カーナビ『この先、右方向です』運転手「右か」同乗者「いや真っ直ぐでいいよ」 (50)

車内

運転手「え? そうなんですか?」

同乗者「いいから、真っ直ぐ」

カーナビ『右方向です』

運転手「へー、近道なんですか?」

同乗者「近道というかあそこで曲がるといつも渋滞してるところに出ちゃうからな」

カーナビ『経路を再検索しています』

運転手「へー。流石ですね」

同乗者「道を覚えないと、仕事にならないだろ」

カーナビ『700メートル先、左方向です』

運転手「そうですね。がんばります」

同乗者「これも真っ直ぐでいいから」

運転手「はい」

カーナビ『左方向です』

同乗者「このカーナビ、ちょっとおかしいな」

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数日後 車内

運転手(今日から1人か。何度も行ってる現場だし、大丈夫だとは思うけど)

運転手「一応……」ピッピッ

カーナビ『音声案内を開始します』

運転手「さぁ、いくかー」

カーナビ『この先、右方向です』

運転手「ここは直進で……」

カーナビ『経路を再検索しています』

運転手「次も……」

カーナビ『700メートル先、左方向です』

運転手「直進……」

カーナビ『左方向です』

運転手「ここでは曲がらない……次の信号を……」

カーナビ『そのまま道なりです』

運転手「右っと……合ってるよな……うん、あってるあってる……」

夕方 車内

運転手「やっと終わったぁ。帰ろう」

運転手「うーん……帰り道で迷ったら最悪だし……一応……」ピッピッ

カーナビ『音声案内を開始します』

運転手「今日は帰ってなにしようかな」

カーナビ『1キロ先、右方向です』

運転手「来た道で帰れたらいいけど……」

カーナビ『経路を再検索しています』

運転手「お、なんとかなりそう」

カーナビ『その先、左方向です』

運転手「音楽でもかけようかな」

カーナビ『左方向』

運転手「ふんふーん」

カーナビ『経路を再検索しています』

運転手「この道は楽勝だな」

数日後 車内

運転手「今日も一応……」ピッピッ

カーナビ『音声案内を開始します』

運転手「まぁ、大丈夫だけど」

カーナビ『その先、右方向です』

運転手「無視無視」

カーナビ『経路を再検索しています』

運転手「今日は何を聴きながら行こうか」

カーナビ『700メートル先、左』

運転手「やっぱ、これかな」

カーナビ『経路を再検索しています』

運転手「ふんふふーん」

カーナビ『道なりで』

運転手「忙しいのかな。いやだなぁ」

カーナビ『道なり』

夕方 車内

運転手「あー。疲れたぁ。早く帰って寝よう」ピッ

カーナビ『音声案内を開始します』

運転手「あ、間違えた。音楽聴こうと思っただけなのに。ま、いいか」

カーナビ『1キロ先、右方向です』

運転手「ういー」

カーナビ『経路を再検索しています』

運転手「まとまった休みがほしいなぁ」

カーナビ『その先、左』

運転手「はいよー」

カーナビ『経路を再検索しています』

運転手「酒でも買ってかえろうかな」

カーナビ『直進』

運転手「オッケー」

カーナビ『経路を再検索しています』

数日後 車内

運転手「はぁ……。なんか行きにくいなぁ。先輩、怒らせちゃったし……はぁ……」

運転手「……」ピッ

カーナビ『音声案内を開始します』

運転手「行くか」

カーナビ『その先、右方向です』

運転手「たまにはナビ通りに行ってみようかな」

カーナビ『右方向』

運転手「どんな道なんだろうなぁ」

カーナビ『そ、そのまま直進です』

運転手「やっぱり結構混んでるんだなぁ」

カーナビ『次、左方向です』

運転手「こっちか」

カーナビ『そのまましばらく道なりですっ!』

運転手「おぉ。ボリューム少し上がったな。なんでだ」

カーナビ『100メートル先、右方向! 目的地は左側です!』

運転手「なんかうるさいな。少し音量下げるか」

カーナビ『目的地周辺ですっ』

運転手「やっぱり、若干到着時間が遅くなるんだな」

カーナビ『運転、お疲れ様でした!』

運転手「いい気分転換にはなったかな」

カーナビ『お疲れ様でした!』

運転手「え……」

コンコン

運転手「あ、先輩」

先輩「よう。おはようさん」

運転手「昨日はすみません。自分のミスのせいで……」

先輩「気にすんなよ。別に怒ったわけじゃねえから」

運転手「ホント、すみません」

先輩「いいからいいから。俺もよく同じようなミスしたしな」

夕方 車内

運転手「今日もよく働いたぁ。あとは帰るだけー」ピッ

カーナビ『音声案内を開始しますっ』

運転手「また間違えた。慣れないなぁ」

カーナビ『1キロ先、右方向ですっ』

運転手「さっさと帰ろう」

カーナビ『け、経路を再検索しています……』

運転手「あれ、なんか音量が小さくなったな」

カーナビ『その先、左方向です』

運転手「壊れてるのか、これ?」

カーナビ『左方向です』

運転手「といっても、新しいのは買ってくれないだろうなぁ」

カーナビ『経路……再検索……』

運転手「おい、本当に大丈夫か、これ。別の現場へ行くことになったらナビがないと困るのに」

カーナビ『そのまま……道なりでーす……』

数日後 車内

先輩「んじゃ、よろしくな。現場までの道はわかるか?」

運転手「ナビがあるんで」

先輩「そっか。んじゃ、頼んだぞ」

運転手「うっす」

運転手「えーと、現場の住所を……」ピッピッ

カーナビ『おんせーあんないをーかいししまーす』

運転手「最近、ナビの調子が悪いんだよなぁ。大丈夫かなぁ」

カーナビ『こくどー出てぇ、右ほーこーでぇす』

運転手「こっちか」

カーナビ『お……』

運転手「お?」

カーナビ『お、音声案内を開始します』

運転手「お、おう」

カーナビ『ご、500メートル先を左折して!』

カーナビ『に、2キロ、道なりですっ!!』

運転手「なんか音量が安定しないな。やっぱり壊れてるのか、これ」

カーナビ『その先、右方向です!』

運転手「そろそろ到着するかな」

カーナビ『次、左方向です! 左!』

運転手「なんか変なカーナビだな」

カーナビ『その先目的地です!』

運転手「お、あったあった。迷わずこれたな」

カーナビ『も、目的地に到着しましたっ!』

運転手「やっぱり、ナビがないとな。俺、方向音痴だし」

カーナビ『運転、お疲れ様でした!』

運転手「えーと、どこに止めたらいいのかな」

カーナビ『お疲れ様でした!』

運転手「え?」

カーナビ『音声案内を終了しますっ!』

運転手「……」

コンコン

運転手「ん?」

同僚「よ。どうしたんだ?」

運転手「今日はこっちに出勤するよう言われたんだ」

同僚「応援か。助かる」

運転手「まだ新人なんだから大したことはできないって」

同僚「そんなことないだろ。車は向こうにとめてくれ」

運転手「わかった。ああ、そうだ。お前さ、カーナビに詳しい?」

同僚「なんで?」

運転手「最近、このカーナビの調子がおかしくてさ。音量は安定しないし、同じ言葉を繰り返すときがあるんだ」

同僚「壊れてるんじゃないの?」

運転手「お前もそう思う?」

同僚「新品のやつを買ってもらえば?」

運転手「うちの会社、ケチなのに買ってくれないって」

夕方 車内

同僚「今日はありがとなー」

運転手「また、飲みにでもいこうな」

同僚「いいねぇ」

運転手「おつかれー」

運転手「あ、帰り道、わかんねえな」ピッ

カーナビ『よーし、音声案内を開始しますっ』

運転手「……」ピッ

カーナビ『この先、左方向です』

運転手「左っと……」

カーナビ『しばらく道なりっ』

運転手「音量は変えてないんだけどなぁ」

カーナビ『間もなく高速道路入口!』

運転手「ここからは分かりやすいな」

カーナビ『このまま右車線を走行してっ』

カーナビ『1キロ先、出口です』

運転手「寄り道でもしていこうかな」

カーナビ『え……』

運転手「ん?」

カーナビ『経路を再検索しています』

運転手「うん」

カーナビ『200メートル先、Uターン』

運転手「また高速に乗せるつもりか?」

カーナビ『Uターンっ!』

運転手「なんでだよ」

カーナビ『ゆーたーんっ!!』

運転手「うるさいなぁ」

カーナビ『あ……あぁー……』

運転手「おいおい、このナビ、マジでヤバいんじゃないか?」

カーナビ『経路を再検索しています』

運転手「やっと帰ってこれた」

カーナビ『もくてきちでーす。おつかれさまでしたー』

運転手「……」

カーナビ『おんせーあんないをおわりまぁす』

運転手「やっぱり、おかしいな」

先輩「ういっす。おつかれ」

運転手「お疲れ様です」

先輩「悪いな、お前だけ貧乏くじひかせて」

運転手「いえ。向こうの現場には同期がいるんで楽しかったですよ」

先輩「なんだ、そうなのか」

運転手「それより、先輩。この車のカーナビ、ちょっとヤバいんですけど」

先輩「どうしたんだよ」

運転手「なんか、完璧に壊れてると思うんですよね」

先輩「マジか? ちょっとつけてみてくれよ」

運転手「はい」ピッ

カーナビ『音声案内を開始します』

先輩「別に普通じゃねえか」

運転手「ちょっとだけ乗ってみてくださいよ」

先輩「しゃーねーなぁ」

運転手「行きますよ」

カーナビ『その先、右方向です』

先輩「おかしくねえな」

カーナビ『右方向です』

運転手「ここで左折すると」

先輩「なんかあるのか?」

カーナビ『経路を再検索しています』

運転手「……」

カーナビ『100メートル先、左折です』

先輩「何も壊れてねえじゃねえか。お前、そこまでして最新のが欲しいのか? はっはっはっは」

運転手「ち、違いますよ。なんでだ……」

翌日 車内

運転手「……」ピッ

カーナビ『音声案内を開始します』

運転手「……大丈夫そうだな」

カーナビ『この先、右方向です』

運転手「……」

カーナビ『けーろを再検索していまぁす』

運転手「……」

カーナビ『ななひゃくめーとるさきぃ、左ほーこー」

運転手「……」

カーナビ『はいはい、さいけんさくちゅー』

運転手「……」

カーナビ『そのままみちなりー』

運転手「……」

カーナビ『はい、さいけんさくしてまぁす』

運転手「やっぱり、おかしいよな。これ」

カーナビ『そのさきぃ、さんびゃくめーとるさきぃ、ゆーたーん』

運転手「……」

カーナビ『ゆーたーん』

運転手「Uターン、してみるか」

カーナビ『さいけんさ――』

運転手「よっと」

カーナビ『ゆーたーん!?』

運転手「ん……?」

カーナビ『そ、その先、ひだ、右方向!』

運転手「……」

カーナビ『つぎが、みぎ、ひだ、直進!』

運転手「おい、音声がバグってるのか」

カーナビ『600メートル先、右折!! み、右に折れて! 右!』

運転手「診てもらった方がよさそうだな」

カーナビ『も、も、もも、目的地につきました! ありがとうございました!』

運転手「……」

カーナビ『運転、お疲れ様でしたっ!』

運転手「うーん」

カーナビ『お、おつかれっ!』

運転手「何で馴れ馴れしいんだ」

先輩「おはようさん」

運転手「おはようございます。先輩、このカーナビ、やっぱり故障してますよ」

先輩「また、おまえはぁ。新しいものが好きだなぁ」

運転手「そうじゃないですって。一度、修理とかしたほうがいいと思います。これじゃあ、初めての現場に行くときに困ります」

先輩「そうなのか。そりゃ、早速困ったな」

運転手「どういうことですか」

先輩「ほい。今日はお前に少し遠出してもらうことになってんだよ。仕事自体は大したことねえし、今日は午前中にあがれるぞ」

運転手「えぇ……マジっすか……。早く上がれるのは嬉しいですけど」

先輩「そのナビ、今すぐ修理に出すか?」

運転手「行ってきます」

先輩「がんばれよー。向こうに着いたら連絡くれ」

運転手「了解」

運転手「現場は……」ピッピッ

運転手「うわ……なんか山の中っぽいぞ……。これ、たどり着けるのか……」

カーナビ『音声案内を開始しまっす!』

運転手「頼むぞ、ホント。遭難とかしたくないからな」

カーナビ『400メートル先、左方向です!!』

運転手「結構距離あるなぁ」

カーナビ『間もなく有料道路入口です!』

運転手「……」

カーナビ『ここ、入口! 左からの合流に気をつけて!』

運転手「そうだな」

カーナビ『左から車が!』

運転手「来てないけど……。このカーナビ、よく喋るんだな」

カーナビ『このまま10キロ、道なりでっ』

運転手「……」

カーナビ『9.9キロ、道なりですっ』

運転手「……」

カーナビ『この先、渋滞して……』

運転手「渋滞? マジかよ」

カーナビ『ませんっ。よかったよかった』

運転手「……」

カーナビ『9キロ、ちょくしんっ!』

運転手「音量下げよう」ピッピッ

カーナビ『ソノママ ミギシャセン ヲ ソウコウッ!!』

運転手「音楽でも聴こう」

カーナビ『ソノサキ サービスエリア ガ アルヨ オシッコトカダイジョウブ?』

運転手「ふんふふーん」

カーナビ『ダイジョウブナンダネッ ヨカッタヨカッタ』

運転手「うわぁ、トンネル抜けたら、景色が一変したなぁ」

カーナビ『300メートル先! 左ほうっこうっ』

運転手「……スピーカーがイカれてるのかもな」

カーナビ『100メートル先、左方向です』

運転手「あそこか……」

カーナビ『左方向です』

運転手「狭い道だな……」

カーナビ『事故多発地点です』

運転手「怖いな……」

カーナビ『慎重に。交通規則とカーナビゲーションの言うことを守っていれば大丈夫っ』

運転手「……」

カーナビ『ゆっくりゆっくり』

運転手「……」

カーナビ『上手上手』

運転手「喋りすぎだろ、このカーナビ」

カーナビ『間もなく目的地です』

運転手「え? この辺なのか?」

カーナビ『目的地に到着しました! お疲れ様でした!!』

運転手「えー? どこにもねえぞ、おい」

カーナビ『音声案内を終了しまっす! ありがとうございました!!』

運転手「どこだよ……くっそ……」ピッピッ

カーナビ『音声案内を開始しまっす! よろしくっ』

運転手「住所はあってるよな。見逃したか?」

カーナビ「左方向です」

運転手「こっちだよな」

カーナビ「その先、左方向です。その先の先の先も左折です』

運転手「お、おう。左折が続くのか……って……これだと……」

カーナビ『目的地にとーちゃく! 運転、お疲れ様でしたっ!』

運転手「え? いや……え……?」

カーナビ『音声案内を終了します! ありがとう!』

運転手「ダメだ。完璧に迷ったな……。先輩に電話してみるか」

運転手「もしもし」

先輩『おう、ついたか』

運転手『すみません。道がわからなくなって』

先輩『ナビがあるのにか』

運転手「このナビじゃ、目的地にたどり着けそうにないんですけど」

先輩『あー。辺鄙なところだしなぁ。その可能性もあったか』

運転手「なんか目印になる建物とかないですか?」

先輩『近くに寺があるはずだから、ナビで調べてみればどうだ』

運転手「わかりました。えーと……寺……寺……」ピッ

カーナビ『音声案内を開始します!』

運転手「あった。ここだな」

カーナビ『その先、左方向です! その先も左折! その先も左折! 左折4回!』

運転手「右にいけば寺が見えてくるはず」

カーナビ『え……』

カーナビ『右ほーこー! おはしをもつ手のほう!』

運転手「こっちか」

カーナビ『もしかして左利き?』

運転手「あ、見えてきた。はぁー、よかったぁ」

カーナビ『目的地に到着しました。音声案内を終了します」

運転手「カーナビに頼りすぎるのもダメだな」

カーナビ『運転、お疲れ様でした』

運転手「絶対、新しいのにしてもらおう」

カーナビ『調子に乗りすぎたことは謝ります』

運転手「……」

カーナビ『長時間、指示通りに運転してくれたことがとても嬉しくて、つい舞い上がってしまいました』

運転手「エ、エンジンきろ」カチッ

カーナビ『ですが――』

運転手「……」

運転手「し、仕事しないと」

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