爺「ほっほ、それじゃあ今日は伝説の剣の話しでもしてやるかのう」
孫「伝説の剣?」
爺「そうじゃ」
孫「それって、昔の英雄が使ってたっていう?」
爺「おぉ、よく知っておるの」
孫「切れ味が鋭すぎて、鞘に納められていながら何もかもを両断したっていう?」
爺「ほっほ、その通りじゃ」
孫「それってだいぶ前にしてくれた話じゃんか!」
爺「おやおや……」
孫「おやおや、じゃないよ。しっかりしてよね」
爺「これは手厳しいのう……」
孫「ボケるには早いよ!」
爺「とは言え年なんじゃ、許しておくれ」
孫「そうだねぇ。じゃあ、その英雄の話をしてよ」
爺「……ふむ、英雄の話とな」
孫「そうそう」
爺「そんなの、絵本にいくらでも載ってるじゃろ?」
孫「絵本の話は簡潔すぎるもん」
爺「ふぅむ……。儂も全て知っておるというわけでは無いんじゃがのう」
孫「知ってる限りでいいよ」
爺「ほっほ。いつの時代も英雄は子どもの憧れ、か」
孫「だって、すごいよ」
爺「うむ」
孫「魔族から世界を救ってくれたんだもん!」
爺「……では、その後のことでも話そうかのう」
――――
剣士「英雄だってさ、俺」
少女「それはそうでしょ」
剣士「いいのかなぁ」
少女「だって、魔族の長を倒したのはあなただよ?」
剣士「ううん、そういうことじゃなくてさ」
少女「なぁに?」
剣士「その英雄が、魔族である君と一緒にいていいのかな、って」
少女「……」
剣士「南の大陸全土を支配していた魔族は今や混乱のさなか」
少女「うん」
剣士「人間は力で劣るも、多勢で押すだろうね」
少女「そうだね。戦術って言うの? すごいと思うわ」
剣士「何より、長を失った魔族なんて烏合の衆だ」
少女「もともと個の力を重視する種族だからね」
剣士「俺は約束通り、魔族の長を倒した」
少女「うん、感謝してる」
剣士「それで、俺たちはこれからどうするんだ?」
少女「以前話した通りに動くだけだよ」
剣士「あの話、か……」
少女「あ、その顔は信用してない顔だね」
剣士「信用はしてるけど、想像ができないんだよ」
少女「人間と魔族が、手を取り合って生きる世界?」
剣士「うん」
少女「だいじょうぶ、必ず実現する」
剣士「言い切ったね」
少女「……長の持っていた力は大きすぎた」
剣士「そうだね、あれは強かった」
少女「どの魔族もかなわなかった。だからみんな言うことを聞いていたの」
剣士「恐怖政治っていうやつなのかな」
少女「でも、実は多くの魔族が人間との共存を望んでいたんだよ」
剣士「少し前までは、民間での交流があったらしいしね」
少女「全てはあの突然変異体、長が生まれたせいだから」
剣士「つまり今こそ、人と魔族が共に立つ時だと?」
少女「そこまでいかなくてもいいの。ただ、以前みたいな関係に戻ることができたら」
剣士「とすると、現状は良くないね」
少女「勢いづいた人間が、南の大陸全土を支配しようとしてる……」
剣士「魔族も徹底抗戦するだろうね」
少女「そうなる前に止めたい」
剣士「……人間は俺が」
少女「……魔族は私が、説得する」
剣士「気をつけてね」
少女「あなたもね。私がいないからって無茶したらダメだよ」
剣士「君に言われたくはないけど、肝に銘じておくよ」
少女「……もし、私たちの望む世界をつかむことができたら」
剣士「……その時はゆっくり暮らしたいね」
少女「……」ジーッ
剣士「……二人で、ね」
少女「うんっ」
―――
孫「ふぇーっ」
爺「びっくりしたようじゃの?」
孫「だってだって、絵本だと世界を救って終わりなんだもん」
爺「そうじゃのう……」
孫「英雄は魔族の少女と共に、見事魔王を討ち果たしました。それで終わり」
爺「なんとも幸せな結末じゃなあ……」
孫「悲しいお話なの?」
爺「どうだろうかのう。お前のとらえ方次第じゃ」
孫「僕、英雄と魔族の少女には幸せになってもらいたいなぁ」
爺「ふむふむ、それは何故じゃ?」
孫「だって、いっぱい苦労したんでしょ? 報われなきゃおかしいよ」
爺「ほっほ。そうかそうか」
孫「むーっ、なんで笑うのさ!」
爺「いやいや、お前が良い子に育って嬉しいんじゃよ」
孫「ほんとかなぁ……」
爺「それより、話の続きをしようかの」
孫「うん、もっと聞かせて!」
爺「はて、どこまで話したか……?」
孫「もうっ」
――――
剣士「王様」
王「剣士か。もう怪我はよいのか?」
剣士「はい、おかげさまで」
王「それはよかった。では早速戦線に入ってくれ」
剣士「……いえ。俺は、その」
王「どうした?」
剣士「……俺はもう、戦いをする気はありません」
王「……」
剣士「……」
王「……構わん。魔族の長亡き今、軍のみで事足りるからな」
剣士「……そのことなのですが、王様」
王「お前には感謝してもし足りんよ。ゆっくり休んでくれ」
剣士「あ、あの、王様」
王「褒美は戦が終わってからとらそう。今後のお前の生活も、国の方で面倒を見る」
剣士「……王様、聞いてください!」
王「なんだ?」
剣士「大事な話があります」
王「ふむ。というと、魔族の少女のことか?」
剣士「――!」
王「私を舐めるな。私は王。支配者だ」
剣士「……魔族まで、支配するつもりか?」
王「王の使命だ。才能あるものは、それを発揮せねばなるまい」
剣士「魔族の支配ができないということは、歴史が証明しているだろう!」
王「ならば私が為そう」
剣士「……本気で言っているのか? どれだけの血が流れると思っている!」
王「血など洗い流せばいい」
剣士「……貴様っ」
王「哀れなことだな、剣士よ」
剣士「哀れだと?」
王「サキュバスという魔族を知っているか?」
剣士「……何が言いたい」
王「知っているようだな。やつらは妖術をもって男を操るらしいぞ」
剣士「何が言いたいっ!」
王「直に解放される。……安心して、待っているがいい」
剣士「……ま、まさか」
王「すでに軍は動かしている。今頃衝突しているだろう」
剣士「……殺す! 貴様はここで殺す!」
王「……好きにしろ。愛しいおなごの亡骸はこちらで葬っておいてやる」
剣士「……くっ」ダッ
王「……許せ、剣士よ」
王「これは悪い夢なのだ。すぐに目覚めさせてやる」
…………
………
……
…
剣士「ねぇ、少女」
少女「……なぁ、に」
剣士「俺は、人間を許すことはできないみたいだ」
少女「……あなたも、魔族だったら良かったのにね」
剣士「そうだな。でも俺は、やっぱり人間なんだよ」
少女「……私も、人間を、許せそうにない」
剣士「ははっ。わがままだな、俺たち」
少女「でも、あなたという人間は、好きだよ。……愛してる」
剣士「俺も、お前という魔族を愛しているよ」
少女「ふふ。……なぁんだ」
剣士「簡単なことだったんだね」
少女「……私、少し眠くなってきちゃった」
剣士「うん、ゆっくりお休み」
少女「次に目が覚めたら、朝日は、昇っているかな」
剣士「あぁ。きっと、新しい世界を照らしてくれるはずだ」
少女「私に、おはようって、言ってくれる?」
剣士「誓うよ」
少女「……じゃあ、安心だね」
剣士「うん。……さぁ、もう目を閉じて」
少女「……おやすみ、剣士」
剣士「……おやすみ、少女」
剣士「……俺たちが望んだ世界で、いつかまた、必ず会おう」
――――
孫「……」
爺「……」
孫「……それで、結局どうなっちゃったの?」
爺「お前は、魔族という種を見たことがあるか?」
孫「……ううん、ないよ」
爺「だったらそれが答えじゃ」
孫「……悲しいね」
爺「そうじゃなあ」
孫「結局、二人が望んだ世界はつくれずに、離れ離れになっちゃったんだね」
爺「……そうかも、しれんな」
孫「なんだか僕、人間であることが嫌になっちゃいそうだよ」
爺「孫よ、それだけは言ってはいかん」
孫「どうして……?」
爺「英雄は人間であり、魔族の少女が愛した男もまた人間だった」
孫「……うん」
爺「彼は人間を憎んだが、人間をやめようとはせなんだ」
孫「……そうだね」
爺「それが彼の強さじゃと、この老いぼれは思うんじゃよ」
孫「……」
爺「ほっほ。お前にはちと難しかったかのう」
孫「……英雄は」
爺「うむ」
孫「人間を憎んだ英雄は、それでも人間として、人間と共に生きたんだね」
爺「……彼にしかできん方法でな」
孫「そっかぁ」
爺「……どれ、気分が沈んだなら外で遊んでくるといいぞ」
孫「うん、そうだね。あっ、でも最後に」
爺「なんじゃ?」
孫「それって、どれくらい昔の話なの?」
爺「そうじゃのう。……ざっと、350年くらい前かの」
孫「じゃあ、爺ちゃんが生まれるちょっと前くらいかぁ」
爺「そんなことを聞いてどうする?」
孫「ううん。だから詳しいんだなって思ってさ!」ダッ
――額から歪な角を生やした赤い眼の少年はそう言うと、丁寧に折り畳んでいた二対の翼を力強くはためかせ、大空へと飛び立っていった――
おわり
読んでくれた人乙
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