勇者「おーっす。魔王さん、お邪魔しまーす!」
魔王「随分と品も遠慮もない無粋な客が来たものよ」
勇者「あぁ、何? やっぱり、もうちょっと上品に入ってくるべきだったか?」
魔王「いや、構わぬよ。むしろそれでこそ、我が宿敵。といったものさ」
勇者「だろ? そーいうの、期待されてると思ってたんだよ。してやったり、ってやつだな」
魔王「さて、自己紹介は必要かな? なんなら一世一代の名乗りを上げても良いのだぞ?」
勇者「そいつはどうも痛み入る。が、俺とあんたにゃ今更そんなもんはいらんだろう?」
魔王「相違ないわ。夢にまで見た我が好敵手よ」
魔女「水を差すようで悪いんだけど、一対一じゃないのよね」
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魔王「なに構わんさ。どちらにしろ、我に止めを刺せるのは貴様だけであろう?」
勇者「そりゃ違うぜ、魔王さん。あんたに止めを刺せるのは『この剣』だけ、だぜ?」
魔王「そんなことは些末事よ。さぁ、滅ぼし合おうぞ」
勇者「おっかないこと、言うなよな。出来れば俺は死にたくないし!」
魔女(勇者が、飛んだッ! 先制攻撃の仕方が非常に狡い!)
魔女「《重加力、弐》ッ!」
魔王「ほう、良い一撃ぞ。これならば存分に暴れられるわ!」
魔女(片手で受け止めた上に、そのままはじき返すなんて!?)
勇者「うわぁ、ナンツウ馬鹿力だよッ。脳味噌に筋肉が詰まってんじゃねーか!?」
魔女「《重加速、参》ッ!」
魔王「力がダメならば、速度を上げるか、定石よ。だがッ、遅れは取らぬよ!」
勇者(貫いた、が、浅いな。それに、攻め込まれたら厄介だ)
魔王「傷など久しいな。しかし、我とて負ける訳にはいかぬよッ!」
魔女(嘘っ! 魔翌力が大きすぎるッ!)
魔女「《三重展開》ッ! 《断裂せし世界の断層を開け》!」
勇者(魔女の防御結界! クソッ、間に合え!)
魔王「灼熱に焼かれろォ!」
魔女(熱量が違いすぎる!? 三重じゃ持たないじゃないっ!?)
魔女「《追二重展開》ッ! 《氷空防護陣》ッ!」
魔女「勇者っ!」
勇者「あああぁぁぁっぁあ! あっぶねぇぇ!」
興奮状態の心身に任せて転げながら魔女の編み上げた陣の中へと転がり込んで、叫びをあげる。
魔女「これは、奥の手、よね?」
勇者「奥の手だ! 正攻法じゃ無理ッ!」
魔女「じゃあ全部任せるわよ」
勇者「任せとけ!」
魔女「《生死邂逅》! 《命削りて神秘を開け》!」
魔女(力が、抜ける……、魔翌力が空になる感覚……、ちょっと気持ちいい……、)
魔王「ほう、今のを耐えるか! 面白いッ!」
勇者「絶対負けねぇ!」
>>3
魔女「《重加速、参》ッ!」
魔王「力がダメならば、速度を上げるか、定石よ。だがッ、遅れは取らぬよ!」
勇者(貫いた、が、浅いな。それに、攻め込まれたら厄介だ)
魔王「傷など久しいな。しかし、我とて負ける訳にはいかぬよッ!」
魔女(嘘っ! 魔力が大きすぎるッ!)
魔女「《三重展開》ッ! 《断裂せし世界の断層を開け》!」
勇者(魔女の防御結界! クソッ、間に合え!)
魔王「灼熱に焼かれろォ!」
魔女(熱量が違いすぎる!? 三重じゃ持たないじゃないっ!?)
魔女「《追二重展開》ッ! 《氷空防護陣》ッ!」
魔女「勇者っ!」
>>4
勇者「あああぁぁぁっぁあ! あっぶねぇぇ!」
興奮状態の心身に任せて転げながら魔女の編み上げた陣の中へと転がり込んで、叫びをあげる。
魔女「これは、奥の手、よね?」
勇者「奥の手だ! 正攻法じゃ無理ッ!」
魔女「じゃあ全部任せるわよ」
勇者「任せとけ!」
魔女「《生死邂逅》! 《命削りて神秘を開け》!」
魔女(力が、抜ける……、魔力が空になる感覚……、ちょっと気持ちいい……、)
魔王「ほう、今のを耐えるか! 面白いッ!」
勇者「絶対負けねぇ!」
勇者(魔女、おまえの力と俺の力で絶対ここから生きて連れ帰ってやるからな!)
魔王「焼かれて死ねェ!」
勇者「絶対死なねェよ!」
両者は閃光のようにぶつかり合う!
日はどっぷりと沈み。城の一画が爆発する。
そしてその直後に魔王の城はその全区画が瓦解した。
まるで、支えを失ったようすであり、まさに急転直下の勢いであった。
瓦礫の山の一画がもぞもぞと動き、ボコッと浮き上がる。
勇者「勝った!」
勇者「コイツの死体も一応、持ってくかな」
ぐったりした魔女を抱きか抱えた勇者は、小柄な魔王の片足を掴み、宙刷りにしている。
勇者「城まで帰るの面倒くせぇな。はぁ」
翌日
王宮、謁見の間
王様「勇者よ、よくぞ任務を果たしてくれた!」
勇者「……、」
王様「魔王は討たれ、世界には平和が訪れるであろう!」
勇者「……、」
王様「全世界に代わって余が謝辞を述べよう」
勇者「はっ、恐悦至極に存じます」
王様「今宵は宴を披こうぞ。無礼講じゃ!」
勇者「……、」
王様「晩に使いを出す。それまでは好きにするがよい」
勇者「はっ」
勇者は王が玉座の奥へと消えていくまで首を垂れたまま身じろぎもしない!
王宮広間
兵士「勇者様、ご苦労様でした」
勇者「あぁ、俺はもう仕事終わりだよ。二十代にしてもう余生になっちまう」
兵士「勇者様なら遊んで暮らせますよ」
勇者「性に合わないんだよな、そういうの。まっ、時間も金もあるし、新しい生き方を探してみるさ」
兵士「ははっ、あなたらしいですね」
勇者「んじゃ、また夜にな」
兵士「えぇ、それでは」
王宮、医務室
術師「勇者殿ですか」
勇者「魔女の容態は?」
術師「大丈夫です、もうそろそろ目を覚ましますよ」
勇者「そか、良かった」
術師「もしかして、そういう関係ですか」
勇者「まぁ……、いやでも、告白とかしてねぇな」
術師「そういうのちゃんとしとかないと、こじれた時大変ですよ」
勇者「なんか、もう四六時中一緒にいるもんだから、それが当たり前なんだよな」
術師「お熱い」
勇者「うっせぇ」
術師「一番奥で寝てますから、いてあげてください」
勇者「言われんでもそうする」
術師「お熱い」
勇者「うっせぇって」
術師「そこのお茶、持っていってください」
勇者「ありがとう」
勇者は術師の近くの小さな台に乗っている冷めたポットとカップが乗っている盆をそのまま持ち上げて、
魔女が寝かされている一番奥のベッドへと歩く。
病室
すぅすぅ、と穏やかな寝息を立てる魔女は勇者が良く知る彼女よりもお淑やかに感じられたようだ。
勇者「ほんと、無事で良かったぜ」
ぱさぱさとしていて、やや艶の失われた栗毛色の長い髪を撫でる。
目元には酷い隈が出来ているし、手先や足にはキレイになるか怪しい傷がため込まれている。
勇者(これからは、もう少し労わってやれるから)
勇者「……、涙?」
魔女の目元から一筋だけ流れたそれに、酷く心を揺さぶられる。
だが、そんなことを知らない魔女はゆっくりと瞬きをするように目を覚ます。
勇者「良かった……、」
魔女の目元をそっと拭う。
魔女「ただいま」
勇者「お帰り。王様がさ、記念の晩餐会開いてくれるってよ……、」
魔女「そっか、やったんだね。楽しみ」
勇者「だから、それまでは大人しくしててくれ」
魔女「はぁい」
小さく返事をした魔女は、もう一度まどろみへと身を委ねるのだった。
王宮広間
王「集まった諸兄よ、勇者により魔王は討たれた! 魔の脅威は祓われたのじゃ! 存分に祝おうぞ!」
杯を高く掲げる。
乾杯ッ! と一斉に声が上がった。
魔女「どいつもこいつも現金ね」
勇者「そうだな。まったく頭にくるぜ」
兵士「勇者殿、そういうことはあまり大声で言わないほうが……、」
勇者「あー、お前の今後にかかわるな。悪かったよ」
兵士「確かに貴族方が気に入らないっていうのは理解できますが……、」
勇者「だろ? いっそ俺が全員暗殺してやればもっと良心的な治政になっかなぁ?」
兵士「むしろ勇者殿が領地を治めればいいのでは?」
勇者「政治は、うまくできる気がしねぇよ。それに寿命の問題もあるしなぁ」
兵士「今の王や貴族に反感を持っているものも多いゆえ……、」
魔女「あなたこそ小声とはいえ、そんなこと言っていいの?」
兵士「こりゃ、魔女殿に一本取られましたな」
勇者「んじゃ、俺はちょっとあいさつ回り言ってくるわ」
兵士「(毒物にはくれぐれも気を付けてくだされ)」
勇者「(平気平気、この国で調達できる毒なんて俺効かねーもの)」
二人はハハハと声をあわせて笑う。
勇者「伯爵様、その節はご協力ありがとうございました」
伯爵「おぉ、勇者ではないか。大義であったな」
勇者「いえいえ、このくらい。使命ですから」
伯爵「はは、あまり謙遜するするな。して、良ければうちの娘と婚儀を取らぬか?」
魔女「……、」
勇者「勿体ないお言葉です。それに、」
勇者は魔女をグイッと引き寄せる。
勇者「生涯一緒にいると決めていますので」
魔女「勇者……、」
伯爵「チッ、そうであったか、これはすまなんだ」
勇者「いえ、こちらこそ」
この後もそんなやり取りを繰り返しながら宴の席を回り続ける勇者と魔女。
挨拶回りがひと段落して、二人は月の良く見えるベランダへと避難していた。
勇者「あ゛ー、飯食いに来たのに疲れた」
魔女「お疲れ様」
勇者「そのなんだ、順番逆になっちまったけどさ、これからもずっと一緒にいてくんねーか?」
魔女「当然でしょ? あなたが嫌だって言ったって離れないわよ。浮気なんてしようものならどうなるか、ね?」
二人は手に持ったアルコールのグラスをカチンっと合わせる。
グラスの赤ワインを口に含んだ魔女は、そのまま勇者へと強引に口を寄せる。
勇者はそれに応える。
息の詰まりそうな甘い時間が二人の間を通り過ぎる。
赤い雫が二人の口元から一粒だけ滑り落ちる。
勇者「お、おまっ、流石に口移しで飲ませてくるのは予想外だぞ」
魔女「んふふ、こういうのも悪くないでしょ?」
勇者「ぁぁ、嫌いじゃ、……、無いけど、……、」
直後、勇者の体がぐらりと傾ぎ、手に持っていたグラスが滑り落ちる。
音はない。勇者の手から滑り落ちたグラスは魔女が掴んだ。
そして、頭一つ分ほどの身長差がある彼の体もやはり魔女が支えている。
魔女「《肢体を操る強き糸》」
ピンっ、と張り巡らされた魔力は勇者の体にまとわりつき、その体を無理やりに動かす。
勇者「あたまが、ぼんやり、する」
勇者「からだ、おもいし、つーか、くらいな」
魔女「ご機嫌よう?」
勇者「まじょ、か。ろれつまわんないんだけ、ど。おまえのしわざ、か?」
魔女「うん、そうよ。ご明察」
勇者「ここどこだ? あたまもまわらないのも、おまえのしわざだろ?」
魔女「そうよ?」
勇者「なんで、こんなこと、してんだよ」
魔女「魔王倒したじゃない?」
勇者「あぁ、たおした。ンで、ぱーてぃしてたはずだけど?」
魔女「魔王ってば、美人でバインバインだったじゃない」
勇者「おれは、おまえがいちばんだよ」
魔女「んふふ、うれしい。でもそうじゃないのよ」
勇者「?」
魔女「あなた、魔王に致命傷貰い掛けてたとき、興奮してたでしょう?」
勇者「そりゃ、しぬすんぜんにもなれば、こうふんくらいするだろ」
魔女「誤魔化さなくっていいのよ? それに、魔王に限った話でもないし?」
勇者「なんの、はなしだ?」
魔女「いやね、あなた。私はこう言っているのよ?」
魔女「あなた、殺されかけるたびに性的に高揚して絶頂しそうになってたでしょ?」
勇者「っ、そ、そんなことは……」
魔女「分かりやすい狼狽え方ね」
勇者「かりに、そうだったとして。このじょう況と、どういう関けいが?」
魔女「魔王がいなくなれば、勇者が危ないことに駆り出されることはなくなるわけだけど」
勇者「いいことだ」
魔女「それで、満足できる?」
勇者「せかいが平和になれば、だいまんぞくだ、ぜ?」
魔女「強がらなくてもいいわよ。私とあなたの仲じゃない」
勇者「たしかに旅のとちゅうで、一線こえたが、至ってシンプルな性こうしょうじゃなかったか?」
魔女「だけど、その時物足りなかったんでしょう?」
勇者「それは、」
魔女「ほら、言い淀む」
勇者「まんぞくするまでやっちまったら、魔王とうばつに、支障が出るだろ」
魔女「優等生みたいな、答えねぇ。取りあえず、実際に試してみようと思わない?」
勇者「試す? そんなの普通に試したらいいんじゃ?」
魔女「違うわよ。あなたがきっちりと満足できるやり方を模索しようって言ってるの」
勇者「おいおい、何言ってんだよ。俺は、おまえのことすげぇ本気で……、」
直後、勇者の頬をペティナイフが切り裂いた。
つぅっと、ドロリと生暖かい感触と彼にとっては慣れ親しんだ痛みが同時に渦巻く。
勇者「おまえ、冗談はよせよな。そんなことされたら、抵抗しないといけなくなるだろ?」
魔女「良いわよ、やって見せて?」
勇者が立ち上がろうと上体を起こせば、ジャラジャラと無骨な金属音が響く。
ようやく暗闇に慣れてきた視線を動かせば、手足には枷が嵌められており、
そこから伸びる鎖の先には勇者が腰かけるには少し小さく、魔女が腰かけるのにはちょうど良さそうな、
黒々と大きな鉄球が繋がっている。
要約すれば奴隷を逃がさないようにする拘束具が嵌められていた。
勇者「この程度、魔法が無くても抜けられる」
無造作に手錠を嵌められた腕を引くが、鎖の擦れる心地よい金属音が響くばかりである。
勇者「な、何だよ。これ? 力が、入らない?」
魔女「呂律が回るようになってきたからって、油断しちゃダメよ?」
勇者「俺に何を飲ませた?」
魔女「特性の弛緩剤と封印薬よ」
勇者「俺に効く薬なんて相当だぞ。良く手に入ったな」
魔女「私魔女だもの。作ったに決まってるでしょう?」
勇者「おまえ、ほんとこえーな」
魔女「まぁ、魔女だもの」
勇者「もういいや、好きにしてくれ。気の済むまで付き合うよ」
魔女「そうねぇ、じゃ、取りあえず一週間は逃がさないわ」
勇者「流石に薬が抜けたら俺は逃げるぞ」
魔女「効果が切れるのは大体日が暮れるぐらいのはずだから、それまでにあなたを堕して見せるわ」
勇者「つか、今はいつだ?」
魔女「早朝、よ?」
勇者「うわぁ、結構あんのな」
魔女「それじゃ、さっそく……、」
魔女は持っていたナイフと、暗がりではほとんど黒と判別のつかない深緑の長帽子を、
それぞれ小さな木の机の上へと乗せてから、ローブをばさりと脱ぎ捨てる。
下着さえつけていなかったようで、柔らかく、肉付きの良い肢体が暗闇に晒される。
脱いだ服を簡単にたたみ、帽子を被り直す。
「帽子は取らないのか?」
「これがあるほうが、魔女っぽいでしょ?」
「知らん」
机に置いたナイフを右手でつかみ上げ、鎖につながれた勇者をそのまま押し、彼の上へと跨る。
「ねぇ、どこからが良い? 特別に初めは選ばせてあげる」
「好きにしてくれ。だけど、目を抉ったりすんのは勘弁な」
「はぁい」
魔女は悪戯っぽく笑いながら勇者へと口づけを落とす。
それは優しいものだった。
甘く、囀るように唇を重ねる。
互いの唇を触れ合わせるだけの、甘い接吻。
「そうだ、服破いちゃってもいいかしら?」
「構わねぇけど、直しやすいようにきれいにやってくれ」
「王様からの報奨金で新しいの買えばいいじゃない」
「材料だって無限に湧いて出てくるわけじゃないんだ、無駄には出来ねぇよ」
「ンもうぅ」
もう一度、唇を重ねる。
ぐっと、首を押し付けるように力を加え、強引に勇者の口を押し開く。
だが、魔女が舌を伸ばすよりも先に勇者の舌が魔女の口内へと侵入して来た。
驚きつつも魔女はそれを受け入れ、愉しむように舌を絡ませる。
粘膜質であり、細やかなざらつきを堪能するように舐め返し、啜る。
うねるように動かし、歯茎を舐り、唾液を運ぶ。
二人の口の端から、とろっと、透明な糸が伝い落ちる。
「それじゃ、せーのっ」
クルッ、とナイフを持ち替えそのまま勇者の左手に突き立たてられた。
覚悟していたとはいえ、駆け抜ける衝撃は大きい。
勇者は初め現実を理解できなかった。
痛み、というよりは強烈な異物感。
内側から思い切り部位を押し広げられる感覚。
そして何より、焼けるような熱っぽさ。
少し遅れて突き立てられたナイフと手の隙間から血が滴る。
勇者の目と頭がそれを認識して、ようやく痛覚が機能し始める。
「うぐぅっ、がぁ――――、」
だが、勇者は叫び声をあげることさえ叶わない。
勇者が痛みに口を広げたその瞬間に魔女がもう一度強引に接吻を施したからだ。
ブルブル、と小刻みに痛みに震え絶叫しようとする勇者の首が魔女によって強引に上向きに固定される。
歯と歯がぶつかり合い、カチカチと高い音が鳴る。
勇者の顎の力は強く、ともすれば魔女の口内は噛み落とされかねないが魔女は引く素振りを見せない。
顎を大きく震わせる勇者の目尻は歪み、現実を受け入れたように閉じられる。
「ぷはっ、うぁ、はあぁ。なんか、いつもより痛みが酷いんだけど、これも薬のせいか?」
「んー? 五感の強化剤なんて入れてないし、精神的なものじゃない? 多分、昂ってるだけよ」
「マジか……、いや、マジだな」
刺さりっぱなしになったナイフを引き抜こうと手を動かす勇者は、
痛みとは違う感覚を自己主張する器官へと視線を落とす。
「あら、おっきぃわね」
ニンマリと笑い、艶かしく唇を指で撫でる。
その誘うような魔女の姿に勇者の鼓動は思わず高鳴り、ピクンっと反応する。
「あはっ、やっぱり私の言った通りじゃない?」
「う、うるせぇ……、」
もはや否定のしようもないほどに隆起した勇者の勇気は雄々しく脈動する。
ズボンの上からでも分かる程に興奮したそれをみればこの先を待ち望んでいるのは明白だった。
魔女はズボンと下着に手をかけて、一気に引きずりおろす。
ボロンッ、と押さえつけられていたそれが勢いよく立ち上がり、天を指す。
直後、ピキッと音が鳴った。
「あ゛、あ゛あ゛あ゛っ、あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!」
呻き声が落ちる。
勇者の太ももに、熱さと冷たさが一挙に押し寄せる。
熱を持った太ももが焼ける。
その焼けるような温度を何か非常に冷たいものが上から制する。
痛みが駆け抜け、添えるように心地の良い冷たさが追いかける。
「んふっ」
魔女は嗜虐的に鼻を鳴らし、勇者の太ももに突き刺すように高速生成した氷柱を軽く撫でる。
「くそっ、不意打ちは、卑怯だろ……、」
「んふふ、でもその割には……、こっちの反応はいいみたいだけど?」
いきり立った小さくて大きな勇気は、魔女が小さな氷筍をグリグリと動かせばビクビクと胎動する。
「ぅぐぅ、ぁっ、はぁ、あ゛あ゛あ゛。仕方がないだろ……、生存本能ってやつだよ。聞いたことないか?」
「あるわよ? でもそれって、極限状態で子種をどうにか残そうとするってやつでしょう?」
「思いっきり当てはまってるだろ?」
「そんなわけないじゃない。殺しても死なないんだから」
「そんかし寿命自体が短いけどな」
ずるり、と勇者の太ももから短剣のようにとがった氷を魔女が引き抜き、投げ捨てる。
勇者の呻き声と、カランッという氷が床を転がる音が重なる。
「んっふ、それじゃいただきます?」
魔女は勇者の手の甲に刺さった短剣へと手を伸ばすと同時に勇者の怒張した得物を口へと含む。
同時に、カランッと、ナイフが音を立てて石の床に転がる。
「ぅぁぁ、――ッ!」
勇者の腹にドロッとした雫が滴る。
生暖かく、鉄臭いそれは間違えようのないほどに勇者の血液である。
魔女によって持ち上げられた勇者の両手は、支えを失い腹上の血の真ん中へと音を立てて落ちる。
彼の手首の冷たい手錠の感触が腹部を伝い、勇者に強烈な閉塞感をもたらす。
(ぁ、結構本気で動けねぇのな)
その感情は彼の強烈な生存本能を刺激したようで、意識が流れるようにつながっていく。
(もしかして俺、本気で魔女に殺されかけてるのか? つかつか結構、死にそうだよな)
電撃のような鋭い快楽が勇者の体を駆け抜けていく。
その大部分は淫猥な音を響かせ、貪るように吸い付く魔女の唇と、
それを補助するように丁寧に動く指先に依るものである。
そして欠片ほどの小さな部分で死への恐怖からくる刹那的な快楽がそれを増幅させている。
「は、はぁ、っ、んっ、ぐ」
咥えた魔女は頭ごと大きくグラインドし、喉の奥まで勇者を飲み込む。
滑り、仄かに温かい咥内で、しっとりと柔らかく舌がうねる。
口の中を丸ごと占める熱を帯びた勇者自身に、舌を絡めて這わせ、徹底的に快楽を与える。
濁点と半濁点が混ざり合い、邪な思いを増幅させるように湿っぽい音が石畳を伝って行く。
「随分、頑張るのね。こんなにビクビクしてるのに……」
「そら、俺が変な性趣向を持っていると認めないためには、頑張るしかないだろ……」
ビクビクと体を振るわせながら勇者は強がる。
「それじゃあ、とっておきを」
そう言って、魔女は勇者の腰を両手で抱きかかえ、もう一度飲み込むように口をつける。
勇者の亀頭に甘いキスを落とし、一瞬だけ静止する。
魔女はぎゅっと抱きしめるように腰に巻き付けた両手に力を入れる。
その恰好は縋り付くようでもあり、抱き留めるようでもあった。
つまりは、絶対に離さないという強い意志を感じさせる。
勇者の全身に異常な快楽が駆け巡り、ほとんど失神する寸前まで追いつけめられる。
「あ゛、あ゛あ゛っ、――、」
ビクッ、と大きく震え痙攣する。
咳き込み、口元から血液が溢れる。
何が起きたのか、勇者には理解が及ばなかった。
知覚することが出来たのは、魔女に根元まで咥え込まれたことと、背面部から腹部を貫通する強烈な違和感。
そして、それが重なることで視界が明滅するほどの強烈な快楽が全身を支配する。
抗えない、と直感しそれでもなけなしの理性を動員して全身に力を込める。
だが、無意味だった。
「んーっ、ん゛ん゛ん゛ん゛!」
魔女の苦しそうな呻き声が重なり、薄暗い空間に栗の花のような臭いと放りつくような鉄さびの臭いが、
空間を侵食するように広がっていく。
魔女の口の中に納まりきらない精液が溢れ出して、とろりと顎を伝う。
それに興奮したのか、魔女の秘部からはねっとりとした蜜が僅かに零れ落ち、勇者の足を光らせる。
「ん゛ふぅっ。ねぇ勇者生きてる?」
勇者の腰から両手を離して、口の中のものを飲み下し、口元を軽く手で拭いながら魔女は問いかける。
喉を鳴らした魔女の頭には濁々と血が降り注いだようで、栗毛色の髪は鮮血に染まり切っている。
「ばっ、お――、無――過……、」
声にならない声で、口元から血を零しながら絶え絶えに何かを紡ぐ。
勇者の腹部からは真っ赤に染め上げられた大きく鋭い氷の刃が飛び出している。
つまり何が起きたのかと言えば、魔女が勇者の腹を掻っ捌いたというだけのことだ。
現出している氷の結晶は腹部を大部分食い破っており、
上半身と下半身が繋がっているのが不思議なほどの惨状を呈している。
背骨は砕け、胃は細切れだ。
横隔膜も腸もグチャグチャに引き裂かれ、細かな部位の判別など出来ないほどになっている。
傷口は凍り付き、新たな出血を防いでいるのは不幸中の幸いなのだろうか。
容体は明らかに致命傷であり、それを証明するように 勇者の瞳にはほとんど光が失くなっている。
「ちょ、ちょっと、やり過ぎたかしら?」
魔女は自身で引き起こした状況に反省しつつ、
小机の引き出しから小さな錠剤を取り出してそれを、一粒口へと含み、そのまま飲み込む。
「《救世の主、血脈の盟よ。力を喰らって命を返せ》」
魔女は治癒の最上級呪文を唱える。
薄暗かった部屋が埋め尽くされた魔方陣によって赤く映し出される。
そして、勇者の体を食い破った魔法の氷が崩れ去り、勇者の体が再生していく。
手の傷も、足の傷も、腹部の大穴も、その全てがキレイさっぱりと治癒されていく。
「うーん、本当に他の人には見せられないわよね」
勇者の体が再構築されていく様を眺めながら魔女は思わず呟いてしまう。
勇者の血に宿る退魔の力は圧倒的である。
例え体がなくなろうと空気中に飛び散った魔力を吸収し強制的に肉体を再構成する、と称されている。
事実旅の中で一度魔物に頭から食い殺されたことさえある。
その結果どうなったかと言えば喰った魔物の肉体を内側から食い破る格好で勇者の体が再構築されたため、
巨大な魔物の体の一部が爆発するように飛び散ったのだった。
(しかも、そのときの勇者ったら、『酷い目に合った、もうこりごりだ』なんて笑っていたのよね)
魔女はその時のことを思い出して、少しだけ切なそうな表情を見せる。
「あら、もう少しかかるかと思えば、早いわね」
色の消えた瞳がぐるりと回り、勇者に意識が戻ってきたことを証明する。
荒く、早い呼吸を繰り替えし、絶え絶えになりながらも声を絞り出す。
「今、完全に死んだよな!? つか、今俺殺されたよなぁ!?」
「気持ちよかったでしょう?」
「いや、そういう問題じゃねぇぞ!?」
「私の口から逆流しそうになるほどほど射精したくせに?」
おちょくるように魔女は首を傾げる。
「マジで?」
「凄かったわ。あんな量出されたの初めてよ」
薄らと頬を染めて口元を撫でる。
その瞬間には完全に意識が吹き飛んでいた勇者は思い出そうと必死に記憶の糸を辿る。
だが、思い出せるのは痛みと快楽が全身を駆け巡り、精神が蒸発する瞬間だけであり、
その結果自分がどうなったのかがまるで掴めなかった。
ただし、
「た、確かにな、おまえに殺される瞬間は意味不明なほど興奮してはいた……、」
「ほら、やっぱりそうなんじゃない?」
「でも、おまえ以外に殺されるのは、やっぱり嫌だからな?」
「嬉しいけど、重いわねぇ」
「抜かせ、俺のために俺を殺すお前のが重い」
「んふっ、それじゃ重いもの同志ってことで」
笑い合い、二人は軽い口づけを交わす。
「ぷはっ、んじゃ、そういうことだから、コレ外してくれよ」
「《磔刑》」
魔女の唇から放たれた呪文は勇者の体を包み込み、ふわっと浮き上がらせて壁へとつなぎ合わせてしまう。
「お、おい。いい加減に離してくれって……、」
「もう少しだけ……、ね?」
顎の下で掌を合わせ、楽しそうに笑う。
「それで解放してくれんだな?」
「もちろんっ!」
「おーけー、好きにしてくれ」
勇者は観念したようで、項垂れる。
「《血花両断》」
直後、硬質な直撃音と、飛沫くような湿っぽい音が響く。
勇者の左肩口にはまるで血から作られているかのような剣が突き刺さっている。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
絶叫がつんざき、遅れて左腕が落下する。
右手とつながれた手錠に阻まれてプラプラと地面を擦る。
痛みよりも先に乖離感と喪失感が、やってくる。
魔女の唱えた呪文は、剣の召喚と投擲を瞬時に行うものだ。
それが、勇者に向けられた。
(見慣れた魔法だ、初速だけなら全力の俺よりも早い)
遅れて痛みが激しく燃えあがる。
その痛み自体は慣れたとは言えないまでも経験のあるものだ。
だが、最愛の人にそれをされるという異常な事態に精神が悲鳴を上げる。
むわっ、とした血の臭いが空間に充満していき、それと共に彼の瞳は焦点を失う。
血はドクドクと溢れ、数分で失血死してしまいそうなほどだ。
「は、ハハハハハッ、アハハハハ」
その場に縫い止められた勇者は動かない体を滅茶苦茶に揺さぶり、背面の壁に何度も後頭部を打ち付ける。
「《解呪》」
魔女のその一言でズルズルと勇者の体が壁を伝って地面へと落ちる。
「《命は停滞する》」
魔女はもう一度、呪文を唱える。
呼応するように溢れる血は停滞し、勇者の酷く不規則な呼吸も大人しくなっていく。
激烈な痛みと驚き、体内の血が失われることによる意識の白濁。
そして、最愛の人に殺されるという状況から生じる如何ともし難い奇妙な幸福感。
勇者の精神は圧搾されて、目の前にいる魔女という存在以外の全てが抜け落ちる。
(魔女、魔女……っ、)
「勇者、ほらダメじゃない、仰向けになって、ね?」
朦朧とした意識の中に魔女という、甘く優しい全てが滑り込み、前後不覚のまま頷く。
魔女の柔らかい手が勇者の体を抱き起こし、そのまま仰向けに寝かされなおす。
「うん、ちゃんと勃ってるわね」
魔女の甘い口づけが柔らかく勇者へと落とされ、空いている手で驚くほど硬くなったものを軽く扱く。
朦朧として、浅く甘い息遣いをする勇者は、より一層呼吸が乱れる。
「《血花両断》」
そして、二度目の刃が勇者の右足を寸断する。
「ん゛あ゛っ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ」
「《命は停滞する》」
間を置かずに魔女は唱える。
四肢の断裂というのは強烈であり壊滅的なほどで、ともすればそれだけで精神が壊れるような激痛だ。
それを続けざまに二度も繰り返されれば、いくら勇者の精神と言えども一時的にであれ均衡を失う。
もっとも、勇者にとってその痛みは本来ならば耐えられない、というほどのものではない。
魔物との戦いの中で幾度となく負った傷の中には、四肢の欠損よりも刺激的で暴力的なものさえあるのだから。
ただしそれは、あくまでも戦いの中という生死の極限状態での話だ。
死ぬことを常に意識して臨むそれには一応の心構えが出来ていたし、抵抗することも出来た。
だが、勇者に魔女は殺せない。
死にたくなければ殺せばいい。
そんな単純な思考回路と心構えを作ることすら出来ない状況は彼にとって初めての出来事であり、
それはつまり精神的な耐性がまるでない、ということでもある。
目に映るのも、ここにいるのも、自分を壊すのも、延命措置をするのも、全ては魔女である。
勇者の生殺与奪権は全てが魔女に委ねられていて、つまりは勇者は魔女に支配されているも同然だった。
「それじゃ、いただきます……、」
こんな状況においても逞しく立脚するそれに魔女は跨り、腰をゆっくりと落として飲み込んでいく。
触れてもいないのに妖しくぬめる蜜壺は、温かく勇者のそれを歓迎し、愛おしそうに纏わりつく。
「んっ、んふ。やっぱり、大きい……、」
ひと肌を打ち付ける乾いた音が妖しく石室に残響する。
湿った水音と、リズミカルなタップ音。それから魔女の嬌声。
混じり合うそれらは、艶めき粘りつくような匂いを発する。
「う゛、ぅぅ、ぅぁ、魔女? お前……、はぁぁっ、ぅぁぁ……、」
ようやく意識を掴みなおした勇者は声をあげるが、挿入した快楽に思わず呻き声と腰が浮く。
上下運動を繰り返し、魔女は喘ぎながら顔を寄せる。
「お帰りぃ、はぁっ、大好きよっ、ぉぉぉ」
血にまみれた勇者の頬を撫で、キスをする。
ジュブジュブ、と水音を響かせる魔女は完全に出来上がっているようで、艶かしく勇者を貪る。
「あぁ、はぁあぁ。ほんと、手とか、足とか、シャレになってねぇよ……、はぁ、ぁぁぁ、」
「んふっ、ん、んん。それにしてはガッチガチじゃない?」
「おまえがエロいのが悪い……、」
二人の体はねっとりと絡みつき、貪欲に擦れあう。
勇者はバランスの取れない体をぎこちなく動かして魔女の腰使いに喰らい付く。
「んはぁ、ぁぁ、ん、流石勇者ぁ。こんなになっても動いてくれるんだぁ、はぁっ、ぁっぁっぁっ」
「あぁっくそっ、はぁはぁ、やばい、そろそろ……、」
浅い息は囀るようであり、勇者が余裕を失っていることを如実に示す。
「あはっ、ん、ん、ん、いいよぉ、射精してぇ! 私の中に注ぎ込んでぇ!」
そして、近くに転がっていた短剣を掴みあげ、勇者の腹部へと思い切り振り下ろす。
「ばっ、ばかっ、やめっ、――――ッ!」
ザクッ、という刺突音。
それからブシュッという飛沫音。
二つが繰り返し繰り返し繰り返し、鳴り響く。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
幾度も幾度も傷口を切り裂かれ、濁ったうわ言が尻すぼみになりながら響く。
そして、何度目かの短剣が腹部に突き刺さり、勇者はそのまま絶頂した。
「あはっ、いっぱいになっちゃった。入れたままなのに溢れちゃうよ?」
魔女の恍惚とした表情を勇者は見ることなくそのまま絶命する。
勇者「……、」
起き上がり軽く頭を振るえば、意識は割合はっきりしていた。
勇者「ひでぇ目に合った」
首や体を捻ってみれば、欠損した部位もきれいさっぱりと元に戻っている様子だ。
勇者「クスリも抜けてんな」
雑に両手を動かし、金属製の手枷を砕く。
同じように雑な動きで足枷も砕いてしまう。
勇者「そういや、普通に魔女の家だよなここ?」
勇者の記憶は石で囲われた薄暗い部屋で断絶しており、今彼自身がいる場所がどこなのかは定かではない。
勇者(普通のローグハウスにしか見えん。ツーことはあっこは地下室だったのか?)
魔女「あっ、おはよう。起きたんだ」
勇者「おう、おはよう」
勇者はドアを開いて現れた魔女に手招きでこっちに来い来いと示す。
魔女「んー? どうしたの、体に違和感ある?」
勇者(まぁ、あれだけやれば心配にもなるわな。が、不用心が過ぎるぜ!)
近づいてきた魔女をベッドへと引っ張り込み、そのまま押し倒す。
魔女「きゃっ」
勇者「よくも好き勝手やってくれたな」
魔女「興奮したでしょ?」
勇者「やり過ぎだろ、明らかに」
魔女「ふぅん、それじゃぁどうするの? お仕置きでもするつもり?」
勇者「そうだな、取りあえず、イキ狂わせてやるよ」
魔女「情熱的に?」
勇者「ぶっ壊れるくらいに、な」
end
【R-18】とするか【R-18G】とするか悩みましたがグロに自信がなかったので【R-18】にしました
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