【艦これ】艦娘の想い【掌編】 (28)
今回は、今までとちょっと趣向を変えて、ちょっと真面目に。
モノローグ形式でセリフはほとんどなしの掌編です。
あと、多分どこかで似たような話があるかもしれません。
その時はごめんなさい。
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ミヤコワスレ
——まただ。
いつものように、憎まれ口。
あの人の顔を見ると、本音を言うことができない。
いつからだろう。こんなことをしているのは。
ううん。『いつから』じゃない……『最初から』だ。
初めて顔を合わせたあの時から、ずっとだ。
出来上がったばかりの鎮守府。
二人目の艦娘として、ここに現れたあたしを見てあの人は言ったんだ。
『素敵な子が来てくれて、本当に嬉しい』
もしかしたら、社交辞令ってやつかもしれない。
けれど、その言葉に心が少しだけ揺れて。
頬が赤くなるのを感じて。
それを悟られたくなくて、思わず口をついて出た言葉……。
せっかく、手持ちの中でも最高にかわいいミヤコワスレの花の髪飾りなんてつけて、女の子らしくしてみたのにね。
あの人と、それから一緒にいた艦娘の表情が、一瞬で固まったのを今でもはっきり覚えている。
出会いは最悪。
それからも、事あるごとに憎まれ口を叩き続けた。
そういうキャラが確立してしまったからじゃない。
最初の日に芽生えてしまった気持ちを隠し続けるために。
だって、あたしは艦娘だから……。
戦うためにここにいるんだから。
……そんな格好のいい理由だったなら良かったけれど。
それでさえも言い訳だ。
どうしてそう思うのか自分でもわからないけれど、本心を知られたくなかっただけ。
きっと、想いを打ち明けたら、あの優しい眼差しで見つめてくれる。
それが怖いんだろうな。
戦い続ける事が出来なくなりそうで。
その暖かさからわずかな間でも離れる事が辛くて。
そうなった自分に、あの人の部下であり続ける事なんかできるはずがない。
自分の些細な願いを満たし続けるために、虚飾で着飾る。
一度始めたら、もうやめる事なんて出来なくなる。
ほら、経過だって最悪……きっとミヤコワスレのせいだ。
あたしの気持ちなんて、誰にも分かるわけがない。
そんなことが起きたら、この世界はどこがが狂ってるってことだ。
もうわかってる。今、あたしはそういう生き方しかできないんだって。
運命っていうやつは、いつまでもあたしの足を引っ張り続けるんだ。
だからきっと、結果も最悪。
それでも、私は虚勢を張って生きて行く。
本音であの人にぶつかれる日が来るまで。
その日が来たら、あの人を驚かせてやるんだ。
思い切り甘えて、可愛いあたしを見せつけて。
服の用意なんてとっくに済ませてあるし、セリフだって考えてある。
その時も、髪飾りはやっぱりミヤコワスレにするんだ。
それで、あの日あたしがされたみたいに、思い切り心を揺らしてやるんだ。
あの人がどんな顔をするのか。その後どうなるのか。それがすごく楽しみだ。
だって、結果はまだ出てないから。
書き換えられる可能性くらいあるでしょ?
戦いに赴く艦娘の装備品に、期待とか希望くらい追加しておきなさいよ。どうせ搭載スペースの消費なんてないんだから。
ああ。結局また、心の中で悪態をついちゃった。
きっと苦笑いをしてるだろうな、今のあたし。
「第七駆逐隊抜錨!」
照れ隠しに振り向いて、少しだけ早めの号令。
慌てて付いてくる仲間たち。
帽振れで見送るあの人を背に、目指すのは明日をつかむための戦い。
そして、今のあたしにできる精一杯の愛情を込めて叫ぶんだ。
きっとあの人はそれを聞いて、いつも苦笑いをしているんだろう。
でも、その顔でいい。それを想像できるだけでも、今は幸せなんだから。
だから。
願わくば、この想いにまだ気づかれませんように。
「——戦果を期待してなさい! このクソ提督!」
※ミヤコワスレの花言葉
穏やかさ・強い意志・忘れ得ぬ人・短い別れ・憂いを忘れる
迷彩塗装
姉の幸せそうな顔を見ると少し嫉妬する。
手柄を立てて、あの人に褒められている姿を見ている時は特に。
自分もあのくらい素直に感情を出せたらいいのにと思う。
戦果は姉に負けてはいない。
おそらく、あの人を想う気持ちだって。
その気持ちが、どこをどう迂回すればこうなってしまうのか。
大抵、無理をして何事もなかったかのように済ませてしまう。
別に優等生でいたいわけじゃない。
けれど、そうしなければ大切な二人の表情を曇らせてしまう。それだけは嫌で。
時折、他の仲間と意見をぶつからせることもある。
本当の自分を覆い隠している反動かもしれない。
そんな時、きまって姉は言う。
『提督を困らせてはいけません』
あの人が困った顔をすると、姉も困った顔をして。
それがとても嫌で。
だから、折れるのはいつも私。
自分の感情を押さえつけて、無理やりに笑って見せて。
そんなの、本当の私じゃない……。
けれど。
艤装に施された迷彩塗装のように、幾重にも感情を塗り重ねて自分を錯覚させる。
昨日も、今日も、明日も……きっとこの先も。
このままならばいつか、姉は幸せになるだろう。
あの人の傍に立つことで。
その時、私はどんな顔をしていればいんだろう。
二人が幸せになることは、私にとっても嬉しいけれど。
でも、それじゃ私の心はどうすればいい。
わからない。
板挟みって、こういう気持ちなんだ。
誰かの幸せを奪って、はじめて成立する自分の幸せ。
そんなことが許されていいのか。それに価値があるのか。
幸せになりたいと願う自分の気持ちと、それを否定する優等生の自分。
揺らいで、せめぎ合って、もみ合って……混ざり合う。
私の迷彩塗装は、そうやって色を濃くしていく。
「先輩! 今日もご指導宜しくお願いします!」
明るい笑顔で待機室に飛び込んでくる後輩。
私の真似をして迷彩塗装に身を包んでいる。
この子の未来はもっと晴れやかでありますように。
私のように悩むことがありませんように。
願いを込めて……。
「葛城! 今日もビシビシいくからねっ!」
悩むのはここまで。今日はね。
今日の訓練は少し厳しくなると思う。
少しくらい、いいじゃない。
戦いの前は心の迷いを吹き飛ばさなきゃ。
じゃなきゃ、いつか来るチャンスにも出会えないよね。
だって私、幸運の空母ですから。
ね、提督さん。
ブルーのハンカチ
——私、ものすごく地味ですよね。
いいんです。気付かれなくて。
こんな私でも、ここにいさせてもらえるだけで嬉しいから。
たくさんの仲間がいて、賑やかで。
だからこそ、私は見えなくなっちゃうけれど。
でも、賑やかなのっていいんじゃないかなって思う。
こうやってあの人を想ってドキドキしていても、目立たなくて済むから。
変な話だけど。
こういうのって、きっと目立たなきゃダメなはずなのに。
いつからなのかな、こんな気持ち……。
多分、最初に会った日なのかな。
『綺麗な髪をしてる』
そんなことを言ってくれました。
あの日から、髪だけは綺麗に手入れして——気づいてないと思いますが、少し伸ばしたんです。
もっと綺麗に見えるかな、って。
海に出る時は、潮風で痛まないように、艤装に絡まないようにって三つ編みにしてるんです。
『似合ってるじゃないか』
その姿を見たあの人は、またそんなことを言って。
もう、私の心は時化の海に放り出されたみたいに揺れてしまいました。
私も艦娘ですから、時化で酔いはしません。
だけど、女としてはダメでした。
でも、あれから随分と時間が経ってしまって。
艦娘が増えた鎮守府では、私は本当にちっぽけで目立たない存在です。
いつかのイベントであの人に贈り物をしました。
それもきっと、ほかのみんなのと混ざってしまって、きっとどれが私のものかなんてわからないですよね。
私はそれでも満足なんです。
あの人のところに……少しでも近いところに、私の気持ちをほんの少しでも置いておければ。
あ。今、汗を拭いたハンカチは私が贈ったものなんですよ。
あの人の白い二種軍装に似合うようにシンプルで。
色は私の名前をイメージした淡いブルーにしたんです。
気づいていないとは思いますけど。
ふふっ。でも嬉しいです、お役に立てて。
いつか——いつかはあの人を振り向かせて見せたいな。
そんな、少しだけ大きな野望を胸に今日も出撃です。
「なんだろ、提督がなんか言ってる」
仲間の声に振り向くと、あの人がハンカチを掲げて手を振っています。
……どうやら、先に振り向かされたのは私のようで。
込み上げてくる喜びと、気恥ずかしさ。
反則です。
だけど、磯波は今日も頑張れそうです。
※大変短い作品で申し訳ありません。
また思いついたら、幾つかまとめて書きたいと思います。
お目汚し、失礼いたしました。
ついでと言ってはなんですが、過去作貼っておきます。
【艦これ】赤城の新戦術
【艦これ】 赤城の新戦術 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1431748336/)
【艦これ】リットリオの料理講座【短編】
【艦これ】リットリオの料理講座【短編】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1432295245/)
※ごめんよ。
ちょっと夜空を見てたら、一つ思い浮かんだんだ。
それを投下でクローズさせてください。
一番星
——はぁ。
今日も溜息が止まりません。
なんで、私はあのようなことを口走ってしまったのでしょうか。
全ては私の不勉強が祟ったものとはいえ。
昨日、出撃前のあの時に、あの人が顔を真っ赤にして口ごもってしまったわけが、今ようやくわかりました。
同じ言葉を言ったら、みんなから指摘されて。
それを知った今、こうして憂鬱な気持ちです。
気持ちに嘘はないけれど。
表の意味も、隠された意味も。
どちらにも嘘はありません。
だけど。
私が願ったような伝え方にならなかったのが、とても悔しくもあり。
そして、悲しくもあり。
どうせ報われないのなら、もっと綺麗な思い出にしたかったのに。
よりにもよって未決の書類の山と、湯気を上げる湯のみに見守られたなんていう、色気のない状況なんて。
……問題はそこじゃありません。
どんな顔をしてあの人の元に戻ればいいのでしょう。
いっそ穴でもあったら。
ああ、ここは海の上だから海の底……いえ、それでは二度とあの人に会えなくなってしまいます。
それは困ります。
何も知らなかったら、こんなに悩むこともないのに。
いつもと同じように、あの人のそばで仕事を手伝って。
ちょっとした隙に、あの人の顔を見て。
言葉の意味を知ってしまった今では、そんなちっぽけな幸せが逃げて行ってしまいそうな気がします。
ちょっとだけ、昔の文豪が恨めしいです。
なんでそんな言葉にしたのか、問いただしたい気分です。
きっとあなたは言うのでしょうね。
『直接的すぎて恥ずかしいからだ』って。
でも、あなたのおかげで、私は今こうして恥ずかしい思いをしています。
どうしてくれますか。
どうにもできませんよね。
——はぁ。
また一つ溜息がこぼれます。
秋の澄んだ夜空に、わたしの沈んだ気持ちを乗せて。
もっと気持ちのいいものかと思っていました。
もっと幸せなものかと思っていました。
でも、これが人を想うということなのだと、身をもって知りました。
とても切ないです。
こぼれそうになった涙を押しとどめたくて、空を見上げてしまいます。
そこには、全ての原因になったそれがいるというのに。
私と同じ名前だというのに。
そしてまた、心が痛みます。
どうすれば、あの人は私の一番星になってくれるのでしょうか。
あの、秋の月の隣に寄り添って輝く星のように。
もう一度。
今度は、はっきりと言うべきなのでしょうね。
——はぁ。
溜息がまた一つ、秋の夜空に消えて行きました。
※繰り返し、短いお話ですいませんでした。
HTML化依頼出してきます。
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