瑞鳳「祥鳳を泣かしたい」 (22)
※微妙に百合注意。
※別サイトより、作者本人が転載しました
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明日、私は結婚する。
今日は私と祥鳳が姉妹として一緒に過ごす最後の夜になる。姉もそれを知っている。
なのに、この人はいつものように優しく微笑んでくれる。
それがイヤだった。
どうしてあなたは泣いてくれないの?
あなたは私のお姉ちゃんでしょ?
『あの時』一緒に過ごせなくて、ようやく姉妹一緒に暮らせるようになったのに。
艦娘としてまた一緒になれた時は本当に嬉しかった。年甲斐もなくはしゃいで抱きついた。
見た目に反して子供のような性格の姉。
ちょっと自信なさげだけど頑張り屋さん。そんな姉が大好きだった。
艦娘になってからはあの時一緒にいられなかった分を埋められるよう、できるだけ姉と一緒に過ごすようにした。
一緒に遠征に行ったり、支援艦隊でがんばったり、油まみれになって艦載機を整備したり、一緒に入渠したり。
それなのに、明日訪れる私との別れを、祥鳳はちっとも悲しんでくれない。
少しは悲しんでほしい。私のために泣いてほしい。
でも、そんな私の胸の内を見透かしてるように、姉はいつもの優しい笑顔を絶やさない。
なんか悔しかった。
私はこんなにさびしいのに、あなたはちっともさびしがってくれない。
だから決めた。
今夜、祥鳳を泣かせちゃおうと。
今日の夜はハンバーグを作ってもらうことにした。
祥鳳は「どこか食べに行く?」と言ってくれたけど、私は祥鳳の手料理がいいと言い張り、作ってもらうことにした。
外食も悪くないけど、私にとっては祥鳳の作ってくれたごはんが一番美味しい。
二人で台所に並んで、夕食の準備をした。
トントントンと、台所に包丁の音がリズミカルに鳴り響く。
隣では祥鳳が挽肉を細かく刻んでいた。
ふと、私の中に意地悪な感情が芽生えた。
「祥鳳、玉ねぎお願い」
わざと玉ねぎを置きっぱなしにして他の料理に手を付けた。
祥鳳は黙ってそれを包丁で切ってくれた。半円状の玉ねぎが次々に刻まれて小片になってゆく。
「うっ、染みる・・・」
同時に、みるみるうちに祥鳳の目に雫が溜まってゆく。
上手くいった。
でも、彼女は笑ったままだった。
「ふふ、玉ねぎってやっぱり目に染みるね・・・」
ダメだ。彼女は笑ってる。
こんなんじゃダメだ。
祥鳳の涙は私のために流したものじゃない。
その証拠に、彼女は涙こそ浮かべてるけど笑顔のままだ。私のことを悲しんでくれたからじゃない。
「むぅ・・・」
「どうしたの瑞鳳?」
「なんでもない」
私は頬を膨らませ、隣で卵焼きを焼き始めた。
一通り食事の準備が終わり、私は手を洗った。
あとはハンバーグが焼けるまで待つだけだ。
祥鳳は「後は私がやっとくから、ゆっくりしてていいよ」と言ってくれた。
ゆっくりなんかしてられない、もう時間はない。
一刻も早く姉を泣かせないと。
私は思いついた次の作戦を実行した。
「ちょ、ちょっと瑞鳳・・・! あはは・・・! あ、危ないから! あはは!」
脇をくすぐり、涙が出るまで続けてみよう。
祥鳳の弱いところは知っている。
脇の真下を重点的に責めて、泣かせてみよう。
「もっ、もう! やめて瑞鳳!危ないってば!」
祥鳳はしばらく戸惑ってたけど、やがて優しく私の頭に手をやり、後ろに避けるよう促した。
「もう・・・。くすぐるなら後にして。全機発艦してから。ねっ?」
危ないことをしたのに、料理の邪魔をされたのに怒ってすらいないようだった。
ちょっとだけ横顔が見えたけど、祥鳳は笑っていた。
ダメだ。
どうすれば、あなたは泣いてくれるの?
「瑞鳳。運ぶの手伝って」
祥鳳が呼んだけどそっぽを向いて答えないようにした。
今度はわざと無視するイジワルをしてみる。
これなら祥鳳は無視されたって思って泣き出すはず。
「瑞鳳・・・? 聞こえたでしょ?」
チラリと祥鳳を見ると、その表情には戸惑いが見られた。
明らかに困った声をしてる。
もうちょっとだ。
そうだよ、寂しくなったでしょ? 妹に無視されるなんて悲しいでしょ?
ちょっとだけ胸がチクリと痛むけど我慢。
もうちょっとで祥鳳は泣き出すはずだから。
でも、私の作戦はあっけなく失敗した。
「瑞鳳、どこか具合でも悪いの?」
祥鳳は風邪でも引いたと思ったのか、私を優しく抱きしめてきた。暖かい体温が服越しに伝わってくる。
「う~ん、熱はないわね・・・。もしかして、何か明日のことで不安でもあるの?」
私の額に手をやりながら、祥鳳は言った。
ダメだ。
こんな優しい姉をこれ以上無視するなんてできない。
「なっ、なんでもないよ! ちょっと疲れてボウっとしてただけ!」
「そう、なら良かった」
祥鳳は安心したように呟き、お皿を運び出した。私も渋々それに倣ってお箸をテーブルに並べた。
ダメだ。どうやってもうまくいかない。
そもそも人に意地悪自体したことがほとんどないのに、できるわけがない。
いっそやけになって暴れちゃおうか。
彗星や天山を壊してしまおうか。歪んだ考えが頭をよぎった。
いや、そんなことできない。祥鳳やみんながせっかく作ってくれた艦載機を壊したって意味はない。
それに何かを壊したってますます惨めになるだけだ。
結局、私は何もできず、夕飯を祥鳳と食べ始めた。
夕飯はハンバーグと卵焼きと味噌汁、お野菜の煮物、それに卵焼きだった。
「姉妹で過ごす最後の夜にしてはちょっと質素じゃない?」
祥鳳はそう言ったけど、私にはこれで十分だった。
母の味を知らない私にとって、姉の手料理が唯一家族が作ってくれるごはんだから。
「やっぱり、祥鳳の作ってくれたごはんが一番おいしいな」
何気なく思ってることをぽっつり口にした。
すると、箸を持っていた姉の目が丸くなり、みるみるうちに瞳に雫が溜まっていった。
「・・・ばか」
「祥鳳?」
私は戸惑った。何もいじわるをしたつもりはないのに、祥鳳はいきなり泣き出した。
ポロポロと涙がテーブルへと零れ落ち、味噌汁に波紋を作った。
「ずるいよ・・・。そんなこと言うなんて・・・!」
なんで? なんで祥鳳は泣いているの?
「私だって、ホントはさびしいんだよ・・・。だから、最後くらいは、ガマンして・・・、笑ってあなたを送ろうって・・・」
「ご、ごめんなさい・・・」
「ちがうよ・・・。嬉し泣きだよ・・・!」
嬉し泣き?
「瑞鳳、ありがとね。こんな頼りないお姉ちゃんなのに・・・、最後まで、好きでいてくれて・・・!」
泣き声をあげた祥鳳の言葉は続かなかった。
そっか。
ようやくわかった。
祥鳳もちゃんと私を妹として見てくれてた。
あなたも、私と同じ気持ちだったんだね。
その日の夕飯はおいしかったけど、いつもよりちょっとしょっぱかった。
翌日の夕方。
会場には瑞鶴や翔鶴、三日月ちゃんや鳳翔さん、龍鳳たちが来てくれた。
「お待たせ」
そして、礼装に着替えた姉も式場にいた。静かな色の和服だったけど、きれいだった。
結婚式のスピーチは祥鳳がやってくれた。ところどころ緊張してセリフを噛んでしまい、みんなが笑ってた。
そんなドジなところも祥鳳らしい。
ちょっと頼りない姉だけど。
ううん、こんな姉だから、私は大好きなんだよ。
「おめでとう、瑞鳳」
姉は花束を渡してくれた。綺麗な赤い花束を。
今度は私が泣かされる番だった。
「・・・ありがとう、お姉ちゃん」
化粧が崩れないように涙を拭くのが大変だった。
ありがとう、祥鳳。
あなたが、私にとって、最高のお姉ちゃんです。
瑞鳳ちゃん誕生日おめでとう、というわけで書いてみました
なお、晩餐の場に大鯨がいなかったのは二人に気を遣ったからです
ttp://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5443594
より、作者本人により転載しました(一部改変して投稿)
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