オリジナル百合SSアンソロジー集 (218)

・一つの学校を舞台にした百合SSをぽつぽつと書いていくスレです。

・濃いめから薄め、明るい話から暗めの話まで幅広くいきます。

・一つ一つの話は短めになる予定です。

・地の文は少なめになると思います。

・ある話に登場したキャラクターはそのあとの話に交じることがあります。

・不定期更新です。たぶん頻繁には投下しません。

・書きためなし。そのため話が矛盾することもあるかもしれません。

・色々な商業作品をリスペクトして書くこともあると思います。

・こんな性格の二人の絡みが見たいというリクエストがあれば喜んで受け付けます。

・キャラクターの容姿は今後、「ジンコウガクエン2きゃらめいく」で作成し示す予定です。
ttp://www.illusion.jp/preview/jg2/download/02make.php(18歳以上の方向け)

・キャラクターの簡単な説明などは、物語の冒頭で紹介する予定です。

>>1の気力によって、上記の内容とは異なる展開がなされる可能性があります。

・読んで下さる方には、暇つぶし程度と考えていただければ幸いです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1430748979

<不真面目少女と委員長>


【キーワード】


「錦坂上女子学園(にしきさかがみじょしがくえん)」

物語の舞台となる高等学校。通称「ニサジョ」。名前のごとく、長めの坂の上に位置する。
歴史ある学校ではあるが、とびきり優秀な生徒が集まるというわけではない。
お嬢様がちらほら在籍するが、お嬢様高校というわけでもない。
寮や合宿所、品ぞろえ豊富な売店、学食などが敷地内に存在する。
制服はttp://uploda.cc/img/img5547842e47bfb.PNG


「不真面目少女」

白鷲 姫路(しらさぎ ひめじ)
この物語の主人公その①。授業をよくサボる。地頭は悪くない。
焼きそばパンを愛する女子高生。
http://uploda.cc/img/img554785d8450eb.png



「委員長」

加里屋 赤穂(かりや あきほ)
この物語の主人公その②。欠点という欠点がなく、同級生、先輩後輩問わず愛される。
少しおちゃめな部分がある。
http://uploda.cc/img/img554788dcad88c.png
http://uploda.cc/img/img554788e837f3d.png

――ここは、錦坂上女子学園。

小高い丘のうえにある、歴史ある学び舎。

青春を謳歌する者。

勉学に励むもの。

日々迷いながら、悩みながら、人生を歩む者。

「みな、自由たれ」

の言葉のもと、少女たちは色とりどりの学園生活を送っている。

これからの物語は、そんな彼女たちの

何気なく、それでいて、かけがえのない

大切なひと時の、お話。

本編始まってないけど今回はここまで。

――別に。

勉強が嫌いなわけじゃない。

むしろ知識を増やすことは好きだ。

中学生の時、テストの順位はいつも上位だったし。

先生が特別嫌いってわけでもない。

授業をさぼってもネチネチと言ってくることもないし。

まぁ……うるさいのもいるけど。すれ違いざまに一喝するだけだから、マシ。

クラスに居づらいなんてこともない。

悪口を言うようなヤツもいないし。

友達っぽいのも、いるし。一応。

ただ、50分もの間

固い椅子に座って、ぼーっと黒板を眺めていたり

必死こいてグラウンドを走り回ったり、ボールを追いかけたりするのがめんどくさいだけ。

やる気の無さがピークに達すると、ふらっと教室を抜け出して

人気のない場所で、スマホをいじくりながら、授業の終わりを告げるチャイムが

あるいは、その日を終えるチャイムが鳴るまで、ぼーっとしている。

それが私の毎日だった。

アイツが、来るまでは。

――屋上

その日も、屋上には誰もいなかった。


昼休みには、弁当を持ってきた生徒たちで賑やかになる場所も

授業中はそれが嘘であるかのように、静まり返る。

教師たちが重い腰を上げて、見回りに来ることもない。

まぁ、私がサボっていることがばれたとしても、先生たちは“早く戻れよー”とか

”先生も一緒にサボってええかー?”とかしか言ってこないのだが……。

(教師としていったいどうなんだ、その発言は。私が言えたことじゃないけど)

授業を受けるのが面倒でサボっているのに、教師に絡まれると余計に面倒になるので

できるだけ彼らと会わない場所のほうが都合が良い。

そんなわけで、授業時間の屋上は、私のお気に入りのサボりスポットであった。


丁度日陰になっている所に腰を下ろし、空を眺めたり

スマホをぺたぺたと触ったりして暇つぶし。

時折聞こえてくる笛の音や、きゃぁという甲高い……いかにも女の子らしい歓声を聞きながら

(どこかのクラスは体育でもやってんのか、ご苦労なこった)

とか思っていた。

スマホをいじくるのも飽きて、ポケットにしまおうとしたとき

“カラカラ”と、ドアが開く音がした。

私が屋上に来るときには、毎回聞いている音なので、大分耳慣れているはずなのだが

油断が頂点に達していた瞬間だったので、ついびくりと体を揺らす。

(……誰だ一体。こんな時間に屋上に来るヤツは)

珍しいなぁとか思いつつ、風でぐしゃぐしゃになった髪を軽く整える。

(めんどくさくない先生だと良いけどな……)

(……先生とは限らないか。凶器をもった不審者……)

(それとも、サボり仲間かー……)

ぼーっと思いつくことを頭の中に巡らせながら、傍らに置いてあったイチゴ牛乳のパックに手を伸ばし。

(……あめー……)

何となく、こちらに近づいてくる足音の方へ、目をやった。

伸びた人影が、どんどんと大きくなっていく。

(……)


いよいよ、その姿が見えた時

私は、内心……非情に驚いた。

なぜなら、そいつは……絶対にサボらなさそうな、ヤツだったからだ。


「あっ……」


「……へっ?」

赤穂「白鷺さん、授業中いないなーって思ってたら、こんなところにいたんだ」

姫路「い、委員長……」


意外な訪問者とは、我がクラスの学級委員長であった。

名前は……赤穂とか、だったはずだ。苗字は覚えていない。

勉強も、運動もでき、面倒見も、人当たりも良いという完璧超人……

そんな評判を聞いたことがあった。

確かに……教室で話すことはほとんどないが、朝、すれ違ったりすると、笑顔で声をかけてきてたっけ。


……しかし、なぜそんなのが、こんな時間に、こんな所へ……

気になるような、気にならないような。


姫路(まぁ、別にいいか……)

赤穂「ねぇ、白鷺さん」

姫路「……ん?」

赤穂「もし、お邪魔じゃなければ、隣、良いかな?」

姫路「……別にいいけど」

赤穂「ふふ、ありがと! お邪魔しまーす」

姫路(……お邪魔します?)

赤穂「ふぅー……いい天気だね」

姫路「……」

赤穂「静かだし、風も気持ちいい……」

姫路「……んー」

赤穂「授業中の屋上って、いっつもこうなの?」

姫路「まあ、晴れてりゃ……大体は」

赤穂「へぇー、ふふ……良いね」


赤穂「……」

姫路「……」


赤穂「こうやって、白鷺さんと二人で話すのって初めてだよね」

姫路「……あー、うん」

赤穂「私、白鷺さんといろんな話してみたいなって思ってたんだ」

姫路「物好きだね……」

赤穂「え? ヘンかなぁ?」

姫路「だいぶ」

赤穂「えー……そうかな?」

姫路「おぅ」

赤穂「そっかぁ、変かー……ふふふっ」

……なんだろう、この空間。

なんだろう、コイツから放たれる雰囲気。

良い人っぽさが、言葉の端々から、話し方から、じんじんと伝わってくる。

うるさくもなく、かといって静かすぎず……

会話も、間の取り方も……私を疲れさせない、絶妙なものである。

ここまで、アレだと……妙に緊張してしまう。

……緊張してしまうのだが

居心地は、全く悪くなかった。

赤穂「――っと、いけない。戻らなきゃ」

赤穂「先生に頼まれごとしてたんだった」

姫路(なるほど、だから授業中に……)

赤穂「ごめんね、急にお邪魔しちゃって」

姫路「……ん」

赤穂「あ、そうそう。たまにはちゃんと授業に参加しなきゃだめだよ」

赤穂「最近、授業のスピードが速いし……置いてかれちゃうかもだよ?」

姫路「う……」

姫路(やっぱり、それは言われるんだなー……)

赤穂「じゃあ、またね!」

姫路「ん、また……」


パタパタ......


姫路「……」


赤穂「白鷺さーん!」

姫路「!」ビクッ

姫路「……何ー?」

赤穂「またここに来ても良いかなー?」

姫路「……」

姫路「別に、良いけどー?」

赤穂「……♪ ありがと!」


パタパタパタ.....


姫路「……」

姫路(なんで、嬉しそうだったんだろ)

姫路(……っていうか)

姫路(授業に出ろって言うくせに、またここに来ても良いか聞くんだ)

姫路(そもそも、授業中に……先生に頼まれごとしてて)

姫路(なんで屋上に来たんだろーな……)

姫路(……)

姫路「まァ……いっか」

それ以来、委員長は授業中や、休み時間に

私のいる屋上へたびたび訪れるようになった。

話しかけるのは向こう。

内容は他愛のないもの。好きな食べ物とか、動物とか。血液型とかも聞かれたような。

私は、中身のある返答をしているわけでもないと思うのだが

向こうは、それでも、満足そうに微笑んでいた。

(変なヤツ)

と、毎回毎回思っていたけれど

そんな委員長との時間を良いと思う自分も、いたのかもしれない。

(……私も、大概、変な奴だ)



だって今日も、あいつが来るのを待っている。

いったん休憩。

……ある日のこと。

私は、いつものように教室を抜け出して、屋上に向かっていた。

午前の授業は、教師がいないとかで、自習。まぁ、それなら、サボろうがサボらまいが大して変わらないだろう。

手には売店で買った、イチゴ牛乳と焼きそばパン2つが入った袋をぶら下げている。

いつもは昼休みが過ぎてからが私のランチタイムなのだが……今日は変に腹が減っていたので、早めの昼食だ。


姫路「……ふぁ~あ……」


ぺたん、ぺたんと階段を上り、やっとのことで開けた踊り場に着く。

外の方に目をやると、すでに屋上には人影があった。


姫路(あれ……珍しー。 私より先にいるなんて)

姫路「……よ、委員長」

赤穂「! 白鷺さん!」


私が声をかけると、彼女は勢いよくこちらを振り向いた。

赤穂「その袋……売店で、何か買ってきたの?」

姫路「ん、まぁー……昼飯」

赤穂「焼きそばパン?」

姫路「そ、それとイチゴ牛乳」

赤穂「ふふ、ほんとに焼きそばパンが好きなんだね」

姫路「まぁな」


ゆっくりと歩みを進め、委員長の隣に座る。

ベンチでも日陰でもないけれど、そこは特に気にしなかった。

私が座ると、委員長もそれに続くように屈んだ。


赤穂「そっかぁ……お昼ご飯かぁ」

赤穂「私も持ってくれば良かったかな? えへへっ……」

姫路(……)

姫路(……何だろ)

地べたに胡坐をかくことは、気にしなかったのだが

私は、いつもは無いはずの、違和感を覚えていた。


姫路(何となく……居心地が悪いような)


道路を2人で歩くときに、いつも右側を歩いている人が、ある日突然左側を歩くと、何となく嫌だと思う

それと同じように

先に委員長がいることに、今までとは違うものを感じているだけだろうか。


姫路(気のせいか……?)

姫路(まぁ……別に)


姫路(……別にいい、で終わらせたくねーな……なんか)


いつもは“別にいいや”で終わらせる、めんどくさがりな私も

その時は、それで終わらせたくない気がした。

姫路「委員長」

赤穂「ん? どうしたの?」

姫路「今日は、私より早かったよな、屋上に来るの」

赤穂「あ……うん、そうだね」

姫路「何かあった?」

赤穂「ううん、別に、何もないよ?」


何もなかったのは……うん、本当っぽい。


赤穂「どうして?」

姫路「いや、珍しいと思ってさ。いつもは授業中、ちょっとだけ、顔出したりする程度だし」

赤穂「珍しい……かもね」

赤穂「今日はたまたま、午前中ずっと自習でしょ? だから、少しくらい長く屋上にいても良いかなって……思ったんだけど」

姫路「ん……なるほど」

赤穂「私が、こうして授業をサボっちゃうって……変、かな」

赤穂「イメージと、違ったりするのかなぁー……? ふふふっ」

姫路(ん……?)


委員長は、いっつも笑っている。

少し驚いたり、怒ったふりをすることはあるが……基本は、笑顔だ。周りを明るくするような。

しかしこの時だけは、笑顔だけど、少しだけ、困ったような……悲しそうな。そんな表情を孕んでいた。


姫路(……これか)

姫路「確かに、イメージとは違うかも」

姫路「授業に向けて予習して、ノートばっちりとって」

姫路「質問にも難なく応えられて、クラスメイトに尊敬されるような」

姫路「絵にかいたような優等生、っていうイメージとはさ」

赤穂「うん……だよね」

姫路「でも」


姫路「良いんじゃねーの、別に。授業サボったって」

姫路「そんなイメージと違ってたってさ」


赤穂「――!」

姫路「少なくとも、私はそう思う」

姫路「……私自身、自分のイメージなんて気にしてねーし」

赤穂「白鷺さん……」

姫路「今は授業サボってばっかだけど……昔は結構真面目で、成績優秀だったんだ」

姫路「……前にこの話はしたっけ」

赤穂「そうだったんだ……初めて聞いた」

姫路「まぁ、んなことどーだって良いんだ……」

姫路「私自身のイメージ……誰に、どんな風に思われてたかなんて知らねーけどさ」

姫路「他人の持つそれがいくら変わろうと、自分は自分に違いないんだし」

姫路「委員長にだって同じこと言えんじゃねーの?」

赤穂「……」

姫路「……っと、ゴメン。 なんか、説教みたくなっちゃったな」

赤穂「いいの……」


赤穂「……ねぇ、白鷺さん」

姫路「ん?」

赤穂「少しだけ、話聞いてもらってもいいかな」

姫路「……」

姫路「別に……私で良いんなら」

赤穂「……ありがと」

赤穂「私ね……昔はそれほど勉強が得意でも、好きでもなかったの」

赤穂「引っ込み思案で、怖がりで……人と接するのだって、それほど上手じゃなかった」

赤穂「でも、あるとき……テストで良い点を取ったの」

赤穂「そうしたら、お父さんやお母さんがすごく褒めてくれて……それがすごくうれしかった」

赤穂「次のテストでもいい点を取れば、また、褒めてくれるんじゃないかって思って、勉強を頑張った」

赤穂「そうしたら、また良い点数を取って……今度は、両親だけじゃなくって、先生や、同級生にも、偉いね、すごいねって言われて」

赤穂「勉強を教えてほしいって、言ってくれる友達もいて……教えてあげれば、とっても喜んでもらえた」


赤穂「いい成績を残せば、褒めてもらえる」

赤穂「みんなに優しく接すれば、みんなのために頑張れば、喜んでもらえる」

赤穂「……そんな風に、考えるようになっていったの」

姫路「……勉強したり、人のために頑張ったりっていうのが、嫌になった?」

赤穂「そんなこと……無いよ」

赤穂「頼ってもらったり、期待されたりすると……やっぱり嬉しい」

赤穂「でも、同時に……頼られたら、頼られたなりに、頑張らなきゃ」

赤穂「期待に応えなきゃ……って思った時に、期待通りの動きが出来なかった時のことが怖くなっちゃって」

赤穂「弱音なんて吐いたら、失望されちゃうって思って」

赤穂「弱いところを見せないようにしなきゃって……」

姫路「それで、それがどんどんと積み重なってきて、辛くなってきて……」

姫路「……逃げたくなった」

赤穂「……うん」

姫路「ふーん……」

姫路(……)

委員長がいつも笑顔だったのは、弱みを見せないためだったのだろうか。

勿論、純粋に笑っているときもあるだろうけど。

……もしかしたら、私が今まで気づかなかっただけで

委員長が初めて屋上に来た日にも、今日の“違和感”の正体は、存在していたのかもしれない――

――と、思った。

姫路「まァ……さ」

姫路「逃げたいときは、逃げりゃいい」

姫路「弱音吐きたいときはさ、吐けばいいじゃん」

姫路「……むしろ、そういうところ合った方が親しみやすいってーか」

姫路「うん、なんつーか、そういう部分……あると思う。 現に私、委員長の本音言ってもらえてうれしいし」

赤穂「……白鷺さん」

姫路「それでも、どうしても……みんなには弱いとこ見せらんねーなら」


姫路「私が……」

姫路「……そのための場所になってやるからさ」

赤穂「っ……!!」

姫路「……」

姫路「って、何言ってんだろ……私」

姫路「私なんかじゃ、アレだよな……頼りになんねーっつーか……」

姫路「不満だよな……サボってばっかのォッ――!!


ギュゥ....!!

姫路(あれ……? 私、なんで)


赤穂「……全然、不満なんかないよ」


姫路(委員長に……)


赤穂「白鷺さん……」


姫路(……ってか、なんか、体温が……伝わってくるんだけど)


赤穂「……ありがとう」


姫路「……おう……」


姫路(なんだ、コレ……)

その20秒間は、それまで私が感じてきた時間の経過の中で

最もゆっくりに感じられた一瞬。


それまで聞こえていた、風の音も、葉がこすれる音も

笛の音も、女子たちの叫び声も、遮断されて

自分の心臓の鼓動音と、委員長の声だけが頭の中に響いていた。



解放されてからも、腹から背中にかけて残った、彼女の熱は

何故だかその日からしばらく、火傷のように

厄介にも、私の体に居座り続けた……。



<不真面目少女と委員長その①、おしまい>


・今後は、この2人が別の話に脇役として出てくることがあると思います。

・この2人が主役の話(デート編とか、そんな感じの)もまた別に考えていきます。

・以上のような形で、スレを進めていきます。

今回はここまで。

<不器用>


【キーワード】


「不器用」

春待 弥生(はるまち やよい)
この物語の主人公その①。自分の気持ちを伝えるのがヘタクソ。
ついつい悪態をついてしまう一方で、本当に言いたいことを言えず、毎度毎度後悔する。
アイスはオレンジなどの柑橘系フルーツ派。
http://uploda.cc/img/img554b7a2aac632.png
http://uploda.cc/img/img554b7a3894c60.png


「タラシ」

南風月 カンナ(はえづき かんな)
この物語の主人公その②。基本的には気持ちを伝えることが上手い。
相手をよく褒めたり、好意を口に出したりする。顔だちも整っている事も相まって、実にモテる。
アイスはチョコレート派。
http://uploda.cc/img/img554b7df801ce4.png
http://uploda.cc/img/img554b7e1d4ae2f.png


「クラスメイト」

末津 雪(すえつ ゆき)
この物語の脇役、他の物語の主役(予定)。上二人のクラスメイト。
糖分と恋バナが栄養分。一見カワイこぶってそうだが、冗談は通じるし、面倒見は良いので、周囲からはおおむね好評を得る。
アイスは以外にも(?)抹茶派。
http://uploda.cc/img/img554b7ffe4f5d4.png
http://uploda.cc/img/img554b802243fba.png



本日は設定の投下のみ。

どのロダなら表示されますか?

GJ
保健室で先生と生徒百合希望

imgurだと助かる

>>44
はい
期待通りの物を考えられるかどうかは分かりませんが、努力します

>>45
制服
http://i.imgur.com/mciCRjS.png

白鷺 姫路
http://i.imgur.com/zX7OVVk.png
http://i.imgur.com/mNTIVed.png

加里屋 赤穂
http://i.imgur.com/jK1qT0P.png
http://i.imgur.com/dBPGMpN.png

春待 弥生
http://i.imgur.com/KLQe64V.png
http://i.imgur.com/3aBV6ep.png

南風月 カンナ
http://i.imgur.com/JWXVTJy.png
http://i.imgur.com/yoBJwJB.png

末津 雪
http://i.imgur.com/jyVeZes.png
http://i.imgur.com/SmtWZBI.png

こんな感じでいかがでしょう

憂鬱な朝。

別に朝は苦手じゃない。むしろ、他の人たちより得意だと思う。

いっつも6時前には起きて、軽くジョギング。

シャワーで汗を流して、ご飯を食べて

皺の無い制服を着て、学校に行く。

一部の生徒たちから恐れられている校舎へと続く坂も、苦ではない。

じゃあなぜ、憂鬱な朝なのか?

私のトーンダウンの原因は、他にある。

それは……


「おはよう、今日も可愛いね」


……隣にいるこのバカのせいだ。

―――――教室


雪「――あ! 弥生ーっ! おはよ!」

弥生「……おはよ、雪」

雪「ってー……今日もテンション低ーっ!」

雪「朝からお疲れな感じぃ?」

弥生「別に疲れちゃいないけど……結構な頻度で“ああ”だと気がめいるわよ、まったく」

雪「……またまたカンナがファンとやらに囲まれたの?」

弥生「そうよ」

雪「相変わらずだにー……」

雪「ねぇねぇ、それで、今日は何人だった?」

弥生「4人組1組、2人組3組。計10人」

雪「おぉ! 新記録タイじゃん! 惜っすぃー!」

弥生「何楽しんでんのよ……てか記録って何よ」

弥生「まさかアンタ……いちいち記録取ってたりするんじゃないでしょうね」

雪「ま、まさかぁ! なんとなーく覚えてるだけだってぇ」

弥生「……ま、そうよね。 アイツの記録をメモるなんて悪趣味なこと、雪がするはずないわ」

雪「あはは……悪趣味って」


カンナ「弥生ーっ」

雪「……っと、話していたらご本人が到着~」

弥生「ちっ……」

カンナ「はぁ……ふぅ……もう、酷いじゃないか……私を置いて先に教室に行くなんてさ」

弥生「アンタが勝手にファンとやらに絡まれてたんじゃない」

弥生「あいにく私には関係ない子たちだし、別にいちいち待つ必要なんてないでしょ」

カンナ「まぁ、そうかもしれないけどさ……別に私だってファンを持ちたくて持ってるわけじゃないよ」

カンナ「ただ彼女たちが私に好意を寄せてくれてるんだから、それを無碍にすることもできないし……」

弥生「持ちたくて持ってるわけじゃないぃ!? 毎朝すれ違う子を口説いてるくせに、説得力のかけらもない!」

カンナ「口説いてるって……私はそんなつもりはないんだけどなぁ」

弥生「無意識なら余計にタチが悪いわよ……! だいたいアンタは」

雪「まぁまぁ、お二人さん。 ここらでいったん夫婦喧嘩はやめにしません?」

弥生「ふっ……!」

カンナ「おっと、雪! おはよ」

雪「おはよ、カンナ♪」

カンナ「ん……ヘアゴム変えた?」

雪「うん! 昨日お店に寄ったらぁー可愛いの見つかったから買っちゃったんだー」

カンナ「そっかぁ……すごく似合ってる。 可愛い……」

雪「あはは、カンナは今日も絶好調みたいだねー」

弥生「言ったそばから口説いてるじゃない……」

雪「ほんとにねー。 私じゃなかったら間違いなく勘違いするとおも!」

そう。カンナはいつもそうだ。

本当に無意識なのかどうかはわからないが、出会った女の子を褒めまくる。

髪質から、身に着けている小物……自分が良いと思ったところは、何でもかんでも賞賛の対象。

コイツ、顔は良いから、褒められた女の子はすぐに好意を持っちゃって。どんどんコイツを追いかける子が増えて。

その子たちへの対応で毎回毎回苦労する。

1限目の授業開始時刻ぎりぎりまで、対応に追われることもあった。

……自業自得だ。


カンナ「しかし喉乾いたな……授業始まる前に何か飲み物買ってくるけど、欲しいモノとかある?」

雪「あ、じゃあ抹茶オレおねがぁーい」

カンナ「いつものやつね。 ……弥生は?」

弥生「私は別にいい」

カンナ「ん、分かった」


バッグの中から、財布を取り出して教室を出るカンナ。

……廊下に出て早速、隣のクラスの子に声を掛けられていた。


弥生「はぁ……」

雪「……ほーんと、カンナは相変わらずですなぁ」

雪「タラシってゆーか……ジゴロってゆーか……罪作り?」

雪「ちょっとした変化をすぐ見つけられるって所は、しょーじき凄いと思うけど」

弥生「……あんなののどこがすごいのよ」

弥生「全く……朝からファンとやらに気を遣ったり、バカがヘラヘラしてる光景を見せられてるこっちの身にもなってみろっての」

弥生「精神的に疲れて仕方ないわよ」

雪「あはは、毎回見てたら確かに疲れるかもー」

雪「……でもさ、そんなこと言いながらも弥生は毎回カンナと一緒に学校来てるじゃーん?」

弥生「う……」

雪「毎朝大変ならさ、一緒に登校しなければ良い話っしょ!」

弥生「それは、その……家が近いから、仕方なく」

雪「ふぅーん?」

雪「……家が近くても別に一緒に学校来る必要なくない?」

弥生「……うぐッ」

雪「くふふっ……」

弥生「な、何ニヤケてんのよ!」

雪「別にぃー? ……ただ、弥生もカンナのファンの一人なんだなーって、改めて思って♪」

弥生「だッ! 誰が! あんな奴!」

雪「まぁまぁ、隠さなくても良いじゃないですか!」

雪「良いと思いますよ、好きな人がいるってことは! うんうん! 恥ずかしいことじゃない!」

弥生「アンタの場合は、ただ単にそういう話が好きなだけでしょ! ……っていうか」

弥生「勝手に私があいつのこと好きみたいな感じで話進めるのやめなさいよ!」

雪「えへへ、ごめんごめん♪」

弥生「全く……どいつもこいつも……」



……否定はしているけれど

雪が言っていることは、間違いではない。

正直に言ってしまうと、私はアイツのことが好きだ。

小学5年生の頃、こちらに引っ越してきて。 その学校で出会ったアイツを

目で追うようになったのは、小学6年生の終わり頃だったと思う。

一緒になって学校に来るのも、家が近いからという理由だけではない。

私が、一緒にいたいから……そうしているだけだ。


そもそも、私がなんであんなバカのことを気にするようになったのか。

……いつの間にか、好きになってた。 とか、そういうのだっただろうか。

顔はそれなりに整ってるとは思う。 でも、それがアイツを好きになるきっかけではなかったはずだ。

まさか自分が人の顔で相手をすぐに好きになってしまうような、面食いだとは思いたくない。

何か明確な理由が、昔はあったと思うのだけれど。

アイツがバカでバカで……仕方ないから、忘れてしまった。

うん、アイツのせいで、忘れてしまった。 そういうことにしておこう。

そうでもしないと、なんだか今日は腹の虫が収まらない気がした。


弥生(何がちょっとした変化を見つけられる……よ)

弥生(私には、ヘアゴムを変えようが、髪を切ろうが……大して何も言わないくせに)

弥生(……バーカ)

とりあえず今日はここまで。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

午前中の授業を終え、昼休みを告げるチャイムが鳴る。

クラスのみんながめいめいに、疲れたとか、お腹すいたとか言いながら

お弁当を広げたり、売店の袋を漁り始めた。

弥生「ふぅ……」

カンナ「お疲れ、弥生。 私達もお昼にしよう」

弥生「……そうね」

カンナ「今日はお弁当は?」

弥生「持ってきてないわ」

カンナ「私も。 じゃあ、食堂で良い? それとも売店行く?」

弥生「売店で何か買ってきて、教室で食べましょ。 今日は天気悪そうだし……屋上は駄目よね、きっと」

カンナ「そうかも。 そういえば今日は雨の予報だった気がするな……あ、雪は?」

雪「私はもう買ってあります! お二人で行ってらっしゃいませぇ♪」


ニヤケ顔で、どうぞどうぞ、楽しんできてくださいというような風に手をひらひらさせる雪。

朝のことを引きずっているらしい。他人事だと思って……


カンナ「そっか。 じゃあ、弥生、二人で行こうか」


……言われなくても行くわよ。

廊下に出ると、他のクラスの友人と話している子たちであふれていた。

まだ雨は降っていないようだが、じき降り出しそうな空模様を察して、外に出ないでいるようだった。


カンナ「賑やかだね……こんな感じだと売店も混んでるかな」

弥生「そうかもしれないわね。 あのパン、売り切れてなきゃいいけど」

カンナ「……ああ、弥生のお気に入りね。 アレ結構競争率高いから、無くなっちゃってるかもね」


ウチの学校の売店に並ぶパンは、なんでも近くのこだわりのパン屋から仕入れている焼き立てらしく

その味はお墨付きだ。さらには、校内限定で販売されているパンもあり、このパン目当てで入学する生徒もいるとか、いないとか。

私のお気に入りは、デニッシュ生地で、オレンジピールが入ったマーブル模様が美しい、ふんわりとした食感のパン。

生徒からの人気も高めで、何度か売店に買いに来ているが、3度ほど、すでに完売となっていたことがあった。

まぁ、その商品にだけ固執しているわけじゃないけど……売店にお昼を買いに行くなら、できれば購入したい、そんな一品。


弥生「まぁ、売り切れたなら売り切れてたで良いわよ。 アンタは何にすんの?」

カンナ「んー、そうだな……私は今日は何にしようかな……やきそばパンとか」

姫路「悪いけど、焼きそばパンはもう売り切れ。 私が買ったヤツで最後」


カンナが何を昼食にしようか思案していたところ、突然声をかけてきたのは、私とカンナの共通の友人である、白鷺姫路だった。

カンナ「おっと、姫路か」

姫路「よう」

弥生「姫路、アンタ、午前中見かけなかったけどもしかしてまたサボってたの?」

姫路「ん、まぁー……そんなとこ」

弥生「アンタも懲りないわね……中学校時代の真面目さはどこ行ったんだか」

姫路「ほっとけ……」


手首に売店の袋をぶら下げながら、けだるそうに髪をいじる姫路。

髪色とその低めの声色から、少し怖い印象を与えるが、根はとてもしっかりしている。

現にこいつにも、好意を寄せる子がいるらしい。


カンナ「なんだ……焼きそばパンは売り切れかぁ。 残念だな……」

弥生「って、姫路! その袋の中に焼きそばパン3つ入ってるじゃない! お昼に焼きそばパンばっかり、そんなに食べる気?」

姫路「一人で3個も食うわけねーだろ。 私は2個しか食わねーよ……」

カンナ「2個でもそれなりに多いとは思うんだけど……ホント焼きそばパン好きだよね、姫路は」

カンナ「……私は、かわいらしい顔とそのギャップ、好きだけどさ」

姫路・弥生「「お前(アンタ)本当にバカだろ(じゃないの!?)」」

カンナ「わ! ……何も声をそろえて言わなくったって良いじゃないか……私はほんとのことを言っただけなのに」

姫路「……ったく、コイツこそ、中学校時代はもっと面倒じゃなかっただろ」

弥生「まぁ、そうかもしれないわ」

カンナ「二人とも厳しいな……」


苦笑いを浮かべるカンナ。

そういえば、困ったような顔も素敵だと、どこかで言われていたっけ。

それを思い出したら、またムカついてきた。


姫路「……と、忘れるとこだった。 カンナ」

カンナ「ん? どうしたの、姫……うわ」


姫路が制服のポケットに手を突っ込んだかと思うと、

ピンク色のかわいらしい封筒をカンナの前に突き出した。


弥生「えっ……!」

カンナ「な、何? これ、私に……?」

姫路「そ。 言っておくけど、私が書いたやつじゃねぇからな……」

姫路「渡すのめんどくせぇとは思ったんだけど……渡さなかった時の方がもっと面倒になりそうだったから」


カワイらしい装飾がされた封筒。 それはまさしく――

雪「えぇ~~~ッ!? ら、らぶれとぅあぁ~~~っ!?」

カンナ「ゆ、雪、声がおっきいよ……」

雪「そりゃ声もおっきくなるってぇ! ねぇねぇ、ちょっとだけ見せて! どんなの? 何が書かれてあったの!?」

カンナ「落ち着いてよ、雪……」

雪「お、落ち着けるかぁ~~っ!!」


姫路から渡された封筒は、カンナの熱狂的なファンからのラブレターだった。

姫路がカンナの友人であることを知っていた彼女は、サボっている姫路を掴まえて

カンナにどうかこれを渡してほしいと懇願したらしい。

散々、ラブレターを渡すことを“面倒だ”、“なんで私が仲介しなくちゃならないんだ”とグチていた割に

ポケットに突っこんでいたのに皺ひとつない、きれいな状態の封筒を渡すあたり

姫路の人の良さが見え隠れする。

……ラブレターの封筒に書かれていた名前には聞き覚えがあった。

確か、私達の1コ下。4月に入学した新入生の中でも、ひときわ目立つかわいらしい容姿の持ち主だった……はずだ。

どうせ、このバカのことだから、名前も何も知らない状態の彼女に、いつものように口説き文句を吹っかけたのだろう。

全く、コイツはどこまで愚かなのだろう。


雪「ねぇ、せめて、内容! さわりだけでも――」

弥生「……」

雪「――はッ!」


突然の栄養分に、大いにはしゃいでいた雪が、突然静まり返る。


雪「……ゴメン」

弥生「なんで私に謝るのよ」

雪「いや、あの……えっと」

弥生「別に雪は何も悪いことはしてないし、うるさいとも思ってないわ」

雪「……うん」


きっと、雪がおとなしくなったのは、私がひどいしかめっ面をしていたからだろう。

自分の悪いところだと思うが、結構気持ちが顔に出てしまうタイプだ。

だから、その時は本当にひどい顔をしていたのではないかと思う。


弥生(……ムカつく)

朝のことなど比にもならないくらいに

イライラして、仕方がなかった。


――コイツのことを、いっときの憧れとか、熱情とか、そんなでもなく

本気で好きだと思う人間が存在している現実に。


――いつもは、平気な顔して、人を褒めては勘違いさせるくせに

困ったような、照れくさそうな

そして……少し嬉しそうな顔をしているコイツに。


――コイツをそんな顔にさせているのが

私以外の誰かであるという事に。


何より……今まで何の行動も起こしてこなかった

今回の手紙の用に、コイツに対する素直な気持ちを伝えるようなことを

してこなかった、自分に対して。



……その日食べたパンは、私の口の中に

オレンジピールの苦みだけを、強く残した。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


手紙には

今日の放課後、屋上へと続く階段の踊り場に来てほしい

そう、書かれてあったそうだ。


……今日は雨だし、わざわざ屋上に行く人もいない。

そうなると、屋上に続く階段を使う人だって、限定されるだろう。

告白するための場としては、うってつけかもしれない。


私には、そのイベントなど……

……全く、関係のないことなので。

帰りのホームルームが終わった後、カバンを持って

誰よりも早く教室を出た。


早歩きで廊下を進み、昇降口へと向かう。

まだ他のクラスは、ホームルームが終わっていないのか

廊下には誰もいなかった。

私の靴のペタペタという音だけが響いて、それが何だか、どうしようもなく虚しかった。


途中、いろいろなことを考えていた。

ラブレターの主は、とても可愛いという。

それなら、アイツと並んだら、さぞ絵になるだろう。


ちらりと見えた手紙の字は、とても綺麗で、それでいて控えめな形をしていた。

きっと性格も、悪くない。

そんな彼女に愛されるのなら、どれだけ幸せなことなのだろう。


会えば乱暴な言葉しか吐かないような

私と違って、彼女は……

カンナのことを、一心に想い、案じ……優しい言葉をかけるのだろう。


弥生「……っ!」


自然と、歩みは早くなっていった。

現実から、逃げるみたいに。

昇降口にも、生徒の姿はなかった。

私は乱暴に靴を脱ぎ、下駄箱の、自分の場所に手をかける。


カンナ「弥生!」


心臓が止まるかと思った。

まさか、カンナが私を追いかけてくるとは考えもしていなかったから。


弥生「……何よ」


カンナ「もう……ホームルームが終わったと思ったら、すぐ教室を出て行っちゃうんだもん。ビックリしたよ」

カンナ「ねぇ、弥生……なんだか、いつもと違うけど……どうかした?」

カンナ「具合でも悪い?」


弥生「別に……悪くないわよ。 いつもと変わらない」


カンナ「そうかな……私には、そうは思えないけど」

弥生「いつも通りだって、言ってるでしょ……」

カンナ「……ん、そっか。 弥生がそういうのなら、私の勘違い……なのかな」

カンナ「勘違いなら勘違いで、良いんだけど、ね。 心配だったから」

カンナ「ねぇ、弥生。 今日も一緒に帰ろうよ」

カンナ「傘、持ってきてなかったよね。 私折り畳み傘持ってきてるんだ。 入れてあげる」

弥生「アンタは……これから、行く場所があるでしょ……」

カンナ「え? あっ……あぁ……うん、まぁ」

カンナ「返事……しなきゃだしね。 ちょっと、緊張しちゃうけど」

カンナ「急だと思わない? まさか手紙を受け取ったその日に、返事をくれだなんてさ――」

弥生「――OKすればいいじゃない」

カンナ「……え?」

弥生「きっと、お似合いよ……その子と、アンタなら」

カンナ「いや、でも、私は……」

弥生「何よ……! 自分は口説いておいて、相手から好意を伝えられたらそれを拒否するっていうの……!?」

カンナ「口説いてなんかないよ……それに、拒否するっていうわけじゃ」

弥生「勘違いさせるだけさせておいて、自分勝手じゃない! そんなのッ……!」

カンナ「それは……私が悪いのかもしれないけどさ」

弥生「そう思うなら、応えてあげなさいよ……!!」

弥生「応えてあげて、私となんかじゃなくてっ……その子と一緒に帰ればいいじゃない!」

弥生「傘に入れてあげたら、さぞ喜ぶでしょうね……アンタのファンの一人なんだから……」

カンナ「っ……」

カンナ「……やっぱり弥生、今日はちょっとおかしいよ」

弥生「だからいつも通りだってばっ……!!」

カンナ「弥生はさ、私にそんなに彼女と付き合ってほしいの?」

弥生「そんなこと―――ッ!!」

弥生「……そんなの……嫌に決まってるじゃない!!」

弥生「私だってっ……私だって!!」

弥生「アンタのことっ……」

カンナ「え……?」

弥生「……でもっ……私は」

弥生「その子と違って、自分の気持ちを……伝える勇気なんてない」

弥生「それどころか……憎まれ口しか叩けないんだもの……!!」

弥生「アンタに、嫌な思いをさせることしかできないんだものっ……」

弥生「私みたいなのより、その子と一緒にいた方が、ずっといいに決まってるっ……!!」

カンナ「……ねぇ、弥生」

弥生「――っ」


私は、近づいてくる彼女の手を振り払って


カンナ「わっ……! ちょ、待ってっ!」

カンナ「弥生!!」


傘も何もささないで、土砂降りの中に駆けだした。

――気づいたときには

私は、自宅の玄関に立っていた。

ローファーはドロドロで

制服はずぶ濡れ。

やけにぽたぽたと、地面にしずくが落ちると思ったら

それは、私の目からこぼれたものだった。


「ふッ……うぐっ……ひっ、くっ」


ざぁざぁという雨の音が、掻き消してくれると思って

声をあげて泣いた。


自分で勝手にイライラして、八つ当たりして。

支離滅裂なことを言って、やっぱり、きっと、彼女に嫌な思いをさせてしまった。


自分が情けなくて、苦しくて、彼女に申し訳なくて。

でも私は、ただ、泣くことしかできなかった。

救いようのない、本当のバカは、きっと私だ。

――翌朝

目覚めは最悪。

頭が重くて、痛くて。身体が熱くて。

熱を測ってみたら、38.5度あった。

原因は間違いなく、昨日のせい。

母親からは、学校を休むように勧められた。

それに、何の迷いもなく甘えた。


ある意味、これはラッキーだったかもしれない。

昨日、あんなことを彼女に言った私が

どんな顔をして、教室に向かえばいいかなんて、分からなかったから。


……どうせなら、ずっと、この熱が続いてしまえばいいのに。

今日はここまで。短めとは一体何だ。

弥生「はぁ……」


家に一人残されて、どれくらい経ったろうか。

部屋の中はやけに静かで、時計の針が動く音だけがいやに響いている。

熱があるとき特有の、何となく耳の奥の方でぼうぼうと鳴っている感じもあいまって、あまり良い心地はしない。

喉が渇いているような気もするが、身体を起こす気力も湧かないし。

日課のランニングなんてしようものなら、玄関先で意識を失う自信すらあった。


天井を見つめていると、視界がぐるぐるとまわっている感覚すらしてきて

どうしようもないくらいに気分が悪くなってきた。

机の上で、スマホがブルブルと音を立てているような気もしていた。でも、それにかまっている余裕もない。

兎に角、今はこの辛さから逃れようと思って、布団を深く被って目を閉じた。

目からの情報をシャットアウトしてもなお、身体が揺らされているような錯覚を抱いたが

私が眠りにつくまでは、それほど長い時間はかからなかった。

ぷつんと、意識が途切れて、一瞬の間をおいて……

とはいえ、現実では30分くらいは経っているだろうが。

私は、夢を見始めていた。

夢、というよりも、走馬灯に近いものかもしれない。

過去に自分が経験してきたいくつものことが、美術館とか、誰かの個展のように

私の周囲に映し出されていた。

しかもよりにもよってそれらは、すべて……カンナに関係するものである。

現実でなら、ああ、何でこんな時に限ってアイツのことを思い出してしまったのだろうと、考えていたのかもしれないけれど

夢の中の私は、そういえばこんなこともあったなぁと、しみじみとしながら、彼女との思い出に浸っていた。


彼女と初めて出会ったとき……は、5年生の頃。

見知らぬ土地に転校してきた私は、クラスになかなか馴染めなかった。

そんな私に最初に声をかけたのがカンナ。柔らかい笑顔が、とても印象に残っている。

校内のこと、学校周辺のこと、私が知らないことをいろいろ教えてくれたっけ……。


そのころから生意気だった私にも、嫌な顔一つせず接してくれた彼女。

本当に生意気が酷い時には、注意されることもあったけれど……それは、中途半端な忠告ではなく

真剣に私のことを考えて、言葉を選んで、諫めてくれていたのだろうなぁ、と今になって思う。

ケガをすれば、周囲にいた誰よりも(勿論親は別として……)心配してくれた。

辛いことがあれば励ましてくれたし

嬉しいことがあれば、一緒に喜んでくれた。

苦しみは半分にしてくれて、楽しみは倍にしてくれる。

カンナは私にとっては、昔から他のどの友人よりも、大きな存在だった。


今だって、私の中での彼女の大きさは変わっていないのに

私はいつしかそれが当たり前だと思うようになって

少し気に食わないことがあると、“なんで”、“どうして”と勝手に考え始めて

一人でふて腐れて、悪態をついていたんだ。

弥生(……どんだけ愚かなのよ……私は)


意識が現実に戻ってきたとき、頭の痛みやだるさはだいぶ軽減していたが

昨日散々流した涙が、またこぼれていて

枕にいくつかの痕を残していた。


弥生(……ごめん、カンナ……)

弥生(……ごめんね)

弥生「うぅ……~~~っ……」


カンナ「……大丈夫? 弥生」


弥生「……」


弥生「――っ!?」

弥生「ななっ、なんであんた……! ここに……」

弥生「いッ……た……」

カンナ「いきなり飛び起きたら駄目だよ……ほら、熱あるんでしょ」

カンナ「布団被って、しばらくは寝てないと……」

弥生「……う、ううぅ……ん」

弥生「……じゃなくて……なんで、アンタが私の部屋に……」

カンナ「今朝、いつもの場所で弥生が来るのを待ってたんだけどね」

カンナ「いつまで経っても来ないし、先に学校に行ってる可能性もあるかと思って、教室に向かってみてもいない」

カンナ「それなら体調を崩したんじゃないかと思って、弥生のお母様に電話してみたんだよね」

弥生「なんで私の母親の電話番号を……」

カンナ「いざというときのために、教えてもらってたんだよ」

弥生(……釈然としない)

カンナ「まぁ、それで、弥生が風邪をひいたことが分かって、今ここにいるってわけ」

弥生「家の鍵は……」

カンナ「お母様からお借りしたよ……まさかピッキングやドア錠破りなんかするわけないよ」

弥生「もしそれをしてたら迷わず110番に電話するわよ……」

弥生「……はぁー……」

弥生「そもそもアンタ……その……昨日のことがあって、それで、いつもの場所に来ないという考えはなかったの……?」

カンナ「昨日のこと……ああ、そういえば」

カンナ「それもそうだったかもしれないね……考えから抜け落ちてた」

弥生「そう……」

弥生「……」

カンナ「……」

カンナ「あー……えっと」

カンナ「どうしよう、私といると……息苦しかったりするかな? ここにいない方が――」

弥生「っ――だめっ」

カンナ「え……」

弥生「……あ、えと……い、息苦しくなんてないから……」

弥生「その……大丈夫……だから、もうすこしここに……い、なさぃ」

カンナ「弥生……」

カンナ「……ん、じゃあ。 もうしばらくいさせてもらうね」

弥生「……ん」

カンナ「あ、そうだ……私、ここに来る前にちょっと買い物してきたんだ」

弥生「買い物……?」

カンナ「ん。 喉かわいてるかなって思って、ポカリ買ってきた」

カンナ「あと栄養ドリンク。 食欲ないかと思って、ゼリーもいくつか見繕ってきたんだけど」

弥生「……私の、ために……」

カンナ「やっぱり、弥生には元気になってほしいからさ。 今、何か欲しい?」

弥生「……じゃ、じゃあ……ポカリ」

カンナ「ん、わかった。 今蓋あける」

弥生「そんな、蓋あけるくらい自分で……」

カンナ「いいからいいから……」

弥生「……ぅ」

弥生「……ありがと」

カンナ「ふふ、どういたしまして」

弥生「ん……んグ」

カンナ「あ、そういえば」

弥生「ん?」



カンナ「昨日の返事、断ったよ」

弥生「んぐふっ」

カンナ「ちょっ……弥生、大丈夫?」

弥生「えふッ、げほ……はぁ、あ、アンタなにこのタイミングでその話を切り出してんのよ……!」

カンナ「いや、えと……ごめん?」

弥生「っていうか、断ったの……!?」

カンナ「うん……弥生には昨日、いろいろ言われたけど……」

カンナ「それ抜きにして、自分でちゃんと考えて、出した答えだったから……問題はないよね」

弥生「問題は、そりゃ……ないけど……なんで」

カンナ「……んと、やっぱり……私、彼女のことあんまり知らないし」

カンナ「互いを知る過程を飛ばして、親密な関係になろうとするのって、どうなのかな、って思ってさ」

弥生(親密な関係じゃないのに相手のいいところを褒めまくるのもどうなのかな、って思いなさいよ……)

カンナ「それに、その……」

カンナ「……」

弥生「……ん? その、何よ」

カンナ「えっと……いや、やっぱりいいや」

弥生「えぇ……よくないわよ! そんな風に言われると気になるわよ……」

カンナ「いや、気にならないでいい!」

弥生「気になるってば……!」

カンナ「ほんとに!」

弥生「ほんとにじゃなくって!! ぅっ……い……ったぁ」

カンナ「あぁ……大声を出すから……!」

弥生「アンタが出させたんでしょーがぁ……ぅぅ」

カンナ「……ー」

カンナ「じゃあ、その前に、一つだけ……聞きたいことがあるんだけど」

カンナ「それに答えてくれたら……言うよ」

弥生「つつ……なんか、私が損するだけのような気がするけど……いいわ。何?」

カンナ「……昨日、弥生が言いかけた……言葉の続きって、何かな」

弥生「言いかけた、言葉……? 何よそれ、そんなの……」


弥生『私だって!! アンタのことっ……』


弥生「……」

弥生「……」

弥生「……な、何も覚えてない」

カンナ「えぇ……その間……絶対覚えてるやつじゃないか」

弥生「なんのことよ!」

カンナ「ムキになると余計に分かりやすいよ……」

弥生「ちがっ……だ、だいたい! その、言葉の続きとやらは本当に関係あるの……!?」

カンナ「……あるよ」

弥生「それこそ嘘じゃないの……? だって、手紙を断った理由と、私の発言なんて、なんのつながりも……」

弥生「……」

カンナ「……」


弥生「――!!」



私が言いかけた言葉は、彼女への想い。

彼女が受け取った手紙は、彼女への気持ちを綴ったもの。

その手紙を断った理由と、私の、彼女への想いとの関連性は。



カンナ「……相手の気持ちを知ってから……」

カンナ「自分の気持ちを伝えるのって……ずるい、かな……?」


弥生「ずっ……ずるいに決まってるじゃない……!」

弥生「そんなの……」

カンナ「そうだよね……」

弥生「……で、でもッ」

カンナ「……」


弥生「それなら……わ、私も……ずるい、かも」

カンナ「え?」

弥生「だって、今なら……」



昨日の言葉の続きを、伝えられそうだもの

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



弥生「……」

弥生「っていうか、アンタ……」

弥生「なんでこういう時ばっかり気持ち伝えんのヘタクソなのよ……」

カンナ「ヘタクソって……ひどいな」

弥生「ほんとのこと言って何がッ……ゲホッ……わるいのよ」

弥生「いつもみたいにさらっと……」

弥生「え、えっとっ……」

弥生「“好きだ”……とか、その、そのくらい言えないの……?」

カンナ「そ、そんなの……恥ずかしいじゃないか……」

弥生「いつもだって大差ないくらい恥ずかしいと思うけど?」

カンナ「大差あるよ……」

弥生「どこに!」


カンナ「今はいつもと違って、目の前にいる子が、自分の好きな子っていうところだよ」


弥生「……っ……!」カァ


弥生「バカ! なんでそこはサラッと言えんのよ! バカ!!」


<不器用その①、おしまい>

今日はここまで。

地の文は今後減らします。

次回はリクエストいただいた養護教諭と生徒の予定です。

見てくださっている方につきましては、ありがとうございます。

これからも更新できるときに 粛々と 進めて参ります。

<学校カルテ>


【キーワード】


「養護教諭」

空間 安曇(そらま あずみ)
この物語の主人公その①。ニサジョに勤める養護教諭。白衣着用。
物事にはクールに真面目に取り組むが、天然な部分が見え隠れする。几帳面そうでいて、結構大雑把。
生徒のことは大切に思っており、それが伝わっているのかいないのか、様々な相談を持ちかけられることもしばしば。
お酒が好きだが、すぐ酔っぱらう。甘酒であってもいい気分になってしまう。
http://i.imgur.com/SqZKsM6.png
http://i.imgur.com/wLYO4f8.png


「保健委員」

陸羽 夕貴(りくう ゆうき)
この物語の主人公その②。下心満載で保健委員となる。職権乱用し、熱心に保健室に通う。
人懐こい性格で、小悪魔的な面も持ち合わせる。それなりに厄介な人物。
さらには何が好きかで自分を語るポジティブ人間。
未成年なのでお酒は飲めないが、以前、水と間違って日本酒を一気飲みしたことがある。本人はケロっとしていたらしい。
http://i.imgur.com/jYrjbEv.png
http://i.imgur.com/9JH1o38.png


「数学教師」

海老名 風華(えびな ふうか)
この物語の登場人物。他の話の主人公になるかもしれない。ニサジョに勤める国語教師。白衣は着用しない。
包容力にあふれ、安心感を纏って生きているような人物。その胸は豊満であった。
いたずらが好きだったり、お菓子が好きだったりで、生徒の間では「友達みたいなお母さん、みたいな先生」と思われている。
甘いものが好きでありながら、チューハイや甘いカクテルは嫌い。お酒と言えばウィスキーをロックやストレートで飲む人。
http://i.imgur.com/qqT3gv9.png
http://i.imgur.com/WSnz6iB.png

錦坂上女子学園の保健室は、他の教室より少し狭い気がする。

ベッドが4つほど並んでいるのが、そう感じる理由だろう。


シーツはクリーニングにかけられたストックがいくつもあり、ベッドは常に清潔に保たれている。

机や椅子は、他の場所で使われているものと同じ。棚やカーテンは白で統一され、

包帯、ガーゼ、薬箱などがあちこちに並ぶ。

いかにも、学校内の「医」を担う場所であるという雰囲気を漂わせている。


だが、生徒にとって保健室は、ケガをしたときに寄る場所であると同時に

心を保養する場でもあるようだ。

授業が退屈でベッドで休息を取る生徒や……

相談……もっぱら、ダイエットや恋愛相談などを持ちかける生徒もここを訪れることがある。


とはいえ、委員会などと言った義務以外で来る生徒は1日に10人にも満たないことが多い場所。

そのことが、寂しくないと言ったら……嘘にはなるかもしれない。

逆に言えば、保健室が静かであるという事は

それだけ毎日を楽しく、健やかに過ごしている生徒が、この学校には多く存在しているということだろう。

喜ばしいことだ。


そんなわけで、本校の保健室は大変に平穏であった。

……彼女が、訪れるまでは。

ペラリ...ペラリ...


安曇「……」

安曇(今日の欠席は……このクラスにはいない)

安曇(こっちのクラスは、風邪で休んでいる子が数人いるわね)

安曇(確か、同じ部活に所属していたはず……)

安曇(となると、部活内で風邪が流行っている可能性は否定できない……)

安曇(部活内で感染が広がって、そこからクラス内へと伝播する可能性もある)

安曇(ただでさえ今の時期は、昼と夜の気温差が激しく、風邪をひきやすい……)

安曇「注意喚起しなきゃいけませんね……」


雪「……うぅ、ん……」

安曇「……ん」

安曇「末津さん、起きました?」

雪「ふぁ……ぁふ。 はい……おはよーございます……先生」

安曇「調子はどうですか? 体のだるさはまだあります?」

雪「いえ……さっきよりはだいぶ楽になりましたぁ……」

安曇「そうですか、ならよかった……」

安曇「もうしばらく、ここで休んでいきますか?」

雪「大丈夫です……教室にもどりまぁす」

安曇「そう……強制するわけではありませんが、明日、やっぱり辛いようなら学校をお休みなさい」

安曇「無理に来て授業を受けても、自分のためにはなりませんからね」

安曇「やはり健康が一番ですから……」

雪「……はいぃ」

安曇「……あと」

安曇「必要であればいつでも来てかまいませんから、遠慮なく」

雪「わかりましたぁ……ありがとうございますぅ」

雪「それじゃあ、失礼しましたぁ……ふぁ……」

安曇「……ええ、気を付けて戻ってくださいね」


ガラガラ...バタン


安曇「……」

安曇(ちょっとふらふらしていたけれど、大丈夫かしら)

安曇(まぁ、本人が言うなら、無理強いはできない……か)

安曇「……と、シーツを変えなければ」

バサッ...


安曇「……」

安曇「……む」

安曇(皺ができる……)

安曇(こっちに引っ張ればいいかしら……)グイ


安曇「……あ」

安曇(皺が、余計に酷くなったわ……)

安曇「……んん」グイグイ

安曇「ん~……?」

安曇「……はぁ」


パタパタパタパタッ...


安曇(……! この足音……)


ガララッ!


夕貴「やっほー♪ センセー、今日も来ちゃいました!」

安曇「……」 

安曇(やはり……陸羽さんでしたか)

安曇「……陸羽さん」

夕貴「はい!」

安曇「元気なのは良いですが……保健室のドアは静かに開けてください」

安曇「ベッドで寝ている人もいるかもしれないでしょう?」

夕貴「あっ……すいません! 以後気をつけます!」

安曇「……それで、今日は何の用ですか?」

夕貴「うふふ、何の用で来たんだと思います?」

安曇「それが分からないから、こちらは聞いているんですが」

夕貴「ですよねー! ……今日は、先生に会いに来ただけです!」

安曇「今日“は”? 今日“も”でしょう……」

夕貴「まぁまぁ、細かいことはお気になさらず……ですよ!」

安曇「……はあ」

夕貴「それより、先生は今何をしてたんですか?」

安曇「私は、見ての通り……シーツを交換していたんですが」

夕貴「手伝います!」

安曇「いえ、その必要は」

夕貴「手伝わせてください!!」

安曇「……」

安曇「……わかりました」

夕貴「やった♪」

安曇「……じゃあ、陸羽さんはそちらを持ってください」

夕貴「まっかせてください!」

安曇「しっかりと張って……ベッドに掛けましょう。いいですね?」

夕貴「お~け~です!」

安曇「……」グイ

夕貴「よいしょ!」グイ

安曇「……ん」グイグイ

夕貴「あっ……センセー。 私、気づいちゃいました……!」グイグイ

安曇「……なんでしょうか。あんまり良い予感はしませんが」

夕貴「これって、初めての共同作業ですね!」

夕貴「まるで結婚式みたい……!」

安曇「……」

安曇「それにしては、ロマンチックのかけらもありませんが」

夕貴「良いじゃないですか! ロマンチックじゃないですけど……家庭的というか!」

安曇「……ええ」

夕貴「私、毎日貴女と一緒にシーツを掛けたい……!」

安曇「……そうですか……」

夕貴「……そんなプロポーズのセリフはどうでしょう!」

安曇「私ならお断りします」

夕貴「じゃあもし私がセンセーにプロポーズするときは違う言葉を選びますね!」

安曇「……口より手を動かしてもらえると大変助かります」

夕貴「はぁい♪」

夕貴「ふぅ……完璧ですね!」

安曇「ええ、とても綺麗に敷けました。 ……ありがとうございます」

夕貴「いえいえいえいえ……好きでやったことですから」

安曇「それでも」

夕貴「あ、好きっていうのは誰かのために頑張ることじゃなくて先生のことですよ!」

安曇「……」

夕貴「ふふふ♪」

安曇「はぁ、なんだか疲れました……シーツを2枚ほど代えただけなのに」ギシ

夕貴「……!」


パタパタ...ボスッ


安曇「……」

夕貴「……♪」

安曇「ちょっと」

夕貴「はい、なんでしょう」

安曇「なんでしょうはこっちのセリフです。なぜ私の膝の上に座るんですか?」

夕貴「えへー♪」

安曇「えへー、じゃありません。……女性にこう言うのはどうかと思いますが、結構重いです。どいてもらえますか?」

夕貴「……駄目、ですか?」

安曇「……そんな顔をしないでください」

夕貴「……」ショボ

安曇「……う」

安曇「はぁ……膝の上が良いというのなら、別にかまいません。ですが、しばらくしたらどいてくださいね」

夕貴「はい!」ケロリ

安曇「……」

眠いのでここまで。

読んでくださっている方には大変申し訳ないのですが、非常にマイペースに更新しております。

ただ、間隔がどれほど空こうとも、エタるつもりは毛頭ございません。

無理して読むモンでもないので、お付き合いいただける方だけお付き合いください。

夕貴「~♪」

安曇「……楽しいですか?」

夕貴「はい! とっても」

安曇「……そうですか」

夕貴「ん~~」グデー

安曇「ちょ、っと。 寄りかからないでください……」

夕貴「んふふ♪」

安曇「だからんふふ、じゃなく……」

安曇(……香りが)

夕貴「センセ? 両腕を、私のお腹の方にまわしてくれませんか?」

安曇「それはできません」

夕貴「えぇ~?」

安曇「誰かに観られたら不味いでしょう……完全にアウトです」

夕貴「誰にも見られない場所なら良いと!?」

安曇「そういうわけではありません! ……私の言い方が悪かったですね」

安曇「……こういうことは、親しい人とやるべきですよ」

夕貴「センセーと私、十分親しいと思うんだけどなぁ……」

安曇「んん……違うんですよ……そういうことでもなく……」

夕貴「まぁまぁ、固いこと言わずに!」

安曇「貴女が柔らかすぎるんですよ……」

夕貴「センセーも十分柔らかいですよ」

安曇「……セクハラですね、それは」

夕貴「ゴメンナサイ♪」

安曇「……はぁ、全く……」

夕貴「と、言いつつ無理やり突き放したりしないとこ」

夕貴「センセーの優しさがにじみ出てますよね」

安曇「……」

夕貴「……ん」


シュル...


安曇「……なぜこちらに体を向けるんですか?」

夕貴「センセーの顔が見たくなったから、ですかね?」

安曇「はあ……」

夕貴「……」ジッ

安曇「……」

夕貴「……」ジィ...

安曇「……う」

夕貴「……えい」シュルリ

安曇「ちょっと。 何食わぬ顔で背中に腕を回さないでください」

夕貴「んーッ」グイ

安曇「か、顔も近づけない……」

夕貴「ちぇ、ダメかぁ……」

安曇「ダメに決まってるでしょう。貴女は何を基準にその行為をして良いと思ったんですか?」

夕貴「よっと」

安曇「っ……ふぅ……」

安曇(やっと解放された……)

夕貴「ふふ、いやぁ、今日も満足しました!」

安曇「……私は満足に体を動かすこともできませんでした」

夕貴「明日も来ていいですか?」

安曇「駄目と言っても、どうせ来るでしょう……」

夕貴「どうでしょう」

安曇「……え?」

夕貴「それは分かりませんよ」

夕貴「毎日のように来てたって、ある日突然、来なくなるかもしれない……」

安曇「……?」

夕貴「……まぁ、私は明日も明後日も来る予定ですが! センセーに会いに!」

安曇「……ん」

安曇「保健室は私に会うための場所ではないので、そこは勘違いしないでくださいね」

夕貴「え!?」

安曇「そんな驚愕の事実を突きつけられたような顔をされても……」

夕貴「冗談ですよ、分かってます! センセーに会いに来るついでに、保健委員としての仕事もしますって♪」

安曇「ついで……」

夕貴「それじゃ、センセー! さよなら~!」


パタパタ...

安曇「……さようなら」

安曇「……」

安曇「ふぅ……」ギツ


嵐のような子。

いきなり現れて、この場所を賑やかにしたと思ったら

あっという間に帰っていく。


もしかしたら、彼女なりに少しは気を使っているのかもしれない。

長い時間、この場所にいないように。


安曇「……」

風華「なつかれてますねぇ……」

安曇「……そうでしょうか。私には茶化しに来ているだけにも思えま――」

安曇「――っ!?」ガタ

風華「きゃ! もう、いきなり立ち上がられたらびっくりするじゃないですか……」

安曇「え、海老名先生、いつの間に……」

風華「さぁ、いつの間に居たんでしょう?」

風華「彼女と空間先生が向き合っているときには、まだここには居ませんでしたけど……」

安曇「!?」

風華「キスしそうになってる時のことも知りませんね……だからここに来たのはそのあとかしら?」

安曇「」

安曇「……私の教員生活は終わりました……あんな光景を見られてはもうここには居られません……」

風華「そうかしら? ああいう事って割とあることじゃないですか?」

安曇「割と無いことだと思いますが」

風華「漫画やアニメではありがちなシチュエーションだったりしますよね?」

安曇「漫画でもアニメでもなく本当のことです……」

風華「良いじゃない! 青春って感じがするわ……」ウットリ

安曇「……現実では結構問題となる事案だと思います……」

安曇「生徒と教師、ましてや女性同士で……」

風華「あら、女性同士で恋愛することに抵抗があったんですか? 女子校に勤めていて?」

安曇「別に抵抗があるというわけではありませんが……」

安曇「あと女子校ならそういうことばかりだと聞こえるような言い方はどうかと思」

風華「なら良いじゃないですか! 素敵ですよ、年の差……」

安曇「いえ、あの、そもそも彼女とはそういう関係では無くてですね……」

風華「うふふ、分かってますよ」

風華「あまりにも反応が面白くて、ついからかっちゃいました♪」

安曇「……」

安曇(疲れる……)

風華「まぁ、でも……彼女は別に茶化しに来ているというわけでもないと思いますよ」

安曇「……え?」

風華「彼女なりに本気で、先生を落としにかかっているのかも」

安曇「そうでしょうか……」

風華「私の推測だから、本当にそうなのかはわからないけれど……」

風華「彼女、嘘つかなそうだし」

安曇「それも推測ですか?」

風華「これは勘ですよ。 女の勘」

安曇「……はあ」

安曇(……)

風華「……ふふ、色々と考えることが多くて大変ですよね。教師って」

安曇「そう、かもしれませんね」

風華「私でよければ、話を聞きますよ」

安曇「ま、またからかうおつもりですか……」

風華「あら酷い。からかってばかりだと思ったら大間違いですよ」

安曇「……失礼しました」

風華「近くに美味しいお料理を出す居酒屋を見つけたの。そこでお話ししません?」

安曇「! ……明日は平日ですよ」

風華「軽く飲むだけなら大丈夫でしょう?」

安曇「まあ……そうですね」

風華「決まりね♪」

飯飯

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



安曇「うぅ~ん……ふぁー……」

風華「空間先生……大丈夫ですか?」

安曇「何言ってんれすか……何処からどう見ても大丈夫れしょ……ふぇ」

風華(何処からどう見てもだめなのだけれど……相変わらずこの子はお酒弱いわね)

風華(ウーロンハイ2杯目でこんなに出来上がっちゃって)

安曇「ふぅ~……それよかぁ、ちょっと疑問に思ってることがありましてぇ」

風華「はいはい、なぁに?」

安曇「陸羽さんのこ、ことなんれすけぉ……」

風華「さっきの彼女ね」

安曇「なぁんれ私のことなんかぁ、構うんれすかねぇ……」

風華「んー、どうしてかしら」

風華「そもそも、いつからあんな風なの?」

安曇「……んん~……いつかられしょ……」

安曇「あの子が入学した時のぉ……おりえん……おりえんてーしょんの後かられすかねぇ……」

風華「ふぅん……その時には何か話したんですか?」

安曇「何も話してないれすよぉ……それなのに、次の日くらいには……」

安曇「保健委員になったぁ、とか言ってぇ……保健室に来てぇ……」

安曇「……あいしてるぅ~とか、なんとか……わけわかんないれす」

風華「ん~、となると……一目惚れ?」

安曇「へぇあ……?」

安曇「それはなぃれすよぉ……! 一目惚れなんてそんな……」

安曇「私には特に魅力もないんれすよぉ?」

風華「そうかしら……魅力だらけだと思うけど」

風華「綺麗な顔してるし、声も、スタイルも良いし……」

風華(酔ったときとのギャップもなかなかよねぇ)

安曇「いやいや……それならぁ、海老名せんせぇの方が圧倒的じゃないれすかぁ……」

安曇「そもそも、生まれてこの方告白なんて一度もされたことないんれすよぉ……」

安曇「お付き合いもしたことないれすしぃ……恋愛とは無縁の人生れしたよぉ」

風華「意外ねぇ」

風華(お酒飲んだらホイホイお持ち帰りされちゃいそうなのに)

風華「でも、それと陸羽さんに一目惚れされるのは関係ないことじゃないかしら……」

風華「好みなんて人それぞれ、好きになって行動を起こすかどうかなんてのも人それぞれですし」

安曇「そうれすかねぇ……」

風華「そうですよー」


店員「はい、お待たせしましたぁー。こちらウーロン茶と、タリスカーのストレートですねー」

風華「あ、はぁい」

安曇「ありがとぉございまぁす……」

安曇「……ん」ゴクリ

安曇「このウーロンハイお酒薄いれすねぇ……」

風華「ウーロン茶だものね」

安曇「なるほろ……」

風華「……ん」ゴク

風華「ふぅ……」

風華「ねぇ、空間先生?」

安曇「はい……なんれしょ」

風華「陸羽さんに、好意を表されるのは嫌?」

安曇「そんなことないれすよ……」

安曇「大切な生徒に、好きだって言ってもらえるのは……幸せれす」

風華「そう?」

安曇「はい……でもぉ、それが、恋愛感情までいくってなるとぉ……複雑れすよ、やっぱり」

安曇「陸羽さんは、可愛いし……明るくて、とてもいい子れすけろ……」

安曇「それらけに、ふぇ……ぅ……私なんかを見て、追っかけて……」

安曇「大切な学生としての時間を……使っちゃうっていうのは、なんか……もったいないと思いましゅ」

風華「……ん、そうかしら」

安曇「時間の使い方は、人それぞれかも……しれません、けろぉ」

安曇「彼女には、もっと、幅広い……視点で、いろんなことを……経験してほしいと、思って、るから」

安曇「……それに、私じゃ……彼女を幸せにれきない……」

安曇「出来た人間じゃない……れすから……」

風華「出来た人間じゃないなんて、そんなこと――」

安曇「――スゥ……う……ン」

風華「……」

風華「私は、そんなことないと思いますよ。空間先生」ナデ

安曇「……んん」

風華(あの子のことをこんなにも大事に、真剣に考えている人が)

風華(出来てない人間なわけないじゃないですか……)


風華(ただ――)


風華(彼女のことを思うがために)

風華(それがかえって、彼女を傷つけることにつながるかもしれないのだから)

風華(優しさっていうのは、難しいものだわ……)



風華「……もしもし」

風華「ん、もうご飯食べた? ……ん、うん。そう……なら良かった」

風華「……今車出せる? 悪いけど、迎えに来てもらえない?」

風華「空間先生も一緒。 いつものごとく、つぶれちゃったから……うん」

風華「ごめんね。気を付けて運転してきて……急がなくていいから」

風華「それじゃあ、お願い、ね♪」

今日はここまで。



……

気がついたら

私は自宅のベッドで寝ていた。

安曇(……)

安曇(昨日、私は……)

安曇(2杯くらい飲んだところまでは……覚えてる)

安曇(そのあとは……)

安曇「……」

安曇「うッ……」

安曇(……気持ち悪い)


安曇(今何時かしら……)

安曇「……7時15分」

安曇「……」

安曇「7時15分……!?」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


遅刻の危機に陥った私は、頭痛と吐き気をこらえながら、急いで支度をした。

軽くシャワーを浴び、歯を磨き、髪を整え、車に飛び乗る。


安曇「……うぅ」

安曇(飲みすぎた……)

安曇(学校に着いたらパンと、スポーツドリンクを買って……)

安曇(生徒が来ないうちに朝食を済ませてしまわないと……)


安曇(……)


安曇(お酒臭くないかしら……私)

学校に着いた後は、購買へ行き柑橘類を使用したパンと、スポーツ飲料を購入。

自分が“いかにも昨日飲みました”といったような顔をしているのではないかと思い始めると

だんだんと周りに見られているような気もしてきたので、急いで保健室へと向かった。

途中、何度かフラつきながらも、生徒とすれ違うことは無く、失態をさらすことなしに目的地へとたどり着いた。


安曇「……ハァ」

安曇(やっと着いた……いつもの何倍もの距離があるように思える)


ギッ....


安曇(ぅ……ああ、頭が……痛い)

安曇(仕事前日だから控えめにと考えておきながら結局こうなるとは……)

安曇(……情けない……)


パキリ..カリッ....


安曇「ん……」

安曇「……ふゥ」

安曇(飲み物がしみわたる感覚が……心地いい……)

スポーツドリンクを半分ほど飲み、軽い朝食をとる。

2日酔いの症状は何となく治まったかのように思えたのだが

どうも私は、次の日の中ごろに悪化するタイプらしい。

2限目、3限目ごろになると、頭痛と吐き気はひどくなり

休んだ生徒の情報整理の仕事にも取り掛かることが困難なくらいになった。


安曇「うぅ~~~……」

安曇(駄目、もう……辛い……)

安曇(……大人失格だわ……仕事に支障が出るほど飲むなんて……)

安曇(あぁ、もう……)


後でよくよく考えてみると、私は飲むたびにこういう状況になる。

何度失敗しても学ばないあたり、私は教育者には向いていないのかもしれない。

体調もあいまって、考えれば考えるほど、マイナスな思考へと持って行かれる。


安曇(はぁ……)

安曇「……」

安曇「あ……」

安曇(ベッド……)

安曇(い、いや、それは……駄目だわ)

安曇(いくら辛いからと言って、仕事中に、そんなことは……)


4つ整然と並んだベッドは、使われるのを心待ちにしているように見えた。

シーツを敷くために時間を割いた自分が恨めしい。

綺麗に整えられているぶん、使用者を所望しているかのごとき雰囲気が強く漂っている。

……気がした。


安曇(……うぅ)

安曇(そこに突っ伏したら……どれほど気持ちいいのだろう……)

安曇(そういえば、今までこのベッドが使われているのを見たことはあれど)

安曇(私自身が使用したことは無かった……)

安曇(……)


アルコールはかくも恐ろしいものである。


安曇(ベッドに寝て、感触を確かめてみることも、一つの仕事かもしれない)

安曇「ふぁぁ……」


見た目よりも、数倍ふかふかなマットレス。

私が学生だった頃は、俗にいう、せんべい布団のような薄さだった気がするのだが。

それも何年も前の話だ。記憶は定かではない。

そもそもそこに寝たことさえなかったはずだ。硬さなどわかるはずもない。

まぁ、何にせよ


安曇(……気持ちいい)


私はその強大な魔物の前になすすべもなく。

圧倒的フカフカの中に包み込まれてしまった。


安曇(あぁ、ダメなのに……これではいけないのに)


私の中の良心も、羽毛に包まれ、全くの役立たずと化していた。

嗅ぎなれた自分の勤務場所のにおいが、無駄に自宅感を演出し

副交感神経をジンジンと刺激する。

天使が最後の力を振り絞り、眠りこそしなかったが

瞼を閉じるとスゥーっと悪い物が身体の中から消え去っていくような感じがする。


安曇(……少しだけ。 少しの間だけ……)


窓を開けていたので、心地のいい風が部屋の中を通っていく。

近くの外に植えてある木が、風に揺られてざわざわと音を立てる。


安曇(……)


安曇(保健室がこの場所にある意味が……)

安曇(何となく分かった気がする……)


思えば、この保健室のなかの空気がよどんだことは一度もなかった。

いつだって快適で、窓を開ければ新鮮な空気が流れ込んでくる。


安曇(ただ、何となくこの場所にあるわけではなかったのね……)


パタパタパタパタッ....


安曇(そう、聞きなれたこの音も……)

安曇(……)

安曇(……――!!)


ガララッ!!

夕貴「センセー! こんにちはー! ……って」

夕貴「あれ……いない」

夕貴「センセーレーダーが反応していたのに……」


?安曇(なんですか、そのレーダーは……)

安曇(……しかし、なぜでしょう)

安曇(カーテンを閉めて、布団を頭まで被ってしまった)


彼女が、ここに到着するまでに

いかに、自分の教師としての体裁を守るか――

つまり、どのようにすれば、自分がベッドに横になっている姿を見られないか。

その最良の選択が

飛び起きるでもなく

ベッドを整えるふりをするでもなく

いないふりをすることであった。


安曇(……)

安曇(気づかないで……)

夕貴「……んん~?」

夕貴「……なぁんだ、センセーいないのか……」

安曇(いませんよ)

夕貴「残念……」

安曇(すみません)

夕貴「……」

安曇(後で相手をしますから、どうか今だけは)

夕貴「しょうがない、戻るかぁ……」

安曇(それが良いと思いますよ)

安曇(……)

安曇(というか、いつの間にか昼休みになっていたのですね)

安曇(やはり、少し寝ていたのかもしれないですね……この時間の流れは)

夕貴「……んぉ!」

安曇(……?)

夕貴「これは、アクエリアス……!」

夕貴「もしかして、先生の……」

安曇(……)

夕貴「……」

安曇(……ん?)

安曇(まさか……)


パキリ


安曇「ちょっと」


蓋をあける音がして、つい、身体が動いてしまった。


夕貴「え?」

安曇「……あっ」

夕貴「センセー!?」


思い切りカーテンを開ける彼女。


安曇(しまった……こんな、ベッドで寝ている姿を見られてしまった……)

安曇(教師生活、2日連続で終了ですね……)


さて一体、彼女は何と言ってくるだろうと考えていると

予想に反して、彼女はにぃと笑い――


安曇「――っ!」


瞬間、私の腹部あたりに軽い衝撃が走る。

……気づけば

彼女との距離は一瞬にして縮まっていた。

腹の上に跨り、両手を私の頭のわきについた形。

まるで、これでは。


安曇(襲われているみたいでは……)

夕貴「センセー、居ないのかと思った」

安曇「……ごめんなさい、居ました」

安曇「それより……どいて、もらえませんか?」

安曇「……これでは、起き上がれません」

夕貴「どうしよっかな♪」

安曇「さすがに……怒るかもしれませんよ」

夕貴「んー……」

夕貴「怒られるのは嫌ですけど……なんだか、この状況、もったいない……」

安曇「……は?」

夕貴「折角、先生との関係を深められるチャンスなのに」

安曇「……」

夕貴「それに」

夕貴「先生はこの状況では、私の上の立場でいられないと思います……」

夕貴「もし私がここで叫んで」

夕貴「誰かにこの光景を見られたら……どっちの立場が危ういかなんて」

夕貴「先生なら、分かると思いますけど……昨日も似たようなこと話してたし」

安曇「……ッ」

夕貴「くふふ……♪」

夕貴「センセーの逃げ場所は、もう無いかもしれないですよ……?」

安曇「その、ようですね……」

夕貴「……」

夕貴「乱れた髪も、セクシーですね」

?安曇「……そうですか」

夕貴「結構、冷静ですね。こんな状況なのに」

安曇「そう見えますか」

夕貴「はい、とっても」

冷静……


安曇「……そうでも、ないですよ」

夕貴「怖いですか?」


怖いですよ。

首元にナイフが突きつけられているような感覚が。

……彼女を受け入れられると、ほんの少し思っている自分が。


安曇「……若干」

夕貴「……んふ」

夕貴「大丈夫ですよ」

安曇(あ……)

夕貴「私、乱暴にするつもりなんてないです」

安曇(顔が)

夕貴「とっても優しくしますから――」

安曇(近づいて来る――

――っ



「なんちゃって♪」

 
 
 
 

安曇「……」

安曇「……は?」

夕貴「ごめんなさいセンセ、ちょっとした冗談です♪」

安曇「……え? ちょ、っと……」

夕貴「本当はいたのに、居ないふりなんてされちゃったから……」

夕貴「……ちょっと、いじわるしてみたくなっちゃって……えへへ」

安曇「え……」

安曇「……~~っ!」

安曇「はぁー……」ヘニャ

夕貴「あ、せ、センセー? 大丈夫ですか?」

安曇「大丈夫ではありません……!」

安曇「はぁ、もう、貴女は……本当に」

安曇「大人はからかうものじゃあありませんよ……」

夕貴「ホントーにごめんなさい♪」

安曇「反省しているんですか?」

夕貴「……はい、反省してます」ショボ

安曇「その手にはもう乗りませんよ」

夕貴「ですよね!」ケロリ

安曇「はぁ」

安曇「全く……貴女のせいで二日酔いがすっかりさめてしまいました……」

夕貴「あ、あー! なるほど! センセー二日酔いだったからベッドで横になってたんですね!」

安曇「……はっ」

安曇(言ってしまった……)


この子といると、ペースがどんどんと乱されて、必要のないことまで口に出してしまう。

やはり、厄介だ。

……まぁ、自分のペースを保てない自分の技量が不足しているだけかもしれないけれど。


夕貴「しかし、そんな……寝ないといられないような二日酔いをするなんて……」

安曇「ええ、私は大人失かk

夕貴「もしかしてゆうべはお楽しみだったんですか……!?」

安曇「は?」

夕貴「彼氏や、もしくは彼女なんかと一緒にお酒を飲んで、それでそのまま……!?」

安曇「……何を言っているんですか」

安曇「昨日は海老名先生と飲んだだけですよ」

夕貴「エビちゃん先生……!? まさか、エビちゃん先生もセンセーのことを……!?」

安曇「そんなわけないじゃないですか……」

夕貴「いいライバルになりそうですね……でも負けません! 私、絶対センセーのことオトしてみせますから!」

安曇「私の話を聞いてましたか? それに何を宣言しているんですか……」

夕貴「交際宣言です!」

安曇「意味が変わってしまっていますよ」

安曇「はぁ……貴女はもう少し落ち着いた方がいいかもしれませんね」

夕貴「十分落ち着いていると思いますけど……?」

安曇「そうですか……じゃあ、そういうことにしておきましょうか」

安曇「……それと、先ほどの行為……一歩間違えたら犯罪になりかねませんよ」

夕貴「それは、ほんとうにすみませんでした!」

夕貴「でも、私は、嫌がっている相手を無理やり襲ったりなんかしませんよ、絶対に」

夕貴「相手を傷つけてまで、身体のつながりを持ちたいわけじゃないですから」

夕貴「好きになった相手ならなおさら……大切にしたいですもん」

安曇「……陸羽さん」

夕貴「思いが通じ合ってるなら、そりゃ、もちろん! シたいですけどね!」

夕貴「一晩中、いや、1日中セックスしまくりな感じで!」

安曇「ちょっと。 私はなんでそんな生徒の性事情まで聞かされなくてはならないんでしょうか」

夕貴「それは勿論、将来の恋人であるセンセーには、知っておいてもらわないと……」

安曇「恋人である、と断言しちゃってますね」

夕貴「いや、将来っていうと、なんか遠い未来みたいに聞こえちゃうな……来年? 来月?」

安曇「そこにはこだわらなくても……」

安曇「……」

安曇「と、いいますか……」

安曇「陸羽さんはなぜ、そこまで私にこだわるのですか?」

夕貴「……ふふ」

夕貴「なんでだと思います?」

安曇「……それが分かったら、昨日は酔いつぶれませんでしたよ」

夕貴「! そんなに私のことを考えてくれていたんですね……!」

安曇「考えざるを得なかっただけですよ」

夕貴「まぁ、今後毎日のように酔いつぶれられてしまっても困りますから、特別に教えて差し上げましょう!」

安曇「なんだかその言い方が気になりますが……よろしくお願いします」

夕貴「んふふ~」

夕貴「じゃん!」バッ

安曇「……?」

夕貴「このハンカチに見覚えはありませんか?」

安曇「……花柄のワンポイント……」

安曇「このハンカチは……」

安曇「……!」

安曇「私のものです、か……?」

夕貴「そうです!」

安曇「……」

夕貴「あ、わ、私が先生の私物をこっそり盗んだわけじゃありませんよ!」

安曇「知っていますよ……だってそれは、私が高校生の時に持っていたものですから」

夕貴「じゃ、じゃあ! なんで私がこのハンカチを持っているのかも分かります!?」

安曇「……」

夕貴「……でしょうね。 はい、じゃあ改めてお教えします……」

安曇「すみません……」

「……それは、私が小学1年生の頃です」

「私は、当時から結構活動的で、学校が終わった後、毎日のように暗くなるまで遊んでたんです」

「それで、しょっちゅう親に心配され、怒られてたんですけどね。 反省しないで、また暗くなるまで遊んでました」

「……あるとき、自分がいつも見ている世界とは、違うものを見てみたいと思ったんですよね」

「それで、遠出をしてみようってなって。勿論、大したお金も持っていないので、徒歩で、ですけどね」

「友達も誘ったんですけど、お母さんやお父さんに怒られるから駄目だって言われちゃいまして」

「結局一人で行くことになったんです。これはもう、お察しの通りの展開ですよね」

「バカみたいに猫を追っかけたり、わくわくするような小路を進んだりしていたら、いつの間にか、全く知らない場所にいたんですよ」

「時間もどんどん過ぎて、陽もどんどん沈んでいく……」

「小学生の私も、結構ポジティブな性格ではあったんですけど、さすがに、やっぱり子どもだったんです」

「暗くなるのと比例して、心細く、寂しく、悲しくなっていくんです。見知らぬ土地に、一人残された感じがして……」

「そして、いよいよ泣きますよ、となったとき、颯爽と現れたのが」

「そう! センセーだったわけです!」

「センセーは、泣きそうになっていた私を慰めてくれました」

「ただ、その当時のセンセーは……えと、こういうのもアレですが!」

「頼りない、というか、味方にするには心細い感じの人でしたね!」

「どうすればいいか迷いながら、私に接していた感が伝わってきてました」

「言葉数も少なくて、雰囲気も、いかにも優しい人っていう感じではなかったので、少し不安に思っていました」

「ただ、頭をなでてくれて、手を引いてくれた時」

「それまで、親以外には感じたことの無い、ぽかぽかするような温もりが伝わってきたんです」

「その瞬間、あ、もう私は助かったんだな、って確信しました」

「結果的には、その10分後くらいに、見慣れた学校の近くにまで来ることができて……」

「無事、家に帰れました。案の定、親には怒られましたけどね! えへへ……」


「……まぁ、その時に、私は漠然と、この人はすごい人なんだなーって思ったんです」

「これから、もっと一緒に過ごしていたら、絶対幸せになれるって、小学生ながらに……」

夕貴「だけど、それきり、センセーと会うことはありませんでした」

安曇「……違う県の大学に通っていたから……」

夕貴「みたいですね。 ……私は、その時の温もりが、いつまでも忘れられなくて」

夕貴「中学生になっても、会いたいなー、って思ってました」

夕貴「勿論、高校生になるときも……」

夕貴「そうしたら、なんと! 自分の通っている学校の保健室の先生が!」

夕貴「あの時私を助けてくれた人ではありませんか!」

安曇「ふふ……」

夕貴「……流石に、運命感じちゃいました」

夕貴「やっぱり、会うべくして会う人、一緒にいるべくしている人なんだなって、思ったんです」

夕貴「でも、人生何があるかなんて、わからないじゃないですか」

夕貴「たった15、6年しか生きていない私が言うのもどうかと思いますけど……」

夕貴「また、どこかに行ってしまうかもしれない……」

夕貴「だから、それなら、少しでも長い間、お話ししたいなって、思って。保健委員になったんですよ」

安曇「そうだったんですか……」

安曇「……もしかして、いつもストレートに言葉をぶつけてくるのは……」

夕貴「その時の経験も、影響してるのかもしれないですね!」

夕貴「それで、このハンカチは」

安曇「こぼれそうになっていた涙を拭くように、私が渡したもの……ですね」

夕貴「はい……」

安曇「思い出しました……そっか、あの時の子が……陸羽さんだったんですね」

夕貴「あの頃は、髪を伸ばして、しかも結んでたんで、今とは全然印象が違うかもしれないですね」

安曇「ですが、あの時の面影はしっかり残っています」

安曇「そうですか……ふふ」

夕貴「……センセー? どうしたんですか?」

安曇「いえ、本当に、運命のようだな、と思って」

夕貴「え?」

安曇「……実は、養護教諭を目指したきっかけの一つが、その時のことだったんですよ」

夕貴「そ、そうだったんですか!?」

安曇「ええ……もしあの時、陸羽さんが思い切って遠出してみようだなんて思わなければ」

安曇「ここには居なかったかもしれない……」

安曇「養護教諭という職に、やっとのことで就けたとき、あの子にお礼を言いたいって考えていました」

夕貴「……もしかして、相思相愛だったってことですかね!?」

安曇「相愛かどうかはわかりませんが」

夕貴「」

安曇「……相思であったことには、間違いないかもしれないですね」

夕貴「! ……えへへっ」

安曇「ふふ……」

安曇「改めて、ありがとうございました……陸羽さん」

夕貴「こちらこそ、あの時、助けてくださって、ありがとうございまし……」

夕貴「……」

安曇「……? どうかしましたか?」


夕貴「んむ、最初にあった時にこの話をしておけば」

夕貴「今の時期にはもうすでにイチャコラできてたかもしれなかったですかね」

安曇「ちょっと」

夕貴「あ、そうそう! センセー、このことも覚えてますか!?」

安曇「……どのことですか?」

夕貴「あの時、センセーは小学生の私にこう言ったんです」

夕貴「“私が一緒に居てあげる”って」

安曇「ええ」

夕貴「それで、私は“はい、わかりました”って返したんです」

安曇「……はあ」

夕貴「これって、もしかして、センセーにプロポーズされてたってことではないですか!?」

安曇「……」

安曇「は?」

夕貴「いやー困っちゃいましたね! まさかすでにプロポーズされていたとは……!」

安曇「……」

夕貴「来月に恋人とか、そういうレベルではなく、10年も前にすでにふーふですよコレ!」

安曇「……」

夕貴「どうしましょ……あとは婚姻届か何かに記入してハンコ押せばOKですかね!」

安曇「……」

夕貴「思い切って、アイルランドかオランダ、フィンランドあたりに移住しちゃいましょうか!」

安曇「……」

夕貴「あはは! ……なーんて……」

安曇「……」

夕貴「……すみません、ちょっと調子乗りすぎちゃいま


安曇「……考えさせてください」


夕貴「したね……って」

夕貴「……え」

夕貴「せ、センセー、いま、なんと……!?」

安曇「……私、何か言いましたか?」

夕貴「いや、絶対言いましたよ!」

安曇「そうでしょうか?」

夕貴「そうでしょう! あぁ、なんかもう一度聞きたい! どうか、もう一度先ほどの言葉を……!」

安曇「私、何か言いましたか?」

夕貴「あぁん! その言葉じゃなくってぇ!!」

安曇「……先ほどのお返しですよ」

夕貴「先ほどの私のバカーっ! うわぁん!」



<学校カルテその①、おしまい>

今宵はここまで。

<幸せクッキング>


【キーワード】


「料理上手」

一陣 百々(いちじん もも)
この物語の主人公その①。料理研究会所属。料理をすることが趣味であり、その腕も相当なもの。
本人は小食であるため、作った料理を自分で食べるよりも、誰かに食べさせることが多い。
自分が作ったものを食べた人の笑顔を見ることに幸せを感じている。
……食が細いのに、平均よりも少しだけふっくらしている。悩みの種である。
http://i.imgur.com/Kz20zRu.png
http://i.imgur.com/9SX7PDJ.png


「腹ペコ姫」

二ツ宮 千代(ふたつみや ちよ)
この物語の主人公その②。陸上部所属。犬っぽい。年中走ってばかりいる。廊下も走るので、高確率で先生に呼び止められる。でも走る。
そのためかどうかはわからないが、いつものようにお腹が減っている。
美味しいものが好きだから、美味しいものを作ることができる人も好きという単純思考の持ち主。
食べるのに太らない。ついでに胸も身長も成長しない。別に本人は気にしていない様子。
http://i.imgur.com/jt2oRQM.png
http://i.imgur.com/MfeoOc2.png


「陸上部の先輩」

紗綾形 朝見(さやがた あさみ)
この物語の登場人物で、他の物語の主人公。陸上部の次期キャプテン候補。廊下はちゃんと歩く人。
短距離を得意としており、その実力は全国レベルである。
話しやすく、懐が深いため、交友関係が広い。
大食でも小食でもないが、背が高く、胸もある。体型なんてのは人それぞれじゃないの? と考えている。
http://i.imgur.com/FYHk1He.png
http://i.imgur.com/K9oe6dm.png


「学年」
これまでの登場人物の学年まとめ。

1年生……陸羽夕貴、二ツ宮千代

2年生……白鷺姫路、加里屋赤穂、春待弥生、南風月カンナ、末津雪、紗綾形朝見

3年生……一陣百々

教員……空間安曇、海老名風華

“美味しい料理は、幸せを運んでくるのよ”

子どもの頃、母は毎日のように、私にこう言っていました。

確かに、母の料理を食べると、それが正しいことが実感できたのです。

美味しい、で口の中が満たされるだけではなくて。

温かいものが、すとんとお腹の中に落ちたとき、そこからふわぁ、と温かさが伝わってくるのです。

幸せな気持ちが、じんわりと体中にしみわたっていく。

お母さんが言っているのは、こういう事なんだなぁ、と幼い私は考えていました。

でも、母の言葉が意味していたのは、それだけではなかったのです。


そのことを本当に理解したのは

つい最近のことでした。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


かりかり、という音を立てながら、黒いツマミが進んでいます。

オレンジ色で照らされたその中では、クリーム色をした生地が膨らんでいて

甘い香りで、室内を満たしていました。


今、調理室には私が一人。

私が所属する料理研究会の活動は、まだ始まってはいませんが

立派な器具がそろうこの場所に来ると、居てもたってもいられなくなって

ついつい料理を始めてしまうのです。


使い終わった泡だて器や、ゴムべらを洗い

オーブンの中をちらりと眺めて

洗った器具を拭いたら

またオーブンの中を監視する。

料理は、まるで生き物みたいに複雑です。

ある程度、順序は決まっていますが、順番通りにやったからと言って、毎回うまくいくとは限りません。

プロの料理人は、どうかはわかりませんが、少なくとも私はそうでした。

作り慣れた料理でも、油断は禁物なのです。

チーン♪

オーブンのタイマーが、お待たせしました! と言わんばかりに音を鳴らします。

ミトンを手にはめて、ドアに手をかけて

腕によりをかけた料理とご対面。

ドアが開くと、ぶわぁと熱気が放たれます。

最初、オーブンを使ったときは、その熱にちょっとだけ怖気づいてしまいましたが、今はもう慣れたものです。

トレイを庫内から取り出して、敷物を置いたテーブルの上に。

ふんわりとした円形の生地の表面が、程よく焼けていて

甘いだけでなく、香ばしい香りも漂わせています。

そこに、白い粉砂糖や、きなこ、シナモンなどをふり掛ければ――


百々「ふぅ……完成♪」


今日のお菓子は焼きドーナツです。

揚げていないので少しだけヘルシーな仕上がり。


百々「ん~……」

百々(見た目は大丈夫……かな?)

百々(問題は味……姿かたちが良くても、美味しくなかったら、それはとっても残念だもんね)

百々(どうしようかな……)

百々(味見、しようかな……)

百々(……)

百々(うぅん、でも……最近、また太っちゃった気がするし……)

百々(いくらあげてないからヘルシー、なんて言っても)

百々(砂糖は結構使ってる……)

百々(……きなこ味なら、大丈夫かな?)

「……!」

百々(そ、そもそも、美味しいかどうかを確かめていないものを、誰かに食べさせるなんてできないよね)

「お……」パタパタパタ

百々(うん、そうよね……)

「おぉ~……」パタパタ

百々(でも……うぅん、どうしよう)

「……」スンスン

百々(……うぅ~~ん)

「ふぁぁ……♪」ジュル...

百々(ん?)

千代「おいしそぉ~♪」

百々「ひゃっ!」ビクッ

千代「んぉ?」

百々(い、いつの間にっ!?)

千代「! ねぇねぇ、このお菓子、お姉さんが作ったの?」

百々「……えっ?」

百々「あ、あぁ、うん、そうだよ……?」

百々(……小っちゃい……小、中学生?)

千代「へぇ~! すごいねぇ~!!」

百々「そ、そうかな?」

千代「すごいよぉ! すごいおいしそう!」

百々「え、えへへ……そう?」

千代「うん、そう!」

百々「……」

千代「くぉ~~~♪」パタパタ

百々「……た、食べる?」

千代「うん! 食べるっ!」

千代「ぉぉ~♪ どれ食べてもいい!?」

百々「うん、いいよ」

千代「やたー! ……えっと、これは」

百々「それは、きなこ」

千代「これは?」

百々「ココアだよ?」

千代「これ!」

百々「シナモンシュガー、かな?」

千代「ふわぁ~~~!!」

百々「」キューン

百々(なんだか可愛い……この子)

百々(子犬みたい……って、それ褒め言葉かな?)

千代「どれにしようかな! 迷っちゃう!」

百々「ふふ、どれでもいいよ」

千代「うぅ~~~~じゃあ、これっ! ココアー♪」

千代「いただきまーす!」パクッ

百々「……はっ!」

百々(結局自分で味見をしないで人に食べさせちゃった……!)

百々(しかも知らない子に……)

百々「えと……大丈夫? マズくな」

千代「おいし~~~~っ!!」

百々「……いみたいで良かった」ホッ

千代「お姉さん! これ、すっごく美味しいよ!」

百々「……っ!」ゾクッ

百々「そんなにおいしい?」

千代「うん! ふわふわ~、で、じゅわぁ~って!」

百々(じゅわぁ……?)

千代「口の中がね、すごく幸せ~なの! ほんと、すごいーっ!」パァー

百々「……!!」ゾクゾクッ

百々(ひゃぁ~っ……! この子なんでこんなに美味しそうに食べてくれるの……!)

百々(お姉さんもそれは幸せだよ~っ!)ウットリ

千代「もいっこ食べたい!」

百々「……あれ、もう食べちゃったの!?」

千代「うん」

千代「お腹すいてたから」グゥ

百々「そうなんだ。 ……じゃあ、もう一個なんて言わないで、たくさん食べて?」

千代「いいのぉ!?」キラァ

百々「」ゾックーン

この感じ――

自分の作った料理を食べた人が

こんなにも嬉しそうにしてくれる――


千代「んまいんまい♪」モグモグ


研究会の子たちや、友達に食べてもらって

笑顔を見ることができたときもあったけど……

こんなにも、喜んでくれる、美味しそうに食べてくれる子は

私自身が幸せでお腹いっぱい満たされるような子は……初めて……!


千代「んまぁ~~♪」

朝見「あ、千代。 こんなところにいた」

千代「んぐぁ! ひぇんふぁい!」


なんて気持ちいいんだろう~~っ……!



朝見「練習中に抜け出したかと思ったら、ドーナツ食べてたのか……もう」

千代「んぐッ……ふぁ! だってお腹減ったんだもん……」

朝見「そうかもしんないけど、練習いきなり抜けちゃダメでしょ。隣で走ってたのがいきなり消えたらびっくりするよね?」

千代「それもそーかもしれない」

朝見「でしょ? ほら、先輩の邪魔になるからグラウンド戻るよ」

千代「ふぁぁ~い」パクッ

朝見「また食ってるし。 えと……一陣先輩、お騒がせしました」

千代「おぉ! いちじんせんぱいって言うんだ~」

朝見「知らなかったのかよ」

朝見「千代、お前、練習10周追加な」

千代「えぇぇ~~まぁいいや」

朝見「良いのかよ」

千代「走るの好きだもん」

朝見「うん、そうだったそうだった。走る距離追加したところでペナルティでもなんでもなかったんだった」

千代「それじゃあいちじんせんぱいまたね~」

朝見「お前、ずうずうしいことするなよ」

千代「してないもん! あれはいちじんせんぱいが食べていいって言ったから――


ガラガラッ...バッタン


百々「ほわぁ……」ウットリ

百々「……」

百々「ほあぁ……」ウットリ

百々「……」


ガラガラッ


研究会員(以下会員)「先輩お疲れ様でーす」

百々「……」

会員「あれ、センパイ?」

百々「……」

会員「……センパーイ」

百々「……はッ」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


カポーン



百々「ふー……」チャプ

百々(今日会った……あの子は一体なんだったんだろう……)

百々(あんなにもおいしそうに料理を食べてくれて――)

百々(ついつい、放心しちゃった……)

百々「……」

百々「ふふ……嬉しいな……」

百々(また、食べに来てくれないかな……)

百々「あっ……」

百々(そういえばあの子、お腹すいたって言ってた……)

百々(肌もちょっと焼けてたし……外の運動部の子かな?)

百々(たくさん動いて、お腹すいてたんじゃないかな……)

百々(……今日はドーナツ、甘いモノ系だった。エネルギー補給には合ってるかもしれないけど)

百々(もしかしたらもっとお腹にたまるものの方がいいのかな……)

百々(……でも、食べた後動くとなると、それほどがっつりとしてないものの方がいいかも……)

百々(ゆっくりと食べるものじゃなくて、手軽で……お腹にたまって、運動も辛くならないもの……?)

百々「うぅ~~~ん……」

ザパァ...

...シュル

...

....

.....ブォーン


百々「……」

百々(箸を使うものより、手でつまめるものの方が手軽で良いよね……)

百々(ぱっとつまんで、さっと拭いて、そのままばっと運動できるような……)

百々(まぁ、何部なのかはわからないけれど……そもそも部活に入っているのかも)

百々(……名前すら知らないし)


ブァー


百々(あの小ささ。ニサジョの生徒なのかすら……あやしい……)

百々(って、それはちょっと失礼だよね……うん。きっと、あそこにいるってことは生徒なんだよね)

百々(あの子が好きなのは……どんな味なんだろう……)

百々(うぅ~~~ん……)



百々「……あち!」

トントントン.....


百々(チキンナゲットとか、どうかな……)


ジュワァーッ

...ジャァーッ


百々(手づかみ大丈夫だし、また油で揚げないで、焼いたら、それほど重くもならないし……)


グツグツ....


百々(でも、あの子はヘルシーなものを望んでいるのかな……)


パチパチ....


百々(……)

百々(なんか、名前も知らない子のことばっかり考えてる……ふふ)

百々(でもあの笑顔、一度見たらもっと見たくなっちゃうよ……)


......コトン

百々「……」

百々「ふぅ……」


パチン


百々「……お父さん、お母さん」

百々「……いただきます」


百々「……ん」

百々「今日のは……結構いい出来かな」


百々「……」

百々「おいし……」


百々(……やっぱり、また……食べてもらいたいな……)

今日はここまででいいや。

遅筆ではありますが、リクエストにはできる限り応えていきます。期待に添えられなかったらスイマセン。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


次の日。研究会の活動はありません。

でも、調理室は誰にも使われていなかったので、その場所を借りることが出来ました。

私は、来るとも知れぬお客さんのために、鶏手羽の甘辛煮を作ることに。

チキンナゲットから、少しだけ路線を変更。

手づかみだと指が汚れてしまうと思ったけれど、そこはご愛嬌。

濃いめ味付けは、思い切り動かした身体に染み渡るはずです。


温めたフライパンに、手羽元を投入すると

じゅわぁと音がはじけます。

表面にほんの少しだけ焼き色を付けたら、特製の調味料で煮込んでいきましょう。

酢を普通よりちょびっとだけ大目に加えて、さっぱりとした味付けにします。

落し蓋をして、弱火でゆっくりと煮込んでいきます。

カタカタと動く蓋は、まるでドラムロールのよう。

出来上がりが、どんどん近づきます。

煮込み始めて30分ほど経ちました。

火傷をしないように、落し蓋を外すと……手羽元はいかにも味がしみ込んだという色をしています。

そこに、さらに美味しくするために、みりんを加えます。

ふんわりとした甘さをもたらすだけでなく、食欲をそそるようなてかりが出てきます。

最後に、白ごまをぱらっとふり掛けて

青色の小鉢に盛り付ければ……


百々「よしっ、できた♪」


お父さんのおつまみにも、ごはんのおかずにも

運動部のお腹を満たすのにもぴったりな

百々特製の、甘・辛・酢っぱ、鳥の手羽元煮込みの完成です。

夕方、近所を歩いていて、この香りがふと漂ってきたら

お腹が鳴ること間違いなしの、自信作!

百々「……ふぅ」


さて、出来たのはいいけれど、肝心のあの子はまだ訪ねてこない。

なんの確信もなしに、料理をした私が悪いのだけれど……。

もし、このまま、誰も来なかったら……なんだかさみしい。

そもそも、この行為は、なんだか独りよがり。

相手が、何か作ってとか、他にも食べてみたいとか、頼んできたわけでもないのに

勝手に調理して、今か今かと来訪を待ち望んでいるのです。


百々(……駄目。あの子の笑顔見たさに、早とちりしちゃった)

百々(あの子の事情を何も考えないで、こんなに作っちゃって……)

百々(本当に、来なかったらどうしよう。こんなに一人で処理できない)

百々(捨てるのはもったいないし……誰かにおすそ分けする感じでいいかな……)

百々「うぅ~~ん……」

百々「……」

百々「……ん?」チラッ


千代「――!」キラキラ


百々「ほぁ!」


あごに指を当て、宛先不明になり掛けている手羽元の行方をかんがえているときに

ふ、と窓の外を目を向けたら。

窓にはりついて、こちらを……テーブルの上に置いてある、手羽元に熱い視線を送る子が一人いました。

その子は、昨日私が焼いたドーナツを……結局半数以上も平らげた、例の待ち人でした。


百々(きっ、きたぁ~っ……!)

窓際に近寄り、急いで……それでいて、いかにも待っていましたという風な感じを出さないように

落ち着いて窓のカギを開けます。


千代「開いたー! こんにちはーっ!」

百々「こんにちは……また来たんだね」

千代「うん! 来たー!」

千代「お腹すいたーって思ったら、あのドーナツの味を思い出しちゃったんだー」

百々「ふふっ、そっか!」

千代「それでー調理室覗いてみたら、またいちじんせんぱいがいたから!」

百々「……ん?」

百々「あれ、君……なんで私の名字を知ってるの?」

千代「え? うーん、なんでだっけ?」

千代「……あ! えっと、あさみちゃんが教えてくれた!」

百々「あさみちゃん……?」

千代「うん! 千代のせんぱいなんだ」

百々「あさみちゃん、あさ……あ! 紗綾形朝見……さやちゃんね!」

千代「そう、さやがたあさみちゃん」

百々(朝見ちゃん、って、さやちゃんのことか)

百々(ということは、この子も陸上部……かな?)

百々(そしてさっき、自分の名前を言ってた、よね?)

百々「君は……千代ちゃん、っていうの?」

千代「うん、そうだよ! 二ツ宮千代!」

百々「そっかそっか、二ツ宮、千代ちゃん……」

百々(うん、なんだかいかにも、ちよちゃん、って風な雰囲気あるなぁ……)

百々(……これは私の勝手なイメージだけど)

千代「いちじんせんぱいは、いちじんなにって言うの?」

百々「私は、一陣百々。 もも、だよ?」

千代「ふぁ! 桃!? おいしそう!!」ジュル

百々「おいし……!? ……千代ちゃん、残念だけど、もも、って果物の桃じゃないんだ」

千代「なぁんだ、そうなんだー」

百々(本当に食べ物が好きなんだなぁ……この子)

千代「そういえばももせんぱい!」

百々「ん? どうしたの?」

千代「今日は何を作ったのーっ?」


目をキラキラさせながら、窓を軽々と乗り越えて、調理室へ入ってきます。

靴のままで大丈夫かな? と思ったら、いつの間にやら、ランニングシューズは外に並べて置いてありました。


百々「今日はね、鶏の手羽元煮込みだよ」

千代「うわぁ~~~~~♪ おいしそ~~~~っ!」

百々「ふぁぁ……!」キュゥーン


これです。この笑顔。

この笑顔を、また見たいと思っていたんです。

千代「おいしそうだねぇ! ねぇせんぱい!」

百々「そうかなぁーっ……えへへ」

千代「~~~~♪」パタパタ

千代「~~~~~~~♪」パタパタパタパタ

百々(あぁ、やっぱり尻尾が見える気がする……ふぁ~かわいい……!)

百々「お腹、すいてるんでしょ?」

千代「すいてます!」グー

百々「うふふ、私が作ったので良ければ、どうぞめしあがれ♪」

千代「―――――!! いいのぉ!?」

百々「うん♪」

百々(勿論いいに決まってるでしょぉ! 千代ちゃんのために作ったようなもんなんだからぁ……♪)

千代「じゃあいただきまぁす!」

百々「どうぞー」

千代「くぁ~♪ どれにしよ……!」

千代「ん~っ、じゃあ、これっ!」


千代ちゃんは、手羽元の中から、他よりもちょっと大きいものを選び出し、それを指でつまみます。

そして、じろりとお肉が厚くまとわりついていそうな場所を見定めて……ぱくり。とかぶりつきました。

そこから、ゆっくりと手羽元と顔との距離が離れていくと、お肉がほろほろっ、とほどけていきます。

お肉の断面には、調味料を吸った肉汁が、じんわりとにじみ出ています。

どうやら、私の今日の料理は、思惑通りみたいです。よかった。

千代「んんんっ!!」

千代「んおいふぃっ!」

千代「ほぇおいふぃぃ~っ!!」

百々「ふぁ!」ゾワッ

千代「んぐ、ふぁー! お肉やわらかいっ! そいで、じゅわぁーって!」

千代「すっごく美味しいよーっ!!」

百々「ぁぁっ……!」ゾワァッ

千代「ももせんぱいは天才だねぇ! しあわせぇ……!」

百々「~~~♪」ゾワワワッ


天才は果たしてどっちなのでしょう?

千代ちゃんこそ、作った人を喜ばせる天才なのではないでしょうか。

だって、私もこんなに幸せで満たされている……。


百々(あぁ、最高……っ♪)

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


千代「ふぇ……ごちそうさま……」


結局、千代ちゃんは全部綺麗に食べてくれました。

今は、満足そうに、テーブルに突っ伏しています。


百々「美味しかった?」

千代「うん! 美味しかった……もうちょっと食べられる」

百々「ふふ、千代ちゃんは良く食べるねぇ」

千代「うん、食べるの好きなんだー」

千代「食べるのと、それと走るのも好きなんだけど、たくさん走るとすぐお腹すいちゃうんだよー」

千代「たくさん走れば、たくさん食べられて、ういんういん!」

百々「そっかそっか……ふふ」

千代「……ももせんぱいは料理好き?」

百々「うん、大好き」

百々「千代ちゃんみたいに、私のつくった料理を美味しそうに食べてくれる人がいると、とっても幸せになれるからね」

千代「おお! ういんういんだ!」

百々「そうだね、ういんういんだねっ」

千代「えへへっ」

千代「……いいなーっ」

百々「ん? いきなりどうしたの?」

千代「ももせんぱいが、そんなに料理じょうずなんだったら」

千代「ももせんぱいのおかーさんはもっと美味しいご飯作れるんだろうなーって思って」

百々「……」

百々「うん、私のお母さんは、すっごく料理上手だったんだよ」

百々「私の料理なんて、比べ物にならないくらい」

千代「ふぇ~、ももせんぱいの料理でも、くらべものにならないんだったら、それすっごく大変だね!」

千代「なんだかー、よくわかんないけど、ばくはつしちゃいそう!」

百々「実際、幸せがお腹の中で爆発してたんだよ? ……それくらい、すっごく、美味しかったんだ」

千代「へぇー、食べてみたいなぁーっ」

百々「うん、そうだね……」

百々「……」

千代「んぅ……?」

百々「あ、そうだ。 千代ちゃん、もしかして、今って部活中じゃない?」

千代「……あ!」

千代「そういえば、そうだったかもしれない!」

千代「あさみちゃんが来る!」

百々「あら、それは大変……なのかな?」

千代「んーん、あさみちゃんは怒らないから大丈夫。むしろ、千代がこうしてるとたくさん走らせてくれるんだ」

百々(それって、さやちゃんのなかではペナルティのつもりなんじゃないかな……多分)

千代「でも、あさみちゃん、千代にずうずうしくするなって言ってたや、そういえば」

百々「保護者みたいだね……」

千代「だから、そろそろ部活に戻るね」

千代「ももせんぱい、おいしい料理、ごちそうさまでしたっ!」

百々「うん、おそまつさまでした♪」

千代「よっ、と」


百々「今更だけど……食べたばっかりで、走って大丈夫?」

千代「うん! もう走れるよ!」ピョンピョン

百々「すごいね、千代ちゃん……」

千代「……んょしっ。 じゃあ、ももせんぱい。あらためて、ごちそうさまでした!」

百々「いえいえ、こちらこそ、美味しそうに食べてもらって、ありがとうございました♪」


千代ちゃんは、にこっと笑って、手を振りながらグラウンドへと駆け出していきました。

こちらが右手を振って応えると、今度は千代ちゃんは両手を大きく振り出します。

……しばらくすると、さやちゃんが千代ちゃんと合流して、何かを話しているようでした。

きっと、また千代ちゃんにとってはペナルティとは言えないペナルティを課しているのでしょう。

そのやり取りに何となく想像がついて、思わずくすりと笑ってしまいます。

私は、二人が練習を再開するのを見届けて、帰る準備をし始めます。

調理で使った器具を洗い、拭いて、もとあった場所に片付けます。

水回りもしっかりと掃除をして……

……そのあとで、バッグの中に私物を詰め込んで、忘れ物が無いかをしっかりと確認します。


コンコンコンッ


ファスナーをしめようとしたときに、突然窓をたたく音がしました。

びく、と肩を揺らした後、振り向いて見ると、そこには先ほどのように、千代ちゃんがいました。


百々「千代ちゃん……?」


今度は急いで窓際に駆け寄り、再び鍵を開けます。


百々「千代ちゃん、どうしたの?」

百々「も、もしかしてまたお腹がすいたりとか……」

千代「ち、ちがうよ! いくら千代でもそんなにすぐにはお腹すかないもん!」

百々「そうだよね、ごめんごめん……」

千代「おなかがすいたから、来たんじゃないよ」

千代「千代、聞きたいことがあったからまた来たの」

百々「聞きたいこと?」

千代「うん!」

千代「ももせんぱい、千代、またここに来ても良い?」

百々「えっ?」

千代「ももせんぱいのつくるお料理、すごく美味しい」

千代「それに、おなかいっぱいになるだけじゃなくて……うれしいとか、たのしいとか、そういう気持ちでいっぱいになるんだ」

千代「千代、もっとももせんぱいのお料理食べてみたい」

千代「ももせんぱいと、もっともっと、お話したりして、仲よくなりたいんだっ!」

百々「……千代ちゃん」

千代「……だめ?」

百々「……」

百々「ううん、ダメなわけないよ」

百々「私も、もっといろんな料理食べてもらいたいし、千代ちゃんのこと、もっと知りたいと思うよ」

百々「だから、いつでも……と言っても、私、毎日ここに来るわけじゃないから……」

百々「私が居る時なら、いつでも。 いつでも、遊びにおいで?」

千代「~~! うんっ!!」

――それからというもの、千代ちゃんは私が居る時には、調理室に遊びに来るようになりました。

私が作る料理は、最初と変わらず、美味しそうに食べてくれます。

調理研究会の子たちともなじみ始めて、

陸上部の活動がないときには、一緒に調理をすることもありました。

私の毎日は、千代ちゃんが加わって、どんどんと輝きを増していくようでした。


一方で、幸せを感じれば感じるほど……

……昔のことを思い出すようになっていったのです。


美味しい料理が、本当の幸せをもたらすのは、もう少し先のお話。


<幸せクッキングその①、おしまい>

ちょっと長くなりそうなので一旦区切り。続きはまたいつかやると思います。……たぶん。

次はひたすらいちゃいちゃの予定です。

既に登場した二人でやるか、新しく考えてやるかはこれから決めます。

今宵はここまで。

イチャイチャというものが何だかよくわからなかったので2パターンやることにしました。

えっちーなこともあるかもしれないので。



<ウチのヨメは誰よりも凶暴でかわいい>


【キーワード】

「ウチの」
合馬 七生(おうま なお)
この物語の主人公その①。3年生。おっぱいがついた好青年。背が高め。元水泳部。
ちょっと地味だが、それなりに人に好かれる性格の持ち主。美己とは長い付き合い(二つの意味で)。
彼女を溺愛しており、可能ならばいつまでも頭をなでていたいと思うこともあった。今でもたまに思う。
http://i.imgur.com/kgkbQJg.png
http://i.imgur.com/T92NE2A.png


「ヨメ」
幾寅 美己(いくとら みこ)
この物語の主人公その②。2年生。おっぱいが……な少女。ちょっと背が低い。帰宅部。
人を寄せ付けない雰囲気を纏っている。毒舌家で、思ったことはずばずば言う。
表向きはツンツンしているが、実は誰よりも寂しがり屋だったりする。なのにスキンシップは苦手。面倒。
未だにシラフで好きと言えない。言いたいときに言えるようになりたいと密かに思っている。
http://i.imgur.com/i9rTUOI.png
http://i.imgur.com/uG19WHL.png




<生徒会の熟年ふーふ>


【キーワード】


「ふー」

立藤 菊乃(たちふじ きくの)
ニサジョ生徒会副会長。3年生。この物語の主人公①。
藍とは小さいころからの仲で、同じ小学校に通い、違う中学校に在籍したあと、同じ高校に入学した。
会えない時間が愛育てたらしく、高校に入ってから付き合い始めるまでそう時間はかからなかったらしい。
おっとりしていそうで、とてもしっかりしている。
http://i.imgur.com/O14uOrb.png
http://i.imgur.com/iHthYNS.png


「ふ」

天竺 藍(てんじく あおい)
ニサジョ生徒会副会長。実質、生徒会長。3年生。この物語の主人公②。菊乃とともに生徒会を運営している。
しっかりしていそうで、ちょっと頼りない部分がある。その部分を、菊乃に補ってもらっている。
そのため、菊乃がいなかった中学時代は、人生で最も失敗が多かった時期になると思われる。
http://i.imgur.com/h3gGADG.png
http://i.imgur.com/NanwfkU.png


「寮」
ニサジョには、北曲輪(くるわ)寮、南曲輪寮、本曲輪寮、井戸曲輪寮の4つが存在している。
今学校が存在している丘に、かつては城が立っていたからそのような名前になったと言うが、真相は定かではない。

それぞれの寮に、一人部屋~三人部屋が配置されており、各人の希望により住む部屋が決められる。
入寮価格はリーズナブルでありながら、定期的にリフォームされており、寮内はとても綺麗。外見は年相応。
キッチンや風呂などは各部屋に備え付けられているものの、大浴場や共同で使える厨房もあったりする。
部外者は立ち入り禁止だが、生徒なら自由に行き来可能。門限もない。
自由な校風であるのをいいことに、裸で何が悪い、という考えのもと素っ裸で廊下を歩く奴もごくまれにいるのはご愛嬌。

井戸曲輪寮は今は建て替え中で、誰も居住していない。心霊的な現象が起きると噂されている。この設定が活かされるかは不明。

七生と美己は南曲輪寮に
菊乃と藍は本曲輪寮に住んでいる。

<ウチのヨメは誰よりも凶暴でかわいい>

◆朝◇


カチ...カチ...カチ...カチ...


ペタペタペタペタ.......


美己「……七生」

美己「さっさと起きてください。朝ですよ。」

七生「んん~……っ」

七生「……ぐぅ」

美己「はぁっ……七生、はやく起きてくださいってば。時間なんですから」

七生「……」モゾッ

七生「……んじゃさぁ……チューして……チュー」

美己「……」

七生「チューしたら、起きるからさぁ……」

美己「バカ言ってないで早くしてください」

七生「えぇ~っ……本気なんだけどぉ」

七生「美己ちゃん、はやくぅ……」

美己「……嫌。 いいから、布団から出て支度してください」

七生「えぇ~~っ、私だってしてくれなきゃ嫌だ嫌だ嫌だぁ~っ……」

美己「」イラッ

七生「ね、ほっぺでいいからさぁ……」

美己「……したら起きるんですね」

七生「起きるよぉ、起きる起きる! そりゃもうばっちり起きちゃうよ!」

美己「もうばっちり目が覚めてそうなんですが?」

七生「いや、まだ心の目が覚めていないよ」

美己「……はぁ、仕方ないですね」

七生「よっし! さぁ来い美己ちゃん! はよはよ!」

美己「わかりましたから……バカみたいにせかさないでください」


七生「~♪」ソワソワ

美己「っ……」

美己「……-ッ」フルフル

七生「――なーんて、かかったなぁ! 美己ちゃん!」ギュゥ!

美己「ぅあ!」ボフッ

七生「ふははは! ほっぺにちゅーだけでおさまるものか!」

七生「ちゅーを所望したのは美己ちゃんを私の領域に入り込ませるためっ!」

七生「最初から、私のフィールドに入ってきたところを捕縛してにゃんにゃんするつもりだったのだァーッ!」

七生「んちゅちゅ~♪」

美己「~~~ッ!!」ジタバタ

七生「なっはっはっ! 逃しはせん、逃しはせんぞぉ~っ!」ギュゥー

美己「っ! ――ふっ!!」ドゴォ!

七生「おッ!!」

美己「やっと解放されました」

七生「……っちょ、ま……あ、は、入った……鳩尾……」プルプル

美己「……変なことしようとするからでしょう。自業自得です」

七生「変なこととは、し、失礼な……ただ私は美己ちゃんと、す、すきんしっぷを……」

美己「いつまでものんきに寝ていた貴女のおかげで、時間がないんです」

美己「さっさと起きて、ご飯食べて行きますよ」

七生「えっ! 何! 今日は美己ちゃんが作る朝ご飯の日だっけ!?」

美己「いきなり声量をあげないでください。 不快です」

七生「いや、そりゃ声もでっかくなるよ! 早く言ってよォ~」

七生「待って、すぐ着替える!」


バタバタ....


美己「……」

美己「……はぁ」

美己「朝っぱらから……あんな」ブツブツ

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


七生「くぁ~……美味しかったぁ……」

七生「やっぱり美己ちゃんのつくる朝ご飯は最高」

美己「そうですか、それは良かったですね」

七生「しかもそのあと美己ちゃんとのんびり散歩デートできる」

美己「ただの登校ですが」

七生「手は繋いでるけどね」

美己「貴女がしたいって言うからじゃないですか。こっちは暑苦しいだけですよ」

七生「またまたぁ、まんざらでもないたいいたいいたいいたい!!」

美己「……減らず口は大概にしてください」

七生「まぁ美己ちゃんに強く手を握られるのなら止めないかな」

美己「七生は変態ですよね」

七生「まぁそう褒めなくても」

美己「それでいてバカ」

七生「いやぁ……」テレテレ

「あ、七生おはよー」

七生「あ、おはよ」

「おはよう、合馬さん」

七生「おはよー」

美己「なのに周囲の人の評判は悪くない」

七生「そりゃね。 私はただ美己ちゃんが好きなだけだし、おかしいところなんて何もないもの」

美己「……寮に居る時の七生のことを言いふらしたらほとんどの人が幻滅すると思いますけど」

七生「それは困るなぁ~」

美己「やっぱりおかしいという自覚あるんじゃないですか」

七生「いや、別にそういう意味ではなくてさ。 私と美己ちゃん、二人きりで居る時の秘密を知られたくないっていうだけなんだけど」

七生「勿論ね? 美己ちゃんが私とのラブラブっぷりを周囲にアピールしたいって言うのなら、秘密を公表することもやぶさかではないよ?」

美己「……私の尊厳にもかかわりそうなので、普段の七生のことを言いふらそうとは今後思わないことにします」

七生「良かったような、残念なような」

七生「なんて話をしている間に分かれ道に着いちゃったね」

美己「そうですね。やっと着きました」

七生「これからの4時間が長いんだよなぁ……美己ちゃんと一緒に入れないかと思うと私寂しいよぉ~」

美己「私はせいせいしますけどね」

七生「あははっ。 ひどいなぁ美己ちゃんは」

美己「……」

七生「じゃあ、私そろそろ教室行くよ」

美己「……ええ、その方がいいと思います」

七生「うん」

美己「……」ギュ

七生「あー……。 あの、美己ちゃん」

美己「……」ギュー

七生「手、放してもらわないと私教室いけないんだけどなぁ……」

美己「……そうですね」ニギ

七生「うーん……」

七生「あ、そうだ。 今日学校終わったら、甘いモノでも食べに行かない?」

美己「!」

七生「ほら、近くになんかお店出来たって言ってたじゃん、あの……フローズンなんとかってやつ」

美己「スモアです」

七生「そうそう、それ食べに行こうよ」

美己「そうしましょう」

七生「だから、そのためにも今日もそれぞれ勉強頑張ろ。 頑張った方が、ご褒美は何倍も嬉しいしね」

美己「……ん」

七生「それじゃ、またお昼に会おうね」

美己「……お昼は迎えに来てください。こっちから出向くのは面倒なので」

七生「はいはい♪」



七生(まったく、素直じゃないんだからなー……)

七生(そこが魅力の一つなんだけどね)

七生「あぁ……かわいいなぁー……」ニヘラ

藍「……いきなり何を言い出してるの、七生?」

七生「えっ、声に出てた?」

藍「ばっちり」

七生「おかしいな……心の声を発してるつもりだったんだけど」

藍「次からは気を付けた方がいいよ。その顔で、その発言。外に出たら確実に職質されるよ」

七生「えー、職質ぅ?」

菊乃「何言ってるの。 七生はいっつもそうじゃないの」

藍「あ、菊乃。 お帰り」

菊乃「ただいま、藍。 はいこれ、頼まれてたコーヒー」

藍「ありがと」

七生「いっつも職質されそうだなんて、酷いなぁー……」

菊乃「違うわよ。 幸せそうににへーってしてるのは毎度のことでしょ、って言いたいの」

菊乃「どうせ、幾寅ちゃんのことでも考えてたんでしょ?」

七生「なぜ分かった……!」

菊乃「貴女と幾寅ちゃんのことを知ってる人なら誰だってわかるわよ」

七生「藍はわかってた?」

藍「……ん、まぁ、気づくよ、それは……ね、うん」

七生「絶対わかってないぞこいつ」

菊乃「藍は鈍感なところあるから仕方ないわね♪」

藍「……うぅ」

藍「そ、そういえば……進路調査票、書いた?」

七生「んぇ? なんだっけそれ……」

藍「昨日渡されたでしょ」

七生「そうだったっけぇ……?」

菊乃「まぁ、ウチの学校は提出物に期限を設けないことが多いから、忘れちゃうのも仕方ないかもね」

藍「それでも昨日の今日だよ?」

七生「……んー」

七生「藍と菊乃は書いたの?」

藍「ん、まぁ」

菊乃「進路はもう決まっていたから、あとは書くだけ、だったものね」

藍「七生だって進路は既に決まってるでしょ」

七生「まぁ、ある程度目星はつけてるけど」

七生「あー、そっかぁ……私らってあと1年もしないうちに卒業するんだっけ……」

藍「2年間はあっという間に過ぎたよね。 残りもすぐに過ぎていくんだろうなぁ」

菊乃「そう考えると、なんだかちょっとさみしいわね」

七生「ねー、この学校、結構居心地良かったし」

七生「クラスメイトも先生も良い人ばっかりだったしなぁ」

七生「何より美己ちゃんと一緒に高校特有のイベントを経験できたってことが何より良かった……!」

菊乃「文化祭とか体育祭とかね」

七生「そう! あの時のメイド服姿の美己ちゃんを、ボールを一生懸命に追っていた姿を私は一生忘れない……!」

藍「うわぁ」

菊乃「まぁ、分かる気はするわね。学校行事を一緒に楽しめたってことは、いい思い出よね」

菊乃「文化祭の後、生徒会室で二人で花火を見なが」

藍「うわぁーー!! ちょ、何言おうとしてんの!?」

七生「え? 何その話詳しく! kwsk!」

藍「詳しく話すことなんてないって!」

菊乃「後で、ね♪」

藍「後でも駄目だよ!!」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


◇昼◆

七生「――みたいな感じでさ、進路の話から、これまでの行事を二人で過ごせたことが良かったよね、っていう風な話になったんだ」

七生「美己ちゃんはさ、1年生の時のイベントの中で、何が一番印象的だった?」

美己「……」

七生「……美己ちゃん?」

美己「え? ……すいません、聞いてませんでした」

七生「……美己ちゃんがぼーっとするなんて、珍しいね」

七生「どうしたの? 午前中疲れた?」

美己「……はい。少しだけ、疲れてしまったのかもしれないです」

七生「そっか。無理は禁物だよ? 美己ちゃんはただでさえ普段頑張りすぎるんだから」

美己「気を付けます……」

美己「それで、何の話なんでしたっけ」

七生「ええと、1年生の時の学校行事で、何が印象的だったかって話」

七生「あ、勿論私と一緒に過ごしたやつ限定で」

美己「1年生だけで行った水族館が一番印象に残っていますね」

七生「あれーっ! 今私と一緒に過ごしたやつ限定でって言ったのになぁ! おかしいなぁ!」

美己「……七生は学年が限定される行事でない限り、ほぼずっと引っ付いてくるじゃないですか」

美己「そんなしつこくて暑苦しい七生がいなかった水族館が、一番印象に残ってるんですよね」

七生「なんてことだ……普段の行動が裏目に出てしまうとは……」

美己「……いつもいるはずの七生が、居なかったから……」ボソ

七生「ん? 何か言った?」

美己「……いえ」

美己「それより、あと10分ですよ。全然箸が進んでいませんが、大丈夫ですか?」

七生「なっ! やばい! 次移動教室だった! 早く片付けなければ……!」

美己「……ほんと、どうしようもないですね、七生は」

七生「美己ちゃんと一緒にいると時間があっという間に過ぎちゃうんだよ! その点美己ちゃんにも責任はあると思うんだよね……」

美己「バカ言ってないで早く食べてしまってください」

七生「ですよね!」

美己「……」

美己「……」ジィ

七生「……んぅ? 私の顔に何かついてる?」

美己「……ついてませんよ」

七生「そっか? ……ぁぐ」

美己「……」

七生「……んん……。 美己ちゃん、そんなに見られると、どきどき、しちゃうんだけどな……?」

美己「七生だって私が食べている所をずっと見ているじゃないですか」

七生「そうだけどぉ~……」

美己「いいから、気にしないでください」

七生「んんぅ~……?」

私が昼ご飯を片付けている間、美己ちゃんはずっと私のことを見つめていた。

それはそれで気になっていたんだけど、それ以上に気になることがあって。

……なんだか、美己ちゃん、いつもと雰囲気が違うような感じだった

最高に可愛い、寂しいと思っているときの美己ちゃんっぽいんだけど

なんだか、それ以上に……切なそうな、悲しそうな……

そんな気持ちをはらんでいる目をしてた

……と、思う


七生(私、何か変なこと言ったっけ……)

七生(後で、聞ける様子だったら……聞くか)

◆放課後◇


七生「ふぁー……やっと終わったっ」

菊乃「お疲れさま、七生」

七生「菊乃も藍もお疲れ。 二人はこれから生徒会?」

藍「そ。 書類整理とかしなきゃいけないから」

菊乃「もうちょっと先だけど、世代交代のこともあるから、今から綺麗に片付けておかなきゃいけないこともあるのよね」

七生「大変だねー、生徒会ってのも」

藍「それなりにやりがいはあるからさ。 菊乃もいるし、大変なことばっかりじゃないよ」

菊乃「ふふっ、もう。……じゃあ、また明日ね、七生」

七生「はいはい、また明日ー」フリフリ

七生「……」

七生「……さて、私も美己ちゃんのところに……」

七生「ん……?」


美己「……」キョロキョロ


七生「なっ……! 美己ちゃん!!」

美己「……七生」

七生「美己ちゃんから来てくれるなんて珍しい……!」パタパタ

美己「ただの気まぐれです」

七生「気まぐれでも嬉しいよ! ……じゃあ、約束通り、フロー……フローズン……相撲じゃなくって」

美己「スモア」

七生「そうそれっ! 食べに行こっか」

美己「……そうしましょう」

七生(ん、いつもの美己ちゃん……じゃないけど、悲しい感じはないや)

七生(私の美己ちゃんセンサーに限って、気のせいだった、ってこともないだろうけど……)

七生(ただの考えすぎだったのかな)

七生「でさ、そのフローズンスモアっていったい何なんだっけ」

美己「それも知らないのに誘ったんですか?」

七生「ごめんごめん……話題になってるのは分かってたんだけど、そのもの自体はしらなくってさ」

美己「アイスが入ったマシュマロを焼いたもののことですよ」

七生「……おぉ……? 想像はついたけどいまいちぴんと来ないね」

美己「まぁ実際に見て食べてみれば分かりますよ、多分」

美己「私の料理をなんでもうまいうまいといって食べるバカ舌には美味しさにはわからないかもしれないですけど」

七生「それは実際うまいのだから仕方ないことじゃないですか」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


七生「結構人がいるもんだね……並んで注文して作って、結構時間かかった感じするよ」

美己「まぁ、今はメディアでよく取り上げられていますから、仕方ないと思います。私達はむしろ早く済んだ方なんじゃないですか?」

美己「それより早く食べましょう。 折角焼きたてなんですから」

七生「ん、そうだね。いただきます……ぁふ」

美己「……ん」

七生「! これは!」

美己「不思議な食感ですね」

七生「ん、マシュマロとアイスを一緒に食べているような感じだね……!」

美己「当たり前でしょう。やっぱりバカ舌じゃないですか」

七生「……言った後さすがに自分でもその感想はどうなんだろうって思ったよ、うん」

七生「まぁでも、予想以上に美味しいかも。話題になるのも分かるね」

美己「そうですね。これでいろいろな味が増えれば、もっといいかもしれません」

七生「かんきつ系のフレーバーとか合いそうだなー」

美己「私はイチゴだと思います」

七生「イチゴもよさそうだね! ……新しい味が出たら、また来ようね、美己ちゃん」

美己「! ……」

美己「……そ、うですね」

七生(……ん?)

美己「……」

七生「美己ちゃん?」

美己「……すいません、ちょっとお手洗いに行ってきます」パタパタ

七生「あ、ちょっと」

七生「……」

七生(折角、焼き立て……なのになぁ)

七生「これじゃあ、冷めちゃうよ……? 美己ちゃん……」

……お手洗いから帰ってきた美己ちゃんは、いつも通りの美己ちゃんだった。

ちょっと冷えて、固くなってしまったマシュマロを頬張っている様子は

それは、とても愛おしかったけれど。

再び見せた悲しそうな顔が、どうしても脳裏に焼き付いて……離れなかった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

◇南曲輪寮◆


七生「……はぁ」

七生(……最後の方……)

七生(ふわふわした何かを食べてる感覚しかなかった……)

七生(……美己ちゃん、どうしちゃったのかな……)

七生(あの後も、元に戻ったり落ち込んだりを繰り返してた)

七生(長く一緒にいるけど、こんなの、初めてだ……)

七生「……うぅ~~~……」

七生(美己ちゃんの気持ちに気づけない自分が憎い……)

七生「っはぁ! くそっ……」

七生「……」

七生(……美己ちゃんがお風呂入ってる間に、進路調査票でも書いちゃおう)

七生(こういう時に限ってどうでもいいことをしようと思ってしまう……)

七生(これもある種の……現実逃避かなぁ)ガサッ

七生「……第一志望……は、と」

七生「……」カリカリ

七生「第二……」

七生「……」カリ....

七生「……第三」

七生「うぅ……」クルクル

七生「……んんっ」タンタン

七生「んんん~~~……!」タンタンタンタン

七生「だぁーっ! もう! 現実逃避すらできないよ!」ゴロンッ

七生「はぁ~~……」

七生「……」

七生「……美己ちゃ~ん……」

ガラッ.....ペタ...ペタ....ペタ


美己「ふぅ……」

美己「七生、お風呂空きましたよ。次……」

美己「……」

七生「……スゥ……んむ……」

美己「寝てる……」

美己「バカですね、ほんと……暖かくなってきても、何もかけずに寝たら風邪をひくじゃないですか……」チラ

美己「……――っ」




七生「んにゃ……ふぁー……んん、ん?」

七生「布団……? あれ、私……そうか。寝ころんだまま、眠っちゃってたんだ」

七生(……美己ちゃんにお礼言わなきゃな……布団掛けてくれたお礼)

七生(で、お風呂から上がった美己ちゃんは何処だろう……)キョロキョロ

七生(お手洗いかな? ……けど電気はついてない)

七生(買い物……は、書置きせずに一人で行くはずもないし……)

七生(……家出? それは……ありうる。今日の美己ちゃんの様子を見ていたら、あり得そうな気がする……うぅん)


バサッ......バタバタ......


七生「……カーテンが揺れてる……?」

七生「――!! まさかっ……!!」

七生「美己ちゃん……っ!」ドタッ

七生「だ、ダメだよ! 美己ちゃん!」バタッ

七生「そんな、間違えてもっ……!!」

七生「ベランダから、飛び降りるなんて、そんなのっ……!!」


七生「やめて~~~ッ!!!」ガララッ!!


美己「……何夜中に大声出してるんですか」

七生「~~!! 美己ちゃ……!!」

七生「うわぁ~~ん!! よかったぁ、いきてたぁ……!!」ギュゥ

美己「ぅぐ、苦し……ちょっと、七生……止めてください……」

七生「よかったぁ、よかったよぉ……!!」ムギュゥ

美己「ちょ、ん、んんむぅ……!! んッ!!」ドグッ

七生「ぐふぁッ!!」

七生「ほ、本日二回目の……鳩尾は……辛いものが、あるよ……」

美己「……はぁ、はぁ……七生が、息もできないくらいに……思い切り抱きしめるからでしょう……はぁー……」

七生「……いや、だって、美己ちゃんがベランダから飛び降りたのかと、思って……」

美己「はぁ……?」

七生「~~っ! 今日の美己ちゃんがおかしいから、心配になっちゃったんだよっ……!」

七生「……一人で悩んだような顔するし、悲しそうな顔するし」

七生「かと思えば普通に戻って、そしてまた切なそうな表情になって……!」

七生「いつもと違うから、もしかしたら、って、不安になっちゃったんだよ……」

美己「……七生」

七生「ねぇ、どうしたの……? 美己ちゃん」

七生「よければ教えて? どうして今日は……そんな風なの?」

七生「不満があるならいくらでも聞くし、直していく」

七生「辛いことなら、私が軽減してあげる」

七生「悲しいことなら、私もそれを一緒に背負ってあげるから……だから、お願い」

美己「……」

美己「……進路」

七生「……え?」

美己「七生の、卒業のこと……考えてたんです」

七生「私の、卒業のこと……」

美己「……私のこれまでの高校生活は……隣に、七生がいました」

美己「けれど、あと1年足らずで……七生はいなくなる。この部屋も、私一人のものになる」

美己「七生は、実際かなり……鬱陶しいですけど」

七生「」

美己「それでも、七生と一緒にいると……その、幸せなんです。私は……」

美己「七生が、隣にいてくれなきゃ、さ……寂しいんですよ……」ゴニョ

七生「美己ちゃん……」

美己「……実は、一年生の時に行った、水族館のことだって……」

美己「一緒に七生がいてくれたら、どれほど……た、楽しかったろうかって……ずっと考えてた、んです……」

美己「印象に残ってるっていうのも、そ、れが……原因で……その」

美己「……です」

七生「……」

美己「それに、卒業したら……七生は、大学に入るわけで……」

美己「もし、遠くの大学に行っちゃったら、どうしようとか……大学に入って、別に好きな人が、できたら、どうしようとか……」

美己「……ネガティブ思考に、陥ってしまって……」

美己「それで……」

七生「なぁんだ、そうだったんだ……」

七生「そういう事だったんだ……なら、良かった」

美己「良かっ……!?」

七生「……心配いらないよ、美己ちゃん」

七生「1年くらい離れてたって、仮に、互いに遠く離れた場所にある大学に通うことになって、4年間離れたとしても」

七生「私の気持ちは揺るがないし、その期間を過ぎれば、ずっと一緒に暮らせるから」

美己「っ……」

七生「そりゃ、勿論、離れてる間は私だってきっと寂しい、寂しくて耐えられなくなる自信があるよ……まぁ、偉そうに言う事でもないけどね」

七生「だからこそ、今……二人でここで暮らしている間に、少しでも美己ちゃん分をためて置こうと思って、一緒にご飯食べて、勉強して」

七生「たまに行事を楽しんだり、買い物に出かけたりして、そして一緒に寝て……ってしてる」

七生「少しでも美己ちゃん分をためておこうだなんて考えてさ、出かける前に抱きしめたり、なるべく手をつないだりもしてるんだよね」

七生「まぁ、スキンシップが過剰すぎて、美己ちゃんに怒られることもあるけどさ……」


七生「そんな私は良いとして、もし、美己ちゃんが3年生になって、私のいない生活を送ることになったとしても」

七生「寂しいな、って思えばいつでも、何時でも呼んでくれて構わないよ」


七生「美己ちゃんのためなら、地球の裏側からだって、飛んで駆けつけるから……」

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