~教室~
女級友「ねぇ委員長、数学で分からないところがあるんだけど……」
委員長「見せてみて! どれどれ……」
委員長「コラ不良! 教室内で騒がない!」
不良「ちぇっ……」
メガネ(ああ、委員長……今日もステキだ)ドクン…
メガネ(美人で、凛々しくて、頭がよくて、スポーツも万能、人望も厚い……)
メガネ(ボクは彼女が好きだ。大好きだ)
メガネ(だけど、ボクは一生この想いを封じ込めたままだろう)
メガネ(だって、ボクみたいな地味なガリ勉が、彼女と釣り合うわけないんだから……)
昼休み──
委員長「…………」ゴクゴク…
委員長「ふうっ」
メガネ(委員長がペットボトルのお茶を飲んでる!)
メガネ(ああっ、なんて優雅な仕草! なんて美しい唇!)ドクン…
メガネ(できることなら、ボクもあの唇に吸いつきたい……!)
メガネ(だけど、ボクが委員長にキスを迫ったところで……拒絶されるに決まってる)
メガネ(だからせめて……間接キッスをしよう!)
放課後──
委員長(さてと、そろそろ帰ろうっと)ガタッ
メガネ(結局、放課後までペットボトルを捨てなかったなぁ)
メガネ(捨てたら、すぐにゴミ箱から回収しようと思ってたのに……)
メガネ(だけど帰り道に、どこかに捨てる可能性がある!)
メガネ(そうと決まれば、委員長を尾行だ!)ササッ
~住宅街~
委員長「あ、お茶が残ってたの忘れてた」
委員長「…………」ゴクゴク…
委員長「ふうっ」
メガネ(お、飲み終わったみたいだ!)
メガネ(さぁ、あとは委員長があのペットボトルを捨てるのを待つだけ……)
メガネ(だけど、このあたりにゴミ箱はなさそうだなぁ……)
委員長「…………」キョロキョロ
メガネ(委員長も捨てる場所がなくて、困ってるみたいだ)
メガネ(ゴミ箱がある場所といったら、コンビニか自販機だけど、どっちもない)
メガネ(ってことは持ち帰るのかな?)
メガネ(そしたらペットボトルの回収がかなり困難に──)
委員長「えいっ!」シュッ
メガネ(えぇえぇええぇ~~~~~っ!?)
メガネ(人の家に投げ入れた! これは意外な展開だ!)
委員長「…………」
委員長「…………」スタタタタッ
メガネ(しかも一目散に逃げていっちゃった……)
メガネ(だけど……黒い委員長もまたステキだ)ドクン…
メガネ(さて、ボクはどうしよう)
メガネ(この家を訪ねて、ペットボトルを回収させてもらうしかないか)
~古い一軒家~
メガネ(理由はペットボトルを持って走ってたらすっぽ抜けて……とかでいいかな?)
メガネ「すみま──」
老人「誰だッ! ウチの庭にペットボトルなんぞ投げ入れやがったのはッ!」
老婆「ひいっひっひっひ! ひどいことする輩もいたもんだねえぇ……」
老人「どんな理由があろうと許せんッ!」
老人「もし犯人が現れたら、この日本刀で斬り殺してくれるッ!」ジャキッ
老婆「ひいっひっひっひ! そりゃいいねぇ!」
老婆「首は塩漬けにして、門に晒してやろうねぇぇ……」
メガネ(ひ、ひえええ……!)
メガネ(どうしよう……。これじゃペットボトルは回収できない……!)
メガネ(いや待てよ! 明日はペットボトルのゴミの日だったはず!)
メガネ(だとしたらきっと、あのおじいさんおばあさんもゴミ捨て場に捨てるはず!)
メガネ(だけど、あのおじいさんならまた外に放り出す可能性もあるし……)
メガネ(今日は寝ずにこの家を見張るしかないな)
翌朝──
メガネ(お、出てきた!)
老人「さてと、ゴミを捨てに行くとするか」スタスタ…
メガネ(あのゴミ袋の中にあるお茶のペットボトル……まちがいない!)
メガネ(委員長が飲んだペットボトルだ!)
メガネ(あのおじいさんがゴミ捨て場に袋を捨てたら、回収してしまおう!)
~ゴミ捨て場~
老人「どっこいせっと」ドサッ
老人「さて、帰るか」スタスタ…
メガネ(捨てた!)
メガネ(さっそく、あのゴミ袋をあさって──)ダッ
バサッバサッ!
メガネ(鳥の羽音! もしかしてカラスか!?)
メガネ(だけど、なんで生ゴミじゃないのにカラスが──)クルッ
メガネ「!?」
グリフォン「我、グリフォン也」
メガネ「なっ!?」
グリフォン「我、最高の力と知能を持つ生命体也」
メガネ「あ……あ……」ガタガタ…
グリフォン「我、ペットボトルを欲する。故に汝、すみやかに移動せよ」
メガネ「バカをいうな! ボクは絶対に間接キッスをしてみせる!」
グリフォン「ならば我、汝を全力で排除する」
メガネ「やれるもんならやってみろ! ボクは負けない!」
メガネ「うおおおおおおおおおっ!!!」
メガネ「ぐ、はぁ……! つ、強い……」
グリフォン「我の勝利、故にペットボトルの所有権、我にあり」
メガネ「なぜだ……! なぜ、グリフォンがペットボトルを欲する!?」
グリフォン「我、ネットゲーマー兼ボトラー也。故にペットボトルを欲する」
メガネ(な、なんてダメなグリフォンだ……!)
メガネ(だけど、こいつをどうにかしなくちゃ間接キッスはできない……!)
メガネ(戦ってダメなら、なんとか説得しなきゃ……!)
メガネ「ボトラーって……おしっこをペットボトルにする人のことだよね」
メガネ「そんなにネットゲームにハマってるの?」
グリフォン「無論。我、ネットゲームに夢中也。一日一時間」
メガネ「短いな!」
メガネ「それならトイレに行くヒマぐらいいくらでもあるだろう!」
グリフォン「我、ネットゲーマーはペットボトルに尿を出さねばならぬと教わった也」
メガネ「どこで!?」
グリフォン「掲示板のネットゲーマー初心者スレッド也」
メガネ「だまされてるんだよそれ! どこが最高の知能だ!」
グリフォン「不覚也」
メガネ「じゃあ……ペットボトルはボクがもらうね」
グリフォン「了解した」
メガネ「最後に、キミは普段なにしてるの?」
グリフォン「公認会計士也」
メガネ「人間相手の商売だったら、もっと柔らかい喋り方をした方がいいかもね」
メガネ「お客さんも怖がるだろうしさ」
グリフォン「我、汝の提案、検討の余地ありと判断する」
グリフォン「さらば」
バッサバッサ……
メガネ(ふう、どうにか追い払えた……)
メガネ(これでやっと間接キッスができる!)クルッ
ブロロロロロ……!
メガネ「ウソォ!? もうゴミ収集車が来てたのか!?」
メガネ「まだ朝の8時なのに、いくらなんでも早すぎないか!?」
メガネ(ペットボトルを持っていかれたし、どうにかして追いかけなきゃ!)キョロキョロ
メガネ(おっ、ちょうどいいところにバイクがあった!)
メガネ(これに乗って──)ドッドッドッドッド…
委員長「あら、メガネ君じゃない。なにやってるの?」
メガネ「い、委員長……!」
委員長「これから学校の時間なのに、バイクにまたがってどこに行くつもり?」
委員長「それにバイク通学が禁止なの、知ってるはずよね?」
委員長「返答次第では、しかるべき措置を取らせてもらうわ」キッ
メガネ(さすが委員長、規律にうるさい! だけどモタモタしてるヒマはない!)
メガネ「うるさい!」
委員長「!」ビクッ
メガネ「文句があるなら後ろに乗れ! 黙ってボクについてこい!」ビッ
委員長(ウソ……メガネ君ってこんなにワイルドだったの……?)ドクン…
メガネ「ボクにしっかりつかまっててね!」ドッドッドッドッド…
委員長「うん!」ガシッ
メガネ「うおおおおっ!」グンッ
ブロロロロロロロロロロロロロ……!
委員長「メガネ君がバイクの免許を持ってるなんて意外だったわ」
メガネ「持ってるわけないだろ」
委員長(やだ……ワイルド……)ドクン…
~高速道路~
メガネ(ぶっ飛ばしたおかげで、だいぶ追いついてきた!)
メガネ(だけどあのゴミ収集車、いったいどこまで向かうつもりなんだ!?)
委員長「ね、ねぇ、メガネ君」
メガネ「なに?」
委員長「ちょっとスピード落とさない? 私、怖くって……」
メガネ「ダメだ! あのゴミ収集車を見失うわけにはいかないんだ!」
メガネ「どうしても降りたいんなら、キミだけバイクから飛び降りてくれ!」
委員長(やだ……ワイルド……)ドクン…
~山奥~
メガネ(ここでゴミ収集車は止まっている……運転手もゴミもない……)
メガネ(ここからは歩いていくしかない、か)
メガネ(ボクはなんとしても委員長のペットボトルを見つけ出してみせる!)
委員長「あ、あの……メガネ君」
メガネ「なんだい?」
委員長「……キスしてくれない?」
メガネ「悪いけど、今それどころじゃないから」
委員長(やだ……ワイルド……)ドクン…
~山奥のアジト~
手下「ボス、ニセゴミ収集車で走り回ってペットボトルを集めてきましたぜ」
ボス「ご苦労だった」
ボス「これだけのペットボトルがありゃ、オレたちの計画は達成される」
ボス「『ペットボトルロケット日本壊滅計画』がな!」
メガネ(な、なんだって!?)
委員長(メガネ君ったら、テロリストを追ってたのね!)
委員長(だけどこんな危険な相手、一度引き返して警察に知らせた方が──)
ボス「オレが発明したペットボトル射出装置なら」
ボス「日本全土に高性能爆薬を積んだペットボトルロケットをばら撒くことができる!」
ボス「そうなりゃ日本はオシマイだ! ガハハハハハハッ!」
手下「さっすがボス! 天才と紙一重!」
メガネ(委員長が口をつけたペットボトルをそんなことに使うなんて……許せない!)
メガネ「そんなことさせるかぁっ!」ダッ
委員長(やだ……ワイルド……)ドクン…
ボス「なんだぁ、てめぇらは?」
メガネ「メガネです」
委員長「委員長と申します」
ボス「公安やサツじゃあなさそうだな……」
ボス「だが、オレたちの計画を知ったからには死んでもらうぜ! 殺るぞ!」
手下「へいっ!」
手下「哀れなる少年少女よ……」
手下「力なき勇気は無謀でしかないことを、存分に味わわせてくれようぞ!」
メガネ「行くよ、委員長! ボクに呼吸を合わせて!」
委員長「分かったわ!」
ボス「ぐぎゃっ……!」ドサッ
手下「なんという強さ……これが“希望”というわけか……」ドサッ
メガネ「ハァ、ハァ、ハァ……やったぁ!」
委員長「やるじゃない、メガネ君!」
メガネ「委員長こそ!」
メガネ「あそこで委員長がボクの迅雷冥王脚に技を合わせてくれなかったら危なかった!」
ボス「まさか……こんなガキどもに計画をジャマされるとはな……」
ボス「だけどよ、まだ終わってねえぜ……」グッ…
ボス「こ、このペットボトルに爆薬を……!」ガシッ
メガネ(あ、あれは! ──まちがいない! 委員長が口をつけたペットボトル!)
ボス「装置にセットして、射出!」カチッ
シュボッ!
ボス「ガハハハハハッ! これで……あのペットボトルは国会を爆破する……!」
メガネ「なんだってぇ!?」
メガネ「そんなことさせるかぁ!」ピョンピョン
ボス「ガハハハハッ! ジャンプしたって届くわけねえだろ!」
ボス「もはやだれも、国会爆破を食い止めることはできねえんだよ!」
委員長「そんな……! メガネ君がここまでがんばったのに……!」
メガネ(あのペットボトルが爆発したら、当然間接キッスはできない……!)
メガネ「くそぉぉぉぉぉっ!!!」
「諦めるなグリ!」
グリフォン「オイラがいるフォン!」バサッ…
メガネ「グリフォン!? 来てくれたのか!」
グリフォン「オイラならペットボトルに追いつけるグリ! さ、背中に乗るフォン!」
メガネ「ありがとう!」
バッサバッサ……!
委員長(最高の力と最高の知能を持つグリフォンを手なずけてるなんて……)
委員長(ワイルドにも程があるわ……!)ドクン…
~上空~
グリフォン「ペットボトルに追いついたグリ! どうするフォン!?」
メガネ「あのペットボトルの口を、ボクの口でふさいでペットボトルを止める!」
メガネ「爆発の危険があるから、ボクがジャンプしたらグリフォンはすぐに離れてくれ!」
グリフォン「分かったグリ! 気をつけろよフォン!」
メガネ「うおおおおおおおおっ!」ピョンッ
メガネ「…………」ハムッ
メガネ(や、やった……!)
メガネ(これで委員長と……間接キス……!)
ズガァァァァァンッ!!!!!
~地上~
委員長「メガネ君……メガネくぅぅぅぅぅぅぅん!」
ポトッ……
委員長「こ、これは、メガネ君がかけていたメガネ……」
委員長「メガネ君は日本を守るため、星になってしまったのね……」シクシク…
委員長「なら、今すぐ私も彼を追いかけなきゃ……」
「そんなことする必要はないよ、委員長!」
ムクムク……
メガネ「やぁ」
委員長「メガネ君!? あ、あれ!? 生きてたの!?」
メガネ「ボクの本体はメガネなんだよ」
メガネ「だからメガネさえ無事なら、いくらでも再生・復元できるのさ!」
委員長「メガネ君って……とことんワイルドなのね!」ドクン…
メガネ「委員長、結婚しよう」
メガネ「ボクはキミと間接キッスをした。つまりボクこそが君の相手に相応しい」
委員長「私、一生ついていきます……!」
グリフォン「だったら、オイラがハネムーンに連れてってやるグリ!」
グリフォン「二人とも背中に乗れフォン!」
メガネ「ありがとう、グリフォン!」スタッ
委員長「お言葉に甘えるわ」スタッ
メガネ「さて委員長、どこに行く?」
委員長「これから寒くなるから、暖かい南国にでも行かない?」
メガネ「さすが委員長、ナイスアイディア! それじゃしゅっぱーつ!」
バッサバッサ……
~ HAPPY END ~
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません