「赤信号」「青信号」 (5)

排気ガス交じりの生ぬるい風が鼻を掠める。

半そでにはまだ早い6月の頭、午後1時、日差しが強くて目が痛い、そんな帰り道。

錆びた自転車のチェーンがキシキシと音を鳴らす。

隣の彼女の歩くスピードに合わせて、ペダルを漕ぐ。

赤信号

「もう」

「すっかり夏だね。」

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青信号

「いや、まだ六月、だし、微妙に、寒い。」

「私は熱い。」

「そっか、それは、仕方ない、ね。」

会話が途切れる、いつものこと。

「でも、さ。」

「ん?」

「梅雨、とか、あるし。」

「ここ北海道じゃん。」

「あ、そうだ。」

「梅雨ないよ。」

「一年、たつのに、忘れちゃう、ね。」

「私はまだ二か月。」

「ああ、そうだった。」

青信号

「いや、まだ六月、だし、微妙に、寒い。」

「私は熱い。」

「そっか、それは、仕方ない、ね。」

会話が途切れる、いつものこと。

「でも、さ。」

「ん?」

「梅雨、とか、あるし。」

「ここ北海道じゃん。」

「あ、そうだ。」

「梅雨ないよ。」

「一年、たつのに、忘れちゃう、ね。」

「私はまだ二か月。」

「ああ、そうだった。」

二か月、そうだ二か月たった。

それでもいまだに彼女との距離感を掴めずにいる。

うまく話そうとしなくても、どうしても次の言葉を選んでしまう。

たった一言でも間違えてしまったら、崩れていきそうで、怖くなる。

離れてしまいそうで、とても、怖くなる。

実際、そんな簡単に離れていくことはないのだろうけど。

交差点が近い、そろそろ彼女と別れる場所。

赤信号、また引っかかった。

「じゃあ、ここで。」

「ん、じゃねーまた明日。」

「また明日、じゃあね。」

青信号、交差点を後にして一人の家路を歩く。

パン屋、喫茶店、駄菓子屋、ここからの帰り道には常に甘苦いにおいが漂っている。

お腹が減った、早く帰ろう。

少し前の考え事も、空腹の前では無力だった。

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