榛名(ど、どうしましょう……どうすれば……!?)
加賀「ちょっと」
榛名「ぱひゃいっ!?」ビクッ
加賀(……相変わらず愉快な反応をする子ね)
加賀「今日のデイリー任務は片付いたの?」
榛名(報告、報告をしなきゃ……どんな失敗をした時でもまずは報告、報連相は組織の基本……!)
榛名(でも……報告したら榛名はきっとすごく怒られます……虎の子の装備だって、大事に整備してましたし……)
加賀「……」
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榛名「…………えっと」
加賀「……」
榛名「…………その」
加賀「……随分焦らすのね」
榛名「ひぅ……」
加賀「私としては正確に報告してくれればそれでいいのだけれど?」ジロッ
榛名「だ、大丈夫です!榛名、今日の任務も無事完遂しました!だいじょぶでした!」
加賀「そう。……なら、いいけれど。報告はもう少し迅速にしてもらえると助かります」
榛名「ハイ!以後気を付けます!」
榛名(あぁ……榛名はなんてことを……)
赤城「あら加賀さん。一緒に演習に行きませんか?大規模作戦も近いですし」
加賀「そうね。烈風改の試運転でもしようかしら」
榛名「ッ!」
榛名(あ、汗が背中から滝のように……!)ダラダラ
赤城「でも、あんまり艦載機発着艦演習ばかりだと足が鈍るんですよね……加賀さん、今日は久々に機動演習にしませんか?」
加賀「機動演習……まぁ、赤城さんがそう言うなら」
榛名(ほっ……)
加賀「でも、烈風改の整備も怠るわけにはいかないし……」
榛名「ぴっ!?」
赤城「……ぴ?」
榛名「ぴ、ぴ、ピーコック島攻略作戦を思い出しますね!大規模作戦と言われると!榛名、気合、みなぎってきます!」
加賀(姉の真似かしら?本当に変わった子ね……)
榛名「それと今日は工廠の明石さんが全員の艤装を整備してくれる日ですから、艦載機の手入れもきっと大丈夫です!はい!」
加賀「でも、自分の艦載機は自分で整備を……」
赤城「加賀さん。ここは工廠の皆さんを信用して、私達は練度を高めましょう?まったく……あの子には過保護なんですから」
加賀「鎮守府の最高航空戦力を任された訳ですから、流石に気分が高揚します」
榛名(さ、最高航空戦力……)
赤城「今まで以上に活躍できれば、提督にもいっぱい褒めてもらえますもんね?」
加賀「……別に、あの人の事は関係ないけれど」
赤城「ふふ、今はそういう事にしておきましょうか。それじゃあ榛名さん、私たちは演習に行ってきます」
榛名「は、はい!行ってらっしゃいませっ!」
榛名「…………」
榛名(…………行きました、よね?)
ゴソゴソ・・・
榛名「とにかく、今のうちに……廃棄箱から烈風改の残骸を見つけて」
ゴソゴソ・・・
榛名「明石さんか、夕張ちゃんに直してもらって……そっと元の場所に置いておけば……」
ゴソゴソ・・・
榛名「何事もなく終わる……終わるはずです……」
ニチャア・・・
榛名(うわぁ……予想はしてましたがやっぱり失敗綿と廃棄ペンギンの汁でぐちゃぐちゃになって……この烈風改はもう大丈夫じゃないです……)
榛名(えっと、主翼と、コックピットと、胴体と後は尾翼が…………無い……)
榛名(び、尾翼くらい無くても飛びますよね?たぶん……きっと……紙飛行機には尾翼ありませんし……)
榛名(とにかくこれを工廠に持って行かなきゃ……誰にも見つからないように……)
榛名(ゆっくり、ゆっくり……抜き足差し足忍び足で行けば、きっと大丈夫……!)
――鎮守府廊下――
榛名「……」ソローリ
川内「ねぇ、さっきから廊下の隅っこ歩いて何してんの?夜戦の練習?」
榛名「わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
川内「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」
榛名「こ、来ないで!来ないでください!憲兵呼びますよ!?」
川内「ちょま、落ち着いてよ!川内だってば!軽巡の!ほら仲間!身内!」
榛名「川内ちゃん!榛名は今電探が頭痛でお腹が大丈夫じゃないんです!」
川内「……?なんかよくわかんないけど大変なんだね?入渠ドックまで送ろうか?」
榛名「いいです!いらないです!大丈夫です!大丈夫ですから構わないでください!」
榛名「これ以上被弾したら榛名はもう、もう泣きますよ!?いいんですか!川内ちゃんは金剛型三番艦を本気で泣かせる事になるんですよ!?」グスッ
川内「えぇ……えーとそれじゃ、とりあえずお大事に……?」
榛名「はい!榛名、お大事にします!前進一杯、速やかに目的地へ転進を開始します!」
川内(体調不良なのに凄いテンション……やっぱり金剛型って全員あんなんなのかなぁ……)
――工廠前――
榛名「やっと着きました……」
榛名(でも何でしょうか、工廠の中から大きな声が……?)
『酔った勢いで尻で踏んじゃってさぁ……んで、こうなっちゃったんだけど』
『この艦載機の元本の修理ですか!?そんなの無理ですよ!』
榛名「……!」
『そう言わずにさぁ、頼むよ明石ちゃん!アタシと酒を分け合った仲だろぉ?』
『いやいやいや無理ですって!艦載機ってボーキがあれば複製はいくらでも出来ますけど、見本になる元本が壊れてるとなるとさすがに……』
『えー!?でも天山くらい元本いくつでもあんじゃんかさぁ~』
『一個一個微妙に違うんですよ……完全な複製は無理です。キチンと報告して、大人しく提督と加賀さんに怒られて来てください』
『へーい……あー、なんだ。明石ちゃん、無理言ってごめんな?』
『こちらこそ、期待に添えず申し訳ないです。お詫びにもなりませんけど、説教が終わったらいくらでも付き合いますよ』
『お、いいねぇ分かってるねぇ!……しかしあれだな。アタシは天山だからまだよかったのかもなぁ』
『これがもし、加賀お気に入りのアレだった日にゃあ轟沈した方がマシな……あ、これだめだ。想像しただけで酔いが醒めてきた』
『冗談でも言わないでくださいよそんな事……。これに懲りたら、艦載機はもっと丁寧に扱ってくださいね?繊細なんですから』
『うぇーい。そんじゃあ改装強化済みの隼鷹さん、怒られてきまーす』
『お大事にー』
榛名(そんな…………明石さんでも、直せないなんて……)
ガチャッ
榛名「ぁ……」
隼鷹「んお?なんだ榛名じゃないかー、この世の終わりみたいな顔してたから深海棲艦かと思ったぞ?工廠に用事か?」
榛名「い、え……なんにも、ないです……はるな、大丈夫です」
隼鷹「おいおいどうした?元気ないなーさてはアノ日か?ひひっ」
榛名「大丈夫です……榛名は大丈夫……」フラフラ
隼鷹(ありゃ、ツッコミもなしで行っちゃったよ。……ちょっとデリカシー無さ過ぎたかねぇ?)
榛名(どうしよう…………)
榛名(どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう)ガタガタガタガタ
榛名(もう駄目怒られる提督に見捨てられる解体される沈められる榛名の全部が終わる終わっちゃう……)
榛名(どうすれば……どうすれば……ばれないように、バレナイヨウニ、知らない見てない分からない……)
榛名(痕跡を消さなきゃ……でも一体どうやって……)
榛名「…………………………」
――夜・鎮守府裏――
ザクッ、ザクッ・・・
榛名「はぁっ、はぁっ……」
ザクッ、ザクッ・・・
榛名(……全部消して、無かったことにする……)
ザクッ、ザクッ・・・
榛名(だから烈風改の残骸、全部埋めなきゃ駄目……誰にも見られないように……深く掘って、埋める……)
ザクッ、ザクッ・・・
榛名(今日は雨だから、こんなところに来る子はいないはずです……)
ザクッ、ザクッ・・・
榛名(榛名は何も知りません、何も聞いてません、きっと妖精さんの手違いです……)
ザクッ、ザクッ・・・
榛名(そう、榛名は何も知らない、誰のせいかなんて誰にも分らない……)
ザクッ、ザクッ・・・
榛名(だから大丈夫、きっと怒られない、怒られたくない、怒られたくない……!)
榛名「あと、少しで……」
金剛「Wow、やっと見つけたネー!ヘーイ榛名ァ、こんな薄暗いところで何してるデース?」
榛名「お姉、さま……?どうして、ここに」
榛名(そんな……誰も来ないはずなのに……来ないはず、だったのに……)
金剛「それはもちろん、こんな雨の中遅くまで帰ってこない大事なマイシスターを探しに……って何デスカ?このジャンクは」
榛名「それは……その、榛名が作った模型で……上手くできなかったから捨てようと……」
金剛「…………ハールーナー?雨のせいでよく聞こえませんデシタ。私の目を見て、もう一回話すデース」ジロッ
榛名「ひっ!」
金剛「榛名、昔から嘘を吐くときは電探カチューシャがちょっと回りますネ?」
榛名「そ、そんな事無いはずで……あっ!」
金剛「ハァ……すぐバレる嘘は吐くなとあれほど教えたはずデスよ?……ホラ、お姉ちゃん怒らないから。正直に言ってみるデース」
榛名「…………」
金剛「……榛名」
榛名「……加賀さんの、艦載機を……」
金剛「間違って廃棄しちゃった、とかデスカ?」
榛名「……」コク
金剛「流星?烈風?まぁどっちにしろ一度ハードに怒られればそれで万事解決ネー?」
榛名「烈風改です……」
金剛「………………オゥ、ジーザス」
金剛(ンー、これはちょっとバッドなシチュエーションですネー)
金剛(ただのレア艦載機ならまだしも、加賀のフェイバリットとなると……怒りのヴォルテージはMAXを超えかねないデース)
榛名「……」
金剛(榛名はメンタル耐久値が駆逐艦並デスシー……今の状態だと最悪、怒られたその足で夜の海に身を投げ出しかねない気がシマース)
金剛(普段ならここは”正直に話すデース!”と言って尻を叩くところですガ……)
金剛「……榛名。お姉ちゃんの言うこと、よーく聞くネー」
榛名「金剛お姉さま?いったい何を……」
金剛「これから、シークレットミッション『烈風改を廃棄せよ』を開始シマース……」
金剛「誰にも知られないよう、姉妹で力を合わせて全力でシラを切り通すのデース……!」
今日はここまでデース
――翌日・執務室――
提督「うーん……烈風改はまだ見つからないのかな?」
加賀「申し訳ありません。……全て秘書艦である私の責任です」
提督「まぁ、そう気を落とさないで。今は局面をどう立て直すかだけ考えよう」
提督「とりあえず烈風改は最初から無かった物として計算をやり直した方が良さそうだね。大規模作戦は通常のゼロ戦で代用しようか」
加賀「…………ですが」
提督「加賀くん。君が今までどれだけ神経を使って秘書艦の任務に当たってきたか、傍で見ていた私は十分に理解しているつもりだ」
提督「今回はそんな君が犯したミスなんだ、たとえ誰が秘書艦でも結果は同じだったに違いない。ただ、物事の間が悪かっただけの事なのだろうよ」
加賀「提督……」
提督「とはいえ、我々が虎の子の艦載機を失った事は事実だ。これからの戦いは当然厳しくなるだろう」
提督「時に加賀くん。私の記憶では君は秘書艦である前に栄光の一航戦だったはずだが……こういう時、優れた軍人はどうするべきかな?」
加賀「……陸の失敗は海で取り返します。艦載機の質が落ちるなら技量で圧倒するまでです」
提督「うん、その意気や良し。それでこそ一航戦、それでこそ加賀くんだよ」
提督「私も忙しくなりそうだ。焦らず緩まず、一歩ずつ登り詰めていこう」
加賀「…………分かりました」
提督(しかし一つしかない烈風改が、大規模作戦の直前で紛失とは……ちょっとタイミングが良すぎるんだよねぇ……)
提督(最低限、密偵の可能性は疑うべきかな……だからと言って、大っぴらに犯人探しをして鎮守府の空気を悪くしてもしょうがないし)
提督(仕方ない。ちょっと個人的に探りを入れてみようか……)
提督「それじゃあ私はちょっと資材班との調整をしてくるよ。指揮は適当によろしく」
加賀「別にいいけれど。外出にかこつけてサボっては駄目よ?」
提督「ハハハ、厳しいなぁ!こりゃあ真面目にお仕事しないと爆撃されそうだ」
提督「ああ、それと夕食は肉じゃががいいと間宮さんに言っておいてくれるかな?」
加賀「覚えていたら間宮さんに口添えしておきます。……行ってらっしゃい」
提督「うん。行ってきます」
加賀「……」
加賀(……私もまだまだ練度が不足しているわね。あの人にフォローしてもらっているようでは)
加賀(もっともっと、強くならないと……)
妖精「――!――!」
加賀「あら。あなたは確か……資材管理部の妖精ね?どうかしたのかしら」
加賀「何ですって?廃棄箱から……烈風改の、尾翼……!?」
加賀(随分汚れているけれど、この形状……間違いない!)
加賀(確か昨日、廃棄箱に触れる位置にいた艦娘は……)
加賀「通信妖精、提督の無線と繋いでもらえるかしら……ええ。緊急の用件です」
――廊下――
比叡「お姉さま、事件!大事件です!烈風改が!」
榛名「ッ!」ビクッ
金剛「Oh、比叡!比叡も烈風改が無くなったって話をしにきたデスカー?」
比叡「あ、あれ?もうご存知でしたか?」
金剛「デストロイヤーからバトルシップまで、今朝は鎮守府中その話題で持ち切りデース。正直私もそろそろ耳にオクトパスが出来そうネー」
比叡「申し訳ありません!比叡、いち早くお姉さまにこの事をお伝えしなければと急いだのですが……!」
金剛「Hum……いいデスカ比叡。大事なのは事象そのものよりも、それが意味するところデース」
比叡「い、意味ですか?うむむむ……」
金剛「烈風改が無くなったということは、航空戦力の低下は避けられないという事ネー」
金剛「エアクラフトキャリアー達は全スロットにゼロを詰め込む事になるでショウ。おそらく制空権をとるので精一杯になってしまうはずデース」
金剛「では比叡。彼女達が戦えない今、艦隊を勝利に導くのはどの艦種の役目デスカー?」
比叡「………………なるほど!そこで、私達金剛型戦艦の出番というわけですね!」
金剛「Yes!次の作戦のキーは私達バトルシップネー!だからこそ、今からコンディションを整えておくのデース!」
比叡「了解です!比叡、気合、入れて、駆逐艦達と一緒に走って来ます!……ていうか榛名、大丈夫?さっきから元気ないみたいだけど」
榛名「………………え?」
金剛(SHIT……)
比叡「辛いなら入渠ドックに行ってもいいのよ?お姉さまのおっしゃる通り、次の主役は私達なんだから!体調管理も仕事のうちよ?」フンス
榛名「あ、いえ、はい?ええと、榛名は大丈夫です……」
比叡「……ホントかなぁ?榛名ってばいっつも一人で無理したり抱え込んだりするから、結構心配してるのよ?」
榛名「そんな……無理なんて……」
金剛「……ア!比叡、向こうで五月雨が転んで書類ばらまきそうになってマース!そんな気がシマース!」
比叡「えぇ!?もうあの子ったら……!すみませんお姉さま、失礼します!」
金剛「フィー…………何とか撒けましたネー」
榛名「……」
金剛(全く危ない所だったネー……しかし……)
榛名「……お姉さま、榛名はもう限界です……」
金剛(まさか榛名のメンタル耐久値が駆逐どころかまるゆガールレベルだとは思ってませんデシタ……)
金剛(これもう誤魔化しなんてやらせる事自体が極めてデンジャラスネー)
金剛(けど共犯になるって言っちゃった手前、今更突き出す訳にも……)
榛名「…………榛名は、昨日からずっと考えていました」
金剛「?」
榛名「お姉さまが、榛名を、裏切ってるんじゃないかって……!」
金剛「ハァ!?」
榛名「だってそうです!いくら姉妹でも、こんな愚劣極まりない榛名を庇う理由なんてお姉さまにはありません!」
榛名「きっと榛名が誤魔化し切ったと思ったその瞬間に、後ろから榛名を突き落して皆と一緒に嘲笑う腹積もりに決まってます!」
榛名「今だってこうやって榛名を信頼させて、後で裏切ろうとしているんです……!榛名に罰を与えるために……!」ガタガタガタガタ
金剛「榛名、キープクール!キープクールデース!流石にアイデアがフライハイし過ぎてて付いていけないデスヨ!?」
榛名「榛名は、はる な は ……!」
榛名「…………………………………………そうだ」
榛名「お姉さまが居なくなれば、あの事を知ってる人は居なくなる……榛名は、また皆の中で、笑っていられます……許されるんです……」
ガチャンッ
金剛(艤装!?チョ、今私のオーバーホール中なのにこれってシャレになってないデ)
榛名「ぇへ、へへへへへへへへへへへへへへえ!そうすればぁ!はるなぁ、だぁれにも、おこられません!」
榛名「お姉さま……榛名の、大丈夫のために……沈んでください!」
金剛(ア、これもう駄目なパターンデース……)
金剛(ソーリー、テートク……先にヴァルハラで待ってるネー……)
ドゴォォォォォォォォォォンッ!!
・
・
・
・
・
・
金剛(…………アレ?なんでまだ体の感覚があるデース?)
榛名「くっ……!」
榛名(想定外の方向から艤装にダメージ……攻撃してきたのは、艦爆?なんて速さ……!)
榛名「一体どこから……!」
提督「待った待った待った!ちょっと何やってんの榛名くん!」
榛名「てっ……!?」
金剛「テートクウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!」ギュゥ
提督「大丈夫だったか?金剛くん」
金剛「YES!YES!テートクのおかげで、私はもう絶対大丈夫デース!」
金剛「でも……今回はホントにもう……ダメかと思ったネー……」
提督「あいてててて……だがそうか、大丈夫か。……本当に良かった」
提督「さて……」
榛名「あ…………ぁ…………」
榛名(逃げなきゃおこられる、おこられる、逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ!)ダッ
提督「……加賀くん」
『――心配いらないわ。鎧袖一触よ』
ドゴォォォォォォォォォォンッ!!
榛名「かはっ……!」
提督「榛名くん。言葉が遅れたがあえて言わせてもらうよ」
提督「君は完全に包囲されている。逃亡も抵抗も無意味だ」
榛名「う、ぅ…………っ!」
提督「一つだけ聞かせてくれ。君は……密偵なのか?」
金剛「テートク、それはちが……!」
提督「金剛くん。私は今榛名くんに聞いているんだ」
榛名「……」
提督「……」
榛名「……」
提督「……」
榛名「ちがい、ます。榛名は、密偵じゃ、ないです……!皆を貶める気なんて……!」
提督「そうか。ならウチの鎮守府に、密偵は居なかったんだな。……安心した。それだけ聞ければ十分だ、ありがとう榛名くん」
提督「加賀くん、作戦は現在時刻をもって完了だ。ただちに執務室に戻って間宮さんに肉じゃがの出前を頼むように」
『了解』
榛名「……!」
提督「金剛くん、死にかけたところ悪いが君のバイタリティーを見込んで頼みがある」
提督「立てないようだから、榛名くんを入渠ドックへ連れて行ってやってくれないか?砕けた艤装はこちらで回収しておくから」
金剛「OKデース。……ホラ、榛名」
榛名「提督…………どうしてですか……」
提督「……」
榛名「どうして、榛名を怒らないんですか……!?」
提督「私が気になっていたのは密偵の有無だけだ。それが無いと分かった以上、君に怒る筋合いはないだろう?」
榛名「でも!榛名は、鎮守府に一つしかない烈風改を駄目にして……それに、お姉さまに砲を向けて……!」
提督「……榛名くん。それらは全て過ぎたことだ。もう作戦はゼロで代用すると決まったし、今の君に金剛くんは撃てないだろう?」
提督「そして君が純粋な悪意で姉妹に砲を向けるような娘でない事は、この鎮守府に住むものなら皆知っているよ」
提督「切羽詰まった状況で正常な判断が出来なかったのだろうと想像するのは容易だし、そのような非常事態における行動について今咎めても仕方ない」
提督「その上で、それでも君が私に話したいことがあるのなら……私は何時間でもそれを聞くよ。提督だからね」
榛名「てい……とく……」
『……甘いんだから』
金剛(相変わらず甘々デスネー、そこがイイんですケド)
榛名「……」
提督「……」
榛名「……最初は……いつも通り、デイリー任務を終わらせたんです……」
提督「……うん」
榛名「それで、ふと任務表を見たら、装備を規定個数廃棄すれば伊良湖さんの券が貰える任務があって……」
提督「うん」
榛名「大規模、作戦が……近いと、聞いていたので……みんな、に、少しでも英気を、養ってもらえれば……って、思って……」
提督「うん」
榛名「それで、古い装備品を……捨てていたら、その中に、烈風改がっ……ぅ……混ざって、しまっていて……」
提督「うん……」
榛名「気づいたときにはもう、廃棄箱の中で、ぐちゃぐちゃになってて……榛名、どうしたらいいのか、分からなくなって……!」
提督「……そうだな。そうなってしまったら私でも……いや、誰でも榛名くんと同じようになってしまうだろうな」
榛名「そ……それで……はるな、おこられたく、なくて……だいすきなていとくや、おねえさまたちに、きらわれたく、なくて……!」ポロポロ
提督「……うん」
榛名「土の中に埋めて、隠そうと……して、しまって……!お姉さまに、見つかって……」
榛名「でもお姉さまは榛名を庇ってくれて……なのに……榛名、それも信じられなくて……!」
提督「そうか……」
榛名「う、うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……!」
提督「辛かったろうに、よく最後まで報告してくれたな。……偉いぞ、榛名くん」
榛名「そんな……はるな、れっぷう、すててしまったのに……」
提督「……いいかい、榛名くん。ミスは誰にでもある。私にも、君にも、金剛くんにも、完璧そうに見える加賀くんにも、誰にでもだ」
提督「艦種や経験、練度なんて関係ない。どんなベテランでも、自分でも信じられないようなミスをする時は必ず来る」
提督「そして、それは大抵、気づいた時には取り返しのつかないことになってしまっているものなんだ」
提督「そういう時に一番しなければいけない事は……まず、自分の左胸に手を当てること」
榛名「胸に手を……?」
提督「そう。そして、跳ねている心臓の鼓動を聞いて、大きく深呼吸だ」
提督「取り返しのつかないミスをしてしまった自分が、それでも今、こうして生きている事を確認する」
提督「そして生きているのなら……今どうにかならなくても、いつかはどうにでもなると考える。つまり、現実に対して開き直るんだ」
提督「すると不思議な事なんだが……頭が冴えて、冷静に物事を考えることができる」
提督「そうやって、自分のミスを認めて問題への対処と反省を済ませたなら、もうそれ以上思い詰める必要はない。後は憂さ晴らしだ」
榛名「……憂さ晴らし、ですか?」
提督「そうだとも!聞こえているね加賀くん!鎮守府中の全艦娘に通達!今から伊良湖を呼ぶぞ!甘味が欲しい艦は食堂に集合だ!」
『いい判断ね。流石に気分が高揚します』
榛名「え、ええ!?」
提督「せっかく榛名くんが皆のためにとこなしてくれた任務で手に入れた券だ、使わない手はないだろう?」
金剛「YES!湿っぽいのはこれくらいにして、スゥイーツパーティー始めるデース!」
榛名「でも、榛名……」
提督「心配するな。皆には私から説明するし、きっと分かってくれる」
提督「この鎮守府に居る艦がいい奴ばかりなのは君も知っているだろう?」
金剛「榛名。……行きマショウ?」
榛名「…………………………」
榛名「…………ハイ!榛名、補給命令、了解しました!」
金剛「GOOD!そうと決まれば早速ゴゥ!アヘッド!デーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーース!」
―食堂―
加賀「……」モグモグ
榛名「お隣、失礼します……」
加賀「どうぞ」
榛名「あの……本当に……ごめんなさいっ!!!」
加賀「別に気にしていないわ。もう済んだことだし」
榛名「でも……榛名、どうしても加賀さんに謝らなきゃいけないと思ったんです!」
加賀「……そう。いいけれど」
榛名「なので、その、今後は、榛名に出来ることなら何でもしますから!何でも言ってください!」
加賀「じゃあ一つだけ。どんな事があっても、報告は迅速、かつ正確に。分かった?」
榛名「ハイっ!榛名、もう二度と報告を誤魔化したりしません!」
加賀「……ところで、貴方って提督に恋愛感情持っていたりするの?」
榛名「へぁ!?」
加賀「報告は、なんだったかしら?」
榛名「あ……あぅ……その、提督の事は、……お、お慕い申し上げているといいますか、その……」
加賀「ふふっ……貴方って、本当に愉快な戦艦ね」
榛名「なっ!?ど、どうして笑うんですか!」
加賀「貴方のいちいちが面白いからよ」
榛名「これって、喜んでいいのでしょうか……榛名、複雑です……」
・
・
・
・
・
・
――数日後・改修工廠――
榛名(それから……)
明石「榛名さーん!倉庫から改修用のネジ8本取ってきてもらえますかー?」
榛名「はい!榛名、ネジ調達任務了解しました!」
榛名(榛名は提督の指示で艦隊任務から暫くの暇を頂くことに……謹慎処分に、なりました)
榛名(提督は『やはり廊下で艤装を展開した事については形式上処罰を重くせざるをえないが……』)
榛名(『まぁこれを機に工廠で改修でも習ってきなさい』と仰ってくれました)
榛名(加賀さんからは『大規模作戦の攻略には貴方の力が不可欠なのだから、可及的速やかに謹慎を終えて戻ってきなさい』と言われました)
榛名(頑張らないと、です)
榛名(……榛名は今、鎮守府から少し離れた改修工廠で、明石さんのお手伝いをしています。たまに、金剛お姉さま達も会いに来てくれます)
榛名(まだまだ分からない事だらけで、時々寂しくもなりますが……そういう時は、提督に教えてもらったおまじないを使っています)
榛名(胸に手を当てると、今日も心臓は元気に動いて……榛名は、今……確かに、生きています。もう、きっと、大丈夫です)
榛名(だから榛名は、今日も精一杯頑張るんです!)
榛名「いつか……最高の勝利を!提督にっ!」
終わりデース!
/. ノ、i.|i 、、 ヽ
i | ミ.\ヾヽ、___ヾヽヾ |
| i 、ヽ_ヽ、_i , / `__,;―'彡-i |
i ,'i/ `,ニ=ミ`-、ヾ三''―-―' / .|
iイ | |' ;'(( ,;/ '~ ゛  ̄`;)" c ミ i.
.i i.| ' ,|| i| ._ _-i ||:i | r-、 ヽ、 / / / | _|_ ― // ̄7l l _|_
丿 `| (( _゛_i__`' (( ; ノ// i |ヽi. _/| _/| / | | ― / \/ | ―――
/ i || i` - -、` i ノノ 'i /ヽ | ヽ | | / | 丿 _/ / 丿
'ノ .. i )) '--、_`7 (( , 'i ノノ ヽ
ノ Y `-- " )) ノ ""i ヽ
ノヽ、 ノノ _/ i \
/ヽ ヽヽ、___,;//--'";;" ,/ヽ、 ヾヽ
錯乱状態でしたことに、ただ闇雲に厳しい罰則をしてもしょうがないし
大岡裁きなんだから「本来はこうなんだ!」と騒ぐのは野暮
現実はあれこれこうする ってのを省略して
優しく諭しつつ教育するというフィクション全般でよくある〆方に ケチをつけるなと
(このSSでは、あれで今後同じような自体にならないよう成長した)
漫画アニメなど見る度に「現実では~」と難癖つけてたら楽しくないぞ
別にSSを書き直せと言ってるわけでもなく
単に現実なら~だって話をしてるだけなんだから
そういう考え方もあるんだなって思えばいいだけだろ
いちいち他人の考えを否定するんじゃなくて
それもあるかもしれないけど、自分はこう思う、と言えばいいだけのこと
他人の感想に文句を言うとか非常にナンセンス
>>143 良いこと言ってくれた
事の発端は「いい提督」という他人の感想に
わざわざ 現実なら~と文句を言ったのが始まり
さらに言えば
フィクションの事柄のSSに、現実での処罰を持ち出し「これはありえない」
という文句そのものがナンセンス
ほのぼのアニメの話題に
バトル・シリアス好きがわざわざ「つまらん」と割り込むと同じ
このSSまとめへのコメント
この鎮守府を舞台にした、いろんな話が読みたい
感動した
優しい世界だ...。ラブコメやシリアスだけでなく、こんな世界も広がってくれることを願う。
どうでもいいけど、>>1のIDがDQN