モバP「苦手なんです、トライアドプリムス」 (109)

ちひろ「は?」

P「いえ、苦手というか……少しやりづらいというか」


ちひろ「いやいやダメでしょう、一体何をおっしゃってるんですかプロデューサーさん」

ちひろ「一人の人間であるとはいえ、あなたはプロデューサーなんですよ?」

ちひろ「アイドルの子たちと分け隔てなく接するのが仕事でしょう?」

ちひろ「あなたは人間である前にプロデューサーなんですから」

ちひろ「あなたは人間ではないんです」

ちひろ「今あなたの精神世界にダイブしています」

P「こ、怖いです!」

ちひろ「プロデューサーさんが変なこと言うからです」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1432037055

P「そう、ですよね……俺、バカでした」

P「弱音を吐きたくなってしまって、言ってはいけないことを……すみません!」バッ

ちひろ「私に謝ってもしょうがないんですからね」

ちひろ「というより、くれぐれもあの子たちの前でそんなことを」

P「ええ、それは! 肝に銘じてます!」


ちひろ「それで、仲が悪いんですか? 喋ってくれないとか?」

P「うーん、そんなような、そうでもないような……」

ちひろ「現状に満足してない? あなたが? 彼女たちが?」

P「野心はありますが、不満は特に……多分」

ちひろ「何よりですねー、贅沢なんですよプロデューサーさんは」

ちひろ「各賞総ナメ、話題独占・席巻・蹂躙、三人組のモンスターアイドルユニット」

ちひろ「そのプロデュースを一手に引き受けておきながらその口ぶり」

ちひろ「誰かに完膚なきまでに奪われても文句は言えませんよ」

P「……何をですか?」

ちひろ「……」

P「何をですか!?」

ちひろ「富とか」

P「!?」

ちひろ「まぁ今ここで理由を聞くほど暇でもありませんし、そっちでちゃんと処理しておいてくださいね」

P「話題独占か……恥ずかしいことに、いまだに実感湧かないんですよね」

P「ガムシャラに突き進んでたらここにいたって感じで。それに、彼女たちがあんな風だから」

ちひろ「聞きませんってば」

P「厳しい――いえ、優しいです、ちひろさんは」

ちひろ「……」

P「俺、頑張りますから!」グッ

ちひろ「あんまり恥ずかしいこと言ってると奪いますよ」

P「な、何を」


ピリリリリリリ!!


ちひろ「電話鳴ってますよ」

P「はい……何をなんだ……もしもし」


P「おぉ、うん。凛か」コクコク

P「っ、そうか、上手くいったか! やったな、よしよし」

P「そうかぁ……嬉しいなぁ」

P「え? も、もちろん気にしてたよ! いや、そんなことないって!」ブンブン


ちひろ「……?」


P「お前たちの成功が何よりのよこっ、喜びだから!」

P「……待ってくれ……なあ、二人も一緒にいるんだよな?」

P「わかった。それじゃあ―――」


ピッ

ちひろ「迎えに行かれるんですか?」

P「……ええ、この後は予定も詰まってませんし、ケアをしに行ってあげたいので」

ちひろ「お願いしますね。あとそれと」

P「わ、わかってます! 反省してますから!」

ちひろ「もう……」


バタン!


ちひろ「一体何が問題なのかしら、うーん……」


――車中


ブゥウウウーーン……



奈緒「いやーホント疲れたなぁ、今日も!」

凛「そろそろこの忙しさにも慣れてきたかなと思ったけど……まだまだ、全然だね」

加蓮「んーっ、慣れちゃう頃には私たちどうなってるんだろ。あー、きっと別次元だ」



P「………」

凛「そうかも。なんか、今ぐらいが丁度いい? 先は想像つかないな」

加蓮「忙しさを楽しむくらいがいいんだよ、何も感じなくなったら怖いし」

加蓮「そんなのもう阿修羅だね、阿修羅」

奈緒「アシュラマン!」

凛「ふーん」

奈緒「『ふーん』ってなんだよっ、いっそ反応しないでくれよそれ!」

凛「別にいいじゃん、ね?」

加蓮「ねー」

奈緒「ぶっこむタイミング間違えたぁ……」

凛「大丈夫だよ奈緒、私たち、そういうの理解ある方だし」

奈緒「何についてだ! 今の場面だと他意がありすぎるぞ!」

加蓮「あはは!」

凛「ふふっ」



ワイワイ キャッキャッ


P「………」


加蓮「あ! ほら奈緒っ、みてみて、あれ」

奈緒「ん? おー!」

凛「わぁ……」


加蓮「タワーだよタワー。すごい、綺麗……わたし、何気に見るの初めてかも」

凛「実際に実物を見るとまた違うね。窓、開ける?」

奈緒「ほえー、すげー……夜になるとライトアップされるんだなー……」

加蓮「アシュラマン!」

奈緒「い、今カンケーないだろそれぇ!」

凛「…っふふ……」

加蓮「あれぇ? 違ったか……ごめん奈緒、私にはわかんないやー」

奈緒「あぁもう、いちいちやってくれなくていいんだよ! わかっててやってんだろ絶対!」

加蓮「あははっ、ごめんね~」

奈緒「うぅ~! 年下の小娘ぇ~」

凛「どうどう、落ち着きなってば、ふふっ」


P「あ、あのさ……」



ピタッ



凛「………」

加蓮「………」

奈緒「………」


P「……」

凛「………」

加蓮「………」

奈緒「………」



P「いや、その……」

凛「……」


P「どうせなら……」

P「車止めて、外に出てみるか?」


加蓮「……」


P「心配、要らないからな?」

P「大丈夫、俺が周りを見張ってるから」

P「最近、こう……『仕事仕事ーっ』で、張り詰めてばかりだったろう?」


奈緒「……」

P「俺には、こんなことくらいしかできないけど……少しでもリフレッシュになればと思うから」

P「息抜きは絶対に必要だと思うから」


凛「………」


P「ホ、ホラ、外からの方が絶対キレイに見える! 俺っ、先に見に行っちゃおうかな!」


加蓮「………」


P「いやぁ、何だかんだ俺の方も忙しかったし、お互い大変だよな!」

P「きっと痛み分けってやつかな、いや、違うか? はは、あはは……」


奈緒「……」


P「あは、は……」

凛「……」



P(も、もしかして……)


P(またなのか……? また、始まるのか……)



凛「……ねえ」


P(嫌だ、やめてくれ……)


加蓮「……」

凛「なに、今の」

奈緒「……」

加蓮「……さぁ?」


凛「なんか言ってるけど」


凛「今のって、私たちに気を遣ってるつもりなのかな?」


加蓮「知らなーい。私に聞かれても」


凛「まあ、わからないか、あの人の考えてることなんて」

奈緒「っ」

加蓮「だって何で一緒にいるのかも知らないし」

凛「……ホント」



凛「やめてほしいよね、こういうの。鳥肌立つ」


奈緒「よせ……やめろって」

加蓮「ハァ? なんで? てか、言うならあっちに言ってよ」

凛「ふふ、なに急にイイ子ちゃんぶってるの、奈緒?」

凛「私たちは気に入らないことがあるから訴えてるだけだよ?」

加連「そーそー」

奈緒「く……」

加蓮「はぁ……」

加蓮「やっぱりさー、私たちに平然と話しかけてきてるってことは、そういうことなんじゃないの?」


P「……」


凛「うわ……」

加蓮「あーもう……私、気分変になってきたよ。ウンザリする」

凛「私もかな。同じ空間にいるとか」

奈緒「お前ら……」

加蓮「だーかーら」

凛「別に、当然っていうか普通でしょ。なんかおかしいことある?」

凛「気安く触れないでほしいって言ってるだけじゃん。奈緒だってそうでしょ?」

奈緒「っ、そんな」

凛「いちいちこっちに絡んできてさ、ほんとザワザワする」

加蓮「ねー」

凛「なに? もしかしてさ、『プロデューサーとして当然の責務』とでも言うつもりなのかな」



凛「完璧じゃん」


加蓮「ドキドキするからやめてほしいんだけど」


奈緒「それは……あたしも……」



P(うぅ……また始まった……)


凛「自分だって疲れてるとか言ってたじゃん。私たち以上に仕事尽くめのはずじゃん」

凛「それなのに何? そうやって私たちにまで気を配るの?」


凛「完璧じゃん」


加蓮「気持ちあふれそうなんだけど」

奈緒「や、やめとけって」

凛「いっつも自分を後回しにして周りの心配ばっかして」

凛「優しいし、気弱そうに見えるけどいざというとき頼りになるし」

凛「何なの?」


P(俺にもわからないよ……)

加蓮「嫌な要素が見つからないっていうか……せつなくて……困る。あー、またこういうこと言っちゃう私」

凛「仕方ないよ。だってまた優しくするんだもん。あっちのせいだよ」

凛「何かが起きても、それは私たちの責任じゃないよ」



P(どうして……この子たちはこうなんだ……)

P(やけに俺に甘いというか、尊敬してくれてるのかわからないけど)

P(とにかく、カユい!!)


凛「だからあんまり絡んでこないでってお願いしてるのに。淡々としててほしいって」

凛「なのにプロデューサーとして文句なしにアイドルの心に入り込んできて」

凛「ひどいよ」

加蓮「ほんとそれ」


P「あ、あのな、俺はそんな出来た人間じゃないんだって! わかるよな?」


凛「こっち見ないで。呼吸おかしくなるから」

奈緒「ま、まあ話を聞こう、な!?」

P「お前たちはきっと、視野が狭くなってるんだ! だから少し盲目になってるというか」


凛「だめ。もう無理。ほんと無理だからその声。電話口でも精一杯だったのに」

奈緒「凛、逃げちゃダメだ!」


P「こんな若造に取り入っても何も良いことないぞ? だからっ、おだてるのはやめてさ……」

奈緒「ほら、プロデューサー困ってる! いつもこういうのやめようって言ってるじゃんか!」


凛「………」

加蓮「………」

凛「……ねえ、聞いた? 今の」

加蓮「うん」

凛「今さら謙遜するんだ。ありえない。またそうやってこっちの心を」

凛「これまで一緒に歩んできた記憶があるのに。たくさん応援してくれて、寄り添ってくれて……」

加蓮「私たち、アイドルなんだよ? すきになるから、やめてほしい……」

凛「加蓮、また本音漏れてる」

加蓮「もうやだ」

奈緒「そんなの……あたしだって……」


P(この子たちは純粋なんだ、きっとそうだ、そうに違いない)

P(一体いつから……最初はこんな風じゃなかったはず)


凛『ふーん、アンタが私のプロデューサー?……まあ、悪くないかな…』


凛『多少優しい性格に見えて一緒に歩んでいけそうだからって、私、だまされないからね』


P(凛はその、まぁ……)



加蓮『アタシ特訓とか練習とか、なんかそーゆーキャラじゃないんだよね』


P(そう、加蓮は苦労したんだ)


加蓮『変われるから、アイドル……? ふ、ふぅん。良いこと言うじゃん……そっか、優しいんだ……』


P(まぁ……)



奈緒『は、はァ!?な、なんであたしがアイドルなんて…っ!てゆーか無理に決まってんだろ!べ、べつに可愛いカッコとか…興味ねぇ…し。きっ、興味ねぇからな!ホントだからなっ!!』

奈緒『ゆっくり一緒に……? 責任取るって、何言ってんだよもうっ! そんな言葉、何の保証にも……でも、何だろ、アンタに言われるとしみこんでくるっていうか、ホントに聞こえて安心して……い、今だけだからな……』


P(まぁ……………)

P「そうだ皆! タワー見に行くかは決まったか!? 何も遠慮することなんてないからな!!」


凛「ねえ加蓮、気づいてた?」

加蓮「えっ?」

凛「そもそもさ、ここを車で通ってること自体おかしいんだよ」

奈緒「おい、やめとけって!」

凛「私たちを送るだけなら、この道を通る必要なんてない」 

加蓮「あ……」

奈緒「クソっ……!」

加蓮「もしかして、この景色を見せるためにわざわざ……?」

凛「予定調和だったんだよ」

凛「偶然のフリなんかして、仕事で忙しかった私たちに」

加蓮「プロデューサー……わたしの、さいこうの……すき……」

凛「加蓮また」


P「決まるまでそこらへん適当に流してるから!!! 決まったら声かけて!!!!」

奈緒「凛っ、お前さっきから聞いてればなぁ!」

凛「なに? 私悪くない。プロデューサーが温かく包みこんでくるのが悪いんだよ」

加蓮「やめて……」

凛「つたない優しさと、飾らない笑顔、私たちのために頑張ってるのを見るだけで」

凛「私たまらなくなるよ」

奈緒「そんなの……あたしだって……」

加蓮「もうやめようよ……せつないよぅ」

奈緒「そうだ、もういい加減にしとけよ。プロデューサーが困ってるだろ!」

凛「ねえ加蓮、私さっきプロデューサーに電話したでしょ」

加蓮「えっ?」

奈緒「クソっ……!」

凛「さっきプロデューサーに電話したでしょ私」

奈緒「もうやめろよ凛!!」

加蓮「うん」

奈緒「加蓮も! 聞く耳持つなよ!」

凛「じゃあ奈緒は聞かなくてもいいよ、私と加蓮だけで話すから」

奈緒「プロデューサーのことも考えろよ!」


P「よーし、一周したぞ」


凛「考えてるよ。考えなかったことなんてない。だから私プロデューサーがかわいかった話するよ」

奈緒「何だよそれ!」

凛「奈緒は聞かなくていいの?」

奈緒「そんなの……あたしだって……」

加蓮「プロデューサーかわいい」

凛「加蓮早いよ」

加蓮「もうやだ」

凛「さっきプロデューサーに電話したんだけどさ、もう携帯越しにもプロデューサーの身振りが見えてくるんだよね」

凛「『収録上手くいったよ』って報告したらさ、『そうかぁ、嬉しいなぁ』って」

凛「いつも私たちが見てるみたいに、すごい目をキラキラさせてるんだろうなって」

加蓮「きゅんってなる」

凛「プロデューサーは動きがオーバーだからね、コクコク頷いたり、頑張る時にはギュって手を握ったり」

奈緒「もうそのへんにしとけよ……」

凛「私が『こっちのこと忘れてたんじゃない?』ってからかったら、ぶるぶる犬みたいに首振ってるのがわかるんだ」

加蓮「せつない」

凛「さっきも皆見てたでしょ? 『仕事仕事ーっで張り詰めてたろ?』の時、手をこう、わちゃわちゃさせて」

奈緒「やめとけって……!」

凛「あとよく噛むよねプロデューサー」

奈緒「いい加減にしろよ凛!!」

凛「スタッフの人とか、仕事先で話す時は理路整然としてて」

凛「私たちに対して喋る時は、何とか私たちの気持ちを和らげようって、ちょっと焦り気味」

凛「これ。このギャップ」

加蓮「大変興味深い」

奈緒「加連も耳を貸すなって! こんな話ムダなんだよ! 聞いたらダメだ!!」

凛「全方位に一生懸命って感じでさ……もう、ね?」

加蓮「ね」

凛「あーもう」

加蓮「わかる」

奈緒「クソっ……!」

凛「どうしたの奈緒? 何をそんなに焦ってるの? まるで追い詰められたみたいに」

奈緒「お前らは……プロデューサーのこと、本当に考えてるのかよっ……」


P「これ酔うな」


奈緒「お前らの話からは何も生まれないんだよ……!」

凛「奈緒こそいい加減に素直になりなよ」

奈緒「何だって?」

凛「プロデューサーがかわいかった話するよ」

奈緒「おい! 何なんだよ今の!」

加蓮「それ好きー」

奈緒「加蓮……お前っ、加蓮!!」

凛「プロデューサーさ、シナモン苦手なんだよね」

奈緒「さっき言いかけてただろ!! なぁ!!」

凛「あの番組の収録、よくスタッフさんからの差し入れで、控室にシナモン入りのお菓子があるんだけど」

奈緒「……チッ」

凛「余すのも悪いと思ってるのか、よせばいいのにプロデューサーは律儀にそれを持って帰ってさ」

凛「ほら、そこに置いてある」

加蓮「よせばいいのに」

奈緒「……」

凛「で、この前事務所で食べてるのを見たんだけど……そのお菓子を口にした瞬間にさ」

凛「『ぐむぅー』って顔するの。『ぐむぅー』って」

加蓮「えっ、それって」

凛「目と口をギュッて閉じてね」

加蓮「天……使?」

奈緒「なぁオイ……!」

凛「その時の写真がこれ」

奈緒「撮ってんのかよ何なんだよお前……っ」

加蓮「超見る」

奈緒「ダメだッ、見るな! 加蓮!!」

凛「素直になれない子には見せないから安心しなよ。おいで加蓮、ほら」

奈緒「凛っ、お前ぇ!!」

加蓮「……ぅわ」

奈緒「あ……あぁ……」

加蓮「……」

奈緒「加蓮……っ」


加蓮「……よさないでくれてよかった……」パァアアア


奈緒「クソぉーーーっ!!!」

加蓮「本当に感謝の一言しかない可愛さ。二億点……ううん、五十六兆点」

凛「で、後で聞いた話によると、シナモンの香りは嫌なんだけど味は美味しいから食べちゃうんだって」

加憐「うん……」

奈緒「クソっ……クソぉ……」

凛「今日はいけるかなって思って食べたらやっぱり苦手でこういう顔になっちゃうんだって」

加蓮「すき……」

凛「でもついつい食べちゃうんだって」

加蓮「すき……」

凛「加蓮の本音がコピペに」

奈緒「止められなかった……あたしはっ……」

凛「奈緒は? どうするの?」

奈緒「B1に拡大してよこせよ……」

凛「ふーん、わかった」

凛「じゃあそういうことだから」

凛「プロデューサーがかわいかった話するよ」

奈緒「待てっ……もうこれ以上は……!」

凛「どうして? 何の問題があるの?」

奈緒「お前は何もわかっちゃいない、凛っ……」

凛「……」

奈緒「もうこんなこと、続ける意味がない……それに何よりっ!」

奈緒「お前の心にはプロデューサーの気持ちが伝わってこないのかよ!!」


P「ぶうううぅーーーん」


凛「奈緒……くだらないしがらみは捨てなよ」

奈緒「何だと……?」

凛「続けるけど、いいよね?」

加蓮「……」パチパチパチ

奈緒「待て、まだ何もっ」

凛「プロデューサーさ、耳元が敏感なんだよね」

奈緒「チクショオォっ! フザけやがって!!」

加蓮「奈緒、少し静かにしてくれないかな? 私今すごく真剣なの。この目まぐるしい嵐のような忙しさの中でやっと穏やかな凪を、小鳥が休める止まり木を見つけることができたの。それって奇跡みたいに素敵なことで夢みたいに綺麗で泣けちゃうことなんだよ、わかるかな? 美しくも醜い世界で穢れなき尊さに出会うことができた意味を私は全霊で享受して、大切にしていきたい。私の中でずっと欠けていた部分に一切の歪みなく嵌まったピース……心を洗う安らぎ、胸を満たす幸せ、感情を揺さぶるうねりが私の止まっていた時間を強引にGOINさせたんだよ……?」 

奈緒「これが大人しくなんてできるかよ……このままじゃさっきと同じっ……」

凛「ねえ奈緒、素直になりなよ」

奈緒「うるせぇっ、うるせえ! 悪魔だ、お前は!!」

奈緒「聞く必要なんてない、どうせ大したこと」

凛「あれはライブの準備をしてた時だったかな」

奈緒「え……?」

凛「会場の見取り図をデスクに広げて、プロデューサーと一緒に覗き込んでて」

加蓮「“視”える……」

凛「……話し込むうちにお互いの距離が近づいてて」

奈緒「あ……あぁ……」

凛「たまたま私の息がプロデューサーの耳にかかって」

凛「そしたらプロデューサー、『ひぁん!!』って女の子みたいな声で」

奈緒「うああああああぁ!!!!」

加蓮「すうううううぅぅ……ハアアアアアァァ……」

奈緒「もうっ、もう……」

凛「その時の音声がこれね」

奈緒「うああああああっっ!!」

凛「その音声を元に作成したMAD『お願いひぁんデレラ』がこれ」

奈緒「わあああああああっっ!!」

凛「その音声に揺らぎとリバーブをかけて背景に雨の音、波の音を加えたヒーリングCDがこれ」

奈緒「にゃああああああああああ!!!」

凛「Windows・Macに対応したシステムボイス」

加蓮「生きる……生きていく……」

奈緒「うぅっ……ぐすっ……」

凛「プロデューサーがかわいかった話するよ」

奈緒「どんだけストックあんだよ!! もっと聞かせろ!!!」


P「もう降りるってことでいい……?」


・ ・ ・



加蓮「ほらほら、早くはやくー!」

奈緒「待ってくれって……走るなよぉっ」

凛「加蓮ったらハシャいでるね」


P(結局俺はタワーの周りを56周していた)

P(何とか彼女たちに降りてもらうことに成功し、タワーの前に来た)


加蓮「わぁっ、すっごい綺麗……眩しいくらいだよ、ロマンチック……」

奈緒「おぉー! なんかこういうのってCGみたいでワクワクするな!」

凛「奈緒、気を付けないと悪い部分が出てるよ」

奈緒「どういう意味だ! 別にいいだろ!?」

加蓮「あははっ」

凛「ふふっ」


キャッキャッ


P(……連れてきて、正解だったかな)

加蓮「あ、ねぇねぇ皆で写真撮らない? せっかくこんな場所に来たんだし!」


奈緒「いいけど、三人で撮るのか?」

加蓮「えー寂しいこと言うなぁ。奈緒にとって私たちは仲間じゃないの?」

奈緒「ちがっ、そうじゃなくて!」

加蓮「ふふ、わかってるよー怒らない怒らない」

奈緒「ぐぬぬ……」

凛「誰かに頼む? でも」

加蓮「別に自撮りでいいんじゃない? ……ほら、こうやって!」ギュッ

奈緒「おわ!?」

加蓮「皆でくっつけば問題ないでしょ?」

奈緒「なんか恥ずかしいぞこれ……」

加蓮「照れちゃってまぁ」

奈緒「かれんんんん!!」


P「ははっ、よしよし、三人ともそのままでいいぞ。俺が撮ってやるから」

凛「………」

加蓮「………」

奈緒「………」


P「………」

凛「何言ってるの?」


P「……」


凛「目線の先にずっといられて困るのこっちでしょ。ドキ殺したいの?」

奈緒「そうだぞ……す、少しは考えろよ……」

加蓮「お嫁さんにして」


P(正解だったと思いたい……)


――翌日



P「……うん」

P「やっぱり……そうだよな」


ちひろ「あら? 何を見てるんですか?」ヒョコッ


P「ひぁんっ!!??」


ちひろ「きゃっ、え、驚かせちゃいました? 正面からでしたし、私が来るのわかってたかなって」

P「いえその、そうじゃなくてっ」

P「耳に来られるの弱くて俺……」

ちひろ「あぁ、息がかかっちゃったかしら……ごめんなさい」

P「いえ……」

P「……」

ちひろ「? どうかしました?」

P「苦手なものを苦手なままにしてるの、よくないよなって」

ちひろ「……そう、ですね?」

P「癖とか相性とか、そういうのに甘えてるのもよくないなって」

ちひろ「ふむふむ、昨日何かあったんですね? 彼女たちとの関係が改善したとか」

P「いやいや! そんな急には!」ブンブン!

P「……」

ちひろ「……プロデューサーさん?」

P「さっそく癖が出てしまって自己嫌悪を」

ちひろ「はあ」

P「彼女たちの写真を……撮らせてもらえるくらいにはなりたいですね」

ちひろ「そんなに仲が悪いんですか……」

P「悪いというか何というか、その」

ちひろ「焦らずじっくり、ですよ。今までが駆け足だったんですから」

P「はい……」

ちひろ「応援してます。せいぜい奪われないようにしてください」

P「それ応援ですか!?」

ちひろ「本当の本当に辛くなったら、私に……」ボソッ


P(……とはいえ)

P(俺の手元の携帯画面には、彼女たちの写真が映っていた)

P(タワーを背景に撮った写真……ではなく)

P(はしゃぎつかれて、満足して、健やかな顔をして)

P(後部座席で肩を寄せ合って眠る、三人の女の子)


P「……勝手に撮ったのマズかったかな」

ちひろ「そうだ、プロデューサーさん、これ食べます? いただいたものなんですけど」

P「おぉ」

P「どうもわざわざ。ありがとうございます」パクッ

P「…………」

ちひろ「何ですかその『ぐむぅー』って顔……あ! すみませんっ、シナモン」

P「……大丈夫です……平気ですから……」


P(道のりは簡単ではないけど)


P(あの可愛い少女たちを前に)


P(苦手だなんだ言ってるなんて、格好悪いなって……)

P(マズいな……これって結局、俺も彼女たちもチョロすぎるってだけなんじゃ)


ピリリリリリリ!


ちひろ「あら、プロデューサーさん」

P「はいっ、はい……ん、もしもし、凛か」

P「え?」

P「い、いや、何でそんなこと……って、気づいてたのか!?」


ちひろ「……?」

P「すまんっ、その、勝手に撮ったのは悪かったと思ってる! まさか起きてるなんて」

P「え? いやいや! 好きとかそういうことじゃなくてだな! 何でいきなりそんな話にっ」

P「だからそうじゃ……大体俺はプロデューサーだぞ!? 俺がお前たちに対してそんな」

P「ぐ……俺は……~~~~っ、ぁああああもう!!」



P「そうだよ!!!! 三人とも好きだよ!!! 悪いか!!!!!!!」




ちひろ「!!??!???」


P「凛はクールだけど情熱を秘めててそれをそのまま好意に変えてきて可愛いし!!!!!」

P「加蓮はイマドキの子っぽいけど純情でそれをそのまま好意に変えてきて可愛いし!!!!!!」

P「奈緒はツンとして照れ屋だけどそのまま可愛いし!!! 何なんだ!! フザけてるのか!!!!!」

P「こっちだって今までずっと我慢してきたけどお前らのせいで色々限界なんだよ!!! ナメてるのか!!!!!」

P「ドキ殺す気なのかっつーんだよ!!! もうお前たちのプロデュースなんかしてやらないからな!!!!!!」

P「大好きだバーカ!!!!!!!!!」


ピッ!


ちひろ「………」

P「……」

P「いやあ」


P「苦手なんですよね、トライアドプリムス」


ちひろ「はり倒していいですか」




                                             おしまい

読んでくださった方ありがとうございました
やりたい放題でした

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