八幡「……SAO?」材木座「うむ」 (282)
【俺ガイル】×【SAO】
俺ガイルとSAOが同年代って事で
腕を組み、相変わらずのデカい腹を強調させるかのようにふんぞり返る材木座。てかそれやめようぜ、見てる此方が不快なんだよ。
「何? 釣りの話?」
「そっちの竿ではなーい! ソードアートオンラインッ! 仮想大規模オンラインロールプレイングゲーム____略してVRMMORPGだ!」
「いや長いし解らん」
取り合えずゲームって事だけは解ったが____しかし、初耳だな。最近奉仕部のせいで暇無かったしな……ゲームとは疎遠だったわ。
「有名だったりすんのか?」
「当然であろう! 世界初の『仮想現実』を実現したのだ、詰まる所デジタルデータの世界で『恰も現実世界のように』剣を振り回せるのだぞ!」
「……? いや、パソコンかプレ●テかは知らんが、剣を振り回すって……それただのイタい子だろ」
____あ、お前イタい子だったな、と呟く。不運にも材木座には聞こえていたようで、「な、何だと八幡ー!」と手を振り回す。やめろ、幾ら雪ノ下と由比ヶ浜がいないからって、DNA引き継いだのか知らんが部室でライジング息子踊んな、騒々しい。
「むっ、今失礼な事を思っただろう____って、話が逸れたな……そもそも、SAOをプレイするに当たって、ゲーム機は据え置き型の物では無く…………」
割愛。
理由を言うとすれば、所々材木座の個人的意見が混じっていて、余りに聞かせれるものでは無かったからだ。……アレだよ?作者が面倒臭がったからとかそう言うのでは無いからな?
閑話休題。
彼の話を要約をするならば、SAOってのをプレイする為に、ヘッドギアと呼ばれる、頭を覆うインターフェースを被り、プレイをするらしい。
内部に埋め込まれた信号素子から発生する多重電界により、プレイヤーと直接接続、五感にアクセスし、ゲームの世界____『仮想現実』に入り込む事ができるようだ。
更に、現実の方では五感がシャットアウトされるため、プレイ中に遊びに来ていた友達に頭を叩かれても気づかないらしい。俺の場合一生そんなシチュエーションになることは無いだろうが。
まぁ、ゲームの中と現実とで同じ行動してたら、ダンジョン散策するだけでも、現実では初代ドラ●エみたく壁に向かって足踏みすることになっちまうからな。「ゲーム終わったらデコ真っ赤で目の前が壁!?」みたいな展開になりかねん。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1428063317
改行とかしてくれ
見にくいから
>>2 了解
と、まずはゲーム機の説明は以上。あ、名前は『ナーヴギア』って言うらしい。いちいち名前の付け方が格好いいったら無いんだが。
次に、SAOというゲーム自体の説明だ。
『アインクラッド』という空に浮かぶ鉄の城。全部で100層に別れており、各フロアのボスを倒して上がっていくというものだ。
これだけを見ると、随分シンプルに感じるが、このSAOというゲーム、醍醐味は別のところにあるようだ。
それは、『フルダイブ』と呼ばれる程の、現実への忠実さである。
βテストで、SAOをプレイした奴によると、「本当に現実かと思ってしまう」____らしい。
服の触感から水の流れ、武器の質感など、何から何まで現実の物とそっくり__いや、『そのまま』。
現実とSAOとの違いは、五感に送られてくる情報の違いだ__俺達が体感する上で違いが解る訳もなく。
まさに、体感する__文字通り、『体』で『感』じるゲーム。
それが、このVRMMORPG__【ソードアートオンライン】だ。
以上、解説終わり。
これでも相当訳したつもりなのだが……国語学年三位とライトノベル作家希望者(笑)、ここに雲泥の差が現れたと言うことだろうか。いやまぁ、全部作者が書いてるから雲も泥も有りはしないのだが……それは置いておいて。
感想。
すっごく引かれましたさ、はい。
もうすっごくとヒッグスの違いが解んなくなる位欲しくなったさ、解るけど。ぼっちの俺には夢が叶ったようなものだからな!
何故って、『現実のような仮想』に逃げ込んでしまえば、ある意味第二の人生を歩めるって事だぞ?
戸塚みたいな可愛くて優しくて実に素晴らしい子と出逢い、仲良くなれるかもしれないんだぞ?
元々高ステータスの俺にかかれば(目以外)、可愛い女の子なんてイチコロ☆という訳だ。
いやほら、ゲームなんだし、目ぐらいはチョイと加工して修正して、ハイライト入れれるだろ?アニメ2期以上を期待できるだろ?
もうこれ俺の時代だろ、ヒキタニくん伝説が始まるだろこれ。っぺー、やっべーわヒキタニくん。
サラバ現実……初めまして仮想!
「……お兄ちゃん、何ニヤニヤしてるの? 早くご飯食べたら?」
煩悩まみれの意識の中に、突如小町の声が響いた。気がつけば小町はもう食べ終わっていたらしい。時計を見ると、もう8時を過ぎていた。
「あ、あぁ、すまん」
「全く……ごみいちゃんの側頭部に小さく3がついてたよ? 正直引いた」
小さい数字って指数の事かな小町ちゃん。というか3乗したら駄目だろ……マイナスの3乗とかマイナスのままじゃん、一周回ってやっぱ駄目じゃん。
「って、俺はマイナスじゃねぇ!」
「あ、やっぱり自分でも思った?」
「で、何があったのお兄ちゃん。明日お兄ちゃんの頭でビックバンが起こって世界が滅びそうな位珍しく上機嫌なんだけど」
いや長いよ小町……ってかビックバン発生源俺なのね。
「あぁ、実はな……」
カクカクシカジカシカクイムー(ry
「あぁ~……何か聞いたことあるかも、その題名」
「マジか……」
アレか?お兄ちゃんったら時代遅れなの?よく言うと古風なの?良いのかこれ。
「そりゃあもう。テレビとかで良く特集やってるよ~、友達でも買うって人いっぱいいるし」
「そうか……小町はやってみたいとか思わないのか? 俺は買うつもりだが」
「う~ん……わざわざ自分用のを買ってまで、って程じゃないかな~。お兄ちゃんのをたまに貸してもらうって程度でいいよ」
「解った。そうと決まれば明日買いに行くと……」
__するか、と言いかけた時、小町が口を挟んだ。
「それじゃあ遅いんじゃない?」
「……何、そんな人気なのか? じゃあ明日の早朝にでも」「それでも遅いと思うよ~」
……え、何その異常な人気っぷり。
「……と言うことは」
ゴクリ、と喉を鳴らすと、それに答えるかのように小町が口を開いた。
「寝袋とパン持って、行ってらっしゃ~い♪」
……行ってきます。
これ目の腐り度までは再現できなくてイケメンになるよな多分
ハーレムの可能性微レ存
>>5 どうだろうな……俺にもわからん
翌日、夜明けと共に目を覚ました。
当然、店の前で寝袋で一夜を過ごすなんて事をしたことない訳で、起き上がろうとした瞬間、腰に激痛が走った。
「いって! くっそ、アスファルト固すぎなんだよ……」
チラリと横を見ると、俺のあとに続き、終わりが見えないくらいの長蛇の列が出来ていた。
だからと言って、俺が先頭と言う訳ではなく、俺の前には20人程度並んでいた。先頭とか何時から並び始めたんだろうな……。
携帯の画面には、09:30と表示されている。確か、店が開くのが10時頃だよな……丁度良い時間に起きれたってことか。
それにしても、ゲームの発売日とは言え、こんなに長い列ができるとは思ってもいなかったな……ありがとう小町。
「えっと……パンどこ入れたっけ」
朝食を求め、リュックサックを漁っていると、携帯ゲーム機によりミンチにされた惨めなあんパンが出てきた。
「……不幸だ」
某そげぶ主人公よろしく、思わず呟いてみた。いやまぁ食えりゃいいんだけどさ。
その後、暫くパタパタパタポンをやったりなどと時間潰しをしていると、店の周りが騒々しくなってきた。
「よっと……そろそろか」
重い腰を上げ、店の入り口を一瞥する。列に並ばずに待機していた奴等が、警備員に注意を受けていた。てか改めて思うがどんだけ買う奴等いるんだよ。
列の最後尾は、もう肉眼では見ることが出来ないほど遠く離れていた。いや、ホント昨日の夜から並んどいて良かった。
そして、店員の声と共に店の自動ドアが開き、俺は人の波に流されるように入り口へと向かった。
「あ”ぁー、疲れたー……」
あれほどの人の渦に飲み込まれたのも久しぶり……いや、もしかしたら初めてかもしれない。そう思うほどの混雑っぷりだった。
SAOをプレイするには、SAOのゲームソフトは勿論、ゲームハードの『ナーヴギア』も必要とする。なのに、2つがセットで販売されている事は無く、両方とも手にするには相当の労力を要した。目の前にいるデブが邪魔で仕方がなかったからな……汗臭かった。
俺は列の前の方にいたため、早めに買うことが出来たが、後ろの奴等はきっと落胆して帰った事だろう。何ともいい気味だ。
「確か、午後1時にサービス開始だったか__あと2時間ちょいだな」
早くプレイしたいとウズウズするが、その時刻より前に『ナーヴギア』を被ったところで目の前は真っ暗だ。
「まぁ、焦ったところで何にもなんねぇか」
俺は独り、元気撥刺過ぎる太陽から逃れるように家へと向かう。
「たでーまー」
「おっかえり~♪どうだった?」
「あぁ……何とか無事買えたぞ」
「あんまり無事じゃ無さそうだけど……まぁ良いや。設定とかいっぱいあるっぽいし、早くご飯たべよ?」
八重歯を見せながら愛らしく笑う小町。そして守りたいこの笑顔。
「__そうだな」
▲ ▼ ▲ ▼
「ふぃー……ごちそーさん」
「あ、食器水で濯いどいてね」
同じく食べ終わった小町が、椅子から立ち上がり、皿を片手に言う。
「にしても、お前が飯つくるなんて珍しいな」
普段、スーパーで買ってきたものを食うか、俺がつくるかなのだが、今回は小町自身がつくるといいだしたのだった。
理由は、「戦場に送り出すから」だそうだ。学徒出陣前の母親みたいな事言うなよ、これから死にますアピールみたいじゃねぇか。
「じゃ、行ってくるわ」
多分、6時頃には戻るから__そう言って、俺は部屋に向かった。
それが、後にデスゲームと語られる『ソードアートオンライン』をプレイする前、最後の小町との会話だと知らずに。
八幡お金持ちだな
ナーブギアと合わせて15マソ位だし
>>11 あんなデケェ家に住んでるし、普通に買えたって事で
その後、様々な設定を終えると、時間はサービス開始時間五分前程になっていた。
設定の1つに、キャリブレーションという、体の色々な所(意味深)を触るものがあったが、「デブじゃなくて良かった」としみじみ感じた。
それにしても、一体何の為のものだったのだろうか……アレか?アバターと生身の体の各部位を照合する為……とか?うわ俺天才(ドヤァ
「……さて、始めるか」
ベッドに横たわり、『ナーヴギア』を被る。心なしか視界が少し暗くなった気がして、いよいよか__と心臓の鼓動が速まる。
そして、緊張気味の声で、何もない天井に向かって呟いた。
「____『リンクスタート』」
刹那、周りの音は薄れ、代わりに視界は拭えない暗闇に包まれた。
転瞬、虹色に輝くリングが現れ、潜るように通過する。
そうして、視界は光に包まれた。
出して欲しい俺ガイルキャラとかいる?
いろはす~
>>17 その答えが真っ先に出るであろうと俺は予期していた
採用
やっぱり僕は戸塚ちゃん!
でもなんだかんだ言って材木座出て欲しかったりするよな
奉仕部のメンバーは外で心配してて欲しいかな
>>24
すごいわかる
あとはるのんは裏でいそいそしてるイメージが何かある
じゃあ、上の奴を考えた上で書いてくのでー
>>24 何それ八幡ガチでボッチじゃん
目を開けると、辺りは喧騒に包まれていた。どうやら本当にSAOの世界に入ることができたようだ。途中でバグったりしたらどうしようかと思っていたが……流石最新技術の結晶と言ったところか。
「……しっかし」
何なんだこの美男美女の集団は。何処に目を向けてもイケメンばっかじゃねぇか。
あ、俺はしっかり目を加工したぞ?大きくって程ではないが、普通に生きた目にした。それ以外は面倒だったからそのままだけど。
「さて、と。武器でも買いますか」
この『はじまりの街』という場所は、ゲーム開始地点の為か店が多くあるように感じる。まぁ、1万人を越えるプレイヤーがここに来るわけだし、そうでもしないと武器やら道具やらを買うだけでも一苦労だからな。
「何処が良いかな……っと、あそこで良いか」
別に良し悪しで決めたわけではなく、パッと見渡して空いてる店を見つけただけだ。どうでもいいが。
「何にするかな……無難に片手直剣か?」
最初に用意された金では__この世界では『コル』と言うらしいが、買えるとしても、武器や回復アイテムなどと最小限の道具を揃えれる程度だ。後に後悔しないよう、ここで決めておきたいのだが……。
「あ、ヒッキーじゃん、やっはろー……って誰!?」
後ろから以上に聞き覚えのある挨拶が聞こえた。振り向くと、やはりと言うかなんと言うか、腰に剣をぶら下げた由比ヶ浜がいた。
「おう、由比ヶ浜か」
「え、ヒッキー……だよね?」
「何その自信無さげな言い様」
出会った矢先酷くない?何、目が腐ってないだけでその言い様ですか?
「いやー、びっくりしたー。で、ヒッキー、今何してるの?」
「武器選びなうだ」
先程言ったように、由比ヶ浜は片手直剣を選らんだようだ。まぁ、定番っちゃあ定番だよな。
「うーむ……」
しかし、幾らゲームの世界とは言え、死ぬのは余りいい気分ではない。だからと言って守りを固くしても、爽快感が湧かないだろう。
「____よし」
「え、何々決まった?」
興味津々の目で、由比ヶ浜が聞いてきた。
「あぁ。すいませーん、この短剣2本下さーい」
「……え、短剣?」
やめろショボいとか思うな!これでも聡明な判断をしたつもりなんだよ!
「何でそんな武器を……? しかも2本も。回復アイテム買えないよ?」
「そりゃそうだ。だって回復アイテム買うつもりないし」
「__はぁ!? ヒッキー死ぬ気!?」
「いや馬鹿かお前は」
八幡「言っとくが俺はソロプレイヤーだ」(震え声
由比ヶ浜がSAOをやってる前置きがないので自然に進む会話が不自然
>>29
由比ヶ浜さんなら流行に乗るためとかそんなんだろ
ハナクソ(σ- ̄)ホジホジ
【訂正】
×以上に聞き覚えの~ ○異常に~
×~を選らんだ~ ○~を選んだ~
間違いが目立つな……
「理由はあるっての……まず、盾を使うと死ににくい代わりに動きが鈍くなる。だからと言って、中途半端に攻撃力に拘っても相手にズバッとやられる。だったら極端な話____」
「機動力に特化し、相手の攻撃を回避しながら戦闘を行う……そう言いたいのかしら?」
「なっ____」
「あ、ゆきのんやっはろ~!」
突如横から飛んできた答え。そちらを向くと、雪ノ下の姿があった。
「お前……何でここにいんの?」
「まるで『運動音痴の癖にバトルなんぞ出来るわけがねぇだろ糞アマが!』とでも言いたそうな顔をするわね……それにしても」
俺の顔を凝視する雪ノ下。いや……まぁ言いたいことは解るけどさ。
「どうして……目が腐っていないのかしら?」
「そりゃあ変えるだろ普通」
毎日罵られてるってのに、ゲームでも同じように言われたい訳ないだろ。お前はアレか?俺をドMだとでも思っているのか?
「しかし……まぁ、その……いいんじゃないかしら」
やめろ頬を赤く染めるな。お前俺の事好きなのか嫌いなのかどっちなんだよ。
「そんな事はどうでも良くてだな……お前、誰か知り合い見掛けてないか?」
「? いいえ、特に。突然どうしたの?」
「いや、練習とかしたいだろ? 近くに雑魚モンスターがポップする草原があるらしいし、そこ行こうかと思ってな」
と言っても、この情報は俺が武器選んでる時に、隣で話してる奴等の会話を盗み聞きしただけで信憑性は薄いんだが、どっちにしろ、散策はすることになるわけだし__
「いいわ、行きましょう」
「おー! 楽しみだな~♪」
「……結局、何処に行ってもいつもの光景だな」
今更ながら、一人でやりたかったところだが、言い出しっぺは俺な訳で__俺は不本意ながらも石畳を歩く。
「……ねぇ、比企谷くん」
人混みを掻き分け、街を抜けようとする最中、雪ノ下が唐突に話しかけてきた。
「ん? どうした」
「どうしてこのゲームをやろうと思ったのか、経緯が気になっていたの。由比ヶ浜さんも同様に」
「あぁ……俺は単純なる興味本意だ」
そう言うと、雪ノ下は心底つまらなさそうな顔をした。ごめんな面白味無くって。
「私は、いとこのお兄ちゃんが先にやっていいよって言われたからだよ~」
何その心の広いいとこ。
「今日発売だってのに、何でだ? 別に明日でも良かったんじゃあ……」
「それが……折角買ってきたのに家に帰ってきたとたん、バイトの店長に呼び出されたらしくて……あ、偶然昨日から家に泊まりに来ててさ、だから帰ってくるまで貸してもらってるんだ~」
「それは……もの凄いタイミングね」
「えへへ……元々友達とかから話聞いてて興味はあったんだけど、まさか本当にやれるとは思ってなかったよ」
イトコ……バイト、頑張れよ。何かこの言い方だと、俺がエリオ見たいじゃねぇか。俺は宇宙人じゃねえ。
「ゆきのんはどうしてやる事にしたの~?」
「私は……姉さんに無理矢理やらされただけよ」
あぁ、やっぱり陽乃さんか……イメージ通りではあるな。
何て会話を暫く続けていると、街を囲う城壁が見えてきた。出口はもうすぐそこだ。
「__いよいよか!」
俺は、買ったばかりの短剣を握り、心なしか足早に外を目指した。
バイトもしてない八幡が買えるか…?
>>34 アレだよ、予備校で稼いでた金とかで買ったんじゃね?知らんけど。
街を出てもう暫く歩くと、そこには一面に広がる草原があった。青色のイノシシのようなモンスターが所々にいるが、あれが例の『雑魚モンスター』だろうか。
「すっごいな~現実じゃないみたい!」
木にとまったカブトムシを見つけたときの少年のような目をする由比ヶ浜。現実じゃないみたいって言うか、実際そうなんだがな。
「それで……あれを倒せばいいのかしら?」
雪ノ下の目は、細く研ぎ澄まされ、近くにいる青イノシシに向けられた。
「あぁ、そうみたいだな」
「よーし、それじゃあ早速__」
「「ちょっと(待て/待ちなさい)」」
腰に携えた剣に手をかけ、今にも走り出さんとばかりに足を踏み出した由比ヶ浜を、俺と雪ノ下が同時に引き留める。
「スキル習得しないで倒しに行くとか、お前は馬鹿か。死ぬぞ」
「私は『倒せばいいのか』とは聞いたけど、『今から倒しにいくか』とは聞いていないわ」
「ぐぬぬ……」
「……ったく、拗ねんなって。ほら、さっさとやるぞ」
そう言って、俺達3人は草の絨毯に腰掛け、虚空に右人差し指と中指を向けてそれを下ろす。
すると、鈴が鳴るような効果音と共に、紫色のホログラムのような長方形が現れた。『メインメニュー・ウィンドウ』と呼ばれるものだ。
そこに並ぶメニュータブの中から、『スキル』をタップ。間髪入れず、別の画面が表示された。
SAOに、魔法の2文字は存在しない。代わりに、『ソードスキル』__言わば必殺技というものが無限に近い数存在し、それを駆使して敵を倒す。それがこのゲームの特徴の1つだ。
また、スキルは単純に『両手剣』や『斧』などの戦闘用のものだけでなく、『料理』『釣り』などと暮らす上で使うものや、需要すら感じないものまで存在する。
が、これら全てを習得できる訳ではなく、『スキルスロット』と言う習得可能スキル限度数があり、その中で習得し、使う事が出来る。
ちなみに、スキルを使用する度に少しずつ『熟練度』というものが上昇していき、その度技が増えたりする。
俺達のような、まだレベル1のプレイヤーは、まだ『スキルスロット』が3つしかないが、レベルが上がると増えていく仕組みのようだ。
はい、以上。スキルについての解説でした。
「取り合えず、自分の使っている武器のスキルを習得すればいいのよね?」
「あぁ、また他のやつは後々決めていけば良いさ__って」
スキル一覧をスクロールしていると、1つだけ他とは違い、赤色で表示されたスキルがあった。
「(スキル名、鎌__? そんなのあったっけか?)」
スキル2つじゃなかった?
>>37 え、マジ?じゃあそれでいくわ
「(特殊スキル的な? まあ何にせよ、武器持ってないんだから習得しても無駄か、除外だな)」
上にスクロールし、短剣スキルを選択し、決定ボタンをタップ。
これで、習得完了だ。
それとほぼ同タイミングで、2人も終わったようだ。と言っても、ただボタンを押すだけの作業とも呼べぬものだが。
「よしおっけー!」
「私も出来たわ」
ん、そう言えば……
「雪ノ下って何の武器にしたんだ? 結局聞きそびれてたが」
「レイピアよ」
即答だった。まさにレイピアの様に、鋭く。って、全く上手くねぇか。
「選んだ理由としては、やはり何と言っても身軽さかしらね。剣のように上下運動ではなく、腕を引き、突くという単純な動作だから、スピードはトップクラスだと自負するわ」
「そ、そうっすか……」
何か、急に饒舌になったな……そんな気に入ったのか?良いことだけどさ……。
「って! そんな事いってる場合じゃないよ! 早くあそこのイノシシをころ__じゃなくて、倒そ!」
おい今絶対殺そうって言おうとしたよな、全くと言って良い程隠しきれてなかったぞ。
「__えぇ、そうね」
スクッと立ち上がり、臭そうな鼻息を撒き散らすイノシシの方を向く。雑魚モンスターとは言え、相手は『モンスター』だ。恐怖感が涌き出るが、何よりも興奮が制していた。
「__よし!」
腰の両側にぶら下げた鞘から短剣を抜き、一度素振りをしてみる。ヴォンと心地いい風切りの音が聞こえ、思わず口元が緩んだ。
イノシシから3メートル程の距離まで近づくと、流石の向こうも警戒心を見せたようで、此方に向かって突進してきた。
「__ファーストモーションの姿勢に構え」
短剣を握った右手を、おもむろに肩の高さまで持ち上げる。軽く力を込めると、規定モーションが検出され、刃が青緑色に染まった。
「ーーっらぁ!」
地を蹴り、目標との距離を一気に縮める。あと1メートルと言った所で、システムにより、腕が操られるかのように降り下ろされる。
前に出た右足で思いきり地を踏み、システムに身を委ねながら、右肘を流れに合わせ、横腹辺りまで引く。
短い刃はブタ鼻を的確に捉え、そのまま右下まで斬り落とす。血の代わりに紅い光の欠片が飛沫し、空中で淡く消えた。
HPバーは赤へと突入したが、まだ完全にゼロまでは至っていない。
今度は左腕を、一度真後ろに引き、振り回すように薙ぐ。ソードスキルではないが、もう一度攻撃出来れば倒せるだろうという判断による行為だ。
水平に走った剣先は、イノシシの頭部から胴体の境目__首とも呼べぬそこに刺さる。
その瞬間、再び敵のHPバーは減少し、そしてゼロとなった。
転瞬、ボンヤリと光を帯び、よろけたかと思うと、倒れ混む途中で時間が止まったかのように静止し__ガラスを割るような音とともに、ポリゴンの欠片となって、破裂、爆散した。
日にち跨ぐようならトリップつけたら?
>>40 トリップつけたことねぇからわからんけど……これでいいのか?
あってるけど、左の漢字はいらないかな
どうするかは任せるけど
「ふぅ……」
恐らく、実際の時間は10秒あったか無かったかと言ったところだろうが、俺にしてみると永遠にも感じた。
たかが、あんな雑魚モンスター相手なのに、この緊迫感。
やはり、ゲーム機でボタンを押してプレイするのとは違うな__そう思って膝で軽く息をしていると。
「ヒッキー……?」
数メートル向こうから、声がかかった。呼び方からして由比ヶ浜なのだが、その声色を不審に思う。
「…ん、どうした?」
「い、いや……その、上手いなぁって思って」
「……おう、サンキュ」
由比ヶ浜の方へ歩み寄る。すると、何故か怯えるかのように一歩後ずさった。え、何それ苛め?
「何に怖がってんだ、お前」
「……それは__」
「貴方が随分とあっさりモンスターを殺したから……じゃないかしら?」
横から声が投げ掛けられた。デジャウ”、そして疑問。
「いやあっさりって……結構苦戦したぞ。それに、俺はただ目の前の敵を倒しただけであって__」
「その事実は問題ではないの。由比ヶ浜さんの言った通り、貴方の『技量』が異常なのよ」
異常?いや別に普通だろう、と思ったが、まるでそれに答えるかのように、雪ノ下は口を開いた。
「普通なら__最低でも、今周りを見る限りでは、相手からの攻撃を一度は受け、ある程度悪戦苦闘しているわ。『ソードスキル』を発動できずに空振りする人、モンスターへの本能的恐怖感に震える人。なのに貴方は__」
俺から目線を外し、先程青色イノシシを仕留めた短剣を一瞥する。
「平然とスキルを発動し、何でも無いように殺した。勿論、達成感は見て取れたけれど……そんな簡単に『ソードスキル』というのは使えるものなの?」
「はぁ? いや何いってるんだお前は。俺は一般的男子高校生だぞ? 殺しのプロな訳じゃねぇんだからよ……」
『ソードスキル』が一発で使えたのも、ただの偶然だ。もしかしたら向き不向きあるのかもしれないが、そんな不審がる程ではねぇだろ。
「そんな深刻そうな顔すんなって。本当に俺、何も凄くないし」
HPが削れなかったのは偶然、『ソードスキル』が発動したのは運がよかった、そんだけだ」
「そう……かしらね」
>>42 漢字は残しとくことにする
責任転嫁→隻人天下w
お、おう
>>45 ……何かすまん
「で、雪ノ下はもう倒したのか?」
と言うか、鞘だけ残ってんのに、レイピア何処やったんだよ。まさかしょっぱなから折れたとかそう言う事はないだろうし……。
「いいえ、まだよ。けど、もう少しで終わるわ」
「どういう意味だ? もう少しでって」
「あぁ……それはね」
体を横に開き、雪ノ下の体で見えなくなっていた向こう側の全貌が明らかになった……のだが。
「頭を上から串刺しにして、地面に突き刺してるの。私自身は何もしていないのに、勝手にダメージを受けて殺せる。どう? 天才でしょう?」
「……お前も人の事言えねぇぞ」
残酷過ぎるだろ雪ノ下さん……血が出ないからまだ良いが、リアルだったら見た奴等全員顔面蒼白もんだぞそれ。
「まぁ、お前らしいと言ったらお前らしいが……由比ヶ浜はどうだ?」
ちらりとそちらの方を向くと、まだ少しビビっているのか、心なしか肩が跳ね上がった気がする。
「いや、まだだけど……?」
「そうか……じゃあ一緒にやってやるよ」
「え、ほ、本当!? ありがとー!」
そう言って、顔を赤らめる由比ヶ浜。今更だが、お前表情豊かだな。
さて、手伝う(経験値稼ぎ)とするかー。
今日はここまで。寝る
その後、由比ヶ浜は思ったよりもあっさり『ソードスキル』を発動し、青色イノシシを一刀両断した。
「やったー! ヒッキー、私にも出来たよ!」
解った、解ったから離れましょう由比ヶ浜さん。顔が近いんだよ。
「あれ、雪ノ下は?」
「あ、ゆきのん? さっき『レイピアを取ってくるわ』って言ってどっか行ったよ?」
あぁ……結局死んだのか、例のイノシシくん。敵とは言え、可哀想に……。
「しっかし由比ヶ浜、一撃だったな」
「うん。と言うか、大抵の武器なら一発で倒せるんじゃない?」
「それは俺の武器が弱いと言っているのか」
「いや……あー、でも事実だし。その代わり、ヒッキーは動きが速いからその分で賄えるでしょ?」
「まぁ、それがこの武器の特徴で、俺が選んだ最大の理由なんだがな」
例えば、両手剣使いと短剣使いがいたとする。
両手剣使いが『ソードスキル』を一回発動したとしたら、短剣使いはその間に二回分発動できる。
結局のところチャラなのだが、ここで条件を加えよう。『ソードスキル』の発動中に、相手が攻撃してきた場合だ。
両手剣使いはやむなく『ソードスキル』をキャンセルし、防御に移る他ないが、短剣使いだと、一撃発動した後、回避なり防御なりしてダメージを受けずにすむのだ。
まぁ、こんなシチュエーションも中々無いだろうが、少しでも死ぬリスクを無くすためだ。
いや、だってそりゃあ、常勝無敗とかかっけーじゃん?
どうでも良いけど。
「終わったわよ」
雪ノ下が帰ってきた。うん、イノシシくんオワタね。ホント同情の意しか浮かばんわ、敵だけど。
「なぁ、雪ノ下、お前って何で『ソードスキル』使わなかったんだ? 別にあんな面倒臭い事しなくても『リニアー』で一突きだろ」
そう言うと、雪ノ下の肩はビクンと跳ね上がり、うつ向いてプルプル震えた。
「…………らよ」
「あ? なんつった?」
答えは解っているが、ここは普段のお返しだ。少し腰を屈め、耳に手を当てて聞こえないアピールをした。もう片方の手は短剣に触れ、いつ突いてきても防げるようにした。
「……い……よ」
「えぇ? なんて言いまし__」
「__出来ないからと言っているでしょうこのお馬鹿ーーーーーっ!!」
鞘から全く無駄の無い動きでレイピアを抜いたかと思うと、一気に腕を引き、地を蹴った。
弾丸のように迫る雪ノ下を見て、咄嗟に短剣を引き抜くが、突き出されたそのレイピアを見て驚愕する。
淡いオレンジ色に光っていたのだ。
何故か発動された『ソードスキル』__『リニアー』は、眉間数センチまで到達したが、それを何とか払う事に成功。眼前で火花が散る。
数回バックステップをし、距離を離す。雪ノ下は俺に対しての苛立ちより、自分が『ソードスキル』を発動したという事実に対する驚愕が勝っているようで、レイピアを見ながらポカンと呆然としている。
「(あっぶねぇ……攻撃してくるとは思っていたが、まさかそこで『ソードスキル』が発動するとはな……)」
やっぱり雪ノ下は敵に回してはいけない人物だな、そう感じた瞬間だった。
>お馬鹿ーーーー
みさえかよワロタ
>>53 俺は木更さんが思い浮かんだ
「まぁ……私が『ソードスキル』を発動するキッカケになったのだから、今回は許してあげるわ」
さっすが雪ノ下さん、心が広い!
「それにしても……変な感覚ね、『ソードスキル』を使うというのは」
「あぁ、そりゃあ自分の意思関係無しに体が動くんだからな」
正確に言えば、『システムに補助される』なのだが、何にしろ違和感はある。ってかありまくりだ。
「けれど、いまいちどうすれば発動するのかピンとこないの。さっきのは比企谷くんに対しての殺意があったから出来ただけで、今やれと言われても出来っこないわ」
お前どんだけ俺の事嫌いなんだよ。あれごときの挑発で殺されるとかたまったもんじゃねぇぞ。
「えーっとな……これは感覚の世界だから、一回でも掴めれば出来ると思うぞ」
俺も由比ヶ浜も、多分偶然出来ただけだ。けど、そこで感覚が掴めたから、次からは平然と使えるだろう。
「何にしろ、今こうやって話してるだけじゃあ何にもなんねぇ。取り合えず見てろ」
そう言って、俺は短剣を鞘から抜く。さっきは念のためと2本使ったが、今は1本だけで十分だ。
「俺の使う短剣__ダガーの場合、基本技は『スウィフトレイド』だ。発動するためには、まずこうやって……」
右足を半歩前に出し、ダガーを持った右腕を、先程のように左肩辺りまで持ち上げる。上半身を左に捻り、腰を落とす。
すると、規定モーションとして検出され、刃が鈍い青緑色に光始めた。
すると、右腕が前に引っ張られ、刃は弧を描きながら右下に向かって空を斬った。
「__と、こんな感じだ」
「いや、全くわからないよ、それ」
由比ヶ浜さんまさかの辛口ー!
「じゃあ、どう言えってんだよ」
「え、いやー、それは……」
お前も解んないんかい。
「まぁ、いいわ。違う武器の『ソードスキル』を見たところで意味はないし」
「それ最初から言えよ……」
「で、私はさっきどうやったのかしら?」
俺に聞くな。ってか、さっきのマジで無意識だったのかよ……恐ろしすぎるだろ。
「確か……レイピアを持った方の腕を後ろまで引いて、腰を落としながら体を開いてた、ような気がするぞ」
「そう」
一言で返事を済まされた……。
だが、雪ノ下は意外にも俺の言った通りの姿勢をとった。素直なのか素直じゃねえのかどっちなんだよ、お前。
なんて、思っていると、まさに先程みたオレンジ色の光が、レイピアを包んだ。
ここまで来れば、後は簡単だ。そのシステムに身を委ねればいい。
「____せあっ!」
力強い掛け声と共に、細い剣身が虚空を突いた。心地よい風切り音が辺り一帯に響きわたり、草むらが少し揺れた気がした。
「……これで、良いのかしら?」
「あ、あぁ。まさか一発で出来るとは思っていなかったな……正直驚いた」
「それは私を誉めているのか貶しているのか、どちらかしら?」
勿論、前者に決まってるじゃないですかぁ。だからそんな怖い目で見んなって悪かったよ。
「えーっと、今は何時かなー」
逃げるようにウィンドウを開く。メニュー画面に表示された時計は、5時半前を指していた。
「もうこんな時間か……」
「え、何時?」
「ったく、そんくらい自分で見ろよ……5時27分だ」
「え!? え、マジ? やっばどうしよう……」
何か急に焦り出したぞコイツ。
「何か用事でもあるのか?」
「うん、今日クラスでカラオケ行くから、家を5時半に出るつもりだったからさー……じゃなくて! 早くログアウトしなきゃいけないんだって!」
「何1人ノリツッコミやってんのお前……さっさとログアウトしろよ」
ってか、俺は当然ながら誘われてねぇのな。もう慣れに慣れたが。
「うん、そうする……えっと、ログアウトボタン何処だっけ……」
ウィンドウを開き、画面をスクロールする由比ヶ浜。しかし、突如静止したかと思うと、不審がるような顔でポツリと呟いた。
「……あれ、ない」
「は? 嘘つけ、んな訳ねぇだろ」
もしそうだとしたら大問題だ。現実に戻れないという事は、つまりはこのゲームの世界の中に閉じ込められるという事だ。
「ったく、世話のやける……」
俺も既に開いてあるウィンドウを同じようにスクロールする。が、本来ならメニュー画面の一番下にあるであろうログアウトボタンは、確かに存在しなかった。
「……マジかよ」
確か、ログアウトをする方法は、そのログアウトボタンをタップする事以外、無かった気がする。
と言うことは。
「__私達は、ここから出る術がないと、そう言うことになるのかしら?」
「……あぁ」
俺達__無論、この3人のみならず、今現在SAOをプレイしている人間全員が、同じ状況に陥っていると言うことだ。
周りを見渡すと、皆困惑の表情でウィンドウを操作していた。彼処の赤毛バンダナの男なんて、「戻れ! ログアウト! 脱出!」とか叫んだ挙げ句、その場でピョンピョン跳び始めた。いい歳して恥ずかし過ぎるだろ……って、そんな呑気にしてる余裕はねぇか。
「雪ノ下、GMコールはしたか?」
「えぇ。けれど、反応は無いわ。これはもうどうしようもない、お手上げね」
「えぇっ!? そ、そんな諦めないでよ!」
「だって実際問題どうにもなんねぇし。プレイヤー1万人が集まって、まだ出られてねぇんだぞ、俺達みたいな餓鬼がどうにか出来る問題じゃねぇだろ」
「けど……」
まぁ、由比ヶ浜の言いたいことはよく解る。もしかしたら一生ここから出られないんじゃないかとか、不安は募る一方だしな。
「……大丈夫だ、きっとどうにかなる。運営側だって今頃対応に追われてるだろうしな」
その場にしゃがみこんだ由比ヶ浜の頭に、ポンと手を置く。掌に触れるその明るい茶髪は、まるで、現実のようにサラサラとした手触りだった。
そして、手を離したその瞬間、リーンゴーンと、巨大な鐘を耳元で思いっきり叩いたかのような爆音が鳴り響き、思わず耳を塞いだ。
「__っ!?」
転瞬、2人の姿を見て驚愕した。
青色の光が、2人を__いや、俺も含めたプレイヤー達を包み込んだのだ。それも、どんどん濃くなっていき、次第に視界がブルー一色になる。
まさか、強制ログアウトのエフェクトか? だが、アナウンスもせずにするなんて。
考察は、体を包む光が目も眩む程強くなったときに途切れ、もうどうにでもなれ__そう思った。
そして、再び視界が開けると、そこは先程の夕陽に照らされた草原ではなく、石畳の敷かれた広場だった。
そう、紛れもなく、ゲーム開始地点の『はじまりの街』、中央広場だ。
周囲を見渡すと、人、人、人。恐らく、プレイヤー全員が一斉にここに集められたのだろう……先程のテレポートで。
少しの間、静寂がその場を支配したが、やがて少しずつざわめきが聞こえ始めた。
初めは疑問が飛び交っていたが、それは次第に苛立ちを帯び、喚き声もそこらから聞こえてきた。
いつまでこの時間が続くのだろうか……そう思った時。
不意に、誰かが上の方を指差し、他に退けをとらない声量でこう叫んだ。
「あっ……上を見ろ!」
反射的に、一斉に、周りの人間はそちらに視線を向けた。しかし、そこにあったものを見て、異様に感じた。
第二層の底__高さは100メートル程だろうか。そこに、紅い煙状の何かが浮遊していた。
いや、煙ではなく、文字。2つの英文が、そこに表示されていた。
1つは、【Warning】、もう片方は【System Announcement】と。
俺は咄嗟に、運営のアナウンスかと、やっと出られるのかと安堵した。が、それも束の間、それに続き不可解極まりない現象が起きた。
表示された2つの英文、その中心がまるで赤い色水を垂らすように__いや、もっと端的直入言えば、血のように垂れ下がった。
今日はここまで
原作と合わせるの大変だわ……
それはねっとりと、粘りのある動きで滴り、独立して落下したかと思うと、突如空中で静止した。
ぐにゃぐにゃと粘土を練るかのようにそれは変形していき、次第に人の形となった。
全長20メートルはありそうな、赤のフード付きローブを纏った、巨大な人__のような何か。
一見すれば、ただの巨人だが__いや、巨人をあたかも普通だと表現するのは、些か変ではあるが……そのフードの中身は闇一色に染まっており、それどころか袖の中も漆黒のみが広がっていた。
何にしろ、それは浮遊しており、最低でも一般のユーザーが使用しているものとは思えない__いや、ユーザーが使用しているとは思えない、名称し難い不気味さを漂わせていた。
周りのプレイヤーも、俺と動揺に不審に感じたのだろう、そこらから不安感を乗せた声色の囁き声が聞こえてくる。
すると突然、それを鎮めるかのように、巨大なローブはおもむろに右手を少しだけ動かした。
はらりと広がった袖口からは、その中身とは対照的な色__純白の手袋が現れた。が、それも他の部位同様、そこだけ切り離されており、ふと透明人間を連想する。
ゆっくりと両腕__本来なら腕が中にあるであろう肩から手袋にかけてを広げ、声を発した……ように感じた。何と言ったって、顔も口も見えないのだからそう表現する他無いのだ。
『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』
その言葉に、俺は片眉の端を上げざるを得なかった。
あの赤ローブは、確かに『私の世界』と言った。それは当然SAOの事を指しているのだろう。となると、GMであることは断言できる。
が、それを今ここで宣言したところで何にもならない。第一、わざわざそんな事をのうのうと言っている暇があるなら、さっさと現実に戻せって話だ。
すると、「これから重要話をする」とでも言わんばかりに、赤ローブは両腕を元の定位置に戻し、案の定第二声が耳に届いた。
『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』
茅場晶彦。その名前には少しばかり聞き覚えがあった。
確か、このSAOの開発ディレクターで、ナーヴギアの設計を行った人物だった気がする。
今日、店へ行った時に立ち読みした雑誌に、そんな事が書いてあったが、では何故そんな人物がここでGMなんぞをやっているんだ?
そう疑問の浮かんだ矢先、次の言葉でそれはより濃いものとなった。
『プレイヤー諸君は、既にメインメニューからログアウトボタンが消失していることに気がついていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、『ソートアート・オンライン』本来の仕様である』
ログアウトボタンが無いのは、本来の仕様だ、目の前の赤ローブ__茅場晶彦は、そう言ったのか?
『諸君らがこのゲームから解放される条件は、たった一つ。先に述べた通り、アインクラッド最上部、第100層まで辿り着き、そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすればよい。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされることを保証しよう』
暫くの静寂が流れた。
それは恐らく、俺も含めたプレイヤー全員が、あることに気づき、改めて身震いしたからだろう。
それは、茅場が冒頭に言った、【この城を極めるまで】という言葉の真意だ。
この城、というのが、俺達のいる第1層とあと99層あるアインクラッドであることを、嫌にでも悟ったのだ。
辺りから、「ふざけんな!」「無理に決まってんだろ!」などと罵声が飛んできた。
無理もない、何故なら『絶対に無理な話なのだから』。
2ヶ月の間行われたベータテストですら、プレイヤーが1000人だったとは言え、6層しかクリアされなかったそうだ。それを考えると、今回の正式サービスではどれくらいかかるのだろうか?
そう思っていると、周りのプレイヤーも同じことを考え始めたのか、しんと静まった。
ピンと張り詰めた静寂が続くかと思うと、やがて低いどよめきが聞こえ始めた。
多分、先程までの宣告が、真実なのかただのパフォーマンスなのか、未だ判断しかねているのだろう。あまりにも現実離れした内容であるがため、信じきれないのだ。
『それでは最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれ給え』
その言葉を聞くや、皆が一斉に右手の指2本を揃えて下に振った。若干のズレと共に、大量の電子的な鈴の音が響きわたる。
メインメニューの中の、アイテム欄タブをタップ。所持品リストが表示され、茅場の言う通り、アイテムが1つ、そこにあった。
アイテム名は、『手鏡』。
どうしてこんな物を、と思いながらも、名前をタップし、表示された小ウィンドウからオブジェクト化のボタンを選択し、叩く。間髪入れずに、軽く光を纏いながら、こんなファンタジー世界には合わないほど酷く一般的な、四角い手鏡が現れた。
手に取るが、特別何か起こる訳では無い。そのまま顔を写そうかと鏡の面をこちらに向けようとする、が__
そこで手を止める。
何故か、特に意味は無いが、見てはいけない気がした。
その予感が当たったのかは定かで無いが、突如他のプレイヤー達の体を、真っ白な光が包んだ。俺を除いて。
数秒経ち、広場から光が消え、先程までの風景が現れた……。
ことは無く。
美男美女の光景は何処へやら、周りにいるのは、『普通』の人間達だった。
俺がもし何も知らずにこれを見れば、きっとクオリティの低いコスプレ集団だと思うであろう、そんな光景だ。男女比も大きく変化しており、正直目を瞑りたい程痛い奴もいる。
きっと、先程の手鏡は、鏡に写ったプレイヤーを現実と同じ姿にするものだったのだろう。俺は、俺だけそれから免れたのだ。
ふと自分の手を見る。そこにはさっきと変わらず手鏡が握られていた。勿論、鏡の面は裏向きにして。
きっと、ここで表に向ければ、俺の目はリアルと同じ、腐った物になるだろう。だが、そんなことをする訳なく、再びウィンドウを開き、アイテム欄をタップ、オブジェクト化を解除して手元から手鏡を消す。
さっき地獄に突き落とされた気分だったのが一転、俺は優越感に浸っていた。
SAOよく知らんがPT組まないのか
>>92 忘れてたw
達成感も束の間、素早く辺りを見渡し、一番近い敵に視線を向け、地を抉るように駆ける。
距離がどんどん狭くなっていき、敵もこちらの存在に気が付いたようだ。
だが、攻撃する余地など与えない。
短剣を左脇腹辺りに置き、敵が射程距離に入った瞬間、思いきり右に振る。
鮮やかな光が横一直線に引かれたその刹那、今度はその剣を上に素早く持ち上げ、垂直に降り下ろす。
短剣二連撃ソードスキル、『クロス・エッジ』だ。
青イノシシ、正式名称『フレイジーボア』は、その場で数秒停止し、爆散。
この光景を見たのはまだ三回だというのに、既に慣れ始めた自分が少し怖くなった。
なんて事を思っていると、突如目の前にウィンドウが表示された。レベルアップした時に出現するものなのだろうか。
一通り見るが、どうやらステータスの上昇数値などが載っているようだ。ドラ○エと似たような感じがする。
「取り合えず、2人呼んで宿行くか」
雪ノ下の方へ歩いていくと、夕暮れの中で橙の光が走るのが見えた。『ソードスキル』の発動エフェクトだろうか。
雑草を踏みつけながら歩み寄る。そこには、案の定細剣を振るう雪ノ下と、HPが残り僅かとなった『フルイジー・ボア』の姿があった。
「ーーーやぁっ!」
再び光を放ったレイピアは、『フレイジー・ボア』の足元を的確に狙い、貫いた。
ズドッ、と心地よい音が響くと同時に、イノシシの体が爆ぜる。
細剣基本単発技、『オブリーク』だ。
「……ふぅ」
細剣を馴れない手付きで鞘に収め、大きく息を吐いた。すると、俺の時と同様、彼女の目の前にウィンドウが現れた。レベルアップをしたようだ。
「よう、雪ノ下。レベル上げ、終わったっぽいな」
後ろから声をかけると、肩を跳ね上げ、効果音で風切り音が聞こえてきそうなくらいの速さでこちらに振り向いた。
「……いきなり後ろから声をかけないで欲しいのだけれど。虫酸が走るわ」
「あーはいはい、すいませんでしたぁー」
眠たくもないのに、欠伸をするフリをして大口に手を当てる。その適当な応答に機嫌を損ねたのか、目を細めながら何を言う訳でもなく、こちらを睨んできた。
「……まぁいいわ、早く由比ヶ浜さんとも合流しましょう」
由比ヶ浜の方へ歩いていく途中、『はじまりの街』の方から数名のプレイヤーが出てくるのが見えた。恐らく、俺達と同様に今のうちにレベルを上げておこうと言う魂胆なのだろう。遠くからでよく見えないが、決心付いたような表情をしているように思えた。
「何をボーッとしているの、比企谷くん。早く行きましょう」
「あ、あぁ」
いつの間にか立ち止まっていたらしい俺に雪ノ下が声をかけてきた。俺は思わず生返事を返してしまい、少し恥ずかしい思いをしたのだが、雪ノ下はそれに対して何ら反応せず、スタスタと歩きだした。少しは何か言ってくれません?八幡は寂しくなると死んじゃうよ?嘘だけど。
なんて戯言を心の中で吐いていると、雪ノ下がふと口を開いた。
「……ねえ、比企谷くん」
唐突に呼ばれたため、一瞬たじろぐが、雪ノ下の真剣な眼差しを見て、思わず「何だ」と返事をしてしまった。
「私達は、いつまでこの世界に閉じ込められる事になるのでしょうね」
「……いつまで、か。この世界から脱出できるかもしれないという事を前提にした言い様だが、何か意味でもあるのか?」
もしかしたら、残りの一生をこの鉄の城で過ごすこととなるかもしれないのに……それを考えると、雪ノ下の言い方は随分と楽観的だ。
「えぇ、だって、私達はいつか必ずここから出ることができるもの。前提も何も無いでしょう?」
冷えた目で、一定のトーンで、淡々とそう答えた。それは、自らの終わりの時を無感情に見ているかの様な、そんな表情だった。
「……お前、たまに物騒極まりない事をいうよな」
確かに、ここからはいつか出れる。違いは、帰るか還るかの話だと、雪ノ下はそう言いたいのだろう。
「まぁ、間違っちゃいねぇが、考えただけ無駄ってもんだろ。例えその疑問が解消されたとしても、残るのは虚無感と劣等感だけだ、良い方向に転がる訳じゃねぇ」
思想が現実に変わるのなら、俺なんてとっくに人生薔薇色だっつーの。だが、世の中そんな甘くはない。それは、俺が何よりも知っている事だ。
「取り合えず、自分のやれることをやれ、それが何かは自分で考えろって事だ」
この世に帰るか、あの世に還るか。そう思うと、このSAOという世界は、茅場は現実だと言っていたが、俺からすると些か曖昧な存在であると感じた。
どちらにも転がる、そんな場所。
まぁ、そんなこと、考えたところで何にもならないと、さっき自分で言ったばかりなんだが。
「終わったようね」
ふと、雪ノ下がそう言った。
彼女と同じ方に目を向けると、確かに由比ヶ浜が背中に担いだ剣を重そうにしながらこちらに走ってきている。
「おう、意外と遅かったな」
「うん、ちょっとてこずっちゃって」
少し息が荒いように見えるが、それでも由比ヶ浜は笑顔を浮かべている。何こいつごっつえぇ子。
「さて、3人揃った事だし、適当に宿探して泊まるとするか」
取り合えず、俺のスレで議論しないでくれ。間違ってんならそれでいいだろう、中学生は俺でいいだろ。
今辞書先輩に聞いたけど、「一巡りして戻ってくる」って意味らしいな。
俺は「還元」とかいう感じで使用してたから、死ぬとか言う意味は無いっぽいな
くっさい漢字博士(笑)と頭の悪いガキは自分たちでパー速にでもスレ立てして話し合いなさい。
ここや雑談スレで無駄な話すんなキチがいや共
漢字博士(笑)は土に還れage
「……それで、『鎌』スキルが特殊ってどういう意味なんです?」
「………うーん」
陽之さんは、一瞬悩んだ表情をするが、その後悪戯っぽく笑いながら答えた。
「やっぱ言うのやーめたっ♪」
「……はい?」
「いやー、だってこれ知られちゃうと意味ないんだもん。お楽しみはとっておくモノでしょ? 今教えたら台無し」
何その上げて落とす戦法。あれなの?更に上げてV字型曲線の惚れさせ作戦か何かなの?
「……まぁいいですけど。っていうか、俺そのスキルを使おうにも、武器を持っていな」
「それならあるよん☆」
いやそれ流石におかしいだろ。
「……どこで手に入れたんです?」
そろそろこの人危ないだろ。ブラックリストに名を馳せることになるだろ、今に始まった事じゃねぇけど。
「チッチッチ……それは聞くもんじゃあないって訳だよ比企谷くん」
うぜぇ。
「という訳で、期待の募る比企谷くんには愛しい陽之ちゃんからのプレゼントー!」
キャピっと可愛らしい(笑)台詞とは裏腹に、陽之さんの右手はもの凄いスピードでウィンドウ操作をしている。……この人、ホントにプレイ初日だよな?
何て思った次の瞬間、陽之さんの正面に巨大な鎌がオブジェクト化された。柄の長さは1m20cmほど、刃は腕の長さを優に越す大きさだ。
例えるなら、それは死神の持つ鎌。真っ黒の持ち手とは対照的な、銀に耀く湾曲した刃。俺がこれを今から使うのかと思うと、興奮よりも先に悪寒が走った。
これは、使ってもよいのだろうか?
ただの直感でしかないのだが、俺はこれを使うべきではないのではないのかと感じた。こう、不幸を誘き寄せそうとか、そんな気がする。
「……? どうしたの、早くもってよ。お姉さん腕が疲れちゃうんだけど」
「……はい」
恐る恐る手に取ってみる。しかし、俺の予想を裏切るように、それは軽かった。もう少し重量感のある物かと思っていたが、案外そうでもないようだ。
鎌の柄をタップする。現れたウィンドウには、『サングィス・ファルクス』というこの武器の名前らしき文字と、その他幾つかの英語が並んでいた。
「……『血濡れの鎌』ってところか?」
「お、比企谷くんラテン語読めるのかー、感心感心!」
「ハハハ……」
ここでまさか、中2の頃知ったなんて言える筈もなく。
バカ大杉
名人きもい
くっさい漢字博士(笑)と頭の悪いガキは自分たちでパー速にでもスレ立てして話し合いなさい。
ここやSAOスレで無駄な話すんなキチがいや共
漢字博士(笑)は土に還れage
「じゃあ俺、パンか何か買ってるから、そこのベンチ辺りにでも座っておいてくれ」
「わーった」
我ながらなんと言うか、やる気のない返事をして、踵を返すキリトを一瞥した後、倒れ混むようにベンチに腰掛けた。
「……キョウモイーテンキダナー」
八幡天気予報。
今日の天気は晴れ。
ちなみに俺の心は、年中無休の曇り空だぜ!
「……疲れた」
疲労感満載の天気予報キャスターは、無気力な目で辺りを見渡した。
昨日は、あれほど閑静だった『はじまりの街』は、1日が過ぎて、少しだけだが、活気付いてきたような気がする。
勿論の事、笑顔を見せるプレイヤーは殆ど見かけなかったが、それでも大きな前進と言えるだろう。
前進、禅心。
そうして、呆けて上を見上げ、ボーっとしていると、突如木の軋む音がした。
それが、誰かが俺の隣に腰掛けた事を意味するのは分かるのだが、ゲーム世界とはいえ、『仮想世界』と言うだけあるようで、上を見ながら背もたれに体を預けている俺には当然な事故が生じた。
詰まるところ、軽くバウンドした頭が、着地時に背もたれの延長線上、ベンチの角に直撃したと言うことだ。
「ぐおっ!?」
圏内だからHPが減少することは無いが、頭に物凄い衝撃が加わり、目から火花が散る感覚に陥った。
改心の一撃。
「いって……」
痛覚は遮断されているため、痛みはないが、思わず手で後頭部を擦った。
はたから見れば随分と情けない姿なのだろうと思い、即座に姿勢を直す。
すると、隣から「……あんた、大丈夫?」と女の声が聞こえてきた。少しハスキーで、気だるそうな声。
…………って、え?
ヴォンッ!と効果音が流れそうな勢いで、首を声の元へと向ける。現実だったら100%鞭打ちしてたわ、ありがとう仮想世界。
そこにいたのは。
「川崎ッ!?」
スラッと長い足、風になびく結われた髪、そして特徴的な泣き黒子。
間違いない、見間違いようのない、同じクラスの川崎だった。
しかし、予想外にも川崎の反応は冷たく、「あんた、誰?」とでも言いたげな、不審者を見る目をこちらに向けてきている。
あ、そっか。俺の目、まだ美化されたまんまだったわ。
「え、あー、そのー……」
今の内に他人の振りをしておくべきだろうか。俺の為にも、川崎の為にも。
「や、やっぱり人違いだったっー」
「八幡、パン買ってきたぞ。水も持ってきたけど、いるか?」
ふざけるなよキリトくん。
「え、八幡って……はあっ!?」
まぁ、そうなりますよね、うん。
「はぁ……、もういいか。キリト、隣座っていいぞ」
「お、おう……」
川崎の反応に、何も知らないキリトは戸惑ったらしく、目をパチクリさせている。不覚にも可愛いじゃねぇかおい。
「さて」
一体どこから話せば良い事か。
「キリト、一応紹介しとくが、こいつは」
「自己紹介くらい自分でやるっつの」
川崎さんマジ恐ぇっす。
「あたしは沙希。『ここ』じゃフルネーム出すのはタブーなんでしょ?」
そう言いながら、俺にむっちゃガン飛ばしてきた。……すまんかったって。
「いい配慮だと思うぞ。よろしくな、サキ」
キリトはといえば、良い笑顔でそんな事を言う。が、川崎は特に反応を示さず、相変わらずの無愛想な顔を向けただけだ。可愛くねぇなホント。
「んで、川さ」
「さっきあたしが言ったこと、聞いてた?」
「……沙希は、なんでSAOをプレイしようと思ったんだ?」
あくまでイメージだが、ゲームとは疎遠って感じがするからな、こいつ。
ってか、名前で呼んだ途端に顔を赤らめないでくれます?何でか知らんけど比企谷くん勘違いしちゃうよ?
「……抽選の応募ハガキの1等が『ナーヴギア』とSAOのセットで、それが偶然当たったってだけ。あたしは2等の米を狙ってたんだけど」
某メイド会長かお前は。
「ゲームなんて全くやんないし、そんな興味なかったんだけど、売るのも勿体なかったし、ちょっとだけやってみようかな、って」
そう答えると、キリトは「どうだかな……」と言って目線を逸らした。何その意味深な動作。
「あ、そうだ。パン買ってきたんだったな……」
あ、そうだったな。川崎がいたっていう事実がインパクト強すぎて忘れてたわ。
「ちなみに言っておくと、喉渇いたら、噴水とかで汲んでこればタダだからな」
「……それ、衛生的に大丈夫なのか?」
「ゲームの世界に汚いも何も無いだろ」
微笑を浮かべるキリト。それにつられて俺も笑う。
しかし、我ながら、よくもこの短時間で見知らぬプレイヤーなんかと友好関係を築けたな……比企谷八幡もついにぼっち卒業か?無いだろうけど。
「なぁ、八幡。聞き忘れてたんだが、どうしてプレイ2日目だっていうのに、あんな危険なとこで経験値稼ぎしてたんだ? 幾ら使ってる武器が特殊だとは言え……」
その言葉、まんまお前に返してやりてーんだが。
「そんなの簡単な話だ。『新しい武器が手に入って浮かれていた』。以上」
そう言うと、キリトは額に手を当てて、深い溜め息をついた。……まぁ、言いたい事はわかるけどよ。
宿に着いたのだよ(`・ω・ ´)キリッ
「比企谷くん」
冷たい、凍えるほど冷えきった声。
「改めるなら死期谷くん」
「死亡宣告かよ」
「志望?」
「そっちじゃねえ!」
今俺が誰と会話しているかと言えば、言わずもがな知れた雪ノ下だ。
では、俺が今どんな状況下にあるかと言えば。
簡単な話、『女二人を宿に置いて出ていくだなんて最低な男ね』ということで床に正座させられ、絶賛説教中である。
……ご褒美じゃんとか思ったやつ、代わってやっても良いんだぞ?
「へぇ、説教をされている途中に考え事をするだなんて、いい度胸をしているのね、餓鬼谷くん」
「なんでそんなに罵るんだお前」
嫌いなの?実は俺のこと嫌いなの?
「なんでって……なんででしょうね?」
「俺に聞くな!」
「なんだか耳障りな音が聴こえる、蝿でも飛んでいるのかしら」
「素直に五月蝿いって言えよ……」
つーか今11月だし。季節外れなんてもんじゃねえぞ。
「あら、クz……比企谷くん、何か言ったかしら」
「今クズって言おうとしたよな、絶対言いかけたよな!?」
「ピーピー喚かないでくれるかしら、五感が障るのだけれど」
「流石に味覚には影響出ねえだろ……」
「細かい男ね」
「細かいんならむしろ良い事でもあるだろ。細部にまで気を配」
「小さい男ね」
「話してる途中に口を挟むなそして言い直さんでいいわ!」
「黙りなさい」
「普通に罵倒された!」
はぁ……なんでこんなところで体力を使わなきゃいけないんだ、ってか由比ヶ浜もなんか喋ろよ。せめて宥める事くらいはしろよ。
「って、あれ? 由比ヶ浜は?」
「由比ヶ浜さんなら、今眠たいからと言ってまだ寝てるわ」
マジかよ。
恐怖で、震えていた?
「ええ、そうよ。挙げ句の果てにはヒステリックな眼差しで、私に殴りかかろうとまでしたけれど……恐らく、本人は覚えてないでしょうね」
「殴る……って」
あの人当たりの良い由比ヶ浜が?想像なんてできやしない。
「と言っても、その後にはだいぶ落ち着いたけれど。それでも、まだその時の疲れは取れていないようね。貴方が出ていった後も、起きたと思ったらまたすぐに二度寝してしまったわ」
「……そんな事が」
「それに対して貴方は、まだ2か目だというのに、朝早くから圏外に出て……よくもまあ、そんな軽々と自殺行為のような事を行えるわね」
「それは少し言い過ぎだろ……」
自殺行為て。けどまぁ、実際死んじまうんだから、そう言われても仕方がない気もするけど。
「貴方はまだ、この『世界』に取り残された人達が、どれだけ死に対して怯えて暮らしているか知っているのかしら?」
窓の方に目線を逸らす。
ここは大通りに面した宿で、本来なら、デスゲームでない至って普通の『SAO』をプレイしているとしたら、俺の目には沢山のプレイヤーが映った事だろう。
だが、それはあくまでも『そうだったら』の話。
俺の目の前には、人通りの殆どない、閑散とした光景がある。
まばらに通るプレイヤーもいるが、その誰もが虚ろな目をしており、表情も絶望色に染まっている。
「この世界に閉じ込められたプレイヤー全員が、貴方のようではないと言うこと、重々承知しなさい」
「は、はぁ……」
何だか、説教されている気分だ。
いや、実際説教されているんだろうけど。
「それと」
「それと?」
「……貴方が宿から消えたのを知ったとき、私達がどれだけ不安になったか……よく考えなさい」
「……つまり、淋しかったのか?」
雪ノ下の顔が、カーっと赤くなる。最初から素直にそう言えばいいものを。
「ち、違うわよ! だ、誰が淋しくなんか」
「あーはいはい、別に強がんなくてもいいっつーの」
「~~~~~~~!!」
何この生き物可愛い。雪ノ下が恥ずかしがってるところとか、凄い新鮮だな。
このSSまとめへのコメント
頑張ってください!w
SAOクロスで、完結した作品見たことないんだよな・・・
頑張ってくれー(´;Д;`)