ロン「ハリー。君って、そんなに安月給だったっけ?」 (29)


ポッター家

ハリー「……」

ロン「……」

ハリー「…そりゃ、ロン。確かにね。かつて僕と同じく闇祓いとして働いていた君なら、局長クラスの僕の懐事情だって推し量れるだろうさ」

ロン「まあね」

ハリー「だけど、ご自分の転職が成功したからって馬鹿にするつもりなら……こないだの二週間ぶりの君んとこの離婚騒動の責任をだね……」

ロン「そ、そういう意味じゃないよ!それに、二週間だって!?失敬な!三週間と一日さ!マーリンの髭!」

ハリー「あぁ、親友夫婦が円満で嬉しい限りだよ、僕は」

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ロン「とにかく、僕は別に喧嘩を売りに来たわけじゃないんだよ」

ハリー「いつもは喧嘩した話ばかりしに来てるけどね」

ロン「うるさいな。ジニーが言ってんだ。君……学生の頃からずっと、その丸眼鏡なんだって?」

ハリー「あぁ、そのこと……正確には、そうだな。ホグワーツに入る前からだから…」

ロン「へぇー。君が、あれだ!シンデレる前からってことかい?」

ハリー「君がマグル文化に明るくなってくれて嬉しいよ、泣けてくるね。使い方が合ってるかは別として」

ロン「つまり、もう二十年近くずーーーっとってことじゃないか!おったまげー!」

ハリー「物持ちは良い方だからね」

ロン「うん?ニンバスとファイアボルトがなんだって?」

ハリー「あぁ、君の口にぶちこんでやりたいよな……それ以前に、これ、魔法道具じゃないからさ。とんでもなく大破しない限りレパロでなんとかなるんだよ」

ロン「僕ならレンズに魔法をかけておくけどなぁ。色々と、役立つものをさ」

ハリー「……君のお父さんの部署が何だったか言ってみろよ、ウィーズリー」

ロン「それにしたってさ…問題は割りとそこじゃないんだよ」

ハリー「うん?」

ロン「親友として単刀直入に言わせてもらうよ、ハリー」

ハリー「うん」

ロン「その眼鏡、ダサいぜ」

ハリー「義兄さん、僕からも単純明快に聞かせてもらうけど」

ロン「? なんだい?」

ハリー「君、鏡って知ってる?みぞのじゃなくて、ご自分のありのままの姿を映すやつ」

ロン「上等だ、表出ろ。マーリンの髭」

ハリー「もちの君さ」

数十分後

ハリー「……腕をあげたじゃないか、ロン」

ロン「あいたたた。君こそ、こんちくしょう。さっすが現役闇祓い局長様だよな……」

ハリー「復帰するなら何時でも言ってくれよ。あぁ、話をしてたらこれだ……『オキュラス・レパロ、眼鏡よ直れ』」

パキパキッ、パッ

ロン「またその眼鏡を……何か理由があるって言うのなら話は別だけどさぁ、ハリー……」

ハリー「いいじゃないか、見えるんだから……」

ロン「あのパーシーだって今はほら、ナウなヤングにバカウケなイカした眼鏡じゃないか。たまげたね」

ハリー「あー、ちょっと待ってくれ…うん」



ハリー「……実は僕、この丸眼鏡をかけていないと真の人格『オジギスルノジャー』がさ……」

ロン「今考えるなよ」

ロン「なんだい?その真の人格とやらはことあるごとにイライラ当り散らして、太大文字フォントで僕らに怒鳴り始めるってわけ?」

ロン「あれ?五年生の時、君、眼鏡壊れてたのかな」

ハリー「思春期の話はやめろよ……いいじゃないか、眼鏡くらい好きにしていても」

ロン「そんなことなら、今週末にジニーとハーマイオニーとリリーが『ハリーをイメチェンさせ隊』って、君を引っ張り回してマネキン代わりにする計画を止めてやらないぞ」

ハリー「……闇の輩の謀よりおぞましい計画だ」

ロン「なんなら、ルーニーご用達の『メラメラ眼鏡』はどうだい?意外と、プッ、似合うかもね」

ハリー「僕の娘の後見人で笑うなよ……それ、新商品?」

ロン「あぁ、ルーナ監修さ。『ラックスパートが楽々見つかるもン!』ってね。どうだい?」

ハリー「いただくよ、リリーが喜ぶから……ジェームズにやるとアルバスに永久粘着させかねないから、一つだけ」

ロン「で、君の眼鏡の話だけど」

ハリー「もういいじゃないか。僕、これが気に入ってるんだよ」

ロン「どうしてさ。君は怒ったけどさ、ほら……君ももう、闇祓い局の局長って言う立派な肩書きがあるだろ?」

ハリー「……」

ロン「ほら、なんて言うのかな……風格を出すためにもそれ相応のものを身に着けるのは、悪いことじゃないぜ。ジョージもよく言うけど」

ロン「いや、あのドラゴン皮はどうかと思うけどね」

ハリー「……」

ロン「うん。最近こさえたその頬の十字傷も確かに風格出てるけどね。だけどさぁ……」

ハリー「実はさ……」

ロン「うん?」

ハリー「この、眼鏡は……これは」


ハリー「ダーズリー家で唯一……僕のためにって、渡されたものなんだ」

ロン「……」

ハリー「僕はなーんでも、いとこのダドリーのおさがりだった……」

ハリー「この辺はほら、昔、君と話して盛り上がっただろ?」

ロン「まぁね。僕も末っ子で、兄さんたちのお下がりばっかりだったし」

ロン「……それで?」

ハリー「それでも、彼はほら、規格外にデカイこと以外は健康的だったから」

ハリー「流石のペチュニアおばさんも、眼鏡だけは御下がりを用意できなかったんだ」

ロン「……」

ハリー「学校の検査で視力異常の結果が出た以上、眼鏡をかけさせないわけにはいかない」

ハリー「あの家は、ダーズリー家は世間様の目をことさら気にするからね。僕のことを、想って用意してくれたわけじゃない」

ハリー「自分達の世間体、それだけの理由で用意されたのかもしれない」

ハリー「おおよそ、プレゼントなんて呼べたものじゃないんだ」


ハリー「……けど、さ」

ハリー「これは確かに、あの家で…僕がきちんと扱われた数少ない証拠なんだ」

ハリー「ダンブルドアが昔、僕に言ったことがある」

ハリー「――おばさんも、心のどこか深い片隅で、僕のことを愛してるんだ、って」


ハリー「僕はそのおかげで、母さんの守りを保てた」

ハリー「おばさんの、ほんの少しかもしれないけど、僕への愛情のおかげで」

ハリー「……母さんが命を賭けて守ってくれた、僕との繋がり」

ハリー「この眼鏡は…その象徴だ、って」



ハリー「……そう、思うんだよ」

ロン「……」

ハリー「……」

ロン「……」


ハリー「……」

ロン「……」


ハリー「……」

ロン「……っていう話を」

ハリー「うん、今思い付いた。これ、おじさんから金を投げ渡されて『勝手に買ってこい!!一番安物をだぞ!!』って僕が選んだんだった、そう言えば」
ロン「…………マーリンの髭!!髭!!!!髭!!!!!」

ロン「まったく、時間の無駄だった!あーあ、僕忙しいところを君のために来てやったってのに!」


ハリー「僕の休みを悉く痴話喧嘩と愚痴と仲直りで潰す夫婦の片棒が何か言ってる」


ロン「知らないぞ、ハリー!来週の朝刊で――」



『ポッター局長の仰天ファッション!~緑の眼鏡は蛙の新漬けのよう~』



ロン「――って記事がダンパティしててもな!じゃあな!」



ガチャッ!

バタンッ!



ハリー「……行ってしまった。何もあんなに怒らなくても」


ハリー「……はぁ」




ハリー「……眼鏡、か」


カチャッ

ハリー「……おじさんにお金を投げ渡された僕に、おばさんが言ったっけ」


ハリー「……おじさんには聞かれないように。こっそりと」


ハリー「凄く、迷った顔で。躊躇いながら」


ハリー「……」




ペチュニア『…こういう、丸い眼鏡にしなさい。地味な、古めかしい物』



ペチュニア『お前は騒動を起こしてばかりなんだから、せめて真面目に見えるものを。少し値がはっても、かまわないから』



ペチュニア『……質問はしない!いいこと!?行きなさい!!』





ハリー「何故だかさっぱりだったし、僕も割りと、昔はあんまり好きじゃなかったけど……」


ハリー「……」


ハリー「『アクシオ、ハグリッドのアルバム!』」



スイーッ


ドサッ


パラッ

パラパラッ


ハリー「――あった」

ハリー「父さんたちの、写真」



ジェームズ『―――!――!!』

シリウス『―!!!!――!!!!』ブンブンブンブンピョンピョンピョンッ

リーマス『――――りっ!』



ハリー「……おばさんは、父さんに合ったことがある」



ハリー「覚えてたんだなぁ……父さんの……この、丸い眼鏡のこと」



ハリー「ペチュニアおばさん。今なら僕、分かるよ」








ハリー「やっぱりこれは、おばさんの……わかりにくーい、愛なんだってさ」














翌週

ハリー「……おはよう」

闇祓い「おはようございますポッター局ちょ……えーっと……斬新な、その、お召し物、ですね?」

ハリー「正直に言っていいんだよ。スキーターにさっきまくしたてられたから……『まるで神秘部の奥底から飛び出したみたいざーんすっ!』って」

闇祓い「……今日、ホグワーツで特別教室ですよね。大丈夫ですか??」

ハリー「」



今度こそ、完

今年も金ローハリポタ祭りをよろしく
じゃあの!

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