卒業式から、早いもので二ヶ月の時が過ぎた。
私は全国的にも有名な国立の大学へ、八幡と結衣は都内の同じ大学に合格、入学し、日々充実した毎日を過ごしていた。
新生活の始まりという時期で、以前のように頻繁には会えないけれど、
毎日欠かさずくれる電話口や、会った時の顔を見ていると、凄く満ち足りた感じが伝わってくる。
今日も結衣と大学の近くにあるカフェでお茶を飲みながら、日常の些細な事ばかり話題にしている。
でも、そんな些細なやり取りも、今の私には嬉しくて楽しいものばかりだった。
そう、今でも私達の関係はとても穏やかでーー
結衣「…で?どう?」
不意に、話題を変えた結衣が私に意地の悪い笑みを向けてきた
雪乃「…どうっ、て?」
嫌な予感しかしない。結衣のこの顔にはいい思い出がない。
結衣「だから~ヒッキーのこと!上手くいってるの?」
…ほら、やっぱり。もう、事ある毎にそんな質問ばっかり。
別に嫌ではないけれど…
雪乃「別に。普通だと思うわ。八幡も教師になるって夢に向かって頑張っているし、私も応援しているし」
結衣「そうじゃなくて。…心配になったりしない?ほら、ヒッキー大学行ってから変わったし」
雪乃「信用しているもの。それに、彼に浮気する度胸なんてあると思う?」
結衣「それは…ないと思うけど。…んー、まぁ、なら言わなくてもいっか」
雪乃「……え?」
何やら不穏な響きのする台詞に、思わず反応してしまう。
なに?なにかあるの?
結衣「あ、ち、違うよ!?そんな不安そうな顔しないで!ゆきのんが想像してるようなもんじゃないから!」
雪乃「っ、別に不安になんて…」
結衣「じ、実はね、私も最近知ったんだけどね?」
雪乃「…」
結衣の慌てたような言い回しに、ドクリと胸が波打つ。
結衣「あのね、うちの大学の女子の間でね、その……ヒッキーの写真が出回ってて…」
雪乃「…………は?」
結衣「な、なんか女子の間で凄い人気らしい…ってか人気で…」
雪乃「どういう事かちゃんと説明して結衣」
結衣の話を聞いて思わず身を乗り出して詰め寄ってしまう。
って、なんでそんな事に…!
結衣「ほ、ほら!ヒッキーってば、ゆきのんと付き合い出してから腐った目じゃなくなったし!容姿も良い方だし!頭良いし!何より優しいし!」
雪乃「………」
結衣「え、えと…それで、なんか知らない間に携帯の写メやカメラで撮られてて、それが出回ってるみたい。…私も一度見せてもらったから間違いないし…」
雪乃「………」
ふつ、ふつ、と…
これ、私は怒っていいのかしら?
唖然としながら聞いている私の背後を、数人の女性が昼食を終えて過ぎていった。
その、会話が…
「これどうしたの?すっごいアップじゃん!!」
「えへへ、昨日勇気だして目の前に飛び出してみたんだ~」
「え、うそ、すご~い!!あはっ、比企谷君びっくりした顔~。可愛い!」
「ね、ね、私にも送ってよぉ」
「ダメだよー私のお宝写真だもん!」
「え~、ずる~い」
結衣「……あの、ゆき、のん?」
雪乃「…………」
……………
八幡「お、雪乃!こっちだこっち」
雪乃「…………」
久しぶりに彼と一日中一緒にいられる休日。
あなたは何も後ろめたい事なんか無いのでしょうね。
キラキラと、本当、初めて出会った頃には考えられないほどの笑顔で私に手を振って。
八幡「なんか久々だな、こうやって朝から……雪乃?」
雪乃「…………」
一方で、私はムスッと不機嫌顔。まるで初めて出会った頃のように。
八幡「ん、と…あの、雪ノ下、さん?なんでそんなにご機嫌斜め?」
あなたは私に呆れるかしら?
雪乃「…………」
あなたが悪い訳じゃないのに、あなたへ向けられる好意に嫉妬する私に…
八幡「な、なあ、雪乃?ほんと、どうした?俺、何かしーーむぐっ!?」
何にも気づいていないあなたが、どうしようもなく憎たらしい。
イライラする。もやもやする。
だから、私はなにも言わずに…
なにも説明せずに、話さずに…
有無も言わせず、強引にあなたに口づけをした。
驚いた顔。…ざまぁみなさい。
戸惑った瞳…いい気味よ。
それでも私を抱きしめてくれる腕。…それだけじゃ許してあげないんだから。
私を見つめてくれる、愛しげに細められた暖かな眼差し。
……大好きよ。
雪乃「あの頃とは、もう違うのよ」
こうやって堂々と嫉妬できるのは、私があなたの特別でいられるから。
この気持ち、唇から伝わってあなたに届けばいい
短いですが終わりです。ありがとうございました。
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