【ゆるゆり短編集】ひまさくSelection (47)

【ひまさくと まかろん】


櫻子「ちなつちゃんそれ、何食べてるの?」

ちなつ「マカロンだよ。おいしいの~♪」

櫻子「へえ、これがマカロンかぁ! いいなぁ~……」

ちなつ「櫻子ちゃんにはあげなーい♪」





櫻子「ひまえもーん! ちなつちゃんがマカロンを自慢してくるよぉ~!」じたばた

向日葵「櫻子はいつも人を羨ましがってますわねぇ……」

櫻子「私もたべたいー!」ぎゃーぎゃー


櫻子「マカロン出してよ!」

向日葵「私が持ってるわけないじゃない」

櫻子「じゃあ買ってきて!」

向日葵「そんなお金もありません」

櫻子「うー、けちんぼ!」


向日葵「だから、1から作りましょう」

櫻子「えっ、マカロンって家でも作れんの!?」

向日葵「調べてみましょうか。なんとかなるかもしれませんわ」

櫻子「わーほんとに!?///」


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<数日後>


向日葵「櫻子! マカロンできましたわよ!」


櫻子「えー今頃できたの? もう私そこまでマカロンに興味ないんだけどな……」

向日葵「そんなこと言わずに食べてちょうだいな」


櫻子「そんじゃ一口」ぱく



向日葵「……ど、どう?」

櫻子「んー……」



櫻子「なんか、微妙かな」

向日葵「えっ……」


櫻子「不思議……というか、ちょっと変な食感だね。それにちなつちゃんのはカラフルで美味しそうだったけど、これは……」

向日葵「バカ櫻子っ!!」べちん

櫻子「痛ってぇ!?///」


向日葵「もう知りませんわ!」だっ


櫻子「いったぁ……なんなんだよ、あいつ……///」




櫻子「向日葵ー、いるんだろー」ぴんぽーん


楓「あっ、櫻子おねえちゃん!」がらっ

櫻子「楓、向日葵は?」


楓「櫻子おねえちゃんに見て欲しいものがあるの! こっちにきてなの!」とてとて

櫻子「なになに?」


楓「これなの……!」ばーん


櫻子「うわっ……なんじゃこりゃ! キッチンにマカロンがこんなに……!」


楓「お姉ちゃんはね……これ全部、失敗作だって言ってたの」

櫻子「し、失敗作!? あの向日葵がこんなに失敗しちゃったの……!?」


楓「マカロン作りは、なかなか簡単にはいかないものみたいなの……でもお姉ちゃんは、毎日頑張ってたの!」

櫻子「…………」


楓「これだけの手作りの材料費を合わせたら、お店で何個もマカロンを買えたけど……それでも手作りでやってあげたいって、お姉ちゃんは……」


櫻子「っ……!」だっ

楓「あっ、櫻子おねえちゃん!」




櫻子「向日葵ー!!」


向日葵「さ、櫻子……」びくっ


櫻子「……やっと見つけた、探したんだから……!」はぁはぁ

向日葵「…………」


向日葵「お菓子ひとつも満足に作れない私に……今更何の用ですの?」



櫻子「……作ってよ」


向日葵「え……?」


櫻子「もう一回……作ってみてよ!」


向日葵「な、何を……」


櫻子「マカロンをだよ! まだ材料残ってるんでしょ?」



櫻子「お願いだから、もう一回作って!」ぎゅっ


向日葵「もう一回やったって、できるのは同じものですわ……///」


櫻子「違うの!! 私嘘ついたんだもん!」


向日葵「えっ……?」

櫻子「欲しがってたものが、一番欲しかった時に貰えなくて、私はワガママを言ってたの……だから食べた時に微妙だなんて言っちゃったけど、本当は美味しかったんだよ……!」


向日葵「…………」


櫻子「向日葵の気持ちがわからなかった! あんなに失敗するまで頑張ってたなんて知らなかった! なのに、なのに私は……!」ぽろぽろ

向日葵「…………」


櫻子「微妙だって言ったのは、もう取り消せないかもしれない……でも!」


櫻子「もう一回だけ、私に作ってよ!」


櫻子「今度は絶対に、美味しく食べられるから……!///」



向日葵「…………」くすっ


向日葵「……わかりました。帰ってもう一回作りましょう」

櫻子「ほんと……?///」


向日葵「ええ。今だったら私も、今までで一番出来のいい物が作れそうですからね」


櫻子「じゃ、じゃあ私お手伝いするよ!」

向日葵「いや、失敗したくないので大人しくしててくださいな」

櫻子「ちょ、ひどくね!?///」がーん



<後日>


ちなつ「ん~♪」ぱく


櫻子「あ、ちなつちゃん。マカロンか」

ちなつ「櫻子ちゃん欲しい~? 一個だけならあげてもいいけど」

櫻子「ふーん……」ぱくっ


ちなつ「ふふ、櫻子ちゃんこんな美味しいの食べたことないでしょー!」



櫻子「……なーんだ、こんなもんだったんだ」ふっ


ちなつ「えっ!?///」


櫻子「残念だねちなつちゃん、私はこれよりも美味しいマカロン知ってるもんね!」

ちなつ「えー! どこのお店!?」

櫻子「いやー、これは教えられないなぁ~」


ちなつ「もしかして、1日何個限定とかのやつ!? そうなんでしょ!」

櫻子「さーね、私が頼めば何個でも作ってくれるかもね~」

ちなつ「えーっ、櫻子ちゃんパティシエと知り合いなのー!?」


櫻子「あはは、まーねー……」ちらっ


向日葵「ふふっ……///」にこっ

【ごせんぞさま】


櫻子「向日葵ーあそべー!」

向日葵「あら櫻子。いらっしゃい」


楓「楓たちはこれからおでかけなの!」

向日葵「櫻子も来ます?」

櫻子「なぬ、おでかけか! いくいくー♪」





櫻子「ところでどこ行くの?買い物?」

向日葵「お墓参りですわ」

櫻子「は……!?」

楓「楽しみなの!」


櫻子「なんだよ、来るんじゃなかった……お墓参りのどこが楽しいのさ~……!」

向日葵「大事なことなんですから、ちゃんとやりなさいよ」

楓「ご先祖様に会うの♪」

櫻子「お墓にあるのは大っきい石だけでしょ……もーつまんなーい!」

向日葵「文句言ってると呪われちゃいますわよ」

櫻子「やだー呪いもやだー!」



向日葵「お墓を掃除しましょうか」

楓「お水くんでくるの!」


櫻子(なんでこの二人はこんなにお墓参り楽しんでんだよ……)じとー


『本当にありがたいことですわ』


櫻子「?」きょろきょろ


櫻子(あれ? 今……)


『初めまして、あなたが櫻子ちゃんね』ぴとっ

櫻子「わーーっ!! え、だ、誰っ!?///」


『先祖ですわ。古谷の』

櫻子「いぎゃー幽霊だ~~!!」



向日葵「櫻子何やってるんですの? お墓で騒がないでちょうだい」

櫻子「バカお前見えないのか!? これこれこの人!」ぶんぶん

向日葵「はぁ?」


『櫻子ちゃん、あなた人並み外れた霊感をお持ちのようね。生きてる子とお話するのは何十年ぶりかしら』

櫻子「ひぃぃ……呪わないでぇ……」がたがた

『本当に……よく来てくれました。私は櫻子ちゃんにずっと会いたかったんですよ』

櫻子「な、なんで!?向日葵のご先祖様でしょ!?」


『ええ……でももうすっかり櫻子ちゃんのこともわかっていますわ。なんたって向日葵は、いっつも私に櫻子ちゃんのことを報告してくれますもの』

櫻子「え……」



『小さい頃からずっとそう。向日葵は櫻子ちゃんのことしか話しません』


『櫻子ちゃんと良いことがあれば教えてくれるし、喧嘩したことも教えてくれます』


『何べんも何べんも聴かされて……ついに櫻子ちゃんと一緒に来てくれるようになったとは。本当に嬉しいです』


櫻子「あいつ、そんなことを……///」



『櫻子ちゃん、本当にありがとう……』


『これからも向日葵のこと、どうか末長くお願いしますね……』すうっ


櫻子「あっ、あ……!」



櫻子「……消えちゃった」

楓「お水くんできたのー!」

向日葵「ありがとう楓、ここに置いて?」

楓「お掃除するの!」


櫻子「…………」


櫻子「貸して、雑巾」ぱっ


向日葵「えっ?あなたもやってくれるんですの?」

櫻子「まあ……気まぐれ」

向日葵「へぇ……」


櫻子(向日葵のご先祖様の前でくらい、ちゃんとしなきゃ……///)ごしごし


向日葵「偉いじゃない櫻子。ありがとう」

楓「ごせんぞさま喜んでるの!」

櫻子(確かに喜んでたよ……)


向日葵「やっぱりこういうの、大事ですわよね」

櫻子「まあね……」


櫻子「……ねえ向日葵、これからもここにくるときは、誘ってよ」

向日葵「ええ……? いいですけど、自分の家のご先祖様を先に大切にしなさいよ」

櫻子「まあそうだけど……向日葵のご先祖様にも挨拶しなきゃでしょ」

楓「櫻子おねえちゃん偉いの!」



<後日>


あかり「なんかね、最近お墓で……一人で笑ってる中学生が出没するんだってぇ」

向日葵「は、はぁ……? 何ですのそれ怖いですわね」


ちなつ「すごい楽しそうにしてるんだってよ……その中学生も幽霊なんじゃないかって噂なの」

向日葵「確かに、普通の子じゃなさそうですわ……」





ちなつ「ね、ねぇやめようよ~……肝試しなんて良いことないよ~……!」

あかり「だって気になるよお。それにまだ明るいから大丈夫~」


向日葵「あっ……あれ!!」ぱっ



「あははは……!」



ちなつ「笑い声……あの幽霊だよぉ!!///」びくっ

あかり「ほ、ほんとにいたー!?」

向日葵「えっ……うそ、あれ!?」



向日葵「さっ、櫻子じゃないの!!」


櫻子「うわあーーー! ひ、向日葵! みんなも!///」どきっ



向日葵「どうしてあなたがここに!? ってかここうちのお墓の前じゃない!」

あかり「な、何やってたの……?」


ちなつ「幽霊の正体って……じゃあ櫻子ちゃんだったの!?」

櫻子「え、なに幽霊って」ぽかん



向日葵「ちょっと、何やってたかだけ教えてくださる!?」

櫻子「え……と、お墓の掃除してた」

あかり「向日葵ちゃん家のお墓を?」

ちなつ「なんで櫻子ちゃんが……?」

櫻子「いやあ、これが予想外に楽しくてさ……///」


櫻子(向日葵のご先祖様と話すのが楽しいからとは言えない……)


【おおむろけの まんざい】


櫻子「はいどうもー! 大室三姉妹です~」ぱちぱち

撫子「よろしくお願いします」


櫻子「ねー私らこうして三姉妹で、漫才やらさせてもらってますー」

花子「そうだし」


櫻子「はいこの一番小さいのが花子、真ん中の私が櫻子、このでかくて怖いのが撫子ねーちゃんといいまして」

撫子「いや怖いことはないでしょ」


櫻子「まあ怖いというか、よくクールみたいに言われることは多いですよね!」

花子「女の子に人気あるし」うんうん

撫子「いやまぁ……仲いい女の子はいっぱいいますけどもね」


櫻子「だからね私心配なんですよ。このままじゃねーちゃん女の子に人気出すぎてレズになっちゃうよって」

撫子「はあ?」

櫻子「いっつもキャーキャー言われてるとね? 女の人しか寄ってこない人になるんですよ」

撫子「いやそんなことないでしょ」


櫻子「だから今日はこの場を借りてね、うちのねーちゃんをテストしようと思いまして」

花子「レズテストだし」

撫子「なにそれ……」

櫻子「イメージテストですよ」



櫻子「例えばね? 私もこの前あったんですけど、女の子と密室に閉じ込められてしまった時」

花子「よくありますねー」

撫子「いやないでしょ……」


櫻子「外から鍵かけられちゃって、携帯も持ってなくて、誰かが来るのを待つしかないんです」

花子「さあこんな時、撫子お姉ちゃんならどうする?」

撫子「んー」

櫻子「一緒に閉じ込められちゃった女の子がすごく不安そうにしてるんですよ! どうしてあげるのが正解だと思う?」

撫子「そりゃやっぱり……キスでしょ」

花子「なんでだし!!」びしっ


撫子「こういうときはやっぱり、キスで全部忘れさせてあげるのが一番……」

櫻子「違うでしょ!? 手握ってお話してあげるくらいでいいんだよ!」

撫子「いやいや手握るくらいじゃ意味ないって!」

櫻子「だめだこりゃ……もう既にクソレズ脳だった」

花子「末期だし」


撫子「じゃあそんなに言うなら、櫻子もテストしようよ!」

櫻子「いいよ。私大丈夫だと思う!」

撫子「うちの櫻子にはね、幼馴染みがいるんですよ」

櫻子「向日葵っていう、まあムカつく子なんですけど」


撫子「この幼馴染みがね、朝全然起きられないんですよ」

花子「低血圧なんだし」


撫子「朝起きれないけど、その日は朝から大事な用があって、早起きしてもらわなくちゃいけないの。そうしたら櫻子、どうやってひま子を起こしてあげる?」

花子「その寝てる部屋に、一緒に櫻子がいるとして」

櫻子「えーと……」

撫子「よっぽどのことじゃひま子は起きませんからね」



櫻子「一発で起こすなら、おっぱい揉むでしょ」

花子「なんでだし!!」びしっ


櫻子「いや違うんですよ! 向日葵はいつも私がおっぱい触ると起きてくれるんですよ!」

撫子「全然ダメじゃん……あんたも立派なクソレズ脳だよ」

櫻子「そんなー!」

櫻子「じゃあ花子は! 花子にもテストしてよ」

撫子「花子はテストする必要ないよ」

花子「そうだし」ふふん


撫子「もう立派なクソレズ脳だから」

花子「」ずこーっ

櫻子「確かに花子は私たち二人の間で育ってますからね、色々なおかしいことが、本人の中で当たり前になってるかもしれませんね」



撫子「まあそんな私たちなんですがね、これから漫才やっていきたいと思いますけども」ぱんっ

櫻子「まだ始まってなかったのかよ!」

花子「もう結構やっちゃったし!」

櫻子「私今日用事があるんでね、そろそろ終わりにしたいんですよ」

撫子「何、なんかあんの?」

櫻子「いや、この後向日葵とデートが……」

花子「なんでだし! 普通にデートしちゃってんのかし!」びしーっ


撫子「ほら花子がツッコミすぎて疲れてきてるよ」


櫻子「疲れてるなら帰って寝たらいいじゃないですか」

撫子「まあ……けど今夜は私に夜の相手いないから、代わりに花子に付き合ってもらう予定なんで、寝させてあげられないかもしれませんねぇ」

櫻子「おいなに妹に手出してんだよ!!」

花子「しかも初耳だし! 花子はいいけどね!///」

櫻子「もういいわ~!!」びしっ

【くちさけおんな】


櫻子「あれ向日葵、マスクしてどしたの?」

向日葵「すみませんね、ちょっと風邪気味で……宿題はちゃんと見てあげますから」

櫻子「ふーん……まあいいけど」





向日葵「話変わるんですけど櫻子、口裂け女って知ってます?」


櫻子「名前は聴いたことあるけど……詳しくは知らないや。なに?」

向日葵「いえね、昨日テレビでやってたんですわよ。昔は社会問題になるくらい流行ったそうですわ」

櫻子「そんなにかー……え、具体的にどういうやつなの?」

向日葵「私たちが道を歩いてると突然話しかけてくるんですって。『わたし きれい?』って」

櫻子「なんだそんだけ? じゃあ『きれいですよ』って言ってあげればいいじゃん」


向日葵「そうするとマスクを取って、『これでも きれいと 言えるの!?』と襲いかかってくるそうですわ」

櫻子「こっわ!! じゃあきれいって言わないほうがいいんだ……」


向日葵「きれいって言わないと、隠し持ってる包丁で問答無用に刺されるらしいですわ」

櫻子「むちゃくちゃだな!! じゃあどうしようもないじゃん!!」


向日葵「だから社会問題になるほど流行ったんですのよ。みんな口裂け女に対抗する手段を必死に考えていたらしいですわよ」


櫻子「そういう妖怪みたいのにも色々いるんだなぁ……で、急にそんな話してどうしたの?」


向日葵「いや、まあちょっと…………あの、櫻子」


櫻子「?」



向日葵「わたし、きれい……?///」


櫻子「…………っ!!?」どきっ

櫻子「……な、なにそんなこと……急に聴くの……?」


向日葵「櫻子、わたしは……きれいかしら?」



櫻子「…………」



櫻子「……まあ、きれいなんじゃないの……」


向日葵「そう……///」



櫻子「…………」


向日葵「あ、この問題間違えてますわよ」

櫻子「いや取れよマスク!!」

向日葵「へ?」


櫻子「今完全に取る流れだろ!!」

向日葵「いやまあ、とってもいいですけど……」ぱっ

櫻子「はぁ!? なんもないじゃん!! なんだったの今の!?///」

向日葵「いや、普通に……私きれいかなーって思いまして」

櫻子「そんなこと聞くなら口裂け女の話する前に言え!!///」


向日葵「ふふっ……あなたの怖がってる顔、面白かったですわよ」くすくす

櫻子「なんなんだよ、もう……一杯くわされたぁ……!///」

【ていけつあつ】


<朝>

櫻子「おそいぞ向日葵! 遅刻しちゃうだろ」


向日葵「ご、ごめんなさい……ちょっと今朝は、やけに辛くて」

櫻子「またていけつあつか。だらしないなー」


向日葵「そんなこといったって、仕方ないじゃない……」

櫻子「まあいいや、いくぞー」すたすた

向日葵「ええ……」よたよた





櫻子「それであかりちゃんがさー」とことこ


向日葵「っ……」ふらっ


どんっ


櫻子「いてっ! な、なんだよ!///」

向日葵「……」



櫻子「あれ……向日葵?」


向日葵「……」

櫻子「向日葵……ちょっと、ねえ!」ゆさゆさ


向日葵「う…ん…」


櫻子「や、やばい……向日葵が……!」さーっ




<学校>


ちなつ「えーっ!? 向日葵ちゃん登校中に倒れちゃったの!?」


櫻子「急に体当たりしてきたと思ったら、立ちくらみすぎて倒れちゃったみたいでさ……でももうすぐ学校だったし、私がおぶって保健室まで運んだんだよ」

あかり「大丈夫かなぁ、向日葵ちゃん……」


櫻子「ていけつあつって、なんなんだろなぁ……」

ちなつ「うーん……名前はよく聞くけど、詳しいことはわからないねぇ」



櫻子「ちなつちゃん、これ読んでー!」


ちなつ「なにこの本……難しそうだね」

櫻子「これ読めば低血圧のことがわかるんだって! でも私には難しすぎて読めないから、ちなつちゃん読んで?」


ちなつ「私よりもあかりちゃんにお願いした方がいいんじゃ……?」

櫻子「あかりちゃん、今先生に仕事頼まれてるみたいでさー」


ちなつ「まあいいけど……えーっと、この辺かな」ぱらぱら


ちなつ「ていけつあつは、しゅうしゅくきけつあつが100mmHg以下と低く……」


櫻子「しゅうしゅくき……? そ、そんなこと言われてもわかんないよ! わかるように読んで!」

ちなつ「私だって櫻子ちゃんと同じくらい低血圧のこと知らないんだよ! えーと……簡単にわかりそうなとこは……」ぺらぺら

ちなつ「疲れやすい、たちくらみがする、肩がこる、手足が冷える、朝起きるのが辛い、っていう症状が出るんだって」

櫻子「えー!? 向日葵全部当てはまってるじゃん!」


ちなつ「向日葵ちゃん肩がこるってよく言ってるけど……おっぱいじゃなくて、低血圧が原因なのかもしれないね」

櫻子「そうだったんだ……」


ちなつ「身体はだるく、気力もわかず、食も細くなるため十分な栄養が摂取できない状態に陥る、だって」


櫻子「そういや向日葵……最近あんまり食べてなかったみたい」

ちなつ「昨日も給食残してたもんね……」



ちなつ「えーと、他には……」ぺらぺら



ちなつ(あっ!)

ちなつ「……櫻子ちゃん、一番大事な原因見つけた」

櫻子「なになに!?」


ちなつ「ストレスだって」

櫻子「す……ストレス!?」はっ


ちなつ「ストレスが神経に悪影響を与えて、血圧や血流のバランスを悪くさせる……だってさ」


ちなつ「これ、もしかしたら櫻子ちゃんのせいかもね」ぱたん

櫻子「っ!!」


ちなつ「毎日毎日櫻子ちゃんのこと心配したり、櫻子ちゃんのために何かしたり……向日葵ちゃんは休まるときがないんだよ。もともと低血圧な所に櫻子ちゃんのストレスまで加わるから、こんな倒れちゃうくらいになっちゃったんじゃない?」


櫻子「そ……んな……!」

ちなつ「でも……否定できないでしょ」


櫻子(向日葵……!)


櫻子「っ……!」だっ

ちなつ「あっ、櫻子ちゃん!」


ちなつ(……ちょっとやりすぎちゃったかな。ストレスは原因の項目のひとつだから、そんなに大きく書かれてるわけじゃなかったんだけど……)


ちなつ「……ま、いっか」



<保健室>


櫻子「向日葵!」ばっ


向日葵「…………」すぅすぅ


櫻子「ひ、向日葵ぃ……」ぎゅっ



櫻子「ごめん……ごめんね向日葵……!」


櫻子「私がいつも……迷惑かけたりしてるから……倒れちゃったんだよね……」


櫻子「もうしない、もうしないよぉ……!///」ぽろぽろ



向日葵「ん……」ぱちっ


櫻子「わっ、き、気がついた……?」


向日葵「あら……櫻子。ここは……?」

向日葵「そう……その時倒れちゃって、今の今まで寝てたんですのね」


櫻子「心配したんだから……低血圧がつらいなら、ちゃんと言ってくれれば私だって……! もっと気遣ってあげられたのに……」


向日葵「……ごめんなさいね。迷惑かけちゃって」

櫻子「迷惑は普段の私の方がかけてるじゃん!!」


向日葵「ふふ……櫻子の面倒は今までずっと見てきたことだし、迷惑だなんて思ったことはありませんわ。それより……」

櫻子「それより……?」



向日葵「それより、いきなりブートキャンプはやっぱりキツかったですわね~」



櫻子「……は?」きょとん

向日葵「無茶しすぎましたわ。反省しなきゃ」


櫻子「ぶ、ブートキャンプって……?」


向日葵「ほら、ちょっと前にDVDが流行ったじゃない、ダイエットの体操トレーニングのやつ。あれを撫子さん借りたからやったんですけど……いきなり激しくやりすぎましたわね。もともと低血圧なんだから倒れるに決まってますわよね」

櫻子「…………」


向日葵「あ、私最近ダイエットしてるんですのよ。知らなかった?」


櫻子「ダイエット……」

向日葵「ええ。体重が増えてきちゃって」


櫻子「だ……だから最近ご飯あんまり食べてなかったのか!?」

向日葵「そうですわね。セーブしてましたわ」

櫻子「ふっ……ふざけんなぁ~~!!///」ぎゅー


向日葵「きゃー! 何しますの!?///」


櫻子「そんなことしてりゃ倒れるに決まってんだろうがー!」

向日葵「まあ確かにね……」


櫻子「あのさ、お前だって成長期なんだから体重が増えるの当たり前だろ! 大人になっても今の体重維持するつもりなのか!?」

向日葵「でも実際服がきつくなったりしてて……」

櫻子「それおっぱいが大きくなってるだけだっつーのー!!」もみもみ

向日葵「ちょっ、きゃー! いやー!///」


先生「二人とも! 保健室では静かに~!」



櫻子「ねーちゃん! 向日葵に変なDVD貸すなよ!」

撫子「えっ?」


櫻子「もー、今日そのせいで大変だったんだからね! まったくぅ……」はぁ

撫子「えっ……私ひま子に何か貸したっけな……」

櫻子「貸したろ!」


撫子「あー、もしかしてあれか……! じゃあ大変だったってのは、そのDVDのせいで、ってこと?」

櫻子「そうだよ!」



撫子「へぇ……あんたら結構、やってんだね……///」

櫻子「は?」


撫子「どのDVDだろ……オイルマッサージのやつ? それともお嬢様とメイドのやつかな……あ、もしかして幼馴染み系?」


櫻子「おまっ……変なDVDってそっちのことじゃねぇーー!!///」

撫子「え、違うの!?」

櫻子「違うわーぼけーー!!」

【ひまわりちゃんの くせ】


櫻子「小学校入ってすぐくらいは、私の方が向日葵より頭よかったんだよ」

あかり「そ、そうなの?」


櫻子「反対ことばってあるでしょ? あついの反対はつめたいとか、ながいの反対はみじかいとか。その問題が出てきたとき、向日葵の書いたやつを見たら、『いつあ』とか『いかじみ』とか全部逆さま読みで書いてたりしたんだよ!」

あかり「あはは、向日葵ちゃん可愛いよぉ~……///」



櫻子「まあその頃の名残なのかな、向日葵ってたまーにバカなんだよね」

あかり「へぇ~」


櫻子「あいつ機械とか弱いから、携帯買った時とかメールのやり方全然わかんなくて、ぜーんぶ私がやってあげたんだよ」


櫻子「しかもメールの時なんか、送信者に名前出てんのに、毎回本文の最後に『古谷向日葵より』ってつけてくんの」

あかり「それも可愛いね~」

櫻子「あと、よく向日葵にご飯作ってもらったりするけど、私が一言『おいしい!』って褒めようもんならそこから三連続くらいそのメニューが出ちゃうからね」

あかり「ちょ、ちょっと極端だねぇ~……」

櫻子「その三連続の間で嫌いになりかけるっていうね!」

あかり「確かに飽きちゃうかもねぇ」



櫻子「あと向日葵は、ちょっとパソコンで変な状態に陥ったらすぐ『壊れちゃいましたわ』って言うの! 壊れてんのはお前だよー! って言ってやるの!」

あかり「苦手な子はよく言うよねぇ」


櫻子「変なエラー出ただけで『爆発しそうで怖いですわ』とか言うし。SF映画じゃないんだからパソコンが爆発するわけないじゃん!」


櫻子「あとだいたい向日葵のメールは件名見ただけで内容がわかるからね」


櫻子「件名に『ノート返しなさい』ってなってて、本文に『早く!』とか書いてんの。いや全部本文に書けよ!って」

あかり「向日葵ちゃんらしいといえばらしいね~」


櫻子「あと勝手に私の部屋来ては、ちょっと脱いだ靴下とか見つけて『あなたこれ脱いだんだったら洗濯機のとこ持って行きなさい』とか言ってくんの! お母さんじゃないんだからさー……向日葵が言うことじゃないじゃん?」

あかり「も、もう本当にお母さんと同じなんだねぇ」

櫻子「あーあ、向日葵の変なとこ言い出したら無限に出てくるよ……まったく」


あかり「でもこれだけ出てくるってことは……やっぱり櫻子ちゃん、向日葵ちゃんのことちゃんと見てるんだねぇ」

櫻子「え、ええっ!? 違うよ! 単純によく一緒にいるだけだから……!///」

あかり「隠さなくても大丈夫だよぉ~」



向日葵「楽しそうですわね赤座さん、櫻子。何の話ですの?」

櫻子「うわーっ! 向日葵!」びくっ

向日葵「な、なによ……私が来るのがそんなに驚くこと?」


あかり「あのね、今櫻子ちゃんと、向日葵ちゃんの……」

櫻子「わーわー!///」がばっ


向日葵「私の……なに?」

櫻子「あ、あかりちゃん言っちゃダメ! だめだからね!」

あかり「ええっ?」


向日葵「ちょっと何なんですの? 変なこと吹きこんだんじゃ……」

櫻子「ち、ちがうもん! ばーかばーか! ばか向日葵!」だっ

あかり「あ……行っちゃった」

向日葵「まったくあの子は……よくわかりませんわね」

【すきなこの すきなもの】


櫻子「向日葵って私が本とか読まないの知ってるくせに、面白いからってたまーに勧めてきたりするんだよね。何でだろう?」


撫子「はぁ……? そんなのあんたと好きなものを共有したいからに決まってんでしょ」

櫻子「えっ?」


撫子「自分が好きなものについての話を、櫻子としたいって思ってるからだよ。それ以外に何があんの」

櫻子「いや、読書は勉強になるからって意味かと思って……」


撫子「それもあるけどさぁ……あんたひま子が何の本が好きとかは詳しく知ってるの?」

櫻子「うーん……実はタイトルもよく知らない」


撫子「それじゃあ話が続かないじゃん……あんたもひま子とこれだけ一緒にいるんだから、ひま子の好きなものぐらい完璧に把握しておきなよ。これほぼ義務だよ?」

櫻子「ぎ、義務!?///」


撫子「あんたとずっと一緒にいるくせに話せることが少ないから、ひま子はお説教とかお小言しか言えなかったり、アンタの話を一方的に聞き入れてるだけだったりするんだよ」


櫻子「……」


撫子「……ひま子の好きなもの、ちゃんとわかってあげな。そうすればひま子も嬉しそうに話すようになるだろうからさ……」



櫻子「まったく、なんで私がそんなこと……」ぶつぶつ



櫻子(……でも私たしかに、向日葵の好きなもののこと、詳しく知らない……)



櫻子(あいつは私の好みもよくわかってるのに、私は未だに……この前の好きなおにぎりの具だって、何年も昔のことを思い出しただけだし……)



櫻子(私……今の向日葵のこと、よく知らないじゃん……)



櫻子(でも向日葵は、私のことも……ちゃんとわかってくれてる気がする。好きなものも、何もかも……)



櫻子(向日葵……)

――――――
――――
――


<翌日・学校>


向日葵「……?」ちらっ


櫻子「……っ!」ぷいっ


向日葵「…………」



ちなつ「ねえ向日葵ちゃん……櫻子ちゃんと何かあったの?」

向日葵「それがわかりませんのよ……私は何もなかったと思ってるんですけど、最近櫻子がやけに私の方を観察してくるんですの」

ちなつ「そのくせ目があったらあわてて逸らして……まあそれは今までもそうか」

向日葵「えぇ……」


ちなつ「行きも帰りも一緒なんだよね? なら喧嘩ってわけじゃないのね」

向日葵「あっ、ごめんなさい……吉川さんにまで心配おかけして」

ちなつ「んーん、全然。ちょっと気になっちゃっただけだから」


向日葵(本当になんなのかしら。あの子の中で何かあった……?)


櫻子「…………///」むー



<帰り道>


櫻子「…………」

向日葵「…………」


櫻子「……」ちらっ

向日葵「?」


櫻子「っ……///」ぷいっ


向日葵(あ、また……)



向日葵「……櫻子、最近どうしたんですの? なんか私のこといっぱい見てきません?」

櫻子「みっ、見てねーよ!」

向日葵「見てるじゃないのよ」

櫻子「…………」



櫻子「あっ……あのさ」


向日葵「?」


櫻子「向日葵に……聞きたいこと、あるんだけど」


向日葵「えっ……」


向日葵(な、何ですのその真剣な目は……///)



向日葵(……あれ?)はっ


櫻子「…………///」もじもじ



向日葵(え、これってもしかして……!)どきっ


向日葵(そ、そういうことだったんですの!? もしかして、つっ……ついに告白……!///)


向日葵(なるほど! 最近やけに私の方を見てきたのは、タイミングをうかがうため……!)


向日葵(こっ、こんなところで、来ちゃうんですのね……!?)



櫻子「き、聞いてんのかよ!」

向日葵「えっ!は、はいっ!///」びくっ

向日葵「……」こほん


向日葵「な……なんでしたっけ」


櫻子「だからさ……向日葵って、何が好きなんだよ……///」


向日葵「…………」



向日葵「……ふふっ」くすくす

櫻子「な、なぁっ……! 笑うなよ!///」


向日葵「あはは、いえ……あなたのそんな顔、久しぶりに見ましたわ」

櫻子「むー……」


向日葵(本当に……可愛い子)


向日葵(でも……勇気を出してくれて、ありがとう)

櫻子「こ、答えてよ……何が好きなの?」


向日葵「ふふ……心配しなくても、私もあなたのこと、好きですわよ」ぴとっ




櫻子「……は?」きょとん


向日葵「えっ」



櫻子「な、何言ってんの……? 好きなものって、本とかお菓子作りとか、そういうのを聞いてるんだけど……」

向日葵「え……」

櫻子「わ、私のこと好きって、今……///」


向日葵「うそっ、違ったんですの!? 今私に告白してくれたんじゃなかったんですの!?」


櫻子「はぁ!? そんなわけねーだろ! 私はただ向日葵の趣味とかをもっとわかってあげたほうがいいってねーちゃんに言われたから、どんなのが好きなのかなーとか最近色々観察してて……それで今も聞いてみただけなんだけど!?」


向日葵「っ……」



向日葵「ず……ずるいですわー!!///」ぽかぽか

櫻子「えー!?///」


向日葵「詐欺ですわ! ひっかけですわ! 誘導尋問ですわー!」

櫻子「ちげーよ! 向日葵が勝手に勘違いしたんだろーが!」


向日葵「忘れなさいよ、今の言葉……っ!///」


櫻子「いや無理だよ! 向日葵めっちゃかっこつけてたじゃん!!」


向日葵「ああもう~、なんでこんなことに……!!」かああっ


櫻子「な、なるほどなー、向日葵って私のことそんな風に見てたんだ……///」


向日葵「ちっ、違いますわ~~!!」


櫻子「うそつけーー!」


ぎゃーぎゃー……



~fin~

ありがとうございました。

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