騎士「ようするに竜に乗れば竜騎士なんだろ!? できらぁ!」(91)

─ 騎士団訓練場 ─

友人「おっ、見ろよ」

騎士「どうした?」



バッサバッサ…… バッサバッサ……



友人「我が国自慢の竜騎士団が飛び立っていくぜ」

友人「おおかた、これから空中戦の演習ってとこだろうな」

友人「隣国との関係もあまりよくないし……戦が近いのかもな」

騎士「…………」

騎士「ちくしょう……」

騎士「なんであいつらは俺たちと同じ騎士なのに、あんなに待遇がいいんだ?」

騎士「たっぷり金をもらえて、いい兵舎に住まわせてもらえて……」

友人「そりゃなぁ」

友人「オレたちは、地上を馬で駆け回るのがせいぜいだけど」

友人「奴らは翼の生えた竜にまたがって、空を駆け回るわけだからな」

友人「軍事的な有用性が段違いだろ。特別扱いもされるって」

友人「兵力ではウチの国に勝ってる隣国がなかなか攻め込んでこないのは」

友人「竜騎士団に対して勝算が見出せてないってのもデカイだろうしな」

騎士「ふん! たかが竜に乗ってるだけじゃねえか!」

騎士「俺だって竜に乗れば──」

友人「だから、それが一番ムズイんだっての」

友人「竜ってのは気難しくてプライドが高い生き物だから」

友人「よほどの人物でないとまたがることすら認めてもらえないし」

友人「よしんば認められても、乗りこなすまでが一苦労だ」

友人「つーか、才能がなきゃ、絶対乗りこなせないらしいしな」

騎士「うぐぐぐ……!」

騎士「ようするに……竜に乗れば竜騎士なんだろ!? できらぁ!」

騎士「竜ぐらいすぐに乗りこなしてみせらぁ!」

友人「できらぁ、ってどうやってだよ?」

騎士「竜騎士団にも知り合いがいる。ちょいといけ好かない奴だがな」

騎士「そいつに頼み込んで、練習させてもらうんだ!」

騎士「そして……俺も竜騎士になる!」

友人「はぁ……」

─ 竜騎士団兵舎 ─

騎士「な……頼むよ! このとおり!」パンッ

竜騎士「かまわんが……竜は馬などとは比べ物にならんほど、気高い生き物だ」

竜騎士「とてもお前如きに乗りこなせるものではないぞ」

騎士「そんなの、やってみなきゃ分からねえだろ!」

竜騎士「やれやれ……まぁ、やってみるがいいさ」

騎士「よし、やってみせてやる!」

ドザァッ!

騎士「あがっ!」

ドザァッ!

騎士「ぎゃんっ!」

ドッ!

騎士「ぐげっ!」

騎士「うぐぐ……いだだ……」



竜「ギャオォォォォン……!」バッサバッサ…

竜騎士「だからいっただろう。お前如きでは無理だとな」フッ



騎士「ち、ちくしょう……」グスッ…

─ 騎士団兵舎 ─

友人「どうだった?」

騎士「腰がいてえ……」

友人「答えになってないが、これほど分かりやすい答えもないな」

友人「だから、いっただろ? 竜に乗れるのは選ばれた人間だけなんだよ」

騎士「いや……俺だってやればできるはずだ!」

友人(できなかったじゃん……)

騎士「こうなったら……!」

友人「おいおい、今度はどうする気だよ?」

騎士「ようするに……竜に乗れば竜騎士なんだろ!?」

騎士「だったら──」

騎士「“皇帝竜”に乗ってやる!」

友人「……は!?」

友人「な、なにいってんだお前!?」

友人「皇帝竜っつったら、この大陸……いや、世界最強の竜じゃねえか!」

騎士「だからこそ、乗る価値があるんじゃないか」

騎士「皇帝竜に乗れば、一気に竜騎士どもをゴボウ抜きにできる!」

友人「ゴボウ抜きって、マラソンやってんじゃねえんだぞ……」

友人「やめとけって、殺されちまうよ」

友人「大昔、この国に住む皇帝竜を狩るために、各国から精鋭が集められたことがあるが」

友人「かすり傷一つ負わせられず、壊滅したこと知ってんだろ?」

友人「ウワサじゃ、異世界である魔界にも行き来できるって聞くし……」

友人「皇帝竜は人間じゃどうにもならない存在なんだよ。ましてや乗るなんて……」

騎士「なぁに、心配すんなって。なんならついてくるか?」

騎士「俺が竜騎士になる瞬間を見せてやらぁ!」

友人「お、おい……」

─ 竜の山 ─

友人(おいおいおい、ホントに来ちまったよ……)

友人(皇帝竜は、その気になりゃ国だって滅ぼせるぐらい強いと聞く)

友人(皇帝竜を怒らせて、オレとこいつが殺されるだけならまだいいが)

友人(もし矛先が人間全体になっちまったら──)

友人(やっぱり、ブン殴ってでも止めるべきだったかも……)

騎士「お~い、なにやってんだよ。とっとと行こうぜ」

友人「あ、ああ」

─ 竜の洞窟 ─

友人(ああヤバイヤバイ、ついに本当に来ちまったよ……。夢なら覚めてくれ……)

友人「や、やっぱりやめた方が──」

騎士「お~い、皇帝竜!」

友人(え~~~~~~~~~っ!?)



ズシン…… ズシン……



友人(来たぁぁぁ! 来ちゃったぁぁぁ!)

友人(どっ、どうする!? こいつ置いて逃げちまうか!?)

皇帝竜「ワシの眠りを妨げるとは……何者だ?」ズシン…



友人(でっ、でけえ! 威圧感もすげえ!)

友人(竜騎士どもが乗ってる竜なんて、こいつと比べたらトカゲみたいなもんだ!)

友人(に、逃げたいけど……か、完全に足がすくんじまって……)



騎士「よっ! 久しぶり!」

皇帝竜「おお、キサマか」



友人「え!?」

騎士「わりぃね、起こしちゃった?」

皇帝竜「なあにかまわん」

騎士「ところでさ、頼みがあるんだけど」

皇帝竜「なんだ?」

騎士「俺さ、竜騎士になりたいんだよ」

皇帝竜「なればよいではないか」

騎士「だけど、どうしても竜に乗れないんだよ」

皇帝竜「そりゃまずいな」

騎士「だからさ……乗せてくんない?」



友人(なんなんだよ、このアホみたいな会話!)

皇帝竜「まあ、よかろう」

騎士「おお、マジか! サンキュー!」



友人(えええええ!?)



皇帝竜「いつから乗る?」

騎士「今から……っていいたいけど、今日はもう遅いしな」

騎士「明日からで」

皇帝竜「分かった、待っておるぞ」



友人(えええええええええええ!?)

騎士「よっしゃ、これで俺も竜騎士だ! 憧れのドラゲナイってやつだ!」

友人「…………」

友人「なぁ、なんで皇帝竜がお前なんかのいうこと聞くんだよ」

騎士「なんかとは失礼な」

騎士「まぁ……ちょっと貸しがあんのよ」

友人「どんな?」

騎士「そりゃ秘密だ」

友人「…………」

友人(こいつのことだから……ろくなことしてねぇぞ、きっと……)

友人(まぁいいや……今日のところは生還できることを素直に喜ぼう……)

翌日──

─ 竜の洞窟 ─

騎士「おはよ!」

皇帝竜「うむ、おはよう」

騎士「じゃあさっそく、俺を乗せて兵舎まで行ってくれ!」

皇帝竜「よかろう」

騎士「よ~し、みんなをギャフンといわせてやる!」

─ 騎士団兵舎 ─

ドタバタ…… ドタバタ……

友人(やけに慌ただしいな……なにがあったんだ?)

友人「お~い」

同僚「!」

友人「やけに兵舎が騒がしいけど……どうしたんだ?」

同僚「どうしたもこうしたもない! 大変なことになった!」

友人(大変なこと──)

友人「まっ、まさか! ついに隣国が!?」

同僚「いや……それよりもずっと絶望的な事態だ……!」

同僚「この国は今日、滅亡するかもしれない!」

友人「マ、マジか!(想像もできねえぞ、いったい何があったってんだ!?)」

同僚「……皇帝竜が攻めてきたんだっ!」

友人「……え」

ザワザワ…… ドヨドヨ……



騎士団長「いいか、絶対に刺激するんじゃないぞ!」

騎士団長「竜の長である皇帝竜が相手では、竜を扱う竜騎士団は機能せんし」

騎士団長「仮に機能して全軍でかかったところで、敵うわけがないんだからな!」

騎士団長「可能な限り、説得を試みるんだ!」

ベテラン騎士「参ったねえ……この国もいよいよ終わりかな。あっけないもんだ」

女騎士「くっ、殺せ……!」



友人(そりゃ、こうなるわなぁ……)

友人(もし、この騒ぎを起こしたのがあいつってバレたら)

友人(騎士団クビじゃ済まないかもしれねえな……)

友人(しかたねえ……オレがこっそり先行してハナシつけてくるか……)

ズシン…… ズシン……

皇帝竜「もうすぐ兵舎につくぞ」

騎士「うひょ~、いい眺め!」

騎士「俺のこの雄姿をみんなに見てもらえば、きっと俺は竜騎士に──」



お~い……!



騎士「──ん?」

騎士「なんだ、お前か。どうしたんだ?」

友人「早いとこ引き返せ!」

騎士「へ? なんで?」

友人「皇帝竜さんがいきなり山から下りてきたから、みんなパニックになってる!」

友人「このままじゃ、混乱が広がって死人が出るかもしれない!」

騎士「うへぇ~、マジかよ。そりゃマズイな」

騎士「ってわけだ、ゴメン! 今すぐ引き返してくれ!」

皇帝竜「仕方あるまい」

皇帝竜「Uターン!」グルン



ズシン…… ズシン……

─ 竜の洞窟 ─

騎士「朝早くから乗せてもらって、歩いてもらって、すぐ引き返させて……」

騎士「ホント、ゴメンな! このとおりだ!」パンッ

皇帝竜「気にするな」

友人(いやいやいや……気にしてくんなきゃ困る)

皇帝竜「ワシこそ、竜騎士になりたいという願いを叶えられずすまん」

騎士「気にすんなって!」

友人(いやいやいや……気にしてくんなきゃ困る)

友人「話が済んだなら、兵舎にとっとと戻ろう」

騎士「おう」

友人「ったく、皇帝竜が動くなんて、いってみりゃ地震や台風が動くようなもんだぞ」

友人「少しは深刻に受け止めろよな」

騎士「分かってるよ。軽率だった」

騎士「あ~あ、竜騎士はおあずけか」

騎士「やっぱり、普通の竜に乗れるよう、頑張るしかないか……」

友人(まだ懲りてなかったのかこいつ……)

友人「……ところで、乗り心地はどうだった?」

騎士「ケツがいてえ……」

友人「答えになってないが、これほど分かりやすい答えもないな」

今回はここまでです
よろしくお願いします

─ 竜騎士団兵舎 ─

ドザァッ!

騎士「ぐげっ!」

ドザンッ!

騎士「あがっ!」

ドズッ!

騎士「ぎょえっ!」

騎士「あたた……」



竜騎士「もう諦めろ」

竜騎士「お前如きが竜を乗りこなすなど、しょせんムリな話なのだから」

竜騎士「それに、はっきりいって迷惑なんだよ」

騎士「ち、ちくしょう……」グスッ…

─ 騎士団兵舎 ─

騎士「はぁ~……」

友人「どうした? お前がへこむなんて珍しいな」

騎士「俺だってへこむことぐらいあるさ」

騎士「なにしろ竜騎士になりたいだなんていって」

騎士「結局、みんなに迷惑かけまくってただけなんだからな……」

友人「…………」

友人「なんでお前、そんなに竜騎士になりたがるんだ?」

友人「単に待遇がいいからってだけじゃ、そこまで必死にはならないだろ?」

騎士「ん~、なんというか、俺もせっかく騎士になったんだから」

騎士「俺の中にある理想の騎士になりたい、みたいなもんがあるわけよ」

友人「お前の理想の騎士って?」

騎士「優しくて、強くって、国を救う大活躍をするような騎士」

友人(そりゃあお前にはキツイな、とはいわないでおこう)

騎士「で、そういう風になるには、やっぱり竜騎士になるしかないなと思ったんだよ」

友人「……なるほどな」

友人「たしかに、竜騎士になった方がお前のいう理想の騎士を目指しやすいだろうな」

友人「だけど、たとえ一般騎士のままでも、目指すことはできるぜ?」

友人「大事なのは竜に乗れるかどうかじゃなく、“志(こころざし)”だろ」

騎士「……そうだな! そうだよな!」

騎士「竜騎士になるのを諦めたってわけじゃないけど」

騎士「いつまでもへこんじゃいられないよな! うん!」

騎士「大事なのは……志!」キリッ

友人(こんな3秒で考えたようなアドバイスでこうもあっさり立ち直られると)

友人(もう少し落ち込ませてもよかったかもって気分になるな)

それから一ヶ月後──



─ 騎士団兵舎 ─

ドタバタ…… ドタバタ……

友人(やけに慌ただしいな……)

騎士「おい、どうしたんだよ?」

同僚「おお、お前たちか! 大変なことになったぞ!」

騎士「大変なこと?」

友人(まさか、また皇帝竜が? でも、こいつはここにいるしな……)チラッ

同僚「隣国の奴らが……奇襲をかけてきたんだ!」

騎士&友人「!!!」

騎士「隣国が……!? どの辺まで来てるんだ!?」

同僚「本隊はすでに国境を突破して、この首都に向かってきてるらしい!」

友人「マジかよ……!」

同僚「もうまもなく全騎士に出動命令が下るだろう、準備しとけ!」

友人「分かった!」

ドタバタ…… ドタバタ……

騎士「ったく、奇襲するなら前もっていっておいて欲しいよな」

友人「奇襲じゃねえだろそれ」

騎士「いやいや、あえて宣戦布告することで、逆に敵を油断させるって戦法だよ」

友人「敵と戦う前に頭痛を起こさせるのやめてくれ……」

バッサバッサ…… バッサバッサ……



友人「竜騎士団が続々と飛び立っていくな。勇ましいねえ」

友人「悔しいが、奴らの実力と機動力はホンモノだからな」

友人「ぶっちゃけた話、奴らがいる限り、隣国軍もどうしようもねえだろ」

騎士「…………」

友人「ん? いつもみたく“あいつらばかり目立ちやがって”とかいわないのか?」

騎士「なぁ~んか……嫌な予感がするんだよな」

友人「嫌な予感? 大丈夫だろ、すぐに隣国軍を追い払って帰ってくるさ」

ところが──

同僚「まずいことになったぞ!」

友人「まずいこと? まさか──」

同僚「そのまさかだ! 竜騎士団が総崩れになってる!」

友人「な、なんだと!?」

騎士「どういうことだよ!? 負けちまったのか!?」

同僚「総崩れっていっても、もちろん真っ向から敗れたわけじゃない」

同僚「なんでも隣国の奴ら、竜の戦意を削ぐ効果のある煙を発生させてるとかで……」

友人「煙!?」

同僚「それで、竜騎士の竜たちはまったく使い物にならなくなっちまって……」

同僚「竜騎士団はもうほとんど機能してないらしい……!」

友人「よく分からねえが、猫に対するマタタビみたいなもんを武器にしてきたってことか」

同僚「そういうことだろう」

同僚「隣国はオレたちの軍について、きっちり研究してきてたってことだ!」

同僚「オレたち以上にな……!」

友人「まさか、竜騎士団にそんな弱点があったなんて……」

騎士「…………」

友人「勝ち戦かと思いきや、とんでもないことになっちまったな」

同僚「ああ、一般騎士と兵士だけでどこまでやれるか……」

友人「だけど……こうなりゃ腹くくるしかねえだろ」

友人「騎士、この国の騎士団の意地を見せてやろうぜ!」



シ~ン……



友人「!?」

友人「──あれ!? あいつは!? あいつ、どこいった!?」キョロキョロ

─ 首都近郊 ─

ガキンッ! キンッ! ギィンッ!

ワァァァァ……! ワァァァァ……!



隣国将軍「竜騎士団さえ封じてしまえば、こちらの戦力が一気に奴らを上回る!」

隣国将軍「恐れずどんどん攻め込めえっ!」

「はいっ!」 「敵の防衛線は貧弱です!」 「すぐ打ち崩せますよ!」

隣国将軍(この戦……勝ったな!)



ズガッ! ギィン! キンッ!

ワァァァァ……! ワァァァァ……!

騎士団長「くそぉ、なんとしても死守するんだ!」

騎士団長「ここを抜かれれば、もうこの国はオシマイだ!」

ベテラン騎士「竜騎士の戦力を過信したツケが、回ってきたってことなのかねぇ……」

女騎士「くっ、殺せ!」

同僚「どんどん押し込まれる! とても押さえきれないッ!」

友人「ちっくしょう……! 数も質もオレたちが負けてやがる……!」



ワァァァァ……! ワァァァァ……!

隣国兵「どりゃあっ!」ビュオッ

友人「だあっ!」ヒュバッ

ギィンッ!

友人「ぐっ……!」ググッ…

隣国兵「へっ、手ごたえねえぜ!」ググッ…

隣国兵「竜さえ封じちまえば、てめぇらなんてこんなもんなのさ!」ググッ…

隣国兵「この国はもうオレたちのもんだ!」グググッ…

友人「く、くそぉぉぉ……!」ググッ…

ズシン…… ズシン……



隣国兵「?」

隣国兵「な、なんだ、この地響きは……?」

友人(この音、どこかで聞いたことがあるような……)

友人(ま、まさか……!?)



ズシン……



友人(この“足音”は……ッ!)

皇帝竜「グオオオオオオオオオンッ!!!」







ザワザワ…… ドヨドヨ……

「なんだあのデカイ竜は!?」 「皇帝竜だ!」 「なんでこんなところに!」

「人間に興味ないはずじゃ……」 「ひいいっ!」 「バケモノだぁ……」



隣国兵「皇帝竜!? あれが……ッ!」ヘタ…

友人(や、やっぱり……!)

隣国陣営──

隣国将軍「……なにィ、皇帝竜!?」

隣国将軍「しかも、攻撃こそしてこないが、我が軍を威圧するように唸っているだと!?」

隣国将軍(なぜだ!? 皇帝竜は手出しされない限り“中立”のハズだ!)

隣国将軍(ここまで順調に攻め込んで撤退はありえん!)

隣国将軍(だが、皇帝竜と交戦するのはもっとありえん! 全滅する……!)

隣国将軍(──ならば!)

隣国将軍「ふん……焦るでないわ!」

隣国将軍「皇帝竜といえども、しょせんは竜!」

隣国将軍「我々が研究・開発したスモークをかがせれば、無力化することができる!」

モワァァァァァ……



騎士「うっ、なんだこのニオイ!?」クンクン…

騎士「フルーティーでそれでいてジューシィ、どことなく品もあり、ワイルドで……」

皇帝竜「これは、我々竜を堕落させる香りがするな」クンクン…

騎士「こいつが竜騎士団を戦えなくした煙か! 大丈夫か!?」

皇帝竜「ワシに効くわけなかろう」

皇帝竜「人の手で飼育されていた竜では、ひとたまりもないだろうがな」

騎士「じゃあ、効いてませんアピールしてくれる?」

皇帝竜「あいよ」



皇帝竜「グオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!」

隣国将軍「やったか!?」

「ダ、ダメです!」 「まるで効いてませんっ!」 「むしろ怒らせただけです!」

「吼えてます!」 「ひいいっ!」 「やったか、なんていうんじゃねえよ」ボソッ

隣国将軍「あ、あわわ……」

隣国将軍(あのスモークが効かない以上、もはや勝ち目はない!)

隣国将軍(炎でも吐かれようものなら、我が軍は一瞬で全滅だ!)

隣国将軍「全軍に伝えろ! 敵兵から距離を置いてから、降伏の意志を示せ!」

隣国将軍「いいか、絶対に皇帝竜を刺激するなよ!」

皇帝竜「……ふむ」

皇帝竜「どうやら、敵は戦意喪失したようだ」

皇帝竜「で、どうすればいい?」

騎士「とりあえず、敵には帰ってもらってくれる?」

皇帝竜「どうやって?」

騎士「戦争ってのはあまり勝ちすぎない方がいいって士官学校で習った」

騎士「あんまり脅しつけると恨みを残す危険性がある」

騎士「だから、ちょいと韻を踏みつつ、リズミカルかつスタイリッシュに追い返してよ」

皇帝竜「やってみる」

皇帝竜「他国からやってきた人間たちよ……」



ザワザワ…… ドヨドヨ……



皇帝竜「ズンチャカ、ズンチャカ……」

皇帝竜「ワシのいうこと聞いてくれない?」

皇帝竜「ワシは人と関わらない! だけどこの国嫌いじゃない!」

皇帝竜「だから攻めて欲しくない! それでもやるなら黙っちゃおれない!」

皇帝竜「ワシが怒ると結構危ない! だから今すぐ帰ってくれない?」



シ~ン……



皇帝竜「どうだ?」

騎士「25点」

皇帝竜「マジか」

隣国将軍「か……っ!」

隣国将軍「帰ります、帰りますっ!」

隣国将軍「全軍撤退、撤退ィ~~~~~ッ!!!」



ワァァ……! ヒィィ……!



ドドドドドドドドド……!



ドドドドド……

騎士団長「おお……隣国軍が逃げていく……」

ベテラン騎士「ふい~、危機一髪だったねえ」

女騎士「くっ、生き残った!」

同僚「皇帝竜の気まぐれだったのでしょうが……助かりましたね」

騎士団長「うむ……我が国にとってはいつ降りかかってくるともしれぬ災害……」

騎士団長「恐怖の象徴でしかなかった皇帝竜が──」

騎士団長「まさか、我々を助けてくれるとはな……。どうしたものか……」

友人「団長、ここは素直に、彼らのことを称えましょうよ」

騎士団長「(彼ら……?)そのとおりだ。皇帝竜殿に感謝せねばならん!」



騎士団長「全軍、皇帝竜殿に敬礼ッ!!!」バッ

バババババッ!

「ありがとうございます!」 「ありがとう!」 「皇帝竜様、ありがとぉ~!」

「感謝いたします!」 「あなたは救世主だ!」 「助かりました!」







ワアァァァァァ……! ワアァァァァァ……!

パチパチパチパチ……!



友人(皇帝竜さんがデカすぎて、乗ってるであろうあいつの姿が見えないけど……)

友人(きっとケツをヒリヒリさせてんだろうな)

今回はここまでとなります

その後──

─ 竜の洞窟 ─

友人「どうも、今日はお疲れ様でした」

皇帝竜「うむ」

騎士「…………」

友人「どうした? 念願の竜騎士として大活躍だったじゃねえか! よかったな!」

騎士「でもさぁ、結局活躍したのって皇帝竜だけじゃん?」

騎士「俺、ただ上に乗ってただけじゃん? ショートケーキのイチゴみたく」

友人「まぁな」

騎士「これのどこが竜騎士なんだよ!」

友人「でもまあ、竜に乗って国を救う活躍をしたんだから」

友人「これで夢は叶ったってことでいいんじゃないか?」

騎士「い~や、ダメだ」

騎士「やっぱり竜騎士ってのは、華麗に竜を乗りこなして」

騎士「華麗に槍を振りかざして、華麗に敵をやっつける! ──ってのがなきゃ!」

騎士「あ、なんかカレー食いたくなってきた」

友人「でもさ、お前は竜に乗れないわけじゃん」

騎士「うぐっ……!」

友人「……待てよ。いいこと思いついた」

友人「だったらさ、皇帝竜さんに頼んで、手下の竜に乗せてもらえばいいんじゃないか?」

友人「皇帝竜さんに頼んでもらえば、振り落とされることもないだろ」

騎士「あ、それいい! それグッドアイディア! それなら俺にもできらぁ!」

騎士「──ってわけで、今の聞いてたろ? 頼むよ」

皇帝竜「分かった」

皇帝竜「そういうことであれば、ワシのようにお前たちと会話できる者を呼ぶとしよう」

皇帝竜「よろしく頼む。くれぐれも落とさぬようにな」

手下竜「分かりやした!」

手下竜「では、あっしの背中に乗ってくだせえ」

騎士「失礼」ドスッ

手下竜「じゃ、飛びやすよ!」

騎士「おう!」



バッサバッサ…… バッサバッサ……



友人「お~、飛んでる飛んでる」

バッサバッサ…… バッサバッサ……

騎士「うおっ! うおおっ、おっ、おおっ、おっ!」

騎士「こっ、これで俺も竜騎士だァ! ハッハッハ~!」

手下竜「じゃ、行きやすよ!」ギュンッ



ギュウゥゥゥゥン……!



友人「うへぇ~、速い。もうあんなところまで」

友人(竜騎士気分を味わえれば、あいつも少しは満足するだろ)

友人「──ところで、皇帝竜さん」

皇帝竜「なんだ?」

友人「なぜあなたは、あいつのいうことを聞くんです?」

皇帝竜「む? あやつから聞いておらんのか?」

友人「あいつに聞いても秘密だっていわれて……」

皇帝竜「秘密……フフッ、なるほど」

友人「もし差し支えなければ、教えて欲しいんですが」

友人(あいつがとんでもないことやらかしてたら、謝らなきゃならないしな)

皇帝竜「ワシはあの騎士に……助けられたのだ」

友人「え?」

皇帝竜「もう五年ほどになるか……」

友人(五年……ちょうどオレらが騎士見習いになった頃だな)

皇帝竜「おぬしら人間は知らんだろうが」

皇帝竜「かつてこの世界の竜と魔界の竜は二派に分かれて、戦いを繰り広げておってな」

皇帝竜「ワシらはかろうじて、ヤツらを魔界に押しとどめていた」

皇帝竜「そして、激しい戦いの末、ワシは魔界にて宿敵である魔王竜を打ち倒した」

皇帝竜「しかし、どうにかこの世界に戻ったワシも、全身ボロボロだった」

皇帝竜「自力で動ける状態ではなく、近くに部下もいなかった」

皇帝竜「もはやワシは死を待つのみ、であった……」





………………

…………

……

~ 回想 ~

─ 森 ─

騎士(やったぜ~! ついに俺も念願の騎士になれた!)

騎士(あとは竜に乗れるようになりゃ、竜騎士に……!)

騎士(さぁってと、記念に立ちションして帰るか……)ゴソゴソ…

騎士「──ん?」



皇帝竜「う……ぐぬぅ……」



騎士「でけぇ竜だな……おい、大丈夫か?」

皇帝竜(人間か……)

皇帝竜(人間はワシを恐れ、スキあらば殺そうと狙っている……)

皇帝竜(もはやここまで、だな……)

皇帝竜「人間如きに命乞いするつもりはない……! とっとと殺せ!」

騎士「殺せって、このままだとお前、殺すまでもなく死ぬぞ」

騎士「ちょっと待ってろ! この森はけっこう薬草とか生えてるから!」タタタッ

皇帝竜「お、おいっ!」

騎士「こうして薬草をねってねってねりまくる、と……」グリグリ…

騎士「ねればねるほど、色が変わって……」グリグリ…

騎士「お、できた!」ネチャ…

騎士「体がデカイから塗り込むのが大変だが……」ヌリヌリ…

騎士「生命力はありそうだし、これでけっこう回復するはず……」ヌリヌリ…

騎士「俺も昔、盗賊集団に返り討ちになってリンチされた後、薬草で治ったしな」ヌリヌリ…

皇帝竜「もうやめろ!」

皇帝竜「ワシは人間などに施しを受けるつもりはない!」

騎士「大ケガしてるくせに偉そうな奴だな」

皇帝竜「当然だ! ワシは竜の中の竜、皇帝竜だ!」

騎士「あ~、アンタがウワサの。どうりでデカイわけだ」

皇帝竜「ワシの肉片一つでも、数億ゴールドの価値があるといわれる!」

皇帝竜「ましてワシの死体丸ごととなれば、どんな出世も思いのままだろう!」

皇帝竜「なぜだ! なぜ、ワシを殺さない!?」

騎士「なぜって、そりゃ俺は栄えある騎士だぜ?」

騎士「騎士は騎士道を歩まなきゃならないからな。弱い奴を助けるのは当然だろ」

騎士「おっと、こっちにも塗っとかないと」ヌリヌリ…

皇帝竜(ええい、なんなのだ、この人間は……!)

皇帝竜「人間に助けられるなど、恥辱の極みだ!」

騎士「マジで? じゃあナイショにしといてやるよ。このことは二人だけの秘密な」

皇帝竜「いやだから、そういうことじゃなくて……」

皇帝竜「くっ、殺せ!」

騎士「おいおい、俺の先輩みたいなセリフ吐くなよ」

騎士「そのセリフは先輩の専売特許なんだからよ。先輩怒っちゃうよ?」

騎士「ふざけて真似したら、本気で斬りかかってきて……マジ怖いよ……」ブツブツ…

騎士「基本的に騎士って、冗談通じない人多すぎなんだよな……」ブツブツ…

皇帝竜(とうとう愚痴り始めた!)

騎士「騎士ってもさ、決して華やかなもんでもないんだよな……」ブツブツ…

騎士「ウチみたく大してでかくない国だと、給金も特権も知れたもんだし……」ブツブツ…

騎士「やっぱ竜騎士にならないと……」ブツブツ…

皇帝竜「……あの、治療は?」

騎士「え!? あっ!? ──わるいわるい! えへへへ……」

騎士「お、朝日だ……」

騎士「一時はどうなることかと思いきや、一晩中薬草を塗りたくってたかいがあったな」

騎士「おかげで俺の手は指紋がなくなったんじゃないかってくらいヒリヒリするけど」

皇帝竜「……すまん」

騎士「え!? ──あ、いやいやいや、なくなるわけねえじゃん! 冗談だよ!」

皇帝竜「この借りは……必ず返す」

皇帝竜「ワシはこの世界における住処、“竜の洞窟”に戻る。場所は知っておろう」

皇帝竜「なにかあれば、なんでも力になってやろう」

騎士「マジで? サンキュー!」

……

…………

………………



皇帝竜「──と、まぁ、こんな具合だった」

皇帝竜「もし……もし、一瞬でもあやつがワシを仕留めるかどうか迷っていたら」

皇帝竜「ワシもここまでヤツに肩入れしていたかは分からん」

皇帝竜「しかし、ああも迷わず助けられてしまってはな……」

皇帝竜「もはや、あやつには頭が上がらんよ。生涯の借り、だ」

友人「し、知りませんでした……」

友人(まさか、あいつが……そんなことを……)

友人(いくらあいつでも、“大ケガしてる皇帝竜”の価値は分かったはずなのに……)

友人(オレだって、皇帝竜を“手柄”にする道を選んだろうな……きっと)

友人(オレはだいぶ……あいつのことを見くびってたようだ……)

バッサバッサ……

皇帝竜「──おや?」

友人「ずいぶんと早いな。もう帰ってきたのか」



手下竜「た、ただいま戻りやした……」

騎士「…………」ピクピク…



友人「!? ──お、おいっ、大丈夫か!? てか、気絶してんじゃん!」

友人「しかも……なんか臭くない?」クンクン…

手下竜「いや、実は──」

─ 空 ─

バッサバッサ……

手下竜『どうすか? 空の旅は? なかなか気持ちいいもんでやんしょ?』

騎士『…………』ガタガタ…

手下竜『?』

騎士『た、高いィィィッ! 速いィィィィィッ!』

騎士『こんな雲に手が届きそうな高さ……無理、むり、ムリィィィ!』

騎士『も、もっと……ゆっくり……低く飛んでえええっ……!』ガタガタ…

手下竜『えええええっ!?』

手下竜『で、でも竜騎士目指してるんじゃ──』

騎士『頼むぅぅぅぅぅ!』

手下竜『わ、分かりやした! すぐ高度を下げやすから──』ギュオッ

騎士『おわぁぁぁぁっ! 急降下やめてぇぇぇぇぇっ!』

騎士『あふっ……』チョロッ…

手下竜『ど、どうしやした?』

騎士『や……やっちゃった……。ごめんなさい……』ジョボボボ…

手下竜『ぎゃあああああっ!』

騎士『うへえ……』ガクッ

手下竜「──てな具合でして」

皇帝竜「ご苦労だった。向こうにある泉で、体を清めてくるがよい(臭いから)」

手下竜「へいっ!」バッサバサ…

友人「ハァ……」

友人(さっき見直したのは、やっぱりなかったことにしよう)

友人「しかし、これでハッキリしたな……こいつは竜騎士になれないって」

皇帝竜「うむ」



騎士「う~ん……」ムニャムニャ…

戦いから一ヶ月後──

─ 大広場 ─

ワイワイ…… ガヤガヤ……



騎士「いやぁ~盛り上がってるな、祝典」

友人「そりゃそうだろ、隣国とだいぶいい条件で条約を結べたんだ」

騎士「だけど、竜騎士団の奴らはあんま楽しそうじゃねえな」

友人「そりゃなぁ、今回いいとこなかったからな。立場ねえだろ」

騎士「例の煙の対策だって進んでるんだし、気にせず楽しめばいいだろうにな」

友人「竜騎士の奴らのメンタルがみんなお前みたいだったら、そうしてただろうけどな」

騎士「ん? どういう意味だそりゃ」

友人「──お、団長が銅像の落成式をやるみたいだぞ」

バサァッ!



オォ~……! オォ~……!

騎士団長「このたび、我が国を救ってくれた救世主の銅像──」

騎士団長「皇帝竜の像です!」

騎士団長「皇帝竜殿は気位が高く、国王陛下が直接出向いても」

騎士団長「人間にも式典にも一切興味がないということで」

騎士団長「このたび出席はかなわなかったのですが──」

騎士団長「紛れもなく、あの方は救世主! どうか称えて下さい!」



ワアァァァァァ……! ワアァァァァァ……!

ワアァァァァァ……! ワアァァァァァ……!

「皇帝竜バンザーイ!」 「バンザーイ!」 「ありがとぉ~!」



騎士「お、楽しそうだな。俺もバンザイしとくか」

騎士「皇帝竜バンザーイ! バンザーイ!」バッバッ

友人「…………」

友人(オレだけが知っている)

友人(この国の本当の救世主は、今オレの横でバンザイしてる奴だということを)






─ 完 ─

以上で完結となります
ありがとうございました!

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom