ひなた「かたつむりだねぇ」 (22)

ひなた「雨だべ」

瑞希「降りますか」

ひなた「うん、雨の匂いがするからもうすぐ」

瑞希「私にはそんな風に見えませんが……すごいぞ、お天気博士」

ひなた「えへへ、そったら大したもんじゃないべさ。瑞希さん、傘あるかい?」

瑞希「普段は折り畳み傘を鞄に入れているのですが、今日は忘れてきたようです」

ひなた「したっけ、あたしの傘一緒に使お。風邪引いたら大変だもん」

瑞希「ありがとうございます、木下さん」

ひなた「あ」

瑞希「あ」

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瑞希「降って来ました……ざーざー」

ひなた「ね?」

瑞希「はい。すごいぞ、ひなた博士」

ひなた「えへ、そんなに褒められたらこちょばゆいでしょや」

瑞希「では、帰りましょうか」

ひなた「うん、あ、あわわ」

瑞希「? どうかしましたか」

ひなた「傘、あたしが持つよぉ」

瑞希「私が持ちます、お姉さんなので」

ひなた「……そうかい? 疲れたらいつでも代わるよ?」

瑞希「はい、頼れるお姉さんです」

ひなた「えへ」

瑞希「頼れるのです」

ひなた「ちょっこし冷えるねぇ」

瑞希「はい、戻ったら温かいココアを飲みましょう」

ひなた「あたし、あれ好きだわぁ。おなかからポカポカしてきて」

瑞希「私も好きです。コーヒーも同じぐらい好きです」

ひなた「コーヒー?」

瑞希「悪魔の様に黒く、地獄の様に熱く、天使の様に純粋で、そして、愛の様に甘い。コーヒーを表した言葉です」

ひなた「はー、あたしには苦くって飲めないよぉ。瑞希さんはやっぱりお姉さんなんだねぇ」

瑞希「はい、お姉さんです……どんどん頼って、いいんだぞ」

ひなた「うん、頼りにしてるべさ」

瑞希「公園も寂しいですね」

ひなた「うん、いつもは子供がいっぱい遊んでっけど、雨だもん」

瑞希「……」

ひなた「瑞希さん、そろそろ雨もやみそうだし、雨宿りしないかい?」

瑞希「はい、博士の仰せのままに」

ひなた「博士じゃないべさー、えへへ」

瑞希「東屋に向けて、全軍前進します。ごー」

ひなた「ごー、だべ」

瑞希「傘を持ち続けて、少し疲れていました」

ひなた「おつかれさま、瑞希さん」

瑞希「木下さんは歩き疲れてませんか?」

ひなた「うん、あたし元気だけが取り柄だもん」

瑞希「……そうですか、よかった」

ひなた「あ、瑞希さん瑞希さん」

瑞希「はい。おや」

ひなた「かたつむりだねぇ」

瑞希「かたつむりですね」

ひなた「丸っこくてかわいいねぇ」

瑞希「かわいいのか……のそのそ」

ひなた「でーんでーんむーしむーしかーたつーむりー♪」

瑞希「おーまえーのあーたまーはどーこにーあるー♪」

ひなた「ツノだせヤリだせ♪」

瑞希「あたまーだせー♪」

ひなた「よく見るといっぱいいるねぇ」

瑞希「どこに隠れていたのか、みんな元気に走り回ってます」

ひなた「ちびっこくてかわいいねぇ」

瑞希「かわいいのか……にょきにょき」

ひなた「瑞希さん、かたつむりってなんでこったら重そうなものしょってるんだろか」

瑞希「殻ですから。いえ、ダジャレではないです」

ひなた「? あたしね、思うんだぁ」

瑞希「はい」

ひなた「これしょってるから食べられないけど、これしょってるから走れんのでない?」

瑞希「なるほど」

ひなた「それとも、殻しょってなくてもやっぱり走れんのかなぁ……ちびっこくてノロマで、かたつむりもゆるくないねぇ。あたしとおんなしだわ」

瑞希「木下さんと?」

ひなた「あたしね、ちょうちょが好きなんだわ。あっちの花からこっちの花にひらひら~って」

瑞希「色鮮やかで、華麗です」

ひなた「ね。あたしも、そんな風になりたいなぁって思ってたらここの社長さんに呼ばれて」

瑞希「765プロに所属することになったのですが。蝶々の仲間入り」

ひなた「ちょうちょになれたーって、嬉しかったんだけどねぇ。やっぱり、かたつむりなんだわ」

瑞希「そんなこと」

ひなた「あるよぉ。あたし、何やってもノロマで……ちょうちょって、桃子センパイみたいな人を言うんでないかな」

瑞希「……」

ひなた「キラキラ、ヒラヒラで、なまらめんこくって、あたしみたいなかたつむりがちょうちょになりたいなんて思っちゃ」

瑞希「気合のお姉さんビンタを執行します」

ひなた「へ?」

瑞希「瑞希ちょーっぷ」

ひなた「ふぎゃ!」

瑞希「それ以上私の大切な仲間の悪口を言うなら、木下さんと言えど怒ります。手も上げます」

ひなた「も、もう瑞希さん怒ってるべさ」

瑞希「怒っています、手も上げました。我慢の限界でした、すみません」

ひなた「痛くなかったから、それはいいけれども」

瑞希「木下さん」

ひなた「うん?」

瑞希「雨、止みましたね」

ひなた「あ、ほんとだねぇ」

瑞希「ここでお天気博士の木下さんにとびきりのマジックをお見せします」

ひなた「え、はあ。お天気博士でないけれども」

瑞希「まずはこちらの縦縞のハンカチ。何の変哲もないただのハンカチですが丸めて丸めて、木下さん、力を貸してください」

ひなた「え? え?」

瑞希「私の握り拳の上に手を、そうです、そのまま念じてエネルギーを送ってください」

ひなた「は、はい! えーい、えーい!」

瑞希「おお、すごいパワーが流れ込んで来ています。木下さんの太陽の様に暖かなエネルギーでハンカチが、木下さん、瞬きしてはいけませんよ?」

瑞希「はいー」

ひなた「わあ!」

瑞希「なんと、縦縞のハンカチが横縞に」

ひなた「すごいべさ! 瑞希さんのマジックはやっぱりすごいよぉ!」

瑞希「あの、ここは突っ込むところで、そんなに褒められると、ちょっと」

ひなた「?」

瑞希「次のマジックに行きましょう……眩しいぞ、負けるな瑞希」

ひなた「次はどんな手品なんだろか」

瑞希「今木下さんのパワーをもらったこのハンカチ、実はまだまだエネルギーが残っています」

ひなた「一生懸命念じた甲斐があったよぉ」

瑞希「少し失礼」

ひなた「わっ。瑞希さん前が見えないべさ」

瑞希「このハンカチを顔から退けた時、木下さんはこの世で三番目に綺麗な物を目の当たりにします」

ひなた「何だろか、楽しみだわぁ」

瑞希「ハンカチに更に私のエネルギーも加えるためこちらへ。転ばない様、気を付けてください。はい、では行きますよ、三、二、一……」

瑞希「はいー」

ひなた「わあ!」

瑞希「ご覧の通り、何もなかった空に虹が」

ひなた「綺麗だねぇ、すごいねぇ瑞希さん!」

瑞希「まだまだ序の口です。ハンカチにはエネルギーがたっぷり残ってます、次はこの世で二番目に綺麗な物を見せます」

ひなた「うん!」

瑞希「今度はエキストラの方にも手伝って頂きましょう、こちらの方々です」

ひなた「あ」

瑞希「はい」

ひなた「かたつむりだねぇ」

瑞希「かたつむりの皆さんです、既にステージに上がってやる気は充分のようです」

ひなた「これが二番目かい?」

瑞希「焦ってはいけません。目を離してはいけませんよ木下さん、このハンカチを被せ、よく見ていてください、行きます、ワン、ツー、スリー……」

瑞希「はいー」

ひなた「わあ!!」

瑞希「見事、かたつむり達は美しい蝶々に変身しました」

ひなた「すごいすごい、すごいよぉ! 瑞希さん、あたし感動しちゃったべさ!」

瑞希「それは良かったです。ですがこの世で三番目に綺麗な物、二番目に綺麗な物を見てもう満足ですか?」

ひなた「え? んー、と……」

瑞希「まだあります。取って置きの、世界で一番綺麗な物」

ひなた「あたし、そんなの見せてもらって、いいんかい?」

瑞希「今なら木下さんにだけ特別にお見せします」

ひなた「したっけ、お願いします!」

瑞希「と思いましたが、ハンカチがエネルギー切れのようです」

ひなた「ええ!?」

瑞希「大丈夫です、元々木下さんが込めたパワーなので、また木下さんの力を借ります」

ひなた「またハンカチに念じるのかい?」

瑞希「いえ、手の平を顔に当てて、そうです。私のエネルギーも加えましょう、むむむ」

ひなた「前が見えないけれども……えーい、えーい!」

瑞希「まだ足りませんね、今度は大地の力も借りましょう。こちらへ、足元に気を付けてください」

ひなた「う、うん……うん? ここにかがまるのかい?」

瑞希「はい。しゃがんで、両足の裏から大地のエネルギーが流れ込んで来るのが分かるはずです」

ひなた「なんだか体がポカポカしてきたよぉ」

瑞希「いい調子です、そのポカポカを手の平から目に送るのです」

ひなた「えーい、えーい!」

瑞希「むむむ、すごいエネルギーです。これなら世界で一番綺麗な物が見られるはずです。合図で手を離して、目を開けてください」

ひなた「うん! どんなだろ、楽しみだわぁ」

瑞希「行きますよ、ワン……ツー……スリー……」

瑞希「はいー」

ひなた「わ……あ? 瑞希さん?」

瑞希「はい」

ひなた「水たまりだべ」

瑞希「その中です」

ひなた「どろんこ?」

瑞希「いいえ。よく見てください、木下さん」

ひなた「……もしかして、あたしかい?」

瑞希「はい、世界で一番綺麗だった木下さんです」

ひなた「そんな、あたしなんかとてもとても……え、だった?」

瑞希「はい、先程までの笑顔の木下さんは世界で一番綺麗でした。今はしょんぼりした顔で一番ではありません」

ひなた「瑞希さん……」

瑞希「かたつむりは、蝶々になれましたよ」

ひなた「おなかからポカポカするねぇ」

瑞希「はい、温まります」

ひなた「また雨だねぇ」

瑞希「はい、よく降ります……しとしと」

ひなた「虹、もっかい見られるかな?」

瑞希「はい、雨の後には虹がかかります」

ひなた「あたし、ちょうちょでいいんかな?」

瑞希「はい、私も木下さんも蝶々です」

ひなた「えへへ」

瑞希「はい」

ひなた「……瑞希さん、ありがとねぇ」

瑞希「お姉さんで……いえ。大切な、仲間ですから」



終わり

お姉さんしてるまかべーよかった
乙です

>>1
木下ひなた(14) Vo
http://i.imgur.com/2nOV30x.jpg
http://i.imgur.com/BPTpCVj.jpg

真壁瑞希(17) Da
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