勇者「そうだ。みんな聞いてほしいことがあるんだ。」

僧侶「なんですか？」

戦士「なんだ？　急に。」

魔術師「なに？」

勇者「え～、まず戦士。」

勇者「頼もしき相棒。子どもの頃から一緒に魔王を倒そうなんて夢物語に付き合ってくれてありがとう。」

戦士「へへ、照れるぜ。」

勇者「次に僧侶。」

僧侶「は、はい！」

勇者「悪ガキだった僕たち二人に付き合ってくれてありがとう。」

勇者「村を旅立つときついてきてくれたときは、本当にうれしかった。」

僧侶「い、いえ！　私こそ！　孤児だった私に優しくしてくれたのは二人だけだったから・・・」

戦士「がはは。よく三人で悪さしては神父のじーさん困らせたっけな～。」

勇者「女神像に落書きしたり。」

戦士「夜中にお化け屋敷に入って次の日、スゲー怒られたっな。」

僧侶「神父様のお菓子食べちゃったりしちゃいましたね。」

勇者「僕がいままでちゃんとやってこられたのはきっと二人のおかげだよ。」

戦士「へへへ。」

僧侶「ふふふ。」

勇者「本当にありがとう。明日は旅の最終目標。」

勇者「最後までがんばろう！」

戦士「おう！」

僧侶「はい！」

魔術師「うおい！？　ちょっ、ちょっと待ってよ！」

勇者「うん？」

戦士「どうした？　腹減ったのか？」

僧侶「あ、私パン持ってますよ？」

魔術師「違うよ！　今の流れでなぜお腹の心配？」

勇者「？」

魔術師「私！　私には何にもないの？」

勇者「あ～、忘れてた。」

戦士「魔術師は途中参加だしな。」

僧侶「そんなこと言ったらかわいそうですよ。」ｵﾛｵﾛ

魔術師「そ、そんなことないわよね！勇者！」

勇者「う、うん。」

魔術師「『美少女魔術師ちゃんの魔法にはいつも助けられたよ』とか」

魔術師「『君のお蔭でよりパーティーが華やいだよ』とか。」

戦士「自分で美少女て。」ﾌﾟﾌﾟｯ

魔術師「おい！黙れ髭！」

魔術師「そ、それとも私実はお荷物だった・・・？」ｽﾞｲｯ

勇者「い、いやそんなことないよ」

僧侶「そ、そうですよ！　魔術師さんは私よりおっぱい大きいしいエロいし！」

僧侶「勇者くんも戦士くんもいつもチラ見してたしウワサしてましたよ！」

勇者「」

戦士「」

魔術師「勇者くん、戦士くんなにか言うことは？」ﾆｺﾘ

勇者「ぼ、僕はその」ｱｾ

戦士「おう！見てたぜ！　勇者といい乳だっていつも話してた！」

勇者「」

魔術師「よし！死ね！火炎魔術詠唱！」

勇者＆戦士「うわぁぁーーーーーーー！」

勇者「すみませんでした。」ｹﾞｻﾞｰ

戦士「さーせんした。」ｹﾞｻﾞｰ

魔術師「ふん。わかればよろし。」

魔術師「で・他に言うことがあるんじゃないの？」

戦士「うん？もういんじゃないの？」

魔術師「あ～ん？」ｷﾞﾛﾘ

戦士「ごめん、ジョークだから。」

勇者「あ、え～と遅くなっちゃったけど魔術師。」

魔術師「うん。」

勇者「魔術師は旅の途中から僕らのパーティーに参加してくれてありがとう。」

勇者「いままで、ほぼ物理攻撃のみだったのが魔術師のお蔭で戦術の幅が広がったし楽になった。」

勇者「他の二人みたいに長い期間一緒じゃなかったから、ついからかってしまうけど」

勇者「僕も戦士も照れ隠しみたいなもんで・・・」

勇者「本当に感謝してます。」

魔術師「こっちこそごめんね。無理に言わせたみたいに・・・」

勇者「いや。これが僕の正直な気持ちだ。ね？戦士。」

戦士「ああ。そうだ。俺からもいわせてくれ。」

魔術師「な、なによ。あらたまって。」

戦士「魔術師・本当にありがとうな。何度お前に助けられたことか。」

魔術師「そ、そんなのいいって。」

僧侶「私も。悪い人に騙されそうになったとき助けてくれたり、おしゃれ教えてくれてありがとうございます。」

魔術師「僧侶はかわいい妹みたいなっもんだからさ。私が守んなきゃって。」

魔術師「な、なんか照れるね。こういうの。」

魔術師「そ、そしたら私からも一言。」

魔術師「勇者は私が商人から魔術師に転職するチャンスをくれてありがとう。お蔭で人生が変わったよ。」

勇者「それは魔術師の努力のたまものだよ。」

魔術師「戦士とはいつも口喧嘩ばかりだけど、戦闘になればいつも助けてくれる。本当にありがとう。」

戦士「おう！気にすんな！」

魔術師「僧侶は私の癒しだ。体だけじゃなしに心の面でも。つらいときにもいつも笑顔で。感謝してる。」

僧侶「・・・」ｳﾙ

魔術師「あ、な、泣くことないじゃん！」

勇者「・・・明日は決戦だ。今日はゆっくり休んで明日に備えよう。！」

三人「「「おう！」」」

夢を見ていた。

どこかに向かって走っていく幼いころの自分。

それを追いかけてくる戦士と僧侶。

夕焼けのオレンジ色の中を。

パチパチ

薪のはじける音で目が覚める。

勇者「う・・・ん？　僧侶？戦士？」

僧侶「ゆ、勇者？」ｺﾞｼｺﾞｼ

戦士「おう。起きたのか？」

勇者「うん。二人ともどうしたの？」

僧侶「あ、えっとそう！怖い夢をみてしまってそれで起きてしまって・・・」

勇者「ふ～ん。そうか。」

戦士「・・・」

勇者「戦士？」

戦士「ああ、いやなんでもない。」

勇者「見張り変わるよ。」

戦士「ああ。ありがとう。少し休ませてもらおう。」

戦士「僧侶、夢は夢だ。気にするな。」

勇者「うん。もしまた怖い夢を見ても現実に逃げればいいんだよ。そしたら僕らが守るから。」

僧侶「ふふふ。はい。」

あれから何事もなく時が過ぎて行った。

真っ黒だった空が、東の裾から少しずつ淡い青に変わっていく。

勇者「夜明けか。」

魔術師「おはよ。」

勇者「おはよう。寝ぐせついてるよ。」

魔術師「え！」ｻｻｯ

僧侶「おはようございます。」

魔術師「おはよう。」

勇者「おはよう。よく眠れた？」

僧侶「はい。大丈夫です。」ﾆｺｯ

僧侶「戦士くんは？」

勇者「昨日遅かったからもう少し寝かせておこう。」

勇者「二人とも朝食の準備お願いできる？」

魔術師「おっけー。」

僧侶「まかせてください！」

朝食は固い黒パンに、はちみつに木の実、塩漬け肉のスープ。

そして魔術師が入れてくれた特別なお茶。

戦士「ああ。この独特なお茶も飲み納めか。」

勇者「最初はびっくりだったけど、飲みなれるとクセになるよね。」

魔術師「ちょっと引っかかるけど、それ褒めてるのよね？」

僧侶「あら、今度淹れ方教わったからいつでも飲めますよ。」

戦士「げっ」

魔術師「おい！」

たちまち笑い声が上がる。

焚き火に水をかけ、背嚢から不要になった物をデポしていく。

ここから三十分から一時間ほど歩けば魔王の住む居城だ。

皆、悲壮感はない。

緊張からか道中はほとんど口を開かなかった。

魔王城はその巨大さもさることながらその名にたがわぬ異様な雰囲気を放っていた。

だがその姿とは裏腹に周辺は驚くほど静まり返っていた。

戦士「おかしいな・・・」

僧侶「え？なぜです？」

勇者「僕たちがここまで近づいてきて見張りが反応しないはずがない。」

魔術師「確か連合国軍と魔王軍が南の湿原でにらみ合ってるはずよね？」

戦士「うむ。連合軍本隊が戦闘している間に俺たちが魔王城に突入する。」

僧侶「なら・・・」

勇者「でもまったくいないのはおかしい。」

勇者「魔術師はいつでも呪文を出せるようにしといて。」

魔術師「わかった。」

ゆっくりと周囲を警戒しながら城に近づいていく。

すると城門が開き中から武装した兵士たちが一斉に現れた。

敵戦力の数はおおよそ百から二百。

種族はまちまちだが城門の奥には戦車も見える。

勇者「魔術師！」

勇者の声を合図に魔術師が爆熱呪文を唱える。

その光と熱は一瞬にして数十の敵兵をなぎ倒した。

戦士「俺も負けてられないな！」

呪文によって隊列を乱された相手の隙を突き、戦士が一気に切り込んでいく。

勇者「魔術師は次弾準備。僧侶は魔術師のフォローを！」

勇者「戦士！呪文行くぞ！」

勇者「『雷鳴』！」

勇者が呪文を唱えるとたちまち空が曇り稲妻が落ちた。

呪文の攻撃により歩兵たちは散り散りになっていく。

そのまま戦意喪失してくれればという願いもむなしく戦車が迫ってきた。

戦車は馬四頭立ての高速機動兵器である。

時速３０kmで突進してくる物体に人は無力でありもっとも脅威なのは車上の弓兵である。

遮蔽物のない戦場において魔術師など止まった的である。

これを打ち破るには重装歩兵たちが欠かせない。

もちろん勇者たち一行にこれに対抗する策などはない。

一体だけならば相手を誘い、魔法で殲滅も可能だろう。

だが複数では相手が悪い。

詠唱中の魔術師は真っ先に狙われる。