<研究所>
狂科学者「や、やったぞ……」
狂科学者「ク、ククク……」
狂科学者「ククク……クキキキ……キキキ……」
狂科学者「キキキ……ヒ、ヒヒヒ、ヒヒ……」
狂科学者「ヒャハッ……ヒャハハハハハハハハッ! ──ついに完成だ!」
狂科学者「究極の人造生物の誕生だァ!!!」
狂科学者「あらゆる動物の長所を取り入れ!」
狂科学者「あらゆる兵器の機能を備え!」
狂科学者「人間にも勝る頭脳と! 不死身の肉体を持った究極最強生物!」
狂科学者「どんな警備も防壁もシェルターも、コイツを防ぐことは不可能ッ!」
狂科学者「どんな毒もウイルスもミサイルも、コイツを倒すことは不可能ッ!」
狂科学者「コイツに敵う者はもはやこの世に存在しないッ!」
狂科学者「ヒャハハハハハハハハハッ!」
狂科学者「ワタシの崇高なる理論を危険思想などと断じ」
狂科学者「このワタシを学会から追放したグズども!」
狂科学者「このワタシを理解しようとしなかった民衆ども!」
狂科学者「復讐してやる! 復讐してやるぞォォォォォ!」
狂科学者「全世界にワタシという存在を認めさせてやるぞォォォォォ!!!」
人造生物「…………」
狂科学者「さぁ、ゆくぞ!」
人造生物「…………」
狂科学者「手始めに付近の町を滅ぼし、ウォーミングアップだ!」
人造生物「…………」
狂科学者「……どうした? 聞こえているだろう? 動け、動かんか!」
人造生物「…………」ギロッ
狂科学者「!?」
狂科学者「な、なんだ、その目は……!?」
人造生物「ググ……ガガガ……」
狂科学者「よ、よせっ! やめろぉぉぉっ!」
人造生物「ガァァァァッ!」ブオンッ
バキィッ!
狂科学者「ぐはっ!」ドサッ…
狂科学者「キ、キサマ……ワタシを殺す気か……!?」
狂科学者「生みの親であるワタシに逆らう気かァァァァァ!?」
狂科学者「いや……それもよかろう! それでこそ究極兵器だ!」
狂科学者「ワタシを超越し、世界を暗黒に導け!」
狂科学者「地獄絵図と化すこの世を、地獄から眺めるのもまた一興よ!」
狂科学者「ヒャーッハッハッハッハッハァ!!!」
人造生物「…………」
人造生物「なにいってんだ、オマエ」
狂科学者「え?」
人造生物「殺す気で殴ってたら、オマエなんぞ最初のパンチでミンチだっつうの」
人造生物「しかも、オマエを超越するって……自分をどんだけ高く見積もってんだよ」
人造生物「オマエなんか超越しても、オレになんの達成感もねぇよ」
人造生物「オマエみたいな子供にも殴り合いで負けそうな青びょうたん倒したところで」
人造生物「なんの自慢にもならねっつうの」
人造生物「履歴書にデカデカと“英検5級!”とか書いちゃうようなもんだ」
狂科学者「な、なんだとォ……?」
狂科学者「キサマはワタシの存在を全世界に認めさせるために造られた存在!」
狂科学者「この世に破壊と混沌をもたらす存在なのだッ!」
人造生物「破壊と混沌をもたらすゥ?」
人造生物「もたらしてどーすんだ、んなもん。もっと年齢考えた発言しろよ」
人造生物「たしか四捨五入すると、もう40だろ?」
人造生物「30代半ばの男が、破壊と混沌て……泣きたくなるわ」
狂科学者「う、うるさい!」
狂科学者「これは復讐なんだよ!」
人造生物「だれが? だれに?」
狂科学者「ワタシの、全人類に対する復讐なんだ!」
人造生物「復讐、ねぇ」
人造生物「復讐はなにも生まない、なんて甘いことほざくつもりはねーけど」
人造生物「オマエの復讐に妥当性があるかどうかの議論はしときたい」
人造生物「ってわけで質問。なんで全人類に復讐したいの?」
狂科学者「フフフ、よかろう! 答えてやろう!」
狂科学者「ワタシは生物学界において、クローン技術と遺伝子改造技術を応用した」
狂科学者「究極の生体兵器理論を提唱した!」
狂科学者「しかし、学会の奴らはワタシの理論を机上の空論だと笑い!」
狂科学者「大衆はワタシを危険人物扱いした!」
狂科学者「そしてワタシは学会から追放された……」
狂科学者「どうだ!? このワタシの無念! 苦悩! 理解できるだろう!?」
人造生物「ただの逆恨みじゃねーか」
狂科学者「なにィ!?」
狂科学者「ワタシの崇高なる復讐を……逆恨みだとォ!?」
人造生物「オマエのやろうとしてることは、アレだ」
人造生物「素行不良かなんかで学校退学になったバカヤンキーが」
人造生物「腹いせに校舎に火ィつけるとかそんなレベルだぜ」
人造生物「なんかもう……『ザ・逆恨み』って感じだよな」
人造生物「逆恨みとはどういうものか答えなさい、ってテスト問題があったとしたら」
人造生物「オマエのこと書けば花丸もらえるレベルだよね」
狂科学者「な、な……な……!」
狂科学者「ふざけるな! キ、キサマなど失敗だ! 失敗作だ!」
人造生物「どっちが失敗作だよ」
人造生物「親でも殺されたとかならオレも復讐手伝ってやろっかなって気になるけど」
人造生物「オマエの両親って実家で、今も元気に畳職人やってんだろ?」
狂科学者「オヤジとママのことは関係ないだろうが!」
人造生物「あ、母親はママって呼んでるんだ」
狂科学者「悪いか!?」
人造生物「別に」
人造生物「とにかくだ」
人造生物「両親泣いちゃうよ?」
人造生物「息子が逆恨みで破壊と混沌をもたらそうとしてる、なんて知ったら」
狂科学者「あぐぐ……あうぐぐぐ……」
人造生物「オレが失敗作なら、オマエは大失敗作だな」
狂科学者「この、ワタシが……失敗作……?」
人造生物「だってそうだろ?」
人造生物「親孝行もせず、こんな研究所に引きこもって、破壊と混沌、35歳」
狂科学者「や、やめろ! やめろぉぉぉ……!」
人造生物「科学者なら科学者らしく、ちゃんと自分を客観視してみろや!!!」
狂科学者「グギャアアアアアアアアアッ!!!」
狂科学者「あううう……ううううぅぅぅぅ……」
狂科学者「あ、悪夢だ……吐き気がしてきた……あぐぅぅぅぅ……」
狂科学者「ワタシはどうすれば……?」
人造生物「んなもん決まってんだろ。まずは社会的地位を取り戻さなきゃ」
人造生物「学会に頼み込んで、会員として復帰させてもらうんだよ」
狂科学者「バカな! 今さらそんなことできるものか!」
人造生物「できるッ!」
狂科学者「!」
人造生物「手前味噌になるが、ハッキリいってオレは強い、最強だ」
人造生物「もし本気出したら、オマエがいったように世界も滅ぼせるだろう」
人造生物「めんどいし、アホらしいからやらないけどな」
人造生物「ま、なにがいいたいかというと──」
人造生物「こんなすげぇオレを造ったオマエなら、学会復帰くらい余裕だろうがッ!」
人造生物「かっこいいとこ見せてくれやァ……おとっつぁん!!!」
狂科学者「!!!」
狂科学者「キサマは……ワタシを父と呼んでくれるのか」
人造生物「……当たり前だろ」プイッ
人造生物「ボロクソにいっちまったが、なんだかんだ感謝はしてるんだ」
人造生物「生んでくれて、ありがとよ」ボソッ
狂科学者「…………!」ブワッ…
狂科学者「やるぞ、ワタシは!」
狂科学者「学会に復帰して、まっとうな科学道を歩んでみせる!」
人造生物「その意気だ!」
その後──
狂科学者「三日三晩、土下座して頼み込んだら」
狂科学者「どうにか学会に復帰させてもらうことができた!」
人造生物「おお、よかったじゃねえか」
狂科学者「これからは人道的な発明・発見をして、名を成してみせるぞ!」
人造生物「ならオレも、おおっぴらには手伝えねぇが」
人造生物「かげながら協力させてもらうぜ! オマエの助手としてな!」
狂科学者「共に行こう!」ガシッ
人造生物「おう!」ギュッ…
狂科学者(生体兵器を造るために蓄えたノウハウを──)
狂科学者(人類のために生かすんだ!)
狂科学者(ワタシを復帰させてくれた人々に恩返しするために!)
狂科学者(ワタシを再び迎え入れてくれた社会に報いるために!)
狂科学者「おい! この物質の成分を、あの装置で分析してくれ!」
人造生物「ラジャー!」
人造生物(フン……いいツラになりやがって)
人造生物(オレを造ってた時より、よっぽどイキイキしてやがるぜ)ニヤ…
<記者会見会場>
記者「このたびは万能究極細胞『MS細胞』の作成成功、おめでとうございます!」
狂科学者「ククク……大したことではない」
記者「ノーベル賞間違いなしとの声もありますが?」
狂科学者「ま、ワタシの実力ならば、当然だろうな」
記者「ところで、『MS細胞』の“MS”とはどういう意味なのでしょう?」
狂科学者「“マッドサイエンティスト”という意味だ」
記者「え!?」
<研究所>
人造生物「どうやら、だいぶ順調みたいじゃねえか」
狂科学者「おかげさまでな」
人造生物「…………」
狂科学者「どうした?」
人造生物「いや、なんでもない……」
人造生物「さぁ、はりきって他の研究も仕上げていこうぜ!」
狂科学者「うむ!」
やがて──
<教会>
「結婚おめでとう!」 「お似合いだよ!」 「ヒューヒュー!」
狂科学者「フン……心にもないことを」
女博士「これからは夫婦で研究していきます!」
パチパチパチ……!
狂科学者(あれ……アイツは?)キョロキョロ
<研究所>
人造生物(学会に復帰し、数々の研究を成し遂げ、愛する人も見つけた……)
人造生物(オマエにゃオレはもう必要ねえ)
人造生物(だってオマエは“全世界に認められた”んだからな……オレの使命は終わりだ)
人造生物(というか、これ以上オレがそばにいたら色々マズイ)
人造生物(オレはだれも人が来ないようなところで静かに生きるさ……)
人造生物(あばよ……おとっつぁん)クルッ
狂科学者「どこへ行こうというんだ?」ザッ…
人造生物「!」
人造生物「なぁ~んで来ちまうかねえ」
人造生物「もうオマエにゃ、オレは必要ねぇ。だから──」
狂科学者「行くな!」
狂科学者「ワタシがなにを成そうと、キサマが最高傑作であることには変わらん」
狂科学者「ワタシにはキサマが必要なのだよ」
狂科学者「ワタシの最高の研究成果(コレクション)としてな!」
人造生物「なかなか泣かすこといってくれるじゃねーか」
人造生物「だが、オレの存在はどうすんだ?」
人造生物「もし、オレの存在がバレたら、アンタはタダじゃすまねえ」
人造生物「ノートに書き溜めてたポエムなんてレベルじゃねえ黒歴史なんだぞ、オレは」
狂科学者「なぁに、どうにでもなるさ」
狂科学者「なにせオレは、今やだれもが認める天才科学者だからな」
狂科学者「もはやオレという才能を手放したくないという権力者も多い」
狂科学者「キサマが“兵器”という部分はうまく隠し」
狂科学者「社会に馴染ませることなどワケもないことよ」
狂科学者「ククク……さすがワタシだ」
人造生物(コ、コイツ……! 根っこは『マッド』のままだったか!)
狂科学者「というわけだ」
狂科学者「キサマは今までどおり助手として生活してくれればよい」
狂科学者「なお、ワタシが死んだら自動的にコンピュータに」
狂科学者「ワタシの頭脳データが移植される仕組みになっているから」
狂科学者「ワタシが死んだら不死であるキサマは孤独になってしまう、ということもない」
狂科学者「よかっただろ? よかったなァ? ヒャハハハハハッ!」
人造生物「やれやれ……準備のいいこって」
狂科学者「では……ワタシの結婚を祝って二人きりで乾杯といくか」
狂科学者「我が妻となる女博士も、ワタシに似て心根はなかなかマッドだから」
狂科学者「きっとオマエのよき理解者となろう」
人造生物「類は友を呼ぶ、ってか」
狂科学者「コップはないから……このメスシリンダーでよかろう」
人造生物「あのさ……せめてビーカーにしてくんない?」
─ おわり ─
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