理樹「各ルートを全て同時に攻略しろ?」 (491)

「恭介が帰ってきたぞぉぉーーっ!!」

理樹「うるさいな……」

ドンッ

真人「遂にこの時が来たか…」

理樹「えっ、ちょっ、どこ行くのさ?」

真人「戦いさ」

理樹「ど、どこで?」

真人「ここ」

理樹「はあ?」

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……………
……


次の日



理樹「まったく2人とも恭介が帰ってきたらすぐ喧嘩するんだから…」

真人「悪いな…なんせ時間が無くてよぉ…」

理樹「時間?」

謙吾「おい真人っ」

真人「あっ、いやなんでもねえ!こっちの話だぜ」

恭介「ま、とにかく学校行こうぜ」

理樹「うん。そうだね」

理樹(僕はこの時知らなかったんだ…この数日間が地獄の日々になるということを……)

教室

「今日の日朝誰だっけ?黒板消えてないけど…」

「棗さんよ。どうせまた猫とでも遊んでいるんでしょう」


理樹(また鈴がサボってるのか…このままクラスの人の敵が増えないように鈴に注意しに行こう……)




中庭

理樹「鈴?」

鈴「なんだ理樹か」

理樹「なんだじゃないでしょ全く…って……何その猫」

理樹(鈴はいつものように猫と遊んでいた。しかし今日はその猫が1匹おかしかったのだ…なんというか…四足と尻尾に紙が括り付けてあったからだ)

理樹「り、鈴…?その猫は何?」

鈴「ああ、こいつはレノン。新入りだ!」

理樹「いや名前じゃなくて…」

鈴「この紙のことか?」

理樹「うん。鈴の新しい遊び?」

鈴「そんなことするかっ。なんか今日見たらもう括ってあった。見てみよう」

理樹(なんか嫌な予感がする…)

ピラッ

鈴「お?なんか書いてあるぞ…」

理樹「どれどれ?」

『この世界の秘密を解け』

理樹「な、何これ…」

鈴「次を見てみる」

ピラッ

『いや、マジで。なんというか、諸事情でかなり時間がない。このままだと鈴と理樹、お前らどっちもヤバいことになるぞ』

理樹「!?」

理樹(次の紙の唐突な脅し。僕と鈴を名指ししているがこれはいったい…)

理樹「い、イタズラだよきっと…こんなの無視無視!」

鈴「次を見てみる」

『この数日間で各ルートを終わらせなければお前たちは強くなれない。とにかく頑張ってくれ。これを見てまだやる気になれないなら井ノ原真人、宮沢謙吾、棗恭介に危害を加える』

理樹「な…なんだって…!?」

理樹(今度は恭介達を脅しに使った!?……で、でもこの世界の秘密を解けって言ったってあまりに漠然とし過ぎたことだし何をすればいいのか……)

鈴「次を見てみる」

『まずは校門の芋虫問題を解決しろ』

理樹「芋虫問題…?」

鈴「次で最後だ」

『そしてフラグが建った女子は手当たり次第に彼女にしろ。とりあえず今はこれだけだ』

理樹「いったいどういうことだよこれ……」

鈴「分からん…だが世界の秘密を解くのは面白そうだな」

理樹「まさか鈴これやるの!?ただのイタズラかも…」

鈴「うん。恭介達は正直どうでもいいがその人が私達に送った意味とか、その人の気持ちが知りたい」

理樹(鈴の目はまるで猫がフワフワしたものを必死で追いかける時のような目付きだった)

理樹「ていうかこれフラグ云々って僕宛だよね…僕も参加しなくちゃならないのか……」

教室

理樹「はぁ…ただいま」

真人「ぐっ……おかえり、理樹……」

理樹「!?」

理樹(僕を迎えたのは……ボロボロになった恭介、真人、謙吾の親友たちだった)

理樹「どうしたのさ、その傷!?」

恭介「ああ、実はさっき闇討ちにあってな…後ろから殴られてリンチにされたんだ」

謙吾「相手は覆面で正体が分からず終いだ……くっ、不覚!」

真人「この筋肉でも手も足も出ねえ…相当強かったぜあいつら…」

理樹「そ、そんな……!」

恭介「奴らは退散する時、俺たちにこう言った『直枝理樹に伝えておけ、紙の内容を必ず執行しろと』ってな」

理樹「ま、まさか……」

理樹(あの紙の脅しは本物だったのか……!!)

恭介「とにかく理樹…」

理樹「なに?」

恭介「そんなことより野球しようぜ!」

理樹「は?」

中庭

トコトコ

理樹「うーん……」

理樹(状況を整理した。まず、あの紙のことを本当に実行するならこれから校門の芋虫を解決しなくちゃならない。しかしその前に恭介はこう言った)

……………
……


恭介『野球をしよう。チーム名はリトルバスターズだ!』

理樹『ちょっと、何を言って…』

真人『おお!良いこと言うじゃねえか恭介!よっしゃ野球だぁーっ!』

謙吾『いいんじゃないか?俺は展開上まだ入らんがお前らが作ることに賛成だ!』

理樹『ええーっ!2人とも今日に限って物分かり良すぎない!?あと謙吾、『展開上』ってなんなのさ!?』

恭介『じゃ、多数決で作ること確定な。今は鈴を入れて4人なので理樹、お前に野球のメンバー探しを命ずる』

理樹『いやいやいや!!』

……
…………


理樹(という訳で芋虫に加え、メンバー探し、そして……そして、何故か彼女探しもしなくてはならなくなった…他二つは置いといて彼女探しってなんだよ…こんな僕がそんなホイホイ出来たら奇跡だよ…)

「こっちだ少年」

理樹「えっ?」

理樹(この声は…確か同じクラスメイトの来ヶ谷さん……?しかしどこから…)

来ヶ谷「こっちだ」

理樹「うわあっ」

ガサッ

理樹(いろいろ声が反響していたけど結局僕の目の前に現れた!)

来ヶ谷「今のは人生前向きに。という意味を込めてだな…」

理樹「いや、まあ…」

理樹(『フラグが建った女子』…果たしてどこまでがフラグと言えるのだろうか……ただ、僕が知っている漫画や小説だとこういう一風変わった出来事から知り合う女性はだいたいその後フラグが立つと言えなくもない……なら僕が取るべき行動は……)

来ヶ谷「どうだ、これから私とお茶でもしていけ。これから授業だろうと知ったこ…」

理樹「是非ご一緒させてよ!」

来ヶ谷「えっ?あ、ああ……」

来ヶ谷特製カフェテラス


来ヶ谷「まあ座れ」

理樹「うん!…ってぐわぁぁっ!」

理樹(座った途端に椅子が崩れたっ)

来ヶ谷「はっはっはっ。いや悪かった、冗談だよ」

理樹「ぐっ……」ヒクヒク

理樹(耐えろ直枝理樹。これも恭介達のためだ…この数日間でこの人を彼女に出来なかったら終わりだぞ…!)

理樹「……あ、あはは…だよねー!来ヶ谷さんは面白いなぁ!」

来ヶ谷「む?怒らないのか…?てっきりそのまま帰るかと思ったが…」

理樹「いやいや、こんな美少女のクラスメイトと二人きりなこの機会をみすみす見過ごすはずないじゃないか」

来ヶ谷「なっ…!?」

理樹(か、顔を赤らめた…?もしかして攻めには弱いのかこの人)

来ヶ谷「……と、とにかく少年はもう授業の時間だろう。さあ、早く行きたまえ…」

理樹「え、ええー…」

理樹(まずい。本人から帰れと言われると帰らざるを得なくなる……ここで来ヶ谷さんとお近づきになるキッカケを作らないと……そ、そうだ!)

理樹「ねえ来ヶ谷さん、帰る前に一つだけ」

来ヶ谷「…なんだ?」

理樹「僕ら近々リトルバスターズっていう野球チームを作るんだ!来ヶ谷さんも一緒にどう?」

来ヶ谷「…………か、考えておく」

理樹「よっしゃきたっ!!」

来ヶ谷「そ、そんなに喜ぶなっ」

キーンコーン

真人「ふう…やっと数学が終わったか…」

理樹「いやいや、真人は今日ずっと寝てたでしょ?」

真人「へへっ、まあな。あ、これ百科事典返すぜ」

理樹「な、なんでビニールに入れてあるの…」

「ヘイガーイズ!」

理樹「あ、三枝さん」

葉留佳「いえーすっはるちんですヨ!」

理樹(三枝葉留佳さん。向かいのクラスなのによくこっちへ遊びに来るのでこのクラスでは何故かみんなに名前を覚えられている)

真人「げっ、三枝ぁっ!?」

理樹(そうだ…三枝さんも攻略対象かもしれないぞ……)

葉留佳「ところで2人とも百科事典持ってない?」

真人「ん?どうだったか…」

理樹「はーいはいはいはい!僕持ってるよっ」

葉留佳「おっ、センキュー!ちょっとそれ貸してくれない?」

理樹「もちろんどうぞ!ところで三枝さん野球に興味ない?」

葉留佳「ほえ?野球ですカ?」

理樹「うん。僕ら近々リトルバスターズっていう野球チームを作るんだ!よかったら三枝さんもどうかなって」

葉留佳「おおーっそりゃイイっすね!」

理樹「じゃあ放課後に!あ、あと三枝さん、下の名前で呼んでいい?」

葉留佳「し、下の名前って…」

理樹「僕、名前が好きなんだ。今日から理樹君、葉留佳さんで行こうよっ。それに葉留佳さんともっとお近づきになりたいし…」

葉留佳「お、お、お、お近づきって……!」

真人「……今日の理樹なんか凄えな…」

4時限目

英語の授業

先生「じゃあここを能美」

クド「は、はいっ」ガタッ

理樹(能美クドリャフカさん…白髪で飛び級のロリで更にはクォーター…これを逃さないでいられる訳がない!)

クド「え、えーっと…あ、あいきゃんと…」

クスクス

「能美さんって外国から来たのに英語全然ってギャップが可愛いよねぇ~」

「うんうん」

理樹「………ッ」

ガタッ

理樹「笑うなッ!!」

「「「………!?」」」

理樹「英語がダメだからってなんなのさ!?こんな小さな子を寄ってたかって笑い者にする奴は僕が許さないぞ!!」

謙吾「な……誰だあいつ…」

クド「わふ……な、直枝さん…」

昼休み

真人「お前スゲかったな!大勢の中であんなこと言えるなんて見直したぜ理樹っ」

理樹「うん。まあ(フラグのためだから)ね」

理樹「じゃあちょっと昼ご飯食べてくるよ」

真人「えっ、俺と一緒に食べてくれねえのか……!?」

理樹「ごめん、すぐに片付けてから昼休みに芋虫片付けないとだから」

真人「えっ?芋虫?」



…………
……

理樹「さーて購買ワゴンでパンも調達したしどこで食べようか…」

タッタッタッ

理樹「ん?」

理樹(今誰かが上に行ったような……)

3F

理樹「いない…気のせいか……?」

ガチャンッ

理樹「!」

理樹(いや、やっぱり気のせいじゃない…上の階段から音が……って上の階段から?確かあっちは屋上だったんじゃ…)




屋上前

理樹「……ドライバーでネジが開けられ、窓から侵入出来るようになってる…これは行くしかないっ」


ガチャッ

屋上

理樹「ふう…」

ゴンッ

理樹「ごんっ?」

理樹(屋上の更に上…貯水槽の辺りからか?)



理樹「よっと」

「ふぇぇ…こ、これは違うんです…ちょっとした出来心というか…そ、そう!世の中には不思議な事があるんですね…お空からお菓子とかお菓子とかがいっぱい降ってきて……」

理樹「……いや、僕だよ神北さん」

小毬「ふえ?」

…………
……

小毬「そっかーじゃあ見なかった事にしよーおっけー?」

理樹「うん」

小毬「見られなかった事にしようっ。うん。解決!」

理樹「まあアリクイかアルマジロかはどうでもいいんだけどさ、神北さん野球興味ない?」

小毬「な、流されましたー!?……って、や、野球…?」

理樹「うん、野球」

理樹(正直神北さんはあんまり運動得意そうじゃないけどここは彼女にする為だ…なんとか接点を持たないと!)

小毬「うーん…おっけーですよ!」

理樹(神北さんチョロくてよかった)

理樹「あ、そうそう。それと神北さんじゃよそよそしいから僕ら下の名前で呼び合わない?」

小毬「下の名前?うんっ、いいよぉ~」

理樹「ありがとう!じゃ、ご馳走様っこれから芋虫イベ行ってくる」

小毬「芋虫?とりあえずいってらっしゃーい」

校門前

理樹「お待たせ鈴っ」

鈴「だいぶ待ったぞ!もうこっちはやってる」

理樹「いやごめんごめん…ってやってる?」

鈴「うん」


理樹(鈴が言うには校門の前の木々に芋虫が大量発生していて校内の人から苦情が来ているらしい。そこへ鈴がその芋虫を山へ返すことを思いついて用務員さんと一緒に段ボール箱へ入れているということだ)

理樹「じゃあ手伝うよ」

用務員「いや、本当悪いねぇ」

理樹「いえいえ」

ザッ

真人「おう理樹と鈴じゃねーか。何やってんだ?」

理樹「丁度いいところに来たね真人!その鍛えあげられた筋肉で木にタックルしてくれない?多分木の上にいる芋虫がわんさか出てくると思うから」

真人「は?」

……………
……





真人「ふんっ!」

ドシーン

真人「ふう…もう大丈夫だろ」

理樹「うんっ、ありがとう真人!」

用務員「みなさん助かりました」

鈴「理樹っ、これで課題はクリアしたんじゃないか?」

理樹「なんとかね」

放課後

理樹「野球の練習まで時間があるな……おっ?」

クド「よ、ようし頑張るぞぉー」

理樹「頑張るのはいいけどぶつかるよ」

クド「わ、わ、わ!?」

理樹「よっと」

理樹(荷物を落とす寸前でキャッチ出来た)

クド「あっ、直枝さんでしたか!どうもすいませんっ」

理樹「やあクド。荷物が届いたの?」

クド「はいっ!」

理樹「手伝おうか?」

クド「はいっ!…ってわふーっ?そ、そんな申し訳ありません!」

理樹「いいや、僕がそうしたいだけだよ」

クド「わ、わふー…あ、ありがたい限りです…それでは私の部屋まで段ボールを置いていただけますか?」

理樹「うんっ」



ゴトッ

理樹「……ふぅ。これで全部かな?」

クド「はい。ありがとうございました!」

理樹「いやいや、こんなぐらいどうって事ないよ」

クド「そ、それに今日も私の事で授業の際…」

理樹「あれも僕がムカついたから言っただけさ。気にしない気にしない」

理樹(実際スカッとしたのは本当だ)

クド「あのぉ…それでは私もお礼がしたいのですが…」

理樹「!」

理樹(よし!願っても無いチャンスだっ!)

理樹「それじゃあこれから僕らと野球しない?リトルバスターズってチーム名なんだけどこれから人数を集めているところなんだっ」

クド「わふー?」




グラウンド

理樹「という訳で集めてきたよ恭介」

来ヶ谷「よろしく」

葉留佳「わっ、姉御も来たんスカ!?いやったぁー!」

小毬「賑やかで楽しそうだねえっ」

クド「わふー皆さん知っている方ばかりで良かったですー」

ガヤガヤ



恭介「り、理樹…お前って奴が怖いぜ……」

真人「奇遇だな…俺も同じ事考えてた」

恭介「と、とりあえずお前ら全員入団テストだっっ」

理樹(結果は全員合格だった。そのあと使われていない部室を掃除したあと、今は使われていない野球部の道具を使わせてもらって早速練習した)



カキーンッ

真人「あーあ。どこまで飛ばすんだよ」

理樹「ご、ごめん!ちょっと取ってくるっ」




裏庭

理樹「えーっと……どこへ…あっ」

「………」ペラッ

理樹「ごめん西園さん。この近くにボール飛んでこなかった?」

西園「………」

理樹「えっ…無視?」

理樹(彼女は西園さん。いつも日傘を差している大人しめな人だ。……このルックス、おしとやかキャラ…これはリトルバスターズにいなくてはならない存在だっ)

理樹「西園さんっ!」

西園「………はっ」

理樹「き、聞こえてなかったんだ…」

西園「ごめんなさい。本に集中していたもので」

理樹「僕の方こそ呼び止めてごめん。それでなんだけど…」

西園「そういえば…さっきボールがこちらへ飛んできてぶつかってしまいました……まったくこんな所まで飛ばすとは危なっかしいですね」

理樹「ええー!君に当たったの!?ご、ごめん!それ実は僕なんだっ!どこへ当たったって!?え、なにお尻?それはいけない!アザになってるかも!グラウンドの方にガーゼとか救急箱が入ってるから早速治療しに行こう!歩くのは痛いかもだから抱っこしてあげるよ!ほら!さあさあ遠慮しないでっ!!」

西園「や、ちょっ……」

理樹「どっこいしょ!行くよ西園さん!しっかり掴まっててね!」

理樹「という訳なんだ。救急箱を早くっ」

恭介「あ、ああ!」ダダッ

来ヶ谷「それはそうと、そろそろそのお姫様抱っこを止めてやったらどうだ…西園女史の気持ちにもなってやれ」

理樹(腕の中にいる西園さんの顔を見た。午前の時の来ヶ谷さん同様顔を真っ赤にしていた。しかもこちらを睨んでいる)

理樹「あ、ご、ごめんっ!すぐ下ろすよ!」

西園「……そうしてください…」

恭介「ほら持ってきたぜ!」





……………
……

西園「ありがとうございました…」

理樹「本当にごめん…ところで不躾なんだけど野球しない?」

西園「本当に不躾ですね」



理樹(その後なんとか食い下がって西園さんにマネージャーになってもらえることとなった)



理樹部屋


理樹「つ、疲れたぁ……」

謙吾「聞いたぞ理樹。いきなり部員を5人も集めたんだって?」

恭介「ああ!選手の数で言えばあと1人だ。…さて、それはそうと鈴。お前にはこれからその最後の1人を勧誘するため女子寮に潜入してもらう。ほれ、会話用のマイクだ」

鈴「スパイみたいだ…」

理樹「そういえば僕のノート知らない明日宿題があるんだけど…」

真人「あっ……そ、そいつは俺の机に寝かせてあるぜ…」

理樹「漬物みたいに言わないでよ…。仕方がないなあ…別のノートで代用するのもなんだし取ってくるよ」

恭介「おっ?理樹もどっか行くのか?気をつけて行けよ」

理樹「はーい…」

学校

理樹(来てから普通は閉められていると気付いたけど案外あっさり開いた)





理樹「よーし、ノートも合ったしさあ帰ろう…」

「何者だ!」

ガッ

理樹「なっ…」

グググ…

理樹(か、関節技を決められた…!)

「貴様、この学校の生徒か?」

理樹「は、はい…」

理樹(意外や意外。僕を拘束している人は女性の声をしていた…しかも聞くからに僕と同じぐらいの年齢だろう…これは攻略対象なのか!?)

「私が1.2.3と数えたらまっすぐドアを開けて自分の部屋に帰れるか?」

「はい!それより電話番号教え…」

「1、2、3!ミッションスタート!良いからとっとと行きやがれぇーっ!!」

理樹「う、うわぁーっ」




理樹「とほほ…つい声に圧倒されて出て行ってしまった…ま、とりあえず帰ろうか…」

パンッ

理樹「!?」

理樹(今のは……銃声!?)

理樹「くっ…」

理樹(戻るのは危ないだろうし死んだら元も子もない……だけど恭介達を守るためだし、何よりさっきの子も襲われているかもしれない!)




ドンッ

理樹「大丈夫!?」

シーン

理樹「って…い、居ない?………こ、これは?」

理樹(生徒手帳…朱鷺戸沙耶と書かれている…)

理樹部屋

理樹「ただいま……」

理樹(謙吾達はもう帰ったのか部屋には真人しかいなかった)

真人「おう、遅かったな理樹!って…なんか更にやつれてねえか?」

理樹「はは。気のせいだよ…気のせい……」

理樹(今日は本当にいろんな事があり過ぎた……ああ、もうダメだ…あの持病じゃないけど強烈な眠気と疲労感が僕を襲う…)

バタッ

真人「お、おいどうした理樹!?返事しろよなぁ……り、理樹ぃーーっ!!」

次回へ続く!

書き溜めしてる方のssは未だ未完成だから息抜きに建てた

2日目

理樹「ふぁああぁ……」

真人「おう起きたかっ。でっけぇあくびかくなぁ理樹っちは」

理樹「うん、まあ色々あったからね…」

真人「とりあえずメシ行くっか!」





食堂

ガヤガヤ

理樹「おはよう」

恭介「おう、おはよう」

クド「おはようございます!」

来ヶ谷「案外少年はお寝坊さんなんだな」

西園「おはようございます」

小毬「理樹くんおっはよー」

葉留佳「やーやー、席ならこっち空いてますぜお二人!」

鈴「ほーらレノン、ゼリーまだ奥に詰まってるぞ」

理樹「わっ、ビックリした…」

理樹(そうだった…僕は昨日めちゃくちゃに人をかき集めたんだったっけ…)

TV『次のニュースです。以前から計画されていたテヴアでのロケット打ち上げが…』

クド「……!」

理樹「どうしたのクド?」

TV『テヴアでのロケット打ち上げが失敗したとの速報が入りました。この影響により島の各地で未曾有の災害が発生しており国内では暴動が発生し……』

クド「あ……なっ…」

理樹「ど、どうしたのクド?」

小毬「気分が悪いなら保健室に行く?」

クド「ああ…私が…私が悪いんです…」

理樹(クドの怯え方は尋常じゃなかった。まるで忘れかけていた恐怖を突然鮮明に思い出すかのように…)

クド「……わ、私の母国がテヴアというのは言いましたでしょうか……そして…そのテレビで報道されている宇宙開発の立案者が……私の…私の…!」

ガタンッ

理樹「クド!」







保健室

理樹「よろしくお願いします…」

バタンッ

来ヶ谷「とにかく今は先生方に任せよう」

理樹「うん……」





靴箱

理樹(急にクドは倒れた。先生はショックな出来事のせいで思い詰めて…とは言ったけどいったい何が…)

来ヶ谷「む?」

理樹「どうしたの来ヶ谷さん?」

来ヶ谷「いや、なんでもない。ただ上靴にこれが入っていただけだよ。少年は欲しいか?」

理樹(と、僕の手のひらで転がる画鋲…これって……)

理樹「だ、ダメじゃないか!これってイジメなんじゃ…」

来ヶ谷「去年もこんなことがあった。ま、こんなことをして何がしたいのか分からんが…それなりの仕返しはしておかなくてはな」

理樹「お、怒らないの…?」

理樹(画鋲を見つけた時の来ヶ谷さんは怒ってるだとか悲しいとかいう表情はまったくなくて…ただ『面倒臭い』といったものしか読み取れなかった)

来ヶ谷「……そうか、こういう時は普通怒るのか…」

理樹「えっ?」

来ヶ谷「いや、なんでもない。理樹君はこの件で心配しなくてもいいよ」

理樹「いや、まあ…」

理樹(確かに僕なんかより来ヶ谷さんが自力で解決する方が圧倒的に早そうだ…)

教室

理樹「な、なんだよこれ……」

『犯罪者三枝昌が釈放された!その娘は三枝葉留佳!』

来ヶ谷「……これは」

理樹(黒板にでかでかと書かれた葉留佳さんの名前と、それを関連付けるように貼られた三枝昌釈放の新聞の切り抜き…)

理樹「よく分からないけどみんなが来る前に消しておこう!」

来ヶ谷「ああ…!」

理樹(それは案の定僕のクラスだけにあったものではなかった。ほとんどのクラスに書き殴られ、机にも新聞のコピーが乱暴に入れられていた)

理樹「誰がこんな事を…」

恭介「理樹と来ヶ谷か」

理樹(恭介が新聞のコピーを抱えて来た)

理樹「恭介っ!これってなんなのさ!」

恭介「分からん…俺が教室へ帰ってくると黒板に殴り書きされていた…この分だと1年の方にもあるだろう。とにかく回収するぞ!」





廊下

理樹「はぁ…」

理樹(一応全クラスのものを回収したが既に何人かの生徒が来ていたところもあった。噂が広がるのはもはや時間の問題だろう)

トコトコ

葉留佳「……」

理樹(あれは…)

葉留佳「……なんで…」

理樹(ボードにもその紙は貼られていたようだった。見逃してしまった…)

理樹「葉留佳さん!こんなタチの悪いイタズラなんか気にしなくていいよ!ただ名字が一緒だったってだけで…」

理樹(葉留佳さんの視界の先にある紙を乱暴に破るとゴミ箱に捨てた)

葉留佳「違うの…これは多分本当の事…」

理樹「た、多分?それはどういう意味なのさ!」

葉留佳「話すと長いし、こんなところでする内容じゃないよ…」

理樹「……分かった。それじゃあ今日の放課後どこかでゆっくり話を聞くよ。僕にできる事があればなんでもするからさっ」

葉留佳「理樹君…」

理樹「僕に任せてよっ」

理樹(その後葉留佳さんの実家で話すという取り決めとなった)

教室

「ねえ知ってる?三枝さんの噂…」

「え、なになに?」

理樹「…やっぱりもう噂が…」

真人「噂?」

理樹「あ、真人…真人は知ってる?三枝さんのこと」

真人「……ああ、あちこちでみんなして言ってんだから嫌でも耳に入るぜ…ったくよぉ……あ、もちろんそんなこと間に受けてねえぜ?」

理樹「うん、そうだよね…」

真人「てか鈴はどこ行った?また居ねえぞ…」

理樹「あっ、そうか課題!」

裏庭

タッタッタッ

鈴「うーん…」

理樹「はっはっ…」

理樹(裏庭に行くと鈴が何やら紙を開いていた)

理樹「はぁ…はぁ…鈴、紙はなんだって?」

理樹(脅している人が寄越すメッセージだ…次はなんと書いているのか…!)

鈴「おお、来たか理樹。なんか次の課題が渡された…それも2つもだ」

理樹「二つ?」

鈴「こう書いてある『順調にこなしているようだな。次の課題だ。1つ目は『2-Aの1番の恋煩いを癒せ』そして次に『学食の危機を救え』だ」

理樹「うわぁ…なんか面倒臭そうだね…」

正午

昼休み

食堂

理樹「………」

真人「お前…本当に大丈夫か?」

理樹「うぅ……」

理樹(1つ目の課題はこうだった。2のAの1番といえば2年A組で出席番号が1番の人ってことで、行ってみると相沢君という人だった。その人に誰が好きなのか半ば強引に聞き出したらなんと相手は鈴のライバルである笹瀬川さんだった!)

理樹(笹瀬川さんは謙吾に憧れてるしぶっちゃけ相沢君に勝機はないと思ったので笹瀬川さんとメルアド交換するところまでこじつけて後は本人達に任せることにした。煩いを治すのは必ずしも突き合わせるって意味じゃないしこれでミッションはコンプリートしたはずだ)

理樹(そして僕が今食堂で何故突っ伏しているかというと、食堂が危機だった…)

理樹(僕らがいつもの様に食堂でご飯を食べようとすると食堂のおばさんが居なかった。事情を聞くとなんとおばさんたち全員が偶然にも風邪や用事で食堂に向かえなかったのだ。課題を受けている僕らは仕方なしに(それどころではない葉留佳さんとクドを除く)リトルバスターズのメンバーと謙吾全員を含めて食堂で学生全員分の昼ご飯をまかなったのだ。死ぬ。)

真人「あんまりお疲れの様ならこいつを飲みな」

スッ

理樹「こ、これは…?」

理樹(ペットボトルに詰められた茶色い液体がたぷんと目の前に置かれる)

真人「俺特製マッスルエクササイザーだ!元気が出るぜ?」

理樹「ありがとう貰うよ」

理樹(禍々しすぎて飲みたくなかったけど今にも疲労が頂点に達しそうだったんだ…ここは真人の液体に頼るしかない…)

グビッグビッ

真人「お、いい飲みっぷりだなっ!」

理樹「ま、まっずい!……えっ!?」

ギュンギュン

理樹「な、なんだこの全身から溢れるパワーは……!」

理樹(体の芯から熱い魂の叫びが聞こえる……!!今までの疲れはどこへやら!)

キィィーンッ‼︎

理樹「ありがとう真人!なんだか疲れが吹っ飛んだよ!」

真人「いいってことよっ!」

理樹(そうだ!そういえばまだ朱鷺戸さんの学生証渡してなかったな)

理樹「ちょっと行ってくる!」

真人「おう!」

2-D

ガラッ

理樹「ちゃーすっ!」

「「「!?」」」ビクッ

理樹「このクラスの朱鷺戸さんって誰かな!?」

「わ、私だけど…」

理樹「あ、君?よかった!昨日学生証拾ったんだけどこれ君のだよね!?」

沙耶「え、ええ…ありがとう…」

理樹「ん?どこかで聞いた声のような……」

沙耶「うっ!?」

理樹「まあ、いっか。ごめん、名残惜しいけどそれより友達のお見舞いあるから」

沙耶「……そ、その、ありがとう。名前はなんて言うの?」

理樹「直枝理樹。親しみを込めて理樹君と呼んでよ」

沙耶「えっ、あの…」

理樹「それじゃっ」

タッタッタッ

理樹(体が軽い!)

保健室

ガラッ

理樹「失礼します。あの先生…クドは…能美さんは?」

「彼女なら今起きたわ。お見舞いかしら?」

クド「わふ…直枝さんですか?」

理樹(カーテンで仕切られているからか気づかなかったけどクドはすぐ横にいたようだ)

理樹「やあクド。それと直枝じゃなくて理樹でいいよ…それより体調はどう?」

クド「はい、今はだいぶ落ち着いています…」

理樹「で、朝テレビを見て何か言ってたよね?あれは何だったの?」

クド「はい…アレは……」

……………
……

理樹(クドの両親は、母国の宇宙開発のロケット打ち上げに携わっていた。しかしそれが失敗し、その結果、島では大災害が発生してクドの母国では大騒ぎになって暴動が発生したらしい。更には計画の立案者だったクドの母親が全責任を取らされるという)

クド「今はとても危険な状態なので旅行では行けないことになってるのです…ですがさっき政府の人から特別に国に戻ってもよい許可を貰いました…私が行って母を救うことが出来ればと…」

理樹「ちょ、ちょっと待ってよ!そんな危なっかしいところにクドが行ってもしょうがないんじゃ…」

クド「でも…このまま行かずにいてもしお母さんに何かあったら……」

理樹「うっ……」

理樹(母の大事。それがどれほど重要なことか僕は理解していた。何故なら僕は既に『なくしてしまった』ほうだから)

クド「私はどうすればいいのでしょうか?正直…怖いですけど、それでも行かねばならない時なら行くつもりです」

理樹「……とにかく今日1日は考えたほうがいいと思う。まだ時間は残されてるんでしょ?」

クド「はい。少しだけ…」

理樹「いいかいクド?僕も母が、両親がいない身だから気持ちは分かる…だから一緒に決断を下そう」

クド「は、はい!そう言ってもらえるととても心強いですっ!」

理樹「うん。だから思い詰め過ぎないでね」

クド「はいっ」

廊下

「あっ、理樹君っ」

理樹「小毬さん」

小毬「これからご用事?」

理樹「いや、特には…」

小毬「ならボランティア、しませんか?」

理樹「ボランティア?」






「はい、じゃあここにサインして」

理樹「は、はい…」

サラサラ

理樹(何故か話の流れで放課後、老人ホームでお手伝いをすることになった。葉留佳さんの家に行く用事もあるけど小毬さんとの機会を不意にすることも痛い…た、多分大丈夫だろう。葉留佳さんに時間を引き延ばしてもらってから老人ホームのお手伝いを速攻で終わらせれば…)

ピロン♪

理樹「メール?」

『学生証ありがとうございました。お礼がしたいので屋上に来てくれると嬉しいです。T』

屋上

ガチャ

理樹「うへぇ…まさか粘着トラップで靴がペンキに持ってかれるとはなぁ…」

理樹(学生証のお礼…ってことは朱鷺戸さんだろう。そうだ、彼女もリトルバスターズに勧誘すれば…)

沙耶「直枝理樹君ね」

理樹「あ、やあ朱鷺戸さん。あのメール朱鷺戸さんで合ってるよね?」

沙耶「ええ、その通りよ。ところで突然だけど死んでくれない?」

チャキッ

理樹「えっ」

沙耶「まさか計算外だったわ…この私が部外者に正体を知られるなんて…背後をとって顔は見せないよう関節決めたのになぁ」

理樹「関節……ま、まさか君があの夜の人!?」

沙耶「ええ?…………も、もしかして気づいてなかったの?」

理樹「いや、まあ…」

沙耶「ふっ…ふっふっふっ…ええそうよ(ry」







……
……………

沙耶「というわけで悪いけどあなたには死んでもらうわ」

理樹「そ、そんなモデルガンでしょ?ちょっとリアルなのはウエスタンアームズ社のだからって信じてるよっ」

沙耶「わざわざ偽物持ち歩く意味ある?」

理樹「くっ…」

ボロッ…

理樹「えっ…」

理樹(後ずさりした先のフェンスが何故かそこだけひどく錆びていてはずれてしまった。そしてその作用で僕は……)

グラッ

理樹「う、うわぁ!」

パシッ

沙耶「へえ…間一髪、壁を掴んだわね。でも助けてもらえる人がいなくて残念ね」

ガッ

理樹「け、蹴らないでっ!」

真人「おーい理樹ー!そんなところで何やってんだー!?」

理樹「真人!」

理樹(どうやら真人が偶然下に通りかかったようだ)

理樹「真人!信じてるよ…っ」

パッ

沙耶「………」

理樹(この高さでも真人なら…真人ならきっと……!)

理樹「……あれ…ここは…」

真人「おお目が覚めたか理樹!まったく飛び降りるなら飛び降りるって言ってくれよなぁ…まあ結局ナイスキャッチ出来たからいいんだけどよ!あのナイスキャッチ誰かに見せたかったぜ!」

理樹「ありがと真人いや、本当に」

真人「気にすんなっ」

理樹「あ、ところで今何時?」

真人「そうだな…この時間だと丁度放課後ってとこかね」

理樹「わかったありがとう!じゃあちょっと小毬さんと老人ホーム行ってくる!」

真人「えっ?あ、おい!」

バタンッ




老人ホーム

理樹「それでボランティアって具体的になにやるの?」

小毬「たとえば部屋のお掃除してあげるのっ。みんな寂しがり屋さんだからお話とかしてあげてね~」

理樹「うん、分かった」




バンッ

理樹「ッソウジッシツレッシャースッ!」

老人「え、な、なんだって!?」

サササッ

ピカピカッ

老人「こ、これは凄い…こんな短時間で部屋がみるみる綺麗に…ほうきしか使ってないのにダイソンもビックリじゃわい!」

理樹「ッツレイシャッター‼︎」

老人「おう!ありがとう坊主!」

バタンッ

理樹(葉留佳さんの為にも一部屋のノルマは1分で済ませるぞ!)





……
……………

理樹「ここで最後だっ」

コンコン

理樹「シツレッシャースッ‼︎」

「じゃぁぁああああかあしいいわぁぁぁあ!!!」

理樹「ハイッスンマセンッシタァーッ‼︎‼︎」

小次郎「む……?ほほう、最近の若もんにしては声に張りがあるのう…」

理樹「恐縮ですっ」

小次郎「うむ。特別に部屋を掃除することを許可しよう」

理樹「どうもっ」

理樹(超上から目線でムカつくけどここは速攻で終わらせるのが先決だ!)

……………
……


理樹「ふぅ…綺麗になりましたね」

小次郎「ふんっ、これぐらいまた直ぐに散らかしてやるわい」

理樹「ならまた片付けるまでですよ。それでは」

ガチャン

小毬「あれぇ~理樹君今その部屋から出てきたよね?」

理樹「うんまあね。どうして?」

小毬「だってそこの人いつ行っても絶対部屋に入れてくれないんだよ…今日は機嫌よかったのかなぁ…よ、ようし…」

ガチャ

小毬「失礼しま……」

「くうをぉぉぉおおらぁあああああ!!」

小毬「ぴやぁぁあーっ!?」

ダダダッ

理樹(ええーっ!)

ガチャ

理樹「ひ、酷いじゃないですか!なんで小毬さんだけあんな追い払い方…」

小次郎「…!小毬…というのかあの子は……大きくなったな」

理樹「小毬さんを知っているんですか?」

小次郎「……あの子を二度とワシに近付けるな……ワシの名は…神北小次郎じゃ…」

理樹「……!?」



理樹(神北…小次郎さん…いったい小毬さんとどんな関係が……)

葉留佳「着いたよ理樹君」

理樹「えっ?」

葉留佳「もー何ぼーっとしてるんですカ?ここが私のお家ですヨ!」

理樹(葉留佳さん…明るいように見えるけどビラのことで心は抉られているだろうに…今はその気丈な振る舞いが痛々しい)




葉留佳部屋

葉留佳「お茶持ってきたよ」

理樹「ありがとう」

葉留佳「それじゃあ話すね……ことの最初の最初から…」









理樹「……そんな…バカなことが!」

葉留佳「あるんだよ。だから協力してくれない?…私がどっちの子供なのか…」

葉留佳「私が出来損ないの子供じゃないことを証明するため…もし私が本当に昌の息子だったとしてもそれはそれで諦めがつくから」

理樹「…………分かった。そうしよう」

ピーンポーン

葉留佳「!?」

理樹「どうしたの?まさかその言っていた両親が…?」

葉留佳「う、うん…そうかもしれない」

理樹「…いい機会だ。聞こうよ」

葉留佳「分かった…そうしてみる」





トボトボ

理樹「………」

葉留佳「………」

理樹(気まずい…結局あのあと両親に問いただしたけど『それだけは教えられない』ときた)

葉留佳「…新聞の通り釈放されてるならきっとこの町に昌がいるはずだと思う…だから明日、丁度休みだし一緒に探してくれないかな?昌の方に話を聞いてみる」

理樹「分かった。今回の件は葉留佳さんに全面的に協力するよ」

葉留佳「本当にありがとうね理樹君…」

理樹部屋

恭介「という訳で我々リトルバスターズは文武両道を目指してこれから学校で行われる俳句大会に参加します」

理樹「いやいやいや!」

理樹(部屋に帰るとバスターズ全員がこんな時間に集結していた。お願いだからこれ以上面倒ごとを起こさないでほしい)

理樹「………あっ、そうだ」

真人「ん?どうした?」

理樹「明日の1時間目体育なのに体操服部室に置きっ放しだったよ…」

真人「おいおい、そりゃやべえな…今から取ってくるか?」

理樹「うん、そうする!」

理樹(本当はここから逃げ出したいだけだったけど忘れたのも事実だった)

恭介「じゃあしょうがねえから理樹抜きで俳句大会の作戦を練るか…」



……………
……

グラウンド

サササッ

「……!」

理樹「あ!」

理樹(今の金髪は…紛れもなく昼間に僕を突き落とした朱鷺戸さんだ!さっきまで暇がなかったから構ってられなかったけど今度は部室に入ってなにをする気だ!?)




バンッ

理樹「朱鷺戸さん!………っていない?」

ヒュウウ…

理樹(窓が開いていた!あそこだっ)

グンッ

理樹「かは……っ!?」

理樹(窓から出て追いかけようとしたのもつかの間急に首に縄のようなものが締め付けられた!く、苦しい…これも罠だったのかっ!)

「はあっ!」

理樹(気合一閃。首に巻きつけられたロープが切断された!)

「イタズラにしては悪趣味過ぎやしないか?」

理樹「謙吾!」

謙吾「やれやれ、練習を長めにしていなかったら今頃どうなってた事やら…」

理樹(まさにその通りだった。アナザーなら死んでた。これは帰り道も無事に通してくれるとは限らないぞ…)

スッ

謙吾「おいおい、なんだそのバットは…まさかこれから練習するのか?」

理樹「いや、一応…ね。とりあえず帰ろう謙吾」

謙吾「あ、ああ…」

理樹(角を曲がるときは、まず先をのぞき見る。常に精神を消費する行動は常に感覚を研ぎ澄ます。頭が痛くなってくる…気を抜けば一発アウト。即死だってありうる)

謙吾「さっきから何を警戒しているんだ…スパイごっこでもしたいのか?」

理樹(その時だった)

ビリッ

謙吾「うおっ!?なんだ、電柱が!」

理樹(反射的に振り向くと、ゆっくりと電柱が倒れてくるところだった。倒れて地鳴りのような倒壊音が鳴り響く…聞いた電気音の正体はショートした電線だった。どういう操作をしているのかは分からなかったけど電気を帯びた電線が束になって僕らを襲ってきた!)

ビュンビュン

理樹「くっ…」

キンッ

理樹(なんとか金属バットで凌ぐが次々と襲い掛かる攻撃は防ぎきれ…っ)

シパァンッ

謙吾「大丈夫か理樹!?」

理樹「ありがとう謙吾!」

理樹(とにかくこの場を去らないと…!)

ヒューッ

パシャッ

理樹「わっ!?」

理樹「なんだこれしょっぱい…!」

理樹(どこからともなく水風船が飛んでくる!それらは破裂して次々に僕らの全身にかかってきた)

謙吾「まさか…塩水か!」

理樹「塩水……も、もしかして!」

理樹(聞いた事がある…塩水の電導率は圧倒的でたった100V程度でも死に至ると!)

謙吾「まずいな…水たまりが出来ている…俺たちが避けたとしてもそっちに当たったらアウトだ!」

理樹(くっ…何かないか…この状況を打破する脱出経路は……)

ビリビリ…

理樹「あれだ!」

理樹(変圧器から伸びるケーブル…確率的にジャストミートするのはほとんど不可能だけど今はそれに賭けるしかない!)

理樹「いっけぇーっ!」

ブンッ

理樹部屋

理樹「はぁ……はぁ………っ!」

真人「おう、おかえり!って…どうしたんだ…更にお疲れのようだが?」

理樹「いや、本当に死の瀬戸際にいたよ…」

理樹(なんとかその奇跡的な確率を射止めたあとで謙吾とはお互い労って別れた。あれは朱鷺戸さんからの攻撃だろうけど多分狙いは僕だけだから謙吾は適当に誤魔化して済まして構わないだろう…それよりもう…限界だ……)

理樹「ま、真人…ごめん……行儀悪いけど床に寝かせて…ベッドまで辿り着けな…」

バタンッ

真人「ま、またかよ…いったいお前に何があったんだってんだよっ!?」

理樹(こうして夜は更けていく………)

次回に続く…

3日目

理樹(僕が次に目を覚ましたのはその2時間後だった)

「ほら、起きなさいよ…」

理樹「むにゃ…」

「あら可愛い…じゃなくて!起きなさいってばっ」

ドンッ

理樹「うわあっ!」

沙耶「しっ。静かに…」

理樹「と、朱鷺戸沙耶っ…こ、殺されるっ!真人ーーっ!!起きてー!!」ガンガンッ

沙耶「馬鹿っ!」

ムクッ

真人「んあ…なんだ理樹…?」

理樹「むぐっ…」

真人「むぐ?」

「いや、なんでもないよー真人は寝てていいよー」

真人「そうかー?じゃ、お休み……グゥ」

理樹「もがもがっ…!」

理樹(卍固めで四足と喉を抑えられて上手く声が出せな……っ!)

ガクッ

沙耶「まさかいきなり大声出されるとは思わなかったわ……」






……………
……

理樹(次に目を覚ましたのは裏庭だった。まだまだ月が昇っていて暗すぎる)

理樹「こ、ここは………ってあれ?う、腕が…!」

沙耶「今度は変に騒がれる前に腕を拘束させてもらったわ。…でも安心して?あなたを襲いに来たわけじゃないから」

理樹「い、今までのは朱鷺戸さんにしたら襲ってる訳じゃなかったんだね…」

沙耶「いやそういう訳でもないけど」

沙耶「とにかく、貴方にはこれから私のパートナーになってもらうわ」

理樹「ええっ?」










沙耶「という事なの。そしてその財宝はとある教室に隠された地下にあるという…」

理樹「そんな事が信じられる訳…!」

ガサッ

影「………」

理樹「!?」

理樹(朱鷺戸さんの後ろに上半身だけが1人で立った文字通り影のようなものが!)

理樹「朱鷺戸さん後ろ!危ない!」

沙耶「……っ」

パパンッ

影「………」

スゥ…

理樹「き、消えた…」

沙耶「どう?これで信じてもらえたかしら?」

理樹(………)

理樹(どうやら朱鷺戸さんの言っている事は本当だったようだ……彼女は闇の執行部に立ち向かうため、財宝を手に入れるため協力しようと申してきた。本当ならそんなことは断るけどもうこれはどう考えてもフラグだったので折るわけにはいかず…)

沙耶「それじゃあ今日の夜にまたね。理樹くん」バタンッ

理樹「………はあ…こりゃいつか過労死するぞ…」








裏庭

理樹「おはよう鈴…」

鈴「お前くちゃくちゃ眠そうだな」

理樹「なんのこれしき……それより鈴、次の課題は?」

鈴「ああ、それなんだがな…」

理樹(困った様子ですでに開かれた紙を差し出してきた。どうやら意味が分からなかったらしい)

理樹「どれどれ……」

ピラッ

『杉並は個別ルートないからスルーしていいぞ』

理樹「な、なんだこれ…」

中庭

理樹(個別ルート…?もしかして杉並さんは最初の課題に描いていた彼女候補には外れた存在だというのか?…でもたとえそれがあの同じクラスの杉並さんだったとしてもそもそもフラグが建ってなかったというか…)

「あのっ」

理樹「あ、はい?」

杉並「じ、実は前から貴方のことが……す、好きでした!」

理樹「…………!?」

杉並「でもこんなこと言われても困りますよね…直枝さんと棗さんの関係は知っていますし…きっと私なんかが入る余地はないと思います…それでもこの想いは伝えておかないとって…」

理樹「ち、ちょっと待ってよ!確かに恭介とは仲はいいけどそういう意味で好きだってことは…」

杉並「鈴さんの方です」




理樹「なんて事があったんだ…」

鈴「そーか…それで理樹は嬉しかったのか?」

理樹「えっ、僕!?」

理樹(そりゃ誰だって好意を伝えられて嫌な気持ちにはならないけど……)

理樹「…こ、困るね…」

鈴「ふむふむ……なら理樹」

理樹「?」

理樹(鈴は髪飾りをチリンと鳴らして僕の方へ顔を振り向いた)

鈴「私たちが付き合ってみるか?」

理樹「なっ……」

理樹(しばらく喉が詰まった…いや、どちらかというと言葉の方に……)

鈴「そうすればなんだか上手く行く気がする」

理樹(鈴の楽観的に聞こえる意見は何故か至極真っ当なことに思えた)

理樹「なんか…不思議と僕もそんな気がする……」

鈴「よし、決まりだなっ」

理樹(こうして僕と鈴は付き合うことになった。なんだか物凄くあっけない)

鈴「そうと決まればやっぱり挨拶回りしなくちゃいけないのか?最初は恭介か」

理樹「いやいやいや!ちょっと待って…」

理樹(そうだ忘れていた……僕は脅されているんだった…鈴とこんな純愛的なカップルになったというのに僕は低俗な人間のように何股もしなくてはならない…だからここでみんなに伝えられるのはまずい)

理樹「鈴。それだけはダメだ…もし喋ってしまったら恭介と真人と謙吾の三人が危ないんだ!」

鈴「なにィ!?」

理樹「だから鈴…出来れば僕を信じて……」

鈴「……わ、分かった…理樹がそこまでいうなら…」

理樹(鈴、本当にごめん……)

靴箱

理樹「まいったな…」

コロコロ…

理樹「ん?……あっ!」

理樹(靴の中にトゲトゲしい光ったものが……!)






教室

来ヶ谷「おや、どうした理樹君」

理樹「いやぁ、あのさ…来ヶ谷さんこの間靴に画鋲入れられてたでしょ?」

来ヶ谷「ああ、あれか…それがどうした?」

理樹「犯人って誰か分かる?」

来ヶ谷「ああ…それなら……」クルッ

「ヒッ…」

「きゃっ…」

理樹(来ヶ谷さんが教室の隅に目を向けるとそこにいた女子2人が短い悲鳴をあげた。あの2人か…)

来ヶ谷「どうしたんだ?」

理樹「いや、なんでも…」



数十分前

恭介「おう、最近なかなか話せねえな理樹」

理樹「まあ色々忙しくてね…それより恭介、来ヶ谷さんの事なんだけど…」

恭介「?」

理樹(恭介に来ヶ谷さんが嫌がらせを受けた事。そして何故か次に標的が僕に変わった事を話した)



恭介「………そいつは多分来ヶ谷を攻撃するのは無理だと悟ったんだろう。だから馬を射ようとしたってことだろうな…」

理樹(ようするにイジメの犯人たちは来ヶ谷さんを間接的に攻撃することにしたのだ。つまり来ヶ谷さんと1番喋っているであろう僕に『来ヶ谷と関わるならお前もイジメるぞ』と警告された訳だ)

恭介「理樹、そいつらの事が分かるか?俺が全面的に協力してやる」

理樹「いや…」

来ヶ谷「?」

理樹(そんな事をしても多分他の人にターゲットが代わるだけだろう…次は鈴だったりするかもしれない…ならここは僕が我慢すればいいだけの話だ……それに、正直そんな事に構ってる暇はない)

理樹「あはは…いや、なんでもないよ」

理樹(とにかく誰がこんな事をしてくるか分かっただけで今は充分だ)




休み時間

キーンコーン

真人「あっそうだ理樹」

理樹「?」

真人「昨日俳句大会で誰がやるかって話になったんだけどさ」

理樹「ああ、そういえば恭介が言ってたね……」

真人「あれ理樹と西園が代表者に決まったらしいぜ」

理樹「ええーーーっ!?」

真人「なんでも適任なのがその2人ぐらいしかいなかったと」

理樹「だからって当事者がいない間に決めないでよっ!」

理樹(慌てて西園さんに話を聞く)

タッタッタッ

理樹「西園さんっ」

西園「……なんでしょうか?」

理樹(西園さんは本をパタンと閉じると僕とは対照に落ち着きを払って対応した)

理樹「ぼ、僕と君で俳句を作るとか言ってたけど……!」

西園「ああ、その話ですか…それならもう作ってありますよ。恥ずかしいのでお見せするのは遠慮させてもよろしいでしょうか?」

理樹「なんだもう作ってあったんだ…なんかごめん、面倒を全部押し付けたみたいで」

西園「いえ、案外面白かったです」

理樹「あ、そう…」

理樹(ミステリアスが似合う人だった)

昼休み

裏庭

理樹「ふぅ……」

理樹(久々にゆっくり出来る昼休みが出来た…こんな時は熱いコーヒーでも飲んで……)

真人「……」コソコソ

理樹「………?」





焼却炉前

真人「コソコソ…」

理樹「どうしたの?」

真人「うおっ……っとなんだ理樹かよ…」

理樹「真人らしくないね。こそこそ隠れて何見てるのさ?」

真人「ああ、見てくれよ…なんか謙吾が女子と2人で密会してるとこ見つけたんだよっ…」

理樹「えっ?」



謙吾「~~~」

「~~~」


理樹「あ、本当だ……」

理樹(でもあの眼帯はどこかで見たような…)

謙吾「……む?」クルリ

真人「やべっ、気付かれたぞ逃げろっ!」

理樹「うわっ…!」

理樹(真人に背中を掴まれながら教室に辿り着いた。あれだとまだ謙吾には気付かれてはいないはずだろう…)

放課後

「起立!礼!」

ガヤガヤ…

理樹「やっと終わったか…」

理樹(葉留佳さんとの用事まではかなり時間があるな…どこかで時間を潰そうか……)

クド「わふ…」

理樹(クドがカバンを見つめて何やら寂しげな表情をしていた)

理樹「どうしたのクド?あっちへ行くかどうか悩んでいるなら………!」

クド「あっ、リキ!こ、これは違うんです!その…あの…っ!」

理樹「………なんだよ……それ…………!」

理樹(ここまで腹が立ったのは初めてだ。背筋からすうっと熱が消えていき、胸の方が逆に燃えるほど熱く感じた。あまりの怒りに手さえも痺れてきた……こんなことがよくもやれたものだ…)

鬱展開の連続はキツい
今日は寝かせてもらおう

理樹(僕は教室の方に向き直りあの連中を探した。流石にムカッ腹が立ってきたぞ…なんでクドがこんな事を受けなくちゃならないって言うんだ……見つけた!)

「アハハ!うっそぉーっ」

理樹「ねえ、ちょっといい?」

「えっ、なに…どうしたの直枝君?」

理樹(僕に嫌がらせをしていた2人がいけしゃあしゃあと首をかしげる)

理樹「どうしたの?じゃないよ…クドのアレは君らの仕業だろ?」

クド「な、直枝さんっ!?」

理樹(クドのカバンにはゴミがぶち込まれていた。ただでさえ母のことで悩んでいるというのに…)

「えーっもしかしてそれイジメ!?先生に言った方がいいんじゃない?」

理樹「僕はくだらない言葉遊びはしないよ。君らがやっているのは知ってるんだ。今朝僕の方にもやったよね?」

理樹(僕はあくまで冷静な口調をつとめた。お陰で他の人は僕らのやりとりに気付かず帰って行ってしまった…来ヶ谷さんを除いて)

「なにそれ。もしかして私達がやったって?」

理樹(態度からして犯人は一目瞭然だった)

「なら証拠見せてよショーコ」

理樹(クスクスと笑い合う2人。クドの母が居なくなる恐怖は嫌ほど分かる…そんな現状を知らない2人に言い様のない怒りが湧き上がった……ダメだ、手が出てしまう……!)

パシッ

来ヶ谷「落ち着け」

理樹「来ヶ谷さん…!」

来ヶ谷「なるほど、状況は察した。……ふむ、私のせいで君が退学になることは非常に惜しいな…」

理樹(手を放したと思うと来ヶ谷さんは僕の前に立った)

来ヶ谷「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ……か。猿にして随分賢い手を使ったな…」

「……」

来ヶ谷「先ほど証拠と言ったな?良いだろう、次に私の周辺の人間に危害を加えてみろ。必ず先生方が納得する証拠を挙げてみせよう」

「………はっ」

理樹(1人がニヤリと笑った)

「いいよ、やってみなよ!その代わりそんな事したらどうなるか分からないよ!?あんたが最近つるんでる連中との関係無茶苦茶にしてやるんだからっ」

「そのお高くとまった態度が気に入らないんだよ……ほら、やめてほしかったら謝んなさいよ!土下座してさ!」

来ヶ谷「………か…だと?」

「なに?聞こえなーい」

理樹(この……っ!)

来ヶ谷「どうなるか分からないだと?」

「……?」

来ヶ谷「それはこっちの台詞だっ!!」

「ひぃっ…!」

クド「く、来ヶ谷さんっ!」

理樹(来ヶ谷さんは女生徒の首襟を掴んで言った)

来ヶ谷「今は殺人者になってもいい気分だ……」

来ヶ谷「殺すぞ」

「う…ああ…」

理樹(まずい!来ヶ谷さんを止めないとっ!)

来ヶ谷「いま、恐怖を覚えたのなら二度と私に関わるな…このクズがあああああああっ!!」

理樹(言い終わって解放してやると2人は逃げ去ってしまった)

来ヶ谷「………ふん」

クド「あ、あの!ごめんなさいっ!!」

来ヶ谷「む?」

クド「わた、私のせいで2人にその…ご迷惑を……っ!」

理樹(今度は優しくクドの頭に手を置いた)

来ヶ谷「いやいや、謝るならこちらの方だよ。そもそも私が目をつけられたから君にまで被害が及んだんだ…もっとも、それも今日で終わりだが」

理樹「来ヶ谷さん…よかった」

来ヶ谷「…なにが?」

理樹「いやぁ…てっきり本気であの2人に手をあげるのかと…」

来ヶ谷「はっはっはっ。あんな奴らに私の安らぎ空間を侵されてたまるものか…そのせいでいつも通りの平穏な生活を送れなかったら本末転倒じゃないか」

来ヶ谷「……まあ、理樹君が先に頭に血が上っていたから私もいくらか冷静でいられただけだ。もしかしたら私だって物ぐらいには当たってかもしれん」

理樹(その『物』は無事では済まなかったんだろうなぁ……)

来ヶ谷「さ、帰ろうか」

クド「そうですね…2人ともありがとうございました!」

理樹(なんであれ無事に片付いてよかった……)







葉留佳「いた…あれだよ」

昌「………」

理樹(あれが三枝昌…なんだか風貌がダメな恭介みたいだ)

ザッ

昌「……あ?なんだぁお前ら…」

葉留佳「三枝昌でしょ?」

昌「ッチ…誰だよお前は」

葉留佳「分かってる癖に!ねえ教えてよ、私はいったいどっちの子供なの?」

昌「……そういうことか」

理樹(葉留佳さんの言葉を聞いた途端苦虫を潰したような顔になった)








……
……………

理樹「結局こっちも教えてくれなかったね……」

葉留佳「うん…そんな気はしてたけど…」

「………くすっ」

理樹「!?」

理樹(今、向こうで西園さんが僕に向かって笑いかけた…!?)

葉留佳「どうかした?」

理樹「いや……今、西園さんがいたような…」

葉留佳「えっ、どこどこー?」

理樹「いや、でも…多分勘違いだと思う…」

理樹(だってさっきの笑い方は西園さんらしくなかったし、なにより…)

理樹「日傘を差してなかったんだ…」



理樹部屋

トゥルルルル

クド『はい、もしもし?』

理樹「やあクド、あれから考えた?」

クド『はい…私、やっぱり行こうかと思います…でも……』

理樹(クドはまだ高校生だ。決心したといっても心の奥では誰かに背中を押してもらいたがっていた。……僕も行かせて何かあったらきっと物凄く後悔するだろう。だけど行かなかったらクドはたとえ事が解決したとしても一生後悔するはずだ)

理樹「僕も、それが良いと思うな」

クド『……!』

理樹「確かに危険だろうけど僕がクドの立場ならきっと行っていたと思う」

クド『はい!私も今覚悟を決めましたっ』

理樹「偉いよクドは…」

クド『いいえ、リキのお陰です…きっと私一人で悩んでいたら怖気づいて選択肢すら放棄していたかもしれません…』

理樹「そっか」

クド『それであの……ひ、ひ、ひとつお願いがあるんですが…!』

理樹「えっ?」

クド『もし、私がそれで無事に帰ってこれたなら…私と……』

理樹「と?」

クド『あ…えっと、その…や、やっぱりなんでもありません!』

理樹「ええーっ」

理樹(あっ、そうだ!課題を忘れていた…一応冗談にでも言っておいて損はないだろう)

理樹「ねえクド」

クド『はい?』

理樹「そこから帰ってきたら僕達付き合おう」

クド『わ、わふーーーっ!!』

理樹(話によると明日の早朝にはもう空港に着いていないといけないらしい。本当にギリギリに電話ん寄越してきたんだな…)

プルルルル

理樹「はいもしもし?」

沙耶「理樹君、今すぐ……の教室に来て」

理樹「……?」







……………
……

教室

コンコン

理樹「失礼します…」

沙耶「途中で影と出くわさなかった?」

理樹「うん、なんとかね…」

理樹(お陰で沙耶さんから渡されたこの銃を使わずに済んだ…ゴム弾だけど)

理樹「ところでなんでこんな所に呼び出したのさ?」

沙耶「それはここが昨日言ってた教室だからよ」

いや本当、明日になったら本気だすから!

理樹(上からの情報によるとここに隠し扉が仕掛けてあるらしい)

沙耶「理樹君、ここ触ってみて」

理樹(床に手を添えた)

ズコッ

理樹「……あっ、ちょっとだけ沈む」

沙耶「中心近くにある床全てが少しヘコむの。しかも中央に近付くにつれへこみが深くなっていく。きっとこれを机でも使って均等にすれば道が開けると思んだけど……」

理樹(机を重ねて形を作らないといけないのか……となると中央ほど高く積むわけだからこの形は…)

理樹「そうか…ピラミッドだ!ピラミッドのように積めば均等になるはずだよ!」





理樹「これで……っと!」

ゴゴゴ…

沙耶「す、凄いわ理樹君!さすが私の見込んだパートナーねっ!」

理樹(積み上げると教室の壁がスライドして人1人分の穴が出現した)

沙耶「よし、今日はここまでにしておきましょう」

理樹「えっ、行かないの?」

沙耶「まだ準備が万全とは言えないわ。どこまで続いているか分からないし」

理樹「じゃあどうするの?」

沙耶「そうね…明日食料とかを調達しましょう!」

理樹(今日はそこで解散となった)

理樹部屋

ピロン♪

理樹「小毬さんからメール…?」

『明日よかったら私とデートに行っちゃいなよゆー!(≧∇≦)』

理樹(あれ…いつの間にそんなフラグ立てたかな…とりあえず)

理樹『オッケー!』








4日目

理樹「ふわぁぁ…」

真人「お目覚めかい?」

理樹「や、おはよう真人」

理樹(今日も頑張るぞ!)

中庭

理樹「おはよう」

鈴「おはよ」

理樹「次の課題はなんだって?」

理樹(いざ鈴と付き合うとなってもだからと言ってあんまり何か変化するってことはないんだなぁ…)

鈴「これだっ」

『今日のHRで立候補しろ』

理樹「立候補……?」





教室

教師「時間割変更はこれだけだ。そして次に重要な話がある。実は午後の授業で理事長などお偉いさん方が視察にやってくる。そこで生徒に学校を案内させることになったんだが立候補する奴はいないか?」

理樹(これか!)

鈴「はい!」

理樹「はい!」






休み時間

恭介「へえ、2人が案内すんのか…理樹は大丈夫だとして鈴が心配だな」

鈴「問題ない」

理樹「ごめん、僕はあると思う…」

鈴「なっ!」

恭介「と言うわけで特訓だあっ!」

午後

理樹「練習の成果を見せる時が来たよ…」

鈴「うん…」

ブロロロロ

理事長「や、どうも」

鈴「2年の棗鈴です」

理樹「同じく直枝理樹です!」

市長「うんうん、元気が良い子たちですな」

ヌゥ…

理樹「!?」

理樹(市長の後ろに影が!誰も見えていないのか!?)

鈴「それでは行きましょー」

理事長「よろしく頼むよ」

トコトコ

理樹(うりゃっ!)

パンパンッ

影「……」スゥ…

市長「えっ!?今銃声が…っ!?」

理樹「き、気のせいですよ…あはは」

鈴「こちらが教室です」

理事長「ほぉ…」

プルルルル

理樹(こんな時に電話が……相手は…クド!?)

理樹「ち、ちょっとすいません!大事な電話なんですっ!!」

市長「え、ああ…どうぞ…」

ガチャ

理樹「もしもしクド…っ!?」

クド「な……おえ…さん……ザザザ…」

理樹(ダメだノイズが大きすぎてなんて言ってるのか分からない…)

クド「たす…けて………ザザザ」

理樹「え?ちょっ…」

ブツッ

理樹(いったいどういう状況だったんだー!?)

裏庭

鈴「こちらが北側の中庭です」

理事長「うん、なかなか手入れが行き届いているね」

西園「あっ、理樹君と鈴ちゃんだっ」

理樹「その声は西園さ……えっ?」

鈴「おお西園か。悪いが今は後でな」

理樹「はっ…?ほ、本当に西園さん!?なんか雰囲気というか性格変わってない!?」

西園「……えー?変なこと言うね理樹君は。鈴ちゃん、私なんかおかしい?」

鈴「おかしくないが今は取り込み中だ!」

西園「おー怖い!それじゃまた後でねー」

理樹「いやいや………いやいやいや!」

理樹(色々と豹変した西園さんはそのままどこかへ行ってしまった…)

鈴「最後にここが食堂で…」

「来ないで!」

理樹「えっ?」

理樹(女の子の悲鳴が聞こえた…その声の方向を振り向くと……ってお、屋上!?)

「馬鹿な真似は止めなさい!」

理樹(状況から察するにどう考えても飛び降り自殺寸前の女生徒とそれを止めようとする先生の図だった。…なんてことだ…鈴や理事長らは気づいていないけど……)

「うっ………きゃっ!?」

ガタッ

理樹「なっ!?」

理樹(さ、柵がちょうどボロボロで女生徒がバランスを崩して下に……!っていうかあの柵朱鷺戸さんが僕用に仕掛けた罠じゃないかっ!まずい、下には僕の時みたいに受け止める人がいない……っ!!)

謙吾「うぉおぉぉおおおーっ!!」

理樹(と、そこへ屋上からダッシュでダイブする謙吾。そのまま女子を抱きかかえて一緒に落ちてしまったっ!!)

理樹「け、謙吾ーーっ!!」

ドスンッ

理樹(派手な音がした。慌てて他の3人の視線もそちらへ向く)

理事長「いったい何事ですかな!?」

市長「今度はちゃんと聞こえましたぞっ!」

理樹(そんな…まさかこんな時に親友の別れが……)

ガサガサッ

理樹「……えっ?」

理樹(ちょうど飛び降りたところから音がした)

謙吾「……いてて…」

古式「………」

理樹(そこには我らが英雄宮沢謙吾と、その脇に抱えられた女生徒___失神しているようだ___の姿が!)

理事長「き、君たち…その怪我は!?さっきの音はいったい……」

謙吾「えっ?……あっ」

理樹(僕らの姿を認めて、そのお爺さんが何者なのか気付いた謙吾が一言)

謙吾「ご、ごほん……その…愛について語っていました」

市長「な、なるほど…愛ですか」

理樹(市長はあまりの血走った眼光の圧力で納得せざるを得なかった。一部始終を見ていた僕でさえ納得しかけた)




数十分後

理事長「いやぁ、今日はありがとうございました。2人の案内はとても良かったです…特に棗さん、あなたの目にはとても強いものを感じられました。それは何故ですかな?」

鈴「愛だ」

理樹(影響受けちゃってるよ!)





ブロロロロ

鈴「ふう…ミッションコンプリートだな」

理樹「だ、だといいね…」

放課後

理樹「ごめん、お待たせ!」

小毬「ううん、今来たところです!……えへへ、一度言ってみたかったんだこの言葉!」

理樹(小毬さんの私服はとてもよく似合うんだけどその…ユニークで特徴的だった)

理樹「じゃあさっき来たんじゃないんだね…」








小毬「そうだ理樹君、これ見てみてっ」

理樹(ボートを漕いでいると小毬さんはカバンから何やら取り出した)

理樹「これは…絵本?」

小毬「うんっ。今日ね、何故か気付いたら私の机にあったの…それ私の家にあったはずなんだけど最後のページで不思議なことが書いてあったから理樹君にも見てもらおうと思って。とっても懐かしい気持ちなんだけど…」

理樹「どれどれ?」

理樹(画用紙にクレヨンで描かれた絵本だった。小毬さんが懐かしがるということは母親が書いたものだったりするんだろうか)

ペラッ

『たまごからひよこさんが孵って、ひよこさんはにわとりさんになりました。にわとりさんはたまごを産んでたまごがひよこさんに………』




……………
……

『そうか、僕はこれだったんだ。と思い出しました』

理樹「……なんか、凄く哲学的な内容だね………ん?」

理樹(ページの最後になにかメッセージが書かれてあった…ギリギリ読める範囲の薄い文字……『サービスだ』)

理樹「サービス?いったいどういうことなんだ…」

理樹(なんとなく筆跡が恭介に似てない気がしないでもない)

小毬「そこのね、最後のページに名前が書いてあるの…」

理樹「……あっ、本当だ!」

理樹(『神北拓也』と書いてある)

理樹「お父さんの名前?」

小毬「ううん、違うの…お母さんに聞いてみたけど拓也って名前の人は親戚でもいないって……そして、その時のお母さんの顔を見て思ったの。聞いちゃいけないことだったんだって)

理樹「えっ、でもそれって…?」

小毬「いったい誰なんだろう…」

理樹(いつものニコニコ顔が今はほんの少ししょんぼりしていた)

夕方

理樹(帰り道のことだった)

ポツポツ…

理樹「うわっ…雨が降ってきた!行こう小毬さん!」

小毬「………あっ…」

理樹(小毬さんがどこか一点をみて動かなくなった)

理樹「なにを見てるの?」

理樹(視線を辿るとそこには溝でうずくまるように動かなくなっていた黒い物体……猫だった)

サッ

理樹「………」

理樹(とてつもなく冷たかった。もうこの猫はずっと前から力尽きていたんだろう)

小毬「なんで…動かないの……?」

小毬「う…うわぁぁぁぁあああああ!!」

理樹「こ、小毬さん!?」

理樹(膝をつき、頭を抱えて叫び喚いた。いったい小毬さんは…)

理樹「と、とにかく学校へ帰ろう!風邪引いちゃうよ!!」

理樹部屋

理樹(あれから小毬さんにはシャワーを浴びてもらった。しかし様子がおかしい…)

ガチャ

小毬「……」

理樹「あ、おかえり小毬さん。ごめん、男子のシャワールームなんか使わせて……って」

理樹(裸ワイシャツ……!)

理樹「いや、やめておこう…それより今来ヶ谷さんに着替えとか持って来てもらえるように電話しておいたから」

小毬「うん、ありがとうお兄ちゃん…」

理樹「えっ」

ガチャ

真人「おう…猫は埋葬しておいたぜ」

理樹「あ、ありがとう真人…」

理樹(お兄ちゃんって言ったか…今?)

小毬「どうしたのお兄ちゃん?」

理樹「いったい君はなにを…」

真人「り、理樹!?」

理樹「違う!そうじゃないよ!」

理樹「とにかく今は………」

理樹「………っ」

理樹「……」

理樹(それは突然やってくる。ああ、なんでこんな時にやってくるんだ…今こそ頑張らないと行けない時だっていうのに……)

真人「おい理樹…」

小毬「お兄ちゃん……?」

理樹(大丈夫だよ真人、小毬さん。いつものだから…)

バタンッ

……
…………
…………………


理樹「う…」

「起きたか?」

理樹「え……?」

来ヶ谷「熱は……」

理樹(すべすべした手が額に乗せられる。冷たくて気持ちいい……)

来ヶ谷「ないようだな。よかった…」

理樹(僕はベッドに寝ていた。来ヶ谷さんは頬杖をついて僕をじっと見ていた)

理樹「なんで来ヶ谷さんがここに…?」

来ヶ谷「なに、君が雨に打たれて倒れたと聞いてな。小毬君なら今鈴君の部屋で寝かせてある。真人少年は私が面倒を見ると言ったら恭介氏のところへ行ったよ」

理樹「そう……」

理樹(状況は分かった。…でも、それにしてもその姿勢だとどうしても胸が気になる…)

次回へ続く

来ヶ谷「そうだ、リンゴを差し入れに持ってきたんだ。もう大丈夫そうだが一応向いてやろう。ナイフはどこにある?」

理樹「ああ、カセットコンロの横に……って」

理樹(わ、忘れてた…すっかり寝こけてたけど今日は朱鷺戸さんとの買い物があったんだった!)

理樹「く、来ヶ谷さん!今何時!?」

来ヶ谷「6時半だよ」

理樹(さ、30分も遅刻してる…)

ガバッ

理樹「ごめん来ヶ谷さん!悪いけど外せない用事があるから…」

来ヶ谷「なんだせっかく向いたのに…」

理樹(早っ!?)

理樹「本当にごめん、埋め合わせは必ずするから!看病ありがとうっ!!」

来ヶ谷「まだ安静にしておいた方がいいとは思うが…」

バタンッ

来ヶ谷「……ふむぅ」

校門前

ダダダダッ

理樹「はぁ…はぁ……ってい、いない…?」

理樹(さては怒ってもう帰っちゃったか…)

ダダダダッ

沙耶「ぜぇ…ぜぇ……」

理樹「えっ…」

沙耶「……ご…ごめんなさい」

理樹(もしかして…)

沙耶「な、なによその目!……ええ、そうよ。遅刻したのよ!言い出しっぺの癖に遅れたのよっ!スパイの癖に寝坊したのよっ!速さが命の一流スパイがぐーすかよだれ垂らして寝てたわっ!!笑いなさいよ! 笑うが良いわ!ほらあーっはっはっは!って笑いなさいよ!!」

沙耶「あーはっはっは!」

理樹「えっとその…」

理樹(僕もその数十秒前に来てたなんて言えない…)



沙耶「水は買ったから後はロープを買いましょう」

理樹(そうだ、そういえばさっきはそれどころじゃなかったから聞けなかったけど一応朱鷺戸さんに聞いてみようかな…)

理樹「朱鷺戸さん、西園さんって知ってる?」

沙耶「え?西園さん?」

理樹「うん、実はクラスに西園美魚さんって人がいるんだけど最近物凄くキャラが変わったっていうか…」

沙耶「うーん…ごめんなさい、知らないわ」

理樹「そっか…」

理樹(なんか違うんだよな。前はもっとこう大人しめだったっていうか………あれ、前はそもそもどんなだったっけ…おかしい、上手く思い出せないぞ…)

沙耶「………」ジーッ

理樹「?」

理樹(朱鷺戸さんが急に立ち止まって何かを見ている…あれは…)

理樹「朱鷺戸さんクレーンゲーム好きなの?」

沙耶「へっ!?あ、いや…ち、違うわ!こんな子供じみたの……」

理樹「やってみる?」

沙耶「えっ?」

数十分後


沙耶「いよっしゃ取ったぁあーっ!どうよ、訓練で授かった空間把握能力を駆使すればこんなの余裕よ余裕!」

理樹「あ、あはは…」

理樹(その後門限までに買い物を済ませると寮の入り口で別れた)



理樹部屋

理樹(部屋に戻るとウサギのリンゴが数個ラップにされて机の上に置かれていた)

理樹「………」

クド『な……おえ…さん……ザザザ…』

クド『たす…けて………ザザザ』

理樹(クド……もしかしてあれは敵に捕まってしまった最後の電話で、もしかしたら今頃は……)

理樹「うう…」

理樹(僕があっちへ行くことが出来たなら……今、僕の手の中にある拳銃が徐々に手の熱で熱くなっていく感覚を覚えた)

テヴア

クド「………」

クド(直枝…さん……)

「あなたは責任者の娘だってね?お前を神への生贄に捧げたら怒りも沈んでこの災害も治るかもしれない…だからその準備をするまでここで大人しく待っておきなさい。……と言っても出ていけたらの話だけどね!」

クド(持ち物も全て奪われて今あるのはお母さんから貰った帽子とマントのみ。……これも私への罰なんでしょうか…当然です。母はこんな状況にいたというのに私は…)

理樹(クド……クド…)

クド「えっ…」

名称間違えた

テヴア

クド「………」

クド(リキ……)

「あなたは責任者の娘だってね?お前を神への生贄に捧げたら怒りも沈んでこの災害も治るかもしれない…だからその準備をするまでここで大人しく待っておきなさい。……と言っても出ていけたらの話だけどね!」

クド(持ち物も全て奪われて今あるのはお母さんから貰った帽子とマントのみ。……これも私への罰なんでしょうか…当然です。母はこんな状況にいたというのに私は…)

理樹(クド……クド…)

クド「えっ…」

理樹「クド……やっぱり行かせるべきじゃ…!」

クド『リキ…?リキですか…?』

理樹「!?」

理樹(どこからかクドの声が…!)

クド『そこにいるんですかっ?』

理樹「あ、ああ…聞こえるよ…!」

クド『………よかった。幻聴だったとしても最後にリキの声が聞こえて…』

理樹「さ、最後ってどういうことなのさ!?」

クド『私は…これから皆さんのために神様への供物にされます…でもいいんです。これがきっと私の贖罪なのですから』

理樹「どういう意味だよそれ…訳がわからないよ…!」

クド『いいんです、これが私が選択した道、こうなることこそが運命だったんです』

理樹「今どういう状況なのさ…ねえ…」

クド『もうどうにもなりません。ですがリキのせいじゃありません…ですから私がいなくなってもどうか、忘れてください』

理樹「………ふざけるなよ」

クド『えっ…?』

理樹「なんだよそれ…急にそんこと言われて納得出来るわけないだろ!なんでクドがそんな目に遭わなくちゃならないのさ!?」

クド『だからいいんです、私がいなくなったとしても…』

理樹「困るよっ!」

クド『!」

理樹「今どんな状態かは知らない…だけど君にはまだ生きていてもらわなくちゃならない…」

クド『どうして……』

理樹「僕が…直枝理樹が能美クドリャフカのことを好きになったから!」

クド『!?』

理樹「だから困るんだよ…勝手にいなくなってもらっちゃ…その体は君だけのものじゃない。君がいなくなれば僕やリトルバスターズのみんなが悲しむんだから…」

クド『……っ』

理樹(しばらく沈黙した。泣いているんだろうか)

理樹「クド…君の元にいけたなら……」

ピカッ

理樹「こ、これは!?手の中の銃がっ!!」




クド「ぐす……っ」

ピカッ

クド「……!!」

クド(いきなり拘束されていない方の右手に銃が!?)

ジャラ…

クド「……そう…ですよね…私もまだ諦めちゃいけないって事なんですよね…」

ガンッガンッ

クド(私は銃の柄で鎖を打ち付けた…リキや来ヶ谷さん、リトルバスターズの皆さんを悲しませないために足掻けるところまで足掻いてみせよう。そして最後は笑ってみんなの元へ帰ろう)

ガンッガンッ

バキンッ

クド「わふっ!」

ドテンッ

クド「よし…あとは脱出を……」

ギィ

「なにごとだ!?……こ、こいついつの間に銃を!……くそっ!」

チャキッ

クド「!!」



パンパンッ

ザバッ…

クド「はぁ……んっ…」

クド(中の球が人を殺さないゴム弾でよかった……あそこで殺していたらきっとずっとそこで佇んでいたかもしれない)



ヒュゥゥ

クド「風……出口が……!」

クド(どうか見守っていてくださいリキ。必ず学校へ…私の居場所へ帰って……そしたらさっき言いそびれた貴方への返事を伝えます)




……………
……




理樹「はぁ……」

ガチャ

真人「ただいま~っと……どうしたんだ?そんなショボくれて」

理樹「いや、ちょっとね…」

理樹(い、勢いとはいえ鈴という人がいながら他の人に告白しちゃったよ……ああ、なんて僕は罪深い野郎なんだ…でも、あの気持ちが嘘だといえば違う……と思う)

真人「なんかまるで彼女持ちの男が他にも好きな人が出来て心の中で葛藤してるみたいな雰囲気だな」

理樹(ここぞという時に当てに来る真人…)

真人「まあ俺は馬鹿だからよく分かんねえけどよ…何があっても俺は味方だ。どうしようもない時はこの筋肉を使え」

理樹「ありがとう真人……」

理樹(そして僕はクドの安否を心配しつつも今起きている問題を頭の中でぐるぐる考えているといつの間にか寝てしまっていた)

……………
……



5日目

理樹「ふわぁぁ…」

理樹(今日も頑張ろう)

食堂

「「「いただきます」」」

謙吾「という訳で昨日から俺も野球チームの一員となった。よろしく」

葉留佳「い、いつの間にぃー!?」

恭介「実は昨日謙吾はとある事情から骨を折った上に剣道部の顧問の怒りを買って大会出場禁止になってな。どうせ暇ならと野球を…」

理樹「いやいやいや!片手じゃまず走れもしないし打つのも難しいんじゃ!?」

謙吾「そういうだろうと思って昨日鈴との一騎打ちでホームランを打ってやった。それなら走る必要もないだろ?」

理樹「ええーっ」

恭介「今は能美がいないがこれでメンバーは揃った。という訳で…」

「お兄ちゃん」

小毬「お兄ちゃん。そこの醤油取ってくれない?」

理樹「え、あ…」

理樹(周りの空気が固まる!小毬さん…どうしてこんな事に…とにかく今日のうちにでも……そ、そうだ!事情を知っていそうなあの老人ホームの小次郎さんに聞いてみよう)

鈴「理樹」

理樹「?」

鈴「死ね」

理樹「うっ…」

理樹(彼女から変態の烙印を押された僕って……)

西園「もぐもぐ」

理樹「………」

理樹「ねえ、『西園さん』」

西園「うん?どーしたの理樹君」

理樹「ちょっと後で中庭に来てもらえる?」

西園「うん、いいよー」

真人「……そんでよぉ~」

理樹(こんな会話をしていても誰もなにも違和感を感じないなんて…)





中庭



西園「それでなに?話って。まさか告白?」

理樹「…君はいったい誰だ?」

西園「え?なにかの冗談?」

理樹「君はいったい何者なんだ!」

西園「………」

西園「ふっ…ふふふっ!私が誰か…?決まってるじゃない。私が西園美魚だよ……本当に嘘はついていない」

理樹「違うよ……僕の知ってる西園さんは…!」

キーンコーン

理樹「!」

西園「ほらっ、授業始まっちゃうよ」

理樹「くっ…」

理樹(違う違う違う!絶対おかしいはずなんだ!……でも、本当にそれを証明するものが見つからない…『それ』さえ見つける事が出来たならきっとあの西園さんを取り戻せるような気がするのに…)

ガサッ

来ヶ谷「ふぅっ……」

理樹「うひゃっ!?」

来ヶ谷「む……失礼な。私はこれでもただ挨拶を交わしたつもりだが」

理樹「いやいやいや…いきなり耳に息吹きかけるのは挨拶って言わないよ…」

来ヶ谷「じゃあ少年はどれがお好みか?」

理樹「普通に『おはよう』とか『こんにちは』かな」

来ヶ谷「ダメだ。普通過ぎてつまらん」

理樹「いやいやいや」

来ヶ谷「理樹君はその『いやいやいや』って言うのが好きだな」

理樹「いやい……はっ!」

来ヶ谷「はっはっはっ!」

理樹「うぅ……」

真人「………」


…………
……

昼ご飯

恭介のクラス

恭介「どうしたんだ真人、急に俺と謙吾と理樹だけを集めて」

真人「ふっ、まあ聞けよ」

理樹(自信満々気に鍛え上げられた胸を叩いた)

真人「理樹、お前来ヶ谷のことが好きだろ」

理樹「ぶぅぅぅーっ!!」

謙吾「な、なんだ理樹!汚いぞ!」

恭介「それマジかよ…っ!?」

理樹「けほっけほっ…い、いきなり何て事を言うのさ!?」

真人「俺は気付いちまったのさ…来ヶ谷と話している時だけ理樹の様子が違っていることにな」

謙吾「本当か?そもそも真人がそういう事に知識があるとは思えんがな」

真人「なんだとぉ?こっちはちゃんとその証拠があんだよっ」

理樹「えっ?証拠?」

真人「実は昨日理樹が倒れたあと、来ヶ谷が付きっ切りで看護していた」

理樹(ああ…)

謙吾「なん……だと……!?」

恭介「まあ落ち着けよお前ら。結局そんなの理樹の今の気持ちがどうなのか…それが全てだろ?で、どうなんだい?本当のところ」

理樹「ぼ、僕は……」

理樹(強くてカッコよくて…どっちかというと恭介と並ぶ憧れの存在だった来ヶ谷さん。僕は今来ヶ谷さんをどう思っているんだろう…鈴やクドの事は置いておくとしても……)

謙吾「理樹、なんか顔赤くないか?」

理樹「えっ!?」

真人「あ、本当だ」

理樹「いや…これは……っ!!」

恭介「決まりだな」

理樹「なにがさ!?」

理樹(かくして、何故か来ヶ谷さんと僕をくっ付けるために親友の三人が動いた。鈴と付き合ってる事を言わなくて本当に良かった…)

恭介「だからそこで……」

謙吾「いいや、ここはあえて正面からだな…」

理樹「ああああ…なんだよこれ…」

真人「理樹、ちょっと来い」

理樹「えっ?」

理樹(真人が他の2人に聞こえないように僕になにかを掴ませた)

タプン

理樹「これは?」

理樹(気味の悪い色をした液体が入っていたペットボトルだった)

真人「マッスルエクササイザーセカンドだ。この間の理樹の評判が良かったからな!」

理樹(葉留佳さんの実家問題。クドの故郷の暴動。豹変した西園さん。おかしくなってしまった小毬さん。学園の財宝。そして謎の人物からの課題……これらの問題を抱え、たまにぶっつぶれている今、僕が一番必要としたいたのはこれかもしれない…それに以前これで助かったのは事実だ)

真人「欲しいならやるよっ」

理樹「……ゴクリ」

理樹(こいつの力を借りるか?一度飲んだらもう戻れない気もする…なによりとてつもなく不味そうだ……でもこれから先の問題を解決するにはこれを頼るしか……)

理樹「分かった…いただくよ」

キュッ

理樹「………」

ゴクッゴクッ

理樹「……っ!!」

理樹(暑い…か、体が暑い!!指の爪まで燃えるように身体の温度が上昇しているっ!!)

理樹「か…かはっ…!!」

真人「お、おい大丈夫か理樹!?や、やっぱり皇潤はやり過ぎたか!?」

バタッ

恭介「どうした?」

謙吾「理樹…?」

真人「い、いや…起きたぞ…!」

ムクリ

理樹「………」

次回、理樹覚醒

理樹(優しい力だ……なにかこう鍛え上げられた肉体が僕を包んでいるかのような感覚だ。ここ最近、疲労続きだったがみるみるうちにその元気が何倍も増幅して帰ってきたぞ!)

真人「理樹?」

理樹「うん?ああ、大丈夫だよ真人…もう心配はかけさせない」

ガチャ

恭介「おいどこへ行くつもりだ?」

理樹「ちょっと来ヶ谷さんのところへ…ね」







裏庭

理樹「おーい来ヶ谷さーん」

来ヶ谷「やあ。君から会いに来るとは珍しいな」

理樹「まあね」

来ヶ谷のカフェテラス

来ヶ谷「で、なんの用だ?」

理樹「………」

ジーッ

理樹(来ヶ谷さん。綺麗でカッコよくて頼りになって……誰にも渡したくない。こういう気持ちがもしかしたら恋という奴かもしれない。それは鈴達と寸分変わらない…でもこの時点でみんなを浮気している僕は……)

来ヶ谷「どうした、そんなにジロジロ見て。私に惚れたか?」

理樹「きっと…そうなのかもしれないね」

来ヶ谷「なぁっ」

理樹「来ヶ谷さん、僕は君が好きだ」

来ヶ谷「………」

理樹(俯く。僕も次の言葉が出るまで待つ)

来ヶ谷「理樹君……私は………君の…その…気持ちに答えることは…出来ない」

理樹「………っ」

来ヶ谷「というか、誰の気持ちにも答えられない……ああ…理樹君がいいなら聞かなかったことにも…」

理樹(来ヶ谷さんは顔を上げた。それは、何故か僕にすがりつくような目だった。本当に申し訳なさそうで…)

来ヶ谷「花を摘んだことがあるんだ。私はそれを持ち帰った……だけどすぐに枯れて…たまらなく後悔する」

理樹(きっと普段の僕ならここで諦めていたかもしれない。そして来ヶ谷さんに甘えて無かったことにしてもらい、いつものような楽しい生活に戻っただろう……それでも僕は…)

理樹「嫌だ!例え振られたとしても好きな人に想いを伝えたことを無かった事にはしたくない!」

来ヶ谷「い…」

理樹「僕は絶対に諦めないから…!まだ君から答えを聞いちゃいないんだ。だからそれまでは…」

来ヶ谷「や、やめてくれ…」

理樹「来ヶ谷さん可愛いよ!付き合って!!」

来ヶ谷「やめろと言っているだろう!」

理樹(また顔が赤い。いつもは自分がいじり倒しているだけにやはり攻めには弱い)

理樹「諦めてたまるもんか…なんで僕が降参しないといけないのさっ!」

来ヶ谷「ふっ…」

理樹(笑った?)

来ヶ谷「まったく。君ほど私の調子を狂わせた人間はいない」

恭介部屋

ガチャ

理樹「……」

恭介「お、帰ってきたか」

謙吾「どうだった?」

理樹「なんか…オーケーもらっちゃった」

ガラガラガッシャーン

理樹(それを聞いた瞬間各々に派手なずっこけ方を披露した。酷い…)

真人「ま、マジかよ…理樹のこと今度から理樹さんって呼ばせてくれ…」

恭介「こりゃもう謙吾のロマンティック大統領の座は理樹に譲渡するしかねえな…」

謙吾「ああ……仕方あるまい…」

理樹「そもそもそんな称号いつ作られてたのさ…」

放課後

真人「よーし帰ろうぜ理樹」

理樹「うん」

西園「ふぅ……」

理樹(………)

理樹「ごめん真人、先行っといて」

真人「あん?どうしたんだ急に…ははあ、さては来ヶ谷とデートか!」

理樹「まあそんなところ」

廊下

西園「それじゃまたね!バイバーイ」

「うん、バイバーイ」

「またね西園さんっ」

理樹(さっきは無理だったけどこのタイミングならいける…でも今からどこへ行こうっていうんだろう)





中庭

西園「……」

トコトコ

理樹「……」

理樹(まだ気付かれてはいない。しかしどうしたんだ…グラウンドも女子寮もここからは逆方向だけど)



校門

西園「……」

理樹「!?」

理樹(なんだって!?学校を出てどうするつもりなんだ…)



西園「……」

理樹(学校から近い海へ出た。潮の匂いがする…浜辺に出てなにを…散歩なのかな…?)

西園「……ねえ美魚」

理樹(自分の名前をそう呼ぶと木の陰からなんと……もう一人の西園さんが出てきた)

西園「はい。美鳥…」

理樹「なっ!?」

西園「「?」」

理樹「あ、やば…」

西園「な、直枝さん!」

西園「あーあ。遂に見つかっちゃったか…」

理樹「に、西園さんが…2人!」

西園「ま、いいか。どうせ君も『忘れちゃうんだし」

理樹(2人の少女は寸分違わず同じ空間に立っていた。もしもお互いが同じ動きをしていたなら鏡を立てていると言っても信じただろう)

理樹「ふ、双子…?」

西園「クスクス…確かに双子みたいなものかもね。ねぇ、お姉ちゃん?」

西園「美鳥……」

理樹「美鳥?それが君の名前か!」

理樹(もしかして双子で姿が瓜二つなのを利用して姉(?)の方の美魚さんと入れ替わったとか?それでマフィンがどっちが美味しいのか競争したりして…)

理樹「と、とにかく事情を説明してよ!」

美魚「………」

美鳥「じゃああたしが言ってあげる。その前にさあ、やっぱり理樹君もまだ気付いてないようだね」

理樹「?」

美鳥「私たちに影がないこと」

美鳥「はいっ」

理樹(美鳥が美魚さんのいつも大事に持っていたあの日傘を奪ってしまった)

美魚「美鳥!!」

理樹(美魚さんが悲痛な声をあげる。しかし時すでに遅し…もはやSFの世界。晴れた太陽の下に立つ2人に影はなかった)

美鳥「ふふふっ、おかしいでしょう?美魚はこんなことを気にして日傘をずっとさしてたんだよ?」

理樹「あり得ないよ……こんなこと…」

美鳥「だから話してあげるって」






……………
………

理樹(西園さんは…小さな頃に僕のように寂しい思いをしたせいか、いつの間にか

理樹「本当なの?」

美魚「………」

美鳥「だから…ね?美魚がそう言ってるんだからさ」

理樹「そんな!ダメだ美魚さん!」

美魚「いいんです…これが…私が望んだことだから」

美鳥「それに今に理樹君もあたしと美魚の区別がつかなくなる。美魚が消えた時、あなたは忘れてしまって他の人のようにわたしを受け入れる」

理樹「そんな訳ないだろっ」

美鳥「ふーん…」

プルルルル

理樹「こんな時に……もしもし?」

鈴『理樹、相談がある!』

理樹「ごめん、ちょっと今はそれどころじゃ…」

理樹(チラリと2人の方を向き直ると……消えていた)

理樹「な、なんで……」

鈴『とにかく来てくれ!今理樹の部屋にいるっ』

理樹「あ…わ、分かった!」

理樹(仕方がない。2人は後で探そう)

理樹部屋

ガチャ

鈴「理樹!大変なんだっ!」

理樹「それはさっきも聞いたよ…それで何が大変なの?」

鈴「かくかくしかじかだ」

理樹「いやそれで通用するの漫画の世界だけだから…」

鈴「実は…今日先生から併設校へ行ってみないかって」

理樹「併設校?」

恭介「その話は俺が説明しよう」

理樹「うわっ!?」

理樹(完全に気配を消して部屋の隅に立っていた…恭介はたまにこういうことをするから油断ならない)

恭介「この間ちょっと騒ぎになった修学旅行でのバスの事故を覚えているか?」

理樹「それなら僕も知ってるよ。1つのクラスがみんな死んじゃったんだってね」

恭介「その事件が起きた学校はそのせいですっかり暗くなってしまったらしい…そこで元通りとは行かないまでも少しでも活気を取り戻すために交換留学の話が出てきたんだ」

理樹「併設校へ交換留学?」

恭介「この間2人が理事長達を案内しただろ?そこで鈴が目に止まり、その候補となった訳だ」

理樹「いや、いやいやいや!そんなの無理に決まってるじゃないかっ。だって鈴は人見知りで僕ら以外の人とあんまり話せないし…」

恭介「だからこそ、この先の鈴の為にも俺は行かせた方がいいと思う」

理樹「そんなでも……そ、そうだ鈴は?鈴は併設校に行きたい!?」

鈴「あたしか?そうだな…」

鈴「あたしは理樹とか小毬ちゃん達と離れたくない」

恭介「いや、だけどな…」

理樹(そうさ!今回ばかりは恭介がなんと言おうと鈴は首を縦に振らないだろう。なんといったって僕らは付き合っているんだから。もっともこれは僕らだけの秘密だけど……)

ガチャ

来ヶ谷「入るぞ」

恭介「ん、来ヶ谷か?何の用だ」

来ヶ谷「君らには関係ない。私は理樹君と喋りたいだけだ」

鈴「理樹だけと?」

理樹「えっ」

来ヶ谷「こんな人がいるところで言うのも見せびらかすようで少し恥ずかしいがどうせ恭介氏らには言っているんだろう?」

恭介「あっ」

来ヶ谷「なあ理樹君。これからもし良かったらだがデートへ行かないか?私達の恋人として初の……な?」

理樹(顔を少し紅潮させてそういう来ヶ谷さん。非常にまずい)

鈴「な……な……」

理樹「違うんだ鈴これは!」

バンッ

鈴「理樹なんか…理科なんか嫌いじゃボケェーーーーッ!!もう勝手にしろ!私は併設校行くからな!」

ダダダッ

理樹(や、やってしまったぁぁ………)

来ヶ谷「……?なんだかよく分からんが女の子を黙って行かせるのは男としてどうなんだ少年?早く追いかけに行け」

理樹「で、でも来ヶ谷さんの…」

来ヶ谷「構わん、行け」

理樹(く、来ヶ谷さんが恋愛方面に対して鈍感で本当によかった……)





中庭

理樹「はぁ…はぁ……い、居ない…」

「そんな息切らせて誰を追っかけ回してるの?まるでそれじゃストーカーか変質者よ」

理樹「そ、その声は…」

佳奈多「それよりあなたと話したいことがあるんだけど」

理樹(ふ、二木さん…)

理樹「悪いけど説教なら後で…」

佳奈多「葉留佳の事よ」

理樹「………っ」

理樹(こう言われると足を止めざるを得ない)

佳奈多「ベンチで話しましょう」





………


佳奈多「よいしょっと」

理樹「で、葉留佳さんについてなんだって?もしかしてまた僕は関わるなとか言うの?」

理樹(二木さんは周りに誰もいない時に会うとよく葉留佳さんのことに関与するなだとか小言をよくぶつけられる)

佳奈多「ええそうよ。だってあなた部外者じゃない?他人がシャリシャリ出てくるんじゃないわよ」

理樹「ぼ、僕は確かに問題の外にいるただの赤の他人かもしれない…だけど葉留佳さんの手伝いぐらい!」

佳奈多「ふん…あなた葉留佳のなんなの?」

理樹「それは……」

理樹(僕は葉留佳さんのなんなんだろう…何があって僕はここまで葉留佳さんのためにしているのだろう)

理樹「なんで……僕にも分からない…」

佳奈多「はあ…なるほど、あなた葉留佳が好きなんだ?」

理樹「え、ええっ!?」

佳奈多「だってそれしかないじゃない。男が女を助ける理由って。…もしくはとんだお人好しか」

理樹「いやそんなつもりで葉留佳さんを手伝だっていた訳じゃ…」

佳奈多「じゃあ嫌いなの?」

理樹「いや、そんな事はない…けど」

佳奈多「決まりね…でもいいの?あの子は多分あなたが想いを告げたら簡単にそれに答えるでしょうね。だけどあの子は誰だっていいの。話を聞いてくれてそれに同情してくれる人間なら誰でも…」

理樹「葉留佳さんはそんな人じゃない!」

佳奈多「どうかしらね。…なんなら私と付き合ってみる?案外上手くいくかも」

理樹「ふざけるなっ!」

佳奈多「あらら…振られちゃった。じゃあね…そして言っておくわ。あなたじゃあの子は救えない」

理樹(………待て、そうだ!)

理樹「二木さん、ちょっと待って」

佳奈多「なに?」

理樹「二木さんからなら…二木さんから三枝昌に頼めば本当の子がどちらか教えてくれるんじゃないかな」

佳奈多「……そう言うと思った」

理樹(二木さんは僕の台詞を聞いてひどく落胆した様子だった)

佳奈多「あの人は私でもダメだと言うわ。どうしても聞きたいなら『2人揃って来い』と」

理樹「そう言ったの…?」

佳奈多「あのね、直枝理樹。あなたはそのままでは本当の意味で葉留佳を救えないわ……さようなら」

理樹「あ、二木さん!」

理樹(行ってしまった…)




理樹(鈴の方は結局見失ってしまった…一応メールは送ったけど……)

理樹「とにかく今僕に出来るのは…」





老人ホーム

理樹「失礼します」

小次郎「なんじゃ小僧か。また掃除に来たか?まだ一週間と経ってはおらんが……」

理樹「小次郎さんだって一週間経ってないのにもう完全に散らかってるよね…」

小次郎「まあな」

理樹「と、とにかく!今はそれどころじゃないんですよお爺さん」

小次郎「誰が爺…!」

理樹「それどころじゃないってば!」

小次郎「ふむ……まあ、いいわい…して、なんの話じゃ?」

理樹「それが…小毬さんが僕の事を…」





小次郎「……そうか…」

理樹「小次郎さん、何か分からないですか!?」

小次郎「どうしてワシに聞く?」

理樹「だって小毬さんの親戚なんでしょう?この際聞くなと言われてもそれに頼るしかないよ!」

小次郎「随分強引な奴になったの…まあ、ワシもお前ぐらいの時はそれぐらいわんぱくだったが…」

理樹「小毬さんは以前もあんな事を?」

小次郎「そうじゃのぉ…それを言う前に聞きたいんじゃがその小毬の気が触れた直前に何かなかったか?例えば大量の血やら何かが死んでしまったところを目撃したという具合に」

理樹「なんでそれを!?」

小次郎「何があったっ」

理樹「猫が……死んでいたんです。溝に倒れていて、僕が見た時にはもう……」

小次郎「そうか…」

理樹(やっぱりかという顔になる小次郎さん)

小次郎「昔、ワシには妻がおった…名を『こまり』という」

理樹「……!」

……………
……

理樹「そんな…!まるで今の小毬さんと同じじゃ…!」

小次郎「あやつが死ぬ3日前にワシの事を思い出さなかったら奴を妻と呼ぶ事もしなかったろう。さて、ここからじゃ…」

理樹(一つ咳をして口を開いた)

小次郎「小毬には兄がおった。その兄は…お前さんもだいたい想像はついておるだろうが…小毬が小さい時に…」

理樹(小毬さんには拓也さんという兄がいた。拓也さんは昔から身体が弱くて病院でずっと入院していた。そこへ毎日のようにお見舞いに通っていた。しかし…)

小次郎「ある朝、小毬は目を覚ますと兄は既に血を吐いて…冷うなっていたのじゃ……そしてそのショックから小毬はこれを夢だと思い込むようになった。その記憶は生き物が死んだところを見て思い出し、やがて誰かを『兄』に仕立て上げて少しの幻を見ながら少しずつ忘れていき、やがて元に戻るという」

小次郎「ワシは…こまりの事を見て見ぬ振りをして暮らした…その結果がこれじゃ。老い先短いワシが小毬と居ては結果は見えておるじゃろう?……あの子を同じ目に遭わしたくない」

理樹「分かりました…」

小次郎「なんじゃと?」

理樹「出来る限り…僕が出来る限りで小毬さんに協力しようと思います」

小次郎「……そうか」

理樹「ですから…その代わり、もし克服する事が出来たら小毬さんと会ってくださいね?」

小次郎「ふん…それぐらい……」

理樹「あと小毬さんを僕にください」

小次郎「それは別の話じゃ」

理樹「………」

女子寮

理樹(いや、別に小次郎さんに許可をもらう必要はないか…課題の達成は多分彼女にしろというだけだから結婚するまで行く必要は……でも小毬さんなら…)

小毬「お待たせお兄ちゃん」

理樹「や、やあ小毬さん…」

小毬「お兄ちゃんが言ってた本持ってきたよぉ~これでいいの?」

ガサッ

理樹(卵とにわとりの本…これだ)

理樹「うん、ありがとう!」

小毬「でも変なの。こんな本無くったってお兄ちゃんがいるから私は平気なのに」

理樹「小毬さん…明日の昼に屋上にこれる?」

小毬「?」

夕方

理樹部屋

理樹(貼るべき布石は打った。あとは僕が頑張るのみだ!)

ガラッ

来ヶ谷「画用紙とクレヨンはこれでいいか?」

理樹「うん、ありがとう!」

来ヶ谷「なーに、これぐらい恋人ならお安い御用だ。ところで何を描くんだ?」

理樹「にわとりと卵、そしてその仲間だよ」

来ヶ谷「ふむ……ああ、そういえば鈴君をさっき見たよ」

理樹「あ、本当!?それはどこ…」

来ヶ谷「鈴君の部屋の前だ。何やら荷物をまとめていたようだが…」

理樹(なんだって!?)

校門

恭介「どうした浮かない顔して…これからお前はみんなを笑わせに行かなければならないんだぞ?しゃきっとしろ」

鈴「………うん」

ダダッ

理樹「はぁ…はぁ…!」

鈴「……!」

バタンッ

ブロロロロ

理樹(校門へ駆け出したが一足遅かった。鈴は僕の姿を認めるともう車で行ってしまった)

真人「理樹…遅かったな」

理樹「なんで今日行くって教えてくれなかったのさ!?」

恭介「言ったらお前は行かせたか?」

理樹「だ、だって…」

理樹(そうか、恭介は気づいていたんだ。僕と鈴の関係に…)

恭介「これは鈴を成長させるために必要な事なんだ。心を鬼にして行かせなくてはならない……といってももう行っちまったから何を言っても遅…」


理樹「……いや、間に合わせる!!」


恭介「なんだと?」

理樹(真人から貰ったドリンクは幸いにもまだ効いてる…今の体力なら…!)

ダダダッ

恭介「お、おい!」




理樹「はあ…はあ!」


ブロロロロ


鈴「………」

『鈴……鈴!』

鈴「……っ!?」

ダダダダッ

理樹「鈴……行っちゃダメだ鈴!!」

鈴「り、理樹!?」

理樹(よし、大丈夫だ…この調子なら追いつけ……)


ピピーッ

理樹(しまった…横から車が…!)

ガンッ

理樹「うわぁぁぁぁあっ!!」

………………
………




理樹「………また、倒れたのか…僕」

謙吾「起きたか?」

理樹「謙吾…僕はあれから?」

謙吾「ああ、お前は鈴の車を追っかけていると別の車に轢かれて気絶した…しかし当たりどころが良かったのか一箇所も骨折しなかったんで保健室に運ばれた訳だ。どうだ?痛むか?」

理樹「いや…これと言っては特に」

謙吾「そうかぁ…ならいいんだが」

理樹「謙吾…今何時?」

謙吾「今は夜中の7時半だ」

理樹「分かった…」

ヨロッ

謙吾「お、おい!どこへ行くんだ!?轢かれたばかりだろ?」

理樹「いや、ちょっと用事があるんだ……」

教室

ガラッ

沙耶「ちゃんと来たわね理樹君?心なしか疲れてるように見えるけど…」

理樹「いやなんともないよ」

沙耶「そう?それじゃあ地下迷宮の探検に行きましょう。…いよいよね」

理樹「うん……!」



……………
………



地下迷宮

沙耶「っと…よし、秘宝は最奥地にあるはずだからどんどん下へ行けばたどり着けるはずよ」

理樹「分かった」

影『…………』

沙耶「現れたわ!影よ、理樹君撃って!」

理樹「……あ、ごめん!朱鷺戸さん!」

沙耶「?」

理樹「ちょっと…その…あの貰った銃なんだけど今ないんだ」

沙耶「な、なんですって!?それじゃ影を倒せないじゃない!」

理樹「いや、僕はこれで行く」

ソォ…

沙耶(あ、あの構えは……)

沙耶「八極拳!?」

影「………」ヌゥ

理樹「フゥ………ハッ!」

パァンッ

沙耶(八極拳、中国の孟村で発祥したと伝えられる…武術。また、半歩拳法という別名も持つ)

理樹「フンッ!」

パパンッ

沙耶(その理念は、八極…すなわち八方の極遠にまで達する威力で敵の防御を打ち破るというもの)

沙耶(数ある中国拳法の中でも屈指の破壊力を誇と言われているこの武術を使いこなすなんて…何を食えばこんなことが急に出来るようになるの……)

影「ぐっ………」

バタンッ

スゥ……

理樹「ハァ…ハァ…これでこのフロアの影は殲滅したかな沙耶さん」

沙耶「た、多分……って今私のことなんて呼んだの!?」

理樹「え?沙耶さんだけど…もうそろそろ下で呼んでもいいかなーって思って」

沙耶「良かないわよ!あなた私の彼氏にでもなるつもりなの!?私処女なのよ!責任取れるの!?」

理樹「えっ……」

沙耶「あ…ま、また自爆……」

……………
………


理樹「ふぅ……つ、次行こうか…」

沙耶「いいえ、ここで一旦帰りましょう。多分構造上からして半分以上の階は攻略しただろうし1日でこれなら明日にはゴールにたどり着けるかもしれないし焦る必要はない。それに…あなたも流石に体力の限界でしょ?」

理樹「いや、まあ…」

沙耶「それじゃ今日はここらで引き上げましょう」

理樹「分かった…ありがとう沙耶さん」

沙耶「か、勘違いしないでよ!私は戦力がいざと言う時に使い物にならなかったら困るだけなんだからっ!」

理樹「僕でも戦力のうちに入るんだね」

沙耶「いや、入らない方がおかしいわ」

理樹部屋

理樹「ひぃ…ひぃ……」

真人「お、おかえり…今日は一段に増してヤバそうな顔してるぜ…なんか買ってきてやろうか?」

理樹「ああ、それなら適当なエナジードリンク買ってきてくれない?」

真人「分かったぜ!」

理樹「さて………」





………………
………

スラスラ

理樹「うわぁ…絵ってめちゃくちゃ難しいんだな……」

ガチャ

真人「ただいまーっと…ん?絵を描いてるのか理樹」

理樹「うん。あ、そこに置いといて」

真人「なんだかよくわからねえがお前途轍もなく忙しそうだな…」

理樹「いやいや、これでも真人のおかげで体力面だけは心配しなくてよくなったからだいぶマシな方だよ」

真人「へへっ、そう褒めるなよ」

理樹「真人はもう寝てなよ。僕もこれ完成したら寝るからさ」

真人「そうか?…分かった。あんまり無理すんなよ?」

理樹「うん。おやすみ」

1時間後

理樹「………はっ…今、ちょっと寝てたかも…」

理樹(いけないいけない…〆切は明日の昼なんだ…ここで寝てどうする!)

コンコン

理樹「…どうぞ?」

ガチャ

来ヶ谷「やあ」

理樹「え、ええーっ!こ、こんな時間にどうやって入ってきたの!?」

来ヶ谷「そんなことは気にするな。それより新しい画用紙を持ってきたぞ。そろそろ足りなくなるだろうと思ってな」

理樹「それはありがとう。確かにほとんど破れたりしてなくなったんだ…」

来ヶ谷「ふむ……理樹君は絵が苦手か」

理樹「うっ……」

来ヶ谷「なんなら私が手伝ってやろうか?背景ぐらいならアシスタントとして描いてやらんこともない」

理樹「えっ、本当!?」

来ヶ谷「うむ。まあ任せておけ」

理樹(こうして来ヶ谷さんと二人で作業することとなった……)

2時間後

理樹「で、出来た……!」

来ヶ谷「お疲れ様だったな」

理樹「う……もう限界だ……っ」

来ヶ谷「よく頑張ったな理樹君。ご褒美にお姉さんがナデナデしてやろう……今日はゆっくりお休み……」

理樹「う…ん……」

理樹(本当なら恥ずかしがるところだけど正直今はそんな余裕はなかった……心地いい頭の感覚と来ヶ谷さんのなんか甘い匂いで……僕は…………)





……………
………


チュンチュン

理樹「う、ううん………」

ゴシゴシ

理樹「朝……か」

6日目

食堂

カチャカチャ

恭介「………」

理樹「モグ…」

謙吾「………」

真人「ゴクッゴクッ…」

来ヶ谷「……」

葉留佳「……」

小毬「えへへ……」

理樹(いつもの朝食はほとんど会話がなかった。謙吾や真人はともかく恭介とは意見の相違があり、葉留佳さんも打破出来ない現状に少し苛立ちを覚えている。小毬さんもあの調子だし鈴と西園さんとクドは今はいない…今の公平な味方は来ヶ谷さんぐらいだろう)

来ヶ谷「理樹君、今日は西園女史が来ていないようだな…」

理樹「うん…」

来ヶ谷「クドリャフカ君はどうだ?あれから返事は」

理樹「まだ……」

来ヶ谷「ふむ……」

中庭

理樹「なんだかなぁ…」

理樹(一週間であまりに色んなことが起き過ぎた。これじゃ精神的にかなり参ってしまうよ……)

ピロンッ♪

理樹「メール?……誰だ」

『校門にいます』

理樹「いたずらかな?……とりあえず行ってみようか…」






校門前

理樹「どこにいるんだろうメールの主は…」

パタパタ

理樹「?………っ!」

クド「お久しぶりです、リキ!」

理樹「クドっ!!」

理樹(振り返るとそこには待ち望んでいた…何度も願った彼女の姿がそこにあった)

続く

次回でサブキャラのほとんどのルートが終わる

理樹「クド!」

理樹(近寄ってあちらこちらを撫でてみた。幻想じゃない)

クド「リキ、私ちゃんと帰ってきました!お母さんとは会えませんでしたけど……でも、故郷では暴動は収まって…」

理樹(そう、あの後警察によって暴徒は鎮圧されて国は平和を徐々に取り戻していった。それでもまだクドと連絡がつかなかったけど……)

理樹「どうして帰ってくるって言ってくれなかったのさ!僕だって余裕が出来たらクドの心配しかしてなかったっていうのに…」

クド「ごめんなさいですっ。リキをちょっとびっくりさせたいと思いまして……あっ」

理樹「それにしても良かった……本当に戻ってきてくれて」

クド「もじもじ……」

理樹「?」

理樹(クドはハッと何かを思い出した顔をすると、途端に恥ずかしがった)

理樹「どうしたのさ」

クド「あのぉ…そ、そう言えば最後に会話した時のこと覚えてますか……?」

理樹「最後?」

数日前


理樹『ねえクド』

クド『はい?』

理樹『そこから帰ってきたら僕達付き合おう』

クド『わ、わふーーーっ!!』


……………
………


理樹「ああ…あの冗談ね」

クド「えっ……」ジワッ

理樹「あっ!い、いやいやいや!冗談って言うのが冗談だよっ!」

クド「じ、冗談が冗談で……つまりどういうことでしょうか…?」

理樹(も、もうすぐで泣かせるところだった!)

理樹「つまり…ぼ、僕と付き合ってください…ってこと……かな」

クド「わ、わ、わふー!?」







裏庭

理樹(結局付き合う事になった。しかしなんだか今思うとかなり上手くいきすぎてる気がするぞ…これも課題を出した者の計算通りなのだろうか………それにしても…)

理樹「なんでみんな僕の好みにどストライクな人ばっかりなんだろう…」

「だーれだ!」

理樹(突然冷たい手で両手を覆われた)

理樹「その声は……西園さん?」

美鳥「せいかーい…」

ニコリ

理樹「西園さんは今日も暇そうだね」

理樹(僕が手を剥ぎ取ると彼女は手を握り返して言う)

美鳥「えへへ~まあね。私も読書とかしようかな」

理樹「読書…?……ハッ!」

パシッ

理樹(思わず手を乱暴に振り払ってしまった。怖かったのだ。彼女ではなく彼女の存在を認める自分自身に)

美鳥「痛いなー…」

理樹「ち、近寄るな!君は…君は……」

美鳥「西園さん…でしょ?西園美鳥」

理樹「あいにく僕が知っている西園という苗字の人は美魚さんしか知らない…」

美鳥「ちぇー!おしいなぁ…君ももうちょっとだったのに…」

理樹「くっ……」

美鳥「……でも、その記憶も明日になれば消えちゃってるかもね…クスクス」

理樹「う、うわぁぁぁぁあ!!」

ダダダッ

美鳥「もう…逃げても意味ないのに」

校内

理樹「はぁ……はぁ……」

理樹(なんて自分は情けないんだろう…でも…このままだと確実に美魚さんのことを知っている人間はこの世に一人もいなくなるだろう……そしたら『西園美魚』は死んだのと同じじゃないか!)

理樹「と、とにかく戻ろう…そうだ、まだ小毬さんとの約束が……」

理樹(職員室の横に置かれたボード達……そうだ…この間美魚さんが言っていたことを思い出せ!)

ガサガサッ





理樹「……あった…」

理樹(そこだけ丁寧に剥がすと絶対に落ちないように内ポケットへ『それ』を忍ばせた)

理樹「よし…」

ザッ

理樹「美鳥」

美鳥「あれ?どうしたの?」

理樹「悪いけど僕が西園さんを忘れる事はもうない」

美鳥「どういうこと…?」

理樹「これだよ」

ペラッ

美鳥「これは…短歌?……あっ!」

理樹「そう…これは美魚さんが君に変わる前に書いたものだ!」



理樹『ぼ、僕と君で俳句を作るとか言ってたけど……!』

西園『ああ、その話ですか…それならもう作ってありますよ。恥ずかしいのでお見せするのは遠慮させてもよろしいでしょうか?』


理樹「風に乗り 白い翼で 君と行く 青の狭間の 常夏の島…これが美魚さんが書いた短歌だよ」

美鳥「そっか……お姉ちゃんはそんなことを…」

理樹「お願い…美魚さんの場所を教えてくれないかな」

美鳥「敵わないなあお姉ちゃんには…こんな良い人を虜にしちゃうんだから」

美鳥「……美魚はいなくなることを願って、私はここに来ることを望んだ…だけど私ももう引っ込まなくちゃね。理樹君、美魚を頼んだよ」

理樹「うん」

美鳥「美魚は…」









理樹「『終わりが始まった場所にいる』…」

理樹(この謎解きは簡単だった。2人と出会った場所…まさにここから終わりが始まったんだ)

「…………」

理樹「美魚さん」

美魚「………どうして?」

理樹「美鳥が教えてくれたんだ」

美魚「………!」

理樹(少なからずとも美鳥が教えたということは驚いた様子だ)

美魚「私を思い出してくれてありがとうございます…しかしこれからは美鳥が『西園美魚』となるのです」

理樹「分からないよ…いったい美鳥は君の何なのさ?」

美魚「………私は小さい頃、親にあまり構ってもらえずよく妄想の世界に耽っていました」

理樹(美鳥はその妄想の中で出来た妹だった。夢と現実が繋がったんだ。しかしその存在は美魚さんしか認識出来ていなくて、とうとう親が医者を使い、薬物治療によって美鳥の存在を忘れてしまったという)

美魚「ある日授業で若山牧水という人の詩を見つけました。『海と空の狭間で佇む白鳥』その内容から私は美鳥を思い出して意識を失いました」

美魚「結果、自分の大切な一部であった影を失うこととなったのです……美鳥は自分を忘れたから恨んでいるんでしょう」

理樹「そ、そんなことは無いよ!」

美魚「自分はもっと早く消えるべきだったんです…でも…あなたがたリトルバスターズの暖かさに触れてもう少しだけと甘えてしまいました……もう少しだけ側に居たかったんです」

理樹「そんな…これからもその輪の中に居ればいいじゃないかっ!」

美魚「……美鳥を代わりに入れてあげてください…私は孤独を願いました。私は私という存在を捨てて白鳥になりたいのです。なので、直枝さんはどうか私の棺の扉を閉じてください…」

理樹「だ、ダメだ!」

スッ

理樹「!!」

理樹(次の瞬きの内に美魚さんはもう居なくなっていた)

理樹「あ、ああ……そんな…!」

理樹(ポロポロと涙が溢れる…そしてそれが美魚さんとの記憶の素であるかのようにどんどん記憶が消えていくのを感じた)

理樹「ダメだ…今度こそ忘れてしまう……!」

プルルルル

理樹「……?」

プルルルル

理樹(電話がなった…その主は…)

美鳥「理樹君、なにぼうっとしてるの?」

理樹「美鳥……」

美鳥「いい?やるべき事は分かってるはずよ。……お姉ちゃんを救ってあげて」

理樹「………」

パタンッ

ゴシゴシ

理樹(そうだ…僕が西園さんを救うんだ。美魚さんだけじゃない、美鳥も一緒に……)

ザブザブ…

理樹(人間は元から孤独な生き物だ。……だけど、だからこそ人はお互いに触れ合って自分自身というものを作り出すんだ!)




………………
………




理樹「うぐ……」

理樹(次に目が覚めて見えたのは彼女の顔。僕を見て微笑む)

西園「おはようございます」

理樹「………僕はどうなってた?」

西園「意識を失っていました。なんとか蘇生が上手くいってよかったです」

理樹「………美鳥は…?」

理樹(西園さんは胸に手を当てて言った)

西園「…これからはずっと一緒に…」

理樹「……よかった」

理樹(さあ起き上がろうと思った瞬間西園さんも動いたのでお互いに頭をぶつけてしまった)

西園「きゃっ…」

グラッ

理樹「おっと!」

ガシッ

西園「あ、ありがとうございます…」

理樹「う、うん……」

西園「…………」

理樹「…………」

理樹(これは…『いい』のか?ただの勘違いだったらどうしよう…)

西園「………直枝さん」

理樹「は、はい!」

西園「あんまり待たせないでくれますか?」

理樹(どうやら僕もまだまだ鈍感なようで…)

理樹「え、えと…それじゃ……一応僕もこういうのは初めてなんだけど…」

西園「私は一度経験したことが」

理樹「ええっ!?」

西園「……さっき直枝さんを助ける際に人口呼吸をしました。そうしろと本で読んだので」

理樹「騙したね…」

西園「嘘は言ってません……んむ…」







………………
………



屋上

ギィ…

毬「お兄ちゃん、どうしてこんなところに呼んだの?」

理樹(目は虚ろだ)

理樹「小毬さん。僕は拓也さんじゃない、お兄さんじゃないんだよ」

理樹(少し困惑する小毬さん。しかし…)

小毬「じゃあ私のお兄ちゃんはどこ?」

理樹(こんな状態になる事に知らないふりなんか出来ない。これの打開策はもう正面から向き合うしかないんだ)

理樹「神北拓也はもうこの世にはいない、死んでしまったんだよ」

小毬「そんな……嘘…あ……ぐ」

理樹(小毬さんがまた目を…心を塞いでしまう前に用意しておいたものを差し出した)

理樹「小毬さん、これを見て!」

小毬「んっ……うぐ…」

理樹「絵本を描いたんだ…たまごのお話の続きを僕が描いたんだ」

小毬「絵本…続き……」

理樹(僕らの描いた先を小毬さんは読み始めた)

小毬「にわとりはっ……思い出しました…っ……自分がたまごだったことを…」

小毬「ひよこは辺りを見回しました…そして気が付いたのです…周りにはたくさんの仲間がいることに……!」

理樹「…両親がいなくなって塞ぎこんでた日々……僕も小毬さんと同じような境遇だったとき、恭介達と出会って明るい日々を過ごせたんだ…!だから恭介達のように、これからは僕らが小毬さんを幸せにしてみせる!」

小毬「……っ!」

理樹「だから笑って!辛い時も悲しい時もずっとリトルバスターズのみんなが一緒だからっ」

理樹「だから笑って…陽だまりみたいに。そうしたらまた始まるんだ、小毬さんの物語が!」

小毬「私の物語…」

理樹「この後に続いている真っ白なページに小毬さんが新しく描いていくんだっ」

小毬「理樹…くん」

理樹「呼んでくれたね…僕の名前を」

理樹(みるみるうちに小毬さんの瞳から本来の輝きが取り戻されていった)

小毬「…お兄ちゃんはもう居ないんだね…でもこれからはもっといっぱいステキなもの見つけられる…これからっ!」

理樹「うん…!」

理樹(小毬さんは兄の死を克服した。乗り越えたんだ。こうして小毬さんの目は以前よりもう少し、ほんのちょっぴりだけ見えるようになった。そして……)





中庭

葉留佳「話ってなに理樹君?もしかして分かったの?」

理樹「いや、そうじゃない…だけど話がしたくてさ」

葉留佳「……?」

理樹「葉留佳さんはどちらの子か聞いてどうしたいの?」

葉留佳「…えっ?」

理樹「自分の本当の父親を知りたいというのは当然の事だよね。でも君の場合は聞いた後も必ず憎悪が付きまとう」

葉留佳「そ、それは…!」

理樹「昌の子が二木さんだったと分かったらきっと君は勝ち誇ったように二木さんに真実を語り、これまでの仕打ちをしてきた家の人間や二木さんを憎むだろう」

葉留佳「そんなの当たり前じゃん!」

理樹「そしてもしその逆だったら…君は今まで以上に塞ぎ込み、産んだ親を恨んで生きていく。僕はそんな風になってもらいたくないんだ……」

葉留佳「なんで…私ただの他人でしょ?私がどうなろうと…!」

理樹「良くない!だって君は…君は……僕にとって大切な人だからっ!」

葉留佳「……!!」

理樹「さ、行こう……君が本当に求めている答を聴きに」

葉留佳「理樹……君」

裏庭

佳奈多「話ってなに?手短にすませて」

葉留佳「うん…」

理樹(葉留佳さん…頑張れ)

佳奈多「なぁに?まさか2人が付き合った報告とか?ふふふっ…」

理樹「うっ……」

葉留佳「あ……えへ…」

佳奈多「えっ」

理樹「と、とにかく今はそんな話をしようって事じゃない!」

葉留佳「う、うん…あのさ、佳奈多。私と一緒に昌の所へ行ってください」

佳奈多「…はっ!そうまでして答えを聞きに行きたいの?……いいわ。その代わり土下座をしなさい、今ここで」

理樹「!」

理樹(葉留佳さんは迷わなかった。覚悟が出来ていたんだ)

スッ

葉留佳「お願い…します……私と一緒に!」

佳奈多「な、なんで……馬鹿じゃないの…?そんな事してまで…」

理樹(今度は二木さんが面食らう番だった。ここまで取り乱した姿は見た事がない)

葉留佳「お願いします!一緒に行ってください!」

佳奈多「やめてっ!!……そ、そんな所は汚いわ……頭を…上げなさいよ…っ…」

理樹(葉留佳さんは立ち上がった)

葉留佳「私ね、分かったの。本当に知りたいのはどっちに産まれたかじゃなく『どうやって産まれてきたのか』だってこと」

佳奈多「葉留佳……」

河川敷

ザッ

昌「……ん?」

佳奈多「お父さん…葉留佳が」

昌「……そうか、二人で来たか…」

佳奈多「連れてきたのは私じゃなくて葉留佳の方よ」

昌「……!」

葉留佳「聞きたい事があるの」

昌「…ああ、俺が答えられる事ならなんでも答えてやるよ」

葉留佳「私達はどう産まれたの?」

昌「……聞かないのか…?どちらの子なのか…」

葉留佳「うん。もういいの。そんなこと聞いてもしょうがないって気付けたから」

昌「そうか…」

昌「じゃあ話そう…俺達3人はそれは仲が良かった…」



……………
………

理樹(3人は家の命で子を産んだ。しかし嫌気がさした3人は反乱を起こし、1人は捕まってしまい、更に自分達の子を奪われてしまうという計算外のことが起こってしまった)

昌「しかし断言しよう。お前達は確かに祝福されて産まれてきた姉妹だ」

葉留佳「ありがとう、お父さん」

昌「ふっ…変わったな葉留佳」






夕方

葉留佳「そらお姉ちゃんもっと寄って寄って!」

葉留佳母「ふふっ」

佳奈多「ち、ちょっと…」

昌「なにやってんだ…」

理樹「よーし、それじゃあいきますよ…」

理樹(あのあと和解した2人は葉留佳さんのアイデアで家族全員の写真を撮ることにした)

理樹「3…2…1」

パシャッ

学校

理樹部屋

理樹(そろそろ夜ご飯かな…)

ピロンッ♪

理樹「ん?…これは鈴から…メールが!?」

理樹(絶望的に嫌われてたと思ったら…いったい内容は!)

鈴『もういやじゃ』

理樹「!?」

理樹(素早く返しを打つ)

理樹『どうしたの?』

鈴『みんな笑わない。くらい。だれとも話せない(∵)』

鈴『先生からなんでここにきたの?ていわれた。そんなん私もしるか!Σ(∵)』

鈴『帰りたい(T T)』

理樹(きっと鈴は本当に泣いているんだ。普段まるで猫のように弱みを見せない鈴が僕にメールを寄越している。…きっと僕にだけ…恭介じゃなくこの僕に)

理樹「行こう…鈴を救いに」





校門前

理樹「一応住所は分かったしタクシーを使えば…」

「待ちな、どこへ行くつもりだ?」

理樹「……恭介」

恭介「まさか鈴の元へ行こうって言うんじゃないだろうな?」

理樹「……鈴は…今苦しんでるんだ!恭介は言ったね、これは鈴を成長させる為だとか…でもこんなの無理だ!恭介は鈴が今どんな想いをしてるか知らないんだろ?このままじゃ鈴は壊れちゃうよ!」

恭介「………」

「ナーオ」

理樹「………!!」

理樹(恭介の足元に猫がすり寄った。恭介はそれを抱きかかえた。普通ならなんの疑問も浮かばなかっただろう。しかし…ここまで衝撃を受けたのは……レノンだったからだ…恭介の元へ近づいたのがレノンだったから…僕達へこれまで未来を見通すように課題を送り込んできたあの…!!)

理樹「そうだったのか……これで全てが繋がったぞ…恭介だったんだね。あの課題を出したのは!」

恭介「………」

理樹「なんてことだ…それなら真人や謙吾もグルだったのか!?」

理樹(最初から『正体不明の敵』は居なかった。……なら3人は傷ついた振りをして僕らを自分自身を使って脅したんだ!)

恭介「いや、あいつらには協力してもらっただけだ」

理樹「なら…最初から併設校に送るつもりだったの……?」

恭介「ああ。全ては理樹、鈴、お前達を強くさせる為だ」

理樹「じ、じゃあみんなと付き合えってのは…」

恭介「…ん?分からないか?」

理樹「分かるわけがない!」

恭介「そうか…なら理樹はまだ真実には気付いていないようだな」

理樹「なんの話だよ…とにかく僕はもう行くからね…」

恭介「ダメだ、行くな!」

理樹「………ばいばい、恭介」

理樹(なんてことだ。これは全て恭介の計画だったのか……リトルバスターズを作ったのも…最初からから解散させるためだって!?ふざけるな…馬鹿も休み休み言えってんだ!)

ダダッ

理樹「はぁ……はぁ…走ってるうちに着いちゃった…」

併設校門

用務員「ん?君は…うちの生徒……では無いようだが」

理樹「あ、いや…ちょっとここに用がありまして…」

用務員「何の用で?なんにしても来客なら学校に連絡が入るはずが……」

理樹「うっ……」

理樹(まずいな…恭介のことだろうからグズグズしていると何か手を打ってくるかもしれない!)

用務員「まさか不審者だったりしてね。ははは……」

理樹「当て身」

用務員「うぐっ!?」

バタンッ

理樹「くそっ…やっちゃった……」

ピッピッピッ

理樹「もしもし鈴!?」

鈴『…………理樹?』

理樹「今学校のどこに!?」

鈴『寮の中だが…』

理樹「番号は!」

鈴『021だが…それがどうかしたのか?』

理樹「ドアを開けておいて!」

鈴『!?』

ダダダッ

女子寮

バンッ!

理樹「鈴!」

「ウソなにあれ…不審者!?」

「こわっ…先生呼ぼうよ」



ダダダッ


理樹「ここか。なんで021なのに2階なんだ…」

ガチャ

理樹「鈴?」

鈴「り、理樹!?なんでこんなところに…」

「あっちです先生!」

「いた!あそこの男だな!?よし…」

理樹「もう追ってきた…とにかく話は後だ鈴!」

ガシッ

鈴「なぁっ!?」

理樹(鈴を抱えると部屋のベランダの前に立った)

鈴「ど、どうする気だ理樹!?ここは2階だぞっ!」

理樹「大丈夫、僕を信じて」

鈴「………分かった」

「待ちなさい!……あ、こいつ何を!まさか無理心中か!?」

理樹「行くよっ!!」

理樹(鈴を両腕に抱え、ベランダから大きくジャンプした)


ドンッ

理樹「あ…足が……痺れたぁ!」

鈴「理樹!」

理樹「大丈夫、走れるよ…とにかくこんな所からはもう逃げよう!」

鈴「!」

鈴「………分かった」

理樹「よし」

理樹(僕らは逃げた。ありとあらゆる交通手段を使って……)




理樹「つ、着いた……」

鈴「ここは…お爺ちゃんの家か!」

理樹(並みの隠れ場所なら恭介にすぐ見つかってしまうはず。なら灯台下暗しだ…親戚の家ならすぐは見つからないはずだ!……それに恭介は小さい頃からここのお祖父さんに頭で勝てた試しが無い…ある意味対恭介の最強の味方と言える)

ピンポーン

シーン

理樹「どうしたんだろう……いないのかな?」

鈴「入っとこう」

理樹「ええっ!」

鈴「どうせうちの爺ちゃんだ、気にするな」



理樹「電気付けるよ」

鈴「うん」

パチッ

理樹(結局家には誰にも居なかった)

鈴「旅行かなんかかもしれない」

理樹「きっとそう…だよね」

鈴「理樹、それでこれからどうするんだ?」

理樹「これからって?」

鈴「私達は逃げたんだろ?ここでずっと暮らすのか?それもいいが…」

理樹「いやいやいや……」

理樹(でも…確かにこのままではいけない…どうにかして恭介や学校と折り合いを付けないと……)

スルスル

鈴「よいしょっと…」

理樹「なにしてるの?」

鈴「寝る準備。もう夜だからな…布団は隣でいいな?」

理樹「あ……ああ!!」

理樹(そうだ…鈴の事ばっかり考えててすっかり忘れてた!)

理樹「り、鈴?」

鈴「?」

理樹「必ず戻ってくるから先に寝ててくれない?ちょっと忘れ物が…」

鈴「そんなに遅く帰ってくるのか」

理樹「う、うん…とにかく行ってくる!本当に時間がないっ」

鈴「行ってらっしゃい」



学校

教室

ガラッ

沙耶「む…もう理樹君遅いわよ!私一人で机並べるの大変だったんだからって……」

理樹「ゼヒュー…ゼヒュー……!」

沙耶「うわ汗凄っ!?」

理樹「こひゅ…ご……ごめ……えっぷ…お、おぇぇぇ」

沙耶「ぎゃぁぁああ!!こんなところで吐くなっ!!」







地下

沙耶「……気を取り直して行くわよ?」

理樹「う、うん…」

続く(∵)

沙耶「喰らえっ!」

パンパンッ

影「……」ヌゥ

沙耶「あっ…やば…!」

理樹「させるかっ」

ガシッ

影「……!!」グググッ

理樹「……」ボキッ

影「……っ」

ドサッ

沙耶「あ、ありがと…助かったわ」

理樹「お互い様だよ」








……………
………



沙耶「……着いた…ここがおそらく最奥階よ…」

理樹「ついにたどり着いたね」

沙耶「正直あと5日はかかると思ってたけどね…」

理樹「さあ行こう!」

沙耶「ダメよ、ここからは私が一人で行く。この奥にいる影達を従えたボス『時風瞬』はとても手強い…貴方でも倒せるかどうか…」

理樹「そんな…!」

沙耶「大丈夫よ。きっと倒すから…貴方はそこで見てて」

理樹「沙耶……」

理樹(そう言って沙耶さんは行ってしまった……)

5分後

理樹「遅い……何かあったのかも」

理樹(時風瞬…何者なのかは知らない。しかし沙耶がピンチなら駆けつけなくては男が廃る!)

理樹「沙耶ーーっ!」







理樹「沙耶っ!!」

理樹「……はっ!」

沙耶「り、理樹君…逃げて……」

時風《ふん、お仲間か》

理樹(時風と思わしき人物が沙耶を拘束していた)

理樹「沙耶を離せ!」

時風《お前が代わりに闘うのか?》

理樹「………」ゾクッ

理樹(ボイスチェンジャーを使ったその男の迫力は度し難い絶望が襲ってくるかのようだった)

理樹「ひ……」

ズサッ

理樹(思わず後退りをしてしまう)

時風《……逃げるのか?》

理樹「えっ…?」

時風《そうやって逃げ続けるのか? そしてヒーローが現れるのを待つか? そいつが代わりに戦ってくれるのか? そんな奴はどこにもいないぜ理…げほんげほん》

理樹「今のは流石の僕でもムカつくぞ…なぜ僕がビクビク後悔して『お願い神様助けて』って感じに逃げなくっちゃならないんだ?違うんじゃないか?僕が抱くべき感情は怒りだ!沙耶を助けたいが為に怒りをもってお前を倒す!!」

時風《少しいい眼をするようになったな……よし…》

ガンッ

沙耶「……っ」

バタンッ

理樹「沙耶!」

時風《安心しな、眠らせただけだ。それじゃあ行こうか…》

理樹「……」



……
…………


シュッ

パパパパパッ

沙耶「う、ううん……」

沙耶「ハッ!そうだ、2人は!!」



理樹「はっ!」

ドゴッ

時風《グッ……!》

パパンッ

理樹「ふっ!」

ババッ

沙耶「凄い…時風の動きを捉えてる…!」

理樹「こいつで…!」

時風《甘いぞ!》

キュンッ

理樹「なっ!?」

沙耶(い…今、時風の動きが倍速されたような!)

時風《フンッ!》

ガンッ

理樹「がはっ…」

チャキッ

時風《これでジ・エンドだ。まさかお前が俺にここまでやるとはな…殺すまでしないでやろう、だが足の一本貰うぞ!》

沙耶「させるかぁぁーっ!!」

パパパンッ

時風《なにっ!》

グラッ

理樹「ナイス沙耶!うぉぉーっ!!!」

時風《まずいっ……!!》

ドガァーッ

時風《グハァッ!!》

時風《………》

ピト

沙耶「大丈夫…この分だと当分は気絶しているわ……遂に倒したのよ」

理樹「じゃあ…!」

沙耶「ええ、この奥に秘宝は眠っている…」








沙耶「ここよ」

理樹「なんだ…このガラス張りの部屋は…」

理樹(まずは沙耶が入った)

沙耶「………なるほど。理樹君、入っちゃダメよ」

理樹「えっ?」

沙耶「どうやらここは細菌兵器の実験場らしいわ…学校が守ってきたっていうのはこの恐ろしいウイルスの事だったのね」

理樹「な…何言ってるんだよ!」

沙耶「近づいちゃダメよ。私はもう手遅れ…」

理樹「馬鹿な!」

理樹(急いでドアノブを回す……が、開かない)

理樹「クソッ…開けてよ沙耶!……ダメだっ!!沙耶!」

ガンッガンッ

沙耶「強化ガラスよ…」

スッ

理樹「な、何を……」

理樹(沙耶は自分のこめかみに銃を向けた)

沙耶「もうこうするしかない…さよなら理樹君……」

理樹「あ、ああ……」

理樹(どうして僕はここまで非力なんだ…肝心なところで救えなかったら意味がないじゃないか………)

理樹「………」

ガンッ

沙耶「………?」

理樹「………っ!」

ガンッガンッ

沙耶「む、無駄よ…それは銃で撃ったって割れることは……」

理樹(体内に残されたわずかな力……全てを放出する…かすかでいい!)

理樹「ハァァァーッ!!」

バリンッ‼︎

沙耶「嘘……っ!」

理樹「うぁ……っ」

理樹(き…切れた……僕の中で何かが切れた…決定的な何かが…)

バタンッ

沙耶「理樹君っ!」




チュン…

チュンチュン…

理樹「う……」

鈴「ん、起きたか理樹」

理樹「鈴…?」

鈴「昨日何やってたんだ?朝なんか知らん人がお前を担いで来たぞ」

理樹「えっ!?」

理樹(そうだ…僕はガラスを割ってあれから…!)

理樹「そ、その人どんな感じだった!?」

鈴「うんとな…うちの制服を着てて金髪だった。あとどうなってるのか分からん髪飾り」

理樹「………ああ」

ポタポタ

理樹(良かった……生きていてくれたんだ…)

鈴「り、理樹!?なんで泣いてるんだお前っ!」

理樹「あは、あははっ…」

鈴「泣きながら笑ってるのか!?よく分からんがきしょいぞ!」

夕方

鈴「ねこねこうたう~」

ニャーニャー

理樹「うわっ…また凄い数の猫だね」

鈴「うん。元々ここをウロついてたらしい。ちなみにこいつのブチはランスロだ」

理樹(名前まで付けてるし…)

鈴「今日の晩御飯はなんだ」

理樹「惣菜パンだね。もう残りもほとんどないからどうにかして食べる物も工夫しないと…」

理樹(僕の通帳は差し押さえされていた。家出した事を管理している叔父さんが知ったらしい)



理樹「さ、さあ…そろそろ寝ようか」

鈴「うん」

理樹(は、恥ずかしかった…2人でお風呂なんて…)

ピンポーン

鈴「?」

理樹「もしかしてお爺さんが帰ってきたのかもしれない!」

理樹(心細かったがこれで…!)

ピンポーン

理樹「……いや、待てよ…」

鈴「どうしたんだ理樹、行かないのか?」

理樹「よく考えたらおかしいぞ…本当にお爺さんならなんでチャイムを押すんだ…?」

ピンポーン

鈴「行かないならあたしが…」

理樹「ダメだ!行かないで!」

鈴「なんでだ」

理樹(もしかして……)

「誰か居ませんかー?…おかしいなここで誰かが住んでるって聞いたんだけど…棗さんはもうここを引っ越したし……」

理樹「!!」

鈴「引っ越した……?」

理樹「鈴!今すぐ電気を消して!」

鈴「わ、わかった!」

パチッ

理樹(警察だ…きっと誰かにここを行き来している事がバレたんだ…!)

「不法侵入か…?……とりあえず合鍵は預かってますし行ってみましょう」

「ええ」

ガラッ

理樹「すぅ……はぁ…」

理樹(覚悟を決めるしかない)

理樹「鈴、息を潜めていて…」

鈴「うん……」

理樹(相手は2人でどちらも拳銃を手にしていると思っていいだろう…しかし地の利はこちらにある)

警察

警官「電気が消えているし不在なのかもしれないな…とりあえず各部屋だけは見ておくか。物がないとはいえ空き巣に入られた後かもしれないし」

警官2「では私はあちらを探してきます」

警官「あい了解」

ガラッ

シーン

警官「ここも居ないか…やはり見間違いか?」


「ギァッ!」

警官「!?」

警官「今のは…!?おい、どうした!」

ダダダッ



警官「ハァ…ハァ…い、居ない…」

ガサガサッ

警官「ヒィッ!」

チャキッ

シーン

警官「く、くそ…どこだ!?どこにいるーーっ!?」

ヌゥ

理樹「………」

ゴンッ

パチッ

鈴「まぶしっ」

理樹「鈴、ここもダメだ!」

鈴「また…逃げるのか?」

理樹「うん…ごめん」

鈴「いや大丈夫だ…理樹とならどこでもついていく」






タッタッタ

理樹(他に頼れる人……そうだ!来ヶ谷さんはどうだ?……いや、この状態だといつかどちらか2人に今の関係がバレてしまうだろう…そうなったら匿ってもらえないかも…なら……)

理樹「そうだ鈴!老人ホームだ!」

鈴「老人ホーム?私は老人じゃないぞ」

理樹「一時的にそこへ泊めさせてもらうんだよ!ちょっとした知り合いが居てね」

鈴「?」






鈴「はぁ…はぁ…着いたか…?」

理樹「うん、ここだ」

理樹(良かった…まだギリギリ開いてた…!)


老人ホーム

理樹「すいません、神北小次郎さんとお話がしたいんですが」

受付「……小次郎さんですね?203号室です。夜中なのでもう寝ているかも…」

理樹「ありがとうございます」

受付「………」





203号室

理樹(まだ明かりが点いている…よし)

コンコン

理樹「失礼しま…」

小次郎「くらああああぁぁぁぁあああ!!!………ってなんじゃ小僧か!」

理樹「うん、その節はどうも」

小次郎「ワッハッハ!よう来たのぉ!それにしてもこんな時間になんじゃ?……と」

鈴「…………」

小次郎「して、その女の子は誰じゃ?」

理樹「ほら鈴、あいさつ」

鈴「な、棗…鈴」

小次郎「そーかそーか、棗と言ったな。わしは神北小次郎じゃ。よろしく」

鈴「神北…っ」

理樹「うん、この人は小毬さんのお爺さんだよ」

小次郎「ほう、小毬のお友達じゃったか。あの子とは仲良くしてやってくれ」

理樹「小次郎さん。それでここへ来た用なんだけど…」

……………
……


小次郎「ふむ…そして今その兄や警察から逃げておると」

理樹「そうなんです」

小次郎「ふっ…お主も案外やんちゃな奴じゃの。警官を投げ倒して逃げるとは」

理樹「あはは…まああの時はパニックだったというか……」

小次郎「それでここに匿って欲しいという訳じゃな?」

理樹「うん。出来るかな?」

小次郎「ここはまだまだ空き部屋がある。ワシが訳ありだと頼めばなんとかなるやもしれんな」

理樹「あ、ありがとうございます!」

小次郎「よいよい、貴様とワシの仲じゃ。……それに小毬の恩もある」

コンコンッ

小次郎「なんじゃ?ナースコールを押した覚えはないが…」

ガラッ

警官「居たぞ!男女2人だ!!」

理樹「なっ!!」

理樹(しまった!さっきの受付の人が漏らしたか…)

小次郎「なんじゃ貴様はぁぁぁぁ!!」

警官「どけ爺さん!!」

ガシッ

鈴「うあっ!?」

理樹「鈴!!」

鈴「理樹っ!理樹っ!!」

スゥゥ

理樹「あ………」

理樹(ダメだ……こんなところで眠っちゃダメだ……鈴を助けなきゃ………)

理樹「………………っ」

理樹「………」

バタンッ






「恭介が帰ってきたぞーーー!!」





理樹「んん……うるさいな……」

ドンッ

真人「遂にこの時が来たか……」

理樹「えっ?どこ行くのさ」

真人「戦いさ」

理樹「どこで?」

真人「ここ」

理樹「はあ?」

次回リフレイン

理樹(寝ぼけ眼で真人を追う)




タッタッタ

謙吾「はあっ!!」

ブンッ

真人「シュッ!」

ガヤガヤ

「良いぞいけいけー!」

「おお!宮沢のあの技は思春期の云々…」

理樹「い、いったいなんで……ハッ!そうか、恭介が帰ってきて……」

真人「オラオラーッ!!」

理樹「な、なんで誰も喧嘩を止めようとしないのさ!二人とも怪我しちゃうよ!」

「なら直枝が止めろよ」

理樹「あ、そうか」

ズンッ

理樹「二人ともストップ!」

謙吾「む、理樹か?悪いが今は後ろに下がっていてくれ」

真人「そうだぜ、俺らは真剣勝負してんだからよ!」

謙吾「くらえ真人っ!」

ブンッ

理樹「やめろって言ってるだろっ!」

ガシィッ

謙吾「な…俺の剣を素手で……」

真人「なんだよ理樹!邪魔すんじゃ…」

理樹「馬鹿っ!」

シュッ

真人「おわっ!?」

パシィッ

理樹(僕の平手はもう少しで真人の顔に炸裂する所だった。頭を冷やさせようと思ったんだけど…)

真人「あ、危ねえな…」

理樹「とにかく!恭介が久しぶりに帰ってきたからといって喧嘩しないこと!分かった?」

謙吾・真人「「はい…」」

理樹(人騒がせな夜だった…それにしても帰ってきたというなら恭介はいったいどこへ…)



食堂

理樹「いただきます」

謙吾「いただきます」

真人「ムシャムシャ」






ガタッ

理樹「ごちそうさま。…それじゃあそろそろ行くよ」

真人「鈴のところか」

理樹「うん」

謙吾「お前も毎朝大変だな……俺もたまには代われたらいいんだが…」

理樹「別にいいよ慣れてるし」

理樹(鈴は……高校に上がると同時に精神を病み、日常生活が送れなくなってしまった。その原因は分からないまま今では僕以外の誰にも心を開こうとしない…)


女子寮

寮母「それじゃよろしくお願いね…」

理樹「はい」

鈴「…………」

理樹(今は併設校の特別クラスに小学生と一緒に通っている。 そこの子供達とはなんとか仲良くやっている)

理樹「行こっか鈴」

鈴「うん……」




中庭

チリンッ

理樹(鈴の音が鳴った)

理樹「どうかした?」

鈴「………」

理樹(鈴は地べたに転がっていた野球ボールを見つめている)

鈴「ん……」

理樹「野球に興味あるの?」

鈴「そういう訳じゃないが…なんとなく気になった」

理樹「ふむ…」

理樹(ボールを拾いあげた)

理樹「ねえ鈴、放課後にキャッチボールしようか」

鈴「キャッチボール?なんでだ」

理樹「うーん、僕がやりたいから…とかじゃダメ?」

理樹(深い理由はなかった。ただこれが鈴にとって現状に対する何かのきっかけになればというだけの…)

鈴「……よし、分かった。やろう」

理樹「うんっ!」

昼休み

理樹「今日は食堂か…」

ドンッ

理樹「うあっ………」

来ヶ谷「おっと…」

理樹「ご、ごめんなさ……」

理樹(ぶつかってしまったのは来ヶ谷さんだった。いつも何を考えているか分からない謎の人…しかし今日は何が違って見えた)

理樹「………」

来ヶ谷「……?」

理樹「あれ…来ヶ谷さん……」

来ヶ谷「どうした?さっきから私の顔をジロジロと見て」

理樹「い、いや…なんでも……」

来ヶ谷「そうか、ならいい。ではお互い様という事で」

理樹「うーん…」

理樹(なんだったのかな…今の感覚……ただの他人じゃなかったような……)

真人「おい理樹!そんなところで突っ立ってたら迷惑だぜ?さ、早く食堂でカツを頼みに行こうぜっ!」

食堂

カチャカチャ

理樹「ねえ2人とも。今日の放課後ちょっと付き合ってくれない?」

真人「俺は暇だぜ」

謙吾「俺も練習が始まるまでならいいが…何をするんだ?」

理樹「野球だよ」

真人「……」

謙吾「!」

理樹「と言ってもただのキャッチボールなんだけどさ…鈴がね、今日野球ボールに興味を持ってたからそれならちょっとやってみないか誘ったんだ」

真人「おいおい、俺たちがそれに入って鈴は怖がったりしねえか?」

理樹「そうだね…キャッチボールだからうんと遠くに居れば大丈夫かも」

謙吾「なんかアバウトだな…」

放課後

理樹「それっ」

パスッ

真人「はいよ!」

シュッ

鈴「ん」

ポーンッ

謙吾「う、うぉぉおおお!!」

ズサァァーッ

理樹(鈴はコントロールが良くなかった。しかし出来るだけキャッチボールの形にしたかったので受け取る側はかなり苦労するようだ……)

鈴「あははっ」

理樹・真人・謙吾「!!」

理樹(今…鈴が笑った……普通に…楽しそうに……)






パシッ

理樹「ふう。今日はこのぐらいにしておこうか…楽しかった鈴?」

鈴「うんっ」

真人「へへっ…」

謙吾「ふっ」

理樹(まだ完全とは言わないものの鈴が2人にも心を開こうとしている!よし、これなら…)

理樹「じゃあさ、今度は野球をしようよ。次はキャッチボールだけじゃなくてちゃんと試合形式にしてさ!」

謙吾「!」

謙吾「………悪いが理樹、それは…出来ない」

理樹「えっ?な、なんで…!?」

謙吾「言ってもお前には分からない…」

理樹「そんな……さっきまでみんなで楽しくやってたじゃないかっ!急にどうして……理由を教えてくれないと納得出来ないよっ」

謙吾「………被るんだよ…」

理樹「えっ…」

謙吾「お前の行動が被るんだ……あいつと…」

理樹「あいつって?……まさか恭介?」

謙吾「………」

理樹(意味が分からない…もしかして恭介は僕が入る前に野球をしようと提案したのか?……というか恭介と被ったらなんで謙吾はやめるだなんて…)

真人「そうかい、そういう事なら……」

ザッ

理樹(真人が僕に向き直った)

真人「そういう事なら俺も抜けなくちゃならない。…後は頼んだぜ理樹」

理樹「は、はあ!?」

理樹(真人は健吾とは別方向で帰ってしまった)

理樹「そ、そんな…真人まで……」

鈴「どうしたんだ理樹?」

理樹「真人と…謙吾がもうダメだって……一緒にやってくれないって」

鈴「そうか。また2人でキャッチボールするか?」

理樹「いや、それはまだ…」

理樹(そうだ…もう1人いる……)

書き直し

真人「そうかい、そういう事なら……」

ザッ

理樹(真人が僕に向き直った)

真人「そういう事なら俺も抜けなくちゃならない。…後は頼んだぜ理樹」

理樹「は、はあ!?」

理樹(真人は謙吾とは別方向で帰ってしまった)

理樹「そ、そんな…真人まで……」

鈴「どうしたんだ理樹?」

理樹「真人と謙吾が…もうダメだって……一緒にやってくれないって」

鈴「そうか。また2人でキャッチボールするか?」

理樹「いや、それはまだ…」

理樹(そうだ…もう1人いる……)

コンコン

理樹「………」

理樹(返事がない…鍵はかかってないようだ)

鈴「ここは…恭介の?」

ガチャ

理樹「恭介…?」

恭介「なんだ理樹か…」

理樹「うわっ」

理樹(恭介は扉のすぐ横にいた)

理樹「な、なんでそんなところに…」

恭介「俺の部屋なんだ、どこに居ようと勝手だろ…」

理樹「さっき隣の人が凄く心配してたよ?様子がおかしいって…」

恭介「心配か……はは」

理樹(恭介の顔は明らかに生気が無かった。これは鈴があのようになるのとほぼ同じ時期だった…恭介は自分の殻に閉じこもり漫画の世界にのめり込んでいる)

鈴「………」

理樹「ねえ恭介…あのさ、たまには外に出ない?」

恭介「…いい」

理樹「そんな事言わずにさ…キャッチボールしようよ……まずは鈴と僕と3人で」

恭介「………」

理樹「………また来るよ」

恭介「………」

バタン

理樹部屋

鈴「結局どうするんだこれから」

理樹「ううん……」

理樹(どうしてこんな事になってしまったんだろう…僕はただみんなが笑顔でいればそれで良かったのに…)

理樹(頼みの恭介もまるで昔の僕のように心を閉ざして何もしなくなってしまった………昔の僕?)

理樹「そうだ!」ガバッ

鈴「どうした?」

理樹「昔のように…恭介が1から立ち上げたように僕と鈴でリトルバスターズを再結成しよう!」

鈴「さいけっせい……ってなんだ?」

理樹「もう一度リトルバスターズを…5人で!」

次の日

教室

理樹「最初リトルバスターズは恭介と鈴だったよね?次のメンバーは謙吾と真人のどっちだったの?」

鈴「うーん…どっちだったか………」

ガヤガヤ

「おい聞いたか!?井ノ原の奴……っ!」

鈴「そうだ真人だ!」

理樹(クラスメイトの言葉にヒントを得た鈴。分かったのはいいんだけどその前に…)

理樹「真人がどうしたって?」

「あ、ああ…聞いてくれ直枝!お前あいつの幼なじみだったよな?」

理樹「うん…」

理樹(なにか嫌な予感がする……)

「井ノ原が学校中で暴れてるんだっ」

理樹「なっ……」

理樹(話によると真人は今日の朝、突然生徒に殴りかかって一発で”のす”とぶつぶつと訳のわからないことを言ってその場を離れたらしい)

理樹「どんな様子だったの?」

「聞いた話によると目がうつろでふらふらとノイローゼみたいだったらしいぜ。お互い気を付けような」

理樹(昨日まであんなに普通そうだった真人がどうしていきなり…)



昼休み

裏庭

鈴「さっきからどこ行くんだ理樹!」

理樹「真人を探しているんだ…真人がおかしくなっちゃったって聞いたろ?」

鈴「……!」

鈴「理樹、聞いてくれ!一つ思い出したぞ!」

理樹「悪いけど今はそれどころじゃ…」

鈴「いいから聞け!」

理樹(グイッと制服の襟を掴んできた)

理樹「わ、分かったよ…なに?」

鈴「真人は昔…」

「くっ……また『俺』かよ…」

理樹「その声はっ」

真人「俺が……最強だぁぁぁあああ!!!」




ブンッ

理樹「うわっ!」

理樹(間一髪!真人のストレートが僕の髪をかすめた)

理樹「い、いったいどうしちゃったんだよ!」

真人「今度は俺が2人か…いいぜ、何人来ようと本物には勝てねぇ…いや、勝たなくちゃ俺は俺じゃねえ!」

鈴「理樹!」

グンッ

理樹(今度はアッパーが来た……が、鈴が後ろから引っ張ってくれたお陰で今度もギリギリかわすことが出来た)

理樹「ありがとう鈴!でも今すぐここから逃げるんだ…真人はおかしくなってる……僕が引き止めておくから鈴だけはっ」

鈴「嫌じゃ!理樹一人置いてけるかっ。それとさっき言えなかったことがある」

理樹「なに?」

鈴「恭介が真人をリトルバスターズに入れた方法だっ」

鈴「真人は入る前は凄い悪ガキだった…町の中で指名手配もされてた」

理樹「本当に!?」

鈴「そこで恭介が真人を倒したんだ。私も手伝った」

理樹「どうやって?」

鈴「うーん…それは忘れた」

真人「なにごちゃごちゃ話してんだよっ!」

理樹(事情は分かった…それなら話は早い、ここで真人を倒せばきっと同じように真人は…!)

理樹「真人…君のためにここで君を倒す!」

真人「ほう……少しは気骨がある俺だな…なら手加減はしねえぜっ!!」

シュッ

すまん、野球見てた

原作やったことないけどすっげー面白そうだな

>>295
俺はお前みたいな奴が出てくるためにリトバスssを描いていたのかもしれない
本当に描いててよかった……
是非ともリトルバスターズをやってみてくれ!しかしアニメを見るにしても原作をやるにしてもこれから先は全てを終えてから見てほしい。何故なら作品の根本的なネタバレになるからな…


よっしゃあ!さっそく更新しよう!平日の夜だろうと関係ないぜ!今からサタデーナイトフィーバーだっ!いやっほーーぅ!!

真人「オラオラァッ!」

理樹(真人は間髪入れずラッシュを繰り出した!攻撃を最低限のダメージで交わすには……っ!)

理樹「ふっ…!」

クンッ

真人「なっ!?」

ガンッ

鈴「り、理樹!」

真人「ぐっ……ああ…!」

理樹「うっ……はぁ…はぁ…」

真人「て、てめぇ…わざと自分から頭を差し出したと思ったらこういうことか……」

鈴「そうか…理樹は自ら当たりにいった…だがそれだけじゃない、真人の拳に渾身の頭突きを浴びせたんだ!」

理樹「真人はいつも鍛えてるだけあって拳が鋼鉄のようだね…あのまま食らっていたら肋骨がやられる事は免れなかっただろう…」

真人「くそっ…左腕がやられたか……!」

ダラダラ

理樹「今度は僕から行くよ…」

ババッ

鈴「あの構えは…八極拳!?」






ガヤガヤ

「おい!あそこだ!直枝と井ノ原のバトルだっ!!」

「直枝ーっ!頑張ってくれーーっ!!」

「井ノ原の暴走を止めろー!」

理樹「はぁ…はぁ…」

理樹(そういえば…いつから僕はこの力を使いこなしてきたんだろう……特に筋肉の努力をした事はなかったはずだ…しかし今はその真人と同等と言えるレベルに上り詰めている……)

真人「はぁ…はぁ…!やるなお前…こんな強敵は久々だぜ」

理樹(直感で分かった。この力はきっと目の前にいる男自身から受け継いだ物だ。……ならばその恩返しをしなければ…正しい使い方でこの力の恩返しをしなければ……)

理樹「うん、僕も真人以上の人間は知らないよ……きっとこれからも現れないだろう」

理樹(僕の体力はもうほとんど残っていない…きっとそれは真人も同じだ。……これで全てが終わる)

真人「うぉぉぉおおおおお!!!」

理樹「はぁぁああああ!!」



ドガッ‼︎


真人「…………」

理樹「…………」

理樹「…………っ」ガクッ

理樹(立てない…これ以上僕に戦う力は残っていない…エネルギーを最後の搾りかすまで使ったんだ…もう僕は拳の一発も振るえない)

真人「フウッ…フウッ…お前に……教えてやる……ハァ……俺が何故倒れないのかを…」

理樹(顔だけを辛うじてあげられる僕に対してもうどんな体勢であれ二本の足でしっかり立つ真人は夕焼けの光を浴びて神々しく見えた)

真人「俺には背負う物がある。自分の存在価値のためだ……俺が俺であるための…自分を証明する闘いだからだ………お前のようにただ強い人間に負ける訳にはいかないんだよ…」

理樹「…………それなら」

真人「……?」

理樹「それなら僕だって背負う物はある……それはとても大切な物だ。命をかけたっていい……それは…」

鈴「それはお前自身だ!」

理樹「鈴…!」

真人「どこだ!?」

鈴「理樹はお前という掛け替えのない友人を悪しき道から正すために闘ってきた!なら同じく無類の友達であるお前を救うために私もお前を叩きのめす!ボロボロのお前にあえて友情という鞭を打とう!!」

ガサッ

真人「上か!」

理樹(鈴はいつの間にか大樹の枝に立っていた。そして疲れ切ってはいるが真人の反応も俊敏なものだった…しかしこの場合は少し遅かった)

鈴「はぁっ!」

バッ

真人「う、うぉおーっ!!」

ガンッ

理樹(電光石火の足蹴りが真人の後頸部にヒットした)

スタッ

鈴「……」

真人「鈴……お前か………」

理樹「真人…やっと…」

真人「……理樹…か…俺が今まで戦ってきたのは…」

ドッ

理樹(真人はついに両足を地面についた)

真人「ふ……ふふ…俺を倒す奴がついに現れたな……」

理樹「真人…もういいんだよ……だから今は僕と一緒に休もう……ね?」

真人「ああ……よくやった二人とも…これからは何があっても……」

バタンッ

理樹「……」

真人「……」

鈴「……二人ともノビたか…誰か!2人を保健室に運ぶの手伝ってくれ!」

「真人は重いだろう…俺が手伝ってやる。鈴は理樹を…」

鈴「……謙吾」

謙吾「先に言っておくが手伝うだけだ。…俺はお前らに付き合うつもりはない」






理樹「……ここは…」

真人「心配すんな。お前のベッドだよ」

理樹「…そう…」

理樹(どうやら真人の方が回復は早かったらしい。…やはり流石に真人と一騎打ちは無理があったようだ…まだまだ敵わないな)

理樹「今は何時?」

真人「夜中の8時だ。俺も先生にこっぴどく怒られたんでさっき帰ってきたばっかだったんだぜ?」

理樹「よく怒られただけで済んだね……」

チリンッ

鈴「とにかくもう寝ろ」

理樹(後から聞いたけど鈴は僕が部屋に運ばれてからずっと隣に居てくれたらしい)

理樹「うん…おやすみ……」

……………
……


次の日

理樹「ふわぁぁ…」




食堂

パクパク

ムシャムシャ

理樹「相変わらず朝からよくそんなにキツいもの食べられるよね」

理樹(真人の今日の朝ごはんはカツ定食だった)

真人「朝しっかり食ってねえと大きくならねえって親に言われてたからな…そのうち天井に頭が付くかもしれねえな」

理樹(今だ鈴!)

鈴「そこまで大きくなるかっ!!」

ゲシッ

真人「痛え!?」

理樹(今、何故か鈴にツッコミをさせないといけない気がした…)

理樹「ところでさ、真人と鈴は謙吾がどうやってリトルバスターズに入ったか覚えてる?」

理樹(真人をリトルバスターズに復帰させる事が出来たのは過去の恭介の行動を真似したおかげと言っていい。今回も何かヒントはないか……)

真人「その前に理樹に言っておかないといけない事がある……」

理樹「?」

真人「実はな…謙吾が入る前にもう1人いたんだ……」

鈴「?」

理樹「えっ……」

真人「実は謙吾はリトルバスターズの中では5人目の人間だったんだ…恭介は俺の次に駒田という少年を仲間に入れたんだがそいつは謙吾を入れる直前に……」

鈴「しょうもない嘘吐くなボケ!」

ゲシッゲシッ

真人「うっうっ…ごめんなさい」

理樹(暴走した時はどうなる事かと思ったけどいつもの真人で安心した)




真人「そうだな…確か謙吾の時は道場破りだったな」

鈴「うん、確かそうだった」

理樹「ど、道場破り!?」

続く

理樹(謙吾は有名な剣道道場の子供で、全国大会でも優勝したことがある程だった。そんな謙吾が気に入らない、と真人が言い出しみんなで道場破りを決行したという)

理樹「えっ、それで戦ったの?初心者なのに」

真人「いや…確か結果謙吾とは戦わなかったな…えーと……そうだ!謙吾の親父と戦ったんだったな!」

鈴「あーそういえば3人で倒したな」

理樹「本当に何があったんだ…」

真人「忘れた」

鈴「あたしもだ」

理樹(もしも恭介があんな風じゃなかったらゆっくり話を聞いていただろう)

理樹「今度はノーヒントか…とりあえず謙吾と会って話をしてみる」

教室

理樹「ちょっといい?」

謙吾「なんだ?」

理樹(謙吾はバスターズのこと以外ならいつもの様に接してくれる。しかし今回はある程度の衝突を覚悟しなければならない)

理樹「聞きたいことがあるんだ」

謙吾「……言ってみろ」

理樹「バスターズの事なんだけどさ、謙吾はどうやって入ったの?ほら、きっかけとか…」

謙吾「それは言えない」

理樹「どうして!」

謙吾「それだけは俺自身が言うべき事じゃない…それと俺からも言っておこう」

理樹「……?」

謙吾「お前たちが目指している先にあるのは絶望だ。一筋の光りも射さない...暗闇のただ中だ…もう恭介のあとは追うんじゃない」

理樹(やはり謙吾には僕のやっている事がお見通しだったらしい。しかし…)

理樹「そんなの納得いかないよっ!なんでそんな頑なに……!」

ガシッ

理樹(謙吾は僕の両肩を大きくがっちりした手で抑えた)

謙吾「お前が…お前がもし今やっている事を断念してくれるならば、俺は一生お前を守ろう」

理樹「!」

理樹(謙吾は僕が知ってる限り無敗の男だった。そんな無敵の謙吾が僕を一生守るだって?そんな条件に固く決意した信念が一瞬ぐらつきかけた。しかしそれは教室に入ってきた鈴と目が合って再び確固なる物となった)

理樹「……ごめん謙吾。それでも僕はやめないよ」

謙吾「…………」

キーンコーン

先生「さあ、席に着けお前ら」

ガタガタ

昼休み

食堂

理樹「…といった感じだったんだけど」

真人「なんだとぉ?そんなこと言ったら俺の方が理樹を守ってやれるぜ!」

理樹「いやそんなところで張り合わなくていいから」

理樹(しかしこれで話はまた振り出しに戻った。これからどうやって謙吾を……)

理樹「やっぱり…謙吾を何かで倒すしかないのか?」

真人「お?また拳か?」

理樹「単純な真人とあの謙吾を一緒にしないでよ」

真人「………」

鈴「やきゅーで勝負しよう」

理樹「えっ?」

鈴「だからやきゅー」

理樹「野球で……か」

理樹(なんだろう…特に勝算があるなんて思わないけど何故かやれる気がした)

理樹「……うん、そうだね」

放課後

理樹「謙吾、これで最後だからちょっと付き合ってくれない?」

謙吾「……それが済めばもう何も言いださないか?」

理樹「うん。でもそれは僕に勝ってからだよ」

謙吾「……?」






グラウンド

謙吾「3本先に場外に飛ばした方が勝ち…これでいいな」

理樹「うん」

理樹(これは鈴の提案だった。野球で勝負と聞いた時に謙吾は少し苦虫を噛み潰したような顔だったが、それをあえて受けてくれたのにはヒヤヒヤした)

鈴「頑張れ理樹」

理樹「うん」

理樹(先行は謙吾だった)

理樹「それっ!」

ビュンッ

謙吾「なっ!?」

パシンッ

真人「ストライク!」

謙吾「い、いまのはなんだ…速すぎじゃないか!?」

真人「それほど理樹も必死なんだ…それよりほら、選手交代だぜ」

謙吾「あ、ああ…」

謙吾「そらっ!!」

ビュンッ

理樹「見切った!」

キィンッ

謙吾「なぁ……っ」

グゥンッ





ガサッ

理樹「やった!」

真人「今のは文句なしに屋上ホームランだったな!」

理樹「場外ね」

謙吾「そんな……まさか…」

2回

理樹「行くよ!」

謙吾「来いっ!!」

ビシュッ

謙吾「もうミスは……出来ん!」

カンッ

理樹「!」

ゴウッ

真人「こいつもホームランだぜ…」







カンッ

理樹「よし!2本目!」

謙吾「うっ……」

真人「選手交代!……ん?どうした理樹」

理樹「いやあのさ、鈴もやりたいって」

鈴「うん」

真人「……だ、そうだが?」

謙吾「俺は構わん、むしろそちらの方が大丈夫か?鈴はまだ初心者だろう…」

鈴「大丈夫だ」

理樹「じゃあ頑張って」

謙吾「俺はたとえ誰であっても油断はしないぞ」

鈴「ふん…それは正解だ」

謙吾「なんだと?」

真人「プレイボール!」

理樹(僕は2本目、謙吾は1本目。ここで打てばなんとか可能性はあるのかもしねいが……)

鈴「いくぞ」

謙吾「ああ、いつでも来い!」

理樹「鈴、頑張れっ!」

鈴「……」コク

ザッ

鈴「うーりゃっ!!」

バシュンッ

ギュン

謙吾「なるほど、スピードやコントロールは確かに申し分ない。しかしこの俺が相手だった事は気の毒だったな!」

ブンッ

クンッ

謙吾「………っ!?」

スパァンッ

真人「す、ストライク…!」

謙吾「ば、馬鹿な……ボールが……落ちただと?」

真人「こんな土壇場にフォークを投げやがった鈴の奴!」

謙吾「…………俺が……負けた…」

ドサッ

謙吾「…………」

理樹(謙吾は両手をついた。その姿にもはや闘志は見られない…負けを認めたのだ)

謙吾「……くっ……うう…」

理樹(謙吾は泣いた。生まれて初めて見た漢の涙だった)

理樹「謙吾……どうして泣いてるの?」

謙吾「俺は…もっと遊んでいたかったんだ…お前たちと一緒に!」

鈴「……」

ニコリ

理樹「もう少し続けようか、野球」

謙吾「いや、その前に…もう少しだけ泣かせてくれ……」






……………
………


恭介(誰かがこちらへノックする音が聞こえた)

ギィ

恭介(開かれた扉から射す光が眩しい……しかしその明かりはちょうど4人分の影で遮られた)

理樹「恭介…迎えに来たよ」

恭介「………」

恭介(手を差し伸べて来た奴の目は最初と比べ物にならないほど力強く感じた……いや、なんか強すぎね?)

恭介(とにかく俺がやってきたことは間違いではなかったらしい……これなら充分2人は……)

恭介「ああ…」

ガシッ










……………
………



恭介「さあ行け…校門から出られる」

理樹「そ、そんな……そんなの嫌だよ!もっとなんとかならないの!?」

恭介「そんなの俺の方が嫌に決まってるだろ……もう時間が無いんだ……とっとと行けぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

理樹「うっ……くっ!」

ゴシゴシッ

理樹「………行こう鈴…」

鈴「どこへ行くんだ?」

理樹「戻るんだ…本当の世界に……」






恭介「行ったか…最後に学校でも少し散策して回ろうか」




廊下

恭介「……お前は…そうか、お前は我慢したままだったのか…悪いな」

「いや、そういうことならそれでいいんだ………思い出したんだよ。彼と交わした約束を」

恭介「しかしその約束は果たされないぜ」

「恭介氏でも分かってない事があるんだな。大切なのは結果ではない、約束したという事実だよ」

恭介「すまん、知ったかぶりだったらしい」

「もしも奇跡が起きたならきっと言うよ。その時は誰もいない放課後の教室に呼び出して、勇気を出して私から言うんだ」

恭介「そうかい…応援してるぜ」





…………………………………………………

……………………………………


……………………


…………








理樹「ハッ!」

理樹(目を覚ますと誰かの腕が僕の肩に乗っていた)

理樹「………謙吾!」

謙吾「………」

理樹(意識は無い。当分起きそうにもなかった……しかし辺りはガソリンの匂いが充満していてその覚醒を待つ余裕はなさそうだった)

鈴「………理樹…理樹なのか…?」

理樹「鈴!?」

理樹(倒れている謙吾に気をつけて起き上がった。バスは完全に横転していて床が天井になっていた)

理樹「どこだ!鈴!」

鈴「こっちだ……」

理樹(鈴が起き上がってきた)

鈴「真人があたしを守ってくれたんだ…」

理樹「怪我は?」

鈴「大丈夫だ。理樹は?」

理樹「な、なんとか…」

理樹(しかし今まで見てきた夢…おぼろげなあの夢の中で習得してきた力の数々は当たり前ながらもう使えない。頭で理解していたとしても身体が追いつかないんだ)

理樹「でも……逃げはしない。鈴、みんなをここから助け出すんだ!協力して」

鈴「分かった!」

理樹(そうだ…ここまで来て諦められるものか…!もう具体的には思い出せないけどこれ以上の苦労をいっぺんに背負ったことは覚えている。これしきの痛みでこたえるものか!!)

理樹「鈴、木の枝とバスの中に散乱してる服や布で担架を作るんだ!」

鈴「分かった!」






ズルズル

理樹「はぁ…はぁ……ん?あれは…」

理樹「……!!」

理樹(半分まで来たところで運転席の外側で人影が見えた。それはまぎれもない…)

理樹「恭介!」

恭介「……………」

理樹「恭介がバスに背中を預けて意識を失っていた」

鈴「どうした?……っ!」

理樹「……ダメだ…恭介は最後に助けよう」

鈴「どうして…」

理樹「背中を見て。なにかタオルのような物でガソリンをせき止めているんだ…きっと恭介はそれが漏れ出して燃え上がることを食い止めるために……」

理樹(だからここは我慢だ…だけど必ず助けに行くからね恭介…)

ズルズル

謙吾「……」

真人「……」

葉留佳「……」

クド「……」

西園「……」

来ヶ谷「……」

小毬「……」

理樹「こ、これでバスの中の人は全員……?」

鈴「ああ、もういない!行くぞ理樹!」

理樹「うんっ!」





理樹「せーの!」

鈴「そりゃっ」

恭介「………」

グイッ

理樹(ここからは時間との勝負だ。安全な場所にたどり着くまでに火が引火したら僕らは終わりだ)

理樹「走るんだ鈴!」

鈴「分かってる!」

理樹(2人で恭介の肩を担ぐ)

ザッザッザッ

理樹「よし…もう少……」

理樹(もう少し、そう言いかけた直後に頭が万力のように締め上げられる。この感覚は……)

理樹「う……あ……」

理樹(痛みが消えたかと思うと今度は強烈な眠気が襲った。よりによってこんな時に……恭介が言っていたのはこういうことだったのか…?)

鈴「理樹!?どうした!理樹っ!」

理樹「ぐっ………」

理樹(くそっ……こんな………こんなもので…)

理樹「僕が諦めると思うな!!」

ダンッッ

理樹(倒れかけた直前に足を無理やり一歩前に踏み出した)

理樹「ふうっ……ふうっ……!」

グサッ

鈴「!?」

理樹「ぐあぁぁぁ!」

鈴「な、何してるんだっ!」

理樹(落ちていたガラスの破片を担いでいない方の手で拾い、それを左肩に刺した。そして意識がすんでのところで鮮明に戻った)

理樹(僕はここでこの忌々しい病を無理やりにでも克服しなければいけない…しないと僕だけじゃない、鈴と恭介まで僕のせいで犠牲になってしまうんだ!)

理樹「行こう鈴!!」

ズルズル…

理樹「はぁ…はぁ…」

ドサッ

鈴「やった、やったぞ理樹…全員無事だ……よし、今救急車を……理樹?」

理樹「…………」






……………
……




鈴「今日はくもりのちあめ ねこねこ、うたうー」

鈴「のきしたはくらい…輪のしたはこわい…くさばはつめたい……」

鈴「ねこねこうたう…今日はあめのちはれ♪」

理樹「う…ん……」

鈴「起きたか」

理樹「おはよう…鈴」

鈴「理樹おまえ凄いよだれだぞ。真人ぐらいアホっぽい」

理樹「うわ本当だっ……というか真人をアホの代名詞にしてあげないでよ…」

理樹(あのあと僕は意識を失って気付いたら病院にいた。しかし肩に傷は負ったものの、鈴同様、他の人に比べて傷は浅かったので早めに退院することが出来た)

先生「今日の授業はここで終わりだ」

「起立、礼」

理樹(結局、死者は出なかった。新聞はこれを奇跡と発表していた。英雄振りたかったつもりはないけど事件に僕らのことは書かれていなかった)





理樹部屋

理樹「ただいまー」

真人「おう、お帰り」

理樹「って真人!?今日退院だったんだ…」

真人「おう!さっき謙吾と一緒に帰ってきたんだ」

理樹「えっ?」

ガチャ

謙吾「そういう訳だ。久しぶりだな、理樹」

理樹「謙吾!」

ドタドタ

真人・謙吾・理樹「「?」」

理樹(この無数の足音はいったい…)

バンッ

葉留佳「おおーっ!!本当に謙吾くんと真人くんが復活してたー!」

クド「わふー!お二人ともお久しぶり様なのですっ!」

理樹「みんな!」

理樹(事故の傷が深くてほとんどの人は夏休み中病院にいた(まだ教室の席はまばらだ)。しかし今月にはリトルバスターズの女の子たちは全員揃っていた)

西園「あとは…1人ですね」

小毬「うん…でもきっとすぐに戻ってくるよ」

謙吾「じゃあ奴が帰ってくるまで何か遊びを考えないか?」

来ヶ谷「……いや、その必要はなさそうだ。鈴君、窓を開けてみてくれ」

鈴「?」

ガラッ

理樹(言われた通りに開けると、次の瞬間ロープが上から垂れてきた)

理樹「こ、このロープはもしかして……」

理樹(そして見慣れた人物が降りてくる)



恭介「待たせたな!」



理樹「恭介!!」

恭介「どうやら絶好のタイミングで戻ってきたようだな」

鈴「怪我、平気なのか?」

恭介「ああ……ふっ!」

シュタッ

理樹「いつもそうだ…みんなを驚かせて僕らに無茶苦茶なミッションを出すんだ!」

恭介「ならば期待に応えて…」

真人「ミッションか!?」

謙吾「新しい遊びか!?」

恭介「めちゃくちゃ楽しいことをしようじゃないかっ!!俺たちでもう一度修学旅行に行くぞぉっ!」

「「「おおーっ!!」」」






理樹(もう一度ここから始まる…それは僕たちリトルバスターズの物語。きっと続いていく…はるか彼方まで)

まだ終わりじゃないぜ、もちっとだけ続くんだ

カリカリカリ

佳奈多「なにやってるの?書くところ全ッ然違うんだけど」

理樹「あ、ごめん…」

佳奈多「別にあなたがいくら書き間違えようと関係ないけどさっき言ってた書類のコピー出来たの?本当にトロいわね…」

理樹「ご、ごめん…」

佳奈多「さっきから謝って済むと思ってるわけ?もっと効率良く動きなさいよ」

理樹「すいま……せん…」

理樹(何故僕がこんな事になっているのか。それは数日前の恭介の一言から始まる)




3日前

恭介「理樹、突然だがミッションを与える」

理樹「えっ?」

恭介「もうしばらくしたら役員会議が始まるんだがそこで俺たちにとって厄介な出来事が起きる…」

理樹(恭介が言うには僕たちが使ってきた野球部の部室を次の会議で他の運動部に明け渡すかもしれないとのことだった)

恭介「俺たちは学校公認って訳じゃないから当然立場は弱い。そこで、まだ決まらないうちに寮会へ恩を売っておくんだ。言わば交換条件だな」

理樹「つまり僕たちにあの部室を残してもらう代わりにし寮会の人たちに対して何かするってこと?」

恭介「ああ。実は真人や小毬など他のメンバーも既にそれで動いている」

理樹(まあほとんどリトルバスターズの存続にかかってると言ってもいいしそれは仕方がないことなんだろう)

理樹「それで何をすればいいの?」

恭介「理樹には寮会へ行って直接手伝いをしてもらう。まあ心配すんな、見知った奴もいるだろう」

理樹(見知った人…?)

寮長室

佳奈多「あーちゃん先輩。なんでここに直枝理樹がいるんですか?」

あーちゃん「こらこらそんな事言わないの。せっかく手伝ってくれるのに」

佳奈多「私はいなくても大丈夫ですが」

理樹「……」

あーちゃん「ごめんね直枝君。かなちゃんいつもこんな調子なのよ~でも根はいい子だから仲良くしてあげてくださいな」

理樹「あ、はい」

佳奈多「あーちゃん先輩!」

あーちゃん「でも2人でやったほうが効率良いわよ?」

佳奈多「うっ……」

カリカリカリ

理樹(こんな状況、リトルバスターズの為じゃなかったら絶対投げ出してたな…)

佳奈多「…………はっ」

理樹「ん?あれ、今寝てた?」

佳奈多「…………寝てない」

理樹「この間真人からマッスルエクササイザーってドリンクもらったんだけど二木さんもどうかな?いい目覚ましに…」

佳奈多「い・り・ま・せ・ん!」

理樹「………」

佳奈多「………」

カリカリカリ

………………
………

理樹「よし終わったー!」

カリカリ

佳奈多「…………」

理樹(確か寮長に留守番頼まれてたな…お茶でも飲んで暇を潰そう)

トポポポポ

ゴクッ

理樹「……美味い、もう一杯」

トポポポポ

ゴクッ

理樹「やっぱり美味しいなこのお茶!よし、もう一…」

ガコッ

佳奈多「………?」

理樹「あ、無くなった…お茶っぱも切れちゃったか……ん?」

理樹(ラベルにメモが貼り付けてあった)

『寮長さん、ありがとうございました。能美』

理樹「ははあ、なるほどクドのお茶だったか。どうりで美味しいはず…」

佳奈多「ああーっ!」

理樹「えっ?」

佳奈多「………なんでもない」



カリカリカリ

理樹「暇だなあ…」

佳奈多「……そう思うなら帰れば?」

理樹「なにさ、人を邪魔者みたいに」

佳奈多「実際邪魔なんだけど」

理樹「でも寮長から留守番頼まれてるしねえ」

佳奈多「それぐらい私一人で出来るわよ。タイムイズマネー、時は金なり。あなた、帰ってもっとやるべきことがあるんじゃないの?」

理樹「そんなの無責任だろ、頼まれた仕事はちゃんとしっかりやらないと」

佳奈多「ふん、それじゃあお望み通りお茶をすすって定期的に暇だなーって呟いてるがいいわ」

理樹(………)

理樹「あのさ、それ手伝おうか?」

佳奈多「大丈夫よ、今日中には充分間に合うから」

理樹「でも2人でやったらもっと早く終わるよね?効率いいよ」

佳奈多「…………」

佳奈多「…………ここやって」

理樹「二木さんってもしかした効率ちゅ…」

佳奈多「何か言った?」

理樹「なんでも」

理樹(どうやら効率という言葉に弱いらしいぞ)

ガラッ

あーちゃん「たっだいまー」

佳奈多「お疲れ様です」

あーちゃん「仕事は…終わったようね!流石2人だと違うわ~」

佳奈多「では私はこれで」

あーちゃん「ああ、待って待って、さっき食堂のおばさま方からマフィンいただいて来たんだけど3人で食べない?」

佳奈多「結構です。私は甘い物が苦手だといつも言ってるじゃ無いですか…いい加減覚えてください。それでは」

バタン

あーちゃん「あーあ、振られちゃった」

理樹「二木さんって一言多いですよね」

あーちゃん「うーん…それについてはノーコメントかな」

焼却炉裏

四つの葉「…お相手が決まりました」

佳奈多「そう…」

四つの葉「驚かないんですね?それが当初の約束だった…と。葉留佳さんはこの事を?」

佳奈多「妹は知らないわ。……知る必要もない」





……………
………

理樹部屋

理樹「ただいまー……って…」

恭介「よっしゃあ!それロン!」

謙吾「ナイスだ真人!俺もロン!」

鈴「私もロンだ」

真人「う、うわぁぁぁぁあ!!なんでお前ら全員単騎なんだよぉおおお!」

理樹「…今日も夜まで遊ぶつもり?」

理樹(恭介達は5月からずっとこの調子だ。なんでも『どうせ時間はたっぷりあるんだし最後まで遊び呆けようぜっ!!』とか言って…)

理樹「恭介就活は?」

恭介「ふっ…そんなもん関係ねえぜ!とにかく遊べる時に遊ぶのが俺たちだろっ!いやっほーう!」

謙吾「ああ!」

理樹(こんな調子でクールだった謙吾も恭介が帰ってきた途端に色々とぶっ壊れた性格で恭介と同調していたのだった)

真人「でもよ、そろそろ本腰あげて鍛えないとヤバくね?」

恭介「別に余裕だろ。まあ、いざとなったら若干荒っぽいが何ルートか同時にだな…」

理樹(たまに恭介達は訳の分からないことを言う。そんなこんなで今日も夜が更けていった……)

廊下

コツコツ

理樹(今日も手伝いか…また罵倒されると思うと……)

トコトコ

佳奈多「む……」

理樹(そんなことを考えていると廊下で鉢合わせた)

佳奈多「………おはよう」

理樹(一応しょうがないから挨拶ぐらいしてやるかと言った顔で言われる)

理樹「お、おはよう…」



ガラッ

寮長室

あーちゃん「おっ!2人ともよく来てくれたわ!ちょっと頼みたいことがあるのっ」






佳奈多「あーちゃん先輩はなんで私一人に任せてくれないの…そんなに頼りないように見えるのかしら」

理樹(今日は街で教室の合鍵を作りに行ったり、園芸部が使う工具の調達などが仕事となった)

理樹「ほらきっとアレだよ、荷物持ちとしてさ…」

佳奈多「そういう事なら使い倒してあげるわ」

理樹「あはは…」




ウィーン

佳奈多「合い鍵全部作り終わるまで1時間ほどかかるらしいわ。……一度帰ろうかしら?」

理樹「ええっ、一度戻るの?それかなり面倒くさくない!?」

佳奈多「面倒くさいですって?」

理樹「あ、いや!えっと…ほら、それって非効率じゃないかな!?」

佳奈多「………それもそうね」

グーッ

佳奈多「………」

理樹「………」

佳奈多「………」

理樹「………」

理樹(今…確かに二木さんのお腹から漫画のような音が…!)

理樹「え、えっと…どこかお店入る?僕も疲れたし…」

佳奈多「『も』ってなによっ」

理樹「僕は疲れたし」

佳奈多「まったくだらしないわねぇ…」

理樹(……………)

夕方

校門前

理樹「ぜえぜえ……ちょっと待ってよ二木さん…」

佳奈多「ふんっ」

理樹「あのさ、前から思ってたけどその笑い方感じ悪いよ?」

佳奈多「感じよくしようと思ってないから」

理樹「普通にしてればモテそうなのに…」

佳奈多「お節介ね。貴方には関係ないわ」

理樹「それに僕を呼ぶ時いつも直枝理樹ってフルネームじゃないか。まるで悪意があるように聞こえるよ」

佳奈多「そう取れるように言ってたんだけど?」

理樹「うわあ、やっぱりそうだったんだ…。……ん?」

理樹(そう取れるように『言ってた』?)

佳奈多「………ふ、普通に呼ぶのってどうすればいいの…?」

理樹「えっ?」

佳奈多「………」

理樹(覗き込むように見つめられても……)

理樹「う、うーん別に深く考えずに苗字でいいんじゃないかな?」

佳奈多「………」

理樹「………」ニッコリ

佳奈多「…な…なお……っ….」

佳奈多「…っ……ふん、直枝!」

理樹「いやいやいや…どうしてそこで吐き捨てるように言うのさ…」





………………
………




恭介「ありがとう諸君。皆が寮会の仕事を手伝ってくれたお陰であともう一押しで我々の努力は身を結ぶこととなるだろう!」

理樹「もう一押し?まだ足りないの?」

恭介「ああ、二木に同好会連中の取りまとめを頼もうと思っている」

理樹「どうして二木さんに?」

恭介「二木は運動部会の事務作業もやっているんだよ」

理樹「へえ、そんなことまで」

謙吾「二木は剣道部の副主将だったんだ。今は幽霊部員だけどな」

理樹「ふーん」

鈴「でもあいつやってくれるのか?」

謙吾「そうだな、二木は俺たちを目の敵にしているから…」

理樹「それは心配ないよ。ちゃんと言えば分かってくれる人だから!」






次の日

理樹「あっ、いたいた」

理樹(どこにも居ないので聞いて回った結果、調理部のところにいるとの事だった)

佳奈多「で、ここは逆さまにして冷やしなさい」

葉留佳「えっ、なんで?」

佳奈多「こうしないと生地がふわふわにならないのよ」

理樹(どうやらお菓子作りについて教授しているらしい)

葉留佳「し、知らなかった…!……あっ、理樹君!」

理樹「やあ」

佳奈多「あら直枝…」

理樹「あれっ?」

佳奈多「なによ?」

理樹「今凄く自然に名前で呼ばれたからさあ」

佳奈多「当たり前じゃない。練習したんだから……ハッ!」

理樹「えっ?」

佳奈多「くっ……なんでもない。じゃ」

理樹(早口でそういうと早足で帰っていった)

葉留佳「教えてくれてありがとうお姉ちゃん!」

佳奈多「…焦げたのはもう食べないから」

バタンッ

寮長室

理樹「なんて事があったんですよ」

あーちゃん「それは良かったじゃないっ。これで貴方も思う存分かなたんって呼ぶといいわ」

理樹「呼びませんよ!」




トポポポポ

理樹「…そういえば今日は二木さん来ないんですかね」

あーちゃん「なーに?来ないと寂しい?」

理樹「からかわないでくださいっ」



ジリリリリリリリ‼︎



理樹「!?」

あーちゃん「この音は調理室からかしら…」

理樹「ちょっと様子を見に行ってきます!」

あーちゃん「あ、ちょっと直枝君!?」



調理室前

ザワザワ

理樹「ハァハァ…!」

真人「おう理樹か」

理樹「真人、いったいこれは!」

真人「ああ、なんでも調理室で火事が起きたらしいぜ。まあ風紀委員が駆けつけて火は消えたらしいけどな」

理樹(風紀委員って事は……)

理樹「ちょっと中見せて!」

真人「おう、気を付けろよ」




ガラッ

理樹「二木さん!?」

佳奈多「あら直枝。来るのが遅かったわね…ちゃんと火は消えたわ」

理樹「ほっ…それは良かった」

佳奈多「とりあえずスプリンクラーのせいでびしょ濡れになったから……」

佳奈多「…!!」

「ねえ…二木さんなんか腕にアザあるんじゃない?」

「あっ、本当だ…蛇みたい…」

佳奈多「あ…うぁ……!」

「………気持ち悪い」

佳奈多「ハァ……ハァ……!!」

ダダダッ

理樹「えっ!?ち、ちょっと二木さん!?」

真人「おいどこ行くんだ理樹!?」





佳奈多「フゥ……フゥ……!!……うっ!」

佳奈多「…オェッ…!」

ダダダッ

理樹「どこ行くのさ二木さ……」

理樹(裏庭の茂みに隠れた二木さん。やっと追いついたと思ったら彼女は……)

理樹「だ、大丈夫…?」

理樹(近付くと彼女は叫んだ)

佳奈多「近づくな!!」

理樹「……っ!」

佳奈多「私に近寄るな………もう打たないで…」

理樹(二木さんの目は明らかに常軌を逸していた)

理樹「…………」

佳奈多「…二度と葉留佳に……ブツブツ」

と思ったけど眠た過ぎるので無理だったぜ!明日隙をみて書いていくぜ!

理樹(今の二木さんの目はどこも見えていない…そのギラギラした視線はどこか遠くに憎悪の念を向けていた)

二木「ううっ………」

理樹「…………」

理樹(先ほどの生徒が言っていたものは僕にも見えていた。水に濡れて震えていたのでそれを隠すかのように自分の上着を羽織らせた。二木さんはそのことにも気付いていない)

来ヶ谷「おや……」

理樹「来ヶ谷さんっ」

理樹(いいところに!)

来ヶ谷「これは……いったい何があった?」

理樹「そ、それは…」

来ヶ谷「うむ、よく分からんが分かった」

来ヶ谷「ここは私が引き受けよう。理樹君は帰りたまえ」

理樹「う、うん…」

理樹(こういう時は僕なんかより同性でもある来ヶ谷さんの方が頼りになる)

来ヶ谷「あとで知らせよう」

理樹「わかった。ありがとう」

理樹(後ろ髪を引っ張られるような思いでその場をあとにした)

次の日

理樹(あのあと来ヶ谷さんから『無事に帰した』とのメールがあった)

「…組の二木さんがさ……」

「ああ、それ知ってる。なんでも腕に…」

理樹(あのことはごく少数しか知らなかったはずだった。しかしいつの間にかあっという間に広まってしまったらしい)

理樹(とにかく行ってみよう)


寮長室前

理樹(ドアを開けかけて足を止めた)

佳奈多「………」

「…………」

理樹(二木さん?)

佳奈多「…今更なにを?」

「二木の家に連絡が入ったそうです」

佳奈多「おじさまたちが来るのかしらね」

「あなた自身のミスです。あらぬ疑いをかけられたら…どうなるか分かっていますね?」

佳奈多「あい変わらずお役目ご苦労なことね。楽しい?」

「…好きでやっているとでも?」

佳奈多「…そうねあなたには感謝してる。3人部屋を抜けることも黙認してくれて」

「お互い様です。なにせ四六時中喧嘩ばかり。そんなギスギスした部屋にいたのですから」

佳奈多「…迷惑をかけたわね」

「過ぎたことです。…それと結婚式の日時が決まったようです」

佳奈多「…そう」

「では、私はこれで…」

理樹(彼女は一礼して去っていった。二木さんのルームメイトだった子か?)

理樹(声をかけようとすると背中をちょんちょん、と突かれて振り返った)

葉留佳「あっ、理樹君…」

理樹「おはよう葉留佳さん」

理樹(元気のない葉留佳さんが目の前にいた)

理樹「今の話を?」

葉留佳「うん…もう、その話は知ってるんだ…」

理樹「さっきの子は…」

葉留佳「私達の監視役の子」

理樹「か、監視?誰に…」

葉留佳「私達の法的保護者だよ。あの子の目があるから佳奈多は自省を強いられていたってわけ。……常に優秀で…私と仲良くすることも出来なかった」

理樹「そうなんだ……葉留佳さん、『結婚』ってなんのことか知ってる?」

理樹(普通の親戚のことかと思ったが、それにしては暗い顔だった)

葉留佳「…多分、おねえちゃんの結婚相手のことなんじゃないかな」

理樹「結婚!?」

葉留佳「そうだよ。おねえちゃんは実家の後継だからね…だけどそんなことはもっと先だと思ってた」

理樹「事情、知ってるんだね?」

理樹(俯いて葉留佳さんは語ってくれた。複雑な家の事情を。ふたりの確執と和解の話を)

理樹(長い話だった。……二人は生まれてくるところが悪かった。要約してしまえばそれだけのことだった)

葉留佳「……あのさ。見ての通りの性格だけどさ、おねえちゃんのこと好いてあげてほしいの」

理樹「えっ?」

葉留佳「嫌わないであげてほしい。嫌われて平気な人なんかいないからさ、誰かに好かれることって凄く素敵なことだからさ」

葉留佳「……今、辛いのはおねえちゃんだから」

理樹「……分かった」

葉留佳「じゃあ、行くね理樹君。バイバイ」

ガラッ

理樹「…やあ、二木さん」

佳奈多「………制服ありがとう。アイロンかけておいたから」

理樹「うん…あ、それとさ…」

佳奈多「ごめんなさい。用事があるの…じゃ」

理樹「あっ…」

ガラッ

あーちゃん「あら?今かなちゃん出て行った?もう、今日もどっさり仕事あるっていうのに…」

理樹(今は誰とも話したくないのだろう…それでまた限界が来るまで一人で抱え込んで…)

夕方

ブンッブンッ

佳奈多「ハァ…ハァ…!」

謙吾「振りたくもない剣を振る気分はどうだ?」

佳奈多「宮沢……そうね…少し痛いわ…ね!」

ブンッ

ガシッ

謙吾「………」

グググッ

佳奈多「………っ!」

謙吾「止めておけ、そんな剣で俺に不意打ちが通るとでも思ったか」

佳奈多「っ…」

ポツポツ…

謙吾「雨が降ってきたか…ではな」

佳奈多「………」



ザァァァ

ブンッブンッ

佳奈多「ふぅ……」

グラッ

佳奈多「………!?」



バタンッ

保健室

佳奈多「………」

理樹「起きた?……よかった…」

佳奈多「倒れたのね…」

理樹「うん。クドが君を見つけて大慌てだったそうだよ…熱もないし大丈夫かな…指何本に見える?」

佳奈多「やめてちょうだい。それよりなんでここに?」

理樹「えっ?そりゃ…」

理樹(そういえばなんでここに……いや、そんなのは分かりきったことだ)

理樹「二木さんが心配だからだよ」

佳奈多「お節介ね…本当にお節介」

理樹「そういう性分らしいからねえ」

佳奈多「…………」

理樹「二木さん?」

佳奈多「なんで私にまでそんなに構うの?あなたはリトルバスターズとかいう集団で遊んでいればいいじゃない」

理樹「……だって、困ってそうな人を見たらさ、誰だって助けたくなるよ。人を助けるとかいう考え自体がおこがましいってこともあるかもしれないけどさ…やっぱり放っておけないじゃない」

佳奈多「これ以上私が構わないでって言っても?」

理樹「僕もそう言ってしまう時ってあるんだ。とても小さかったとき、何もかもふさぎこんでいた時、そう叫んでいたんだ。…でもそのあと後悔する…『本当に誰もいなくなったらどうしよう』って」

理樹「二木さんがどうだか知らないけど僕や……他の人はそう思っていたことがあった。放っておいてって言っている時ほど構ってほしいって……」

佳奈多「…っ」

佳奈多「…人間の手は本当に小さいのよ。その手は誰か一人しか救えない。……たとえば崖に2人の人間がつかまっていたとしてあなたは二人とも助けようとするでしょうね。そしてあなた一人が耐えきれず崖に落ちる…そんなのバカバカしくない?」

理樹「………」

佳奈多「だからその手は他の誰かのために開けておきなさいよ…」

理樹(二木さんの声は震えていた)

理樹(そろそろ出て行こうと扉に手をかけた時にボソッと聞こえた)

佳奈多「でも……」

理樹「?」

佳奈多「ありがとう。あなたにはだいぶと良くしてもらったわ」

理樹「…二木さん」

佳奈多「…さようなら…」

次の日

教室

葉留佳「へえーいやーお姉ちゃんも強情っぱりだナァ…」

理樹「そうだね…」

理樹(恭介が言ってた言葉を思い出した。甘え方を知らない人間はどこで手を抜いていいのか、どこで力を出せばいいのか…それすら分からないと)

葉留佳「………!!」

理樹「どうしたの?」

理樹(窓の方を見た)

葉留佳「黒塗りの車……ここへは来ないはずなのになんで…まさか佳奈多…!」

葉留佳「り、理樹君…!きっとお姉ちゃんは実家に帰るつもりだよっ!もう帰ったら二度とここへは戻れない」

理樹「じ、じゃあ止めないと!」

理樹(ここから走って間に合うかどうか…)

来ヶ谷「待て少年」

理樹「来ヶ谷さん?」

来ヶ谷「ふむ…そうだな…小毬君、鈴君、カーテンをフックから外してくれ」

鈴「分かった」

小毬「おっけーですよ~っ」

理樹(そう言って来ヶ谷さん自身も一枚外すとそれに結び目を付け、端の方をロッカーに括り付けて固定した)

鈴「全部外したぞ!」

来ヶ谷「よし」

理樹(素早い手つきでカーテンを結んでいき、その一枚一枚の端を結んでいき一本の長いロープにしてしまった)

理樹「そうか!」

来ヶ谷「そういうことだ。ほれっ」

理樹(ロッカーに固定されているそのロープを僕に渡す)

真人「こっちは俺と謙吾が持ってるから心配すんな理樹!」

謙吾「ああ、とっとと行ってしまえ!」

理樹「は…はは…僕も恭介に言えないな…似たような事してるじゃないか」

理樹(もはや怖がってる場合じゃなかった)

理樹「行ってくる…うぉぉおおお!」

理樹(助走をつけて窓から飛び降りた)

シュルルルル…グッ



ドサッ

理樹「おっとと…!」

理樹(ロープの長さが微妙に足りなくて着地はかっこ良くいかなかった。だけど立ち上がり、走った)



「では行こうか…」

佳奈多「………」

理樹「ち、ちょっと待って…!」

佳奈多「………!」

「佳奈多、誰だねその少年は」

佳奈多「知らない人です」

理樹(大勢の大人に囲まれ、少し怯んだけど怖がるわけにはいかなかった)

「嘘だ!」

佳奈多「……!!」

「……葉留佳か」

葉留佳「知らないなんて嘘だよ!お姉ちゃんは帰らない……ううん、返さない!」

「両親は余計な事をするなと言っていなかったか?」

葉留佳「いいや、むしろ止めちゃいなさいって言ったよ」

佳奈多「ど、どうして…葉留佳……」

葉留佳「どうせならこういう結末がいい、悲しい結末よりも、苦しい結末よりも
こういう結末のほうがいい。そのほうがいいに決まってる!」

「もういい、行け」

「はいっ」

理樹(黒服が扉を閉めようとした時だった)

来ヶ谷「ずいぶん場違いな服を着ているな…ダンスなら私が相手になろう」

理樹(いつの間にか後ろに回り込んだ来ヶ谷さんが黒服の膝を突いて首を抑えて転かした)

佳奈多「来ヶ谷さん!」

恭介「随分殺風景なパーティーだな。俺も混ぜてくれよ」

佳奈多「な、棗先輩!?」

「こ、こいつら!」

バウワウッ!

「ヒッ…!?」

クド「犬の世界には一宿一飯の恩というものがありまして、つまり働かざるもの食うべからず!なのですよ。ストレルカ、ファイトですっ」

理樹(それは少し違うと思う)

佳奈多「く、クドリャフカ…」

真人「正義の味方はお前らだけじゃねえぜ!」

佳奈多「えっと……」

理樹「井ノ原」ボソッ

佳奈多「井ノ原…!」

謙吾「お前ばかりイイカッコウはさせないぜ!!」

佳奈多「宮沢…みんな!」

「こ、これが友情パワーか…」

葉留佳「とりゃー!!」

理樹(脈絡無く葉留佳さんが二木さんの手を掴んでいた黒服に体当たりした)

ドンッ

「うおっ…」

佳奈多「あっ…」

葉留佳「今だよ理樹君!」

理樹「二木さん!つかまって…」

佳奈多「っ……!」

ガシッ

恭介「よし!野郎どもやっちまえ!」

「クソッ!」

西園「このご時世、不審者の方々がこんなところへ土足で上がるとどうなるのでしょうか…いち…いち…ぜろ……と」

「くっ……後悔するなよ佳奈多…あとで詫びを入れたくなっても知らんぞ」

バタンッ

理樹(そう捨て台詞を残して帰って行ってしまった)

佳奈多「あなた達…本当にお節介……お節介ね」

理樹「だから言ったじゃないか。…昨日言ってたよね、崖での例え話。……僕ならもし手が足りない…他の人の手も借りたらいい。僕はみんなと一緒にその二人を助けるよ」

佳奈多「直枝…」

佳奈多「それじゃあ約束してくれる?いつか、私が同じような目にあった時に一緒に逃げてくれるって」

理樹「約束する」

佳奈多「私と、どこへでも、どうなってもよ?」

理樹「約束する」

佳奈多「ふふっ…馬鹿ね」

佳奈多「本当に…馬鹿ねっ」

…………………………………………………









……………………








……

一週間後

恭介「へえ、二木と直枝が…ねえ」

真人「お前勇気あるな…よくあんな風紀委員長と付き合えたもんだぜ…俺ならスレストで筋肉が萎えちまうね」

理樹「ストレスね。それに二木さんはもう風紀委員長じゃないよ」

理樹(寮会の仕事が全て終わり、委員の任期が終わった。二木さんは肩の荷が下りたと言っていたがけど)

恭介「………グッ!」

バターン

理樹「き、恭介!?」

謙吾「どうした!」

恭介「や、やべえ……グハッ……も、もしかしたら『時間』がないかもしれん…」

真人「は、はあ!?時間ってお前…この前はまだまだあるって…」

謙吾「……そ、それはいつの話だった…?」

真人「あ…えと……」

恭介「ち、ちと遊び過ぎたな…」

理樹「じ、時間ってなに!?恭介大丈夫なの!?」

恭介「あ…ああ、俺には構うな。…それより…どうしよう…ちゃんとした世界を維持するの、あともって一週間かもしれん…」

真人「や、やべえ!それじゃ理樹と鈴はどうすんだよっ!!」

鈴「ん?あたしがどうかしたか?」

恭介「………しょうがない。ここは一度俺たち以外の奴は全員『忘れてもらって』理樹に一週間で全員分やってもらおう…」

謙吾「ちゃ、茶番だ……」

理樹「さっきから僕の名前が出てるけどなんの話なのさ!?」

理樹(な、なんか様子がおかしいぞ…)

恭介「理樹」

理樹「う、うん?」

恭介「悪いが超頑張れ」

理樹「えっ?」

ドクンッ

理樹「あ……………」

理樹「………」

理樹「…」

バタンッ

現実世界

理樹「………それ…本当?」

葉留佳「うん…」

理樹(修学旅行から帰ったあと、葉留佳さんから衝撃の事実を聞かされた)

理樹「ふ、二木さんが結婚するって……」

理樹(深くて長い事情は聞いた。ずっと前にも聞いたような気がしたけどそんなことはどうでもいい。それよりも…)

葉留佳「理樹君、お願い、一緒にお姉ちゃんを助けて」

理樹「……………」

理樹「分かった。助けよう」

理樹(二木さんとは会えば軽く会釈をするが軽く無視してくるような仲だ。しかし何故か僕は助けなくてはならないような気がした。とても他人事には思えない…それに一度そう助けると本人に誓ったような気がする。自分で言ってて馬鹿らしいけど)

作戦決行前日

理樹「はぁぁあ…」

真人「どうした理樹?そんなでけえため息吐いて…幸せが逃げちまうぜ」

理樹「いや、実は本来幸せな場所に行って僕がめちゃくちゃにしてくるんだよ……緊張するよ」

真人「ふっ、大丈夫だぜ、お前の作戦は恭介も褒めてたよ。きっと完璧だ」

理樹「だといいんだね……」

真人「あっ、そうだ。そんなに眠れないならこんな物があるぜ」

タプン

理樹「?」

理樹(7色の鮮やかな液体を手渡された)

真人「マッスルエクササイザー・レインボーだ」

理樹「………なにそれ…」

真人「これは俺の作った中で最高傑作と自負している。…飲むか飲まないかはお前の自由だぜ?」

理樹(僕は……)

真人「お前に…レインボー」

続く







当日

ビル路地

理樹「それじゃ準備はいい?もう一度作戦を説明…」

プルルルル

理樹「ん?」

ガチャ

恭介『もしもし!』

理樹「恭介?何かあったの?」

恭介『あ、ああ!実はまずいことになった!なんと結婚が予定より早く行われてしまうらしい…別に助け出すこと自体に支障はないが早くしないとそのなんだ…例の誓いの”それ”が始まっちまうぞ!』

理樹「というと………!!」

理樹(それはまずい。なんとかそれまでに助けださないと!)

小毬「ほえ~?どうしたの理樹君」

理樹(仕方がない……苦肉の策だけど…)

理樹「分かった。それじゃあ恭介チームと来ヶ谷さんでとりあえず場を荒らしてからすぐに逃げて!」

恭介『なんだと?そんな事したってすぐに厳重警備になって救うのも困難に……』

理樹「僕に任せてよ」

恭介『なんだかよく分からんが算段があるんだな?分かった。だが時間稼ぎは2分程度だぜ』

理樹「充分!」

ダダダッ

葉留佳「えっ、どこ行くの理樹君!?」

理樹「ごめん、予定外のことが起きた!ちょっとすぐ行ってくる!」

葉留佳「わ、私も…!」

理樹「ダメだ、一緒に行動するとむしろ君まで危険な目に合わせてしまうよ。クドと小毬さんと一緒に逃走用のタクシーで待ってて」

葉留佳「それじゃ理樹君も危ないんじゃ……」

理樹「大丈夫」

理樹(安心させるように肩を掴んで言った)

理樹「今の僕は無敵だから」


ビル

結婚式場

パチパチパチ

佳奈多「…………」

「ほら、佳奈多。ご挨拶しなさい」

「あらあら綺麗な方ねえ」

「ああ、嫁に貰うにはもったいない…」

来ヶ谷「ようこそ皆さん。本日の料理でございます」

佳奈多「えっ……?」

来ヶ谷「ふふっ…」

1F

ダダダッ

理樹「はぁはぁ………っ!」

警備員「ん?なんだ君は…こんな所で走っちゃダメだぞ」

理樹「ご、ごめんなさい!でも知り合いの結婚式で…!」

警備員「ああ、なるほど…これから、ということは松の間で行われる所か。それなら裏の非常階段からの方が近い」

理樹「あ、ありがとうございます!」




来ヶ谷「どうぞごゆっくり!」

プシューッ

「な、なんだ煙か!?」

恭介「よし!とにかく場をかき乱せお前ら!」

真人「よっしゃあーっ!」

ドンガラガッシャーン‼︎

「なんだ貴様ら!ウエイトレスでは!?」

佳奈多「なっ…!」

3F

理樹「よし…」

ボディーガード「おい、今どこから来たお前!?」

ボディーガード2「このフロアは全て貸切だ、出て行け!!」

ガッ

理樹「………」

ガシッ

理樹(正面の敵を突破する時は、まずはどちらかの手を思い切り引っ張って……)

ボディーガード2「なっ!?」

理樹(違う方の足の弁慶を思い切り踏み潰す!)

メキィッ

ボディーガード2「ああぁぁあああ!!明日がぁーっ!!」

ボディーガード「こ、こいつ!」

理樹(取り乱した敵の相手は簡単だ。まずはひたすら殴りにかかってくるだろうからしゃがんでかわす)

ヒョイッ

理樹(そして腹に頭突きを食らわせ、そのまま顎を砕くように頭を上げる!)

ドスッ

ボディーガード「ぐっ……!」

ガンッ

ボディーガード「がはっ……!!」

バタンッ

ボディーガード2「ひ、ひぃ……」

理樹「保護色かな?ランプは好き?明かりはつかないという意味だけど」

ゴンッ

理樹(この二人を隠す余裕はない。とにかく先に二木さんの方へ行かなければ!)

すまん、言葉を間違えた

3F

理樹「よし…」

ボディーガード「おい、今どこから来たお前!?」

ボディーガード2「このフロアは全て貸切だ、出て行け!!」

ガッ

理樹「………」

ガシッ

理樹(正面の敵を突破する時は、まずはどちらかの手を思い切り引っ張って……)

ボディーガード2「なっ!?」

理樹(違う方の足の弁慶を思い切り踏み潰す!)

メキィッ

ボディーガード2「ああぁぁあああ!!足がぁーっ!!」

ボディーガード「こ、こいつ!」

理樹(取り乱した敵の相手は簡単だ。まずはひたすら殴りにかかってくるだろうからしゃがんでかわす)

ヒョイッ

理樹(そして腹に頭突きを食らわせ、そのまま顎を砕くように頭を上げる!)

ドスッ

ボディーガード「ぐっ……!」

ガンッ

ボディーガード「がはっ……!!」

バタンッ

ボディーガード2「ひ、ひぃ……」

理樹「保護色かな?ランプは好き?明かりはつかないという意味だけど」

ゴンッ

理樹(この二人を隠す余裕はない。とにかく先に二木さんの方へ行かなければ!)

結婚式場

理樹(扉を開けた瞬間、煙が広がった)

理樹「ゴホッゴホッ…」

恭介「理樹か!二木は無事だぜ!」

理樹「ありがとう恭介!」

佳奈多「来ヶ谷さんこれはいったい…」

理樹(まもなく煙の中から謙吾と真人、それに二木さんを抱えた来ヶ谷さんが出てきた)

来ヶ谷「では我々は行くが君は佳奈多君を連れて脱出できるか?彼女はヒールだから走ることは…」

理樹「抱えていくよ!」

佳奈多「えっ、ちょっ…直枝!?」

理樹(今は恥ずかしがる時間すらおしい。俗に言うお姫様だっこをすると一目散に逃げ出した)






2F

「待てーーっ!!」

理樹「はぁ…はぁ……」

理樹(やはり人を担いで走り続けるのは無理があるか…)

理樹「一旦そこの部屋に隠れよう!」

佳奈多「え、ええ…」

バタンッ

理樹「ふう……二木さんが軽くて助かったよ…」

理樹(来ヶ谷さん達は今頃逃げ果せただろうか…本来なら西園さんが監視カメラを使い物にならなくして、恭介と鈴が陽動するんだけど……お陰でカメラに気を使っていかないと…)

佳奈多「せ、説明しなさいよ!どうして貴方達がここに…!」

理樹「それは助かってから話すよ。とにかく今は逃げないと…」

コツコツ

「クソ…どこだ…?」

佳奈多・理樹「「!」」

『こ、ここよ!』

「ふっ…手間取らせよって…この部屋だな?とうとう観念したようだが一度逃げようとした罪は消えることはないぞ…!」

ガチャッ

「覚悟し…」

グググッ

「なっ……き、貴様ッ……なに…も……の」

ガクッ

佳奈多「き、きゃあっ!?」

理樹「大丈夫、気絶しただけだよ」

佳奈多「あ、あなたいったい…」

「いたぞあそこだーっ!!」

理樹「まずい見つかった!」

佳奈多「どうするの、もう退路は…」

理樹「仕方がない…」

理樹(窓を開けた。ベランダがあってよかった)

佳奈多「まさかあなた……」

理樹「僕につかまって二木さん」

理樹(なんだろう…これが初めてのはずなのに何度も飛び降りている気がする)

佳奈多「あ…う……」

「佳奈多!止まりなさい、お前は結婚して私たちとの約束を果たすのだ!逃げれば必ず見つけてやるぞ!」

理樹「二木さん!君は奴らの道具になっちゃダメだ!……来いっ!!」

佳奈多「………!!」ビクッ

ガシッ

「ダメだ、2階だぞ!行くなっ!!」

理樹「二木さん……」

佳奈多「信じるわ。あなたを」

理樹「…………」コクッ

理樹(確かにここは二階だ。しかし僕の記憶が正しければその下は…!)

ダダッ

ヒュー……




ガサッ





理樹「い、痛てて…」

佳奈多「うっ…」

理樹「…怪我は?」

佳奈多「な、ないわ……なるほど、ヤシの木がクッションになったのね。……まさかこれを読んでいたの?」

理樹「さあね…とりあえず助かってよかった」

恭介「理樹ー!無事だったかー!?」

理樹「こっちは大丈夫だよ!」

キキーッ

理樹(僕らの前にタクシーが止まった)

ガチャ

葉留佳「さあ佳奈多、理樹君、乗って!」

佳奈多「は、葉留佳…!あなたもこれに一枚噛んでいたのね」

葉留佳「当たり前じゃん!なんたって花嫁は奪ってくるものですヨ!」

佳奈多「ふん…昔の映画じゃあるまいし…」

理樹「すると僕がホフマン?」

バタンッ

ブロロロロ………

佳奈多「もう後戻り出来ないじゃない…これからどうするの?」

葉留佳「3人で暮らそうよ!実は学校にもう届け出ちゃったんだ」

理樹「どこかアパートでも探して3人で暮らさないかって」

佳奈多「やれやれ…本当に無茶するわねあなた達……」

理樹(こうして奪還劇は成功に終わった…しばらくの間はお家の人間から姿を隠すために学校を出るつもりだ。それまではこの2人と同居生活をするわけだけど……)






理樹部屋

真人「よし!あとはこれだけだな」

理樹「ごめんね真人…荷造りまで手伝わせちゃって」

真人「良いってことよ!それより2人はどうしてんだ?」

理樹「そもそも持って行こうと思ってる物はほとんどなかったみたい。今日のところはとりあえずホテルに泊まって明日適当なアパートを探そうってさ」

真人「そうか。ところで理樹はどうする?もうこんな夜だが…」

理樹「うーんそうだねえ。せっかくだしこっちで今日は寝ようかな。早朝に抜け出せばなんとかなると思うし」

真人「そっか!それじゃあ最後の夜って訳だな!今日は盛り上がっていくぜぇーっ!!」

理樹「いやいやいや…しばらく後にするだけでいつかここにも戻ってくるから」



真人「うう…もう食えねえ……」

理樹「腹八分って言葉知ってる?とりあえずもう電気消すからね…」

真人「お、おう…おやすみ……」

パチン


…………………

…………






「……なさい……」

理樹「う、ううん…」

理樹(意識が復活した。凄く重たい)

「……って言っているでしょう……!」

理樹「ぐっ……」

笹瀬川「起きなさい!!」

理樹「…………えっ」

笹瀬川「さ・さ・せ・が・わ・さ・さ・みですわっ!!」

続く

笹瀬川「ぐぬぬ…」

理樹(夢というのは本当によく分からないものだ。普段全然喋らない人間がいきなり夢に出てきて楽しげに会話することもあるのだから)

理樹「………」

笹瀬川「えっ、ちょっと…」

理樹(しかし今回は少し欲求不満だったかもしれない。笹瀬川さんみたいな人が上に乗っかってくる妄想なんて恭介に知られたらこの先10年は馬鹿にされるぞ……)

理樹「おやすみ…」

笹瀬川「夢じゃありませんわ!」

バチンッ

理樹(なんか今ハエが止まったような……まあ、いいか、どうせ、ゆ……め……)

笹瀬川「なあっ!?こ、これでも起きませんの!?」

バチンッバチンッ

理樹(グゥ………)

笹瀬川「この……この……っ!!」




…………………

…………



ニャーオ‼︎

理樹「ふぁああ……」

真人「くっ……う、うぉおお!」

理樹「むにゃ………えっ?」

理樹(顔をずらすと真人と何か黒い物が死闘を繰り広げていた)

理樹「なんだアレ…」

ピョンッ

黒猫「フシャーーッ!!」

真人「ウラァーーッ!!」

理樹(黒猫だった。真人はなんとか捕まえようとするが黒猫は身体を巧みに捻らせ太い腕の猛攻をすり抜ける)

ムニュ

理樹(黒猫の肉球が真人のおデコにヒットした)

真人「へへっ、いくら避けようが肝心の攻撃がそれじゃ俺を倒すことは…」

黒猫「フッ」ニヤリ

理樹「えっ!?」

理樹(今、猫が笑った……!?)

ニュッ

グサッ

真人「ぐ、ぐぁぁぁあああああ!?」

理樹「なるほど!爪を食い込ませたのか!」

真人「り、理樹!起きてんなら感心してないでこの猫捕まえてくれよぉ!」

理樹「しょうがないな…」

理樹(気付かれないよう慎重に興奮状態の猫へ歩み寄る)

理樹「よっと…」

ムンズッ

プラーン

黒猫「ウニャッ!?」

理樹「鈴から教えてもらったんだ。猫は首根っこを掴むと静かにな……」

黒猫「ギニャァァーッ!!」

ザシュザシュッ

理樹「うわぁぁあ!!」

真人「り、理樹ぃーーっ!!」

数十分後

理樹「ダメだ…小さ過ぎて捕まえにくいよこの猫…」

真人「どうする理樹…今は端っこで警戒してるからそのまま食堂行っちまうか!?」

理樹「いやでも僕の鞄猫の横にかけてあるんだけど…」

真人「マジかよちくしょう!このままじゃ遅刻は間違いなしだぜ」

理樹「…仕方がない。真人は行ってていいよ、僕は後から行く」

真人「馬鹿言うな!お前を残して行けっかよ!」

理樹「その気持ちはありがたい。流石僕の親友だよ。だけど…いや、だからこそ僕のせいで真人までもが出席簿に赤のチェックを書き込まれることを避けたいんだ!」

真人「理樹……」

理樹「さあ行って。朝食を抜けばなんとか間に合うはずだから」

真人「くっ…その想い受け取ったぜ!俺は…行く」

理樹(真人は悔しそうに机の鞄を引っ掴み、出て行った)

理樹「さて………」

黒猫「フシュー!」

理樹「きっと鈴が連れてきた猫が居ついたんだろうけどなんでこんなに殺気立ってるのかな…」

黒猫「うりゅ……」

ポンッ

理樹「!」

笹瀬川「だから猫じゃありませんというのに…」

理樹「!?」

理樹(いったい何が起こったというのだろう…突然目の前の猫がB級特撮よろしく煙と共に消え、代わりに鈴の最大の好敵手である笹瀬川さん変わってしまったのだった!)

理樹「はっ…ちょ、これ……!」

笹瀬川「はっ、ちょ、これ……じゃありませんわ!さっきから私のことを……って…」

理樹(そして自分の体をペタペタと触る)

笹瀬川「も、戻ってますの…?や、やりましたわ!」

理樹「ごめん、いったい何の話?」

笹瀬川「一時はどうなることかと…とにかく、ご迷惑をお掛けしましたわ。事情をお話ししたいところですが今はあなた達の言う通り授業が始まる寸前。とりあえずここは失礼…」

理樹(訳を説明しないまま帰っていこうとする笹瀬川さん。しかし窓を開けた瞬間さっきの出来事は間違いでなかったことを確信させられた)

ガラッ

笹瀬川「ではごめんあそばせ…」

ポンッ

黒猫「………ニャ?」

理樹部屋

理樹「ごめん、もう一度説明してよ」

笹瀬川「だから私は猫になってしまったんですわ!!」

理樹(笹瀬川さんは、昨日の夜に何故か突然猫になってしまったらしい。そこで偶然自動販売機にいた僕に助けを求めるように声をかけたという)

理樹「あー、そういえばそんな事もあったような…」

笹瀬川「結局私を置き去りにしていこうとする貴方に部屋までついて行ったんですわ。結局あなたは気付かずじまいでしたけれど…」

理樹「ええー」

理樹(僕もついに難聴になったしまったか…)

笹瀬川「男子寮に入るとドアが閉まってしまい、脱出しようとしても結局猫の姿ではどうする事も出来ず…結局ドアを開けていたあなたの部屋に入ったのですわ」

理樹「……も、もしかして……」

笹瀬川「そう、そこで私は何故か元の姿に戻られるようになったのですわ。そこであなたを起こそうとしてもやれ『これは夢だ』とかぬかして起きる事はないまま朝に……」

理樹「な、なんかごめん…」

笹瀬川「結局、私も寝てしまって朝になると…」

理樹「猫になってしまったと」

笹瀬川「その通りですわ。そこで!あの筋肉が私をヒョイと担ぎ上げると……信じられない事に私の、私の大事な部分を…!」

理樹(なんとなく想像がついた)

理樹「別にいいじゃない…その時は猫の姿だったんだから」

笹瀬川「よくありませんわ!たとえ猫だったとしても感覚も視線もすべて同じなんですから!」

理樹「いや、まあ…」

笹瀬川「ご、ごほん……話がズレてしまいましたわね。とにかく私はただ自分の部屋に帰りたいだけですの!だのにこんな非現実なことのせいで……」

理樹「僕もびっくりだよ。でも窓を閉めてこっちに来たら元に戻ったよね」

笹瀬川「ええ…もしかすると猫になる状況というのがあるのかも」

理樹「じゃあさ、驚くのは後にして今はそれを解決していこうよ」

笹瀬川「あなた案外楽観的ですのね…まあ、その…ありがとうございます」

理樹「うん、そりゃ僕もなかなか不思議な目に遭ったことあるし」

理樹「………いや、待てよ」

笹瀬川「?」

理樹(ここは非現実…ならもしかして今のこの世界も誰かが作った世界なのか!?)

理樹「だとしたら現実の僕は今頃また瀕死になってたりして……いや、それはないか…」

理樹(今の僕が瀕死になるなんてそっちの方が非現実的だ。それより今は目の前の現状についてだ)

理樹「笹瀬川さんが猫になったりならなかったりするのはなんでなんだろう」

笹瀬川「分かりませんわ…何か法則でもあるのかしら…」

理樹「そうだねえ…とりあえず笹瀬川さんが猫になった時と元に戻った時はどんな感じだったかな」

笹瀬川「私が有力だと思っているのは外に出た時が猫になるものだと思いますわ。何故なら逆に元に戻ったのなあなたの部屋にいる時だけですもの」

理樹「いや、それはどうだろう…まだ足りないんじゃないかな?」

笹瀬川「はい?」

理樹「だって現にさっき真人や僕と闘ってた時は君は猫だったじゃないか」

理樹(あのウルトラCは今でも目に焼き付いている)


理樹「

笹瀬川「ですが夜に筋肉ダルマが寝ていて、あなたが半覚醒状態だった時は元に戻れていましたわよ?」

理樹「うーん…強引に解釈するなら真人の目がない時は君も元の姿でいられるってことかな?」

笹瀬川「そう…なんでしょうか?」

理樹「君が元に戻れる条件は①この部屋にいること②真人に見られていないこと(僕は除く)ってことかな」

笹瀬川「なんだか色々ピンポイントな気もしますわね…」

ガチャ

恭介「理樹、いるか?」

笹瀬川「確かあなたは……」

ポンッ

黒猫「ニャァーッ!?」

理樹「ま、まさか…」

恭介「やっぱりいたか…ってどうしたその猫は」

理樹「ああ、いやこれはその…ハハ」

恭介「まあ、それはいいとしてもうとっくに授業は始まっているはずだぜ?食堂にも現れなかったんで真人に聞いても喋らんから休憩時間に部屋に来てみたが…」

理樹(まずいな…なんとか誤魔化さないと…)

理樹「えっ…あ、いやほら!これはその…アレだよ!止むなき事情ってもので…」

恭介「ん?どんな事情なんだ?」

理樹「それは……えっと…笹瀬川さんの事で」

恭介「笹瀬川?鈴の友達のか?どうしてそこで笹瀬川が…」

理樹「と、とにかくその、笹瀬川さんの事を考えてたらいても立ってもいられなくて…!」

恭介「いられなくてどうしたんだ?…………あっ」

理樹(なにかに気付いたような恭介)

恭介「す、す、す、すまなかった!!取り込み中だったか…ああ、タイミングが悪かった………そうか…理樹も…そりゃあ男だからな…」

理樹「えっ、ちょっと待って」

恭介「それにしても理樹は笹瀬川を……そうか…邪魔したな」

理樹「ま、待って!絶対なにか勘違いしてるよ!!」

バタンッ

ポンッ

笹瀬川「!」

理樹「あっ」

笹瀬川「も、もう…さっきの事は突っ込んでいたら話が進まなくなりますのでスルーしますわ…。だけどこれでハッキリしましたわね」

理樹「う、うん…」

理樹(どうやら僕以外の人間が笹瀬川さんと出会えば猫と化してしまうようだ)

笹瀬川「とりあえずあなたは教室へ行きなさい。授業ぐらいは受けてきなさいな」

理樹「えっ、いいの?」

笹瀬川「私のせいであなたが欠席になるのは目覚めが悪いですわ。それに私はどうせ行こうにも行けませんしついでに病欠と私の担任の先生に伝えておいてくださらないかしら?」

理樹「分かった。ありがとう」

笹瀬川「それとお昼にはサンドイッチと紅茶を買ってきてくださると助かりますわ」

理樹「うん、それじゃ行ってくるよ」

笹瀬川「ええ、行ってらっしゃいませ」

理樹「……」

笹瀬川「……なにか?」

理樹「いや…なんか今のやりとり夫が出勤する時の夫婦の会話みたいだなって」

笹瀬川「だーれーがー夫婦ですってぇーーっ!?」

理樹「な、なんで怒るのさ!?」

理樹(先生にはお腹が痛かったと説明してしてなんとか誤魔化せた)



休み時間

裏庭

理樹「はぁ……」

理樹(ワゴンでパンを買って笹瀬川さんに渡していると必然的に真人達はすでに食べ終わっている…一人で食べるのも久しぶりだな)

ドサッ

理樹(横に誰かが座った)

来ヶ谷「やあ、君が遅刻とは珍しいな」

理樹「来ヶ谷さんはいつも早いよね」

理樹(もずくを片手に現れた)

来ヶ谷「至って普通だ。起床時間とは不思議なもので一度癖をつけてしまうと、前日に夜更かしでもしない限りいつも寸分違わない時間で起きられるものさ」

理樹「ふーん」

来ヶ谷「ところで……理樹君」

理樹「?」

理樹(来ヶ谷さんは話を切り出すと急に顔を赤くさせた…何があったんだろう)

来ヶ谷「私は思い出したんだ。どうしたものか、あの忘れっぽい私が思い出したんだ。その時の私はきっと無理だと思っていたんだが…」

理樹(手に持ったスプーンを落ち着きなくカチャカチャと動かす。こんな動揺している来ヶ谷さんは初めて見た)

理樹「なにがあったか知らないけど落ち着きなよ。そもそも来ヶ谷さんが忘れっぽいとは思えないけど…現に教科書のページを言えばどの問題があったかだって言い当てたじゃないか」

来ヶ谷「ああ…そうだったか……」

理樹(相変わらず挙動不審だ)

来ヶ谷「明日…放課後、教室で待っていてくれないか?」

理樹「えっ?」

理樹部屋

理樹「………」

笹瀬川「いったい何を惚けておりますの?」

理樹「えっ、あ、ごめん…」

理樹(そりゃあの来ヶ谷さんから意味深な呼び出しをくらってしまったら考え込んでしまうよ…僕を罠にはめようって感じではなかったけど……)

笹瀬川「それより私もあのあと一人で学校を散策してまいりましたの」

理樹「ってことは猫の姿で?」

笹瀬川「ええ……一応色んな方に喋りかけて回りましたが今日のところは誰もただ『ああ、猫がいる』というぐらいの反応しかしてくれませんですの…」

理樹「戻ることはなかったんだね?」

笹瀬川「ええ。ああ、それと神北さんに連絡するのを忘れていましたわ!今日は早めに学校へ行ってしまったと勘違いしているかもしれませんが夜に帰ってこないのは流石に不自然ですもの」

理樹「えっ!笹瀬川さんのルームメイトって小毬さんだったの!?」

笹瀬川「ああ!やってしまいましたわ…黙っておこうと思っていましたのに…特に棗鈴に近いあなた方には…」

理樹「ああ、なるほど…」

理樹(確かにそれが浮き彫りになって鈴と笹瀬川さんの関係に小毬さんが板挟みになるようなことになったら大変だ)

理樹「鈴もそんなことでとやかく言うと思わないけどね」

笹瀬川「と、とりあえずかけますわ!」






ピッピッピッ

プルルルル

ガチャ

小毬「はいもしもし?」

笹瀬川「あ、神北…」

ポンッ

理樹「あっ」

黒猫(笹瀬川)「…………」

続く
リトバスのキャラは周期的にお気に入りキャラが変わる

理樹(喋ろうとすると猫に戻ってしまった)

理樹「と、とりあえず話してなよ…」

黒猫「う…うう…もしもし、神北さん?」

神北「にゃー?」

黒猫「はあ?いったいなぜ猫の鳴き声なんて…」

神北「にゃーにゃーにゃーっ」

理樹「ああ…やっぱり猫の声にしか聞こえてないんだと思うよ」

黒猫「そ、そんな……」

理樹「代わるね。…もしもし小毬さん?」

小毬「あ、理樹君。さっきの猫ちゃんは?」

理樹「う、うん…それは置いといてさ。今日は笹瀬川さん僕の部屋に泊まることになったってことを言いたかったんだ。しばらく部屋に帰ることは無理だと思う」

小毬「うん、分かったよお!………ってえええーっ!?もしかして理樹君とさーちゃんは夜のランデビュー!?」

理樹「いやいやいや…」

黒猫「直枝理樹、携帯をこちらに近付けなさい…」

スゥゥゥ

黒猫「つべこべ言わずとっとと寝なさーーい!!」

小毬「ひ、ひゃぁぁああー!?にゃーしか聞こえないけどごめんなさあぃぃ!!」

理樹「猫の声でも流石だね」

笹瀬川「ふんっ!」

理樹「………あれ?」

笹瀬川「どうかなさいました?」

理樹「おかしい…今黒猫だったのになんで僕は君の声が理解出来たんだろう。さっき小毬さんに怒鳴った台詞だって聞けていたよ」

笹瀬川「そういえばそうですわね…!」

理樹「なんなんだいったい…笹瀬川さんが元に戻れるのも僕の部屋で僕と2人きりの時だけだった。多分猫の声を理解出来るのも僕だけだ…どうして僕ばっかり」

笹瀬川「…仕方がありませんわね…こうなったら明日はあなた以外に私の声が聞こえる人間を探しに行きますわよ!」

理樹「うん!」

理樹(笹瀬川さんが前向きな人でよかった!)

ガチャ

真人「あーただいまーっと」

ポンッ

理樹(そうだった…これを忘れていた……)()

真人「はぁぁああーーっ!!?笹瀬川がこの猫だとぉぁおお!?」

理樹「うん…実はそうなんだ…それでどうしたわけか真人がいると元に戻れなくて…」

真人「つ、つまりアレか?もう理樹と一緒に住めねえって事なのか!?」

理樹「いやずっとって訳じゃないよ…ただこの問題が解決するまでは無理かな…」

真人「そ……そう……か」

理樹(これでもかというほどに落ち込んでいる…というか笹瀬川さんが黒猫になったという事自体はあっさり信じるのか!)

理樹「ほ、ほら!きっとすぐに僕と笹瀬川さんで事件を解決して見せるから。だからそれまでの間はサヨナラ筋肉だよ!」

真人「ふっ、そうだな…またきて筋肉だぜ!」

理樹「いやっほーう!筋肉最高ぅーっ!」

真人「筋肉最高ー!理樹最高ーーっ!ヒャッホォー!」




真人・理樹『『筋肉いぇいいぇーい!筋肉いぇいいぇーい!』』

笹瀬川「………馬鹿ばっかりですわ」

………………
………


校内

黒猫「誰か!私の言葉が分かる方はいらっしゃいませんかー!?誰かーー!」

理樹(今日は笹瀬川さんを担いで校内を散策した。こうやって笹瀬川が声をかける事で反応してくれる人がいないかと思っていたけど、通る人が喋りかけてくれる言葉は『それ直枝君の猫?』『可愛い猫さんだわ!』『その直枝君可愛いね!』といったものだった)

キーンコーン

理樹「うわ…回ってるうちにとうとう夕方になっちゃった…」

黒猫(笹瀬川)「結局誰一人として反応してくれませんでしたわ……」

理樹「……………」

笹瀬川「どうかしましたの?」

理樹「あっ、ごめん…いや、昨日誰かと約束してた気がしたんだけど…」

笹瀬川「あら、それなら早く行きなさいな。その人はあなたを待っているんでしょう?」

理樹「そ、それが思い出せないんだ……」

笹瀬川「思い出せない?かなり昔に約束していたんですの?」

理樹「いや、昨日のはずなんだけど…どうしてか頭に霧がかかったようで…」

笹瀬川「あなたそれ忘れっぽいっていう次元でよくて…?」

理樹「うーーん…」

ザッザッ

鈴「お、理樹か。それとその子は?」

理樹「そうなんだ」

笹瀬川「な、棗鈴……あ、あなたは私の声が聞こえるかしら…?」

鈴「ふむ?そうかそうか」

理樹・さ「「!?」」

理樹「り、鈴!今の分かったの!?」

鈴「ああ分かった」

理樹(そう言ってポケットに手を突っ込んだ)

鈴「これが欲しいんだろ?」

理樹(モンペチ)

さ「な、棗鈴……!!初めてですわ…ここまでこの私をコケにしたのは!」

フシャーーッ!

鈴「こいつ私のことが嫌いなのか」

理樹「いや、まあ…」

鈴「しょうがない。ここは立ち去るとしよう…猫は嫌われていたらあせらず一度距離をとらないといけないんだ」

理樹「そ、そう…」

理樹(この場合はずっと無理だと思う…)

理樹(結局手がかりは掴めないまま夜に……)




食堂

恭介「という訳でバトルランキング制にしようと思う」

真人「はあ?」

恭介「お前らのバトルもせっかくだから遊びにしてみようと思う。 ルールは簡単だ。観客から投げ入れられた武器を空中で無作為に選びとる。女子の場合は意図的に落ちているものから選んでもよい。これはハンデだ」

葉留佳「あーたまに鈴ちゃんや真人君がやってる奴っすね」

恭介「勝負をして、勝ったら順位が入れ替わる。負けたら勝った人間から称号が与えられる」

理樹「ってそれランキング制なの!?」

恭介「ああ。理由は無論、燃えるからだ。順位はこんなところだろう」

ランキング暫定王者 宮沢 謙吾
2位 棗 恭介
3位 棗 鈴
4位 井ノ原 真人
5位 西園 美魚
6位 三枝 葉留佳
7位 来ヶ谷 唯湖
8位 神北 小毬
9位 能美 クドリャフカ
10位 直枝 理樹

理樹「ええー僕最下位!?」

恭介「理由は無論、燃えるからだ」

理樹(そんなこんなでバトルが始まってしまった……)

理樹「あれ?」

恭介「どうした?」

理樹「そういえば来ヶ谷さんは?今日はずっと見てないっていうか…」

恭介「奴のことだからきっとひょっこり出てくるだろう。こんなに面白そうなイベントを逃すはずがない」

理樹「自分で言うんだね……」

小毬「でも確かにゆいちゃん今日一度も見てないよ…風邪さんかな?」

真人「よっしゃあ!早速俺とバトルしろ鈴!!」

鈴「ふっ、地獄を見たいようだな…」


……………………

……………

……

理樹部屋

理樹「ただいまー…」

ガチャ

笹瀬川「なっ…」

理樹(そこには着替え中の笹瀬川さんが!!)

理樹「あっ……ご、ご、ご、ごめんなさい!!」

バタンッ

笹瀬川『あ、あなたはもっと女子が住んでいるという自覚を……!!』

理樹「う…やっちゃった…」

理樹(正直忘れていた。でも着替えなんて……着替え?)

ガチャ

理樹「ねえ笹瀬川さんその着替えって…」

笹瀬川「~~~~っ!!」

理樹(しまった。忘れてた)

バタンッ





笹瀬川『もう…いいですわよ…』

ガチャ

理樹「す、すいません…二度目もわざとじゃないんです」

笹瀬川「とりあえず、一発殴らせてもらえるかしら?」

理樹「ごめんなさいでした」

笹瀬川「それでなんですの?着替えがどうこうっていうのは」

理樹「う、うん…その制服の着替え誰から借りたのかなって…」

笹瀬川「この状態では借りることもままなりませんわ。…神北さんがいつの間にかここへ置いていってくださったようですの…」

理樹「そう。やっぱり良い人だね」

笹瀬川「ええ、本当に神北さんには感謝してもしきれません…」




次の日

食堂

理樹「…来ヶ谷さん今日も休みか」

恭介「しょうがない。今日は来ヶ谷の順位を繰り越してバトルを行おう」

小毬「じゃあ今日は放課後にお見舞いに行ってくるよぉ、心配だし…」

理樹「僕も行こう」



理樹「それっ」

ドゴッ

マスクザ斉藤「ぐはァッ!?」

理樹(案外簡単に倒せた。僕と同じく謙吾や真人を倒したというから少しは楽しめるかと思ったけど期待外れだったらしい。そして結局来ヶ谷さんが今日来ることは……)







放課後

小毬「それじゃあ行きましょー」

理樹「うん」

女子寮

旧館

理樹「来ヶ谷さんってこんなところに住んでたんだね…」

小毬「うん。私も最近ゆいちゃんにお招きされてなかったら分かんなかったよ~」




コンコンッ

小毬「ゆいちゃ~ん?」

理樹「?」

コンコンッ

シーン

小毬「いないのかな…」

理樹「でもここにいなくて僕らに2日も姿を見せないなんておかしくない?」

小毬「た、確かに……はっ!も、もしかしてドアの向こうでは殺人現場が……」

理樹「いや、来ヶ谷さんに限ってそれは……」

ガチャ

小毬「だ、だ、だ、大丈夫ゆいちゃん~!?」

理樹「ああ、勝手にドアを開けちゃダメじゃないかっ」

ガチャ

来ヶ谷部屋

シーン

小毬「………」

理樹「……どうだった?」

小毬「……いない…」

理樹「そんな…じゃあ来ヶ谷さんはどこに……」

理樹(もぬけの殻だった。綺麗に整頓されているが、生活感のある空気が残ったままの部屋だ。しかし今はまるで来ヶ谷さんだけが突然世界から消えてしまったような……)

続く
今度は朝に描く




理樹「………電話も出ない…」

小毬「どこ行っちゃったんだろう……」

理樹(ドアが開いているという事は来ヶ谷さんは故意に消えた訳ではないだろう。だけど不審者に遅れをとる人じゃないのも分かっている。ならいったいどうして…)

小毬「なんだか寂しいよ…ゆいちゃんは居なくなっちゃったしさーちゃんも来れなくなって…」

理樹(…………)

理樹「ねえ小毬さん。今から言う事を真剣に聞いてほしいんだ」

小毬「?」





理樹部屋

小毬「ほ、本当にこの猫さんがさーちゃんなの!?」

黒猫「 神北さん…」

小毬「うーん………あ!」

理樹(両手を腰に当てて考えると急に何かを思いついたらしい)

小毬「あたっくちゃーんす」

理樹・黒猫「「?」」

小毬「じゃあ黒猫さんに質問です。さーちゃんはいつも買っているジュースがありますが、駅前にしかないんだけどさーちゃんはいつも何本まとめ買いするでしょう?」

黒猫「はい!」

理樹(猫の手(足?)で挙手する)

小毬「黒のあなたどうぞっ」

理樹(小毬さんの元まで寄ると、太ももにその本数分を叩いた)

黒猫「三本!三本ですわっ!」

ピンポーン

小毬「ほわあっ。本当にさーちゃんなんだね」

黒猫「神北さん…!今私はあなたに深く友情を感じていますわっ!!」

小毬「理樹くん、今さーちゃんはなんて言ったの?」

理樹「深く友情を感じてるって」

小毬「えへへっ、私はさーちゃんがどんな風になっても友達だよぉ」

理樹(小毬さんはこういう時の環境適応能力は本当に高い)

男子寮前

小毬「それじゃあ理樹くん後はよろしくね~」

理樹「任せておいてよ」

小毬「また何か困ったことがあったらいつでも私に言ってねっ」

理樹「うん」





教室

理樹(今日も来てない……か。こりゃ休み時間に先生に言った方がいいな)

鈴「理樹……」

理樹(鈴は困り果てた様子だった)

理樹「どうしたの?」

鈴「小毬ちゃんがいないんだ…」

理樹「えっ……」

鈴「どこを探してもいない。部屋も見にいったんだが…」

理樹(来ヶ谷さんの失踪はよく企みごとをするあの人のことだからと心の奥では納得していたけどあの小毬さんまでほとんど同じ時期にいなくなってしまうなんて…)

理樹「これってもしかして……」






ガチャ

笹瀬川「ルールルルルー♪」

理樹「………」

理樹(絶句。あの笹瀬川さんが料理をしていた。しかも可愛らしいエプロンをして)

カチャカチャ

笹瀬川「おーほっほっほ!」

理樹(凄い上機嫌だ…なんだこれは。ひょっとしてツッコミ待ちだったりするのだろうか)

理樹「あ、あの…笹瀬川さん?」

笹瀬川「あら、お帰りなさい。鍋などは勝手に使わせていただいておりますわ」

理樹「いや、うん…それはいいんだけどさ……」

笹瀬川「ああ、何を作っているかと?これはチンジャオロースですわ」

理樹(何も言うまい。というか何も言えない)





理樹「う……」

理樹(美味い!美味すぎる!!)

笹瀬川「お味の方はどうかしら?」

理樹「これは……完璧だ…言うなれば完璧なチンジャオロースだよ!!」

笹瀬川「おーほっほっほ!まだまだ沢山あるのでどんどんお代わりしてくださいな!」

理樹「うんっ!………いやいやいやいやいや」

理樹(違う違う、確かに味には感動したけど……)

理樹「と、ところで笹瀬川さん、そのエプロンは?」

理樹(可愛い猫の模様が描かれていた)

笹瀬川「ぷりちーですわよねっ。そこにあったものをお借りしましたのよ!」

理樹(ということは鈴のかな…というか)

理樹「あれ?笹瀬川さんって猫嫌いなんじゃなかったっけ?」

笹瀬川「ええ…猫は嫌いですわ。………でも、エプロンは逃げませんから…」

理樹(そう言う彼女の目はとても悲しいものだった。その言い方じゃ本当に猫を嫌っているとは……)

理樹「……なにかあったの?」

笹瀬川「………これは、小さい頃の話ですわ」







理樹(笹瀬川さんは幼い頃、一匹の猫を飼っていた。黒猫だった。最初は色々と苦労したけどその一つ一つが嬉しかったという。そして一年が過ぎて家を引越しすることになった笹瀬川さん。しかし家を離れる当日に限ってその猫は姿を消した。何度探せど見つからず、結局猫を置いていってしまったらしい)

笹瀬川「飼い猫が野良猫になってから生き残る可能性は3分の2だそうですわ。……きっとあの子はもう…」

理樹(そうか、笹瀬川さんは猫が嫌いなんじゃない。猫を嫌うしかなかったんだ)

理樹「話してくれてありがとう」

理樹「………」

理樹(薄々気付いてはいたけど…やっぱりこの世界は『例のあの世界』と同じような世界かもしれない…すると今度は誰の……)

理樹「ねえ笹瀬川さん、僕の話も聞いてくれないかな?」

笹瀬川「………?」






理樹「………それがバスの事故の最中の出来事なんだ」

笹瀬川「そ、そんな話…!」

理樹「信じられないよね…でもさ、今回のそれは突拍子も無い点で言えば同じじゃないかな?」

笹瀬川「……それも…そうですわね……。それにここで嘘を吐く理由もありませんわ」

理樹「それじゃあ…」

笹瀬川「ええ、信じますわ。それにしても何故そんな話を?………まさか!」

理樹「うん。僕はこの世界もその時と似たようなものだと思っているんだ」

笹瀬川「つまりここも誰かの願いが叶う場所だと……だけど誰が何のために…」

理樹「分からない…でも笹瀬川さんの変身してしまう事が関係ある事だと思っているんだ」

笹瀬川「つまり私に関係のある……」

理樹(……それとも笹瀬川さんが無意識に願った世界かもしれない)

理樹「笹瀬川さんはさ、何かこうなったらいいなって事ある?」

笹瀬川「私?……そうですわね…こんな世界でも宮沢様と二人きりで話せたら幸せですわ…」

理樹「じゃあ明日謙吾と話に行かない?」

笹瀬川「は、はあ!?」





次の日

教室

理樹(………いない。教室の席はまばらだった。鈴も来ヶ谷さんも小毬さんもいない。もしかするとこの世界から何者かの意思で退場させられたのか?……だとしたら前回のように今、僕や笹瀬川さんが現実で大変な状況になっているという事はなさそうだけど…)

謙吾「……理樹」

理樹「おはよう、謙吾」

謙吾「今から俺はおかしな事を言う。ちゃんと聞いてくれ」

理樹「……うん」

謙吾「この世界、何かおかしくないか?」

理樹「…………なんの話?」

理樹(そうか、なるほど…僕や笹瀬川さん以外はその『おかしな事』でさえ自覚出来なくなってしまったのか…)

謙吾「なあ理樹…これでも長年幼馴染みをやっているんだ。お前の嘘ぐらい見抜ける。…いったい何が起きているんだ?おかしいという事は分かっているんだ…何かが足りない…だが、それがどうしても分からないんだ!」

理樹(もしかすると退場する時のトリガーは『僕以外の人間が事情を知ってしまうこと』かもしれない。なら安易に謙吾に事情を話す訳には…)

理樹「……ごめん謙吾。今は言えない…」

謙吾「……そうか、分かった。何か言えない事情があるんだな?」

理樹「うん…事が終わったら必ず話すよ」

謙吾「ああ、約束だ」

理樹「……あっ!ちょっと待って」

謙吾「ん?」

理樹「放課後、中庭で待っててくれないかな」

謙吾「ああ、それはいいが何の用だ?さっきの事に関係あるのか?」

理樹「いや、そこで告白したいんだ」

謙吾「!?」

理樹(もし笹瀬川さんがこの世界のマスターなら…その笹瀬川さんの願いが叶えばなんとかなるはず……)

謙吾「そ、それは何かの告白という意味で…?」

理樹「いや、愛の告白だよ。急に言われて困るだろうけどいい返事にしてくれないと本当に困るよ。それじゃ」

タッタッタ

謙吾「なっ!ちょ!理樹!!」

理樹(あとは時が来れば笹瀬川さんを呼ぶだけだ!)

放課後

理樹部屋

ガチャ

理樹「さ、時間だよ笹瀬川さん」

笹瀬川「むむむ………直枝理樹、これで大丈夫か見てくれません?」

理樹(髪を何度もいじっていた)

理樹「いいんじゃない?普通だよ」

笹瀬川「普通ではいけませんわ!やり直しますわよ!」

理樹「いやいやいや!もう待ち合わせの時間だよ!」

理樹(それにいくら髪を整えたって…)

笹瀬川「はぁ…しょうがないですわね…行きましょう」

ガチャ

ポンッ

理樹(猫に戻っちゃうなら意味ないんじゃ……気付いていないようだけど)

中庭

謙吾「……はぁ…はぁ…」

理樹「おーい謙吾ー」

謙吾「はうわ!」ドキッ

理樹「謙吾!それでいきなりっていうのもなんだし、まずは話からでも…」

黒猫「ほ、本当に通じるのかしら…」

理樹「その時はその時だよ…ほら、言って…」

黒猫「う……」モジモジ

黒猫「あ、あの…宮沢さ…」

謙吾「ふーっ…ーふーっ………あの……だな……わ、悪いがお前の想いには答えられない。………どうか聞かなかったことに出来ないか?」

笹瀬川「………」

理樹「そ、そんな……!」

謙吾「俺は、お前とは友達でいたいんだ!理樹っ!!」

理樹「……えっ?僕?」

理樹(どうやら謙吾は何故か僕が告白すると勘違いしていたようで)

謙吾「な、何ィ!?理樹ではなく笹瀬川だと!?」

理樹「ご、ごめん誤解させるようなこと言って…」

謙吾「だ、だが笹瀬川はどこにもいないぞ……」

黒猫「宮沢様!ここですわ!」

謙吾「む?黒猫か…理樹が飼っているのか?」

黒猫「宮沢様……」

理樹(やはり謙吾もダメだったか……しかしこのままでは笹瀬川さんがあまりにも可哀想だ…)

理樹「謙吾…実は笹瀬川さんなんだ…」

謙吾「む?」

理樹「この黒猫こそが笹瀬川さん自身なんだ。世界がおかしいっていうのは………あっ!!」

理樹(しまった!なんてバカなことを僕は!)

謙吾「そんな……まさか世界がおかしいというのはそれに関係あるのか!?という事は……!」

ボシュウッ

謙吾「なあっ!?」

理樹「謙吾!!」

黒猫「宮沢様!?」

理樹(突如謙吾の周りを取り囲むように白い靄が大きな体を包み込む。……これまで来ヶ谷さんや小毬さんはこんな風に消えていってしまったというのか…!)

理樹「謙吾!捕まって!」

謙吾「理樹!!」

シュンッ

理樹「………!」

理樹(………消えてしまった…その煙さえも跡形もなく…)

笹瀬川「宮沢……様……。直枝理樹…こ、これはいったい……」

理樹「ううっ……僕は馬鹿だ…なんで言ってしまったんだ…あの時点でダメなら消えてしまうに決まっているじゃないか…!」

続く

明日か明後日に終わる(∵)

黒猫「何を……言ってますの…?」

理樹「僕らの事情を知ってしまうと…この世界から退場させられてしまうんだ」

黒猫「そ、それじゃあ神北さんは!?」

理樹「………」





屋上

黒猫「……どうして言ってくれませんでしたの?」

理樹「心配させたくなかったんだっ」

黒猫「……気遣ってくださるのは嬉しいですわ…ですがちゃんと話してくださいません?」

理樹「……ごめん」

黒猫「野球も、ソフトボールもチームプレーが大切。一人より二人の方が強いに決まってますわ!」

理樹「笹瀬川さん…!」

黒猫「…………!?」

理樹「どうしたの?」

理樹(フェンスの方を振り返り、笹瀬川さんは驚きながらそちらを凝視していた)

ザァ……

理樹「これは……!」

理樹(街が一つ無くなっていた。学校の周りは謙吾を消したあの白い靄で覆われていた。きっと中に入っても何もなかっただろう)

理樹「破綻だ……マスターの力が弱まってもうこの世界が形を維持できなくなってしまったんだ…」

理樹(ということは僕や笹瀬川さんとは違った誰かが本当のマスターだ)

理樹「……あっ!あれは…出口かもしれない!」

理樹(ところどころに靄がかかっている校庭の先に一本だけどこにも干渉されていない『道』があった。校門だ)

黒猫「本当ですの!?ならそこへ行けば……」

理樹「待って!今出たら笹瀬川さんは一緒ネコのままかもしれないよっ」

黒猫「な、ならいったいどうすれば…」

理樹「やはりこの世界を作った人の願いを全うするしかない」

黒猫「……あなたはどうしますの?」

理樹「僕は脱出なんかしないよ。ここまで来たんだ、地獄まで付き合うよ」

黒猫「ふ、ふん!あなたなんかに手伝ってもらうまでもありませんわ!………でも、ありがとうございます」

理樹「うん」

理樹(僕らは散策の限りを尽くした。何日も何日も学校を練り歩いた。しかしそのマスターや鍵となる物さえも見つけられない…)




理樹部屋

笹瀬川「ここへはいつまで居られるんでしょうね」

理樹「分からないけど…きっと世界が限界まで近付いたら僕も笹瀬川さんも一緒に……」

笹瀬川「そう……」

理樹「あ、明日また調べに行こうよ!」

笹瀬川「………もう、いいですわ」

理樹「えっ?」

笹瀬川「ここから出ましょう。消えるより猫でいるほうがよっぽどマシですわ。…もしこのまま一生猫のままで暮らすとしてもあなたに飼われるならそれも悪くないと思いますわ」

理樹「笹瀬川さん…」



笹瀬川「すぅ……」

理樹「………」

理樹(これで…いいのか?このまま願いを叶えないままで……)

理樹「……………」

理樹「………」

理樹「…」





ここにいるよ




理樹「………!!」

黒猫「ニャア…」

理樹「笹瀬川さん…?」

理樹(いや、違う………笹瀬川さんじゃない…)

理樹「!」

理樹(その瞬間頭にあらゆる記憶がなだれ込んできた)


黒猫『………』

笹瀬川『あなた、すてられましたの?……しょうがありませんわね!あなたの名前はこれからクロですわっ』



笹瀬川『ほーら、くるくるくる…ああ、こらっ指をあむしちゃめーですわっ』




笹瀬川『クロ…』

ブロロロロ…

黒猫『…………』





小毬『ほぇ…こんなところに猫さんが居るよ。…でも元気ないね…』

黒猫『…………』

笹瀬川『…………し、知りませんわ!…それに私、猫が嫌いですの』




理樹「そうか…そういうことか……君がマスターだったんだね」

黒猫「………」

理樹「君はもう残された時間が少ないのか…だからここを作って笹瀬川さんと…」

………………

…………

笹瀬川「クロがマスター…?どうしてその名前を…!」

理樹「クロが教えてくれたんだ。そして君に会いたがってる。クロは君とここで再会していたんだよ!」

笹瀬川「今更会って何を…復讐でもしたいんですの?」

理樹「分からない…けど、クロに残された時間はもうほとんどない。その僅かな一瞬でこの空間を作ったんだ……行こう、笹瀬川さん。クロは焼却炉にいた」

笹瀬川「……分かりましたわ」



ガチャ

笹瀬川「……あら?変身が…」

理樹(笹瀬川さんの体は部屋を出ても変化しなくなった。理解出来た今、もはやそうする意味もないということだろう)




理樹「こっちだよ笹瀬川さん」

笹瀬川「………」

理樹「笹瀬川さん…?」

理樹(焼却炉の前で笹瀬川さんが急に立ち止まった)

笹瀬川「やっぱり…クロは私に会いたくないようですわ。これより先に近づけませんの…」

理樹(目を凝らすと笹瀬川さんの前には半透明の薄い壁のような物が出来ていた)

理樹「そんな……でもクロは…!」

笹瀬川「あなたは帰ってくださいな。あなただけなら確実に助かりますわ。私はここで最後くらい…飼い主としての責任を取らせていただきます」

理樹「それはダメだ」

笹瀬川「……?」

理樹「ここまで来て君を見捨てられるはずないだろ。君がここでいるなら僕も残るよ」

笹瀬川「そんなこと……言われたら…」

理樹「きっとその壁はクロが作ったんじゃない。君自身がクロに罪悪感を感じて会うことを受け入れられない心の壁だ。クロのことを考えているなら君は踏み出さなければいけない」

笹瀬川「クロを……私が……」

理樹(彼女は壁に手を当てた)

笹瀬川「クロ……」



笹瀬川『もう、クロったらこんなところに居たんですのね?』

クロ『にーっ』

笹瀬川『にーじゃないですわっ。ほら、お母さんを呼ぶときはこう言うんですのよ』


『ここにいるよ』


笹瀬川「………!」

スッ

笹瀬川「クロ……あの時の言葉をまだ覚えていたんですのね」




クロ「………ナーオ」

笹瀬川「ここにいたんですのね。クロ」

理樹「………」

理樹(何故こんなに遠回りしなくてはならなかったんだろう。言葉が通じないから?いや、言葉で話し合ったって分かり合えないことはある…だけど……)

ギュッ

笹瀬川「クロ……ごめんなさい…クロ…!」

クロ「ナーオ」

笹瀬川「…ふふっ、遊びたいんですの?」

クロ「にーっ」

笹瀬川「小さい頃の私は餌などを買っていて、猫の遊び道具を買えるお小遣いはありませんでしたわ。だからこうして指で猫じゃらしの代わりに2人で遊んでいましたの」

笹瀬川「ほらっ、くるくるくる…」

クロ「………!」

理樹(最後くらいこんなご褒美があってもいいんじゃないだろうか。だってこの世界はそういう場所なんだから……)

笹瀬川「こらっ、あむしちゃめーですわ…」






笹瀬川「くるくるくる………」

クロ「………」

笹瀬川「そろそろ…おネムの時間ですわね」

クロ「………………」

笹瀬川「……バイバイ。クロ」



……………………………


…………………




理樹「……………!」

真人「……起きたかい」

理樹「ああ……うん…」

理樹(クロは、最期は満足してくれたんじゃないかと思う。僕が今ここにいるということはきっとそういう事なんだろう)



廊下

トコトコ

理樹「……あっ」

笹瀬川「あら…」

理樹「えと…調子はどう?」

笹瀬川「なんて間抜けなセリフですの…」

理樹「ご、ごめ…」

笹瀬川「でも……泣いたあとに笑えるようじゃなきゃ嘘ですわ」

笹瀬川「……ね。クロ…」






数日後





トコトコ

理樹(いったい何の用だろう…僕なんかしたかな……)



トコトコ

理樹(でもここ数日は普通に大人しくしてたし特に変わったこと言った覚えはないんだけど……)



トコトコ

理樹(ハッ!まさかこの誘い自体がもう既に罠で気付いたら取り囲まれていたとか!………ないか)



ガラッ

教室

「…………」

理樹「やあ、どうして呼んだの?」

「君に伝えたいことがあったんだ」

理樹「僕に伝えたいこと?」

「ああ。ずっと前から言おうと思っていた」

理樹「分からないな…勿体ぶってないで言ってよ……来ヶ谷さん」

「……ああ、そうだな…」






「好きなんだ。君のことが……恋してるってほうの好きなんだ」

終わり

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