P「スタンドのある世界?」 (49)
春香「プロデューサーさん、お疲れ様です!」
雪歩「プロデューサー、お疲れ様です」
P「あぁ、二人ともお疲れさん。もう、夜も暗いから気を付けて帰ってくれよ」
「「はーい」」
デスク越しに二人を見送って、再びパソコンに向き直る。
今日は彼女たちで最後だ。このオフィスには自分以外もう誰もいない。
なんということはない、休日というだけである。
今日仕事が入ったのは、自分が担当している二人だけであった。
社長も律子も小鳥さんも、今日はゆっくり羽根を伸ばせているだろうか。
小鳥さんだけに
…だめだ、仕事に集中しなければ、ここにいる意味がない。
邪念を払うため、コーヒーを飲もうとカップに手を伸ばしたときだった。
コンコンっ
出入口の方からノックする音が聞こえた。
「どうした、忘れ物か?」
春香か雪歩だろうと思い、声をかける。だが、入ってくる気配は一向にない。
一定間隔をおいて、ノックを繰り返すのみだ。
だれだ? いたずらだろうか。
立ち上がって、出入口を覗いてみると扉はしまったままである。
扉に、はまっている窓に人影は写っていない。
なんだ、やはりいたずらか。
しかし、また扉からノックの音が聞こえる。
性質の悪いやつの仕業だ。きっと、扉の外でかがみこんでいるに違いない。
ひょっとすると亜美、真美かもしれないな。
足音をたてないように、扉へ近づいていく。
あと、扉まで一歩のところで、一定間隔で聞こえていたノックが途絶えていることに気が付いた。
耳を澄ませると、背後でコトッという音が聞こえた。
振り返ろうした瞬間、背中を固い何かによって、勢いよく突き飛ばされる。
扉に叩きつけられ、後ろから押さえつけられた瞬間、目の前が真っ暗になった。
そして、自由落下しているかのような感覚が体の周りを包んだ。
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気が付いたとき、自分はその場で倒れこんでいた。
ゆっくりと起き上って、スーツに付着した埃を払う。
いててっ、鼻血でていないか。いったいなにが起きたんだ。
ようやく、落ち着いてあたりを見回すと、部屋の電灯が消えていることに気が付いた。
ふらふらと廊下を進んでいき、スイッチを入れた。
自分のデスクを見ると、段ボールの箱が机の上におかれていた。
その代り、普段立てかけてある書類も、ついさっきまであったカップもない。
な、なんだこれは…。というか、パソコンはどこへ行った。
あれがないと仕事にならないじゃないか。
俺は、しばらく呆然と立ち尽くしているよりほかなかった。
ガチャ!
扉が開く音が聞こえた。
振り返ってみると、そこには小鳥さんが立っていた。
目を見開いて、驚いた様子で口元を抑えている。
P「こ、こんばんわ。小鳥さん。」
首もとに手をやって、苦笑いを浮かべる。
小鳥さんは、俺の頭のてっぺんから、つま先まで目を往復させた。
それから、頬を赤く染めて、絞り出すような声を出した。
「ぷ、プロデューサーさん…?」
「え、えぇ、鼻血が出ちゃってますけど」
「ううっ、ゔゔわぁぁぁぁぁぁぁ…」
小鳥さんはその場で崩れるようにして、泣き始めた。
次はいったいなんだっていうんだ。
いそいで、近寄って小鳥さんに声をかける。
「どうしたんですか! 大丈夫ですか?」
「ひっく、ひっく…ううゔ」
小鳥さんの様子はいつも怪しいが、今度はなにかマジにやばいようだ。
泣いている小鳥さんなんて、一度だってみたことがない
とりあえず、彼女が落ち着くまで一緒にいる必要があるみたいだ…
ひとまずソファに座らせた小鳥さんに毛布を掛ける。
彼女の体はがたがた震えていて、ひどく弱っているようにみえた。
ひとまず彼女が落ち着くまで、とりあえず自分の机の整理をすることにした。
机の上に置かれていた段ボールの箱の中身には、自分の所持品が一式入っていた。
とりあえず、元の場所に戻していくことにした。
一体なにが起きているんだろうか。
ひとまず考えられるのは、これはすべて悪い夢だったということだ。
だが、これはない。ただの自分の願望だ。
次に考えられるのは、泥棒に入られたということだ。
おれはノックアウトされ、そこを目撃した小鳥さんもなんらかの被害を受けた。
だが、なぜおれの荷物を段ボールに詰めるのだ?
他にとられたものはないようだし、俺の私物が目的だったのだろうか。
…考えるのはよそう、小鳥さんもいつの間にか泣き止んだようだ。
「小鳥さん、落ち着きましたか。」
ココアを用意して、小鳥さんに渡す。彼女はおずおずといった風に口元へ運ぶ。
ちょっとだけ口へつけると、テーブルの方へカップをおいて、おれの正面へ向き直った。
彼女の表情は決然とした風であった。
「プロデューサーさん、ですか?」
首をかしげて、答える。
「はい…?」
「本当にですか?」
「そうですよ、鼻血のせいでそうは見えないかもしれませんが」
小鳥さんはおれの両肩に手をそっと置いた。
「私もそう思います。ですが、確かめなければいけません。敵スタンドの可能性がある以上は…」
「てきスタンド?新しいスタンド(光るアレ)ですか?」
「そうです、961プロのスタンドもすべて把握したわけではないので…」
「?どうしてそこで、961プロがでてくるんです?」
小鳥さんは急に息を詰まらせた。
「それは…プロデューサーさんだって…それで」
「おれがなんです?」
なにかかがおかしい。おれの知っている小鳥さんではない。
恐怖と焦りに追い立てられるようにして、催促した。
「プロデューサーさんだって…ころされたじゃないですか…」
頭の中が真っ白になった。
おれが死んだ?馬鹿な、生きている。小鳥さんは何を言っているんだ。
だが、小鳥さんは依然として真剣な表情をしている。
「だからこそ、確かめる必要があるんです。私の知っているプロデューサーさんかどうかを」
小鳥さんは毛布を傍らに置いて、立ち上がった。
「見せてください、プロデューサーさんのスタンドを。そうすれば、私も信じます」
あぁ、これは夢だ。
ありえない、小鳥さんがこんなことを言うなんて
いままで、765プロの仲間として精一杯やってきたのに。こんなのはあんまりだ。
おれの頭は混乱を極めていた。
もう、どうしたらいいのか分からない。
もう彼女の言う通り、おれの家にあるスタンドを見せてやろうか。
それで、正気に帰るなら、それで十分だ。
おれは黙って、出口へむかう。
後ろから、なにか呼びかける声が聞こえたが無視をした。
おれは憔悴しながらも、帰宅することにしたのだ。
帰宅途中、足はまるで義足のようであった。地面からの衝撃が感じられない。
ただ、夜風にあたって頭が冷えてくるにつれて、希望が心の底から芽吹いた。
いや、違うんだ。
あれはただのドッキリなんだ。そうだ、今日、他のみんな休んでいたのもそのためだ。
明日にはみんなが居てくれる。きっと、おれのことを笑ってくれるに違いない。
小鳥さんも謝りながらも笑ってくれる。
おれが961プロの妨害に遭っているときも、765プロのみんなで支えてくれた。
どうして、おれはそんなことまで忘れてしまったんだ。
伊織には演技も見抜けないようじゃ、だめとダメ出しされるだろう。
やよいとはハイタッチをして元気をもらいたいなぁ。
そんなことを考えているうちに、家の前に着いた。
それは普段と変わらぬ家だった。
唯一つ、玄関の前で、春香が立っていることを除けば。
おれは思わず面喰ってしまった。
家は知っていてもおかしくはない。何度か送り迎えしているうちに、家を途中で寄る機会があったからだ。
だが、今夜のことが頭の中をもたげたのだ。
おれのことを笑ってくれるだろうか、まさか春香もおかしくなったってことはないはず、だ。
一歩一歩近づいていくうちに、心臓の鼓動が早くなっていくのが感じられる。
おれは祈るような心持ちで、春香の前に立った。
「や、やぁ春香、どうしたんだ」
いままでじっと俯いていた春香はすくっと顔を上げた。
そして今度は、もっと頭を下げた。
「ごめんなさい、プロデューサーさん。全部私のせいなんです。」
おれはほっと胸を撫で下ろした。やっぱりドッキリだったんだ。
春香は罪悪感から、謝ってくれた。なんだか気が抜けてしまった。
「いいんだよ、気にしないでくれ。春香が謝ることじゃない」
春香は首を振っておれを見上げた。
「プロデューサーさんを混乱させてしまった、スタンドのことも全部話します。」
「あ、ああ。どこで話そうか、おれの家はまずいかな」
春香の頬がさっと朱に染まった。
「い、いえ。誰も見ていないですし、大丈夫だっ…だと思います」
おれはすっかり安心しきった風で、春香と家に入ったのだった。
「…お邪魔しまーす。」
「ああ、適当に寛いでくれ、ってそういう時間帯じゃないな」
おれと春香は向かい合わせの椅子に座り、春香はゆっくりと口をひらいた。
「プロデューサーさんは、たぶん超能力だとか霊だとかは信じていないと思います」
「うん、そうだな」
「小鳥さんが言っていた『スタンド』というのはその一種だと考えて下さい。それはほとんどの場合、一人につき一体宿ります」
「そんな話きいたこともなかったな、若い子の間で流行っているのか」
「そちらの世界では漫画になっているようですね。だけど、こっちでは違うんです」
「んっ、どういうことだ」
「平行世界というのは聞いたことがあると思います。簡単にいえば、もしもこうだったらどうなっていたのかという可能性の分岐です。
つまり、プロデューサーさんは『スタンドの持っていない世界』から『スタンドの持っている世界』にきてしまったのです。
試しに違う世界の春香さんを連れてきますね」
有無いわさず、春香はそっと立ち上がって、テーブルの上の新聞紙を手に取り、頭からかぶった。
そして、彼女の姿はどこにも見えなくなったのだった。
春香が消えて、数十秒たったか、数分たったかは分からない。とにかく、おれは空っぽのペットボトルのように惚けていたのだ。
再び彼女は現れたとき、思わず椅子から一歩も動けなくなった。
目の前に春香が二人いる。
左側の『春香』はおれを見て一礼をした。右側の『春香』はおれを見ていった。
「プロデューサーさん、お願いです。信じて下さい。」
左側の『春香』もおれに続けてこう言った。
「私からもお願いします。この世界の春香を信じてあげて下さい」
おれはおかしくなってしまったようだ。
この光景はどうみてもおかしい。現実的じゃないはずだ。狂人の夢だ。春香はおかしくなっている。
なのに、おれは春香を信じたいと思った。
この世界とかあの世界とかどうでもよくて、ただ今二人いる春香を傷つけたくないと思ったのだ。
おれは二人の春香にいつもどおりにこたえようとした。
震える足を無理やり地に着けて、椅子から立った。
「おれは春香を信じてるよ」
春香が泣き崩れたような笑顔になった、それだけで言った価値はあると思った。
それから、春香は新聞紙を拾い上げ、もうひとりの春香にかぶせた。
現れた時と同じように、彼女の姿はなにごともなかったように消えた。
また、二人の空間になったのだ。
おれはこの虚な沈黙を打ち破った。
「その、スタンドで平行世界に飛んできたとして、なんでおれなんだ?」
春香はしばらくためらった風であったがこたえた。
「この世界のプロデューサーさんが、亡くなったからです。それでみんなが…ばらばらになったから」
続けて質問を重ねる。
「スタンドは一人に一体といっていたが、おれをこの世界へと飛ばしたスタンドの持ち主は誰なんだ、春香」
口ぶりから予想はできていたが、これは聞かなければならない。そして、これは目の前の彼女が春香だという証にもなるだろう。
「…私です」春香は俯き、ほとんど消え入りそうな口調でこたえた。
「ありがとう。それでみんなはいったいどうなったんだ?」
春香は戸惑った様子で口ごもった。
「あの、怒らないんですか」
「驚かされたけど、怒ることじゃないと思った。それにまだ、この状況をよく呑み込めていないんだ。
だから、教えてくれ、春香」
春香は驚いた様子を一瞬見せたが、すぐに真面目な口調でこたえた。
「は、はい。その…プロデューサーさんが亡くなったのは三日前になります。
そして、社長がそのことを私たちには不慮の交通事故だと伝えたんです。」
ふっと小鳥さんの言葉を思い出した。
「確か、小鳥さんはおれはころされたと言っていた気がするんだが」
春香は頷いた。
「はい、社長なりの思いやりだと思います。本当のことを知っているのは社長、小鳥さん、律子さんぐらいだったんだと思います。
でもそれが、火に油をかける行為になってしまいました」
「一体どうしたんだ?」
「伊織は本当のことを知っていたんです。伊織はプロデューサーさんに気を配っていたようでしたから、自然と耳に入ったのでしょう。
社長の言葉で、激昂しました。『プロデューサーをころした犯人をどうして隠すの』と、伊織の目にはなあなあにごまかそうとしているように見えたんでしょ
う」
「…そうか、続けてくれ」
「実際は、プロデューサーさんはひき逃げをされたんです。千早ちゃんと歩いているところを」
「えっ、千早がいたのか?無事なのか」
思わず聞き返した。
春香はじっと押し殺したような声で言った。
「車にはかすった程度でした。でも、千早ちゃんはそれ以上に…」
そこで春香は話を止めた。何度か深呼吸をして、話をつづけた。
「心に傷を負ったんです。それから、千早ちゃんは、右腕をかきむしるのをやめないんです。爪が血で真っ赤になってもやめないんです。
力づくで止めると『私が生きているのが悪いんだから』と言って怒りながら泣くんです…」
春香の目から涙がぼろぼろとこぼれ、春香はしゃっくりあげるように呼吸をした。
話しを聞き終わったあと、春香はソファの上で昏々と眠りについた
新品だと思われる布団を上からかけて、その部屋の電気を消した。
その部屋を後にして、ベランダに出た。
…おれには元の世界でやりたいことはたくさんある。
あの子たちをトップアイドルにするのはもちろん
その為にいろんな仕事をして、あの子たちが成長していくさまを見てみたい
だから、この世界は『寄り道』程度にしか考えていなかった
だが、春香の話は、おれをひどく動揺させた。
彼女たちは屍に押しつぶされそうになっているのだ、ほかでもない自分のせいで。
春香がおれをこの世界へ連れてきた理由も、分かった。
この世界で、やりたいことが生まれた。
でも、それはきっと、寄り道では済まない。
劇裏
P「春ぅ香~、どこだ!」
春香「ここにいます」ドジャーン
千早「」
P「布団の中から出てくるって、どんなマジック?」
春香「それが私のスタンドの能力です」
P「とんでもない幽霊に取りつかれているんだな」
春香「きっと、挟まるのが好きだったんでしょう」ごそごそ
P「胸元はだけさせんの、やめてくんない」
春香「体と服の間って、ちょっとしたコスモですよね」グギギ
P「ああ、特にあずささんはすごいよな」ハナセ
千早「私は」
P「千早は正直怖かった」
春香「ホルス神ですもんね」
千早「あの、そうじゃなくて」
P「口から氷とかださなくて、本当によかった」
春香「アオイイイイイイイイイイトリイイイイイイイイイ」
P「ペットショップは、はやぶさなんだよなぁ」
春香「時速390kmで飛べるらしいですよ」
P「千早すごいな」
千早「私の谷間はコスモですか」
P「空気抵抗がないという共通点が」
千早「キョオオ~~~~ン」バサバサ
春香「ところで、なぜわたしがこのスタンドなんでしょう」
P「それは君が…君が閣下だから」
春香「興奮してきました、服を脱いでください」
P「ほんと、好きだな」
おわり
≫31
仰る通りです
自分勝手でした、すいません
プロデューサーが死んだのが原因で、千早は傷つき、自傷行為に走りました
Pは春香の話を聞いた時点で、罪悪感を持っていました
それで、助けに行ったわけですが、自分の行為が彼女にとって救いなどではなく逆に彼女の心を傷つけた
ことに気づかされた、というのを理由にしました
元の世界のPと千早の会話などから、Pが千早をどう思っていたのか描写すべきだったのかもしれません
ご質問、本当にうれしいです。また、変なところがあったらご指摘ください
「いやぁ、街中で低体温症になるなんて、そうそうありませんから驚きました」
ベッドの隣に立つ医者が、禿げ上がった頭を掻きながら言った。
「いったい、どうなさったのですか」彼は覗き込むようにして、尋ねる。
「いや、はははは…、実際、私もよく覚えていなくて」
ひきつった笑みを浮かべ、答える。
まさか、幽霊に氷漬けにされてました、などと言えるはずもない。
「水風呂にでも入っていたのですか」
「冷たくて、気持ちいいですよね」
「それとも、プール?CMでやってた気化冷凍アンチエイジング?」
「分 か る わ 」
:
:
のらりくらりと逃げ回るおれを見て、その医者はやれやれと、肩を竦めた。
「まあ、今日一日、お休みになってください。明日には退院できるでしょう」
そういって彼は病室から去って行った。
夕陽が差し込む部屋の中で、質問攻めからようやく解放されたおれは、さっきまでこの部屋にいた千早を思い出すことにした。
彼女は、元の世界の千早であると予想している。
見たところ彼女の右腕は健康そのもので、今朝のことを聞いても、『765プロへ向かうところでした』と答えるのみであったからだ。
おそらく謎の鍵を握っているのは、天海春香である。
そしてこの世界の千早が何も知らないところを見ると、あの世界の彼女でなければ意味がない。
だが、平行世界にいる彼女と出会う方法なんぞ聞いたこともない。
ターミネーターだって過去に行ったきりだ、凡弱たる人間に次元の壁を越えよとは無茶な話である。
バスッと真っ白な枕に顔を埋めること数分、ドアをノックする音が聞こえた。
…んごごごすー…んごごごご
どうせあの医者が、また質問攻めに来襲してきたのであろうから、不貞寝を決めるつもりである。
ガラリと、扉の開く音がする。
そこから小さな足音が近づいて、すぐ隣で立ち止まった。
ほら、そのままおかえり。
「こんにちは、プロデューサーさん…」
「フガっ!?」
その声を聴いて、全身から冷や汗が一斉にふきだした。
「起きていますよね」
恐る恐る顔を持ち上げると、病室にはいってきたのは天海春香、その人であった。
いや、春香なのはいいんだ、
この春香はどの『春香』という話である。
ややこしいことに、今のところ三人の『春香』を知っているのだから。
「誤解のないように言っておきますね。
『わたし』はもともとのここにいる天海春香です」
今、掛け値なしに、心臓が数拍の間、止まった。
「…って、って、なんで春香がそんなことを知っているんだ!」
彼女は自分のぷっくりとした唇にすっと人差し指を当てた。
「あまり、大きな声をだすと人がきちゃいますよ。
…それはですね、あの世界の彼女が異なる世界に来るとき、彼女はその世界の『わたし』と記憶を共有するんです。それも、彼女のスタンドの能力」
『春香』は屈みこむようにして、顔を近づけてくる。
彼女の、焼いたクッキーのような甘い吐息が、耳もとにかかる。
「プロデューサーさん、どうか彼女を見損なわないで、あげてください。
彼女は今でも助けを必要としています。
もし彼女が救われれば、ほかの平行世界の『わたし』も救われます」
彼女は、おれにしなだれるようにして、囁いた。
おれの頭はまた、混乱し始めていた。
「春香、ほかの世界の『わたし』も救われるって、どういう意味だ? それに今の春香は…」
春香らしくない。
そう言葉をつなげようとしたが、『春香』はすでにおれから離れて、病室から出ようとしていた。
「プロデューサーさん」
背を向けて、静かに彼女は言った。
「な、なんだよ」
「………ありがとう、ございました」
彼女はそう言って、来た時と同じく、嵐のように突然去っていったのだった。
とりあえずここまで
布団の上で、おれは思わず握り拳をつくった。
『ありがとうございました』ってなんだ。
礼を言われるようなことはしていなかったはずだし、あの言い方はひどく不愉快だった。
こうなったら、引き留めてでもすべて話してもらう、そう決意し
慌ててスリッパを履き、点滴スタンドを片手に握りしめて、部屋を飛び出した。
だが、廊下には、人っ子一人歩いていなかった。
一瞬気後れしたが、慌ててエレベーターのある方向へ駆けだしていく。
見ると、2台のエレベーターのうち一方が一階に着いている。
そして、もう一方が、ちょうどこの階へ到着するようだ。
はやく、はやく、来い。
意味もなく昇降ボタンを連打する。
チーンッと到着したことを教えるチャイムが鳴った。
急いでいたおれはエレベーターの中へ飛び込もうとして、勢いよく中にいた人と、ぶつかった。
相手方は立ち止まっていたようで、勢いよく尻餅をついた。
慌てて、声を掛けようとして、瞠目した。
容貌はついさっきまで会っていた春香のものだが、着用している洋服の種類が異なっている。
彼女もおれに気づくと、すっと目線を床に逸らした。
おれはすかさず、彼女の手をぎゅっと強く握りしめた。
頭の中で、自分の直感が叫んでいた、彼女こそが事件の鍵であると。
>>32の説明がいまいちわからないんだけど
千早「プロデューサーが目の前で死んで傷ついた。しかも何故か生きてる、訴訟」
ってことなの?それでもなんで怒ったのかわからないけど
>>39
>>32の説明はプロデューサーがなぜ千早の攻撃を受け入れたのかについてです
千早が突然目の前に現れたPを攻撃したのかの理由は大きく2つあります
一つ目は、彼を本物のPだと考えられなかったからです
千早は軽傷で、事故現場にいたわけですから、少なからずPの死体を見ています
(彼女の自傷行為もそれが影響しています)
なので、俄かには信じられなかったのです
二つ目は、39さんのおっしゃる通りのことです
彼女はPが本物だとしても、許せなかったのです。三日間とはいえ、彼女はPの死によって、ひどく苦しみながら過ごしてきました。
それは、深い自責の念と、絶望が混じっていたでしょう。
それが、嘘だったかのようにひょっこりと現れた。その行為はPに対する彼女の信頼を大きく損なうことになりました。
もし、無事であったなら少しくらいは連絡してほしいものです
そのかわり、彼女の中には憎悪と怒りが生まれることになりました
動機が分かりにくいのは致命的ですよね。千早が傷ついた理由を叫んだりするのは変かなと思って、ごまかしていました。
詳しく描写するのはすこし先になります。
ご質問ありがとうございました。また、お願いします
このSSまとめへのコメント
本スレで完結いたしました。
こちらでは反映されないようですので、気になった方はどうぞ