勇者(あいつは……僧侶!?)女盗賊「……」(102)



勇者(まさか……)

町の通りで、女盗賊が市中引き回しの刑を受けている。

わいわいがやがや

女盗賊「……」

勇者(そんなはずは……でも……)

戦士「あの女一体何やったんだ?」

女魔法使い「人を殺して金を奪ったらしいです、魔物のような人間ですね」

勇者(似ている……俺と幼なじみだった僧侶に……)

わいわいがやがや



勇者(他人のそら似かも……しかし……)

女盗賊「……」

勇者(汚れて荒れてボロボロだけどあの顔……あの瞳……僧侶としか……)

コツンッ

勇者「!?」

この人ごろしー!

女盗賊「……」ピクッ

わーわー!ぽいっぼいっ

はやく首をはねられちまえー!わーわー!

戦士「町の人達から石を投げられてるな」

女魔法使い「自業自得ですね、人殺しなのですから」

わーわー!

勇者「……っ」



戦士「よし、俺も……」

勇者「やめろ!」ガシッ

戦士「へ?」

女魔法使い「?」

戦士「何でだよ勇者?みんな投げてるじゃねえか」

勇者「お、俺達は魔王を倒した一団だぞ!みっともない真似をするな!」

戦士「え……」

女魔法使い「……確かに、罪人は石を投げられて当然とはいえ、少し幼稚ですね」

戦士「それもそうだな、俺達は民衆の手本とならなければならない存在だ、やめておくか」

勇者「……」

女魔法使い「さすがは勇者様です、罪人だからといって反射的に石を投げないとは」

勇者「いや……」



酒屋

戦士「ここで三人で飲むのも久し振りだな」

女魔法使い「ええ、私達三人はここで出会い、旅立ち、そして魔王を倒した」

勇者「……」

二人からは先程の罪人の事を気にしている素振りは見られない。

戦士と女魔法使いにとっては目の前の酒と旅の思い出の方が重要なのだ。

戦士「勇者がこの町に来た時の事は覚えているぜ」

女魔法使い「私もです、この酒場の扉を開けた時の勇者様、実に凛としていました」

勇者「はは、俺もこの酒場で二人に会った時の事覚えているよ」グビグビ



戦士「お、嬉しいねえ、なあ、俺の第一印象はどうだった?」

勇者「戦士はそうだなぁ……筋肉馬鹿って感じだったな」

戦士「ひっでーw」

女魔法使い「そんな筋肉ダルマも今やこの城下町を警護する兵達の総隊長、まったく人の運命とは分からぬものです」

戦士「そう言う女魔法使いの印象はとうだった?」

勇者「うーん……女魔法使いは……」

女魔法使い「……」ドキドキ

勇者「洗濯板」

女魔法使い「……」ピキッ



戦士「何もテーブルを燃やす事はねえじゃねえか!」

勇者「店主が許してくれたから良かったものの……」

女魔法使い「私を怒らせた勇者様が悪いんです」

戦士「おい勇者、女魔法使いの胸は禁句だって忘れたのか?」ヒソヒソ

勇者「久し振りだったからな……」ヒソヒソ

女魔法使い「魔王を倒した伝説の一団が出会った酒場として大繁盛しているそうですし」

女魔法使い「テーブルの一つや二つ、宣伝費として安いものです」

戦士「あのなぁ……」

勇者「この外見と言葉使いだけは上品な女魔法使いも今や宮廷付きの大魔法使いだ、人は分からないものだな」

ボッ

勇者「アッチ!」







戦士「今日は楽しかったぜ!またな!」

勇者「おう!頑張れよ隊長!」

女魔法使い「ゆーひゃさまー、わたしも帰りまーしゅ」フラフラ

勇者「おいおい、そんなんじゃ危ないから送ってってやるよ」

女魔法使い「ふ、わるい人などこの私の魔法で!」

勇者「ま、待った女魔法使い!ストップ!」

ボオオオ!

勇者「ぐわっちぃいい!」



勇者「……」スタスタ

女魔法使い「スー…スー……」

勇者(こいつホント胸ないな、おぶってる感じがしない)

女魔法使い「むにゃ……」グググ

勇者「ぐぇっ、い、息が……」





勇者「……」テクテク

勇者「……!」ピタッ

勇者(……ここ……あの女盗賊が引き回されていた……)



女魔法使い「どうかされましたか勇者様?」

勇者「起きたか女魔法使い、酔いはどうだ?」

女魔法使い「もう覚めました、自分で歩きます、降ろして下さい」

勇者「えーどうしよっかなー」

女魔法使い「お、降ろして下さい勇者様!」ジタバタ

勇者「わかったわかった、今降ろすから暴れ……」

女魔法使い「……うっ」

勇者「?」

女魔法使い「」ゲロゲロゲロ

勇者「うわあ!?」



女魔法使いの家

女魔法使い「……真に申し訳ない」ジャブジャブ

勇者「いいんだ女魔法使い、すぐに降ろさなかった俺が悪いんだし」

女魔法使い「良かったら今夜はここに泊まっていって下さい」

勇者「へ?」

女魔法使い「洗った勇者様の服は魔法で朝には乾いていますから」

勇者「でも……その……」ドキドキ

女魔法使い「おや、勇者様ともあろうものが美女を前にして理性を保つ自信がないのですか?」クスッ

勇者「そ、そんな……こと……」

女魔法使い「では泊まっていって下さい、今ベッドの準備をしてきます」テクテク

勇者「……」ドキドキ



寝室

勇者(……さすがに寝室は別か)

勇者「……はぁ」

勇者「……何を考えてんだ俺は?」ハッ

勇者(こんなんだから……)

勇者(こんな俺だから……こんな……)

勇者「……っ」

勇者は頭を激しく振った。

勇者「……寝よう」









夢を見た





大昔の





俺が子供の頃の夢だ



わーわー!

子供達「うわーん!ママに言いつけてやる!」タタタッ

子供勇者「おとといきやがれ!」

子供僧侶「えーんえーん」シクシク

子供勇者「もうあいつらは逃げてったよ、泣き止め僧侶!」

子供僧侶「ありがと……勇者君……」ゴシゴシ

子供勇者「まったくお前はしっかりしないと駄目だ、だからあいつらみたいな雑魚に舐められるんだ」

子供僧侶「うん……」

子供勇者「俺の見た所お前には魔法の才能がある、その魔法で奴らをやっつけちゃえ!」

子供僧侶「でも……」

子供勇者「いいからやれ!」

子供僧侶「わ、わかった……」



勇者の家

子供勇者「ただいまー」トコトコ

勇者母「勇者!」

子供勇者「あ、ママ、僕お腹す……」

パチン!

子供勇者「……!?」ヒリヒリ

勇者母「こんな時間まで訓練サボって何していたの!」

勇者父「お、おい……」

勇者母「あなたは黙ってて!」

勇者父「……」



勇者母「勇者、あなたはかつて魔王を打ち倒した偉大なる勇者の血を引く家に生まれたのですよ!?」

勇者母「預言者様の伝える所によるとあなたが大人になる頃には再び魔王は復活します!」

勇者母「その時はあなたが魔王を倒し、世界を救わねばならないのですよ!?自覚が足りません!」

子供勇者「ごめんなさいママ……」ウルウル

勇者母「泣いては駄目!魔王を倒す勇者は泣いてはいけません!」

子供勇者「ごめんなさい……ごめんなさい……」ウルウル

勇者母「泣いては駄目!常に凛としてなさい!」

息子が魔王を倒しにいくという現実にとり憑かれた母。

母に頭が上がらない婿養子の父。

俺はそんな家で育った。





子供勇者「そーりょー!そーりょー!」

子供勇者「そーりょー!どこだー?」キョロキョロ

子供勇者「いない……ん?」



子供達

子供僧侶



子供勇者「あ!あいつら!また僧侶をいじめる気だな!」

子供勇者「このやろー!」タタタッ



きゃっきゃっ

子供勇者「……え?」

子供達「それー!まてそーりょー!」

子供僧侶「まてー!」

きゃっきゃっ

子供勇者(一緒に……遊んでる?)

子供勇者(どうして……)

きゃっきゃっ





あいつらが僧侶にいじわるしていたのは

本当はみんな僧侶の事が好きだったからだと

そう気付いたのは大人になってからだった。









チュンチュン……

勇者「……ん」

女魔法使い「おはようございます勇者様」

勇者「ん……おはよう女魔法使い……」

勇者「……」

勇者「!!!??」



女魔法使い「どうしたのですか、魔王に出くわしたような顔をして」

勇者「どどどどうして女魔法使いが……その……」

女魔法使い「裸でまたがっているのか、ですか?しかも同じく裸の自分に」

勇者「う、うん」ドキドキ

女魔法使い「……覚えていないのですか?」

勇者「へ?」

女魔法使い「そんな……ひどい……」

勇者「お、女魔法使い……さん?」

女魔法使い「はじめてだったのに……」ポロポロ

勇者「!!!?」



勇者「す、すまなかった!女魔法使い!」

女魔法使い「……」メソメソ

勇者「せ、責任取るよ!子供は何人欲しい!?犬飼おう犬!でっかいやつ!」

女魔法使い「……ふふ」クスッ

勇者「お、女魔法使い?」

女魔法使い「ひっかかりましたね勇者様、嘘泣きです」ニヤリ

勇者「へ?」

女魔法使い「安心して下さい、何も過ちはありませんでしたから」

勇者「じゃ、じゃあこの状況は?」

女魔法使い「どっきりです」

勇者「……」



勇者「思い出した……こいつはこういう奴だ……旅の間も似たよう事されたっけ……」

女魔法使い「戦士さんはゲイですからね、勇者様しかターゲットがいなかった」

勇者「はぁ……よかったドッキリで……」ホッ

女魔法使い「……それにしても勇者様」ポッ

勇者「?」

女魔法使い「いつもは私の事を洗濯板だと馬鹿にするのに……」

勇者「へ?……!!?」

女魔法使い「……嬉しい」

勇者「朝だからだよ!朝のせいだ!」

女魔法使い「体は正直ですね////」

勇者「降りてくれ女魔法使いいいいいいい!」





勇者「ふぅ……女魔法使いには困ったもんだ」

「おはようございます勇者さま!」

勇者「ああおはよう」ニコッ

わいわいがやがや

町の通りは様々な人々で賑わっている。

町の中心には、魔王を倒した功績を伝えるために剣を掲げた勇者の銅像が建てられた。

勇者「……」

わいわいがやがや



訓練所

戦士「え?昨日の罪人の事を知りたいって?」

勇者「うん」

戦士「勇者なら良いけど……なんでだ?」

勇者「……ちょっと気になってな」

戦士「……はぁ……まさか勇者の目も惹くとはな」

勇者「どういう意味だ?」

戦士「うーん……恥ずかしい話なんだが……」

戦士「あの罪人、髪も顔も荒れてボロボロだったけど、つくりは悪くないだろ」

勇者「へ?あ、うん」

戦士「……兵達のオモチャになっているんだ」

勇者「!!?」



勇者「ど、どういう事だよ!?」

戦士「重い罪を犯した女の罪人にはよくある事なんだ」

勇者「よくあるって……お前知ってて何故止めない!?」

戦士「もちろん止めようとはしてるさ、だけど……お前も男なら分かるだろ?」

勇者「……」

戦士「まああの罪人は人を殺しているんだし……しょうがねえよ」

勇者「……」スタスタ

戦士「おい勇者?」

戦士「……?」



地下牢

看守長「あの女盗賊を一目見たいと?」

勇者「駄目かな?」

看守長「勇者様なら構いませんが、何でまた?」

勇者「ちょっと調べたい事があってな」

看守長「調べたい事ですか……ふふふ……ちょいとお待ちを、誰かいないか見てきますから」スタスタ

勇者「……」

通路の奥から二人の兵士が歩いてくる

兵士「あーすっきりした」

兵士「明日もまた来ようぜ」

コツコツ…

勇者「……」



看守長「お待たせしました勇者様」

勇者「悪いな無理言って」

看守長「いえ……ふふふ、マスクとは、良い趣味ですね」

看守長「綺麗にしときましたからどうぞごゆるりと……ふふふ……」コツコツ

勇者「……」





地下牢の通路を、勇者は歩いていく。

他の牢には誰もいない。

勇者「……」コツコツ



勇者「……」

勇者は柵の向こうにいる女に目をやる。

この牢だけ他のに比べて小綺麗だ。清潔そうなベッドまである。

そのベッドに、体を折り曲げた裸の女が胎児のように横たわっている。

女盗賊「……」

勇者「……」

牢の扉に手をかける。

ガチャッ

ギイイイイ…



女盗賊「……」

勇者「……」

女盗賊は勇者が入ってきても微動だにしない。

死んでるのかと思ったが、震えるような息使いが聞こえてくる。

勇者「……」

勇者はシーツではなく、女盗賊の髪に手をかけた。

女盗賊「……」ピクッ

髪を横に動かし、女盗賊の顔を覗き込む。







勇者「……」





コツコツコツ…

看守長「お楽しみになられましたか?へへへ……」

勇者「……ああ」

コツコツ…

兵士「おい、頼めるか?」チャリン

看守長「へへへ、まいどあり」

勇者「……」

コツコツ…








パカラッパカラッパカラッ

勇者「……」

町の近くの平原を、馬に乗って駆ける。

勇者「……うう」

勇者「うお……」

勇者「うおおおおお……」



地下牢の中の一際綺麗な部屋。

その中にいる人を殺し金品を奪ったという女の罪人。

女は髪を触られ、顔を覗き込まれても、指ひとつ動かすだけだった。

ただ人形のように感情の無い目で、自分を見るマスクをした男をじっと見返すだけだった。

勇者「おおおおおおお……」

勇者「うおおおおおおおおおおおおお!!!」

勇者は狂ったように声を張り上げた。

何故ならば牢の中にいた女は自分の幼なじみの僧侶その人であり

三年前に自分が犯した女だったからである。



前編 おわり



酒場

勇者「……」グビグビ

女遊び人「ねえ勇者さまーん、上のお部屋にいかない?」

勇者「悪いが酒を飲みたい気分でね、他をあたってくれ」

女遊び人「相変わらずお堅い……あら、ここも」ムンズ

勇者「!?」

女遊び人「勇者さまん?私の事好きにして良いんですよ?」

勇者「あ、あわわ……」ドキドキ

戦士「おい!やめないかビッチめ!」

戦士「俺の……いや皆の勇者に変な事をするな!」



戦士「危ないところだったな」

勇者「ありがとう戦士、魔王を倒してからはいつもこうだ」

戦士「今やお前は世界を救った英雄だからな、甘い蜜には悪い虫が群がるもんさ」

勇者「……」グビグビ

戦士「何かあったのか?」

勇者「へ?」

戦士「魔王を倒す旅を一年してその間寝食を共にしたんだ、それぐらい分かるさ」

勇者「……」

戦士「ま、言いたくない事なら無理に聞かんよ、今日は飲もうぜ」

勇者「……酒を飲めばたいていの悩みは消し飛ぶからな」







勇者「」ゲロゲロ

戦士「おいおい大丈夫かよ」

勇者「うるへー!俺はゆーしゃ様だぞー!」フラフラ

戦士「まったく飲み過ぎだよ、歩けるか?」

勇者「なーせんしぃー、あの女さー」

戦士「女?」

勇者「あの女盗賊だよー!」

戦士「……ああ、そういやお前あの地下牢に行ったんだって?看守から聞いたよ」



勇者「いったから何だってんだよー?」

戦士「……いや、お前も男だからな」

勇者「へん!あんな汚い奴、このゆーしゃ様が相手にするわけないだろー!」

戦士「そうなのか?俺はてっきり……」

勇者「せんしー……あの……おん……な……」フラフラ

ばたんっ

戦士「……おいおい」

勇者「ぐがー、ぐごー」

戦士「まったく、世界を救った英雄がこんな道端で……」

戦士「……」ジュルリ



女魔法使い「そこまでです」

戦士「!?」ドキッ

女魔法使い「勇者様のお尻を守りにきました」

戦士「お、俺はナニもそんな……」

女魔法使い「旅の途中あなたがずっと勇者様のナニを狙っていたのは知っています」

戦士「!!」

女魔法使い「勇者様は私の家で介抱します」

戦士「そ、そうか、助かったよ、じゃあな」スタスタ

女魔法使い「……」

勇者「ぐごー」

女魔法使い(……よし)ジュルリ









僧侶「こう?」

勇者「まだ甘い、もっと手のひらに魔力を集中させて……こうだ」ポアア

僧侶「……できない、難しいね」

勇者「練習すればそのうちできるようになるさ」

僧侶「凄いね勇者は、こんな難しい事ができるなんて」

勇者「はは、俺は勇者だからな」



僧侶「むー」グググ

勇者「そうそうその調子、そのまま魔力を……」

勇者母「勇者!何やってんの!訓練サボって!」

勇者「!」ビクッ

僧侶「あ、勇者のお母さん……」

勇者母「ちょっとあなた!うちの子に近付かないで頂戴!」

僧侶「え……」ビクッ

勇者母「勇者は数年後魔王を倒しにいかないといけないの!あなたと遊んでる暇は無いのよ!」

僧侶「わ、わかりました……すいませんでした……」テクテク

勇者母「ふん!」

勇者「……」







勇者「今日は久し振りに訓練が休みだ、僧侶にたくさん魔法を教えられるぞ」

僧侶「あ、勇者!」テクテク

勇者「僧侶!……?」

賢者「勇者様こんにちは」ペコリ

勇者(こいつ……小さい頃に僧侶にいじわるしてた……)

僧侶「えい!」ポアア

勇者「僧侶!?これ……」

僧侶「回復魔法!賢者に教えてもらったんだー!」

勇者「!?」



勇者(そんな……俺が教えてもなかなか習得しなかったのに……)

僧侶「勇者って天才でしょ?だから凡才の賢者の方が私には合ってるみたい!」ニコッ

勇者「!?」

賢者「はは、勇者様はかつて魔王を倒した伝説の勇者の血を引くお方ですからね」

勇者「僧侶、じゃあ攻撃魔法は俺が教えて……」

僧侶「ううん!賢者に教えてもらうからいい!」

勇者「え……」

僧侶「勇者は訓練で忙しいでしょ?」

勇者「……」



僧侶「じゃーねー勇者!訓練頑張ってね!」テクテク

賢者「では……」ペコリ

勇者「……」

勇者「……えい!」ピカアアアア!

勇者「ふん!」ボオオオオオオ!

勇者「俺の方が……回復魔法使えるのに!」

勇者「俺の方が強い魔法使えるのに!」

勇者「……」

勇者「うう……」

勇者「うあああああ!!」ゴオオオオ!









チュンチュン……

勇者「……ん」

勇者「夢……かぁ!?」ビクッ!

女魔法使い「おはようございます勇者様」ニコリ

勇者「な……な……」

女魔法使い「何故裸の私が同じく裸の勇者様の胸板に顔を乗せているんだ……ですか?」

勇者「またドッキリかあああああ!」



勇者「な、なんで女魔法使いがいるんだよ!?」

女魔法使い「あらひどい、勇者様のお尻を守ってあげたのに」

勇者「……何となく分かった」

女魔法使い「それにしても勇者様……」

勇者「?」

勇者「……!!?」

女魔法使い「また私で興奮してくれているんですね////」グリグリ

勇者「太ももでグリグリするなああああああ!!」ハアハア

女魔法使い「ふ、これでもまだ朝だからだと言いますか?」グリグリ

勇者「降りてくれ女魔法使いいいいいいいい!!」ハアハア



勇者「まったく……もうこれでドッキリは終わりにしてくれよ……」

女魔法使い「ふふ、果たして本心からそれを望んでいるのでしょうか」

勇者「はあ……」

女魔法使い「では私は仕事がありますのでこれで」テクテク

ばたんっ

勇者「……」

勇者(……まあしょうがねえよな)シコシコ

女魔法使い「あ、忘れ物」ガチャッ

勇者「どわぁ!?」





わいわいがやがや

勇者「……」

勇者(……あの罪人は、間違いなく僧侶だった……)

勇者(人を殺して金品を奪っただって?あの僧侶がそんな事をするだなんて……信じられん)

勇者「……」

勇者(……冤罪なんじゃないのか?)

勇者(じゃあ、僧侶はやってもいない罪でギロチン刑にかけられ、それまでの間兵士達によって暴行され続けるのか!?)

勇者(助けないと!)ギリッ



訓練所

戦士「え?あの罪人の執行日はいつだだって?」

勇者「ああ」

戦士「今日の昼だけど……それがどうかしたか?」

勇者「なに!!?」

戦士「兵士達が駆け込んでて大変だよ、ひどいもんさ」

勇者「……」

戦士「でもそれがどうかしたか?」

勇者(まずい!どうにかしないと!)

勇者「……」

勇者(……待てよ)



勇者(このまま今日の昼に僧侶の首がハネられれば……俺が僧侶を犯したと証言する口は無くなる……)

勇者(僧侶は今や死刑囚だ……やけくそになってそのうち俺の罪を暴露するかも……)

勇者(いっそこのまま早いとこ死んでくれた方が……)

勇者(いや、今や俺は世界を救った英雄だ……罪人が何を言おうと俺の名声はビクともしないだろう……)

戦士「勇者?」

勇者「……」

戦士「用が済んだなら俺は兵の指導に戻るぞ?」スタスタ

勇者「……」



勇者「戦士!ちょっと待ってくれ!」



町の門

勇者(王様にあの罪人には魔王の呪いがーとか適当な嘘をついて執行は伸ばしてもらった)

勇者(だが一週間が限界だった、この一週間で俺は本当に僧侶が罪を犯したのか調べて……)

勇者(もし本当に人を殺していたらこのまま放っておく)

勇者(……もし冤罪ならば……その時は……)

勇者「……」

勇者「……ん?」

女魔法使い「……」タタタッ

勇者「女魔法使い?」

女魔法使い「ふぅ……ようやく追い付いた」



勇者「お前……どうして?」

女魔法使い「最近暇でしてね、勇者様の旅行に同行しようと思いまして」

勇者「あのな、俺は遊びに行くわけじゃ……」

女魔法使い「あの罪人の事を調べに行くのですよね?」

勇者「!?」

女魔法使い「ふふ、私も手伝ってあげますよ」

勇者(こいつ……何故それを?どこまで知っている?)

女魔法使い「ささ、早くしないと私の弟子達が追いかけてきますよ?」

弟子達「女魔法使いサマー!」タタタッ

勇者「ちょ……」

勇者「ええい!転移魔法!」ピカッ!



交易の町

わいわいがやがや

女魔法使い「ほう、大変な賑わいですね」

勇者「ここは交易の中心地点だからな、各地から商人が集まってくる」

勇者(そして戦士から得た情報だと僧侶はここで人を殺し、金品を奪った……)

勇者(……僧侶は何故この町に?この町で僧侶に一体何が起こったんだ?)

女魔法使い「勇者様、まずは何をします?」

勇者「そうだな……まずは……」

わいわいがやがや



宿

女魔法使い「まずは宿を確保ですか」

勇者「ああ、いつ満室になるか分からないからな、まずは寝床を、旅の鉄則だ」

女魔法使い「旅ですか、ふふ、懐かしい」

女魔法使い「三年前、私達は旅立ち、二年前に魔王を倒し旅を終えた……ずいぶん昔の事みたいです」

女魔法使いはベッドに座り込んだ。

勇者「……女魔法使い」

女魔法使い「何です……きゃっ」

どさっ



勇者「……」

女魔法使い「……」

勇者は女魔法使いを押し倒し、両手に両手を重ねた。

勇者(何だよ『きゃっ』て……)

女魔法使い「……」

女魔法使いは戸惑いを見せていたが、すぐにいつもの余裕を見せ始めた。

女魔法使い「……ふふ、とうとう我慢できなくなりましたか?」

勇者「……」ゴクリ

女魔法使いは幼い子供をからかうように唇を突き出した。

勇者「……答えろ」

勇者「何故俺があの罪人を調べると知っていた?」



女魔法使い「ふふ、やはりそうでしたか」

勇者「!?」

女魔法使い「簡単な事です、あの罪人を見た時の勇者様はどこかおかしかった」

女魔法使い「戦士に罪人の事を聞いていたと戦士本人から聞いていましたし」

女魔法使い「それに魔王の呪いの類があれば私が気付かないはずがありません、そもそも……」

勇者「そもそも?」

女魔法使い「私は勇者様の事をずっと見ていましたから」ニコッ

勇者「……!」ドキンッ

女魔法使い「さて勇者様……お次は何をしますか?」

女魔法使いの息遣いは勇者を娼婦のように誘惑していた。

整った顔には汗がにじみ、ガラス玉のような瞳は勇者をイタズラ気に見つめている。

勇者「……」

勇者は女魔法使いから離れた。



勇者「……宿は確保した、町に出てくる」

女魔法使い「そうですか、私はここにいます」

女魔法使い「安心して下さい、私は勇者様の探求しているものの根本を知りませんから」

勇者「……」

女魔法使い「勇者様が望むなら、勇者様の腕に小鳥のように停まりますが?」ニヤリ

勇者「いや……ここにいてくれ」

女魔法使い「では体を清めて待っていましょう……夜のために」クスッ

勇者「……」スタスタ

ばたんっ

女魔法使い「……」



わいわいがやがや

勇者「……」

勇者は一日かけてこの町の現状をできるだけ調べた。

時には勇者の威光を用いて、時には腕力にものを言わせて。

その結果分かった事

それは華やかな交易の町の裏の顔だった。

勇者(この町では食料品や家畜、雑貨、数え切れない種類の品物が売買されている)

勇者(それと同じように、秘密裏に人も売り買いされているんだ)

勇者(まるで家畜を扱うように……)

わいわいがやがや



勇者(夜になれば娼婦達が通りに溢れてくる……)

勇者(そして娼婦が一番よく出る、宿屋が密集している地区がある)

勇者(町の警備兵の話では、僧侶が殺人をしたのはその地区でらしい)

勇者(まさか……僧侶は……)

ねえーん、寄ってかなーい?



勇者(この町で……娼婦をしていた!?)

勇者(まさか……僧侶に限って……まさか……)

勇者「……」

わいわいがやがや



宿

女魔法使い「おかえりなさい勇者様」

勇者「……」

女魔法使い「食事にします?またはお風呂?はたまた……」

勇者「……悪い女魔法使い、お前のドッキリに付き合う気力が無い」ドサッ

勇者はベッドに寝ころんだ。

女魔法使い「お疲れのようですね」

勇者「一日中歩きまわったからな……剣も少し使った」

女魔法使い「まあ、物騒ですこと」

勇者「……もう寝る」

女魔法使い「あら、お食事がまだですが」

勇者「明日食べるよ……今日はもう疲れた……」

女魔法使い「それにお風呂にも入っていない」

勇者「明日でいい……」



女魔法使い「駄目です」グイッ

勇者「うおっ?」

女魔法使い「汚れた体のまま寝ては宿に迷惑をかけます」

勇者「女魔法使い、俺は今日本当に疲れて……」

女魔法使い「私も一緒にお風呂に入ってあげます、そして勇者様の体を綺麗にしてあげます」

勇者「あのな……」

女魔法使い「勇者様に変な事はしません、本当にお疲れのようですから」

勇者「……」

女魔法使いは勇者の衣服をはぎ取っていく。



浴室

ちゃぽーん

勇者「……」

女魔法使い「……」

女魔法使いは勇者のお腹の上に乗っている。

女魔法使い「気持ち良いですね勇者様」

勇者(そっちが俺の面倒を見るんじゃないのかよ……)

女魔法使い「おや、こんな所に手綱が」ニギッ

勇者「……」

女魔法使い「はいよー、しるばー」クイクイ

勇者「……」

……ぎゅっ



女魔法使い「……勇者様?」

勇者は女魔法使いを後ろから抱きしめた。

勇者「……」

女魔法使い「……」クイクイ

ぎゅうっ!

女魔法使い「きゃっ!?」

勇者はさらに激しく女魔法使いを引き寄せる。

女魔法使い「……」

女魔法使い「勇者様……」サス…

勇者「……ううう」



宿に戻る途中、ついでにと勇者はとある商人に声をかけた。

そして商人から知ってしまったのだ、僧侶がこの町で娼婦をしていた事実を。

僧侶はこの華やかな町で娼婦として働き、何らかの理由で人を殺し、罪人となった。

何故僧侶は故郷を離れてこの町で娼婦となったのか?

何故自分の体を商品として売るようになったのか?

僧侶が体を売るようになったのは、ひょっとしたら自分のせいなのかもしれない

勇者はそう考えてしまっていたのだ。

勇者「うう……ううう……」ポロポロ

勇者「うわあああああん!」ポロポロ

中編 おわり

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年05月25日 (月) 00:13:37   ID: DzFlmaiI

大の男がうわああんとかドン引きなんだけど

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