男「俺にSSの書き方を教えてくれ!」 友「はぁ?」 (171)

男「頼む! 一生のお願いだ!」

友「いきなり部屋に押しかけてきて何を言うかと思ったら。
  そんなことで一生のお願い使うなよ。
  ていうか、お、俺はSSなんか書かないし」

男「そんな馬鹿な」

友「そんな馬鹿ななんてリアルで言うやつ初めて見たわ」

男「俺もはじめて言った」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1430696029

男「ところで」

友「あん?」

男「このシークレットフォルダに入ってるテキストファイル」

友「ちょちょちょ!」

男「なんで隠すんだ! こんな素晴らしい作品を!」

友「隠すわ!」

男「え? 何か問題でも?」

友「問題しかねぇよ! そもそもなに勝手に人のPCつけてんだ!」

男「だって、俺のSS捜索センサーに引っかかったから……」

友「何を言ってるんだお前は」

男「うわ! すげぇ! 読んだことあるヤツばっかりだ。
  おお、ちゃんと名作も!」

友「……」

男「これ全部友が!?」

友「……まあ」

男「さすが、俺が見込んだだけはある」

友「……」

男「SS収集癖のある俺と同じ匂いがするわけだぜ!
  よくこれだけ集めたな!」

友「ちげぇよ!?」

男「えっ」

友「あっ」

男「じゃ、じゃあ、これ全部友が書いたのか……?」

友「……そのつもりで教えてくれって言いに来たんじゃないのか」

男「いや、友からSSの匂いがしたからつい」

友「どんな匂いだ」

男「これはうれしい誤算だな。
  友が書きなれてるなら教師としてこれ以上ない適役だぜ」

友「はあ、バレたならもういい。
  んで、何を聞きたいって?」

男「ウケるSSの書き方」

友「そんなもんあるなら俺が知りたいわ」

男「え!? お前これだけ書いてて知らんのか!?」

友「そんなの知ってたらとっくに商業デビューしてるっつの」

男「ん? なんだラノベやら文学賞に応募してんの?
  他にシークレットフォルダの中には……」

友「……聞きたいことないなら締め出すぞ」

男「ごめんなさい、SSの書き方を教えてくださいお願いします」

友「はあ。そもそも、お前が物語作るのに興味があるなんて初耳なんだが」

男「楽しそうじゃん」

友「なんでもいいから書いたことは?」

男「ない!」

友「……書くことを別に止めはせんが、なんでわざわざ聞くんだ。
  初めてなら初めてなりに好きに書けばいいだろう」

男「だって書くからには、うまくやりたいだろ!」

友「……なにをもってうまくと思ってるんだ」

男「えーと、『面白い!』って言われたり『すごい!』っていわれたり」

友「じゃあ、俺の話は参考にならんから帰れ」

男「なんでだよ!」

友「……たとえばお前が掲示板式の場所にSSを投稿しているとする。
  そこで『AとBがくっつくのかよ。Cがかわいそう』ってレスがあったらどうする?」

男「Cがくっつくパターンを考えてみてー、ウケそうなら変えるかなぁ」

友「やっぱり」

友「これは俺の主観だがSSをよく書く人は、2パターンに分類されるんだよ」

男「パターン?」

友「とにかく書きたいから書く人、反応が欲しいから書く人。
  大体この2パターンに大別されると思ってる」

男「はあ」

友「とにかく書きたいから書くタイプの作者は、周りの反応は二の次だ。
  メジャーだろうがオリジナルだろうがマイナー作品の二次創作だろうが書きたいから書く。
  もちろん反応があればうれしいが、自分で表現したいことを優先して書いて世に出したいタイプだ」

友「作品を完全に完成させてから初めて投稿するというのがこのタイプには多い」

男「まあ、そういう人はいるだろうなぁ」

友「反応を欲しがるタイプは、人気ジャンルの二次創作に奔ることが多い。
  現在放送中のアニメだとか人気ゲームだとか人気漫画とか。反応をしてくれることを大前提に置いている。
  あとは掲示板に投稿していくSSなら未来アンカーを入れてみたり、周りの反応をみながら書いていくタイプだ」

友「それに感想がないとモチベーションを保てないというのも特徴だな」

男「いやいや、それは普通じゃね?
  感想がなくちゃモチベをどこに持っていくんだよ」

友「だから俺の話は参考にならんと言ってるんだ。
  お前は後者のタイプ、俺は前者のタイプ」

男「えぇ……前者のタイプといっても反応がまるっきりなかったらさみしいだろ?」

友「そりゃな。無反応だったらどこが悪かったのかもわからんわけだし。
  だけどそもそも俺がこういうのを書き始めたきっかけが、
 『こういったものが読みたい、だけどない。なら俺が書く』って感じだったからな」

友「もともとそこまで、周りの反応を気にして書くタイプじゃないんだよ。
  俺がこう書きたいからこう書く。周りがどうこう言おうが方向を曲げるつもりはないって話だ」

男「でも、途中で不評不満がでたら直した方がよくないか?
  そっちのほうがウケるってわかるわけだし」

友「変えたからってウケるとは限らねぇ。
  むしろ反対に粗悪な作品になる場合のほうが多い」

男「なんでさ」

友「途中で読者の意見を聞き入れるってことは、自分が元々想定している話から外れるわけだ」

男「おう」

友「それをうまくまとめる能力があれば問題ない。
  だが自身の技量を見誤ってなんでもかんでも聞き入れていると……」

男「あー、話がめちゃくちゃになって収拾がつかなくなるというわけか」

友「そういうことだ」

男「ふーむ」

友「誤解されると嫌だから、言っておくがどっちが正しいってことはないからな」

友「前者なら、読者を考えない独りよがりな作品になる可能性を常に孕んでいるわけだし、
  後者は後者で、さっき言った通りになる可能性があるわけだ」

男「なるほど」

友「よし。俺とお前の作品に対する考え方が相容れないことがわかったなら帰れ。
  俺から話を聞いても参考にならん」

男「そこを何とかお願いしますよ、友さぁん。
  心構え的な部分より技術的なことのほうをお願いしやすよ~」

友「技術的も何も、好きに書け、以上だ」

男「そんな殺生な」

友「……」

男「友ぉ……」

友「……はあ、そのPCつかっていいから適当に書いてみろ」

男「教えてくれるのか! さっすが友だぜ!」

友「教えるまで帰らないつもりだろ、お前」

男「まあな!」

友「形式は問わないから、お前が思うSSを好きに書いてみてくれ」

男「ラジャー!」

――20分後。

男「友ー、さわりだけ書けた」

友「どれ」

―――

主人公「学校がテロリストに占拠された!?」

★注意!
このSSは初心者が書いています。面白くないかもしれません。
叩かないでください。下手くそなりに頑張るのでアドバイスをくれると嬉しいです。
遅筆なので、更新は不定期です。

以下本編です。

~~主人公side~~

どかーん!!




主人公「くそっ!やつらが痺れを切らして攻めてきた!」



ヒロイン「・・・私たちもうここまでなのかしら」ナミダメ



主人公「諦めるなよ!」ガシッカタツカミ



ヒロイン「でもっ!」



主人公「そ、それにお前だけは絶対に守って見せる///」



ヒロイン「主人公くん///」カオマッカ



どどどどおーん!!



敵「クックック、もう終わりか。」



主人公「もうここまできやがったか・・・!
ヒロイン!オレが三つ数えたら全力で逃げろ!いいな!」



ヒロイン「で、でも!」



主人公「1・・・・2・・・・・3!!!いけ!!」



ヒロイン「うっ、主人公くん、死なないで・・・」ダダダダッ



敵「逃げたところであの女も死ぬことに変わりはないぞ。」



主人公「こんなことなら、あの時クビを突っ込まなければよかったぜ・・・」





~~~回想~~~~

―――

友「…………」

男「どうした? 白目向いて泡吹きそうな顔して」

友「お前、これを書くときにどんな読者を想定して書いた?」

男「えっ、う、うーん。そういやそういうのはあまり……」

友「確かに、俺は好きに書けといったが読者を無視しろとは言っていないぞ」

男「え、なんかダメだった?」

友「別に表現は好きな方法で書けばいい。
  だけどな、何が起こっているかまったく意味不明すぎる」

男「そっかなー。わかりやすいと思うけど」

友「……ついでだ。適当な作法じみたものも一緒に教えておく」

男「作法?」

友「まず冒頭の注意書きだ」

男「問題あるのかこれ?」

友「……お前はこれを読者の立場で読んだときにどう思うんだ」

男「えっ。うーんと、書きなれてないなら励ましのレスの一つでもしようかなぁとか」

友「本当に思うのか?」

男「……ま、まあ。そっとじする、かな?」

友「ああ、俺もそうする。
  いいか。基本的に読者が期待するのは面白い作品だ。
  そこに『初心者です』だの『叩かないでください』だの書いてあったら、どう思うかくらいわかるだろ」

友「自分から『つまらないかもしれない』と喧伝しているものを誰が読みたいんだ」

男「だ、だけど、俺がSS書きで初心者なのは事実だし」

友「男が初心者だろうが下手くそだろうが読者には関係ないんだよ。
  初心者だから甘く感想を書いてやろうなんてことには、絶対にならない。
  むしろ余計な情報を入れられるせいで、読んでもらえたとしても、本来の心証よりもぐっと低くなる」

友「初心者だろうが、初めてだろうが面白いものは面白い、つまらないものはつまらない、だ。
  こんな言い訳じみた前書きは読者からすれば不愉快な情報にしかならない。
  この前書きがあるせいで叩かれることこそあれ、賞賛されることは皆無になると言ってもいい」

男「どんな修羅の国だよ……」

友「実際そんなもんだ。言い訳をした分厳しい言葉が返ってくる。
  出すからには、これが今の俺の100%だ、という気概でだせ。
  下手に謙遜するな」

男「じゃあ、初心者です、とか、叩かないでくださいとか削っておけばいいんだな?」

友「いや、お前の前書きは全部いらん」

男「えぇ……」

友「不定期更新はまあともかく、遅筆だのアドバイスくれだの余計な文言は全部削れ。
  遅筆かどうかなんて、その後の更新を見ていけば勝手にわかってくるだろうし
  アドバイスをくれに至っては論外だ」

男「どうして?」

友「読者はアドバイスをしたくて作品を読みに来てないから。
  作品を読みたくて来ているということを忘れるな」

男「わ、わかったよ。じゃあ前書きは書くなってことだな!」

友「違う」

男「あ、あら?」

友「前書きのすべてが悪いわけではないぞ。
  いきなり言い訳と余計な情報を書くなと言ってるだけだ」

友「読む前に帰っていく読者を増やしたいなら止めないがな」

男「わ、わかったよ」

男「ちなみに書いてもいい前書きってなんなんだ?」

友「そうだな……たとえば、ある作品の二次創作をお前が書いたとする」

男「ふむ」

友「しかしその元ネタとなったキャラの名前は他の作品にもたくさんいる。
  そこで来た読者を混乱させないように『○○の二次創作です』と書いておく、とかな」

男「あー」

友「前書きの部分は本当に必要なことだけを書くんだ。
  必要がなければ書かない方がいい程度に思っておけ」

男「ふむふむ。メモとっとこう」

友「……メモを取るほど重要な話じゃないぞ。
  それに、さっきも言ったとおり作法程度だ。
  どうしても書いておかないと気持ちが落ち着かないのなら書いておけばいいさ」

男「さっきみたいにボコボコに叩きのめした後にいう言葉じゃねぇよそれ……」

男「んじゃあ、作法の話はこれで終わり?」

友「いーや、まだだ」

男「えぇ……早く内容に移ろうぜ……」

友「お前はまず読者の視点を持つことから始める必要がありそうだからな。
  まあ、そこまで長々と話すつもりはないから我慢しろ」

男「読者の視点もなにも、最近まで読者オンリーだったんだけど……」

友「そういうことじゃない。書く側っていうのは作者と同時に第一の読者なんだ。
  自分自身が書いたのだから、その表現がどういう意図をもって書かれたのかは
  自分はよくわかるはずだ」

男「うむ」

友「だが、それ故に他人から見たときにどうかと考える部分が欠落しやすい。
  それが初見の他人もしっかりわかるのか考えないで世に出してしまうことも、多くあるんだ」
  
友「自分以外の視点から考えて、最大限わかりやすく伝わっているのか、
  自分だけが分かる表現になっていないか、独りよがりの自己満足になっていないか」

友「それを考えることが読者の視点を持つ、ということだ。
  冒頭の注意書きから察するに、男そんなこと全然考えてないだろ?」

男「ハイスミマセン……」

友「さて話を進めるぞ。次は、形式についてだ」

男「形式?」

友「男はこれをどこに投稿するつもりで書いたんだ?」

男「2ch系掲示板のとこだけど。ほらスレッド形式の」

友「ふむ。わかった」

友「男のは台本形式だから、その書き方でも受け入れられやすいだろう」

男「台本形式? SSってこういう書き方するやつのことじゃないのか?」

友「台本形式ってのは大ざっぱに言えばキャラの発言の前に名前をいれて書きつつ
  地の文を極端に減らした形式のことだな」

友「SSってのは本来、そういった台本形式の物語ってわけじゃない。
  ショートショートやショートストーリーあたりが語源だ。
  だから戯曲形式でも台本形式でも小説形式でもSSって言えるわけだ」

男「んん? ショート? SSでも結構な長編があるけど」

友「今となってはそこら辺の原型は大分薄まっているな。
  ネットでSSと言ったら『手軽に読める物語』程度の認識でいいと思うぞ。
  本来の短い話でオチをつけるという意味はほとんどない」

男「ネット上のSSと本来のショートショートとかは別になってるってことか」

友「まあ、そんなことはどうでもいい小話なんだが。
  とにかく、SSと言ってもいくつかの形式があるって話だ」

男「へぇ」

友「基本的に投稿する場所によってさまざまな風土がある。
  男が思っていたようにSSと言えば台本形式を指す場所もあれば、
  小説形式でなければ受け入れないような場所もある」

男「場所によって?」

友「掲示板形式のところではSSと言えば台本形式を指すのだろうし
  wikiのような場所に行けば、横書きの小説形式のことを言うのだろうし
  はたまた舞台用のSSと言えば原稿用紙に書いたような縦書きの形式を指すといった具合だ」

友「いろんな書き方があるが、基本的に場所によって暗黙の了解的に形式が決まっていることが多い」

友「俺自身は、書き方も表現技法のうちなのだから好きに書けばいいと思っているが。
  ただそこの住人達には、書き方によってはどんなに内容が素晴らしくとも
  受け入れられないこともあるってことを覚えておけばいい」

男「ふぅん。書き方によってなんか違いでもあるのか?」

友「ま、書き方の特徴や特性については後で教えてやるよ」

男「おっけー(友のやつ語るのが気持ちよくなってきてるな……)」

友「で、だ。
  男が横書きの台本形式で書くのはいいのだが」

男「いいのだが?」

友「ぶっちゃけどこから突っ込んでいいのか迷っている」

男「そんなにダメ!?」

友「ま、まあダメというわけではないのだがな。
  まずはどうでもよさそうなところからさわっていくことにするよ」

男「うう、お手柔らかに」

友「男は沈黙や間を表現するのに『・』をつかっているな?」

男「おう」

友「実はな、厳密にいうと『・・・』と『…』は違うものなんだ」

男「え、マジで?」

友「前者は中点(なかてん)や中黒、中ぽっちと呼ばれる。
  後者は三点リーダ。
  基本的に物語系の文章で使われるものは後者の三点リーダだ」

男「へぇぇ」

友「中点の本来の使われ方は単語と単語を区切ったりするときに使うものだ。
  たとえば『パーソナル・コンピュータ』とか『小・中学校』とかな」

友「対して三点リーダは時間の経過や余韻を表すときに使う事が多い」

男「なるほどなぁ。ってことは三点リーダが正解ってことか」

友「いやー、そういうわけでもないんだな」

男「え」

友「たしかに三点リーダのほうが文面がすっきりするような印象を受けるが、
  別にこうしないといけない! って決まりはないんだ」

友「俺は『…』でも『・・・』でも好きに使えばいいと思ってる。
  その人の表現したいようにすればいい」

友「商業作品でも昔のものなら中点つかってるテキストなんていくらでもあるしな。
  三点リーダも偶数個で使わなきゃいけないなんてルールも、小説における昔の印刷事情によるものなんだから
  ネットで掲示板に投稿するなら実際関係ないし」

男「沈黙表現するだけでずいぶんややこしいんだな」

友「そんなことはないさ。
  デジタルの横書き文化はかなり自由奔放だ。
  ただ、そういう風に考える人もいるってだけの話だな」

友「ギャルゲや乙女ゲーをはじめとする商業テキストゲーと呼ばれるものでも
  紙媒体用の三点リーダを偶数個で使うなんてルールを守ってないものも多い。
  だから好きに使えばいいけど、知識として持っておくと若干表現の幅が広がるってところかな」

友「…を使おうが・・・を使おうが作品の面白さ自体が損なわれることはない。
  だが、・・・ではなく…でないと読んでいて気になるという人もいて
  ごく少数の人が作品に対する集中力がそのせいで削がれる可能性があることだけ頭に入れておけばいい」

男「わかった。でもせっかく覚えたんだから使ってみる」

友「ん。しっくりくる方で書けばいいさ。
  ちなみに二点リーダ『‥』ってのもあって、こっちで表現しているのはなかなかレアだ。
  これで表現してる商業作品を見つけるとラッキーな気持ちになれるぞ」

男「なんじゃそら……」

友「さて、もう少しだけ作法の話だ。少し巻きでいくぞ。
  このまま一つ一つ説明してたら日が暮れちまう」

男「あいさー」

友「まず一つ目書き方を統一しろ。鍵かっこのあとに読点がついていたりいなかったりで
  読んでいて気持ち悪い」

男「いきなり辛辣モードだ……」

友「つけるなら全部につける。つけないなら全部につけない。
  だが鍵かっこの直前に読点がない方が基本的には読みやすい。
  特にこだわりがないのならつけない方が吉だろう」

男「あい……」

友「二つ目。意味のない改行を多用しないこと。
  これも表現のうちの一つだから絶対にするなとは言わない」

友「だが見やすさを重視するための会話文同士の改行は、1行分スペースがあれば十分だ。
  読者のスクロール回数を無駄に増やしたり、視線移動の距離を無駄に増やすことは
  読者にとってストレスにしかならない」

男「はい……」

友「3つ目。同じく見やすさに関することだ。
  記号の後には基本的にはスペースをひとつ開けると読みやすくなる」

友「これもリーダと同じく絶対的なルールではないが、やれば読者のストレスを緩和できる。
  『いくぞ!みんな!』よりも『いくぞ! みんな!』の方が読みやすいだろう?」

男「う、たしかに」

友「4つ目。会話文中に改行をする場合、文頭を揃えると読みやすくなる」

――

主人公「もうここまできやがったか・・・!
ヒロイン!オレが三つ数えたら全力で逃げろ!いいな!」

主人公「もうここまできやがったか・・・!
    ヒロイン!オレが三つ数えたら全力で逃げろ!いいな!」

――

友「どうだ。他の部分は全く変えていないが後者の方がぐっと読みやすくないか?」

男「む、そうだな」

友「5つ目、基本的に会話文中のカタカナや『!』マーク『?』マークは全角にしとけ。
  ひらがなが全角なんだから、名詞や表現以外なら他の部分も全角で合わせろ。
  ていうかお前のは全角と半角が混在しててめっちゃ読みづらいわ」

男「さーせん……」

友「と、まあ。以上が作法じみたことだ」

男「なんか思ってたより多い……」

友「あとは誤字脱字を極力減らすだとか、日本語として変な言い回しをしないだとかだな」

男「まあ、そこらへんはわかるぞ」

友「これらを守ることには、ある一つの共通の目的がある」

男「目的って?」

友「読者の物語への没入感を損なわせないということだ。
  物語以外の部分で、読者に余計なことを考えさせないということは大事なことだぞ」

友「男だってSSを読んでいて『あ、誤字がある』とか『ここ読みにくい』とか
  そんなことをいちいち考えていたら読んでいて嫌になるだろう?」

男「そりゃそうだな」

友「だからこそ、物語以外のところで読者に余計な気を揉ませないことが作法ってやつだ」

男「なるほど」

友「繰り返しになるがあくまで作法は作法。実践するもしないも各人の自由だ。
  特にネットのSSというジャンルにおいては明確なルールはない。
  だが、これらを守ることで作品の純度が上がることは確かと言えるだろうな」

友「だが、守ったからと言って作品が面白くなるかといえば、それはまた別の話だ。
  そこはよく心得ておけ」

男「おっけおっけ」

友「とりあえず、作法については今のところ以上だが、次は内容についてだな……」

男「割と現時点で男さんヘコんでますよ?」

友「んなら帰ってもいいんだぞ」

男「私、男、真摯に聞く所存であります」

友「先に言っておくがあまり人に教えるのは得意じゃないから
  俺が気に喰わないってだけの話になる可能性もあるからな」

男「それでいいですって、旦那」

友「ふむ。ならまず初めはここだ」

>~~主人公side~~

友「なんだこれは」

男「え? ほら、最初でヒロインと主人公が分かれているだろ?
  だから後々ヒロインsideでも物語を展開させようかなって」

友「言っておくが視点移動っていうのは上級者テクニックだ」

男「え、そうなの!?」

友「基本的に誰か一人に焦点を当てた状態を保ったままで
  物語が進行していくことが望ましい」

男「それも読者の没入感を阻害するーってやつか?」

友「まあな。視点がコロコロ変わると読者は感情移入しにくくなるといったデメリットがある。
  それもそうなんだが、これはどっちかというと作者の都合だな」

男「作者の?」

友「単純に考えて単一に焦点を当てている場合よりも書く量が倍になるわけだろ?」

男「ああ、なるほど」

友「それに、物語の整合性をとるのも倍大変になるし、
  どちらのキャラを描写するかのバランスをとるのも大変になる」

男「そう考えると確かに時間軸とか考えるのも大変そうだなぁ。
  それに片方ばっかり書くわけにもいかないだろうし」

友「そ。そういう作者に対する負荷が大きくなって、書ききれなくなり
  最終的には投げ出して未完に終わる、ってのが相場だ」

友「最良の未完よりも、最悪の完成のほうが評価されるのが世の常。
  SSに限ったことじゃなくな」

男「最初のうちはやらない方が無難そうだ」

友「そういうこと。書くことに慣れてきたらやってみればいい。
  慣れたとしても大変な部分はたくさんあるけどな」

男「マジかよ……」

友「漫画でたとえるとわかりやすいかな。
  主人公がでずにほかのキャラクターの話が延々と続いたらどう思う?」

男「えーと、早く本筋すすめろよって」

友「それと同じことがSSでも起こるわけだ」

男「あー……」

友「プロが書く漫画でもそう思うのなら、
  俺たち素人が書くものだと、なおさらそういうことが起こりやすいってわかるだろ?」

男「ああ」

友「まあ、大変な分うまくできれば物語の幅は一気に広がるからな。
  何度も言うが書くことに慣れたらチャレンジしてみればいい」

男「わかった」

友「あとはまー、○○sideって書くこと自体が甘えっていう人もいるからなぁ」

男「厳しすぎやしませんか……?」

友「台本形式のSSだとあまり見たことはないが、小説形式でこれを書くと途端に叩かれる」

男「小説形式コワイ」

友「台本形式ならいいけど、今後小説形式で書くことがあるのならやらない方がいいぞ」

男「肝に銘じとく」

友「作家志望が一番多くいる場所だろうからなぁ。
  いろいろストレスがたまっているんじゃないかな」

男「みょーに含蓄のある言い方だが?」

友「は、ははは。気にするな」

友「さて、次だが」

>どかーん!!

>どどどどおーん!!

友「これだ」

男「冒頭から1行ずつ突っ込まれているんですが……」

友「何の擬音だこれは」

男「えーと、手榴弾が爆発する音とがれきが崩れる音」

友「わかるかっ!」

男「えぇ、タイトルでテロリストが~って書いてるんだからわかりそうなものだけど」

友「だ、か、ら! 読者の視点を持てと言ってるだろうが!」

男「はい……」

友「台本形式っていうのは恐ろしく情景描写を削るというのはわかるな?
  それに伴って会話でかなり丁寧に説明してやらないとダメなんだ」

友「お前のことだ、インパクトのある描写を頭に持ってきて
  印象付けたかったのかもしれんが、これだけ説明不足だとなにがどうなっているのかさっぱりわからん」

男「仰る通りでございます……」

友「擬音の使いどころっていうのは意外と難しいんだ」

男「そうなの?」

友「まずその擬音が何を表しているか、読者に明確に伝える必要がある」

友「つまり、明確に伝えられない場合ただの意味不明な雑音になってしまう。
  読者から見て意味不明なものは興ざめする大きな要因の一つだ」

男「えーじゃあ『あれは手榴弾の爆発の音だ!』って書くのか?
  それこそ興ざめじゃない?」

友「そこは作者の腕の見せ所だよ」

男「腕?」

友「不自然じゃない程度に会話に織り交ぜるっていうな」

男「う、うーん?」

友「……参考になるかわからんが俺が書くとしたらこうする」

――

主人公「ッ! 手榴弾だ、伏せろッ!」

(擬音)

主人公「くそっ! やつらが痺れを切らして攻めてきた!」

――

男「あぁ、なるほどな」

友「あとはどうしても擬音を先に持ってきたいのなら」

――

(擬音)

主人公「なんて爆発…これがマジもんの手榴弾か……ッ!」

――

友「とかな」

男「おお」

友「……まあ、俺はこういうタイプのSSを書かないから
  正直なところこれでいいのかさっぱりわかっていないが、俺ならこうするってところだ」

男「いやいや、俺のより何十倍も読みやすいわ、これ」

友「そ、そうか」

友「あとは……そうだな。
  もう一つ裏技的なものがあるが、これも後で説明しよう」

男「なんか後回し多いな」

友「先に話すと、話がとっ散らかりそうだから我慢してくれ」

男「ところで、なんでさっきから表記が(擬音)なんだ?」

友「それが擬音の難しいところその2だ」

男「え、な、なにが?」

友「男はさっきの流れで(擬音)とかかれてどんな擬音を想像した?」

男「え? 火薬が破裂する音だけど」

友「なるほど。それを文字であらわすと?」

男「どかーん?」

友「俺が表すならドォン、だな」

男「うん? うん?」

友「つまり、人によって『火薬が破裂した音』でも感じ方は違うんだ」

友「そして、人によっては『火薬が破裂した音』を『どかーん』と表記されると
  何か違うと感じたり陳腐だと感じたりするということがあるって話をしよう」

男「擬音ひとつで陳腐まで堕ちるか……」

友「そう思うやつもいるってことだ。それは俺がいった『ドォン』にも同じことが言える。
  ただ、男が想像している以上に擬音っていうのは作品の雰囲気に占める割合を持っているんだよ」

男「大げさだなぁ」

また後ほど

>鍵かっこのあとに読点

読点じゃなくて句点じゃないかなーって

>>43
その通りでございます…句点の間違いですわ

友「単純に考えてみよう。男、台本形式のSSはどんな文で成り立っている?」

男「え? え、えーと。まず会話文だろ」

友「そう、まず第一の要素が会話文だ」

男「それで、さっきも言ったように擬音だろ」

友「ああ、それが第二の要素だな」

男「あとは、えー……」

友「あとは?」

男「あれ? これだけ?」

友「あとは、簡単な状況説明文だな。
  男のやつで言うなら『~~~回想~~~』って部分だ」

男「ああ!」

友「基本的にはこの3つの要素で構成されているのが台本形式のSSだ」

友「こうあげてみればわかるが擬音は3つしかない構成要素の一つだ。
  自然と重要度も上がってくるだろう?
  それに状況説明文は頻出しないことまで考慮すると」

男「つまり会話文と擬音で構成されているといっても過言ではないと」

友「そういうことだ」

男「っても、会話8に対してせいぜい2もない程度だろ?」

友「なら聞くが、男のさっき書いた前書きはSSのうち二割のウエイトを占めるのか?」

男「うっ」

友「そういうことだ。一割どころか一分にも満たないアレだけでダメと判断される場合がある。
  つまり二割もない擬音だとしても馬鹿にしちゃいかんってことなのさ」

男「わ、わかったよ」

男「っても、擬音を書くにしても、俺そんなレパートリーないぞ……」

友「擬音を勉強したいなら漫画を読むといい」

男「漫画ぁ?」

友「あれは擬音の宝庫だぞ」

男「漫画って絵があるから漫画であって、俺が書こうとしてるのは文字だし」

友「これは俺の持論なんだが、台本形式のSSってのは小説よりも漫画寄りだと思っている」

男「文字しかないのに漫画寄りとはこれいかに」

友「台本形式のSSはセリフと最低限の状況説明文と擬音で構成されているだろ?」

男「ああ」

友「これに絵を足すと漫画を構成している要素とほぼ同じになる」

男「お、おお?」

友「もちろんコマ割りなんかの要素はないが、
  小説のようにキャラクターの心情を文章で表すことはほぼない」

友「それは漫画の良さである読みやすさ、テンポの良さがなくなってしまうからだ」

友「そして台本形式の良さも同じく読みやすさ、テンポの良さが重要になってくる」

友「いちいちここではキャラクターがこう思っていて、どうのこうの書かれていたら興ざめだからだ」

友「その心情を文ではなく絵で表していくのが漫画で、
  会話文で表現するのが台本形式のSSだ」

男「そういわれればそうだなぁ」

友「……まあ、例外的にあえて地の文に近い説明文入れることで面白くするっていう
  離れ業をやってのける漫画家もいるがな」

男「そんな作家が」

友「ほら、週刊誌でよく休載するアノ人」

男「ああ……あの人か」

友「とにかく、漫画のコマをじっくり読むと面白い擬音が発見できたりする」

男「ほお。たとえば」

友「抜刀音を『ぞるり』と表現したり有名どこだと『メメタァ』とかな」

男「でもそれ使えるシチュエーション少なすぎね?」

友「別に漫画のこういう場面で使われてたからといって同じよう方で使う必要はないだろ?
  ぞるり、なんて化け物登場でも使えそうだしな」

男「メメタァは?」

友「……」

男「……」

友「そ、それは、ともかくとしてだ!
  擬音ってのはレパートリーを増やしておくことに越したことはないってことだ!」

男「(思いつかなかったな)」

友「トレーニングではないが、せっかくだ。
  爆発音の擬音をできるだけ書きだしてみろ」

男「えぇ、急に言われても」

友「小説を書く上では正直ほとんど役に立たないが、
  台本形式のSSを書く上でなら割と有効なトレーニングだぞ。
  いわゆる表現の幅が広がるってやつだな」

男「うーん……じゃあ」

・どかーん
・どーん
・ぼーん

男「できた!」

友「真面目にやってないだろ……」

男「失敬な!」

友「じゃあ、お前はひらがなとカタカナと同じ印象をうけるのか?」

男「どゆこと?」

友「『どかーん』と『ドカーン』でみた印象が違わないか? ってことだ」

男「う、うーん。若干カタカナのほうが硬い印象を受ける、かな?」

友「そういうことだ。擬音と言っても書き方ひとつでかなり表現することができる」

友「そうだな。例というほどのものではないが、俺は先ほど爆発音を『ドォン』と表現したな?」

男「ああ」

友「同じ『ドォン』でも書き方ひとつでかなり意味を含ませることができる。
  たとえば、残響音を意識させたいとき」

『ドォン――……!』

友「たとえば、轟音であることを意識させたいとき」

『ドォオオォオォンッ!!』

友「たとえば、静寂から突然の爆発に至ると表現したい場合」

……――ッドォン!!

友「みたいにな」

男「おお」

友「こっちが意図したことが100%伝わらなくても
  ただただ『ドォン』と書くよりは含みを持たせられる、というのが分かるか?」

友「確かに感性は人それぞれだ。
  ひらがなとカタカナで全く違う印象を受ける人もいれば、別に変らないという人もいる。
  今あげた例でも同じことだ、人によっては何も変わらないと感じる人もいるだろう」

友「だが、ただただ『ドォン』と書くよりは、文面に抑揚が生まれて躍動感がでる、気がするってわけだ」

男「するする」

友「何度も言うが、感性は人それぞれだ。
  作者の自己満足にしかならない場合もあるから、無駄にこりすぎる意味もない。
  そこは注意しないといけないな」

男「リョーカイ」

友「次に移ろう」

>ヒロイン「・・・私たちもうここまでなのかしら」ナミダメ

>主人公「諦めるなよ!」ガシッカタツカミ

友「ここだ」

男「マジで全部じゃないすか……」

友「このセリフ横にある半角文字だが」

男「あ、ああ。これってやっちゃいかんのか?」

友「いや、うーん。なんというかな。
  これも難しいんだが」

男「?」

友「確実に言えることを最初に言っておこう。
  乱発すると鬱陶しく思われて読者が離れていく」

男「え!? これで!?」

友「これも読者によってバラバラだが、
  乱発するよりは控えておいた方がいい、程度だ。
  そこまで気にすることじゃない」

男「ほっ。ならよかったよ」

友「だがこれを見て確実に離れる読者はいるってことを頭の隅に置いておくべきだな」

男「脅すなよ……」

友「さて、そういうことがあるという前提を頭に入れたうえで、
  このセリフ横の半角文字の効果について説明しよう」

男「あーい」

友「セリフ横の半角文字は大まかに分けて3パターンある」

友「1つが、セリフと同時に行う動作を表す擬音。
  もう1つが、セリフ主の状態を表す語。
  最後が枠外セリフだ」

男「えっと、俺のは」

友「男のは、1と2が当てはまるな」

男「ああ、ガシッが1でカタツカミが2か」

友「んでナミダメも2だな。
  あとは」

――

女子1「ねー! 駅前のクレープ屋潰れたんだって!」 タッタッタ

女子2「そんなぁ」 ガーン

――

男「なるほど、これは1と2だな」

友「……」

男「どうした?」

友「いや……なんでもない」

男「3ってのは?」

友「3は、こんな感じだ」

――

主人公「女ー、クレープ屋いこうぜー」 ハヤク

女「な、なんでアンタなんかと」 ベツニイイケド

――

友「……」

男「どうした、難しい顔して」

友「いや、普段書かないものってこんなに難しんだなって。
  こんな書き方でいいのかなって思って」

男「ま、まあ、なにが言いたいのかは伝わってるから」

友「と、とにかく。こんな感じだ」

男「おう」

友「漫画で言う吹き出し以外にあるセリフと考えるとわかりやすい」

男「あ、あーあーなるほど」

友「(やっぱり伝わってなかったか……)」

友「書き方としては鍵かっこの後ろに1つスペースを開けると
  読みやすくなる」

男「おっけーメモしとこう」

友「さて、それぞれの効果についてだ。
  1については誰がどんな行動をとったのかわかりやすいというメリットがある」

男「まあ、セリフの横にあるわけだし、その人以外ないわなぁ」

友「そういうことだ。擬音の簡略版と思っておけばいい」

男「うい」

友「これは、まあいいんだが問題は2と3だ。
  効果の前に説明しないといけないことがある」

男「なにか問題でもあるのか?」

友「えーとな、さっきは乱発しすぎると読者が離れていくといったが
  こっちは出てきた瞬間に読者が離れていく可能性をはらんでいるんだ」

男「え!? なにそれこわっ!」

友「言ってしまえばまだ市民権を得ていない表現方法の一つだな」

男「また大仰な単語が出てきたな。市民権て」

友「俺も大仰だと思うけど。これ以外うまい言葉が浮かばないんだよ」

友「たぶん誰もうまく説明できないんじゃないかとは思うが
  一応それっぽい意見があるということを伝えておく」

友「『半角でいれるのは描写できないだけの甘え』や『表現がチープに感じる』
  といった具合だ」

男「おおう、またずいぶんと攻撃的だな」

友「言っておくが俺の意見じゃないぞ。
  こういう考え方を持った人がいるって話だ」

友「ただ、俺はこんな言い回しは本音を隠す言い訳にしか見えなくてだな……」

男「お? 友は別の意見ってわけか」

友「あー、俺から言わせれば単純に
  『俺が読んでいて気持ち悪いから嫌だ』に集約されると思うんだよ」

男「またバッサリいったな」

友「いやぁ、だってなぁ。
  描写できない甘えなんて言い出したら台本形式のSSなんてほとんど全部に当てはまっちまう。
  そもそもうまく描写ができるなら鍵かっこの前に名前なんて入れる必要はないだろう?」

男「言うとおりだが、そんなSS見たことねぇよ……」

友「『チープになる』っていうのもおかしな話なわけで。
  小説形式より手軽に読めるようにあえてチープに落としているのが台本形式だろう?
  そのメリットを批判するっていうのも変な話なんだよ」

友「100歩譲って、小説形式しか認めない人が言うならともかく
  同じ台本形式のSSを好んで書いている読んでいる人が言うのは滑稽だって思うわけだ」

男「ははあ。いいけどなんで100歩譲ってなんだ」

友「小説形式しか読まないなら、台本形式のことなんてほっとけって話だ。
  別に台本形式が小説形式に取って代わろうとしているわけでもないんだから。
  いちいち批判してなんになる。お互い好きに表現の土壌を育んでいけばいいだけだろ?」

友「表現に、作品に正解不正解なんてないんだから。
  表現の幅を狭めることの方が俺は悪だと思うね」

男「……そりゃそーだな」

友「あ、だけどな。
  作品に正解不正解がないというのと作品が評価されるされないは別の話だからな。
  ごっちゃにするなよ」

男「ウィッス」

友「……エラそうに語っちまったけど、俺自身も実はこういう半角表現はあまりとらないんだよな」

男「そういや、さっきみた友の作品でそういうのみたことないな」

友「それこそ『俺が書いていて気持ち悪い』からって理由なんだけど。
  読む分には全然抵抗はないんだけど、自分が書くとなるととてもできない」

男「友の作品は擬音も極端に少ないよな」

友「んー、それは俺が小説形式を主に書いていて、息抜きに台本形式を書いているからだと思う」

友「『台本形式は小説よりも漫画寄り』に続いて、俺の持論その2だが
  半角表現の如何は、その人のアウトプットまでのプロセスによって分かれるんだと思う」

男「アウトプットまでのプロセス?」

友「俺のようにあまり使わないタイプは、脳内にある『小説』を台本形式で表現しようとする。
  だから余計な表現は削ったり、順序立ててキャラの心情を描こうとしていく。
  つまり小説の簡易版として台本形式をとらえているんだ」

友「対して半角表現を多用するタイプは、脳内にある『アニメや漫画』を台本形式で表現しようとする。
  だからキャラの動きや表情心情をセリフと同時に表現できるように半角文字を添える。
  つまり漫画アニメの文字だけバージョンとして台本形式をとらえているってことだ」

男「あー。確かに俺もさっきのを書いたときは脳内にあるアニメを文章化しようとして書いたなぁ」

友「どっちが良くてどっちが悪いなんてことは全くないが、
  自分がどちらのタイプに属しているかを知っておくとほんのりとしたメリットがある」

男「はあ」

友「ついさっき、文章を書くことをアウトプットと表現したがアウトプットをする前にしなければいけないことがある。
  男、なんだと思う?」

男「え? アウトプットの前?
  え、えーと、あ。インプットか」

友「そう。いわゆる表現の引き出しがないと出すものも出せない。
  つまり書くためにはほかのものを読んだり見たりしないといけないってわけだ」

友「だが常日頃からインプットをしていても行き詰まることは多々ある。
  そういうときには、新たにインプットをし直す必要があるのだが、
  自分がどういうふうにアウトプットをしているのか知っていれば、何をインプットすればいいのかわかりやすくなるんだ」

男「小説をイメージしてる人は小説を読んで、漫画アニメを想像しているのはそっちを視聴しろってことか」

友「まーそれでもいいんだけど、効果はあまり得られない気がするな。
  どちらかといえば、反対のものを見ることが望ましい」

男「どうして」

友「その人にとって新鮮な刺激になるだろう?
  行き詰まっているってことは今までの刺激では足りないってことだ。だからこそ別の視点が必要になってくる。
  新たな刺激があれば行きづまりから脱するための足掛かりになるはずだ、ってな」

男「なるほどなぁ」

友「ま、これもあくまで持論だからあまり真に受けなくていいぞ」

友「っと。大分本筋から脱線しちまったな。
  話を戻すぞ。さっきの半角文字の効果についてだ」

男「なんか割ともうどうでもよくなってる感があるけど」

友「まあ、一応聞いておけ。理解して使うのと理解しないで使うのだと違うから。
  たぶん」

男「たぶんて」

友「半角表現のうちの『そのキャラの状態を表す語』だが、
  これを入れることによってキャラの表情が見えやすくなるというものがある」

男「ガーンやナミダメなんかわかりやすいよな。
  そういう顔してるっていうのがありありと浮かんでくるし」

友「そ。効果としてはキャラの表情が分かりやすくなる分、
  キャラクターが生き生きとしてくるってところだな」

男「ならやっぱりつけたほうがいいんじゃないのか?」

友「そこは好きにすればいいのだが。
  ただデメリットとして読者に想像させる余地が消えるという点がある」

男「読者に想像させる?」

友「ちょっと例文を作成してみる。
  ……俺の技量的な問題でうまくできるかわからんが」

男「友さんができないわけないじゃないですか」

友「余計なハードルをあげるな。
  ええとだな……」

友「シチュエーションはさくらの木の下で告白をする女の子と告白される男だ」

男「おう」

友「面倒だから状況説明文は今口頭で伝えたから省くぞ」

友「例文1が俺が普段書いているようななにもいれない書き方。
  例文2が半角文字をいれた書き方だ」

――
【例文1】

女「来てくれて、ありがと。男くん」

男「おう、話って――」

女「ふふっ、男くん。頭に桜の花びら乗っかってるよ」

男「うわ、マジ? どこ?」

女「とってあげるから、ちょっとかがんでもらえる?」

男「サンキュ、はは、かっこわりぃな」

女「じゃ、ちょっとそのままでいてね。んっ……」

男「んっ……! お、女? これって……」

女「もう、鈍感。話っていうのはね」

女「男くん、好き、です」

――

友「たぁぁぁ……書いてて恥ずかしくなってきた」

男「やー、俺は結構好きだぜ?」

友「まあいい、例文だと割り切って書く」

――
【例文2】

女「来てくれて、ありがと。男くん」 クルッ

男「おう、話って――」 サクラハラリ

女「ふふっ、男くん。頭に桜の花びら乗っかってるよ」

男「うわ、マジ? どこ?」 アタマワシワシ

女「とってあげるから、ちょっとかがんでもらえる?」ニコッ

男「サンキュ、はは、かっこわりぃな」

女「じゃ、ちょっとそのままでいてね。んっ……」 チュ

男「んっ……! お、女? これって……」アゼン

女「もう、鈍感。話っていうのはね」

女「男くん、好き、です」ウワメヅカイ

――

友「……なんだこれは」

男「友が書いたものです」

友「書いててさっきの倍恥ずかしいぞ。
  何を時間をかけて俺はこんなものを書いているんだ……」

男「友さんの犠牲が無駄にならないように解説を」

友「犠牲ゆーな! お前のために書いてるんだぞ!」

男「ありがたく思っております……」

友「はあ。もう解説するまでもないと思うがなんとなくわかるだろう?」

男「なんとなくだけど」

友「想像の余地がなくなるっていうのはそのままだ。
  例文2は女の子が最初に振り向くところから最後の表情まで
  書かれてしまっている分固定されてしまう」

友「一見作者の想定しているものをすべて伝えられているのだから
  デメリットでないように見える」

友「たしかにそうとも言える。
  いえるが、すべてを伝えることが必ずしもベストだとは限らない」

友「例文1では、半角文字はなにも書いていない」

友「何も書いていないがゆえに、読者の想像にゆだねられている。
  ある人の中では、桜の樹に寄り掛かって待っている女の子がいるだろう。
  ある人の中では、最初から男の子を見据えながら佇んでいる女の子がいるだろう」

友「最後の表情もしかりだ。
  ある人の中には、涙目になりながら勇気を振り絞って告白する女の子が浮かんでいるかもしれない。
  ある人の中には、顔を赤らめながら満面の笑顔で告白している女の子が浮かんでいるかもしれない」

友「そう。読者それぞれの中に、読者の思う最高のシチュエーションが用意されているのだ」

友「それにあてはめながら物語が進行していくことによって、読者好みの場面が構成される。
  しかし半角文字で指定がされてしまうと、途端に場面が固定化されてしまう」

友「つまり、固定化することで読者の最高のシチュエーションから外れてしまうということだ」

男「勝手に評価を上げてくれる部分を自分から外しに行っている感じか」

友「言い方は悪いがそういうことだ」

友「それともう一つ決定的なデメリットをみつけたぞ」

男「ほう」

友「シリアスなシーンで半角文字を連発してるとなんかバカっぽく見えてきて嫌だ!」

男「言っちゃったよこの人……」

またあとで

友「いやな? ギャグシーンや日常シーンならいいと思うんだよ。
  だけどシリアスなシーンだと台無しになってギャグに見えるんだよ!」

男「まあ、言わんとせんことはわかるが」

友「1コ2コならいいのかもしれない。
  連発はシーンを選ばないと台無しと感じる人も少なくないと思うぞ!?」

男「まあまあ、別に俺は変だと感じないから(友って変なところで熱くなるよなぁ……)」

友「か、感性は人それぞれだからな。
  否定するつもりはないが、俺がこう感じるのもまた一つの感性ってことだ」

男「でも確かに、オチというかクライマックスに使うイメージはないよな」

友「だろう?」

男「使わない方が無難。使うとしたら節度を持って使うこと。
  シーンや作風を選ばないと作品自体を台なしにする、って思っておけばいいんだな」

友「そういうことだ。
  なんかうまくまとめたな」

男「へへ、少しはわかってきたってことさ」

友「少し熱くなってしまったが、最後に3つ目だ。
  これは大して説明するまでもないんだが」

男「枠外セリフか」

友「これは会話がフランクになる効果がある」

男「フランクに?」

友「さっきも譬えたように、これは漫画の吹き出し以外のセリフのようなものだ。
  適当に本棚から出して漫画の枠外セリフが使われているシーンを探してみろ」

男「えーっと、ありゃ。意外とないな。
  あ、あったあった」

友「どうだ、シリアスなシーンでつかわれているか?」

男「いや、何の気ない日常シーンだな」

友「ちょうどいい、その漫画はバトルシーンもあるから、そこにあるかみてみろ」

男「んー……この巻にはないなぁ」

友「その巻に限らず戦闘中に使われていることはほとんどないんだ。
  つまり、シリアスなシーンでは、枠外セリフが使われることは少ない」

男「あ、そうなの?」

友「枠外セリフは、その場の空気を弛緩させる効果を持つってことだ。
  基本的にはそのキャラクターの放つ何気ない一言、という感じで表されるからな」

男「確かにゆるーい空気感にはなるかもなぁ」

友「簡単に弛緩した空気を生み出す効果がある反面、
  緊張しているシーンでやってしまうと雰囲気を壊す原因になると言える」

友「あとは、2つ目と同じだな。使いすぎるとすべてが台無しになる」

男「こっちも節度を持って、といった感じか」

友「ああ、そういうことだ。
  さて、駆け足気味だが擬音については大体説明できたかな」

男「なんとなく理解した」

友「よし、たぶん男が書いたやつで突っ込みたいところは次が最後だ」

男「むしろまだあるんすか……」

>主人公「そ、それにお前だけは絶対に守って見せる///」

>ヒロイン「主人公くん///」カオマッカ

友「もうカオマッカについてはついさっき言及したから、どこを言いたいかわかるな?」

男「///の部分だろ?」

友「ああ。男はこれをどういう意図をもっていれたんだ?」

男「え? そのまま顔を赤らめている様子を表したかったんだけど」

友「横にカオマッカって書いてあるのにか」

男「え、あー。そういやそうだな。なんでつけたんだろう」

友「それは、男がきっと『脳内にある漫画アニメをアウトプットするタイプ』だからだろうな」

男「?」

友「ちなみにこの///表記もだな、まだ市民権を得ていない表現のうちの一つだ」

男「えー、結構見るけどなぁ」

友「何度も何度も言っておくが表現は自由だ。善も悪もない。だが評価は別だ。
  これも人によってはあるだけで駄作の烙印を押す人もいる」

男「過激派怖すぎませんか……」

友「これもかなり漫画表現に近いもので、記号の一種とみていいだろう」

男「『!』や『?』と同類ってことか?」

友「いや、どっちかっていうと『♪』や『☆』のようなものだな。
  だが『♪』や『☆』ともまた少し違った意味合いがある」

男「ああ、そういうのも時々見るなぁ」

友「今までの擬音はすべて文字で表してきていたのだが、
  これはまた完全に毛色が違う。視覚に直接訴える表現方法だ」

男「まあ、みたまんまだし」

友「だからこそ、文字文化であるSSにとっては
  絵的な意味を持つ『///』は、かなり異端に映ってしまうんだ」

男「んん? じゃあ『♪』や『☆』も異端ってことか」

友「さっきも言ったようにまた少し毛色が違う」

男「何が違うんだ?」

友「その二つと違って『///』は単独でかなりの情報を持ってしまうという点だ」

友「『♪』や『☆』は単独ではそこまで意味を持たない。
  前後関係があってようやく効果を発揮する」

友「しかし『///』は単独で出てきても
 『キャラクターが顔を赤らめている』という情報を内包している」

男「確かにほかの記号よりは具体的な情報をもってるかもなぁ」

友「この単独での情報量の違いがまず異端として映る原因その1だ」

友「そして異端に移る原因がもう一つ。
  絵的な記号でありながら、文字文化ひいてはSSでしか見ないという点だ」

男「どういうことだ?」

友「男は『///』の表現をSS以外のほかの媒体で見たことがあるか?」

男「え、ないけど」

友「どうしてだと思う?」

男「どうしてって……どうして?」

友「簡単に言ってしまえば必要がないからだよ。
  漫画やアニメなんかの絵のあるものでは絵に情報を持たせればいいから必要ない。
  小説ならば地の文に表現を組み込めばいいから必要ないってことだ」

男「ああ、なるほどね。そりゃそうだ」

友「『♪』や『☆』は漫画なんかでも頻出するが『///』は一切でてこない。
  絵的でありながら絵を使う文化には出てこない。
  かといって文字で表されているにも関わらず文字文化にも出てこない」

友「つまり俺たちは『///』を作品的な意味で見慣れていないんだ。
  だから横書き台本形式SS独特の、さらに特殊な部分だから異端に映るってワケさ」

男「そういわれるとそうかもなぁ」

友「見慣れていないからこそ、市民権を得ていない。
  市民権を得ていないから叩かれる要因になるってわけだ」

男「じゃあ、これもやらない方が無難ってわけ?」

友「無難という意味ではその通りだな。
  だが、表現のひとつとして候補に入れるのは悪くない。
  表現に限界はないからな」

男「おっけ。そう理解しとく」

友「ちなみに『///』と同じように絵的で情報を単独でもつ記号がもう一つ存在する」

男「あったか? そんなもん」

友「『w』だよ」

男「記号……? (笑)の省略形なんだから文字じゃないのか?」

友「ならこれを読んでみろ」

――

主人公「わかったよwすぐそっち行くからw」

――

友「男はこれを
 『わかったよ(笑)すぐそっち行くから(笑)』
  と読んだか?」

男「……読んでないな。
  なんとなくだが主人公がはにかんでる様子が浮かんだ」

友「オーケー。なら次はこれだ」

――

主人公「わかったよwwwwwwwwwすぐそっち行くからwwwwwwww」

――

友「今度はどうだ?」

男「……なんかすげぇゲスい笑いをしてる主人公が浮かんだ」

友「そういうことだ。
  前者はまだ『♪』と同じような効果だが、後者は完全に絵的な情報を内包している」

友「つまりこれも、まだまだ市民権を得ていない独特の文化。
  もし使いたいなら気を付けて使うことだ」

男「把握した」

またあとで

友「これでお前の書いたものに対する突っ込みは終わりだ」

男「えらい疲れた……」

友「一応、途中で後回しにした分があるんだが」

男「ああ、そういえば言ってたな」

友「疲れたなら省いてもいいとこだし、やめておくか」

男「いやいや、そこは話してくださいよ」

友「うーん、なんていうかな。
  別に知らなくてもいいというか、書いていけば勝手にわかるというか。
  小技というほどのことでもないし知識というほどでもない、そんな内容だから」

男「まま。いーじゃないすか」

友「そんなにいうなら、じゃあ。
  後回しにすると言っていたのは2つ」

友「一つが各形式の特徴と特性だ。
  もう一つが台本形式における裏技的なものだな」

男「後半ガッツリ小技的なものだと思うが……」

友「形式の特性を知っているかどうかってだけの話になってくるんだがな」

男「んで、その特徴と特性ってのは?」

友「割と語っちまった感があるんだが
  まず横書き台本形式のSSの特徴は気軽に書けるって点だな」

友「そんで小説形式っていうのは心情や風景、そのシーンの空気感なんかをじっくり細かく描写ができる。
  それにレトリックを考えたりするのも作者的な楽しみの一つだな」

男「レトリックって?」

友「効果的な言語表現を工夫する、って感じかな。
  まあこっちは男が小説形式を書くようになったら気にすればいいさ」

友「あとは縦書きだけど、これは省略でいいか?
  ネットはほとんど横書きだし、触れる機会もほとんどないと思うんだよな」

男「あー、いい。気になったらそっちは自分で調べる」

友「おっけ。じゃあ省略させてもらう」

友「それでだ。こういう特徴がそれぞれにあるものだから
  必然的に向いているジャンル、向いていないジャンルが生まれてくる。
  なんとなく予想はつくだろう?」

男「ああっと。そうだな。
  横書きの台本形式のSSは、ギャグとかが向いているのかな」

友「その通りだ。擬音や枠外セリフが使える分ギャグチックな表現の幅が広い。
  小説形式でコメディやギャグをやろうとするとかなりの技量が求められるが、
  台本形式SSならば、会話文の組み立てと擬音の使い方がうまければそれなりに形になる」

友「あとは日常系の物語も台本形式は向いているといえる」

男「たしかに何の気ないゆるい話も小説形式よりは書きやすそうだな」

友「この流れならわかると思うが、もちろん台本形式に向いていないものもある。
  わかるか?」

男「えーと、ジャンルというよりシリアスは向いてないのかな」

友「半分正解で半分はずれだな」

男「どういうことだ?」

友「台本形式のSSでも素晴らしいシリアスSSはたくさん存在する」

友「だからシリアスそのものが向いていないというわけじゃない。
  男女の恋愛もの系はよく見るしな。向いていないとも思わないだろ?
  ただ、小説形式に比べると緊迫感の描写の度合いが劣りがちというのも事実だ」

男「ああ」

友「台本形式に向いていないのは動きの激しいシリアスものだ。
  特にバトルをメインに描くようなものは向いていないといえる」

男「あー、戦闘をメインに描いた勇者魔王ものも好きでよく読むけど
  たしかにちょっと戦闘になるとふわっとした感じというかもやっとした感じというか」

友「戦闘描写が擬音で表されてしまうことの多いことがその感覚の正体だろう。
  どうしても切迫感や緊迫感、緊張感が欠けてしまう。
  このジャンルはあまり台本形式は向いてるとは言えないな」

友「もちろん作品自体を否定しているわけではない。 
  向いているか向いていないかで判断したときにどうかって話だ」

友「同じく小説形式にも向いていないジャンルがある。
  さっきも言ったように、コメディやギャグがそうだ」

友「コメディやギャグはジャンル自体が気軽に触れられるものだが
  それを小説形式に落とし込んでしまうということは自らハードルを高くしているということだ。
  そのメリットが失われた状態でネタ一本で勝負するわけだからかなり厳しい戦いを強いられる」

男「ってことは、台本形式のバトルものや小説形式のコメディギャグで
  面白いといわせたらすごいってことだろ?」

友「ああ、そういうことだ。
  もし男がそういうものを書いて、そうした評価が得られたのなら胸を張っていいと思うぞ」

男「いつか挑戦してみるかぁ。ちょっと燃えてきた」

友「もしできたら読ませてくれ。楽しみにしとくよ」

友「とまあ、この話題が出てきたところでちょうどいい。
  台本形式SSにおける裏技的話を一緒にしておこう」

男「何か関係でも?」

友「ああ。たった今、戦闘ものSSは台本形式に向いていないといったが
  これを克服する方法がある」

男「なんだよそれ! んなもんあるならさっさと教えてくれって」

友「その方法とは、台本形式のSSに地の文を思いっきり組み込むことだ」

男「……は?」

友「だから、本来擬音で表されてしまう部分を地の文で表現してしまう。
  つまりハイブリッド台本形式にしてしまえばいいんだ。
  そうすることによって戦闘の緊迫感を損なわず書くことができる!」

男「反則じゃねーのかよ!?」

友「何度も言っているだろう。表現に正解不正解はないとな。
  頭は常に柔らかくしろ。凝り固まった頭じゃいい作品は生み出せない」

男「うぐぐ……」

友「だけどこれが王道じゃなく、裏技的なのはちゃんと理由がある」

男「あー、いつものデメリットか」

友「そう。デメリットその1。作者に地の文を書く技量が求められる。
  台本形式オンリーならばいらなかった地の文で描写するため
  作者自身の描写力力量がダイレクトに作品に投影されるようになる」

友「地の文ではなく、棒読み気味な状況説明文が羅列されたとしたら
  見るに堪えない作品になるぞ。気をつけろ」

友「デメリットその2。台本形式のメリットである気軽に読めるという部分が薄まる。
  台本形式の最大のメリットが薄まるということは、ネタの面白さの比重が重くなるということだ。
  如何に読者をひきつけておけるか、自分の力量との勝負になる」

友「デメリットその3。会話文と地の文のバランスを常に考える必要が出てくる。
  戦闘のときだけ急に地の文が出てくると、それはもうチグハグな印象をうけてしまうだろう。
  つまり戦闘描写以外の部分でも、細かく地の文を挟んでいく必要が出てくるってことだ」

友「結果、台本形式より気軽に書くことができなくなり、作者が書ききれない可能性もはらんでいることになる」

友「まあつまり、もろ刃の剣だな。表現の幅を増やす代わりに多くのデメリットを抱える。
  この点から王道になりえないのさ」

男「そりゃたしかに裏技だわなぁ……」

また後で

友「さあ、突っ込みも終わったし、話は終わりだ。あとは好きに書け」

男「いやいや、待ってくださいよ」

友「なにがいやいやなんだ」

男「だって基本の『き』くらいしか教えてもらってないしさぁ」

友「聞いたからってなんでも教えてもらえると思うなよ!?」

男「まあまあ、俺と友の仲じゃんか」

友「だが、もう教えることなんてないぞ。
  基本のき、以外は全部自分で判断して書けとしかいえん」

男「え、そんなもんなの?」

友「俺が教えた部分は、作品を一軒の家とするなら土台の部分と言える。
  作者の知識は土地の広さ、建てる家はお前の作品って感じにな。
  土台はみえない部分だが、作品をしっかり下支えしてくれるってわけだ」

友「つまりどの作品についても共通して言える部分だから話をしただけなワケで。
  知識は自分で調達していくしかないし、作品については、男は俺の猿真似をしたいわけじゃないだろ?
  だから俺の話の作り方や構成の仕方、表現方法を教えても意味がないってことになる」

友「どうだ、わかったか?」

男「……ときどき友のたとえ話わからん」

友「う、うっせぇ! 語って損したわ!」

男「俺だって、話を作る要素をちょっとは知ってるんだぜ?
  プロットがどうのだとかキャラを立てろだとか。
  ぶっちゃけ意味わかってないけど。ていうか意味わかってないから教えてほしいんだけど」

友「……」

男「友よ『えー、そこも教えるのかよ』って顔に書いてあります。
  露骨に顔に書いてあります」

友「えー、そこも教えるのかよ……」

男「友よ、心の声が漏れてます」

友「そこまで手取り足取りやる?」

男「友よ、俺の現時点の実力はさっきのとおりです」

友「……言っておくが、聞いたからと言って急にうまく書けるわけじゃないからな?」

男「わーってるよ」

友「それに、プロットがどういうものかについては
  その目の前の箱で調べてほしいのだが。なんのためのパソコンだ。
  話す時間がもったいない」

男「検索検索ゥ! なになに……ああ、あらすじか」

友「はい、プロットについて終わり」

男「投げやりすぎません!?」

友「だって、男オリジナル長編を書きたいわけじゃないだろ?
  それだったらそこまで重要じゃないし。
  というか俺もSS書くときは最初と最後のゴール決めるだけであとは自由に書いてるしな」

男「まだオリジナルか二次創作かも決めてないけど。
  でも確かにいきなり長編よりは短編からかなぁ。
  ていうか、プロットってそんなもんなの?」

友「そんなもんそんなもん。そもそも絶対に必要なモンでもないし。
  だいたいメモの端書みたいなのが多い。ほとんど備忘録の役割だ。
  誰かに見せるわけじゃないんだから自分が納得してればそれでいい」

友「第一男は反応見ながら書きたいんだろ?
  んならプロットなんて精緻に決める必要なんてないじゃねぇか。
  盛り込みたいイベントのメモ書きとゴールだけ決めておけば、ひどくとっ散らかることもないだろうし」

友「それに反応が欲しいんだったら、最初は二次創作にしとけ。
  オリジナルは、そのあとでいい。
  それこそキャラを作る必要が出てきてスタート時点で二次創作よりも労力がかかる」

男「んー? オリジナルと二次創作って作るのになんか違うのか?」

友「簡単に言えばオリジナルは1から10まで全部を決めないといけないし、説明しないといけない。
  二次創作は、原作を知っている前提で進めても構わないから全部を説明する必要がない。
  ここが大きな違いだな」

男「労力的に二次創作のほうが楽ってことなのか」

友「んー、一概には何とも言えないけどなぁ」

男「なんだ、歯切れ悪いな」

友「オリジナルってのは、何を書いても間違いじゃない。
  それは、作者が生み出したものだからだ。
  書いたものがそのまま、キャラの特徴になっていく」

男「そりゃそうだな」

友「だが二次創作っていうのは原作があるだろ?」

男「ああ、二次だからな」

友「たとえばリンゴが嫌いなAというキャラがいたとする。
  しかし原作の雰囲気を踏襲した二次創作でそのAというキャラが
  何の気なしにリンゴを食べていたら違和感しかないだろう?」

男「あ、あー」

友「つまり、原作をしっかり理解していないと
  ストーリーや作法以外の思わぬところからぶん殴られることがあるんだ」

男「ぶん殴られるって」

友「なんだこいつ理解してねぇのかよ、とそっとじされるならまだいい。
  だが二次創作ってのはたいてい原作のファンがついている。
  そのファンが叩いてくるって話だな」

男「そのまま閉じてくれればいいのに……」

友「好きな作品だからこそ、思い入れがある。
  思い入れがあるからこそ、間違ったものを許せない。
  たぶんそういう考えになるんだろうな」

男「ってことはなんだ。
  原作を100%理解していないと書けないってことか。
  うへぇ、最初から読み込むってこと考えるとオリジナルより大変かもしれんなぁ」

友「そういうわけじゃない。二次創作って言ってもいろんなパターンがあるからな。
  というか原作を100%理解している人なんて一握りもいないと思うぞ」
  
友「男だって、オリジナルしか読んでいないわけじゃないだろ?
  絶対触れているはずなんだから考えればわかるはずだ」

男「んー、そういわれれば原作とキャラが全然違ってるものも多いなぁ」

友「これは俺の勝手な分類だが二次創作を2パターンに分けている。
  原作踏襲型と原作乖離型の2つだ」

男「なんか難しい単語羅列するなよ……」

友「別に難しくないと思うが……」

男「んで、そのげんさくとーしゅーがたってのは?」

友「原作踏襲型は、そのまま原作の雰囲気を二次創作に持ってくるパターンだな。
  小説が原作なら文体模写をする人もいるし、アニメや漫画が原作ならキャラをできるかぎり文で再現しようとする。
  台本形式で書く場合もキャラの口調などをできる限り原作に似せるように努力していく形だ」

友「そのなかで原作では描かれない『if』を書いていくってわけ。
  たとえば、アフターストーリー。たとえば、もしこのときAがBをしなかったら。
  たとえば、もし主人公がヒロインでなく別のキャラに恋をしていたらなどだな」
  
友「そのキャラならこの場面でどんなことをするか、どんなセリフをいうか。
  反対にそのキャラがしなさそうなこと、いわなさそうなことはどんなことか。
  さらには原作のストーリーと矛盾する場面はないかなどを考える、かなり原作に寄り添った二次創作だ」

男「ふむふむ。じゃあ、げんさくかいりがたってのは?」

友「原作乖離型っていうのは、あえて原作に寄り添わないものだ。
  たとえば、人がバシバシ死んでいくような作品があったとする。
  なんでもいいからそういう系の作品思い浮かべてみろ」

男「アレとかアレとか、まあいくつか思い浮かぶ」

友「それが、原作の雰囲気を踏襲したまま和気あいあいとしているシーンが思い浮かぶか?」

男「んーむむむ。ムリダナ」

友「その場合自分の書きたいシチュエーションに合わせて、あえてそのキャラクターや世界観をぶっ壊すわけだ。
  原作のぶっ壊し方にも多くの種類がありすぎて全部あげていくと面倒だからあげないが。
  原作を見たことがあって原作と明らかに違うなぁと感じればたぶん原作乖離型だ」

男「適当すぎやしませんかね……」

友「適当というか、本当に種類が多すぎるんだよ。
  原作踏襲型は、なんとなく一定の方向性というか形が決まっているが
  原作乖離型は一定の形が決まってないからな」

友「キャラクターの性格改変をするものもあれば、世界観そのものを変えるものだってある。
  同性愛者にしてみたり、あり得ない語尾をつけてみたり、クールなキャラを笑い上戸にしてみたり
  中世ファンタジーを現代学園ものにしてみたり、死と隣り合わせの世界からただただキャラたちが日常を過ごす世界にしてみたりな」

男「あー、よくみるみる」

友「こう考えてみると原作乖離型は割とギャグをドシリアスにするというより、
  シリアスをギャグにする、日常ものにするってパターンが多いかもな」

友「まあ、なんにせよ『二次創作』っていうのは原作じゃない以上絶対的に原作とは違う。
  踏襲してようがいまいが原作そのものにはなりえない。必ずどこかが原作とは違い改変されている。
  だから踏襲型と乖離型の境目はかなり曖昧だ。明確な線引きはない」

友「だけど、たぶん見ていけば作者がどういうふうなスタンスで
  その物語を創作しているのかっていうのはみてとれると思うぞ」

友「んで、あとはどっちのスタンスでいくかは男の好みなんだが」

男「いつものメリット、デメリットは?」

友「いつものってなぁ……」

友「えーと、踏襲型のメリットは、強いて言うなら原作の雰囲気に似せるわけだから原作好きから評価を得やすい。
  それと原作と雰囲気を似せている分、原作を知っている読者ならすっと物語に入り込める。
  あとは下手に雰囲気を壊さない分、アンチが湧きにくいっていうのもあるかもな」

男「強いて言うなら?」

友「ぶっちゃけ自己満足に近いんだよ。
  読者からしたら似てたからと言って『なんとなく原作っぽくてうれしい』程度にしかならないわけで。
  メリットというほど明確な効果という効果はない気がするな」

男「あー」

友「労力の割に、目立った効果はほとんどないと言ってもいいかもしれない」

男「なんだよそれ……なら乖離型のほうがいいんじゃないか?」

友「まあ、そうかもな。だけど」

男「だけど?」

友「これは完全に俺の主観だが、名作と呼ばれる二次創作は踏襲型のほうが多い気がする」

男「んー、それは俺には同意できるだけの作品を読んでないから何とも言えないなぁ」

友「言っただろ、俺の主観だって。単純に俺が踏襲型のほうが好きだからそう感じているだけかもしれないし。
  乖離型にもいくつも名作は存在するしな」

男「俺は友のいう乖離型の方をよく読むから、踏襲型で名作っていうのがそれほど多く感じないだけなのかもしれないな。
  あ、でも友の書いたアレは好きだぞ。名作だと思う」

友「……うっせうっせ」

男「じゃあ、乖離型のメリットってのは?」

友「原作を精緻にしらなくてもいい、というと語弊があるが、
  原作に寄らない分、原作から多少外れていても読者の眼には『そういうものだ』というふうに映るってとこかな。
  だからそこまで原作の設定について神経を尖らせて書く必要がない」

男「あー気楽に書けるってわけか」

友「メリットらしいメリットはそんなところかなぁ」

友「こんな感じでメリットが少ない分、デメリットも際立ったものはあまりないな。
  踏襲型ならかなり原作を読み込んでいかないと、雰囲気を踏襲する分ほんの少しの違和感が大きいものになるってところ。
  乖離型なら外しすぎると、その原作である必要性がなくなってしまうってこところか」

男「外しすぎるとー、ってどのくらいだ?」

友「んー具体的にここ、と明示するのは難しいな。
  少し例を挙げよう」

友「世界観が中世ファンタジーで剣と魔法ものがあったとする」

男「ふむ」

友「登場人物が主人公、A、B、C、D、Eだ。
  AがヒロインでBCはその女友達、Dは主人公のライバル、
  Eが主人公の女師匠だ」

友「まず、世界観を中世ファンタジーから現代の学園ものへと変える。
  その結果、剣と魔法の要素が同時に消滅する」

男「おおう、いきなり結構根底から変えるな……」

友「どうだ、この時点で外しすぎていると感じるか?」

男「いやー、俺はまだそこまで感じないな」

友「おっけい。なら次だ。
  設定が変わったので主人公、ABCDは学園のクラスメイトとなる。
  Eの師匠は学校の教員ポジションに収まる」

友「原作では主人公に好意を抱いているのは、本来ヒロインAだけだが、
  BCも主人公に好意を抱くようになる」

友「これでは?」

男「……まだ、大丈夫」

友「次に移ろう」

友「Dのライバルは、原作では殺し合いをするような間柄だが、こちらでは悪友ポジションになる。
  Eの女師匠は、原作ではかなり厳しく主人公に当たるが、こちらでは結婚できないことをグチる女教師になる」

友「これでは?」

男「う……割と、ギリギリ?」

友「ふむ。次だ」

友「Bは原作ではお金持ちのお嬢様キャラだが、こちらでは貧乏で口調だけお嬢様。
  Cは原作ではかなりの無口キャラだが、こちらではべらべらとお喋りキャラ。
  Dは原作では硬派なキャラだが、スケベ丸出しの軟派なキャラに」

男「……ごめん、無理。たぶんブラウザバックするわ」

友「どうして?」

男「だって、それもうただのキャラの皮をかぶったオリジナルじゃねぇか!」

友「まあ、そうだな。これが男の中の外しすぎると、のラインだ。
  割と我慢強い方じゃないか?」

男「俺のライン?」

友「人によって外しすぎると、のラインはバラバラだからな。
  人によっては最初で無理って人もいるだろうから」

男「むしろこれ以上外すってどうするんだ」

友「んー、そうだなぁ。
  小説が原作だとしたら絶対やらないことの一つが『w』をつけて喋るとかな。
  例で出したキャラにやらせるとしたら」

―――

D「ちょwwwwwめっちゃ俺の好みwwwww喫茶店いかね?wwwwていうかホテルいこうずwwww」

―――

友「みたいな」

男「ああ、そういう外し方もあるな……たまに見るわ」

またあとで

友「ああ、あと踏襲型でも乖離型でもほとんどの人が一発アウトだと感じる
  地雷ポイントっていうのが二次創作にはいくつか存在する」

男「うわ、でた。その怖いやつ」

友「キャラクターの一人称やキャラクター間の呼称がもっとも顕著だな」

男「あー、確かに。違和感は他のものよりすごいかもなぁ」

友「あとは、オリジナルキャラを入れることも一発アウト率が高い」

男「あー……あー……」

友「書く立場になるとわかるんだが、オリキャラってのは勝手がいいんだ。
  あらゆる意味で自由だからな。なにも考えないで書いていくことさえも許される」

男「さっきオリジナルのときに、そういうこといってたな」

友「だが、その魔力に負けて二次創作で出してしまうと……」

男「恐ろしいことになるってわけか……」

友「アウト率が高いものなら、ここらへん2つが割と有名かな」

男「タブー的な要素だと考えていいのか?」

友「んー、俺自身はタブーとまで言い切ることはしないが。
  作者がこういう表現をしたいんだって思えばやればいいと思うしな。
  ただタブー視しているやつも少なからずいると思う」

男「友がタブーと言い切らない理由は?」

友「うまくやれば、いいネタに昇華できると思っているから」

友「たとえば呼称に関しては、
  一人称をわざと間違えることによってトリックへの伏線にするとかな」

友「Aというキャラは原作ではBに対して苗字で呼んでいるが
  あえてSSでは名前で呼ぶ。
  この時点では、ただただ地雷を踏みに行っているだけのように見える」

友「だが、実はAは本物のAではなく、Bが変装していたものだった!
  だから呼称が違ったのだ!
  みたいなね」

男「……なんかつまんなそう」

友「うるせぇよ!」

男「あ、ごめん。つい本音が」

友「……まあ、自分で言ってても面白くなさそうだと思ってたから別にいいわ。
  それに呼称をわざと間違えてそれを伏線にするって相当大変だと思うしな」

友「んで、もういっこのオリジナルキャラだけど」

男「これが許されるシチュってのがあまり想像つかないんだが」

友「一つは、かなりハイレベルに原作とマッチングさせる場合だな。
  ただ正直、これができる作者はほとんど見たことない」

男「ほとんどってことは、友は見たことあるのか?」

友「1回だけな。それでもやっぱり違和感ってのはほんのりあったけど。
  それ以上に面白かったって感じだな」

男「ふぅん」

友「もう一つは、オリジナル主人公、いわゆるオリ主ってやつだ」

男「オリ主?」

友「あー、たぶん具体的に言えば納得すると思う。
  異世界転生ものに、主人公の代わりに『俺』が登場する、とかな」

男「あー、あー! ああいうタイプのやつね」

友「これも一部からは、かなり批判的にとらえられるんだが、
  作中にオリジナルキャラを出すよりは受け入れられている気がする」

男「そういうものなのかなぁ。何が違うのかよーわからんのだけど」

友「なんにせよ最初のうちは手をださないでおけ」

男「なんか最初のうちはやるなリストが増えていく……」

男「でもなんで嫌われるんだろうな、ここらへんって」

友「いや、簡単だと思うぞ。
 『原作を無意識のうちにないがしろにしている』
  この一点に尽きる」

友「つまり、読者に『お前、原作別に好きじゃないだろ』って思われるってことだ。
  呼称のほうは原作ろくに読んでないなって思われてもしかたがないし、オリキャラのほうは作者都合の塊みたいなもんだ。
  はっきりいってその原作の二次創作じゃなくても構わない存在ってことになる」

友「ということは、別に原作が好きなわけではなく、自分キャラをだしたいがためだけに。
  もしくはその原作の二次創作である必要のない自分の話を書くためだけに、
  原作を足蹴にしているととらえられても仕方がない」

友「つまり本来リスペクトすべき対象を無意識のうちに踏みにじっている。
  それが読者に間接的に伝わってしまう。
  よって嫌われる要素となる、と俺は思っている」

男「そういわれれば、そう感じる、かもしれない」

友「ここらへんは、多く作品に触れるとわかるようになるかもしれないな」

男「二次創作も、想像以上に大変そうだ……」

友「だが、原作が有名ならその分目に留まる確率は高くなる。
  男の言う反応はもらいやすいぞ」

男「ちょっと二次創作に手を出すのも怖くなってきた」

友「原作愛があればオールオッケーともいわれる世界だから、そこまで気張るなよ」

また夜に

友「ああ、あと二次創作も、いくつかのジャンルにわけられる。
  大変さも、それでまちまちだしな」

男「へぇ、これも分類できるのか」

友「詳しくは突っ込まないがほんのり触れておく。
  ていうか詳しく触れるとたぶん1時間以上語っても足りない」

男「じゃあ簡単にお願いする」

友「オーケイ。まず多いのが、原作再構成型二次創作だ」

男「聞いたことないな、なにそれ」

友「たぶんジャンルとしてはかなり多いタイプだぞ。
  原作再構成とは、原作ストーリーと始点は一緒だ。
  一緒なんだがそこから一部だけを改変し原作とは違った『if』を作る二次創作だ」

友「具体的に言えば、そうだな。
  主人公が最初にある失敗をしてしまうが、その失敗のおかげでヒロインに好意を持たれるという話があったとする。
  そこで原作再構成ものでは、主人公が失敗をしなかったらどうなっていたか、を描いていくわけだ」

男「はいはい、そういうのか。知ってる知ってる。
  あれ原作再構成ものっていうのか」

友「パラレルワールドを描写していくというとわかりやすいかもしれない。
  性別逆転なんかもコレが多いな。あとは主人公の代わりにオリジナル主人公だったらだとかも、このジャンルだ。
  台本形式では、あまり多くないかもしれないが、小説形式だとかなり多いジャンルだと思う。主流の一つといっても差し支えない」

男「へぇ」

友「ただなぁ」

男「どうした、渋い顔をして」

友「飽きられやすいんだこれ」

男「飽きられる?」

友「最初に読んだ数作は、ものすごく面白く感じるんだ。
  感じるんだが、同じ原作を元にした作品のものを何作か読んでいって
  読みなれてくると既視感がものすごいことになる」

男「どういうことだ?」

友「いっただろ? 始点は原作と一緒だって。
  だから原作からそのまま引用してきたようなシーンも多いんだ。
  さらに小説形式だと、文章表現も展開も似通ってくるという」

男「へぇ、なんでだ?」

友「原作の流れがしっかりあって、それでいて『if』の要素を織り交ぜていき
  違うのは改変部分だけで背景にはしっかり原作の流れがあるんですよ、『if』のせいで話の流れが変わっているんですよ、
  という演出が取れるというのが、たぶん一つ」

男「うん。まあ、わかる」

友「んで、もう一つが、原作追う方が書いてて楽だからだろうな」

男「えぇ……そんな理由かい」

友「いや、実際はどうか知らないぞ? 原作再構成ものは書かないからわからん。読む専門だ。
  原作再構成もの書いてみれば、その大変さもわかるかもしれない。
  ただ、本当に同じ表現をしていることが多い。多くて『またこれか』となることが多い」

男「とりあえず、あとで読んでみるわ」

友「いつ触れたかによって評価が変わる二次創作かもな」

友「ではもうひとつ。
  原作再構成以上に多いのがアフターストーリーやサブストーリーだな」

男「ああ! それは知ってる!」

友「原作の後の話や、原作で描かれなかった外伝的な話をつくっていくものだ」

男「これ、ひとくくりにああだこうだいえないよな?」

友「ああ、そうだな。シリアスからギャグまで、ほぼすべて包括している。
  ただ乖離型はここに属することが多いと思う」

男「あー、そういえばそうだなぁ」

友「これは、かなり作者の色がでるから読んでいる分には楽しいな」

男「俺も、ここら辺を読んで書きたいって思ったしなぁ」

友「これは、もっとも書きやすい二次創作だと思う。
  読者としても気軽に読めるから反応や読者数も得やすい。隆盛するのも納得できる」

友「それともうひとつ主要なものと言えば。二次創作の花、クロスオーバー」

男「ああ、クロスかぁ。うん……? クロスって二次創作の花なの?」

友「原作では絶対に起こりえない二つの作品を混ぜ合わせるわけだからな。
  二次創作でしかありえない話ってわけだ」

男「二次創作自体が原作であり得ないことしか起こらないと思うんだけど……」

友「アフターやサブは可能性としてはあるだろう?」

男「……まあ」

友「それに、商業的な意味でもほぼ起こりえないだろうからな」

男「そういわれるとぐうの音もでない」

友「ただ、これはかなり取扱に注意が必要なジャンルなんだよ」

男「取扱注意って、危険物じゃないんだから」

友「いいや、二次創作界のニトログリセリンと読んでもいい」

男「大げさすぎんよ……」

友「大げさじゃないんだよこれが」

男「どういう?」

友「端的に言ってしまうと、片方を持ち上げて片方を踏み台にするような作風にすると
  踏み台にされた原作ファンが怒り狂う」

男「うわぁ……容易に予想できる」

友「しかも、このバランス感覚がかなり難しい。
  作者本人的には落としているつもりはないのだが、
  片方の作品をよく見せようとして片方を放置気味にするだけで貶されたと感じる読者もいる」

男「うわぁ……めんどくせぇ」

友「たとえばバトルものクロスオーバーをしたとする。
  Aという作品のキャラはあっさり敵に勝つが、Bという作品のキャラはかなり苦戦をする。
  作者的には、各作品の能力を鑑みて展開を決めたのだが、B作品のファンからはAより劣っていると映ってしまう」

友「結果、B作品のファンからたたかれる」

男「うわぁ、うわぁ……」

友「もっといえば、そのままAという作品のキャラとBという作品のキャラを戦わせて
  どちらか一方をボコボコにしてしまうと……」

男「や、やめてくれ! 想像もしたくない!」

友「まあ、クロスオーバーのかたちにもいろいろあって、
  Aという作品の主人公の代わりにBという作品のキャラクターが入る、だとか、
  AとBの世界観をまぜこぜにしたものを作る、だとか」

友「だがどんなかたちであれ、一方的に持ち上げてしまったり一方を貶めてしまったりすると
  悲しみの評価を背負うことになる」

男「俺が見たことあるのだと、いろんな作品がいっぺんに混ざっているのとかもあった気がするが」

友「ああ。多重クロスってやつだな。いろんな作品のキャラを一つの作品の中に落とし込むものだ」

友「前にも言ったが、これ○○sideと同じようなもので、クロスすればするほど作者の負担が大きくなる。
  バランスもとりにくいし、描写の量も大量になり、クロスさせる分原作を知っていなければならない。
  その大変さから、完結させることすら難しくなる。クロスを重ねた分だけ、完結する見込みの薄いもの、ととらえてもいいくらいだ」

男「言いすぎじゃね?」

友「言いすぎじゃないんだよ……表現は自由だが、負担が大きく評価はされにくいジャンルだ」

男「じゃあ、なんで二次創作の花なんだ、これが」

友「もし! もしうまく調和をされることができたのなら、その面白さは単純な二次創作を軽々と越えていく。
  普通の二次創作が原作と自分の設定の足し算ならば、クロスオーバーは乗算だ。
  それぞれの作品の化学変化、相乗効果がうまれ、面白さを一気に引き上げる」

友「何度も何度も何度も繰り返し言うが、表現は自由だ。どちらかを思い切り貶める作品を書きたいと思うのならば書けばいい。
  読者に何を言われようと好きなだけ表現をすればいい。だけど、それについてくる評価となると別の話だ。
  特にクロスオーバーは、どちらかの作品が好きだから見に来る、といったことが読者的には普通だからな」

男「その作品を貶められていたら、怒って当然ってわけか」

友「そういうことだ」

友「クロスオーバーに限らず、どのかたちの二次創作にも言えることだが、原作愛というものがキーワードだな。
  これを読者が感じることができれば、どんな二次創作を書いても荒れないといえるだろう」

男「原作愛ねぇ……そんな大層なものもっちゃいないんだけどな。
  てことは俺は二次創作書くのに向いてないのか……」

友「なんでもいいが、ある作品で『○○が××だったらどうなんだろう』と考えたことはあるか?
 『△△が活躍する話をみたい』と思ったことは? 『完結したけど後日談がみたい』と感じたことは?」

男「それなら。あるけど」

友「それは、その作品が好きだからアレコレ想像するわけだろう?」

男「そうだな」

友「その想像妄想こそが、原作愛から発生する二次創作の第一歩だ」

男「そう、なのか」

友「その想像から文章なり絵なり漫画なりに落とし込んでいくことが、二次創作作品になるわけだな。
  その想像に小難しい技術はあるか? ないだろ?
  アレコレ深く考える必要はない。自分が書きたいから書く。心の向くままに書く」

男「……」

友「オリジナルだろうが二次創作だろうが表現に限界はない。正解はない。
  表現技法なんて自由そのものだ。自分が納得できる書き方を見つけることができるのは自分だけだ。
  だからアドバイスなんてできない。できるアドバイスがあるとすればただ一つ、好きに書け、だ」

友「わかったか?」

男「……おお。なんかそれならできそうな気がする!」

友「そうか。頑張れ」

友「ああ、あともう一つアドバイスがあった。
 『初めての作品くらい最後まで書け、途中で投げ出すな』だ」

男「おっけー!」

友「……」

友「(やれやれ。最初に賞賛されたいから創作をするといった時はどうなるかと思ったが)」

友「(……別にそれ自体が悪いことではない。創作を続けていけば湧き上がる、ある種当然の感覚だから頭ごなしに否定をするつもりはない。
  しかし、最初のうちからそれじゃ創作に対するモチベーションが保つわけがない。
  反応をもらえたら、褒めてもらえたら。その時点で男の目的は達成される。達成されてしまう)」

友「(だからきっと。作品は完成せず投げ出されてしまっただろう)」

友「(第一処女作から賞賛が得られる人物のほうが少ない。男が想像している『賞賛』とは正反対の『無関心』が待っているだろう。
  目的が達成されるまでやるという反骨心を男が持っていれば別だが、男は持っているタイプじゃないし。
  大体の人は目的が達成できないなら、とやめてしまう)」

友「(だから、男の創作へのスタンスのスタートラインからは『作品の頓挫』というゴールしかなかった)」

友「(それなら創作への原動力を『作品が好きだから作る』に向けさせようと話を誘導したわけなのだが。
  原動力が『自分が書きたいから』なら、突き進んでいける。壁に当たってもいろんな視点からもがくことができる)」

友「(若干洗脳じみた誘導で悪いと思うが、スタートラインから創作を自身への賞賛のためのツールとしかみられないようじゃ先はない。
  最終的にやはり男が賞賛されたいから書くというふうに結論付けたなら、それでいい。好きだから書くだけがすべてじゃないし、正しいとも思っていない。
  反応が欲しいから書く、それはまた一つの創作への姿勢なのだろうから)」
  
友「(ただせっかくなら、創作することの楽しさに気付いてほしいし、続けてほしい。
  創作する仲間が増えるのならばそれはうれしいことだし)」

友「(誰がどんな作品を作るかは、作ってみるまでわからない。そこには無限の可能性が秘められている。
  俺にいい作品をたくさん読ませてくれ、男)」

男「なんか友ニヤついててキモい」

友「うるせぇ! 台無しだよお前!」

男「でも、作品の作り方の方向性がなんとなくみえてきたぞ」

友「ほう」

男「つまり興味のあるもの、好きなものをテーマにきめればいいんだろ?」

友「まあ、書きやすいかもしれないな」

男「んなら、俺と友の話を書く!」

友「はぁ? そんなもん書いて誰が楽しむっていうんだよ」

男「いやいや、わからんぞ。需要はどこにあるかわからない。
  とりあえずとっつきやすいように台本形式で書くよ」

友「あのなぁ、俺とお前の会話を台本形式で表現するとだな――」

男「ああ、友は男性に思われるかもな。いい加減男言葉やめろよ。
  せっかくの容姿がもったいねぇ」
  
友「うっせ、そんなん俺の勝手だろうが」

男「だがその男言葉が伏線になるのだ! いいアイディアをありがとう!」

友「意味わからん。それに話きいてなかったのか? 二次創作からのほうがやりやすいと……」

男「それ以前に、好きに書け、だろ? だから好きに書くさ。この題材が一番モチベーションが保てそうだからな!」

友「……あっそ」

男「よぉおおっし! 燃えてきた! 書くぞおおおお!!」

友「んなら、帰って書け。だから俺のパソコンの前に張り付くな!」

男「の前に、友の作品を参考にして……」

友「だから帰れ! シークレットフォルダを漁るな!
  なんのためのシークレットだ! ていうかお前どうやって見つけ出しやがった!」

男「いいじゃん、いいじゃん!
  えっと、書き出しはこうだな――」



【終わり】

なお男、友ともにあくまで"そういう考えのキャラクター"であり、
自分自身の思想思考を直接表しているものではないことを表明しつつ、
このスレの終わりと代えさせて頂きます。

ここまでクソオナニーに付き合ってくださった方あざした。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年05月09日 (土) 07:03:37   ID: 8U_FHP-u

上手

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