【ラブライブ!】穂乃果「FIGHTだよ!」 希「」【ストリートファイター】 (48)

[○月×日 秋葉原特設会場 選手控え室]
希(試合の組み合わせ、どうなるか…)

ピラッ

希(『正義』の正位置…。
でもこのトーナメント戦はどれだけ運良くばらけても必ずμ's同士の誰かが当たることになる…。穂乃果ちゃんはああ言ったけど…やっぱり気が滅入るなぁ…)

[試合会場]
司会『さあ、ついにこの日がやって来ました!』

希「………」

司会『スクールアイドル群雄割拠のこの時代!個性は溢れに溢れ、飽和しつつあります!
そんな中でうら若き乙女達はより抜きん出た個性を求めて日々試行錯誤し、己を磨き、歩みを進めてきました!しかし!世の中そんなに甘くはない!』

希(とうとう始まってしまった…)

司会『歩けど歩けど光は見えず、闇を彷徨い歩く者もいます!その闇で躓き、転び、俯き、沈んでいった者も少なくありません!
それでも諦めずに歩み続けてきた乙女達に遂に希望の光が差し込み、その中から手が差し伸べられました!』

希(本当にここまで来たんだ…)

司会『されどその手を掴める者はたった一握り!!
これより乙女達はライバルを蹴散らしてその手を掴むべく、スクールアイドルという名の仮面を脱ぎ捨て一人の格闘家となるのです!!』

希(がんばってここまで来たけど…いまだに現実味がないなぁ…)

司会『志半ばで傷付き倒れるかもしれない!!しかしそれでも構わない!!
全てはスクールアイドルの更なる高みへ登る為に!!』

希(なんでこんなことになったんだっけ…)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1430052503

[40日前 朝 希ホーム]
希「…!!」

ガバッ

希「(夢か…。嫌な夢や…。まさかウチが…)」

ギシッ

希「ま、いいか!早く支度しよ!」



[放課後 音ノ木坂学院]
希「(ちょっと遅れてしもうたわ。さーて、みんな集まっとるかなー?)」

ガチャ

希「遅れてごめーん!ちょっと先生と話してて…」

穂乃果「波動拳!」ドウッ

希「」

ことり「いっちにのさーん!」ブン ブン ブオン

希「」

海未「肘激崩!」シャッ

希「」

花陽「はあぁぁぁぁ!」パパパパパン

希「」

真姫「紅蓮拳!」バババッ

希「」

凛「ややややや!」ダダダダダ

希「」

にこ「ダー!」ヒュッ

希「」

絵里「フンッ!」ブオン

希「」

穂乃果「あ、今日は遅かったね希ちゃん」

絵里「希ったらもう!大会まで時間がない中でみんなあなたのために一肌脱ごうって決めたばかりなのに…。そんな体たらくでは予選も生き残れないわよ!」

希「た、大会?生き残る?なんの事や?」

真姫「大会の事を忘れたなんて笑えない冗談だわ。そんな腑抜けた気持ちじゃ大怪我するわよ!」

希「い、いや…冗談やなくて本当に何が何だか…」

絵里「…どうやら本当に覚えていないようね」

希「……なんかここ最近の記憶が曖昧みたいなんや。悪いけどその大会のこと教えてもらえる?」

穂乃果「説明しなくても多分この言葉を聞けば思い出せると思うよ」

希「言葉?」

花陽「そ」

凛「れ」

真姫「は」

にこ「ス」

絵里「ト」

海未「リー」

ことり「ト」

穂乃果「ファイトだよ!!」

希「」

希以外「………」

希「………」

穂乃果「ダメ…みたいだね」

希「いや、ストリートファイトって路上のケンカのことやん?それともウチの聞き間違い?」

穂乃果「え?」

希「え?」

絵里「……ストリートファイトのことすら覚えていないとなるとさすがに心配ね。病院で検査を受けた方がいいんじゃない?」

希「い、いや…他の記憶ははっきりしてるし…」

真姫「うちの病院に手配してあげる。今日中に済ませるわよ」ピポパ

希「でも…」

にこ「みんなあんたが心配なのよ」

穂乃果「そうだよ!」

海未「私も同意見です」

ことり「念のためだと思って!」

花陽「みんなのためにもお願い!」

凛「お願いにゃ!」

真姫「検査して問題が無ければいつも通りにすればいい。もし仮にたとえ万が一にでも問題があったって絶対治してあげるから気兼ねなんていらないわよ」

絵里「だから行ってきなさい」

希「みんなありがとう!ウチ、検査受けるわ!」


[30分後]

ババババババババ

真姫「来たわね。希、行くわよ」

希「………」

真姫「さあ、早く乗って」

希「う、うん」


[機内]

希「………」

真姫「さっきから眉間にシワを寄せて黙ってるけどどうしたの?」

希「い、いやー。ヘリで送迎なんてさすが真姫ちゃんやなーと思ってな」

真姫「そう?普通でしょ」

希「ソウデスネー(棒読み)」

[翌日]
絵里「で、検査の結果はどうだったの?」

希「ウチはなんか難しくてよく覚えてないから…。真姫ちゃんお願い!」

真姫「仕方ないわね」

海未「それで…どうだったんですか?」

真姫「なるべく難しい言葉は使わないで分かりやすく説明するわ。落ち着いて聞いてね」

ことり「………」ゴクッ

真姫「誰か医学で言う『解離』って言葉は知ってる?」

穂乃果「海で使う距離の単位?」

希「穂乃果ちゃん、それ海里や」

真姫「穂乃果、あとで私と組手ね?」ニコッ

穂乃果「目が笑ってないよ真姫ちゃん…」

海未「…っ!」ズキズキ

ことり「海未ちゃん、頭を抑えてどうしたの?」

海未「…ちょっとめまいがしただけです。もう治りましたから気にしないて下さい」

穂乃果「うーん…。具合が悪かったらすぐ言ってね?」

海未「ありがとうございます、穂乃果」

穂乃果「うん!」

海未「(『カイリ』…。この言葉を聞いた途端に頭痛が…)」

真姫「医学での解離っていうのは…。それまで持っていた記憶や感情・感覚等が失われた状態。それによって『自分』という一人の人格としての統合性を失うこと…ってところね。わかった?」

にこ「へ、へーなるほど?」

凛「そ、そういうことだったにゃ?」

真姫「(絶対分かってないわね…)」

穂乃果「うん!全然わかんない!」

希「穂乃果ちゃん、そんな高らかに宣言せんでも…」

絵里「うーん…要するに…。記憶や感情なんかが欠けて今までの自分らしなくなる状態、で合ってる?」

真姫「さすがは絵里ね。だいたいその通りよ」

海未「…っ!」ガクッ

ことり「海未ちゃん!?」

穂乃果「ど、どうしたの!?」

海未「少し日陰で…休んできます…」ヨロッ

ことり「ことりも一緒に行くよ!」ガシッ

穂乃果「穂乃果も…」

海未「穂乃果は…真姫のところにいて下さい…。すぐ戻ってきますから…大丈夫ですよ…」

穂乃果「……うん、わかった。ことりちゃん、海未ちゃんをよろしくね」

ことり「うん…」

真姫「海未も心配だけど話を進めるわよ。
ところで希、昨日も医者に聞かれたと思うけどあなたは格闘技のことをどう思ってる?」

希「…痛いのはあんまり好きやないから…どちらかと言うと苦手、かな」

絵里「…!」

真姫「…希、あなたは記憶を失う以前は格闘技は好きだって言ってたのよ」

希「…そっか」

真姫「で、症状がどの程度なのかを詳しく調べるために最先端のスクリーニングテストや精密検査を徹底的に行ったわ」

希「………」

真姫「その結果、軽度の『解離性健忘』と診断された」

絵里「解離性健忘?」

真姫「さっきも言ったけど解離っていうのは記憶や感情等の一部が失われて考え方とか性格が変わることね。
解離性健忘は文字通り健忘によるものよ」

絵里「健忘…記憶喪失の事よね。軽度って言ってたけどどういうこと?」

真姫「特定の事柄のみの健忘は確かに珍しい。だけどそれによって変わったのは格闘技に対する認識だけ。
それ以外はいつもの希だっていうのはみんな分かってるでしょ?」

にこ「確かにそうね」

真姫「それに格闘技のことを思い出すなら格闘技に関わるのが最適よ」

穂乃果「…ってことは!」

希「格闘技やるのに心配はいらんってことやな!」

真姫「結論としてはそういうことになるわね。ちょっと荒療治だけど」

絵里「ふう…長々と説明してくれちゃって…。聞き疲れたわ…」

穂乃果「絵里ちゃんって目の下にクマができてたもんね!希ちゃんが心配で眠れなかったんだよねー!」

絵里「よ、余計なことを…」

希「心配かけてごめんな、えりち」ギュッ

絵里「わ、分かったから手を離しなさい///」

希「よっしゃー!記憶を取り戻すためにストリートファイト、やったるでー!」

海未「問題はなさそうですね。よかった…」

ことり「大事なことは聞いたしもう少し休もうよ」

海未「もう大丈夫です。ありがとうございます、ことり」

ことり「うん。でももしまた悪くなったら…」

穂乃果「すぐに穂乃果達に言ってね!」

海未「ええ、その時はお願いします」

真姫「………」

花陽「…真姫ちゃん、どうしたの?」

真姫「…ちょっと考え事。気にしないで」

花陽「うん、分かった」

真姫「(検査で気になる結果があったけど…今は言わない方がいいわね)」

希「そういうわけで改めて聞きたいんやけど…ストリートファイトのこと、教えてくれへん?」

絵里「仕方ないわね。私が教えてあげるわ」

希「ありがとうな、えりち」

絵里「それじゃあ始めるわよ」

希「はーい」
☆☆☆☆

希(そうそう、記憶のために参加を決めたんだった…。でもあの日は大変だったなぁ。まさか…)

司会『それでは選手入場です!!!!』

希「(あ、入場の時間)」

司会『まずご紹介致しますは今大会最大勢力!なんと一つのグループが本戦出場枠の過半数を獲得!
結成から短期間で頭角を現してきた新進気鋭のスクールアイドルグループ!音ノ木坂学院、μ'sの皆さんです!』

ワアァァァァ!!


司会『情熱一直線!元気いっぱいの笑顔が眩しいμ'sのリーダー!
その性格は格闘技にも反映されており、明るく一生懸命闘う姿は見る者を楽しく熱くさせてくれます!しかし格闘スタイルはあくまでも堅実!とあるストリートファイターを可能な限り模倣しているそうですが、これぞ「格闘技の手本」と言ってもいいかもしれません!その人物も同じなのでしょうか!
本戦でもザ・スタンダードは見られるのか!高坂穂乃果選手です!!』

穂乃果「闘いの中に、答えはあるんだよ!!」

司会『天然の性格やとろけるような甘い声の癒し系アイドル!μ'sの衣装を担当する才女でもあります!しかしそれとは裏腹に格闘スタイルは文字通り烈火の如し!
荒削りながらも激しい攻撃は興奮という名の爆弾に点火する火種!
燃えるような熱い闘いに期待が寄せられます!南ことり選手です!!』

ことり「派手にキメちゃうよ!!」

司会『清楚かつ可憐な見た目通り、日本舞踊を修め弓道を嗜む大和撫子!μ'sのオリジナルソングの作詞を担当しており、心に響く歌詞に惹かれるファン多数!
闘う姿は流麗にして優美!その様は格闘ではなくまるで演舞!
闘いの中で生み出される美しき舞いに酔いしれよ!園田海未選手です!!』

海未「このような場所で見せることになるとは思いませんでしたが…。『武』へと昇華した『舞』…お見せしましょう」

穂乃果(試合の組み合わせ次第ではもしかしたら初めて見られるかもしれない…。海未ちゃんの『本気』が…!)

司会『東京都内に八十万平米の広大な敷地の中は鳥獣跋扈せし大自然!
肉食獣が闊歩する大草原!高く険しき山々!怪鳥飛び交う奈落の谷!怒濤逆巻く激流!飲み込むもの全てを砕く大瀑布!東京とは別世界と言っても過言ではない正に人外魔境!!
それを所有するのが日本は疎か世界の政治・経済界にさえも影響力を持つあの西木野財閥!彼女はその一族の中でもあらゆる才能を兼ね備えるクールビューティーな一人娘なのです!
天は素晴らしい歌唱力と作曲の才能をももたらしました!!
格闘技においても才能は発揮され、ストリートファイトではデビューから常勝不敗!……でしたが、ある日突然格闘技の世界を引退!
その後高校に入学してからはスクールアイドルの道へ足を踏み入れました!ところがこの大会にてついにその沈黙を破るのです!
様々な格闘技の技を取り込んだ格闘術に死角はあるのか!西木野真姫選手です!!』

真姫「はあ……」

海未「ずいぶん深いため息ですね。どうしたんですか?」

真姫「私はもう常勝不敗なんかじゃない。負けたのよ」

海未「…と言うことは一度は格闘技から身を引いた理由とは…。その話、本当ですか?」

真姫「ええ、本当よ。それも完膚無きまでに叩きのめされたわ」

海未「プライドの高いあなたがそこまで認めるとは…」

真姫「だからこの大会でその雪辱を晴らすのよ」

海未「そうだったんですか…。でもその方が大会に出ているとは限りませんし、出ていたとしても予選を突破するとは限らないのでは?」

真姫「もちろん調べて出場を確認したわよ。それに私を破る実力なら必ず本戦に上がってくるわ」

海未「…そうですか。それなら真姫がその方と当たることを私も祈りましょう」

真姫「必要ないわ。互いに勝ち進めば必ず当たるんだしね」

海未「…無用な心配でしたね。しかし私も仮にあなたやその方が相手となろうとも負ける気はありませんよ」

真姫「当たり前でしょ。私と当たっても手を抜いたら許さないわよ」

海未「ふふ…。そうですね」

司会『μ's随一の運動能力を活かしたスタイリッシュでアクロバティックなダンスはダイナミック且つ魅力的!
闘いに於いてはそのダンスを支える脚力によって繰り出される華麗なる空中殺法で相手を翻弄し、鍛えに鍛えた剛脚でどんな相手も蹴り倒す!
天裂く嵐脚でLoveAlive!という名の天を制する事が出来るか!星空凛選手です!!』

凛「凛の蹴りは痛いよー!!」

司会『ついプニプニしたくなる柔らかそうなほっぺた!助けを求められたらちょっと待って焦らしたくなる愛くるしさ!
しかし彼女は見た目に似合わず並み居る敵を押して押して押しまくる今大会屈指のパワーファイター!
故に守ってあげる必要は無いかもしれません!
こんな可愛い子となら是非押し合ってみたいですね!小泉花陽選手です!!』

花陽「私そんなに乱暴じゃないよ〜!」

凛「セクハラ発言にはつっこまないの?」

司会『μ'sの中でも異彩を放つ派手好きパフォーマー!独特なキャラ作りで懸命にアピールする姿がいt…眩しさを放つ!
闘いに於いてもその独自性を発揮し、予測不能かつ大胆不敵な戦術で相手を驚愕と困惑の二重螺旋に陥れる!
相手にペースを握らせずに己のソロステージを用意できるか!矢澤にこ選手です!!』

にこ「ん?今の紹介、『眩しさを放つ』の前に何か言いかけたように聞こえたけど…」

凛「それは多分『痛…」

花陽「!!」バッ

凛「むぐぐ」

花陽(凛ちゃん…!にこちゃんの名誉を傷付けないためにもそれ以上言っちゃダメだよ…!)ボソボソ

凛(む、むん!)ボソボソ

にこ「………」

司会『ロシア人の祖母譲りのメリハリある抜群のプロポーションを持つロシアンクォーター!クォーターの中では非常に珍しい金髪碧眼もチャームポイント!
バレエで培ったしなやかな身体は高い運動性を生み出し、ロシア仕込みのテクニックで組み技は自由自在!
的確な分析力と冷静沈着な判断力で職人技を見せられるか!絢瀬絵里選手です!!』

絵里「やるからには優勝を狙うわ。私はもう…諦めない!!」

司会『女子高生とは思えないほどの妖艶な魅力を漂わせるミステリアスガール!
スピリチュアルな物事が趣味で、タロット占いに凝っており、趣味が為せる技かくじ運に於いては負け知らず!
闘いに於いては摩訶不思議な投げ技でどんな相手も問答無用にぶん投げ、意表を突くリーチの長い武器で相手を叩きのめす!
彼女の占いにはLoveAlive!の頂きを制する自分の未来は出ているのか!東條希選手です!!』

希「ど、どうもー」ダラダラ

にこ「笑顔が引きつってるわよ。にこ達は今は格闘家でもれっきとしたスクールアイドル。闘う前からそんな顔してたらお客さんが不安がるじゃない。お客さんの前なんだからもっとしっかりしなさい」

希「そ、そうやね…」

にこ「………」

希(そうは言われても…。μ'sのみんなと当たる可能性があると思うとちょっとなぁ……)

司会『以上、μ'sの皆さんのご紹介でした!さあどんどん行きましょう!』

司会『玉川南高校出身!学生でありながら現役のストリートファイターでもある珍しいスクールアイドル!
天真爛漫な性格で、制服姿で元気いっぱいにステージに立つ姿は満開の桜の如し!
格闘スタイルはとあるストリートファイターの見様見真似に大きくアレンジを加えてたものとのこと!
そして闘いが始まると周りが見えなくなる程の高い集中力を発揮し、その集中力故か時折凄まじい爆発力が生まれ、劣勢から逆転勝ちを納める事も多々!
自分らしく闘い、勝利という名の桜花を咲かせる事が出来るか!春日野さくら選手です!!』

真姫「!!」

凛「…真姫ちゃん?」

真姫「さくらさん」

さくら「あ!西木野さん!」

海未「(声をかけた…。と言うことはあの方が真姫を…)」

真姫「その節はお世話になったわね」

さくら「あはは…」

真姫「私に『素敵な敗北』を与えてくれたあなたにはとても感謝してるわ」

さくら「はうっ…!!」

真姫「だから今度は私があなたに『素敵な敗北』を与えてあげる」

さくら「ま、まあ理由はどうあれまたストリートファイト始めたんだね!あたしも楽しみにしてるよ!」

真姫「勘違いしないで。この大会はあくまでもスクールアイドルの高みへ昇るための通過点。ストリートファイトなんて関係ないわ」

さくら「…西木野さん…」

真姫「でもなたは違う。あれだけストリートファイトが好きだったあなたが片手間でスクールアイドルに手を出すなんて思わなかったわ。そんな中途半端なあなたには絶対に負けない。負けるわけにはいかないのよ」

さくら「あたしはどっちの道も本気だよ。ケイに無理矢理入れられたけどアイドル活動にもストリートファイトとはまた違った緊張感や楽しさがあるって気付いて本気でやりたくなったんだ。
どっちもなんて欲張りかもしれないけど、やるからには全力でやる。あたしは片方だけ選べるほどの決断力はないし、ペースを考えて走れるほど器用じゃないから。
だからスクールアイドルとしてもストリートファイターとしても西木野さんには絶対負けないよ!」

真姫「フフ…どうやらどちらも中途半端というわけではないようね。それを聞いて安心したわ。あなたを試すためとはいえ、失礼な発言をしてしまった事は謝るわね」

さくら「ううん、あたしも西木野さんが相変わらずすっごい強気でホッとしてるよ!お互い頑張ろうね!」

真姫「……あなたと話してると調子が狂うわ」

司会『私立百日紅高校出身!忍者サークルがそのままスクールアイドルグループへ見事に変わり身!
忍なれども忍ばない!その代わりに俊敏な動きによるスタイリッシュなダンスを披露!
闘いに於いても忍者らしく変幻自在の忍術を操り、相手を幻惑します!
只今素敵な彼氏を絶賛募集中との事ですがアイドルなのにそんな事言っていいのか!くノ一アイドル藤村いぶき選手です!!』

いぶき「いいんだよ!この大会で優勝して目立って絶対に彼氏作ってやるんだから!」

にこ「くノ一アイドル…!これはまた強烈なキャラが来たわね…。にこも負けてられないわ!」

凜「やる前からいろいろ負けてないかにゃー。キャラ以前に胸とか」

にこ「あんたに言われたくないわよ!」

いぶき(……なんてね)

希(なーんか企んでる顔しとるなぁ、あの子)

真姫「ん?」

いぶき「………」ジーーー

真姫「・ぇえ!?」ビクッ

いぶき「あんたが西木野真姫ねぇ」

真姫「ひ、人を睨み付けるなんて失礼な子ね!だったらなによ!」

いぶき「べっつにぃ~~」プイッ

真姫「(なんなのよあいつ…)」

いぶき(思ってたより大したことなさそうだなぁ。これは楽な仕事だね♪)

司会『五輪高校出身!名門空手道場「竜胆館(りんどうかん)」の家に生誕!中学生で黒帯を締め、高校生にして師範代を務める空手の申し子!
「スクールアイドル界に新風を!」と頼み込まれて仕方なく始めたそうですが始めて日は浅く、始めた理由も「道場の宣伝の為!それ以外に理由は無い!」と宣言しています!
しかし最早演武と呼ぶに相応しいパフォーマンスは男よりも男らしく、その勇ましさ・凛々しさからデビューしてすぐさま女性ファンの圧倒的な支持を得た超硬派空手アイドル!
彼女は空手家らしく実直で豪快な技の数々でK.O.の山を築いてきました!
今こそ伝統空手の強さと素晴らしさを見せる時!津村まこと選手です!!』

まこと「見とうせお父!うちらの道場、日本一にしてみせる!」

ギャラリー「キャーー!!まこと王子ーーーー!!」

希(王子って…)

いぶき「あんたまだ空手なんてやってたの?女の子が素手で相手をボコボコにしてたら男も寄り付かないでしょ。もっと行儀よくしなよ」

まこと「じゃかあしい!お行儀ええんは嫁入りん時だけで充分じゃ!
おんしこそ忍者言うてもぴょんぴょん跳ね回りゆうばぁか、そんなもん忍者やのうて曲芸師やが!」

いぶき「…曲芸師、ね。忍者の修行は嫌いだけどさ…。忍者そのものをコケにされるのは里のみんなをバカにされるみたいでムカつくんだよね…!」

まこと「じゃったらその曲芸で竜胆館空手を破ってみい!!」

いぶき「上等…!空手なんか忍術と比べたら子供の遊びだって教えてあげるよ!!」

穂乃果「な、なんか凄い火花が散ってるね…」ドキドキ

ことり「ちょ、ちょっと緊張するなぁ…」ドキドキ

海未「穂乃果、ことり。恐れる事はありません。昔、あなた達は恐れずに私に向かってきたではありませんか」

穂乃果「…そうだよね!むしろ怖がって力が出せなかったら相手に失礼だしね!」

ことり「…うん!怖い人でも拳を交えればみんな強敵(とも)だよね!」

海未「ええ、その通りです。どんな時でも恐れず・驕らず・諦めずですよ」

穂乃果・ことり「うん!」

司会『パシフィックハイスクール日本校出身!軍隊格闘術を修めるイギリス生まれの格闘少女!
驚異的な脚力による目にも止まらぬ高速パフォーマンスを得意とします!
闘いに於いてはその脚力を活かして立体的な戦闘で相手を翻弄!飛び交い突き刺すように一撃を加える様は正に「殺人蜂(キラービー)」!
さあ、その針の餌食になるのはいったい誰なのか!キャミィ・ホワイト選手です!!』

キャミィ「………」

絵里「表情が硬い…っていうか眉一つ動かさないわね」

希「『心ここに在らず』って感じやな」

にこ「あんな無愛想、アイドル失格ね!」

キャミィ「………」ジーーー

希「(ん?)」

キャミィ「………」プイッ

希(あっち向いた…。なんだったんや?)

キャミィ(あれが監視対象…。ウルフマン大佐の命令とはいえ、こんな大勢の前で見世物にならなければならないとはな…。でも…)

さくら「キャミィ!キャミィだよね!?」

キャミィ(さくらがここにいる事だけが嬉しい誤算、そして唯一の救いだ)

さくら「こんなところで会えるとは思わなかったよ!」

キャミィ「私もだ」

さくら(もしかして…この大会って任務で来てるの?)ボソボソ

キャミィ(ああ。表向きは…ア、アイドルとして…自分を売り込む為…という体裁だが…///)ボソボソ

さくら「キャミィも照れることあるんだーかわいー♪」

キャミィ「う、うるさい!///」

さくら(で、その任務って勝敗は関係あるの?)ボソボソ

キャミィ(いや、任務はあくまでも内部にいても怪しまれないように選手として潜入してこの大会を最後まで見届けるのが目的だ。それ以外は任務に支障をきたさなければ自由にしていいと言われている)ボソボソ

さくら「じゃあキャミィと当たっても思いっきり闘っていいんだね!やったぁ!!」

キャミィ「フッ、まるで私に勝つのが前提のように聞こえるぞ」

さくら「あ、ごめん!そんなつもりじゃ…」

キャミィ「冗談だ。私もお前と闘える機会を楽しみにしている」

さくら「うん!お互いがんばろうね!」

司会『さあ、ついに来ます!今大会の優勝最有力候補!
勇気を出して格闘技経験をリスペクトした途端、人気が爆発して予選を一位通過!本戦でも圧倒的なパフォーマンスを披露し、破竹の勢いで見事優勝!それによりアイドルという概念に新たな一石を投じた格闘アイドルの先駆け!!
当然ながらLoveAlive!も全員が予選通過!!
スクールアイドルの頂点!!UTX学園、A-RISEの登場です!!!!』

ワァァァァァ!!

μ's「………」

さくら「凄い声援だなぁ。やっぱりスクールアイドルの頂点は人気が違うね。でもストリートファイトなら負けないよ!」

いぶき「ふん!応援なんてストリートファイトに関係ないもんね!」

まこと「応援なぞ関係なか!最強は竜胆館空手じゃ!」

キャミィ「こ、これがアイドルチャンピオンのカリスマ…!」ガクガク

司会『素晴らしいプロポーションを持つゆるふわな癒し系アイドル!おっとりとした物腰から放たれるゆるい歌声は安らぎを与える子守唄!
大好きな祖父の母国の踊りをアレンジして編み出した格闘術は正に美技!
女王の一角として華麗なる舞闘で優雅に舞う姿をご覧あれ!優木あんじゅ選手です!!』

あんじゅ「今日も完全にフルハウス♪」

ワァァァァァ!!

司会『左目の泣きぼくろがチャームポイント!常に表情を崩さず冷静沈着なクールガールなれど、一度ステージに立てば視線は鋭く秘めたる熱情が爆発!
その熱情はストリートファイトでも健在!バリエーション豊富な技の数々で攻め立てて瞬く間に相手を打ち倒します!
絶え間無く流れる川の如き攻めで相手を押し流す女王の一角の姿を刮目せよ!統堂英玲奈選手です!!』

英玲奈「私達はもっと強くなるんだ。ストリートファイターとしても…スクールアイドルとしても!」

ワァァァァァ!!

司会『締めはやはりこの女性!!
スクールアイドルの女王はA-RISE!!それならばA-RISEのリーダーこそ女王の中の女王!!
彼女の放つオーラは目にする者を釘付けにし、否が応にも熱狂させます!!
「スクールアイドルの女王はストリートファイトでも女王である」とは本人の弁!!闘いに於いても彼女の一挙手一投足は熱く燃える魂を宿し、互いの身も心も完全燃焼させます!!
威風堂々!!鎧袖一触!!クイーンオブクイーンズたる所以を今こそ見せる時!!綺羅ツバサ選手です!!!!』

ツバサ「スクールアイドルでもストリートファイトでも私が最強よ!!!!」バァーーーーン

ワァァァァァァァァ!!!!

穂乃果「うわっ!」

ことり「きゃっ!」

海未「なんと…!」

花陽「うわぁ…!」

凜「にゃ!」

真姫「これは…!」

にこ「くっ、さすがね…!」

絵里「これが…A-RISEの綺羅ツバサ…!」

希「じ、地鳴りみたいな歓声や…!」

さくら「こ…これはちょっとびっくり…」

いぶき「な…なんだよこれ…」

まこと「ま…負けんぜよ…」

キャミィ「まるで…狂気…!」ガクガクガクガク

司会『以上16名!出場選手の紹介を終了致します!
では最後に主催者のケン・マスターズ氏のご挨拶です!!』

ケン『よう!盛り上がってるかい!!』

ワァァァァァァァァ!!!!

ケン『いい反応だねぇ!ありがとよ!!』

希(生で見てもやっぱりイケメンやなぁ。ファンが多いのも納得や)

ケン『もうみんな知ってるとは思うが、俺は昔日本で修行させてもらってたんだ。で、その時ずっと思ってたことがあってな』

花陽「きゃー!こっち向いてー!」

希(やっぱりファンやないか)

ケン『今では当たり前のようにそこらでストリートファイトが行われてるが、日本では危険だ野蛮だ迷惑だってイメージが強くて批判が多いせいでなかなか盛り上がらねえんだよな。だからそんなイメージに一発喝を入れたかったんだ。
そう思って格闘大会の提携先を探してたらたまたまA-RISEの優勝で賑わってたLoveLive!の運営会社が手を上げてくれたってわけさ。
スクールアイドルが格闘技に対する世間の認識を変えたって聞いた時はマジかよって驚いたが、同時にこれしか無いって直感した。
そして注目を集める為に欠かせないA-RISEにはUTX学園を通して出場を依頼したんだ』

希(なんだ…じゃあこの大会は…)

ケン『だが勘違いしないでくれ。これはA-RISEの宣伝の為じゃねえ。飽くまでもこれはストリートファイトだ。
ストリートファイトは誰にとっても平等だ。身分も資格も条件も関係なく身体一つありゃ誰だってやれるし、やりたけりゃ今日からでも始められる。
そして相手とぶつかり合うことで互いを高められるんだ。勝っても負けてもな。だからこそストリートファイトは面白いんだ。
それに本当はA-RISEだけは予選を免除しようって話も出てたんだが、「特別扱いはしないでくれ」ってリーダーの子から断られてな。要望通り三人には予選から参加してもらったってわけさ』

綺羅ツバサ「どんなジャンルでも最強の座は自分の手で勝ち取らなくちゃなんの価値もない!!!!当然のことよ!!!!」バァーーーーン

ケン『』ビクッ

希「(……かっこいいなぁ。疑った自分が恥ずかしいわ)」

ケン『ま、まあそういうわけだ。
じゃあこれで最後になるが…勝敗はもちろん大事だが、一番大事なのは「熱くなれる」かどうかだ。熱くなれれば必ずそれは自分の糧になる。
そしてやる奴らだけじゃねえ、見る奴らの魂にも炎が灯るような熱い闘いを期待してるぜ!!以上だ!!』

ワァァァァァァァァ!!!!

司会『ケン・マスターズ氏、ご挨拶ありがとうございました!以上で開会式を終了致します!
それでは試合開始までしばしお待ちください!選手退場!』

ワァァァァァァァァ!!!!

希(ああ…とうとう始まるんやな…)

本日はここまで!

忙しくて投下するの忘れてた…。
お詫びついでに貼り忘れてた画像を貼っておきます。

さくら
http://download4.getuploader.com/g/street_fighter/148/image.jpg

いぶき
http://download5.getuploader.com/g/street_fighter/144/image.jpg

まこと
http://download5.getuploader.com/g/street_fighter/145/image.jpg

キャミィ
http://download4.getuploader.com/g/street_fighter/149/image.jpg

司会『それではこれより一回戦第一試合の選手入場!…の前に試合形式とルールの説明をさせていただきます!』

司会『試合形式は至ってシンプルな一対一の制限時間30分一本勝負!16名によるトーナメント戦なので四回勝てば優勝!負けた選手はその場で終わりです!
試合場所は直径30mの円形の武舞台で、周りには非常に高い壁が設置されています!』

司会『ルールの方も非常にシンプル!
対戦相手のギブアップ、K.O.、武舞台以外の地面に身体を触れさせる、のいずれかで勝利!タイムアップの場合は判定員三人の多数決で勝者を決定します!』

司会『そして火器や刃物・金属製等殺傷力の高いものでなければ武器の使用も許可されています!もちろん試合前に健康診断やボディチェックを行いますので不正は見逃しません!』

司会『基本的にジャッジはいません!ですがダウンして一定時間経過した場合にはK.O.確認の為に判定員が上がり、選手の身が危険と判断された場合には割り込んで強制終了させていただきます!
万が一大怪我をしても世界トップクラスのメディカルチームによる迅速・万全・完璧な治療をお約束致します!』

司会『最後になりますが、試合の実況はわたくし司会、解説は全試合を通して固定の方と試合毎に変わるゲスト解説の三人でお送り致します!』

司会『では大変長らくお待たせ致しました!これより選手の入場です!』

司会『東の門より現れたのは…』

希「一番手か…。緊張するなぁ…」

司会『東條希選手だァァァァッ!!この暑い時期にとても長いマフラーを巻いての入場です!!そして西の門からは…』

絵里「ついてないわね。確率が高いとはいえ身内と当たるなんて…」

司会『絢瀬絵里選手だァァァァッ!!ぴっちりとしたレスリングスタイルの衣装が何とも言えない色気を漂わせています!!』

希「え、えりち!?」

絵里「μ'sの誰と当たるのも嫌だったけど…一番当たりたくないあなたと当たってしまうとはね」

希(……やっぱりこうなるか。こんな時に限って運が悪いなぁ。でも逆にえりちはラッキーやな)

司会『ちなみにこの大会は、サプライズマッチングとして一回戦の組み合わせは選手にも観客の皆さんにも試合開始まで伏せさせていただいております!』

希「ねえ、えりち」

絵里「なに?」

希「ウチ、練習ならまだしもえりちとこんな形で闘うなんて嫌や。それにウチはどうがんばってもどうせここ止まり。だったらえりちに無駄な体力使わせるよりウチがギブ…」

絵里「希!」

希「!?」ビクッ

絵里「…その先を言ったら許さないわよ」

希「ウ、ウチはえりちの…μ'sのみんなのためを思って…」

絵里「それなら尚更よ。身内同士の試合でギブアップなんてしたら八百長を疑われても仕方ないわ」

希「そんな…」

絵里「でもそれ以前に失礼だと思わないの?」

希「…失礼?」

絵里「この大会はスクールアイドルがよりステップアップするために鎬を削って懸命に闘う場所。予選通過者はその思いを背負っているのよ。
なのに最初から闘う気すらなく、ギブアップなんてしたらあなたに負けた人達の思いを踏みにじることになるんじゃない?」

希「…!!」

絵里「あなたの気持ち自体は嬉しくないわけじゃないけど…それはこの場では私だけじゃない、あなたに負けた人達を侮辱するに等しい行為よ」

希「………」

絵里「綺羅ツバサも言ってたじゃない!楽をして得た勝利なんて何の価値もないのよ!」

希(えりち…!)

絵里「やる前から諦めちゃダメよ!私や他の人のことを思うなら全力で闘って!」

希「……あーあ、恥ずかしいなぁ」

絵里「希!まだ分から…」

希「みんなのことを考えてたつもりでなんも考えてなかったんやな、ウチ」

絵里「希…!」

希「…ってことで前言撤回!思いっきりやるでー!」

絵里「…前みたいに寸止めも手加減もしないわよ」

希「はは…それはちょっと怖いなぁ…。でも簡単には負けへんよ!」

絵里「望むところよ!全力の私を見せてあげる!」

司会『両者なにやら言い合っていたようですが、解決したのか実に清々しい表情!普通なら身内同士だと互いにやりにくいものですが、この両選手ならばその心配もなさそうです!』

司会『ではここで解説の方々に両選手の見解と試合の見所をお伺いしましょう!固定解説はストリートファイターと格闘技トレーナーという二足の草鞋を履く火引 弾(ひびき だん)氏、ゲスト解説は「赤きサイクロン」の名で勇名を馳せるストリートファイターのヴィクトル・ザンギエフ氏、よろしくお願いします!』

ダン『おう!ダンでいいぜ!よろしくな!』

ザンギエフ『うむ、こちらこそよろしく』

司会『ではまず東條選手からです。
資料によりますと東條選手は我流でなおかつ格闘技を始めて間もないとのことですが、映像を見る限りでは合気道のような投げ技とマフラーを使用したリーチの長い打撃を中心とした、とても始めて間もないとは思えないバランスの良い格闘スタイルです』

ダン『たしかに近付けば投げ、離れればマフラーの餌食とバランスはいいな。だがあの嬢ちゃんはその二つに頼りすぎる傾向がある。しかも躱すのが苦手みたいだからそこを読まれて相手にハメられるとキツそうだな』

ザンギエフ『だがあの投げは不可思議かつ強力だ。それをちらつかせてプレッシャーを与えれば有利に立ち回り続けることも可能だろう。…並の選手ならばな』

司会『なるほど。つまりバランスは取れているが単調になりやすいので読まれやすいという欠点があり、それを補うためにも投げをちらつかせながら立ち回る必要があるということですね!ありがとうございました!』

司会『では次は絢瀬絵里選手です。
絢瀬選手はなんとロシア在住の頃にザンギエフ氏の弟子入りしていたそうですね!』

ザンギエフ『訳あってしばらくの間共に特訓していただけだ。師弟関係というほど深い関係ではない』

司会『そ、そうでしたか。失礼致しました。では気を取り直して…。
絢瀬選手はザンギエフ氏のプロレスではない独自の格闘スタイル…一般的には「ザンギエフ流格闘術」とも呼ばれるものを引き継いでいるそうですが、投げ技を多用する氏とは違って打撃技が中心ですね』

ザンギエフ『私の格闘スタイルは本来私のような鍛え抜かれた肉体による力業が中心。故にエリの体格では私と同じ立ち回りは不可能だ。
だから私は私の技だけでなくエリのバレエの経験を活かした技を授けたのだ』

司会『バレエの経験を活かした技ですか。予選で投げ技をほとんど使っていなかったのはそのような理由があったんですね』

ダン『だがそれは接近して始めて意味がある。相手を簡単には寄せ付けないあの嬢ちゃんの格闘スタイルとは相性が悪いぜ』

ザンギエフ『心配は無用だ。相性は悪いが対策はある。そしてエリにはそれを実行するだけの実力もある』

ダン『随分肩入れするねぇ。そんなんじゃ解説失格だぜ』

ザンギエフ『………』ゴゴゴゴゴ…

司会『!?』ビクッ

ダン『おお怖い怖い』

ザンギエフ『…私は事実を言っただけだ』

ダン『そういうことにしとくか。怒らせちまって悪かったな』

ザンギエフ『………』

司会『で、では最後にこの試合の見所をお願いします!』

ダン『あの嬢ちゃんはとにかくザンギエフの弟子を接近させないで距離を保てるか。そして近寄られた時に相手のペースに巻き込まれずに対処できるか、だな』

ザンギエフ『逆にエリはいかにして接近するか。あの攻撃を凌ぐのは難しいが、接近さえできれば必勝パターンで押し切ることもできよう』

司会『解説の御二方、ありがとうございました!では間もなく試合開始です!』

希(不思議ね。今からえりちと殴り合うっていうのにとても落ち着いてる。まるで昔からこういうことをやり慣れてるような…。
もしかして私…μ'sのみんなに教えてもらった以外のストリートファイトのことを知ってる?)

☆☆希と格闘技 2☆☆
絵里「ストリートファイトっていうのはさっき希が言った通り路上のケンカが起源なの」

希「ふむふむ」

絵里「昔にギャング集団が暴れ回っていたとある都市を救った闘う市長が、ギャング集団壊滅後も減らない暴力事件を何とかして減らそうと考え付いたのがストリートファイトの原型である路上の賭け試合よ」

希「賭け試合ねえ…」

絵里「これが成功してだんだんと腕に覚えのある者が参加するようになってからは規模が大きくなったわ。
すると今度は賭けないで純粋に観戦する形式が増えて、今では主に異種格闘技戦全般のことを指すようになったの」

希「異種格闘技戦かぁ。それはたしかに盛り上がりそうやな」

にこ「今でも街の一角を使って大々的やることはあるけど、毎回家とか周囲の被害が大きくて苦情が相次ぐようになってからはその形式は日本では少なくなってきてるわ。
まあ、闘いたいだけ闘って表彰も賞金も受け取らないで消えたり、路地裏なんかで強い人をひたすら待って非公式のストリートファイトをやりたがる地位も名誉もお金もいらないって物好きな人とかもいっぱいいるみたいだけどね」

希「ストリートファイターも色々いるんやなー」

絵里「(本当に何も覚えてないのね…)」ジーーー

希「ん?」

絵里「…あとこれは重要よ。ストリートファイトはレギュレーションによっては武器の使用も認められているわ」

希「ぶ、武器!?」

絵里「もちろん公式では刃物みたいな殺傷力の高いものは禁止だけどね」

海未「ちなみに私はこの扇子を使います」バラッ

真姫「見ても触っても何の変哲もないただの扇子ね。武器になるの?」

海未「要は使い方ですよ」

真姫「…そう。それは気になるわね」

絵里「…とまあ、この程度なら今回のレギュレーションでは全く問題なしよ」

にこ「これはストリートファイトがもともと格闘技の種類もルールも無いケンカだった名残りね」

希「へぇ。そんなことになっとるんやー。ウチ、ストリートファイトに関してのことがすっぽりと頭から抜けとるんやな」

穂乃果「………」

☆☆希と格闘技2 END☆☆

希(…今は余計なことを考える余裕はない。試合に集中…!)

司会『それではROUND 1!!ファ…』

穂乃果『FIGHTだよ!!』

ダン『どこから入ってきたお前』

希(さて、えりちに組み付かれると厄介や。なら…)シュルッ グルグル

絵里「させないわ!」タタタタッ

希「!」バッ

絵里「フッ!」タンッ

ズドン!

希「きゃあっ!」ドンッ ゴロゴロゴロ

絵里「…とんでもないわね、そのマフラー」

希「はは…この状況じゃ皮肉にしか聞こえんわ…」グッ

司会『開始早々に派手な攻防です!
東條選手が右腕にマフラーを巻き付けている最中に絢瀬選手が猛然とダッシュ!それに慌てて距離を取ろうとした東條選手に対して勢いよくドロップキックで飛び込み、防御ごと吹き飛ばしました!
しかし東條選手は飛んで転がりはしたものの大したダメージは受けていない模様です!』

ダン『さすがザンギエフの弟子だな。走りながらのドロップキック自体は難しくねえが、相手が動いてるに当てるとなると難易度は跳ね上がる。それを防御ごと吹き飛ばす威力でとは…』

ザンギエフ『しかしあの程度しか効かんとはノゾミ選手の防御力も大したものだ。あのマフラーは攻撃だけでなく防御にも使えるのだな。腕に巻いたのは伸ばしやすくする為だけでなく、あのように防御する為だったのか』

ダン『マフラー自体はただの布だが…ありゃあ「気」みたいなのを通してるな。あの年で、しかも格闘歴が短いのにあんな芸当ができるなんて格闘技の才能があるな』

ザンギエフ『才能の話は同意だが「みたいなの」とはどういう意味だ?あれは「気」ではないとでも言うのか?』

ダン『…さあな』

ザンギエフ『………』

希(あんなキックをマフラー以外の部分で喰らったらやばそうやな。もっと警戒せんと…)

絵里「あれだけで怖気付いたの?来ないならまた私から行くわよ!」タタタタッ

希「今度はこっちの番や!」ピュンッ

絵里「!!」サッ

希「そらそらそらそら!」バババババッ

ビシッ

絵里「痛っ!」

希「まだまだまだまだぁ!」バババババッ

ビシビシビシビシビシビシ

絵里「きゃあぁぁぁぁ!」

希「はあっ!」ズビシッ

絵里「うぐっ!」ドサッ

司会『再び攻勢に出た絢瀬選手でしたが、東條選手のマフラー攻撃によって阻まれました!怒涛の連撃を途中までは捌いていたものの、捌き切れなくなった一撃目を皮切りに連続で被弾してまいこの試合初のダウーーン!』

希「はあ、はあ…。(さすがにこれだけ長い時間この技使うのはめっちゃ疲れるわ…)」

ムクッ

希「…ホントは追い打ちしたかったんやけどなぁ…」

絵里「…その技は不慣れなようね…。おかけで助かったわ…」

希(いきなりばれちゃったか…。もうこれはうかつに使えへんな)

絵里「今度はこっちの番よ」タッタッタッタッ

希(また正面から突っ込んできた!今度は遅いけど走り方のリズムが全然違う…。だったらそのリズムを崩す!)ヒュン

絵里「はっ!」キュルルルル

希「!?」

絵里「やあっ!」ボッ

希「うわっ!」サッ

スカッ

絵里「ちっ…」スタッ

希(あ、危なかった…。蹴りを警戒してなきゃまともに喰らってたわ…)

司会『足元を払った東條選手の攻撃を絢瀬選手は回転しながら前方に跳んで回避!同時にその回転力を乗せた回し蹴りを繰り出しましたが、東條選手はこれを警戒していたのか意外にもあっさりと回避しました!』

ダン『これがバレエの経験を活かした技か。当たれば流れを持っていけそうだが…』

ザンギエフ『実際には動作が大きいので警戒されると当てるのは難しいのが欠点だが、エリはそれを持ち前の反応速度と瞬発力で補っている。故に僅かでも警戒を怠れば動きが機敏とは言えないノゾミ選手は喰らってしまう可能性が高い』

絵里(このままじゃいつまで経っても終わらないわ。だったら…!)スタスタ

希「!?」

司会『おおーっと!絢瀬選手、ノーガードで東條選手へ向かって歩き始めました!これには東條選手も戸惑いを隠せません!』

希(罠!?この距離ならマフラーで一方的に攻撃できるけど…)

絵里「どうしたの?」スタスタ

希(でも攻撃しなきゃ接近戦になって不利になる…。どうすれば…)

絵里「ほら、チャンスよ?」スタスタ

希「(ええい!難しく考えるのはやめや!今度はリーチを長くして面積を広げて確実にでっかいのを当てる!)はあああ…!」ポウッ

絵里「(マフラーが淡い虹色に光った!?来る…!)」ポウッ

希「喰らえぇぇぇぇ!!」ビュオッ

絵里「(ここだ!)バニシングフラット!!!」ブオンッ

バシーーン

希「!?」グラッ

絵里(勝機!!)ダッ

ガシッ

希「しまっ…」

絵里「フン!!」ドガッ

希「がっ…!」

絵里「おりゃあぁぁぁぁ!!」バンッ

ヒューン ドゴォォォォン

絵里「………」スタッ

希「………」パタッ

司会『決まったーーーー!!あれはバックドロップからその勢いを利用して跳び上がり、空中スープレックスで相手を頭から地面へ叩き落とすザンギエフ氏の得意技の一つ「アトミックスープレックス」だぁぁぁぁ!!
東條選手、地面に突き刺さった後に力無く倒れてしまいました!!絢瀬選手がたった一つの技で戦局を制したぁぁぁぁ!!!!』

ダン『あの嬢ちゃんは絵里に組み付かれるのを嫌がっていた。絵里はそれを見越して嬢ちゃんの全力のマフラー攻撃を誘って受け流すことで体勢を崩して決め技へ持っていったってワケだな』

ザンギエフ『(ダン君…。急にエリを名前で…)
マフラーを受け流したあの技は「バニシングフラット」。手の平に気の膜を張って振り抜くことで攻撃を弾く技だ。本来は波動け…飛び道具対策として私が編み出したのだがな。
それを防御と崩しを同時に熟す為に使うとは…。そこまでの応用は教えていなかったんだが、どうやら自分で身に付けたようだな』

ダン『しかしまあ、受け身も取れねえ上にあれだけの威力だ。確認するまでもなく終わりだな』

絵里(ふう…。完璧な崩しからのやりやすい状態だったけど…相変わらず負担の大きい技ね…。ああいう大技はできてあと一・二回。これで終わってよかったわ。
悪かったわね、希。私はあなたを乗り越えて先へ行くわ)

司会『東條選手、全く動きません。これは決着したのでしょうか。
ではただいま判定員によりK.O.確認が行わ…』

希「………」ムクッ

絵里「え…」

ダン『なに!?』

ザンギエフ『…ほう』

司会『な…なんと東條選手、立ち上がりました!なんというタフネス!』

希「う、うそでしょ!?」

希「………」

絵里(…何か様子が変ね。まさか…)

司会『何やら東條選手の様子が…。もしや…』

ダン『ありゃあ気絶したまんま立ち上がったな』

ザンギエフ『諦めない心が意識を失った身体を動かすことがある。だが私が知る限りではそれは一流の格闘家の中で稀に見る程度だ』

司会『な、なんという根性!なんという闘志!東條選手の諦めない心が一流の格闘家にしか起こり得ない奇跡を起こしたのです!』

ダン『だがそういう場合はどうしても起きてる時より動きも反応も鈍くなる。加えて嬢ちゃんはあの投げでひでえダメージを受けて本来なら気絶してなくたって立ってるのも辛いはずだ。
多分あと一撃でもまともに喰らえば終わり。つまり嬢ちゃんの勝ち目はほぼゼロってことだな』

司会『厳しい指摘ですね。奇跡を起こした東條選手ももはやここまでなのでしょうか』

ザンギエフ『いや、ストリートファイトは最後の一瞬まで何が起こるか分からない。ダン君も「ほぼゼロ」とは言ったが「完全にゼロ」とは言っていないだろう?もう一度奇跡が起これば勝てるかもしれんということだ』

ダン『………』

司会『……世の中何事も「諦めなければ可能性は決してゼロにはならない」と言います。東條選手、二度目の奇跡を起こせるか!いよいよ最終局面です!』

本日はここまで!
3日以内にはもう一度投下します。

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