いや、謝ることない」
女「私のわがままで、あなたに迷惑をかけました」
男「別に迷惑じゃねーよ」
女「あなたがいなければ、倒れていました」
男「・・・そのためにオレがついてきてるんだろーが」
女「・・・」
男「・・・あのさ」
女「はい」
男「オレ・・・お前の事尊敬するわ」
女「え?」
男「お前が勉強してる、資格、スゲー難しいのな」
女「・・・」
男「お前はさ・・・普通なら人に頼るところも全部自分でやろうとして、そのうえ明確な将来の目標も持ってる」
女「・・・私は・・・満足に歩けないからって、それに甘えてなにもしないのは嫌なんです」
男「お前は、オレなんかよりずっとスゲーよ・・・歩けない事、関係なく」
女「・・・」
男「・・・」
女「・・・でも、私だって・・・・歩けたら、もっと違う人間だったと思うわ」
男「・・・そんなこと言い出したらキリがないだろ」
女「そうだけど・・」
男「オレ、たぶん結構テキトーな性格だからさ・・・これからは勉強の事とか、なんか分かんないことあったら、お前に相談していいか?」
女「・・・うん」
男「その代わりさ・・・お前が困ったことあったらオレに言ってくれ」
女「・・・・・ありがとう」
男「ん」
気が付くと、最後の大水槽の前に居た。
女「・・・この水槽が最後ね」
男「そうみたいだな。吹き抜けで3階までつながってるんだな」
女「ええ」
男「・・・」
女「・・・」
男「・・・・あー」
女「?」
男「あのさ」
女「なに?」
男「オレと、付き合ってくれないか?」
女「・・・・・え?」
女「い・・意味が分からないわ」
男「いやだから・・・オレの彼女になってくれないかって言ったんだ」
女「・・・・からかってるの?」
男「本気だ」
女「・・・・」
男「・・・・」
女「私・・・車椅子なのよ」
男「知ってる」
女「あなたに迷惑をかけるわよ」
男「大したこと、ねーよ。そんくらい」
女「・・・私、出来ない事、たくさんあるのよ?」
男「お前は、それでもやろうとするだろ?それに、出来ないことあったら、オレがやるから」
女「・・・そうじゃないわよ・・分かってるの?私、これからずっとこうなのよ?私と付き合うってことは・・・あなたが私の世話をずっとしなければいけないって事なのよ?!」
男「分かってる・・・・さっき、覚悟した」
女「・・・・」
女「・・・・条件があります」
男「・・・なんだ?」
女「学校では、今まで通りの関係でいてください」
男「・・・・・なんで?」
女「他の誰かが、あなたを好きになれるように」
男「・・そんな事起きねーよ。それにそうなってもオレは、」
女「私より、他の誰かと結ばれたほうが・・・絶対に幸せです」
男「そんな事無いって思うから、告白したんだよ」
女「・・・私たちのことは、私たちだけの秘密。これが守れないなら・・・ダメです」
男「・・・わかった。でも、そもそもお前は・・・その・・いいのか、オレで」
女「私は・・・あなたの、物事に対して全力で挑まないところが嫌いです」
男「・・・」
女「でも、それ以外は・・・全部好きです」
男「・・・え」
女「私は・・・今までうまく立ち上がれないことを不自由に感じたことはありませんでした」
女「でも、今は、すごく悔しいです。立ち上がってあなたに抱き付くことができないのが」
女「お願いです、私を」
彼女の言葉は途中だったが、オレは言葉を遮り、ぽろぽろと涙を流す彼女の背中に手を回した。
オレの大切な人が痛くないように慎重に抱き上げ、優しく抱きしめた。
女「ごめんなさい・・・ありがとう」
今日はここまでにします
少々仕事が立て込んでいるので、週明けまで遅筆になると思います
こんばんは、今日は書けました
続きです
***
***
女「あなたは・・とても優しい人なんですね」
男「・・・」
男「そんな事ないです」
女「でも、あなたは、その人のことをいつも考えているじゃないですか」
男「考えているつもりでした・・・でも実際は、何も分かってなかったんです」
女「そうなんですか?」
男「オレが彼女の事、何も分かってなかったから、結局別れることになっちゃたんです」
女「・・・そうなんですか」
男「・・・今でも後悔してるんです。なんであの時別れてしまったんだろうって」
女「・・・」
少し喉が渇いた気がした。
鞄からミネラルウォーターのペットボトルをとりだし、口を濡らした。
ふと気が付くと、41講義室の窓から見えていた空には闇の帳が下り始めていた。
外は相変わらず騒がしかった。
少し妙だなと思ったが、オレはオレの思い出の続きを話すために、再び口を開いた。
***
***
コンコンコン
「どうぞ」
がらがら
男「しつれいします」
「あ、君2年C組?」
男「あ、ハイ」
「じゃあみんな揃ったから会議始めようか」
秋になり、文化祭のシーズンとなった。
オレは、クラスから1人ずつ選ばれる、文化祭実行委員に立候補した。
今までのオレであれば、そんな面倒くさいものは決してやらなかった。
が、今のオレには少なからずやる理由がある。
オレは会議室に入ると、会議の進行を行う席に座る一人に目線を向けた。
ぴん、と背筋を伸ばして座るその人は、オレの目線に気付いたようだったが、すぐに何事もなかったように手元の資料に目を落とした。
「それでは、今日の会議はここまでにします。文化祭まであと少しですが、みんなで力を合わせて頑張りましょう」
男「はぁー」
がた
男「・・・」
がらがら
会議室を出たオレは、自分の教室に戻り、なんとなく時間を潰す。
そして時計の針が18時を過ぎ、行内から人影がほとんど消えた頃、3階の階段へ向かう。
男「・・・おう」
女「・・・ん」
男「鍵」
女「うん、はい」
男「下にいるから」
女「うん」
オレが、職員室に生徒会室の鍵を返して、1階の階段出口に向かう。
女「・・・ありがとう」
男「おう」
女「・・・っしょ」
とす
男「大丈夫か?」
女「え?何が?」
男「最近、ちょっと階段降りてくるの遅い気がして」
女「最近寒くなってきたから、ちょっと調子悪いのよ」
男「おい、大丈夫か?」
女「ふふっ・・心配?」
男「・・当たり前だろ」
女「毎冬のことだから大丈夫。あなただって、寒くなったら体動かすの面倒になるでしょ?私も冬は少し筋肉が動かしづらいの」
男「ああ・・なんだ、そういうことか」
女「うん」
オレたちは、昇降口に向かって進む。
女「男君、部活は?」
男「ああ、オレ文実だから免除」
女「そうなの」
男「・・大変だろ、会計」
女「あなたに心配されるほど大変ではないわ。むしろいい勉強になるの」
男「ははっ・・さすがだな」
女「あ」
男「ん?」
女「会議のとき、私の方ジロジロ見るのやめてもらえますか」
男「えー」
女「・・・約束、忘れたんですか?」
男「・・・わかったよ」
女「それに、ちゃんとあなたの仕事をしなさい」
男「うっせーな・・・まったくお前は全然変わんねーのな」
女「当たり前でしょ。人間がそんなに急に変わるものではないわ」
男「へいへい」
ブロロロロ・・
男「あー・・迎え来たみたいだし、オレは帰るわ」
女「あ・・待って」
男「ん?」
女「えっと・・・明日、ヒマかしら?」
男「・・・おう」
女「・・・会計で買出しに行きたいので、一緒に来てもらえますか」
男「・・・おう」
女「じゃあ詳細はメールします」
男「了解」
女「では、さようなら」
男「ん」
**
ピンポーン
ガチャ
女「はい、鍵開いてます」
男「あ、おう」
ガチャ
女「おはよう。上がって」
男「おじゃまします」
ガチャン
男「あれ?おばさんは?」
女「今日は、私以外で買い物に行ってます」
男「え、お前ひとり残して?大丈夫なのかよ」
女「・・・あなたが来るからです」
男「あ・・・うん」
女「と・・・とりあえず、お茶でも飲みますか?」
男「あ、おう」
トポトポ・・
男「何時くらいに出発するんだ?」
女「お昼ご飯を食べてからにしましょう?」
男「いいけど・・お前が作るの?」
女「いえ、お母さんが用意してくれています。私もまったく作れないわけではないけど、時間かかってしまうから」
男「あ、あー・・・・お礼言っといてくんない?」
女「はい」
男「あとさ・・・その、オレも作れるぞ。そんなに上手くはないけどよ」
女「え?あなたが作るの?」
男「まあ・・その、なんだ・・・ちょっと練習してる。最近」
女「え?あなたが料理?・・・なんで?」
男「あー・・・・オレも作れた方がいいだろ。後々の事考えると」
女「?・・・・・あっ・・//」
男「・・・//」
女「と・・・とりあえず、今日買いに行く場所の計画を立てましょう!」
男「あ・・おう、そうだな」
女「えっと・・・パソコンでショッピングセンターのフロアガイド見ながら決めましょう」
男「うん。えっとソファ座るぞ」
女「ええ、どうぞ」
男「お前も、ソファ座れよ」
女「・・・じゃあ、立ち上がるので・・その」
男「ん・・ホラ、つかまれ」
女「うん」
ぎゅっ
男「自分で座れるか?」
女「あ、当り前でしょう!」
とす
男「じゃあ隣座るな」
とす
女「・・・」
ぎゅっ
男「・・・パソコン起動してくれ。オレ、パスワード知らねーし」
女「うん」
ぱちぱち・・
**
男「じゃあ、こんな感じで店をまわるか」
女「うん」
男「・・・昼飯食うか?」
女「待って」
男「ん?」
女「・・・もう少し」
ぎゅっ
男「・・おう」
女「・・・あたま・・撫でてほしいです」
男「・・ん」
なでなで
女「ん//」
男「あのさ」
女「うん」
男「いつもの事だけど・・お前・・・その・・キャラ変わりすぎだろ」
女「だって・・外ではこういう事出来ないから・・・//」
男「ん」
女「男君」
男「ん?」
女「ありがとう。あなたが文化祭実行委員になってくれたおかげで・・こうやって一緒にいる時間を作る口実ができてます」
男「・・・オレだって・・その・・お前とこうしてたいし」
女「うん・・・大好きです」
男「・・オレだってお前の事大好きだ」
女「うんっ//」
男「・・・眼鏡、外すぞ」
かちゃ
男「・・・」
ぐいっ
女「あっ・・・その・・・おでこに・・」
男「・・・ん」
ちゅ
男「・・・キス嫌か?」
女「だめ・・・あなたが・・私じゃない誰かを好きになれるように・・ファーストキスはとっておいてください」
男「オレ・・・お前じゃない他の誰かなんて好きにならねーよ」
女「・・・それでもだめです」
男「ん・・そうか」
女「・・ごめんなさい」
男「・・・抱きしめるのはいいか?」
女「・・・・//」こくっ
男「・・・」
ぎゅっ
女「ーーーっ」
ぎゅっ
男「・・・なあ」
女「・・・うん」
男「・・文化祭もいっしょにまわったりはダメなのか?」
女「・・・・・・ダメです」
男「・・そっか」
女「・・・ばれちゃうから・・」
男「・・・高校卒業して」
女「え?」
男「その時もやっぱりお前しかいないって言えたら、外で手つないでくれるか?」
女「・・・」
男「・・ちゃんとキスしてもいいか?」
女「・・・・」
ぎゅううう
オレの背中にまわっている手が、少しだけ強くオレの服をつかんだ。
オレの胸の中で、彼女はちいさく頷いた。
男「・・・じゃあ我慢する」
女「うん・・・ごめんなさい・・・大好きです・・ごめんなさい」
彼女の頭を優しく撫でる。
オレたちが“恋人”でいられる時間は短い。
オレが何かの理由を見つけて、彼女の家に来るとき。
しかも、彼女しか家に居ないとき。
学校では、オレは彼女とは別のクラスで、オレはただのサッカー部員で、彼女は生徒会会計なんだ。
だからオレは、彼女を抱きしめていることが許されるほんの短い時間に、出来るだけ彼女のぬくもりを補給することにした。
ここまでにします
こんばんは
2日開きましたがつづきです
「じゃあ今日で2学期は終わりだ。明日から冬休みだがあまり羽目を外すんじゃないぞ」
期末テストの成績表が配られたのち、担任は毎度お決まりのフレーズを発した。
季節は冬であるが、比較的都会であるこの街には雪は降らない。
それでも教室は肌寒く、生徒たちは心持ち、ストーブのある後方に寄っている。
「なあ、お前今年も来るだろ?」
男「ん?何の話だ?」
「だから、みんなでクリスマス会やるって。去年もやっただろ」
男「あー・・・24日?」
「そうそう。今年もカラオケみたいだぞ」
男「あー・・・そういや今年はあれだ。親戚の家に行くからオレはパスするわ」
「マジかよ。クリスマスに?」
男「あー。そうみたい」
「ふーん・・・まあいいや。予定変わったら連絡くれ」
男「おー」
男「じゃあオレ帰るわ」
「おう。また来年な」
男「おー」
ガラガラ
てくてく
男「・・・」
ピッ・・・ポチポチ・・
男『大丈夫か?』
ヴー・・ヴー・・
『熱下がったし、もうだいぶいいわ』
ピッピッピ・・
男『今HR終わった。後で見舞い、行ってもいいか?』
ヴー・・ヴー・・
『18時以降にしてください』
ピッピッ・・
男『わかった』
ピンポーン
女母「はーい」
ガチャ
男「あ、こんばんは」
女母「男君、こんばんは。上がってください」
男「あ、スイマセン。コレ、お見舞いです」
女母「あら、ありがとう。後で剥いて持っていくわね」
男「はい」
コンコンコン
女「どうぞ」
ガチャ
男「・・よ」
女「うん」
男「大丈夫か?」
女「もう。さっきメールで大丈夫って言ったでしょ。ただのカゼなのに心配しすぎよ」
男「・・・別に心配したっていいだろ」
女「・・・うん。ありがとう」
男「・・にしても終業式の日カゼひくなんてな」
女「授業がある日に休むよりはマシよ。勉強遅れちゃうじゃない」
男「真面目な奴」
女「あなたが不真面目なんでしょ」
男「へいへい」
女「あ、それでどうだったの?」
男「ん?何が?」
女「試験結果」
男「お前はオレの母ちゃんかよ・・・・まあ赤点は無しだ」
女「そ。それは良かった」
男「・・ったく」
女「冬休みは部活はあるの?」
男「あー、やる奴もいるかもしれないけど、オレは行く気はない」
女「いいの?そんなの?」
男「冬は別に強制じゃないから大丈夫だ」
女「ふーん」
男「・・・な」
女「?」
男「なんかオレのクラス、24日に仲良い奴みんなで遊び行くらしい」
女「・・・そうなんだ。どこ行くの?」
男「カラオケ行くらしいな」
女「そうなの」
男「オレは行かないけどな」
女「え?何か用事あるの?」
男「・・・一緒に遊びいかないか?」
女「・・・・そのために断ったの?」
男「・・そーだよ。悪いか」
女「ダメじゃない。クラスの和を乱しちゃ」
男「そんな大層なもんじゃないし、第一、なんとなくクラスみんなで遊び行くより・・・彼女といっしょにどこか行く方がいいに決まってんだろ」
女「・・・//」
男「・・・ダメか?」
女「・・・ズルいわ。そんな言い方されたら断りづらいじゃない」
男「断る気だったのかよ・・・」
女「だって、24日なんかに一緒に外出したら誰かに会ってしまうかもしれないじゃない!」
男「・・・本当はお前と一緒なら、家の中でもいい」
女「なっ・・・//」
男「でも、お前が嫌じゃなかったら、お前と外でデートしたい」
女「うう・・//」
男「クラスの奴らは、カラオケとかボーリングとかその辺だろ。そういうとこ外して行けば会わないと思うし」
女「でもっ・・・クリスマスみたいな人が多い日に、車椅子の私と一緒にいたら・・あなたが目立ってしまうから」
男「・・・可愛い彼女連れてるからって事か?」
女「・・・バカ」
男「・・・・で、ダメか?」
女「・・・わかりました・・2つ条件があります」
男「ふふっ」
女「・・・なによぉ」
男「お前、そのパターン多いなって」
女「うるさいわねっ!」
男「はいはい、で、なに?」
女「えっと・・ひとつはまず教会に行ってもいいですか?」
男「教会って、キリスト教の教会?」
女「そう。うち、キリスト教みたいだから」
男「別にいいけど、みたいだからってなんで他人事なんだよ」
女「別に、私は神様なんて信じていないから。お父さんがキリスト教だからなんとなく子供のころからクリスマスは教会に行っていたの。中学生くらいから面倒くさくて行っていなかったけど」
男「なんかテキトーだな」
女「ええ。初詣も行くし。でも外出するなら久しぶりに行きたいなと思ったの」
男「はは・・まあ日本のキリスト教なんてそんなもんだよな。別にいいぞ。で、もう一個は?」
女「ええと・・私、寒いの苦手だから、暖かい所がいいの」
男「・・分かった。じゃあ屋内でいいところ、調べとく」
女「・・ありがとう」
男「じゃあ・・思ったより元気みたいだし、オレそろそろ帰るわ」
女「・・うん」
男「・・・」
すっ
女「あっ・・・・・・・ダメ」
男「・・・ほっぺは?」
女「・・・//」こくっ
ちゅっ
ここまでにします
こんばんは、つづきです
**
The Kingdom of this world is become the Kingdom of our Lord
and of His Christ and He shall reign for ever and ever,・・・
教会というのはどうやらキリスト教徒でない人間も入れるらしい。
さっきから神父?が何かを喋り、それが終わると歌が始まる。
オレが彼女に「どうしてればいいんだ?」と聞くと、歌詞を知らない人はただ聞いていればいいと教えてくれた。
周りを見ると歌っている人が殆どだが、なるほど口が動いていない者もいる。
意外なのは、彼女もまた歌ってはいなかった。
女「もう、だいぶ前の事だし、忘れてしまったの」
彼女はそう言った。
歌が終わると、再び神父が何かを言っている。
神への信仰がどうとか。
神父の言葉を繰り返している者もいれば、ただ聞いてる者もいる。
言葉が終わると、二度目の休憩となった。
女「疲れた?」
男「あー・・いやそんなに疲れてはいない。ただ正直言うと飽きた」
女「そうね。私も飽きたわ。もう出ましょうか?」
男「いいのか?」
女「この後は“感謝の典礼”と“聖体拝領”と書いてあるわ。つまり、ここで半分くらいね」
男「・・・結構長いんだな」
女「うん。私も別に信心深いわけじゃないし・・・それに教会って寒いから嫌なの」
男「そっか・・じゃあ途中で抜けていいなら出ようぜ」
女「うん」
男「お前のおかげで、今日初めての体験できたわ。結構面白かった」
女「あなたが、嫌じゃなかったんなら良かったわ」
男「ん。じゃあ行こうぜ」
オレは、彼女の乗り物を押して、教会の外に出た。
教会内に比べて、やはり外は寒い。
見ると彼女は寒そうに身を縮めていた。
オレは、オレのコートを彼女の膝に乗せて、コーヒーチェーンでホットココアを買った。
女「ありがとう。ココア暖かいよ。あなたも飲んで」
男「ん」
ずず・・
女「・・・私、プラネタリウムって初めてなの」
男「オレも初めてだ」
女「あ、そうなの」
男「だって、彼女でもいない限り来ないだろ。フツー」
女「そういうものかしら?」
男「そうだよ。なんか案内によると、中はだいぶ暖かいみたいだし、かなりリクライニング出来るシートがあって、貸出しの毛布もあるらしい」
女「ありがとう・・・いろいろ気を使ってくれて」
男「・・・オレが、お前のために気を使う事って、別にお礼を言われることじゃないだろ・・・恋人なんだから//」
女「・・・うん//」
男「・・・さ、このビルの中だ」
女「うん」
女「すごい!このイス、とっても快適そうね。部屋も暖かいし」
男「だろ?じゃあ座ってな。オレ、車椅子預けてくるから。ほら」
すっ
女「うん」
がしっ
とす
女「すごいよ。このイス、ふかふか!」
男「ん・・じゃあ、ちょっと待ってて。車椅子預けついでに、毛布も借りてくる」
女「うん」
男「はい、かけるぞ」
女「もう、赤ちゃんじゃないんだからそれくらい自分でできるわよ!」
男「はは、ゴメン」
女「・・・もうっ」
二人掛けのシートに並んで座り、大きな毛布を二人でかけた。
しばらくの後、部屋が暗くなって、天井には星空が広がった。
アナウンスが、冬の夜空の神話を語る。
だがそんなアナウンスをかき消すくらい強く、お互いの息遣いが聞こえた気がした。
毛布の中で、彼女の右手を探り、オレの左手を外れないように絡ませた。
左を見ると、彼女もオレを見ていた。
鼻と鼻がふれた。
男「・・・ダメ?」
女「・・・・・・・・だめ」
オレは彼女の頬に、再びキスをした。
星空は消え、部屋が明るくなった。
アナウンスが客の退出を促す。
しかしながらオレたちは、その場から動かない。
施設の配慮により、オレたちの退出は最後だ。
全ての客が居なくなった後、係員が笑顔で車椅子を運んできた。
女「・・・起き上がらせてください」
リクライニングはかなりの角度になっており、そのままの状態から起き上がるのはそれなりの腹筋力が居る。
だが手元のボタンでリクライニングを起こせば、普通の椅子の角度になる。
それをしないということは、それは、オレに起こしてほしいという、彼女の甘えなのだろう。
男「背中に、手、回すぞ」
女「うん・・・ひゃっ」
男「っしょ・・・はい」
女「・・・//」
とすっ
男「じゃあ、行こうか」
女「・・・・うん//」
女「・・・・さっき・・なんであんな抱き方したの?」
男「嫌だった?」
女「嫌じゃ・・・ないけど・・恥ずかしいじゃない」
男「お前が、そんな事しなくても、自分で動けるの分かってるけど・・・お姫様抱っこっていうの、してみたかった」
女「・・・・//」
男「・・・女」
女「ひゃ・・はいっ」
男「楽しかった?」
女「・・・うん//」
男「良かった・・・メシ、どうする?」
女「お・・男君と、一緒に食べたい・・です」
男「ん。じゃあこのビルの中のレストラン行く?席有ればだけど」
女「うん」
男「じゃあエレベーターだな」
女「うん」
**
女「おいしかったね」
男「ん」
女「・・・じゃあ帰ろっか」
男「そうだな」
女「うん」
男「・・来年も、一緒にどっか行こうな」
女「うん・・・あ、ダメよ。来年は受験でしょ」
男「そうだけど・・・クリスマスくらいいいんじゃねーの?」
女「それはあなたの勉強進み具合で決めます」
男「はは・・・お前らしいわ」
女「もう、男君のためを思って言ってるのよ」
男「はいはい・・・・あー」
女「?」
男「・・・これ」
女「え・・これ・・何?」
男「えっと・・クリスマスプレゼント?」
女「・・・もらっていいの?」
男「・・むしろ貰ってくれないと困る。突っ返されたらどうすりゃいいんだ」
女「うん・・開けていい?」
男「ん」
がさがさ
女「・・・これ」
男「あー・・ただのペンダントだよ。その・・指輪にしようかと思ったけど、よく考えたらお前の指のサイズ知らねーし・・」
女「・・ありがとう。つけていい?」
男「ん。つけてやる」
すっ
女「あっ・・ありがとう//」
かち
男「・・・」
女「に・・似合ってる?」
男「い・・いいんじゃねーの?」
女「うん・・ありがとう」
女「ごめんなさい、私、男君にあげるプレゼント用意してない。今までクリスマスに誰かにプレゼントしたことなんて無かったから・・」
男「いーよ。オレは・・・その・・あれだ。今日お前と・・・その、こうやって一緒に過ごせたからそれでいい」
女「でっ・・・でも」
男「じゃあ、高校卒業して、お前がオレと一緒にいるの、誰にでも言えるようになったら、その時に・・・その・・・指輪とか作らないか?」
女「!」
女「・・・//」
女「・・・考えておきます//」
男「お、おう」
彼女は少し恥ずかしそうに、ずっと目線を落としていた。
オレは、彼女の乗り物が揺れないように慎重に道路を見ながら、彼女の横顔を何度も盗み見た。
彼女はそんなオレの目線に気付いたのか、振り返りこちらに目線を向けた。
目が合って、お互いの顔が赤いのを確認すると、二人はあからさまに目線を逸らした。
彼女は胸元のペンダントを少し触りながら、自分の指先を見ていた。
オレは危なくないようにスピード・ダウンしながら、空を見上げた。
月の明かりと街の明かりが、空の星を覆い隠していた。
さっき見た偽物の星空の方が、よほど美しかったと思った。
彼女の家に着くまで、お互い一言もしゃべれなかったのに、別れ際の“おやすみなさい”はとてももどかしく感じた。
今日はここまでにします
こんばんわ
続きです
***
3回目の桜の花が、季節の移り変わりを告げていた。
彼女の胸元のリボンの色は緑から赤になり、オレは理系クラスへと進んだ。
文系クラスの彼女とは、相変わらず違う部屋で授業を受けていた。
今思い返しても、クラス・ルームには彼女の映像が浮かばない。
放課後、オレたちは去年と同じように別々の場所へ行く。
グラウンドを走りながら校舎を見上げると、彼女の横顔が見えた。
夕暮れの廊下を歩く。
彼女はオレの前。
オレが平日に彼女と話すことができる唯一の時間だ。
男「なあ」
女「うん」
男「・・・生徒会活動って毎日あるのか?」
女「大体金曜の週1回よ。行事の前はもっとあるけど」
男「そうか」
女「?」
男「・・・例えば、オレが放課後部活の無い日があったら、どっか遊びに行ったりとか出来るか?」
女「え?・・・お母さんの仕事終わる時間変わらないからダメよ」
男「オレが、送るんじゃダメか?」
女「・・・・それだと他の人に見られてしまうから」
男「・・見られたからって・・・別に良いだろ」
女「私と・・・あなたの関係がばれてしまうわ」
男「違うって言い張ればいいだろ?」
女「・・・・いえ・・ダメよ。そうでなければ、あなたが毎日、私を送る理由がないもの」
男「・・・例えば、放課後は図書室に行って時間を潰して、部活やらない奴らが帰った頃を見計らって階段のとこで待ち合わせする」
女「・・・でも」
男「それで、門を出てしばらくして合流するんなら大丈夫じゃないか?」
女「・・・・でも」
男「・・・オレは・・・お前ともっと一緒にいたい」
女「っ・・・!」
男「お前は・・・・え?」
女「・・・うっ・・私だって・・一緒にいたいよ・・」ぽろぽろ
男「なっ・・泣くことないだろ・・」
女「だって・・・ひっく・・・・嬉しかったから・・」
男「・・・//」
男「やっぱり・・・ダメか?」
女「・・・・」
女「・・・・・条件があります」
男「ん」
女「せ・・・制服のままで・・デートはダメです。お互い一回帰って私服に着替えてからです」
男「お・・おう//」
男「じゃあ・・・まずお前を家まで送って、オレは一旦帰って着替えてから、もう一度お前の家まで迎えに行く・・・でいいか?」
女「・・・うん・・ごめんなさい。私のせいでたくさん歩かせてしまって」
男「・・・そういう事は言うなよ」
女「あ・・・ごめんなさい」
男「ん」
男「・・・」
ちゅ
女「!!」
女「がっ・・学校の中ではほっぺもダメ!!」
男「・・・ん」
オレは彼女との時間がもっと欲しかった。
オレにとって彼女が車椅子であることなんて、何も気にしていなかった。
だからオレは、普通の高校生同士を求めた。
オレたちを見る社会の目は、思っていたよりもずっと優しい。
オレはとっくに覚悟を決めていた。
だからあとは、彼女がそれを受け入れるだけ。
そう思っていた。
そう思っていたから、オレは一つの決断をした。
優しくも、頑なな、彼女がもっと素直になれるように。
彼女とオレの、幸せのために。
でもその決断は、たぶん間違いだった。
結果だけを見れば、その幸せは別れの始まりだったのだから。
「おーし、じゃあ今日の練習は終わりな」
「お疲れーっす!」
男「・・・なあ、新キャプテン」
「ん?」
男「ちょっと話あんだけどいいか?」
「別にいいけど、長くなるのか?」
男「いや、一瞬で終わる」
「?」
**
ピンポーン
女「はい」
男「お待たせ」
がちゃ
女「うん」
男「もう支度出来てるのか?」
女「うん。着替えたから」
男「じゃあ行くか」
女「うんっ!」
男「あー・・・その服、この間一緒に買ったやつ?」
女「そうよ」
男「えっと・・似合ってる」
女「・・ん//」
男「きょ・・今日はどっか行きたいとこあるか?」
女「・・・あなたと」
男「?」
女「男君と一緒ならどこでもいいわ」
男「ん・・・じゃあ、いつもの喫茶店行くか」
女「うん」
パラ・・
男「女は何読んでるんだ?」
女「“租税法”」
男「うお・・やっぱり勉強してるのか」
女「そうよ。男君もたまには勉強しなさいよ」
男「オレは・・試験前になったらやる」
女「もう!」
男「オレは・・・こうやってコーヒー飲みながら、本読んで勉強してるお前見てるのが好きだから」
女「・・・バカ//」
男「でもたまにはオレも勉強するかな。数学小テストあるし」
女「ふーん。珍しいのね」
男「うっせ」
女「ふふ・・・そう言えば最近、部活出てないみたいだけどまたどこか痛めたの?」
男「あ、その事なんだけど」
女「?」
男「サッカー部、辞めた」
女「・・・・え?」
男「今年、レギュラーになれそうにないしな。それに、お前とこうやっている時間の方がオレは好きだし」
女「・・・・・・私のせい?」
男「え?」
女「私のせいで・・・部活辞めたの?」
男「せいって・・そういう訳じゃない。レギュラーになれそうになかったら辞めるって決めてたし」
女「私っ・・・・あなたとこうしてる時間は幸せ。でも・・・私のせいであなたの可能性を潰してしまうのには耐えられない!」
男「お・・落ち着けよ。違う。本当に決めてたことなんだ。もう3年だし、勉強のこともある。だから、今回レギュラーになれなかったら辞めるってのは決めてた。お前のことは関係ない」
女「・・・・本当?」
男「ほんとだ」
女「・・・・うん・・・ごめん。大きな声出して」
男「オレの方こそごめん。辞めるときにちゃんと言っておけばよかったな」
・・・これは嘘だ。
オレは、彼女といる時間のために部活を辞めた。
オレにとっては、なんとなくやっていたサッカーより、彼女との時間の方が何倍も大切だった。
それだけの、単純な事だった。
でも彼女にとっては、自分自身が恋人の枷になるのが耐えられないのだ。
出合って初めて聞いた彼女の大声は、俺にそれを強く理解させた。
驚いた俺は、平静を装い、泣きそうになっている彼女の頭を優しく撫でた。
ここまでにします
申し訳ありませんが、明日は更新できないと思います
こんばんわ
それでは続きです
***
彼女を知ってから、二回目の夏が来た。
今年の夏は追試も、部活もない。
そのおかげでオレは、多くの時間を彼女と過ごすことができた。
彼女が生徒会のないある日、珍しく彼女が喫茶店でオレにリクエストをしてきた。
女「男君」
男「ん?」
女「他県なんだけどね、ここ行きたいの」
男「ん?“花ノ王国”?」
女「そう。今はマリーゴールドとヒマワリが見ごろなんだって。男君が嫌じゃなかったら行かない?」
男「いいよ。でも遠いけど大丈夫か?」
女「うん。移動はお母さんにお願いして車出してもらおうかな」
男「あー・・・その方がいいな」
女「じゃああなたの都合のいい日を教えてください」
男「いつでもいいけど、平日のがいいんじゃないのか?混んでるだろうし」
女「うん・・・あ、お母さん仕事だから平日は無理かもしれないわ」
男「ああ、そっか。それじゃいつでもいいよ。任せる」
女「うーん・・・とりあえず今日帰ったら聞いてみます」
Trrrrrrr・・・
ピッ
男「もしもし?」
女『こんばんは。今大丈夫?』
男「ん」
女『今日話した“花ノ王国”の件だけど、来週の土曜日でいいかしら?』
男「おう。別に大丈夫だぞ」
女『じゃあ、その日は朝8時に私の家に来てください』
男「了解。悪いな、オレまで送ってもらって」
女『あ、それでね、その日なんだけどお母さんも仕事でね・・・』
**
ピンポーン
男「・・・」
ガチャ
女兄「あ、おはようございます。君、男君?」
男「あ、ハイ。えっと・・女さんのお兄さんですか」
女兄「うん。初めまして。今日は一日ドライバーをします。よろしくね」
男「スイマセン。ありがとうございます」
バタン・・・ブロロロロ・・
女「お兄ちゃん、今日はありがとう」
男「あ、ありがとうございます」
女兄「うん。ぼくも今日は仕事無いから気にしないでいいよ。男君も気にしないでね」
男「は、はい」
女兄「男君、朝食食べてきた?」
男「あ、いえ、食べてないけど大丈夫です」
女兄「実はぼくも食べてなくて、ファーストフードのドライブスルー行きたいんだけどいいかな?」
男「あ・・はい」
女兄「うん、じゃあちょと寄るよ」
女兄「男君はセットの飲み物は?」
男「あ、スイマセン。コーラで」
女兄「女はウーロン茶でいいんだっけ?」
女「うん」
「ありがとうございましたー」
男「スイマセン、奢ってもらっちゃって・・」
女兄「男君、実はさ、このファーストフードはうちの妹ちゃんのリクエストなんだよ。だから気にしないでいいよ」
女「あっ!お兄ちゃん言わないでよっ!」
男「えっ?ファーストフードとか普段から食べんの?!」
女「な・・なによ。いいじゃない。たまには食べたくなるのよ!」
男「なんかすごい栄養バランスとか気にしてるイメージあったわ。オーガニックとか好きそうな」
女「なによその勝手なイメージ!」
女兄「あはははっ・・・仲良いなぁ」
男「あっ・・いや//」
女「っ//」
女兄「男君、こいつちょっと捻くれてるとこあるけど、仲良くしてくれてありがとね」
女「お兄ちゃん!一言多いわよ!」
男「・・・ぷっ」
女「もうーーー!」
ブロロロロ・・キッ
女兄「着いたよ。それじゃあぼくは近くに住んでる友達と遊んでくるから、二人で楽しんできな」
女「ありがとう」
男「ありがとうございます」
女兄「迎えは4時ごろでいいかな?」
女「ええ」
女兄「あ、男君」
男「はい?」
女兄「妹をよろしくね」
男「・・はい」
バタン・・・ブロロロロ・・
**
女「見て、すごくきれいね」
男「・・・・ああ」
パステル画のような、夏の雲と乾いた青空。
それぞれが全身で夏を表現しているような、見渡す限りのヒマワリ。
そして、白いワンピースと赤いリボンのついた麦わら帽子の彼女。
現実感が無いほどの美しさに、ごくり、と息をのんだ。
景色に飲み込まれて、動けなくなったオレは、彼女と目が合った。
彼女は目を細めると、オレの方に手を伸ばした。
半ば自動的にオレが手を出すと、彼女はオレに掴まり体重を預けた。
彼女が立ち上がると、再び風景が動き出した。
男「・・・キレイだな」
女「うん」
男「その服、去年水族館行った時のだよな」
女「・・・うん」
男「・・似合ってる・・・すごくかわいいと思う」
女「・・・ばか//」
彼女の身に着けているもので、あの時と違うところがあるとすればそれは、胸元のペンダントくらいだろう。
女「この服・・・・実はあなたに水族館誘われた後に買いに行ったの」
男「・・・そっか」
女「あなたが・・・気に入ってくれて嬉しいです//」
男「ん」
彼女とオレは、そのまま手を繋ぎ、ヒマワリの中を数歩歩いた。
彼女が座りたいと言うから、オレは彼女を彼女の車に乗せ、ヒマワリ畑を見下ろせる屋根のあるベンチまで彼女を押した。
ベンチに座ると彼女は、鞄から二人分の昼ご飯を出した。
彼女が作ったその昼ご飯は、彼女の家の味なのだろう。
オレには少し甘い味付けだった。
**
ドーン・・・
ドーン・・・
男「・・・」
女「・・・」
約束の時間に、オレたちは彼女の兄の車に拾われて、そこから1時間ほど走った場所の海岸線に下ろされた。
海を臨むその護岸には、大勢の人が集まっていた。
今日は花火大会だったようだ。
それは、彼女が今日を選んだ理由の一つでもあったようだ。
オレたちを下ろすと、彼女の兄は再び車に乗り込みどこかへと走って行った。
花火が終わるころ、迎えに来てくれるという。
オレは彼女の兄にお礼を言うとともに、彼女が彼女の家族に大切にされているということを改めて感じた。
ひゅるひゅる・・・・・・・・・ドーン!
男「あ・・・なんか今の花火、昼間のヒマワリみたいだな」
女「ふふ・・そうだね」
男「ヒマワリ、好きなんだな」
女「ええ・・・ヒマワリって強いじゃない」
男「強い?」
女「他の花と違って、とても強い茎を持っている。そして地面に力強く立っている」
男「・・・」
女「それなのにとっても健気で、ずっと太陽の方を見ているのよ・・・・太陽に届くことは無いのに」
男「・・・女」
女「?」
男「さっき・・・恥ずかしくて言えなかったけど、お前はヒマワリよりもずっときれいだった」
女「っ//」
男「行きたいところがあったら、オレがどこにでも連れてってやる。これからもずっと」
ヒュルルルルルルルルルルルルルル・・・・・・・・ドオオオオオオオオオンン!!!
横目で盗み見た彼女の頬は、涙で濡れているように見えた。
しかしながらオレは、闇に咲く花火から目を逸らさず、彼女の肩に静かに手を置いた。
ここまでにします
やっぱりもうちょっとだけ行きます
***
冬が近づいていた。
教室は寒く、寒さに弱い彼女は学校を休みがちになった。
オレは彼女のことが少し心配で、受験勉強に身が入らないでいた。
彼女はそんなオレを叱咤した。
そしていつもの喫茶店で二人で勉強する日が続いた。
女「コラ、私の方チラチラ見てないで、ちゃんと勉強しなさい」
男「なんだよ、良いだろ。好きな人の事チラチラ見るくらい」
女「ばっばか//」
男「にしても、お前は受験勉強しないのか?ずっと資格の勉強してるように見えるけど」
女「あら?言ってなかったっけ?私、受験しないわよ」
男「へー・・・・えっ?!!」
女「私、資格取る方を優先したいから。資格取ってから、時間あったら大学行くわ」
男「マジか・・・オレもそうしようかな」
女「あなたは別に目的にしてる資格なんて無いでしょうが!」
男「えー・・・おれも会計士目指そうかなー」
女「もう!そんなに簡単に取れるものじゃないのよ」
女「そういう訳で、私は時間あるから、あなたがちゃんと勉強するように見張ってます」
男「マジか」
女「だってあなた、この前の模試の結果、第一志望Dだったでしょ」
男「う・・・・まあ何とかなるよ」
女「何とかならなかったらどうするの!」
男「そしたら浪人かなぁ」
女「あ、もうこれダメだわ。今年のクリスマスは勉強決定ね」
男「げ・・マジ?」
女「まじです」
男「はぁ・・・せめて一緒に勉強してくれるか」
女「・・・・しょ、しょうがないわね」
男「なー」
女「何よ」
男「オレ、お前と一緒にいられればそれでいいから」
女「・・・ふん//」
2学期が終わり、予告通りオレは彼女と一緒に勉強する日々が続いた。
冬が深まり、クリスマスの頃になると、寒さからか彼女はあまり家から出たがらなくなった。
だからオレは、彼女の家の彼女の部屋で一緒に勉強するようになった。
人は、幸せがもうその手の中にある時は、それ以上のために努力をしなくなるものだ。
いくつかの不安を抱えたまま、オレはセンター試験の日を迎えた。
**
女『自己採点どうだった?』
男「・・・・・正直ちょっとやばいかも」
女『えっ?!』
男「まあ私立もあるし、何とかなるよ」
女『・・・ならいいけど』
男「お前のほうはどうだ?」
女『え?何の?』
男「資格の勉強してるんじゃないのか?」
女『あ、うん。順調よ』
男「そっか・・なあ、今日会いに行ってもいいか?」
女『・・コラ、まだ二次も私立も受けるんだから勉強しなさい』
男「お前と一緒に勉強したい」
女『ダメよ。あなた、私と一緒だと集中してないもの』
男「ちぇー」
女『とにかく、ちゃんと集中して勉強しなさい。私も私の事やっているんだから』
男「はーい」
女『結果が出たら、報告してください・・・いい知らせ、待ってます』
男「ん」
電話を切るとオレは、家路についた。
自分の部屋でスタンド・ライトをつけて問題集を開く。
やはり集中できない。
得意の数学もなぜか公式さえ浮かばない。
ダメだ、今日は集中できない。
オレはベッドに横になると、ケータイをいじって、デートのときの彼女の写真を見る。
会った日から、一緒にすごした1年半分の彼女の肖像を眺め、思い出す。
もうすぐ卒業だ。
卒業したらオレは、彼女と。
甘い妄想に浸りながら眠りにつく。
そんな日が何日か続いた。
そして、オレの大学受験は終了した。
Trrrrrrrr・・・
・・ピッ
男「もしもし」
女『あ・・・男君』
男「うん」
女『結果、出たよね?どうだった?』
男「・・・」
女『・・・国立、ダメだった?』
男「ゴメン・・・どっちもダメだった」
女『え?・・・どっちも?』
男「私立も」
女『・・・そっか』
男「・・・どうしよっかな」
女『え?』
男「来年、受験しようかどうしようかって」
女『受験しないで、どうするの?』
男「わかんねー」
女『分からない、じゃあ無いでしょう?』
男「オレさぁ・・・何だろ・・・お前と一緒にいられればそれでいいやって思うからさ」
女『・・・・』
男「・・・・」
長い沈黙があった。
オレの中での答えは、浪人するという事で決まっていたが、浪人して、特に行きたい大学があるわけではなかった。
彼女のように、やりたい仕事があるわけでもなかった。
ただ今はなんとなく、彼女に甘えたかった。
だが彼女は、そんなオレを許せなかった。
オレをそうしてしまった、彼女自身を許せなかった。
女「あなたの・・・そういうところが大っ嫌いです」
男「・・女」
女「実力はあるのに、全力を出さないところが大っ嫌いです!」
女「私のために、部活辞めて、私と一緒にいることを優先して、自分の勉強を疎かにするところが大っ嫌いです!!」
女「あなたを、そうしてしまった、私の・・・自分の甘さが大っ嫌いです!!」
男「・・・女・・・ごめん・・オレ・・」
女「・・・別れましょう」
男「・・・・・え?」
女「このまま一緒にいたら、あなたも、私も前に進めなくなります」
男「・・嫌だ」
女「あなたの将来が台無しになってしまいます」
男「嫌だ・・嫌だ!」
女「もう、あなたが家に来ても、私はあなたに会いません」
男「女っ・・嫌だっ・・オレっ!!」
女「男君」
男「え?」
女「私に誇れるものを持ってきてください」
男「え?・・え?」
女「私に自慢できる、あなたの将来を持ってきてください・・・その時、もう一度会いましょう。その続きは、その時考えましょう」
男「女っ!!」
女「さよなら」
ガチャン・・・プー・・・プー・・・
何度かけなおしても、その日は電話が通じることは無かった。
オレは布団に包まって泣き続けた。
オレが手放してしまったものの大きさをかみしめた。
空が白んだ頃、やっと少し冷静さを取り戻し、彼女と最後に喋ったことを思い出していた。
彼女の声も震えていた。
ずっと彼女を見てきた俺には分かる。
ああいう声のとき、彼女は表情を変えずに泣いている。
彼女もまた、辛いのだ。
辛いが、オレのためにあえて手を離したのだ。
彼女はオレのことを愛してくれている。
オレが彼女を愛しているように。
だからオレは彼女の愛に包まれている。
オレはいつだって彼女に敵わない。
彼女はうまく歩くことができない。
でも、本当の意味でうまく歩けていないのはオレだった。
オレが彼女の手を引くように、彼女は今、オレの手を引いてくれているんだ。
夜が明けて、オレはシャワーを浴びた。
目標ができた。
来年の冬が終わる頃、オレは彼女に自慢できるものを持って、彼女に会いに行く。
今日はここまでにします
こんばんは
それでは続きです
***
彼女と別れた次の日から、オレは初めて真剣に将来のことを考えた。
将来の自分のこと。
オレのとなりに彼女がいること。
彼女が不安にならないために、オレができること。
そしてそのために、今自分ができること。
出した答えは、平坦ではないが、月並みと言えばそうかもしれない。
ともかくもオレは、その未来に向かって走り出した。
夏が近づく頃、オレは久しぶりに彼女に電話をした。
男『もしもし・・久しぶり』
女『・・うん』
男『今平気か?』
女『大丈夫よ』
男『お前に報告しておきたいことがある』
女『うん』
男『前、メールで言った通り、オレ、志望校変えた』
女『ええ・・・かなり無謀な変更だったわね』
男『この前の模試、B判定だった』
女『・・・そう』
男『まだ半年あるとか、そういう甘えは言わない。試験の日までサボらず頑張る』
女『うん・・・頑張りなさい』
男『オレ、将来、お前と同じ職業目指すことに決めた。今度は本気で』
女『・・え?』
男『たぶんお前の事だから、俺より先に資格取っちゃうと思うけど、その後はオレに資格試験の勉強教えてな』
女『・・・気が向いたらね』
男『お前の勉強進み具合はどうなんだ?』
女『あ・・・そう言えば、そろそろ私も本腰を入れて勉強しようと思うの。だから、今後はメールでもいいかしら?』
男『ああ、邪魔しちゃってたか。ワリィな』
女『いえ・・いいの』
男『半年後・・・・会いに行くから』
女『・・・・期待しています』
男『おう・・・任せとけ』
女『・・・・男君』
男『ん?』
女『あ・・・今年の夏は暑そうだから熱中症とか気をつけなさいよ』
男『ははっ・・ありがとな。お前も気を付けるんだぞ』
女『うん。そ・・それとあなた野菜嫌いだったわよね?ちゃんと健康のこと考えて毎日一食は野菜食べなさい。売ってる野菜ジュースだけじゃダメよ。それと、勉強ばっかりしてないで適度な運動もしなさい』
男『はは・・だからお前はオレの母ちゃんかよ・・・わかった。気を付ける』
女『・・・うん』
男『・・じゃあ、勉強邪魔して悪かったな。オレもそろそろ勉強始めるから。またな』
女『・・・ええ・・・頑張ってね』
男『ん』
プツッ・・・・ツー・・ツー・・
それからオレは、予備校の夏期講習に通い、毎日勉強した。
彼女へメールをしたい衝動に駆られたが、あちらも難しい資格の勉強中だ。
それに、俺自身、彼女に甘えてしまうかもしれない。
だから、彼女へのメールも必要最低限にした。
夏の終わりの模試ではA判定が出た。
その後の模試も全てA判定だった。
模試の結果が出た時は彼女に報告した。
彼女からは素っ気ない“おめでとう、頑張ったわね”というメールが返ってきた。
今はそれだけで十分だ。
桜のつぼみが膨らむ頃、きっとお前を迎えに行く。
それまでは我慢だ。
でも、覚悟していてくれ。
お前が受け入れてくれたら、その時は・・・。
***
センター試験は無事9割を超えていた。
二次試験の日の朝、オレは彼女に“行ってくる”とだけメールした。
試験が終わってケータイの電源を入れると“頑張りなさい”というメールがあった。
そして、3月のある日の朝、オレは都内の大学の掲示板の前に居た。
「これから合格者の掲示をいたしまーす」
男「・・・」
ばさっ・・・
男「・・・・・!」
男「・・・」
ピッ・・・ピッ・・ピッ・・・
trrrrrrrr・・・
男「・・・出ないな?」
男「・・・メールしとくか」
ピッ・・ピッ・・ピッ・・
その日の夜、オレは家族と外食し、家に帰ってベッドに横になった。
そして、ふとケータイに目をやると、メール受信を示す青いランプが光っていた。
『おめでとう。もしよければ次の土曜日、家に来てください』
**
ピンポーン
ガチャ
女母「男君」
男「あ、おばさん。お久しぶりです」
女母「うん・・・合格したんだってね。おめでとう」
男「はい」
女母「・・・うん。上がって」
男「はい、おじゃまします」
オレはポケットに手を入れた。
うん、ある。
不思議な興奮と、期待が入り混じって、オレは約1年ぶりに彼女の家におじゃました。
女姉「こんにちは」
女兄「ひさしぶり」
男「あ、どうも」
リビングには、彼女の兄と姉も居た。
今日はどうやら父親以外勢揃いのようだ。
なんかちょっと緊張するな、と思った。
男「お久しぶりです。えっと・・女さんは部屋ですか?」
女姉「・・・」
女兄「・・うん、そうだよ」
男「あ、えっと」
女兄「行っておいで」
男「あ、ハイ」
オレは、彼女のきょうだいと母親に軽く会釈をし、彼女の部屋のドアに手をかけた。
隙間から、彼女の懐かしいにおいがした。
部屋に入って一歩進んだ。
なつかしい笑顔だった。
すっと会いたいと思っていた笑顔だった。
彼女は写真の中で笑っていた。
意味が分からない。
部屋を見渡した。
彼女がいつも使っていたベッドがある。
本棚には、学校の教科書と資格の勉強のための参考書。
マンガも少しあった。
勉強机を見る。
綺麗に整頓されていて、彼女の性格が表れているようだった。
彼女がその部屋で、すっと使っていたであろうその机の上には、手紙が置いてあった。
長方形の白い封筒の上には“男君へ”と書いてあった。
封筒は封がしてあった。
オレ宛の手紙だ。
封を開けた。
中には真っ白い便箋に、黒いボールペンで書かれた手紙が入っていた。
男君へ
最初に、一番重要な事を言います。
おめでとう。
あなたなら、必ず合格すると思っていました。
あなたが志望校を変えると言った時、正直無謀だと思いました。
でもあなたが本気を出せば、合格するだろうと思います。
あなたは怠け癖があるけど、本当はとても頭のいい人です。
だからこれからはちゃんと、本気を出して物事に臨んでください。
それと、あなたには、いくつも謝らなければいけません。
私は、生まれつき筋肉が弱い病気を持っています。
今までは病気の進行が遅く、歩くこともできました。
ですが高校3年生の秋頃からだんだん進行が早くなってきました。
あなたに言わなければいけないのに、ずっと言えませんでした。
本当にごめんなさい。
あなたが優しくて、あなたに甘えていました。
あなたが、ずっと諦めていた時間をくれたから、その時間に終わりがあることをどこかで信じたくなかったのかもしれません。
水族館に行った日、ちゃんと断れなかった、私の弱さです。
たぶん、あなたはこの後もたくさんメールをしてくれると思います。
ですが、これから先のメールはお母さんとお姉ちゃんにお願いしました。
悪いのは私です。
だから、お母さんやお姉ちゃんを恨まないでください。
あなたがこれを読んでいる時、私はたぶんそこにいません。
でも悲しまないでください。
私は嬉しいんです。
あなたが道を見つけて、あなたの本当の実力に合った大学に行って、そしてあなたの将来が明るいことが。
だから、せっかく受かった大学に行かないとか、道をあきらめるとか、そういう事は絶対にしないでください。
きっと私のことを知らない誰かが、私の人生を見たら、それを不幸だったと言うと思います。
でも、そんな事はありません。
世界で一番大好きな人に出会えて、その人に愛されながら死んでいける人がどれくらいいると思いますか?
そして、私はその大好きな人の将来が明るいものだと確信できているから、とても幸せなんです。
最後に、あなたに命令します。
この手紙は焼きなさい。
そしてあなたが私に教えてくれたように、人の好意は素直に受けること。
これを守らなかったら、あなたのところに化けて出てあげないからね。
女より
本当に悲しい時、人は声なんて出ない。
ただ、立っていられなくて、その場に座り込んで、涙が止まらないだけだ。
彼女の言葉が綴られたそれを握りしめ、彼女の部屋でオレは動けなくなった。
彼女の母親が、背中を丸めたオレに色々と話してくれた。
彼女の病気の事や、彼女が嬉しそうにオレの事を家族に話したことなどを。
手紙の文字は、いつか見た凛とした文字ではなかった。
小学生が鉛筆を握りしめ、必死に書いたような文字だった。
彼女が手紙を書いたのは、夏の初めだったという。
オレの電話の後、必死にこれを書いて、
そして夏の終わり、病気は心臓まで達した。
ポケットの小箱は彼女には渡せなかった。
手紙を持っていくかわりに、彼女の部屋の机に置いた。
自分の家の庭で、彼女の手紙を燃やした。
再会したら、どんな理不尽な事な我儘であっても、聞いてあげようと思っていたから。
炎は綺麗な白い紙をあっという間に飲み込んだ。
灰色の煙はゆっくりと空に昇って行った。
彼女の躰はそこには無いのに、その煙は彼女の最後の煙のような気がした。
それからオレはずっと空を見ている。
彼女が昇っていった空を。
何度悔やんでも悔やみきれない。
なんであの時別れてしまったんだろう。
無理にでも彼女の家に行けばよかった。
彼女を救うことは出来なかっただろう。
でも、彼女ずっと抱きしめることは出来た筈だ。
最期の瞬間も抱きしめていることが出来たかもしれないのに。
***
***
夜だというのに、外はどんどん騒がしくなるばかりだった。
気が付けばオレの襟はまた濡れていた。
目の前の名前も知らない女が、オレにハンカチを差し出した。
女「・・・あなたは、幸せだと思います。そんなに誰かに愛されることって普通は無いですから」
男「・・・・・そうですね」
女「でも、今のあなたを見たら、その人はきっと怒ると思います」
男「オレは・・・・怒られても嫌がられても、あの時別れないで彼女に寄り添うべきだったんです・・なのに・・」
女「そうじゃないです。それは違います」
男「・・・え?」
女「その人が、なんで別れようって言ったか分からないんですか?」
男「・・・それは」
女「もし、その時別れずに、あなたがその人の最期を看取っていたら、あなたは大学に入るため勉強しましたか?将来の夢を見つけることが出来ましたか?」
男「・・・・・」
女「打ちひしがれて、悲しみに支配されて、きっとあなたは立ち止まっていた。今のように」
男「・・・・・そうかもしれません」
女「その人は、きっとあなたがちゃんと前に進んでいくことを願っていると思います」
男「・・・オレは・・・」
女「あなたの愛した人が、命懸けで守ったあなたの将来を、あなたが台無しにしては、ダメです」
男「・・・・・・はい」
女「男さん・・・でいいんですよね?」
男「はい」
女「まだ自己紹介してなかったですね。私の名前は女って言います」
男「・・・え?」
女「偶然ですけど、同じ名前ですね」
男「・・・はい」
女「でも、私は、あなたの好きだった女さんじゃありません」
男「分かっています」
女「私はあなたの知ってる女さんの代わりにはなれないけど、あなたの想い出や愚痴を聞いてあげることくらいならできます」
男「・・・いや・・悪いですよ。それにもうこんな時間だ。くだらない話に着き合わせてすみませんでした」
女「知っていますか?明日から大学の学祭なんですよ」
男「・・・え?」
女「そろそろ前夜祭が始まる時間です。一緒に見に行きませんか?」
男「・・・いや、悪いですから」
女「・・・人の好意は素直に受けたらどうですか?」
男「・・・・」
教室を出ようかと立ち上がった。
その瞬間、オレの背中を見えない何かが押した気がした。
男「・・・ああ」
女「?」
男「・・・・そうですね。行きます。オレ、あんまり行事とか参加してこなかったんでよく分かんないんですけど」
女「私もよく分かりませんけど・・・とりあえず人が集まっている方に行けばいいんじゃないですかね?」
男「そうですね」
***
***
***
それからおよそ、20年が経った。
―――――ある墓所。
「久しぶり。今年も来たよ」
中年の男が墓所の一角で花を手向けていた。
芝生の中にあるその墓石は、きれいに磨かれていた。
「今年で、うちの子も中学生になったんだよ」
「早いもんだよな・・・でもちゃんとお前が言ったことは守ってるからな」
「今年は妻は用事で来れないとさ」
「大丈夫。ケンカとかじゃないよ」
「あの時オレが前に進めたのも、妻のおかげだから。ケンカなんてしないさ」
Prrrrrrrr
「おわっ・・社長からだ。仕事だなこりゃ・・・じゃあまた来るから」
ピッ
「はいもしもし?」
夏の風が緑の中を駆け抜けた。
さっきまで男がいた墓石の上に置かれた、数えきれないほどの数のヒマワリの花が優しく揺れた。
優しい音に混じって微かに声が聞こえた気がした。
―――――ありがとう。
このSSまとめへのコメント
期待です!
いいね
泣いた
号泣不可避
(´;ω;`)
まじ泣いた
このやろう仕事中泣いちまったじゃねーか
泣いた
ストーリーは王道だけど、しっかり心にしみる
ありがとうと言わざるを得ない
久々に泣いた
ありがとう
めっちゃないたわ、これいいね
この話作った方尊敬する めっちゃ泣けた
ありがとう
素晴らしい
マジ泣いた、>>1お疲れ様、とてもいい話だった
とても良かったです!
凄い感動しました、いつの間にか涙が流れてました
こんなに綺麗に心情を表現出来る主に感激します