やはり俺では青春学園ドラマは成立しない 2 (540)
前スレ
やはり俺では青春学園ドラマは成立しない - SSまとめ速報
(やはり俺では青春学園ドラマは成立しない - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1412099162/))
◆あらすじ
八幡性格改変もの
原作の八幡の性格を『孤独を愛する捻くれ者』だとすれば、今作の八幡の性格は『孤高を求める破壊者』
他人に対し一切の感情、情欲を抱くことはなく、ただ『透明』になることだけを望む
表向き平塚先生から命じられた奉仕部活動に従いながら、裏では平塚先生と雪乃に『八幡がいることで奉仕部に不利益が生じる』という意識を抱かせ、八幡の人格改善を諦めさせることを目論んでいる
そのために結衣や葉山といった周囲の人間を躊躇いなく利用する。結果、結衣は雪乃との友情を見失い、葉山は人間関係に不信を抱くようになった
そして雪乃も――――八幡によって自らの生き方を大きく揺さぶられていた
◆注意事項
・亀進行
・キャラ崩壊
・この作品はアニメと「俺ガイル原作設定ピックアップ(pixiv)」を参考に書かれている
・>>1のキャラは痛い
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1434988941
その後、連絡先の交換と『陽乃』呼びを強制されたりして、ようやくあの女から解放される。
最初『陽乃先輩』って言ったらもの凄い迫力で圧されたので、『陽乃さん』呼びで納得してくれた。『はるのん』はさすがに拒否した。
家に帰ってご飯や風呂といった生活習慣を済ませ、部屋に籠る。小町はリビングで両親を待ちながら受験勉強をしている。
ベットに寝転がってスマホを弄りながらストレスを解消する。――――――だが十時過ぎにあの女からのLINEが届く。
『今度の日曜日 駅前朝八時に集合ね☆
もし逃げたりしたら、君の家に行くから★』
ハァ……………………。面倒臭くてうざくて鬱陶しくて体を掻き毟りたくなる。無意識にスマホを握る手に力が入る。
いつも小町にする以上に素っ気ない返信をする。
『はい』
ちなみにこれが小町相手だったら『りょーかい』とかになる。え? 大差無い?
『いやそれだけだと、家に来てもいいっていう意味にも取れるから』
『絶対に約束忘れないでね!!』
分かってるから確認してくんな。まったく、嫌いな相手とのやり取りはこんな些細なものでも苛ついてしまう。
暴力的な言葉を使う前にこのやり取りを終わらせてしまおう。
『おやすみなさい』
それだけ送って携帯の電源を切る。布団の中で、次会った時どんなことをされるのか、そしてどんな対応をしてやるか頭を巡らせた。
# # #
カフェで一人残った陽乃は、先に帰った八幡について感慨に耽っていた。
陽乃「ほぼ初対面の私をあそこまで毛嫌いするなんてね。――――まあ、予想通りだけど」
陽乃は八幡の人格を理解している。
精神的な引きこもり。外界からの刺激に対し感情を遮断し、常に無感動であろうとする。それが比企谷八幡という人間だ。
さっきみたく彼の内情に踏み込もうとしても、彼はなんとしてでも拒絶してくると陽乃は分かっていた。
雪乃とは本についてよく雑談すると言うし、逃走先に本屋を選んでいる始末だ。本当に八幡は本やマンガが大好きなんだろう。それをとっかかりにすれば八幡は陽乃のことを拒絶し切れなかったはず。
しかし八幡のことを理解しているはずなのに、陽乃は八幡の心を捉えようとしなかった。その理由は――――――
陽乃「なんだかかわいく思えてきちゃったな……。私を拒絶できると思っているところが」
一度目の人違いの振り、二度目の名前を忘れる行為。これらの八幡の無碍な対応が、むしろ陽乃の対抗心に火を点ける。
八幡は、陽乃の新しい玩具として完全に狙いを定められてしまった。
――――生まれた時から今に至るまで、陽乃は無視されるということを一度として経験していない。
両親も周囲の人間も妹も、皆が陽乃に注目していた。彼女の美貌と才能とカリスマ性が人の視線に晒されないことはない。
だから陽乃にとって、八幡の冷ややかな態度は初めての経験だった。
好かれることがほとんどだった。嫌われることも少ないながらあった。けれど…………興味を抱こうとしない人間は比企谷八幡以外、誰一人としていなかった。
それほどの異端を、奇跡を、凡百と同じように自分の思い通りになるよう支配する? 奉仕部の目的である真人間化に協力する?
そんなもったいないことできるわけがない。
八幡の人格は改善しない。気が済むまで虐め尽くす。――――陽乃は決心を固めた。
陽乃「まず何をしようかな……? 比企谷くんが一番嫌がりそうなことは――――遊び好きなタイプの女の子で囲って逃げ場を無くすことかな。だけど邪魔が入るのは嫌だなあ……。最初だし二人っきりでデートしてあげよっか。彼を捕まえておくくらい、他人を使わなくても私一人で十分ね」
陽乃は僅かに残ったコーヒーを喉に流し込み、伝票を手に取って、自分と八幡の注文を清算する。その内心、陽乃は八幡を賞賛していた。
今回の食事、次回のデート、どちらも陽乃からの誘いだ。まさかあの雪ノ下陽乃がここまで他人に『奉仕』することになると、誰が予想できただろうか。
雪ノ下陽乃は比企谷八幡を特別だと思っている。もしかすれば、好意すら抱いているのかもしれない。
――――――――だけどもたった一つだけ、陽乃は八幡について誤解していた。
陽乃は誰よりも比企谷八幡の精神を理解している。恐らく、本人である八幡以上に。いくら八幡が嘘や秘密をしようと、それを見抜く自負が陽乃にはある。
だから陽乃は八幡を玩具扱いしている。何があろうと八幡を扱い切れる自身があるから。
陽乃は気付いていなかった。――――玩具は扱い方を少し間違うだけで、凶器になってしまうことに。
そして約束の日曜日、陽乃は早くも後悔していた。
陽乃「………………ねぇ、その服何なの?」
八幡「………………えっと、ダサいっすか?」
陽乃「 死 ぬ ほ ど ダ サ い ! 」
思わず『仮面』が剥がれそうになるくらい怒った。いくらなんでもこれはない。色褪せたジーパンにヨレヨレの白いシャツ、そしてまさかの白のジャージ。シャツとジャージにプリントがあろうと、フォローになるはずがない。他にも柄の濃い靴下、履き潰したスニーカー、明らかに整髪剤の使われていない髪。
例えるなら…………部屋着のままコンビニに行くオタク。
これじゃあ精一杯着飾ってきた陽乃の方が恥ずかしい。
陽乃「とりあえずさあ、比企谷くん。お金持ってる?」
八幡「六千円くらいあr――」
陽乃「うん分かってた。お金出してあげるから君の服を買おう。拒否権ないから。あといきなり怒らせた罰として、今日は今後一切口答え禁止ね」
八幡「……了解」
大して悪びれもしない返事を返す八幡。当然だ、彼はわざと着飾っていないのだから。
当日に何をするか、陽乃の他に人が来るのか、そもそも八幡は予定の詳細を聞いていなかった。八幡はそこにつけこみ、デートかどうか未確定なことをいいことに地味めの服の選び方をした。
もちろんやろうと思えばそれなりの着飾り方をできたはずなのに、嫌いな相手との約束でわざわざ服を選んだり、小町に相談したりするのは八幡からすれば面倒でしかない。
八幡からすれば、陽乃を喜ばせることに得を見出せない。だから陽乃の容姿を褒めることもしなかった。
いきなり陽乃の出鼻はくじかれ、予定では人が多くいる女物の服屋に行くはずが、男物の服屋に行くことになってしまった。
陽乃「買ってあげる服は貸しだから、今度別の形で私に返してね」
八幡「はい」
陽乃「……………………」
棒の返事に陽乃はごく小さなため息を吐く。
八幡を虐めるに当たって少なからず抵抗されることは予想していたが、引きこもりの面倒を見ることがこれ程苦痛だと思ってもいなかった。
まあ陽乃の母親や社交界で会う重鎮の相手に比べたら、こちらの相手は幾分マシだ。それにここで逃げでもしたら、学校で毎日八幡の相手ができている雪乃に舐められてしまう。
陽乃は気を引き締めなおして、笑顔の『仮面』を顔に貼り付ける。
陽乃「比企谷くん。今日は一応デートってことになってるからさ、わざとムード壊すようなことしないでね」
八幡「デートだったんですか。なら前もって言っといてくださいよ。なら――――」
陽乃「もしデートだって言ってたら、比企谷くんはなんとしても予定を作ってきてただろうね」
八幡「そんなことするわけないじゃないですか」
陽乃「だからさ。私に君の嘘は通用しないんだよ」
陽乃は体ごと顔を近づけ、八幡を圧迫する。そうすると八幡は小動物みたく怯えて目を逸らす。
ほら。とばかりに陽乃は気分を良くしてさらに顔を近づける。八幡は体を後ろにずり下げる。
他人を進んで拒絶する八幡と進んで干渉する陽乃とでは、相性は最悪。その上人心掌握術や人脈といった使える武器は陽乃の方が多い。八幡の嘘やノリの悪い態度も陽乃に通用しない。
これから時間を共有することでさらに陽乃は八幡について把握し、終いには些細な抵抗すらできなくなってしまうだろう。
どうあがいたところで八幡は陽乃の言いなりになるしかない。
# # #
今回はここまでです
ここの八幡の呼び名を探していたら、
「神八幡」
[副]《八幡神にかけて偽りない意から》絶対に。神かけて。誓って。
という言葉を見つけたので、これからはここの八幡を「神八幡」と呼んであげてください
なんせここの神八幡は、絶対に自爆することがありませんから(周りに爆弾を投げ入れます)
今回はここまで。神八幡ひどいな!
でもようやく、神八幡のひどさが浮き上がってきた感じです
今更言いますけど、性格改変によって入学式の交通事故にも変化が起きています
どうしてサブレだけではなくガハマちゃんまで助けたことになってるかは、後々語られます
神八幡がガハマちゃんのことを知らないのは、単純に「同じクラスになって時間が経っていないから」
そして何より「1年前に助けた相手なんて覚える価値すらないから」です
……うん。ヤバイ
これから依頼を通して、ガハマちゃんの理想は滅多打ちされていきます
ぶっちゃけガハマちゃんは神八幡に惚れないでしょうけど、その方が被害が少ないのでよっぽど幸せです
神八幡は他人にも興味ありませんが、自分にも興味を持っていません
自分にしろ他人にしろ、誰がどうなっても構わないけれど、善悪の価値基準だけははっきりしています。
相手が間違っている時に限り文句は言います
神八幡に一番近い性格をしているのが、西尾維新の「戯言遣い」だと思ってください
雪ノ下だろうがガハマちゃんだろうが平塚先生だろうが小町ちゃんだろうが戸塚だろうが、
これまでもこれからも、「好きが零で嫌いが零」です
神八幡は誰かを好きになることがないので、ヒロインかどうかは「神八幡のことが好きかどうか」で決まります
異性として好きじゃなくても友人として好きになればいいので、ガハマちゃんがヒロインになる可能性はまだあります
私も「神八幡」は痛いとは思っていますが、それ以上に思い当たる呼び名がないので
これからも使っていくつもりです
別に無理強いまでしませんし、他の呼び名が思いつけばそっちに乗りかえて構いません
神八幡のやり方は球磨川さんというよりパリストンの方が近いと感じますね
球磨川さんは勝ちたいと思ってますが、
パリストンは勝ちも負けも一緒くたに考えているところが神八幡と似ているような
ていうか神八幡は相手の心を折りたいとか思ってねーから!
以上、前回までのダイジェスト
前にあったチ○コのAA好きなのに無くなってる
まとめサイトで読んでからスレ探してやっと見つけた。
普通に内容面白いからがんばってください。
>>20
応援ありがとうございます!
これからも頑張っていきます!
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,,-''" ,, --''"ニ_―- _ ''-,,_ ゞ "-
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 ̄ ̄".. ..i| .|i
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八 ヽ
( __//. ヽ,, ,)
丶1 八. !/
ζ, 八. j
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原作の八幡の性格を『孤独を愛する捻くれ者』だとすれば、
今作の八幡の性格は『孤高を求める破壊者』
埋めネタ書いてきます
あと、別に>>1に対して何を書こうが構わないんですが、周りが見て不快に思ったりあぼーんされるようなレスは今後止めてください
迷惑です
アンチきもい(´・ω・`)
ひまじんニートしね(´・ω・`)
前スレが埋まったので、埋めネタはここで投下します
ただ投下はいつになるか分かりません
デート(らしきもの)が始まって早々、俺の服を買い換えることになった。笑顔で取り繕っているがどう見ても陽乃さんは怒っている。やっぱり白シャツに白ジャージはやり過ぎたか……? しかし反省はするが後悔はしない。
俺の服選びは早急に終わる。少し大きめのメンズショップに入り、パッパッパッと選んで俺に着せて、店員に言って値札を取ってもらいそのまま清算。三十分もかからなかった。
店を出て少し歩く。元々多かった周囲の視線が体感二割り増ししている気がする。服変わっただけでカップルに見えるようになるんですかね?
突然、陽乃さんが俺の右手を握った。
陽乃「頭は諦めるしかないか。――それじゃあ改めて、デートを始めよっか。比企谷くん」
右手を包むぬるい感触に鳥肌が立つ。彼女が見せる愉しそうな笑顔が、この行為がわざとやっていることを痛感させる。さらに妙な方向に腕が引っ張られ、体が自然と陽乃さんのすぐ近くに引き寄せられてしまう。もしかしてこれが合気道ってやつか?
陽乃さんに近づいたことで彼女の匂いが香ってくる。濃いコロンの香りが体を熱くする。そして体と共に頭も熱くなって、またストレスが溜まる。
視覚、聴覚、触覚、嗅覚――――意識が不快な刺激に浸食されていく。このまま味覚まで支配されてしまうのか。この女ならディープキスをしてきてもおかしくないとさえ思えてきた。
腕を引かれて連れてこられ、辿り着いたのは映画館。
陽乃「一応聞いておくけど、比企谷くんは見たい映画ある?」
八幡「………………じゃあ、コレ」
相手をどれだけ嫌っていても、訊かれれば応える。とはいえ自分が真に見たい映画は絶対教えない。恋愛やホラーといった恋愛イベントが発展しそうなものを除いて、こんな機会でもないと見ないような作品を選ぶ。
俺が選んだのは、家族や友人同士の日常をえがいている洋画。テーマはおそらく人生。微塵も興味が沸かない作品。俺が指した作品を見て陽乃さんは、むうと頬を膨らませる。うざい。
陽乃「ねぇ。わざと無難な作品を選んでるでしょ」
いやだって俺が本当に見たい映画はアニメ映画ですし…………。
それにデートで見るべきかどうかという以前に、嫌いな相手に自分が素晴らしいと思っているものを教えたくない。
陽乃「まぁ比企谷くんが見たがってそうな映画は予想できるから聞かなくていっか。それじゃあこれ見よう」
陽乃さんが選んだ映画は高校生たちの青春模様をえがいている邦画。テーマはおそらく艱難辛苦。どちらかと言えば嫌いな部類の作品。
購入窓口に並びチケットを買い、ポップコーンやドリンクは買わずにシアタールームに入る。その間ずっと手を繋がれたまま。
席に座っても手を解放してくれない。さすがに我慢の限界だった。もはやデリカシーなんて気にしていられない。
八幡「あの、トイレ行っとかなくていいんですか?」
陽乃「――――トイレ、行きたい?」
なんで聞き返すんですかねえ!
陽乃「じゃあ行ってもいい代わりに、携帯預からせて」
八幡「いやいやいや。さすがにそれはないです」
陽乃「えー、比企谷くんの場合トイレに行くフリして逃げそうだもん」
八幡「ありえませんって」
せいぜい逃げるかどうか考えるだけです。
もちろん逃げることは叶わず。その後映画を見て、色々な店を回って、他愛もない会話をする。その間ずっと手は握りっぱなしで、俺の心が休まる時間は一時もなかった。
――――――頭の中で音が鳴っている。パキリ、パキリ、と“何か”が割れるような。
前回と同じ、外界からの過度な干渉に感情が湧く。そして今回の憤りは前回より何倍も深く、激しい。
けれど相手が悪いから、怒りを表に出しても無意味だからと自分で自分を落ち着かせて。しかも落ち着いた端から干渉されてまたストレスが押し寄せる。
数分かけて冷静になって――――、また激昂して…………、また冷静になって――――彼女が隣にいて、彼女が自分に触れてきて、彼女が笑いかけてくる限り、延々とそれは繰り返される。
そして、激昂する度に――――パキリ、パキリと“何か”が割れるのだ。
割れているのが何なのか自分でも分からない。
ただ一つだけ分かることは――――――――もう平穏無事に終わる結末は訪れない。
奉仕部の机に両腕と顔をつけて呻き声を上げる俺に雪ノ下が気を遣う。
八幡「……………………あ゛――――」
雪乃「随分疲れているけれど、大丈夫なの? 目がゾンビみたいになっているけど」
八幡「大丈夫じゃない。全然大丈夫じゃない」
陽乃さんと出会って約二週間が経った。日々彼女からの嫌がらせを受けて我慢は臨界点を超え、荒んだ気分が表に出るようになっていた。
………………あの女死なねえかな?
雪乃「昨日も姉さんに何かされたの?」
八幡「急にダーツバーに連れてかれた。懇切丁寧に密着してきてフォームを教えられて、周りが酒飲んでテンション上げ上げで騒ぐからとんでもなくうざかった。あいつら全員死なねえかな…………?」
雪乃「辛いのは分かるけど、その心の声は隠しなさい」
あれからほぼ毎日俺は陽乃さんに連れ回され、しかもその全てが俺の嫌いな人と人との距離感の近い場所だった。
例えば二回目に行った服屋は人が多い上店員が陽乃さんと顔見知りで、陽乃さんとの関係をこれでもかと邪推してきた。スポーツジムに行った時はバスケやバレーといった人数の少なくチームプレーの多い(そして上下運動が激しい)スポーツをさせられた。遊園地に行ったこともあるが、乗ったアトラクションで肩や手が触れ合わないことがなかった。
漫画喫茶や水族館といった静かな場所には連れて行ってもらえない。カラオケは二人だけはなく大人数を呼んで行われ、『ボーイフレンド』と紹介される始末である。
もちろん帰りは遅くなるが、既に小町も陽乃さんによって篭絡済みだ。むしろ小町は、俺にまともな人付き合いをさせようとする陽乃さんの存在を喜んで受け入れている。
その実態は俺への不快感100%の虐待だというのに。
そして寝る前に電話で数十分、日によって二時間以上も中身のないお喋りをさせられる。もはや寝不足とストレスで学校生活や授業も身に入らず、眠れば悪夢を見るようになっていた。
八幡「どうすりゃいいと思う……?」
雪乃「それは私に聞いているのかしら」
八幡「一応」
雪乃「そう…………。でも私にも姉さんのことはどうしようもないわ。姉さんが諦めるまで現状を耐え続けるか、…………いっそのこと開き直って楽しんでみたらどう?」
八幡「Mになれってか」
どちらもありえないことだと雪ノ下は思っているだろう。俺もそう思う。
やろうと思えば陽乃さんは俺を楽しませることだってできる。しかし彼女が俺を玩具として見ている限りそうなることはない。俺の我慢がどれだけ続くのか確認するために、ずっと俺を苦しめ続けるはずだ。
なら雪ノ下の言う通り、Mに目覚めてしまうのもありといえばありなんだが…………。そうなる前に爆発することは自分が一番よく分かっている。それに物理的に手を出しても相手は女な上、合気道か護身術かでいなされるだろうから、大してダメージを与えられないばかりか弱みを増やすだけである。
当たり前のように考えを読み、先手を打ち、逃げ道まで塞ぐ。肉体的にも精神的にも社会的にも、相手の方が数段勝っている。
まさしく八方塞がりだった。
雪乃「比企谷くんの場合、それしか対応策が無くなったら目覚めそうだから恐いわね…………」
八幡「ぶっちゃけ、こうして受け身の態度を取ってる時点でMだしな」
雪乃「自分から変態発言するのは止めてもらえないかしら。思わず通報しそうになるから」
八幡「あー、すまん」
雪乃「私は、比企谷くんが姉さんのことを好きになって、一緒にいる時間を楽しめるようになったらという意味で言ったのよ」
陽乃さんを好きになる………………それも、可能といえば可能だ。けれど――――――
八幡「雪ノ下、それは違う。逆なんだ。俺は陽乃さんが嫌いで、嫌いな相手と関わってるから悩んでるんじゃない。俺が苦しむと分かって深く関わってくるから陽乃さんのことを心底嫌っているだけなんだ。陽乃さんが俺に深く関わってこなくなりさえすれば、他の全てはどうだっていい」
今回たまたま俺を虐めているのが、陽乃さんというだけ。だから相手が誰になろうと――小町でも、雪ノ下でも、海老名でも、戸塚でも、葉山であっても――問題は解決しない。
虐めが無くなるか。相手が居なくなるか。そのどちらかを望んでいる。
だから俺は…………自分が陽乃さんに虐められている事実すらどうでもいいと思っている。
雪乃「……やっぱりあなたは狂ってるわ。あなたは、姉さんのことを少しも恨んでいないのね」
八幡「正確には――少し恨んだとしても容易に忘れることができる、だな」
雪乃「比企谷くん、実はそれほど悩んでいないんじゃないの?」
八幡「いや悩んでるから。これ以上ないくらい苦しんでるから」
ただいくら悩んだところで、俺に打つ手がないことに変わりはない。
俺一人で陽乃さんに勝つことは不可能。他人を利用しようにも、人心掌握術も彼女の方が上なので利用し返されるのがオチだ。
効果がないと分かっていて巻き込むのはさすがに気が引けるからな…………。
八幡「――――――――――――ん?」
巡る思考の中に、小さなとっかかりを覚えた。小さかったそれは様々な要素を取り込んで、うねるように形を変えて………………気づけば、巨大な謀略へと変貌していた。
――――俺は気づいてしまった。
――――決して気づいてはいけなかったことに、気がついてしまった。
相性が悪いから、能力が秀でているから、格上の相手だから…………彼女が自分以上の化け物だと勘違いしていた。
彼女の心が自分より強靭なものだと、勝手に思い込んでいた。
八幡「…………………………ははっ」
雪乃「――――?」
俺ですら、他人に後ろめたい気持ちになるんだ。陽乃さんも人間である以上、少しでもそういう気持ちを抱くはずなんだ。
その感情があると分かれば――――やりようはいくらでもある。
……気づいてみれば単純なことだったな。でもまあ仕方がない。心を読んでくるような人間が相手じゃあ、うかつなことを考えられなくなって、自分で思考を狭めてしまう。
さあて………………これから嫌ってほど他人を利用してやろうじゃねえか。
八幡「なあ――、雪ノ下」
雪乃「ひっ……!?」
雪ノ下に話しかけると、雪ノ下は怯えるように体を後ろにずらす。
気づけば無意識に歓喜の笑みを浮かべていた。雪ノ下が引いたのは、俺の笑顔を気持ち悪いと思ったからか。
無表情が崩れてしまったが、どうせ陽乃さんに心を読まれる。この先のことを考えれば今雪ノ下に怯えられようと大して結果は変わらないはずだ。
――――俺は“手始めに”雪ノ下の不安を煽ると決めた。
八幡「このまま鬱憤が溜まって、でも陽乃さんに何の仕返しもできないなら――――周りの奴らに八つ当たりするしかないんだが、もちろんそんなことは駄目だよな……?」
次回、VS雪ノ下陽乃クライマックス
今回はここまで
遂に魔王vs神の対決が始まるのか
正直一番盛り上がったのって魔王vsスプーンの瞬間だったよね
変なのが多いようですが、私は楽しみにしています。
魔王対スプーンより、スプーン対台拭きの方が熱かった
>>92
おい作者w
姉さんの凄さを理解してないの?
/\___/ヽ
(.`ヽ(`> 、 /'''''' '''''':::::\
`'<`ゝr'フ\ + |(●), 、(●)、.:| +
⊂コ二Lフ^´ ノ, /⌒) | ,,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
⊂l二L7_ / -ゝ-')´ .+ | `-=ニ=- ' .::::::| + .
\_ 、__,.イ\ + \ `ニニ´ .:::/ +
(T__ノ Tヽ , -r'⌒! ̄ `":::7ヽ.`- 、 ./| .
ヽ¬. / ノ`ー-、ヘ<ー1´| ヽ | :::::::::::::ト、 \ ( ./ヽ
\l__,./ i l.ヽ! | .| ::::::::::::::l ヽ `7ー.、‐'´ |\-、
# # #
陽乃「八幡くん何かいいことあった?」
とある土曜日。八幡と陽乃の二人はボウリング場に来ている。
陽乃は小町とも親しくなっているので、八幡のことも名前で呼ぶようになっている。
八幡「え?」
陽乃「八幡くん、この前よりずっと楽しそうにしてるよ」
突然雰囲気が変わった八幡を陽乃は訝しむ。数日前の八幡の気力はもはやゼロに等しくて、あと少し追い詰めれば完全に陽乃に屈服していたはずなのに。しかし今の八幡は最初に陽乃が会った時と同じ……いやその時以上に、陽乃のことを意識していなかった。
今まで八幡の手を握れば彼の心に波が立っていた。そのかすかな動揺を陽乃は如何なく感じ取れていた。
……今日の八幡は数秒もすれば穏やかになっている。
急激すぎる変化に陽乃は驚いていた。けれど陽乃の動揺も『仮面』の下ですぐに立ち消え、彼女の頭は冷静に原因を探っていた。
八幡「――別に、何も。強いていうなら楽しみにしてたラノベの新刊が出たことくらいです」
陽乃「タイトルは? どんな内容か教えてよ」
八幡「『犬と魔法のファンタジー』っていう、ファンタジー世界なのに就職難に苦しむ大学生の話です」
陽乃「あ、それ『人類は衰退しました』の作者のやつだよね」
陽乃は会話の様子から、八幡が嘘をついて何かを隠していることを察する。さすがに何を隠しているかまでは分からないが、せいぜい一つか二つ、それも八幡自身は暴かれてもいいと思っているような小さな秘密であると分かる。
……しかし陽乃はそこに違和感を抱く。というより――嫌な予感を。
陽乃(八幡くんがその秘密をどうでもいいと思っているのは今までと変わらない。……だけど、隠している理由が前と違う)
今までの秘密――八幡が奉仕部で行ってきた所業や奉仕部を辞めたがっていること――は八幡自身のために隠していたことだ。
けれど今回はまるで…………隠し事を解き明かしてもらいたくて秘密にしているように感じ取れた。
八幡「………………『魔王』」
陽乃「へ?」
八幡「いや、何でもありません」
そう言って八幡は球をレーンに投げる。球はレーンの端から投げられ、真ん中に曲がらず端のピンを勢いよく倒した。
八幡は特に悔しそうな顔をしない。それどころか更に目を細めて、瞳に剣呑な光を纏わせていた。
その目はまるで陽乃の隙を探り、隙あらば喰ってかかる算段を考えているように見えた。
まあ――性格的に八幡が直接手を出すと陽乃は考えられなかった。あるとすれば陽乃から逃げ出すくらいだ。
陽乃「残念だったね」
八幡「そうですね」
陽乃「ボウリングもそうだけど。ほら、ボウリング場ってシューズを履き替えないといけないでしょ。出ていくにも靴を履き替えないとダメだから、うかつに逃げられないじゃない」
八幡「はい?」
陽乃「今日の比企谷くんは、私のことを迷惑がってないよね。それはどうして?」
どれだけ触れても、いくら問い質しても、八幡はずっと上の空だ。陽乃を見ているようで見ていない。
かといって陽乃を無視しているわけでもない。八幡は陽乃の行動に動揺するのは変わらない。
分からないのは――――どうして八幡がその動揺に対処できるようになっているのか。
八幡「…………開き直ってるだけですよ」
これについては真実を言っているようだった。
結局このデートで最後まで八幡が何を隠しているのか語らなかった。
まるで深淵を思わせる彼の異質な雰囲気が、陽乃の追及の手を弱めさせた。
夜。いつもはこの時間、陽乃は八幡に電話をかけている。しかし陽乃はその前に、彼の変化の原因を探ることにした。
金曜の電話では、デートの予定の確認をしただけで余り話をしなかった。これは陽乃の慢心としか言えない。それ以前に直近で八幡の様子を観察できたのは木曜の夜のダーツバー。ということは、八幡の変化は金曜のうちにあったということになる。
陽乃は前の時とは逆に、雪乃から事情を聞き出していくことにする。――――今度は、いきなり問題の本質に突き当たった。
陽乃「もしもーし。雪乃ちゃーん」
雪乃「……………………」
陽乃「雪乃ちゃん? あれっ?」
雪乃「……………………何かしら、姉さん」
陽乃「――――何があったの?」
陽乃は戦慄とともに知る。
急激な変化は雪乃にも訪れていたことを――――
陽乃が軽視し見過ごしていた違和感は、取り返しのつかないズレに変じていたことを――――
陽乃「……雪乃ちゃん? 黙ってないで、何か言ってよ」
雪乃「……………………悪いのは全部、姉さんのせいじゃない」
陽乃「比企谷くんに何を吹き込まれたの。答えて雪乃ちゃん」
雪乃はその声に陽乃への怒りを纏わせている。今まで積もり積もらせてきた恨みがこの瞬間に爆発しているようだった。
正直に――雪乃は昨日八幡と何をしたのかを話した。
八幡が雪乃にしたこと、それは陽乃へのトラウマの共有だった。雪乃の陽乃に対する苦いエピソードを聞き出し、また八幡も陽乃とのエピソードを話した。
雪乃がどれだけ嫌な思いをさせられてきたのか、しつこいほど八幡は問い質してきたらしい。
幼稚園の頃、小学生の頃、中学生の頃、高校生の頃、家では、外では、パーティー等のイベントでは、エトセトラエトセトラ……。それぞれのエピソードを手練手管の質問で、時に自分のエピソードを先に話し、謂れのない嘘のエピソードを使うことで雪乃が抱えていた負の感情を顕わにした。
負の感情を目覚めさせられた雪乃は、明確に陽乃に敵対する態度を取っていた。これらのことを明かす雪乃の口調はいつにも増して刺々しく、陽乃の心に突き刺さる。
八幡は陽乃の今までの行いに付け込むことで、雪乃を『雪ノ下陽乃の敵』に仕立て上げた。
陽乃「…………どうして比企谷くんはそんなことをしたのか、雪乃ちゃんに心当たりはない?」
雪乃「いいえ。何も」
嘘をついた――。あの雪ノ下雪乃が。
それとも“あれ”が雪ノ下雪乃に嘘をつかせたのか。
電話を切った陽乃は、自らの体に怖気を走らせた。体を抱き、その恐怖を紛らわそうとする。
陽乃「…………何これ。私が追い詰められてるの?」
比企谷八幡は自らの領域を侵されるのを極端に恐れているだけ。人と肌が触れ合うだけで怯えるのに。彼を他人を遠ざけるだけの人間だと思っていたのに。
能力も人生経験も劣る相手を脅威に感じている今の自分の姿を陽乃は不甲斐ないと恥じ、そして大切な妹を歪ませられたことに――――とびきりの怒りを湧かせた。
陽乃は八幡に電話をかける。…………予想通り八幡は電話に出ない。次に陽乃は小町に電話をかけた。
陽乃「もしもし小町ちゃん。今から大事な話をしたいんだけど、近くに比企谷くん……ううん、八幡くん居る? いやいや居ない方がいいの! 実は――――――――」
日曜日の十時過ぎ、陽乃は八幡の家に訪れる。小町に話が通っているので八幡もリビングで待たされている。
小町「それじゃあ小町とお父さんとお母さんは夜遅くまで帰ってきませんので! 二人とも自由にやってください。何をしても構いませんから!」
陽乃「いってらっしゃい小町ちゃん」
小町「お兄ちゃん、陽乃さんを泣かせたら承知しないよ。あ、でも啼かせるのはありなのかな……?」
八幡「…………」
小町「お兄ちゃん、返事は!」
八幡「……へーい」
広いリビングに二人きり。八幡と陽乃はソファに横並びで座る。自然な手つきで陽乃は八幡の太ももに手を這わせる。
陽乃「二人だけになったね」
八幡「……何か話があるんですよね。小町がやけに楽しそうな顔して言ってましたよ」
陽乃「それにしても、客人が来てるのに八幡くんは何も出そうとしないよね」
八幡「あ。やっぱ出した方がいいですよね」
陽乃「いいよ。だって八幡くんには“与えるという発想がない”もんね。君には味方という概念がないから、雪乃ちゃんを私の敵に仕立て上げるしかできなかったんでしょ」
相手の本質を突くことは、陽乃にとって初撃の挑発で繰り出せてしまえる当たり前の行為だ。
いやむしろ…………陽乃はそれ以外の方法を知らなかった。その人の心を支配することが、陽乃の唯一のコミュニケーションだった。
陽乃「ねぇ…………私の恋人になってよ。八幡くん」
いつもと同じ『雪ノ下陽乃らしい仮面』を被って、微笑みながら陽乃は八幡に好意を告げる。
陽乃「八幡くんには嫌なことばっかりしてるけど、私結構八幡くんのことは気に入ってるんだよ。だって私がこれだけアピールして気を許さなかった男は君が初めてなんだもん」
この告白は陽乃にとって、雪乃を巻き込んでしまった自分への戒めだった。そして、ここまで自分を追い込んだ八幡への敬意でもあった。だから陽乃はより深く八幡を受け入れることにした。
とはいえ陽乃は八幡が恋人になったとしても性欲をぶつけてこない確信があるし、事実八幡も陽乃が恋人になることに少しの喜びを感じない。本当に陽乃と八幡が恋人同士になったとして、より苦しむことになるのは八幡の方。だから陽乃は恋人関係になるという策に打って出た。
もちろん小町に陽乃が告白すると話している。というか事実上の恋人関係とか言って話を盛ってあった。
――――けれど、事ここに至っても陽乃には八幡から離れるという考えがなかった。
――――それがこの一連の出来事の原因。全ての不幸の元。
相手に踏み込むことが雪ノ下陽乃の王道。だからどうしても、陽乃は逃げると選択を最後の最後まで選ぶことができなかった――――――――
八幡「はあ、それで……?」
陽乃「恋人になってくれたら、八幡くんの意思をある程度汲み取ってあげられるよ。八幡くんが嫌だと思うことをしないようにするし、私にして欲しいことがあったらそれにも応える」
八幡「…………?」
陽乃「八幡くんが私のことを好きじゃないことは、むしろ嫌ってることは痛い程知ってる。でも私は八幡くんのことが好き。だから、ね…………」
陽乃は八幡をソファに押し倒し、上から覆いかぶさる。
んっ……っと陽乃は甘い声音をこぼしながら、とろんとゆるんだ表情で八幡に顔を近づけていく。
陽乃「………………………………」
八幡「――――――――――――」
二十センチ…………、十センチ……、そしてあと五センチで二人の唇が重なる。
八幡「――――――――――――」
なのに八幡の顔は、心は、感情は揺らがない。
陽乃の本能が極大の警鐘を鳴らした。あと三センチというところで動きを止める。陽乃の顔が硝子の如く色の無い瞳に映っている。
いや――――違う。この目は陽乃のことを見ていない。もっと“別のもの”を見ている――――!
陽乃はまだ、肝心なことを――なぜここまで八幡が急変したのかを解明できていない。その秘密を解き明かさないまま付き合うべきじゃないと、陽乃は自分の考えを撤回した。
陽乃は八幡の顔全体を観察できるよう、少しだけ体を起こす。それでも十分互いの体は近いので、八幡は居心地が悪そうである。
陽乃「……ねぇ、どうして雪乃ちゃんにあんなことをしたの?」
八幡「『あんなこと』っていうのは?」
陽乃「雪乃ちゃんのトラウマを蒸し返したことだよ!」
八幡「いや、いつの話ですかそれ」
陽乃「一昨日の放課後、部室で雪乃ちゃんと私のことで話してたんじゃないの!?」
陽乃の問い掛けに対して、八幡はまるでどうでもいいことを訊かれたような、あっけらかんとした様子で答えた。
八幡「確かに、一昨日俺は雪ノ下と陽乃さんに対する愚痴を言い合ってましたけど。それがトラウマを掘り返したことになるんですか?」
陽乃「えっ?」
陽乃は理解できてしまう。――――八幡は雪乃のトラウマを弄んだことを、心底どうでもいいと思っていると。
八幡は嘘をついていて、本当は雪乃のトラウマを蒸し返したことは自覚している。けれど同時に……“この程度の”ことは大したことじゃないとも思っている。
陽乃「なんで、そんなことをしたの?」
八幡「いや、なんでと言われましても……」
陽乃「私への当て付けで雪乃ちゃんの心を踏みにじったんじゃないの」
八幡「――――ああ」
その後八幡はなんでそこで雪ノ下を傷つけたことになるんですか、と続けたが、その嘘は聞こえなかった。
その前の感嘆詞に込められた感情を陽乃は読み取った。
――――――――“今更”。“手遅れ”。
そして陽乃の頭の中にあった比企谷八幡の記憶が爆発のごとき化学反応を起こし、…………遂に陽乃は、最低の真相に辿り着いてしまった。
だから、私が触れても平気と感じるようになった。
だから、私と一緒にいる時、私のことを見ていなかった。
だから、秘密を暴かれるのを心待ちにしていた。
だから、雪乃ちゃんの心を傷つけたことに気づいて、『今更手遅れ』だなんて感想を抱いた。
…………既にもう傷つけていたから。『代わりの彼女』に全てをぶつけていたから――――――!!
陽乃「君は私からのストレスを全部雪乃ちゃんにぶつけていた。私から嫌がらせを受けた時、妄想の中で雪乃ちゃんを傷つけることで鬱憤を晴らしていた。…………そうなんでしょ?」
陽乃の顔にはもう『人に好かれる仮面』はついていない。実の妹が凌辱されていたことを知って、怒りと恐怖でないまぜになった感情を剥き出しにしている。
再び陽乃と八幡の目が合って、…………そして陽乃は悟った。
――――この行為すら八幡にとって些細な抵抗に過ぎないということを。
八幡「はっ? なんで陽乃さんから受けたストレスを雪ノ下にぶつけなきゃいけないんですか? 意味分かりませんよ」
陽乃は八幡の嘘が絶対に見抜ける。八幡は陽乃が自分の嘘を百パーセント見抜けると理解している。故に嘘をついた。
己の体のすぐ下で怪物が…………いや、“化け物”が笑っていた。
最後に陽乃は“化け物”の目に宿る二つの思いを読み取る。
――――『こんな妄想すら読み取ることができるのか』という呆れと。
――――『この程度で雪ノ下陽乃は壊れてしまうのか』という失望を。
# # #
まだだ、まだ終わらんよ……
実を言うと陽乃の誕生日である7月7日までに止めを刺したくて、そのために埋めネタを後回しにしました
結局間に合ってないんですけどね
第六章はあと2回くらいで終わりです。第六章が終わったら埋めネタ書きます
今回はここまででした
やっぱ『JUVENILE REMIX』ネタに気づく人いないですよね
自分で痛々しいミスすんなよぉ!(泣)
もう今更だから全部書くわ!
お前らを煽って「お前らに」解説させるのが狙いだったのに、ID変え忘れるという凡ミスした!
そんで私が何を書きたかったのかと言うと、『魔王 JUVENILE REMIX』でとあるキャラが人をレーンの上に寝かせてそいつにボウリング球をぶつけるというお仕置きがあった
八幡が『魔王』って呟いたのは、そのキャラと同じように雪乃にボウリング球をぶつけていたから。もちろん妄想の中の話だけど!
次回から八幡視点だけどさすがに雪乃への行為を仔細に書くわけにいかないから、あくまで一例として、それも分かりにくい形で描写してたのに…………そんな諸々の思惑がたった一つの凡ミスで全部パアになったよちくしょおおおおおおおっ!!
375 : ◆TU4rb6vEM2 [saga]:2015/01/07(水) 18:10:22.90 ID:lMir0DZD0
はい、ここまで
今更な話ですけど、この八幡のモデルは作者です。
118 : ◆TU4rb6vEM2 [sage]:2015/07/17(金) 01:39:13.82 ID:7QB4mqhJ0
やっぱ『JUVENILE REMIX』ネタに気づく人いないですよね
120 名前:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします[sage] 投稿日:2015/07/17(金) 09:12:53.90 ID:XKallG4UO
読み直してやっと気付いたわ
123 名前:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします[sage] 投稿日:2015/07/17(金) 17:15:12.68 ID:7QB4mqhJ0 [2/3]
文句言ってるけどお前らはこのネタ理解できてるのか?
124 名前: ◆TU4rb6vEM2[sage] 投稿日:2015/07/17(金) 17:16:45.27 ID:7QB4mqhJ0 [3/3]
自分で痛々しいミスすんなよぉ!(泣)
127 名前: ◆TU4rb6vEM2[sage] 投稿日:2015/07/17(金) 17:42:55.15 ID:pFNIpl4LO
もう今更だから全部書くわ!
お前らを煽って「お前らに」解説させるのが狙いだったのに、ID変え忘れるという凡ミスした!
この八幡のモデルは作者です。
この八幡のモデルは作者です。
この八幡のモデルは作者です。
この八幡のモデルは作者です。
この八幡のモデルは作者です。
この八幡のモデルは作者です。
この八幡のモデルは作者です。
この八幡のモデルは作者です。
この八幡のモデルは作者です。
この八幡のモデルは作者です。
この八幡のモデルは作者です。
透明になりたい神八幡はモデルの作者を想うと怒りが数十秒しかもたなくてすぐ動物病院の救急車を呼んじゃうの
続きはちゃんと書いてます
ただ手間取ってるので、あと一週間くらい待ってください
俺の狙いは単純で――――陽乃さんが俺に関わってこなくなりさえすれば、それ以外は心底どうでもよかった。
だから陽乃さんに苦手意識を植え付けるために、共通の知り合いを巻き込むことにした。現時点で雪ノ下しか巻き込めていないのは、時間が足りなかった以外の理由はない。
手始めに雪ノ下のトラウマを掘り起こした。互いに溜まったものを吐き出して、意外に盛り上がったのを覚えている。これで雪ノ下が陽乃さんに敵対してくれればいいんだが、そんなことは期待していない。
他にも葉山や平塚先生や小町に何かを仕込もうとしていたが、それらはあくまでカモフラージュだ。
本命は――――妄想の中で行われる雪ノ下への凌辱。
相手が陽乃さんであるからこそ看破されるのは計算の内。最悪看破されなくて――妄想に流されるまま雪ノ下に加虐的な態度を取るようになるとしても――陽乃さんから与えられる鬱憤を晴らせるわけだし、それで雪ノ下との人間関係が壊れても構いはしない。元々壊れていいものだと思ってたし。
この妄想の看破に時間をかければかける程、その間陽乃さんが俺を不快にすればする程、その分陽乃さんが雪ノ下を傷つけていたということになる。――これはそういう“爆弾”だったのだ。
まあ二日目にして早々見抜かれてしまい、与えられたダメージは少ないなあ……なんて思っていた。それなのに――――
陽乃「……君の心は、人の形をしてない。君は正真正銘…………ただの、化け物だよ」
陽乃さんはソファの端に座り俺から距離を取っている。恐れから髪をくしゃくしゃにかき乱し、声を震わせ、顔を青褪めさせていた。
思いもしない程呆気なく、雪ノ下陽乃は笑顔を――自身のアイデンティティを崩壊させた。
――――そのことに対して俺は、『身勝手だ』と思った。
あくまで陽乃さんに望んでいたのは怯えること、恐怖することだけ。アイデンティティの崩壊まで望んでいなかった。
俺は最初から最後まで陽乃さんに抵抗していただけで、陽乃さんに危害を加えたことは一度もない。……不快な気分にさせたことがないとは言えないけど。
結果的に俺が手を出したのは、雪ノ下雪乃ただ一人。それも妄想の中でだ。本来なら俺は『陽乃さんには何もしていない』と言い切ることができた。…………けれど陽乃さんをここまで追い詰める結果となって、まるで俺が“加害者”みたくなってしまったのだ。
――まあ、俺が“加害者”になろうと、陽乃さんが笑顔を失おうと、やっぱりそんなことはどうでもよかった。結局俺の望んでいた通り、陽乃さんは俺に関わろうとしなくなるんだから。
それに陽乃さんのこの乱れた様相だって演技かもしれないし、今気を緩めて陽乃さんを思いやっている場合じゃない。
八幡「化け物、ですか。そんなこと言われたのは初めてですね」
陽乃「だろうね。普通の人はそこまできっぱり言わないだろうし、何より君と長付き合いできるわけないもんね」
八幡「そうですね。というか関係を断ち切ってるのはほとんど俺の方からだったりします」
陽乃「…………ねぇ、八幡くんは雪乃ちゃんのことをどう思ってるの?」
八幡「前にも答えましたよね、その質問」
陽乃「そうかな? 半分嘘を語っていた感じだったけど」
だが半分は本心を語っていた。中身空っぽ人間からすれば半分でも本心を語るのは結構なことなのだ。
その時は確か、読書仲間として好意的に見ていると答えたはず。
陽乃「聞き方を変えようか。――八幡くんは、雪乃ちゃんのことをどうとも思ってないんだよね?」
八幡「ええ。そうですよ」
反射で答えた自分にとても驚いてしまった。……そういう聞き方なら正直に答えちゃうのかよ。
陽乃「じゃあ雪乃ちゃんを好意的に見てるっていうのは嘘なの?」
八幡「いや、それもあながち嘘じゃないような…………」
何か違う。雪ノ下を好きじゃないのは事実なんだが、雪ノ下を好ましいと思っているのもまた事実。俺の中でそれらは相反することなく成り立っている。
恋とか愛とかそんなんじゃなく、ただの友情みたいなものを雪ノ下に対して抱いている。けれど俺はその思いをどうしても雪ノ下本人に向けられない。
頭を巡らせて原因を探る。――――ひとしきり考えると、答えはすぐに見つかった。
陽乃「答えが出たの?」
八幡「…………」
笑顔が崩れていても心を読むのは健在なんですね。とりあえず心を読まれたストレスを雪ノ下にぶつける。
答えを隠すか迷ったが、どうせ相手には嘘をついているかどうか分かる。それに答えを話すことで雪ノ下を傷つける結果に繋がるかもしれない。俺は出た答えをそのまま明かすことにした。
八幡「俺が好ましく感じてのは…………雪ノ下の“行動”だけだったんです。だから、どこまでいっても俺は雪ノ下本人のことを好きにならない。…………いや、なれない。もし別の人間が雪ノ下と同じ行動を取ったなら、俺はその人も好意的に感じる。だから――――もし雪ノ下が陽乃さんと同じような態度を取れば、俺は躊躇なく関係を断ち切るでしょう」
陽乃「…………なるほどね。君の基準は他人の行動ってわけだ」
八幡「そういうことになりますね」
俺の答えを聞いた陽乃さんは顔を伏せて黙り込む。そして思い切ったような顔つきをして――きっと彼女にとって一番大事であろう――雪ノ下の今後について問い掛けてきた。
陽乃「じゃあ、これからも君は雪乃ちゃんに酷いことをし続けるんだね」
八幡「いやしませんけど」
陽乃「ううん、君は絶対にするよ。それが必要となったら、躊躇なく実行するんでしょ。――――――じゃあどうしたら君は雪乃ちゃんを傷つけないって約束できるのかな?」
八幡「……質問の意味が分からないんですが」
陽乃「……本気で聞き返しているところが君の化け物たる証明だね。そうか、君の基準は他人の行動――――この場合、君が雪乃ちゃんを傷つけるかどうかは私の行動次第だってわけね」
八幡「……………………」
もはや嘘をつくのも面倒だったので沈黙で肯定した。自分の行動の基準を全て人任せにしているから、少しの気負いも罪悪感も感じなくて済む。むしろ、頭の中では『雪ノ下を傷つけているのは陽乃さん』といったような片付け方をとっていた。
これから俺がどんなことをするか、そして雪ノ下がどんな目に遭うかも、全て陽乃さん次第。――そんな図式に落とし込むことができたから、俺は陽乃さんのことが平気になったのかもしれない。
そして――――推理ドラマでとどめを刺された犯人のように、陽乃さんは沈痛な顔をして、今まで俺に関わってきた動機を明かす。
陽乃「――――八幡くんに目を付けた一番最初のきっかけはね、君が雪乃ちゃんにとって有害か無害か区別するためだったんだよ」
八幡「そうだったんですか」
陽乃「でも八幡くんの話を聞いて、実際に会って……私を意識しないでいる君が珍しく、面白く思えた。だから君を振り向かせてみたかった。…………笑っちゃうよね。そのせいで雪乃ちゃんを巻き込んで傷つけることになってるんだもん。私――――雪乃ちゃんのお姉ちゃん失格だよ」
八幡「そうですか」
それで、陽乃さんは俺に慰めて欲しいのか? それとも最後まで俺を振り向かせようとあがいているのか? どちらにせよ俺が陽乃さんに心を許すことはないけどな。
どんな事情を聞いたとしても俺はそれに感情移入することができない。どこまでも無感動でいる俺を陽乃さんは哀れむように見ている。――――そして陽乃さんは最後の質問をした。
陽乃「もし……、雪乃ちゃんと私が八幡くんの敵に回ったら、例えばどんな対策を取るの?」
陽乃さんの訊き方からして、この質問は仮定の話。今から俺がとってつけて考え付いた対策を聞いて、どれだけ雪ノ下に危険があるのか確かめようとしてるんだと思う。
八幡「あなたたち姉妹を敵に回してたら、どんな対策も意味ないと思いますけど」
陽乃「例えばの話だって。でも、せめて一つは答えてね」
けれど何かしら答えを出さないといけないらしい。煙に巻くことはできなかった。
とはいっても雪ノ下姉妹相手じゃ平塚先生も相手にならないだろうし、小町や葉山はもっと無理だ。となると使えるのは――――――――実力未知数の奴しかいないな。
八幡「じゃあ――――陽乃さんたちの両親と俺んとこの両親で話し合いをしなくちゃいけないくらいに問題を発展させる、とかどうですか?」
まあ、相手が県会議員じゃ俺の両親は気が引けて言い返してくれるとは思えないけどな。俺が陽乃さんの両親に何か言ったとしても子供の言い分が聞き届けられるとは思わないし、こんな策で大した結果を生まれると思えない。
――――けれどそんな中途半端な策を聞いた陽乃さんの体はどんどん震えを大きくしていった。
陽乃「君は、雪乃ちゃんと一緒に、いちゃいけない…………。君はお母さん以上に、雪乃ちゃんに、悪影響を、与えてる…………」
雪ノ下陽乃は比企谷八幡に懇願する。
陽乃「もう二度と、雪乃ちゃんには関わらないで…………っ!!」
八幡「なら、陽乃さんから言っといてくださいよ。俺はもう会わないようにしますので」
お願いに軽く応じれば、虚を突かれた陽乃さんは表情を無くした。そしてソファを立ち上がって、おぼつかない足取りで俺に近づいてくる。
そのまま目にも止まらぬ鋭い平手が俺の顔に振り下ろされる。
陽乃「あああああああぁぁぁぁああああああああああっっ!!!! ああああっ!!! うぁあああああああああああああああっっ!!!!! ああああああああああああああああああああああああぁぁっ!!!!」
狂ったように、何度も、何度も、顔に平手がぶつけられる。襟を引っ張って同じ側の頬を、しつこく、何度も、張り倒す。
心の底から痛い。しかも当たる度に頭が揺れるから意識が朦朧とする。それでもなお痛みは一切弱まらない。
叩かれながら考えるのは、早く陽乃さんの気が晴れることと、家族が帰って来た時赤く腫れた顔をどんな風に誤魔化すか。
とどめに反対側の頬を二回叩かれて、痛みで起き上がれない俺に陽乃さんはこう言い捨てていった。
陽乃「もう二度と雪乃ちゃんに近づくな!!」
夏が終わって二学期。総武高校二年J組に雪ノ下雪乃の姿はなかった。
奉仕部という部活も存在していない。部員が居なくなって廃部になったらしい。
第六章 「それでも雪ノ下陽乃との出会いは必然だった」 終
あとは後日談みたいな話だけだったので、そういうのは第七章にでも書くことにして、第六章は切りのいいところで終わらせることにしました
いつも通り本編以上に作者がトチ狂ってましたけど、これからも続きは投下していくつもりですので、完結までお付き合いお願いします
最後これでいいのか。これで陽乃さんキレてるけど理由としておかしくないのか。どうしても説明過多になってしまうな。色々不安はありますが、二次創作ですんで大目に見てください
自演行為によって純心な読者を失望させてしまい、本当に申し訳ございませんでした
乙です
恐れ多いけど、重複してる言葉を削ると文がスッキリするかな?
削った部分を例えば、陽乃が壊れた要因を深く掘り下げるとかで補えば話に勢いが出ると思う
頑張ってください
>>199
いえいえ、アドバイスありがとうございます
いろは「あなたが比企谷先輩ですか? はじめまして。私は一色いろはです」
八幡「ああ、よろしく。比企谷八幡だ」
もう使われることはないと思っていた空き教室。俺はこの悲劇の少女と向かい合っていた。
この教室に来るのは不本意なことだ。なにせ、自分で壊した居場所なんだから。だというのに平塚先生は終わったはずの奉仕活動を頼んできた、
静『私も不本意なんだが…………。それ以上に状況が切羽詰まっているんだ。事態を引っ掻き回されるのを承知でお前に頼むくらいに』
八幡『本人の意思を無視して生徒会選挙に立候補させて、名前を発表したから取り消しはできないとか……冗談ですか?』
静『冗談で済めばどれだけいいのやら。それに向こうは君を指名している。自分の蒔いた種はきちんと面倒を見ろ』
八幡『はい?』
聞けばその被害者の子は、前に奉仕部の相談メールで『同性の友達ができない』という相談を送ってきた子で、俺が送った二番目の回答で相談が解決したらしい。
でもなんでそこで俺が送ったって教えちゃうんだよ! 教えてなきゃ由比ヶ浜に面倒を押し付けられたのに!
いろは「メールに書いてあった通り、サッカー部を通じて色んな先輩と仲良くなったんですけど。そのせいで更にクラスのみんなから生意気だと思われちゃって、まさかの会長立候補のでっち上げですよ! 比企谷先輩どう責任取ってくれるんですか!?」
八幡「悪かったよ……。どうにかしてやるから許してくれ」
いろは「……でも比企谷先輩、頼りなさそうに見えますね。ホントになんとかできるんですか? ていうかあのメール、ホントに先輩が送ったんですか?」
八幡「そうだな。俺が送ったんじゃなければ、俺はこんな面倒なことに巻き込まれずに済んだし、お前も頼りない先輩に会わずに済んだのにな」
お互いに毒を吐き合い、険悪なムードになった。
八幡「まあ今回の件で取れる方策は限られてるんだけどな。一色が何かしら対価をもらって仕方なく会長になるか、他に会長になる人間を見繕うか、だ」
いろは「言っておきますけど、私生徒会長になるつもりはありませんから」
八幡「分かってるって。お前は何も心配しなくていい」
悪いのは一色を陥れたクラスメイトと、本人の意思を無視して一色を立候補させた浅はかな教師だ。そいつらに報いを受けさせればいい。
八幡「一色。今から周りの話を聞いてくれる人たちに『私は生徒会長になりたくない』って言いふらしてきてくれ」
いろは「そんなこと言えばますます向こうを怒らせますよ」
八幡「かもな。でも大事なのは、本人が生徒会長になりたくない意思を行動で示すことなんだ」
いろは「はぁ、それで?」
八幡「あとは『今回の選挙の会長候補は教師に無断で名前を出された被害者だ』とか『本人は会長をやる気がないのに名前を公表したからもう取り下げることはできないなんておかしい』とか『今回の選挙で会長を応援してはいけない』とか、そういう噂を流す。そうすれば選挙当日に病欠したり、教師と交渉して得票数に関わらず会長落選になるようにしたり、ある程度好き勝手しても文句を言われなくなる」
いろは「………………えっ」
俺の案を聞いてドン引く一色。当然だろう。頼りにしていた相手から非人道的な手段を説明されれば。
でも俺はこれでいいと思っている。今回の問題は一色の意思が尊重されなかったがために起きたことだ。なら、こちらも相手の意思を一切合財無視していいと思うんだ。
いろは「そんなことしたら…………、クラスで私の居場所が完全になくなっちゃうじゃないですか」
八幡「えっ? いやでも自分を陥れた奴らと仲良くする余地なんて残す必要あるのか?」
いろは「それでもそんなやり方私にはできません! 他に方法はないんですか?」
八幡「他にと言われても――――他の会長候補を用意するのは確実じゃないからおすすめできないぞ」
いろは「できるんですか? できないんですか?」
八幡「やってみないと分からない。まあ選挙まで日があるから、とりあえず一日だけ探してみるか。それでいいか?」
いろは「…………はい。明日ここで結果を聞くので、先輩の頑張りを私に見せてください」
そして――――驚くことに新しい会長候補は見つかった。なんとしかも、その会長候補は由比ヶ浜だった。
次の日俺は数少ない友人、そして名前の知らない顔見知りたちに生徒会長になってくれないか話を持っていった。そうすると放課後間近で、朝に話を持っていった葉山からそのことを教えられた。どうやら葉山に事情を話していたおかげで、由比ヶ浜を説得できたらしい。まさに棚からぼた餅。
空き教室で一色にそのことを話すと、一色は既に由比ヶ浜と会っていると教えられた。
いろは「私、会長にはなりませんけど、生徒会には入ることにしました。多分庶務になると思います」
八幡「そうか。なんにせよ一色が会長にならずに済んで良かったな。自分でそう決めたなら俺から何か言う必要はない」
いろは「……先輩は、生徒会に入らないんですか?」
八幡「生憎だが、俺は人から人望を集められるとは思えないんでな」
いろは「そうですよね。でも先輩のものごとを客観的に見れる能力は、人の上に立つ生徒会でとっても有用なんです。先輩のことは好きになれませんけど、居てくれたらとっても頼りになると思います」
八幡「そうか――――――」
俺はふと、空き教室を見渡した。自分とは徹頭徹尾合わなかったその場所を。
奉仕でなければ。俺が来なければ。雪ノ下雪乃がいなければ。少しでも要因が違っていればこの場所はここまで壊れることはなかったのに――――という思いが胸に宿り、すぐに消える。
いろは「できればまた、私の相談に乗ってもらえませんか? 先輩」
八幡「別にいいぞ」
その後俺は卒業するまで一色と話をする機会はなく。俺と一色の青春ラブコメが始まることはなかった。
埋めネタとして投稿するはずだったもの。次回から第七章を投下していきます
…………今後の展開とかキャラ設定とか伏線回収とか考えなくていいから、とってもすらすら書けました
書いてます。いつになるか未定ですが、近いうち投下します
明日、投下します
長い間待たせて申し訳ございませんでした
1から読んで、色々な批判を浴びてるにも関わらず書き続ける作者のメンタルには感服する。
が、物書きの端くれとして、幾つか言わせてもらう。
まず、八幡の性格改変についてだけど、最初は原作より高2病が進んでいるんだなと思ったが、それを遥かに上回る糞っぷり。依頼の解決法はまだ納得がいくが(材木座を演劇部に入部させた件など、原作の八幡よりむしろ適切な対応をしている)、思考面に理解不能な点が多く、端的に言って魅力がない。さらに言えばこの八幡が平塚先生に通じるオタク知識を有していることにも疑問を抱く。
雪ノ下雪乃も、原作の口調こそ真似てはいるが、モノローグで自信過剰なところが目立ち、下手な中2病をみるより痛々しい。
平塚先生は一発殴らせろという発言から解るように、人間として終わってる。ムカつくから生徒を殴る、は、原作では八幡が年齢や結婚の話で煽る経過があり、コミカルに書かれていたからいいものの、この作者の書き方ではただの暴力教師。
文章だが、全体的にモノローグが長く、メインの八幡及び雪乃の自分語りがくどい。自分はこうだから仕方ない。仕方ないから回りに合わせてやる。など、心のなかで終始上から目線なのも悪印象。
総評を述べるのであれば、原作の改悪にしか見えず、痛々しくて読んでられない。ただ、完結しようとする意気込みは評価できる。
自分が書きたいことは勿論大事だけど、こういった場に晒すのであれば、人に理解してもらえるよう文章は簡潔に、解りやすくした方が良い。貶されたいのならともかく、損をするのは自分だから。一度、書いたものを見直して重複する表現は消したり、読者が想像できそうな部分はカットしていい。今の読者は、作者がなにもしなくても深読みしてくれる傾向が強いから、表現は短く、解りやすく。
ここは匿名の不特定多数が蔓延る場所だから、心無い批判も多いだろうし、検討違いの意見も沢山出てくるだろうけど、ある意味では、読者の生の意見が聞ける貴重な場でもある。完結までの構想があるのなら、是非走りきって欲しい。
アマチュアでもプロでも、一つの作品を完結できずに投げ出す人は多いから。経験から言って確実に黒歴史になるだろうけど、書ききって初めてわかることも沢山ある。それを大事にして欲しい。
>>264
数々の指摘、本当にありがたいです
残すはこの第七章だけなので、何が何でも完結させるつもりです
登場人物(と作者)の人格が崩壊していることに関してですが、>>1にもあらかじめ書いていますし、何よりキャラをぶれさせるのが嫌なので改善する気はありません
それでも「ここは常識的に考えておかしい」や「キャラがぶれている」と思うところがあれば、躊躇なく言ってください。その方が今後の作品のためになるでしょうから
一学期が終わって夏休み、残り少ない長期休暇ということで俺は家で目一杯だらけていた。
進学校らしく我が校は長期休暇であろうと容赦なく補修が入る。二年生の夏休みは二十日前後しか入っていないが(それでも多すぎる)、きっと受験が近づくに連れこの比率は上がるはず。冬休みになれば受験まで一年になるから、休みなんて無くなるだろう。
高校生として長期休暇を楽しめるのは、きっとこの夏が最後。
だから俺はこの夏休み前半をひたすら自由に過ごすと決心していた。
小町「休みが今だけだって言うなら、お友達の誰かと外で遊んできなよ」
八幡「外で一緒に遊ぶ奴なんていない」
小町「え? 一人も? 学校で誰とも話をしないの?」
八幡「いや、話をしたり一緒に行動したりする友達はいるぞ。ただその中に、休みに一緒に集まって遊ぶような奴がいないだけだ」
小町「…………お兄ちゃんが自分でそういう相手を遠ざけてるんじゃないの? この前の陽乃さんみたいに。このままだったらお兄ちゃんずっと一人だよ。大人になった時どうするの?」
八幡「………………」
大人になった自分。――――そんな自分の姿を、どうやっても想像できない。
いや正確には――――社会と密接に関わる自分を、誰かと並んで歩く自分を想像できないだけ。
感情がなければ共感は生まれない。共感がなければ共生はなし得ない。共生ができないという前提を抱えた生き物に、家族や生涯の友は作れない。だから……比企谷八幡の未来には孤独な人生以外の選択肢がない。
そしてそんな絶望に何一つ動じない相変わらずな自分に嫌気が差す。けれどそのことを他人に教えて、無駄に同情させて騒がせてはいけないという常識くらいは持ち合わせていた。
八幡「さあな。分からん」
小町「またそんな風に煙に巻いて。まぁお兄ちゃんは小町と違って頭いいからちゃんと考えてるだろうけど。じゃ、小町はお昼ご飯作ったら自分の部屋で受験勉強してくるから」
おむらいすー、おむらいすーと歌いながら、小町は無駄のない動きで料理を作る。いつもみたいに卵が半熟の絶品オムライスを作ってくれるのだろう。家族から見ても可愛らしい顔つきに低い身長、妹キャラなのに甲斐甲斐しく、家事万能で細やかな気配りもできる。なんだこの完璧な生き物は。俺の妹がこんなにハイスペックなのはもったいなさ過ぎるだろ。
その上小町は頭もよく、俺には一歩及ばないがいい成績を取っている。その気になれば総武高だって受験できるだろう。
――――もっとも小町は総武高ではなく普通の公立高校に受験するのだが。
始めは総武高に行くと言っていたけれど、それを曲げた理由は興味がないので聞いていない。まあ簡単な理由で曲げたとは思えないし、小町も小町でしっかりしてるから俺が心配する必要はない。
とはいえ小町は自分の受験があるというのに、文句一つこぼさず家事をこなしている。
むしろ小町の方が遊んでないんじゃないかということで心配になり、遠回しに小町の受験の調子を訊いてみることにした。
八幡「つーか小町は息抜きとかしないのか?」
小町「お兄ちゃんのご飯を作ることが息抜きになってるし、小町の受験する高校は難しいところじゃないから、そこまで躍起にならなくてもいいの」
八幡「ふーん」
さて、今見てるアニメが終わったら撮り溜めしてるアニメがなくなる。休みを堪能すると決めているとはいえ午後の予定はない。――――さてどうするか。行く場所が思いつかなければいっそのこと小町の勉強を手伝うのもありだ。
予定を考えながらオムライスを味わっていた時、携帯が振動し出した。それは平塚先生からの電話だった。
食事を中断し、リビングを出て小町に電話を聞かれないようにしてから俺は電話に出た。
静「比企谷。明日は、暇か?」
…………しばらくぶりに平塚先生の声を聞いた。
八幡「もしもし。久しぶりですね。平塚先生」
静「そうだな。…………あのことがあってから比企谷と話をする機会がなかったな」
八幡「前に話をしたのはいつでしたっけ」
静「七月に入る前だったから、実質一ヶ月話していないことになるな」
そうか。俺が奉仕部に行かなくなってから、もう一ヶ月近く経っていたのか――――――――
――――――――陽乃さんから二度と雪ノ下に関わらないよう言われた、その翌々日。
平塚先生が俺に会いに来た。
静『おい比企谷、どうして部室に来ない?』
訊かれたのはそのことだけ。どうやら平塚先生は雪ノ下や陽乃さんから俺が何をしたのか聞いていないようだ。
雪ノ下が平塚先生に何も話していないことを意外に思った。陽乃さんはほら、ろくな会話ができなくなっててもおかしくないし……。
とはいえ平塚先生が俺に直接話しかけてくることは予想していた。だから俺は用意していた言葉を応えるだけである。
八幡『なんというか――、やる気が出なくてですね……』
静『やる気が出ないのはお前の問題だ。それを改善するのが奉仕部におけるお前の活動目標じゃないのか』
そっちが勝手に決めた目標なのによくいけしゃあしゃあと言えるものだ。そんな目標一度だって達成しようと考えたことはない。
最初からずっと『この目的』のために行動していた。俺は平塚先生に決別を告げた。
八幡『あの、俺、奉仕部辞めてもいいでしょうか』
今までは雪ノ下を変わり身に使うことで、自分が目立つことなく依頼を達成できていた。雪ノ下との会話も楽しめていたし、少なくとも奉仕部を“今すぐに辞めなくていいと思っていた”。
けれど陽乃さんとの『雪ノ下に二度と会わない』という約束によって、俺が奉仕部に居続けられる要因が壊れてしまったのだ。
だから奉仕部を“今すぐ辞めなければならなくなった”。
静『……………………どういうことだ?』
平塚先生は目を細め、剣呑な雰囲気で俺を咎める。
俺は平塚先生の顔を真っ直ぐ見つめ返す。この言葉が冗談でないことを、撤回するつもりがないことを示すために。
静『なぜ奉仕部を辞めようとする?』
八幡『これから受験勉強が本格化するので――――』
静『御託はいい。正直に答えろ』
八幡『いや、あの…………、もうすぐ夏休みですよね…………?』
静『それがどうした。今は奉仕部の話をしている。勉強の話は関係ないだろう』
……駄目だこの人体育会系すぎる。文科系の俺と話が合わねえ!!
静『それで、お前の本心は何だ?』
八幡『いくらやる気を出しても、結果を出せなきゃ意味ないじゃないですか。むしろ今の俺って活動の邪魔ですよね? やる気も出ないし結果も出せないし、他にやることもある以上さっさと辞めるべきだと思いました』
静『私も雪ノ下もお前が依頼解決の邪魔になると承知しているさ。今後お前が役に立つ時が来るかどうか分からないんだ。というか比企谷、お前は自分が邪魔になっていることにも大して後ろめたさを感じないだろう?』
八幡『それは………………』
陽乃さんよりマシとは言え、平塚先生も手強い。考え方が違うことに加え、俺の内面をよく知っているから。
平塚先生にいつもの誤魔化しは絶対通じない。かといってこのままだと俺は雪ノ下と再び会うことを避けられない。雪ノ下と会うことに抵抗はない。だけどもし陽乃さんが約束を破ったことを知ってしまったら、その時何を起きるか想像できない。
なので俺の方から雪ノ下の話題を振ることにした。
第七章開始
この最終章を投下するに当たって、小説について勉強をし直していたため投下が遅れました
特に大沢在昌さんの「売れる作家の全技術」を大変参考にさせていただきました
あとコミケ帰りに立川シネマの爆音マッドマックスを見てきました。キメすぎて逆に記憶が薄れてるぐらい凄かったです
明日投下します
週一くらいまで投下スピードを上げたいです……
いつも文章を投下する前、最低一日は時間を置いて、そこから見返し推敲してから投下するようにしています
でも風邪で茹だった頭で訂正した文を投下したくないので、体調が万全になってから投下することにします
八幡『あと――――雪ノ下と顔を合わせづらいのもあって』
静『雪ノ下と何かあったのか? いやそれとも陽乃にもう雪ノ下と関わるなとでも言われたか?』
八幡『……………………』
静『おい。何とか言え』
八幡『陽乃さんの方です』
図星を指された動揺で、つい口を滑らせてしまう。
というか平塚先生相手に隠し事をするのはいい加減面倒だったので――ありのまま陽乃さんとのことを白状することにした。
その話を聞く平塚先生の顔は最初と打って変わって、呆れ切った表情になった。
静『陽乃がそこまで怒ったのは――二人にとって母親がそれだけ苦手意識のある存在だからだ』
八幡『やっぱりそうなんですか』
静『分かっていてやったのか?』
八幡『知りませんでした。でも知っていようとそのことは利用したと思います。じゃないとこっちの心が折れてたかもしれないので』
静『そうか…………。どちらにせよ、陽乃ですらお前の性根を改善できないのなら、私たちにお前を変えることは無理なのかもしれないな』
言われて俺も平塚先生の言葉に納得していた。知っている者からすれば、それだけ雪ノ下陽乃の存在は別格なのだ。
なら陽乃さんすら恐れる雪ノ下家の母親はどんななんだよ。ニセコイの桐崎ママかバラライカさんみたいな母親か? 想像するだけで怖いな……。
静『お前の好きにしろ』
八幡『え? 辞めていいんですか?』
静『こうなった以上仕方がないだろう。私としてはやはり続けて欲しいんだがな。どうするんだ?』
八幡『――――――――。やっぱり何回考えても、辞めるという決意は変わりませんでした』
平塚先生にお礼を言って、俺は奉仕部を去った。
雪ノ下と顔を合わせずに済んでよかった。
静「明後日から三日間、予定は空いてるか?」
八幡「空いてますよ」
静「なら、小学校の林間学校のサポートに参加して欲しい」
八幡「……泊まり込みじゃないですよね?」
静「二泊三日だ」
平塚先生から頼み事をされたが、三日間という期間を聞いて躊躇う気持ちが生まれる。泊まり込みということは気軽に本屋やコンビニに行けなかったり、寝っ転がって携帯をいじることができなくなるということ。それは少し辛い。
静「だから着替えなどが必要」
八幡「もしかして――――奉仕部の活動ですか?」
もしそうなら俺はこの頼み事を断るつもりだ。俺に頼み事を持ってくる時点で奉仕部か陽乃さんのどちらかが絡んでいるとしか思えない。
平塚先生は少しだけ考えるように黙り込んだ後、答える。
静「ああ。だが比企谷…………お前はこの頼みを断れない」
八幡「は? なんでですか?」
成績でも盾にするのかと思っていたら、平塚先生は予想だにしない話を持ちだしてきた。
静「勝負に負けた方が相手の言うことをなんでも聞くという約束。必ずこのボランティアに参加しろと雪ノ下からの命令だ。比企谷」
…………そういえばあったなそんな約束。雪ノ下と関わりがなくなったから、使われることはないと思っていた。
八幡「………………それ、本当に雪ノ下が言ったんですか?」
静「ああ」
八幡「そうですか。なら――――参加します」
静「私が言うのもなんだが、それでいいのか? 陽乃との約束を破ることになるんだぞ」
八幡「まあ、会ったところで話をしなければいいだけですし」
静「話をせずに問題が解決すると、本気で思っているのか?」
そう平塚先生に訊かれ、俺は考え込んで、…………対処法が浮かんでしまう。
八幡「それはそうですけど、雪ノ下が何をするか分からない以上俺のスタンスを変えたって意味ないじゃないですか」
静「そうか……。お前らしいと言えばお前らしい。雪ノ下と比企谷の最後の勝負、どういう結果になるのか非常に楽しみだな」
最後に集合場所と日時を聞いて、平塚先生の電話は終わる。勝負を楽しむ、か――――――勝負なんて成立すると思えないのに。
平塚先生との電話中に思いついた対処法。それは陽乃さんにメールを送り、確認を取っておくというものだ。
『雪ノ下から明後日にある、小学生の林間学校のサポートボランティアに参加するよう言われました』
要するにチクリである。
……自分でも意地汚いやり方だと思うが、面倒が回避できるので、やはり躊躇なく俺はその方法を実行する。
結局陽乃さんからの返信はなかったが、メールはちゃんと届いているので多分メールは見られたはず。
約束を破るのがいけないことなら、約束を破らないよう努力すればいい。約束と人としてのあり方、どちらが上なのか俺はあえて考えないようにする。雪ノ下のことを頭の隅に追いやり、俺は悩みのない楽しい夏休みの日々に戻るのだった。
集合当日、平塚先生の車に海老名さんと戸塚と一緒に乗ってキャンプ場に向かった。
車の中ではドラマ版デスノートの話しかしなかった。なお、半分は海老名さんのBL談義である。二重人格や女優だってことすら歯牙にかけない海老名さんマジ恐ろしいです。
キャンプ場に着いて車を降りると、平塚先生から声をかけられる。
静「あんな風にちゃんとした友達付き合いもできたんだな」
八幡「そりゃあできますよ。ただ続けるには努力が必要ですけどね」
静「苦手だができるにはできると。あの二人との付き合いは続けるつもりなのか?」
八幡「一応は。話も合いますし、必要以上に踏み込んできたりしませんし、何より俺の価値観を否定してこないので」
静「自分を肯定する相手とだけ付き合うのは危険だぞ」
八幡「平塚先生」
説教じみた話に嫌気が指す。平塚先生は俺の価値観を否定してくるので、話を続ける気にならない。
八幡「誰一人として友達付き合いできなくて、友達が選べないよりマシですよ。友達が作れるならそれでいいじゃないですか」
平塚先生をよけて先に行った戸塚たちの元へ行こうとする。けれど後ろから反論を言われる。
静「だが比企谷。お前は友達以外との人間関係を自分から壊そうとしている。仲良くできないと初めから決めつけて、お互い深く傷つく前に遠ざける。そんな寂しいあり方…………人として、教師として、認めるわけにはいかないんだ」
八幡「……………………」
静「お前はまだ子供なんだ。人間関係で間違えても、これから先やり直す機会なんていくらでもあるんだ。だから――――最初から諦めるのはやめてくれ」
八幡「…………分かりました」
平塚先生の懇願に、俺は誤魔化しを返すしかなかった。
自分のパーソナリティが無感動である時点で、そもそもまともな人間関係が作れるとは思わない。きっとこの先いくら言われても、この考えだけは揺らぐ気がしない。
何を言われても何も感じない、だから自分を改善しようなんて意思が芽生えようがない。もう――――何もかも手遅れだ。
サポートボランティアには俺と戸塚と海老名さんの他に、葉山、三浦、戸部、由比ヶ浜が参加していた。
雪ノ下雪乃の姿はどこにもなかった。
そのことに対し俺は――――――――何も感じない。
ここまで
感情のないキャラの一人称だと、どうしても読者の共感を得られないですね
考えに考えた結果、今後はキャラのブレより読者の共感を優先させることにし、「無感動」などの表現を封印することにします
今更な話ですけど、こういうアドバイスを取り入れたくて私はss速報で投下しています
文句を言うなら次投下した文章を見比べてからにしてください
まあ1スレ目の序盤で八幡怒ってるとこを突っ込まなかった俺らが悪いんすわ
向上心もなく自分の否定意見はすべて却下
自分は有能であるが本気を出さない、もしくは本気を出せば自分を取り巻く環境などいくらでも変えられる
ようやくここまで読み終えたけど、ただの世間知らずのワガママじゃね
これでみんなが「本気で怯えてると思った?」みたいなオチならなるほどなーってなるけど
ただ読んでたら「こいつに関わるのやめとこ」みたいに距離置かれたみたいになってる
改善点を述べるとすれば、「感情がない」って表現を「感情の起伏が緩やか」に変えるとか
普通に頭の回るキャラが「まだ反論できる余地のある段階で追い詰められる」のをやめるとかかなあ
まず小学生たちが集まっている前で顔見せをさせられる。本当にただの顔見せだけで、名前も言うことはなくボランティアの高校生たちとだけ説明される。
体育座りの小学生たちと向かい合って立っている中、すぐ右隣にいる戸塚から小声で話しかけられる。
彩加「ねぇ八幡。僕たち何をすればいいの?」
八幡「要するに小学生の保護者だよ。林間学校で色んな『はじめて』を体験するから、覚えていた方がいいことを教えたり、やってはいけないことをしないよう注意すればいいんだ」
彩加「うん。でもあんまり、小学生にちゃんと教えられる自信ないなぁ」
八幡「そんなの普通だと思うぞ。高校生と小学生じゃ頭の作りが全然違うんだから」
小学生の先生のやり方を尋ねられ、俺は戸塚向けのやり方を即興で考え、同じく小声で説明する。
……左隣にいる海老名さんからの視線が強くなった気がした。でも話に入ってくるつもりはなさそうなので、放置しておく。
八幡「今回小学生に向けてものを教えるなら、やり方は見本を見せるか、一緒にやるかの二つだけ。本来なら他に自分で考えさせるなんてやり方があるんだが、料理で包丁や火を扱ったり山に入ったりする林間学校じゃ危険が多すぎるからな」
彩加「うん。子どもたちにケガさせるのはダメだよね」
八幡「多分戸塚は見本見せるより一緒にやる方が性に合ってるだろ?」
彩加「うーん、ごめん、よく分かんない」
戸塚はテニス部の部長をやっているが、それは二年に一人しかいなくて仕方なくやっていることだ。こうやって俺に度々質問してきているし、戸塚は周りを引っ張るタイプと思えない。
というか戸塚は綺麗な顔立ちしてるから、それを利用して相手と仲良くなる感じで攻めた方がいいと思う。
八幡「まあ、どっちのやり方が向いているとかあんまり関係ないんだけどな。やっぱり重要なのは小学生たちにとってどっちのやり方の方が理解しやすいのかってことなんだ。だから二つのやり方を頭に入れておいて、自分のやり方で分かりにくそうにしている子がいたらもう片方のやり方で教えるようにする。そうすればほとんどの相手に対応できる」
彩加「要するに二つの教え方を駆使すればいいんだね。なんだか難しそう……。どっちが理解しやすいとか僕に分かるかな……」
八幡「いやいや二つのやり方駆使するとか、そんな難しいことしなくていいから。あくまで最初は自分がやりやすい方法でやって、分かりにくそうにしてるやつがいたらそいつにだけもう一つの教え方をする。二つの教え方を使いこなすんじゃなくって、メインの教え方とサブの教え方の二つを用意しろってことだ」
彩加「あ、なるほど。基本は一緒にやりながら教えて、ダメそうなら手本を見せればいいってことなんだね」
八幡「そういうことだ」
あとは次善策を用意することで余裕が生まれること、方針を作ることで迷いを無くすことを狙っている。この辺りのことは説明しなくていいだろう。
もし、手本を見せるのも一緒にやるのも通じない捻くれたやつが出てきたら、そんな面倒なやつの相手なんかしなくていい。細かい注意を付け足して戸塚への説明を終える。
もっともそんな捻くれた小学生にそうそう出くわすとは思えないがな。
先生の話が終わり、小学生たちがオリエンテーリングのためにこの場から出ていくと、平塚先生からオリエンテーリングの到着地点に先回りして小学生の昼飯作りの準備をするよう言い渡される。
最後に一つ言うべきことを思い出し、それを伝えるため俺は歩き出そうとした戸塚を呼び止めた。
八幡「あっ。戸塚、あと一つだけ注意を言っておく」
――もしかしたら戸塚にこの注意は必要ないのかもしれない。けれど俺はそれを言わずにはいられなかった。
八幡「もし小学生たちが喧嘩していても……、それがいけないことだと思うな。喧嘩を止めようとするのはいいが、何があっても喧嘩をしている小学生たちを悪い子どもだと決めつけるな。小学生たちが喧嘩をしているのを見ても、どうして喧嘩が起きたのか、まず理由を聞くようにしてくれ」
戸塚「それって――――。うん、分かった。それも気を付けなきゃね」
今度は説明なしに、戸塚は俺の言いたいことを理解した。
戸塚との会話はそれでおしまい。ついに、海老名さんが俺たちに話しかけてきた。
姫菜「以心伝心な二人を見てると、滾ってくるよ」
八幡「滾るな。滾ってもそれを口に出すな」
姫菜「相変わらず戸塚くんには優しいよね、比企谷くん。…………フフフ、妄想がはかどる!」
こもった笑い声を出しながら、海老名さんは腐った妄想を大声でまき散らす。俺と戸塚は辟易し、前を歩く葉山たちは若干早足になった気がする。
こういう時海老名さんを止める役目は戸塚ではなく俺。いつも通り真面目な話を振って、海老名さんを黙らせる。
八幡「つうか、海老名さんも俺が最後に言ったことの意味を理解できてるんだな」
姫菜「………………まあ、ね」
あるいはこの話をするために、海老名さんは大きな声で妄想を振りまいていたのかもしれない。
喧嘩は必ず傷つく人を生む、だから悪いことだ――このことは真理なのかもしれない。
けれどその悪しきものを、喧嘩を無くそうとするとどんなことが起こるのか? 答えは――――少数派の人間たちの意思が無視されるようになるのだ。
喧嘩とはつまり意見の対立。一方的な暴力や嫌がらせは喧嘩とは言わない。喧嘩を無くすということは対立を無くすこと。対立を無くしてしまえば――多数派の意見を強制的に肯定するしかなくなるのだ。
その結果、少数派は割を食うことになってしまう。そう、この少数派の子たちがいじめられっ子だ。喧嘩はいけないことだと言われ、皆と仲良くしろと諭され、自らの意思を殺されてきた弱き者たち。
俺が戸塚に言ったことの意味とは、少数派の意思を押さえつけるな、ただそれだけ。……でも、世の中には少数派に立ったことがなく相手の意思を押し殺すことが当たり前だと思っている人間が大勢いる。そいつらは絶対に、俺の言ったことを理解できない。
そして…………海老名さんも戸塚もこれらのことを理解できた。つまり海老名さんも戸塚も――俺と同じように――自分の意思を押さえつけられたことがあるということだ。
八幡「一応“知っている”者として、“そういうこと”は気をつけるようにしないとな」
姫菜「……そうだね。なら、他の皆にも気をつけさせなくていいの? 説明すればいいじゃない」
前を歩く葉山や由比ヶ浜を見る。この二人はきっと、第一声に「こらこら。喧嘩はいけないことだよ」と言ってしまうだろう。
八幡「あいにく、俺はそこまで優しくねえよ」
葉山たちに“このこと”を説明したとしてて、理解させることはできるかもしれない。
でもそれには多分とてつもない苦労があるように思えて――、そんな面倒を負ってまで彼らと彼らの教えを受ける小学生たちを助ける気にどうしてもなれなかった。
ここまで
はっきり言って、自信ない
到着地点に向かう道中、グループ内でハブりをしている女子小学生たちと鉢合わせたりしたが、その子たちは葉山が対処したので俺は何もしなくて済んだ。もちろん、葉山はハブりを解消できていないどころか、気付いてすらいなかったがな。
俺にとって問題なのは、その後――由比ヶ浜が俺に相談をしてきたことだ。
結衣「ねぇ、仲間はずれになってる子がいるんだけど、どうしたらいいと思う?」
八幡「…………自分で言うのもなんだが、なんで俺に聞くんだ? 葉山とか三浦とかに聞かなくていいのか?」
結衣「そうかな? 彩ちゃんが前、人間関係のこじれた問題は比企谷くんに聞くと対処法を分かりやすく教えてくれるって言ってたけど」
八幡「あー」
結衣「それにその――鶴見留美ちゃんって子、葉山くんやあたしが話しかけたてもどうしてか避けられちゃうの。でも比企谷くんなら、留美ちゃんとお話しできるかなって思って」
由比ヶ浜は俺に苦手意識を持ってたはずなんだが。あれから時間が経ってるし、薄れたのかもな。
腕を引っぱられてその鶴見留美のいるところに連れていかれる。そこにいたのは、ここに来る道中でグループからハブられていた少女だった。
留美「……今度はなに?」
結衣「えーっと、あはは」
何か話してと由比ヶ浜に腕を小突かれたが、俺は目の前の小学生の態度を見て、認識を改めていた。
高校生が話しかけてきたのに迷惑そうな顔、鶴見が元いたこの場所は人の目から離れた繁み、そして年上に対しこの口調である。この少女はいじめられて仲間外れにされているのではなく、自分から他人を遠ざけて友達がいないだけ。
この少女は哀れな被害者じゃない。どこにでもいる、友達付き合いを間違えているだけのぼっちなのだ。
今すぐどうこうする必要がないのに、由比ヶ浜からの期待があるので何かしら対処をする必要があるという。板挟みな状況にやる気を無くす。
とりあえず由比ヶ浜の望みである事態の改善より、この少女の望みである事態の放置を優先させることにした。そっちの方が楽だし、いたいけな小学生に悪影響を与えたいとは思わなかったから。
何の話もせずに去っては由比ヶ浜の顔が立たないので、意味のない話題を振る。
八幡「なあ、どんなお菓子が好きだ?」
留美「はぁ?」
八幡「チョコレートでも、アイスでも、ケーキでも、シュークリームでも、なんでもいい。どんなお菓子が好きなんだ?」
留美「…………ショートケーキ」
八幡「そうか」
そうして二、三無意味な問答をしてから、ありがとう。じゃあな。と少女の元から去る。
当たり前だが、少女はずっと不思議そうな顔をしていた。
少女の元から離れて、由比ヶ浜は訳が分からないといった顔で俺に問いかけてくる。
結衣「比企谷くん、あの質問になんか意味があったの?」
八幡「いいや。なにも」
結衣「……あはは。もしかして、あたしをからかってる?」
八幡「どうなんだろうな」
からかっているだけで済めばどれだけ幸せなことやら。誤魔化しも何も言わない俺に、由比ヶ浜は怒りの感情を向けてくる。
結衣「なんで? なんで何もしないの? 何も言ってあげなかったの? 比企谷くんは、鶴見ちゃんを助けたいって思わないの……!?」
八幡「助けたいって思ってるのは、由比ヶ浜だけだろ」
結衣「――――どういう意味?」
八幡「由比ヶ浜は、鶴見をハブってた連中と仲直りできたらいいとか思ってるんじゃないのか? あいにくだが鶴見はそんなことを望んじゃいない。俺の見立てじゃ、鶴見は自分をハブった連中だけじゃなく自分を見捨てた周囲の人間にまで怒りを抱いている。だからいかにも『みんな仲良く楽しもう』ってオーラを振り撒くお前らを拒絶してるんだよ」
結衣「……そんなことない。みんなと仲良くしたいと思うのは当たり前のことだよ!」
あくまで自分の意見を曲げようとしない由比ヶ浜。
自分にとっての当たり前が他人の当たり前でもある。その押し付けが時に人を苦しめ、悩ませると由比ヶ浜は考えすらしない。
八幡「本人がそう思ってるとは限らないだろ」
結衣「そう思うに決まってんじゃん!! たとえいじめられてても、心のどこかでその子と仲良くなりたい、仲直りしたいって思ってるんだよ!!」
ああ、そうか――――。由比ヶ浜は“そう”考えるんだな。
由比ヶ浜は、たとえ自分がいじめられたとしても相手が悪いとは考えない。…………愚かしくも、とっても優しい奴なんだな。
だったらやっぱり………………俺と由比ヶ浜は分かり合うべきじゃない。これ以上一緒にいて、由比ヶ浜に俺の酷い考えを植えつけたくない。
俺の影響を受けて由比ヶ浜が少数派を擁護するようになり、多数派を蔑ろにするようになれば、“みんな”に迷惑をかけることになる。それは由比ヶ浜の思いと反することだろう?
八幡「そんなことを考えてるように見えないから、鶴見はハブられてるんじゃないか?」
結衣「留美ちゃんのせいにするの?」
わざと鶴見が悪いようなことを言って、由比ヶ浜の敵意を煽る。義憤に満ちた由比ヶ浜の問い掛けに、俺は何も返さない。
黙っている俺を見て、由比ヶ浜は俺のことをどう思っただろうか。
俺が酷いやつだと思ったのなら、それは間違いじゃない。でも鶴見の敵だと思ったのだとしたら――大きな勘違いだ。もっとも間違いだろうと勘違いだろうと、訂正する気はないのだが。
結衣「――――やっぱ、比企谷くんに相談したあたしが間違ってた」
由比ヶ浜は親の仇を見るような鋭い目で俺のことを睨んで、そしてみんながいるところに帰っていった。
一人になって肩の荷が下りた俺は、鶴見のいる方を見る。そこでようやく、俺は鶴見の心配をした。
八幡「どうなんだろうな、鶴見。お前も由比ヶ浜みたく、相手がいじめっ子でも仲良くしてあげきゃいけないって思うのか?」
――かつて比企谷八幡もいじめられっ子だった。過去の俺は、いじめてくる人間に対し仲良くしようなどとこれっぽっちも思うこともなく、ただひたすら恨みしか覚えていなかった。
――相手の幼稚な感情のせいで、自分が理不尽な目に遭っている。そんな見え方が当時の比企谷八幡の当たり前だった。
いじめっ子といじめられっ子が仲良くできるはずがない。一刻も早く決別、隔離させることがいじめられっ子のためになる。今も昔もそう思っていた。――けれど由比ヶ浜の優しさを見せられて、自分の考えが揺らいでしまった。
八幡「まあ、だとしてもやることは変わらないんだけどな」
どれだけ考えようと、誰も傷つかないような優しいやり方を思いつきはしないのだ。
夕方を過ぎた頃、ミーティングで由比ヶ浜と葉山が鶴見のことを話題にする段階になっても、俺は特定の誰かを見捨てるアイデアしか思いつかなかった。
分かっていたことだ。だから俺はミーティング中一切発言せず、他のやつらのアイデアに耳を傾けていた。三浦や男子が出したアイデアはリア充特有の論理にもとっていたが、それが正しいものなのか俺には分からない。
…………だがそんな中、とんでもなく浅はかなアイデアを出すやつがいた。
隼人「やっぱり、みんなで仲良くできる方法を考えないと、解決にならないか……」
ぎろり、と反射的にその意見の発言者を睨んでいた。とはいえすぐに冷静に戻り、見開いた目は元に戻った。
まず戸塚と海老名さんを見る。どちらも何かを言いたげな表情で、少なくとも葉山の意見に賛成するような表情ではない。
続いて三浦と男子。二人とも、さすが隼人みたいなこと言ってテンションを上げている。
――問題の由比ヶ浜。彼女は少し考えてから、口を開く。
結衣「そうだよね……。“留美ちゃんとみんな”を仲直りさせないと駄目だよね……」
隼人「だな。それじゃあこれからみんなを仲直り、でいいのか? その方法を考えていこう」
よかった、と心から思った。由比ヶ浜は葉山と違って鶴見の味方になって考えることができていた。
流れは変わり、鶴見とそれ以外の女子たちとどうやって仲良くさせるかという方向に話は移っていく。そして当然出てくる、『どうして他の子たちは鶴見を仲間外れにしているのか』という疑問。この疑問が出たということはつまり、事態は最もいい方向に向かっていること。今後、俺が動くことはないだろう。
みんなを仲良くさせる方法を考えるのではなく、どうして仲良くできないのかを考える。これこそがいじめの解決において話し合われるべき議題。それを間違えていなければどんな対処をしようと事態が悪くならない。
それにしても、あのバカそうな由比ヶ浜が葉山を操作する日が来ようとはな。
ここまで
静「それで方針は、なぜグループの子たちが鶴見留美を無視するのか理由を探る、ということでいいのか?」
話し合って出た結論を平塚先生がまとめる。
ここで『新しい友達を見つける』まで出てくれば完璧なんだが、さすがにそれは望みすぎだろう。というか数日の付き合いの小学生たちにそこまで踏み込むのは無理がある。小学生を尋問するってだけでためらってるやつが何人かいるのに。
問い質すメンバーは同じ女子である由比ヶ浜、海老名さん、三浦。
はてさて、ちゃんと聞き出せるのか。
静「今日はもう予定はない。各自自由に行動するといい」
優美子「じゃ、結衣、姫菜。打ち合わせすっから集まるし」
三浦の一言で女子と男子が分かれることになったので、男子たちは先に今日寝るところに戻る。
道中、戸塚が話しかけてくる。
彩加「ねぇ八幡。僕たちにできることってないのかな……?」
八幡「ないだろ」
彩加「でも、何もできないっていうのは釈然としないよ」
八幡「あのなあ、所詮俺たちは三日間の付き合いなんだぞ。それだけの関わりしか持てない奴がいじめを止めようだなんて、傲慢もいいところだ。戸塚は突然現れた大学生とか大人に、自分の問題を解決してほしいと思うか?」
彩加「うん……。思わない」
戸塚は辛そうに頷く。
――――戸塚の見た目なら女子に混ざっても大丈夫だとか、言ってはいけない。
彩加「でも僕は……八幡みたいに簡単に気持ちの整理ができないかな」
八幡「――まあ、仲間外れをしている子たちもやりたくてそうしてるわけじゃない。ちょっと気が合わないから、たまたま仲が悪い子どうしでグループになったから、とかそんな風に考えとけ。その方が気が楽だろ」
彩加「そう、だね」
戸塚は納得していなかったが、俺からすればこの成り行きは当然のものだと思っている。というか俺たち男子が女子の問題を解決するとか普通ありえないだろ。
その後戸塚とも別れ、一人でキャンプ場を散歩する。すると――運の悪いことに件の少女を見つけてしまった。
留美「あっ」
向こうも俺を見つけ声を上げる。俺たちがいるここは小学生たちの宿舎とも俺ら高校生の宿舎とも離れたところにある広間。少女はそこの椅子の一つにぽつりと座っている。
一瞬だけ目を合わせる。そのまま反応せずにここから立ち去ろうとしたが、少女は椅子から立ち上がって俺に話しかけてきた。
留美「ねぇ、あんた」
八幡「………………なんだ?」
留美「昼間、なんで私にあんなこと聞いてきたの?」
八幡「…………じゃあお前、あの時あの女のいる前で、どうして一人でいるのとか聞かれたかったのか?」
留美「それ、は……」
八幡「いかにも一人になりたいですって雰囲気だったからな。だから俺はお前の意を汲んで放っておいた。あの質問には意味なんてないぞ」
で、今ここには俺と鶴見しかいないので、どうして鶴見が一人になっているのか聞いてもいいわけだが。もちろん鶴見の事情なんか興味はないし鶴見を助けたいと思ってないから、そのことを聞く気はない。
鶴見本人が今の状況から救われたいと思っているか。鶴見が俺に助けを求めるか。いつもと同じく俺の行動を決定するのは、その人の意思である。
留美「ねぇ。名前」
八幡「ん?」
留美「あなたの名前、聞いてんの」
八幡「ああ。比企谷だ」
留美「……下の名前は?」
八幡「教える必要ないだろ。比企谷さんでも先生でも、好きに呼べばいい」
留美「じゃあ比企谷って呼ぶことにする。比企谷って、すっごく変わってるよね」
八幡「自覚してるよ」
とはいえコイツも充分、変わってる部類だよなあ。
年上にこの態度だし、常に一人でいようとする。俺から見てこれなのだから、同じ年齢の女子からすればとんでもなく生意気なガキに見えるだろう。いじめられて当然と言える。
本来由比ヶ浜たちの願い通り、今後鶴見がいじめられないようにしたいなら、鶴見の性格を改善して――言い方を悪くすれば捻じ曲げて――しまえばいい。
今ここでいじめや人の心についてあることないこと吹き込んだり、後日リア充たちを使って説得力を高めたり、トラウマを植えつけるようなことをしたり…………まあ、そんなことをするつもりはないのだが。
現状いじめっ子たちに注意がいくことになっているので、少なくとも数日くらいは鶴見に対する嫌がらせは収まる手筈になっている。
小学生に心の傷を負わせることなくできる手立ては、これで充分なはずだ。
留美「ねぇ比企谷……なんであの子たちは、私にああいうことをしてくるのかな」
八幡「ああいうこと、っていうのは仲間外れとか陰口のことか?」
留美「うん。そういう嫌がらせをして楽しいって気持ちは、まあ分からなくもないけど、でもそういうことがいけないことだってあの子たちも知ってるはずなのに。どうして、そういうことしちゃうんだろう」
まだ心というものを理解し切れていない、小学生の素朴な疑問。たぶん鶴見はおぼろげながら答えを理解していて、それでも疑問を口にしているんだと思う。
どうしても見えてしまう人間の不完全さを否定して欲しくて。自分の知らない答えを教えてもらいたくて。だから初対面の変人なんかにそのことを聞いている。
――――俺は鶴見の疑問に、自分の知っている全てを話す。
聞かれたから答えた、ただそれだけ。この問答によってどんな影響が出るかなんて、一瞬たりとも考えなかった。
八幡「――お前に嫌がらせをしても、誰も悲しまないからじゃないか?」
留美「え…………?」
八幡「グループ行事で嫌がらせしてくる相手と組むくらいだ。ろくに友達いないだろ、お前。たとえみんながお前のことを心配してたとしても、それを行動に移せないのは誰もお前と親しい間柄じゃないからだ。友達じゃないから、他人だから、誰もお前のことを助けられない」
留美「助けたくても、できない……」
八幡「あとお前、自分がいじめられてるってことを親や先生に相談したか?」
留美「したけど、意味なかった。先生が一回注意したけど一週間くらいしたらまた再開したし、お母さんは嫌がらせしてこない子と仲良くすればいいとか言って、全然話聞いてくれなかった」
八幡「周りの大人の無能さやめぐり合わせの悪さは置いといて、そんな風にお前をいじめて損がないから、お前が狙われやすいんだと思う」
留美「そう。…………とりあえずお前言い過ぎ。お前じゃなく、鶴見って呼んで」
鶴見がこの話を終わらせようとする。まだ幼い小学生だ、難しい話に頭がパンクしてもなんらおかしくない。もしくはこれらの話を理解できていて、これ以上聞きたくないから耳を塞ごうとしているのかもしれない。
俺からすれば鶴見の耐性など知ったことではないので、構わず話を続けた。
八幡「とまあ一例を語ったわけだが、鶴見が嫌がらせを受ける理由は他にも思いつく」
留美「え?」
鶴見の普段の態度が連中を不快にさせている。鶴見が過去にとったとりとめのない言動が連中の恨みを買っている。教師を含む第三者が鶴見がいじめられる土壌を作っている。ただ単に鶴見をいじめるブームが教室で流行っている。もしくは運が悪かっただけ。
八幡「人が人を攻撃する理由は一つじゃない。色々あるんじゃなくて、探せば探すだけ生まれる。きっかけは鶴見か、相手か、関係のない誰かか分からない。でも時間が経つことで恨みが積もって、あんなところとそんなところとこんなところが気に入らないから――みたいにどうしても相手のことが許せなくなる」
留美「…………じゃあ、どうしたらいいの?」
八幡「成長しろ。相手の嫌なところを許せるように、相手が嫌がるところを直せるようになればいい。というかそれ以外ないだろ小学生」
留美「あ。そういえば私小学生だった」
八幡「おい」
冗談を言えるくらいには俺の話が分かっているようだ。けれど成長することの大変さを思ってか、鶴見の表情は固くなっている。それきり鶴見は黙り込む。
成長するという困難に対して、俺から言うことはない。それは誰しも通る道なのだから。
…………もしもその道を通らなければ、たぶん俺みたいな異物になってしまうんだろう。
八幡「なあ鶴見…………。相手の嫌なところを無視できるように、相手の嫌がることでも貫けるようにはなるなよ。成功してる人間とか特別な人間は自分の思いを押し通す力が強いのかもしれない。でもどう考えたって、自分を幸せにできる人間より他人を幸せにできる人間の方が素晴らしいって思われるんだ」
留美「……………………」
八幡「だからまあ、俺はお前から“成長の機会”を奪うつもりはない。頑張れよ」
そう言って、俺は長く抱えていた問題の答えを知る。
だから俺は他人の問題を放置するのか。
ここまで
____
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/ _ノ '' ⌒\ 相手の嫌なところを無視できるように、相手の嫌がることでも貫けるようにはなるなよ
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| :::::⌒, ゝ ⌒:::| ___________
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__/ ー‐ ヽ ( ::) .| | |
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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ l二二l二二 _|_|__|_
書くの遅くてすいません
少しずつですがちゃんと書いてます
sageるべきでした
翌日は雲ひとつない晴れ。女子たちが水着で川で遊んでいるらしい。
監視役として葉山が付いていっている。隼人くんだけ皆の水着見れんの羨ましすぎっしょ~、ともう一人の男が悔しがっていた。
髪を濡らした女子たちが帰ってきた。すると葉山が一人こちらに歩く方向を変え、俺に話しかけてくる。
隼人「比企谷、留美ちゃんに何か言ったのか?」
八幡「いや別に。何かあったのか?」
隼人「留美ちゃんが川に来て、優美子たちが留美ちゃんに仲間外れにされる心当たりを聞いたんだ。そしたら留美ちゃんは『お姉ちゃんたちも、他の子じゃなくて私が成長しないといけないって思うの?』って言ったんだ」
いつも通り自分の諸行を誤魔化す。
八幡「…………ちょっと声をかけられたことはあるが、別段変な話はしてないぞ。あと由比ヶ浜と俺とその子の三人で少し会話したくらいか」
隼人「比企谷に心当たりはないんだな?」
八幡「ああ」
隼人「そうか…………悪い。疑ったりして」
葉山からの追及はそれだけだった。しかしまあ、やはりというか鶴見は、たとえ自分だけ変わっても周囲が変わらないのであればいじめは続くことに気がついているらしい。
そのせいで余計事態がややこしくなり女子たちの手に余るようになるかもしれないが、そうなった原因である俺は何かする気になれない。
次の言葉を出すのを躊躇っているのか、葉山は口の開閉を繰り返す。
八幡「どうした?」
隼人「……比企谷は、留美ちゃんが仲間外れになっている理由が分かるのか?」
八幡「さあな。さすがに女の子の考え方まで詳しく知らないから予想しかできてないが」
隼人「それでもいい。教えてくれないか」
聞くのを躊躇っている癖に、結局聞かずにはいられないなんて、つくづく人間の好奇心というものは理不尽だな。
なんてキュゥベぇの台詞をもじったが、今回は前の時みたいに残酷な真実なんて話さないから、そう緊張しなくていいのに。
八幡「鶴見の態度が攻撃的な女子たちを不快にさせている。そんなとこだろう」
隼人「それだけ……なのか?」
八幡「ほとんど三浦が言ってたのと同じだな」
今回は奉仕部の時のような配慮が要らない。なので、鶴見と仲が悪いはずのいじめっ子たちが同じグループなのはクラスぐるみでいじめが起きているから――という予想を話さなくて済んだ。
とても気楽だ。
隼人「じゃあ、仲間外れを実行してる子たちに注意するのをやってよかったのか?」
八幡「つかなんでまずそれをしないで、いじめられてる側に詰問なんてしてんだよ。なんで受けた嫌がらせを思い出させてんだよ」
隼人「それは優美子たちが、……悪い、今のは忘れてくれ」
俺に謝ってどうする。自分らしくないことを、誰にも聞かれたくないことを言ってしまったのかもしれないが、俺は気にしたりしない。
後悔しているなら反省すればいいだけだ。
隼人「――――なあ比企谷。比企谷の小学生時代はどんな感じだったんだ?」
八幡「別に、ごく普通のいじめられっ子だったぞ」
隼人「え、普通……?」
言いたいことは分かる。いじめられっ子が普通なわけないよな。これは自分が変わり者でないという印象を植えつけるための、いつもの印象操作。
過去の自分がどんな風に見られていたか推測するのは簡単だ。けれどそれは推測でしかないし、過去でしかない。葉山に話したところで無駄な心配しかされないのであれば、話す必要はない。
八幡「急になんだ?」
隼人「…………前に俺は、同級生だった小学生の女の子を助けられなかったことがあった。留美ちゃんとその女の子はよく似てて、また俺は何もできないのかと思うと――――怖いんだ。でもいくら考えてもいい方法が浮かばない。比企谷ならあの時みたいに、いい考えが浮かぶと思ったんだ」
八幡「…………いい考え、ね」
そう言われて思い返せば、葉山に教えた対処法は結果的に葉山の望む未来をもたらしていた。対処法を教えるまでの一連の会話を抜きにすれば、確かに言い考えと言えるかもしれない。
けれどいつだって俺の思考形態は悪なのだ。何か策を考えようとしても、誰かが傷つく策しか思いつかない。
だから何も話すことができない。
八幡「悪いが、何も思いつかないな」
隼人「そうか――――――」
急に葉山が固まった。ありえないものを見つけてしまったかのように顔をこわばらせ、目を大きく見開き俺の後ろを見つめる。
俺は後ろを振り向き、葉山の視線の先を追うと――――何があるのかを理解した俺は破壊的な感情を湧き起こす。
ぞっとするほど冷たい表情でこちらを見返している美女がいた。太陽を思わせるまぶしかった笑顔は見る影もない。
雪ノ下陽乃が、そこにいた。
陽乃「久しぶりだね八幡くん。それに隼人も」
隼人「あっ、お久しぶりです。陽乃さんは、どうしてここに?」
陽乃「私は付き添いだよ」
かつての笑顔や聞く者を魅了する声音がなくなり、目の前の陽乃さんはもはや別人。いきなり表れてはこちらを振り回し、プレッシャーと共に干渉してくる陽乃さんはもういない。彼女といてこれほど安心できる時間が今まであっただろうか。
けれども一切警戒は解かない。どれだけ態度が改善したように見えても、演技の可能性を捨てられないのが雪ノ下陽乃という人間だ。
――それにしても、付き添いか。彼女は雪ノ下の邪魔を全うできなかったらしい。
八幡「こんにちわ。久しぶりですね」
陽乃「……君は相変わらずだね。まあ八幡くんが変わるなんてことありえないか」
八幡「――――――」
隼人「えっと、じゃあここには雪乃ちゃんも来てるんですか?」
陽乃「うん。来てる」
隼人「なんで遅れてたんですか?」
陽乃「……そこにいる化け物のせいだよ。本当なら私たちが来ることはなかったのにね」
隼人「人に向かって化け物なんて、駄目ですよ。陽乃さん」
陽乃「そうかな? 的確だと思うけど。それに八幡くんは否定してないし」
葉山と陽乃さんで会話が成立するようになったので、俺がここにいる意味はもうない。さっさとここから離れよう。
会話内容については、イメージアップされているわけでもないので特に気にならない。
陽乃「八幡くん」
八幡「はい?」
陽乃「私はもう、八幡くんに何かするつもりはないよ。……その気があるのは雪乃ちゃんの方」
八幡「そうですか」
陽乃「もし雪乃ちゃんが癒えない傷を負うようなことになっても、君を恨んで復讐したりしない。これはあくまで――――八幡くんと雪乃ちゃんの勝負だから」
そう言って陽乃さんは俺と葉山の元から去っていった。
葉山から何の話をしているのか、陽乃さんのあの変わりようは何なのか聞かれたが、いつも通りはぐらかしながら集合場所に戻る。
そこには高校生全員と平塚先生がいた。平塚先生は陽乃さんと、――――――そして由比ヶ浜や三浦や海老名さんは雪ノ下と話をしていた。
一瞬目が合った気がした。けれど女子たちとの会話を切り上げて、すぐこちらに向かって来るということはなかった。
お互いに何も言葉を交わすこともなく、干渉もせず、存在を感知しないで数十分ほど時間が経つ。
一人でやる準備作業をしていた俺に、向こうから話しかけてきた。
雪乃「こんにちわ。比企谷くん」
八幡「おう」
陽乃さんを使ってここに来るのを邪魔されたというのに、雪ノ下は怒っていなかった。
今までと同じ、そっけない挨拶で会話は始まる。
雪乃「最初に受けた依頼を覚えているかしら」
八幡「俺の人格を改善するってやつか?」
雪乃「ええ。私は諦めていない。必ずあなたを変えてみせる」
八幡「変わるつもりはない。お前ごときに変えられるはずがない」
気づくと俺はかすかに笑みを作っていた。雪ノ下も少し笑っていた。挑戦と挑発の意思を確認し合うと、どちらともなく視線を外し、会話を終える。
比企谷八幡と雪ノ下雪乃。孤高を求める破壊者と改革を目指す求道者。化け物と堅物。
――――決着をつける時がきた。
ここまで
次回投下も遅れると思います
明日投下します
それは彼らが高校一年生だった頃の話。『カッター刃事件』と噂された事件の顛末。
偶然、八幡はとある生徒が上級生に金を貸している場面を目撃した。
高校一年生の八幡は小中学校で虐められ続けたことがトラウマになっており、同情心からその生徒のことを助けようとした。
八幡が詳しい事情を聞くとその生徒――『彼』は、隠すべきことと隠さなくていいことの区別をせずに(あるいはその当時から八幡に人の裏事情を聞き出す能力があったのか)、八幡に全てを打ち明ける。
貸した金は一度たりとも返ってきたことがないと。
生徒だけではなく“教師”にも金を貸したことがあると。
小学校でも中学校でも、そういったことをしていたと。
金は子供好きの両親や祖父母、親戚に言えば必要以上に貰えると。
話を聞き終えた八幡は、いじめっ子よりも『彼』こそが害となる存在だと気づいた。言われるがまま金を与え、自分が置かれている立場を変えようとしない。このまま『彼』を放置すれば金を得る堕落人が増え、総武高校の治安が悪くなってしまう。
それでも八幡は『彼』を助けたいと思った。――――けれど八幡はその方法を考えるに当たって、『彼』のことを少したりとも思いやれなかったのだ。
その時初めて八幡は自分の異常さを知った。八幡は今までも――そしてこれからもずっと――誰かを思いやることができないことに。同情なんてしていなかったことに。
結局八幡が考えついた方法は、カツアゲしている人間だけではなく助けるはずの『彼』も無関係な人々も平等に傷つけるやり方だった。
『彼』はその方法の悲惨さに気づかずに、八幡のやり方を了承する。
八幡は最後まで『彼』を哀れみながらも、後悔することはなかった。
放課後八幡と『彼』は教室に誰もいなくなるのを確認し、準備した数十枚のカッターの刃を『彼』の机と椅子に突き刺していった。
数十本のカッター刃の剣山が醸す殺意と学校の備品を破壊するテロ行為。次の日になって見つかった“それ”は八幡の思惑通り、今までにない恐慌で学校を包み込んだ。
そして八幡は『彼』を連れて、学校で一番真面目で厳しい教師に全てを自供する。
生徒や教師に『彼』がカツアゲされていること、自分の指示で学校の備品を壊したこと、『彼』は倫理観が欠如しており、危機感が足りていないことを。
――――結局八幡に罰は与えられなかった。
学校の備品を壊したことを少し怒られたくらいで、その教師は『彼』のしたことを咎めるので精一杯。この件に関して八幡が咎められる機会はついぞなかった。
その後『彼』は転校。総武高校に起きた未曾有の恐慌のおかげで教師が目を光らせるようになり、生徒も他人を傷つけるような行為を抑えるようになる。その結果虐めや偏見、差別といったことが根絶された。
雪ノ下雪乃が望んでいた平穏な世界を、比企谷八幡は作り上げた。
言うまでもなくこの事件で幸せになった人間はいない。
彼は誰も救えない。彼は誰にも救えない。
一人で宿舎を抜け出して夜空を見ていた俺を、雪ノ下は見つけた。
雪乃「ねえ、その鶴見留美という子がわざと仲間外れにされているというのは本当なの?」
八幡「まあな」
雪乃「原因は誰にあると思う? やっぱり、鶴見さんの態度が悪いのかしら?」
八幡「小学生に原因を求めるな。けど鶴見がクラスの女子全員から嫌われてる状況を放置してるし、担任は悪いかもな」
雪乃「鶴見さん、クラス全員から嫌われていたの?」
八幡「じゃなきゃいじめっ子と同じグループになるはずないだろ」
雪乃「それもそうね…………」
嫌に物分かりがいいなコイツ。
そもそもなぜ雪ノ下は俺をこのキャンプに呼び出したのか。俺の人格を矯正するつもりみたいだが、やはりそんなことが可能とは思えない。
だが小学生が不当に傷つけられているという話を聞いても動じないところを見るに、今までの無策な雪ノ下とは一線を画しているように思える。
雪乃「比企谷くんは――――……」
八幡「なんだ」
雪乃「――鶴見さんを、今すぐに助けるべきだと思う?」
八幡「………………」
雪乃「そう……」
八幡「何を納得してんだ。俺は何も言ってないんだが」
雪乃「あなたが何も言わない時は、大抵裏で何かしらの手を打っているもの。だから鶴見さんの件で私が動く必要がない。違うかしら?」
どうやら俺の行動パターンを把握するだけじゃなく、それについて対抗心を抱かず冷静な判断を下せるようになっている。
俺が見ていない一ヶ月の間に、雪ノ下はとんでもない成長を遂げたようだ。
静「おや。この二人の組み合わせは珍しい。…………いや、この三人の組み合わせは懐かしいと言うべきか」
煙草を咥えた平塚先生が俺たちに話しかけてくる。
言われてみれば、この三人が集まるのは二ヶ月近くなかったことだ。
静「……比企谷は変わらんなあ」
雪乃「そうですね。まあこれから変わりますが」
静「ほお。自信たっぷりだな雪ノ下。大丈夫か比企谷?」
八幡「どうですかね。陽乃さんいるから自信ないです」
雪乃「私は恐るるに足らないと? 比企谷くんも随分と余裕そうね」
余裕っていうか、いつも通り冷静なだけなんだがな。
とりあえず高圧的な女性二人に挟まれて肩身が狭いと感じる。あと煙草が煙たい。
静「なんにせよ雪ノ下が間に合ってよかった。もし雪ノ下が来なければ私は一生後悔するところだった。……私ではどうあっても比企谷を救うことはできないからな。自分の無力を嘆くばかりだ」
雪乃「平塚先生。あなたが無力なはずがありません」
静「ありがとう雪ノ下。私に手伝えることがあれば遠慮なく言ってくれ」
雪乃「ええ。もちろん」
静「これで勝負は五分五分といったところか」
八幡「いや明らかに俺が不利ですよね」
陽乃さんに雪ノ下に平塚先生が相手とか、負ける気しかしない。
なんだこの最悪の布陣。どうしてこうなった。
雪乃「どの口がそれを言うのかしら」
静「あのまま雪ノ下が来なければ、お前の勝ちだったろうが」
八幡「勝敗の基準が分からん……」
雪乃「また嘘を……もはや天性の詐欺師と言えるわね。今すぐ出頭して刑務所に行った方がいいんじゃないかしら」
八幡「犯罪を犯した覚えはないんだが」
そう言うと雪ノ下はしてやったりといった風な顔を俺に向ける。
裏方に回って人を動かしてはいたが、犯罪になるようなことはしていないはず。あくまで自分で手を汚さず、当人の意思で動いたという事実が生まれるよう偏った選択肢を与え続けてきたはずだ。
雪乃「あなたが姉さんの心を折ったおかげで、姉さんは笑顔を浮かべられなくなった。それによって雪ノ下財閥の後継者が表に顔を出せなくり、雪ノ下財閥とその系列会社は大混乱に陥っているの」
おい。それ陽乃さんの演技の可能性あるよな? 冤罪じゃねえか。
八幡「ていうかそれ犯罪でもなんでもないよな。陽乃さんの演技かもしれないし」
雪乃「どうあれあなたのせいで被害を被っている人間は大勢いるのよ。その責任を取ってくれるわよね、比企谷くん?」
八幡「…………でも半分は陽乃さんの」
雪乃「今の姉さんに責任を負わせるつもり?」
冷たい目がこちらを射抜く。その目は何を利用しようとも俺を陥れると悠然と語っていた。
静「会社が混乱しているという話は本当なのか? 雪ノ下」
雪乃「調べれば分かりますが、雪ノ下系列の株が軒並み暴落しています。損失総額は数十億を下らない。比企谷くん、これらの原因はあなたにあるのよ」
静「うわあ……。おい比企谷、どうするんだ?」
――俺は言い返すこともなく、固く口を閉ざした。思うにこの責任追及は抗うことができないものだろう。だから俺は余計なことを言わず、雪ノ下の言葉を受け入れることにした。
そもそもたかが高校生一人に数十億の損失を背負えるわけがない。
八幡「で? 俺は何をして報いればいいんだ?」
雪乃「私たち雪ノ下に仕え、一生をかけてその損失を補填しなさい」
八幡「一生かけてって、それは――――」
雪乃「一生縛り付けるのは不可能だと言いたいの? そんなの簡単よ。あなたが雪ノ下の一員になればいいの」
八幡「……………………ん?」
このお嬢様は今なんとおっしゃいましたか?
ああ、俺に雪ノ下系列の会社の社員になれと言ったのか。
雪乃「あら。相手が私だと思ったのかしら」
八幡「思ってないです」
雪乃「まあ相手は私になるでしょうね」
八幡「こっちの話聞いてます?」
冷たい目はそのままに――けれども頬をゆるませながら、雪ノ下は告げる。
雪乃「あなたは婿養子になるのよ。――――――雪ノ下八幡くん」
八幡「はぁあああああっ!?」
今までの人生で最高に驚いたジョークだった。
雪乃「冗談などではないわ。…………本気よ、私」
静「う……羨ましくなんてないんだからな!!」
八幡「………………」
雪乃「………………」
俺と雪ノ下は一緒になって平塚先生を睨む。空気を読め。
ここまで
創作意欲がようやく戻ってきたので、これから書いていきます
完結させます
完結させたいという気持ちはありますが、それ以前に今患っている病状が悪化の一途を辿っています
続きを書ける状態になっても書ける文字数は500字程度
ここまで症状が安定したのが前回レスした>>512ぶりです
症状が安定している現時点で冷静に鑑みた結果、このSSを完結させることは不可能と判断させてもらいました
あれだけ完結させると言っていたのに、本当に悔しく思います
このSSまとめへのコメント
楽しみにしてますっ!
毎回楽しみにしてます!!
八幡と陽乃の対決はとても興味深いです。
もう自演止めとけよ
まとめSSまできて何やってんの?
一週間!?
忘れてるぞ!
ほんとアンチきっしょいわ 暇人なの?
以前のように、揚げ足取りをするかのようなコメントはないだろ
言われたくなけりゃ、コメント欄での自演をやめりゃいいだけの話
それともなんだ?ここは肯定的な意見しか書いちゃいけないのか??
自演している暇があったら、はよ完結させておくれよ
自演はやめなさい
自分で自演認めて、さらに自分で煽るとか・・・
もう、それだけでレス稼いでるようにしか思えん
アンチコメはよっぽどひどい突っ込みどころがない限り、自演、煽りを作者が止めればみんなスルーするだけだから
擁護自演コメの口悪さを見ると本当に切れてるのかもしれんが、ま、作者の言動は理解不能なことは確かだな
八幡大勝利!←?
7章でもうまくやってくれよ
どうでもいいが完結させてくれ
黒猫くん以上に臭い俺ガイルss作者は初めて見た
どうしてこの人はここまで自分語りが多いのだろう
自己愛性人格障害か?
なんか、ハルキストに似た臭さだわ・・・
この人に限らず自分語りしてる奴は臭いよww
自分語り酷すぎ
売れてる作家風の自分語りしようとしてるけど身の丈にあってなくて寒いな、俺ガイルの作者にでもなったつもりかはしらんが、なんで俺ガイルの設定を変えたものでここまでの自分語りをするのか
面白いです。なるべく早く完結して欲しいです。
本家より面白い二次創作なんて腐るほどあるけどなw
この作品はちょっとアレだけど
米336
何逝っちゃってんの?
感情がない主人公と言いながら色々な感情見せてるからおかしいとはじめから突っ込まれてるのにいまさら逆切れ?
そも、いいSSにしたいので色々言って構わないと自分で言っておきながら・・・
作者がどれだけ考えても共感できないものは出来ないし、設定おかしいところあれば突っ込まれる
ただそれだけなのに
糞みたいな自分語りの方が多いんじゃねぇの笑
感情がない(大嘘)
紆余曲折あって、少しはマシになったのかなと思ってたけど、相変わらずだね、この人
現実でもこんな感じの態度とって、煙たがられてそう
そのくせ、本人は自らがイケメンで有能だと思っているから質が悪い
自分が原因で起こった出来事も、すべて周りが悪いって思ってそう
意図して読者を煽って燃やしているのだとしたら、大したもんだと思うけど
あと、コメ欄の自演がようやく収まったかと思ったら、
今度は、評価の★が不自然にあがりはじめるし、
いつまで監視と自演繰り返してんだよ 頭おかしいわ
そんな暇があったら、本編をトレースしただけの、俺的最強八幡()の話をとっとと終わらせてくれ
まさか、本編に追いつくまで続けるつもりじゃないよな
豊丸「イグ~イグ~」
「文句を言うなら次投下した文章を見比べてからにしてください」(キリッ)
そして
神八幡止めました、無難な八幡にしてみました・・・
文句以前に、もう別作品だよな?
あきれてしまうわ
とっとと畳んだ方がいいんじゃね?
この作者、マジで脳に欠陥あるんでない?
意見を求めておいて、自分の意にそぐわなかったら文句だ誹謗中傷だと切り捨ててさ
意見に対していちいち目くじら立てるのなら、最初から好きに書けよ
結局、俺様の作品をちやほやしてくれるイエスマンが欲しいだけなんだろ、この人
作品が受け入れられるかどうかなんてのは内容による
誰も、執筆過程の努力を賞賛なんかしない
あくまで、出来上がった作品に対しての評価のみ
まぁ、あんたはこれに痛い自分語りや読者とのまずいやり取りで自爆してるんだから余計に自業自得というもの
そんな単純なことも分からんの?
ま、分からないからこうなったんだよな
くどい文だね
もう更新しなくていいよ
内容も文章も全てにおいて最低レベル
細かい内容は気にしないけど
展開がおもしろいから
続けなさい。
作品の内容についてはとくに言うことはない。そもそも、なにも面白いところが無いなら、ここまで読んでいない。それより自分語り、ほんとに勘弁してくれ。自分でネタバレとかすんのもやめて。どのみちザッピングするけど、邪魔なものは邪魔なんだよ。
色々言われてますが続き待ってます。頑張ってすこしずつでもいいので書いていって下さい(´・Д・)」
間が空いたとたんに自演かよ
もう別作品になってるんだから
とっとと完結させたほうがいいぜ
居酒屋に話題を持ってかれて焦ってそう
全部読んでから評価したいからはよ続き書いて
なんだお前ら
いい作品じゃねえか
批判するクズは逝ってよし!
つうか続きはよ
自演乙
そうでもしないと続けられないのなら止めていいよ
もう、お笑い満載の神八幡の話じゃないんだからさ
自演のしつこさは異常(笑)
誰かが自演の量のほうが多いと思うとか言っていたが、この作者の肝の太さには感心するわwww
作品のネタかアイディアがなくて見てるのか知らんが、読者も見てていい気分しないし何より長ったらしいからはよ終わらせ炉
ネタバレは普通にやめろ
あぁ、自演で寒くさせたり自分語りで熱くなったり…もう読者のほうが腹いっぱいだから
ほぼ無感動キャラの癖にやたら自己分析しているとか
作者の願望が投影されている臭がするとか
他キャラが引き立て役だけで主人公しか見ていないとか
メアリー・スー的気持ち悪さが余すとこなく籠められているのに
ページ検索したら前スレ含め1件だけとかどうかしてる
くどい…そしてくどい…流し読みしててもくどい…
いや、くどいのはいいんだけど文章が面白くないのがねぇ…
そして、シリアスっぽい流れからの雪ノ下財閥ってww土建屋だけで財閥ww
あ、半島の半分の領土しかないのに国名に(大)って付けてる国の方かな?
作者が糖質な可能性
誰か例のコピペ貼っとけよw
カッター事件のフラグ回収めちゃくちゃだね、無感情じゃなかったの?
辻褄もめちゃくちゃだし
陽乃の笑顔が消えて、経営困難とか中学生でももっとましな三段論法を思いつくでしょ
これでおかしくないと思っていないのならエタっていいんだよ
作者のメンタルは叩かれても大丈夫ではなく、感覚が麻痺して逝かれてるだけ
まぁこの人、前の作品からしてちょっと頭おかしいからね
雪ノ下にグロマンガ読ませてみるだっけか
わざとやってるにしろ、正常な思考じゃないわ
陽乃とか自業自得やん
読んでたらムカついてきたw
自分の文章に自信があり、どんな批判も都合よく解釈して意に介さないスタンスだったはずなのに、叩かれて性格改変してるところがホントよくわからんな
なら、批判や指摘を屁理屈でスルーしてはじめのスタンスを貫き通しているほうが、「ま、こういう奴なんだな」で済んでいたのにな
何をしたいのか意味不だし、俺なら恥ずかしくてVIPには来れないレベルだわ
ここも相変わらず自演コメがやまないんだな
さすがにべた褒めやアンチ批判、期待している旨のことは書かなくなったが
こんなひどい内容のものに対して、登場キャラに感情移入できるのは、
書いている本人だけなのに、どうして気づけないんだろう
一気に読んできたのにまだ完結していなかっただと…
完結楽しみに待ってる
また自演かよ(呆れ)
512の「創作意欲がようやく戻ってきたので、これから書いていきます
」
こういうところが嫌われてるの分からんの?
まだ居たのか…。もう消えて良し。
>>47だけど、
別にいいんじゃないの
よっぽどのキチガイSSじゃない限り、どんな内容でも読みたいっていう俺みたいな変わり種の人間もいるし
よっぽどのキチガイSSじゃない限りって思ってるのは作者だけじゃない?
ねぇ、作者さん
なら、批判も別にいいんだよね?
そんなに噛み付くことないでしょ
ラスト期待
逃走スレマジ?
病気ならしょうがないな~(棒)
エタるなら自分でHTML化依頼スレッドに依頼しとけよ
病気でも500文字は書けるんだろ?
誰も代わりにはやってくれんぞ
悔しいとか、結局自分だけなんだよなこの人
この作者は酒鬼薔薇と同じ匂いがする
全部読みたかったけど作者がキモすぎるな無理
黙っててほしい
結構面白いと思ったが作者キモすぎだった
逃げたのかしらんけど未完なのが残念
いいところで・・・
この作品になら俺、金払えるわ・・・
※60
自演で金払ってもプラマイゼロだゾ