ある時――
場所を問わず、十数名の人間に力が与えられた。
ご丁寧に神自ら聞いてまわったそうな。
男「これは……夢か?」
男(驚いた、明晰夢って奴は始めてだ)
神「私が知覚させたのだ」
男「!」
男の脳に、知らない情報――つまり目の前のキラキラ野郎が『神』だという事、
そしてその神が『させようとしてる事』――が、流し込まれた。
神「さて……貴様はどんな能力が欲しい?」
男「フフフ……俺はこーゆー厨ニ的な展開を待っていたッ!」
男「まさかこの世に神がいたとは――、そして俺に能力を与えてくれるなんて、妄想通りの展開が――」
神「…………」
男「俺が欲しいのは……」
男「『干渉能力』だっ!!」
神「よかろう――」
意識が暗転する……
ビリリリリリリ!
けたたましい目覚まし時計のアラームが鳴り響いた。
男の意識は夢の中で暗転した直後――そこから鮮明に繋がり、覚醒する。
男「っ!!」バッ
立ち上がった男は高らかに叫んだ。
男「最ッ高にハイッて奴だァー!!」
男「ハッハッハァー!」
大声を出したところで苦情をだすのは見た事も無い隣人だけだ。
男「――さて…」
男「さっそく試してみるか! 『干渉力』!」グッ
力の波動を感じる……
男「ムッ!?」カカッ
見開かれる男の両眼。
男「でやぁっ!」
直行する先は――トイレ!
男「ぬふぅ……」
快便!
男「これで俺は今日……『大便をする事は無いッ』多分っ!」
いつウンコの便意に悩まされるか……その恐怖は取り除かれた!
フキフキ
男「いい調子だ……ククク……これからはこうするか」
男(自分に対しての干渉ならすぐにでもできるようだな……)
男「分かったぜ? この能力の"コツ"!」
男(それは、『知ること』だ! 干渉する対象……その状態や詳細を、『知る』必要がある!)
男「だから自分にはすぐ能力を使えたって訳だ……自分の事はよく『分かっている』からな」
男「さて……」チラ
時計を見る男。
男「このままでは学校に遅刻するな……」フッ
男「なに、心配する事は無い……、俺には干渉力がある!」バババッ
男「ザ・ワールド! 時よ止まれィ!」
シーン…
男「無理か……。急げ急げっ!」バタバタ!
―
学校正門前―
男「おっ? よぅ友!」
友「ん? おぉ男……おはよう」
男「なぁ友よ。いいモン見せてやるよ……」
友「?」
男「ズァオ!!!1」クンッ!
友「……は? ナッパ?」
男(無理か……まだ風を『知って』いないからな……)
男「無理か……」
友「てか、ここいら一帯、消し飛ばすつもりかよ?」
男「いや……、気で女の子のスカートをズァオるつもりだったんだが……」
友「ははは(嘲笑」
授業中――
男「……!」
教師(なんだ? 男の奴……今日はやけに真面目だな……)
男(消しゴムよ動けぇぇ……!)ギリリ
………、
男(いや、力んでも駄目だ、消しゴムを動かす為の要因を……『重要なファクター』を理解するんだ!)
男(だが高校生に分かる事なんて……)
…コト
男(いけた!? ……重力を反して風であおる……一気に二つを学習するとは、やはり天才ッ!)
男は学校から帰ってからも……
否、全ての時間を能力の修練に費やした。
男(まず、風だ……。風を操るにはまず、風に含まれる成分を理解し、何故風が生じるのか理解しなきゃならん)
男(そして他の能力者が俺の前に現れる前に、なんとか攻撃方法を確立しないと!)
例えば相手が火炎を操る能力を神から手に入れたとしよう。
男がその火炎を防ぐには、風を操る事が一番簡単な方法だ。
火がこちらに届く前に風で流す……、干渉力は全ての行動が対象への干渉から始まる為……
男(この能力は使用難易度が高い!)
別に相手が火炎でなく水や雷など……それ以外を操る能力者でも"風"は約に立つ。
風を使った運動能力の増強、それが狙いなのだ。
そして風こそ干渉力において最も操りやすい対象なのだ。
どこでも生み出せ、常に何かが変化している訳でもない。
男(このバトルロワイアルの景品は能力を一生使用できる様になる事!)
男(負ければ能力を失い、バトルロワイアルが終了しても能力が無くなる……)
男「風で背を押すと歩くのが楽でいいな」
ザンッ
女「あんた、能力者?」
男(むっ……)ピタッ
女「その様ね……馬鹿じゃないの? …見たところ風を操る能力みたいだけど、安易に正体をバラす真似なんかして」
男「……そうかな?」
女「そうよ。はい一人目しゅーりょー」
「…………」ブンッ
見知らぬ男が背後から鈍器で殴りかかる!
男「!」ブワッ
襲い掛かってきた男は、突風に煽られて後ろ向きに倒れる。
女「!!」
男「餌撒いてただけだって」
女「この……!」
物陰から凶器を持った男が二人現れる。
ナイフ男「……」
バット男「……」
女「私の能力は『人を操る能力』よ!! この力で私はお金持ちになるの、まだまだ偉くなるの!」
双方から襲い掛かる凶刃を、男は飛んで躱した。
風の煽りを受けて数メートル飛び上がった男は、空中で突風を受け滑空する。
男「そ~らは広いな飛~びた~いなぁ」
女「!!」
男「はいっ! 飛び蹴り~♪」バキャッ!
女「おげぇぇ!」ズッシャァァ
女を蹴り飛ばして着地した男に、最初に殴りかかってきた男がもう一度攻撃を仕掛ける!
男「チッ」
跳んで男は避ける。
男「しぶとい奴だ」
女「あががが……」ボタボタ
女は折れた鼻をおさえながら、鬼の形相で男を睨む。
男「……」
女「い、行けぇぇ! あいつを殺せぇぇ!」
ナイフ男が突撃する。
ドスッ
男(なるほど……干渉する対象を学習するにも色々『やり方』があるのか……)
女「おげ……」ビシャビシャ
男(相手の能力に『乗る』感じで干渉対象の状態を『学習』すれば、なるほど掴みやすい)
女「な、なんで……?」
男(貴様の『人を操る能力』だったか……)
女「……」ドサッ
男(『学習』したぞ)ドンッ!
女「 」ピクピク
男「神様もウォーミングアップの機会をくれるなんて、親切じゃぁないか」
ナイフ男「あ、あれ。……俺、何して……!?」
バット男「お、お前……」
ナイフ男「ち、違う! おぉ、俺じゃないぃ!」
男「フッ……」
一人目、脱落。
それから数日……男が能力を手に入れてから二週間が経った。
男(整理しよう。自分の能力を知る必要がある)
男(まず、俺の能力は干渉対象を『学習』する……もはや十八番の風ならその日で違う"湿度"やら、"気温"やら…"酸素、窒素"などの成分の調査だ)
男(これらは『肌』や『五感』なんかで『感知』して、脳でそれらにどう『変化』を与えれば風が生まれるか、計算する)
男(『変化』させる為に必要な力……つまり俺の『干渉力』だが、神から力を与えられた時、どうやら……安直だがよくゲームにでてくる『マジックパワー』も与えられたようだ)
男(この『マジックパワー』に相当する"何らかの力"が能力者の能力の、全ての源だ……)
男("操り女"の能力を『操られていた奴等』を伝って間接的に干渉解析した時に、この『マジックパワー』に気付いた)
男(そして……『学習』後、『マジックパワー』を使って物体に『干渉』し……何らかの現象を引き起こす)
男(それが俺の力か。後は慣れだ、今やもう風をある程度自在に操れるように、干渉を繰り返せばそれだけ多種多様な物に干渉できる!)
男(恐らく他の能力者は能力を使う時、『無意識』にこの『干渉』を行い、能力を発動している……)
男(言い換えればこの『干渉能力』は、『無意識』の行動を『意識的』に行う事で……ククク)
男(全ての『能力』を使えるのだ! まぁそれにはまず学習が必要だが……)
男(そしてこの整理にも意味は合った……)
―正門前
男「見てろ友……」クンッ!
ズァオ!!
「「「キャアアアアアアア!!」」」
友「うぁぁ!!」ギョッ
男(ベネ! 一遍に干渉できる範囲が広がったぞ!)
友「おま……サイヤ人だったのか……!」
男「まぁな。俺が超男だ……」
男(そしてこの行動にも意味がある。俺は自分が能力者だという事を隠したりはしない)
男(かかってくるがいい雑魚共、蹴散らしてやる)
―
それから数日が経った……
男がいる町のとある一角
ドシャッ
ぼっち「が……ぁぁ……」
不良「はは、馬鹿な奴だなぁ。見たか? こいつの能力」
オタク「剣をだす能力……」
不良「漫画の読みすぎじゃねぇ? 力使いきれてねぇじゃねぇかよ!」ゲラゲラ
不良「こういうのはシンプルな方がつえーんだよ、ホレ」
不良はぼっちに手を向ける。
一瞬後ぼっちは消えていた、半球型に空いた地面の窪みと共に。
不良「『なんでも消せる能力』! そんでお前は『妄想を現実化する力』。俺達が組みゃ敵無しだ、だろ?」
オタク「う、うん……」
不良はオタクから顔を背けると、密かに笑った。
不良(馬ァァ鹿! 最後までいいように利用して殺してやるよ! 豚ァ!)
オタク「で、ど…どうする」
不良「ア? 何がだよ」
オタク「あ、あいつ……殺しちゃったんだし……」
不良「馬ァ鹿、ほっとけよ。どうせ消えてんだ、バレるわきゃねぇ」
オタク「わ、分かった……」
不良(チッ、ウゼェな……。利用価値が無かったらソッコーぶっ殺してるぜ)
不良(まぁこの戦いが終わったらどうせ死んでるけどなw そんで、能力使いほーだいになったらウゼェ奴全員消してやる)
不良(そしたら俺が一番偉くなる……総理や大統領なんか目じゃねぇぜ!?)
不良「ギャハハハハッ!」
―
友「なぁ男。また行方不明事件が起こったんだってよ、しかもこの近くでだ、怖ぇよな」
男「怖いな」
男(能力者か……)
確かに最近朝のテレビニュースでは行方不明事件多発に対する警戒の注意が叫ばれている。
男「これで何人目だっけ?」
友「えっ? …確か、10人は越してたぜ。しかも学生ばかり……」
男(恐らく『能力持ち』はあまり頭が良くないな……。手当たり次第に能力で殺人を犯したら、いくらなんでも足が付く)
学校は終わり、ネットカフェの個室内……。
男(足がつく……)カタカタッ
『東中の生徒、行方不明六人目!』
男(警察にも……俺にも!)ターンッ!
『警察は東中の付近から捜査を進めている』
男「……」ガタッ
男(まぁ……先手をうてるに越した事は無い)
―
東中近辺―
男(いた)
警察「――…」
男(聴き込みをしてるのか……しかし二人組か)チラッ
女の子「……」テクテク
男「……すいません、ちょっといいかな?」
~
女の子「あの……」
警部「ん? どうしたのかな? ……もしかして事件に心当たりでも?」
女の子「い、いえ……その」
警察「なんですか?」
女の子「漏らし、ちゃって……」
警部・警察「…………」
女の子「助けてください……」
警部「君……助けてあげなさい」
警察「は、はい。……じゃあとりあえず代えの服を……」
男(よし、分かれたな。あの警官が今能力にかけ操った女とすれ違ったとき、目で追っていたのは幸運だった)
男(女、貴様は誘惑でもなんでもしてその警官を足止めしていろ。その間に俺が……)ザッ
警部「ん? ……どうかした?」
男「なに……ただ俺の質問に答えればいい」
―
その頃……
不良「へっ、俺に逆らうからこーなんだよ」
オタク「能力を使いすぎじゃないの……?」
不良「ア?! なんか文句あんのかよ!?」
オタク「で、でも……ニュースにもでてたし……」
不良「うるせぇ! それよりオタク! お前もっといいモン出せねーのかよ! 今んとこ使えるのバットくらいじゃねーか!」
オタク「ご、ごめん! ……中々能力を使うの……難しくて……」
不良「……まぁ、俺も最初は『消す』までラグがあったからな……。だけど頑張れよ? 使えねーやつと組んでる気はねーからな」
オタク「……」
オタク(うるせぇよ……、俺だって出せるようになりたいよ! ……『妄想が現実になる』って言うから、この能力にしたのに……)
オタク(なのはもシャナも出てこねーじゃねぇか!! ……ふざけんなよ。練習しないと出せない物あるとか……詐欺じゃねーか……)
不良「じゃあ今日は解散だ。またなんかあったら呼ぶから」
オタク「あ、あぁ……」
オタク(はぁ……帰ってシコって寝よ……)
更に数日が経った……
ピリリリ!
男(メールか……)パカッ
メールはあの警部からの物だった。
男(なに……犯人候補がでただと? ……東中の不良って奴か、協力者にオタク……。警察も中々優秀じゃないか)パタン
男(送信メールを削除させて……やっと『操り』を解けるな。無意識じゃない分すごく疲れる……。脳が分かれた気分だ)
男(……能力解除。この力も大分操れてきたな……)
男(あの女が使っていた時はまるでデクの様になっていたが、今じゃ会話もできるし意識も保たせられる)
男(『死』や『死ぬ程拒絶する事』なんかの強制はまだできないが……中々強力な力になったじゃないか)
男(風、操り、……それに切り札もある)
男「殺しに行くか」
―
東中―
下校時刻。
男「……」
生徒の波が過ぎた頃……
オタク「……」トボトボ
男(あいつか……)
男「こんにちは」ズイッ
オタク「!? …な、なんだよ……誰だよ?」
男「君、利き手はどっち?」
オタク「右だけど……」
男「……」ニコ
男「不良クンはまだ中にいるのかな?」
オタク「!?」
オタク(俺が不良と組んでる事を知ってる奴はいない……!)
オタク(警察……じゃないな、同年代くらいだ! ――てことは!)
~
不良『いいかオタク……町にでてる時とか、俺の事を聞かれたら気をつけろ』
オタク『な、なんで?』
不良『俺を狙ってる奴に違いないからだ。敵校のヤンキーか……、運が悪けりゃ……』
~
オタク(能力者だ! 最後の不良を狙ってるヤンキーは……この前死んだから……!)ダッ
男「! ……くっくっ」
オタク(不良に知らせなきゃ……! 殺される!)
―
不良「あー……先輩の女、いい女スねー」パコパコ
不良先輩「……」
不良「まぁ俺の言う事聞いてる内は可愛がってあげまスよ。俺も鬼じゃないんでw」
バンッ!
オタク「ふ、不良!! 大変だ!!」
不良「ア?」
オタク「敵が……! 能力者が来たんだ!!」
不良「ハァ!?」
ズズン!
オタク「!?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ…
不良「地震……?!」
三階空き教室の上、屋上に男はいた。
男(重力だ。……まだこいつは自分の周囲にしかだせないが……)
男(重力を『外す』そして『増す』、無重力と重力が増加した状態を一瞬の内に連続で繰り返し、擬似的な地震を引き起こしているのだ)
男「潰れや」
―
崩落してきた天井を見て、不良達は目を剥いた。
不良「なっ……!」
オタク「う、うわぁぁ!」
ドシャァァッ!
屋上にできた穴の縁から男は下を覗いていた。
男「……」
瓦礫の一部に円状の穴が空き、下から不良とオタクが現れる。
不良「大丈夫か! オタク!」
男(! ……どんな力だ? あれは……!)ニヤ
オタク「あ……足が……」ズキズキ
不良「ア!? 挟まったのかよ!?」
オタク「く、くじいた……」
不良「…チッ! 我慢しろ!」バッ
男「……」
不良「……イカれたジャンキー野郎が」
オタク「!?」ゾクッ
男「酷いなぁ」ニタニタ
不良「んな顔してる奴は大抵ジャンキーなんだよ」
男「心外だな。……ただ、楽しいだけなのに」ニヤッ
不良「死ね糞野郎ォ!」バッ
男(力の線が迫ってくる……?)ヒュッ
不良「躱しやがった!」
男「なるほど、なるほど……。そのよく分からん消滅攻撃、まず能力の波動を圧縮した『線』で、発動地点を特定してるんだな?」
不良「は?」
オタク「……?」
男「つまり……」ハシッ
不良「くたばれぇ!」バッ
男「狙った物に向けた線に、異物が触れれば……」ポイッ
男が自分と不良の間に投げた小さな瓦礫が消滅し、不良の能力は遮られる。
不良「なっ……」
男「なんだ……酷い弱点だな」
オタク「そんな……」
男「もっと難問を解いた時の様な感覚を味あわせてきれよ、不良クン。それともそれが全力か?」
不良「なめんなぁ!」
>>41
男「味あわせてきれよ」×
男「味あわせてくれよ」○
指が……。
休憩しま候。
男は素早く不良の放った『線』から逃れる。
男「そして攻撃範囲は線を中心に、たった半径1メートルの球状か……」
男「弱いな」
不良「――ッ」ブツッ
不良「なめんなぁぁ!」
男「!」
男の周囲が数箇所同時に、更に不規則に消えていく。
男(的を絞っていただけか! ……少なくとも同時に三箇所、消滅させる事ができる……!)
不良「このまま消してやる!」
男「……っ」
男は一旦風を使って一気にその場から離れる。
屋上の床を穴が食い潰していく様子を遠くから見据える。
男(厄介な奴だな……)
しばらくして攻撃は止んだ。
不良「ハー…ハー……」
オタク「し……死んだかな?」
不良「お前……、見てこい」
オタク「えぇっ!?」
不良「うるせぇ! さっさと行け! お前も消すぞ!!」
オタク「うっ……分かったよ……」
オタク「…………」
校内は不良の消滅能力で半分崩壊していた。
オタク(やばいって……これ……)
瓦礫だらけの廊下を歩いて行くと、床に転がったドロりとした赤い物が目に入る。
オタク(!? ……内の学校の制服……巻き込まれたのか……っ)
ウー…
オタク(サイレンの音!?)
不良「おいっ! 何ぐずぐずしてやがるぅ!」
オタク「!!」
不良「警察だ! 早くあいつを探せ!!」
オタク「に、逃げたほうがよくないか……?」
不良「うるせぇ!! 散々馬鹿にしやがってあの野郎……、ぶっ殺してやらねぇと気がすまねぇんだよ!」
オタク(馬鹿かコイツっ、これが自分の仕業だって……警察にバレたらお終いなんだぞ……!)
不良「どこ行きやがった……!」
~
男(線がバラけるとなると……さすがにさっきの戦法じゃ駄目だな)
ウー…
男(……時間はなさそうだ。さすがに警察の前じゃ殺しなんてできない)
男(『操り』で記憶を消す事もできるが……さすがに数が多すぎだな……)
<オマエハアッチヲサガセ!
男(つまり……後数分で『片付ける』のが、ベスト!)
~
不良「どこだコラ! 出てこい!!」
男「……」スッ…
不良「ア? ……なんだ、とうとう観念したかよ」
男「ああ……、とりあえず、今日はオタククンの方は諦めるよ」
不良「は? 何言ってんだ……? 死ね」バッ
男(『マジックパワー』的な力を、周囲に放出するイメージか……?)ググッ
不良の攻撃はまったく的外れな場所を破壊する。
不良「は……?」
男「今度はこっちの番だな」
ドゴッ
不良「うげ……?」
不良は自分の体に衝突した物体を見る。
それは瓦礫だった。
男「お前のお陰で弾は有り余ってる」ビッ
不良「痛っ!」
不良(さっきから力が効かねぇ! 変な方向にとびやがる!)
男(勝ったな……。相手が力の『波』を攻撃の手がかりにしてるなら、同一の『波』でそいつを乱してやればいいだけか……)
不良「クソッ!」クルッ
不良は背を向けると、一目散に逃走を開始する。
男(……馬鹿と思ったが、なかなか賢いじゃないか)スッ
不良「いぎっ!?」
瓦礫が不良の片足に直撃する。
不良「お、オタク! どこにいやがるっ!」ヒョコッヒョコッ
~
<オタク! ドコニイヤガルッ!
オタク「!!」ダッ
不良「おっ! 武器だせ! 早くしろっ!」
オタクが駆け付けた場所は、ちょうど男と不良の間だった。
オタク「!?」
オタクは瞬時に状況を理解すると、武器――拳銃――を創りだし、それを"利き手"で掴んだ。
不良「銃かっ! よし! それをこっちに渡せオタク!」
オタク「お、おぅ――」
男「それをこっちに渡すんだ、オタククン」
不良「はっ?」
銃が投げ渡される。
そしてそれは、放物線を描いて男の手に収まった。
男「くっくっ」
不良「はぁぁぁ!? おま……ッ、何やってんだよ!!」
オタク「ち、違……手が勝手に!」
パン!
不良「――」ドタッ
オタク「あ……」
男「そろそろ警察が来る。提案があるんだ、俺に協力しないか? そうすれば君を殺さないですむよ」チャキッ
オタク「……」
―
その後警察が半壊した東中を調べたが、瓦礫に埋もれた生徒しか見つからず、半壊した原因は特定できなかった。
―尚、発砲音を聞いた警官がいたが、銃を使った痕跡等は一人の少年の死因を除いて発見されなかったという。
三人目脱落。
――
数週間後……
男「おはよう、友」
友「あ、おう。……なんかお前、雰囲気変わった?」
男「そうか?」
友「なんつーか……、前より落ち着いたっつーか……」
男「それより友、お前彼女できたんだって? おめでとう」
友「はっ!? なんで知ってんだ!?」
男「イケメンが言いふらしてたぞ、皆で祝福しよう~…なんつってな」
友「おぃぃぃ!!」
男「他の学校の子で可愛いそうじゃないか、良かったな」
友「あ、あぁ……ありがとう」
男「……」
友「すまん……俺先に行ってイケメンにちょっと話してくるわ、じゃ」
男「あぁ」
男「……」
―
一週間前――
変人「ヒャハハハハハァ!」
路地裏で友は、変な男に追われていた。
友「う、うわああああ!」
友(な、なんだあいつ……!? 頭おかしいって!)
変人「までぇぇぇ! き、切らぜろぉぉぉ!!」
変人は大きな剪定ハサミを振り回し、友に迫る。
友(い、行き止まり!? やべぇ!!)
ジリッ…
変人「今日のでぃなーば……お前だ!!」
友「ヒィィ…」
?「そこまでです!」
突然割って入った声に変人は動きを止めた。
?「とうっ! ……しゅたっ!」
少女「悪者め! その人から離れなさい!」ビシッ
友(な、なんだ……ふりふりの服着た女の子が……)
変人「あ、あばばばばば……」
変人「あびゃあっ!」バビューン!
友「危ない!!」
少女「ちぇいさぁー!」バキッ
少女の華麗な蹴りが変人の顎を捉える。
変人はそのまま飛び上がって墜落し、気絶した。
友「……」
少女「――っとぉ、大丈夫でしたか?」ニコッ
友「! あ、あぁ……君、すごいね。強いんだ……」
少女「『悪者限定ですけどね!』……むむ?」ズズィッ
友「えっ!? な、なにかな……?」ドッキドッキ
少女「あなたから悪者の臭いが……いえ、『残り香』がした気がしたので……。近くに悪人はいませんか?」
友「え? いや……いないと思うけど……」
少女(悪者センサーにビビビッときました!)キュピーン!
少女(きっとこの人の近くでとんでもない『悪意』を持った人が息を潜めているに違い有りません!)ジー
友「……?」
少女(私がお守りしなくては!!)
少女「私、少女といいます! あなたのお名前教えていただけますか?」
友「と、友……だけど」
少女「それじゃー安心してください友さんっ!」エッヘン
少女「私があなたを悪の手から守りますっ!」
友「は、はい……?」
少女「私に任せてもらえれば絶対安心です!」
友「は、はぁ……」
少女「……」ニコー
友「じゃあさ……質問いいかな?」
少女「はいっ! なんでもどうぞ!」
友「そのふりふりの服はいったい……?」
少女「あ……これは、友達に事情を話したら着せられちゃって……恥ずかしいですよね」
友「い、いや……」
~
イケメン「そんで流れでお互い意識しはじめて……付き合う事になったと?」
友「まぁ……うん」
男子「悪を倒す魔法少女かぁ……」
女子「なにその子ちょーカワイイんですけど!」
友「なんだよ……詳しく話させやがって」
イケメン「いいじゃねーか! ノロケの一つや二つ――…!」
イケメン「っと……、次の時間割なんだっけ?」
友「数学だけど」
イケメン「そっか」
友「……?」
男(……ご苦労、イケメンよ)
男(『悪に対して強くなる能力』……? そんな暫定的な能力もあり得るのか)
男(オタクの『妄想を現実化する能力』も似たようなもんか……いや、あれはまだ干渉できるだけマシだ)
男(その『対悪能力』……まったくもって意味不明。干渉の余地がありそうもない能力と対峙したとして、今のままじゃ圧倒的に不利だな……)
男(最初は風で真空波でもつくろうと思ったが、存外難しい)
男(もっと発動しやすい攻撃方法を探さなければ……)
―
オタク「はぁ……」
オタク(不良もやられちまったし、俺どうなっちまうんだろ……)
オタク(……はぁ、もういいや。帰って『妄想世界』に行くか……)
キキッ
オタク「……?」
オタクの前に一台のリムジンがとまる。
?「君が、オタク君かね?」
オタク「…だ、誰ですか?」
?「……能力者、といえば分かるかね?」
オタク「!??」
?「とりあえず、乗りたまえ。素直に従えば悪い様にはしない」
バタム
リムジンの中は"豪華"の一言に尽きた。
高そうな酒や嗜好品が棚に並んでいた。
?「まず、初めまして。私の名前は財閥主と言う」
オタク「は、はぁ。……オタクです」
財閥主「知っている。単刀直入に言う。君が知っている能力者の情報を、全て話たまえ」
オタク「!!?」ビキッ
オタク「――…」
財閥主「そして私に従いなさい。私とて子供を手に掛けるのは趣味じゃない」
オタク「条件にもよります」
財閥主「……ほぅ?」
オタク「僕だって能力者だ。甘くみないで貰いたい」
財閥主「……よろしい。私の家でじっくり交渉しようじゃないか」
―
財閥主の豪邸―
財閥主「降りたまえ」
オタク「……」ソロー
財閥主「心配せずとも卑怯な騙し討ちなどしないよ」
財閥主(今はな)
オタクは豪邸の中へ案内される。
通されたのは広間だった。
財閥主「さて……オタク君」
オタク「!?」
後ろを歩いていた筈の財閥主は、いつの間にか広間の中心にいた。
財閥主「"話し合い"といこうじゃないか……!」
オタク「『妄想世界』!」
オタクの右隣に、彼以外に見えない次元の狭間が生まれる。
そこにオタクは滑り込んだ。
財閥主「!?」
ドンッ!
空中からショットガンの銃口だけが覗いていた。
放たれた弾は財閥主の肉を容赦無く抉る。実弾だ。
財閥主「な……に?」ゴポッ
オタク(リロードはこっちですればいい……)ズル…
オタクは『妄想を現実化する能力』で、二次元へ入り込む事を可能にしていた。
能力で次元を突破し、自分は安全な二次元にいながら、攻撃だけを三次元で行う。
昼ご飯だ!
財閥主「…………」
財閥主「『時』よ、戻りたまえ」
オタク(……!?)
財閥主が手をかざす、すると"時間が巻き戻った"様に、財閥主の傷から弾が排出され、傷が塞がる。
財閥主「オタク君……最後のチャンスだ。大人しく従いたまえ」
オタク(『傷を治す能力』…? それなら――)
オタクは財閥主の上に『移動』する。
異次元で自分の居場所を確認するすべは、能力の波動だ。
能力波を異次元から打ち出し、帰ってきた『波』から現在地を特定する。
オタク(頭を吹き飛ばしてやる!)
オタクは財閥主の頭上に移動し、銃口だけを三次元に出す。
オタク(――ッ!)カチッ
ショットガンの弾は床をえぐっていた。その事をオタクが確認した直後、突然オタクが腕に持ったショットガンが引っ張られる。
オタク「!」
オタクはショットガンを捨て、いったん二次元へと身を潜ませた。
財閥主「……」
財閥主は次元の狭間から引き出したショットガンを一瞥すると、放り捨てる。
財閥主「まったく……子供はこれだから……」スッ
財閥主「『時よ』、歪みをただしたまえ」
~
オタク(い、今、何をしやがったんだ? とっとりあえずショットガンを消して……)
ズズッ…
オタク(……?)
妙な音がオタクの耳に届いた。
何かが"スレ"るような音だ。
オタク(俺の『妄想世界』が……!?)
~
財閥主(能力で奴が他次元に入り込む前に、『場の時』を戻した)
財閥主(後は虫のように這い出てくるがいい……)
オタク(ど、どうすれば……!)
オタク(そうだ! 一旦三次元に戻って、新しく二次元へ入り直そう! すぐ近くに扉を開けて飛び移れば……)
ズッ…
財閥主(出てきたな……?)スッ
財閥主(時よ止まるがいい!)
オタク(よしっ! 開けた――)
財閥主「……」ギラ
財閥主(まだ『止めていられる時間』は三秒が限界だが……)ドスッ!
オタク(――)
財閥主(子供をあやすには十分だったな)
オタク「う――おえっ!?」ドシャッ
財閥主「君はもう少し、知恵をつけていれば良かったな? ん?」
オタク「……」ボソボソ
財閥主「……?」
オタク「敵は白金財閥の社長……能力は……時間操作……」ボソッ
財閥主「っ! 誰に連絡をとっているッ!」
オタク「……」
財閥主「携帯まで能力で作り出した物か、……どうやら『もう一人』は多少は頭の回る奴らしいな」
財閥主「急所は外して刺しておけばよかったか……」スッ
オタク「がはっ!?」
財閥主「少しだけ君の『死の時』を戻した。死にたくなければ私に協力したまえ」
オタク「げ……、た……たすけて……」
財閥主「? 私が聞きたいのは命乞いでは無い」
オタク「助け……」
空中にショットガンが現れる。
財閥主「おのれ! まだ抵抗を――」ガンッ!
「――――」ピクピク
ショットガンはオタク自身の頭を吹き飛ばすと、そのまま消滅した。
財閥主「……」
財閥主「どういう事だ……?」
男「……」ピッ
男(よくやったぞ、オタク。期待通りの働きをしてくれた)
男("敵"の情報を掴み、敗北したら自殺。これで俺だけが相手の正体を知った)
男(また先手がうてたな。……それにしても『時間操作能力』だと? ……新しい"道具"が必要だな……)
男(それにしてもこの『干渉能力』には際限が無い。識れば識るほど強くなる、くっくっ……この『ゲーム』、勝者は俺だ)
―
―
財閥主(……さすがにここまでバラバラになっては『時』を戻せないか)
財閥主「おい、この死体を片付けておけ」
部下「はっ……」
財閥主(それにしても、今のは"妙"だったな。まるで操られていたような……)
財閥主(この年の少年に、土壇場で自殺するような気概があるとは思えん)
財閥主(だとすれば……先に、この少年と組んでいた不良という中学生の能力者を殺したのは……『操る能力』を持つ者か?)
財閥主(いや……)
財閥主は他の能力者の痕跡を調べていた。
不良が男に殺される前……、すでに財閥主は不良が能力者で、連続行方不明事件を引き起こしている犯人だと調べあげていた。
財閥主(それにしては決戦場となった東中学校は酷いありさまだった……)
財閥主(操れるなら……普通はもっとスマートにやるはずだ……)
財閥主(それに私の情報員は…、『不良を倒した相手』の手掛かりだけ抜け落ちたように突き止める事ができなかった)
財閥主(やはり記憶等を操作できる『人を操る能力』か? ……なんにせよ、そいつとまみえるまでに、更に自分の能力を鍛えなければ)
その翌日。
「あのォ~……、ここが白金財閥の本社で間違いありませんかねぇ……」
乞食の様な薄汚い格好をした者が、財閥主の会社へ現れた。
警備員「そうですが……、あなたはどちら様ですか? 失礼ですが、許可証はお持ちで?」
「えぇ、えぇ~~~、ありますよォ? …こちらにぃ……へへへ」ニタ
乞食は上着を広げて見せる。
警備員(箱――?)
カチッ
―
部下「たっ、大変です! 財閥主様!!」
財閥主「なんだ、いきなり。騒々しい……」
部下「我が社の正面門で、ば、爆弾テロが起きました! 続いてホームレスが社内に傾れ込み、暴れ回っています!!」
財閥主「なにぃ!?」
部下「尚ホームレスの中には正面門を破壊した者と同じく爆弾を所持している者もおり、機械を狙っています!!」
財閥主「すぐに止めろっ! どんな手を使っても構わん!!」
部下「ただちに!」ダダッ
財閥主「ぬぅぅ……!」
財閥主(まさか能力者の仕業か!? いや、それしか考えられん! …昨日の今日で仕掛けてくるとは…! 大胆なやつめ……!)
~
男「くっくっ…」ツカツカ
男(パニックになっているな……? 皆乞食の対処に精一杯で、『更に』俺の存在に気がつかない)
男(『操る力』、この能力で『認識しずらく』なるよう操り、力は"波"に乗せて辺りに流す)
男(いちいち一人ずつ術中にかける必要は無い……、すべて能力の波に乗った『操る能力』が済ませてくれる)
男(最初にあのバカ女と遭遇したのは幸運だったな……!)
ピタッ
男「近い……」
男(能力を使っているな? 使用する度漏れる能力波が居場所を知らせてくれるぞ)
~
財閥主(時間よ止まれ!)
乞食「――…」
財閥主「この乞食が……!」バキッ
乞食「……―ぐげっ!?」バタッ
財閥主(おのれ能力者……! この損害の賠償、とらせてもらうぞ!)
やっとこさ……やっとこさ給料日だべ!
男「…………」スッ
男(本社脇の工場……。乞食共には"攻撃させていない"場所だが)
?「……」
男(能力者め……、こんな所に一人で何してやがる?)
男(まぁ、いい……。奇襲してさっさと殺す)サッ
フォンッ
男(既にオタクの『創造能力』も学習した。この消音器付きの銃で、暗殺だ……)
パリッ
男(……?)
?「……」バチッ!
火花が飛び散る。
男の意識は一瞬消え、銃は近くの金属に縫い付けられた。
男(!?)ドタッ
…パチパチ
?「オー、クール……!」
帽子を被った男「ハハハ」
男(な……なんだ、いったい!? 白金財閥の社長じゃない……)
帽子「オマエ、やっぱボスの言う通りだ。『他の奴ら』より強い!」
帽子「だが……その強さが仇になる。ここでずっと能力を使ってたのは、俺だ」
男「……」
バフッ!
帽子「お!?」
男(ここは一旦身を隠す!)
工場内部は男が『創造能力』で作った白い粉塵に包まれる。
相手の能力がはっきりしない以上、一撃必殺される恐れもあるのだ。
男(様子をみるのと……考える時間を……)
男(奴の『攻撃』。……いや、奴に攻撃されたか定かじゃないが……とりあえずさっきの攻撃は、『電気』だ)
男(銃を縫い付けたから磁力使いかと思ったが……。その一瞬前"痺れた"感覚があった)
男(つまり敵は『発電能力』を持っている……? それに、一筋縄じゃいかない相手だ)
男(奴は『能力』を使う時発せられる"波"の事までも知っている。そしてこの事態を冷静に判断し、俺を誘きだしたんだ……)
―
帽子「……」ジャリ
帽子(床が抉れてる……。この粉塵は石の床を細かく削ったものか)
帽子(ボスからは"風"を操る能力者と聞いてたが……。それなら、それほど強い風を操れるのか? 奴は)
帽子を被った男は敵が消えた方へ目を凝らす。
帽子(だったらさっき俺が距離を詰めてとき、石をも削る風でやられていたはず)
帽子「……」スッ
―
男(問題は奴がどこまで俺の正体を知っているかだ……。奴が財閥主の用意したボディーガードなのは確実だし、『後何人』いるかも気になる)
ビーーーー!!
男「!?」
帽子「ヘイ、キッド! かくれんぼはお仕舞いにしようぜ!」
ガッコン …ガタガタガタ
男(機械が作動した!?)
帽子「ここにはクレーンがいっぱいあるからな」ピト
○距離をつめたとき
ブンッ!
男「……!」サー
男(今、俺の背を掠めていったのはクレーンの鉄骨か……?)
男が顔を上げる。
攻撃には帽子が言う通り、クレーンがいくつもあった。
それらがみんな首や釣り先を振り回し、凶器乱舞といった様子だ。
男(あんなもんが直撃したら、肉塊になっちまう!)
粉塵の向こうでは堂々と帽子がタネを明かしていた。
帽子の能力は男の推測通り『発電能力』"だった"。
能力は強くなる。
オタクが次元を越えたように、帽子もまた、電気を『操作』する術を会得していた。
帽子(工場内のクレーンは死角が無くなるよう配置換えされている。逃げ場は無い)
帽子「ジャンクになってろ。ハッハー!」
帽子が手で触れているのはこの工場の配電盤だ。全ての電源からクレーンを操作している。
はからずも男の使った『目眩まし』は、帽子の目眩ましにもなっていた。
帽子は配電盤からクレーンを操作する為棒立ちになってしまうが、姿が見えなければ攻撃を受ける事もないのだ。
男(迷っている暇は無い……!)キィン
<ウゴォォォーッ!
帽子「……あん?」
乞食「うおおおお!」ダダダダッ
工場の外から三人の乞食が、帽子目がけて一直線に殺到する。
帽子(なんつータイミングだよ? ……能力か?)
帽子「奴の能力は風操作だと思ったが……、まぁいい」バチッ
三つの巨大クレーンがうなりをあげて乞食を襲う。
バチュッ
乞食「ゲッ……」
内二人は潰され、残り一人はクレーンのフック部分に胴を分断され、上半身だけで宙を舞った。
帽子(こんな奇習無意味……)
乞食「……」
帽子「……!?」
乞食の手にはプラスチック爆弾。そのまままっすぐ帽子へ向かってくる。
帽子「舐めるな……ッ!」
新たなクレーンが乞食を叩き落とした。爆弾は空中で無駄になる。
帽子「はっはっ……」
パス
男「……」
帽子「……」バタッ
男「……」
男は一発だけ発泡した消音器付き拳銃を消すと、顔に飛び散った脳しょうを拭い、払う。
男(奇襲が効いたか……、『ボス』とやらは、詰めが甘いようだな……)
男(それとも何が別の理由があったのか……? 俺が『操る力』を持っているかもしれない事を、この男に伝えられなかった理由が)
男(考え過ぎか……。そもそも、オタクが死んだ段階でバレていなかったのかもしれない)
男(『操る力』がまだ有効なら、勝つ為の手段が増え――)
財閥主「時よ。止まり給え」ズアッ
シン――…
財閥主「……傭兵だとか言ったか……この男。時間をかせぐ役には立ったな」ザッ
時間が停止する――
財閥主(やはりこの小僧が……、だが憂いも今消える)キラッ
スカッ
財閥主(……!?)
財閥主の手にナイフで肉をえぐる感触は伝わらなかった。
男「くっくっ」
男(停止時間への『干渉』成功だ)
財閥主「!?」
男「今ので、俺は勝利を確信したぜ?」
財閥主(どうした事だ!? 私は確かに今……時を止めた筈!!)
財閥主(そしてナイフで奴を刺した刺した……、その筈だ! しかし、どうして奴は"無事"でいる!?)
男「お前も俺の勝利の為の礎となるのだ……」
財閥主(馬鹿な……ッ! 時よ止まれッ!!)
男「―――」ピタッ
財閥主(確かに時は止まっている! しかし何故だ……! 何故さっきは……!)
財閥主(いったいなんだ……こいつの能力は!?)
男「どうした? 手段はそれだけか?」
財閥主「ッ!?」
財閥主(馬鹿な……っ! 私の背後を!)バッ!
男「……ハハハハ!!」ブゥン
財閥主(どこから銃を!? これはあの中学生の能力か!?)
財閥主「くぅ、時よ!!」
財閥主(今は……とにかく態勢を立て直さなければ……!)ダッ
財閥主「工事の出口が!」バンバンッ
カチカチカチカチ
財閥主(どうした事だ! 開閉スイッチがまったくきかん!!)
バチッ!
財閥主「っ!?」
財閥主(なんだ……今のは! 電撃!? 帽子のやつ、生きていたのか?)
財閥主(目標を誤りおって! 雇い主を忘れたか!? ……だがまだ奴が使えるとすれば、勝算はある!)
財閥主(ひとまず機材の影に身を隠し……奴の能力の正体を見極めなければ……)
財閥主(はっきりと確認はしていないが、私の制止空間に入り込んできたようだった……、奴の能力がハッキリしない。最初は馬鹿な風使いかと思ったが……、ここまでの脅威になろうとは!)
財閥主(奴は人を操る能力も持っているようだった……加えてあの『召喚能力』……、奴は能力をコピーできるのか?)
財閥主(いや、それなら何故私を操らない……? 私が停止できる時間に限りがあるように、奴の能力にもなんらかの制限があるのか……?)
ガゴォン……ガガッ
財閥主(クレーンが!?)
男「……」
男(死んだ後でもしばらくは能力が残ったままのようだな……)
帽子「 」
男「この死体のお陰で俺の勝利の確率はあがった」
帽子の手は配電盤に、男の手は帽子の頭に伸びていた。
男(操る力もここまでになったか……)
ドガッ!!
財閥主「くっ!!」
財閥主(落ち着け!! クレーンの動きはでたらめだ! 時を止めれば躱せない事はない!)
財閥主「!!」
男「……」
暴れ狂うクレーンの向こう側に男の姿が見える。
それと財閥主の時間停止が終了するのはほぼ同時だった。
ズギューン!!
財閥主「……!」
財閥主の体は崩れ落ち、クレーンも停止する。
男(能力線で狙いをつけりゃ、狙撃手級だな……。あの不良掃除も無駄じゃなかったって事か)
男「……さてと」
男(こいつからも『能力を貰う』とするか……)スッ
財閥主「 」
男(最初の『操る能力』の女から力を奪い取ったように、能力者自身に干渉してそいつの持つ能力を学習する……)
男(完了だ)
男(これぞ我が『干渉能力』の真骨頂。これで俺は時を止める能力も学習した。すぐに使えるようにはならないだろうが……)
男(次戦うのはこのまぬけの様にすぐ錯乱しない奴だといいな)
男「……さぁてと、まだ喰い足りないなぁ」
―数日後
ニュースキャスター「――先日、白金財閥の社員全員が行方不明になるという、前代未聞の事件が起こりました」
ニュースキャスター「警察は捜査を進めておりますが、以前情報は掴めとおらず――」
男「……」
男(まぁ、さすがにニュースにはなるか……)
男(さてと、残りの能力者は何人だ?)
少女「友さん、今日のニュース見ました?」
友「ああ、……白金財閥の事か?」
少女「はい……、私、あの人達を助けられませんでした……」
友「……」
少女「……」
友(あぁ……なにやってんだ! 俺……っ、こんな時こそ支えてやるべきだろ!)
友「あ、あんまり背負うなよ……、俺だっているんだからさ?」
少女「友さん……」
友「でも、白金財閥の事件が"誰かに引き起こされた事"だとして、いったいどんな奴がそんな事をしたっていうんだ?」
少女「……多分、能力者の仕業です」
友「能力者……?」
少女「実は、私のこの人並みはずれた力は、超能力のような能力のおかげなんです。そして、私のような能力者が他にも沢山います……」
友「ちょ、ちょっとまってくれよ……超能力?」
少女「本当なんです! ……友さんに変な人だと思われたくないから黙ってたんですけど……」
友「……いや、ちょっとびっくりしただけだ……。じゃあ、もしその犯人が能力者だとして、そいつは相当な悪党だな」
少女「はい! だから、絶対にその人は許せません!」
少女(このまま犯人を野放しにしておいたら……また無関係の人が私達の争いに巻き込まれちゃう……)
友「あっ」
少女「どうかしました?」
友「超能力でぴんときたんだけど、俺の近くにいるかもしれない。その能力者ってやつ」
少女「えぇっ!?」
男(なるほど……また少し、解ってきたぞ……)
男(能力者にはそれぞれ『素質の高さ』があるのか……)
男(俺はだいたい中の下……いや、下の中程度の素質だった。そしてこの『素質』は、能力者を倒す毎に上がっていく……!)
男(正しくは殺した能力者から素質を奪い取っているという訳か、だから俺は能力者を倒すたび、この『干渉能力』でできる事が増えていった)
男「……」
男(いまだ『時を止める』事はできない……、つまり『素質』が足りないんだ。財閥主の能力波を感じとった所、奴の素質は上の下といったところだった。最低それくらいないと奴の能力は扱えないって事か……)
pipipipipipi!
男「……」
着信:友
~
男「よぅ、友」
友「おう、男。すまんな、いきなり呼び出して……」
男「いや、いいよ。どうした?」
友(なんだ、今日はやけに明るいな)
友「お前に紹介しておこうと思ってさ、……ほら、俺の彼女」
少女「はじめまして!」
男(!!)
男「……はじめまして。……なんだ、ノロケかよ?」
友「そんなんじゃねーって、ただ友人としてれいぎをだな――」
~
少女(前に友さんから感じた邪悪な気配の"アト"……もしかしたらその人かもしれない)
少女(思わず会う約束を取り付けちゃったけど……、もし友さんの友達だっていうその人が『悪の能力者』だったら……私は……)
~
男「こいつの事よろしくね、少女さん。すごくいいやつだからさ」
友「おい、こっぱずかしい事言うなよ……」テレッ
少女(良かった……、すごく優しい人だ。能力でも分かる、『悪か否か』を判断する私の能力も、この人はいい人だって教えてる)
少女「はいっ!」ニコー
男(……馬ァ鹿が!)
男(勘違いしているな……? 『操る能力』でいつわった俺の姿に! ……くっくっ。子供はこれだからいけない、せいぜい油断していろ……)
少女「それで……男さんに話したい事が――」
男「悪の能力者退治ね……うん、いいよ。俺も協力するよ」
友「マジかっ!! ありがとう男! やっぱお前は最高だぜ!」
少女「ありがとうございますっ!!」
男(クク……。反吐がでるが。今はこのおままごとに付き合っておいてやるか……。何しろこの少女とやらの能力、間違いなく最強クラスだ……! 『素質』は『上の上』。今まともに戦ったら俺でも敗北しかねん)
男(今は……偽善者のフリをしてやりすごす。そして能力が十分お前に匹敵したとき、少女。貴様はじっくりいたぶって殺してやるぞ。何しろこの俺様を茶番に付き合わせるんだからな)
少女「じゃあこれから三人で頑張りましょうっ!」
男・友「おー!」
それから数週間が経った――
他の能力者が気配を現す事は無く、少女達が習慣のパトロールをしていた時だった。
少女「強盗ですっ! いきましょうお二人とも!」
友「おうっ!」
男「……」
二人を見送る男。
男(見失ったとでも言えばいいか……。くだらん俗事に付き合ってられるか)
?「……」バッ!
男「!?」
男は何者かに路地裏に引き込まれる。
男(油断したっ! こんな街中で襲ってくるとは……! 能力で作った防弾スーツを服の下に着ているが、それが意味をなさない能力者だったら!)
?「騒ぐな、落ち着け。俺はここでお前とやりあうつもりはない」
男「……?」
金髪「俺は金髪。少し話をしないか? お前もあの仲良しヒーローごっこをマジにやってるわけじゃねぇんだろ?」
男「……」
金髪「飲めよ、旨い酒だぜ」
金髪と名乗る男に連れてこられたのは古びたバーだった。
金髪「まわりの奴等は気にすんな、皆俺の手下だ」
男(……)クイッ
金髪「お、いいねぇ。でだ、単刀直入に言うが、俺と手を組まないか?」
男「現状じゃ、イエスもノーも言えないな」
金髪「賢明だ。……俺は『鋭くする能力』を持っている。で、倒した能力者の数は四人、この意味が分かるか?」
男「……!」
つまり金髪は、
「おれは四人分の素質を手に入れている」
そう言っているのだ。
男(どうする……)
男「……俺の能力は『複数の能力を模倣し所持する能力』だ。倒した能力者は三人、使える能力は三つだ」
金髪「ほぉ~?」ニヤッ
金髪は薄笑を浮かべて一拍間をおいたあと、
金髪「なかなかつえぇ能力だな。コピー能力か、気に入った。ますます手を組みたくなってきたぜ」
男「それで、手を組んだとして目的はなんだ?」
金髪「当面の間協力して他の能力者を倒す。……さっきお前の近くにいた女の子。あれぐらいつえぇ能力者がまだごろごろしてやがる。そいつらを倒すにゃ一人じゃ無理ってわけだ」
男「……」
男(確かに、それは同感だ。今度も『時を操る』能力者のような強力な敵が現れた場合、うまく無傷で勝てる確証は無い)
金髪「どうだ? お互い悪い話じゃねぇと思うぜ?」
男「……分かった、協力しようじゃないか」
金髪「おっ!? 話が分かるじゃねぇか! ……それじゃあよろしくな、相棒?」
男(……)
金髪は町の”嫌われ者”を仕切っているグループのトップだった。
グループの情報網が他の能力者を見つけ、男の所まで応援要請がくる。
男を見つけたのもその情報網だろう。
金髪「今回はちょっとイカれたやつでな。だが能力もつえぇし頭もキレる」
男「相手の能力はなんだ?」
金髪「『ナイフを飛ばす能力』、シンプルだが厄介だ。地雷みてぇにナイフを設置する事もできる。俺たちがその『地点』に入った瞬間……ズブリ、だ」
男「……」
金髪「元々は俺の仲間でな。ナイフの扱いがうめぇ野郎で、ナイフが大好きだったんだ。だからンな能力にしたんだろうな」
スラッシャー「ひ、ひひひ……! 金髪ぅ……。お前の力も俺が貰ってやるよぉ」
ザッザッ
スラッシャー「!!」
スラッシャー(ナイフで彩ってやるぜ……金髪ぅ!!)
スラッシャー「ひ、ひひひ……! 金髪ぅ……。お前の力も俺が貰ってやるよぉ」
ザッザッ
スラッシャー「!!」
スラッシャー(ナイフで彩ってやるぜ……金髪ぅ!!)
~
男「その”地雷”とやら……、すぐ先にあるぞ」
金髪「分かんのか?」
男「そういう『能力』だ」
金髪「ほぉ~ぉ」
男(こいつはまだ能力波の事を知らないのか……、能力を『仕掛けた』場所からも波はでているのに)
金髪「じゃあちゃっちゃと片しちまうか!」
男「……?」
キュィィィィィ--キチキチキチキチ!
パリンッ!
金髪「地雷を鋭くして壊した。もう大丈夫だ」
男(設置された能力を圧縮して破壊したのか……。どうやら感覚的には波を察知できているようだな)
スラッシャー「!? !? 俺のナイフが……!?」
金髪「へ~い。終わりだ」
スラッシャー「金髪ッ! 近づくな!! 殺すぞ!?」
金髪「できるもんならな」
男「……」
スラッシャー「し、死ねぇぇぇ!!」ヒュンヒュンッ!
金髪「そらっ!!」
男(こいつの武器は『鋭くした空気』か!)
ブシャッ!
スラッシャー「あがっ! あ、あががが……」
金髪「お前のナイフじゃ俺のカマイタチはきれねーよ。じゃあ、サクッと死んどけ。な?」
スパンッ! …ボトッ
金髪「俺の首をはねる手際鮮やかだろ?」
男「ああ……」
男(……強い)
裏で金髪と組み、能力者を狩りつつ……
表では少女や友と町のパトロールをする日が続いた。
金髪と組んでからはしばらく日数が経ち、新しい能力者の情報も途絶えていた時だった……。
男はいつもの様に少女と友に呼び出されていた。
男「で、今日もパトロールか?」
少女「もちろんです!」
友「町の平和を守らなきゃなー」
少女「ねーっ」
イチャイチャ
男「……」
男(うぜぇ。しかも、今回はバックレる訳にはいかないな……。めんどくせぇ)
pipipipi
友「ん? 男、携帯鳴ってるぞ?」
男「……」ピッ
金髪『俺だ』
男「どうしたんだ?」
金髪『能力者が出た、しかも同時に三人だ……。今まで隠れてた奴等に違いない、一気に仕留めるチャンスだ』
少女「あれっ? 何の騒ぎでしょうか……」
男「こっちでもちょうど確認した……」
大型デパート内――
髯男「動くなよ? ……人質が死ぬぜ」
長髪女「卑怯だぞ……」
禿男「はははっ、何とでもほざけ!」
そこには三人の能力者がいた。
ウー……
禿男「サツだ!」
長髪女(厄介な……、ここで警察に突入されでもしたらこいつらが何をするか……)
髯男「おい、ここは俺一人で大丈夫だ。お前は外の”邪魔者”を片付けてこい」
禿男「分かった」
長髪女「……!」
髯男「おっと、動くなよ……? 俺の『発火能力』が炸裂するぜ」
長髪女「……ッ」
長髪女(奴の発火能力は発動まで一瞬も遅延時間がない。人質は全員一瞬で……!)
長髪女(動けない……、デパートの客達を犠牲にするわけにはッ。……どうしたらいいんだ……)
ー外
少女「中に能力者がいます! ……それも三人!」
男「三人……」
友「た、戦ってるのか……?」
少女「いえ、そういった『様子』は感じられません……」
男(! ……そんな事まで感知できんのか、こいつは)
少女「中にいる人達を助けましょう! 男さんは私を手伝ってください、友さんはお客さん達の避難誘導をお願いします!」
友「わ、分かった!」
男(さて……、寝首をかく格好のチャンスだが……、どうするか)
ーデパート入り口
警部「中に指名手配中の犯罪者が二人、しかもデパート中の客を人質にとってる。……どうしろってんだ、こんなもん」
警察「警部ぅ……」
<デパートの入り口が開いたぞ!
警部・警察「!?」
禿男「警察共ォ~~……!」
警部「犯人が出てきたぞ! 捕まえろッ!!」
ドシャッ!
警部「……ッ!?」
禿男「『重力を操る能力』……! 皆殺しにしてやるよォ、警察共ォ~~!」
警察「な、なんだ……これは……っ!」
警部「な、なにがどうなってるんだ!」
少女「そこまでですっ!!」
禿男「あん?」
少女「正義の味方参上ですっ!」
警部「君っ!? 危険だ! 下がりなさい!!」
少女「大丈夫ですっ、警察さん! あんな『悪者』、私にかかればちょちょいのちょいですよ」
禿男「……」グッ
少女「……」フフンッ
禿男(能力が効かねぇ……っ!?)
少女(キツいですけど……、立っていられない程じゃない。中は頼みましたよ、男さん、友さんっ!)
~
友「裏口開いててよかったな……、で、どうするんだ? これから……」
男「『眠っていろ』」
友「!? ……」パタッ
男(邪魔なんだよ……お前は。そこでおとなしくしていろ、すべて終わった後に起こしてやる)
髯男「チッ……まだ終わらないのかアイツは」イライラ
長髪女「……」
長髪女(奴一人になった今……いけるか? 私の『エネルギーを集中させる能力』で……、あいつの周囲の『力』を集めて、気絶させられれば……)
コツッ コツッ
髯男「遅ぇぞ! ―――テメェは……」
金髪「よぉ、髯男。お前が俺ンとこをでてってから、もう数ヶ月か? 久しぶりだな」
髯男「なんでてめぇがここにいやがる……」
金髪「これで分かるか?」ヒュッ
髯男「……!」スパッ
金髪「今ので殺すつもりだったんだがな……」
人質「うぎゃあああああ!! う、腕がぁぁ!!」
髯男(な、何をしやがったんだ……? 今。とっさにかわしたが……)
長髪女「まてっ!! 人質を傷付けるなっ!!」
金髪「あん? 姉ちゃん、死にたくなかったら黙ってな」
髯男「なめやがって……」
ボンッ
金髪の体が一瞬で炎に包まれる。
髯男「俺は変わったんだ……」
メラメラメラ……
長髪女(くっ! ……また一人犠牲に!)
金髪「何が変わったって?」
髯男「!?」
金髪「『発火能力』ってとこか……? だが、相性が悪かったな、火は俺にとどかねぇ」
金髪(この空気を圧縮して作ったバリアーこそ、俺の切り札よ)
髯男「ば、馬鹿なっ……」
金髪「何度やっても無駄だ。お前じゃ俺には勝てねぇよ」
髯男「待てっ! 近づくな!! 人質を殺すぞ!」
金髪「やってみな? 俺には関係ねぇ事だ」
髯男「や、やめろっ!!」
金髪「……」
金髪(なんだ……? 能力は使ったはずだ)
髯男「……?」
長髪女「これいじょうやるというなら、私が相手になるぞ!」ザッ
金髪「あぁ……? なんだ、姉ちゃんも能力者か……」
金髪(! ……まただ、また”能力が発動しねぇ”ッ……!)
長髪女「無駄だ、お前のように能力の発動まで僅かな遅延時間があれば、私の能力で発動を阻害できる」
金髪「……」
男「……」
男(腹減ったな……)キョロ
男「りんごか」シャクッ
男(能力者の『波』がまた一人増えた……、恐らく金髪だろうが。まだ片がつかない所を見ると何かあったのか……)
~
金髪(チッ……、睨み合いかよ……)
長髪女「……」
髯男「……」
金髪「おい、長い髪の女。お前の目的はなんだ、その髯男とは敵対してる様に見えたが」
長髪女「……、私はこの人質達を無事に逃がしたいだけだ」
金髪「それなら俺は邪魔しねぇ、だからその髯男を殺らせてくれよ」
長髪女「だめだ、お前には何か邪悪な物を感じる……、このまま自由にする訳にはいかない」
金髪(チッ……面倒くせぇことになりやがった。……だが俺の能力が真空波を飛ばすだけが脳じゃねぇって教えてやるぜ……!)
キィィン
長髪女「……?」
キュキキキキキキィィ……
長髪女(何だ? この音は……)
ドンッ!! パンッ
長髪女「……!」ゴポッ
長髪女「がはっ!?」
金髪「俺の能力の射程は見える範囲全部だ。”そこにある物を圧縮し、打ち出すことができる”」
金髪「空気砲の威力はどうだぁ? 姉ちゃんよぉ」
長髪女(今、奴の能力を察知できなかった……。”圧縮”とやらにはあんなに時間をかけていたのに……っ!?)
人質「 」
金髪「気付いたか?」
金髪「俺が能力の媒介にしたのはそこの人質だ。さぁ、人質の数だけ”お前に阻害されない能力”がだせるぜ?」
長髪女「き、貴様ぁ……!」
長髪女(さっきので内臓が……)
金髪「ちなみに、全圧縮はすでに完了している。後はそこら中にいる人質を使って弾を発射するだけだ、ダンボール砲みてぇにな。人質の諸君は潰れちまうだろうが、我慢してくれ」
ザワザワッ!!
長髪女(こいつはっ……生かしておけない!)バッ
金髪「ぐっ!?」ビキッ
金髪(体がっ……!?)
長髪女(私の能力エネルギーをあの金髪男に集中させて……っ)
金髪「お、おぉぉ……!」
ドンッドンッ!
長髪女「がっ!! う、うぐ……」
金髪「や、やめろぉ……!」
金髪「……!」ピクッピクッ
金髪「 」ドロッ
髯男「う、おえぇ……」
金髪は体中から血を噴き出して絶命した……
長髪女「はぁっ……はぁっ……」
長髪女(また、殺してしまった……やはり私には、殺さずに救う事はできないのか……)
長髪女「……」ジロッ
髯男「ひ、ひぃっ!」
長髪女「お前もああなりたくなかったら、人質を解放するんだ……」
髯男「分かった、わ、分かったよ!」
男「えぇーっ? そんな事されちゃ困るなぁ」
長髪女「!」
髯男「……!?」ゾクゥ
男「解決されちゃあ、困るなぁ……クク」ニタニタ
長髪女「誰だお前は?」
男「さぁね」ブゥン ガシャッ
髯男(が、ガトリング……!?)
男「ヒャハハハハハハハ!!」ガガガガガガッ!
<ギャアアアアアア!
長髪女「貴様! やめろぉっ!!」バッ
男「ハッハッハッ……ククク」ガガガガ……カラカラカラ
男「戦意を喪失したクズに用は無い」
髯男「お、げ……」ピクピク
長髪女(効果が無い……!? い、いや。まだ私の力は残っている筈だ……)
男「楽しませてくれないか?」
髯男(……このままタダで……、タダで死んでたまるか……!)ゴウッ
長髪女(辺りが火の海に……髯男!?)
髯男「 」
長髪女「……!」
男「最後に中々面白い演出をしてくれるじゃないか」
男「さ、ラストバトル一歩手前だ。派手にいこうぜ?」
ーデパート外
禿男「 」
少女(いったい誰がこの人を狙撃――!?)
警部「デパートから火があがってるぞ!」
少女「!!」ソクッ
少女(まただ! あの時の強烈な悪寒……。友さんっ!)ダッ
「助けてくれぇぇ……」
「熱いよぉ、ママぁ……」
男「くっくっ、ははは」
長髪女「……何が楽しい?」
男「……。この状況が」
長髪女「……!」
男「警察が来るまで後10分もかからないって所か。実はさぁ、俺あんたの事知ってんだよね」
長髪女「なに?」
男「デパートの外に来てるぜ……? あんたの影響を受けた、純粋で無垢な馬鹿餓鬼がよ……」
長髪女「なっ……!」
男「姉妹揃ってヒーローごっことは。クク、中々面白いじゃないか」
長髪女「……」
男「なぁ、ゲームといかないか?」
長髪女「ゲームだと?」
男「お前、さっき俺に対して能力を使ったよな。……『集める能力』ってところか?」
ギュゥゥゥゥン
長髪女「そ、それは……!」
男「今、ここにいる全人質の”生命エネルギー”を俺が集めた。貴様の能力は既に学習済みだ。このエネルギーをお前が受け止められるか、そういうゲームだ」
長髪女「やめろっ!! な、なぜそんな事を平然とできる!?」
男「……。こいつは受け流しても避けても砕け散って、人質は全部死ぬぜ。人質を助けるにはお前がこのエネルギー球を受けとめて、元に戻すしか無いって事だ……」ズズズ…
男「受け止めてみせてくれよ。正義の味方サンよ」ブンッ
長髪女「……!」
男「自分だけよければ助かるぞ? え?」
長髪女「……」ザッ
男「なぜあんたはそうまでして他人なんぞを守る? 何のメリットもないだろうが」
長髪女「私は……メリットなど求めてはいない。ただ、人の笑顔を守りたいだけだ」
男「笑顔ぉ?」
長髪女「ぐっ!!」ガシッ
男「その便所のネズミのクソにも匹敵するくだらん考えが命とりだ……」
男「約束だ、あんたが”ソレ”に耐えられたら、俺は人質を解放してここを去ろう」
ギャリギャリギャリッ!
長髪女(いっ……!! 体がッ、削られそうだ……ぁっ!)
男「……フッ」ブゥン
パンッ!
長髪女「あぐっ!」
男「ルール変更しよう。銃弾にも耐えてみせてくれ」パスッパスッ
長髪女「……!」ガクガクガク
男「綺麗な右足が穴だらけになっちまったな。じゃあ今度は左腕にしよう」
ぱすっぱすっ、ぱすっ。
男「腹」
ぱすっぱすっ。
男「左足」
ぱすっ、ぱんっぱんっ。
男「……と、弾が無くなっちまった。今度はリヴォルバーでいくか」ブゥン
長髪女「~~~ッ」
男「正直な、俺は昔から正義だのなんだのって聞くと。反吐がでたんだ」バンッ! バンッ!
男「本当のところ、腹が立っていたのは乞食のように更なる助けを求める凡人どもにだったが……まぁいいさ。結局は同じところだ」バンッ!
長髪女「 」カクッ
男「姿勢が崩れるぞ。このゲーム、俺の勝ちだな」
長髪女(人質の皆さん……、ごめんなさい)
長髪女(少女……この悪魔の様な男を止めて……)
ギャリッ!
生命エネルギーの塊は地面に当たって炸裂し……、二度と持ち主の所へ戻る事は無かった。
その後少女と警察隊がデパート内部に駆けつけたが、すでに人質は殆ど死亡。
犯人だと思われる髯の生えた男も死亡していた。
少女「男さんっ!?」
男「ぅ……」
少女は立て篭もりが起こった場所の側で、倒れていた男を発見する。
少女「大丈夫ですかっ!? 血が……」
男「敵はやはり、能力者だった……。俺は女の人に逃がされて……」
少女「女の人……?」
少女は惨事が起こった現場に行き、倒れている女性を発見する。
少女「姉さんっ!? 嘘っ、ど、どうして……」
少女「ど、どうしてこんな事に……」
少女「姉さん……っ」
少女は変わり果てた姉を抱いてただ泣くのだった。
男(……)
ー病院
友「すまねぇっ、男。俺だけ役立たずで……」
男「気にするな友。きっと敵の能力者にやられたんだ。俺の事はいいから少女の様子を見てやれよ」
友「あ、ああ……本当にごめん。……少女の所に行ってくるよ……」
個室の扉が閉められる。
男(……計画通り)
男(人質にも生き残った者はいる……そいつらは無傷だ。もし”能力者が他にも紛れていたのでは?”という疑いがもたれても、そうそう俺に疑いがかかる事は無い)
男(これで時間を稼ぐ事ができる……)
デパートでの事件から、しばらく時が過ぎた……。
友「男の奴、退院したってよ」
少女「そうですか……良かった」
友「ああ……」
少女「……」
友「……」
少女「……」
友「……あ、あのさ――」
少女「っ!」ギュッ
http://www.nicovideo.jp/watch/sm18172893
bgmよければどうぞ。
友「しょ、少女……」
少女「うぅ……ぐすっ……」
友「……っ」
友(ずっと、こんな感じだ……。当たり前だよな。たった一人の肉親だった姉さんが死んじまったんだ)
少女「私……っ、姉さんが死んじゃってぇ……もう。これからどうしたらいいか……分か、らない……えぐっ」
友「大丈夫だ。少女だけは俺が守るから」
少女「友さん……?」
友「少女だけじゃない。少女の代わりに俺がヒーローやるよ。悪人を全部倒して、もうこんな事が起きないようにする。だから安心していいんだよ、少女」
少女「友さぁん……!」
友「……」ナデナデ
友(能力者とか、超能力とか……少女から説明は聞いたし、実際に目の当たりにした。でも俺には全然分かんねぇ……けどっ! 俺のこの、少女を好きだっていう気持ちは本当だ! だから……!)
友「少女、前に言ってた……、能力の譲渡って奴。俺にしてくれ」
少女「え……?」
友「言っただろ、俺が少女の代わりになるって。俺が少女の『力』で、悪い能力者を全部やっつけて、こんな戦い終わらせてやる。だから少女の能力、俺にくれないか」
少女「……」
友「悪いことには使わない、絶対!」
少女「違いますっ! そうじゃないです……。こんな力……友さんに渡してしまったら、今度は友さんが殺されちゃうかもしれません。だから……」
友「少女……」
いつの間にか、空を雲が覆っていた。
青い世界が赤く見えた。濃すぎる邪悪なオーラが少女の目に焼きついた。
男「……」
友「男……?」
そして少女は悟った。
男「……」ギラッ
友「!!」ソクッ
友「男……お前、どうしたんだよ……。何だよ、その顔……」
男「あっはっはっはっは!!」
友「……!」
少女「……」
男「いやぁ……、これで俺が”勝者”かと思うと。哄笑が抑えられなくてな……クク」
少女「っ!」ダッ!
友「少女!?」
ガッ!!
少女(私の攻撃を受け止めた!?)
男「軽い……実に軽いぞ。お前の力は」
少女「あなたが『悪者』だったんですね!?」
男「悪者……? 心外な、好きな事をしているだけだ」
少女「やあああーっ!!」バキッ
男「あれほど恐ろしく見えた蹴りも……」
少女「――ッ!」ドスゥ
男「拳も、全てとるにたらん。”すでに干渉は済んでいる”貴様の能力も他の能力者共と同じ……、俺に作用する前に『干渉』され『掻き消される』……ッ!」ガシッ
少女「あっ!!」
男「死ね」
友「少女ぉーーっ!!」ドカッ
男「……」
少女「友さんっ!? 駄目っ!!」
男「邪魔だぞ虫ケラ」ガッ
友「ッ――!?」
少女「友さんっ!!」
男「今頃は転がってミンチになっているところだ。馬鹿なやつめ」
少女「あああああああっ!!」バッ
男「!? 貴様、この俺を振り払うとは……」
少女「――ッ」クルッ
男「? ……何をするかと思えば、敵前逃亡か。腰抜けめ……!」ダッ
男と少女はビルの上を駆け巡る。
男「逃げるだけしか脳が無いのかッ!!」ガガガッ!
少女「っ!」ビッ
男「真空波に乗せたライフルの弾の味はどうだ? ん? 大人しく殺された方が利口だぞ! えぇっ!?」
少女(……)
男「チッ……。俺の最も嫌いな事の一つは、”無駄”だ」バッ
ドゴオオオオッ!!
少女「きゃっ!?」
爆音と共に爆風が生じる。
少女(竜巻っ!?)
少女「――!!」
男「ふっ……!」ブゥゥン
少女「なっ、何をするんですか――」
男「そらぁぁっ!!」
男が作り出し、風が集まる点へ投げ飛ばしたのは黒い塊だった。
強風に飛ばされないようフェンスに捕まる少女の上を通過していく……。
少女「…………!」
男「……」
カッ!
少女「きゃあああっ!?」
爆風は突然百八十度向きを変え、少女をあおりとばした。
男「クク……どうだ、この力。世界を支配できると思わんか?」
少女「あ、あぁ……」
男が投げたのは紛れもない爆弾。
町が消滅した。
男「逃げ回るなと言った筈だ。でなければ更に被害がでることになる」
少女(な……なんて人なの)
男「さぁ、恐らく俺達が最後の能力者だ……。決着をつけようじゃないか」
少女「簡単には負けません……!」
男「見よ。俺の能力の集大成だ……」
男「風!」
少女「っ!」シュパッ
男「重力!」
少女「ぁっ!」ビタン
男「空気を圧縮……、そして電撃で着火。発火!」バチ
バガッ!!
男「爆発だけではないぞっ! 俺は全ての現象を支配するッ!!」
少女「やぁぁぁっ!」バキッ
男「そしてお前の攻撃手段……それも意味を成さない」
男「お前の俺が『悪人』だという考え、定義。それに『干渉』して消してやった。お前はべらべらと自分から教えてくれたな? 自分の能力が『悪に対して強くなる能力』だと」
男「つまり、俺が悪人だという考えそのものをお前に干渉しなくしてしまえば……」
少女「うぅ……」
男「お前は俺に決定打を与える事ができなるなる」
×男「干渉しなくしてしまえば」
○男「干渉してなくしてしまえば」
少女(どうして……、この人は『悪』よ! 止めなきゃいけないのに……)
男「遊びは終わりだ!」
ググ……---ンンン
男「どうだ。”ここにある全てのエネルギー”を集めた球体だ」ブンッ
少女「くっ!」バッ
男「弾数制限は無いッ! こいつはいくらでも無尽蔵に作れるのだ!」ドドドドッ
男「発射感覚は機関銃に匹敵するッ! いつまで避けきるつもりだ!?」
バシバシッ
少女「あぐっ……!」
男「はははっ! 捉えたぞ少女ッ!」
少女(私が止めなきゃ……ここで止めなきゃ……)
男「打撃しか攻撃手段が無いのは痛手だったな! ハハハ!」
少女「……止め……なきゃ」
~
友「う……」
友(俺……生きてる?)
友「いっ……!?」
友(肋骨がイッちまったぜ……なんて、ふざけてる場合じゃねぇや、少女!)バッ
友「くっ……マジに折れてんな、こりゃ」
友「……男の奴!」ダッ
友「な、なんだよこれ……町が……」
友「……」
友「……ん?」ピクッ
友「あっちに少女が、いる! なんだ? 少女の”気配”ってやつが……手に取るようにわかる!」
友「それに……さっきのダメージもあまり堪えてない……」
友「もしかして……!」
~
男「ははは……所詮は少女。脆い物だな」
少女「う……ぅ」ボロッ
男「クク……楽にしてやるぞ」ブゥン
男「剣だ。これで今からお前の心臓を貫き、息の根を止めてやろう」
少女「……」ポロポロ
少女「友……さん」
………
……
…
友「少女ーーーッ!! ――ッ男!?」
男「……遅かったな」
少女「…」
友「少女おお!! 男ッ!! お前ぇぇぇっ!!」
男「随分前に終わったよ……。それで? お前は俺の所まで来て、どうしようと言うのだ? 先程確信した。確実に能力者は俺を残して死滅したのだ。俺が勝者となったのだ」
友「ぜってぇ許さねぇ!!」バッ
男「フン」
バキッ!
男「……なにっ!?」
友(通った! よぉぉしっ!!)
友「オラァァァッ!!」ガガガッ!
男「ぐっ……!? なんだこのパワーは、人間の力じゃない……!」
友「男ぉぉっ!!」
男「ええい! 小賢しい!!」ガッ
友「ぎっ!」ズシャッ
男(俺の肉体は自身に干渉してすでに人の限界を超え、少女を軽く凌駕する強さの筈だ……。それがなぜこんな矮小なただの人間に!?)
友「許さねぇ……! お前はずっと俺達を裏切ってたんだ……!」
男「……喚いているがいい」
友「うおおっ!」
男(なぜだっ! 友のスピードを追いきれん!)
友「許さねぇぇえ!!」バキッガスッ
男「……」
男(必要ないと思っていたが……)
男「せっかく習得した事だしな」
友「あぁっ!?」
男「お前は俺を超えられない……友ッ!」
男「『ザ・ワールド』ォ!!」
ギュゥゥゥゥゥン!
友「―――」ピタッ
男「”時”を止められるまでになった……俺は何者にも超えられない」
友「――」
男「友、とんだ蛇足だったが……これでお終いだ」ドゴッ
友「――」メキッ
男「時は、動き出す……」
友「―!!」ドシャアアッ
男「終わった……。この俺に纏わりついてきた”最後の悪あがき”も、これで一貫の終わりというところか……」
友「……」ムクッ
男「なにっ!?」バッ
友(今……何をされたんだ……? くっ、腹が焼けるようにいてぇ……)
男「今、何をした……?」
友「あ?」
男「今、何をしたと聞いている!」
友「さぁな。お前やけに偉そうだけど、本当は大した事無かったってこったろ」ペッ
男「!!」ギリッ
男(減らず口を叩きやがって……!)
男「止まれっ!」
友「…――」
男「ッ!」ズドッ
男「――!?」
男「なんだ……これは!?」
男(得体のしれない……エネルギー体の腕のようなものが、友の体を守っている……! こいつか! 原因は!)
友「ぐああっ!」
ドシャッ
友「はぁっ……はぁっ……。見えたぜ、男」
男「……」
友「時間を止められるのか……、そしてこいつ」
男(あれは、エネルギーが実体を持っているのか!?)
友「あの時、お前が俺達の前に現れたほんの一瞬後。少女からの能力継承はできていたんだ……」
友「これは、その時に生まれた俺の能力」
友「『ソウルモード』!!」
男「……」
男(陳腐な名前だ。しかし……俺の停止した時間の中に入り込んでくるとは……)
男(それに干渉が効いていない……? 撥ね付けられている感触がある)
友「お前は許さねぇ……。少女と、少女の姉さんと! その他にもお前の勝手で死んでいった皆の無念を晴らすッ! この能力で確信した! お前は『悪』だ! そしてお前のしてきた悪行もな!」
男「笑わせるなよ友……。ぽっと出の下級能力者如きが、全ての能力者の素質を喰らった俺に勝てると思っているのか?」
書き溜めが無くなったので今日はここまでとします。腕痛いし…
ちなみにソウルモードについては前に休憩所でのパロっていい?
と聞いたところ、特に反対意見がでなかったので勝手に使わせてもらいました。
イメージとしては友本体も意識あって魂エネルギーも意識持ってて表にでてきてる……
要はスタンドです。
友「……」スゥゥ~
友の体から精神エネルギーの戦士が分離し、男に殴りかかる――
精神体『ハァァッ!』バババッ
男「――突きの早さ比べか……。無駄無駄無駄無駄!」
精神体のラッシュは残像を残すほどだったが、男は全てをさばききる。
友「……っ!」
男「ハッハァ!」ドゴッ
精神体『ぐうぅっ!』
友「がはっ……!」
友(痛みが俺にも伝わる……っ!?)
男「フフ、お前の能力は諸刃の剣だ! 友!」
男は友の能力から生まれた戦士を殴りつけ、その体を数メートル飛ばす。
男「これならまだ少女の方が強かったぞ……! 貧弱、貧弱ッ!」ゴウッ
友(カマイタチか……!?)スパッ
男「そのエネルギー体がお前を守るというなら……、"守れないほど"の攻撃を叩きこめばいい! 時間よ停止せよ!」
ズアッ!
この時、友は精神体の目を通す事で男の作り出した制止空間を認識していた。
友(……! 時間を止めたのか!?)
男は友の周囲に少女を痛めつけたエネルギー球を設置していく……
友(っ!!)
男「この時間停止が終了した瞬間……友、貴様は死ぬのだ」
男「動きだせ時よッ!」
友「――ッ!」
精神体『ウオオオッ!』
時が動き出した瞬間、精神体が飛び出しエネルギー球をいくつか弾き飛ばす。
友(防ぎきれねぇ――)バチッ
エネルギー球は爆発し、友の体を宙に押し上げる。
男「フハハハ! ダメ押しの一発!」バシュッ
飛び上がった男の追撃、
友「――!」
エネルギー球は友に直撃し、炸裂した。
男「……、勝った」ニヤリ
友の体は落下し――地面に叩きつけられる。
友「…」
友(まだ……なんとか、生きてる……)
友(俺が思った以上に、この能力の防御力はたけーみてぇだ)
友(……だが、今度同じ攻撃をもらったらもうもたねぇ。……なんとか隙を見つけて奴に拳を叩きこまねぇと……)
スタッ
友(! ……)
男「死んだか……?」
男「……ここで無用心に近づくのは賢いやり方では無い。死んだふりをしているかもしれないからな」
友(……くっ)
男「どれ、生きているなら呼吸音がするはずだ……」スッ
友(むぐっ!)
友「……」
男「しない……」
友(さっさとあっちを向け……!)
男「……」
男は体を畳み込み、地面に耳をあてる。
男「では、心音はするかな……?」
友(ッ!)
精神体の腕『……』スゥ~
精神体の腕が友の体内に伸び、心臓を掴んで鼓動を止める。
友(ぐ……うぅ)クラッ
男「……」
友「……」
男「……」
友(き、きついぜ……)
男「……」
友(やべぇ……意識が)
男「……」
友(シャレにもならねぇ……、自分の能力で心臓止めて、死んじまったら……)
男「……」
友(し、死んじまったら……)
友(…………)
男「心臓も停止している……、奴は完全に死んでいる」
男「……」ブゥゥン
エネルギー球を薄く引き延ばした平たい剣が男の手に現れる。
男「どれ、念のため首をはねて……完全なる安心を得ておくか」
男「なぁ……? 友……」
友「 」
男「……」ザッ ザッ…
?「……」
男「最後のとどめだ――」グワッ
?「…」バッ
ズドッ!
男「いィッ!?」
突然背後から現れた"半透明な"女性の腕が、男の腹を刺し貫く。
女性『男……っ、覚悟ぉ!』
男(時よ止まれ!)
女性『…――』
男「この能力の波長は少女!? おのれまだ生きていたかっ!」
友「……」
精神体は友の心臓を離し、連続して力を加えていく――
友「……」スゥー
精神体『――!』バッ
男「何ィ!?」
精神体『オオオラァァ!!』バキッ
男「うぐぐ――!」メキメキメキ
男(なぜ止まった時の中で!?)
男「ぐわっ!」バシュゥゥーッ
男は友の精神体に殴り飛ばされ、数メートル吹き飛んだ後車に激突し、跳ね返って地面に転がった。
友「はぁっ! はぁっ! はぁっ! はぁっ!」
友(死ぬかと思った……!)
女性『うぅっ』ドサッ
友「あ、あんたは!? 助かったぜ!」
女性『私です……友さん』
友「え……? もしかして、少女なのか?」
女性『はい、私にも友さんと同じ事ができたみたいです。もう、動けそうにありませんけど……』
友「よ、よかった! 生きてたんだな!」
女性『どうです……? やっつけましたか? あの人は……』
男「うぅ……あぁ」ズリ…
友「……野郎」
女性『く……、だめです。この体ももう、動かせそうにありません……』
友「無理するな、少女。……まってろ、今…かたをつけてくる」
男「こ、殺してやる……」ガクガク
男「!?」ガクッ
男「……!?」
男「なんだいったい……、足に、力が、入らん……っ」
男「頭痛がする、吐き気もだ。ぐくっ、……何て事だ、この俺が、気分が悪いだと……? この俺が」
男「あの友に頭を破壊されて……っ、立つ事ができないだと……!?」
友「……」ザッ…
男「はっ……!」
友「男、てめぇは許さねぇ。覚悟しな」
男「……」
友「……」
男「……クク」
友「…?」
男「ククククク……ハハハハハ!!」
友(何を笑ってやがる……?)
男「世 界 ッ !」ズアッ
友「!? このやろ――」
精神体『!』スカッ
男「くっくっ……能力で操った車だ」ガシ
男「時は、動き出す!」ビュン!
男「くっ……」ズザザザザザザザ
男(あの場所へ……、あの場所へ行きさえすれば……ッ!)
ヒュィィィィ!
男(瓦礫だと!?)
男を追って飛来した瓦礫は、男の掴まっていたバンパーを吹き飛ばす。
男「ぐわっ! ぐぅぅ!」ゴロゴロゴロ
地面を転げまわった男は、目の前のマンホールに手を伸ばす。
男「あの場所へ、あの場所へ行きさえすれば……」
ガンッ!
友の足がマンホールを踏み潰していた。
男「……」
友「鬼ごっこはおしまいだ」
男「……」
友「観念するんだな、男」
男「ッ! 時よ止まれ、ザ・ワール――」バキッ!
友・精神体『ウオオオアアアア!』ズドドドドド
友「お前の"我儘"に、どれだけの人が傷ついたと思ってる!!」
精神体『ハァァァッ!』ドグシャァァッ
ボコボコに殴られた男は血を撒き散らしながら後方へ殴り飛ばされる。
男「かかったな友! これが俺の狙いだ! この通りに見覚えは無いのか!? お前の目にはどこも同じに見えるのかッ!」ヒュゥゥゥ
ズドォォォン……
友「!? こ、この通りは……。まさか!?」
シュゥゥゥゥ…
男「…そうだ」
男「少女の力を直に吸収する為の、逃走経路だ!」
友「……てめぇ!?」
男「前々から考えていたのだ、元から最強の素質を持っていたこの女は、よい魂と血を持っていたぞ友よ。この女の血を我が肉体に吸収した事で、俺は更にパワーアップした」
友「――!」ギリッ
男「神からこのバトルロワイヤルの説明を聞いたとき、他の能力者は本当に邪魔に思った。特にお前等自称正義の味方はな」
男「特にお前等二人というものは、我が運命の路上に転がる犬のクソの様に邪魔なもんだった……」
男「だが結局最後はこの俺に利用される運命だったという訳だ。フハハハハ!」
友「ゆ、許さねぇ……!」
男「フン、何を寝言を言っている? 見ろ」ズド
男の手が少女の腹に突き刺さり、みるみるうちに少女は血を吸い取られ……しぼんでいく。
友「少女!」
男「この少女がいる通りまで連れてきてくれたのは友、お前だ。皮肉なもんだな、くっくっ」
少女「――」
男「――しぼりかすだ、お前もこうなる」
友「…ッ!」
友(こんな所を見せられて平気でいられる奴はいねぇ……!)
男「……」ニヤ
友(男……、お前だけは絶対に許さねぇ!)
男「フフフ、最終ラウンドだ。行くぞッ!」
友は男に向かってとびかかる。
男「ザ・ワールド! 時よ止まれィ!」
友「……!」ビタッ
男「先ほどは一瞬だけ制止空間の中を動けたようだが……こんどはそううまくいくかな?」
友(おおおっ!)
精神体『ウオラァ!』
男「……フッ」
男とエネルギーの戦士は空中で肉薄する。
その殴り合いを制したのは精神体の方だった。
男「ぬぅっ!」ガッ
友「――ォオオオ!!」
ニ発、三発……男の体に拳撃を浴びせていく。
精神体『オオ…――』ググ…
男「どうやら動ける時間はそこまでの様だな、くっくっ」
男の体は殴られた衝撃で落下していく……しかし依然、時は止まったままなので友の体は空中で停止したままだ。
男「大したもんだ友、随分と動ける時間が延びたじゃないか……」パシッ
男の手がビルの壁面を掴む。
男「――だが、まだまだパワーを感じる」
男「……まだまだ時間を止めていられるぞ?! この俺はーッ!!」グォォォ
停止時間が解除される。ビルを蹴った男は友に攻撃を仕掛ける、
友「…――ぉおおおお!」
男「少女の血のお陰だ、フフフ!」ビュッ!
友「……」パシッ
男「最ッ高に、ハイッて奴だァーッ!!」
精神体『!?』
友(防御が崩され――!)ズドズドッ!
友「……ぐふっ」ドロ…
男は友の背後から蹴りを叩き込む。
友「ぐああああっ!」
友は吹き飛び電工掲示板を突き破る。
男「能力エネルギーもはちきれそうだーッ!」
友(が、ガード……)
男「無駄無駄無駄無駄無駄ァーッ!」
再び蹴り飛ばされた友は川まで吹き飛び、水面を水切りの石のようにはねていく。
友(ぐぅぅ……か、身体中がバラバラになりそうだ……)
川の中央付近で沈みはじめた友に影がささる……
男「……」
果たしてそれはボートを担び飛んで迫る男だった。
友「……?!」
男「沈んじまえよ! おぉうらぁっ!」ブンッ
友「ぐ…」ズバシャァァッ!
ボートは友を押しつぶしながら沈んでいく。
友(……)
友(動けない……、勝てないのか? 俺は……)
友(少女……)
男『しぼりかすだ』
友(……!!)カッ
男「……む?」
水面から半分ほど顔を出していたボートが粉々に砕け散る。
そして水の柱を伴って友が姿を現した。
友「――ッ! 男ォォォォ!!」
男「しぶとい奴め……クク」ダッ
破片を伝い、男は友へと向かう。
男「フフフフフ、ハッハッハッハッハッ!」
友「!?」ズドッ
友は男の拳を受ける、その攻撃は余波だけで友の周辺にあった水の柱を気体に昇華させた。
―避難所
おっさん「いったい何が起こってるんだ……」
子供「だから見たんだってば! 悪者のお兄ちゃんとヒーローのお兄ちゃんが闘ってるんだよ!」
母親「馬鹿な事言わないの!」
ドゴァァァァッ!
女「きゃぁぁぁ! なに!?」
男性「何かが飛んできたぞ!!」
友「うぐ……」ボロ…
子供「あっ! ヒーローのお兄ちゃんだよ!」
ギギギギ…
続いて現れたのは友が突き破った避難所のシャッターを押し広げて現れた男である。
子供「悪者だ! 悪者の奴だ!!」
ザワザワ…
友「く……」
男「もう動けんか?」スッ―
おばあさん「…」バッ
男「…?」
おじいさん「あ、あんたが町をこんなにしたのか!?」
女「あたしの携帯壊れたじゃないの! 弁償しなさいよ!!」
子供「ヒーローに近づくなぁ! 悪者め!」
男「…」
友「!? やめろ、そいつに近づくんじゃな――」
男「邪魔だぞ虫けら」ブン
腕の一振り。それだけで辺りは血の海に変わる。
キャァァァァァ! ヒィィィィ!
おばあさんの頭部「 」ボトッ
子供の足「 」ドシャッ
男「クックックッ……」
友「~~~~ッ!!」ブチッ
友「うわああああああッ!!」
男は避難所から吹き飛ばされる。
精神体『ハァッ!』バキッ!
友「……」バッ
友は精神体の足を使い、一気に数十メートルの距離を跳ぶ。
狙う先では男が体制を整えていた。
男(駐車場か……)
男「ふっ」ズドッ
…ギギギギギギ
男「ワゴン車だ、そこそこの威力だぞ友」ブンッ
友「……!」
友は空中で身をよじって巨大な砲弾を避ける。
次いでトラックが飛来する。
精神体『!』ガッ!
トラックを足場に友は横に跳ぶ。
そこにはちょうど、この町の名物である石造りの記念塔があった。
友(ここは……! 俺が少女に告白した所……)
男「ハハハ! いい感触だぞぉ? この力のみなぎりッ!」
友「……」ギリッ
精神体『オオオオオッ!』
男「!?」
エネルギーの戦士は石の塔を根本から折っていく。それを掴み上げ――狙う先は空中からこちらに向かう男だ。
精神体『ハァァァアアーッ!』ブゥン
回転する石の塔は真っ直ぐ男に向かっていく。
男「ハッ!」
ズガガガガガガッ!
男は拳と蹴りを駆使し、真っ向から記念塔を粉々に破壊していく。
塔が半ば程までへったと同時に、友が塔内部から壁面を突き破って姿を現した。
男「!?」
友「……」スゥ~
精神体『ウォォオッ!』ズドズドズド
戦士に塔を投げさせ、友は内部に潜んでいたのだ。
友「おおおおおっ!」
男「フン」
精神体の連続の突きは、いともたやすく男に振り払われる。
友「!?」
男「無駄な小細工ゥ!」
男の蹴りを友は自身で受けざるを得なかった。
友「……!」メキメキ…バキッ
男「――!」
石の塔から友の体が投げ出される。
墜落した先は半分崩壊したハイウェイだった。
精神体が友の体を包むようにして落下の衝撃をやわらげる。
男「……最後の闘いに相応しい相手だったぞ友。今までで一番楽しめた相手かもしれん」
友「……っ」ズザザッ
男「――だが! ウォーミングアップはもう十分だ友! 正真正銘! 最後の時間停止だ――」
男「ハハハハハ!」ズァッ
…シン
友(…………)
友(男が姿を現さねぇのは気になる。だけど関係ねぇ、俺は動ける時間。その間に能力で拳をたたき込む、それだけだ)
友(……次の瞬間に勝敗を決する)
……
…………
………………
友「……!」
友を中心に影が広がっていく……
上空にはある物を持って来た男がいた。
男「タンクローリーだッ!!」
友(あれで潰す気か――)
精神体『――アアアアアアアッ!』ズドドドドドドド
エネルギーの戦士はパンチのラッシュで落下してくるタンクローリーを押し返そうとする。
男「――!」バッ
男「無駄無駄無駄無駄無駄無駄!」ズドドドドドドド!
友「……」ガゴゴゴゴゴ
徐々に…
友「…………!」ガガガガガッ
タンクローリーが下へ降りてくる。
男「ぶっ潰れろ……!」ゴ ガ ガ ガ ガ ガ
男(終わりだ友! 時間停止解除ォ!)ヒュッ
男がタンクローリーから離脱した次の時間、時の流れが戻ると同時にタンクローリーが爆発した。
ハイウェイの中央で火の柱があがる。
スタッ
男「ついにやった……」
ゴォォォォォ…
男「他の能力者共を根絶やしにしたのだ」
男「とるにたらん人間共よ、支配してやるぞ? 我が力の前にひれ伏すがいいぞ」
男「フフフ、ハハハハハ! ハッハッハッハッハッ!」
ゴォォォォォ…
男「フッフッフ、ククククク」
ゴォ ォォォ ォ
男「ハハハハハ」
ゴ ゴ …
男「ハハハ……ハ?」
ピキッ
男「!?」
男(な、なんだっ! 体が……体が全く動かん!!)
男(炎の燃焼も止まっている……。!? "止まって"いるだと!?)
「どうやら、動ける時間はそこまでの様だな……」
男(な……)
友「……」ザッ
男(何ぃ!?)
友「俺が時を止めた」スタスタ
男(友……!)
友「オラァ!」
精神体『!』バキッ!
男(ぐぬっ!)
友「時は……動き出す」ブワァッ
男「ぐわぁぁぁ! ぐぅぅ…」ズシャァァァ
友「終わりだ男。今のでお前の両足は完全に折れた」
友「だがこのままお前をなぶって殺せば、俺の心に後味のよくねぇものが残る」
友「今のお前の全力を撃ってこい、それと同時に俺もこの能力をお前に叩き込む。かかってきな」
男(く……コケにしやがって……)
男「なぜだ友……、なぜお前が時間停止を使える!?」
友「……冥土の土産に教えてやるよ。俺の能力」
男「お前の能力はその戦士を戦わせる能力だろうが!」
友「違う、俺もさっき気付いたんだけどな……。俺の能力は『仇を討つ能力』だ」
男「…!?」
友「お前が少女を殺した犯人である限り、俺はお前に負ける事はねぇ。分かったろ、そろそろケリつけるぜ」
男「ま、待て!」
男「もういい、これ以上やっても俺はお前に適わない……」
男(あり得るはずが無い……俺より優れた能力者など!)
男「俺と組もう友! 俺たち二人なら世界を支配できる。そうだろう?」
友「なにいってやがる!」
男(この俺の干渉能力にかなうものなどいないのだ……)
男「し、少女だって生き返らせてやる! 俺の能力なら可能だ!」
友「いい加減にしろ! お前はっ!」
男「ま、待て! 降参だ、助けてくれ! ヒーローが無抵抗の者を殺すのか!?」
友「……このっ」
男(友の背後に銃を召喚……クク、殺してやる)
男「も、もう悪い事はしないよ……本当だ!」
友「…………」
男「ゆ、許してくれるのか……?」
友「分かった、お前が悔い改めれば"何もしない"……だから、さっさと行け」
男「へへ……ありがとう、お前はやっぱり俺の友だな」
友「……」ギリ
男(クク……後味が悪い? そんな便所の鼠のクソのような考えにとらわれているからお前は負けるんだよ、友)
男(情け、思いやり、そんなものはこの俺には無い! あるのはたった一つのシンプルな考え、勝利して支配する。それだけだ……)
友「さっさと行け……」
男「あ、ああ……」
男(油断したな?)
友「……」
男「勝った! 死ね――」ガシッ
男「あが……ずっと俺の背後に……?」メキメキ
精神体『……』
友「最後までクズだな……お前は」
男「ならば! このエネルギー球で――」バッ
友「――ッ!」グオッ
友・精神体「「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」」ドゴドゴドゴドゴドゴドゴ
「「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」」ドゴドゴドゴドゴドゴドゴ
「「wryyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyy(ウリャーー!!」」
友「無駄無駄無駄!」ドド
精神体『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!』ドドドドド
「『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄』」ズドドドドドドド
男「ヤッダー! バァアァァァァアアアア!」
友・精神体「『無駄ァアアアアア!』」
友・精神体「……」クルッ
ゴミ収拾車「 」男ミ
ドグシャァ!
友「終わった……少女」グッ
友「……」
友「…………!?」
友「時が……止まっている!?」
友「男っ!?」
友「いや……完全に倒した。ならこれはいったい……?」
神「おめでとう、君が殺し合いの勝者か」
友「あ、あんたは?」
神「私は能力者に能力を与えた神だよ」
友「神……」
神「さて……勝者の君にはご褒美が与えられるが、能力を一生使えるようにする――これは君には意味が無いな」
友(あいつ限定の能力だもんな……)
神「そこで、君の願いを何でも一つかなえてあげよう。どうかな?」
友「願いを一つ……」
友(少女……)
神「フフ、すでに意思は定まっているようだ。さ、願いをいいたまえ」
友「…………」
神「ん? どうしたかね?」
友「この世界を……能力者が現れる前に戻せるか?」
神「……可能だが。まさかそれが願いなのか?」
友「ああ」
神「驚いた、私はてっきりあの少女を生き返らすよう頼むと思ってたんだが」
友「世界が戻ったら、少女も生き返るさ」
神「それはそうだが、分かっているのか? 時が戻れば、お前と少女の関係も消滅し……接点すらなくなるぞ?」
友「分かってる、けどこのまま少女だけを生き返らせてちゃあいつに怒られちまうしな」
友「この能力者どうしの戦いで死んだ全ての人を救いたいんだ」
神「……」
友(大丈夫……、もし過去に戻って、少女とは赤の他人になったとしとも、必ずまた……)
神「では、その願いをかなえるぞ、時が戻るという事の意味……理解しているな?」
友「あまり時間をかけると心変わりしちまいそうだぜ!」
――
そして、世界は能力者達が現れる以前に戻った。
pipipipipi
友「う……朝か。何だか長い夢を見ていたきがする……」
友「……」
友「!? ……夢じゃ、ない!」
友「いってきまーす!」
<キョウハガッコウヤスミヨー?
―記念塔広場
友「はぁはぁ……ひぃ」ゼェゼェ
友「……」キョロキョロ
友「…………はぁ」
友(いや、早すぎただけかもしれねぇし)
「友さんっ!」
友「!」
―天界
神「ふむ……今回は、いくつか面白い能力が手に入ったな」
神「特に逸脱なのは干渉能力。これで次の主神の座をめぐる争いでも、心配は無さそうだな。フフフ…」
神「我ながらいい知恵だったな、下界の人間に能力を閃かせ、磨かせ……そして回収する」
神「それにあの三文芝居は暇潰しにもなったしな」
神「さて……、残る仕事は神の座を狙う愚弟の始末だけか……」
?「代わりにやってやろうか? その始末」
神「!? 誰だ!」
?「干渉能力が逸脱だという意見、賛成だ。魂だけの状態でこんな所にまでこれたしな」
神「まさか…貴様は……」
?「代わってやるよ」
?「――カミサマよ!」
―end―
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません