瑞希「不幸で始まり、笑顔で終わります」 (35)

ミリオンライブのSSです。
拙い文章ですが、よろしくお願いします。

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「あっ!? ど、どうしよう! 忘れてきちゃった……」

 事務所に戻ってきて、私が最初に聞いたのは箱崎さんの慌てる声でした。

「箱崎さん、どうかしましたか?」

 鞄の中を見ていた箱崎さんが私を見ます。……ちょっぴり涙目です。

「瑞希さん……それが……お弁当を忘れてきちゃったみたいで……」

 今はお昼です。なのにお弁当がない、非常にまずい状況です。

「プロデューサーは……営業でしたね。音無さんもいないみたいです」

 事務所には私と箱崎さんだけ。きっとみんな思い思いの場所でご飯を食べているのでしょう。


「家に電話して持ってきてもらおうと思ったんですけど、今からだとレッスンの時間に間に合わないんです……」

「つまりこのままだと、箱崎さんはお腹を空かせたままレッスンに行くことに……それはまずいぞ」

 箱崎さんもどうしましょう、と暗い表情です。ここは私がなんとかしないと。ぐっ。

「……思いつきました。今日は私が奢ります。……なんだかお姉さんっぽいです」

「えっと、奢るってお金を出してもらうってことですよね? そんなの瑞希さんに失礼ですよ!」

「大丈夫です。こう見えてお金には余裕があります。……嘘です。そこまで余裕ありませんでした」

 財布の中を覗いたら一人分とちょっとぐらいしかお金がありませんでした。


「私が忘れてきちゃったのが悪いんです……。でも食べなくても平気ですから! 瑞希さんありがとうございます!」

 箱崎さんがやせ我慢で言っていることぐらいわかります。でもどうしたら……考えろ、瑞希。

「ごきげんよう! ってあら? 瑞希と星梨花だけですの?」

 ……そうです。二階堂さんならきっと助けてくれます。勇気を出すぞ。おー。

「二階堂さん、お願いがあります。箱崎さんのおひりゅ……噛みました。お昼ご飯を助けてあげてください」

「えっ!? ど、どういうことですの!?」

「それがその…………」

 箱崎さんが今の状況を説明します。私もお金があまり無いことを説明します。


「……わかりましたわ! 星梨花の分は、セレブであるこの二階堂千鶴がお出ししますわよ!」

 二階堂さんの高笑いが部屋に響き渡ります。さすがは二階堂さん、セレブです。

「すみません……私が忘れたせいなのに、千鶴さんにも迷惑かけちゃって……」

「星梨花、気にすることはありません。これは星梨花へのご褒美ですわ」

「ご褒美……?」

「そうですわ。いつも頑張ってて、皆を笑顔にしてくれる星梨花への感謝の気持ちですわ」

「箱崎さん、笑ってください。ご飯は楽しく食べるのが一番です。私も笑います……にっこり」

「……全然変わっていませんわよ?」

「うぅ……瑞希さん、千鶴さん、ありがとうございます! えへへ!」

 失敗してしまいました。でも箱崎さんの笑顔が戻ったので、良しとします。


「それでは行きますわよ! わたくしに付いてきなさい!」

「はい。箱崎さん、行きましょう。れっつごー」

「はいっ!」

 三人でお話をしながら歩きます。劇場を出て、街をブラブラ。

 外はむしむしと暑いです。早くお店を見つけないと……あ。


「二階堂さん、何を食べるか決めてますか?」

「……そういえば何を食べるか決めていませんでしたわ。星梨花は何か食べたいものあります?」

「うーんと……特には……」

「私も決めていませんでした。でも、あまり高くないほうが嬉しいです」

「わたくしも余裕があるわけではありませんし……安くて色々料理がある場所……」

 キョロキョロと辺りを見回します。

「あっ」

「どうしました星梨花? 行きたいお店が見つかりましたの?」

「あそこにあるお店なんですけど」


 箱崎さんが指さした看板は……

「ファミレス、ですね。色々食べられてお手頃価格。私たちにぴったりかもしれません」

「そうですわね。それではあそこにしましょうか。行きましょう!」

 店内に入ります。さっきまでの暑さは嘘のようになくなり、涼しげな空気に包まれます。ひんやり。

 店員さんに三名と……あと禁煙席で、と伝えます。箱崎さんがいますからね。

「ふぅ……やっと落ち着けますわ」

 席に座ります。二階堂さんはさっとメニューを広げて真剣に眺めています。

 ですが、箱崎さんは落ち着かないのかキョロキョロとしています。


「箱崎さん、どうかしましたか?」

「あっいえ、こういった場所は初めてなのでなんだか珍しくて。うわぁ……素敵なお店ですね!」

「星梨花、これがメニューですわ。料理もたくさんありますし、頼めば何度でもおかわりできるドリンクバーもありますわよ!」

「すごいです! こんなにたくさんあるんですね!」

「とりあえずドリンクバーは頼むとして、わたくしはこのドリアにしますわ」

 私は……決めました。

「ドリンクバーと、スパゲティにします。おいしそうです」

「星梨花はどうします? も、もちろんなんでも頼んでいいですわよ! わたくしの奢りですから!」

 二階堂さん、太っ腹です。あ、太っ腹はアイドルとしてまずい気がします。頼れるお姉さん、と思うことにします。


「えへへ、ありがとうございます! それじゃあ……」

 箱崎さんがメニューを捲ります。ハンバーグやステーキのページを真剣な様子で眺めています。

「ステーキ……1000円……ドリンクバーも入れると……デザートの可能性も……」

 二階堂さんもなにやら真剣な様子。きっと箱崎さんの食べたいものを一緒に考えているのでしょう。

「決めました! 私はこのオムライスとドリンクバーにします!」

「……オムライス500円ドリンクバー200円、これならデザートもいけますわ。良かったですわ……」

「全員決まったみたいです。二階堂さん、早速注文しましょう」

「えっ!? ああ、そうね!」


「あの、注文ってどうやるんですか? 店員さんを呼ぶんですか?」

「注文はこのボタンを押します。すると、店員さんが来てくれます。箱崎さん、押してみますか?」

「いいんですか? やってみたいです!」

 箱崎さんは目を輝かせながらゆっくりボタンを押すと、すぐに店員さんが来ました。

「うわぁ……! ほんとに来てくれました……!」

「ふふっ、そうですわね。えっとドリアとオムライスとスパゲティ、それとドリンクバー三人分をお願いします」

 注文を聞いた店員さんは戻っていきます。それでは私たちも動きましょう。

「ドリンクバーに行きましょう。箱崎さん、あそこにあるものは選び放題です」


 席を立ちドリンクバーに向かいます。よし、何を選ぶか考えます。

「わたくしは紅茶をいただきますわ。星梨花も同じものにします?」

「はい! それにしても、紅茶にコーヒーに、ジュースもたくさんありますね!」

「箱崎さん、ドリンクバーの可能性はもっとあります。私は、これとこれを混ぜます。まぜまぜ」

 配分は7対3。密かに研究していた私のお気に入りです。

「なんだか懐かしいですわね……わたくしも学生の頃はよくやりましたわ」

「こんな色の飲み物見たことないです……本当においしいんですか?」

「組み合わせによってはおいしいですわよ。変なものも入っていないようですし、まぁ自己責任ですわね。」

 席に戻ります。箱崎さんにマジマジと見られながら飲むのは、ちょっと恥ずかしいですが。ストローを用意して、いざ。


「……どう、ですか?」

「……はい、とってもおいしいです。箱崎さんも飲んでみますか?」

「いいんですか? それじゃあ……」

 箱崎さんにコップを渡します。箱崎さんはびくびくしながらもストローに口をつけて、ゆっくりと吸い上げます。

「……ん! お、おいしいです! 瑞希さん! なんだか不思議な味でとってもおいしいです!」

 どうやら箱崎さんに気に入ってもらえたようです。やったぞ。

「わたくしも一口いただきますわ。……うん、なかなかやりますわね!」

 二階堂さんにも褒められてしまいました。恥ずかしいけど、嬉しい。


「あら、料理が来たみたいですわよ」

 店員さんが私たちの頼んだものを持ってきてくれました。あつあつです。とってもおいしそうです。

「それでは。いただきます、ですわ!」

 二階堂さんに続くように私と箱崎さんも、いただきます。

「くるくる……ふぅ…ふぅ……うん、おいしいです」

「このオムライスもトロトロでおいしいです!」

「このドリア……なかなか……おいしいですわね。ま、まぁ庶民のレベルとしてはですけど!」

 お腹が減っていたこともあってどんどん食べていきます。空腹は最高の調味料です。


「瑞希はファミレスをよく使いますの?」

「はい。学校の帰り道や習い事からの帰り道でよく寄り道していました」

「千鶴さんもとっても詳しいですよね! よく来るんですか?」

「うぇ!? そ、そうですわね! 庶民の生活を知ることもセレブの務めですから!」

「二階堂さん、セレブなのにとっても身近に感じます。不思議です」

「千鶴さんは頼れるお姉さんって感じで私、憧れてます! 私も早く大人な女性になりたいなぁ」


「ほ、褒めてもなにも出ませんわよ! でも、デザートぐらいなら奢って差し上げますわ!  おーっほっほっほっほ!」

「い、いいんですか?」

「構いませんわよ。今を楽しむために、お金は惜しまないのが二階堂流ですわ!」

 おー、と思わず拍手してしまいます。二階堂さんはすごいです。私もこんなお姉さんになりたいな。

「いけない、料理が冷めてしまいますわ。話の続きは食べ終わってからにしましょう」

 そうでした。止まっていた手を動かします。

 なんだか、さっきよりもおいしい。たぶん、さっきよりも幸せな気分で食べているからでしょうか。

 箱崎さんとも、二階堂さんとも、仲良くなれた気がします。たぶん。


「ごちそうさまでした! おいしかったですわ!」

「お腹いっぱいです!」

「私も大満足です。でも、デザートは別腹です」

「どれにします? わたくしはこのケーキにしますわ」

「私はこのプリンを食べてみたいです!」

「私は……このゼリーを」

「決まりましたわね! ボタンを押して、と」

「あ、私が言います! えっとこのケーキと、このプリンと、このゼリーをお願いします!」


「飲み物も取ってきましょう! わたくしも久々に混ぜてみますわ!」

「それじゃあ私も挑戦してみようかな? 瑞希さん! どうしたらいいですか?」

「箱崎さんなら、これとこれを組み合わせると良いと思います。こっちを多くすれば甘くなります」

「ふっふっふ……二つと言わず、わたくしは全部を混ぜますわ!」

「ほんとだ! とっても甘くておいしいです!」

「私も新しい組み合わせに挑戦。おいしい……とは言えないものに。がっくし」

「全部混ぜたら味がまったくわからないですわ……おいしい、のかしら?」


「箱崎さん、ここにくしゃくしゃにしたストローの袋があります。これに水を垂らすと……じゃん」

「わわっ! 勝手に動いて伸びていきます! すごいです!」

「それじゃわたくしも! 紙ナプキンで作った蝶々ですわ!」

「すごいすごい! 千鶴さんすごいです!」

「あっ、デザートが来ました。どれもおいしそう」

「一口ずつ交換しましょう! そうすればみんな食べられますわ!」

「甘くておいしい。幸せです」

「おいしいですわね! 甘いものは元気の源ですわ!」

「なんだかとっても幸せです~!」



 ……気付けばあっという間に時間が過ぎていました。楽しくて考えている暇もなかったです。

 会計を済ませて外に出ます。相変わらず蒸し暑いですが、私たちは笑顔で会話を続けます。

 二階堂さんは話し上手で色々おもしろい話をしてくれて、そのたびに箱崎さんはコロコロと表情を変えます。

 素直な箱崎さんはなんでも喜んでくれたり、驚いたりしてくれます。話すのが苦手な私も、安心できます。

 今までこの三人で一緒にいたことはありませんでした。なのに、今では昔から一緒だったような気がします。

 ……こんなことを思うのは失礼かもしれませんが、箱崎さんが忘れてくれなければ、この時間はありませんでした。

 不幸なことも誰かと一緒なら、笑顔に変えることができるんですね。そう考えると、不幸も悪いものではないです。


「瑞希? 何を考えてますの?」

「あの、今日は幸せな日だなと考えてました」

「瑞希さんと千鶴さんのおかげですね! 今日は本当にありがとうございました!」

「大したことはしていないですわよ! 星梨花と瑞希が楽しんでくれて嬉しいですわ! 星梨花は今度から気をつけなさい?」

「はい! 今日はお二人に貰ってばかりでしたから、いつか絶対にお返ししますね!」

「ふふっ、楽しみにしてますわよ!」


「瑞希さんもありがとうございました! 瑞希さんが声をかけてくれたおかげです!」

「箱崎さん、困ってる時はお互い様です。それに、私のほうこそお礼を言いたいです」

「お礼、ですか?」

「はい。私は話すのが苦手なので、友達も少ないです。ですから、今日は二人と仲良くなれたような気がして、とても嬉しかったです」

「なので、箱崎さん、二階堂さん、ありがとうございます」

 頭を下げて、固まってしまいます。私の勘違いだったら、そう思うと怖くて顔を上げることができません……


「瑞希さん……気のせいじゃないですよ! 私たちは仲良しです! ですよね千鶴さん!」

「もちろんですわ! また三人で遊びに行きましょう!」

 そんな私を、二人は迎え入れてくれました。顔を上げると、笑顔の二人がそこにいました。

 なんでしょう、この気持ちは。これが絆、というものなのでしょうか。

 上手く整理することができない感情がぐるぐると渦巻きます。ですが、言うべき言葉は見つかりました。


「二階堂さん、箱崎さん。これからもよろしくお願いします」

 二人はちょっとだけ驚いた顔をしたあと、よろしくお願いします、と言ってくれました。

 それから、止まっていた足を動かして、三人並んで事務所へと歩きだしました。


 歩きながら、二人に気付かれないように顔を触ってみます。いつの間にか、口角が上がっています。

 ……今度は失敗せずにできたようです。皆でにっこり、です。


おわりです!

ここからはおまけとなります!


「おはようございます! あっ! 千鶴さん、おはようございます!」

「せ、星梨花!? お、おはようですわ!」

「あれ? どうかしましたか」

「なんでもないですのよ? おほほほ……」

 扉越しにそんな声が聞こえてきました。箱崎さんと二階堂さんがいるようです。

 ドアから顔を出して二階堂さんを呼びましょう。箱崎さんに気付かれないように、こっそり。


「二階堂さん……ちょっとお話ししたいことがあります……」

「ん? あっ! わ、わかりましたわ……星梨花! ちょっと用事を思い出しましたわ! それでは!」

 二階堂さんが慌てて向かってきます。箱崎さんはキョトンとした様子ですね。気付かれてはいないはず。

 廊下をちょっと進んだところで止まります。誰かに聞かれないように小声で話します。

「瑞希……もしかして、瑞希にもなにか届きましたの?」

「はい……クロスワードの本やマジック道具、他にもパーティグッズなどがたくさん……」

 私の欲しかったものが大量に届きました。今日も少し持ってきています。


「わたくしはお米が……しかも最高級のですわ……。高いお米はやっぱり味が違いましたわ……」

 二階堂さんにも届いていたみたいです。

「差出人には箱崎グループとだけ書いてありました……」

「わたくしもですわ……これって、あの時のお返しですわよね……?」

「箱崎さんはなにも知らないみたいです……おそらく箱崎さんからご両親に伝わったからでしょう……」

「それはつまり……ご両親に目をつけられたと考えるべきですわね……」


「あれ? 千鶴さんに……瑞希さん?」

「星梨花!? ええ、ちょっとお話をしてたのですわ! それでは用事がありますので!」

「行っちゃいました……あの、瑞希さん、おはようございます!」

「おはようございます、箱崎さん。えっと、新作のマジックがあるのですが見ますか?」

 いつも通りを意識します。でも、ちょっとだけドキドキ。

「いいんですか? ぜひ見てみたいです!」

 事務所に入ります。それにしても、箱崎さんのお家、噂通りみたいです。

 たまに、プロデューサーが箱崎さんといると怯えた表情をしていた理由がわかった気がします。

 私も、箱崎さんの友人と認められたのかはわかりません。

 ですが、これからも三人で仲良くできるよう、私なりにがんばるぞ。おー。

終わりだよ~(o・∇・o)
瑞希と星梨花と千鶴が仲良くしてるところを見たくて書きました。三人ともかわいいです。
読んでくださったみなさん、ありがとうございました。
三人の魅力が少しでも伝えることができたのなら幸いです。

続編もちょっとだけ考えてます。もちょっと。
いつになるかわかりませんが……

それでは、本当にありがとうございました。

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