サトシ(20)「俺がジムリーダー?」 (304)

とある山奥にポケモントレーナーとしての腕を磨く為に修行と称して俺は山籠りをしていた。


サトシ「今月分の食料もそろそろ無くなってきたな・・・リザードンに買い物頼もうかな」

ピカチュウ「山に籠って長くなるんだしたまには下山してみようよ。皆心配してると思うよ」

サトシ「んーもう五年目だもんなぁ。一日くらい良いかもしれないな・・・」

ピカチュウ「決まりだね!僕なんだかワクワクしてきたよ!」

サトシ「ハハハ、子供だなぁピカチュウは」

ピカチュウ「うるさいやい」

日用品や食料は修行の為下山できない俺に代わってリザードンが買い物に行ってくれている。
普通の店に行くと騒ぎになるので知り合いの俺の修行に理解のある店長に売ってもらっている。
リザードンは毎回「めんどくせぇ」と言いつつもちゃんと買い物を果たしてくれる。感謝すると照れ臭そうにするのがまた可愛い。


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サトシ「皆聞いてくれ!明日一日だけ下山する事になった!」

リザードン「俺は留守番」

ラプラス「あなたが居ないとサトシが困るわよ」

フシギバナ「そうだぞ。歩いて下山しようと思えば軽く4日は掛かる」

カメックス「しかし一日だけか。もっとゆっくりしても良いと思うがな」

ピカチュウ「もともと僕が提案したから仕方がないよ。サトシは最初から下山する気なんて無かったしね」

カビゴン「・・・ご飯」

サトシ「えー皆思う事はあると思うけど明日はとにかく下山だ!リザードン、すまないけどお前の力が必要なんだ。明日は頼むぞ!」

リザードン「し、しゃーねえな」

カビゴン「顔・・・赤いよ」

リザードン「元からだ!」

俺は本当に良い仲間を持ったと思う。自分の都合でゲットし、自分の都合で使役しててもなお俺の事を慕ってくれる。今回の修行も俺のトレーナーとして強く成りたいという身勝手に付き合わせてしまっている。たまに文句は言うが俺の元から離れたいと彼らは絶対言わない。
ポケモンの服従心はモンスターボールの効果からという意見もあるけど俺は信じたくない。今まで積み重ねてきたことの結果が今のピカチュウ達なんだと思いたい。

ラプラス「しかしアレよねぇ。今更だけど私たちポケモンと普通に話せるなんてあなた相当変わってるわよね」

カメックス「全く不思議じゃな」

サトシ「話し相手がお前たちしか居ないしなぁ・・・」

ピカチュウ「ロケット団のニャースの逆だもんね」

リザードん「違いねぇな」

下山当日

サトシ「いざ下山となると何か緊張するな・・・」

ピカチュウ「ママさん達に元気な顔見せるんだって昨日言ってたじゃない。さぁ、行こうよ!」

サトシ「・・・よしっ!リザードン!」ポン!

リザードン「乗れ」

サトシ「ありがとな」

ピカチュウ「おじゃまします」ササッ

こうして俺はリザードンの背中に乗り、生まれ故郷マサラタウンに向かった。

マサラタウン

リザードン「見えたぜ。しっかし何ひとつ変わってねぇな」

サトシ「・・・ああ。本当にな」グズッ

ピカチュウ「サトシ、涙が・・・」

サトシ「ち、違う!寝不足であくびが出たんだよ!」グズズッ

リザードン「どうだか。おい、着いたぜ」

涙で歪んでる顔の俺を横目にリザードンは次第に速度を弱め、家の庭に植えてある花を散らさない様に静かに舞い降りた。

リザードン「モンスターボールには戻さないでくれ。ちょっと散歩してくる」バサッ

サトシ「わかった。戻ったら家の前で待っててくれ」

リザードン「おう」

リザードンは俺の頭上を一周すると、どこかに飛び去っていった。

ピカチュウ「行っちゃったね」

サトシ「・・・俺たちも行くか」

俺はドアの前に立った。この向こうに母さんがいると思うとなかなか開けられずにいた。
何年も連絡を寄越さなかった息子がいきなり帰ってきたらどう思うだろう。喜ぶ?怒る?身勝手で馬鹿な俺には解らない。

ピカチュウ「サトシ、エスパーじゃないんだからドアの前で立ってるだけじゃ開かないよ!さぁ、勇気を出して!」

サトシ「・・・帰っていいかな?」

ピカチュウ「・・・」スタスタ

ピンポーン!

ハナコ「はぁーい!どちらさまですか?」

サトシ「お、おい!勝手にチャイム押すなよ!」

ピカチュウ「てだすけ」ニヤッ

やられた。だけどこれで前に進めそうだ。ありがとうピカチュウ。

サトシ「サ、サトシだけど」

ハナコ「えっ!?サトシ!」

驚きの声と共に出てくる・・・と思ったがなかなか出てこなかった。そして暫くして静かに扉が開いた。

ハナコ「・・・サトシ」

サトシ「あの・・・ただいま」

パシンッ!

瞬間、俺の頬に鋭い痛みが走った。目の前には目に涙を浮かべる母さんがいた。

ハナコ「サトシ、あなた今までどこに行ってたのよ!?ママ、心配したんだから・・・」

サトシ「・・・ごめん」

ハナコ「五年も連絡寄越さないで・・・でも、もういいの。あなたが今こうして元気なのが分かったから」

サトシ「・・・うん」グスッ

しばらく俺と母さんは抱き合ったまま再開の時を過ごした。

母さんの体は以前に比べると小さくて弱々しく感じた。それが俺の罪悪感に加速をかける。

ハナコ「それでサトシ、あなた今までどこで何をしてたの?」

当然の質問を俺に投げかける。

サトシ「実は・・・」

俺はピカチュウ達と山籠りしていた事を話した。

ハナコ「ご飯はちゃんと・・・って聞かなくてもその体を見れば大丈夫そうね」

ピカチュウ達を鍛えるからには自分も強くならないと思いトレーニングを積み重ねた結果、山籠りをする前に比べたらかなり体格が良くなっていた。

サトシ「リングマに相撲で1回だけど勝てたのが自慢だよ」

ハナコ「まぁ凄いじゃない!本当にたくましくなったわね。ママ嬉しいわ」

サトシ「それで母さん」

ハナコ「何?」

サトシ「いや、何でもないよ!」

母さんの嬉しそうな顔を見ていると今日中に山に帰るなんて言えなかった。

ハナコ「? 変な子ね。サトシ、お昼ご飯は食べるわよね?」

サトシ「もちろん!」

ハナコ「ふふっ。ママ、用事があるから少し時間が掛かるけど良い?」

サトシ「うん。じゃあ俺はオーキド博士の所に行ってくるよ」

ハナコ「いってらっしゃい。あっ、ピカチュウちゃんは置いて行ってね!」

サトシ「良いか?ピカチュウ」

ピカチュウ「良いよ。後で僕も皆に会いに行くから!」

サトシ「オッケーだって」

ハナコ「じゃあピカチュウちゃん、山から降りて来たんだからキレイキレイしましょうね」

ピカチュウ「ええっ!?」

サトシ「ハハッ、良かったな」

オーキド博士の研究所には俺が今まで仲間にしてきたポケモン達が過ごしている。運が良ければシゲルとも会えるかもしれない。ああ、楽しみだ。

オーキド研究所

オーキド「よーし、よーし、ベトベトン!お前は可愛いのぉ!」なでなで

ベトベトン「べたぁ///」

ピンポーン!


オーキド「はて?今日は学会の訪問は無かったはずじゃが・・・どうぞ、お入りなさい」


サトシ「オーキド博士!お久しぶりです!」

オーキド「サトシくん!?おお!よく来てくれt ふぎゅっ!?」

ベトベトン「サトシィィィィィィィィ!」ぐぢゃあ

サトシ「ベトベトン!俺の事覚えてくれてたのか!?」ぐぢゃあ

ベトベトン「当たり前だ!会いたくてしょうがなかったんだぞ!こうしちゃいられない、広場に皆集めてくる!」ぐぢゃあ

「会いたくてしょうがなかった」ベトベトンの言葉が胸に突き刺さる・・・長い間預けっぱなしにしてた事が今更になってポケモン達にとって酷い事だと実感した。

オーキド「サトシ君?どーしたんじゃ、ぼーっとして」

サトシ「あっ、いえ、何でも無いです」

オーキド「しかし、サトシくん。今まで何をしてたんじゃ?5年前を境に急にテレビで見なくなったんじゃが・・・」

サトシ「実は・・・」

オーキド「ほぉ。山籠りとな?若い内にそういう事をするのはワシは大いに結構だと思うがハナコ君に心配かけるのはいかん!」

サトシ「ええ、だけど途中で連絡を取ってしまうと修行への気持ちが薄れそうで・・・」

オーキド「うーむ。難しい問題じゃな。しかし、サトシ君の元気な顔を見れて良かった。ワシは今、感動しておる!」

サトシ「大袈裟ですよオーキド博士。でも、そう言って貰えて本当に嬉しいです。」

オーキド「うむ。その素直なところが実にサトシ君らしい!」

サトシ「ありがとうございます。そうだ、シゲルはここにいてますか?」

オーキド「残念じゃが、今日は居てないのぉ。近いうちに来るらしいが、なんなら呼ぼうかの?」

サトシ「いえ、アイツの都合もありますし、迷惑ですから」

オーキド「しかし、そう長くはここには留まらんのじゃろ?」

サトシ「・・・どうして分かったんですか?」

オーキド「年の功って奴かの。時にサトシ君、君はいくつだったかな?」

サトシ「えっと、旅で5年、修行で5年だから・・・あ、二十歳だ」

オーキド「うむ。ワシに言われるまでも無いと思うが、そろそろ道をハッキリさせた方が良いと思うんじゃ」

サトシ「どういうことです?」

オーキド「このまま旅人のポケモントレーナーとして各地を旅して周るか、ここらで腰を据えて職を探すかだ。サトシ君、そろそろはっきりさせんとママさんがあまりにも不憫じゃ」

いままで母さんの気持ちなんてあまり考えたこと無かった。少し寂しいだろうなという思いはあったが、母さんと会って認識が変わった。
身を切る思いで俺の帰りを待っていたんだ。旅と職の両立は難しいかもしれない。そろそろ決める時か。

サトシ「・・・はい。少し考えさせて下さい」

オーキド「うむ。どっちの道に行っても誰も咎めんし、わしが咎めさせん。自分が選んだ道なのじゃからドンと胸を張って自信を持つんじゃぞ」

サトシ「・・・ありがとうございます。ポケモン達に挨拶してきます」

オーキド「せっかく来てくれたのに説教じみた事言って済まんの」

サトシ「いえ、おかげで目が覚めました。もうそろそろ決める時なんだと思います」

正直俺は動揺していた。俺はこれから先もピカチュウ達と旅を続けるつもりでいた。30歳になっても40歳になってもおじいさんになっても。
ピカチュウ達と旅をするのが俺の人生だと思っていた。俺はこれ以外の生き方を知らない。
しかし今日、母さんの想いを感じ、オーキド博士の言葉を聞き、そんな子どもじみた事は無理だと・・・そう思わされた。

研究場広場

ベトベトン「皆!サトシが来たぞぉぉぉぉ!」

┣¨┣¨┣¨┣¨ドドドッ!

「サトシー!」

サトシ「ジュカイン、キングラー、ケンタロス、ヘラクロス・・・他の皆も!」

ベトベトンの呼びかけにより昔の仲間達が集まった。預けられてる間も特訓をしていたのか進化しているポケモンもいた。

メガニウム「会いたかったよぉ!」スリスリ

サトシ「立派に成長したなぁ、メガニウム!」なでなで

バクフーン「ぼ、僕だって!頑張ったんだよ!」ボウッ!

サトシ「熱い、熱いって!」

オーダイル「俺の牙を見てくれ!ワイルドだろう?」

サトシ「あぁ!もう噛みつかないでくれよ!死ぬからな!」

そうだ、俺にはこいつ達が居る。たとえどんな道に進もうと。そう思うと俺は何でも出来るし何にでもなれような気がした。そう思うと自然と目頭が熱くなった。

ジュカイン「・・・涙か」

ゴウカザル「漢泣きだな、こりゃ」

サトシ「な、泣いてなんかないぜっ!」ゴシゴシ

サトシ「よし!今から皆でポケモンバトル紅白試合やろうぜ!」

ヘラクロス「キターーーー!!!」

ケンタロス×30「俺ら30匹で1匹だからな」どやっ

ムクホーク「おい」ビシッ

それからピカチュウ、リザードンが合流し、手持ちのポケモンも交えて紅白試合をした。皆、驚く程強くなっていてまたもや目頭が熱くなった。 圧倒的な試合もあれば接戦もあったが最後は皆笑顔だ。
途中から紅組はゴウカザル、白組はオーダイルが音頭をとっての応援合戦が始まったりと勝っても負けてもお祭り騒ぎの紅白試合だった。

サトシ「優勝は紅組だな!白組も良く頑張った!」

ピカチュウ「あーあ、負けちゃった・・・」

フシギバナ「草タイプだが効いたよ、お前の10万ボルトは」

ピカチュウ「・・・うん!ありがとう!」

ゴウカザル「凄かったぜ!お前の反動なしハイドロカノン!ありゃ反則だ」

オーダイル「お前のブラストバーンもな」

リザードン「俺には劣るがな」

カメックス「こら、大人気無いぞ」

リザードン「うるせぇ」

ガブリアス「リザードン、次は絶対に俺が勝つ」

リザードン「サンドバックが喋ってら」

オーキド「おーい、サトシ君!」

サトシ「あっ、博士」

オーキド「なかなか白熱しておったな!ハナコ君がご飯出来たと電話で言っておったぞ」

サトシ「わかりました。ちょっと皆、よく聞いてくれ」

試合後の余韻が残る広場が一気に静まり俺に視線を向ける。俺が何か大事な事を言うのを感じたのだろう。

サトシ「俺は今日中に山に戻る。でも約束する。月に一度はまたこうして皆でバトルしたいと思う」

ヘラクロス「キターーーー!!!!!」

サトシ「そして、皆ゴメン。今まで放ったらかしにして・・・本当にごめん!」ガバッ!

ピカチュウ「!?」

俺は心から謝った。地に頭をつけて何度も。これが今の俺に出来る最大の謝罪だ。

ドンファン「え?土でも食べてるのかな?」

フローゼル「ちょっと黙れ」

ジュカイン「サトシ、顔を上げろ。俺たちは怒ってない。そうだろ皆?」

ソウダソウダ!サトシハオレタチノサイコウノマスターダ!

サトシ「・・・お前ら」

キングラー「プクク・・・こうして今日俺たちの事を忘れずに会いに来てくれた。それだけで嬉しい」

ガブリアス「お前の世話なんか要らん。だから今まで通り旅を続けろ」

ヘラクロス「要約すると「俺たちは大丈夫だから安心して旅に出ろ」だよね!?ガブリアス!君は良いこと言った!あの短時間で一生懸命考えたんだよねその台詞!?僕は今猛烈に感動してる!!!んんんwwwwwwwwwwww何かみなぎってきたぁぁぁぁ!!!」ブンブン

メガニウム「ちょっと危ないわよ!メガホーンが当たるでしょ!バカ!」

ガブリアス(うざったいな)

ピカチュウ「サトシ、さぁ立って。そして皆の顔を見て」

サトシ「・・・うん」

皆は俺を曇りの無い真っ直ぐな瞳で見ていた。本当にこいつ達のトレーナーになれて良かった。

サトシ「ありがとう、皆!!!」ギュッ!

ガブリアス「お、俺に抱き付くなっ!」

サトシ「鮫肌痛てぇ!でも関係ねぇや!」

「ハハハハハッ!」





サトシ「ここを旅立つ時また来るからな!」

俺はオーキド研究所を後にした。

ピカチュウ「僕、サトシのポケモンになれて幸せだよ」

サトシ「い、いきなりどうしたんだよ」

ピカチュウ「わかんない。言いたくなったから言っただけだよ」

サトシ「・・・」ぐりぐり

ピカチュウ「痛い!痛い!何するのさ!」

サトシ「やりたくなったからやっただけ」

「ハハハハハッ!」

サトシ「ただいま」

ハナコ「お帰りなさい!サトシの好きなもの作ったから冷めない内に食べてね」

まだお昼なのにテーブル狭しとおかずが並べられている。数あるおかずの中で特に目を引いたのはコロッケだ。あの出来たてのパリッとした衣と中のしっとりとした具がたまらない。

サトシ「頂きます!」ガツガツ

ハナコ「ピカチュウちゃんはコロッケにケチャップをかけてあげるわね」

ピカチュウ「やった!」

いつも食事は釣った魚や山菜、それにレトルトや缶詰で済ましていたため、母さんの料理が五臓六腑に染み渡る。俺は泣きながらそれをむさぼる。

サトシ「うめぇ!うめぇ!」ガツガツ

ハナコ「そんなに辛かったのね・・・」

ピカチュウ「今日はよく泣くなぁ・・・」

サトシ「ぷはぁ、食った!食った!」

俺の腹は山の様に膨れ上がり、今ならカビゴンと比べても遜色無いくらいになっていた。

ハナコ「フフッ、お粗末様。これからどうするの?」

サトシ「カスミ達に会いに行こうと思ってる」

ハナコ「きっと喜ぶわ!暗くならないうちに行ってらっしゃい」

サトシ「うん。あっ、もしかしたらカスミ達を家に呼ぶかもしれないけどいいかな?」

ハナコ「ええ、大丈夫よ。美味しいものたくさん作っておくわ」

サトシ「よろしく頼むよ!じゃあ行ってきます!」

ピカチュウ「・・・」

バタン!

ハナコ「・・・」

サトシ「久しぶりだなぁ!あいつらに会うの!なぁ、ピカチュウ?」

ピカチュウ「・・・」

サトシ「ん?どうしたんだよピカチュウ?」

ピカチュウ「僕達って今日また山に戻るんだよね?」

サトシ「ああ、もう少し修行したいしな」

ピカチュウ「だったらどうしてママさんに言わないの?今日ここを立つって」

ピカチュウは静かに俺に問う。怒りか呆れかピカチュウの冷たい目に俺は一瞬言葉を失った。

サトシ「わかってる、わかってる・・・けど」

ピカチュウ「ママさん気付いてるよ。サトシが今日ここを立つ事」

サトシ「・・・」

ピカチュウ「でも、あえて聞かないつもりみたい。きっと聞き辛いんだと思う。聞いちゃうとサトシがまた遠くに行ってしまうんじゃないかって。ママさんはきっとそう思ってる」

サトシ「俺は・・・俺はまた母さんを悲しませるのか。でも俺はまだお前達と一緒に強くなりたい・・・!」

ピカチュウ「ママさんはサトシが信じた道を行くなら笑顔で見送ってくれるよ。僕は旅を止めろとは言わない、ママさんを悲しませるなとも言わない。せめて面と向かって元気良く「ありがとう」と「行ってきます」は言おうよ」

サトシ「本当にそれで良いのかな・・・」

ピカチュウ「ラプラスの受け売りだけど夢を叶えるには犠牲は付き物で何も手放したくないってのは甘えだって。君の最強のトレーナーという夢の犠牲がたまたまママさんだったんだ。ママさんはそういうのを理解してるからこそさっきも言ったけど君を笑顔で見送れるんだよ」

ピカチュウの言葉には厳しさがあり、温もりがあった。俺を納得させるには十分過ぎる言葉だった。

サトシ「ありがとうピカチュウ。でも、心の準備が出来てないからまだ・・・」

ピカチュウ「僕はこれ以上は言わない。後はサトシが決めるべきだよ!」ニコッ

サトシ「ああ!俺も男だ、腹を括るぜ!」

ピカチュウ「それでこそサトシだよ!さぁ、カスミ達に会いに行こう!」

ピカチュウは子供っぽい所があるが時に冷たくドライな面を見せることがある。それは仲間が間違った道に進もうとしている時に見せる面でありそんなピカチュウを俺達は信頼している。

サトシ「よし、リザードン君に決めた!」ポン!

リザードン「ったく、寝てたのによ」

サトシ「ゴメンなリザードン。お前の翼がどうしても必要なんだよ」

リザードン「運賃はもらうぜ?俺のメーターは回りが早いから覚悟しとけよ」

サトシ「特上ポケモンフードでどうだ?」

リザードン「お、おい、冗談に決まってんだろ。お前からは何も取らねぇよ」

サトシ「やっぱり優しいなぁ、リザードンは」なでなで

リザードン「や、やめろ!バカ野郎!」

ピカチュウ「リザードン、かわいい」ニヤニヤ

リザードン「うるせぇ!ただ乗り野郎!」

サトシ「リザードン。最初は二ビシティに行ってくれ」

リザードン「あいよ。じゃあ乗れ」バサッ

サトシ&ピカチュウ「おじゃまします」ササッ

ハナダシティ

サトシ「お疲れ様リザードン。後で頼むぞ」

リザードン「早く戦いてぇ」ゴォォォ!

サトシ「熱いって!戻れ!」シュイーン

ピカチュウ「気合い充分だね」

サトシ「あぁ!戦い前はああでなくちゃな!」

カスミのいるハナダジムに向かう途中俺は面白い事を思いついた。

サトシ「なぁ、カスミをちょっと驚かそうぜ」

ピカチュウ「どうやって?」

サトシ「俺が変装してチャレンジャーとしてカスミと戦うんだよ!そしてバトルが終わった所でネタばらしってわけだ」

ピカチュウ(ただでさえ今、普通に会っても殴られるかも知れないのにそんな事したらどうなるやら・・・生暖かく見守ろう)

ピカチュウ「い、いいんじゃないかな。カスミは驚くの好きそうだし」

サトシ「あいつ、きっとポッポが豆鉄砲を食ったような顔するぜ!」

ピカチュウ「・・・変装はどうするのさ」

サトシ「今からフレンドリィショップで変装グッズ買いに行くんだよ!ほら、行くぞ!」

ピカチュウ(はぁ・・・たまに何か閃いたと思ったらこれだよ・・・)

ハナダジム前

サトシ「よし!変装完了!」

服上下は特売で安く売ってたクラウンなりきりセットで整え、俺の特徴的な剛毛はいつもの帽子では無くベレー帽で、顔はサングラスで隠した。まぁ、思いつきの変装にしては上出来だな。

サトシ「どうだピカチュウ、なかなか良いだろ!」どやっ

ピカチュウ「(センスは瀕死状態だけど、別人にみせかけるために風貌や服装などを変えてる点については)とても良いよ!」

サトシ「ありがとな!あとな、ピカチュウ」

ピカチュウ「ん?何?」

ニビシティ

サトシ「お疲れ様リザードン。戻れ」シュイーン

リザードン「おう」

ピカチュウ「じゃあ、ニビジムに行こっか」

サトシ「ワクワクしてきたぜ!」

ニビジム

タケシ「イシツブテ!いわおとしだっ!」

イシツブテ「シャーイ!」ドガガ

少年「アリアドス、くものいとでバリアーを作れ!」

アリアドス「ドスー!」プシュー

タケシ「考えたな。くものいとはかなり頑丈・・・岩を受け止めるなどなんの造作もない事。だが!」

少年「よし!受け止めたぞっ!あれ!?イシツブテがいない!?」

アリアドス「アリ!?」

タケシ「今だ!メガトンパンチ!」

イシツブテ「シャーラィ!」

少年「あなをほる!?よ、よけるんだ!」

アリアドス「ムリッスワー」ドガッ!

審判「アリアドス戦闘不能!よってジムリーダータケシの勝利!」

少年「あ・・・ああ、アリアドスが・・・」

タケシ「さっきの咄嗟の作戦は見事だったよ。しかも、相性の悪い虫タイプで良く頑張ったな、君の成長を楽しみにしてるよ」

少年「あ、ありがとうございます!アリアドス、ゆっくり休んでまた頑張ろうな」

アリアドス「ヤッタルデー」ファッキュー

タケシ「・・・俺ももっと頑張らないとな」

サトシ「相変わらずだな!タケシ」

ピカチュウ「タケシ!」

タケシ「サトシ!ピカチュウ!お前ら今までどこに行ってたんだ!?」

サトシ「実は・・・」カクカクシカジカ

タケシ「突然テレビで見ないと思ったらそんな事をしていたのか」

サトシ「心配かけてゴメンな」

タケシ「全くだ。カスミの所にはまだか?」

サトシ「あぁ、この後行くつもりだけど・・・」

タケシ「カスミは俺以上に心配してたぞ」

サトシ「そっか・・・連絡全くして無かったしな・・・」

タケシ「行って思いっきり殴られてこい!」

サトシ「俺死んじゃうよ!」

「ハハハハハッ!」

サトシ「あっ、今日晩飯俺の家で食べないか?カスミも呼んで皆でさ、 忙しいかったら良いんだけど、ほら、お前は家族の事もあるし・・・」

タケシ「確かに忙しいが次男がしっかりしててな。ダメ夫婦に代わって子供たちの世話をしっかりしてくれてるんだ」

サトシ「ということは・・・」

タケシ「勿論オッケーだ!昔話に花を咲かそうじゃないか!」

サトシ「やったぜ!じゃあ、夜の8時に来てくれ!」

タケシ「ああ、わかった!ところでサトシ・・・」ニヤッ

サトシ「・・・わかってるって!」ニヤッ

タケシ「ポケモントレーナーが出会ったら」

サトシ「バトルだ!」

審判「これよりジムリーダータケシとチャレンジャーサトシの一対一の特別試合を始めます!」

タケシ「時間が無いだろうから一対一にしたが良いか?」

サトシ「大丈夫だぜ!」

久々に味わうこの雰囲気。互いにどんなポケモンを出すかわからない。どちらが勝つか解らない。胸の高鳴りが止まない。

タケシ「俺の手持ちの中で最強のポケモンでいくぞ!行け!ラグラージ!」ポン!

ラグラージ「キモクナーイ」

サトシ(相性がかなり悪いピカチュウで勝っちゃうと流石のタケシも落ち込むからなぁ・・・ここはカビゴンで行くか)チラッ

ピカチュウ「わかってる。でも手を抜いちゃダメだよ」

サトシ「当たり前だ!行けカビゴン!君に決めた!」ポン!

カビゴン「トレーナーのポケモンと戦うのは久々だなぁ」

審判「では戦闘始めっ!」

タケシ(カビゴンは特殊攻撃に強い・・・なら、物理攻撃で押すだけっ!)

タケシ「ラグラージ!アームハンマー!」

ラグラージ「イキマッセー!」ぶおん!

サトシ「カビゴン、受け止めろ!」

カビゴン「むっ」ガシッ

タケシ(弱点のアームハンマーを容易く受け止めた!?しかも片手で・・・)

タケシ「まずい!手を振りほどけ!」

カビゴン「・・・」ぐぐっ

ラグラージ「チョ、アクリョクパネエ・・・」

サトシ「離すか!そのまま空中に投げろ!」

カビゴン「ほい」ポイッ

サトシ「追撃のはかいこうせん!」

カビゴン「標準OK」カパッ

タケシ「くっ、態勢が・・・ハイドロポンプで相殺だ!」

ラグラージ「オロロロロロロ!!!」ブシャー

サトシ「今だっ!」

カビゴン「ぼぉぉぉぉぉ!」ゴォーッ!

互いの技がぶつかり合い土煙が舞い上がる。

ラグラージ「カクガチガウワ・・・」バタッ

カビゴン「・・・ふんっ!」ムキッ

タケシ「ラグラージ!・・・良くやった、相手が悪過ぎたな」

審判「ラ、ラグラージ戦闘不能!よってチャレンジャーサトシの勝利!」

サトシ「やったぜ!良くやったカビゴン!」

カビゴン「手がヌメヌメだ・・・」ペロッ

カビゴン「・・・あっ、美味」

ピカチュウ「ばっちいから止めなよ・・・あっ、ゴメンねラグラージ」

ラグラージ「ウサバラシジャー!」ベチャア

ピカチュウ「うわっ!ちょっと止めてよ!臭っ!」

カビゴン「僕が舐めてあげる!」ドドドッ!

ピカチュウ「キャーーー!!!」

ワーワーキャーキャー!

タケシ(まるで本気を出していない。あのラグラージでさえ赤子扱いか・・・)

タケシ「完敗だよ。以前も強かったが更に強くなったようだな」

サトシ「タケシもな!久々に燃えたぜ!」

タケシ「世辞はよしてくれ。俺なりにポケモンを鍛えてきたんだがな・・・ここまで差をつけられると流石にショックだ」

サトシ「だったら、山籠りを勧めるぜ」ニッ

タケシ「ハハッ、落ち着いたら俺もやってみよかな」

サトシ「俺がレクチャーしてやるよ!」

タケシ「ああ、ありがとな」

バン!

「たのもーっ!ジムリーダータケシ!俺と勝負だっ!」

受付「こら!君は受付がまだ済んで無いだろ!」

「あっ、ごめんなさい」カキカキ

タケシ「おっ、威勢が良いな、。まるでサトシみたいだ」ハハッ

サトシ「ちゃんとジムリーダーには敬語を使ってらい」

タケシ「すまんすまん!じゃあ、行って来るよ。確か今夜の8時だったな?」

サトシ「うん。楽しみにしてるからな!」

タケシ「あぁ、俺もだ」

タケシの後ろ姿は昔から大きかった。年は5つしか離れていないのに昔から大人と接しているかのように感じ、俺は子供っぽい自分にコンプレックスを抱いていた。
タケシは俺が思っていた格好良さとは違う格好良さを持っていて、そんなタケシに近付きたいと思っていた。
そして今、数年ぶりに会って話をして、バトルをして思った。俺は何となくこのままで良いやと。このままでこそタケシの親友でいられると。
チャレンジャーに胸を張り歩み寄るタケシは親友の顔からジムリーダーの顔に変わる。

ピカチュウ「タケシは相変わらずかっこ良いね」

サトシ「あいつは最高さ」

サトシ「次はカスミだな」

ピカチュウ「カスミも元気だと良いね」

サトシ「俺が元気なんだからあいつも元気だろ!」

ピカチュウ「なんなのさそれ」

サトシ「俺にもわからない!」どやっ

ピカチュウ「ふふっ、サトシらしいや」

サトシ「さて、リザードン!」ポン!

リザードン「へいへい、次はハナダシティだろ」

サトシ「話が早くて助かるよ。カスミに会いに行く」

リザードン「次バトルする展開になったら俺が出るからな」

サトシ「カスミは水タイプ使いだせ?」

リザードン「ふん、それを俺に言うのかよ」

サトシ「ははっ、そうだな。苦手なタイプ程燃える、お前の口癖だったな」

リザードン「おうよ」

ピカチュウ「僕もちょっと戦いたいかも・・・」

リザードン「お前はお呼びじゃねえんだよ」ぐいぐい

ピカチュウ「リザードンのいじわるっ」アッカンベー

リザードン「子供かお前は」

サトシ「おいおい、二人とも喧嘩すんなよ」

リザードン「じゃれてるだけさ」

ピカチュウ「うぅ~」むすっ

リザードン「特等席の頭に乗っけてやるから機嫌直せ。俺も悪かった」

ピカチュウ「ホント!?やったぁ!」

サトシ&リザードン「子供だな」

ピカチュウ「うっ・・・」

ハナダシティ

サトシ「お疲れ様リザードン。後で頼むぞ」

リザードン「カスミの黒焦げのポケモンが目に浮かぶぜ」

サトシ「物騒な事言うなって。また後でな」シュイーン

リザードン「おう」

ピカチュウ「気合い充分だね」

サトシ「あぁ!戦い前はああでなくちゃな」

カスミのいるハナダジムに向かう途中俺は面白い事を思いついた。

サトシ「なぁ、カスミをちょっと驚かそうぜ」

ピカチュウ「どうやって?」

サトシ「俺が変装してチャレンジャーとしてカスミと戦うんだよ!そしてバトルが終わった所でネタばらしってわけだ」

ピカチュウ(ただでさえ今、普通に会っても殴られるかも知れないのにそんな事したらどうなるやら・・・火に油どころじゃないと思うけど)

ピカチュウ「い、いいんじゃないかな。カスミは驚くの好きそうだし」

サトシ「あいつ、きっとポッポが豆鉄砲を喰らったような顔するぜ!」

ピカチュウ「・・・変装はどうするのさ」

サトシ「今からフレンドリィショップで変装グッズ買いに行くんだよ!ほら、行くぞ!」

ピカチュウ(はぁ・・・たまに何か閃いたと思ったらこれだよ・・・僕しーらない!)

ハナダジム前

サトシ「よし!変装完了!」

服上下は安く売ってたクラウンなりきりセットで整え、俺の特徴的な剛毛はいつもの帽子では無くベレー帽で、顔はサングラスで隠した。まぁ、思いつきの変装にしては上出来だな。

サトシ「どうだピカチュウ、なかなか良いだろ!」どやっ

ピカチュウ「(センスは瀕死状態だけど、別人にみせかけるために風貌や服装などを変えてる点については)とても良いよ!」

サトシ「ありがとな!後な、ピカチュウ」

ピカチュウ「ん?何?」

サトシ「どれだけ上手く変装してもお前がいたらバレるだろ?ネタばらしが終わるまでの間ちょっとで良いんだ、外で待っててくれないか?」

ピカチュウ(サトシが殴られるところ見たく無いし・・・)

ピカチュウ「良いよ」

サトシ「何かやけに素直だな」

ピカチュウ「僕はドッキリの成功を祈ってるからね」

ピカチュウ(もうどうにでもなれ)

サトシ「ピカチュウ。お主も悪よのぉ」グヘヘ

ピカチュウ「サトシ様も」グヘヘ

ハナダジム

サトシ(いざ、中に入ると緊張するな・・・極力喋らない様にしよう)

受付「え、えっと・・・チャレンジャー様ですか?(怪しい・・・)」

受付嬢が明らかに異質な物を見る目で俺を見る。変装しているとはいえ失礼だな。まぁ、仕方ないか。

サトシ「・・・」こくっ

受付「お名前をここにお書きください。只今予約が入っていませんので、今からでもジムリーダーと戦えますがどうされますか?」

受付嬢はすぐさま態勢を整え職務を全うした。さすがプロだ。

サトシ「今から戦います(裏声)」

受付「それではお書きになられましたら奥に進んでチャレンジャーエリアでお待ちください。ジムリーダーをお呼び致します」

登録する名前を数秒考えた結果、見た目を考慮して「ビックリ☆クラウンさん」にした。ラジオの投稿者みたいな名前になったけど体を表せているから問題無いな。

受付(何よこれ、こっちがビックリよ・・・)

チャレンジャーエリアでしばらく待っていると緊張が解れてきたのか回りが良く見えるようになってきた。
タケシのジムと同じで内装はあまり変わっていないようだ。大きなプールに浮島が5つ浮かんでいて水中で戦えないポケモンはその浮島を足場として戦う。
水中で行動が出来る水タイプのポケモンは水中から奇襲をしかけたりピンチになったらそそくさと水中に逃げて態勢を整える事が出来る。
明らかにジムリーダー側が有利な戦場であり、実に自己中心的なカスミのジムらしい。
まぁ、水がないと水タイプのポケモンは動きが鈍るので仕方のない事なのだが。

カスミ「私がジムリーダーのカスミ・・・って、アンタ!その格好ふざけてんの!?」

人を待たせておいて開口一番に「ふざけてんの!?」とはこれいかに。しかし、相変わらずおてんば人魚をやってて安心した。

カスミ「何黙ってんのよ!」

サトシ「御託はいい、早くバトル(裏声)」

カスミ「なっ、わかったわよ!審判!」

審判「プッ、これより、プププッ、チャレンジャービックリ☆クラウンさん対ジムリーダーカスミとの2本先取のバトルをププ、お・・・プフゥ、行います!」

カスミ「しっかりしなさいよアンタ!しかし、見た目も去る事ながら、名前までふざけてるなんて・・・こんなやつに絶対負けないんだから!」

カスミ「いきなさい!タッツー!」

タッツー「ヤッテヤルデス!」

サトシ「・・・」ポン!

リザードン「やっときたぜ!・・・って、お前何だよそのダサい格好は」

サトシ「カスミを驚かす為に変装してるんだよ。あと、口調がちょっと変わるからな(小声)」

リザードン「へぇへぇ。メタモンもビックリな変装の下手さだな。まぁ、俺は戦えれば何でも良いけどな」

カスミ「炎タイプってあんたなめてんの!?こっちは水タイプなのよ!」

サトシ「・・・」

リザードン「相変わらずうるせぇな。あのおてんば娘さんは」

審判「それでは戦闘開始!」

カスミ「やっちゃいなさい!ハイドロポンプ!」

タッツー「マケラレナインデス!」ブシャー

サトシ「・・・ひのこ(裏声)」

リザードン「ふん」ぼっ!

タッツー「」ピクピク・・・

カスミ「えっ?タッツー!?」

審判「タ、タッツー戦闘不能!」

リザードン「おいおい、そんな進化前のガキに俺の相手が務まるかよ」

カスミ「効果今ひとつの技でタッツーを倒すなんて・・・しかもかえんほうしゃの一撃で・・・」

リザードン「ただのひのこだ」

サトシ「お前の実力はこんなものか?(裏声)」

カスミ「言ってくれるわね!本気で戦うからもう一度最初から私と勝負なさい!」

審判「ジムリーダー!途中でそのような事は・・・」

サトシ「そうこなくちゃな(裏声)」

カスミ「ほら!こいつも良いって言ってるじゃない。早く仕切り直しなさい!」

カスミ(ジム用の手持ちじゃ勝てないわ・・・)

サトシ(こいつって・・・)

審判「分かりました。それでは再度チャレンジャービックリ☆クラウンさん対ジムリーダーカスミの二本先取のバトルを行います!」

サトシ(この人もやっぱりプロだなぁ)

カスミ「やっちゃいなさい!キングドラ!」ポン!

キングドラ「サッキノタッツーハカンケイナイデ!」

リザードン「へっ、少しは出来そうな奴が来たか」

サトシ「油断するな(裏声)」

リザードン「おう」

審判「それでは戦闘開始!」

カスミ(ふざけた見た目してるけど実力は本物。正面から撃ち合うのは危険・・・だったら!)

カスミ「キングドラ!こうそくいどうからの連続みずてっぽう!」

キングドラ「オラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」ポンポンポンポン!

サトシ(威力を捨てて手数できたか)

サトシ「みきり(裏声)」

リザードン「遅せぇ」スッ スッ スッ

カスミ「あのでかい体であんなに俊敏に動くなんて・・・」

サトシ「接近して距離を詰めろ(裏声)」

リザードン「任せろ」バサッ!

カスミ「水中に逃げて!」チラッ

キングドラ「ヘイ!」ニヤッ

サトシ「リザードン(裏声)」

リザードン「わかってる。たつまき!」ゴォォォォォ!

サトシ(たつまきで浮かせた所を追撃で決める!)

キングドラ「」

サトシ(きた!)

サトシ「追撃のかえんほうしゃ(裏声)」

リザードン「燃え尽きろ!」ボォッ!

キングドラ「」ポンッ!

サトシ「みがわり・・・?」

リザードン「ちっ」

カスミ(ハイドロポンプは簡単に避けられる・・・)

カスミ「広範囲にりゅうせいぐんよ!」

キングドラ「モロタデリザードン!」ドドドッ!

リザードン「」ぐしゃっ

カスミ「よし!直撃したわ!」

キングドラ「フゥ・・・コノワザケッコウツカレルンヤデェ」

サトシ(まずいな、あいつが・・・)

審判「リザードン戦闘不n」

サトシ「まだだ(裏声)」

カスミ「何言ってんのよ!アンタのリザードンは・・・え!?」

リザードン「痛ってぇな・・・後ろから小石ぶつけんじゃねぇよ」

カスミ「嘘でしょ!?りゅうせいぐんが不意打ちで直撃してピンピンしてるなんて・・・」

キングドラ「ヤベエヨヤベエヨ」ガクブル

サトシ(こうなったらもう止められないな・・・)

カスミ「 キングドラ!しっかりしなさい!まだこっちが勝ってんのよ!」

サトシ(あっ、それは火に油)

キングドラ「セ、セヤナ!」

カスミ「ふぶきでリザードンの動きを封じなさい!」

キングドラ「カガヤクイキ!」ヒュー!

リザードン「この糞がぁぁぁぁぁぁ!!!」ゴォォォォ!

カスミ「オーバーヒート!?逃げて!」

キングドラ「ヨケレルカーイ!」ボオッ!

キングドラ「」

審判「キングドラ戦闘不能!ジムリーダー!次のポケモンを!」

リザードン「さっさと次を出しやがれ!」ボォッ!

サトシ(リザードンに攻撃を当てるなんてな。やるなカスミ! )

カスミ(正面から行っても駄目、隙を突いて大技を当てても駄目・・・何よアイツ反則じゃない!でも、絶対に負けれないんだから!)

カスミ「アンタが強いのは認めるわ!でも、私もジムリーダーの端くれ、簡単には負けないわよ!いきなさいトゲキッス!」

トゲキッス「サア、マヒルミジゴクノジカンダ・・・」

審判「第二試合戦闘始め!」

サトシ(トゲキッスか・・・こいつはかなり手強いぞ)

サトシ「リザードン、こいつは強い。少し頭を冷やs」

リザードン「[ピーーー]や!エアスラッシュ!」バシュ!

カスミ(速すぎる!)

カスミ「避けて!」

トゲキッス「ムリムリムリムリ!」ザシュ!

トゲキッス「」ドサッ

リザードン「おいおい今のは軽く翼を動かしただけだぜ?ほら立てよ」ゲシゲシ

トゲキッス「アクマダ・・・」ガクッ

審判「第二試合戦闘始め!」

サトシ(トゲキッスか・・・こいつはかなり手強いぞ)

サトシ「リザードン、こいつは強い。少し頭を冷やs」

リザードン「[ピーーー]や!エアスラッシュ!」バシュ!

カスミ(速すぎる!)

カスミ「避けて!」

トゲキッス「ムリムリムリムリ!」ザシュ!

トゲキッス「」ドサッ

リザードン「おいおい今のは軽く翼を動かしただけだぜ?ほら立てよ」ゲシゲシ

トゲキッス「アクマダ・・・」ガクッ

ピーの部分は「[ピーーー]や」です。上手いこと書き込めません・・・

審判「トゲキッス戦闘不能!よってこの試合ビックリ☆クラウン選手の勝利!」

リザードン「けっ!経験値の足しにもならねぇ」ほじほじ

サトシ「その割には良いの一発もらってたじゃないか」

リザードン「忘れた」

サトシ「まぁ勝てたし良いか」

カスミ「嘘よ・・・あたしのポケモンがよりにもよって炎タイプに負けるなんて・・・」

[ピーーー]

駄目でした

おお。書き込めました。ありがとうございます。

サトシ「俺の勝ちだな(裏声)」

カスミ「・・・完敗だわ。アンタ一体何者よ」

サトシ「「アンタ一体何者よ」と言われれば答えあげるが世の情け!」

カスミ「えっ」

サトシ「俺だよ!サトシだよ!」ぬぎぬぎ

サトシ「驚いただr 」バシッ!!!

カスミは目に涙を浮かべながら俺の頬にビンタをした。避けようと思えば避けれた。でもそれはしてはいけないと知っていた。

カスミ「馬鹿っ!!アンタ今までどこに行ってたのよ!!連絡もつかないしどれだけ心配したと思ってんのよ!!」

サトシ「・・・ごめん」

カスミ「うぇっ、ぐすっ、死んだんじゃないかって本当に、うっ、心配してたんだからぁ・・・」

サトシ「カスミ・・・」

カスミにかける言葉が見つからない。次の瞬間、俺はカスミを抱きしめていた。

自分でも何故こうしたかわからない。ただ母さんがしてくれた事をカスミにしてやりたくなった。

カスミ「え・・・サトシ?」

サトシ「今から理由を話すよ」

カスミ「・・・聞かせて」

カスミは俺の話を終始うつむきながら無言で聞いていた。途中、荒かった呼吸が静かになっていくのを体で感じた。そして話が終わるとカスミは穏やかな顔を俺に見せた。

カスミ「ふふっ、修行なんて本当にポケモンバカのアンタらしいわね」

サトシ「・・・うん」

カスミ「もう落ち着いたからいいわ。・・・ありがとサトシ」

サトシ「あぁ」

カスミは俺の腕を優しくほどいた。

カスミ「さっきアンタにビンタしたしあれで手打ちにしてあげる!もうこの話は無し!良いわねっ!?」

先程の涙はどこに行ったのか急に元気になり俺をまくしたてる。少し前の自分を誤魔化す様に。

サトシ「な、何だよ急に」

カスミ「許してあげるって言ってんのよ!アンタ、もう一発くらいたいわけ?」

黄金の右手をチラつかせ俺に凄む。

サトシ「いえ、結構です」

カスミ「昔からアンタはそう。自分勝手で夢中になると回りが見えなくなるんだから」

サトシ「・・・」じーっ

カスミ「今、お前もだろって思ったでしょ」

サトシ「ちょこっとな。・・・カスミ、本当に心配かけてゴメンな。そこまで心配してくれてて俺、凄く嬉しいよ」

カスミ「その話は無しってさっき言ったでしょ。連絡しなかったのもアンタなりの理由があったんだしもう良いわよ」

サトシ「・・・わかった!謝ったらスッキリしたしもう言わないよ」

カスミ「うんうん。それで良いのよ。しっかしアンタ、また強くなったわね。さすが元「大会荒らしのサトシ」だわ」

サトシ「もう5年も前の話だけどな」

カスミ「アンタがいなくなってから結構大変だったんだから」

サトシ「何かあったのか?」

カスミ「大ありよ。全国のほとんどの大会に出場して、しかも出場した大会を全部優勝してたアンタが急に現れなくなったんだからテレビに取り上げられて皆大騒ぎよ」

サトシ「全然知らなかった・・・そんな事になってたなんて」

カスミ「ワイドショーではアンタの優勝を妬む者に暗殺されたって説が出てきたくらいよ」

サトシ「おいおい」

カスミ「挙げ句の果てには、アンタのニセモノが大会に出て逮捕されたり」

サトシ「そいつは誰だったんだ?」

カスミ「ただのアンタのファンよ。大会に出るだけなら冗談で済んだんだけど、アンタが有名なのを良いことにファン相手にお金を巻き上げてたのよ」

サトシ「何て奴だ」

カスミ「でしょ?って、アンタ、ピカチュウは?」

サトシ「あっ!外で待たせたままだ!」

ピカチュウ「・・・遅いよ。待ちくたびれて入ってきたよ。まったく、協力者の僕を忘れてカスミとおしゃべりだなんt」ぶつぶつ

カスミ「久しぶりねピカチュウ」なでなで

ピカチュウ「んっ///」

サトシ(ナイスカスミ!)

カスミ「・・・ところでアンタ、まだ旅は続ける気?」

空気が変わった。カスミはじっと俺を見つめ、返答を待った。

サトシ「・・・うん」

カスミ「・・・グレンジムのカツラさんが一週間前にご病気でジムリーダーを引退されたの」

サトシ「?」

サトシ(カツラさんが・・・でも何で今その事を?話が見えてこないぞ・・・)

「ちょっと待てよ」とカスミの口を止めることも出来たが、まだ先がありそうなので黙って聞くことにした。

カスミ「本来ならカントーポケモンジム協会の中からジムリーダーが選ばれるんだけど、カツラさんの意向で一ヶ月後に一般の希望者から試験をして選ぶ事になったの」

サトシ「・・・それで?」

カスミ「あたしの言いたい事がわからないの?」

サトシ「あぁ、全くな」

カスミ「じゃあ、はっきり言うわ。アンタ、ジムリーダーになりなさい」

サトシ&ピカチュウ「へ?」

カスミの言ってる事が一瞬理解出来なかった。

カスミ「聞こえなかった?だったらもう一度言ってあg」

サトシ「待て待て待て!俺さっきお前に旅を続けるかって聞かれて「うん」って答えたよな!?それおかしいだろ!」

カスミ「アンタがそう答えたのはちゃんと聞いたわよ。だからこそこの事を話したの」

サトシ「・・・ちゃんと俺に分かる様に説明しろよ」

カスミ「あたし、度々ハナコさんの家に招かれて一緒に食事する事があったの」

サトシ(カスミと食事・・・母さん、寂しかったんだな・・・)

胸がぎゅっと痛みに締め付けられる。

カスミ「アンタがテレビから消えて一年になる日、ハナコさんと食事した時に私に言ったの「サトシもお父さんみたいに帰ってこないのかしら」って、泣いてたわハナコさん。
今までは何とかテレビでサトシを見れるから大丈夫みたいだったけど、それが叶わなくなった時、心に溜まっていた物が爆発したんだと思う」

サトシ(やめろ・・・やめてくれ)

カスミ「前からワイドショーのでたらめな報道とかもあったけどまさかここまで溜め込んでたなんて思わなかった」

サトシ(やめろやめろやめろ)

カスミ「それから糸がきれた様にその場に崩れ落ちてずっと泣いてた」

サトシ(ヤメロヤメロヤメロヤメロ)

カスミ「だからあんたにh」

サトシ「やめろっ!!!」

ピカチュウ(サトシ・・・)

カスミ「・・・ごめんなさい。アンタがジムリーダーになればハナコさんが安心すると思ってこの話をしたの。旅がアンタにとってどれだけ大切なのは分かってるつもり。でもハナコさんが余りにも可哀想だったから・・・」

サトシ「はぁ・・・はぁ・・・」

カスミ「これを受け取って。ジムリーダー募集の概要が書いてあるから。もし目指す気になったら私に声をかけて欲しいの。絶対、絶対にアンタの力になるから・・・」

カスミは教科書くらいの厚さの冊子をただ立ち尽くしているだけの俺に渡した。いや、押し付けたと言った方が正解なのかもしれない。渡す時カスミの手が震えていたがそれが何を意味するのかは今の動転している俺には理解できなかった。

サトシ「・・・わかった。もう俺帰るよ」

カスミ「・・・うん」

ピカチュウ「・・・ご飯、誘えなかったね」

サトシ「あぁ。タケシや母さんに何て言えばいいんだろ・・・」

俺はハナダシティの公園にある噴水をただただ力無く眺めていた。カスミに渡された冊子を一応持ってはいたが、開く気が起きない。気がだるい。疲れた。水面に映る自分が凄く汚らしく見えた。

ピカチュウ(サトシの相棒としてこんな時なんて言えば良いんだろう・・・ )

「安いよ美味いよー!この暑い日にはピッタリのソーナンスソーダアイスだよー!ちょっと発音しにくいよー!お買い得の50円だよー!安いからって食い過ぎて腹壊すなよ―!」

「こっちはここでしか飲めない伝説級の味、ホウオウの七色ジュースだよ!現在特許申請中だよ!」

ピカチュウ(よし、これでいこう)

ピカチュウ「ほらサトシ、珍しい屋台だよ!バトルした後だし冷たいものでも口に入れようよ!」

サトシ「・・・そうだな。時間はまだまだあるしな」

「ここでしか飲めない伝説級の味、ホウオウの七色z っておおおお前は!?」

「ちょっとアンタ!真面目に商売しなs あ!!!」

「おみゃーら何でここにいるのニャ!?」

「ソーナンス!?」

サトシ「ロケット団!?今度はどんな悪さをしてるんだ!」

ピカチュウ「待ってサトシ!様子がおかしいよ」

コジロウ「ジャリボーイ。食べ物売ってどうやって悪さが出来るんだよ」

オジサーンジュースチョーダイ!

コジロウ「おっと、お嬢ちゃんは可愛いからいつもより多めに入れてあげるよ」

アリガトー!

ムサシ「そうよそうよ」

オバチャンアイスチョーダイ!

ムサシ「はいよ。折れやすいから上手に食べるんだよ」

ウン!!

ニャース「それにもうニャー達はロケット団の一員じゃないのニャ」

言われてみれば二人はロケット団のユニホームでは無く屋台の名前がプリントされたTシャツを着ている。
髪を後ろに束ねて髭を生やしたコジロウ、ロングカットからショートカットになった薄化粧のムサシ。こうして今の二人を見ると年相応の渋いおじさんとどこかの金持ちの貴婦人に見える。
ニャースは相変わらずだが。 彼らがロケット団だった面影は全く無い。

サトシ「お前ら本当に辞めたのか?」

ムサシ「辞めたというかねぇ・・・」

コジロウ「辞めさせられたのさ。詰まる所クビだな」

サトシ「そ、そんな!あんなにサカキに忠誠を誓ってたのに!頑張ってたのに!」

ニャース「ニャー達を庇ってくれてるのニャ?」

サトシ「いや、そうじゃ無いけど・・・何か理不尽じゃないか」

コジロウ「理不尽・・・か。それは違うな」

サトシ「何が違うんだよ」

コジロウ「お前が急に現れなくなった5年前、お前のピカチュウこそゲットは出来なくなったもののこれからは任務をスムーズに成功させれると思った」

ムサシ「だけど違ったのよね。どの任務も失敗だらけでサカキ様に見限られてクビってわけよ」

コジロウ「笑っちまうよな。結局お前が邪魔しようがしまいが俺たちが無能で使えなかっただけの話だよ」

コジロウは自虐的な笑み浮かべた。

サトシ「そんな悲しい事言うなよ・・・」

ニャース「人間もポケモンも得手不得手があるのニャ。不得手の分野で活躍できるはずがなかったのニャ」

ムサシ「それに今の生活は満更でもないしね」

コジロウ「そうそう。最近商売が軌道に乗ってきたし、ロケット団の時には到底出来なかった子供やポケモンとの触れ合いとかも出来るしなかなかに充実してるんだぜ?」

ニャース「そうニャ。安く仕入れて安く売る。お客の信用を得た頃に更に売り場を拡大するのニャ!」

コジロウ「良いねぇそれ!その時はバイトでも雇うか?」わくわく

ムサシ「ニャースの力を使ってポケモンに売らせましょ。そしたら人件費も浮くし話題にもなるわ!」わくわく





ニャース「まぁ、ニャンというかアレだニャ。自分が信じた道を進んでもそれが正解や成功するとは限らないのニャ。信じた道の脇道が以外と良かったりするのニャ」

サトシ(・・・!)

ムサシ「アンタ、結構良い事言うじゃない」

ニャース「ふふん。経験者は語るってやつニャ」

ソーナンス「ソーソー!」

俺の信じる道。すなわち最強のポケモントレーナーのポケモンマスターを目指すという夢は本当に正しいのか?
母さんを不幸にしてまで叶える価値があるのか?夢の犠牲が母さんで良いのか?
いや、良いはずが無い。そんなことは最初から分かってたはずなのに考えるのが怖くていつしか俺はこのことについて考えるのを止めていた。
本当に自分の都合に良い頭だ。最低過ぎて反吐が出る。

ムサシ「ほら、ジャリボーイ」 こつん

俺の頬に冷たいものが当たった。

サトシ「うおっ!?な、なんだよ!」

ムサシ「飲みな。ホウオウの七色ジュースよ。昔の迷惑料代わりにご馳走するわ」

サトシ「・・・ありがとな」

ムサシ「あとアンタも」

ピカチュウ「やったぁ!ありがとうムサシ!」

サトシ「ありがとうだってさ」

ムサシ「例はいらないよ。まだ欲しかったら言いな」

サトシ「うん」

コジロウ「おい、何か太っ腹な事言ってるけどそれ俺の屋台のジュースだからな」

ムサシ「良いじゃない。減るもんじゃ無いんだし」

コジロウ「いや、確実に減るだろ!今も目に見えてに減ってるし!別にお前みたいにケチじゃないから良いけどな!」

ムサシ「なんですって!?」

キャーキャーワーワー!

ニャース「はぁ・・・また始まったニャ。おミャーらは気にせず飲むのニャ」

ムサシからもらったジュースはホウオウの名前の通り味ごとに七段の色層に別れていて、それが太陽の日に当たりキラキラと綺麗に輝いていた。
俺の夢も少し前までは七色に輝いていた。だけど山を降りてからいろんな事があって輝きを失い、色あせてしまった。
下山なんてするんじゃなかったのだろうか?一瞬その考えが脳裏を過ぎった。
しかし、下山をしなかったら母さんや他の皆の気持ちには気付けなかった。一体どっちの場合の方が俺にとって幸せだったのだろうか。

ニャース「・・・おみゃあ、ちょっとおかしいニャ」

サトシ「え?俺?何言ってんだよ、俺は普通だぜ?」

ムサシ「あたしも思ったわ。会った時から顔色悪いし、なんて言うか・・・らしくないわよ」

コジロウ「顔面ソーナンスって感じだぜ?」

ソーナンス「ソーナン!?」

サトシ「・・・お前らに・・・だん・・・ても・・・いいかな・・・」

コジロウ「あんだって?ゴニョニョみたいな声で言われても聞こえないぞー」

サトシ「・・・お前らに相談したい事があるんだ」

誰かに俺の悩みを聞いて欲しかった。吐き出す事で楽になりたかった。情けない話、誰かにもたれないと立てないほど心が弱っていた。

ムサシ「あたし達に相談?アンタも焼きが回ったのかねぇ」

コジロウ「・・・ムサシ、こいつが俺たちに相談なんて一生に一度あるか無いかだぜ?何も言わず聞いてやろうや。ちょうど今ぐらいから客足が減る頃だしな」

ニャース「んニャ。聞いてあげるが世の情けってもんニャ」

ムサシ「ったく、しょうがないわね。コジロウ、マタドガス出しな」ポン!

アーボック「ゲッ、マサラノヤロウ!?シャーッ!」

ムサシ「臨戦体制とるんじゃないよ。今は敵でも何でも無いんだから」

アーボック「スイヤセンアネゴサン」ペコッ

コジロウ「よし、出て来いマタドガス」ポン!

マタドガス「ドンドンドドンガドドンガドン!ファッ!?」 ぶももも

コジロウ「こらこら、煙出すんじゃないぞ」

マタドガス「オドロイテチョットデタカモ」

ニャース「おみゃーらはここで屋台の番をしてもうニャ」

アーボック「ワカリヤシタ!ニャースノアニキ!」ビシッ!

マタドガス「イノチニカエテモマモル!」

ニャース「気負い過ぎニャ。でも期待してるのニャ」

コジロウ「こんな暑い所でってのも何だし、喫茶店でも行くか」

ムサシ「そうね。頼んだわよアンタ達」

アーボック&マタドガス「ヘイ!」

コジロウ「ごめんな、後で美味いもん食わしてやるからな。あと、お客さんには愛想良くするんだぞ」

アーボック「コジロウアニキマジテンシッス!」

マタドガス「ンダンダ」

ムサシ「じゃあ行くよ!」

ソーナンス「・・・」トコトコトコトコ

ムサシ「アンタもよ」

ソーナンス「ソーナンスカ!?」

ピカチュウ(可哀想だなぁ・・・)

喫茶店

コジロウ「さて、悩みとやらを聞かせてもらおうか。あ、ウエイトレスさん、カルボナーラ一つお願いします」

ムサシ「私はキャラメルカプチーノね。アンタは?」

サトシ「俺はいいよ」

ムサシ「わかったわ。じゃあ、それで以上ね。あと、ポケモン達の分の水も頂戴」

ウエイトレス「あ、あの、大変申し上げにくいのですが・・・店内でのポケモンの連れ歩きは禁止されているのでモンスターボールに戻して下さい」

ピカチュウ&サトシ「えっ」

ニャース「前までは良かったのにどうしたんだニャ?」

ウエイトレス「前にお客様のブースターがくしゃみをしてボヤ騒ぎになったんです。それで、店長が炎タイプだけだと不公平なので全部のポケモンの連れ歩きを禁止にしたんです・・・ってニャースが喋ってる!?」

ニャース「新人か・・・別に驚く事じゃ無いのニャ。このグローバルな時代にポケモンが喋っても不思議じゃ無いニャ」

ウエイトレス「は、はぁ・・・」

ニャース「ボールに入るくらいなら外でピカチュウと語らってくるのニャ」

ピカチュウ「うん。僕もそっちが良いよ。ニャースと久しぶりに話したいしね」

サトシ「ごめんなピカチュウ」なでなで

ピカチュウ「んっ。今までこうならなかったのが不思議なくらいだよ。向こうもお店を守らなきゃならないしね」

コジロウ「お前ら熱中症になるんじゃないぞー」

ニャース「わかってるニャ」

ウエイトレス「ニャースちゃん、ピカチュウちゃん。はい、お水!」すっ

ニャース「わざわざありがとニャ」ごくっ

ピカチュウ「ありがたいね。ここセルフサービスなのに」ごくっ

サトシ「だってさ」

ムサシ「・・・本当だ。張り紙してあるわ」

コジロウ「あちゃー 何回も来てるのに気付かなかったぜ・・・恥ずかしね、こりゃ」

ウエイトレス「だ、大丈夫ですよ!あそこ見にくいですし、後で見やすい場所に張り替えておきます!」

ムサシ「アンタ良い嫁になれるわ」

コジロウ「うんうん。気配り出来る女の子はいつの時代でも可愛がられるよ」

ウエイトレス「そんなぁ///」くねくね

サトシ「なんだこれ」

コジロウ「まず、俺たちが見ない間どこに行ってたか教えてくれないか」

ムサシ「あたしも気になってしょうがないのよね」

サトシ「あぁ、話すよ」カクカクシカジカ

ムサシ「・・・呆れたわ、アンタ仙人にでもなるつもりだったの?」

サトシ「ポケモンマスターになるためだって言っただろ」

コジロウ「もう十分ポケモンマスターのそれに近いと思うがねぇ。元ポケモンリーグ賞金獲得ランキング1位のクセに」

サトシ「俺なんてまだまださ」

ムサシ「まぁ、頑張んなさいな。私たちからの質問はこれで終わりよ。次はアンタの話を聞いてあげるわ」

サトシ「・・・うん。俺、実はさ今、旅を続けるかジムリーダーを目指すかで迷ってるんだ」

コジロウ「なにぃ!?ジャリボーイがジムリーダー!?」バン!

ムサシ「あー、確か前にグレンジムのカツラが病気かなんかで引退したんだっけ?」

サトシ「あぁ」

コジロウ「ジムリーダーのカツラさんの後継者に選ばれるなんてラッキーじゃないか!」

ムサシ「馬鹿ねぇ、ジムリーダーはカツラの意向で一般人から試験で選ばれんのよ」

コジロウ「そうだったのか。しかしお前、自分の意思でジムリーダーを目指そうと思ったのか?」

サトシ「・・・いや、今日久しぶりに会った時カスミに言われたんだ。「アンタが旅に行ってる間ママさんは凄く心配してる。ジムリーダーになって安心させてあげて」って。俺は旅を続けたいし、母さんに悲しい思いもさせたくない。一体どうすればいいんだよ・・・」

ムサシ「あのジャリガールがそんな事をねぇ。他人のあたしからしたら旅の中でたまに連絡でも入れてやれば良いと思うけど、当人の母親からしたらそれでも心配なのよね」

コジロウ「ここ近年、ポケモントレーナーの旅人のポケモンや所持品を狙った傷害事件とかも多発してるからなぁ。道中での事故死とかもよく聞くし」

ムサシ「アンタが旅を続ける以上母親はそういった心配を胸に抱き続けるだろうね」

サトシ「うん・・・」

ムサシ「でも、これはアンタの人生であって母親の人生じゃ無い訳だし。母親が旅を辞めるように言わないのはそこらへんが良く分かってて、アンタの人生の障害になりたく無いのよ。きっと」

コジロウ「旅をしてきたおかげでジャリガールやパートナー達と出会えたんだろ?それは誇っても良いと思うぞ」

サトシ「ありがとう二人とも」

コジロウ「ジャリボーイ、これは俺の持論なんだがな、確かに旅っていうのは辞書に言わせれば住んでる所を離れてどこか遠くに行くって事なんだろうけど、今お前が生きて歩んでいる人生が旅だとは考えられないか?」

サトシ「俺の人生が・・・?」

コジロウ「あぁ。死ぬまで旅人なんだよ俺もお前もな」

今俺がこうしている間にも旅路は続いているのだろうか。だとしたら悩み事で足踏みをするのは凄く勿体無いような気がしてきた。

ムサシ「アンタ、そのセリフ言ってて恥ずかしくない?」

コジロウ「・・・ちょっとな」

サトシ「そんなことないよ!!!」ガタッ

コジロウ「うおっ!?」ビクッ

サトシ「・・・大声出してごめん。俺、コジロウの言葉でなんか元気が出てきたよ」

コジロウ「そりゃ良かったな。俺も嬉しいよ」

ムサシ「まぁ、そんな大声出せるならもう大丈夫なんじゃない?いつものアンタに戻ったみたいだし」

サトシ「あぁ。まだ答えは出せないけど、答えを選ぶ勇気が出たよ。本当にありがとう」

コジロウ「例には及ばないさ。若い者の相談を聞くのはオッサンの役目って昔から相場が決まってるからな」

ムサシ「おばさんもね」

サトシ「お前らに相談して本当に良かったよ」

ムサシ「元気が出たらお腹空いてきたんじゃない?」

サトシ「ああ」

コジロウ「だったらここのカルボナーラが良いぜ。なかなかイケるよ」むしゃむしゃ

サトシ「じゃあ俺もそれにするか!」

それから俺たちはしばらくの間昔話に花を咲かせた。

サトシ「相談してもらったしここは俺がお金出すよ」

コジロウ「おいおい、ジャリボーイ俺たちを見くびんじゃないぜ」

ムサシ「私たちに出すお金があったらジャリガールにでも使ってやんな」

サトシ「・・・悪いな」

コジロウ「じゃあ、会計行って来るわ」 がたっ

バイト「お会計ですか?」

コジロウ「ええ。レジにあったイーブイズクッキー5つ分も会計に入れといて下さい」

バイト「かしこまりました」

女子高生A「キャー!このピカチュウ、マジ可愛い!」ぐにぐに

ピカチュウ「う~痛い~」

女子高生B「こっちのニャースは喋るし、メッチャお利口さんかも!」なでなで

ニャース「ニャハハハ!もっと褒めるニャ!」

サトシ「あ、あの・・・」

女子高生A「ん?何?」

サトシ「それ、俺のピカチュウなんだけど」

女子高生A「マジ!?ゲットしようと思ってたのに・・・ありえなーい!」

女子高生B「じゃあ、このニャースは?」

ムサシ「あたし達の仲間よ!ガキはさっさと帰んな!」

女子高生A「はーい。その前に写メ撮らしてね」

女子高生B「ピカチュウ、ニャース、はいチーズ!」パシャ

女子高生A「キャー!これ待ち受けにしよっと!」

女子高生B「トレーナーさんありがとねー」ダダダッ

ピカチュウ「はぁ~やっと終わったよ」ぐた~

ニャース「ピースしてたくせによく言うニャ」

ピカチュウ「早く終わって欲しかったの!」

サトシ「ハハハッ、災難だったなピカチュウ」

ピカチュウ「もう、笑い事じゃ無いんだから・・・」

コジロウ「あ、そうだ。お前らにこれやるよ」

ニャース「ニャ?クッキーかニャ。すまないのニャ」

ピカチュウ「ありがとう!これイーブイ達の顔を模してるんだね」

サトシ「だってさ」

コジロウ「味も違うらしいぞ。このグレイシアなんてよく作ったもんだよ」

ムサシ「残りの分は?」

コジロウ「店番してるあいつらの分だよ」

ムサシ「ホント気が利くのねアンタ。あんがと」ぼりぼり

コジロウ「へへっ・・・ ってピカチュウの分食べるなよ!」

ピカチュウ「サンダースが・・・」うるうる

ニャース「んで、相談とやらは終わったのニャ?」

コジロウ「俺たちがバッチリ聞いてやったよ。根本的に解決はしてないけどな」

ムサシ「聞いてあげるって事に意義があんのよ相談ってのは」

サトシ「二人に相談したおかげで気が楽になったよ。それに前のニャースの言葉も心にきたよ。三人ともありがとな」

ニャース「また何かあったら公園に来るニャ。大概そこで商売してるのニャ」

コジロウ「来たらまたおごってやるよ」

ムサシ「・・・さて、留守番してるあいつらが気がかりだしそろそろ戻るわよ」

サトシ「・・・なあ、お前らは本当にロケット団に戻る気ないのか?」

コジロウ「あぁ、戻る気は無いね」

ムサシ「未練が無いって言ったら嘘になるけど、今の道がたぶんあたし達に合ってんのよ」

ニャース「まぁ、今でもニャーらのボスはサカキ様ニャ」

サトシ「そっか。お前らがそれで良いんだったらそれに越した事は無いな」

コジロウ「ま、いつ心変わりするかわからないけどな。だが、今は目の前に続く道を突っ走るのみよ!」

ムサシ「お前達行くよ!達者でね、ジャリボーイ」

サトシ「お前達もな」

一方その頃

ソーナンス「ソ、ソ、ソ、ソーナンス!!!」くねくね

女子高生A「キャー!このソーナンスパラパラ踊ってる!」

マタドガス「ドンドンドドンガドドンガドン」

アーボック「シャー!」くねくね

女子高生B「こっちは音頭踊ってる!」

女子高生A「可愛いからジュース買ったげる!」チャリン

女子高生B「私はアイスで!」チャリン

アーボック「シャー!(オカイアゲアリヤトヤシタ!)」

ピカチュウ「電話ねぇ・・・」

サトシ「直接は・・・ちょっとな。ピカチュウ、カスミに電話かけてる間ボックスから出てくれないか」

ピカチュウ「そのつもりだよ。それじゃあ僕は出るね」ガチャ

サトシ「・・・よし」

言いたい事は決まっている。後はそれを言葉にすれば良いだけ。俺は小銭を投入口に入れた。

カスミ「はい、こちらハナダジムです」

サトシ「あの、カスミ」

カスミ「・・・サトシ、どうしたの?」

サトシ「今日、タケシとお前を呼んで、俺ん家で20時からご飯食べようって考えてるんだけど来ないか?」

カスミ「きっとハナコさん喜ぶわ」

サトシ「あぁ。それでお前はどうなんだ?」

答えまでに少しの間があった。

カスミ「・・・行くわ。それで・・・その・・・」

サトシ「わかってる。まだ考えはまとまってないけど、必ず今夜までには答えを出すから」

カスミ「・・・急がなくても良いのよ。サトシ」

サトシ「そうもいかないだろ。試験はあと三週間後くらいなんじゃないのか?」

カスミ「そうだったわね。私、早めに行ってハナコさんのお手伝いするわ」

サトシ「良いって別に、お前はジムリーダーの仕事があるんだからさ」

カスミ「大丈夫よ。お姉ちゃん達に任せれば良いし」

サトシ「いや、でも・・・」

カスミ「うっさいわね!私が大丈夫って言ったら大丈夫なの!ハナコさんのお手伝いをする方が今は大事なんだから!」

サトシ(おいおい、それがジムリーダーの台詞かよ・・・)

サトシ「わかったよ。母さんも喜ぶよ。ありがとなカスミ」

カスミ「ふん、アンタのためにやるんじゃないわよ。・・・それと、今夜せっかく久々に三人で会うんだからお互いしけた顔は無しよ」

サトシ「・・・あぁ!」

カスミ「サトシ、さっきはあんなこと言ったけど、アンタが旅を選んだとしても私、応援するわ。ハナコさんの事は任せてちょうだい。あの人は私にとっても大事な人だから・・・」

この瞬間俺は今すぐにでもカスミの元に行って抱きしめたくなった。それほどまでに嬉しかった。他人の母親をここまで想ってくれる事が。

サトシ「俺、お前と親友になれて本当に良かったと思う。・・・ありがとう」

カスミ「なによいきなり・・・わ、私も同じよ」

サトシ「・・・じゃあ、また後でな」

カスミ「えぇ」プツン

何だろうこのフワフワした感じは。先程の気持ちの余韻なのだろうか、とても心地が良い。この後に人生の分かれ道と言っても過言では無い選択をしなくてはならないのに。

サトシ「ピカチュウ、ごめんな待たせちゃって」

ピカチュウ「うん、平気だよ。日向ぼっこが気持ち良かったしね。明日には色違いになってるかもね」

サトシ「真っ黒になったらヘルガーみたいでかっこいいかもな」

ピカチュウ「それはちょっと困るけどね。・・・サトシ、さっきから何か嬉しそうな顔をしてるけどカスミに何か言われたの?」

サトシ「あぁ。実はな・・・」カクカクシカジカ

ピカチュウ「ふぅん。そんな事言われたの。そりゃそんな顔にもなるね」

ピカチュウ(それはもはやプロポーズなんじゃないのかな・・・サトシは一生気付かないだろうけど)

サトシ「とりあえず家に帰ろう。部屋でゆっくり考えたいしな」

ピカチュウ「うん。この炎天下で考えても良い答えは出ないと思うからね」

俺は家の扉の前に立っていた。よくよく考えると今母さんの顔を見るのは正直辛い。どうしたものか。

ピカチュウ「気持ちはわかるけど遅かれ早かれ家には帰らないといけないんだから勇気だして!」

サトシ「あぁ」

ガチャ

ハナコ「あら、お帰りなさい」

母さんを前にすると言葉が出なかった・・・必死に喉から声を絞り出した。母さんに悟られない様に。

ハナコ「カスミちゃんやタケシ君に会えたの?」

サトシ「うん。今夜の8時に来るってさ。カスミは早めにきて母さんの手伝いをするって」

ハナコ「まぁ、助かるわ。今夜は張り切らなくちゃね!」

サトシ「俺、疲れたから部屋でご飯まで休んでるよ」

ピカチュウ(・・・嘘つき)

ハナコ「ちょっと横になってなさい。出来たら起こしてあげるから」

サトシ「ありがとう」

久しぶりに入った自室は母さんが定期的に掃除してくれていたらしく綺麗に片付いていた。
息子がいつ帰ってきても良いようにとせっせと部屋の片付けをしてくれている母さんを想像したら優しい気持ちと申し訳ない気持ちが混ざった不思議な気持ちになった。

ピカチュウ「ママさんに嘘ついちゃダメだよサトシ」

サトシ「いや、本当に疲れたんだ。横になりながら考えるよ。しばらく話しかけないでくれ」

ピカチュウ「サトシ、君は自分が思ってるほどバカじゃない。正しい答えを導ける力があるんだ」

サトシ「俺を買いかぶりすぎだよピカチュウ」

ピカチュウ「自分では解らないだろうけどね。・・・ゆっくりじっくり考えなよ」

サトシ「うん」

ピカチュウ「じゃあ、僕はママさんに甘えてくるね」

サトシ「終わったらバリヤードの手伝いでもしてあげるんだぞ」

ピカチュウ「彼、普段は温厚だけど仕事に手出しすると怒るんだ。バリヤードは執事のプロだからね」

サトシ「そっか。出るときドア閉めてくれよ」

ピカチュウ「わかった」バタン

サトシ(バリヤードにも感謝しなきゃな・・・)

サトシ「わかんないよな・・・先の事なんか」

そう、先の事なんて誰にもわからない。だけど想像する事は出来る。
俺は旅を続けた場合とジムリーダーを目指してなれた場合を想像してみた。
旅を続けたら俺やピカチュウ達はもっと強くなるし、まだ行った事の無い所にも行ける。ジムリーダーを目指すと時間に縛られそれが出来難くなる。カスミやタケシを見るとよく分かる。
しかし、母さんを安心させれるし世間体も良くなる。ポケモンバトルにも不自由しない。しかもそれで給料がもらえる。
「悪くない」 そんな思いが押し寄せた。

サトシ「・・・見るか」

その思いに身を任せて身体を起こし、カスミから貰った冊子を手に取った。

サトシ「そんなに分厚くは無いな。これならなんとか読めそうだ。なになに・・・」ペラっ

○採用試験は8月29日(9:00~)内容は面接・筆記テスト・実技テストの3つ。ポケモンは最低3匹連れて来ないといけない。

○勤務時間:10:00~19:00(土日休)だだし、凶悪なポケモン犯罪があった場合、勤務中および休日に協力要請がかかる事がある。 

○給与:初任給は22万円 以降年功・功績により昇給。

○手持ち:カントージムリーダー協会の意向により去年からポケモンのタイプ統一を廃止。これはジムリーダー対策が容易になりバトルが一方的になるケースが多いため
長年の議論の末去年からタイプ統一廃止が決まった。手持ち登録は1か月に一回、つまり1年で12回手持ちを登録更新しなければならない。これも上記の理由と、同じポケモンの
長時間使役を避けるためだとか。

バトル:挑戦者の力を最大限に引き出す事。バトルコートのギミックを上手く利用できているかのチェック。
一方的なバトルを避ける為、職務用とプライベート用の手持ちを用意するのが好ましい。

○バッジ:挑戦者が勝利した場合は勿論の事、負けた場合でもポケモンへの理解・挑戦者の将来性があると判断した場合はバッジを渡すことが許される。
逆も然りで、挑戦者が勝利してもそのポケモンに虐待の痕跡・何かしらの薬物の投与の症状などががみられた場合はバッジを渡さず警察に必ず迅速に通報する事。
バトル以外でのバッジの不正譲渡は原則禁止。これを犯した場合は厳罰の対象となる。

○保険:完備

○寮:各ジムの近くに有り(格安)

と、俺が理解できた範囲で掻い摘んで説明するとこういう感じだ。俺が山籠りしている間にジムリーダーの事情も少し変わったみたいだ。

サトシ「へぇー 待遇良いんだな。カスミやタケシって凄かったんだ・・・」

旅とジムリーダーを乗せた天秤が傾き始めた。

それから俺は生まれてから一番頭を使ったと思う程考えた。



カスミ「サトシ、起きなさい!」

サトシ「・・・ん、うるさいなぁ」

カスミ「こら!起きろーっ!」ドガッ

サトシ「痛ってぇ!?何でお前が居るんだよ!?」

カスミ「何寝ぼけてんのよ。アンタがあたしとタケシを夕飯に誘ったんでしょうが。あたしは早めに来てハナコさんのお手伝いをしてるんだけどね」

そうか、俺はあれから寝てしまったのか。それにしても頭がすこぶるスッキリしている。これは睡眠のおかげだけじゃ無さそうだ。

カスミ「アンタ、なんか妙に清々しい顔してるわね。良い夢でも見たんでしょ」

サトシ「まぁ、そんなとこかな」

カスミ「良かったじゃない。じゃあ、まだハナコさんのお手伝いが残ってるから。降りるわね」

サトシ「俺も一緒に降りるよ」

カスミ「いいわよ来なくて。ハナコさんが早めに起こしてあげなさいって言ったから起こしただけよ。それにまだタケシも来てないんだし」

サトシ「いや、お前が母さんの手伝いをしてるところを見たいんだよ。家庭的なカスミなんて滅多に見れるもんじゃないしな」

カスミ「家ではいつも家事してるわよ!(お風呂掃除くらいだけど)」

サトシ「そりゃ意外だな」

カスミ「女として当然よ!そういうアンタは出来るんでしょうね?」

サトシ「出来ない!」どやっ

カスミ「・・・降りよ」

ハナコ「カスミちゃん、サトシは起きてくれた?」

カスミ「・・・後ろに居てます」

サトシ「おはよう母さん。あれ、ピカチュウは?」

ハナコ「外でリザードン達とのんびりしてるわよ」

サトシ「そういえば部屋に入る前に外に全員放したんだったな・・・」

ハナコ「もう、サトシったら寝ぼけちゃって。それからありがとねカスミちゃん。後は私がやるからソファーで休んでてちょうだい」

カスミ「最後までやります!(出来る女って事を見せつけてやるんだから!)」ずいっ

ハナコ「そ、そう?それじゃあジャガイモの下ごしらえを一緒にやりましょうか」

カスミ「はい!」

サトシ「おーおーずいぶん張り切ってますなぁカスミさん」

カスミ「うるさいっ!」

ハナコ「まず、皮を剥きましょうか」

カスミ「はい!」むきむき

ハナコ「えっと・・・手で剥くんじゃなくて包丁かピーラ―で剥いた方がいいわ」

カスミ「・・・は、はい」

サトシ「プッ」

カスミ「」イラッ

ハナコ「包丁は危ないから今回はピーラ―でやりましょう」

カスミ「頑張ります!」

カスミ「・・・」シュッ シュッ

一生懸命ジャガイモの皮を剥くカスミを優しい顔で見守る母さん。そんな二人はまるで親子に見えた。なんだか見ていて微笑ましい。

ハナコ「カスミちゃん上手ねぇ、身を削らず皮だけちゃんと剥けてるわ」

カスミ「やった!」

サトシ「子供か」

ハナコ「次はここに小さな芽があるでしょ?これは身体に良くないから包丁の角を使ってほじくるのよ」

カスミ「任せてください!」

カスミ「・・・」がりがり

ハナコ「うん!これも上手だわ!」

カスミ「よしっ!」

サトシ「包丁持ったままガッツポーズは止めてくれ」

ハナコ「最後はジャガイモを水に漬けたら終わりよ」

カスミ「何で水に漬けるんですか?」

ハナコ「灰汁取りよ。やらなくてもあまり問題は無いけれど、しないと色が汚なくなるのよ。せっかく食べてもらうのに汚い色だったら嫌でしょ?」

カスミ「確かにそうですね」ふむふむ

ハナコ「漬ける時間は20分くらいね。それをしてる間にお米を炊いて、ハンバーグを焼きましょう」

カスミ「任せてください!お米を炊くのは得意ですから!」キリッ

サトシ「ハンバーグじゃないのかよ」

カスミ「外野は黙ってなさい!」

ハナコ「フフッ、カスミちゃんは頼りになるわ。今日は手伝いに来てくれて本当にありがとね」

カスミ「そんな・・・当然の事をしたまでですよ」もじもじ

サトシ(まだ時間が掛かりそうだな・・・)

サトシ「母さん、俺ピカチュウ達と遊んで来るよ」

ハナコ「ご近所様に迷惑かけちゃダメよ」

サトシ「うん。カスミ」

カスミ「何よ」

サトシ「さっきはあんな事言って悪かった」

カスミ「き、急に謝んないでよ・・・困るじゃない・・・」もじもじ

サトシ「台所に立ってる姿、なんか良かったぜ。じゃ!」ガチャ

カスミ「な、なによアイツ!変な事言っちゃって!」

ハナコ(二人とも若いわねぇ)

サトシ「よ!」

ピカチュウ「おはようサトシ」

ラプラス「あら、起きたのね」

サトシ「あぁ。ところで皆してボーッとしてるけど何してたんだ?」

カメックス「見ての通りボーッとしてるのさ」

フシギバナ「月が見え始めてる。今夜は満月だな」

カビゴン「楽しみだね。毎日毎日修行だったからたまにはこういうのも悪く無いね」

リザードン「俺は修行でお前らを叩きのめす方が楽しかったぞ」

カメックス「鬼め」

激しい修行をしては夜になると泥のように眠る毎日だったので皆と空を見上げる機会なんて無かったかもしれない。

リザードン「お前は修行中もボーッとしてただろうが」

サトシ「ハハハッ、今日は皆ゆっくりしてくれ。後でご飯持って来てやるからな」

ラプラス「ええ。そうさせてもらうわ」

ピカチュウ「サトシ」

サトシ「わかってる。もう決めたよ」

ピカチュウ「・・・そっか」

フシギバナ「何そこでコソコソ話してるんだ?」

カメックス「別に良いじゃないか。サトシ、話が済んだらこっちに来い。一緒にボーッとしようじゃないか!」

サトシ「うん、すぐ行くよ」

ラプラス「私の背中に乗りなさいな」

サトシ「うん」ササッ

ピカチュウ「僕も!」

ラプラス「あなたはピリピリするから嫌」ポイッ

ピカチュウ「うわっ」

サトシ「ハハハッ、俺の独占だな!」

ピカチュウ「・・・いいよ。フシギバナに乗るから!」

フシギバナ「花粉が付いてもいいなら乗るんだな」

ピカチュウ「」

カメックス「わしの背中が空いてるぞ!」

ピカチュウ「うん!乗る乗る!」

カメックス「ガハハッ!可愛いなお前は!」

ピカチュウ「そんな・・・///」 かぁっ

リザードン「真に受けんなよ」

サトシ「zzz・・・」

ラプラス「あら、寝ちゃったわ」

リザードン「こいつ、さっきも寝てたろ」

カビゴン「二度寝じゃまだまだだね」

リザードン「そうだな、お前は10度寝くらいするからな」

ピカチュウ「そこまでいくと立派なものだよね・・・」

カビゴン「でしょ」

リザードン「俺はオーキドの所に行ってくる」 バサッ


ラプラス「アレ、絶対にガブリアス達をイジメに行ったんだわ」

フシギバナ「紅白試合で一発良いの貰ったからな。根に持っとるんだ」

ピカチュウ「でも、何だかんだ言って皆と仲は良いからね。ちゃんと手加減もしてるし」

カメックス「その割にはアイツと戦ったポケモンは皆ボロボロになるけどな」


リザードン「サンドバッグ共・・・ ズタボロにしてやるから待っとけよ!」びゅーん



何も無い真っ黒な空間。そこに俺は居た。

サトシ「ここは・・・」

宇宙にいる様な浮翌遊感、右も左も解らない。解るのは俺がここに存在しているという事だけだ。

サトシ「一体どうすればいいんだ・・・?」

エンテイ「それはお前が一番知っているはずだ」

フルーラ「そうそう。あなたにこんな辛気臭い場所は似合わないわよ!」

ユキナリ「どんな時でも前に進む、それがサトシ、君なんじゃないのか?」

カノン「・・・!」

サトシ「な、何で皆が!?」

今ままでの旅で出会った人物が目の前に現れ、俺に言葉を投げかけ返答を待たずにに暗闇の奥へと消えていった。

ミュウツー「お前はまだ迷っている」

サトシ「ミュウツー!?」

ミュウツー「この暗闇はお前の恐れ、不安、迷い」

サトシ「この暗闇が・・・?」

ミュウツー「・・・お前は私には無い強い力を持っている。私はそれに救われた。人間よ、こんな暗闇くらいお前の力で光に満たせ」

ミュウツーは意味深な言葉を残しさらに奥の闇へと歩を進めた。

サトシ「ま、待ってくれよ!俺もそっちn」

ミュウツー「・・・来るな。お前は私とは逆に進め。力が強い。ただそれだけの者になってはならない」

サトシ「ありがとうミュウツー。さよなら、また会おうな」

ミュウツー「・・・さよなら」


シャカシャカシャカシャカ!

サトシ「ん?」

「ラララ ラーラーラー なんて素敵なー」シャカシャカ!

「ラララ ラーラーラー 文字の並び!」シャカシャカ!

「ラララ ラーラーラー ラララ ラーラーラー それは・・・」シャカシャカ!

「サ ト シ  く ん!!!」ズンッ

サトシ「うわぁっ!?」がばっ 

ラプラス「きゃっ!?」ぐらっ

どさっ

サトシ「痛てて・・・」

タケシ「ずいぶんな挨拶だな」

サトシ「タ、タケシ・・・来てたのか」

タケシ「さっきな。寝てたから起こそうと思ったらこれだ。何か悪い夢でもみたのか?」

サトシ「・・・いや、良い夢だったよ。凄くな」

あの夢のおかげで俺は心の本当の状態を知る事が出来た。俺が今まで目を背け続けたものが夢にあった。
彼が言っていた暗闇を晴らす力を今日俺は発揮する事が出来るのだろうか。

タケシ「どうした?難しい顔して」

サトシ「なんでもないよ。それよりも夕御飯出来たのか?」

タケシ「今、ハナコさんとカスミが並べてるよ」

サトシ「そっか、俺たちもそれくらいは手伝わないとな」

タケシ「だな」

サトシ「みんな、さっきは驚かしてごめんな。ちょっとご飯食べてくるよ」

ピカチュウ「行ってらっしゃい。僕達のご飯、後でよろしくね」

サトシ「おう!」

サトシ「ただいま」

カスミ「あんた、また寝てたでしょ」

サトシ「ラプラスに乗ってたら・・・な?」

カスミ「まぁ、気持ちは凄くわかるけどね」

タケシ「ハナコさん、料理を並べるのは俺達でしますよ」

ハナコ「ありがとねタケシくん。じゃあ私はオーキド博士に電話するわね」

サトシ「オーキド博士に電話?」

ハナコ「この夕ご飯にオーキド博士も招待するのよ。シゲルくんは居なかったけどね。勝手に呼んじゃってゴメンなさいね」

サトシ「そんなことないよ!俺、ポケモンの面倒を見てくれたお礼をまだ言ってなかったから丁度良かったよ」

サトシ(遅かれ早かれオーキド博士にも言わないといけないからな・・・都合が良いや)

ハナコ「私も言わなくちゃね。さて、電話の子機はどこだったかしら・・・」きょろきょろ

バリヤード「バリ(こちらで御座います。御主人様)」 すっ

ハナコ「ありがとね。えっと、電話番号は何だったかしら・・・」

バリヤード「バリ(○○○ー△△△ー□□□でございます)」

ハナコ「本当にお利口さんねぇ、バリちゃん!」なでなで

バリヤード「バリィ///(有り難き幸せでございます)」

カスミ&タケシ「普通に会話してる・・・」

ハナコ「えっと、○○○の・・・」ピポパ

サトシ「あ! 母さん!」

ハナコ「どうしたの?」

サトシ「俺がオーキド博士を呼んでくるよ。ポケモンフードを山に忘れたのを思い出したんだ。博士にちょっと分けてもらおうと思って。 もう店空いてないだろ?」

ハナコ「そうね。この時間帯はもうダメね。それより、もっと早くに用意しておきなさい。オーキド博士がいなかったらどうするの?」

サトシ「・・・ごめんなさい。じゃあ行って来るよ。皆、手伝えなくてゴメンな」

タケシ「別にいいさ。気にせず行ってこい」

カスミ「そういえばケンジはどうしたの?」

サトシ「ケンジなら結構前にオーキド博士の元から離れてポケモンウオッチの旅に出たぜ。旅の途中であったけどやっぱりあいつは凄いよ。
ポケモンの雑学とかうんちくを聞かせてもらって楽しかったなぁ」

カスミ「相変わらずねぇ。元気そうでよかったわ」

ハナコ「もう暗くなってるから気を付けて行くのよ」

サトシ「わかった。じゃ!」ガチャ

タケシ「さて、並べるk」くるっ

バリヤード「バリ(皆様がお話している間に配膳・玄関の掃除・洗濯物の取り込みが完了しました)」

タケシ「・・・家に来ないか?」

バリヤード「バリ!(私の生涯の御主人様はハナコ様だけです!)」ブンブン

タケシ「駄目・・・みたいだな。しかし、カスミはバリヤードを見習って欲しいものだな」

カスミ「聞えてるんですけど!?」

タケシ「あ、心の声が」

ハナコ「フフッ(やっぱり楽しいわねぇ・・・)」

ピカチュウ「あれ、どうしたの?」

サトシ「えっと、お前たちのご飯を山に忘れてだな・・・」

カビゴン「何ぃ!?サトシ!!!」ギロッ

サトシ「だ、大丈夫だって!今からオーキド博士を迎えに行くついでに貰ってくるからさ」

カビゴン「そうだったの。怒鳴ってゴメンね」

サトシ「お、おう(下手したら俺が食われるな・・・)」

リザードン「お前は食い意地が張り過ぎなんだよ」

カビゴン「カビゴン族はみんな昔から大喰らい。ケッキングと同じ」

リザードン「アイツらはお前より酷いかもな。なんでも息をするのさえ面倒だって聞いたことあるぜ」

カビゴン「ふふん」

リザードン「どっちもどっちなんだよ」ゴツン!

カビゴン「うぅ・・・痛い・・・」

サトシ「ちゃんと仲良くしてろよお前ら。じゃ!」

リザードン「待て。今なら乗っけてやっても良いぜ」

ラプラス「自分から言うなんて珍しいわねえ」

リザードン「お前らの腹の虫の鳴き声を聞きたくないだけだ」

ラプラス「あら、失礼ね。私はお腹なんt」ぐぅ~

リザードン「な?」

ラプラス「ま、前から言おうと思ってたけどあなたってポケモンはちょっと無神経過ぎるんじゃない!?私は女の子なのよ!?」

リザードン「お前こそ神経質過ぎるんだよ。今から「のりものポケモン」から「ナーバスポケモン」に改名しやがれ!それとお前はもう女の子っていう年じゃねぇんだよ!ボケが!」

ワ―ワ―ギャーギャー!!!

ピカチュウ「ちょっと!止めなよ二人とも!そこ笑ってないで止めてよ!」

サトシ「・・・さっさと行こっと」 ささっ

カメックス「家が壊れないようにだけは見張っておこう」

フシギバナ「そうだな」



サトシ「流石にこの時期になると暗くなっても暑いな」

日が落ち始めて薄暗くなり静かなマサラタウンには鳥や虫の鳴き声が辺りに物悲しく響いている

サトシ「虫や鳥って何で鳴くんだろうな・・・腹でも減ってるのかな。だったら可哀想だな・・・」

走りながらそんな事を考えているとオーキド研究所に着いた

サトシ「オーキド博士、迎えに来ました」

「ハナコさんから電話を掛けるって聞いていたんだけどね。故障でもしたのかい?」

サトシ「シ、シゲル!?何でここにいるだよ!」

シゲル「祖父の研究所に僕が居て悪いのかい?」

サトシ「あ、いや、そうじゃ無くて、さっき此処に来た時オーキド博士が居ないって言ってたからさ」

シゲル「ちょっと前に呼び出されたのさ。「サトシ君らと食事をするから顔だけでも見せに来てくれ」ってね。まぁ、丁度明日から夏の長期休暇に入るから良かったんだけどね」

サトシ「何か悪いな。俺のせいで呼びだされちゃって」

シゲル「全くだよ。まぁ、一度は実家に帰るつもりだったから良いとしようか。それよりもサトシ、山籠りしてたって本当かい?」

サトシ「聞いたのか」

シゲル「テレビで急に君を見なくなったからね。どこかでくたばってると思って安否を聞いたら渋々話してくれたよ。最後には「精神力が弱いお前こそ山籠りをするべきじゃ」なんて言われたよ。余計なお世話だよまったく」

サトシ「ハハッ、あながち間違って無いかもな。・・・心配掛けてゴメンな」

シゲル「心配?馬鹿言え、君のヒンバス以上のしぶとさは重々承知だ。何処に雲隠れしていたか気になっただけさ」

長身でキザったくて、それでいて容姿が良くて頭が良い。俺とは正反対の幼馴染。
旅を始めた頃は生意気な俺と高飛車なシゲルはよくぶつかり、喧嘩をしていたが年をとるにつれて互いの力を認め合う事が出来るようになり今では軽口を言い合える仲になった。

オーキド「何やら賑やかと思っとったらサトシ君が来てたのか。何しに来たんじゃ?ワシらはママさんの連絡待ちなんじゃが・・・」

サトシ「えっと、お願いしたい事があって。それで俺が迎えに来たんです」

オーキド「ほう、言ってみなさい」

サトシ「手持ちの分のポケモンフードを俺に分けて欲しいんです。山に忘れちゃって・・・」

オーキド「そんなことならお安いご用じゃ。手持ちのポケモンを教えておくれ」

サトシ「はい!ピカチュウ、リザードン、カメックス、フシギバナ、ラプラス、カビゴンです」

オーキド「ふむふむ・・・ピカチュウにはスタンダードタイプのフードを、リザードン、カメックス、フシギバナ、ラプラスには大型ポケモン用の高カロリータイプのフード、カビゴンはさらに上を行く超高カロリータイプを用意しようかの。それと山籠りで栄養摂取状態が心配じゃから念のために粉末サプリメントを付けよう」

サトシ「ありがとうございます!お金は後で払います!」

オーキド「そんな水臭い事を言うんじゃ無い。ワシとサトシ君の仲じゃないか」

サトシ「オーキド博士・・・」うるうる

オーキド「サトシ君・・・」

シゲル「怪しい雰囲気を出さないでくれ。気持ち悪いから。さぁ、君のお願いも伝わった事だし早く行こう。誘って貰って人を待たせるのはNGだしね」

オーキド「怪しいとは何じゃ。ワシにとってサトシ君はもう一人の孫同然じゃ」

シゲル「こんな奴が僕の身内であってたまるか」

サトシ「あの、ちょっとゴメン!実はもう一つ用事が広場にあるんだ!行って来る!」

シゲル「ちっ、五分だ。五分で戻って来いよ!」

サトシ「釣りがくるぜ!」ダダッ

広場

誰も見当たらない静寂に包まれた広大な広場に俺は吸い込まれそうな感覚を覚えた。昼間元気だったポケモン達もこの時間になれば活動を止め自分の棲家に身を潜める。
優しく吹く涼しい風に俺の臭いが乗り、それが静寂を破る。

ドドドドッ!

「「「「サトシー!!!」」」」

サトシ「皆ゴメンな。寝てたのに」

ジュカイン「遅かったな。言いに来たんだろ。別れを」

サトシ「いや、実h」

メガニウム「嫌っ!私聞きたくないっ!けど、サトシが居るから此処にいたい!あぁ、どうすればいいの!?」

ヘラクロス「悩めるwwwwww乙女かなwwwwww君はwww 」

メガニウム「うるさいわよっ!」べしっ

ヘラクロス「あびょwww」

ガブリアス「お前ら少し黙れ」

メガニウム&ヘラクロス「はい」

ガブリアスの一喝で他のざわざわしていたポケモン達も静かになり。俺に注目する。少し前もこんな事があったな・・・

サトシ「・・・実はな」

シゲル「終わったのか?」

サトシ「あぁ」

シゲル「随分とポケモン達が騒いでいたみたいだか・・・」

サトシ「何でもないさ。オーキド博士、待たせてしまってすみません。行きましょう」

オーキド「そうじゃの」

鼓動が早くなっている胸を深呼吸で落ち着かせ家に向かった。

サトシ「ただいま。オーキド博士を連れて来たよ。ついでにシゲルも」

シゲル「おい」

オーキド博士「いやぁ、ハナコ君。この度は食事に招待してくれてありがとう。勝手で済まんがシゲルを連れて来たんじゃ。挨拶したらすぐ帰るから気にせんでくれ」

ハナコ「そんな事言わないで下さいな。シゲル君、あなたの分のご飯もあるから食べて行きなさい。皆喜ぶわ。ね?」

シゲル「いや、でも、急に押しかけてご馳走してもらうなんて・・・」

タケシ「良いじゃないかシゲル君。ハナコさんのハンバーグは絶品だ。食べないと絶対に損するぞ」

カスミ「そうよ。それにご飯とハンバーグの付け合わせのポテトは私が作ったんだから!」

サトシ「米研いでジャガイモの皮剥いただけなのな」

カスミ「・・・」ごつ!

サトシ「おぉ・・・のぉ・・・」バタバタ

タケシ「地雷を踏むからだ」

シゲル「そうか。ハンバーグはハナコさんが・・・」

カスミ「なによ、その意味深な言い草は」ずいっ

シゲル「いや、ハナコさんなら良いんだ」

カスミ「なら良いってなによ!」

シゲル「と、特に深い意味は無いよ。じゃあハナコさん、僕も御馳走になります」ぺこっ

ハナコ「うんうん!それじゃあ席についてね!」

母さんはシゲルが加わった事で「夕飯の人数が増えた」ととても喜んでいた。しかしそんな母さんに俺は違和感を覚えた。
来客が来て喜ぶのはごく普通の事だ。でも喜び方が普通じゃ無いような、なんていうか本当に心の底から喜んでいるという感じがする。
裏を返せばそれは普段とても寂しかったという事なんだろう。母さんは一見元気で明るい性格にみえるが実は根が暗く、近所付き合いが下手で俺が子供の時
からすでにマサラタウンでは孤立していて町の行事には俺だけが行き、母さんは家で俺の帰りを待つというのがお決まりだった。
友達もあまりいないらしく、自分の用事で出掛けることも来客が来ることもほとんど無かった。母さんはガーデニングが好きで昔から花をせっせと育てているが
寂しさを紛らわす為だったのかもしれない。その気持ちに答えるかのように母さんに育てられた花たちは様々な色の花びらを付け、ポケモンを呼び庭を賑やかにしてくれている。

サトシ「ところでオーキド博士、その手に下げてる紙袋は何ですか?」

タケシ「あ、俺も実は気になってたんだ」

カスミ「もう、嫌らしいわね。人様の家にお呼ばれするんだからおみやg」

オーキド「おおっと、カスミ君、皆まで言うでない。二十歳になったサトシ君、カスミ君、シゲルの門出を祝うために良いものを持ってきたんじゃ!」

ハナコ「あら! 三人とももう二十歳だったのね!」

サトシ「あら!じゃないよ母さん。・・・まぁ、俺が悪いんだけどさ」

カスミ「そういえ姉さん達にまだ二十歳のお祝いして貰ってなかったわ。忙しかったし・・・」

タケシ「そっか・・・お前らもう二十歳になったのか。そんな実感ないなぁ」

シゲル「無理もないですよタケシさん、サトシはいつまで経っても子供ですからね。僕と違って」 ふふん

サトシ「うるせぇ。童心を忘れず持ってるって言ってくれ」

シゲル「まぁ、良くいえばそうなるかな」

オーキド「さて、土産・・・いや、二十歳祝いに持ってきたというものはな、これじゃ!」ドン!

オーキド博士が大きな紙袋から取り出したのは縦長の木目の入った大きな木箱だった。

カスミ「もしかして・・・お酒?」

サトシ「しかも二本もあるぞ」

シゲル「なにやら高級そうだね」

オーキド「おお!さすが我が孫じゃ!目の付け所が違う!これはなタマムシ大学のお偉いさんにもらった物でこっちg」

タケシ「説明しよう!!! まずこの水色の瓶の方は伝説の聖酒「水君」だ!関係者しか知らない秘境の地の地下から汲み上げられた上質な水を使用!
水君はアルコール度数を抑え、女性でも飲みやすい味わいに仕上がった、新しいタイプの酒で、さわやかな酸味と柔らかい甘みが特徴。食前酒にもこってりとした料理にも相性ぴったり!
ほんのりと酔え、すっきりした甘さに定評があるんだ! そしてもう一本の赤い瓶は「炎帝」といってアルコール度数が51度とかなり高めで一口飲めば火山が噴火したかの様な衝撃が体を駆け巡りその味に虜になるそうだ!
ただアルコール度数が高いだけでは無く、独特のまろやかさがあり、数々の愛酒者を唸らせてきた酒なんだ!・・・ですよねオーキド博士?」

オーキド「その通りじゃ!貰い物で気が引けるが君たちの二十歳の門出に相応しい銘酒じゃ。それとタケシ君、もしかしてイケるクチかの?」

タケシ「嗜む程度ですけどね。それにしても二つとも滅多に市場に出回らない代物ですよね?こんなお酒に出会えて感無量です!!!」

オーキド「博士をやっていればたまにこういうラッキーな事があるんじゃ。もちろんお礼は返すがね」ふふん

サトシ「なぁタケシ、この酒ってどのくらい凄いんだ?」

タケシ「そうだな・・・お前の目の前にホウオウとルギアがいるって考えると解りやすいかな」

サトシ「それすげえじゃん!!! そそそそそんなお酒俺らが飲んで良いのかな」

オーキド「落ち着くんじゃサトシ君。一人でちびちび飲むより皆で飲んだ方が酒も喜ぶじゃろうて」

タケシ「それにしても惜しいですね。ピリッと突き抜けるような辛さで後味がさっぱりしており、ライムハイやレモンハイにして飲まれることが多い。
しかし、この酒は本来、炎帝と水君をつなぎとめる役割の酒とされており、濃厚な炎帝、口をスッキリさせる雷皇、そしてふんわりとした水君で締める、というのがごく一部の愛酒家の中での常識とされている。
炎帝や水君と比べるとイマイチパッとしないため、市場に出回る数も非常に少ない・・・と言われる影の銘酒「雷皇」も見たかったのですが・・・」

オーキド「う、うむ。ワシも個人で探したんじゃが見つからんかったわい(さすがタケシ君、恐るべし博学じゃ)」

ハナコ「本当にありがとうございます。オーキド博士」

オーキド「良いんじゃよハナコ君。それより今夜は君に本当の酒の美味しさを教えてあげよう」キリッ

シゲル(何言ってんだこのじーさんは・・・)

タケシ「オーキド博士、自分はともかくとして、二十歳になったばかりの彼らにこのお酒はちと刺激が強いのでは?」ひそひそ

オーキド「かなり薄めてやれば大丈夫じゃ。それにタケシ君、皆が酔ったら面白いと思わんかね?」ひそひそ

タケシ「自分もその意見に同意します」にやにや

カスミ「そこ、にやにやしてないで席に着きなさい」

タケシ「あ、あぁ」

ハナコ「うん、皆席に着いたわね!コホン、今日はお忙しい中お集まりいただき本当にありがとうございます。テーブルにある料理はカスミちゃんと一緒に、ジュースやビールはタケシ君が持ってきてくれました。
それではオーキド博士、よろしくお願いします」

オーキド「うむ。成人を無事に迎えた3人の諸君、本当におめでとう!今のところそれぞれ順風満帆といったところじゃろうが必ず困難という壁にぶつかる時が来る。そういう時にこそ人の本当の真価が問われる。
ワシはその壁から逃げずに真っ向からぶつかる人間になって欲しい!その結果、上手くいかなかったとしてもその行為自体を誇りにすればいいと思うんじゃ。 君たち三人はまだまだ発展途上。
今のままの自分に満足せずに 努力を重ね精進してくれ。ワシからは以上じゃ」

パチパチパチパチ!!!

シゲル(じーさん・・・一生懸命考えてきたんだな・・・ありがとよ)


タケシ「うぅ・・・自分、涙いいですか?」

サトシ「おいおい、泣くなよ。・・・でも、すげー元気出たぜ。博士の言葉」

カスミ「ええ、私も最高のジムトレーナーにむけてもっと頑張らなくちゃね!」

オーキド(徹夜で考えた甲斐があったわい・・・これからも頑張るんじゃぞ3人とも)

それから俺たちの食事会が始まった。ポケモン達の餌はバリヤードがやってくれてたらしい。本当に有能な奴だ。

サトシ「ハンバーグうめえな!」ガツガツ

シゲル「食いながら喋るな!全く君って奴は品が無いな」ガツガツ

カスミ(どっちもよ)

オーキド「ハナコ君、カスミ君。ワシが酒をつごう」トクトク

ハナコ「あら、ありがとうございます」

カスミ「水色でとても綺麗ですね!でも、匂いがきついかも・・・」

オーキド「おっと、カスミ君はミネラルウォーターで水割りじゃ」トクトク

カスミ「これなら飲めそうです!」ごくっ

ハナコ「お刺身と一緒に・・・」ごくっ

オーキド「どうじゃ?」

カスミ「美味しい!ジュースみたいだわ!もっと飲んでも良いですか!?」

オーキド「急にたくさん飲むと危ないから少しづつ飲むんじゃぞ」

カスミ「はい!」

ハナコ「本当に美味しいですわ。お刺身とピッタリ」

オーキド「ハナコ君、実はこの他にももう1本高級銘酒「「雷皇」を持ってきてるんじゃ。向こうで一緒に飲m」

タケシ「あるぅれぇ?それは「水君」「炎帝」と比べれば影は薄けど紛れもない銘酒「雷皇」じゃあーりませんか!さっきは無いって言ってたじゃないですかー!」

オーキド「さ、さっき助手が持ってきてくれたのじゃよ(酔っておるな・・・)」

タケシ「ほえ~。水くさいですよぉ、自分がお注ぎしますから向こうでお酒について二人でじっくりゆっくり語らいましょう!」ぐいっ

オーキド「ちょ、ちょっと待ってくれ~(ワシの計画がぁー!)」ズルズル

ハナコ「あら、行っちゃったわ・・・カスミちゃん、私たちは二人でお料理の話でもしながら飲みましょうか」

カスミ「そうですね!」ぐびぐび

シゲル「・・・」ごくっ

シゲル「・・・ふぅ、結構くるなこいつは」

サトシ「お、美味しいのかそのお酒!?」

シゲル「エンテイの名に恥じない美味さだよ。まあ、お子様な君には解らないかな?」

サトシ「俺だってお酒の美味しさくらい解るぜ!」ぐびび

シゲル「お、おい!」

サトシ「な、何か体の底から湧きあがってくるような感じがする・・・!」ぐびび

シゲル「調子に乗って飲み過ぎると地獄をm」

サトシ「うっぷ」

シゲル「・・・ゲロかよ。言わんこっちゃない。この手の酒はちびちび飲むのが美味いんだよ。ここで酔い潰れるとハナコさんの
料理がまだ残ってるのに勿体無いとは思わないか?」

サトシ「・・・あぁ。うっぷ」

シゲル「仕方無い。一回トイレに行って吐け。僕が介抱してやる」

サトシ「すまねえなシゲル・・・」

シゲル「全くだ」

オーキド「それでの、ジョウト地方のとある酒蔵で今、あの二匹の伝説のポケモン「ホウオウ」「ルギア」をイメージした酒を極秘で作っているんじゃ」

タケシ「なぜ極秘なんです?」

オーキド「うむ。なんでも製造方法が極めて複雑でほんの少量しか作れないらしいから一般には販売せず、サミットなどの食会の乾杯酒用に作ってブランドとしての地位を固めた後、
一般用に質を落とした物を販売するつもりらしい」

タケシ「なかなか興味深い話ですね。質を落としたといってもさぞかし美味しいんでしょうね」

オーキド「量産といえどもそこらへんの酒よりはかなり上だと聞いたの」

タケシ「もう、両方とも出来ているのですか!?」

オーキド「うむ。知り合いがそこの酒蔵で働いているんじゃ。その彼が今度試飲してくれと言っているんじゃが来るかの?」

タケシ「行きます!絶対行きます!」

オーキド「よし、明日にでも連絡しておこう。それにしてもタケシ君と飲む酒は美味いのぉ!」ぐびび

タケシ「自分には勿体無いお言葉です!今度はホウエンの酒の話をしてください!」ぐびび

オーキド「よしきた!」

ハナコ(フフフ、楽しそうね)

~ポケモンサイド~

カメックス「月を見ながら食事ってのも乙なものだな」

ラプラス「そうね。いつも食事は洞窟の中だったわね」

ピカチュウ「外は寒かったからね」

フシギバナ「山も静かだったがここも静かだな。気持ちが落ち着く」

カビゴン「うん。食が一層進んじゃうね」バクバク

リザードン「それは関係ねえだろ。 ・・・ん?」

「あの・・・私もご一緒させてもらってもよろしいですか?」

ピカチュウ「バリヤード!」

バリヤード「何やら外から皆様の楽しそうな声が聞えてきたので・・・」

ピカチュウ「あ、あの、ごめんね。君を誘わなくて。ママさんと一緒にいたから誘うと悪いかなって・・・」

バリヤード「気にしないでください。ピカチュウさん。御主人の護衛は私の生き甲斐ですから。しかし、先ほどお暇を頂いたのですがやる事が何も無くて・・・」

ピカチュウ(本当にママさんに尽くしてるんだなぁ・・・)

リザードン「それにしても堅物のアンタが俺たちの輪に入ろうなんざどういう風の吹きまわしだ?」

バリヤード「たまには・・・息抜きも良いかと思いまして」
 
カビゴン「うんうん。溜まった物は吐き出さないとね!」

リザードン「お前は吐きっ放しだけどな」

カメックス「息抜き、結構なことじゃないか!ほれ、こっちに来い!」

フシギバナ「ワシたちの為になる有難い話を聞かせてやる。朝日が昇るまでな!」

バリヤード「是非お願いします。・・・その前に手ぶらで参加しては私の沽券に関わります」

ラプラス「律儀ねぇ。気にしなくても良いのよバリヤード」

バリヤード「そうもいきません。・・・むぅううううん!」ポン!

ピカチュウ「な、何か出てきたよ!? しかもたくさん!」

リザードン「なんだその瓶は?悪いが水なら間に合ってるぜ」

バリヤード「これは水では無く「酒」というものです」

カメックス「噂に聞いたことがある。人間の飲み物で飲むと気持ち良くなり「酔う」という状態異常になるらしい」

カビゴン「大丈夫なの・・・飲んでも」

バリヤード「もちろんです。私、一度御主人様に勧められ飲んだ事がありますが、この世の物とは思えない素晴らしい美味さでしたよ。それ以来この味が忘れられなくてパントマイムでなんとか
出そうと努力し1年。最近になってやっと出せました。しかし飲むと酔ってしまい職務を全う出来ないため滅多に出しませんが、今日は・・・特別です」

リザードン「そんな良い物を飲ませてくれるなんてアンタ、意外と良い奴だな。 いけ好かねぇ野郎と思っていたが改めるぜ」

バリヤード「お褒めに与り誠に恐縮でございます」

リザードン(これがなければなぁ・・・ 時々何言ってんだが分からねぇし)

バリヤード「それでは皆様、私がお注ぎ致しますので乾杯しましょう」トクトク

ピカチュウ「乾杯?」

バリヤード「コップを触れ合わせてそれを酒を飲む始まりの合図とするんですよ。主に祝い事などのおめでたい席で行われます」

カメックス「ガハハ!それは良いな!さながらワシらも人間だな!」

リザードン「おい、亀爺。勢い余ってコップを割るんじゃねえぞ」

カメックス「わかっとるわい!」

バリヤード「それでは恐縮ですが私が乾杯の音頭を取らせてもらいます。乾杯!」

「カンパーイ!!!」

サトシ「オェー」ゲロゲロ

シゲル「・・・ほら、水だ。これで口をゆすげ」

サトシ「・・・おう、悪いな」ガラガラペッ

サトシ(食事の最中にゲロなんか吐いちゃってなにやってんだろ俺・・・ん? 吐く? 俺はもっと別のものを吐き出さないといけなかったような・・・)

シゲル「おい、まだ具合が悪いのか?」

サトシ「そうだ!!!」

シゲル「何だよいきなり!」

サトシ「二十歳のお祝いで浮かれてて忘れてたけど俺、皆に伝えなくちゃいけない大事な話があるんだ!」

シゲル「その大事な話とやらを今まで忘れてたと?」

サトシ「・・・うん」

シゲル「皆聞いてくれる状態だと良いけどね。明日じゃダメなのかい?」

サトシ「ダメなんだ!今すぐ言わないと!早くリビングに来いっ!」ダッ

シゲル「はぁ、どうせろくでもない話だろうな・・・」

シゲル(ピカチュウと結婚・・・とかね)

バン!!!

サトシ「皆!聞いて欲しい話があるんだ!」

タケシ「お~ サトシィwwwどぅこに行ってたんだよwww 俺たち、今二人でぇ~ ボーイズトークしてだんだよぉwww」

サトシ「何だよボーイズトークって・・・臭っ! これが酒臭いって奴か・・・」

オーキド「臭いとはにゃんじゃ!この匂いは大人の男の証し!旨いモノを食い旨い酒に酔う!こんな楽しい生活他にはぬわぁい!」

サトシ(・・・ダメだ、次)

サトシ「あ、あのさ、母さん。大事な話があるんだけど・・・」

カスミ「・・・ねぇ、サトシ。アンタの顔ってよく見れば、ルカリオみたいでかっこいいかも」なでなで

ハナコ「当然よぉ、だって私の息子なんですものぉ」なでなで

サトシ「ちょ、ちょっと止めろよ二人とも!」

カスミ「そんなこと言っちゃって本当は嬉しいくせに!」ぐにぐに

ハナコ「顔赤くしちゃって可愛いわねぇ」ぐにぐに

サトシ(この二人もか・・・ こうなったら・・・)

サトシ「・・・」 すぅー

シゲル(耳塞いでおくか)

サトシ「皆!!!俺の話を聞いてくれ!!!」


俺の渾身の大声により先程の騒がしさが嘘のように静まった。そして皆は声の主の方へと目を向ける。

サトシ「今日、この場で言わなくちゃいけない事があるんだ。皆聞いてほしい」

カスミ「・・・」

シゲル「・・・」

オーキド「ほう」

ハナコ「なにかしら?」

タケシ「・・・話してみろよ。皆、お前の声で酔いがさめたしな」

サトシ「・・・」

大声を出した勢いで言おうと思ったけど言葉が出ない。手足が小刻みに震えて喉が渇く。こんなにも喋るのが億劫なのは初めてだ。
「もう決めたんだ早く言うんだ」と思うほどに焦りが募り、汗が首筋を伝う。「逃げてしまおうか」そう思った時、手に暖かさを感じた。

カスミ「・・・」ぎゅっ

サトシ「カスミ・・・」

いつもそうだった。俺が困った時や辛い時にはそばにいてくれて俺を助けてくれた。そして今、また俺はカスミに助けられた。

サトシ「ありがとうカスミ」

カスミ「さぁ、男ならシャンとしなさいよね!」バシン!

サトシ「痛ってえ!」

サトシ「・・・俺、ジムリーダーを目指すよ」

言ってしまった。 この瞬間、俺が今まで続けてきたポケモンマスターへの道の旅は終わった。
しかし、悲観するつもりは無い。コジロウの言葉を借りて言うと、また新しい旅が始まったのだから。そう思うと少しワクワクしてきた。

皆「・・・」

一瞬、俺の発言で皆時が止まった様に静まり固まっていた。しかし、その静寂を破ったのは母さんだった。

ハナコ「・・・サトシ!あなた何言ってるの! 急に旅を止めるなんて!」

サトシ「もう決めたんだ。それに母さんだっt」

ハナコ「馬鹿な事言わないでっ!!!」

サトシ「・・・馬鹿な事ってなんだよ」

ハナコ「私に気を使ってジムリーダーを目指す気でしょう!? 母親を見くびらないで! 私は今まであなたがやりたい事を全力で応援してきたのに、今更そんな事言われたら・・・ 私は・・・」

サトシ「・・・違うよ。もう、充分楽しんだし、今まで母さんは俺の好き勝手にやらせてくれた。それに、ジムリーダーっていうのも悪くないと思う。カツラさんの事知ってるだろ?今はジムリーダーになれる絶好のチャンスなんだ」

嘘はついていない。全部本音だ。カスミがくれた千載一遇のチャンス。俺の年齢を考えるとポケモンマスターへの旅から足を洗いジムリーダーという職をを目指すというのはそこまでおかしな考えでは無いと思う。

ハナコ「それは本当にあなたの意思なの?」

サトシ「・・・あぁ。俺は絶対に最高のジムリーダーになる」

ハナコ「・・・わかったわ。やるからにはしっかりやるのよ!」

サトシ「ありがとう母さん!俺、やるよ!」

俺の旅の終わり方は意外とあっけなかった。そう思うと力んでいた体ががめいっぱい膨らました風船に針を刺したかのように萎んだ感じがした。
夏の暑い夜。その暑さに負けない情熱を心に宿し俺の新しい旅が始まった。

あれから俺は酔った皆にもみくちゃにされ、それから逃げるようにシゲルと二人で家の外で酒をちびちびと飲みながら話をしていた。

シゲル「・・・まさか君があんなことを言うとは思わなかったよ。ここまで驚いたのはテッポウオやヒンバスの進化を初めて見た時以来だよ。 ・・・それで、
本気なのか?」

サトシ「本気だ。 それにお前だって分かるだろ?いつまでも夢を追って母さんに悲しい思いをさせちゃダメだってことぐらい」

シゲル「無論だ。そうなると君はさっき嘘をついたんじゃないのかい?自分の意思でジムリーダーを目指していると」

サトシ「・・・少しな。正直に言うとまだ各地を周って旅を続けたかった。でも、ジムリーダーにも挑戦したかったし、これからはそれに向けてブレずに頑張るつもりだよ」

シゲル「最強のポケモントレーナー、ポケモンマスター・・・」

サトシ「何だよいきなり」

シゲル「なってどうするつもりだったんだ?」

サトシ「わからない。でも、小さい頃から何故か「ポケモンマスターになる」って夢を持ってて何の疑いも無く今まで突っ走ってきた」

シゲル「そうだな」

サトシ「大好きなポケモンたちと何か大きな事を成し遂げたかったんだ。コンテスト、飛行レース・・・色々あるけど俺にはポケモンバトルが性に合ってた」



サトシ「今ままでピカチュウ達は何も言わずに俺に着いて来てくれたんだ。毎日毎日、ポケモンバトルだ修行だって言ってもな」

シゲル「・・・」

サトシ「縁があってゲットしたポケモン達だけどおかしいだろ?俺のわがままに文句一つ言わずにだぜ?俺あいつらに頭が上がらないよ・・・ハハッ」

シゲル「サトシ・・・」

サトシ「俺、あいつらや母さんに何してあげられるかなぁ・・・うぅ」

シゲル「お、おい泣くなよ(泣き上戸か・・・)」

サトシ「ゴメン、少し酔って涙もろくなってたみたいだ」

シゲル「まぁ、君がジムリーダーになれば全て丸く収まるだろう。ハナコさんもジムリーダーの息子を持って鼻が高くなるだろうしポケモン達はお前の意志を尊重してどこまでも付いてくる」



サトシ「・・・そうだな。俺、頑張らなきゃな」

シゲル「ま、ジムリーダーは気合だけでなれるほど甘くは無いけどね」

サトシ「それなんだよなぁ・・・ カスミが勉強教えてくれるらしいけど俺頭悪いし、時間も無いから不安なんだよ」

シゲル「その点は大丈夫なんじゃないかな。筆記試験は君の頭が空っぽなぶんカスミ君の教えはすぐに頭に入るだろうし、実技試験のポケモンバトルは君の専門分野だ
。大切なのはさっき君自身が言ったブレずに取り組む姿勢だよ。しかし、いくら君が強いっていっても余計な事を考えてると実技試験で足元すくわれるぞ」

サトシ「なんか一言多いけどその通りだな」

シゲル「ま、試験の事で困ったら僕の所に来なよ。君のサイホーン並の脳味噌の容量に合うように教えてあげるよ」

シゲルはフフンと笑った。が、しかしそれは嘲笑うといったものでは無く、もっと別の優しいものに感じた。

サトシ「ありがとな。でも、カスミが怒るから遠慮しとくよ」

シゲル「カスミ君が嫉妬ねぇ・・・君たち、もう出来てるんだろ?」

サトシ「そんなんじゃ無いって。俺がシゲルに勉強を教えてもらってるなんてカスミに聞かれたらきっと「あたしの教え方じゃわかんないわけ!?」って言われるしな」

シゲル「あー・・・ 彼女なら言いそうだな。たぶん。いや、絶対に」

サトシ「だろ? まぁ、あいつならきっと解りやすく教えてくれるから大丈夫だと思う」

シゲル「信頼してるんだな」

サトシ「当たり前だろ。何年も一緒に旅してきた大切な仲間だしな」

シゲル「仲間ねぇ・・・ そうだ今度、授業料として彼女をディナーにでも連れて行ってやりなよ。きっと喜ぶよ」

サトシ「な、何だよいきなり」

シゲル「・・・君は鈍感で馬鹿だって言ってるんだ。彼女は君の為にここまでしてくれるんだ、好意が無いわけないだろ」

サトシ「そんなことわかってるよ。でも・・・」

シゲル「僕は君の恋のキューピットになるつもりは無いからどうでもいいがね。でも、いつまでもそういう態度でいると彼女はいつか愛想を尽かすよ」

サトシ「・・・うるせぇ。どうせお前だって未だに性格が悪いから彼女いないんだろ?」

シゲル「ま、周りに僕と同等のレベルの女性がいないだけだ! 君とは違って選んで独り身になってるんだ。そこを勘違いするな」

サトシ「ハハ、図星じゃないか。そのままだとオーキド博士が悲しむぞぉー」

シゲル「うるさい。僕は僕の為に結婚するんだ。君こそトチ狂ってピカチュウと結婚するとか言い出すなよ」

サトシ「実は結婚してるんだな、それが」

シゲル「なにぃ!?」

サトシ「山籠り中ラプラスが提案してきたんだよ。「私達で式を開いてあげる」ってな。まぁ、ごっこなんだけどさ。でも、結構本格的で俺のポケモンと野生のポケモンで協力してやってくれたんだ」

シゲル「協力って・・・お前」

サトシ「コロトックの新郎新婦入場の合奏、リーフィアやフシギハナの草の手作りウェディングドレス、野生のルージュラやラプラス達によるお色直し、カメックスの祝砲、
リザードンとカビゴンの力くらべの見せ物、木の実のジュース、その他色々・・・あの日は最高に楽しかったなぁ。あ! バンギラスが作ってくれた岩の指輪があったな!あいつ強面だけど意外と手先が器用なんだよ。それから新婚旅行はボーマンダに乗って・・・」

シゲル「もういい、頭が痛くなる。全く君って奴は・・・ いっその事ポケモンになりなよ」

サトシ「俺がポケモンになったらノーマル/かくとうタイプだな。お前はずる賢いからあくタイプかもな」

シゲル「うるさい。 ・・・はぁ、なんかどっと疲れたよ。僕はここら辺で帰らせてもらうよ」

サトシ「お、おい。 もう帰るのかよ」

シゲル「君からハナコさん達に挨拶しておいてくれ。行ったらどうせ引き止められるからな」

サトシ「わかったよ。また今度な」

シゲル「次、会う時はジムリーダーになっておけよ。試験に落ちたら僕の研究所の雑用係としてなら雇ってあげるよ」

サトシ「心配無用だぜ。絶対に俺はジムリーダーになるからな!」

シゲル「せいぜい頑張るんだね。それじゃ」

シゲルは後ろを振り向かず手を挙げて去って行った。「シムリーダーに絶対になると」豪語したのはいいが、やっぱり不安だ。
今回のチャンスを逃せば恐らく数十年はジムリーダーになれる事は無いだろう。好きなバトルを仕事に出来きる職業なんてそうそうないし、なれた人は滅多なことでは手放さない。それほど人気で魅力のある職業だ。
一人になった途端急に冷静になってしまってこんな事を考えてしまう。少なからず後悔が残っていた証拠だ。これからこの後悔が強まっていくのか薄まっていくのかは解らない。
どっちに転がろうと足踏みせずに前に進もうと俺は自分に誓った。

サトシ「・・・あいつら気持ち良さそうに寝てるなぁ。 ・・・ん?バリヤードも一緒だったのか。珍しいな」

ピカチュウたちの楽しそうな寝顔から数時間前のこの場所での賑わいが容易に想像できた。

サトシ「コイツ達の寝顔を酒の肴にして今夜は飲もうかな」ちびっ

俺は今日飲んだ酒の味を忘れることは一生無いだろう。そう思えるほどに濃密な一日の中で飲む酒は美味しかった。

ポケモン♂と結婚とかホモつか頭がわいてるな>>1

>>286
文句言っててもちゃんと読んでるんだね

タケシ「カスミ」

カスミ「なに?」

タケシ「お前がサトシにカツラさんの事を話したのか?」

カスミ「・・・どうしたのよ。いきなり真面目になっちゃって。さっきまでオーキド博士と馬鹿騒ぎしてたクセに」

タケシ「茶化すんじゃない。で、どうなんだ、言ったのか?」

カスミ「・・・言ったわ。そしたらサトシは皆の前でジムリーダーになるって・・・私がハナコさんの事を言ったからそれで・・・」

タケシ「・・・そうか。でも、そのことだけがジムリーダーを目指す動機じゃ無かったと思う。他にもあいつなりに思う事があったからああ言ったんだろ」

カスミ「・・・そうよね」

タケシ「それに俺たちの前でジムリーダーになるって言った時のアイツの顔を見たか?」

カスミ「・・・サトシの背中を押したけど本当は怖くて目を逸らしてた」

タケシ「そうか。バトル前のギラギラした顔だったよ。嫌々何かを志す人間にはあんな顔は絶対に出来ない。アイツが旅を止めたのは残念だし寂しいけど、俺はジムリーダーになったサトシを見てみたい」

カスミ「・・・うん、私も。だからサトシと約束したの、ジムリーダーを目指す気があるなら私が勉強を教えてあげるって」

タケシ「うん、それはいいな!サトシは実技の方は問題なさそうだが筆記が危ういからなぁ。忙しい俺に代わってあいつに色々教えてやってくれ」

カスミ「その言い方、私が暇人みたいじゃない!失礼ね!」

タケシ「スマンスマン!お前は姉妹でやってるからって意味だよ」

カスミ「どうだか。でも、サトシの事は私に任せて。何としてでも合格させるから」

タケシ「・・・頼んだぞ」

カスミ「うん。明日から約1ヵ月間死ぬ気で教えればいけると思う。アイツ、基本的には馬鹿だけど何か目標がある時は凄い力出すから」

タケシ「そういう奴だったな。アイツは。何か解らないことがあったら俺にも相談してくれ。オーキド博士ほどでは無いけどポケモンの生態や育成には詳しいつもりだ」

カスミ「ありがとう。私たちでサトシをジムリーダーにするのよ!」

タケシ「ああ!頑張ろう!」

オーキド「・・・サトシ君、成長したのう」

ハナコ「ちょっと前は子どもだったのに・・・ 時が経つのは早いですね」

オーキド「全くじゃ。 孫のシゲルも生意気にも自分の研究所を持ちよった。嬉しいような悲しいような、不思議な気持ちじゃ」

ハナコ「あともう少ししたら完全に私達の手から離れるんですね・・・」

オーキド「・・・そうじゃな。引き止めたいが笑って見送らないといけないのが親。ハナコ君と違って父や母では無いが幼い頃からのシゲルやサトシ君を見てきたから心情は君と同じじゃ」

ハナコ「そんな事を思ってもらえるなんてシゲル君も幸せですね」

オーキド「あいつは素直じゃないからのぉ、直接言ったら茶化されるから思うだけにしとるんじゃ。本当は抱きしめながら言ってやりたいんじゃがな」

ハナコ「フフッ、私もです」

オーキド(お? 良い雰囲気じゃな・・・)

オーキド「さて、感傷に浸るのはここまでにして、向こうでこの「雷皇」でも飲みながr」

タケシ「オーキド博士! 先程の続きを語らいましょう!」ぬっ

オーキド「カ、カスミ君と話してたんじゃ無いのか!?」

タケシ「もう終わりましたから!さぁさぁ、今度はジョーイさんの容姿の遺伝性と性格の共通性について語る約束でしょう!」

オーキド(今日は諦めるかの・・・)

オーキド「よし! タケシ君! わしをポケモンだけの男だと思ったら大間違いじゃぞ! 様々な学問に深く精通しているわしのスーパーな理論を朝まで聞かせてやるわい!」ドン

タケシ「いよっ! 待ってました!」

オーキド「すまんのハナコ君、今度は二人でゆっくり飲もう」

ハナコ「えぇ、そうですわね。楽しみにしてますわ」ニコッ

カスミ(下心丸見えじゃないの・・・)

サトシ「明日からか・・・ 覚える事が山ほどあるんだろうな・・・」ゴロン

酒が入って程よく気持ちよくなってきた俺はカビゴンにもたれて星空を見ていた。

サトシ「ん? こいつらから酒の匂いがする・・・ 酒なんて知らないはずなのに」くんくん

バリヤード「ねむねむ・・・」

バリヤードは幸せそうな顔をしながら酒瓶を抱いて寝ていた。あの真面目でお堅いバリヤードがどういう経路でピカチュウ達の輪に加わったかは知らないが、この様子だと上手く溶け込めて和気藹々と楽しくやれたのだろう。

サトシ「・・・良かったなバリヤード。 それにしても酒瓶なんて誰が持ってきたんだ?」

俺の手持ちの中で唯一家に入れるピカチュウが酒を家から持ち出したとは考えにくいし、そもそも見覚えの無い酒瓶だ。そうなると初めから家にいたバリヤードがどこからか持ってきたかパントマイムで出したかのどちらかか。

サトシ「いやいやパントマイムは無いな。きっとリザードン辺りにそそのかされて母さんが普段飲んでいる酒を持ち出したんだな」

酒のせいだろうか、ちょっとした探偵気分が何故かもの凄く楽しい。

サトシ「リザードン! 犯人はお前だ!」ビシッ

カスミ「あんた何やってんのよ」

サトシ「カスミ!?」ビクッ

カスミ「やだ! あんたもポケモンも酒臭いじゃない! さてはポケモン達にお酒飲ませたわね!」

サトシ「違うって! これはリザードンが・・・」

カスミ「言い訳無用!」パコッ

サトシ「いてっ! っていうかお前も酔ってるだろ!」

カスミ「よ、酔ってないわよ」ぽわぽわ

サトシ「嘘つけ、顔が赤いのが何よりの証拠じゃないか。自分の事は棚においてちゃってさ」

カスミ「・・・ごめん」ムスッ

サトシ「お? 珍しいな、お前が素直に謝るなんて」

カスミ「私を何だと思ってるのよ。自分に非があったら謝るくらいするわよ」

サトシ「まぁ、いいや。こっちに来いよ。夜空が綺麗だぜ」

カスミ「ポケモン達に寝返りで叩かれないかしら・・・」

サトシ「大丈夫。こいつは誰が近くにいる時は絶対に寝返りをうたないんだ」

カスミ「だったら・・・」ごろっ

サトシ「カビゴンの腹、良い感じだろ?」

カスミ「うん、あったかくて、柔らかくて、力強い感じがする・・・ とっても落ち着くわ」

サトシ「うんうん、そうだr べっ!?」べしっ !

リザードン「ガーッ・・・ガーッ・・・」

サトシ「痛ってぇ・・・コイツめ」

カスミ「フフッ、リザードンはそうじゃないみたいね」

サトシ「コイツの事だからどうせ戦ってる夢でも見てるんだろうな」

カスミ「そうかもね」

それからしばらく俺たちは無言で夜空を眺めていた。どこかで聞いたことがあるが本当に仲がいい友人とは沈黙の中であっても気まずさを
感じない。つまり沈黙を共有できるらしい。カスミとはもうそんな仲だ。夜空を見上げるカスミの横顔はいつもより綺麗に見えた。

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