奈緒「蘭子が飛鳥にショートケーキのいちご食べられたってさ」 (56)

(1)

加蓮「へぇ?」

奈緒「収録終わりに食べようと思って楽屋の冷蔵庫に入れておいたら、飛鳥が喰ってるところに遭遇したんだと」

加蓮「あちゃー、それは悲惨だね。もう大泣きでしょ、蘭子」

奈緒「プラスで大ゲンカだな。まあ、すぐに収まるだろ。ケーキなんて買ってこりゃいいんだし」

加蓮「わかんないよー? 限定品とかだったら私でも泣くかも」

奈緒「どっちかと言えばブチ切れそうだけどな……」

加蓮「あっはは、かもねー。飛鳥はどんな感じなの?」

奈緒「なんか現行犯なのに否定してたな。喰ったのは自分じゃ無いと訴えてた」

加蓮「格好も往生際も悪いね……」



凛「………待って。……この事件……真犯人が他に居る筈だよ」



奈緒加蓮「「……は?」」



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(2)

奈緒「いや無い無い。だって現行犯だぞ?」

加蓮「難癖付けたいだけの厨二病って、それこそ飛鳥の領分じゃん」

凛「……いいの?」

加蓮「……何が?」

凛「終わっちゃうよ?」

奈緒「あ?」


凛「このままだとこの話、終わっちゃうよ?」


奈緒「………えっと…」

凛「2レス目にして、ハッピーエンドになっちゃうよ?」

加蓮「ハッピー…かな? これハッピーな話だったかな?」

凛「疑問に思うなら、本当のハッピーを探しに行くべきだよ」



凛「この話……私が33レス持たせてあげる」

(3)

普通にやればたった1レスで終わる超簡単な事件を、正味33レスのSSとしてそれなりに読みごたえが出るまでなんとか持たせるアイドル。

その名も、『33レスアイドル・渋谷凛』。

次々繰り出される推理に、ガンガン増える一方の容疑者。

その果てに真犯人は見つかるのか見つからないのか。     只今3レス目です。




―――――――
―――――
――


 【 神崎蘭子の楽屋 】

凛「ここが蘭子の楽屋か……いいな、一人部屋。三人ユニットだと騒がしくていけないよね」

加蓮「とか言って、一人になると寂しがるくせにー」

凛「……奈緒。事件の詳細を」

加蓮「拗ねないでよ……」

奈緒「詳細と言っても、さっき言ったので大体全部だぞ。詳細を語ることの方が難しいんだけど」

凛「ショートケーキの銘柄とか、楽屋に帰ってきた時の状況とか、いろいろあるでしょ」

奈緒「あたしはどっちも知らねぇよ……当事者に聞いたら?」

(4)

蘭子「魔王の紡ぎし言の葉に疑念を抱くか……」(私の言うこと…信じてくれないの……?)

凛「そういうわけじゃないよ。ただ、誤解をしている可能性は0じゃ無い」

奈緒「喰ってる瞬間を目撃してんだから可能性は限りなく0なんだよなぁ……」

加蓮「言っても聞かないよ……付き合うしかないって……」

凛「蘭子……………辛いとは思うけど………話して、くれないかな………」

奈緒「何の演技だよ。どういう情緒だよ。人でも死んだのかよ」

蘭子「わ、我が精神の均衡は依然変わり無いが……」(そ、そこまで辛いことはないけど……)

加蓮「縁起でも無い、ってね」

奈緒「………お、おう……面白い…ぞ?」

加蓮「やめて……すごく辛いやめて……」

凛「先ずは、楽屋に入って最初に目にした状況から話して貰おうかな」

蘭子「ふむ……良かろう」(えっと……う、うん)

(5)

蘭子「旋律を収めし祭壇を降り、仮初の安息地へと帰還せん」(歌番組の収録が終わって、楽屋に帰ってきたの)

蘭子「時を刻む針が何処を指示したかは、蒼の奏者らも追憶に刻んで居ろう?」(時間は、凛ちゃんたちも出演してたから知ってるよね?)

加蓮「えっと……だいたい10分前くらいだったかな?」

蘭子「……そうであったか。道中、死霊の繰手に合い見えた故な。束の間の戯れを、と」(あ、そうだった。途中で小梅ちゃんにあったから、少し話込んじゃって)

蘭子「彩り剥がれた真実は、時刻の針を五歩、六歩と歩ませる」(大体だけど、5~6分遅れてたことになるのかな?)

奈緒「つまり、廊下で5分時間を使ってるわけか」

加蓮「楽屋に忍び込んでケーキのいちごを平らげるには十分な時間だね」

凛「十分な時間があれば現行犯で捕まる筈がない。これで飛鳥以外の人物も十分容疑者に浮上させられるよ」

奈緒「おい加蓮。こいつ言ってることヤベぇんだけど」

加蓮「前から定期的にヤバい言動するじゃん……今更だよ」

蘭子「というかそもそも現行犯なんだけど……」

(6)

凛「うん、じゃあその現行犯っていうのは何を基準に判断したの?」

蘭子「左手に白雪の居城を。右手に欠けた甘美なる紅蓮を見て」(いちごの無いケーキと齧られたいちごだけど)

加蓮「疑うなってほうが無茶だよね……」

凛「あーはいはい。それね。よくあるよくある。素人がよくする誤解だよ」

奈緒「どれだよ。何がよくあるだよ、ねぇよ。お前も素人だろ」

凛「蘭子……あんたは嵌められてる」

蘭子「えっ……」

凛「これは飛鳥を犯人に仕立て上げて、二人の関係を険悪にして、なんやかんや事務所全体の雰囲気を悪くしようという陰謀……!」

加蓮「途中すっごい抽象的な表現入ったよね……?」

凛「つまり! 346のアイドルは犯人じゃないってことだね!」

奈緒「ごめんな凛。このスタジオ、346プロダクションの施設内にあるんだ」

加蓮「出演者からスタッフまで、余すところなく346プロだね」

(7)

凛「……犯人が外部の物だとしたら、このスタジオまで潜入してきた可能性もある。新手の忍ドルとかだよ」

奈緒「他社の私有地に潜入とか難易度爆上がりなんだけど……」

加蓮「そこまでして働く悪事がいちごの盗み食いとか逆にほっこりだよ」

凛「楽屋にまで潜入出来る人物なら、盗み食いの濡れ衣を着せる程度は容易……ふふっ…完璧な推理だね」

加蓮「あのさ、凛。外部の犯行ってことにしちゃうと、遊びじゃ済まないと思うなー」

奈緒「そうだな。凛のせいで悪い噂が立つな。下手したら警察も動くぞ」

凛「…………ふっ…今の推理は、二人を試したんだよ」

加蓮「いやでも完璧な推理って……」

凛「となるとやはり、犯人は346プロ内部の人間に限られるね」

奈緒「そうだな。知ってたな。最初からわかってたよな」

凛「ここは一度、容疑者である飛鳥の話を聞いた方が良さそうかな。証言の矛盾から洗っていくよ」

(8)


 【 飛鳥の楽屋 】

飛鳥「ごめん……ボクが悪かったんだ……犯した罪に、相応しい罰を与えてくれ……」

加蓮「認めちゃってんじゃん」

奈緒「まあ現行犯だから、いつかは認めざるを得なかっただろ……」

凛「いや! それは無い! 自分の言葉に自信を持ちなよ、飛鳥!」

加蓮「ええぇ……」

凛「最初、飛鳥は罪を否定したんでしょ? それはどうしてだと思う? 心が……罪を認めなかったからだよ」

飛鳥「えっと……済まない、凛。キミは一体どういう立場に立っているんだい…?」

奈緒「そうだよな。そうなるよな。あたしにもわかんねぇ」

加蓮「少なくとも必死であることは確かかな。半分にも満たない段階で犯人自白しちゃったし」

凛「操られていたと考えれば、辻褄が合うんじゃないかな」

加蓮「うん、無いんじゃないかな」

奈緒「そんなオカルトありえません」

(9)

凛「洗脳した飛鳥が蘭子の楽屋に侵入して、冷蔵庫を開けショートケーキを盗み出す」

加蓮「無視? 無視なの? えっ、酷くない?」

凛「盗んだケーキを飛鳥が持ち去り、操り手の楽屋へ。いちごを取って、あーん」

奈緒「それは飛鳥が食べさせてるのか? そうである必要があるのか? 無いよな?」

凛「そのままケーキといちごを持って蘭子の部屋に戻って待機……これが真相だよ」

奈緒「なんか最後雑じゃねぇ?」

加蓮「……ちなみに聞くけど、真犯人は誰だと思ってる?」

凛「そんなの決まってるでしょ? ありえないオカルトが行使できる人物と言ったら、限られてくる……」

奈緒「ちなみに小梅は廊下で蘭子と話してたからアリバイあるぞ」

凛「あっ」

加蓮「あっ、って言った。今あっ、って言ったよね」

凛「し、真犯人は………そのほら…ゆ、裕子、だよ……」

奈緒「ひでぇとばっちりだな……」

(10)

加蓮「そもそも今日ってユッコ来てたっけ?」

奈緒「クール組の収録だから来てるわけ無いな」

凛「それはほら、あれだよ。テレポートでしょ、何言ってんの」

奈緒「お前が何言ってんだ」

加蓮「とりあえず呼ぶ? オフなら来てくれるでしょ。テレポートで」

凛「うん、お願い」

加蓮「ん、りょーかい。じゃコールするね。………あ、もしもしユッコ?」

裕子『どうかしたの?……ハッ! まさかサイキックアイドルエスパーユッコの力を借りたいと!?』

加蓮「んーまあそんな感じ。346のスタジオなんだけど、今から来れる? テレポートで」

裕子『お任せあれ! あ、でもサイキックテレポーテーションはぱわーを溜めるのに30分間の集中が必要で……』

加蓮「わかった待つねー。ゆっくりでいいよー」ピッ

奈緒「加蓮……日ごろからユッコで遊んでるだろ」

加蓮「はて、何の事かな?」

(11)

凛「よし。それじゃあ裕子が来るまでのあいだ、別の可能性を探ってみよう」

奈緒「凛、お前収拾付ける気ないだろ」

加蓮「まあそもそも、解決してる話を混ぜ返してるわけだし」

凛「今日の収録に来てたアイドルで、なんとなく怪しそうな人を上げてみて」

奈緒「不味いだろ凛。その振りは鬼畜過ぎんぞ」

加蓮「川島さんとか怪しくない?」

奈緒「おい」

加蓮「や、違うんだって。川島さん、最近まで水着撮影のために血の滲むような食事制限してたじゃん?」

凛「してたね。うわ言のように呟いてたよ。『今日はサラミとコンニャクしか食べてないわ……』とか」

加蓮「その雑誌、昨日売ってるの見たんだよねー。食事制限解除されたんじゃない?」

凛「解放された食欲の暴走……川島さんなら有り得るね」

奈緒「お前ら川島さんを何だと思ってんの?」

(12)

 【 川島さんの楽屋 】

瑞樹「わかるわ……」

奈緒「わかっちまうのかよ……」

瑞樹「食事制限を解除されてすぐの私なら、そのくらいやってもおかしくないでしょうね」

加蓮「うん。私が言うのもなんだけど、そこは否定しなきゃだめだと思うんだ」

瑞樹「制限された食欲を一気に解き放つのよ? そんな状態の私の暴走を否定できる? いいえ出来ないわ」

凛「ちょ、待って待って。川島さん、ボケるのは私だよ。役割意識していこう」

瑞樹「いいえ待たない! 待たないわ! いつまでも待つだけの私だと思わないで!」

加蓮「どうしたの? 川島さん、そのテンションどうしたの? そんなに食事制限辛かったの?」

瑞樹「辛くないわよ! 辛い物なんて食べれなかったわよ! 無味よ無味!」

奈緒「おいこれ本格的に川島さんが犯人でもおかしくないぞ」

加蓮「飛鳥が現行犯でさえなければ疑ってるね」

凛「……いや、この川島さんが犯人はないでしょ」

(13)

奈緒「ここは否定すんのか……つーか『この』ってなんだ」

凛「だって見てよ。御覧の有様だよ?」

瑞樹「いちご良いわよね。パスタが食べたいわ。うんと甘いスパゲッティ。素敵よ瑞樹輝いてる。サラミとコンニャクで形成されたこの機能美」

加蓮「川島さんはもう休んだ方が良いと思う」

凛「この有様の川島さんに、いちごだけ食べてケーキを残すなんてこと出来る筈がない」

奈緒「まあそうだろうな。その点は全面的に同意する」

凛「と言うことで、川島さんは容疑者から除外するよ。残念だったね、加蓮。予想が外れて」

加蓮「ヤバイ全然悔しくない」

奈緒「イラッとはするけどな……」

凛「だけど無駄では無かったね。川島さんは、大きなヒントを残してくれた」

奈緒「そう来ると思ったよ……」

凛「さあ、移動するよ。付いて来て」

(14)

 【 ありすの楽屋 】

凛「かくかくしかじかと言うことだよ、ありす。あんたがいちごを使ったんじゃ無い?」

ありす「………」

凛「ふーん……黙秘権の行使?」

ありす「違います。呆れてものも言えないだけです」

奈緒「ごめんな橘。少しだけ付き合ってやってくれ。もうそろそろ折り返し地点だからさ」

ありす「……仕方ありませんね。では、凛さんが私を疑わしいと思った理由から聞かせて貰いましょうか」

凛「だってありすいちご好きでしょ?」

ありす「………」

加蓮「気持ちはわかる。わかるけど、ここはぐっと堪えて。ここで無視したらきっと負けだよ」

ありす「……好き、というだけで犯人扱いとは、あまりにも短絡的ではありませんか? 私は常識を弁えて居ますので」

凛「常識弁えてる子がいちごパスタなんて作るわけないでしょ、何言ってんの?」

ありす「奈緒さん、なぜこの人は私を煽ってくるんですか? もう無視してもいいですか?」

奈緒「うん、もう無視していいんじゃねぇかな」

(15)

凛「いやごめん、少し調子に乗った。真面目に推理する」

加蓮「真面目に推理したら飛鳥が犯人であっという間に解決なんだけど」

奈緒「推理ですらねぇよ」

凛「川島さんがね、言ってたんだよ」

加蓮「言ってた? 何って?」

凛「『パスタが食べたいわ。うんと甘いスパゲッティ』……ってね」

奈緒「いや……言ってたけどさぁ…」

ありす「……まさかとは思いますが、私がその発言を聞いて橘流イタリアンの調理を開始し、その材料としていちごを盗んだとでも仰りたいのですか?」

凛「うん」

ありす「………」

加蓮「抑えて……ありす抑えて……」

ありす「橘です。……はぁ…真面目に推理した結果がその程度とは……」

凛「………その程度じゃ、ないよ」

(16)

凛「だってありすは、優しいでしょ? 川島さんが放ったSOSを受け取って、行動しない筈がない」

ありす「………」

凛「ケーキは後で買い直せばいい。だけどいちごパスタはありすにしか作れない。川島さんが求めているのは、まさにそれなんだ」

ありす「………あの」

凛「そう思った時には既に身体が動いていたんだ。いちごパスタを作るためにいちごを……ん? どうしたの?」

ありす「そもそも私は川島さんが放ったSOSとやらを受け取った記憶が無いのですが」

凛「………」

奈緒「まあ、そうだろうな。橘が川島さんの楽屋に行く理由が無いしな」

加蓮「虚ろな目で呟くように繰り返してたから楽屋の外に声が漏れることも無いよね」

凛「どうやらありすは犯人じゃ無いみたいだね。折角、良い話風に終わりそうだったのに」

奈緒「そりゃ飛鳥が犯人なんだから、ここで良い話風に終わるわけないだろ」

加蓮「そもそも終わらせちゃダメなんじゃないの……?」

とりあえずここまで
また気が向いたら投下します

(17)

 【 トラプリの楽屋 】

凛「一度冷静になってみようか。情報を整理しないとね」

奈緒「整理するほど情報がないんだが」

加蓮「無い情報でも整理しないと33レス持たないから……」

凛「犯行時刻は収録終了から約5分間。蘭子が小梅と話していた以上、小梅には明確なアリバイがある」

加蓮「明確なアリバイでもなきゃ全てを疑ってかかるスタイルだもんね」

奈緒「はた迷惑極まってんな」

凛「川島さんは食欲が暴走中だから、ケーキだけを残すなんて芸当は到底不可能」

奈緒「違和感ないけど一応川島さんも大人だからな? その評価はどうかと思うぞ?」

加蓮「違和感ない時点でどうかと思うけどなぁ……」

凛「ありすもなんやかんや容疑者から外すとして……」

加蓮「出たよ……なんやかんや…」

凛「じゃあやっぱり、外から侵入したんじゃないかな」

(18)

奈緒「いやだからさ……あんまり大事になるとお前も困るだろ?」

凛「いや、今度は大丈夫だよ。なんたって、犯人は忍ドルなんだからね」

奈緒「忍ドルだから大丈夫ってどういう理屈だよ。ニンジャに妻子でも殺されたのかよ」

凛「二人とも、ちゃんと私の話聞いてた?」

加蓮「ごめんぶっちゃけ適当に流してる」

凛「まったく……ちゃんと聞いててよね。私はこう言ったよ? 外から侵入したんじゃないかな、ってさ」

加蓮「……だから?」

凛「外部の者の犯行、とは言ってないよね? つまり、犯人はあやめだと言いたかったんだよ」

奈緒「……ユッコに比べたら幾分現実的だけどさぁ…」

凛「そもそも忍ドルがそうポンポン居るわけないじゃん。あったりまえじゃん」

奈緒「お前さっき新手の忍ドルがどうこう言ってたぞ」

(19)

加蓮「ていうか待って。あやめがガチ忍者って認識は正しいの?」

奈緒「……いやまあ、普通に鍛えてるし」

凛「チャクラは練れないけど体術は達人クラスってイメージだよね」

奈緒「髪留め外したら超速くなるんだろうな」

加蓮「……えぇ…? ……えっと、じゃあもうガチ忍者でいいとして……動機は?」

凛「女子だよ? ケーキのいちごを食べるのに動機が必要?」

奈緒「いや割と必要だろ。他人のケーキのいちごだぞ」

凛「わかって無いね。女子力低いよ二人とも。どこのキャッツファンなのってくらいに」

加蓮「奈緒はともかく私の女子力が低いとか言われるのは心外なんだけど」

奈緒「つーかさりげなく友紀さんディスってんじゃねぇよ。確かに女子力低そうだけどよ」

加蓮「………」ソワソワ

奈緒「……突っ込まねぇぞ」

加蓮「奈緒、たまに私の扱い雑じゃ無い?」

(20)

凛「とにかく、可能性としては外から侵入できそうなアイドルが何人か居る以上、容疑者はクールに限らなくてもいいよね?」

加蓮「なんで私らに確認求めたの?」

奈緒「ダメって言っても容疑掛けるだろ、お前」

         タッタッタッタッタッタ……

凛「……ふふっ、丁度いいところに来たじゃん…」

裕子「サイキックアイドルゥ~……エスパーユッコッ! サイキックテレポーテーションにて只今参上ォ!」ドアバーン

凛「犯人はお前だあぁぁ!!」

裕子「なっ!? なんだってぇ!? 私が犯人だったとは! サイキック夢遊病っ!?」

奈緒「それは乗ってやってんのか? 素か? 素なのか?」

凛「このようにテレポートが可能なアイドルが居る以上、簡単に飛鳥が犯人と決め付けちゃって言い訳ないよね?」

加蓮「いや確実に走って来たよね」

凛「座標がずれたんだよ。下の階に飛んじゃったんだよ、きっと」

裕子「え……あ、え、ええ、そそそうですとも! いやー失敗したなー! サイキッカーにもミスくらいはありますからね!」

奈緒「そのミス一歩間違えたら地面に埋まるぞ」

(21)

裕子「それであの……私はいったいどんなサイキックギルティを犯してしまったと……?」

加蓮「なんでもかんでもサイキック付ければ良いってものじゃないよ?」

凛「蘭子のショートケーキのいちごが齧られてたんだよね」

裕子「なんだって!? それは初耳だよ!」

奈緒「うん、なんで初耳なのに罪認めちゃってんだろうな。ちょっと場の空気に流され過ぎだよな」

加蓮「ノリが良すぎて逆に御し辛い……」

裕子「ムムム……なんと罪作りなことでしょう。私がエスパー少女であるばかりに迷惑を……」

加蓮「でもその自分をエスパーだと信じ込んで欠片も疑わない愚直な姿勢、私は好きかなっ!」

奈緒「その割には言葉の節々に棘があったような……」

凛「やっと真相が見えて来たね……」

奈緒「嘘だろ。断言するけど凛、お前それ嘘だろ」

加蓮「むしろ今更? 最初から見えてたよ?」

(22)

凛「テレポートで蘭子の楽屋に跳んだ裕子は、先ず最初にいちごを一齧り! 直後にすかさず飛鳥をアポート!」

奈緒「ここまで来たら何でも有りだな……」

凛「飛鳥にケーキといちごを持たせてから、裕子はまたしてもテレポート! 飛鳥は裕子の存在に何故か気付かない!」

加蓮「本当になんで気付かなかったかなぁ」

凛「そのまま飛鳥は蘭子が部屋に入ってくるまで待機! これが事件の真相だよ! だよね?」

裕子「そ、そんなことになっていたの……!?」

加蓮「敢えて言うけど、なって無いと思う」

奈緒「なんでユッコが一番感心してんだよ」

凛「ふっ……だけど否定のしようがないでしょ? 裕子のキャラ的に、否定しちゃダメな推理でしょ?」

奈緒「明らかな冤罪だからな? 当初の目的見失ってるからな?」

加蓮「そもそも否定できるからね?」

凛「………へ?」

(23)

凛「え? ……え? 裕子のキャラを崩さずに、だよ? 出来るの?」

加蓮「うん。だってユッコのテレポートは、ぱわーを溜めるのに30分間の集中が必要だもん」



裕子『お任せあれ! あ、でもサイキックテレポーテーションはぱわーを溜めるのに30分間の集中が必要で……』



凛「あっ……あっ、あっ」

加蓮「だから5分なんて時間で、テレポートを使ってスタジオと外を行き来するのは無理なんだよ」

裕子「良く分からないですけどそう言うことです!へへんっ!」

奈緒「だからなんでお前が良くわかってないんだよ。一番わかってなきゃ駄目だろ」

凛「ぐ……ぐぐ……また振出し、か……」

加蓮「一歩でも進展してた気でいたの……?」

奈緒「まあ、進んだらもうその時点でゴールだからな」

(24)

  ピロリン♪

凛「ん? ……鑑識から連絡だ。指紋の照合が終わったって」

加蓮「……鑑識って…」

奈緒「指紋の照合とか、なんでそう自分を追い詰めるような真似すんだよ」

凛「これで捜査に進展があるのならと思って……」

加蓮「進展したら終わりだってわかってて言ってる?」

凛「そこはほら、なんかそれとなくこじつけるから」

加蓮「なんか、とか……それとなく、とかさぁ……」

奈緒「しかもこじつけるとか言っちまってんじゃねぇか」

凛「大丈夫大丈夫。鑑識は信頼できる人だよ」

加蓮「信頼できたら余計ピンチじゃん……自分で言っててわけわかんないよ」

凛「人間性はともかく、腕は確か」

奈緒「この状況だと一番欲しい要素だったなぁ、人間性」

加蓮「優しい人じゃなきゃやってらんないもんね」

(25)

 【 一ノ瀬ラボラトリー 】

志希「ふっふっふっ……いいかい、島村助手。ここにメントスとダイエットコーラがあるじゃろう?」

卯月「あ、はい! あります!」

志希「ん~いい返事だね~。あたしもヤる気出ちゃう~。じゃ、そのコーラにメントス投下してみよっか?」

卯月「え? コーラに、メントスを入れるんですか?」

志希「そだよー 。出来れば4、5個一気に投入してねー?」

卯月「は、はい! 頑張り――――ぅうわわ!? うわわわわぁー!?」

志希「にゃっはっはー! これが噂のメントスガイザー! メントスの表面に多数の気泡がー…って説明すると長くなるから割愛~!」

卯月「うぅぅ……濡れちゃいましたぁ……」

志希「ん? ヌレちゃったかにゃあ?」

卯月「もう、志希さん酷いですよぅ……」

志希「ゴメンゴメン。濡れたまんまじゃ気持ち悪いでしょ? 着替えは用意してあるから、ね? こっちに来て一緒に着替え―――」

凛「指紋照合の結果を受け取りに来たよ」

志希「にゃっはーい!!」ドンガラガッシャーン

(26)

奈緒「何やってんだあんた……いや未遂だけどさ……」

加蓮「この人は本当にやりかねないから困るよね……」

志希「いや違うよ? 別に卯月ちゃんと更衣室でキャッキャウフフとか考えてないよ?」

加蓮「もうその発言が自白に等しいよ……」

奈緒「こっちを捜査した方が有意義なんじゃねぇの?」

凛「で、指紋はどうなってたの?」

志希「うん、あのねー。渡されたものは一通り指紋検出してみたんだけど、面白いことがわかったんだよね」

凛「えっ、本当なの?」

奈緒「なんでお前が意外そうな反応なんだよ」

加蓮「いやまあ面白いことがわかるなんて、全然予想してなかったけどね」

凛「蒼天の霹靂なんだけど……」

奈緒「いやぁ、今日も凛は蒼いなぁ」

加蓮「正しくは『青天』ね」

(27)

志希「側面のラベル、ケーキの箱まで検証した結果……指紋は飛鳥ちゃんのものしか見つからなかったんだよねー」

凛「つまり、指紋が飛鳥のものしか残ってなかったてこと? ……いやでも、それって…」

志希「そう、おかしいよね。蘭子ちゃんが買ってきたケーキなのにさ。もっと言えば、店員さんの指紋すらないんだよ?」

凛「……何者かが、指紋をふき取った……?」

志希「ま、普通に考えればそういうことになるかなー?」

奈緒「……おいちょっと待てよ。ここでそんな情報出して大丈夫だったのか?」

加蓮「あと6レスで解決しなきゃ駄目なんだよね? 捜査進展させちゃって、ちゃんと収まる?」

凛「私を誰だと思ってるの? 渋谷凛だよ?」

加蓮「だから不安だってことは言わないほうが良いかな?」

奈緒「いや言ってる。声に出てるぞ加蓮」

凛「志希、ありがと。卯月に宜しく言っておいてね」

志希「にゃっはは~、どう致しまして~♪」

(28)

凛「いちご……楽屋……五分間……指紋……」

奈緒「飛鳥の指紋だけ残ってたってことは、飛鳥に罪を着せようとしてたってことか?」

加蓮「逆にそのせいで、信じて疑わなかった飛鳥の容疑に亀裂入れちゃってるけどね」

凛「私はずっと疑ってかかってたよ。褒めてよ」

奈緒「褒めねぇよ。なんで褒めて貰えると思ったんだよ」

加蓮「絶対口だけだったもんね。内心飛鳥だと思ってたよね、凛も」

凛「そそ、そんなこと……無くも無くないこと無いよ……?」

加蓮「うん。……うん?」

奈緒「つーかこんな事言ってる場合なのか? はやく推理進めないと不味いんじゃねぇの?」

凛「いや、その点については大丈夫。謎は全て解けたから」

加蓮「……ふざけてる余裕ないよ?」

凛「いや流石に今回は本気だから」

(29)

凛「100%、謎は解けた。だけど……あと1%信じたい」

奈緒「101%信じられなきゃ駄目だもんな」

凛「ということでかな子を呼んだよ」

かな子「こ、こんにちはー」

加蓮「ん? なんでかな子?」

凛「ケーキ屋さんとか詳しいかなと思って」

加蓮「うーん……安易だけど説得力はあるね」

奈緒「で、何を訊くつもりなんだよ」

凛「蘭子がケーキを買った店の、詳細な情報だよ」

かな子「そういうことなら大丈夫だよ。えっと…―――」

凛「ストップかな子!」

加蓮「いきなり叫ばないでよ……心臓に悪い…」

凛「え? ごめん、大丈夫? 椅子座る?」

加蓮「……いや、なんかごめん……平気だから」

(30)

かな子「それで……なんで私ストップさせられたの…?」

凛「それはね。かな子から得た情報は独り占めしたんだよ。最後の名推理のためにね!」

奈緒「ちっちぇな……」

凛「ん? それは身長の話? なに奈緒、コンプレックスなの?」

奈緒「そういうところが小さいっていってんだけどさぁ……」

加蓮「というかこんなに余裕かましてて本当に大丈夫なの? あと3.5レスだよ?」

凛「大丈夫大丈夫。なんやかんやでなんとかなる」

加蓮「うん、今ので凄く不安になったね」

かな子「……えっと…喋って良いかな?」

凛「うん。じゃあ部屋を変えようか。来てかな子」

奈緒「本当に一人だけで聞くのか……」

加蓮「凛ってちゃんと推理できる子だっけ?」

奈緒「明らかに出来ない子だと思うぞ……」


―――――――
―――――
――

 【 蘭子の楽屋 】

凛「全員集まったね?」

奈緒「私と加蓮を覗くと、蘭子と飛鳥とユッコしか居ねぇけどな」

凛「よし、全員だね」

加蓮「……いやまあ、凛が良いなら良いんだよ?」

蘭子「して、蒼の奏者よ。真の理を暴いたと申すのか?」(それで凛ちゃん。誰が犯人だったの?)

裕子「やはり私のサイキック・ザ・ハンドで空間ごといちごを削りとったのでは……?」

奈緒「ちょっとごめん、ユッコ少し黙ってようか。話ややこしくなるからな」

凛「蘭子の楽屋に忍び込み、五分でいちごを齧った人物……それは……」

加蓮「………それは?」




凛「あんただ! 飛鳥!」ビシイ




奈緒「oh……」

加蓮「……うん。知ってた」

(31)

飛鳥「だからそう言ってるじゃないか……」

加蓮「ごめんね? いや本当にごめんね?」

奈緒「あの……じゃあ指紋の件とかどうなったんだ?」

凛「うん、それね。蘭子は夏って大体、日焼け防止に手袋してるからね」

蘭子「左様。此度も例外では無く」(そだね。今日もそうだったよ)

加蓮「………店員さんの指紋が付いてなかったのは?」

凛「それについてもかなこが言及してたよ。その店のレジ打ち、指サックで指紋完全防御だって」

奈緒「お、おう……もうそう言われたら何も言えねぇけど……」

加蓮「なんか腑に落ちないじゃん……」

凛「何言ってるの。腑に落ちなくても事実は事実。ありのまま受け入れなきゃ」

奈緒「お前だけには言われたくない」

加蓮「どの口が言うの。その口? ドヤ顔でニヤけたその口?」

(32)

凛「収録が終わって少ししてから、暇を持て余した飛鳥は蘭子の楽屋に向かったんだろうね」

奈緒「……説明されなくてもわかるんだが」

加蓮「むしろ最初からわかってたんだけど」

凛「冷蔵庫を開けた飛鳥は、いちごの乗ったショートケーキを見つける。束の間の葛藤。頭の中で鎬を削る天使!悪魔!天使!悪魔!」

加蓮「ちひろ?」

凛「天使の繰り出したアッパーカットは空振り、そこにすかさず悪魔がボディーブロー! 10カウント!」

奈緒「推理だよな? これ推理だよな? その描写要るか? 要らないよな?」

凛「葛藤である程度時間を使った後に、天使は敗北。いちごを一口齧ったところで蘭子が楽屋に……これがこの事件の真相だよ」

加蓮「しつこいようだけどもう一度だけ言わせて。それ知ってた。最初から知ってた」

飛鳥「なんなら自白もしてたよ……もう喧嘩も片付いて、次のオフ日にケーキバイキング奢る刑まで確定してるよ……」

奈緒「判決出てるじゃねぇか……」

凛「……い、一件…落着だね……?」

加蓮「だから最初から落ち着いてたんだってば……」

(33)

 【 トラプリの楽屋 】

奈緒「……なんとか持ったな…33レス」

加蓮「それにしても凛、なんでこんなことしようと思ったの?」

奈緒「まあ……ケーキのいちごがどうこうなんて、ホントに些細なことなのにな」

凛「些細なこと、だからだよ」

加蓮「どういうこと?」

凛「そんな些細なことで二人に喧嘩して欲しくないじゃん? こうやって外野が勝手に馬鹿やれば、本人たちも喧嘩なんて馬鹿らしくなるかと思ってさ」

奈緒「……はっ、まあ間違い無いな」

加蓮「凛が捜査とか言い出さなかったら、もっと喧嘩が長引いてたかもね」

凛「そういうこと。些細なことだって笑いながせたようで良かったよ。安心した」

奈緒「だな。結果的にはこれでよかったのかもな」

加蓮「……………ねえ…」

奈緒「ん? どうした?」

加蓮「私が買ってきたシュークリーム、食べたの誰? 3つも有ったんだけど」

凛「………些細なこと、でしょ? ね? いや待って待って! 私じゃ無いって! 真犯人がきっと他に――――」




   ♪~  ドコカ サメキッテ イルーキミノー ヒトミノ オクニヒッソンデ イッルノハー

1レス分オーバーしてたとかそんなことは断じてないです
以上、お付き合い頂きありがとうございました
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