【艦これ】叢雲アフター【短編SS】 (42)

艦これ短編、叢雲SSとなります。本編>>2から
前スレ既読の方は読んでくださりありがとうございます、引き続きお付き合い頂けたら嬉しいです。

【艦これ】梅雨祥鳳【短編集】
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こちらの叢雲編の続きとなります、初見の方はこっちがいい感じだったら読んでみてください。
祥鳳、川内、時雨、叢雲の四篇となります。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1433665395

【叢雲アフター】


カチ、コチ、コチ。

室内に響くのは相も変わらず置時計の無機質な音ばかりで、私とアイツの途切れた会話を取り持つようなことはしてくれなかった。

私はというと、さっきからチラチラとこちらを探るように見てくるヤツの目に気づいてはいるけど、反応なんかしてやらない。

そんなむくれた私に根負けしたのか、向こうから恐る恐る声がかけられた。



「あのう、叢雲さん?」

「なに」

「・・・ナンデモナイデス」


やり過ぎたと思ったのだろうか、何時になく弱気な感じ。

だけど、それでも私は許してやらない。だって今、私は怒っているのだ。

「今日の【間宮】の定食はハンバーグみたいだぞ」

「ふうん」


なんで怒っているかって、そんなの決まってる。

二人きりが良かったって、私の心の内を知られてしまって。

そしてあろう事か、コイツはそれをからかったのだ!



乙女心を傷つけるやつなんかに、愛想の良い返事なんてしてやらない。



「なあ」
「・・・」


「叢雲~」
「フン」

ちゃんと謝るまで、許してやらない。

そう思ってたけれど・・・思考がとある所まで行き着いて、私の書類を書く手がピタリと止まる。



ちゃんと謝ってきて、しょうがないわねと許してあげて、それからどうなるのだろう?

だって、もう私が二人きりで過ごしたかったという気持ちは伝わってしまっているのよね?

コイツが謝ってきたのを許してあげて。



それで・・・それで私はどうしたらいいの!?

・・・第六駆逐の四人が付いて来てくれて本当に良かった。

最悪、こんな何をしていいか分からない状態で明後日が来ても、場を賑やかす存在には事欠かない。

さっきまでオマケ扱いしていた彼女たちに救われるとは、人生なにがあるか分からないものね、まったく。



「・・・雲」
「・・・」


そうやって一人、勝手に思い悩んでいたからかな。


「叢雲!」
「・・・へ?」


私の席のすぐ隣まで提督が来て、私に声をかけてきていたのに気がつかなかった。

「その、すまない・・・。そこまで怒るとは思っていなかったから」


どうやら私が提督の存在に気がつかなかったのを、わざと無視されたと勘違いしたらしい。

私に許してもらえるかどうかが、まるで世界の存亡に関わることのように真剣な顔でこちらを見つめている。



そんなコイツの顔を見ているのが無性に恥ずかしくなって、私はガタっと椅子を蹴って立ち上がった。

そのまま向き合うことはなく、フンと鼻を鳴らしてまたしてもそっぽを向いてやる。


そわそわと行き場のない腕を組んで、それでも決して後ろを振り向いてやらない。

そんな私の背中に、呟くように提督が一言。

「二人きりになれなくて、残念だったな」


なっ。


「この期に及んで、まだ私をからかう気なの!?」

「ち、違う、これはだな・・・」



もう、どんなに謝られたって許してやらない。

そんな私の決意は、早くも次の瞬間に破られることになる。



「お、俺の・・・本心でもあるからだ」

振り返ると、目があった。

気まずげにこちらを覗き込むような表情は、照れと不安でいっぱいで。



ドクン、ドクンと。

本日何度目になるか分からない、胸の高鳴りが私を襲ってくる。

身体が熱くって頭がぼうっとして、気づけばこんな事を言ってしまっていた。



「な、何よ。今更点数稼ぎなの?」

「ち、違う!」


ああもう。なんでそんな事言っちゃうのかしら、私。

そんな真剣な顔をされると、どうしていいのか分からなくて、結局私は何もせずに立ち尽くした。

そうやって顔を赤くして何も言わない私を見て、提督は何を思ったのかしら?

まだ私が怒っている・・・そう思ったからだろうか、慌てて更に言葉を続ける。



「俺も、お前と二人きりで出かけたかったんだ」

「だから秘書艦として、他の艦娘じゃなくお前を連れて行くことにしたんだ」



あ。

そっか・・・。元々最初に私を指名したのはコイツだったんだ。


その言葉を聞いて、でも。

嬉しさよりもまだ弄れた気持ちの方が、少しだけ強く私の中に渦巻いている。

「じゃあ何でさっきいじめたのよ」

「うっ・・・」

「それは、その。恥ずかしくってつい気になる女の子をいじめてしまうというアレというか」



何よ、それ。何なのよ、その子供みたいな理由は。

呆れて力が抜ける。許してやらないなんて頑張っていた自分が馬鹿みたいに思えてきた。

ポフっと、上げていられなくなった頭を提督の胸に預けてもたれかかって、ぽつりと呟く。










「意地悪」


「ごめんなさい」

頭を預けた私に・・・それでもアイツは、何もしてこない。

どうせ何をしたらいいか分からないなんて思っているに違いない。

まったく、本当にコイツは・・・私がいないと駄目なのね。


「ん」
「え?」


グリグリと、預けた私の頭を提督の胸に押し付けてやる。

ああもう、何でまだ分からないのかしら、この鈍感は。




「な、撫でなさいよ!」




ほら、結局私から言う羽目になったじゃない。

今日中には完結させます、少し席を外します
今から友人が来るなんて聞いてないんですけど・・・

よっしゃやります

まったく・・・もういいわ。アンタは言われた通り、私の頭を撫でてればいいのよ。


「あ」


提督の手が私の頭の上で弾むと同時に、私の心も揺れた。

ポンポンと2,3回弾んだあと着地したその手は、今度は優しく私の髪を撫で付け出す。

それはまるで壊れ物を扱うかのように優しく、上下に包み込むように。


な、何よ、これ。

自分で要求したもののはずなのに、予想外の幸せに戸惑っている私がいる。

だって・・・だって。こんなにドキドキするなんて、聞いてないんだもの。



駄目よ、これは駄目。

これ以上されたら私、おかしくなっちゃう。

気づいたら、頭だけではなくて身体の全てをコイツに預けてもたれかかっていた。

・・・も、もたれかかっているだけよ、これは。抱きついている訳じゃないもの。



さっきまで優しく私の頭を撫でていた提督の動きが止まる。

撫でていた方の手はそのままに、もう片方の手が私の身体を抱き寄せる―

―ことはなく、所在なさげにウロウロした後私の肩に置かれた。



・・・意気地なし。



でも今はこれで許してあげる。

だってそんな事されたらきっと、私のほうがもたないから。

「ふふ」

「な、なんだ、いきなり?」

「いいえ」


似た者同士ね、私たち、なんて言ったら。

意味がわからなかったのか、しきりに首を傾げていた。



「ほら、いつまで触ってるの。調子に乗らない」

「しっかりご機嫌を取っておかないとな」



私の機嫌が直ってホっとしたのかしら、次第にいつもの軽口をたたき出す。

そんな提督を見て・・・たまには、私の方から仕掛けてもいいような気がしてきた。

「ねえ」

「ん、何だ?」


今からコイツを困らせてやるんだと思うと、不思議と心がワクワクしてくる。

あらやだ。悪戯好きが伝染っちゃったのかしら?



「最初の計画では、私と二人きりで遠出しようとしていたのよね?」

「ああ、そうだ。こんな機会そうそうないと思ってな。もう許してくれよ」



”さっきまでの意味で”なら、もうとっくに許している。

でも、私がアンタを困らせるのはこれからよ?

ニヤつく口元を抑えながら、なるべく意地悪に見えるように目を見開いて告げる。

「ふーん、で。二人きりになった私と”どうなろうと”したのかしら?」

「なっ」


答えられないのは、答えられない事を考えていたという証拠。

今度はコイツがそっぽを向く番だ。ただし、拗ねではなくて恥ずかしさから。

へえ、ふーんと意地悪く、提督に聞こえる様に呟く。




たまにはこうやって、困らせる側にまわるのもいい。

何よりコイツのこんな顔を見れるなんて、慣れない事をやった甲斐があるというもの。


でも、慣れないことはほどほどにした方が良いものね。

もっとコイツを困らせたくて、余計なことまで言ってしまった。

「ふふ、いやらしい」

「ほう」



あっ。

言った瞬間、提督の目がギラリと光るのが分かった。

それで私は、私が失敗したことを悟る。

「何が”いやらしい”のか教えてくれないか、叢雲?」

「え、や・・・だって。アンタだって」

「俺は普通に、二人きりで静かな時間を過ごしたいと思っただけだが」

「どうやらお姫様のご希望は違うらしい」


やらかした。

コイツは私とどうしたいなんて、まだ言葉にしていない。

先回りしようとして、踏み外した。



「なんてな」


でも、来ると思っていた提督の追撃はそれ以上来なくって。

代わりにもう一度、ポンポンと頭を撫でられる。

「俺も、同じことを考えていたからな」

「え、ちょっと。それってどういう――」


目が合って、今度こそ二人とも固まる。

どちらともなく口を噤んで、ただただ相手を見つめていた。



私は今、いったいどんな顔をしているのだろうか。

コイツみたいに真剣に、強ばった表情で相手のことを見つめているのだろうか。

それとも、頬を染めて瞳を潤ませて。切なそうに背の高いコイツを見上げているのだろうか。

キスまでは、許してもいいのかもしれない。



どこまで許したらいいんだろう、という最初の問いに対する答えが、ふいに浮かんでくる。

やっ・・・駄目よ、今そんな答えが浮かんできちゃ。

それはあくまでも明後日以降・・・任務にちゃんと区切りをつけた後の話なんだから。



でも、こんなに近くで見つめ合って、こんなにも気分が高まってしまったら。

・・・答え合わせ、したくなっちゃう。

さっきは意気地なく止まったくせに、提督の手が今度は私の肩から背中まで伸びて来て。

ぐっと、私はそのまま強く抱き寄せられる。何よ、やれば出来るじゃない。


「叢雲」

「あ、アンタねえ」



口ではそう言うくせに、振りほどこうともしない私。

だってもう、私だってとっくにコイツと同じ気持ちになっているんだから。

キスしたい。


思ったのは、そんな単純な願い。

目は・・・閉じるんだっけ。でも、緊張で顔が強ばって中々思うようにいかない。


それに踵は上げなきゃ。私より頭一つ背の高いコイツに合わせるために。

でも、やっぱりこっちも緊張で膝がガクガク震えて動けないでいる。




女の子の、キスをする時の作法。

それが全然、出来ていない。

ああ、駄目。理想と全然違うのに、身体は止まってくれない。

それは目の前のコイツも一緒のようで、私の唇に向かって自分の顔を近づけてくる。


止めなきゃいけないのに・・・。


でももう、理性がそう訴えてもお互いの感情が溢れてしまって止まりそうもない。


ああ、もう駄目。コイツの唇がすぐ傍に・・・。





「司令官、あのね!」


ガチャリ、と再び執務室の扉が開く音がしたのはその時だった。

ドタバタドン!

物凄い音を出しながら、私と提督が自分の席に戻る。

い、痛い・・・。どうやら座るときに膝を打ってしまったみたい。



「だからもう、何で雷が先頭なのよ!」

「いーじゃない、別に。誰が先頭でも!」



「司令官さんと叢雲、何をしているのです?」

「ななな、何も!何もしていないわよ!?」

「そ、そうだぞ電。おかしな事を聞くなあ。ハハハ・・・」



”まだ”何もしてないから、セーフよね、セーフ。

あ、危なかったわ。見つかりそうだったこともそうだけれども、もう少しで・・・。

「叢雲、どうしたの?顔が赤いわよ?」

「暑い、今日は暑いからかしらね!」



「そ、それでどうしたんだみんな。急に戻ってきたりして」



こっちの反応は知らないフリをして、提督が話を逸らしていく。

良いわね、アンタ今日初めて仕事したじゃない。

「あのね司令官。暁たちは重大な事を聞き忘れていたの」

「ん、なんだ?」

「お菓子はいくらまで?」

「遊びじゃないって言ってるでしょ!」


適当にいくらいくらと設定して、ぎゃあぎゃあと騒ぐチビたちを追い出しにかかる。

まったく・・・まあ、思わぬ乱入で”おかしな事”をせずに助かったけれど。



「叢雲」

「何よ、お菓子のことならもう―」

「今度からは鍵のかかる部屋にした方がいい」


出て行くにボソリと言った響の言葉に、私はもう何も返せずに頭を抱えてしまった。

今度こそ完全にチビすけたちが帰ってこないのを確信して。

でももう、先ほどの燃え上がるような雰囲気は霧消していた。


・・・ある意味助かったかもしれない。

あのまま続けていたら、私たちは今頃どうなっていたか分からないもの。




「そ、その。お互い落ち着きましょ?」

「そ、そうだな。まだここは鎮守府だしな」

・・・どうなっていたか分からない?


キスするところまでは覚悟を決めておかなきゃ、なんて思っていたけれど。

ふいに、そんな疑問が頭の中で浮かぶ。




確かめたわけではないのだ、コイツに。

”私たちがするのはキスまでよね”なんて、そんな馬鹿なことを。

ありえない。私の中でありえない妄想がどんどん膨らんでいく。

もし・・・もし、それ以上のことを求められたとき。


私はいったい、どういう決断を下すのだろうか・・・?

だってそんな覚悟、まだ出来ているわけがないのだから。



「ね、ねえ」

「どうした、叢雲?」

「ど、どこまで・・・するつもりなの?」



つい言葉にしてしまって、すぐに後悔する。

「えっ!?」

「な、何でもない!忘れなさい!」


声が上ずる。

無理無理、やっぱり聞くことなんて出来やしないわ。

だからアンタもそう、こんな馬鹿な質問に答えることなんてしないで。



「お前がしたいと思っているところと、同じところまで」

「・・・忘れなさいって言ったでしょ」


何でこういう時だけ真面目に応えてくるのよ!

ああ、もう。


六駆のチビたちが一緒で、本当に良かったと思う。

こんな状態で道中二人きりだなんて、冗談じゃないわ。



気持ちを入れ替えるために、背もたれに体重を預けて大きく息を吸う。






ひとまず私は、明後日までに覚悟を決めないといけないらしい。





コイツに好き勝手されるのを止める覚悟じゃなくって。


コイツに好き勝手されるのを、許してあげる覚悟を。



【叢雲 アフター】 了

うむ、やりたいことをやりきりました
しばらく短編はいいかな、叢雲もちょっと封印しないとこの娘ばっかり出てきちゃうのでアカン

私の他にも叢雲愛を表現している提督がいるのですね
書いてたら時間がないということもあり中々他の方のSSを読まないのですがライバル心が沸いてきました

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