勇者「て、てめえっ!なにしやがるっ!?」
幼女魔法使い「ワ~、勇者さんが怒ったぁ~♪」
勇者「ふざけんなコラっ!お尻ぺんぺんの刑だぞ!コラっ!」
魔法使い「ワ~、逃げろ~!」ダッ
勇者「コラァ!待ちやがれ~!」ダッ
魔法使い「キャ~!キャ~!」クスクス
女僧侶「コラッ!勇者様っ!」
勇者「ゲ……僧侶…さん……」
女僧侶「また、魔法使いちゃんを苛めて!こんな小さい子を苛めるなんて、何を考えてるんですっ!」
勇者「ち、違ぇよっ……!」アセアセ
魔法使い「わ~、勇者さんがお尻ぺんぺんするって~」クスクス
女僧侶「……勇者様?」ギロッ
勇者「違ぇよっ!苛められてたのは俺だって!」
―――――――
男戦士「……随分、搾られたようだな?」
勇者「あぁ……クソッ、膝痺れたぜ……くそっ、あのガキめ……」ブルブル
戦士「……そう言うな。お前に構ってもらいたいんだろう」
勇者「……ハァ!?」
戦士「あの子はお前の事を、兄のように感じてるのではないか?」
勇者「ヤ~ダ~よっ!面倒臭ぇっ!」
戦士「そう言うな。少しぐらい、戯れてやれ」
勇者「ヤダよっ!アイツ、強ぇもんっ!」
勇者「本気で戦ったら、俺負けるぜ!?」
戦士「………」
勇者「ガキは加減知らねぇから怖ぇよ。ただでさえ、毎日必死なのによぉ……」
戦士「……時代も変わったからな」
勇者「……ん?」
戦士「今は武術で戦うより、魔術で戦う時代だからな……」
勇者「………」
戦士「……我々は、時代に取り残された人間なのかもしれんな」
勇者「………」
翌日――――
魔物「グキャーーッ!」
勇者「おっ……うおっ、くそっ……!」
戦士「勇者、下がれっ!ここは私に任せろっ!」
勇者「……くっ」
魔物「グギャーーッ!」
勇者「……うおっ!?」
戦士「勇者!下がれっ!」
僧侶「勇者様っ!」
魔法使い「ゆうしゃさんっ!」
勇者「……くそっ」
戦士「次は私が相手だっ!行くぞっ!」ダッ
魔物「……ウガッ?」
戦士「はっ!たぁっ!」
魔物「……ギャーー!」
勇者「………」
戦士「てやっ!たぁっ!」
魔物「グギャァ!ギャーーッ!」
魔法使い「おじさんっ!どいてっ!」
戦士「うむっ!頼むっ!」サッ
魔物「……ガッ?」
魔法使い「いくよ~!たぁ~!」ボッ
魔物「ギャーーッ!」メラメラ
女僧侶「勇者様っ!今のうちに手当てを!」
勇者「えっ?あぁ……」
戦士「うむっ。流石、魔法使いちゃんだな」
魔法使い「えっへん」
僧侶「お二人共、怪我はありませんか?」
戦士「うむ。我々は大丈夫だ。それより、勇者を」
勇者「えっ……いや、俺はもう大丈夫……」
魔法使い「えへへ。『パリみじクリムゾンフレア』だね?」
戦士「……何だ、それは?」
魔法使い「おじさん、つまんないっ!」ツーン
戦士「ハハッ!すまないな。私は最近の事には疎くてな!」
魔法使い「ねぇねぇ!『パリみじクリムゾンフレア』だよね!ゆうしゃさんっ!」
勇者「……えっ?」
魔法使い「ねっ、ねっ!?」ワクワク
勇者「あぁ、そうだけど……僧侶さんも入れてあげてもいいんじゃねぇか……?」
魔法使い「あっ、そっか!じゃあね……ん~と、ん~と……」
戦士(なぁ?『パリみじクリムゾンフレア』って、何だ?)
僧侶(……さぁ?)
―――――――
勇者「……何が時代遅れの人間だよ」ボソッ
戦士「……ん、どうした?」
勇者「あんた、めちゃめちゃ戦えてんじゃねぇかよ!全然、強ぇじゃんかよっ!」
戦士「……そりゃあ、場数が違うさ」
勇者「?」
戦士「私はお前が赤ん坊の頃から魔物と戦い、お前が生まれる前から剣の稽古をしていたのだぞ?」
勇者「……うっ」
戦士「お前はまだ若いんだよ」
勇者「……」
魔法使い「ねぇねぇ!あそぼあそぼ~!」タッタッタ
勇者「……ゲッ!」
戦士「……そう邪見な顔をするなよ」
魔法使い「ねぇ!あそぼうよ!」
勇者「ヤダっ!俺はヤダっ!」
魔法使い「え~!?」
戦士「じゃあ、おじさんが遊んであげよう。ケンケンパーでもするかい?」
魔法使い「ヤダっ!おじさん、つまんないからヤダっ!」
魔法使い「ゆうしゃさん、あそぼっ!」
勇者「ヤダっ!俺はヤダっ!」
魔法使い「え~!」
戦士「少しぐらい、いいだろう?」
魔法使い「ねぇ~?」
勇者「ヤダっ!絶対にヤダっ!」
魔法使い「ケチ~!えいっ!」
勇者「うおっ、あちっ!あっち!」
勇者「て、てめえっ!なにしやがるっ!?」
幼女魔法使い「ワ~、ゆうしゃさんがおこったぁ~♪」
勇者「ふざけんなコラっ!お尻ぺんぺんの刑だぞ!コラっ!」
魔法使い「ワ~、にげろ~!」ダッ
勇者「コラァ!待ちやがれ~!」ダッ
戦士(……何処かで見た光景だな)
勇者「へへ……今日は掴まえたぞ……」
魔法使い「ワ~!はなせ~、はなせ~!」ジタバタ
勇者「へへ……ダ~メだ。今日こそは許さねぇ……お尻ぺんぺんの刑だ……」
魔法使い「や~め~ろ~!」ジタバタ
勇者「まずは、パンツを脱がせ……ぐおっ」
魔法使い「?」
女僧侶「何を……しているんですか……?」ワナワナ
勇者「いやっ、違っ……!あの……これはっ……!」アセアセ
前略、父さん
偉大なる勇者である貴方の息子という理由で、私は魔王退治の旅をしています。
仲間には、場数を踏んだ戦士と、私と同年代の僧侶と、完全に幼女の魔法使いがいます。
私は幼い頃から、偉大な勇者の貴方に剣の稽古をつけてもらいました。
……が、時代は変わったのです。
父さん、今は武術より魔術で戦う時代です……
父さん、ぶっちゃけ、僕はパーティーで一番弱いです!
父さん、正直、僕、この旅投げ出したいです
勇者「……」カキカキ
魔法使い「う~ん……むにゃむにゃ……えいっ……」
勇者「……冷たっ!今度は冷たっ!」
翌日───
魔法使い「おか~をこ~え、ゆこ~よ♪くち~ぶえ~ふきつ~つ~♪」テクテク
戦士「魔法使いちゃんは元気だな」
魔法使い「そら~は、す~みあお~ぞら~♪まき~ば~をだいて~♪」テクテク
僧侶「フフッ、今日はいい天気ですね」
魔法使い「うたお~♪ほがらに~♪ともにて~を~と~り~、らんらららんらんらららら♪」
勇者「……ケッ、暢気なもんだぜ」
魔法使い「らんらららんら~、ゆうしゃさん~?」
勇者「……ん、何?」キョトン
魔法使い「……うぅ」
勇者「何?どうした?」
魔法使い「うぅ……らんらららんら~、ゆうしゃさん~?」
勇者「えっ、えっ?だから、なんなの?」
僧侶「……違いますよ、勇者様!『がぁ、がぁ』って!」ヒソヒソ
勇者「……えっ?何それ?」キョトン
魔法使い「らんらららんら……ゆうしゃさん……」
勇者「もう!魔法使いちゃん、何なんだよ!?」
僧侶「ここで『がぁ、がぁ』って言うんですよ!」
勇者「もうっ!『がぁ、がぁ』って何だよっ!?おっさん、知ってる!?」
戦士「……私は最近の事はわからん。おっ、次の街が見えたぞ?」
魔法使い「らんらららんら……ゆうしゃさん……」グスッ
勇者「もうっ!何なんだよ!?皆して俺をハメてるんじゃ……ぐおっ!」
僧侶「……バカ」
街────
僧侶「意外と早く着きましたね?」
戦士「そうだな……まだ、日も落ちてない事だし、何か一仕事して稼ぐか?」
勇者「ねぇ?『がぁ、がぁ』って何?」
僧侶「そうですね。簡単な依頼なら問題はなさそうです」
勇者「ねぇっ!?『がぁ、がぁ』って何っ!?」
僧侶「……しつこい。酒場に行きますよ」ゴスッ
勇者「……いたい」ウルウル
酒場────
僧侶「う~ん……あまりいい依頼がありませんね……勇者様?そっちは何かありましたか?」
勇者「お~う!いいのがあったぜ~!見てみろよ、コレ、コレっ!」
僧侶「え~と……うちのフランソワーズちゃんを……探して下さい……?」
魔法使い「あ~、ワンちゃんだ~!」
勇者「どうだ!?この依頼なら、今日中に出来そうだろ!?」
僧侶「……なんですか、コレ」
僧侶「却下です。却下」
勇者「え~!?なんでだよ~!?魔法使いちゃんも探したいよな?フランダースちゃん」
魔法使い「ワンちゃんさがす~♪」
僧侶「却下ですっ!」
勇者「いや、見てみろよ!この報酬!『けん玉』だって!黄金の国に伝わる、子供の遊具だってさ!」
僧侶「……そんなもの、必要ありません」
勇者「いや、魔法使いちゃんのオモチャにぴったりじゃねぇか!?魔法使いちゃんも、けん玉欲しいよな?」
魔法使い「けんだま、けんだま~♪」
戦士「……何か、めぼしい物はあったか?」カツカツ
勇者「おっ?見てくれ、コレっ!うちのフランダースちゃんを……」
僧侶「いえ、こっちは何も……戦士さんの方は……?」
戦士「……少し、危険な仕事だが」
勇者「いやっ、あるってよ!安全な仕事が!ココっ、ココにっ!」
僧侶「え~っと、何々……街の外れの洞窟のモンスターを退治してくれ……ですか。少し、危険ですね……」
戦士「……しかし、報酬は悪くない」
勇者「……お~い」
洞窟前────
魔法使い「ど~くつ、ど~くつ♪」
勇者「……ねぇ?なんで、俺たちココにいるの?」
戦士「……仕事だ」
僧侶「仕事ですよ?ホラっ、行きますよ?」グイッ
勇者「嫌だってっ!ねぇっ!フランダースちゃん探そうよっ!ねぇ?ねぇっ!?」ジタバタ
僧侶「……ワガママ言わない」グイグイ
勇者「ヤダよっ!俺、ヤダよっ!あっ、コラっ!魔法使いちゃん、行くなって!」
魔法使い「~♪」
―――――
勇者「ったく……冗談じゃねぇよ。なんでこんな危険な依頼……」カツカツ
戦士「……心配するな」カツカツ
勇者「……ん?」
戦士「いざとなったら、俺達が守ってやる」
勇者「……ソレ」
戦士「……ん?」
勇者「……勇者が言われる台詞じゃねぇよなぁ?」
戦士「経験さ……」
勇者「ハァ……経験ねぇ……?」
戦士「お前もいつか、誰かに同じ事を言う日がくる」
勇者「……へぇ~?」
戦士「……お前はまだ若い」
勇者「そうは言ってもねぇ……」
魔法使い「あぁ~~~~!」
勇者「えっ!何っ……!?」ビクッ
戦士「どうした!?」ダッ
魔法使い「あしあとがあるっ!」
戦士「……」マジマジ
僧侶「コレ……モンスターの足跡ですかね……?」
戦士「……いや、違う」
僧侶「えっ……?」
戦士「モンスターにしては小さすぎる……もっと、小動物のような……例えば犬……ん……?」
僧侶「……ん?」
勇者「あ」
魔法使い「ふらんそわーずちゃんだっ!」
勇者「なんだよ!?じゃあ、この先にフランダースがいるんだ!?」
戦士「まぁ、可能性は高いな……」
勇者「じゃあ、早く見つけて帰ろうぜ!?よしっ、行こうぜ!」
僧侶「ちょっと……勇者様……?本題はモンスター退治の方ですよ?」
勇者「けん玉貰えるんだぜっ!?魔法使いちゃんもけん玉欲しいよな!?」
魔法使い「けんだま、けんだま~♪」
勇者「よ~し!じゃあ、とっとと見つけて帰るぞ~!」ダッ
僧侶「ちょっと、勇者様……そんなのいりませんってば……」
――――――
犬「クーン」
勇者「おっ?いたいた……お~い、フランダースや~い……」テクテク
戦士「勇者っ!行くなっ!」
勇者「何、言って……」
ザクッ
勇者「……えっ?」
僧侶「勇者様っ!」
魔法使い「ゆうしゃさんっ!」
魔物「キシャーーー!」
勇者「えっ……?何、コレ……血……?」ポタポタ
戦士「私が突っ込むっ!魔法使いは呪文の念唱を!僧侶は援護をしろっ!」ダッ
僧侶「は、はいっ……!」
魔法使い「~~~~~~んっ」
魔物「キシャーーーー」ジリジリ
勇者「うわわ……来るな…来るな……」
魔物「シャーーー」ジリジリ
勇者「来るなっ……来るなって……!」ブンブン
戦士「くそっ……間に合うか……?」ダッ
魔物「シャーーー!」バッ
勇者「わっ……わあぁぁぁ……!」
―――――――
―――――
―――
魔物「グッ……ガッ……」
勇者「えっ……?あれ?俺、生きてる……?」
魔物「ググッ……」バタッ
戦士「………」
勇者「あ、あぁ……おっさんか……助かったよ……」ホッ
戦士「……いや」
勇者「……ん、どうしたの?」
戦士「……こいつは、お前が倒した」
勇者「……え?」
戦士「振り回した剣が、偶然こいつに命中したようだな……」
勇者「えっ……えっ……?」
戦士「コイツは素早く、鋭い爪を持つが、非常に柔い身体を持つ魔物だ……」
勇者「えっ……俺が倒したの……?」
戦士「……私は間に合わなかった」
勇者「俺が……倒した……?」
戦士「……あぁ」
勇者「……一人で?」フルフル
戦士「……あぁ」
僧侶「勇者様っ!大丈夫ですかっ!?」タッタッタ
魔法使い「ゆうしゃさんっ!」トットット
勇者「お、おいっ!見たかっ!」
戦士「……バカっ!動くなっ!傷口が開くぞっ!」
勇者「俺が倒したんだぞっ!一人で倒したんだぞっ!」
僧侶「勇者様っ!いいから座って下さいっ!手当てしますからっ!」
勇者「俺は弱くないぞ……!弱くなんかないぞっ……!強いんだっ!」
僧侶「何、言ってるんですか!そんな大きなお釣りもらって!」
勇者「俺は強いんだっ……!俺は勇者なんだっ!」
僧侶「はいはい……わかってますから……ホラ、座って下さい」
――――――
戦士「……勇者」
勇者「ん、どしたの?」
戦士「……すまない」
勇者「ん、何が?」
戦士「お前を守ると誓ったのに、あんな危険な目に合わせて……だ……」
勇者「あ~、いいって事、いいって事。俺は今、期限いいから許してやるよ」
戦士「……そうか」
魔法使い「ゆうしゃさん、ゆうしゃさ~ん~!」
勇者「……おっ?どうした魔法使いちゃん?」
魔法使い「けんだまもらってきたっ!」ジャーン
勇者「おぉ、フランダースの依頼の褒美か!」
僧侶「……フランソワーズちゃんです」
勇者「似たようなもんだろ……?で、コレどうやって遊ぶの……?」
魔法使い「わかんなーい?」
僧侶「多分、この玉に穴が空いてるのが、何か意味があると思うんですよね……?」マジマジ
勇者「え~?僧侶さんもわかんねぇの~?」
勇者「……これさぁ?ちょっとした、ハンマーなんじゃねぇの?」
魔法使い「じゃあ、このたまは?」
僧侶「この先のトンガリは……?」
勇者「さぁ……?なんだよ、誰も遊び方わかんねぇのかよっ!」
戦士「私はわかる……教えよう……」
勇者「えっ!?おっさん、知ってるの!?」
魔法使い「すごーいっ!」
僧侶「流石、戦士さんですねっ!」
戦士「古いものには、詳しいのでな……」
前略、父さん
今日、初めて己の力のみで魔物を倒しました。
偉大なる貴方を越える日も遠くはありません。
……と、言いたい所ですが、嘘です。
魔物を倒したのは偶然で、覚えているのは、死への恐怖と漏らした小便の臭いのみです。
父さん、こんな情けない勇者、いませんよ!
父さん、貴方は偉大ですが、僕は普通の人なんです、ふつーのひと!
父さん、正直、僕、この旅投げ出したいです
勇者「………」カキカキ
魔法使い「う~ん……むにゃむにゃ……」ガシガシ
勇者「ぐっ……傷口を……蹴るな……」
―――――――
魔法使い「えいっ、えいっ」バシバシ
勇者「……いでっ、いてぇって」
僧侶「そろそろ、次の街に着きますね?」
戦士「そうだな。懐に余裕もあるし、次の街で新しい装備でも買うとするか?」
魔法使い「そうび、かってくれるの!?」バシバシ
勇者「いてぇっての!けん玉を振り回すな!」
戦士「あぁ、魔法使いちゃんは何が欲しい?ロッドか?それとも、ローブか?」
魔法使い「ん~とね……ゆびわっ!」
戦士「……指輪?」
勇者「あっ、てめぇ……そんな無駄遣い……」
魔法使い「と~う!」バシッ
勇者「ぐおっ」
僧侶「多分、魔力増加のための指輪だと思いますよ?」
戦士「……そんなものがあるのか?」
僧侶「はい。魔石を加工した物で、それを装備すれば、魔力が増強するのです」
魔法使い「うんっ!」
勇者「とか言って……自分がただ欲しいだけなんじゃねぇの?」
魔法使い「……むっ」
勇者「僧侶ちゃんみたいなロッドならともかく、指輪だろ?そんなので強く……」
魔法使い「てぃ」バシッ
僧侶「……魔法使いちゃん!?」
戦士「……魔法使いちゃん、それは酷いぞ」
勇者「お、おおっ……けん玉が大事な所に……」ピクピク
魔法使い「つ~ん!」
僧侶「勇者様……?」
戦士「……僧侶ちゃん、あまり見ないでやってくれ。男としては、辛い所だ」
勇者「お、おおっ……」ピクピク
街―――――
魔法使い「ついた~!」
僧侶「では、早速買い物に行きましょうか?」
戦士「……僧侶ちゃん、すまないが、魔法使いちゃんと二人で行ってきてくれるかな?」
僧侶「……えっ?」
戦士「私が付き添っても邪魔になるだけだろう」
僧侶「いえっ、そんな事はっ……!」
戦士「それに、この街には古い知人がいる……少し、会いに行きたい」
僧侶「はぁ……」
戦士「……勇者、お前も付き合え」
勇者「……えっ、えっ?」
―――――――
勇者「なぁ?おっさん、何処行くの?」
戦士「……さっきの話だがな」
勇者「……ん?なんの話?」
戦士「我々の時代にもあった……見かけ優先の防具がな……」
勇者「あ~、魔法使いちゃんの事ね?こっちはむさ苦しい鎧なのに、お洒落な指輪なんて、いい身分だよなぁ!」
戦士「そう言うな。少し、昔話をしよう」
戦士「我々の時代に、顔まで覆うタイプの兜が作られた事があった」
勇者「……はぁ」
戦士「……しかし、重いわ風通しは悪いわで最悪だった。皆、満足に動けまいか、日中症で倒れるかのどちらかだった」
勇者「あらら」
戦士「そんな物、誰も使いなどせず、大量の在庫に溢れる事となった」
勇者「……そりゃあ、ねぇ?」
戦士「鍛冶屋は困った。この不良品をどうにかせねばならない」
勇者「……ほう」
戦士「そこで、その兜を加工して、ある物は竜を型どった兜に、ある物は骸骨を型どった兜に……とにかく、見かけを美しくした」
勇者「へぇ~、それでなんとかなったんだ?」
戦士「見かけはよくても、重いわ風通しは悪いわ、使えない兜に変わりはないんだぞ?結局、誰も買う奴なんていないさ」
勇者「……ダメじゃん」
戦士「盗賊団にでも盗ませて、まともに動けなくなった盗賊団を叩こうという、一種の罠だったのさ」
勇者「へぇ~、それで上手くいったんだ?」
戦士「……いや」
勇者「……えっ?」
戦士「盗賊団も馬鹿ではない。見かけはよくても、使えない兜とわかっていたから、そいつには手をつけずじまいさ」
勇者「……ダメじゃん」
戦士「あぁ、ダメだ」ハハッ
戦士「見かけはいいから、一部の人間は鑑賞用に集めてたりするがな」
勇者「へぇ~、そうなんだ?」
戦士「あれから、時は流れ……今では、見かけの良さと実用性が両立された物が出回ってるんだろうな」
勇者「………」
戦士「魔石で指輪とは……洒落た事をするじゃないか。なぁ?」
勇者「……うん」
戦士「……着いたぞ?」
勇者「……へ?何、ここ?鍛冶屋?」
戦士「あぁ、さっきの見かけはいいが使えない兜の生まれの場所だ」
――――――
主人「いらっしゃ……おぉっ!戦士ちゃんか!?」
戦士「暫くだな。剣の手入れを願いたい」
主人「なんだよ、そろそろ新しいのにしやがれよ!何十年使ってんだコレ!?」ゲラゲラ
戦士「使いなれたのがいいのでな。この剣と生涯をともにするさ」
主人「戦士ちゃんの連れも戦士なのか?兄ちゃんは何か買ってくれよ!?」
勇者「えっ……?俺……?」
戦士「……そうだな。勇者の装備も新調するべきだな」
――――――
勇者「……じゃあ、この剣は?」
主人「兄ちゃん、そりゃあ玄人向けだわ」
戦士「うむ。おそらく、重さに負けて満足に振る事すら出来ないだろう」
勇者「じゃ、じゃあ……こっちは……?」
主人「そいつも玄人向け」
戦士「これは、一撃で魔物の急所を突く事に優れた剣だ。勇者にはまだ早いかもな」
勇者「え~っと……じゃあ、じゃあ……」
戦士「……もっと、扱いやすいのはないのか?」
主人「そうは行っても、素人用のヤツは魔法剣に改良するだかなんだかで、全部安値で取られちまったからなぁ~」
戦士「そうか……」
主人「俺っちも時代の流れに逆らうわけにはいかねぇからなぁ……ちょっと、待ってろよ。奥、探してみっからさ?」
戦士「……すまない」
勇者「………」
勇者「……ん?」チラッ
戦士「……ん?」
勇者「……おぉっ!」
戦士「……どうした、勇者?」
勇者「なにこれ!なにこの、ドラゴンの兜っ!すっげぇ、格好いいじゃんっ!」キラキラ
戦士「勇者っ……!それは……!」
勇者「めちゃくちゃ強そうだしさぁ……!何より一目で『歴戦の戦士』って、感じがするじゃんっ!」キラキラ
戦士「いや……それが……さっきの……」アセアセ
主人「お~いっ!あったぞ~!こりゃ、掘り出し物だっ!いいのが残ってたっ!」
勇者「おっさんっ!」
主人「おっ……な、なんだ?どうした……?」
勇者「この兜いくらよ!?俺、これにするよ!これいくらっ!?」
戦士「お、おい……勇者……」
主人「えっ……?いや、それ使いもんにならねぇ……いや、兄ちゃん、剣探してるんじゃねぇのかよ?」
勇者「今は剣なんかいいのっ!これ、いくらよっ!?結構、高そうだけど分割とかいけるの!?」キラキラ
主人「………」チラッ
戦士(……すまない)
主人「じゃあ……」
勇者「うん!うんっ!」ワクワク
主人「この剣買ってくれたら、おまけでつけてやんよ」
勇者「……えっ!?マジ!?」
主人「あぁ……どうせ、二束三文にならねぇヤツなんだし……」
勇者「買ったっ!その剣、買ったっ!」
主人「えっ……?あっ、毎度……」
勇者「よっしゃあっ!これで俺も歴戦の戦士の仲間入りだぞっ!もう、舐められねぇぞ~!」ウキウキ
戦士(おい……)ヒソヒソ
主人(いいじゃねぇか、どうせ二、三日で飽きるって……飽きたら、その辺に捨てておいてくれよ?)ヒソヒソ
―――――――
僧侶「あっ?戦士さん達、帰ってきたみたいですね?」
魔法使い「ほんとだ~!ねぇ、みて~!ほら、かわいいゆびわ~」トットット
戦士「……すまない。少し、時間を食ってしまった」
僧侶「いえ、次の街に行くには危険な洞窟を抜けなければいけないそうなので、薬草の補充もしておきました」
戦士「そうか……すまない……」
魔法使い「ね~、ゆうしゃさんは~?」
僧侶「……そういえば、勇者様は?」
戦士「勇者はもうすぐ……」
勇者「」ノッシノッシ
魔法使い「あっ!きたっ!ねぇ、みて~、かわいいゆび……」
勇者「」バーン
魔法使い「ゆうしゃさん、すご~い!かっこいい~!」キラキラ
勇者「フッフッフ、ソーカネ」
魔法使い「ねぇ~!そうりょさんみて~!ゆうしゃさんすごいの~!」
僧侶「勇者さんっ……!」
勇者「フッフッフ」
僧侶「そんな兜、お高くなかったんですか!?」
勇者「ジツハ、カジヤノシュジンノサービスデネ……」
僧侶「素敵ですけれども……かなり、値が張ったんじゃないですか!?」
勇者「ダカラ、コレハカジヤノシュジンガネ…」
戦士「あぁ、金銭面は大丈夫だ……これは鍛冶屋の主人からの頂き物だ……」
僧侶「そんな……!こんないいもの、頂けませんよ……!」
戦士「……大丈夫だ」
魔法使い「ゆうしゃさん、すごーいっ!」
勇者「フッフッフ」
前略、父さん
ようやく、私も勇者らしくなってきました。
街行く人々は私を憧れの瞳で見つめ、暴力魔の僧侶や、生意気な魔法使いからも私は一目置かれています。
父さん、明日、我々は次の街に向かう為に危険な洞窟を抜けます。
そこで、ようやく勇者らしくなった私のリーダーシップを見事発揮したいと思います。
父さん、嫌々始めたこの旅ですが……少し、楽しくなってきました。
勇者「フッフッフ」
魔法使い「むにゃむにゃ……ゆうしゃさん……かっこいい……」
勇者「……フッフッフ」
戦士(……心配だ)
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