…煙の向こうでは

サレ｢……｣

サレ｢……なんだ？ いったい……｣

サレ｢ごほっ！ 煙たいね……｣

サレ(それに、ここはどこだ？ 確か僕は……トーマの畜生に刺されて死んだハズじゃあ……)

サレ(傷は……、無い)

サレは眼下を見る。

サレ(魔法陣……。僕にはちんぷんかんぷんな内容だよ。もしかして僕は知らない世界へ召喚でもされちゃったのかな？)

サレ｢ハハハ、あるわけないか、そんな馬鹿な事……｣

魔族術師｢我に応えよ！ 異界の戦士よ！｣

サレ｢！？｣ｽｶｯ

サレ(剣が無い！)

煙が晴れていく…

魔族術師｢おお！ 体は華奢だが……とてつもない魔力を感じる！｣

サレ｢動くな、……貴様はいったい誰だ？｣

魔族術師｢そう警戒するな。わしがお前を召喚したのじゃ｣

サレ｢召喚……。お前何様のつもりだい？｣

魔族術師｢ほっほ。威勢はいいようじゃの｣

サレ(ぐっ……ムカつくけど、ここは我慢だ……。僕は状況もよく判らないまま、闇雲に暴れる馬鹿じゃない。……あいつらの様にね)

サレ(目の前のじいさん、どうやらガジュマとは違うみたいだ。だけれど僕のようなヒューマでも無い、角が生えているからね)

サレ(それに異質な力を感じる……)

魔族術師｢聞くがいい。光栄な事にもお前は我が君、魔王様に仕えるため、わしに顕現させられたのじゃ｣

サレ｢魔王？｣

サレ(チープな……馬鹿みたい)

魔族術師｢そうじゃ。いずれはこの国を統べるお方じゃて｣

サレ｢もし僕がそいつに仕えなかったら……どうなる？｣

魔族術師｢ほほほ、何を言うておる。そんな事できるはずがないじゃろう。首元をよく見てみろ｣

サレ｢…？｣

サレ｢これはっ！？｣

魔族術師｢お前が魔王様に背けば……一瞬であぼんじゃ。ひょひょひょｗｗ その首輪は魔王の意志で自由自在にお前を操る物｣

魔族術師｢召喚された時点でお前に自由は無い……。さ、客間に案内しよう。少し休んだ後、魔王様と謁見してもらうぞ？｣

――

客間―

サレはベッドに倒れこむ。

サレ｢マジかよ……｣

サレ(この僕が他人にいいように使われる事になるなんて……ッ！ 屈辱だ！)

サレ(剣も無くすし、とことんついてないね。……厄日だ、今日は)

サレ｢はぁ……｣

―

サレ｢……｣ﾊﾟﾁｯ


サレ(いつの間にか寝てたのか……)

ｺﾝｺﾝ

？｢召喚された戦士さま……いらっしゃいますか？｣

サレ(……。僕の事か、そういえば魔王と謁見するんだったな)

サレ｢どうぞ？｣

メイド｢失礼します…｣

サレ｢……｣～♪

サレ(中々可愛い子ちゃんじゃないの。……トーマと一緒に姫様の器探しをしてた頃を思い出すな……)

メイド｢あの……なにか失礼をしてしまったでしょうか｣

サレ｢ん？ なんでかな？｣

メイド｢気難しいお顔をしていらっしゃったものですから…｣

サレ｢……別に君がどうしたという訳じゃないよ。それより、人の顔を覗き込むのは失礼じゃないのかな？｣

メイド｢！ 失礼しました……｣

サレ｢まぁいいさ。それで、用事はなんだい？｣

メイド｢はい…、この度は急用のできた魔族術師様の代わりとして参りました。魔王様がお待ちです、謁見していただけますか……？｣

サレ｢僕に選択権は無いんだろう？ さっさと案内してよ｣

メイド｢は、はい……ではこちらに｣

―謁見の間

メイド｢失礼いたします。戦士さまを連れて参りました｣

魔王｢下がれ｣

メイド｢はい｣ｽｽｯ

サレ｢……｣

サレ(これが魔王？ ……冗談だろ？ まだほんの小娘じゃないか)

魔王｢お前が異界から召喚された戦士という奴か。……中々力はあるようだな｣

サレ(あっちは僕の力が分かるのか……。だけど僕にはフォルスしか感知できないから魔王とやらの力量はわからない……)

サレ(面白くないね……)

魔王｢……返事をせよ｣

サレ(…っと、いけないいけない……)

サレ｢はい、魔王様の仰る通りです｣

魔王｢なんだ、しゃべらぬ木偶かと思ったぞ｣

サレ｢……｣

サレ(チッ……このガキ……！)ｲﾗｯ

魔王｢お前にはこれから我のしもべとして働いて貰う。異論は無いな？｣

サレ｢ええ｣

サレ(どうせ逆らったら頭を飛ばすつもりの癖に……よく言うよ)

魔王｢では、まず我に対する忠誠を見せてもらおうか｣ｸｲｯ

魔執事｢……｣ｻｯ

魔王｢転送札だ、ある人間の町に通じている。実はそこで勇者が誕生したらしくてな、片付けてこい｣

サレ｢勇者……？｣

魔王｢諸説明はメイドがする。その結果でお前の忠義を図る……行ってくるがいい｣

サレ｢……分かりました｣

～

メイド｢――つまり、勇者とは魔界を倒す存在なんです｣

サレ｢……ま、そんな言い伝えなら僕も読んだ事があるよ｣

サレ(魔王と聞いた時からおかしいとは思ったけれど、まるで絵本の中に閉じ込められたみたいだね)

メイド｢札の行き先は代々勇者が現れる地、……ではなく。辺境の小さな王国になっております｣

サレ｢どういうこと？｣

メイド｢原因は分かりませんが……、おそらく魔王様の真意は勇者の真偽調査かと｣

サレ｢さっき勇者なんて現れるのは初めて……もしくはすごく久しぶりだって言ったもんね｣

メイド｢はい。恐らく……『偽って』いるのかと｣

サレ｢なんだ。それじゃあ本当の所は勇者なんていない、人間達が魔物の攻撃を緩める為に作った嘘だって事か｣

メイド｢十中八九、そうでしょう｣

サレ｢おや？ 強気だね？｣

メイド｢もし実際に勇者が誕生していれば……、魔王様も動かざるを得ないでしょうから｣

サレ｢ま、今は呑気に座って急拵えの兵を向かわせるくらいだしね。随分余裕があるのか｣

サレ(……魔王の真意がいかにしても、僕はただの捨て駒って事か。なめてくれるよ)

―

番兵｢止まれッ！ 貴様、何者だ！｣

老人｢旅をしておる……。近くで魔物に襲われ荷物を無くしてのぅ……。いれてはくれんか？｣

番兵｢老人が一人旅か？｣

老人｢一緒に旅をしていた孫がいたが……｣ﾁﾗｯ

布の塊｢……｣

老人｢国の中で弔ってやりたいのじゃ……｣

番兵｢……｣