女騎士「くっせ!」(30)

城のエレベーターにて――



ワイワイ…… ガヤガヤ……

国王「来月行われる隣国との会談の準備は進んでおるか?」

大臣「はい、その件につきましては、問題なく進んでおります」

騎士団長「最近の傭兵の質の高さには、驚かされるばかりだ」

傭兵「いやいや、きちんとした訓練を受けてる騎士のようにはいかねえさ」

王女「プニプニしてて、気持ちいい~!」ツンツン

スライム「もっとツンツンしていいよ~」

兵士「エレベーターができたおかげで、城内の移動がだいぶ楽になったな!」

使用人「ええ、荷物運びがはかどりますよ」

オーク「……」

女騎士「……」プッ

女騎士(しまった……! オナラをしてしまった……!)

女騎士(さいわい気づかれてはいないようだが……)キョロキョロ

女騎士(どれ……ニオイがなければいいが……)クンクン…





女騎士「くっせ!」

国王「む?」

王女「今、くさいっていったわよね?」

女騎士(あ……しまった!)

騎士団長「……」クンクン…

騎士団長「む……ホントにくさいぞ!」

傭兵「うおおっ、なんだこりゃ!?」

使用人「これは……オナラ!?」

大臣「以前、強烈なニオイがすることで有名な温泉地に行った時のニオイと似てるが」

大臣「あれの10……いや、100倍はくさい!」

スライム「うえぇ~」

王女「だれよ! こんなくさいオナラをしたのは!」

国王「むうう……! これはくさい、くさすぎる!」

女騎士「あ、あの……」

騎士団長「よく真っ先に気づいた、女騎士! 偉いぞ!」

騎士団長「上官として鼻が高い……が、鼻が曲がりそうだ」

スライム「とにかく、換気しないと!」

使用人「換気しようにも、このエレベーターには窓がないんですよ……」

スライム「そんなぁ~!」

兵士「おえっ……たまらん!」

傭兵「エレベーターはまだ着かねえのか!?」

使用人「このエレベーターは風力で動き、しかも今日は風が弱いので……」

使用人「もうしばらくはかかるかと……」

傭兵「しばらくだとォ!?」

スライム「ひええ……」

王女「お父様……頭がくらくらしてきたわ! なんとかして!」

国王「なんとかといわれても……」

国王「大臣! なぜこんなものを作ったのだ!?」

大臣「ええっ!? わ、わたくしですか!?」

国王「そうだ! このエレベーターなるものを城に設置することを提案したのは」

国王「他ならぬおぬしではないか!」

大臣「ううっ……」

騎士団長「なんと! 大臣だったのですか!」

王女「……ひどいわ! こんなものを設置させるなんて!」

傭兵「そうだそうだ!」

大臣「うむむむ……」

大臣「なにをおっしゃいますか、陛下!」

国王「む!?」

大臣「陛下が会議のたび、近頃階段の上り下りがおっくうだわい、とグチるから」

大臣「エレベーターを導入したんじゃありませんか!」

国王「な、なにぃ……!?」

王女「そうなの、大臣!?」

大臣「はい! 口を開けば足が痛い、腰が痛い、と……」

国王「うぐぐぐ……!」

兵士「陛下、ご健康のために、多少つらくとも自分の足で歩いた方がいいですよ」

使用人「そうですね、老いは足からくるといいますし」

スライム「ワガママな王様だなぁ……」

国王「ええい……やかましい!」

国王「ワシは王だぞ! 王が歩かないでなにが悪い! ワガママをいってなにが悪い!」

騎士団長「ふぅ……。こんなものを造る予算があるならば」

騎士団長「もっと騎士団に予算を回して欲しかった……」

騎士団長「なにしろ、騎士団ほど国のために尽くしている組織はないのだから」

傭兵「いいや、そこは傭兵部隊に回すべきだろ!」

騎士団長「む」ピクッ

騎士団長「なぜ、傭兵などに予算を回さねばならん」

騎士団長「君たちは十分、報酬を受け取っているではないか」

傭兵「冗談はよしてくれ! あんなもんで足りるかよ!」

傭兵「やたらかっこつけてばっかで、大した戦力になってない騎士団より」

傭兵「オレらのがよっぽど働いてるってのによ!」

騎士団長「なんだと!?」

騎士団長「傭兵風情が我が騎士団を侮辱するとは、許さんぞ!」

傭兵「ふん、ほざきやがる」

傭兵「こないだの山賊討伐で、どっちが活躍したのか忘れたのか?」

傭兵「山賊どものチープな陽動なんざに引っかかりやがって……」

騎士団長「キサマ!」グッ…

傭兵「やるか!?」グッ…

王女「きゃあっ!」

使用人「ひいいっ!」

兵士「お二人とも! こんなところで剣に手をかけるなどおやめ下さい!」

兵士「特に騎士団長、騎士の名が泣きますよ!」

騎士団長「一般兵の分際で、偉そうな口を叩くな!」

騎士団長「キサマら兵士がもっとしっかりしてれば、傭兵部隊など作らずに済んだのだ!」

騎士団長「恥を知れ! 恥を!」

兵士「なんですって!?」

兵士「ウワサじゃ、コネで団長になったくせに……」ボソッ

騎士団長「キサマァッ!」

傭兵「へへへっ! おい、もっといってやれよ!」

兵士「アンタらもアンタらだよ!」

傭兵「あん!?」

兵士「ところかまわず酒飲んだり、暴れたり、問題起こしすぎなんだよ!」

兵士「このゴロツキ集団め!」

傭兵「なんだとぉ!?」

傭兵「いってくれるじゃねえか……エレベーター降りたら思い知らせてやるよ!」

兵士「上等! 一般兵の意地、見せてやる!」

騎士団長「騎士の名誉にかけて、キサマらまとめて成敗してくれるわ!」

スライム「まあまあ、落ちついてよ」

スライム「まだもうしばらくエレベーターはつきそうもないし」

スライム「こんな狭い場所でイラついたってなんにもならないじゃない」プルンッ

兵士「うるさい!」

騎士団長「魔物は黙っていろ!」

スライム「な……!」

傭兵「オレはなァ、テメェみたいな芯のないプルプルしたヤツが一番嫌いなんだ!」

騎士団長「そのとおり、誇りも思想もない魔物が口を挟むな!」

兵士「魔物との交流のため城に招かれてるらしいけど、いい気になるな!」

スライム「なんだとぉっ!」

スライム「へんっ! やっぱり本音はそうだったんだな!」

スライム「人間なんて薄汚い生き物だ! 最低の生き物だ!」

王女「そうよ! スライムちゃんはこんなに可愛いのに!」

王女「スライムちゃんをいじめるなんて、サイッテー!」

傭兵「ぐ……!」

騎士団長「む……」

兵士「うぐ……」

スライム「王女様……」

王女「あらなぁに? ツンツンして欲しいの?」

スライム「ハッキリいってボクはアンタに一番ムカついてるんだよ!」

王女「え!?」

スライム「いつもいつもボクをペット扱いして!」

スライム「バカにされたりするより、よっぽど屈辱的なんだよ!」

王女「そんな……」

スライム「あっちの女騎士さんに比べて、品位のカケラもありゃしない!」

女騎士(え!?)

王女「ひ、ひどい……」ウルッ

王女「そりゃ、あたしは女騎士ほど女らしくないわよ! うえぇ~ん!」

使用人「姫、泣かないで下さい……。姫は女らしいですよ」

王女「だったら泣く前に励ましなさいよ! いつもアンタ、テンポが遅いのよ!」

王女「バーカ、バーカ!」

使用人「バカだなんて! 私はいつも一生懸命……!」

王女「結果が伴わなきゃ意味ないのよ! 無意味で無能よ、アンタなんか!」

使用人「なんだってぇ!? この、ハチャメチャ王女がぁ!」

王女「ハチャメチャですってぇぇぇ!?」

国王「ぷっ!」

王女「ちょっとお父様! なに笑ってるのよ!」

王女「みんないってるわよ! お父様は王の器じゃないってね!」

国王「なにぃ!?」

スライム「ええい、ボクを無視するな!」

ギャーギャー……! ワーワー……!

国王「くそったれ! おぬしら国民はだらしなさすぎる! 全員牢獄送りだ!」

大臣「下は使えない部下、上は頼りない王、もうやってられん!」

騎士団長「騎士を侮辱する者はどいつもこいつも叩き斬ってやる!」

傭兵「こんなくされた国に雇われてても希望も未来もありゃしねぇや!」

王女「もうイヤ! グレてやる! 酒にタバコに不純異性交友してやるぅぅぅ!」

スライム「こんな城に住むくらいなら、洞窟のがマシだ! 山に帰る!」

兵士「兵士なんか辞めてやる! こんな国、滅んじゃえばいいんだ!」

使用人「もう愛想が尽きた! バカな王族に、バカな兵隊、バカな魔物……」



女騎士(あ……あ……)

オーク「ハーッハッハッハッハ!!!」



他全員「!!!」ビクッ



オーク「いやぁ~、わりぃわりぃ」

オーク「みんな仲良くケンカしてるとこわりィけど……カミングアウトさせてもらうぜ」

オーク「実は屁ぇこいたの、オレだったんだわ!」

オーク「ワァッハッハッハッハッハ!!!」



女騎士(え!?)

国王「なんだオーク、おぬしだったのか!」

大臣「もっと早くいってくれればよかったものを……」

騎士団長「あれほど強烈なニオイの屁は、初めてだったぞ」

傭兵「ったく、しょうがねぇなぁ……。怒りたくとも、すっかり気が削がれちまった」

王女「オーク、今度からはすぐにいいなさいよ!」

スライム「も~う、胃腸の調子が悪いんじゃないの?」

兵士「やれやれ、こんなオチとは思わなかったよ」

使用人「人騒がせですね……まったく」

オーク「ダハハハッ! すまねえな、みんな!」

ハッハッハ……

ガタン……

使用人「あ、エレベーターが到着したようですね。降りましょう!」



国王「――お、そうだ!」

国王「犯人が分かり、みんな仲直りしたところで、今日はパーッと飲みに行かんか!?」

国王「もちろんワシのおごりだ!」

大臣「本当ですか、陛下!?」

王女「さっすが、お父様!」

スライム「やったぁーっ!」

ワイワイ…… ガヤガヤ……

傭兵「……さっきは悪かった」

騎士団長「いや、こちらこそ……すまん」

兵士「申し訳ありませんでしたっ!」

王女「ごめんね……もうペット扱いなんかしないから……」

スライム「たまにならいいけどね」プルッ

ワイワイ…… ガヤガヤ……



オーク「?」

オーク「おい、どうした? なに立ち止まってんだよ、女騎士」

女騎士「……」

女騎士「オーク……すまない……」

女騎士「本当は私が……」

オーク「……」

オーク「なぁ~にいってんだ!」

オーク「屁をこいたのは、オレだぜ?」

オーク「さ、行こう! 王様たちが行っちまう! もう忘れろ、な!」

女騎士「うむ!」



女騎士(ありがとう……オーク)







~おわり~

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