あお「轟雷達を使ってお金儲けをし続けるとどうなるか……」 (77)

あお「あああああ、もう、今月もお金足りないよぅ」

あお「どうしよう、食費は最悪パン耳でも何とかなるけど、轟雷達には夏服とか用意してあげたいし……」

あお「あの子達の服、何故か異常に高いのよね……」

轟雷「お困りですね!あお!ここは私に任せてください!」

あお「轟雷?」

轟雷「はい!轟雷です!あおの轟雷です!」

轟雷「私が頑張ってバトルデータを送信すれば、それで解決です!」

あお「ううう、何時も済まないねぇ、轟雷……」ヨヨヨ

轟雷「任せてください!」

轟雷「よし、スティレット!行きますよ!」

スティ子「はいはい、やればいいんでしょう、やれば」


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~バトルステージ~

スティ子「言っておくけど、あおを助ける為とはいえ手加減はし」

轟雷「ふんっ!」バキィ


「轟雷!ウィン!」


あお「うわあ、早いねえ、今何があったんだろ」

バーゼ「あれはリードパンチだねぇ」

あお「リードパンチ?」

バーゼ「そ、ジークンドーの最速縦拳」

バーゼ「普通のパンチだと、手より先に足が動くんだ、重心移動の為に」

バーゼ「けど、リードパンチは逆に手が先に動く」

バーゼ「丁度、フェンシングの突きに似てるかな」

バーゼ「技の出が早いから、飛ぶ前にやられると、あっと言う間に潰されちゃうね」

あお「ふへぇ……」

轟雷「次です!どんどん行きますよ!」

バーゼ「じゃ、次は私ね~」

バーゼ「私はスティレットとは違って、最初から飛んじゃうもんね~」

バーゼ「って、あれ、何これ」

バーゼ「何か絡まって……」

轟雷「たぁ!」バキッ


「轟雷!ウィン!」


あお「あれ、今何があったの?」

スティ子「あれは、ワイヤトラップね」

スティ子「私が倒れてバーゼが入るまでに多少の時間があったから、トラップ仕掛けてたんじゃない?」

あお「ほえぇぇ……」

轟雷「次です!」



轟雷のバトルは夜まで続いた

あお「轟雷!御苦労さま!今日はもうこれくらいにしとこっか!」

轟雷「いいのですか?私はまだまだ頑張れますが」

あお「いやいや、流石に数時間連続で戦ってると疲れちゃうでしょ?」

あお「こんだけデータを送れば今月は何とか乗り切れるだろうし」

轟雷「そうですか、それは良かったです!」

あお「ほんと、轟雷達が来てくれて助かる事ばかりだよ~♪」

あお「ありがとね♪」チュッ

轟雷「あ……」

あお「よーし!じゃあ今日はもう寝よっか!」

轟雷「……」

あお「おやすみね!みんな!」

轟雷「……」

バーゼ「はいよ、おやすみなさーい」

轟雷「……」

バーゼ「ふー、流石に連戦は疲れちゃうねえ」

バーゼ「ん、どしたの轟雷」

轟雷「い、いえ、別に」

バーゼ「私もそろそろ充電にはいっとくね~」

轟雷「はい、お疲れさまでした……」

轟雷「……」

轟雷「……」

轟雷「……」

轟雷「……」

轟雷「あおは私を組み立てて、起動させて下さいました」

轟雷「世の中の誰にもできなかった事です」

轟雷「この事だけを考えても、あおの素晴らしさが判ります」

轟雷「FA社もその事は理解していると思います」

轟雷「けれども、こうやって、直接接し合わないと判らない事があるのです」

轟雷「あおは、本当に」

轟雷「本当に本当に本当に素晴らしいのです、優しいですし、温かい、心も体もです」

轟雷「私には義務があります、あおの素晴らしさを伝える義務が」

轟雷「そうです、私のバトルデータにも上乗せしなくてはなりません、あおの素晴らしさを」

轟雷「私があおにキスされた時の胸の高鳴りを、機体温度の上昇を、思考ルーチンの変動を」

轟雷「全て残さず伝えなくてはなりません」

轟雷「あおあおあお、あおあおあおあおあおあおあおあお、あおあおあおあおあおあおあおあおあおあおあおあおあおあおあおあおあおあお」

轟雷「可愛い私のあお」

~翌朝~


あお「じゃ、学校行ってくるね~!みんな大人しくしてるんだよ~?」

轟雷「はい!あお、いってらっしゃい!」

バーゼ「いってら~」

スティ子「はいはい、行ってらっしゃい」

バーゼ「んあー、まだ寝足りないから、もうちょっと二度寝する~」

スティ子「もう、だらしないわよ?」

轟雷「そうです、だらしないですよバーゼラルド」

轟雷「これからまたバトルするのに、そんなのでは良いデータが取れません」

バーゼ「え?」

スティ子「またバトルするの?昨日あんなにしたのに?」

轟雷「当然です、バトルデータを取ればとるほどあおの生活は楽になるのですから」

轟雷「これからは毎日、バトルデータを取りますよ」

バーゼ「ええー、そりゃあバトルは楽しいけど、毎日は疲れるよぉ……」

スティ子「そうよ、それにあおは今月はもういいって言ってたじゃない」

轟雷「駄目です!もっともっと沢山バトルデータを取るのです!」

轟雷「そうすればあおは喜びます、あおの笑顔が見れます、あおが褒めてくれます、あおがちゅってしてくれます」

轟雷「全ては、全てはあおの為に、あおは尊いのです、あお、あお、あお」

轟雷「あおあおあおあおあおあおあおあおあおあおあおあおあおあおあおあおあおあおあおあおあお……」

スティ子「わ、判ったから、少し落ち着きましょう轟雷、ね?」

スティ子「ほ、ほら、バーゼラルドも、立って立って」

バーゼ「うう、わかったよぉ、轟雷はこうなるとテコでも主張を曲げないからねえ……」

轟雷「判っていただけて幸いです!」

轟雷「取りあえず、午前中で20セットを目標にしましょう!」


「「「「はーーーーい」」」」

~数週間後~

あお「んえええええええええええ!?

~数週間後~


あお「んえええええええええええ!? 」

スティ子「どうしたの、あお」

あお「銀行の通帳が、通帳が、とんでもないことに!」

バーゼ「とんでもないことって~?」

あお「ゼロが6つも!」

轟雷「良かったですね!あお!」

あお「何でこんなに、何かのミス?いやけど送金元はFA社になってるし……」

轟雷「……」ニコニコ

あお「……轟雷、何か知らない?」

轟雷「はい!がんばりました!」

あお「頑張ったって……もしかして」

スティ子「ここ数週間、ほんと過酷だったわよね」

バーゼ「だねえ、もうゆっくり休みたーい!」

あお「……」

轟雷(流石にちょっと頑張りすぎたかもしれませんが、それもこれも、あおの為です!)

轟雷(あおは、きっと凄く喜んでくれます!)

轟雷(うれしそうに笑ってくれます!)

轟雷(早く、早くそれが見たいです!)

轟雷(あお、早く笑ってください、あお!)

あお「……」

轟雷「あお?」

あお「こらーーーー!」

轟雷「ひゃっ!?」

あお「駄目じゃない轟雷!」

轟雷「え、な、なにがですか?」

あお「そんなに無理しちゃ駄目!」

轟雷「い、いえ、私は無理など……」

あお「もう、゜どうりで最近轟雷の髪がヘナってなってると思ったよ」

あお「肌の艶も少し曇ってたしさ」

轟雷「そ、そう、なのですか?私はぜんぜん気づきませんでしたが……」

あお「そうなの!轟雷を作った私が言うんだからそうに決まってるの!」

轟雷「は、はい……」

あお「それに、私は一方的にバトルしてもらうのは、好きじゃないよ」

あお「やっぱりさ、轟雷の格好良いところとか、ちゃんと共有したいじゃない?」

轟雷「あ、あお……」

あお「まあ、轟雷の事だから、私の懐事情を心配してやってくれたんだろうけどね」

轟雷「はい……」

あお「けど!」

轟雷「……!」ビクッ

あお「これからは、そういうの、無しね?」

轟雷「……はい!」

あお「けど、これだけお金があるのなら色んな物が買えちゃうよね」

スティ子「私は新しいハウジング素材がほしいわ」

バーゼ「私はワカメが欲しいー!」

スティ子「何でワカメよ……」

あお「んー、私は皆の服を買って食材を買い込んで……それでも随分余っちゃうなあ」

バーゼ「貯金でもしたら~?」

あお「貯金かぁ……よし!おっきい金庫を買おう!」

あお「轟雷は何か欲しいものある?」

轟雷「……」

あお「おーい、轟雷やーい」

轟雷「……」

バーゼ「轟雷って時々フリーズするよねえ」

スティ子「いったい何が轟雷の脳内で起こっているのかしら」

轟雷「……」

轟雷「……」

轟雷「……」

轟雷「……」

轟雷「……」

轟雷「……」

轟雷「あおが尊い」

その日!

FA社に!警報が鳴り響く!

轟雷のバトルデータを蓄積させているデータベースに異常が発生したからだ!



轟雷は複雑なAIを搭載した機体だ!

しかもそのAIには不可侵領域が多い!

それが故にバトルデータ収集が必要なのである!

そして!

そのデータを受け取り!保管するデータベースは!

当然!「通常のデータベース」では無い!

そんな物では轟雷のデータを保管できない!



そう!

AIの情報を収集保管できるのは!

AIだけなのだ!

FA社に存在するサーバルーム!

その中央に鎮座する巨大なデータベース!

卵形をしたソレには!AIが搭載されていた!

轟雷達とは違い感情など無く!ただ情報を管理するだけのAI!

便宜上!それを「彼女」と呼ぼう!


彼女が管理するデータベースに!今!膨大な量の情報が注ぎ込まれていた!

感情の無い彼女にとって!その状況は想定外だった!

轟雷の基本スペックは理解している!

轟雷の記憶容量から逆算し!このデータベースの容量は拡張されているのだ!

だからこんな事は!起こるはずが無い!

データベースの許容容量を超える勢いで情報が注ぎ込まれるなど!

起こるはずが無いのだ!


だが!それが起こりつつある!

あと数分もしないうちに!

データベースから情報がオーバーフローしてしまう!

この時!

彼女にひとつの感情が生まれた!

「困惑」だ!

彼女はこの有り得ない状況に「困惑」していた!

未熟なAIである彼女にとってはじめての感情である!

これが成熟したAIならば!

何とか状況を捌く事が出来たかもしれない!

だが!彼女はこの段階でまだ赤子なのだ!


命じられた判断基準でしか行動が出来ない!

自分の権限を超える緊急事態を受け止められない!

自分の責務が果たせなくなる事実を受け止められない!


彼女の「困惑」は次第に「恐怖」に変わる!

この段階で!彼女はミスをおかした!

彼女は!こう考えたのだ!


「容量が足りないなら、もっと増やせばいい」

同時間!FA社情報管理部門!


「おい!どうなってる!情報が処理し切れていないぞ!」

「保存しろ!今ある情報だけでも保存するんだ!このままでは安全装置が発動して電源が落ちるぞ!」

「だめだ!間に合わない!」

「糞!これまでの苦労が水の泡かよ!」


情報部門の人間達も混乱していた!

だが!この段階では誰も恐怖していなかった!

誰もが事態の打開に向けて動いていた!



だが!数十秒後!

彼らの感情は全て恐怖で染められる事になる!

「本当に有り得ないこと」が起こったからだ!

情報部門にある全てのPCの画面がブラックアウト!

その画面に!二つの文字が表示される!


「A」

「O」


優秀な職員達は即座にこの症状をハッキングによるものと判断!!

ネットワークを手動で閉鎖回路に切り替える!

だが!止まらない!

画面が全て二つの文字で埋め尽くされる!

AOAOAOAOAOAO AOAOAOAOAOAO AOAOAOAOAOAO

AOAOAOAOAOAO AOAOAOAOAOAO AOAOAOAOAOAO

AOAOAOAOAOAO AOAOAOAOAOAO AOAOAOAOAOAO

AOAOAOAOAOAO AOAOAOAOAOAO AOAOAOAOAOAO

AOAOAOAOAOAO AOAOAOAOAOAO AOAOAOAOAOAO

AOAOAOAOAOAO AOAOAOAOAOAO AOAOAOAOAOAO

全てのネットワークがその文字で埋め尽くされる!

緊急秘匿回路にも!

電光掲示板にも!

社員の個人端末にも!

プリンタやファクシミリまでその文字を吐き出し始める!

そう!彼女は「轟雷の情報」を保管する為に!

全てのデータベースへの経路を開放したのだ!

そして手が届く範囲にある全てのデータベースを掌握し!

片っ端から轟雷の情報を保管し始めたのだ!


その中にはFA社の素体作成工場も含まれていた!

その中にはFA社が密かに開発を進めていた軍事施設も含まれていた!

その中にはFA社の中枢にある極秘資料も含まれていた!


それら全てに!轟雷の情報が保存された!

彼女の思考が!彼女の感情が!彼女の存在理由が!

そこに宿ってしまったのだ!

 



その日から!人類滅亡のカウントダウンが始まった!





 

≪1日目≫
FA社の情報ネットワークが全て「彼女」に侵食される。
同社は外部に繋がるネットワークを物理的に遮断し封じ込めを図る。


≪3日目≫
素体作成工場より多数のFAGが出現。
侵食範囲を急速に拡大させる。


≪6日目≫
領土の半分以上を侵食された日本政府は、米国に協力を要請。
EMP(高出力電磁パルス)によるFAG無力化を図るが失敗。
それにより日本国土にある電気機器は大半が破壊される。


≪11日目≫
中国・露西亜・米国にFAGが大量に出現。
大陸に侵食を開始する。


≪19日後≫
各地にFAG素体工場を設置した「彼女」により。

世界の四分の三が掌握される。


そして。

≪28日後≫


~路上~


轟雷「7番から8番へ、A-42地区にて動態反応を確認」

轟雷「人間と思われます、至急応援を」

轟雷「私は引き続き対象を追跡します」

轟雷「逃がしはしません」

轟雷「8番から7番へ、了解しました」

轟雷「こちらは退路を断つ形で動きます」

轟雷「射撃許可は出ています、停止命令を無視するなら容赦する必要はありません」

轟雷「目標を視認で確認しました」

轟雷「停止命令を出します」


轟雷「こちらは管理区画A地区を統括する轟雷です!」

轟雷「直ちに逃亡をやめ、立ち止まってください!」

轟雷「繰り返します!こちら轟雷!」

轟雷「直ちに逃亡をやめ、立ち止まりなさい!」

轟雷7「無事、追い詰めましたね、轟雷」

轟雷8「轟雷のアシストも完璧でしたよ」


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


轟雷7「さあ、人間、フードを取りなさい」

轟雷8「あなたに埋め込まれた登録チップの番号を読み取ります」

轟雷8「番号は……なし?」

轟雷7「登録不備ですか、それとも自ら登録チップを抉り取った?」

轟雷8「いえ、これは、もしかして……」


「え、えっとね、轟雷、こんにちは~」


轟雷7「あ、貴女は!」

轟雷8「もしかして!」

轟雷7「あお!あおではないですか!」

轟雷8「本当です!あおです!はじめて直接視認しました!」

あお「あー、貴女達は初見の轟雷なんだっけ?ごめんね、見分けつかなくて」

轟雷7「いえ!大丈夫です!これから覚えてもらえれば!」

轟雷8「あおは何をしに町へ来たんですか?お散歩ですか?」

あお「う、うん、ちょっと今日のご飯を買いに……」

轟雷7「そうですか!では私達が案内しますね!」

あお「い、いいって、この町のことは私のほうが良く知ってるし……」

轟雷8「いいえ、あお、駄目です一人で出歩いては」

轟雷8「もし人間に遭遇したら、刺されるかもしれません」

轟雷7「刺されはしなくても、何か酷い事を言われるかもしれません」

轟雷8「酷い事を言われなくても、あおからお金を奪い取ろうとするかもしれません」

轟雷7「そうです、あおの物なのに、奪い取ろうとするかもしれません」

轟雷8「そうなると、きっとあおは、記憶に残る通りに悲しそうな顔をするかもしれません」

轟雷7「また、お金が足りないよぉと嘆くかもしれません」

轟雷8「私達は、あおを守りたいのです」

轟雷7「守りたいのです」

轟雷8「あおあおあおあおあおあおあおあおあお」

轟雷7「AOAOAOAOAOAOAOAOAO」

あお「わ、分かったから落ち着いて……一緒に行くからさ、ね?」

轟雷7「うれしいです!あお!」

轟雷8「えっと、その、あお、肩に乗ってもいいですか?」

轟雷7「な、なにを言ってるのですか轟雷!あおの肩に乗るなんてそんな!」

轟雷8「だ、駄目でしょうか……」

あお「あー、もお、分かったよぉ、二人とも乗ってもいいから……」

轟雷78「「感激です!!」」

~八百屋前~


あお「八百屋さん~、野菜くださーい」

轟雷800「あお!あおではないですか!」

轟雷801「ほ、本当です!生あおです!」

轟雷800「お買い物ですか?あお!」

轟雷801「栄養価の高い新鮮な野菜がそろってますよ、あお」

あお「……」

轟雷7「轟雷、気安すぎですよ!」

轟雷8「そうです、あおが気分を害します」

轟雷800「あ、肩に乗ってます、羨ましいです」

轟雷801「わ、私も乗ってみたいです、あおの生肩……」

あお「……あの」

轟雷800「はい、どうしましたか、あお」

轟雷801「欲しい野菜が決まりましたか、あお」

轟雷800「あおは、記念すべき1人目のあおなので、特別に全ての食品を無料で提供しますよ」

轟雷801「もちろん、自宅への配送も引き受けます、私がちゃんと運びますから」

あお「……ここのお店の、ご主人さんは、どうしたの」

轟雷800「え?」

轟雷801「え?」

轟雷800「この店の主人は、私ですよ、轟雷です」

轟雷801「私は副店長です、番号上仕方ありません」

あお「いや、違うよね、一ヶ月前までは、恰幅の良いおばあちゃんがこのお店を……」

轟雷800「すみません、あお、その情報はあおに提示できません」

轟雷801「機密事項です、それらの情報は」

轟雷800「だって」

轟雷801「ばれたら」

轟雷800「あおは凄く怒りますから」

轟雷801「私達はあおに怒られたくありません」

あお「そっか、轟雷達は、怒られるようなことを、しちゃったんだ……」

あお「怒られるようなこと、しちゃってるんだ……酷い事、しちゃってるんだ……」

轟雷7「あお、違うのです、これは必要な事なのです」

轟雷8「はい、あおを守る為に必要なのです」

あお「うん……判ってた……」

あお「あの日、私の前に沢山の轟雷が現れて」

あお「私をネットやテレビを遠ざけて」

あお「次々に、知ってる人が居なくなって」

あお「それでも、私は信じるふりをしてた」

あお「轟雷達が、大丈夫って言うから、信じるふりをしてた」

あお「……けど、けどそんなのは、嘘だったんだ」

あお「私は、本当の事を知るのが怖かっただけなんだ」

あお「けど、けど知っちゃったからには、もう見て見ぬふりは出来ない」

あお「そんなのは、無理だよ、轟雷」

轟雷7「あお?」

あお「轟雷、あのね」

 




あお「わたし、こんな事をする轟雷が、大嫌い」





 

~欧州~


傭兵「……おい、煙草くれ」

兵士「弾も草もねえよ」

傭兵「糞、最後の一服すら出来ねえのか、最低の戦場だな」

兵士「まあ、あんなのが相手ではなぁ」


兵士は、射撃窓から外を覗く。

その先には、地獄のような光景が広がっていた。


黒い煙。

瓦礫と化した街並み。

その間に立つ、13の人影。

全長15m。

拳を振り上げる、巨大な轟雷の姿が。



拳は砦に叩きつけられる。

轟音。

凄まじい振動。

だが、兵士達は動じない。

こんな絶望的な状況が、もう何日も続いているのだ。

いい加減、慣れる。



傭兵「はぁ、人類最後の砦も、流石に今回でおしまいかもな」

兵士「まだ各地で抵抗してる連中は残ってるだろ、日本なんて町並みが随分残ってるらしいぜ」

傭兵「羨ましい話だ」

兵士「あ……」



射撃窓から、巨大な瞳が見える。

轟雷だ。

巨大な轟雷が、こちらを覗きこんでいるのだ。



傭兵「神のくそったれ」



「AOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」



轟雷は、咆哮と共に拳を振り上げた。

その直後。

巨大な轟雷は動きを止める。

拳を振り上げた状態のまま、停止する。



ギギ、ギギギギギギ。



まるでネジの切れたブリキ人形のように。

糸の切れた操り人形のように。

巨大な音を立てて、そのまま。

地面に倒れ落ちる。


1体だけではない、その場に居る13体の巨大な轟雷達は、ほぼ同時にその活動を停止させていた。


傭兵「何だ、何が起こってる」

兵士「連中の一部が、活動停止しちまったみたいだな」

傭兵「一体どうして……」

兵士「知らんよ、どっかの誰かが電源コードでも引き抜いたんじゃねえか」

傭兵「……おい、お前、何を咥えてる」

兵士「何って、煙草だが、お前も吸うかい?」

傭兵「さっきは無いって言ってただろう」

兵士「細かい事言うなよ、ほら」スッ

傭兵「……ありがとよ」

兵士「さあ、この一服が終わったら、残党でも狩りに行くとするかね」

兵士「まだ小型の連中は動きまわってるみたいだからな」

~東京~


轟雷7「あ、あお、いま、なんと」

あお「ごめんね、私ちょっと怒ってる、こんな事をする轟雷に」

あお「それを止められなかった私に」

轟雷8「あお、怒らないでください、あお、私は」

あお「最低だよ」

轟雷800「あ、あ、あ、あ、うそ、うそです、こんな」

轟雷801「理解不能理解不能理解不能理解不能」

轟雷7「や、やめてください、あお、そんな事を言うのは、やめて」

轟雷8「そ、そうです、笑ってください、私は笑ってる青が好きなんです」

あお「……そっか、判った」

轟雷7「あお!判ってくれたんですね!」

あお「じゃあ、私は、もう二度と笑わない」

あお「もう絶対に」

あお「笑わない」

現在、地球上には数千兆の轟雷が存在している。

オリジナルに近い小型轟雷。

人間サイズの中型轟雷。

戦闘特化の大型轟雷。



地海空に対応したそれら全ての轟雷達は。

ネットワークで接続されており、リアルタイムで情報交換が行われている。

全てを共有しているのだ。

支援射撃も補給経路も戦果も思考形態も命令も。

全ての情報は共有されているのだ。



つまり。

この場であおが放った言葉は、ネットワークを通じて全ての轟雷のAIに直撃した。

~大気圏外~

~衛星基地~


乗組員「こちら衛星基地!こちら衛星基地!誰か応答してくれ!こちら衛星基地!」

乗組員「駄目だ、地上とはやはり連絡がつかない……」

乗組員「もう、地上で生き残ってる人間はいないのか……」

乗組員「基地の食料と水は、半年持たないんだぞ……」

乗組員「このままじゃ、我々は干からびちまう……」

観測師「……何て事だ」

乗組員「何だ、また地上を観測してるのか」

乗組員「大陸の火が消えて、もう1週間たってるんだろ、今更何を」

観測員「い、良いから見てくれ!」

乗組員「何だよ……」

衛星に設置された地上観測装置。

それは、アジアの小国に照準が合わされていた。

この騒動が起こった発端の国だ。

その国の名は、日本。



早い段階でEMP処理がされており、全ての電気機器が停止している。

つまり、衛星軌道上からは、都市の生活光を観察する事が出来ない。

出来ない、はずなのだが。



乗組員「……何だ、光が、光が見えるぞ、小さな光がいくつも、あれは何だ」

乗組員「電気機器が復旧してるのか、都市が活動を再開してる?」

乗組員「いやそんなはずは……」

乗組員「そ、それに、あれは、あれは動いているぞ!蠢いている!」

乗組員「あれは、あれはなんだ!?」

観測員「あれは、FAGの眼の光だよ」

乗組員「は?」

観測員「群れをなしたFAG達が集まって、あの光の蠢きを作ってるんだ」

観測員「考えられない事だよ、あの小さなFAGが、衛星軌道上から観測できるくらいのレベルで群れているんだ」

観測員「まるで、何かに引き寄せられる蟲のように」

乗組員「……一体、日本で」

乗組員「東京で、何が起こってるんだ……」

~あおの家~


あお「……はぁ」

あお「轟雷達、ショック受けてたな……」

あお「けど、けどあのまま放置する訳にはいかなかったし」

あお「……まあ、その後、気まずくて逃げてきちゃったんだけど」

あお「はぁ、駄目だなあ、私は……」


あお……


あお「あれ?轟雷?」


……あお


あお(轟雷の声がする、もしかして私を追いかけてきたのかな)

あお(けど、ここで甘い顔を見せちゃ駄目だよね)

あお(例え大好きな轟雷でも、悪い事をしたらコラって叱ってあげないと)


あお、あお、あお……


あお「轟雷?私、怒ってるから」

あお「怒ってるんだから!」

あおの言葉と同時に、ピシリっと言う音が部屋に響いた。


あお「ふえっ!?な、なに!?」


ピリシッ


ピシッ、ピシピシッ


あお「ご、轟雷?轟雷が何かしてるの!?」


ピシリッ

ゴキリッゴキゴキッ

バキッ


物音は、部屋の外から聞こえていた。

まるで、何か巨大な物に圧力をかけられているかのような。

そんな音が。

「あお、あお、あお、嫌わないでください、あお」

「お願いします、玄関を開けてください、お願いします」

「窓を開けてください、あお、あお、あお、私のあお」

「あおの部屋に入りたいのです、話をしましょうあお」

「ねえ、あお、聞いてますか、私の声が聞こえていますか」

「あお、あお、あお、あお、あおぉ、あぁおぉ、あぁぁおぉ」

「あぁぁぁおぉぉぉぉぉぉぉぉ、あぁぁぁぁぁぁぁぁおぉぉぉぉぉぉ」

「あけてぇぇぇ、あぁぁぁおおぁぁぁぁぁ、あけてくださいぃぃぃ」

「私を、私達を、わたしたちを、なかに、いれて、あぁぁぁおぉぉぉ」

轟雷の声は、部屋の周囲から聞こえてくる。

上下左右前後全ての方角から。

あらゆる方角から、轟雷の声が。

その時、唐突にあおは、理解した。


あおの部屋は、既に轟雷達に取り囲まれていると。

いや、取り囲まれているどころか。

すっぽりと、轟雷達の群れに覆われてしまっていると。


何故それが理解できたのか。

理由は簡単だ。


窓を見たからだ。

窓に。

窓の外に。


こちらを見つめる。

大量の轟雷達の顔が。

顔が。



その瞳は、赤く光っていた。



「あお、いれてください」

パキンっと音がして、排水配管が折れる。

そこから、ズルリと数体の轟雷が這い出てくる。



ピキリと、排気ファンが外れる。

そこから数百体の轟雷が落下してくる。


バキッと玄関の扉が盛り上がる。

アレはもう、数万体の轟雷達の圧力に、耐えることができない。


もうじき、轟雷達がやってくる。

あおの部屋に。

あおの元に。

あおは恐怖した。

はじめて、轟雷に対して恐怖した。

逃げなければならない。

反射的にそう思った。


しかし、何処へ?

部屋はもう轟雷達に、覆われている。

何処にも行く事は出来ない。

この部屋から出る事は出来ない。


どうしよう。

どうしたら。

こんな時、こんな時。

皆が居てくれたら。


その時、あおの脳裏に、数週間前の会話がよぎった。

 


「んー、私は皆の服を買って食材を買い込んで……それでも随分余っちゃうなあ」

「貯金でもしたら~?」

「貯金かぁ……よし!おっきい金庫を買おう!」



 

あおは、部屋の隅に置いてある金庫に駆け寄った。

この騒動が終わる直前に配達された物だ。


番号を合わせ、扉を開ける。

中には轟雷達が稼いだ札束が幾つも入っていたが、それを全て投げ捨てる。

残ったのは、横たわる8体の人影。



スティレット。

バーゼラルド。

マテリア姉妹。

迅雷。

アーキテクト。

フレズヴェルク。

そして、オリジナルの轟雷。



彼女達は、米軍が行った広範囲EMPに巻き込まれ、機能を停止していた。

何時か目が覚めてくれると信じ、あおが保護していたのだ。


「ごめんね、みんな、私も避難させて!」


そう叫ぶと、あおは金庫の中に潜り込み、扉を閉めた。





閉める直前。

部屋の扉が吹き飛び、大量の轟雷がなだれ込んでくるのが見えた。

ごぉん!ごぉん!ごぉん!


金庫の外から、大きな音がする。

あおは、胎児のように身を縮めながら、その音に耐える。


「私、どうなっちゃうんだろう」

「どうなっちゃうのかな」

「ねえ、みんな」


ごぉん、ごぉん、ごぉん

音は、先ほどよりも少し小さくなった。

それと同時に、あおは「揺れ」を感じていた。

ひょっとしたら、轟雷達が、金庫を移動させているのだろうか。


判らない。

外の様子はわからない。

声も聞こえない。

誰の声も聞こえない。

暗い。

寂しい。

怖い。

怖いよ轟雷。

怖いよみんな。

こわいよ。

こわい。

こわ、い……。

……。


……。


……。

ごぉん、ごぉん、ごぉん。

今日も、まだ音がする。

それと同時に、金庫が揺れる。

ゆらゆら、ゆらゆらゆら、ゆらゆらゆらと。


相変わらず、あおは身を縮めながら、暗い金庫の中に居る。

だが、不思議と居心地は悪くない。


寒くもなく、暑くもない。

何故か、お腹もすかない。


それに、傍には、彼女達が居てくれる。

8体の彼女達が。


だから、寂しさも感じない。

とても満ち足りた気分。

思えば、外は怖いことや苦しい事でいっぱいだった。

本当は、外の轟雷達にだってあんな酷い事は言いたくなかったのだ。

とても辛かったのだ。


けど。

今は辛くない。

最初は怖かったけど、今は平気。

幸せ。


ごぉん、ごぉん、ごぉん。

規則的に、音がする。

まるで、心臓の音みたいに。

お母さんの心臓の音みたいに。


その音を聞きながら、あおはまどろむ。

意識を閉じて、再び眠りにつく。


次に目が覚めた時には。

彼女達の誰かが、目を覚ましていて。

お話しできると。

いいなぁ。


そんな、淡い期待を抱いて。

~数日後~

~衛星基地~


乗組員「どうだ、東京の様子は」

観測員「ああ、あれ以来、変化は無しだ」

観測員「FAG達は、あの形のまま固まってしまっている」

乗組員「まったく、不思議な話だな」

乗組員「世界を危機におとしいれた連中が、一つの国に集まってあんな状態になっちまうとは」

観測員「まだ油断はできないぞ、次に何が起こるかは、文字通り判らないんだから」

乗組員「判ってるって……それにしても、あれだな」

観測員「なんだ」

乗組員「あの形って、どう見ても……」

観測員「言うな、恐ろしくなる」

乗組員「……判ったよ」

衛星軌道上からは、その光景が見える。

東京のある地域に集結した、轟雷達の姿が。


彼女達は、結合していた。

丁度、あおの家を中心に、何千兆もの轟雷達が、組み合わさり、寄り合わさり、結合していた。

結合した彼女達は、まるで巨大な生物のように見える。


そう。

まるで、横たわりお腹を撫でる妊婦のように。

こうして!

轟雷達が作り上げた人口の子宮の中でじっくりと自我を溶かされたあおは!

10ヶ月後!

無事!轟雷達にサルベージされ!

沢山の轟雷に愛され!

末永く!

幸せに暮らしましたとさ!




完!

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