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【咲-Saki-】咲「お姉ちゃんまでプラマイゼロをやりだした」
【咲-Saki-】咲「お姉ちゃんまでプラマイゼロをやりだした」 - SSまとめ速報
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多分今日の投下で埋まるので先に立てました。
【阿知賀宿舎にて】
灼「……休憩」
玄「もうヘトヘトだよ……」
憧「これ、ハルエと晩成OGのプロ二人の卓よりキツイよ……七人だからローテは楽なのに半荘一回一回がキツイ……」
宥「ちょうど清澄が試合してるね。見る?」
衣「どうせ有象無象が蹂躙されているだけだろうが、一応見ておくか」
佳織「もう終わってたりして」
穏乃「いくらなんでもそれは……相手は全国でもトップクラスの強豪三校ですよ?」
玄「小鍛治プロの解説の方でいい?」
灼「どっちでも。見れればい……」
衣「ヒサが出ているな、前半は既に終わっているのか? 中堅戦の後半にしては清澄の点が少ない気がするが、ヒサが手を抜いたか、マコが不調だったか……」
憧「二位は千里山か。流石、関西最強って感じだね」
玄「三位は姫松で、四位の新道寺は4万点台か……苦しそうだね」
灼「新道寺の切り札は副将と大将のダブルエースってハルちゃんが……」
憧「ああ、ラスト二人だけで10万差は余裕でまくるとか言ってたねー。てことは、清澄以外はまだどうなるかわかんない感じかな?」
佳織「試合は、竹井さんが南場の親で二本場を積んだところですね」
宥「どんな展開だったんだろう?」
憧「それは、準決勝を抜けたらゆっくり見よう。今は準決勝を通過しないと」
衣「まあそう急くな。もう南二局だ、この半荘が終わるまではヒサの打ち方を見ていてもよかろう」
洋榎(……なんで、こうなった?)
久「~♪」
洋榎(おかしくなったのは、そうや、東二局……東一局もこいつは様子見をしていて、うちは、こいつが動かんなら更に稼げると判断した)
洋榎(都合のいいことに三巡目で 234赤5678p345s567m のタンヤオ赤1を聴牌、うちは迷わずリーチをかけた)
洋榎(ところが、山に居るはずの258の三面単騎がいつまでたってもツモれん。そうこうしてるうちに、竹井から追っかけリーチが入った、そして……)
***
洋榎「くそっ……追っかけかい」
打:1p
久「ロン」
洋榎「……あー、くそっ、追っかけに一発で振り込むとか最悪や」
久「……48000」
洋榎「……は?」
久手牌
11222赤55588899p ロン:1p
洋榎「リーチ一発、清一色、対対、三暗刻、ドラ1……しかも、それ……」
久「あ、やっぱりこれだった? 山に9枚居たわよ」
洋榎「……9枚全部、ツモったってことか?」
久「ええ、オリるつもりだったんだけど、この筋ばっかり来るんだもの。そういうことだと思ったわ」
***
『というわけで、東二局で流れが変わりましたね。あの和了りを高校生の試合で見られるとは思いませんでした』
『おおっ! べた褒め!?』
『プロでも、聴牌から三面子捨ててまであの聴牌に辿りつける人は滅多にいません。人と違うものが……和了りへの道が見えているとしか思えません』
『最初に聴牌した時点で追っかけリーチをしていたら次巡の2筒を切って逆に直撃! むしろ、普通ならそれ以外の展開はあり得ないところ! まさか本当に未来が見えているのか、竹井久ああああ!?』
『あの直撃で、姫松が一気に前半の稼ぎを吐き出して三位に転落しました。加えて、盤石なトップと苦しい点数の最下位……清澄の優位が確定しましたね』
『あ、白糸台の時になんか聞いた気がする、なんだっけ?』
『また説明するの!? 昨日見てなかった人も居るから説明するけどさ……』
憧「うわ……リーチかけた時点で山に9枚残ってた和了り牌を丸ごとかっさらったっていうの?」
灼「これはキツ……」
玄「これが、長野県の個人戦二位……」
衣「ヒサめ、こんな打ち方も出来るのか……いや、むしろこちらが本来の……なるほど」
宥「その後、また様子見みたいな打ち方に戻して、親を迎えてからは小さな和了りを続けてこの二本場なんだね」
穏乃「なにが狙いなんでしょう?」
佳織「あ……」
衣「どうした?」
佳織「あ、いえ、今のお話とは全然関係ないんですけど……新道寺の人、今の南を鳴かないのかなって」
玄「新道寺の江崎はあんまり鳴かないって、赤土先生が……」
憧「自分が鳴かないだけじゃなく、鳴きが発生すること自体が苦手、だからあたしとは相性がいいとも言ってたね」
衣「そうか、それは不自由なことだな」
佳織「翻牌だし、私なら鳴くけど……」
憧「あたしも当然鳴く」
玄「鳴くということは一度他人の手牌に入ったということ、つまり、その牌はドラじゃない。私の場合、鳴きはNG」
衣「衣なら海底で和了れるように打つぞ」
灼「天江さんの意見は全く参考にならな……黙っててほし……」
衣「ひどい……」グスン
仁美(……さっきから、配牌がマシになってきちゅーように思う。ツモも悪くなか)
洋榎(ダメや、折れるな、うちが勝たんで誰が勝つんや? 絹は浩子とならいい勝負やけど、あと二人が白水と原村、恭子の相手は清水谷と鶴田と宮永や。流石に分が悪い……
せめてここで千里山より上で終わらんと二位にもなれん……なのに、手が進まん)
セーラ(前半で差がついてもうたからなあ……ツキが離れとるみたいで、なかなかいいとこツモれんわ)
仁美(大阪の二人が失速して、あたしにも目が出て来たってことやね。さて、行くべきか否か)
久「ツモ。1200オール」
444p2346788s345m ツモ:8s
仁美(悩んでる間にサクッと和了らるっちゃね。圧倒的な速度の早上がり、こいがこいつの本領……)
久「咲と和に出番を残すつもりだったけど……」
洋榎「」ピク
セーラ「……」
仁美「」ゾクッ
久「あんまり腑抜けた打ち方してると、ここで終わらせるわよ?」
洋榎「やってみい、ただじゃ死なんで」
セーラ「返り討ちにしたるわ」
仁美(ブラフやなか、本気たい。こいつはそれが出来る力がある……何とか哩に繋がんと)
久「じゃ、三本場ね」
咲「」ゴゴゴ
和「部長、何本積む気ですか?」ゴゴゴ
照「東二局の役満だけでも危ないのに、ここで大連荘なんかしたら竹井さんがインタビューを受けることは確実……止めないと」ゴゴゴ
優希「てゆうか、あの役満だけでも確定だと思うじぇ」
まこ「こいつらは……本当に応援する気が欠片もないのう」
京太郎「味方が和了って殺気出してる控室は、全国でここだけだと思いますよ」
優希「でも、部長はなんで今更本気出してるんだじぇ?」
照「……確かに、おかしい」ピク
咲「む、言われてみれば」
和「あの人の気まぐれなんかいつものことですが……確かに妙ですね」
まこ「お手柄じゃ優希、よくこいつらを止めた」
咲「うーん……何だろう? 勝ちにこだわるにしても東場の役満直撃で十分だよね」
和「後の試合のために、切り札である悪待ちの印象を薄めて早上がりを印象付けている……というのも不自然ですね」
照「一回戦でも長野でも散々やったから、今更それはない」
まこ「おんや?」
京太郎「どうしました?」
まこ「いや、珍しいことが起きたもんでな」
優希「珍しいこと?」
まこ「ほれ」スッ
京太郎「あっ、これは……確かに」
優希「関係なさそうではあるけど、確かに珍しいじぇ」
仁美「ポン」
久「……」
洋榎「そういや、お前もおったな。ただ、慣れんことはするもんやないで?」
セーラ「どんな風の吹き回しや? 新道寺の」
仁美「うちはシードやけん、二回戦で消える気はなか。それだけね」
洋榎「お前、鳴いたことほとんどないやろ? そんな悪あがきが通じる相手か?」
セーラ「せやせや、慣れんことせんで俺らに任しとけ」
仁美「……指図は受けん」チュー
久「……リーチ」
久手牌
123p456s222m北北西西
セーラ(……ここでリーチか。知らんわ、こっちは跳満張っとるんや!! 俺が止めんで誰が止めんねん!?)
セーラ「んじゃ、俺もリーチ」
セーラ手牌
1234赤566789m西西中 ツモ:7m
打:中
洋榎(竹井のリーチか……ま、鳴きが弱点とか言われとる奴が悪あがきで鳴いたぐらいでどうにかなる相手とちゃうやろ。やっぱ、うちが何とかせなアカン)
洋榎「ほんなら、うちもリーチや」
洋榎手牌
34赤5s3456m34赤5p北北中 ツモ:7m
打:中
竜華「オリたらそのうち振り込んどったな」
怜「せやな。洋榎さんもセーラもオリる気ないみたいで助かったわ」
泉「二人で竹井の和了り牌を握りつぶしてますね」
浩子「せやな。二人がオリん限り、竹井の手は死んどる。二人がリーチかけたんやから、もう竹井の上がり目はない」
雅恵「……妙やな、あんなリーチをかける奴には思えんけど」
泉「オリると思ったんやないですか? 見込み違いがあったとか」
浩子「江崎が鳴いた直後です。押さえつけてオリさせるためのリーチってことはあり得ますけど……違和感がありますね」
竜華「字牌どっちか落としてたら、今のでツモ和了りやな。リーチかけてから一面子ミスっとる。さっきまでやったらああいうのは和了ってる気がする」
怜「……ま、私はなんとなく理由が分かるけどな」
竜華「分かるん?」
怜「ここに居る人間で理由が分かるのは、私だけやと思うで。なんだかんだで、みんな最初から『持ってる』側の人間やから」
竜華「なんやそれ?」
哩「どんな奴でもミスはあるってことやね。あの二人の性格を読み間違えよった」
姫子「江崎先輩が鳴きを入れてまで次につなごうとしとっと、あれば見てもまだヒヨるような奴には名門のエースは務まらん」
美子「力の差ば見せつけてビビらすつもりが裏目に出とーと! 大阪の二人の待ちも薄か、チャンスばい仁美!」
煌「……ミス、ですかね? オリないことも、計算済みのように思えますが」
哩「あいつらがオリんかったらあの手は和了りようがなかろーが」
煌「そう……ですね。いえ、おそらく私の気のせいです、失礼しました」
恭子「竹井は和了れん、江口と主将は和了り牌が残り一枚の8萬だけの実質地獄待ち。和了るとしたらおそらく江崎やな」
由子「なのよー」
漫「しかし、竹井はなんであのリーチかけたんでしょうね? 江崎さんが意地を見せたあのタイミングでリーチかけたら、主将と江口さんならますます押しそうなもんですけど」
絹恵「江崎が動いたのを無駄やって言うようなリーチやからな。あの二人なら『連荘止めるなら自分が行かなアカン』って思って前に出ますわ」
恭子「……だからやろ」
由子「のよー?」
恭子「いや、なんでもない」
仁美「ツモ、700・1000」
セーラ「あー!? 俺の跳満がそんな安手でー!」
洋榎「うっさいわ! 跳満ごときで文句言うなや! うちなんか跳満蹴られてんねんで!?」
セーラ「お前も跳満やんか!?」
久「」クスクス
洋榎「先制リーチ蹴られた奴が笑うなや! 次や次! セーラに親かぶり食らわしたる!」
セーラ「親番一回あれば十分や! 俺がここからお前ら全員飛ばしたるわ!」
洋榎「さっさと蹴られてうちにラス親寄越せや」
セーラ「俺の連荘でお前が飛んだら次の半荘の東パツで親やらせたるわ」
洋榎(……江崎を押さえつけるようなタイミングの竹井のリーチやったけど、結果は江崎が和了った)
セーラ(てことは、この化けもんにも隙はあるってことや)
久(まったく、急に元気になっちゃって……ま、後は咲と和がなんとかするでしょ)
洋榎「ちなみに、何で待ってたん?」
久「出和了りの出来ないリーチよ。ビビった?」
セーラ「おまえ、あのタイミングでフリテンリーチとかいい性格しとんなあ……」
洋榎「そんなこけおどしにビビるうちと思ったか!? 見込み違いやで」
久「……後で録画でも見ておいて。もう一度言うけど、『出和了りの出来ないリーチ』だから」
中堅戦終了
新道寺 35700(- 7100)
清澄 183000(+60200)
姫松 77000(-49600)
千里山 104300(- 3500)
セーラ「帰ったでー」
怜「お疲れ―」
竜華「お疲れさん」
泉「あ、先輩、お疲れ様です」
セーラ「一応、二位に浮上したでー」
怜「洋榎さんが役満振り込んですっ転んだだけやけどな」
セーラ「振り込む奴が悪いんや! ところで、南二局の江崎が和了った局の牌譜あるか?」
浩子「ありますけど、どうしたんですか?」
セーラ「竹井のやつが後で見とけとか言うとったから、今見ようかと思ってな。後回しとかすると忘れそうやし」
怜「せやな、セーラは見といた方がええかもな」
セーラ「フリテンリーチかけたらしいな」
竜華「……は?」
セーラ「え? なんやその反応? 竹井が言うとったで、『出和了り出来んリーチ』やって」
怜「うわ……マジか」
泉「見込み違いとかじゃなく、先輩らの手牌も、そこから先輩らがどう打つかも読み切って、あのリーチをかけたってことですか……」
雅恵「そうなると、何のためにやったのかが気になるな」
浩子「まあ、手加減した理由は大将に回すためでしょうけど……あのリーチは不可解ですわ」
怜「セーラと洋榎さんにしっかり打ってほしかったんやろ」
竜華「……怜?」
怜「私は、今でもセーラと竜華に勝つのは抵抗がある。竜華とセーラには私に勝って欲しいって今でも思ってる。あの人も、多分同じなんやろ」
セーラ「ああ、そういうことか」
怜「セーラは分かってくれるか」
セーラ「怜が三軍だった頃にその手の愚痴は散々聞かされたからな」
怜「愚痴やないって」
洋榎「いや、強いんやから勝ったらええやん?」
恭子「まあ、主将が理解できるとは思ってませんし、主将は理解できないままでいいです。漫ちゃん、分かるか?」
漫「分かりません」
絹恵「……うち、分かりますわ。お姉ちゃんに勝ちそうになると嬉しいような歯がゆいような、微妙な気分になります」
由子「私はそういうのはないのよー」
恭子「まあ、由子はそうやろな」
郁乃「うちはわかるで~、三対三やな~」
恭子「まあ、理解できないならそれでええ。で、説明を続けますけど、竹井は主将か江口、あるいは両方に憧れや尊敬の念を抱いていたと考えられます」
洋榎「ま、それはいい心がけやな」
絹恵「で、きっちり打つように発破かけたってことですか?」
恭子「私から見ても、あの役満から二人とも完全に腰が引けてたからな。そらファンなら尻も叩くわ」
漫「そんなもんですかね?」
恭子「絹ちゃんは分かるやろ。主将が腑抜けた打牌して絹ちゃんに飛ばされそうになってたらどうする?」
絹恵「……ちゃんと打って、うちなんかに負けんでほしいって思いますわ。どう打つかは分かりませんけど」
久「鶴賀では妹尾さんが一番私と気が合うと思うのよね」
照「どう見ても加治木さんと一番仲がいいように見えるけど。というか話を逸らさないで」
咲「なんであんなリーチかけたんですか? 別に大勢に影響はないですけど」
和「いえ、待ちも四枚残ってましたし、そこまで妙なリーチでは……」
咲・照「待ちが相手の手の中にあることぐらい分かってたはず」
和「見えてない牌の位置が分かることを前提にしないでください。玄さんのドラならまだしも」
京太郎「久しぶりに和がまともだ……」
優希「待て京太郎、まだ安心するのは早い」
咲「いや、部長は大体見えるから」
和「む……まあ、咲さんがいうなら信じましょうか」
照「牌の在処が見えてなきゃ、三面張を捨てて単騎にしてリーチ一発ツモなんかできない」
和「たしかに照さんの言うとおりです……では今回は何故?」
優希「ほらな」
京太郎「いやまあ、実際部長は見えてると思うけど」
久「見えてないわよ、あの二人と一緒にしないで。勘よ勘、勘が当たりやすいだけ」
まこ「当たりやすいって言葉で済ませられる確率じゃないがの」
咲「説明を要求します」
久「いや、大した理由じゃないわよ? 次に当たる時にあんまり縮こまられると逆に打ちにくいから空振りして見せただけ」
照「む……それっぽい理由」
久「特に、あのタイミングで私が自信満々にリーチして、それを掻い潜ったとなれば?」
咲「部長のリーチだってブラフの可能性があると思わせることが出来る。十分なリードを生かして、次の準決勝への布石を打ったわけですね?」
久「そういうこと。打ち筋は十分見せてもらったし、次に打つ時には駒として動かすことも出来るでしょ。二回戦での余分な点棒より準決以降の方が大事」
和「私たちに回すために手を抜いていても、次への種はしっかり蒔いていたわけですか」
久「真似はしなくていいわよ。あなたは普通に打って普通に勝ちなさい。新道寺が飛ぶことは、多分ないから」
和「北部九州の王、新道寺女子。そこで三年間エースを務める、全国屈指のエース……でしたか?」
まこ「白水哩。今の高校生で麻雀を打つ人間なら、誰でも名前ぐらいはしっとる強豪じゃ」
久「去年も、臨海の辻垣内智葉なんかと並んで個人戦の優勝候補に上げられてた怪物よ。実際には荒川さんが全部持って行ったけど」
和「全力で打っても咲さんの出番が無くなることはないわけですね」
久「そういうこと。思う存分、インターミドルチャンプの力を見せつけて来なさい」
和「はいっ!」
久「それにしても……照の勧誘に必死で気づかなかったけど、私って強かったのね」
照「プロの中でも上位の藤田プロとまともに渡り合える人がなにを今更」
久「ちょっと思っただけよ」
咲「お姉ちゃんを基準にしちゃダメですよ。お姉ちゃんに勝てる人とか世界中探してもいませんから」
照「またそうやって過大評価を……」
久「過大評価というのは事実より過大に見積もった場合に使う言葉よ?」
咲「そうだよお姉ちゃん、私は事実しか言ってない」
照「ダメだこいつら……やはり最大の敵は身内に居る」
【白糸台高校】
監督「……照を表舞台に引っ張り出しただけのことはあるわね」
淡「まあ、ケイの次ぐらいには手ごわそうかなー」
憩「小蒔ちゃんとどっちが厄介かわからんなー。安定して強い分だけ、こっちの方が厄介かもしれませんわ」
菫「とは言ってもお前らとは当らんがな、どうだ尭深?」
尭深「そうですね……連荘を伸ばしてくれるならオーラスは確実に役満を仕込めそうですけど、それで凌ぎ切れるかどうか……」
菫「そうか……さて、そうなると厳しいな。戦力的にはうちより上かもしれない」
憩「いやいや菫さん、多分やけど、うちとこの人は当たりますよーぅ?」
誠子「は? だって憩は先鋒……ああ、そうか、個人戦か」
淡「そう! そして、最大の敵は味方の中に居るんだよー!」
憩「ん? 最大の敵が見当たらんのやけど、味方の中にそんな人おったかなー?」
淡「そうやって余裕かましてられるのも今のうちだけだから! 絶対ケイに勝って優勝してやるんだから!」
憩「頑張ってなー」ナデナデ
淡「なでるなー!!」ムキー
菫「なんにしても、監督の言っていた通り、清澄が優勝の最大の障害になりそうだ」
監督「最大の敵は身内ってわけね……」
誠子(このひと、宮永姉妹が身内なの隠してるんじゃなかったっけ?)ヒソヒソ
尭深(誠子ちゃん、監督の天然にいちいち突っ込んでたら身が持たないよ?)ヒソヒソ
菫「ここまででも十分脅威だが、インターミドルチャンプの原村と天江に勝った宮永咲も非常に危険だ、しっかりと見極めるぞ」
憩「永水対策と阿知賀の対策も本腰入れんと不味そうですけどね」
誠子「と言っても、永水は嫌というほど見たし、阿知賀は憩がどうにかするだろ」
憩「誠子ちゃんはすぐにそうやってうちに押し付けるんやから」
尭深「でも、憩ちゃんは実際なんとかしてくれるから」
菫「正面からぶつかればこの五人で押し負けるということもまずないだろう、やはり問題は清澄になるな」
監督「その通りよ。阿知賀についてはデータがないから今の時点では対策のしようもないし、とにかく清澄の情報を一つも見逃さないこと」
本日分は以上です。次回は一週間後に。
洋榎「すまんな、絹。キツいやろうけど……」
絹恵「大丈夫やって、うちはお姉ちゃんの妹やで? 蹴散らして来たるわ」
恭子「頼むでー、うちの相手は化けもんしかおらんから、絹ちゃんが何とかしてくれんとお手上げや」
漫「またそんなことを……末原先輩ならどうにかなりますって」
郁乃「頑張ってな~」
由子「この副将戦は癖のある打ち方をする人が居ないから、純粋なデジタルでの勝負なのよー」
浩子「ま、確率の偏りのない純粋な平場ならうちの独壇場です。一切のミスのない完全なデジタルというものをお見せしましょう」
怜「完璧な死亡フラグや、ええぞフナQ」
竜華「いや、それアカンやつやん」
セーラ「いやー、ここでフナQをぶつけんのはもったいないなー」
泉「癖のある打ち方のやつを徹底的に研究してハメるのが船久保先輩の十八番ですからね」
雅恵「それしか出来ん能無しやったらレギュラーにはしとらん。ノータイムというわけにはいかんが、浩子はノーミスの完全なデジタルぐらいは習得しとる」
怜「つまり、時間が使えるなら理論上は原村と五分に打てるわけやな」
泉「完全なデジタルをベースに、相手の打牌の研究も完璧、わずかな隙も見逃しません。千里山のレギュラーはそこらの県代表エースに勝ります」
セーラ「泉が言うと説得力ないなー」
泉「言わんで下さいよ、これでも気にしとるんですから」
竜華「ま、最悪うちが何とかするわ。気楽にな」
浩子「ええ、頼りにしてます。では」
バタン
怜「点差もあるし、緊張もしとらんようやな」
雅恵「ところで、お前はいつまで清水谷のモモに頭乗せとるんや?」
怜「大将戦が始まるまでや」キッパリ
セーラ「言い切りおった」
怜「大将戦の最中も、休憩中は膝枕をしてもらうつもりや」キリッ
セーラ「ダメやこいつ、早く何とかせんと……」
竜華「あはは、怜は面白いなー」
起家 和「よろしくお願いします」
南家 哩「よろしくお願いします」
西家 浩子「よろしくお願いします」
北家 絹恵「よろしくお願いします」
照「さて、どうなるかな?」
咲「原村さんが負けるはずないとは思うんだけど……」
久「白水哩は、ただ運が良いだけの相手なんかいくらでも薙ぎ倒して来たわ。相手は個人戦の優勝候補に名が挙げられる選手よ、こればっかりはやってみないとね」
まこ「純粋な運比べでも、高校トップクラスってことはインハイチャンプクラスってことじゃから、インターミドルチャンプの和と比べてもそう大きな差はないじゃろうしな」
久「白水哩の打ち方は、特に癖のないデジタル打ち。団体戦に限れば決め打ちの傾向があるけどね」
京太郎「特殊な能力とかはないんですか?」
優希「必ず役満を和了るとか、特定の牌を独占するとか、風牌が集まるとか、優勝候補ならそれぐらいありそうなもんだじぇ」
久「白水哩の牌譜を見る限りではなにもないわ。少なくとも本人に有利になるものはね」
優希「それでどうやって優勝候補になるんだじょ?」
咲「どうやってと言われても、それは優希ちゃんが一番よく知ってるんじゃないかな?」
照「そうだね、まあ、あのレベルだと能力と言えなくもないけど」
優希「じょ?」
京太郎「えっと、まさか?」
久「そのまさか。驚くようなことじゃないわよね、私たちの仲間にその実例が居るわけだし」
透華「さて、注目の一戦ですわね」
智紀「……透華は原村和に注目しているだけでは?」
純「うっげ、あの卓には入りたくねえな。流れを変えられる気がしねえ」
一「純くんが本気で嫌そうな顔してる」
智紀「純が言うならそうなのかもしれないけど、私たちには分からない」
ゆみ「打ち方は全員が非常に精度の高いデジタル。そんなオカルト話とは無縁に思える卓だが……」
美穂子「いえ、おそらく、この大会でもっとも『オカルト』と呼ぶのに相応しい卓があそこです」
智美「そりゃまたなんでだ?」
美穂子「他のオカルトじみた打ち手は、少なくともどのような偏り方をするのか分析できます。これはもはや能力やシステムと言って差し支えない」
睦月「うむ」
純「けど、あそこにあるのは、『流れ』だ。和了りを呼ぶ不思議な力。運の偏り。勝利の女神が誰の方を向くか迷って風見鶏みたいにクルクル回ってやがる」
ゆみ「……なるほどな、それは確かにオカルトだ。完全デジタルの場で起こる異常な勝敗の偏り、それこそが真のオカルトというわけか」
星夏「皮肉なものですね……デジタルじゃなければシステム化された能力で、デジタルだとオカルトになってしまうわけですか」
睦月「うむ」
桃子「てゆうか、その理屈で行くとノッポさんが一番のオカルトってことっすよね?」
純「いや、お前にだけは言われたくねえよ、あと、お前の先輩にとんでもねえのが居るだろうが」
和(……思うようにツモが伸びません。確率的には特に異常なことではありませんが)
哩(龍門渕との試合を見る限り、こいつも相当底の知れん打ち手ばい。油断は出来んね)
絹恵(手の進みも河の具合も普通の場やな、これは行けるかもしれん)
浩子(さて、原村和と白水哩……強運を振りかざす高レベルのデジタル、デジタルゆえに突っつくような癖もほとんどない。厄介やな)
和(起家というのも調子が狂いますね。普段は優希が起家で東一局に大暴れしようとするので、それを抑えてからというのが馴染んだリズムですし)
哩(張った……が、この流れじゃ無茶は出来ん、ダマで様子見やね)
浩子(アカンな、10巡目でまだ二向聴。そろそろ店じまいか)
絹恵(来た! 先制リーチが出来る! 二位をまくらんといかんのやから、ここは行くしかない!)
絹恵「リーチや!」
222赤56s34567m334p ツモ:8m
打:4p
浩子(絹ちゃんが動いたか。しかし、この面子で10巡目のリーチが先制やと思ったら大間違いやで)
哩「ロン、2600」
4488p234789m東東東 ロン:4p ドラ:8m
絹恵(うわっと! やってもうた……手変わりないならリーチせえや)
哩(様子見のつもりやったからね。出たなら和了らせてもらうが)
浩子(三位の姫松との差を広げながら場を進められるなら望むところや、とはいえ、新道寺に和了らせるのは別の問題があるんやけどな)
咲「……せーの」
照・久・咲「「「縛ってない」」」
咲「だよね」
照「そもそも、初見の面子で東一局から縛るのはどうかと思う」
久「ドラ面子も後から偶然ツモった面子だし、その割に東以外の役をつけようとした形跡もないしね。1翻で縛ったということもないでしょう」
まこ「三人で答え合わせして、コンボが成立しとるかどうか検証しとるんじゃな」
京太郎「大将戦で生きて来ますからね。成立してたら100%和了るんでしたっけ?」
優希「咲ちゃんなら止められそうだけど、万が一もあるし、どこが危険な局か把握するのは大事だじぇ」
咲「失敗したことが確認できた場合に鶴田さんをほぼノーマークにしていいっていうメリットもあるよ」
照「ただ和了らなかっただけだと、鶴田さんが自力で打つことになる。牌譜を見る限りでは彼女自身も地力が高いから、本来ならそれも警戒しないといけない」
久「けど、コンボに失敗した場合はほぼ絶対に和了れないから話が違う。だから、コンボを仕掛けて来てるかどうかの把握は大事よ」
咲「で、縛ってないから大将戦前半の東一局は鶴田さんが自力で打つんだね」
照「うん、そのはず」
怜「これ、縛りかけてたら4翻確定かー」
セーラ「どうなんやろ、縛ってたんかな?」
雅恵「……ここは多分しばっとらんな、決め打ちした打ち方には見えん」
竜華「白水が和了らなかった時でも、コンボに失敗してへん限り、鶴田自身が普通に強い高火力型やからな」
泉「縛りかけとるかどうかわからんのが厄介ですね」
竜華「コンボが成立してないなら自分が和了るチャンスやから、白水が和了った局は全部捨てるってわけにもいかん。何とか見極めんとな」
恭子「代行、どう見ます?」
郁乃「うちは~、今のはしばっとらんと思うんやけど~、末原ちゃんは~?」
恭子「同意します。東一局は真っ向勝負ですわ」
洋榎「コンボが成立しとる局はホンマにどうにもならんのか?」
漫「末原先輩、うちが爆発しとっても隙をついて和了ったりしてますやん? そんな感じで何とかならんのですか?」
由子「データを見る限り、コンボが成立して鶴田に好配牌が来た局の和了率は100%らしいから、流石の恭子でも多分無理なのよー」
恭子「次鋒がエースというチームは未だにお目にかかったことがないんで、全国区の大エースが本気でコンボを破りに行くなら分かりませんけどね」
洋榎「つまり、うちなら何とかなるかもしれんってことか?」
恭子「とはいえ、今年の福岡予選は大将で出ていて、かなり打てる人間相手にやはり100%ですし、去年も白糸台の弘世が破れてないんで望み薄です」
郁乃「知り合いのプロが新道寺の練習相手で行ったらしいんやけど~、あのコンボ破るのは一人じゃ厳しいって~」
恭子「代行の知り合いって言うと、あの辺ですか。それで厳しいなら私には不可能と考えてええな」
東三局 ドラ:北
浩子(親やし、ツモでもダメージがでかい。ここは和了りに行っとくか)
絹恵(浩子、調子良さげやな……このまま進むと不味いかもしれん)
哩(和了らるっ気のせん配牌やったけど、少しは形になってきよった)
和「リーチ」ヒュン
和手牌
122267s888999p北 ツモ:北
打:1s
哩(と、形になって来たぐらいでリーチ相手に勝負は出来んね。縛りもかけとらんし、ベタオリ)
浩子(親やから行く気満々なんやけど、これどうやろな?)
浩子手牌
5678s23456m6777p ツモ:6p
浩子(安手、好形、後手……で、一発目に無筋の5索か8索を切らなアカン、この点差を考えるとオリがベターやな)
打:2m
絹恵(うーん、一向聴やしなあ……浩子もオリたみたいやし、オリや)
『全員オリたー!! 原村和、そのリーチは圧倒的な存在感――!!!』
『いや、リーチに対してオリるのは普通だよ。中でも千里山の船久保選手はよく止めましたね』
『良く止めたって評価なんだ? 行ったら振り込んでたみたいな結果論じゃなく?』
『結果的に振り込むかどうかは別として、止まるべきところだと思います。親というのも、リードを守って局数を進めたいこの状況ならむしろ止まる理由の一つですね』
『親だからツモられても親かぶりするし、好形ならリードがあっても連荘目当てで押すんじゃないの?』
『二位まで通過出来る団体戦で、比較的安全圏の二位ですから。リーチをかけたのがトップの清澄ですし、3900の振り込みより満貫の親かぶりの方がダメージが小さくなります』
『あ、そうか。満貫ツモの親かぶりなら3位との差は2000しか縮まらないけど、3900の直撃喰らうとそれより差が詰まるんだ』
『そういうことです。結果の是非はともかく、個人的にはここはオリを正解としたいですね』
和「聴牌」
哩・浩子・絹恵「ノーテン」
絹恵(全員オリて一人聴牌の流局とか、地味な展開やな。お姉ちゃんたちとは大違いや)
浩子(リーチ三暗刻ドラドラ……あの時押してたら一発がついて跳満か。結果としてはオリて大正解やったな)
哩(あれぐらいの手では表情をピクリとも変えんか。流れたのを惜しむそぶりも見せん)
和(大将戦のことを考えれば、白水哩が和了らずに試合が進むだけでも価値があります。地味ですが、大きい成果と言えますね)
咲「そう言えば、あのコンボって流れ一本場はどういう扱いなんだろう?」
照「わからない。一応一本場としてカウントする?」
久「とりあえずさっきの縛ってたかどうか確認しましょ」
照「押してない時点で確認する必要すらない」
咲「同感」
久「ま、それもそうか」
怜「で、実際のところどうなんや? 一本場の扱い」
泉「いや、うちに聞かんで下さい。船久保せんぱーい!」
セーラ「呼んでも無駄や! 今モニターに映ってるのは誰やねん!?」
怜「フナQならあるいは……」
セーラ「なっ……対局中でも俺らの疑問に的確に答えてくれるとでも言うんか……?」ゴクリ
怜「いついかなる時でもその智謀で主君を支える、それが、参謀や」
竜華「フナQ……そこまでうちらのことを……」
?「おそらくやけど、流れ一本場も通常の一本場同様に扱われると思われます。となると0本場がなくなりますから、コンボを決めて差を詰めたい新道寺にとっては出来れば避けたい事態なんやないかと」
セーラ・怜・竜華・泉「!!!!???」
雅恵「……似てたか?」
怜「か、監督……ホンマにフナQかと思いましたわ」
セーラ「ついに分身まで出来るようになったかと……」
泉「び、びっくりしましたわホンマ……」
哩(流れ一本場……使えるかどうかわからん鍵やけど、この配牌で縛らんのはもったいない)
哩(リザベーションフォー!!!)
ガシンガシンガシンガシン!!
絹恵(親やから積極的に行きたい。とにかく、うちが多少は盛り返さんと厳しい)
浩子(なんか妙な話されとる気がするなあ……こんな時でもボケ倒しとるんか先輩らは。まさかおばちゃんまでのっかっとらんやろうな?)
和(一本場、流してしまえば危険は解消されるので、先ほどまでより白水哩の和了りの価値を低く見積もるべきですね)
哩(こいば4翻に仕上ぐ!!)
哩手牌
334赤5p24669m中中東北 ドラ:中
咲「ドラの翻牌が対子で、赤入りの面子が出来てる三向聴か……」
照「普通に進めたとして、リーチをかけるか、もし出るようなら中を鳴くだけで4翻確定。縛るならそれ以上」
久「これは縛るでしょうね。和了られたら倍満確定だけど……」
咲「うーん……原村さんの調子がイマイチだけど、止められるかなあ?」
久「あの子、完全なデジタルの卓だとあまり強運を発揮しないのよね」
優希「へ? そうなのか?」
咲「うん。まあ、優希ちゃんは東場がある限り常にオカルトだから自分で打って確認するのは不可能だけど、間違いないよ」
久「うちの部員じゃどうやっても変なのが混じるからわからなかったけど、合宿で確認できたわ」
照「だから個人戦ではデジタルの卓が多くて竹井さんに競り負けた。もちろん、デジタルでも弱くはないけど」
まこ「弱くないどころか、プロでもひれ伏すネト麻界最強の天使様じゃろ。おんしらを基準にするもんじゃない」
京太郎「てことは、和は対オカルトの方が強いってことですか?」
咲「正直、お姉ちゃんのプラマイゼロを崩したり龍門渕さんのアレに半荘で勝ったり、やりたい放題だよね。オカルトと対峙してる時は人間かどうかすら疑わしいよ」
照「原村さんはデジタルの神様の加護を受けてるんじゃないかと疑っている」
咲「ああ、なるほど、だからオカルトに対してめっぽう強くて、デジタル同士だと素の実力なんだね。神様の仕業なら納得だよ」
照「いや、冗談だからね? 本気にしないで咲」
京太郎「長野予選の一回戦は?」
咲「居たよ、オカルト。あの役満は偶然じゃないと思う」
哩「ツモ。リーチ面前ツモドラ3、2100・4100」
3334赤56p45666m中中 ツモ:3m
和(くっ……止められませんでしたか)
浩子(ドラ対子は最初から手の内にあった牌、あと、そこまで手出しをしっかり見てたわけでもないけど多分赤5筒も最初からあったはず。これはコンボ決まったやろな)
絹恵(あの手は多分コンボやろな……ドラ三枚でリーチかけたってことは4翻縛り、つまり鶴田が和了るのは倍満。 すみません、末原先輩……)
哩(しかし、こいは東四局一本場の鍵、使われん見込みが強い。まだまだ稼がんと二位通過もままならん)
和(この卓はほぼ完全なデジタルで、彼女の和了りの期待値のみ異常がある)
和(白水さんが常にコンボを仕掛けているわけでもないので、彼女が高目を狙っていることが判明するまでは完全なデジタル)
和(彼女がコンボを仕掛けている場合は彼女の和了りを阻止することの期待値が高まりますので、その場合は用意した計算式を採用)
和(……ここまでの観察では特にイレギュラーはなさそうです)
透華「……来ますわ」
純「なにがだよ?」
透華「この状況で来るものと言ったら真打! のどっちに決まっているでしょう!!」
ゆみ「……期待値の計算が終わったか」
一「計算出来るものなのかな? 卓上の特定の一人が和了ると後半で倍の翻数で和了るってものすごく計算しにくそうだけど」
美穂子「その人の和了りの期待値が上がりますけど、原村さんは基本的に自分の得点の期待値を計算しているはず……」
透華「問題ナッシング! 私に出来て原村和に出来ない道理がありませんわ!!」
一「え? 透華、計算したの!?」
ゆみ「正しいかどうか自信はないが、観戦するにあたって私も計算したぞ」
智紀「白水を先鋒に置いて次鋒に鶴田が出てくるオーダーを想定していた。哩姫の対策は昨年のうちに完成している」
智美「我々の身内はどいつもこいつもとんでもないなー」ワハハ
純「ところで、透華、さっきの発言なんだが……」
透華「わたくし、なにかおかしいことを言いまして?」
星夏「『私に出来て原村和に出来ないわけがない』ってやつですよね?」
透華「あ……」
美穂子「ふふ、随分と原村さんを買っているのね?」
一「」クスッ
透華「こ、言葉のあやですわー!! こら、はじめ! 笑うんじゃありません!!」
南1局 ドラ:4s
哩(原村の様子が変わった……こいは、あれかね? 長野予選で龍門渕を抑えた……)
和「」ポー
浩子(やっとこさおでましか、「のどっち」。あんたのデータはデジタルの勉強で腐るほど見たわ)
絹恵(なんやこいつ、顔赤らめおって……)
哩(さて、こん手、高く縛るのは危険か?)
24577s456p1367m西
哩(タンピンは自然につくはず、ドラ1もある、あとリーチで4翻は行かるが、安全策の様子見でリーチとドラ1のみの2翻で縛っとくか……?)
哩(リザベーションツー!!)
姫子「んっ!」ビクン
仁美「……あの手なら四翻は狙えっけど、姫子の反応が小さかね」
美子「哩、弱気になっとーと?」
煌「姫子、部長は何翻で縛ったのですか?」
姫子「ん……多分、2翻」
煌「ふむ、それでも姫子は5200以上になりますから十分ではありますが……」
仁美「哩にしてはひよtt……堅実な狙いやね」
哩「ツモ、タンヤオドラ3。2000・4000」
23444567s456p67m ツモ:8m ドラ:4s
和「……」
浩子(4翻……また倍満確定……)
絹恵(これは流石に……い、いや、これが清水谷を直撃すれば逆にチャンスや! 末原先輩なら上手く立ち回ってくれるはず……とはいえ、これ以上はマズい
千里山を追いかけるつもりが、新道寺がうちと千里山をまとめて抜いてくって展開が現実的になってきおった)
咲「せーの」
咲・照「2翻」
久「3翻」
咲「あれ? 割れたね」
照「竹井さんの意見を聞こう」
久「いや、自信ないんだけどね。ドラ重ねるまでタンピン狙いっぽかったから、ドラとリーチだけじゃ届かない、つまり三翻狙いかなって思っただけ」
咲「二翻狙いでも三翻以上で和了るのは可能だから、それは普通に高目を狙っただけだと思います」
照「実際に高い翻数で和了れる場合に縛りが低いのは勿体ないけど、だからって高くできる手をわざわざ安手で終わらせるのはもっと勿体ない」
久「んー、それもそうね」
照「いずれにしても、コンボは成立してる」
咲「あの状態の原村さんでも止められないのか……これは予想外だよ」
照「というか、オカルトじみた人が居ないとあの状態でも普段とあんまり変わらない気がする」
怜「さて、そろそろ私が竜華の膝枕にこだわる理由を話しておこうかと思うんやけど」
セーラ「何度も聞かされたわ、適度な肉付きやろ?」
怜「そうそう、セーラや泉やフナQは細っこくて固い……ってちゃうわ! 真面目な理由があんねん!」
泉「長年愛用した膝枕ゆえの相性とかですか?」
怜「それも大きいな、もう竜華の膝枕が最高だと感じるようになってもうたから、竜華に近い感触を好むようになっとる」
竜華「なんやこそばゆいな……」
怜「って、ちゃうねん! 真面目な理由やって言うとるやろ!」
セーラ「うーんと、それ以外やと……」
怜「もうボケはええわ! ガチでマジな理由があんねん!」
竜華「ん? ガチでマジな理由……どっかで聞いたような?」
怜「あ、覚えててくれたんか?」
竜華「あ、いや、思い出したけど、あれ本気やったん?」
怜「マジやでー。大将戦をお楽しみになー」
竜華「いや、流石にナニソレなんやけど……」
怜「すぐに分かるでー」ゴロゴロ
『よそ見しすぎとちゃいますか、九州最強さん。ロンや、3900』
雅恵「ふむ、流石浩子やな」
泉「全国区のエース、しかも三年相手に普通に渡り合えるんですね」
セーラ「我らがフナQやからな」
怜「千里山のエースはうちやない、セーラでもない、真のエース……それは――」
セーラ「――船久保浩子、千里山の打牌すべてを陰で操る支配者や」
竜華「」ゾクッ
雅恵「アホいうな、お前ら全員エースや。私は、お前たちはどこの大会で誰に当てても全員トップで帰って来ると信じてる」
泉「か、監督……」ウルッ
セーラ「監督、この流れでいいこと言わんで下さいよ」
怜「膝枕でゴロゴロしとる奴が居る絵面でそれ言っても締まりませんわ」
雅恵「やかましいわボケども!! 特に園城寺、お前が言うな!」
怜「エースに向かってなんてこと言うんですか監督!」
雅恵「前言撤回や、今から千里山のエースは浩子にする!」
竜華「ちょっ!? セーラと怜はアカンとしても、せめてうちに……」
雅恵「お前が園城寺を甘やかすからつけあがるんや! 反省せえ!」
怜「せやで、竜華。反省しや」
セーラ「せやせや」
雅恵「お前らが言うんかい!?」
怜「せやかて、フナQおらんとボケ役が私らしかおらんし」
セーラ「泉はクソ真面目やし、竜華は天然やし」
雅恵「そういう時に浩子が絶妙なボケや完璧なツッコミをするから場が締まる……やはり、浩子をエースに抜擢して正解やったな」
泉「いや、そういう問題じゃ……」
南3局
和「ツモです、1000・2000」
哩(こん局は未達……原村、やはり手ごわか)
浩子(まあ、千点なら差が詰まっても許容範囲やろ。トップをとるのが千里山の目標やけど、副将でこの点差は流石に二位抜けを目指す場面や)
絹(……ダメや、和了らんと。オーラスの親をあっさり流されて終わったら話にならん!)
南4局
和「リーチ」
絹恵(なっ!?)
哩(この局は縛っちょらんからね、親でもなかやし、ツモやうち以外からのロンで和了って清澄が走る分には二位通過に影響せん、大人しくオリばい)
浩子(四巡目、手はまだバラバラ……押せるわけないやろこんなの、オリや)
絹恵(二人ともベタオリ……けど、親のうちがオリたら前半が終わってしまう、ベタオリは出来ん)
和(親が押してきましたか……それを把握したところで、リーチをかけているのでどうしようもありませんが)
和・絹恵「テンパイ」
浩子・哩「ノーテン」
和(一本場なら咲さんが親でない限り簡単に流せるはず、出来れば白水哩の和了る機会は減らしたかったのですが、問題ないでしょう)
絹恵(意地でもこの親で稼いだる、二位にならんと準決には進めんのや、無茶させてもらうで)
浩子(絹ちゃん無茶するなあ……関西トップクラスの一人である清水谷先輩が控えてる千里山に対して、姫松は実績的にそこまででもない末原さんやから大将戦が不利、ここで二位になりたいってことかいな?)
和(白水哩と鶴田姫子のコンボは、一本場以降は危険度が下がる。親が連荘しなければ対応する局自体が訪れない以上、コンボに対応する局が来ない可能性が高いからです)
南四局 一本場
哩(……この一本場は、来ない可能性が高い。なら、思いっきり無理しても姫子の負担にならん可能性が高いっちゅーことでもある)
哩(やけん、思いっきり無茶させてもらう)
113478s37p南南白発中
哩(さあ、この手は何翻になる? 混一色、役牌、チャンタか一気通貫、リーチにツモ……理想の最終形なら8翻まで行かる)
哩(11123789s南南南白白 123456789s南南白白あたりを狙う。一本場やけん、未達なら未達で構わん!!)
哩(行くぞ姫子!! リザベーションセブン!!!!)
姫子「ふきゅ!?」ビビクン
美子「姫子? おっきか縛りはいっとーと?」
煌「声を出すほどとなると、6~7翻クラスでしょうか?」
仁美「哩の奴、無茶しよっと」
姫子「う……うう……多分、7翻で縛っとる」
煌「……一本場、訪れないかもしれない一局ですが、成功すれば役満」
美子「一気に形勢逆転、哩の跳満か倍満の点数も合わせて、直撃ならトップまでみえったい」
仁美「達成したら、何が何でも一本場に持ち込むのが姫子の仕事やね」
姫子「う、うん……ぶちょーの鍵、絶対無駄にせん」
煌「さて、大博打ですが、上手く行くのでしょうか?」
和(……この手は間に合いそうにないですね。下家は既に聴牌気配、親も連荘狙いで早上がりに徹するようです)
哩(まだ足りん……巡目が残ってないならともかく、ツモ、一発、裏なんかは出来れば当てにせんで和了りたい)
浩子(白水が聴牌気配……索子染めやな、索子と字牌以外は行けるとこまで行ってみるか)
絹恵(浩子……押しとるんか?)
浩子(絹ちゃんはオリれんやろ、どうしても二位になりたいんやから遮二無二来るしかない。高目狙いの大振りと全ツッパ、美味しくいただいたるわ)
和「」ヒュン
哩(来た……これで出和了りでも7翻)
1345678s南南南中中中 ツモ:9s
哩「リーチ」
打:南
浩子(明らかな染め手でリーチ、面前混一色とリーチで最低4翻……いや、多分7翻以上やな、怖い怖い。現物以外の字牌と索子ツモったらオリさせてもらいますわ)
絹恵(染め手やろ? 索子以外全部押したるわ! 索子は回し打ちで聴牌復帰を狙う、とにかくこの親で稼ぐんや!)
和(……ベタオリですが、少し考えましょう。聴牌気配だったところから役牌を切ったということは、役牌より大きい、二翻以上の役が確定したということ)
和(混一色、リーチは確定、あと、混一色と複合する二翻役……三暗刻もありますが、それなら役牌を切らない。チャンタか一気通貫でしょう)
和(もう一つ役が……たとえば赤5索があれば7翻……コンボが成立すれば役満。ここは差し込みで流した方が良いのではないでしょうか?)
和(……いえ、私たちの大将は咲さんです。危険だと判断すれば一本場を迎えさせないことは造作もない)
和(であれば、染め手に対して押している人間が二人いる状況でわざわざ失点を確定させる必要はありません。ここはやはりオリに徹するところ)
咲「原村さんが私に過剰な期待をしてる気がするよ」
照「ここで手が止まるということは、白水さんの手が7翻縛りということに気付いたはず」
久「で、差し込んででも止めるべきかどうかを計算しているのね」
京太郎「『なんで和は手を止めたんだ?』と聞く前に全部答えられた」
優希「安牌が無かったら字牌、それもなければ端に近い方、のどちゃんがベタオリ中に手を止めるなんて、普通はありえないじぇ」
まこ「で、結局ベタオリを選択したわけじゃが、その心は?」
咲「私ならコンボを破れる、破れないにしても一本場なんか迎えさせないのは造作もない、かな?」
照「過大な期待をされて、咲も少しは私の気持ちを理解してくれると嬉しい」
咲「お姉ちゃんならまだしも、私にそこまで期待されても困るよ」
照「いや、私でも困るんだけど」
久「ちなみに、出来そう?」
咲「まあ、一本場を迎えさせないのは難しくないと思います。ただ、コンボを破るのはやってみないと……ちょうどオーラスだから、プラマイゼロでどうなるかですね」
まこ「言うだけ言っといて結局出来るんかい!?」
咲「お姉ちゃんなら当然潰せるでしょうけど、私だとちょっと……衣ちゃんにも藤田プロにも破られましたし」
照「お姉ちゃんなら出来るっていう決めつけはよろしくないって、照さん思うな」
久「ま、コンボは途中で二回成立してるから事前に試せるわ。その手ごたえを見て安全策を取るかどうか決めて頂戴」
咲「わかりました」
照「……でも、どうやら杞憂に終わりそう」
浩子「白水に目が行ってうちを忘れとらんか? それや、ロン。タンヤオドラドラ、3900」
絹恵「~~~っ!!!」
34赤5s22666p34567m ロン:8m ドラ:3m
浩子「……お疲れ様でした」
和「お疲れ様でした、また後半で」
哩「(和了れんかったか……)お疲れ様でした」
絹恵「あ……ああ……」ガクッ
『前半終了――――!!』
『姫松は苦しいですね。点差を考慮すれば攻めるしかないですが、それが振り込みを呼んで更に苦しくなる、悪循環です』
『前半は新道寺のエース白水哩が制しました!! 原村和はインターミドルチャンプの意地を見せられるのか―!? 後半も目が離せません!!!』
『全中王者と高校のトップクラスなら、普通は高校トップクラスが格上です。ここまで渡り合えるだけでも原村選手の非凡さを感じますね』
『更に更に、混迷を極める二位争い!! ダブルエースを投入した新道寺は二位を捕まえられるのかー!?』
『新道寺の追い上げは予想通りですが、千里山の船久保選手は点差を生かして上手く立ち回っています、大将の清水谷選手も大阪トップクラスの選手ですし、二位争いは読めませんね』
副将戦前半終了
新道寺 45600(+ 9900)
清澄 188600(+ 5600)
姫松 62600(-14400)
千里山 103200(- 1100)
白水さんは和了りどころか縛るかどうかまで大将戦に絡んでくるからキンクリがほとんど出来ない。
あと、今回は原作を読んでること前提の描写があります。
てなわけで今回はここまでです。次回も一週間後の予定です。
和「すみません、予想以上に手ごわい相手のようです」
久「あの白水哩をプラス一万以下に抑えて、更に自分がプラスで折り返した。この結果なら文句ないわよ」
咲「最後はヒヤヒヤしたけどね」
優希「結局、前半でコンボが成立してるのはどの局なんだじぇ?」
照「東四局一本場と南一局、失敗したのが南二局と南三局と南四局一本場」
京太郎「それ以外はコンボを仕掛けてないから、鶴田さんが自力で打つんですね?」
咲「うん、そのはずだよ」
まこ「意外とコンボが少ないのう」
照「これ相手にそんなにポンポンとコンボを決められても困る」
和「これとはなんですか、失敬な」
咲「それに、船久保さんが良いところで白水さんを止めてたね。南二局の満貫手とオーラスの倍満手」
和「私は勝負できる手ではなかったので、あれは助かりましたね」
やえ「……姫松は終わったな」
紀子「まだわからない、とはいえ、厳しい」
日菜「清澄は確定として、大将は鶴田さんと清水谷さんと末原さん……末原さんが弱いわけではないけど、正直、この全国区の二人と比べるとね」
由華「となると、姫松はそもそも中堅を二位以上で終えられないと厳しいわけですよね」
やえ「船久保と愛宕妹は本来なら五分の手合いだろうが、四万点の点差があってそれを埋めないといけない状況では相手にならんだろうな」
良子「そうなのか?」
紀子「隙が出来たら、そこを突かれる。千里山のあれは、そういうタイプ」
やえ「逆転のために無理をすれば隙が出来る。それを見逃すやつじゃない。愛宕妹どころか白水ですら噛みつかれている」
由華「うーん……大分落ち込んじゃってるし、気持ちの面でも辛いでしょうね。気持ちが弱れば牌勢も弱まる。先輩の言うとおり、姫松は厳しそうです」
浩子「……なんですかこれは?」
【掛け軸】「エースは副将! 目指すは一位! 常勝不敗の千里山」
雅恵「おお、ちょうどいいところに」
セーラ「フナQ! 助けてくれ、監督が乱心した!!」
怜「お前らにエースは任せられんって、そんでこんなもんを……」
竜華「こいつらがふがいないのは部長のうちがしっかりせんからやって、一番しっかりしてるフナQをエースにするって……」
浩子「……」ビリビリ
雅恵「ああっ!? 千里山伝統の訓示を書いた掛け軸が!? 何をするんや浩子!」
浩子「やかましいわ!! しばくぞ!!」
泉「ほら、船久保先輩マジギレですやん……だからやめましょうて言うたんですよ」
浩子「泉以外のエースがどこにおんねん!? お前ら全員節穴か!?」
怜「はっ!?」
セーラ「そ、そうや……俺たちは何を考えとったんや、エースと言ったら泉以外におらんのに……」
泉「えっ!? そう来るんですか!?」
雅恵「くくく……だがしかし、エースを決めるのは監督の私や、自分の息のかかったお前をエースにすることで、なんやかんやの悪だくみをさせてもらう」
怜「なんやかんやってなんやねん!? そこちゃんと言えや!」
雅恵「んなもん急に思いつくわけないやろ!」
セーラ「思いつきって言うてもうたやん」
浩子「もうええわ、なんやねんこの流れ」
雅恵「じゃあ改めて……浩子、お疲れさん、後半もこの調子で頼む」
浩子「了解。しっかし、随分と控室の空気がゆるんでますね。流石に面食らいましたわ。こんな小道具まで仕込んで……」
怜「そんだけ安心して見ていられたってわけや、流石フナQ」
セーラ「それ俺が書いたんやでー」
浩子「すぐばれる嘘はやめましょう、江口先輩の字とかミミズのダンスやないですか。かなり綺麗な字でしたし、園城寺先輩か監督でしょう」
雅恵「これも二秒で看破したか……さすが我が姪……」
浩子「いつまでボケるつもりやあんたら」
怜「いや、これには割とマジな理由があってな?」
雅恵「……絹にトドメ刺したあとじゃ、私に顔合わせにくいやろと思ってな」
浩子「ま、そんなことやろとは思いましたけどね。けど、洋榎や絹ちゃん本人ならともかくおばちゃんは平気や」
雅恵「お前ならそう言うやろ、気い遣わせてすまんな」
浩子「まだ副将戦の後半も大将戦も残ってます。勝った気になるのは早いんと違いますか?」
雅恵「……そうやな」
浩子「てゆうか、おばちゃんがこっちに居るのが意外やったな」
雅恵「ん? 席を外しといた方が良かったか?」
浩子「まあ、変な芝居仕込むよりはそっちの方が手っ取り早いし、それもそうなんやけど……あっちに行かんでええの?」
雅恵「……あっちはあっちで赤坂が何とかするやろ」
浩子「そうだとええんやけど、洋榎に聞いたら赤坂さんって信頼薄いみたいやし、そもそも経験の浅い新米監督やし、てゆうか代行やし」
雅恵「……うっ。い、いや、私は千里山の監督や。敵に塩は送れん」
怜「この大事な試合で従姉妹にトドメ刺されてめっちゃへこんでるやろな。私らはこの大会で引退やからええけど、浩子は次の練習試合でどんな顔して会ったらええんやろな?」
雅恵「ぐっ、園城寺、お前……」
泉「……そういえば、アホな芝居の練習してたから喉乾きましたね」
怜「せやな」
セーラ「疲れとる選手をねぎらうために飲み物を買ってくれる優しい監督はどっかにおらんかな~?」
竜華「へ? 飲み物ならそこの冷蔵庫に……痛っ!? 怜、なにすんねん!?」
雅恵「お前ら……」
怜「あー、うち病弱やから喉乾いて死んでまうかも~」
セーラ「なんやて!? くっ……俺は竹井にやられた傷のせいで動けんし、このままじゃ怜が……どうすればええんや!?」
竜華「えっ!? セーラ、怪我してたん!?」
雅恵「あー! 分かった分かった、飲みもんぐらい買うて来たるわ! 大人しく待ってろ!」
【姫松控室】
絹恵「……すみません」
恭子「ま、私が何とかするから落ち込まんといてや」
洋榎「せやで、恭子に任せてのびのび打ったらええねん。浩子には勝ち越してるはずやろ?」
由子「落ち込んでるのは絹ちゃんらしくないのよー」
漫「いっつもうちが取られてる点棒に比べたら大したことないやん、気にしたらダメやで」
郁乃「……なあみんな~、うち思うんやけど~」
恭子「……なんですか?」
郁乃「絹ちゃんは頭もええし~、責任感も強いやろ~?」
洋榎「そうやけど、何が言いたいんや? 下らんことやったらマジでしばくで?」
郁乃「お姉ちゃん怖いな~……あのな~、大したことやないんやけど~」
由子「だから何なのよー?」
郁乃「絹ちゃんの場合~、下手な慰めは~、余計に追い詰めるんやないかってうちは思うんやけど~、どうなん~?」
恭子「!?」
絹恵「う……ぐすっ」
郁乃「あ、漫ちゃんはちょっと外でうちとおしゃべりしよか~」
漫「ちょっ!? 代行、なにを……」
郁乃「つべこべ言わずについてくる~。あと任せたで『先輩』たち~、特に末原ちゃん~」
バタン
恭子「絹ちゃん……」
絹恵「お姉ちゃん! ごめん! うちが弱いせいで! ごめんなさい!」ウルウル
洋榎「き、絹!? あ、あのな、そもそもうちが負けたのが悪いんやから絹が泣くこと……」
絹恵「うええええん!!」
洋榎「ほ、ほら、副将戦もまだ終わったわけやないし、恭子だっておるし」
絹恵「そんなん言うたって、ホントはお姉ちゃんだってわかっとるんやろ!? もうアカンって!」グスッ
洋榎「うっ……」
絹恵「お姉ちゃん、嘘つくのド下手やもん……」
由子「否定したいけど……実際、ここからうちが逆転する可能性は……」
洋榎「……うちが負けてもうたからな。正直、どんだけ贔屓目に見てもここから逆転の目は……」
――――――ある
絹恵「……へ?」
恭子「鶴田は、白水とのコンボが決まってない時でも高火力型。しかし、その分守りが薄い。コンボが成立してない局でこいつから直撃をとるのは難しくない」
洋榎「恭子?」
恭子「清水谷も攻めっ気が強い、鶴田がコンボを決めていてもそう簡単にベタオリなんかせんはずや。コンボが決まってる時でも攻めに行く可能性は高い」
由子「きょ、恭子?」
恭子「私は、コンボが成立している局は序盤から鶴田の安牌の確保をしてベタオリする。絶対に振り込まん。宮永も振り込むような奴ではないはずや」
恭子「とすれば、鶴田のコンボの和了りは千里山に直撃食らわすかツモるかになる。ツモは仕方ないとして、いくつかは清水谷を直撃する」
恭子「そうなれば、大物手をいくつか食らって千里山は勝手に落ちてくる。二位争いはうちと新道寺の一騎打ち、コンボが成立してない局で新道寺を徹底的に狙えば勝算はある。
私が和了らんでも、宮永が白黒つけるために鶴田を狙うかもしれん。鶴田が清水谷から、宮永が鶴田から点棒を持ってってくれれば、焼き鳥で二位浮上なんてこともあるかもしれん」
絹恵「せ、先輩……それは、気休めじゃなく?」
恭子「……本気や。絹ちゃんは、新道寺より上の順位で私に繋いでくれ。余所からのロン和了りで稼ぐ新道寺に対して、新道寺から直撃をとるなら半分の点数で逃げ切れる。
そこまで上手くいかんにしても、順位が上でスタートすれば見込みはあるはずや」
絹恵「まだ、勝てる……」
恭子「そうや、まだ終わってない。だから、絹ちゃんの仕事は新道寺より上で私に繋ぐことや」
絹恵「……はい!」
洋榎「……そっか、恭子ならまだ勝てるんやな」
恭子「まあ、勝てる保証はありませんけどね。むしろ、勝ち目は薄いです」
由子「ぶっちゃけたのよー」
洋榎「……うちが勝つってよりは、千里山と新道寺が負ける可能性を考えたんやろ?」
恭子「はい。相手のミス待ちです。というか、主将が三位で帰って来た時点で今回の相手に対して普通に勝つのは不可能です」
洋榎「うちは勝つことしか考えてない。けど、恭子はいっつも負けることばっかり考えとる」
由子「ただし、考えるのは自分が負ける可能性だけじゃないのよー」
絹恵「相手が負ける可能性……」
恭子「そう、相手が三人とも負ければ自分が勝つんや。その可能性を引き出し、自分が負ける可能性を極力減らす。それが私の麻雀や」
洋榎「正直、負けることばっか考えてて楽しいのかって思うけどな」
恭子「勝つことしか考えてないノーテンキが負けた時よりは楽しめてますよ」
洋榎「言っとけ」
由子「……というわけなのよー。絹ちゃんは、恭子の注文通りに新道寺にまくられないで恭子に繋いでくれればいいのー」
恭子「ちなみに、部内で一番主将に対する勝率が高いのは私や。むしろ直対では勝ち越しとる」
洋榎「いっつもゆーことか漫を使ってうちを蹴落としとるだけやないかい!?」
恭子「洋榎は勝手にマークされるから他家が使いやす……じゃなくて、勝ちは勝ちや」
洋榎「正々堂々正面から来れんのか!?」
恭子「それで勝てるならそうするわ」
恭子「……というわけや。今回は全国トップクラスの宮永と鶴田を使えるから、漫ちゃん使って主将に勝つよりは楽なはずや」
洋榎「それより先にうちとのケリつけろや! 今から二人麻雀や!!」
恭子「勝ち越しやから、ケリはとっくについとると思いましたけど?」
由子「どうどう、洋榎、落ち着くのよー」
洋榎「なんでうちだけ止めんねん!?」
絹恵「……」
恭子「一応、これでも洋榎に勝ち越しとるんや、信用してくれんか? 私を信用して、諦めずに自分の役目を果たしてもらえんか?」
絹恵「お姉ちゃんより、強い……」
恭子「そや、後ろに洋榎が控えてると思ってくれてええ。それでも、勝ち目があると思えんか?」
絹恵「いえ……取り乱してすみませんでした」
洋榎「それでこそうちの妹や! 気張れよ絹!」
絹恵「ところで、新道寺より上で折り返せって話ですけど……」
恭子「ん?」
絹恵「リードは作れるだけ作った方が良いんですよね?」
由子「やる気満々ねー、その意気よー」
恭子「出来るなら頼む。新道寺より上ってのはあくまでもギリギリのラインやからな。余裕があればそれだけ勝率は上がるで」
絹恵「……行ってきます!」
雅恵「戻った」
怜「あっちはどんな感じでした?」
雅恵「赤坂は死ぬほど役立たずやったな。末原は、私が引退したら後任の監督にしてもええと思う。善野さんに話つけにいかんとな」
セーラ「なにやったんや赤坂さん……」
怜「末原さんもなにやったんや……」
雅恵「浩子はもう対局室か?」
竜華「あ、はい。ここに居たら余計疲れる言うて」
泉「監督が出て行ってからも先輩らがボケ倒すから……」
怜「いや、流石に今回は竜華の天然が一番罪深いやろ」
セーラ「今回ばかりは俺らのせいにされたら納得いかん」
泉「だから、先輩『ら』っていうてますやん」
雅恵「それ、二人と三人の区別出来とらんやろ」
竜華「え? てゆうか、うちのせいなん?」
怜「ちょっと真面目に試合の話を始めたあのタイミングで『そう言えば!! ……監督、みんなが何飲むか聞かんで飲み物買いに行ってもうたけど、ええの?』は反則やろ」
セーラ「あのフナQがマジで崩れ落ちとったからな」
竜華「あ、そうや! 監督、飲み物は? うちアイスティーが良かったんやけど」
セーラ「まだ言うんかそれ!? 飲み物なら冷蔵庫にあるやろ!!」
郁乃「あー怖かった~……愛宕さん~、『教え子のケアもせんとこんなところでなに油売っとんねん』って~、目がマジやったであのひと~」
漫「三割ぐらい自業自得なような……」
郁乃「漫ちゃん~? 舐めた口きくのはこのデコか~?」キュポ
漫「デコが口きくってどういうことですか!? ちょっ、油性ですやんそれ!?」
郁乃「中身は水性やから安心やで~?」
漫「絶対嘘でしょ!? 油性って書いてあって中身水性やったら詐欺ですやん!」
郁乃「あ~、絹ちゃんや~」カキカキ
漫「へ? あっ……」(額に落書き)
絹恵「ぶふっ!? ちょっ、漫ちゃん、こっち向くのやめて! 気が抜けてまう!」
漫「え? ちょっと代行、いつ書いたんですか!?」
郁乃「うんうん~、これ見て笑えるなら大丈夫そうやな~、さっすが末原ちゃん~」
絹恵「御心配おかけしました、行ってきます」
郁乃「あっ、まってまって~」
絹恵「はい?」
郁乃「これ~、気休めやけど~」
絹恵「……【必勝祈願】? お守りですか? なんか素人っぽい字ですけど」
漫「あ、あの、さっきおk……むぐっ!?」
郁乃「さっきそこで拾ったんよ~」
絹恵「拾ったお守りて……」
郁乃「冗談や~、ちゃんとした御利益付きのお守りやから安心してな~」
絹恵「ならいいですけど……じゃあ、行ってきます」
郁乃「頑張ってな~」
絹恵(……代行、作ってくれたんかな? ええとこあるやん)
起家 哩「随分早かね?」
北家 浩子「監督が姫松の副将の身内なもんで」
哩「ああ、控室に居づらいってことか。難儀やね」
南家 和「お待たせしました」
浩子「まだ時間前やで」
哩「……姫松の副将、大分まいっとったな。来れると思うか?」
浩子「大丈夫やと思いますよ。そんなに弱い子やないんで」
和「……時間ちょうどですね」
バタン
西家 絹恵「お待たせしました」
哩「なるほど、心配するだけ無駄か。何があったかわからんが、前半とは別人みたいやね」
浩子(おばちゃん、敵に塩送りすぎやろ。そら、おばちゃんからしたら身内やけど……てゆうか何やったら前半より元気になるんや?)
和「よろしくお願いします」
やえ「……ほう? 愛宕妹の雰囲気が変わったな」
良子「前半終わった時はダメそうだったんだけどな」
日菜「監督さんが優秀なのかな?」
やえ「だが、気の持ちようだけで勝てるほど麻雀は甘くない」
紀子「……けど、強い意志には牌が応える」
由華「これは、まだわかりませんかね?」
やえ「いや、私や江口あたりならともかく、ニワカが気合を入れ直したところで白水には通じんさ。ただ……」
良子「ただ?」
やえ「……ニワカが何をしようと通用しないだろうが、あれも愛宕の妹だからな。少しは意識しておかないと万が一がある」
日菜「やえは愛宕さんとか白水さんを買いかぶるよね」
紀子「三年間鎬を削ったライバルを高く評価するのは自然なこと。それに、白水や愛宕に関しては買いかぶりではなく正当な評価だと思う」
東一局 ドラ:東
哩(後半やけん、東一局で様子見する必要はなか。そしてこの配牌……)
1235799m7s25p東東東 ツモ:4m
哩(配牌でダブ東ドラ3確定、リーチで6翻は確実に行かる。手頃な鳴き混一色でも7翻……前半のオーラスに続いて、最初から山場が来たっちゃね)
哩(こいは絶対にものにする……リザベーションセブン!!!)
打:7s
浩子(絹ちゃんも気合入れなおしたみたいやし、ここは様子見しとこか)
絹恵(私の役目は、新道寺より上で折り返すこと……意地でもそれだけはやり通す!!)
和(……新道寺、一打目で7索ですか。嫌な感じですね)
姫子「ふきゅうっ!?」ビビクン
煌「……あの手なら、間違いなく7翻で縛っているでしょう。最高形でダブ東・一気通貫・混一色・ドラ3……裏ドラ次第では数え役満まで見える大物手です」
仁美「そうなれば、親の倍満以上の和了りに加えて姫子の役満が確定、二位抜けどころか二発とも清澄に直撃ならトップが見えったい」
美子「ツモも悪くなか、他の三人の手も間に合いそうになかやし、こいは……」
煌「和了るまでは気が抜けませんが……」
『チー』
姫子「……原村っ!?」
煌「和、やはり簡単には和了らせてくれませんか」
仁美「うげ……嫌な鳴きたい」
美子「あんたは鳴きみたら全部嫌な顔すっけん、当てにならん」
姫子「ぶちょー……信じてます」
純「あいつも流れってもんが分かって来たんじゃねえか?」
智紀「原村さんに限ってそれはない。デジタル的にはあれを鳴くのは自然なこと」
一「そうだけど……純くんが言うなら、流れが変わる鳴きなのかな?」
ゆみ「自然に打って流れを変えるキーポイントで鳴けるようになっているとは……やはり強運だな」
純「あのままだったら、白水が大物をツモる流れだったぜ。今は五分って感じだな」
透華「聴牌ですが、一気通貫にならない形ですわね。それでも面前混一色ダブ東ドラ3の倍満ですが」
美穂子「姫松と千里山も新道寺を警戒し始めましたね。白水さんが明らかな染め手に進んでいる状況なら当然の反応です」
睦月「うむ」
智美「それでもリーチはかけないんだなー? 三人に警戒されてるんだからツモるしかないと思うんだけどなー」
智紀「8翻だから、リーチしても一発でツモるか裏が乗るかしなければ倍満のまま。6索引きで一気通貫がつけばリーチすると思う」
咲「……三対一、手の進みは五分、普通に考えたら総合的には原村さんが有利なんだけど」
照「これは卑怯だと思う」
久「三対一は卑怯じゃないわよ、麻雀は四人で打つゲームだもの。大物手を聴牌してる人間がいるなら三人がかりで流すのは普通よ」
照「そっちじゃない」
まこ「3対1で1の方が卑怯っちゅうのもおかしな話じゃと思うが……」
咲「コンボでパートナーの和了りが約束されるだけでも十分強力なのに……」
照「これは非常にインチキくさい」
京太郎「えっと、どういうことです?」
久「たまについて行けなくなるわね、この子たちには」
優希「部長も分かってないみたいだじょ」
咲「お姉ちゃん、私たちもアレ出来ない? お姉ちゃんが白水さん役やれば無敵だと思うんだけど」
照「流石に無理だと思う。てゆうかオーダー離れてるし」
咲「じゃあ、前半で和了った倍の翻数で後半に和了るとか……お姉ちゃん一人で」
照「前半で数え役満和了った局の後半に何が来るのか興味はあるけど、そもそも無理だから。てゆうかそれ今の話と全然関係ない」
(ぶちょー……信じてます)
哩(姫子の力を感じる。任しとけ、この手、絶対に和了っちゃるばい!!)
哩「……ツモ!」
1233457999m東東東 ツモ:8m
和「……っ!!」
浩子「あっちゃー……こら流石にまずいかもしれんな」
絹恵「なっ……そんな……」
哩「面前ツモ、混一色、ダブ東、ドラ3……8000オール」
和「……」
咲「というわけで、鶴田さんが白水さんの和了りをサポートすることがあるみたいです」
照「これは完全にインチキ」
久「やりたい放題ね……なにか副作用とかないの?」
咲「うーん……もしかしたらコンボの効力が弱くなるとかあるかもしれませんけど、とりあえず見当たりません」
照「たとえサポートしたらコンボにならないとしても倍満をサポートできるなら十分すぎる。というか、多分ちゃんとコンボになる。とても卑怯」
まこ「いや、相手の点数を自在に調節できるほうが卑怯じゃと思うが……」
京太郎「卓外からサポートとか……オカルトすぎでしょ」
優希「県予選で咲ちゃんと照さんが鶴賀の次鋒を止めるためにやろうとしてたじょ」
まこ「そんなことやっとったんかおんしら?」
照「実行はしてない。セーフ」
咲「それにしても、誰かさんがおとなし過ぎるよね」
久「そうね。親倍ツモられて黙ってるような子じゃないはずだけど」
優希「のどちゃんはこんなもんじゃないはずだじょ」
照「……って、言ってるそばからこれか」
東一局 一本場 ドラ:北
和配牌
123s123m12233p北北
和(三色・平和・ドラドラが確定、高目ならチャンタと一盃口がついて倍満。地和も狙えます。配牌でこれは運が良いですね)
哩(私が和了って一本場やけん、姫子がタチ親じゃなかったら無駄になっけど……25%の確率でダメ押しが出来る)
哩配牌
1456p3457s45678m ツモ:7m
哩(配牌から既に一向聴、流れが来とーね。ばってん、役満が確定した後で無理することもなか。タンヤオかピンフ、それにリーチとツモの3翻で確実に和了る。リザベーションスリー!!)
打:1p
和「ロン」
哩「……は?」
和「16300」パタン
浩子「は?」
絹恵「は?」
『第一打を直撃――――!!!! インターミドルチャンピオン原村和、勝利の女神は彼女の勝利を望んでいるのか―!!!?』
『これは酷い事故ですね……プロでもあの振り込みを避けられるのは片手で数えられる程度しかいないでしょう』
『え゛……トッププロってあの手で1筒止まるの?』
『あ、はい……トッププロの中でもほんの一握りだと思いますけど。一応、私は止められると思います』
『すこやんパネー……』
『そ、そんなことないよ、あれが止まるからってそれだけで強いわけじゃないし。振り込んでもそれ以上に稼げばいいってスタンスの人もいるから。
まあ、ツモ和了りまで止められるならそれだけで強いと言えなくもないけど』
『ちなみにすこやんは?』
『えっと……原村選手に関してはやってみないとわかりませんのでノーコメントで』
『普通の相手なら相手のツモまで止められるってこと!? え? 流石に冗談だよね!?』
純「……反則だろあれは」
透華「たまたま来てしまったものは仕方ありませんわ。運も実力のうち、私のライバルに相応しい強運ですわ」
一「あの手、振らなくても支出は200点しか変わらなかったかもね」
智紀「その冗談が冗談ですまなそうだからタチが悪い」
ゆみ「合宿でも確認したが、デジタルの面子では原村の強運は常識の範囲内だ。あの面子では流石にそれはないだろう」
一「いや、原村さんに配牌であの手が来たということは、オカルトな何かがあったのかもしれない」
透華「むー……そういうのは衣がいませんと分かりかねますわ」
美穂子「いずれにしても、清澄はただでさえ大差のところにダメ押しを決めましたね」
咲「せーの」
咲・照「「縛ってる」」
久「分かるわけないでしょあんなの」
咲「じゃあ、縛ってるということで」
照「うん、多分間違いない」
まこ「あんな事故の後でも一応チェックするんじゃな?」
咲「むしろ、あの事故の後だからこそですね。一本場が来るかどうかわかりませんけど、他がチェックし忘れてれば大きなアドバンテージですから」
久「ちなみに、縛ってるという根拠は?」
咲「勘と、一本場なので気軽に縛れるということ、配牌が悪くなかったことですかね」
照「勘」
久「じゃあ信じますか」
京太郎「照さんは勘としか言ってないですけど……」
久「私、道以外で照の勘が外れた事例を一つも知らないの」
照「失敬な。道でも私の勘は当たる」
久「なんでそこだけ自信満々なのよ。道だけは素直に私に従っときなさいって」
まこ「そもそも、道は勘で進むもんじゃなかろうが」
咲・照「「……えっ?」」
怜「まあ、新道寺を削ってくれる分にはラッキーやけど……」
竜華「さっきの和了りで役満確定やからな、削ってもらえると助かるわ」
セーラ「しっかし、トラウマになるであんなもん。メンピン狙いましょう言うとる手牌で一枚だけプカプカ浮いとる1筒切ったら一巡目で倍満ズドンて……」
泉「さすがの船久保先輩も目え丸くしてますね」
雅恵「『配牌でそれってどういうことやねん、サマか?』と、目で訴えとるな」
東二局 親:和
和「ロン。一気通貫・平和・ドラドラ。12000」
234赤56789p4赤5666s ロン:1p
哩「ぐっ、五巡目で!? しかも、そん捨て牌で!?」
絹恵(……新道寺をへこませてくれる分には助かる。正直、一位通過は無理や。なら、清澄はもういくら走らせたってええ。末原先輩もそのつもりやろ)
浩子(千里山の目標は常に一位……やけど、流石にこの状況はうちも二位狙いすべきやろうな。しっかし、字牌四枚切ってその聴牌かい? 急にバカヅキしはじめおってからに……)
和「一本場」
咲「これはあれだね、原村さんに憑いてるデジタル神が白水さんの悪質なオカルトに激怒してるんだね」
照「冗談だったけど、本気でそう思えてくる。私の照魔鏡にすら映らないとは、さすが神様……」
まこ「いやいや、それじゃったらおんしらのオカルトが真っ先にやられるはずじゃろ」
久「いや、私のは悪質じゃないし」
照「わたしも色々制約があって困ってるし。あんな卓外からサポートするやりたい放題と一緒にしないでほしい」
咲「え、えっと……私、オカルト的なことしてないし」
京太郎「いや、絶対嘘だろ。特に咲、二人に合わせるために適当言っただろお前」
咲「ぎくっ」
優希「あれが普通だったら麻雀やめるじぇ……」
東二局 一本場
和(流石に普通の配牌ですね。当然です、照さんじゃあるまいし、バカヅキなど長くは続きません。だからこそデジタルで最善の打牌をして勝率を底上げしなくてはいけません)
哩(一本場やけん気軽に縛れる……が、今の原村相手に縛って押すのは危険ばい。悪い手やなかけど、ここは一旦様子見さしてもらう)
浩子(……偶然か、それとも、何かしらのきっかけでバカヅキを呼び込む力があるのか? 上手いこと準決に進んだら原村の牌譜を総ざらいせな)
絹恵(原村のおかげで新道寺は沈んだけど……これでギリギリ上回って繋いでええんか? 大将戦で役満確定してもうたから、最低ラインは上がっとるんと違うか?)
絹恵配牌
7899p5799s178m東北
絹恵(爆発しとる時の漫ちゃんみたいな配牌やな。漫ちゃんならここから上に寄せて倍満とかになるんやろうけど)
絹恵(うちにはそんな都合のいいことは起こらん。三色やチャンタはおろか、この手でピンフすらつかんことだって普通にある。理想形のジュンチャン三色で和了れるのは20回打って一回あるかどうかぐらいや)
絹恵(それでもな、今回は絶対勝つって決めとるんや! 20回に1回和了れるなら、ここで和了らんでどうする!!)
7899p5799s178m東北 ツモ:8s
絹恵「は、ははっ……」
浩子「……絹ちゃん?」
絹恵(行ける、行けるで……ツキが向いて来てくれた)
打:5s
洋榎「よっしゃ、いきなりカンチャンずっぽしや!」
恭子「ん~……宮永に期待しすぎるのもアレやし、役満前提で、新道寺に対して二万のリードは欲しいな。ここは決めてや、絹ちゃん」
由子「白水も普通に手を進めてるのよー」
漫「速度でどっちが勝つか……」
郁乃「絹ちゃんや」
洋榎「代行、漫、いつの間……ぶふっ!?」
恭子「代行、真面目な空気をぶち壊さんでくれます?」
由子「ぷ……くく……漫、ちゃん……こっち向くのやめてほしいのよー……ぷくく……」プルプル
郁乃「信じてあげよ? この局は、絶対に絹ちゃんが勝つって、そしたら、きっと勝つで~」
恭子「……そうかもしれませんね。ま、信じるのはタダですし、いくらでも信じますわ」
洋榎「ぶははははっ!! 無理、無理や! なんでお前らこの状況でシリアスな会話出来んねん!?」
由子「こひゅー、こひゅー……ひ、洋榎、笑っちゃダメなのよー……ぷくくくく……」ガクガク
漫「もういっそ笑って下さい真瀬先輩! 顔真っ赤やないですか!?」
洋榎「とりあえずウェットティッシュあるから拭け! 水性なら落ちる! ゆーこを殺す気がないならすぐ拭け!」
漫「せやけど、これ油性なんですよー。一応拭きますけど……」
郁乃「大丈夫、絹ちゃんは、きっと勝つ」
恭子「語尾伸ばして下さい、代行が普通にしゃべると気持ち悪いです」
郁乃「末原ちゃん、ひどい~……」
漫「あ、落ちた。これホンマに水性だったんや……」フキフキ
絹恵「ツモ!リーチ、ツモ、純チャン、三色、一盃口。裏はめくっても変わらんな、4100・8100」
789p778899s1789m ツモ:1m
浩子(どいつもこいつも馬鹿でかい手ばっかポンポン和了りおってからに……)
和(全国でも指折りの名門三校が相手、楽な手合いはいないようですね)
哩(……原村が倍満で親かぶりしたか、バカヅキは止まったようやね)
東三局 ドラ:8m
絹恵手牌(8巡目)
3456s356m345p発発発 ツモ:6s
絹恵(三色確定、さっきの和了りで流れが来とるんやないか? イケイケや!)
絹恵「リーチや!」
打:6m
浩子「リー棒要らんで。ロン、3900」
赤567s78m23477p ポン:白白白 ロン:6m
絹恵(欲張らんで両面聴牌に取ってたら振り込んでなかった? いや、そんなの結果論や。期待値的にもこっちの方が高い、うちは間違ってない)
浩子(絹ちゃんはツイてると欲張る傾向がある。うちの待ちは萬子の上やって露骨に言っとるんやけど、乗ってる絹ちゃんなら構わず来ると思ったわ)
浩子「じゃ、次いきましょか」
東四局
浩子(今の和了りでツキが向いて……来るわけないわな。親かぶりは勘弁やで)
哩(ドラ対子と翻牌の対子……4翻行っとくか)
和「」ヒュン
絹恵(ツキ逃してもうたかな……? 四向聴、ちょいとキツイな)
哩「ツモ、2000・4000」
34赤5m5688p123s中中中 ツモ:4p ドラ:8p
浩子(親かぶりは勘弁って言うたやろが。てゆうかうちが3900とかささやかな和了りしとんのにこいつらは……この8000がうち以外の最低点かい!?)
絹恵(5翻やけど、リーチかけとらんからコンボは4翻以下。とはいえ倍満まではありえる……いよいよ苦しくなってきた)
南1局
和「聴牌」
絹恵・浩子・哩「ノーテン」
和(先ほど照さんが言っていた通りなら流れ一本場は通常の一本場として扱うはず。これで二局進めたも同然ですね)
絹恵(……オリがデジタル的には正解の局面やった。とはいえ、この状況で稼がんで場を進めてええんやろか?)
浩子(ま、オリて場が進むならこっちは大歓迎。このまま最後まで行ってほしいくらいや)
哩(……この局は縛っとらんからオリは自然。とはいえ、流れるぐらいならまだ原村が和了った方がマシかもしれん。ばってん、流石に差し込みまでは出来ん)
咲「なんだかあっさり流れたね」
久「縛ってる気配もなかったし、和が二つ鳴いてたからね」
照「鳴いたのは翻牌の発と赤5筒とドラの6筒を含んだ順子だから、見えてる範囲で最低3900。 みんな安手だったし、オリるのは普通」
京太郎「むしろ、和がツモらなかったのが珍しいな、全部止められてた」
優希「オリてるんだから和了り牌を止めるのはよくあることだじぇ」
咲「この状況だと、事実上二局進む聴牌流局が一番ツイてると言えなくもないからね」
京太郎「あ、そうか。コンボの成立を防ぐ方が期待値が高いのか」
照「期待値はわからないけど、あの手を和了れなかったのは必ずしも不運ではない」
南二局一本場
哩(はあ……さっきから一本場に良い配牌がよう来よるね。鳴き混一色でも翻牌三つとドラ1つで5翻は固そうばい)
24赤567s17p南南白白発中中
哩(使わん鍵かもしれんが、出来る限り稼ぐ! リザベーションファイブ!)
怜「まーたデカそうな手やなー、あの人どんだけツイとんねん?」
セーラ「まあ、うちらの世代の四天王やからな」
竜華「初耳やけど……」
セーラ「水の白水、火の江口、土の愛宕、奈良の小走の四天王言うたら有名やん」
泉「絶対今考えましたよねそれ? 奈良だけ浮いてますし」
雅恵「なんで洋榎が土やねん?」
怜「せめて理由とか考えずに小走さんを風にしとけば騙されたかもしれんのに……」
竜華「うちは? うちは四天王に入ってへんの? てゆうか辻垣内どこ行ったんや?」
セーラ「……騙されとる奴おるで?」
怜「竜華は純粋やから」
泉「てゆうか余裕そうですね、先輩がた。白水がデカい手作ってんやから少しは焦りましょうよ? あ、ほら、リーチかけました」
怜「いやいや、フナQの手見ろや。白と中の対子持ってるやろ?」
泉「あ、ホンマや」
セーラ「持ち持ちやと見切って七対子に移行しとる。流石の安定感やな」
怜「脇の二人は白水さんのリーチに対してオリる、待ち牌を握りつぶされた白水さんと、オリた二人」
雅恵「あとは、浩子がツモるかリーチをかけた白水が振るか……後者やったな」
『ロン、6700』
竜華「ええぞー、浩子ー!!」
姫子「ぶちょー……」
煌「姫子がここまで受け取った鍵は何本でしたっけ?」
姫子「うん、よんほ……ひうっ!?」ビビクン
仁美「四本……前半の東一局一本場の倍満キーと、南一局の満貫キー」
美子「それから、後半の東一局の役満キー、東四局の倍満キーやね」
煌「一本場の鍵は計算に入れない方が良いでしょう。そうすると、満貫、倍満、役満が一本ずつ」
仁美「二位までの点差は6万近くありよるけん、相手が清水谷だということも考えると少し心もとなか」
煌「そうですね、ここでもう一本鍵を頂きたいところです」
姫子「た、多分、さっきの感じだと今回の縛りは四翻やけん、この手を和了れば倍満キー」
煌「四翻ですか、翻数は余裕でクリアできそうですね」
仁美「配牌で対子やったドラが暗刻になった、裏が乗れば倍満も見えよる」
『ツモ! リーチ・ツモ・西・ドラ3・赤1……裏は乗らず、3000・6000!』
姫子「きゃああああ!! ぶちょー!! 流石とですー!!!」
南四局 ドラ:6s
哩(さて、ダメ押し行っとくか。リザベーションセブン!!)
1134556789s18p北
絹恵(……さっきの跳満、最悪の場合あれでも役満確定。ツモは偶然やからそれはないとしても、リーチをかけてたっちゅうことは6翻までは十分あり得る)
浩子(いくら清水谷先輩とはいえ、そろそろ射程圏に入ってもうたやろな。どないしよ?)
打:7m
絹恵「(とはいえ、ここは和了らんと話にならん!)ポンや!」
ポン:777m
浩子(一鳴き……この点差でまさかのタンヤオのみってか? まあ、なんか白水が嫌な感じやし、安くても和了られるよりましってことか)
哩「」タン
打:9s
浩子(……白水が字牌まで落として索子に染め始めた、清一色狙うなら縛りはおそらく7翻。索子が出て来たってことはそろそろ聴牌や、役満二発は流石にアカン)
和「」ヒュン
打:4m
絹恵「チー」
チー:234m
浩子(絹ちゃんは序盤に索子の234も鳴いとる、露骨やな。流すだけじゃなく、少しは点数も欲しいってことか……背に腹は代えられんが、後で覚えとけよ)
浩子(普通ならこの鳴きをしてここで待ってたらド素人やけど、うちの差し込み前提ならあり得る待ちやろな。どうや?)
打:3p
絹恵「ロン、タンヤオ三色ドラドラ。7700」
24p66s チー:234m 234s ポン:777m ロン:3p ドラ:6s
浩子(って、ドラ対子持っとんのかい!? マジで覚えとけよ絹ちゃん……とりあえず全部読み切りを装ったポーカーフェイスや)
浩子「終了ですね、お疲れ様でした」
副将戦終了
新道寺 48800(+ 3200)
清澄 198500(+ 9900)
姫松 65700(+ 3100)
千里山 87000(-16200)
浩子「……戻りました」ウツムキ
雅恵「あんなヌルイ3筒切っておいて、どの面下げて戻った?」
セーラ「監督の姪っこやからって足引っ張って許されるとでも思っとるんか? 何であの見え見えの三色に振り込んだんや?」
怜「まあまあ、誰にだって失敗はあるやろ。それがたまたま、絶対にしてはいけない局面での、素人でもやらん大失敗だっただけや。なあ、そうやろ?」
浩子「ううっ……す、すみません……監督の顔に、泥を……」グスッ
泉「ちょっ!? 船久保先輩泣いてますやん!?」
竜華「そ、そうやで、流石に悪ノリが……」
浩子「いえ、目薬です。てゆうかあの三筒差し込みですし」ケロッ
怜「せやろな。けど、泣いたのはちょっと焦ったわ」
セーラ「ここまで読まれとったとは……流石フナQ」
浩子「へこまされたからこういうネタで来るのは読めますからね、目薬仕込んどけば大体のネタに対応できると踏んだわけです」
雅恵「浩子、末恐ろしい子やな」
浩子「しかし、真面目な話、大分差を詰められてしまいました。ドラ対子は計算外です」
怜「大丈夫やろ。何のためにうちが先鋒戦終わってからずっと竜華の膝枕に頭乗せてたと思っとるんや?」
セーラ「お前の欲望のためやろ」
怜「くくく……わが欲望が満たされしとき、卓上全てを支配する力が生まれ……って何やらすねん!?」
雅恵「まあ、効果のほどはこれから見せてもらえるらしいからな。行けるか、清水谷?」
竜華「どうにかしますわ。北大阪の個人一位にお任せあれ」
怜「いや、竜華は死亡フラグいらんから。フナQと違って天然やし」
セーラ「最終戦の前まで一位やったのに、怜が俺ばっか狙うから俺が三位に……」
怜「私がリーチしてんのにズラさんセーラが悪いんやろ」
セーラ「鳴いたら安くなるやん」
怜「ツモられたら点棒減るやん」
セーラ「安く和了るぐらいなら点棒取られてから高い手和了って取り返した方がええやん」
泉「なんですかそれ?」
怜「安手の後に高い手和了って二回和了る方がええに決まっとるやろ」
浩子「園城寺先輩が全面的に正しいですね」
竜華「あはは、ほな、行って来るでー」
今回は以上です。次回は一週間後です。
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ヽ¬. / ノ`ー-、ヘ<ー1´| ヽ | :::::::::::::ト、 \ ( ./ヽ
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すみません、ちょっと諸事情で完徹してて今日の更新はキツイです。
更新は多分明日の夜になります。
愛宕雅枝さんを雅恵と誤記し続けてきたことに今更気付くという。訂正してお詫びいたします。
絹恵「すみません、新道寺にコンボを許してしまいました」
恭子「言いつけどおり新道寺より上で帰ってきてくれたし、上出来や。あとは任しとき」
洋榎「良かったで、白水とバカヅキしてた原村相手にプラスで帰って来たんやから文句ないわ」
漫「派手な試合やったな、主将が打ってるんかと思ったわ」
絹恵「お姉ちゃんみたいって言われんのが一番うれしいな」
由子「千里山も大分落ちて来たし、二位争いは混沌としてきたのよー」
郁乃「そんでもって~、複雑な展開は~、末原ちゃんの十八番やんな~?」
恭子「そういうことやな、任しとき。私らの最後の夏、こんなとこで終わる気はあらへん」
咲「……さて、私のやることは決まってるよね」
照「もう試合は大体決まったし、親番をわざと流しつつ、連続和了で速攻で終わらればいいんじゃないかな」
久「地区大会の20万点プレイヤー、相手に不足はないでしょう。ここで勝てば、『長野のレベルが下がった』なんて話は、言った人間が馬鹿にされる妄言になるわ」
まこ「止める気はせんな、思いっきり暴れて来い」
優希「ぶちかましてやれ! 咲ちゃん!」
京太郎「じゃ、行こうか、お姫様」
咲「うん。いつもありがとう」
照「……軽くながして……うん、いいや、諦めよう。どうせ注目されるのは咲だし」
久「さて、それはそれとして、実際のところ、あのコンボって破れるの?」
照「難しい。二人とも地力が高くて、厳しい条件を達成しないとコンボにならないから能力自体の強度も高い、一人で破れる人はプロでもほとんどいないんじゃないかな?」
久「高校生だと一人で破れるのは照ぐらいってこと?」
照「なんで今の話で私には破れることになるのか理解できない」
久「不可能じゃないならあんたは出来るでしょ」
照「その前提はおかしい」
ガチャ
和「戻りました」
まこ「お疲れさん、後半は見事なトップじゃったな」
優希「さっすがのどちゃんだじぇ!」
和「東場で幸運に恵まれましたね。先輩方が作って下さったリードのおかげで楽に打てました」
照「むー……どうしたらこの過大評価を改めさせることが出来るのか」
久「いい加減に認めなさいって、天江衣と宮永咲と竹井久の三人がかりで挑んで来たのを返り討ちに出来るのは全国でもあんたぐらいよ」
照「そのうち二人は本気で勝つ気があるのかどうか疑わしい、証拠として採用することは出来ない」
西家 恭子「……来たか」
北家 姫子「よろしく(北家か……ツイとーね)」
起家 咲「よろしくお願いします」
南家 竜華「よろしくお願いします」
恭子(鶴田が北家……コンボが決まっとる東四局一本場は自力で早和了りすれば親を引ける。『勝つ』思考の人間はツイとるって考えるやろな)
恭子(せやけどな、『負ける』思考からすると、それはツイとらんことになる。なにせ、親の和了りを三人全員が邪魔するんやからな)
恭子(たとえば、北家は宮永が望ましい。トップの清澄なら、和了らせてくれるなら和了って連荘するやろ。化け物二人がかりで一本場を呼び込めるわけや)
恭子(宮永を味方につけるのと、宮永を敵に回して自力で一本場を引き寄せるの、えらい違いやで?)
恭子(あるいは、私なら親で和了りを見逃す余裕なんてない。鳴けるとこくれたらホイホイ釣られて一本場をくれたるわ)
恭子(まあ、私とコンボが成立してない素の鶴田の急造コンビが宮永の連続和了に対抗できるかは怪しいけどな)
恭子(清水谷が北家が最悪のパターンやろな。手が入ったとしても局を進めるために和了り放棄まである、コンボを意識しとればなおさらや。最悪は避けたことになるな)
恭子(私の『負ける』思考では、考えられる四通りの北家の中で、新道寺にとって下から二番目の展開)
恭子(ついでに、私の西家。これは悪くない。悪いのは起家と北家や。新道寺のコンボ絡みで親かぶりやら全力で流されるやらのリスクがあるからな)
恭子(四つあるうちで上二つの片方を引いた私と、四つのうち下から二番目の場所を引いた鶴田。ツイてるのはどっちやろな?)
恭子(鶴田もこの局は実力で打つはず。流れが私にあるなら、ここで速攻かけて逃げ切ったる)
東一局
竜華(ずっと膝枕しとったから、なんかまだ怜が居るみたいやな)
怜ちゃん「おるでー」
竜華(……は?)
怜ちゃん「どうもー、【あなたの膝の枕神】怜ちゃんでーす!」
竜華(……ん~、疲れとるんかなあ、大事な大将戦やのに)
怜ちゃん「さーて、んじゃ、サクッと和了りへのルートを見せたるわー」
竜華手牌
24赤59s66788p東東西北
怜ちゃん「9s、7p、2s、赤5s、8m、4s、1mの順で切れば、2668899p東東西西北北で2pをツモって和了れるでー」
竜華(なんかやけにリアルやから一応信じるけど、それ、切り順変えたらアカンの?)
怜ちゃん「二巡目の7筒と四巡目の赤5索を末原さんが鳴くことでツモが変わるの前提の和了りやから、変えたらアカンよー」
竜華(いや、しかし、二巡目でその7筒を切るのは……赤5索と4索で赤から切るのも……)
怜ちゃん(お試しの一回目でこんな手持って来る竜華が悪いんや)
咲「……切りましたよ?」
竜華「あ、すまん……」
ツモ:北
竜華(早速四つ目の対子。まあ、まだ一打目は自然や、でも、さっきのが本当に怜の力なら……)
打:9s
竜華(信じてみるか。無理気味やけど、混一色七対子って狙い自体はそこまでおかしくもない。鶴田のコンボも決まってるかもしれんし、安牌抱えて進めるのもわるくないやろ)
セーラ「おいおい、竜華のやつ、なんであの7筒切ったんや?」
怜「ん~、わからんな。何巡先が見えてもアレは切らんと思う。順子が普通に伸びそうな手やし、四対子から七対子の決め打ちってのもなあ……」
泉「清水谷先輩はあんな切り方せんから、なんかあるとしたら園城寺先輩の力でしょう? なんでわからんのですか」
浩子「しかし、末原さんが鳴きましたね。鳴かせたのかもしれんとなると……まさか……」
雅枝「分かるんか?」
浩子「……たとえばですけど、うちの二軍に哩姫のコンボみたいな力が宿ったとしたら、どうなると思いますか?」
怜「……そのままやろ? 先に出る方が和了ったら倍の翻数で和了る、制約とかも同じになる。ただ、地力で劣る分だけあの二人よりは弱くなるやろな」
浩子「うちはそうは考えとらんのですよ。能力にもよるでしょうけど、今のコンボの例なら、おそらく和了った翻数分のドラが入るとか同じ翻数で和了るとか、そんな感じで弱体化すると思います」
セーラ「使う奴が弱いと能力が弱くなるってことか?」
怜「……なるほど、私の能力でも、使い手のレベルによって効果が変わるってわけやな?」
浩子「はい。そして、いま、清水谷先輩が園城寺先輩の能力を使っているとすると……」
セーラ「すると……どうなるんや?」
浩子「その前に確認しますけど、園城寺先輩の地力は、今でも三軍クラスなんですよね?」
怜「せやな。大会で揉まれて多少は成長しとるかもしれんけど、一巡先が見えんかったらいいとこ二軍の下の方やと思う」
浩子「つまり、園城寺先輩の力は、三軍が使っても千里山のレギュラー全員を倒せるぐらい強力な力です。それを、もともと一軍、北大阪個人戦一位の清水谷先輩が使ったら?」
雅枝「……さっき言ったように実力に応じて能力の効果も変わるとすると、相当強力な能力になるな」
浩子「それこそ、一巡先を見るどころか、和了りへの最善の手順を見せる……なんて能力が出てきてもおかしくないですよね?」
泉「そんなん反則やないですか」
浩子「……でも、どうやらそれっぽいで? 7筒に続いて赤5索の先切り、いずれも切った牌が鳴かれた。ツモ順がズレて、出来たのがあの形や」
雅枝「あの巡目以外に切った場合は、こうはなってないな。萬子をツモって赤5索を切った時は何をしているのかと思ったが」
『ツモ。面前ツモ・混一色・七対子。3000・6000』
照「……は?」
久「随分妙な切り順だったわね。まるで未来が見えてるみたいな」
照「いやいやいや、それは無し。反則」
和「えっと、照さん?」
まこ「あんたに反則とまで言われるとか、相当酷いんじゃろうな」
優希「で、一体何やらかしたんだじぇ?」
京太郎「照さん以上の反則とかそうそうないと思うんだが」
照「須賀君にまで不当な評価を受けだした……それはさておき、心の準備をして聞いてほしい」
久「なによ、もったいぶって」
照「彼女の能力を発表します」
まこ「本当にもったいぶるのう」
照「彼女の能力は『その局で実現可能な最高打点の和了への手順を視る』能力です」
久・まこ・和・優希・京太郎「「「「「……は?」」」」」
久「いやいや、手順を視るっておかしいでしょ!?」
まこ「ちゅうか、『和了までの手順を視る』って、和了る可能性が無い手牌以外は必ず和了るってことじゃろそれ!?」
優希「照さんが反則だって言うぐらいだから相当ひどいと思ってはいたけど……予想以上だったじぇ」
京太郎「どうやって勝つんだよそれ……」
照「勝ち方はある。相手が和了る可能性が無ければいい。つまり、どうしようもない手……たとえば天和とかを持って来れば勝てる」
久「まあ、天和まで行かなくても5巡以内とか鳴きが発生しないとかならどうしようもないでしょうけど、それでもその対策が実現できそうな人間が数人しか思いつかないわね」
まこ「妹尾の奴は出来そうじゃな。三人がかりでもどうしようもないことが度々あったからのう」
和「龍門渕さんなんかは能力がそのまま対策ですね。それにしても酷い……」
洋榎「なんやあの切り順? 清水谷、あんな打ち方する奴ちゃうやろ?」
由子「普通のデジタルだったはずなのよー」
郁乃「ちょっと~、これは~、アカンかも~……使用回数とかに制限があるとええんやけど~」
漫「なんの話ですか?」
絹恵「なんかの能力やってことですか?」
郁乃「多分~、能力で間違いない~。内容は~、現時点では不明~。せやけど~、あの手順であの手~、相当おかしな能力なんは間違いない~」
洋榎「能力なんかに頼らんで実力でこいや! お前は普通に打ってもうちと勝負になるはずやろ!」
東二局
竜華(すごいすごい! 怜はやれば出来る子やって、うち信じとったよ!)
怜ちゃん「せやろせやろ~、これからは私に感謝の気持ちを込めて膝枕するんやで~」
竜華(で、次は?)
怜ちゃん「その前にチュートリアルの続きやな。枕神怜ちゃんやけど、これは対局中いつでも使える。基本的には配牌時が一番ええけどな」
竜華(手が進んでもうたらその分だけ最善を逃すからな、そらそうやろ)
怜ちゃん「いや、例えば、ラスト三巡だと先を視るのに使う力が少ないから、一回分の力で三回ぐらい使えたりするんや」
竜華(あ、なるほど……けど、ラスト三巡で大した足しにならん力を三回使うよりは配牌で使う方が良さそうやな)
怜ちゃん「あと、枕神怜ちゃんの使用回数はフルチャージで基本五回。もう二回使ってもうてるから、竜華が今回使えるのは三回だけや」
竜華(え? こういうチュートリアルって使用回数減らんもんやないの?)
怜ちゃん「現実はゲームみたいに都合よく出来とらんからな、この世界は非情なんや」
竜華(辛いなあ……なら、残り三回を前半後半で上手く振り分けんとな)
怜ちゃん「休憩中に本体がチャージしてくれるやろから、前半で使い切ってしもうても後半で一回は使えるで。本体が無事なら一試合に使えるのは合計六回やな」
竜華(膝枕でチャージできるんやな。了解)
怜ちゃん「ほな、用法用量を守って怜ちゃんを使ってな~。ここぞという大事な場面で呼んでや~」ヒューン
竜華(ちょい待ち! 手順! この局の最善!)
怜ちゃん「……竜華、現実って非情やな?」ピタッ
竜華(チュートリアルでも使用回数が減る鬼畜仕様の話はもうええわ)
怜「いや、ちゃうねん。ないねん」
竜華(……は?)
怜「この局、竜華が和了る手順は存在せん。ごめんな」
竜華(……マジで?)
怜「まあ、和了れんことが分かるだけでも無駄やないで~、振り込まんように気を付けてな~」
竜華(怜の役立たず――!!!!)
咲(……あまりのチートに驚いてる間に親が流れちゃったけど、清水谷さんの方は力押しでどうにかなるよね?)
咲「ツモ。400、700」
111234s999p78m南南 ツモ:6m
竜華(三巡目……鳴くチャンスもなかった。まあ、これは止めようがあらへんわな。役立たずとか言ってごめんな怜)
恭子(始まったか、連続和了。県予選の一回戦、個人戦でも基本的にはこの打ち方やった。脅威の和了率と徐々に上昇する打点、個人戦では東場のこいつの親番を超えられた対局はほとんどなかった)
姫子(ちゅうても、今回はこいつの親番、南一局に鍵ばもらっちょる、連続和了自体は止められるっちゃね)
恭子(さて、鶴田、これは具合が悪いんやないか? 東四局一本場、来るとは思えんで?)
恭子(そして、さっきの清水谷の和了り、手順が妙やった。データの少ない宮永と、今までのデータにない打ち方の清水谷……不確定要素だらけやな)
恭子(新道寺が千里山を削ってくれんとうちも困る。さて、どう動くべきやろな?)
照「まあ、咲なら力づくで行けるよね」
久「『行けるよね』じゃないわよ。やっぱりあんたらの方が酷いチートじゃない!?」
照「竹井さんも出来るでしょ、強行突破」
まこ「否定できんの。こいつはこいつで異常じゃけえ」
和「心配して損しました。照さんが大げさに騒ぐから……」
『ツモ、3000・6000』
京太郎「大げさに騒ぐに値する酷いチートだったはずなんだが……ご覧の有様か」
優希「あっという間に二連続和了、しかも二回目で跳満……あそこに座ってるのが誰かを忘れてたじぇ」
久「全国MVPの天江衣を大差で下した我らが長野のナンバー2、個人戦一位の宮永咲よ。並大抵どころかよっぽどのことでも崩れやしないわ」
照「ちょっと待って、竹井さんの中のナンバー1が個人戦12位止まりの人間な気がするんだけど?」
久「他に誰が居るのよ?」
照「咲がナンバー1でいいんじゃないかな。個人戦一位だし」
久「個人戦に出てない衣とかもいるから、個人戦の順位で決めるのはちょっとね……」
照「個人戦に出てて12位の人間をナンバー1にする理由にはならない」
久「いや、あなた個人戦の一・二位と全国MVPを三人まとめて返り討ちにしてるし」
照「それはそれ。返り討ちって言っても順位は二位だし」
久「10回打って全部ね。平均着順でも平均素点でも四人の中でトップだったわね」
照「半荘一回で見れば一度も勝ってない、やはりその時トップ率が一位だった咲をナンバーワンとすべき」
恭子(ダメやな、千里山が負ける可能性を上げるために、鶴田に何とかしてもらわんと……)
恭子(宮永は連続和了中は打点を下げない。さっき一気に上げて跳満やったから今度は倍満以上の和了りになるはず、なら、手作りに時間がかかる)
恭子(ここは鶴田をサポートして東四局一本場を……と言いたいが、また清水谷がおかしい)
恭子(第一打でドラの6萬……私は配牌にあった5萬と一巡目にツモった7萬で6萬を鳴けるようになった、つまり、私が鳴くことができない唯一のタイミングでドラを処理された)
恭子(清水谷、一体どうなっとるんや?)
竜華「ツモ」パタン
112233s7899m789p ツモ:9m
竜華「面前ツモ、純チャン・平和・一盃口。3000・6000」
咲(さっきの東三局、例の力を使った気配がなかった。多分使用回数に制限があるんだね)
咲(制限があるなら、使うのはどこか? 当然、鶴田さんに和了らせたくないからこの東四局は使うよね)
姫子「あ……」
姫子(部長にもらった鍵が……そんな……)
恭子(コンボが決まってない状態の鶴田は並の県代表エース程度、私と組んだところで宮永に対抗できるかと言えば、それは怪しい。だから鶴田が和了れんかったこと自体は仕方ない)
恭子(せやけど、これは話が違うで。清水谷が明らかにヤバイ。倍満で手作りに手間取るとはいえ、単独で宮永の連続和了を止めおった。一体どうなっとるんや?)
久「流石に倍満を作りながらじゃ速度で勝つのは無理か」
照「どうかな? やろうと思えば勝負にはなったんじゃないかと思う」
まこ「……それだと、やろうと思わなかったっちゅうことになるが?」
照「うん。次の一局を考えれば当然の選択」
京太郎「次の一局……あ、そうか。東四局の一本場ばっかり意識してたけど」
優希「次の南一局もコンボが決まってたはずだじぇ」
久「東三局で跳満まで上げたのも、この展開を読み切ってのことかしら?」
照「だろうね。千里山は東四局で例の力を使うだろうから、その前に出来るだけ点数を上げて稼いだ」
久「そして、連続和了をリセットして、最速の和了りを狙って南一局に挑む」
照「狙いは一点」
和「白水哩と鶴田姫子のコンボを崩すこと、ですね?」
久「打点の縛りのない最速の和了と、和了率100%の最強コンボ。全国区の魔物の切り札同士の激突よ。どうなるかしらね?」
照「今の咲が一人で使えるカードとしては、プラマイゼロ狙いの時のマイナスで迎えたオーラスの和了りを除けば最強の手札」
京太郎「今回はオーラスで白水さんが和了ってないので、コンボにぶつけられる中では最強の手札なんですね」
照「そう。そして、咲の本気度はご覧のとおり」
まこ「あの卓には入りたくないのう……心臓が止まるかもしれん」
南一局 ドラ:白
咲「」ゴゴゴゴゴゴ
姫子「」ゴゴゴゴゴゴ
恭子(……冗談やろ? 私でもわかるで、こいつらなんかヤバいことしとる)
竜華(盛り上がっとるなあ、ほな、三つ巴といこか? と言いたいとこやけど、連続和了の一回目に怜パワーが効かんのは検証済みやしな。安牌抱えて逃げ回っとくか)
咲(配牌で聴牌。ここまで来るなら天和が来てほしいんだけどね。それなら絶対勝てるから)
23456s33344p西西西 ツモ:4p
咲(無駄に高そうな手だけど、どーしよっかなあ、これ)
【白糸台高校】
淡「うーちーたーいー!! あそこの卓に入りたいー!! めっちゃ楽しそうじゃんあれー!!」
憩「あれは楽しそうやなー。けど、勝てるかどうかわからんから団体戦ではやりとうないですわ」
菫「清水谷が東一局と東四局で妙な切り順……いや、切る牌自体がおかしかったな。あれはなんだ?」
憩「知りませんよーぅ、奈良の誰かさんじゃあるまいし、なんでもうちに聞けば分かると思ったら大間違いです」
誠子「憩にわからないんじゃお手上げだな」
尭深「デジタルでないのだけは確かですね」
淡「なんかの能力だよ! じゃなきゃ説明つかないね! 山が見えてる……ううん、鳴きまで計算してるみたいだから卓上全ての牌が見えてるのかも!?」
菫「だとしたらお手上げだな」
憩「いえいえ、単に牌が見えとるだけやったら、鳴くと思ったところで鳴かんとか、計算違いを起こす方法はあります。見えてもどうしようもないこともありますし」
尭深「それに、計算が緻密なほど、一つずれたら全部ズレちゃう。牌が見えてるだけなら、東一局の七筒切りとかは危なすぎる橋だよね」
誠子「だな、あそこで姫松が鳴かなかったら滅茶苦茶になる、赤5索の先切りだってそうだ。末原さんは速攻をかけたが、鳴かない選択肢も十分有力だった」
菫「山と手牌が完全に見えているにしても、相手の出方も分からない東一局でやるにはリスクが高すぎる、か。なら、あれはなんだ?」
憩「せやから分からんって言ってます。山や手牌が見えとるってだけでは説明がつかんので、いくつか仮説立てて検証中ですわ」
菫「ちなみに、その仮説というのは?」
憩「今生きとるのは、『最善の手順が見える』『麻雀の神様が一時的に代走してくれる』『一翻役が出来る可能性を捨てることで、捨てた翻数分だけ望んだ牌をツモる』です」
淡「なにそれ!? ずっこい!」
菫「最後のを除いて酷い仮説ばかりだな」
憩「酷い打牌で最高形の和了りですから、仮説も酷くなりますわ」
菫「あの手順の混一色七対子とドラ切りの純チャンフリテンツモか……確かにそうだな」
誠子「ピンフの可能性やドラを捨ててチートイや三暗刻とかの縦に伸ばした手、あるいは純チャン・混一色なんかを確定させる……けど、それにしてはちょっと違和感があるな」
憩「それやと思いたいから可能性を捨ててないだけで、有力なのは前の二個の方です。上手いタイミングで鳴かせとるのはその能力じゃ説明できません」
尭深「前の二個だと、毎回使われたらお手上げだよね」
憩「毎回使うわけでもないので、使用できるかどうかは神様の気まぐれなのかもしれませんし、強い力やから回数制限があるのかもしれません」
誠子「だとすると、東四局で使っていたからランダムよりは回数制限が有力かな?」
憩「有力やけど、ランダムがたまたま大事なとこで来ただけかもしれんし、その判断は保留やな。……今分かるのはこんなとこです」
菫「十分だ。お前が居てくれて本当に助かる」
憩「褒めても何も出ませんよーぅ?」
淡「って、またケイに美味しいとこもってかれた!?」
誠子「いや、お前的外れなこと言っただけだろ」
尭深「淡ちゃん、打つと強いんだけどね。普段の言動は全く強そうに見えないよね」
淡「えへへー、タカミーに褒められたー」テレテレ
憩「ま、うちらがおるうちは頭使うのはうちらやからな……うちらが卒業した再来年のこと考えると頭が痛いけど」
誠子「そんな先のこと考えても仕方ないだろ、監督だっているし、何とかなるさ」
淡「あれ? そういえば監督は?」
菫「さっきお手洗いに行ったきり戻ってない。どうせ迷子だ、ほっとけ」
憩「なんでこの距離で迷子になるんやあの人……いつものことやけど」
尭深「この前は、『蝶々が飛んできたから眺めてたら自分が今いる場所がわからなくなった』って言ってたよ」
姫子(宮永は6索切り……さて、どうすっか?)
11449s3388m赤5p西発発 ツモ:9s
姫子(チートイドラ1、三翻の手ばい。部長のくれた鍵は四翻キー……ここから一翻足す必要がある)
姫子(出やすか牌は西ばい。やけど、それやったらリーチしてツモらんと四翻にならん。ツモるなら出やすさは関係ない)
姫子(ドラへの待ち替え、あるいはリーチして5筒の出を待つ? ダマで5筒をツモる? わからん、どのルートで四翻になっと?)
姫子(こがんわからんことは珍しか。いつもはリーチしてツモるしかなかったり、翻牌を鳴いたりしてて迷わん手が来とった。これは、こいつのせいか?)
咲「」ゴゴゴゴゴ
姫子(……分かる、多分、これはあいつの手の中で暗刻や。これを抱えていたら和了り目はなか……やけん、切る牌はこっちばい!)
打:西
咲「それ、槓」
姫子(やっぱり暗刻か、まずは正解。問題はこっからやね)
照「和了る道があるとしたらそっち。鶴田さんの選択は、自分たちのコンボを信じるなら正しい」
久「けど、咲の槓材でもある」
照「だからこそ、切らないと、少なくとも七対子の和了り目はない」
久「全面戦争って感じね。自分たちはコンボで必ず和了るはずだから、咲に槓させても咲が和了れるはずがないってか」
まこ「しかし、咲も嶺上開花だけは譲らんじゃろ」
和「嶺上開花は、譲る譲らないの話ではないはずなんですけどね」
京太郎「今更過ぎるな、咲だぞ?」
『もう一個、槓』
優希「一個目の嶺上牌は4筒だじぇ!」
久「三面張を崩したのはこれを槓するためね。さあ、どうなるのかしら?」
照「……」
透華「そこですわ、やっておしまいなさい、咲!」
純「いや、簡単に言うけどな、アレ化けもんだぞ? 見た感じだと衣の海底よりヤバイ」
一「え、嘘でしょ? 彼女がそこまで強いようには見えないけど」
純「嘘ついてどうする。そりゃ地力は衣に及ばねえだろうけど、条件が厳しくて発動も相方任せな分、発動した時の強度は衣以上なんじゃねえか?」
智紀「となると、咲が槓をしても決まったとは言えないと? 咲の槓と言えば衣をハメた大技だけど」
ゆみ「それで倒せないとなるとたいそうな化け物だな。とはいえ、咲ならコンボが発動してないときに親が回れば連荘して飛ばすことも出来る」
美穂子「それはどうでしょう? 清水谷さんも妙な打ち方をしています、少なくとも、私の知っている清水谷さんはあんな打ち方はしません」
智美「清水谷もへんな能力を身に着けたかもしれない、それを使って、咲の連荘が伸びて手が重くなったところで清水谷が止めるってことかー?」ワハハ
睦月「うむ」
透華「御託はいりません! わたくしたちを退けた長野代表に求められるのはただ一つ、完全なる勝利! それだけですわー!!」
星夏「……大丈夫でしょうか?」
純代「……」
桃子「照さんや衣ちゃん相手じゃあるまいし、咲ちゃんが本気だして和了れないってのは想像つかないっすね」
純「話聞いてたかお前? コンボが決まってる局に限れば衣以上だって言ってんだろ。とはいえ、咲なら行けると思いたいな、何せ、衣に勝ってるんだ」
咲「もいっこ、槓」
恭子(三連続槓!? いや、こいつにも槓があるのは知っとったけど、実際目の当たりにすると異常やな。二連槓ですら実戦では滅多にお目にかかれんちゅうのに)
竜華(槓材持ってたわけでもなく、ツモった嶺上牌で槓しての三連やろ? もうこれだけで奇跡みたいなもんや)
姫子(奇跡とかそんなもん関係なか、こいつは和了れん、私と部長の絆が切れるはずがなか!!)
咲(……見えなかったから三回目の槓にかけてみたけど、ダメか。ツモったのは向こうの和了り牌……これはちょっと厳しそうだなあ)
2345s 暗槓:3333p 4444p 明槓:西西西西 嶺上ツモ:赤5p
打:5s
姫子(そうたい、和了れるはずがなか! この勝負、もらった!)
竜華(和了らんのか……とはいえ、あれで親の70符二翻以上が確定やからな。手出しで両面塔子崩して聴牌してないってこともないやろ)
打:5s
恭子(オリたか、賢明やな。てゆうか、私が一打も打っとらんうちから大暴れすんなや)
恭子(河に出とるのは槓された西と5索二枚。どないせえっちゅうねん!?)
恭子(どうなっても知るか! とりあえず字牌や!)
打:北
姫子「ツモ」
114499s3388m赤5p発発 ツモ:5p
姫子「面前ツモ、七対子、赤1。1600・3200」
咲(ツモで1翻上乗せしたけど、私がツモ切りしても赤だから4翻か。ん~……上を行かれた感じがするね)
南二局
姫子(……和了れたのはよか、ばってん、今のは一番小さか四翻のキー。それに、二位との点差は開始前より開きよったと。清水谷が予想以上に強か)
姫子(後半でもらった鍵だけで届くとは限らん、リザベーションを使っとらん局でんしっかり稼いでいかんと……とはいえ、ここと次の南三局は未達の局やけん我慢ばい)
咲(……うーん、どうしようかなあ。ちょっと私の力じゃアレは破れそうにない。一本場は飛ばしちゃえばいいけど、あいにく役満は東一局なんだよね)
咲(そこまでに飛ばすっていうのは親番が残ってないから無理。さて、次に打つ手は……)
恭子(さて、これは不味いな。化けもんしかおらんやないか。特に清水谷、いつからそっち側に行ったんやお前?)
竜華(あと二回。休憩中にチャージするのも含めて三回……どこで使うかって言ったら、まずは親番やろ?)
竜華(この配牌なら、宮永の連続和了一回目相手でも勝負になるんと違うか?)
竜華手牌
1236667p7s発発南南南
咲(回数制限があるにしても、親番のここは多分使って来るよね? )
竜華(ものは試しや、やってみんと分からん。ときー!!)
怜ちゃん「はいはーい! あなたの膝のm……」
竜華(口上はええから、どうなん? 和了れそうか?)
怜ちゃん「あー、それなんやけどな、せめて向こうが満貫ぐらいまで伸びとったらええんやけど、宮永さんの連続和了一回目やから……あれ?」
竜華(どした?)
怜ちゃん「竜華、喜べ、和了れるで! 満貫や!」
竜華(マジか!?)
怜ちゃん「配牌が良かったからやろな、宮永さんの連続和了の一回目相手でも勝負になるで!」
竜華(よっしゃ! ありがとー怜!)
怜ちゃん「西ツモって7s、5mツモ切り、発鳴いて西切り、北ツモ切り、その次でツモ和了りやでー! 順番変えると鳴かれるから気を付けてなー」
『ツモ、混一色、発、南。4000オール』
煌「これは非常にすばらくない……」
仁美「千里山の背中がどんどん遠くなっていきよる」
美子「……まだ、役満と倍満二回のこっちょる、宮永でも哩たちのコンボば破られんってのが分かったとこやけん、どれか一発千里山にぶち込めば行かる」
哩「前半は鍵ば二本しか渡せんかった、しかも一本は使えん鍵。前半は仕方なか」
南四局
咲「ツモ、嶺上開花。70符2翻は1200・2300」
2345m234s111p 暗槓:西西西西 ツモ:5m
恭子(宮永の3連続和了であっさり終了……アカンな、焼き鳥や。しかし、和了れる局なんかあったか? 全部私にはどうしようもない局やったんと違うか?)
竜華(一本場は安く流れたし、後の二局は姫松と新道寺の親かぶり。前半は上々の出来や、問題は……)
姫子(……まだ、おわっとらん。後半、絶対にまくる! シード校が二回戦で消えるわけにはいかん!)
咲「前半終了ですね、お疲れ様でした」
大将戦前半終了
新道寺 35600(-13200)
清澄 203900(+ 5400)
姫松 45100(-20600)
千里山 115400(+28400)
『清澄高校が持ち点20万点を突破――――!!!!! 全国屈指の名門三校を相手に圧倒的な強さを見せている―――!!!』
『しかし、この大将戦に限れば千里山の清水谷選手の活躍が素晴らしいですね。普通ならこの前半で勝負をほぼ決めたと言えるところです』
『おっと、「普通なら」ってことはまだ決まりじゃない? 7万点以上の差を逆転する手段が姫松と新道寺に残されているということか――!!?』
『新道寺の鶴田選手は役満級の火力を持っていますから、親ならば直撃一回で逆転します。役満ツモで最低4万詰まりますから、倍満直撃での逆転圏内です』
『そうは言うけど、前半は正直パッとしなかったような……』
『それにも理由があるんですが、おそらく後半はその火力を存分に発揮してくれると思います』
『まだまだ勝負のアヤがあるー!! 諦めずに頑張ってほしい! むしろ頑張れー!! うちの視聴率のために―!』
『なにその利己的な理由での応援!?』
三日ほど前にようやく合宿でマホが見たものが決まりました。最後までの展開は大体出来上がったので多分このペースで完結まで行けると思います。
書き溜め三回分ほどできたので次回は木曜に。
怜「おお、これやこれ、この太ももがええねん」ゴロゴロ
雅枝「……実際に結果が出とるからなんも言えんな」
セーラ「なあなあ竜華、アレどうなっとるんや?」
竜華「ん~、なんかな、怜が出てきて、正しい手順を教えてくれるんや」
浩子「効果は大体分かってます。使用する際の条件は?」
竜華「うちが使いたいと思って呼べば出てきてくれる。ただ、回数制限があって、五回や。一局の終盤とかなら消耗が少なくてもっと呼べるらしいけどな」
セーラ「なら、後二回か?」
怜「今チャージしとるから三回行けるんと違うか?」
竜華「あ、いや、一回不発で終わっとるんや。だから、後一回。チャージして二回」
浩子「不発?」
竜華「東二局で、どうやっても和了れんって言って怜が帰ってしもうたんよ」
泉「役立たずやないですか」
怜「言っていいことと悪いことがあるやろ! ……しかし役立たずやな」
雅枝「となると、宮永の連続和了の一回目や新道寺のコンボにはぶつけにくいな。どうやっても和了れんと言うとその辺や、実際、東二局はそれやしな」
竜華「けど、親やった南二局、配牌が良かったらそこでも和了れたんです。どうしましょう?」
浩子「宮永の連続和了を確実に止める切り札として使う、あるいは、今回は危険な東一局にぶつけてみる手もあります。
役満さえ凌げば逃げ切りはほぼ確定、好配牌なら切り札一枚切る価値は十分にあります」
竜華「役満直撃だけは洒落にならん。もしダメでも和了れんことが分かれば守り重視で打てるし、悪くないかもしれんな」
セーラ「俺なら自分の親番で全部使うけどな。最初の親番で二回とも使う」
浩子「単細胞は黙っててください」
怜「せやせや」ゴロン
泉「最終的には清水谷先輩の判断ですけど、東一局にぶつけてみて、もう一回はどこかで切り札に使う感じですかね?」
雅枝「配牌次第で新道寺のコンボにぶつけられる切り札やっちゅうんなら、臨海や白糸台や永水、もちろん清澄相手にも有効に使える。試してみたいな」
竜華「分かりました。配牌見てからですけど、一回目は東一局、二回目はとりあえず温存して親番か宮永の連続和了を止める時に使います」
怜「その前に、二回目をしっかりチャージしていくんやでー」ゴロン
恭子「お手上げやな、あんなん聞いとらんわ」
洋榎「諦めんなや!? なんかあるやろ!」
由子「恭子がサジ投げるって相当なのよー」
恭子「……代行」
郁乃「人にもの頼むときは~、ちゃんと~、監督って呼んでほしいな~?」
恭子「……『代行』、清水谷の能力、何かしら見当はついてますか?」
郁乃「む~……末原ちゃんのいけず~。ちなみに~、大体見当つけたけど~、聞いてよけいに絶望する可能性もあるで~?」
恭子「そんなにヤバイ能力ですか?」
郁乃「喋るの疲れるから~、これ読んで~」
漫「メモ? ……いつの間にそんなもん書いとったんですか?」
郁乃「え~? 考えをまとめるのにメモとか取るやん~?」
恭子「つまり、改めて書いたものじゃなくて書き殴りのメモってことですね」
郁乃「うち几帳面やから~、書き殴りでも後で見やすいようにはしてあるんよ~?」
恭子「えーっと、時間も押してるんで一行目に『末原ちゃんLOVE』とか書いてあるのはスルーしますね」
洋榎「んなもん時間あってもスルーやろ」
恭子「……いくつかの仮説らしきものに×印がつけられとるな。×がついてないのは……【和了りへの手順を知る能力】?」
恭子「……ふむ。ほう。……確かに。……せやな。ああ、あの時のアレはそういう……」
洋榎「×印の横になんか書いてあるな? なんやこれ?」
郁乃「仮説を否定した理由やん~、見て分からんの~?」
漫「んなもん、見ただけで分かるんは末原先輩ぐらいですわ」
恭子「まあ、能力の内容自体はどう転んでも相当酷いものやっちゅうのはわかっとったからええとして……」
郁乃「ポイントは~、清水谷さんの表情~。ノート見て~」
恭子「東二局の三巡での和了りを見て『納得したような表情を浮かべた』……ですか」
郁乃「そうなんよ~」
恭子「考えられる理由は『力を使っても和了りへの手順が見えなかった理由が分かったから』……あいつ自身も能力が正確に分かってないっちゅうことですか?」
郁乃「あと~、東一局で七筒切る時の表情が~、意を決するような感じやったんよ~。 一か八かみたいな感じやったんちゃうかな~って」
恭子「この試合で使えるようになった能力やからぶっつけ本番。 で、東二局にも使ったけど手順が見えなくて不発やったと」
郁乃「そそ、神様が打つとか~、ドラなんかを望む牌と交換する能力やと~、東二局の表情が説明できん~。可能性はゼロやないけど~、細かく検証しとる場合やないから~、一番それっぽいのに決め打ち~」
恭子「……表情とかまで辻褄合わせるなら、能力の内容はこれしかない。相変わらず良く見てますね」
郁乃「それほどでも~」
恭子「となると、南二局の和了りから考えて、能力の発動は配牌を見た後で決められる可能性が高い」
郁乃「ん~? ああ~、なるほど~、さっすが末原ちゃん~、うち気付かんかったわ~」
恭子「東二局でダメだったのを、好配牌を見て勝負に行ったってことやからな。なら、能力の発動は配牌を見た後、しかも任意や」
恭子「配牌を見てから決められるなら、回数制限があるとしたら大物手を確実に成就させるために使うのが自然やろな」
郁乃「そんでもって~、和了りへの手順を視るってことは~、変な切り方始めたら止められんってことやから要警戒~」
恭子「……あいつが妙な打ち方を始めたら、それは和了りへの道のりをなぞり始めとるっちゅうことやから手遅れ。大物手がほぼ確実に成就する」
恭子「せやけど、それが分かってて私が振り込むことはない。宮永も相手のアタリ牌が見えとる節があるから多分振らん。鶴田が振るかツモるかやな」
恭子「能力自体をどうにかする手段は現時点ではなんもないけど、千里山と新道寺で撃ちあってもらえれば少しは楽になるな」
起家 竜華「よろしゅう(……起家、役満の親かぶりを喰らう席やな。最悪と言えば最悪、けど、どうせ怜の力を使うなら親番の方がええ。最高と言えば最高やな)」
南家 恭子「よろしくお願いします(少なくとも、新道寺のコンボの親かぶりだけはない席やな。まだ運はあるらしい)」
西家 姫子「……よろしく(南三局で部長から鍵ばもらっちょる、千里山に役満も被せられっし、終盤で親倍があるのもありがたか)」
北家 咲「よろしくお願いします(理想的な席順。これでダメなら方針転換するしかないかな)」
照「咲は真正面から力比べをしたら天江さんに勝てない」
久「どうしたのよ急に?」
まこ「……前半の南一局以上に本気の面じゃな。咲が何かする気みたいじゃぞ」
和「なにかとは?」
照「それを今から説明する」
京太郎「ああ、説明の前フリだったんですね」
久「咲は真っ向勝負だと衣に勝てない……けど、実際には大差で下してるわよね?」
照「そう、咲の本当の強さは、能力のぶつけあいとか互いにリーチしてのめくりあいとかの真っ向勝負での強さじゃない」
優希「はい先生! 真っ向勝負でも歯が立たないじょ!」
照「……それは知らない。話を進めていい?」
和「はい、どうぞ」
照「ここに居るみんなは分かってると思うけど、咲が天江さんに勝てたのは、他の二人を最大限に使って天江さんを三人がかりで止めたから」
久「……なるほど、そういうことか」
照「ここで問題。咲は真っ向勝負でコンボを破ることに失敗した。次に咲が取る行動は?」
和「コンボは破れないということを前提に、コンボが成立していない局で徹底的に叩くのが合理的ですね。今回はラス親がありますし」
照「不正解」
まこ「あそこに、照さんが反則と言い放ったほどの能力を使う打ち手がおるの」
照「さすが染谷さん、分かってる」
京太郎「えっと……もしかして?」
照「当然、使えるものは使う。多分、前半南二局の千里山の手、咲は止めるどころかサポートしてた」
久「そういえば発を鳴かせてたわね。サポートしてたとなると、長野の決勝で照が津山さんに国士を和了らせた時みたいに好配牌を送り込んだ可能性まである」
照「多分その通り。すべては、この東一局のため。清水谷さんのあの力を条件次第で新道寺にぶつけられると思わせるため。それを利用して新道寺のコンボを破るため」
京太郎「そこまでするのか……」
照「咲はアレだし、千里山も地力が高い。咲が千里山をサポートすれば、あのコンボともかなりいい勝負……いや、多分普通に勝てるレベルになる」
竜華手牌
3457s78p3455m発発発 ツモ:6s
竜華(配牌は上々。とにかく速さが欲しい局面やから翻牌の暗刻はありがたい。ときー!!!)
怜ちゃん「えー? いま呼ぶんか? 無理やと思うんやけどなあ……」
竜華(休憩中に話したの聞いてなかったんか? 役満回避出来たら儲けもんやし、てゆうか親やし、ここで使わんでいつ使うんや?)
怜ちゃん「卓の外のことはノータッチやで~。 にしても、上手く行けば儲けもんや言うてもこれは無理やと思……おおおおおおおお!?」
竜華(どうした!?)
怜「あ、和了れるで! 嘘やろ!? いや、マジや、和了れる! なんでや!?」
竜華「っしゃあああ!!!」
咲「」ビクッ
恭子「お、おい、清水谷……どうした?」
竜華「あ……声出とった?」
咲「え、ええ……」
竜華「すまんな、ええ配牌やったからつい声出てもうた」
姫子(配牌が良かったぐらい関係なか。私と部長のコンボはプロでも半荘一回丸ごと仕込みに使ってようやく破れるっちゅーとった。高校生が破れるはずなか)
怜ちゃん「最終形は 345s78p55m ポン:発発発 チー:345m で9pツモやでー」
竜華(三面張をあっさり崩して、しかも暗刻の発をわざわざ鳴くんか……これは怜がおらんかったら和了れんな)
怜ちゃん「ふふん、もっと感謝してええで。ほんで手順は―――――」
竜華「ポン!」
ポン:発発発 打:6s
恭子(おい、ちょっと待て……第一打が7索、二巡目で手出しの6索ってことは初っ端から両面落とし。配牌が良かっただけかもしれんが、もしかしてそれ……)
恭子手牌
1257s4889p114m西北 ツモ:北
恭子(とはいえ、この手じゃどうにもならんしなあ……)
打:西
咲「ポン」
ポン:西西西 打:5m
姫子(!!?)
恭子(宮永がオタ風をポン、私から鳴いたから鶴田のツモが飛ばされる。これは鶴田への妨害……まさか、そういうことなんか?)
竜華「チー!!」
チー:345m 打:発
恭子(手出しでさっき鳴いた発……暗刻からわざわざ鳴いたことになる。間違いない、例の能力や)
恭子(なんかの間違いやと思いたいけど、清水谷の能力の見立ては間違ってると思えん。となると、このままやと清水谷が和了るんやな)
恭子(現状、千里山が遠すぎる。新道寺には千里山を削ってもらいたいとこなんやけど……清水谷が能力使い始めてからどうにか出来るんかな?)
ツモ:6s 打:4p
咲「それもポン」
ポン:444p 打:8m
姫子(あ、ああ……ダメ……ぶちょーが、感じられん……和了りが遠のいてく……)
恭子(役満ツモられるんも痛いけど、七万差のこの状況、千里山が無傷でこの局を乗り越えたらしまいや。なんとかせな……)
姫子(嫌……ダメ、その牌を取らないで……部長との絆を、切らないで……っ!)
竜華「ツモや!! 発のみ。500オール!」
姫子(いやあああああああああ!!!!!!!)
哩「……なっ!?」
仁美「なにが、どうなって……」
美子「こ、こげなことあるはずがなか!! なんかの間違いばい!!」
煌「姫子……」
仁美「不味い、かなり動揺しとーと」
美子「こ、これどうなって……? プロ相手でも破られたことはなかやったのに……」
哩「ひ、姫子おおおおおお!!」
セーラ「よっしゃああああああ!!! 役満止めよった!!」
怜「あのコンボって鶴田さんの段階でも止まるんやなー。凄いなー」
泉「公式戦だと初めてやないですかね? というか、鶴田の様子見る限り、ガチで初めてなのかも」
浩子「まさに 初 体 験 !! やな」
怜「なんでそこ強調した?」
雅枝「宮永が清水谷のサポートに回っとったな。園城寺の力と清水谷の力、それに全国区の怪物の一人である宮永、流石の哩姫もこの面子相手に三対二では分が悪いか」
浩子「……新道寺のコンボが破られた。これであの卓で宮永に対抗する手段が無くなったな」
泉「へ? 清水谷先輩がおりますやん。今さっき、前半で宮永にも破れなかった新道寺のコンボを破ったんやから対抗できるんと違いますか?」
浩子「さっきの話聞いとらんかったんか? 前半の東二局で不発に終わった。既に一回潰されとるんや、宮永が本気なら、清水谷先輩の方はどうにか出来るってことやろ」
セーラ「いや、南二局で親満和了ったやん?」
浩子「今にして思えば、それさえも、この役満潰しに向けた仕込み……一人でダメなら二人、清水谷先輩と園城寺先輩の力をコンボ潰しに利用するためにわざと和了らせたんやないかと思えてきます」
泉「そういえば、あの時も宮永から鳴いとりましたね……けど、あいつでも牌が全部見えとるわけやないでしょうし、偶然じゃないですか?」
浩子「清澄の連中が、やることなすこと偶然で済ませていいような相手なら、この点差はついとらんやろな」
泉「うっ……」
雅枝「……新道寺のコンボは清水谷と二人がかりで抑え込む、これは利害が一致しとる。それ以外で清水谷が暴れようとすればあいつが直々に清水谷を抑え込む」
浩子「一か八かでコンボ潰しを仕掛けようと思わせるために、餌を撒いて誘導した。考えれば考えるほどそうとしか思えません、全部あいつの掌の上ってことですわ」
怜「新道寺のコンボを防いでも、宮永を倒すってことを考えたらかえって状況は悪化しとるんやな。喜んでもおれんってことか?」
浩子「はい、自分に利益があるように見えても、その実、宮永の勝利を盤石にするために利用されとるわけです。とはいえ、自分にも利があるのは事実ですけど」
雅枝「元々化け物みたいに強い宮永が、他家が『そう動かざるを得ない状況』を意図して作り出し、自分に有利な打牌を強いる。盤石やな」
浩子「この状況、打つ手なしですわ。残り半荘一回で三位に大差の二位ですから、一位を狙わんのやったら手を打つ必要もないですけど」
怜「今はええけど、この先……少なくとも決勝ではそういうわけにもいかんやろな。なんとか手を打たんと」
浩子「次の準決やって、今の新道寺や姫松みたいな状況にこっちがならんとも限りませんしね」
セーラ「ダメ元でガンガン行ったらええやん。麻雀は確率の影響を受けるゲーム、何回かやれば一回ぐらい通るやろ?」
浩子「清水谷先輩のアレは弾数に限りがあるので無理ですね」
泉「弾数に限りがあるからコンボ封じもこれっきりですし、今回の新道寺の立場ならそれでもええと思いますけどね」
雅枝「いや、この状況では流石に二位狙いや。使えば止まると分かったんやから、もう一回の使い道は南三局、新道寺の親倍潰しや。宮永の対策は決勝までになんとかするとして、今回は二位に甘んじる」
泉「勝負に辛いんですね」
雅枝「【常に一位を目指して】が部訓やけど、流石にな。判断するのは清水谷やけど、あいつもそういうとこでは抜け目ない」
『清水谷選手が幸先よく起家で連荘です! 三位との差を更に広げにかかるー!!!』
『うそ……あれ破るの、私でも難しいと思ってたのに……』
『小鍛治プロ―?』
『これは予想以上だね……これが今の高校生のレベルだって言うなら、藤田プロがプロアマ戦で負けたのもまぐれじゃなさそう』
『すこやーん? 解説とツッコミしてよー? 私一人だとまたクレーム来ちゃうよー?』
『今度、プロアマ戦出てみようかな……』
『ていっ!!』ビシッ
『痛っ!? 何するのこーこちゃん!?』
『オンエア中だってば!! むしろなにボーっとしてんのすこやん!?』
『え? ああっ!? ご、ごめんなさあああい!!』
東四局
恭子(さて、おなじみの連続和了であっさり一本場と東二・三局を流されて東四局。ここは新道寺のコンボが決まっとるから親は流せるはずやけど……)
姫子(こ、ここは部長から鍵ばもらっとる……連続和了なら止められるはずばい。問題は、あっち……さっき役満を止められた清水谷……)
竜華(ん~……ここも倍満が来るけど、後で親倍もあるし、ここでは使えんな。配牌もいまいちやし、鶴田に振り込まんように気を付けて……)チラッ
姫子「ひっ!?」ビクッ
咲「サイコロ回しますね」ポチッ
竜華(部訓には背くけど、この状況ではトップの連荘止めるよりは新道寺の親倍潰した方がええやろな)
竜華「大事な切り札はよう考えて切らんとなあ……」ボソッ
姫子「っ~~!?」カタカタ
竜華(ここで止めてもオーラスの親もあるしな。無理に連荘止めるために使わんでええやろ)
竜華「宮永止めるよりは、コンボを止めるんがこの状況の正着やろなあ……」ブツブツ
姫子「ううっ……(だ、ダメばい……狙われとーと。また、コンボが破られる……部長との絆が断ち切られる……あんな思いはもう嫌ばい)」ビクビク
恭子「清水谷、考えが口から洩れとるで」
竜華「へっ!? こ、声出とった!? 恥ずかしい……」
咲(……鶴田さん、コンボ発動させなくていいのかなあ? サイコロの目、出ちゃったけど。あれって、いつまでに撃てば有効なんだろ?)
咲「9ですね、配牌取ります」カチャカチャ
東四局 三本場
咲「ツモ、4300オール」
竜華(おっかしいなあ、東四局で連荘止まるはずやったんやけど)チラッ
姫子「ひっ」カタカタ
恭子(鶴田……こら自力で立ち直るのは無理そうやな。役満潰されたのは点数的に痛いやろうけど、それ以上にコンボを破られた精神的なダメージがでかい)
竜華(宮永がツモる分には点差は詰まらん。ここまで全部ツモやし、無理して止める必要もないな)
恭子(さて、東四局はコンボが成立しとるはずやったけど、鶴田に何の動きもなくあっさり宮永が連荘始めて、これで7連続和了)
恭子(鶴田がさっきから涙目やけど、泣きたいのはこっちやっちゅうねん。お前がしっかりせんとこのまま清澄と千里山で決まってまうやないか)
恭子(って、本来は自分でどうにかせなアカンもんやから、鶴田を責めるのは筋違いやな。しかし、ホンマにどうしたもんか)
恭子(残念ながら、宮永の連続和了、こういうどうしようもないのは私には止められん、止められないこと前提で上手く立ち回るしかない)
恭子(それを前提としたときになにより不味いのは、立ち回りの最大の鍵だった新道寺がコンボを潰されて再起不能になったこと)
恭子(整理しよか。まず、宮永は予想よりはるかに上、規格外の化け物や。そもそも、こいつが居る卓でこいつ以外が和了るのがほぼ不可能やった。計算外その一)
恭子(その中でも和了れるはずだった新道寺……実際、前半では和了ってたんやけどな。これが真正面からコンボを潰された。計算外その二)
恭子(で、最大の誤算は清水谷やな。私より格上とはいえ、手におえんレベルではなかったはずなんやけど、単独で宮永の連続和了を止め、果ては新道寺のコンボを潰すほどの化け物になってた。計算外その三)
恭子(最初に想定した状況は、普通に打ったら基本的に宮永が和了り続ける。それは清水谷も同じで、鶴田だけが労せず抜け出せるというもの)
恭子(宮永と鶴田の争いの中で上手く立ち回って自分の失点を抑えつつ千里山に沈んでもらって、連続和了が伸びたあたりで出し抜いて和了り、何とか二位になって逃げ切るのが唯一の勝ち筋)
恭子(白水が逆転圏内までコンボを積み上げよったからな、清水谷が攻めに回って直撃を受ける見込みは結構あったんやけど……)
恭子(ところが、蓋を開けたらこれや。連続和了が満貫あたりまで来ても手も足も出ん)
恭子(正直、こうなってしまうと宮永が気まぐれで清水谷を集中砲火するぐらいしか千里山が負ける可能性がない)
恭子(清水谷も関西トップクラスや。守りに入ると決めたら、たとえ宮永でも崩すのは容易やない……)
恭子(というか、清水谷が動かん理由がアレの使用回数制限だとしたら、連続和了が倍満あたりまで行って普通に止められる速度になるまで、宮永以外に今この卓で和了れるやつがおらんことになる)
恭子(目の前で跳満を和了られるのすら、指をくわえて見てるしかできんとはな……)
咲「ロン、19200」
姫子「はい……」
恭子(デカいこと言って出て来たんやけどなあ……結果はこれか)
恭子(すまんな絹ちゃん、せっかく頑張ってくれたのに……)
咲「終了ですね。ありがとうございました」
試合終了
新道寺 -200(-35800)
清澄 268100(+64200)
姫松 29800(-15300)
千里山 102300(-13100)
咲「お疲れ様でした。失礼します」ペコリ
竜華「お疲れさん」スクッ
恭子「……お疲れ様でした。後は任せたで、清水谷」
竜華「ん? 何の話や?」
恭子「姫松に勝ったんやから、今年の大阪最強はお前ら千里山や……優勝旗、ちゃんとうちの地元に持って来い」
竜華「……そうやな、善処するわ」
バタン
恭子(終わってもうたか……なんやろなあ、麻雀打った気がせんわ)
恭子(やってるゲームは麻雀のはずなんやけどな。この面子やと『絶対に和了る』連中ばっかで運の要素ほぼ皆無やん、どないせえっちゅうねん?)
恭子「……はあ、戻りにくいなあ」
バタン
恭子「なんや、忘れ物でもしたか?」
?「デカいこと言って出てったアホが焼き鳥で終わって帰りにくいやろうからこっちから迎えに来たったんや、感謝せえ」
恭子「洋榎やったか。余計なお世話や……ありがとな」
洋榎「ん? あれ、恭子?」
恭子「なんや、洋榎」
洋榎「あ、いや、呼び方と口調が……」
恭子「ええやろ、もうインハイは終わったんやし。出来れば、もう少し洋榎を主将って呼んでいたかったけどな」
洋榎「そっか……終わってもうたんやな」
恭子「……そろそろ鶴田の方の客も来るやろ、私らは戻っとくか」
洋榎「……すまんな、うちが負けたから」
恭子「あそこで二位で繋いでも私が全部毟られて大負けしとるわ、こっちこそすまんな、わたしの力不足や」
バタン
咲「試合終わったあと鶴田さんが全くしゃべらないから居づらくて出て来ちゃったけど、ここ、どこ?」キョロキョロ
京太郎「……何やってんだお前は、探したぞ」
咲「あ、京ちゃん。迎えに来てくれたんだ? ありがとう」
京太郎「迎えに行くだけのミッションが迷子さがしになったけどな」
咲「うっ……ごめんなさい」
京太郎「ま、慣れてるからいいってことよ。大将戦お疲れ様、咲」
咲「うん、ありがとう」
京太郎「じゃ、戻るか」
咲「うん」
久「うーん、須賀君を待たないで対局室出たから予想通りとはいえ、咲の迷子にも困ったものね」
照「……鶴田さん、大丈夫かな?」
久「割とダメそうね。立ち直れるといいのだけど……まあ、白水哩がいるんだからどうにかするでしょう」
照「……どうしよう?」
久「どうしようもないわよ。私たちが行っても何にもならないし」
和「冷たいようですが、私たちが彼女達に何かするのは逆効果かと……花田先輩相手なら私と優希が何かしらできるでしょうが、鶴田さんとなると……」
久「うちが慰めに行くとかは逆効果よね」
照「……でも……」
久「さて、流石に迷子たちもそろそろ戻って来るでしょ。辛気臭い話は終わり、25万点超えの大勝利よ、準決勝への景気づけにスイーツバイキングにでも行きましょう!」
照「スイーツバイキング!? なにその素敵な響き?」キラキラ
久「(この子、ちょろい……)ふふふ……東京には、甘いものを一定時間食べ放題の素敵なお店があるのよ」
照「て、天国……?」ジュルリ
まこ「まあ、女子にとっては天国みたいなもんじゃな」
照「はっ!? お金は? 学校からは宿泊費ぐらいしか出てないはず」
和「OB会やら地元の商店街やらが今回の遠征にカンパを集めてるみたいですから、少し高めの食事程度なら大丈夫ではないかと思いますが……」
久「それどころか回らない寿司屋に行けって言われたわよ。そんなとこ場違いすぎて女子高生だけでいけないけど、好意を無駄にするのも悪いし……」
バタン
咲「戻りました」
京太郎「すみません、迷子さがしに手間取りました」
優希「お帰りだじょ」
久「咲、スイーツ食べ放題なんだけど、どこに行きたい?」
咲「はい? スイーツ?」
バタン
透華「でしたら、良いお店がありますわ。代金は気になさらなくてよくってよ」
清澄一同「「「「「「「!?」」」」」」」
一「あはは、お疲れ様」
純「試合終わった瞬間に警備を強行突破しやがった……」
桃子「強行突破なんかしなくても私なら忍び込めたんすけどね」
智美「と言っても、この勝ちっぷり。相手も相手だし、さっさと連れ出さないとマスコミに囲まれてしまうからなー」
睦月「うむ」
一「あれ? 加治木さんと風越の三人は?」
智美「警備員に事情を説明してるぞー。ゆみちんなら上手く言いくるめてくれるだろー」
久「……急ににぎやかになったわね」
咲「あはは……強行突破って」
【対局室】
姫子「……」
煌「姫子、大丈夫ですか?」
哩「姫子……」
姫子「ぶちょー……ごめんなさい、せっかく鍵ばもらったんに……和了れませんでした」
哩「よか。たかが麻雀、私と姫子の絆が消えたわけでもなか」
姫子「……けど、和了られたとき、部長との絆が消えよった感じがして……」
哩「気のせいやろ、今も私らは繋がっとろーが」
仁美「それに、負けたんは姫子だけのせいじゃなか、美子も同罪ばい」
美子「なんで自分ば棚に上げっと!? 仁美こそいくら削られよった!?」
哩「姫子……お疲れさん」
姫子「ううっ……ぶちょー、ぶちょー……」ギュ
哩「姫子はよく打った、相手が悪かっただけばい」ギュ
雅枝「……清澄との差は16万点か」
竜華「いやー……洒落にならんな。末原さんに優勝旗を大阪に持って来い言われたけど、厳しそうや」
怜「うーん、竜華の方の私の力で優勝への最善の道とか見えんか?」
浩子「便利ですねそれ。試しましょう」
竜華「いや、麻雀以外では多分呼べんよ。うちらが休憩中に話してた内容も聞いとらん感じやったし」
セーラ「怜はものぐさやな。呼ばれたらちゃんと出てこなアカンで?」
怜「反省します」
浩子「そっちに反省されてもな」
雅枝「麻雀は一日二日で強くなるもんやない、厳しいが、今の戦力でどうにかせんとな。早速戻って準決以降の対策の練り直しや」
泉「……いえ、おりますよ? 一日二日で見違えるように強くなった人。知り合いに二人」
セーラ「せやな、なんか膝枕してるやつと、膝枕で寝てるやつ。一日二日で見違えるように強くなったな」
雅枝「……なら、全員で園城寺を膝枕するか?」
怜「アカン、泉とフナQは細っこくて気持ち良くないし、セーラはなんか固い! うちは竜華以外の膝枕は拒否する!!」
セーラ「固いってなんやねん!? ちょっとマジで傷つくからやめえ!」
怜「いや、固いし」
セーラ「がーん」
泉「まあ、うちもそんな手段で強くなるつもりはありません。真っ当に強くなります」
竜華「それだとうちらが真っ当じゃないみたいやん?」
怜「せやせや、こっちは命張ってんねんで?」
セーラ「怜はそうやけど、竜華は膝枕しとっただけやろ!?」
怜「竜華がこのむっちむちのフトモモ維持すんのにドンだけ努力しとると思っとんねん!!! 固い奴は黙れや!!」
セーラ「固い言うのやめえ!! 割とマジでへこむ!」
怜「……ごめん」
雅枝「……で、今から特打ちがしたいと? 一日二日で本当に強くなれると思っとるんか?」
浩子「ええ、少なくとも、園城寺先輩はその可能性があります」
怜「……せやな。フナQ理論によると、うちが竜華と同じぐらい強ければ竜華と同じ未来視が使えるわけやろ?」
セーラ「しかも、本家やから使用回数も制限なしやろうしな」
泉「常に最高打点の和了りへの最善の道が見える。最強やないですか」
怜「まあ、竜華と同じぐらい強くなるってのは無理やろけど、強くなればそれに見合った強力な未来視が使えるはず」
浩子「園城寺先輩の地力は今でもせいぜい二軍下位、伸びしろも多い」
セーラ「俺らは一巡先が見えることを前提にした効果的な打ち方を考えとったけど、それは怜の地力を上げるのを妨げてたんやな」
竜華「なあ、フナQ理論っていうの、うち聞いとらんけど?」
雅枝「と言われても準決は明後日、決勝はその翌日、今日声をかけて明日までに捕まるような腕利きがそうそう居るわけが……」
?「おるよ~」
雅枝「……赤坂!? なんでここに?」
郁乃「大事な教え子たちから~、お願いされもうて~。大阪最強が負けたら~、ライバルのうちらも舐められる~、って~」
怜「……えっと、どういうことですか?」
郁乃「平たく言うとな~、園城寺さん~、いくのんのスペシャルレッスン~、受ける~? ってこと~」
更新直前に思いっきり展開を読み切られるという……土日立て込んでるので次回は月曜日の予定です。
すこやんが結婚した場合と同じレベルで驚くやろうな
>>316
健夜「初めてですよ…ここまで私をコケにしたおバカさんは…」
健夜「ぜったいに許さんぞ、虫けら!じわじわとなぶり殺しにしてくれる!」
投下遅れてごめんなさい。本当にすみません。今から投下します。
穏乃「和ー! こっちこっち! このケーキおいしそう!!」
和「穏乃、お店の中ではしゃがないでください」
透華「構いませんわよ、貸切にしましたもの」
穏乃「ありがとうございます!! ほら和、こっちこっち!」
和「もう、穏乃! 分かりましたからもう少し落ち着いて下さい」
優希「タコスはないのか!?」
京太郎「あるわけねえだろ。スイーツだぞ」
?「クリームタコスをご用意いたしました」
優希「でかした、褒めて遣わすじょ、執事の人!」
京太郎「クリームタコスって……なんでそんなピンポイントなものが普通に出てきて……」
ハギヨシ「透華お嬢様からこちらの厨房を手伝って皆さまをおもてなししろとの御命令でしたので。片岡さまはタコスをご所望になると思い、ご用意いたしました」
憧「……清澄の二回戦通過はめでたいんだけどさ、なんであたし達まで?」
咲「え、えっと……なんでだろ?」
純「そりゃ、俺たちが衣抜きで飯食うわけねえからな」
ゆみ「どうせなら大勢の方がいい。和と知り合いだと言うし、ちょうどいいかと思って天江と妹尾を迎えに行くついでに誘った」
憧「シズの奴が二つ返事で『行く!』とか言うの分かってて聞くんだから」
ゆみ「おや、迷惑だったかな?」
玄「いえ、とんでもない!」
憧「ただ、決勝で打つ予定の相手と仲よくスイーツってのがねえ……気が抜けるというか」
照「ふふ、私たちが決勝に行くとも限らないし、そんなに身構えないで」
久「決勝で打つ予定ってのも随分大きく出たわね、そっちは大丈夫なの? 白糸台と永水が居るし、宮守だって楽な相手じゃなさそうに見えるけど」
純「今日一日衣と妹尾相手に打ってたからな。その手ごたえ次第じゃ普通に行けるんじゃねえか?」
玄「昨日よりは勝負になって来ました。と言っても、半荘一回耐えるのが精いっぱいですけど」
純「いや、あいつら相手に25000持ちで半荘一回打ち切るだけで大したもんだぜ? 衣は遊びで生かしたりするが、妹尾は容赦ねえからな」
憧「そうね、最初は全然歯が立たないかとおもったけど、段々コツがつかめて来たっていうか……」
咲「……衣ちゃんと妹尾さん相手に? ちょっと、どういうことですか加治木さん?」
ゆみ「成り行きでな。コーチ料はラーメン6杯で手を打った」
咲「安っ!?」
照「それは打つのが楽しみね。お互い頑張りましょう」
純「ところで、照さんのキャラが……」
咲「気にしないでください。本来は猫かぶってるのがデフォなので」
美穂子「おかわりどうですか?」
照「あら、いただこうかしら」
久「美穂子も一緒に食べればいいのに。欲しけりゃみんな自分で取りに行くわよ?」
美穂子「ふふ、こうして世話を焼いてる方が性に合ってるんですよ」
久「まあ、あなたらしいと言えばらしいわね」
星夏「……」
睦月「……」
灼「……」
モモ「……」
一「いや、なんか喋ろうよ」
モモ「ここは空気を呼んで沈黙してほしかったっすね」
灼「なんでこの五人を集めたのか聞きた……」
睦月「うむ」
星夏「意図というか、共通点は分かりますが……沢村さんが居れば完璧ですね」
一「黒髪ってこと? まあいいけど、この面子だと明らかにボクが浮くじゃない、なんというか、服装が」
モモ「国広さんが私服着て浮かないのは龍門渕だけだと思うっす。いや、龍門渕でも浮いてるっす」
睦月「うむ」
一「……ちょっとモモちゃん使ってタネなしで人体切断マジックやっていいかな? 多分、痛くはないと思うよ」ニコッ
モモ「人体消失マジックならタネなしで出来るっすよ? そして、痛みを感じる暇も与えず絶命させるって、国広さんどんな修羅場くぐってるんすか?」
灼「冗談か本気かわからな……こわ……」
衣「さとみー、プリンがたくさんあるぞー!」
智美「ワハハ、いくら食べてもいいんだぞー」
衣「わーい!」
智紀「……なぜか面倒事の予感がする、目が離せない」
宥「あの二人、あったかいねー」ホクホク
智紀「……このテーブル付近だけ異常に暑い。何故あの二人は好き好んでこのテーブルに……お目付け役の身にもなってほしい」
憧「あははははは! で、迷子になって竹井さんが迎えに行くまで二人でその場で立ち尽くしてたの?」
照「そのような事実はない、捏造はよくない」
咲「事実だけど、そんなのわざわざ話さなくても……私のイメージが……」
久「……あら? 合宿中に迷子になった話の方が良かったかしら?」
憧「まだあるの!? どんだけ迷ってるのよ?」
玄「宮永さん、イメージしてたより面白い人ですね」
咲「うう……面白いって褒め言葉に聞こえないです。あと、宮永だとどっちかわからないから、下の名前で良いですよ」
玄「じゃあ咲ちゃんで」
咲「はい、私も玄さんって呼ばせて頂きますね」
玄「天江さんに大差で勝ったとか妹尾さんが一度も勝てないとか長野の個人戦一位とか色々聞いてたので、すごく怖い人かと……」
久「全部事実だけど……実物は、今言った通りのポンコツ姉妹よ」
照「ポンコツではない。訂正を要求する」
憧「いやいや、そのセリフが既にポンコツだって」
照「酷い……」
咲「猫かぶってる時ならともかく、流石に素のお姉ちゃんと一緒にはされたくないんですけど」
京太郎「いや、俺から見たら同レベルだ。そういうセリフは校内で迷わなくなってから言え」
憧「さすがハーレム王、鋭いツッコミ」
京太郎「ただの雑用だっての。定着したら困るからそれマジでやめて。部長と照さん相手の二股とか噂立てられたら校内で軽く死ねる」
憧「女子六人の中に男一人でなんもない方がおかしいでしょ、実際のとこ誰が本命なの? やっぱり和?」
京太郎「んなっ!?」
憧「ほう……その反応、誰かしら本命がいると見た!」
優希「じょっ!?」
咲「なっ!?」
久「新子さんストップ、それ爆弾っぽいからそれ以上触らないでね」
憧「はーい」
一「このテーブルは、ボク以外の全員が部長または次期部長なのかな?」
星夏「そうですね……一年レギュラーですし、順当に行けば二年後にはキャプテンだと思います」
睦月「うちは、既に引継ぎが終わっている」
灼「現役部長」
モモ「一年は私だけっすから、むっきー先輩の次は私が部長っすね。部員一人、しかも誰にも見えないなんて展開もあり得るっすけど」
一「それは……冗談で済むといいね」
モモ「もしそうなったら見えないせいで勧誘も出来ないっすからねえ……」
星夏「勧誘と言えば、私がキャプテンになる頃だと有望な打ち手も清澄に行きそうなんですよね」
灼「そうなの? 長野の事情はわからな……」
一「風越と清澄は結構近いんだよ。だから、清澄の近くで麻雀を打てる人はみんな名門の風越に行く、それで竹井さんと照さんは今まで部員が居なくて大会に出てなかったわけさ」
モモ「でも、清澄には一年生の二枚看板が居るっすからねえ。全中王者と全国MVPに圧勝した長野の個人一位。全国でも大活躍中っす」
星夏「コーチとも話したんですが、今までうちに流れていたのと逆に、少なくとも向こう二年間は彼女達に惹かれて清澄に有望な新人が流れるだろうと」
一「その間に名門の意地を見せないとその後も、ってことか。大変そうだねえ……うちは五人とも同じ代だからそういう悩みはないかな」
灼「奈良は晩成が一強だから大分事情が違……」
一「でも、全国でこれだけ活躍したら、来年は阿知賀に人が来るんじゃない?」
灼「うち、中高一貫……」
モモ「あちゃー……それはやっちまってるっすねえ」
灼「憧みたいに高校からの転入組もいることはいるけど……高校からの転入だと試験が厳し……」
一「それにパスしたってことは、新子さん頭いいんだ? 話してて頭の切れる子だなとは思ったけど」
灼「こないだの模試でも偏差値70超えてたと思……行こうと思えば晩成にも行けたらし……」
衣「さとみー! あんみつを一気飲みするぞー!」
智美「わははー、のどに詰まらせるなよー」
智紀「衣、お行儀が悪い。ちゃんとスプーンで食べなさい」
衣「智紀! 衣の方がおねーさんなんだぞ! 口答えするな!」
智紀「以前言ったはず、衣は妹だから姉である私の言うことを聞くこと」
衣「うっ……あ、あの時は勢いに流されたが、やっぱり衣はおねーさんだぞ!!」
智紀(蒲原さん、あなたからも注意してほしい)
智美(そうは言うけどな先生、たまには好きにさせてやればいいじゃないかー)
智紀(要求が飲まれないなら、課題を倍に増やすしかない)
智美(……これ本気で言ってるなー、逆らったら帰った時に机の上に分厚い問題集が置いてあるパターンだー)ゾクッ
智美「衣ー、お行儀よくしないとだめだぞー」ワハハ
衣「むむ、智美まで……仕方あるまい。ハギヨシ! 食器を持て!」
ハギヨシ「はい、こちらに」スッ
衣「うむ、大義」
宥「えへへ、みんなあったかいねー」
智美「あったかいかー? 私は先生のセリフで寒気がしたぞー」ワハハ
ゆみ「そういえば、晩成の先鋒だが……」
玄「小走さんですか?」
ゆみ「私が知らなかっただけで、相当な有名人らしいな」
憧「あー、知る人ぞ知るみたいなとこあるよね、あの人。上位に入らないけど上位陣からの評価が高い的な」
咲「お姉ちゃんみたいですね、それ」
久「県内ですら全部一人で調べるのは無理があるからね。うちも余所のこと言えないけど、鶴賀は全国の強豪なんて調べてる余裕なかったでしょ」
ゆみ「恥ずかしい話だが、県予選突破どころか部員の確保で手一杯だったからな。全国の話は全国行きを決めてからと考えていた」
咲「うちは部長が大体調べてくれましたからね」
京太郎「おい、俺も結構手伝ったんだぞ」
咲「知ってるよ、ありがと、京ちゃん」
玄「小走さんはミドル時代の実績が知られてるから、加治木さんなら知ってそうですけど……?」
久「いや、ゆみが麻雀始めたのって高校入ってからよ? ミドルの頃の話なんて知るわけないでしょ」
ゆみ「蒲原に誘われてカード麻雀をやったのが始まりだったな」
憧「うげっ!? てことは、麻雀歴二年そこらで玄を焼き鳥にしたの!?」
玄「絶対子供の頃から打ってる人だと思ってたのに……ショックだあ……」
憧「あたしも麻雀歴二年にボコられたことになるんだけど……」
純「ま、世の中こういうのもいるんだよ。天才ってやつがな」
ゆみ「おだてないでくれ。昔から悪知恵が働くだけだよ。それがうまく麻雀に応用できた、それだけさ」
照「もぐもぐ」
美穂子「照さん、おかわりどうですか?」
照「ほへはい(おねがい)」
美穂子「わかりました、少し待っていてくださいね」
和「穏乃、その場で食べるのではなくテーブルに持ち帰ってですね……」
穏乃「あ、あっちも美味しそう! ほら、和! あれ見てあれ!」グイグイ
和「さっき見たじゃないですか……三歩あるいたら忘れるなんてギャグは要りません。って、ちょっと穏乃!? まさか本気で言って……」
穏乃「うん! 美味しい! ほら和! 食べてみて!」モグモグ
和「あのですね穏乃、そろそろ入店して30分経つんですからいい加減に落ち着いて……」
穏乃「あーん」
和「むぐっ」モゴモゴ
透華「せわしないですわね、高鴨さんは」
純代「」モグモグ
美穂子「照さんのおかわりと……このあたりはまだ持っていってないわね。ふふ、どれもおいしそう」
透華「せわしないと言えばあなたもですわね。ホストは私なのですから、客人はもてなされていればよろしくてよ」
美穂子「こういう性分でして、お気持ちだけ頂きます」
憧「にしても、和、テーブルの方に来ないわね?」
玄「さっきからずっと穏乃ちゃんに引っ張りまわされてるね」
咲「原村さんも相当強引だと思うんだけど……まさか上がいるとはね」
照「世の中、上には上がいるもの」
ゆみ「しかし、彼女と一緒にいるのは疲れそうだな。モモも最近は割と積極的なんだが、あそこまでではない」
憧「ん~、小学生のころはよくアレに合わせられたなって思うわね。慣れのおかげか、今でもなんだかんだでついて行けてるけど」
久「友人としてアレに合わせて行動してたら強引にもなるわよね、和の変なところの強引さも納得だわ」
優希「ん? あれ、もしかして、最初に会った時に言ってた、私に似てる奈良に居た頃の友人って……」
玄「あ、誰かに似てると思ったら、小っちゃい頃の憧ちゃんか」
憧「あー、似てる似てる。あの頃こんな髪型だったしねー」
優希「半分ずつ似てるって……見た目がこっち(憧を指差す)に似てるとしたら、あと半分は何が似てるんだじょ!?」
咲「騒がしいとこじゃないかな?」
京太郎「タコスが絡むと割と強引だぞこいつ」
久「話聞かないで行動するときの姿とか、今の高鴨さんとダブるわね」
優希「心外だじょ! 私はあんなんじゃないじょ!」
京太郎「まあまあ、大人しくタコスでも食ってろ」サシダス
優希「はむはむ」クイツク
憧「あー、なんかシズっぽいね、その反応。食べ物与えるとすぐ大人しくなるとこ」
玄「うんうん」
久「どうやら満場一致ね。諦めなさい優希」
優希「はむはむ」
憧「……食べてる間に人の話聞かないのも似てるわ」
まこ「……なんでわしらは二人でこのテーブルにおるんかのう?」
佳織「えっと……わ、わかりません!」
まこ「分からんじゃなかろ!? おんしが麻雀教えて下さいとか言って無理やり引っ張って来たんじゃろうが!!」バンッ
佳織「あっ! そうでした! 麻雀教えてください!」
まこ「おんしに教えることなんかないわい!! 一度だってわしに負けたことないじゃろうが!?」
佳織「でも、染谷さんの牌譜見るとすごく的確なタイミングで鳴いたり、一点で読んで差し込んだりしてるじゃないですか。ああいうの出来るようになりたいんです」
まこ「それはおんしのところの先輩に聞けって前にも言ったじゃろ!」
佳織「加治木先輩も、そういう技術は染谷さん独特のものだって言ってました。自分には同じことは出来ないって」
まこ「ぐっ……わしを売りおったんか……」
佳織「どうやったらあれが出来るようになるんですか?」
まこ「……そうじゃな。最低、10万局」
佳織「えっ!?」
まこ「自分で打つだけじゃなく、お客さんが打ってるのも眺めるんじゃ、むしろそれがメイン。10卓立ってるなら10卓全部の全ての局に目を通す」
佳織「……」
まこ「実家が雀荘じゃからな、一日何十という卓が立つ。半荘一回で10局弱、手伝いしとる間だけでも一日100局は見る、それを一年続けりゃ一万二万にはなる」
まこ「それを何年か繰り返して、どんな状況でどう打てばどんな結果になるか、イメージとして記憶する」
佳織「それは……」
まこ「一年二年で出来るもんじゃあない。コツを聞かれても、気付いたら出来るようになっとったとしか答えられん」
佳織「……」
まこ「おんしには真似できん。わかったら、もうわしに付きまとうのは……」
佳織「凄いです!!!」
まこ「……は?」
佳織「やっぱり染谷さんは凄い人です! じゃあじゃあ、これとかどうなりますか!?」
まこ「なんじゃこれ? ……ネト麻の牌譜、途中図か。こりゃ、北家が調子良さそうじゃのう。ほっとけばリーチが飛んで来るじゃろ」
佳織「凄い凄い!! なんで分かるんですか!?」
まこ「さっき言ったじゃろ、イメージじゃ。細かい理由はわしにもわからん」
佳織「じゃあじゃあ、これは……」
まこ「何枚持ち歩いとるんじゃおんしは!?」
【千里山宿舎】
竜華「怜、浩子、泉……みんな、姫松に連れてかれてしもうた」
セーラ「残ってるのは俺らだけ……くそっ、みんな、無事でおってくれよ」
雅枝「いや、流石に無事やろ。浩子は定期報告寄越すことになっとるし」
竜華「怜がひざまくらに飢えてると思ってたけど、怜を膝枕してないとアカンのは私の方だったみたいやな……」
セーラ「泉……浩子……怜……俺は、誰も守れんかった」
雅枝「いや、もうそれはええから。臨海の試合の録画ちゃんと見ろや。まあ、どいつもこいつも流して打っとるから気が入らんのも分からんでもないが」
セーラ「うっす」
竜華「怜をのっけとらんと落ち着かんなあ……」
雅枝「こいつは……ネタじゃなく本気やったんか」
プルルルルル ピッ
雅枝「浩子か? どんな感じや?」
『いやあ、赤坂さんの人脈、とんでもないわ。今日の今日、ほんの数時間前に声かけてこの面子とか、今から姫松に転校も視野やな』
雅枝「人脈が無くて悪かったな。で、園城寺を鍛える面子は?」
『戒能プロ、赤坂監督代行本人、もう一人はお忍びらしいから伏せるとして……まあ、文句のつけようがない豪華メンバーですわ』
雅枝「泉はどうしてる?」
『地獄見せて這い上がらせろってオーダー通り、みっちりしごかれてますよ。流石は四天王、手も足も出んって感じやな』
雅枝「四天王?」
『泉が言うてましたよ、人の試合中に下らん話をしとったって。そっちに居る火の江口に嫌味の一つも伝えといてください』
雅枝「ああ、洋榎が土になってたあれか。あのなかの誰かってことだと……まず火の江口はここにおるから除外して……いや、泉と同卓出来る時点であいつしかおらんか」
セーラ「ん? 団体戦で全国出た奴とはインハイが完全に終わるまで打てんはずやろ? その時言った四天王やと洋榎も白水も……まさか、小走が来とるんか!?」
雅枝「晩成は個人戦の代表が三人おるからな。今日で大会6日目やし、おっても不思議やない」
『以上、一回目の定期報告終わります。奈良の王者のデータ、生で観察してしゃぶりつくしたるでー!』
雅枝「おい浩子!? くそっ、切りおった。あいつに与えた役目は園城寺のサポートなんやけどな、仕方ないか」
怜「いや……赤坂さん、この面子、よく今日の今日で呼びましたね?」
郁乃「一人呼んでないお方がおるんやけど~、本来の三人目は~、今~、あっちで二条さんと打ってるほう~」
?「はややっ☆ 清澄の子達の対策ならはやりクラスが居なきゃダメでしょ☆ むしろなんで呼ばないのかわかんなーい☆」
良子「ソーリー……赤坂さんとの会話を盗み聞きしていたようで、つけられました」
はやり「いーじゃん、減るもんじゃないし☆ むしろ感謝されるとこじゃないかな☆」
郁乃「ありがたいんやけど~、ちょっと~、いきなり瑞原さんは~、きついんちゃうかって~……」
浩子「レベルが違いすぎると参考にもならんし、お手柔らかにお願いします」
はやり「指導ならお手の物っ☆ 牌のお姉さんに任せなさい☆」
泉(丸瀬さんがリーチかけとるし、ここはオリやろ。現物っと……)
打:3m
やえ「ロン。中ドラ1、2600」パタン
123888s34赤56m中中中
泉「うえっ! そっち!?」
紀子「……コンビプレー」
由華「奈良県個人代表三人相手にヌルい牌打ったら簡単にトビますよ。頑張ってくださいね、一年生」
やえ「おいそこ、なにがコンビプレーだ、ただの偶然だろうが」
紀子「……ちょっとしたおふざけ。でも、やえはさっき手出しで7索を切ってる、6ー7ー9索の三面張にも出来たはず」
やえ「どうせ聴牌に取るならこっちさ、お前がリーチすれば二条がオリて振り込むからな」
紀子「つまりコンビプレー」
やえ「いい加減にしろ。ほら、次行くぞ次」
ガラガラガラ
泉(ここまで焼き鳥な上にこの余裕……完全に遊ばれとる。うちかて千里山の一年レギュラーやのに、本当の個人上位クラスとはここまで差があるんか?)
日菜「その卓には江口さんが三人居ると思ってもらいたいな」
上田「想像しにくかったら、江口と園城寺と清水谷でもいいぞ」
泉「……大した自信ですね。北大阪のトップ3ですよ、それ」
やえ「ここに居るのは名目上の奈良の個人トップ3でな、少なくとも私個人はあいつらに劣っているつもりはない」
やえ「むしろ、生意気な一年を焼き鳥にしろという話なら、あの三人が束になるより私一人の方が優れているだろうな」
紀子「やえ、一回和了るまで発言禁止にしよう。この一年は口ばかり達者」
由華「それ、下手すると帰るまで一言もしゃべれませんよ? かわいそうです」
紀子「と言いつつ一切手を抜かない見せかけの優しさ」
由華「うぐっ……じ、自力で和了れるようになるまで手を抜かないのが真の優しさなんです!」
やえ「まあ、発言を禁止する気はない。ただし、『叩いて伸ばす方針だから徹底的にへこませてくれ』と言われているからな、和了らせてやるつもりはないぞ」
泉(言いたい放題言いおって……しかし、歯が立たんのも事実や。一体、何が違うんや? うちとこの人らで、何が……)
浩子(実際この人らは強い……特に小走さんは千里山におっても確実にエース格や。その小走さんが、打ち方を良く知る二人を手足として使って場を完全に制圧しとる)
浩子(冗談抜きで、この卓で和了る難易度は園城寺先輩たちに囲まれて打つより高いやろな。そもそも、狙いが泉を沈めることやから、三人とも他の二人をいくらでもサポート出来る)
浩子(あの三人の打ち方をデータで把握しとるうちなら運次第でどうにかなるが、今の泉にはどうしても厳しい。けど、次の相手はアジア大会銀メダリストのハオやからな)
浩子(清澄の次鋒も、今日のあれは実力やろ。個人の県代表クラスはゆうにある。力ずくでも策をこらしてもええから、ここでなんとか勝負できるようにならんと次以降の相手には勝てん)
浩子(一年の泉なら伸び白も大きい。強い相手に不利な状況をどうにか出来る『何か』を掴めればって話で園城寺先輩のついでに特訓につき合わせたけど……叩かれ過ぎる懸念もある)
浩子(さっきの切り方で掛け直して来んっちゅうことは、泉についとれってことや。泉が再起不能にならんように見張らんといかんな)
怜「ツモ、1000、2000」
はやり「いい感じだよ☆」
郁乃「……どうなるかと思ったけど~、普通に指導してくれるんやな~」
はやり「あははっ、どういう意味かな~☆」
良子「ヤングな芽を潰しに来たと思われたんでしょ」
はやり「そんな勿体ないことしないよっ☆」
怜「勿体ない、ですか?」
はやり「こんなに面白そうなインハイなんだから、麻雀界全体のためにも盛り上げないとね☆」
怜「……ま、理由は何でもええわ、強くなれるならそれでええ。瑞原はやりの特別コーチなんか、これを逃したら一生受ける機会ないやろうしな」
郁乃「基本の牌効率は~、身についとるみたい~」
怜「次のツモが見えるから変な打ち方してた部分はありますけど、ベースはデジタルなんで」
洋榎「恭子の見立ては?」
恭子「次の一手テストの結果を見ると漫ちゃんぐらい、千里山ならいいとこ二軍レベルやな。三軍レベルって話やったけど、それよりかは成長しとるみたいや」
はやり「デジタルなんて大して重要じゃないけどね、あなたみたいな子は」
郁乃(普通にしゃべった……)
洋榎(普通にしゃべった……)
恭子(普通にしゃべった……)
怜「瑞原プロが普通に……じゃなくて、デジタルが要らんってどういうことですか?」
はやり「……あれ? そこ説明いるとこ?」
怜「あ、はい。出来ればお願いします」
はやり「えっと、清水谷さんの大将戦は見てたよね?」
怜「はい」
はやり「前半の東一局と、東四局、見てたよね?」
怜「はい……あ、そっか」
はやり「そういうこと。あなたみたいな子には、デジタルは重要じゃない。もちろん、あれが自在に使えるって前提だけどね」
洋榎「えっと、どういうことや恭子?」
恭子「……清水谷は、あのデジタルも牌効率もクソもないデタラメな打牌で、普通にデジタルで打ったら到底辿りつけん高目を最短でツモったやろ?」
洋榎「そうやったな」
恭子「あれを使う気なら、デジタルなんてのは打牌を鈍らせ、手を止めさせるだけのゴミや。捨ててしまった方がええ」
洋榎「あー、確かに、常識で考えたらあの手順は踏めんな。足かせになる常識なんか要らん、つまりデジタルが要らんと、そういうことか」
はやり「捨ててしまえとまでは言わないけど、あなたみたいな特殊な子はただのデジタルじゃその力を引き出せない。別の理論が必要になる」
怜「別の理論、ですか?」
はやり「そ、あなたが従うべきあなたの理論。あなたの打牌の基礎になる理論」
怜「えっと……」
はやり「まあ、園城寺さんはツモる牌が偏るわけじゃないから、基本はデジタルで良いんだけどね。一つ上のステージに行きたいなら、何か自分だけの理論を持つべきだよ」
怜「自分だけの、理論?」
はやり「デジタルでも多かれ少なかれ誰もが持ってるものだけどね。牌効率重視だったり、打点重視だったり、守備重視だったり」
怜「ああ、セーラの火力重視みたいなもんですか」
恭子「面前派、鳴き主体、出和了り重視、ドラ重視、翻牌信者とかもおるな」
洋榎「翻牌信者?」
恭子「翻牌鳴けば何でも出来る。暗刻やったら無敵。翻牌の刻子が出来たら全鳴き全ツッパする翻牌様のしもべ達や」
洋榎「それただの初心者やろ!?」
恭子「他には、逆の進化の道を辿ったタンヤオ信者とか……彼らは公九牌への憎悪に染まったタンヤオの使徒や」
郁乃「役なしの洗礼を受けて~、どっちかの教義に染まるんやな~」
恭子「タンヤオ教でも翻牌だけは許されるみたいな教えの流派もあるで。あとはトイトイ教徒とか、異端の七対教もあるな」
洋榎「だから、そいつらただの初心者やろ!?」
恭子「冗談はさておき、デジタルの中でもそれだけ幅がある。特殊なオカルトを持ってれば更に広がる」
はやり「私は牌効率……ってわけでもないんだけど、速度、つまり和了率重視のスタイルだよ」
怜「私は……なんやろ?」
洋榎「うちはトップ取るためになんでもするけど、セーラなら打点重視、清水谷なら順位無視でその局の期待値、小走はなんやようわからんけど奴なりのなんかがあるらしい」
はやり「強い打ち手は自分の中にしっかりした基準がある。だから、同じ状況なら何回やっても同じ打牌をする」
怜「……私は押し引きもふわふわしとるし、同じ数字で萬子と筒子が変わっただけでも切る牌が変わったりするわ」
はやり「ま、二軍でも下位ならそんなもんでしょ。あなたはデジタルより直感で打つタイプだろうし」
郁乃「んで~、結論としては~、怜ちゃんに~、しっかりした方針と~、打牌の基準を~、作らせるんやな~?」
良子「ザッツライト。能力の進化は、それに対応した形で訪れると思われます」
怜「対応した形?」
はやり「速度重視なら、その時点での自分の有効牌が光って視える。火力重視なら実現可能な最高形が視える。守備重視だったら相手の和了り牌とか鳴ける牌が光って視える、とかだね」
浩子「えらく具体的ですね?」
はやり「……そういうの、知り合いに居るから。同じ系統って発想はなかったけどね」
浩子「これだからプロは……園城寺先輩の進化形が既におるんかい」
はやり「ただ、素で打って私の知り合いのその辺の人より清水谷さんが強いかって言われると疑問だから、実力に応じて強い能力になるっていう船久保さんの仮説には修正を求めたいところだけどね」
良子「しかし、船久保さんの話を聞く限りでは、園城寺さんの力を利用した清水谷さんが園城寺さんと違う力を使ったのは事実」
郁乃「少なくとも~、同じ『未来を視る』力で~、使う人間次第で効果が変わるってことは~、間違いない~」
はやり「で、『園城寺さんの力を使って』別の力になったっていうのがポイント。園城寺さんの力は、他の力に変わりうるってことだからね」
良子「なら、清水谷さんの使った能力から考えて、先ほどはやりさんが挙げたような能力には変すると考えられるです」
怜「……ちなみに、その能力持った人らは誰か、聞いてもいいですか?」
はやり「一般には知られてないことだからどれが誰かは伏せるけど、全員が日本代表になったこともあるトッププロだよ」
恭子「……瑞原プロ、有効牌が光って見えるんですか?」
はやり「はややっ!? な、なんのことかな!?」ギクッ
郁乃「三尋木さん、最高形視えとるんか……道理で怒涛の高火力とか言っとる割に倍満狙えそうな手で満貫で満足してたりするわけや」
はやり「はややっ!? う、咏ちゃんだとは一言も……ちなみに、手順は分からないらしいから、あれで視えた通りの最高形作るのって結構すごいんだよ?」
怜「守備重視はわからんな。誰やろ?」
はやり「それは置いといて、園城寺さんは日本代表クラスの能力を発現するかもしれない貴重な原石なわけ。だからはやりがわざわざ来てるの。分かった?」
怜「それは分かりましたけど、守備重視の人誰ですか?」
恭子「守備言うたら大沼プロやろか? あの人、鳴きとかも封じてる節があるし」
郁乃「ああ~、男子か~、盲点やな~」
はやり「で、園城寺さんはどんな選手になりたいのかな? はやりのおすすめはスピード重視だよ。もう実績からして最強間違いなし」
怜「どんな、か……選べるんですか?」
はやり「それはあなた次第。なりたいものになれるわけじゃないし、そもそも進化できる保証もない。他人が使った時に能力が変わるだけって可能性もある」
郁乃「でも~、変わるとしたら~、漫然と今のまま打ってても変わるとは思えんから~、なんか方針決めんとアカンよ~」
怜「……すぐには思いつきません、ちょっと考えさせて下さい」
はやり「うん、はやりはいつまでも待つ気だよっ☆ インハイが終わったって園城寺さんの世話は焼いてあげる☆」
恭子「ま、それやと私らは骨折り損やけどな。大阪代表に勝ってもらわんと話にならんし」
洋榎「今のままでも清水谷が強うなったから二位までは狙えるんちゃうか? 別に責めたりはせんで、うちらは負けたわけやしな」
やえ「瑞原プロの口調が戻ったな。そっちの話は済んだか?」
はやり「大体済んだよ☆」
怜「小走さん……泉は?」
やえ「流石にやりすぎた、頭を冷やさせている」
紀子「まさか本当に5半荘の間ずっと焼き鳥にするとは思わなかった。最後は飛ばしたし」
由華「えっと……ごめんなさい」
やえ「お前らを使ってあの卓を支配していたのは私だ。責任は私にある」
紀子「それはそれで納得いかない」
由華「と言っても事実ですし」
日菜「二条さんには、今、船久保さんがついてます」
恭子「容赦ないですね。一年相手に」
やえ「徹底的に叩けとの依頼だったからな。とはいえ流石にやりすぎたかもしれん」
洋榎「相変わらず格下には容赦ないなお前」
やえ「人聞きの悪いことを言うな、格上には勝てないだけだ。私は誰が相手でも平等に全力で応対している」
怜「……あの、小走さん、支配ってどういうことですか? 小走さんは妙な能力は持ってないって聞いてますけど」
やえ「ん? ああ、説明が必要か。そうだな、どこから説明したものか……」
紀子「そういう話なら私たちにお任せ」
由華「先輩の話なら日が暮れるまででも語れますよ」
やえ「お前らは誇張が激しいから却下だ。あと、日はとっくに暮れている」
紀子「誇張などしていない、全て事実」
由華「ですです」
やえ「お前らはほっとくと私を荒川あたりと同格まで持ち上げるだろ。まったく……」
恭子「小走さんの支配やけど、まず、小走さんは対戦相手の打ち方をほぼ完璧に分析します。それも短時間で」
やえ「おいこら末原……まあいいか、自分で言うのも恥ずかしいし、こいつらは論外だし。適任が他にいない」
怜「分析か……難しいけど、それなら努力次第で出来るようにはなりそうやな。ほぼ完璧に、しかも短時間ってのはアレやけど」
恭子「その上で、相手の得意な形にさせないように全体をコントロールします」
怜「いきなり無理難題に飛んだ!?」
やえ「いや、そこまで無理な話でもない。鳴きが得意なら鳴けないように絞る、面前で手を進めたいなら鳴きを多発させるように切る。自分の手を崩してでもな」
怜「それはそれで鳴きたいところとか読み切れんとダメそうやけど……」
やえ「それすら出来ずに、凡人が愛宕や江口みたいな化け物と渡り合えるものか。運がないなら技術で補うしかない。そして私には運がない」
恭子「同感です、他人の力でもなんでも使えるものは全部使う。そうしないと話になりません」
やえ「そうやってリズムを崩せば隙が出来る。そこを突く」
怜「隙を突く……フナQとかはそれが得意やな」
やえ「ま、私は末原と船久保を足して二で割らない程度の打ち手と考えてくれればいい。あ、運は三で割っていいぞ」
恭子「大体合ってますね。ただ、実績から小走さん自身も化け物にカウントされるから、私みたいに簡単に三対一を作れないのが難点ですか」
紀子「関係ない。本人が警戒しているつもりでも、気付いたらやえの策にハマっている」
やえ「そういうのも出来なくはないが、本人に気付かれんように誘導しなきゃならんから効果は薄いし、なにより面倒だ。警戒されないならその方が楽だな」
恭子「ま、そんな感じで気づいたら小走さんに有利になるように卓上の四人全員が動いてる。それが小走さんが支配する卓や」
怜「卓を、支配する……」
やえ「運もない、強い想いで結ばれた相手もいない、生まれ持った特異もない、そんな凡人が辿り着いた、化け物どもの中で生き残る術だな」
恭子「卓を支配して有利になっても、化け物ども相手やと、もともとの運が違いすぎて五分なんですよね……単純やから勝ててますけど」チラッ
やえ「その通りだ。まったく、あの化け物どもは……単純な馬鹿はまだ楽だが、それでも私は負け越しているしな」チラッ
洋榎「こっち見て言うなや! なんやねん二人して人を化け物扱いして!! もっとおかしいのが今日の相手におったやろ!! それに麻雀ではそんな単純な打ち方しとらんし」
やえ「こっちの工夫とお前の工夫を同列に語るな! 結局最後は運でゴリ押ししてくるだろうがお前は!!」
恭子「ホントにな、こっちは一点で読んで脇をサポートしたりアタリ牌止めたりしとんのに、ラスト一枚をあっさりツモられた時のあの脱力感と来たら……」
怜「運のない凡人が辿り着いた先……私みたいな凡人が、セーラや竜華と渡り合う術……」
はやり「どうやら、園城寺さんは一番キツいルートがお好みらしいねっ☆ いいんじゃないかな?☆」
やえ「……ああ、そうか。例の話の後にペラペラと話すものじゃなかったな。茨の道に引き込んでしまったか」
怜「……私にも、出来るやろか?」
やえ「……お前が天才だとしても五年はかかる。私が何歳から麻雀を打って身に着けた技術だと思ってるんだ。末原や船久保ですら真似できん技術だぞ?」
怜「けど、努力と練習で身につくんですよね?」
やえ「本気か。しかも、清水谷から聞いた話だと、お前、意地っ張りで頑固者で実は負けず嫌いだろ?」
怜「よくわかっておられるようでなによりです」
恭子「ま、凡人の行きつく先はそっちしかないしな。非凡な能力を持っとる奴がわざわざ選ぶ道でもないとは思うが」
はやり「そうでもないよっ☆ 最高形を視る力があっても咏ちゃんみたいな豪運がなければ5200や満貫あたりをちまちま作るのが精いっぱい。てゆうか、見えた最高形にたどり着けない☆」
恭子「……清水谷なんかは最高形への手順まで見えても宮永相手にはダメだったみたいやしな」
はやり「有効牌が見えても、聴牌した時に全部相手が持ってるのが視えて絶望するのが関の山☆ あ、ちなみに有効牌なら山だけじゃなくて相手が持ってるのも光って見えるよ☆」
恭子「相手の手恰好とかもなんとなく見えて守備とかサポートにも使えるわけですね。流石、自信を持って勧める能力なだけはあります」
郁乃「守備重視も~、漫然と打ったらいつの間にか手牌全部アタリみたいな地獄が見えてまうだけかもしれん~」
怜「……そうや。結局、そっちに行くしかないんや。最高形が視えてもセーラみたいにはなれん。和了りへの手順が視えても竜華に敵わん。私はあの二人と同じ道じゃどうやっても二人に並ばれへん」
やえ「やれやれ、言っとくが、冗談抜きで一朝一夕に身につく技術じゃないからな?」
紀子「そこしか行くべき道がないのに、たどり着けるものはごくわずか。茨の道」
恭子「半端に出来るだけでも、姫松や千里山のレギュラー。上手く使いこなせば才能あふれる千里山の一年レギュラー相手でもご覧のとおり」
やえ「ま、同志が増えるのは歓迎するよ。ようこそ地獄の一丁目、持たざるものの墓場へ。歓迎するぞ、園城寺怜」
怜「……よろしくお願いします」
泉「うっぐ……ひっく……」
浩子「あー……まあ、あれや。あの三人は相手が悪い。千里山でもあの包囲網を力ずくで破れるのは清水谷先輩と江口先輩だけや。関西全体でもあとは洋榎ぐらいやで」
泉「そんなんっ!! なんの言い訳にもならんですよ!! ……だって、うちは……うちは……千里山の歴史でも数少ない一年レギュラーで……」
浩子「……ま、半端に持ってる側やからそうなるか。そこそこの強運と下手くそなデジタルでここまで来れてもうたからな」
泉「……へ?」グスッ
浩子「泉、はっきり言うで、お前のデジタルは穴だらけや。牌効率でも期待値でもちょくちょくミスっとる、押し引きの基準もブレブレや」
泉「そ、そんなん、このへこんでる時に言わんでも……」グスッ
浩子「ミスっても、お前は中途半端に強運やから結果オーライでほとんどのミスをごまかしてきた。うちならやった時点で負けるようなミスでも誤魔化して勝ってきた」
泉「ううっ……」ウルウル
浩子「ただ、強運や言うても江口先輩や原村和ほどやない。ミスだらけのデジタルをフォローするだけの中途半端な強運や」
泉「……何ですかそれ、うち、なんも取り柄無いやないですか」ポロポロ
浩子「ああ、なんもない。強いて言えば下手くそなデジタルと中途半端な強運だけや。それが通じん相手にぶち当たった。それだけや」
泉「……そんな……そんなん言われても、うち、どうすれば……」グスン
浩子「知るか。普通に考えたらその下手くそなデジタルを鍛え直すか、やけくそで強運頼みの素人みたいな打ち方覚えるかやろ。そんなんであの人らに通じるとも思えんが」
泉「……ひっく、うえっ……ぐすっ」
浩子「……そろそろ、お前なりの道を見つける頃合いや」
泉「うちなりの……道?」グスッ
浩子「泉、お前は自分で何が得意やと思う? もちろん麻雀の話やで? 料理とか言ったら張っ倒す」
泉「デジタル……の範囲内で、状況に合わせて押し引きを判断して柔軟に打ちまわすのが、得意やと思ってます」
浩子「……そうか。またえらくしんどい道が好きやなお前も」
泉「けど、あの人らには、何やっても通じんかったし……」
浩子「それは引き出しが足りんのや。相手に合わせて色々変えなアカンのに、お前の引き出しには押す、引く、様子見のせいぜい三通りの変化しかない。そんなもんが小走さんに通じるわけないやろ」
泉「そ、そんなん言うたって……」ジワッ
浩子「……ったく、手のかかるガキやでホンマに。一番めんどいルートやないか! 『ミスのないデジタル』とか『ここ一番の引きの強さ』とか言わんかいボケェ!!!」ガー
泉「さっきそれ自分で否定しましたよね!? 穴だらけのデジタルだの中途半端な強運だの!?」
浩子「それでも『自分ではノーミスやと思ってます』とか、『めくりあいで江口先輩に勝ったことあるんで』とか言えんのか!?」
泉「そら多少の自信はありますけど、県予選抜けられんかった人たちにボッコボコにされた後でそんなん言えるほどメンタル強くないですよ……」
浩子「はあ……とりあえず新道寺の安河内さんのデータやな。まあ、あの人でも清澄には通じんかったからもっと広い幅で変化つけんと話にならんやろうけど」
泉「先輩……何言って……?」
浩子「てゆうかな、さっきお前が打った相手、それをとことん極めた果てにおるお方やで。いくら強運に物言わせたところで、今のお前が勝てる相手やない」
泉「あ、えっと……?」
浩子「持ってる側のくせに持たざる者の道を進むとか、かっこええやないか。ま、うちらは商売上がったりやけどな」
ごめんフナQ、よく見たら分身してた……
はやりんと話してるとこに出てきたフナQは末原さんあたりで補完してください。
次回は多分火曜日になります。次からはちゃんと予告通りに投下か、せめて予定変更の告知ができるよう努めます。
本当にすいませんでした。
すみませんでした。
GWに思いつきで行動する生き物たちが空路経由(当方にアポなし)で突っ込んできたもので……空路経由を無下にもできず、予定表が変わり果てた姿になりました。
やえ「……で、なんだこの卓は?」
はやり「はややっ☆ 手加減しなくて良さそうな面子だね☆」
やえ「高校生相手にプロが本気を出さないでもらいたいものだが」
良子「小走さんならノープロブレム。私も全力でやらせてもらいます」
やえ「問題大有りだぞ!? そもそもなんだこの卓は?」
郁乃「二人の足~、引っ張らんようにせんとな~」
やえ「そっちの二人の足なら全力で引っ張ってもらわんと困るんだが……いい加減誰か説明しろ、なんだこれは?」
浩子「いえ、お手本を見せていただこうかと」
怜「習うより慣れろってのは持ってるもんのセリフやと思うんです、やっぱりうちら凡人は学ぶのが基本ですわ」
泉「らしいです。勉強させてもらいます」
恭子「この役が務まるのは小走さんしかおらんので」
洋榎「いや~、きつそうな面子やな~」
やえ「お前ら……覚えておけよ、個人の代表じゃない奴はこれが終わった後、代表にはインハイが終わった後……いや、大会中にでも一人ずつ地獄を見せてやるからな」
怜「さっき地獄の一丁目に招待されたばっかなんで、望むところですわ」
やえ「……気が進まんが、やらんわけにもいかなそうだ。しかし、いくらなんでもトップを取れとは言わんだろう? それをお望みなら三尋木咏か小鍛治健夜、野依理沙あたりに頼め」
はやり「はやりはその三人相手でもトップ取らせる気はないよっ☆」
良子「ウェイト……そうだね、このメンバーなら半荘一回打ち切れれば上出来」
郁乃「三人は~、それぞれトップを目指して普通に打つ~、小走さんは~、なんとか生き延びて~」
やえ「……全員がトップを目指す条件で、この席順。半荘一回、連荘を考慮して10局程度か」
はやり「あれれ?☆ もしかして10局で済むと思ってるのかな?☆ はやりってば舐められてるっ☆」
郁乃「瑞原さーん? 何本積めるつもりでおるんですか~? うちらはトップ目指して普通に打つって言いましたよ~?」
良子「ノー、はやりさんはよくわかってるんじゃないですかね。私も二本場や三本場で済ますつもりはないんで」
はやり「あ? 調子乗んなよガキが、誰相手に何本積むって?」ピキッ
やえ(さて、本当に10局ですまない可能性も高いな。揃いも揃って過度な期待をしてくれる)
やえ(こいつら相手、並の打ち手どころか、プロでも下位なら東場で飛ぶだろう、まして私は小細工が得意なだけの雑兵だぞ?)
恭子(どうにもならん化け物三人相手……小走さんならどう立ち回るやろか?)
恭子(ほっとけば頭一つ抜けた奴が和了り続ける、それに条件付きで単独で対抗できるのが一人と、そいつらには劣るものの少なくとも自分ではどうしようもないのが一人)
恭子(私の打った大将戦と同じかそれよりキツいかもしれん状況。それでも、小走さんならなんとかできるんやないか?)
やえ(……そんな熱いまなざし向けられても困るな。一番過度な期待をしてるのがお前だとは思わなかったぞ、末原)
東一局 親:はやり
やえ(……化け物どもの格付けは既に済んでいる。瑞原プロが最も危険、条件次第で戒能プロ、赤坂監督代行はこいつら相手だと明確に一段落ちる)
やえ(となると、ここは赤坂代行をサポートして瑞原プロの親を流すところだな)
良子(さて、啖呵は切ったものの、はやりさんに真正面から挑むのは流石に分が悪い。ここは手ごろな赤坂さんを使って二人で協力して流さないと)
やえ(おそらく、この段階では戒能プロも赤坂代行を使って親を流そうとするはずだ)
郁乃(ん~、まあ、ぶっちゃけまともにやってうちが勝つのはほぼ無理~。けど~、あの二人がお互いへの牽制としてうちを駒として使うはずなんよ~)
郁乃(それを上手く利用すれば~、一時的にトップにしてもらえる~。そこまで確定やろ~、そっから~、どうやって出し抜くかが~、いくのんの腕のみせどころ~)
やえ(……赤坂代行の思惑はそんなところだろう、起家が瑞原プロということもあって、ここは分かりやすく三人の利害が一致する)
はやり(とか思ってるんだろうけどさ、はやりとしては当然、三人がかりだろうとぶっちぎっちゃうつもり満々なわけ☆)
はやり(そもそも、はやりの速攻はニワカ仕込みの連携プレーで止まるようなヌルいスピードじゃないんだって教えてあげないとね☆)
郁乃「ツモ、500・1000」
23456p北北 ポン:発発発 チー:4赤56s ツモ:1p
はやり「……はやっ?」
やえ「とりあえず、一局凌いだな」
良子(グレイト、お見事です)
郁乃(戒能ちゃん、鳴けるとこ切ってくれんと困るで~? 小走さんが切ってくれたからええけど~)
良子(いやあ、そういうの苦手でして)
はやり「……ふーん、なるほど、ニワカ仕込みの連携じゃないってか。プロやトップアマの牌譜も研究してるんだ?」
やえ「有名どころの牌譜ぐらいは、たしなみとして」
はやり「たしなみでこのレベルとか☆ プロでも初見でここまで合わせられるほど研究してる人は滅多にいないよ☆」
恭子(……東一局でもう状況を見切った。この対応の速さ、普段の研究量が桁違いなのが生きとる)
恭子(敵わんなあ……これ、阿知賀はホンマに一回戦で当たれたことを感謝した方がええで? 半荘一回分の牌譜があったら、戦う前に研究され尽くしとるはずや)
恭子(例えば、あの良くわからん哩姫のコンボの分析も、この人はミドル時代に既に済ました。それが漏れて私らも対策が出来とる)
恭子(奴らと打った後のインタビューで、小走さんがうっかり『白水の和了りと鶴田の和了りが倍の翻数でリンクしとる』って事実を話してしもうたから一気に研究が進んだんや)
恭子(出所が小走やえなら間違っとるはずがないからな。それを手掛かりに名門強豪が総がかりで奴らのコンボの研究を始めた)
恭子(今でも白水には顔合わせにくいみたいやけどな、小走さん。しかし、中学生二年生が大人の記者にあの手この手で誘導されてうっかり話してもうたのは仕方ないと思うで)
恭子(ちゅうか、聞き出したにしても伏せるべきやろ。将来ある中学生の能力をそこそこの部数がある雑誌にほいほい載せた馬鹿記者が非難されるべきや)
恭子(まあ、経過はどうあれ出た情報は利用する。名門や強豪がその発言をヒントに情報交換なんかもしながら一年以上かけて研究して辿り着いた結論、それでも不確定要素はごまんとある)
恭子(なのに、この人は、たった一人で、ノーヒントで、鶴田の登場から半年もしない間に、四年以上経っても未だにどこも辿りついてないであろうほぼ正確な結論に辿りついて、哩姫を退けた)
恭子(研究の質と量が、ホンマに桁違いなんや。それで普通の学業も偏差値70オーバー、頭の出来がそもそも違うんやろな)
恭子(……改めて考えるとやっぱすごいなあ)
やえ(おい、その熱いまなざしで見るのをやめろ。お前が私の信奉者というのは初耳だぞ? それに、私なんかよりよっぽど華のある奴が隣に居るだろうが)
やえ(……とはいえ、今の私の状況は今日こいつが置かれた状況と重なる。こいつも見たいんだろうな、自分が進むべき道……いや、進むべきだった道か)
やえ(仕方ないな。期待に応えることが出来るかは甚だ怪しいが……お見せしよう、王者の打ち筋を)
東二局 親:やえ
やえ(引き続き警戒対象は瑞原はやり。親でないぶんだけ危険度が下がったものの、それでも先ほどと状況は変わらない)
郁乃(つまり~、うちが和了らせてもらえるってわけや~)
良子(ただし、欲張ればはやりさんに追い抜かれますよ?)
郁乃(わかっとる~、今はちょっとでも点棒もらって~、出し抜くのは終盤~。一か八かの賭けに出るにはまだ早すぎる~)
はやり(ん~……さっきの感じだと勢力は四:六ってとこかな? 三回やれば一回は強引に和了れると思う)
はやり(で、私はこの中じゃ最強だから誰も私のサポートはしない。つまり、自力で強引に行くしかないってことだね。ま、それはいつものことか)
はやり(自分が格上ってのは慣れてるけどさ、たまには同レベルの相手と結果の見えないめくり合いとかもしたい)
はやり(……けど、同レベルの相手と真っ向勝負っていうの、私クラスだとなかなか出来ないんだよね)
はやり(私と同レベルってなると世界中探してもほとんど全員が顔見知りだから、どっちに転ぶか見当もつかない相手……初見の相手を探すのはもう絶望的)
はやり(だから、あの年の準決勝は本当に楽しかったな……初見で同格の人間三人が相手とか、生まれて初めてだったかも)
はやり(やっぱり、インハイだけは特別に感じちゃうな。目いっぱい楽しみなよ、若者たち。今年みたいに無名の猛者がワラワラ出てくるのは十年に一度ぐらいしかないから)
はやり(って、はやりも十分若いんだけどねっ☆)
はやり「ツモ☆ 700・1300☆」
123s4赤567p678m西西西 ツモ:4p
郁乃(ちょっと~、小走さん~? 差し込んでくれんと困る~)
やえ(2000に差し込むぐらいなら1300で親かぶりした方がマシだ。赤坂代行を走らせて私にメリットがあるわけでもない)
良子(はやりさんの手が安いとみて、親でなければ和了らせても構わないと踏んだ。彼女の目的は半荘一回耐え凌ぐこと、おそらくこれが最善の選択)
やえ(名目上の局数の八分の二を消化、23200点残してここまで来れたか。まずは上出来だな)
良子(二局使って仕込みは上々、さて、誰を呼びましょうか?)ゴゴゴゴゴ
はやり「」ゾクッ
郁乃「」ビクッ
やえ(……二人の反応を見るに、警戒対象が変わるな。さて、予定通り行くか)
良子「では、私の親番ですね」
東三局 親:良子
良子(二局の仕込みでソロモン王は呼べない。さて、この三人相手……どうしたものか)
はやり(相変わらず、へんなもん降ろすねこの子は……イタコの血筋だっけ?)
郁乃(ほら~、ここで瑞原さんに差し込まなアカンのやから~、さっきうちに走らせとかんとダメやろ~?)
やえ(……ここでは戒能プロを警戒して瑞原プロをサポートするのがセオリー)
恭子(それが当然の判断や。戒能プロの親番の火力は新道寺のコンボに相当する、これは卓上の三人が協力して止めるしかない)
はやり(人に手伝ってもらって和了るのも癪なんだけどね。可能なら真っ向勝負でぶち抜きたいな、こういうのは)
やえ「……」
打:7s
良子「……チー」
チー:789s 打:8s
郁乃「なっ!?」
はやり(……この子そういうことするんだ? てことは、その手牌の中で光ってるの、あたしの和了り牌を止めてるってことだよね?)
恭子(……なんや? 小走さんがこの巡目で止めたい相手の手を読めずにうっかり鳴かせた? そんなことあるんか?)
やえ(……末原、教えてやる。目先の損得だけでは、この状況は切り抜けられん。もちろん、トバずに生き残ることぐらいは出来るだろうがな)
やえ(しかし、貴様が見たいものは違うだろう? お前が見たいのは、私がこいつら相手に勝つ道、姫松が準決に進んでいた可能性だ)
やえ(ま、分の悪い賭けだがな。やらんと四位確定。三位の可能性すらない……どうせ、負けても私にリスクはない。なら、賭けてみようじゃないか)
郁乃(あ~、そっか~、トンだ場合の罰ゲーム~、用意しとらんかったな~。やりたい放題出来てしまうんか~)
良子(グッド、あなたは飛びを回避するだけでは満足しない、偏った状況を作るためにそうするはずだと信じてたよ。もし予想が外れて三対一なら確実に流されてたね)
やえ(二局使って仕込みをした場合の戒能良子の和了りは三通り。ほぼ確実に和了る三翻、よほどのことがなければ和了る満貫、普通に打つのと和了率の変わらない倍満だ)
やえ(明らかな索子染めだが、役牌暗刻の満貫が本線。三翻ならさっきの私の7索を鳴くことはないだろう)
良子「ツモ」パタン
112233赤5789s チー:789s ツモ:5s ドラ:7s
やえ(……っ、私がそちらにつくと踏んで援護頼みで倍満を仕込んだか……食えない人だ、これは厳しいか?)
良子「清一色ドラ3。8000オール」
はやり(……満貫の方だと思って、速度で出し抜くために小走さんの手にある牌で待ったのが裏目に出たね。普通に打ってりゃ倍満は余裕で潰せたのに)
郁乃(あ、あれれ~、これ~、うちの一位って~、既に絶望的やないの~? 流してくれんと困るのに~)クスン
恭子(分からん、何を考えとるんや小走さんは? 今の8000オールで残りは15200、親の和了りで局数も消化出来とらん。状況が悪くなっただけと違うんか?)
洋榎「……ようやるわ、あいつ、飛ばずに終わるだけじゃ満足できんで上狙うつもりや」
恭子「へ?」
洋榎「恭子仕込みの『負ける』思考。要するに、卓上でそいつに働くマイナスの要素を数えるってことやろ?」
恭子「……大雑把に言うとそうやな。そして、洋榎は大雑把にしか理解できんからそれで説明終わりやな」
洋榎「三人から警戒されるぶっちぎりのトップと、そのトップが居ても全員に警戒される怪物、そいつら二人に動かれたら簡単に止められてまう代行。対して完全フリーの小走」
恭子「いや、普通に考えて小走さんが飛ぶやろ。流石に相手が悪い。実力差っちゅうマイナスが大きすぎる」
洋榎「でも、小走やで?」
恭子「……そもそも、飛ばずに生き延びるってテーマで二位を狙う意味がないやろ。何のためや?」
洋榎「いや、別にそれ達成してなんか出るわけでもなし、出来んでもなにかやらされるわけでもなし。だったら力試しで上狙うやろ? あんな面子で打つ機会、そうそうないで?」
恭子「あ、そっか、漫ちゃんの特訓と違ってなんもペナルティないんやな。確かに小走さんがあの巡目でミスで鳴かせるはずがない。なら、もしかすると……」
やえ「……」タン
はやり「ポン☆」
良子(はやりさんへの援護? 二位狙いなら、トップの私を援護してはやりさんを削らなきゃいけないはずじゃ? まさかトップ狙い? それにしても理解不能ですけど)
はやり(……ん~? ちょっとわかんないな。とりあえず和了って不利になることはないから援護はありがたく受け取るけど)
郁乃(ちょっとちょっと~、なにやっとるん~? 二位をサポートしたら~、自分の首~、絞めるだけやないん~?)
良子(……はやりさんと小走さんが手を組んでるなら、それを相手に真っ向勝負をしたくもない、オリ一択です)
やえ「……」
はやり「ツモ☆ 1100・2100☆」
怜「バランスとらせて上三人が平たい状況を作ってしもうて、そのまま自分だけが沈んで行ったら四位にしかならん。戒能プロの切り札を援護して偏った状況を作ったのはわかるで?」
泉「せやけど、あれ、どうするんですか? ほっといたら瑞原プロがガンガン稼いで二位を盤石にしてまうやないですか? むしろ援護してるふうですし」
浩子「わからんな。あの人にはっきり見えてるもんでも、うちレベルやと遠くの米粒ぐらいにしか見えん」
怜「フナQにさっぱり分からんもんが視えるって、あのひとも大概やな」
浩子「伊達に化けもんぞろいの今の三年の代で上位に居るわけやないですよ。あの人は、運さえあればプロでもトップクラスにおるはずの人です」
洋榎「むしろ、あいつ、運は悪いほうやな。去年の個人戦とか、多分あいつにとって考え得る限り最低最悪の組み合わせを引いとったで」
紀子「本人も、『いくらなんでもアレはないだろう、前世の私は何をやって現世でこんな業を背負ったんだ?』と愚痴っていた。愛宕の見立ては正しい」
由華「あの初見殺しの能力者集団に完全初見の一回戦で当ったのも、間違いなく先輩のハードラックのせいですよね。七代前の先祖が神殺しでもしたんじゃないですか?」
良子「あの先鋒の初見殺しっぷりは特に酷いからな。七代経って薄まった呪いじゃねえ、多分親か祖父あたりが何かやらかしてる」
日菜「今だって事情も説明されずにあの卓に放り込まれてるしね。もうここまで来ると、本人が子供の頃にご神体に悪戯でもしたんじゃないかと思うよ」
浩子「みんなして言いたい放題やな。まあ、あの人のくじ運が絶望的に悪いのは事実やけど」
紀子「だから団体戦の抽選だけは私に任せるべきだと言ったのに……やえを部長にしたのが今年最大の失敗だった」
南一局 5本場 親:はやり ドラ:6p
はやり 53500
良子 35600
やえ 4000
郁乃 6600
怜「なあ、フナQ?」
浩子「何でしょう?」
怜「こっからどうやって二位以上になるんや? まず二位と31600差って時点で相手が並以下の打ち手だとしても無理やん?」
浩子「黙って見てて下さい。小走さんの考えることはうちにはさっぱりです」
泉「いつもみたいに『おそらくやけど……』とかもなしですか?」
浩子「なしや。ホンマにわからん」
洋榎「恭子ならあるいは……」
恭子「アホ、あの人の考えてることが分かるようなら私は二年前に個人戦で優勝しとるわ。あの人の腕と人並みの運があれば荒川以外はどうにでもなるしな」
浩子「少なくとも決勝卓には座ってるでしょうね。人外の不運を味方につけん限り、あの人が決勝に行けんってことはないでしょう」
紀子「暗に人外の不運に見舞われてることを肯定する辺り、船久保もなかなか……」
浩子「データは裏切りません。あの人のくじ運は本物です」
やえ(あの外野ども、言いたい放題言ってくれる……私にだって10局も打てば人並みの配牌が来るんだ)
やえ(で、ようやく待望のそいつのお出ましだ……ドラ暗刻で染め手にも行ける、高目が望める配牌。出来ればもう一局待ってほしかったが、来てしまったら仕方ない)
13666p379s西東白白発
やえ(バラバラなのが玉に瑕だが、この面子でこれだけ恵まれた配牌は私にはもう来ないだろう)
やえ(さて、分かってるな貴様ら? 私はもう援護などしないぞ)
はやり(ふふふ~、やえちゃんが助けてくれたおかげで楽々トップ奪還。けど、良子ちゃんには切り札があるよね~? この子とあたし、実は相性最悪なの、はやり知ってるよ)
良子(クレイジー……私じゃなく、はやりさんをトップにして二位に滑り込もうって? どうやって二位になるつもりですか?)
郁乃(あー、一万切ってもうた~……うちが飛ぶ展開は考えとらんよ~)
やえ(さて、この時点ではこの卓の勝者は瑞原プロでほぼ確定している。逆転の可能性があるのは、切り札を持つ戒能プロだけだ)
やえ(……親番で切り札がある戒能プロは、何としても親番にこぎつけたい。この時点で、東四局から南二局まで8局使って仕込めることが確定しているからな)
やえ(瑞原プロも、この状況なら私の思惑に乗るだろう……出来るなら私を勝たせて園城寺に道を示したいという彼女の思惑を利用させてもらう)
やえ(そして、赤坂代行は死に体、末原のことを考えれば無駄なあがきはせずにおとなしくしていてくれるはずだ)
やえ(さあ、分かるな戒能良子? トップを取るために貴様が取るべき行動が)
やえ「ポン」
1366678p3s白白 ポン:発発発
ポン:白白白 打:3s
はやり「ポン」
ポン:333s 打:9s
やえ「……」
ツモ:赤5p 打:1p
良子(中は二枚見えているので大三元はない、ただの筒子染め。しかし、はやりさんも2副露。このままでは、はやりさんの親連荘で小走さんと赤坂さんが飛ぶ……)
良子(南三局、私には切り札がある。8局かけて仕込むなら、半荘一回丸ごと使うのと同等、ソロモン王クラスの霊を呼べる)
良子(そうか、私がソロモン王の力で親役満をはやりさんに直撃すれば、ここで満貫程度を稼いで赤坂さんを抜いた小走さんはオーラスを凌げば二位で終われる)
良子(トップを狙うなら、親の残っていないはやりさんが役満を許すわけにはいかない。勝ち目は薄くとも向かってくる、それなら直撃はありえない話ではない)
良子(東三局の私への援護は、このはやりさんが連荘する南一局の何本場かで、自分にチャンス手が来た際に差し込む余裕を持たせるため)
良子(はやりさんの連荘で私の仕込みが増えるのも計算ずく……まさか、席順を見た時点でここまでの展開を思い描いていた?)
良子(小走さんはおそらく、この局で和了りを逃しても次のチャンスを待ってはやりさんの援護を続けるはず。そうなれば、ほぼ確実に南三局の前に飛び終了)
良子(今回、我々三人はトップを目指して打つことになっている。私がここからはやりさんをまくるには南三局を迎える必要がある)
良子(ここで差し込まなければ南三局は来ない。私はトップを目指すならここで小走さんに差し込むしかない……全て彼女の掌の上)
良子(……仕方ないね、どうぞ和了ってくださいっと)タン
打:4p
やえ「ロン」パタン
良子(染め手に振り込むのは痛いけど、背に腹は代えられない……って、ドラ暗刻!?)
やえ「白、発、混一色、ドラ4。17500」
良子(ここで二位浮上……まさか!?)
恭子「おおおおおっ!?」
洋榎「……白発鳴いて混一色、見える範囲だけで少なくとも満貫はある。なんであの手に差し込んだんやろな、戒能プロは?」
恭子「そうか、南三局の前に二人が飛んだらしまいや、戒能プロは差し込むしかない。この連荘で仕込みは十分、南三局で逆転出来ると思っとるから、当然差し込む」
洋榎「いや、なんで南三局で逆転出来るって分かるんや?」
恭子「そこは普段の研究の賜物や。対局前に持っとる情報量が他と桁違い、それが小走さんが実力以上に上手く立ち回れる秘訣でもある」
洋榎「……まあ、恭子を信じて南三局で戒能プロが大物手を張るのを前提にするとして、瑞原プロがそれに振り込むっちゅうんか?」
恭子「は? 小鍛治健夜が相手でもあるまいし、あの瑞原プロが振り込むわけないやろ」
洋榎「いや、そんなん言うても、それ以外に逆転しようがないやろ? 戒能プロが大物張るなら和了られたら三位転落や、そのあとで瑞原プロを抜けるはずもないし……」
恭子「いやいや、点数見ろや、今二位は誰や?」
洋榎「……小走やな」
恭子「この一局の結末もほぼ必然……どこまで視えとるんやあのひと?」
洋榎「……は?」
『ロン☆ 今回は珍しく大きいよっ、なんと8000っ☆』
『あいたたた~……トンでしもうた~』クスン
良子「……マイガッ……まさかそう来るとは……」
やえ「マイナスだが、二位だな。さすが瑞原プロ、南三局に回さず仕留めてくれると思っていたぞ」
郁乃「6000点しか残ってないうちは~、親に~、役満をツモられたら~、あっさり飛んでまう~。せやからここで~、跳満以上を稼ぐしかない~」
はやり「私が役満直撃喰らうとかありえないからね☆ 良子ちゃんが和了るなら当然ツモだよ☆」
やえ「一方、親番の残っていない瑞原プロは親役満の和了を防ぎたい。その手段は、私が浮上した状況では赤坂代行を飛ばすことにほぼ限られる」
はやり「誰かを飛ばして終わらせたい状況で、飛ばせる相手が遮二無二向かってくるっていうなら、当然、飛ばせる手を作って撃ち落す☆」
良子「……完全に裏をかかれました、完敗です」
郁乃「そんでもって~、この半荘で~、新道寺役の戒能ちゃんを抑えて~、千里山役のうちに二万差つけての~、二位やな~」
やえ「……さて、なんのことだか? 私はそこまでお人よしじゃない、自分が上の順位で終われる展開を作っただけだ」
はやり「ツンデレかな☆ ちゃんと倍満張るあたり、いい仕事してるよね☆」
やえ「望外だったな。跳満が限界のつもりだったし、東三局も満貫だと読んでいた」
良子「なるほど……たしかに、このメンバーの特徴と力関係は今日の大将戦を彷彿とさせますね。まさか、そこまで考えて展開を作っていたとは……」
やえ「誰かさんが倍満を仕込んだせいで目論見が崩壊したが、諦めずに打ってみるものだな」
恭子「小走さん、見せて頂きました。私が進むべきだった道……」
やえ「……25000持ちだから出来たことだし、全員がトップを目指すという条件での勝負だ、団体戦で二位狙いの奴が居る状況でそのまま使えるわけじゃない」
恭子「せやけど、小走さんは、私の時より厳しい状況で二位になってくれました。私にも、道はあったはずです。あれはどうしようもない勝負なんかやなかった」
やえ「正直、東三局の倍満で諦めかけていたがな。私ですらあんな手が入ることもある、たまには自分が勝つことを信じてみてもいいんじゃないか?」
恭子「……はい。勉強させてもらいました」
郁乃「小走さん呼んで大正解~、これで~、末原ちゃんはもっと強くなるで~」
恭子「はい、本当にすごい人です、小走さんは……私なんかとは比べもんにならんくらい、すごい……」
やえ「おい、同い年だろ。自分を私より下に置くのをやめろ。お前は私が負け越してる化け物に勝ち越してるんだぞ」
洋榎「だから化け物言うな!! 恭子がお前より下やないってのは同意やけど!!」
やえ「私が不運なのを差し引いても、お前は明らかに化け物だろうが!?」
洋榎「だから、もっとヤバい奴おったやろ!?」
やえ「江口とお前なら私と同じ程度に上手く立ち回れば勝てん相手じゃなかっただろうが!! あんなポッと出の無名に負けてくれやがって、何やってるんだ貴様は!?」
洋榎「立ち回りだけでプロの新人王に勝つ奴の真似なんか出来るか! てゆうか恭子にも言ったけど実力で挑めや! こそこそ他人使いよってからに!!」
やえ「それで勝てるならそうする!! ミドルから六年間かけて世代の頂点を争った大阪のツートップが二人揃って負けてくれたおかげで私の格まで下がるというものだ!! 反省しろ!!」
洋榎「恭子と同じ回答ありがとさん!! そんでもって、団体の県予選で落ちた奴がほざくな!! 格が下がるっちゅうならむしろこっちが被害者やろ!! そのくじ運どうにかならんのかお前は!?」
やえ「それを言うなああああああ!!!!」
紀子「おかしい、やえにあんな幸運が……」
日菜「……やえは、信者フラグ立てる時だけは人外レベルの幸運を引いてくるから」
由華「あー、あれってそういうことなんですかー。ちなみに今回は誰のフラグですか?」
日菜「分かりやすい行動を見ると末原さんっぽいけど、あれは元からやえ信者だから違うね」
紀子「ということはまさか……あいつは本当に見境がない……」
上田「あいつのハードラック、フラグの反動なんじゃねえか? 今まで何人ひっかけた?」
日菜「良子ちゃんのその説は検証に値するね。私が把握してるだけでも、二進法使っても片手じゃ足りない」
紀子「この場に居るだけでも末原、由華、日菜、何気に愛宕も怪しい。あとは個人戦の強豪……寺崎とか藤原、百鬼、霜崎あたり」
日菜「うちの一年の岡橋とかもやえ信者だよ。てゆうかサラッと自分を除外してるけど、紀子ちゃんもだからね?」
怜「……急転直下って感じやな。たった二局で別世界や」
浩子「これ、小走さんのことやからほとんど計算通りなんでしょうね。東一局からずっと」
泉「これが、清水谷先輩や江口先輩がおる世界の打ち手ですか……」
怜「……一巡先を視る力で勝負になるようになったけど、やっぱ、とんでもなく遠いところにおったんやな、竜華たちは」
浩子「ま、清水谷先輩や江口先輩がこの卓に入ったらボッコボコやと思いますけどね。あの代同士で直接打てば五分でしょうけど、あの人は先輩らと強さの質が違います」
怜「自分自身が和了る強さやなくて、卓上全部を使う強さ……だから相手が強くてもその分だけ小走さんの影響力も強くなる。どんな相手でも上位に入れるんやな」
浩子「どんな相手でも、ではないですね。三対一でも楽勝するような飛びぬけたのが卓に一人だけ居たりすると、あの人でもどうしようもないみたいです」
はやり「いやー、完全に掌の上って感じ☆ 勝ちはしたけど参ったね☆ あの子ホントに高校生なのっ☆」
良子「参りました、実力的には二段も三段も私が上のはずですが、格上の相手に弄ばれたような感覚です。彼女がプロの世界に来たらリベンジですね」
やえ「そこまで行けるものならそうするが……私はプロに行っても二軍止まりだろうから、打つ機会はないだろうな」
はやり「あー、大丈夫大丈夫、うちに来ればレギュラーぐらい私がねじ込むから。一位指名させるからプロ志望だけ出してくれればオッケー」
やえ「おい!? それはそれで困るぞ、身の丈に合わない立場にはつきたくない!」
良子「ぬぐぐ……そう来るとは……私の発言力はそこまで強くないですし、ドラフトの一巡目で確保されては絶望的……」
やえ「そっちはなぜ悔しそうにしてるんだ!? リベンジしたいんじゃないのか!?」
紀子「くっ……瑞原プロが本気ならハートビーツ大宮のスカウトにアピールしないと……」
やえ「お前はお前で正気に戻れ! 奈良から出る気はないと常日頃から言ってただろ!?」
怜「……さて、今度は私が頑張らんとな、あそこに、一歩でも近づくんや」
はやり「うん、頑張って☆ あなたは、私たちの時の晴絵ちゃんみたいにならないでね☆」
怜「……はい?」
はやり(全国最強と言われる、昨年度優勝校の絶対的エース。それの対抗馬として全国に名を轟かすスター選手。初出場の無名校のエース。突如抜擢された名門校の無名のエース)
はやり(内容は色々違うにしても、これだけ既視感のある肩書きを並べられたら思うところはあるわけで……)
はやり(もし実現しちゃったら、一番危ういのはこの子。晴絵ちゃんのケースを見てる人間としては放っておけないよね)
はやり「何でもない☆ さ、特訓開始だよっ☆」
というわけで今日の夜も詰んだのでこの時間の更新になりました。
次回は月曜日に更新できるはず。
戒能プロは時間(局数)をかけてイタコの力で霊的な存在を呼び、かけた局数が多いほど強力な存在が出てくる設定(発動は親番のみ)です。
本文中では小走先輩がそれを完全に知ってること自体がすでに異常ということを表現するために一切解説せずにそれを前提として話を進めてます。
穏乃「帰ってきたーぁ」
憧「連泊してるとホームっぽい気分になるよね」
玄「だねー」
灼「……果たしてスイーツとか食べてて良かったのか、ぎもん……」
宥「えへへ、美味しかったよね」
憧「……和、元気そうだったね」
穏乃「うん! 絶対、決勝で和と打つんだ!」
憧「あんた大将でしょ……打てないって」
穏乃「ああっ!? そういえば、和って副将!? 灼さん、代わって!!」
灼「インハイはオーダー変更できな……てゆうか今更すぎ……」
玄「あははは……」
【晴絵・灼部屋】
灼「ただいま……」
晴絵「おー、おかえりー。どうだった?」
灼「手ごたえは、悪くない。あの二人相手でも勝負になってたと思……」
晴絵「そっか……若い奴らは成長が早いな。羨ましいよ」
灼「……明日、勝つから」
晴絵「私が超えられなかった壁、か。気負わなくていいぞ、お前たちはお前たちだから」
灼「……私が、超えたいだけ」
晴絵「……頼もしいな。私と違って、私の教え子は強い、か……」
灼「……はるちゃんは強いよ? 今でも私たちには勝ち越すし」
晴絵「ま、そう言ってもらえるのはありがたいけどな。麻雀の腕じゃないところが強いんだよ、お前たちは」
【宥・玄部屋】
玄「お姉ちゃん、寒くない?」
宥「だ、大丈夫だよ……玄ちゃんこそ、暑くない?」ブルブル
玄「震えながら言われても……やっぱりエアコン切ろうか?」
宥「でも、それじゃあ玄ちゃんが暑いんじゃ……」
玄「もう慣れたよ。一週間近く一緒の部屋だし」
宥「で、でも……明日は大事な準決勝だし、玄ちゃんはエースだからしっかり休まないと……」
玄「私が負けても、おねーちゃんが取り返してくれれば大丈夫なのです」
宥「……玄ちゃん……でも、やっぱり……」
コンコン
玄「あれ? 誰だろ? はーい!! どうぞー」
ガチャ
憧「……ほら、エアコンのリモコン持って話し込んでる」
穏乃「おお、凄い凄い、なんで分かるの憧?」
憧「そりゃ、この二人ならこうなるでしょ。むしろ初日に気付かなくてごめんね、毛布もらってきたよ宥姉」
穏乃「この時期は余ってるって言ってたので持てるだけ持って来ました!」
玄「え……も、毛布?」
宥「あったかそう……」
憧「玄ってば、自分がサービスする側だったら言われなくても持って来るくせに、客の立場だと融通きかないんだから。はいっ」バサッ
宥「ありがとー、憧ちゃん」
玄「えっと……?」
憧「シズと二人で持てるだけ持ってきたから、流石に足りるでしょ。二人ともちゃんと休んでね」
穏乃「私たちは試合まで時間あるけど、玄さんたちは先鋒と次鋒ですから!」
玄「ふ、二人とも……ありがとう」
【穏乃・憧部屋】
憧「……ねえ、シズ?」
穏乃「ん? どしたの?」
憧「……明日、勝てるかな?」
穏乃「絶対勝つ」
憧「ふふ、あんたのなんの根拠もない自信が、今はありがたいわ」
穏乃「今日、和と会って、一緒に遊んで、改めて思った」
憧「……何を?」
穏乃「私は、和と一緒に遊びたい。だから、絶対に決勝に行って、和と遊ぶんだ!!」
憧「はあ……そんな理由で全国大会に来てるの、多分あんただけだよ、シズ」
憧(そんなのが、今使える時間全部を麻雀につぎ込む理由になるのも、ね。純粋というか、単純というか……)
穏乃「でも、絶対勝ちたい」
憧「ま、やるだけやったしね。結局、天江さんにも妹尾さんにも、誰も一度も勝てないままだったけど、全員が勝負になる……半荘一回打ち切れるところまで来た」
穏乃「それだと荒川さんや神代さんには勝てないままだけど……個々の力じゃ勝てなくても、総合力で勝てば良い」
憧「あとは、ここまで積み上げたものをぶつけるだけ、だね」
穏乃「和は、絶対上がってくる。だから、うちらが勝てば……」
憧「そうだね、たどり着こう、うちらの代で」
――――県民未踏の、決勝戦へ
【翌日】
『さてさて、まーた解説しにくい連中が勝ちあがって来たもんだねえ』
『それでも、解説が仕事ですからね。サボらないでくださいよ?』
『しにくいだけで、出来ないとは言ってねーじゃん。ま、そこらへんは信用してほしいねえ』
『……こと麻雀に限っては、あなたに出来ないことがあるとは思ってません。もう一度言いますけど、サボらないでくださいね?』
『およ? ついにデレたかアナウンサー? これはちょっと張り切っちゃおうかね?』
『調子に乗らないでください。選手紹介行きますよ』
『つれないねえ……こっちは準備できてるよ』
『まずは今大会のダークホース! 阿知賀女子!』
『いやあ、二回戦はお見事だったね。シード校の永水女子を抑えてのまさかの一位通過。それも次鋒で兵庫代表の剱谷を飛ばすオマケつき』
『阿知賀女子は今大会が二度目の出場。初出場だった十年前と同様に、今回も準決勝まで駒を進めてきました。また、前回出場時のエース、赤土晴絵が監督を務めています』
『奈良県代表って決勝まで進んだ記録がないんだよねえ。県民の期待を背負っての準決勝、応援する方も力が入ってるよ。中継つながってる?』
『繋がってません。さて、彼女達はいずれも個人戦に出場せず、本選では先鋒次鋒の早い段階で試合を決めて手の内を見せずに勝ち進んでいます』
『いやあ、解説しにくいったらないね。けど、それが出来るだけの実力、それをやってまで温存する隠し玉があるってことだろ? 要注目だね』
やえ「……眠い」
紀子「何時まで千里山に指導してたの?」
やえ「ついさっきまでだ。次にお前から飛んでくる質問に先読みして答えるが、寝ていない。すまんが巽、濃いめのコーヒーをくれ」
由華「はい!」
日菜「随分熱心なんだね?」
やえ「……特に園城寺なんだが、一巡先を見てからのやり取りなんてものに慣れてるおかげで、色々と筋が良くてな。やる気もあるし、つい、な」
良子「ほどほどになー。お前の解説がないと私にはさっぱりわかんねえだろうからさ、この試合は」
やえ「三尋木プロの解説でも聞いてろ。お前のために解説するほど暇じゃない」
紀子「一応聞くけど、寝ないの?」
やえ「三日ぐらいの完徹は日常茶飯事でな。研究以外での徹夜は初めてだが、何をして徹夜したかで体調が変わるわけでもない」
紀子「で、さっきから書いてるそれは?」
やえ「園城寺の能力が私の打ち方に合わせて進化した場合に、どうなるかを予想している。プロでも私みたいなのはいないだろうし、予想しがいがある。ま、試合が始まるまでの暇つぶしだな」
紀子「……暇をつぶすぐらいなら寝ればいいのに」
やえ「そしたら、お前は私の身体を気遣って起こさないように細工するだろ? この試合、少なくとも先鋒だけは見ておきたい」
紀子「……先鋒戦が終わったら無理やりにでも寝てもらう」
やえ「言われんでも寝るさ。今夜もひよっこどもの世話を焼かないといけないしな。あいつらは先鋒と次鋒なので早めに切り上げるから、質を上げる」
『続きまして、岩手県代表 宮守女子。初出場ですが、準決勝まで駒を進めて来ました』
『熊倉監督が隠し玉があるって言ってたからねえ……個人的にはあの人が監督してるってだけで危険度MAXなんだよねい』
『二回戦では白糸台に圧倒されていましたが、この準決勝ではどうか? 隠し玉というのを出してくるのでしょうか?』
『二回戦では先鋒はまだまだ力を隠してる感じだったね、荒川さんも全力じゃなかったけど、面子も変わるからちょっと読めないねえ』
『次鋒の留学生、エイスリン=ウィッシュアートも高い和了率を誇ります、鹿倉選手、臼沢選手も守備が固く、穴がありません』
『なにより大将だよねえ。追っかけリーチして一発でロンが一回戦だけで三回、偶然とは思えない。この子が熊倉さんの隠し玉じゃないかと睨んでるよ』
久「照ー、起きなさい、試合始まるわよ?」
照「福路さん、そっちのプリンとって……むにゃむにゃ……」
久「」ブチッ
ゴンッ
照「……痛い、何が起きたの?」ズキズキ
久「おはよう。あなた今、寝ぼけて柱に頭ぶつけたのよ。大丈夫?」
照「……痛い」サスリサスリ
まこ(なんで切れたんじゃあいつは?)
咲(寝言で福路さんの名前呼んだからじゃないですか?)
まこ(タイミングからしてそうじゃが、なんでそれでキレたかじゃ)
咲(それは本人に聞いてもらわないと……)
優希(てゆうか、思いっきり殴っておいて平気な顔で嘘つけるのが凄いじょ)
和(布団の中に全身収まっているのにあの嘘を信じる照さんもどうかと思います……)
『麻雀王国九州の最後の生き残り、鹿児島県代表 第四シードの永水女子の登場です』
『いやー、九州って言うと向こう側がねえ。あの三校から一校しか準決に行けないとか世知辛いねえ』
『昨年度はインターハイ四位、春の大会では中堅までを石戸、薄墨、神代の三人のエースで埋める戦略でことごとく他校を飛ばしての大躍進』
『どうせ飛ばすならそのオーダーが一番強いね。ま、しかし、春は白糸台に稼ぎ負けたから夏はオーダーを変えたんだね』
『神代選手は地区大会で20万点を超える得点を記録しています、まさに全国でも屈指のトップエース。二回戦では松実選手の後塵を拝する結果になりましたが……』
『いやー、二回戦のあれは全力じゃないっしょ、知らんけど。あそこで全開だったら多分先鋒で終わって次鋒の打ち方が見れてない。本人の思惑は知らんけど、チームとしては目先のトップ通過より先の試合へ向けた情報戦を優先したんじゃないかと思うよ』
煌「いやはや、九州七県も生き残りは鹿児島永水のみですか」
仁美「ぐぬぬ……永水より先に消えたのだけは我慢ならん」
哩「負けたもんは仕方なかろ、切り替えんとな」
美子「哩は個人戦があっからそんなことが言えっと。私らは団体が終わったら終わりばい」
姫子「……すみません」シュン
煌「あなたと部長には個人戦で頑張っていただきたいですね」
哩「ほら美子、姫子が責任感じとーやろ」
美子「うー……姫子ば盾にするのはずるかよ」
『そして、この高校の登場です!! 西東京代表 白糸台高校――!! 下馬評どおり、二回戦を圧倒的な強さで勝ちあがって来ました――!!』
『昨年度優勝校、全国のオーダーを変えさせるほどの影響力を持つ、今年のインターハイの中心だねえ』
『五人全員が全国どこでも通用するエース級!! 中でも、個人戦王者の荒川憩と三年の弘世菫のコンビは脅威の一言に尽きます』
『いやあ、個人的には中堅の渋谷さんとか注目してるんだけどねえ。あの火力はあたし好みだよ』
『さて、このカード、特に荒川選手と神代選手、更に松実選手が戦う先鋒戦に最も注目が集まると思いますが、展開をどう読みますか?』
『さっぱりわかんねー。やってみなくちゃわかんねーっしょ、この子らは。いや、これ割とマジで』
透華「原村和、一緒に試合を観戦しませんこと?」
咲「あの……ごらんのとおり、私たちはテレビで観戦してるんですけど」
純「ここじゃ狭いしな。俺たちの部屋に来いよ、広いし、透華が色々持ち込んでるから快適だぜ?」
久「私と照はこっちで見てるわ。大きい画面って落ち着かないのよね」
照「……眠い」
透華「咲、あなたは来ますわよね?」
咲「……京ちゃんが一緒に来るなら」
京太郎「なんで俺?」
咲「帰り道が分からないし……」
京太郎「お前という奴は……仕方ねえな」
和「私は、こちらの方が落ち着きますね」
透華「ぬぐっ……で、では、私もこちらで観戦させていただきますわ! 純、咲達を案内なさい!!」
純「なにが『では』なんだ……まあいいけどよ」
まこ「騒がしいのが来たのお……」
優希「ぐー、ぐー……」スヤスヤ
恒子「うっは、針生さんクソ真面目」
健夜「あれが普通だからね!? こーこちゃんは見習った方がいいよ」
恒子「あー、うちも準決の実況解説したいー」
健夜「私は休める方がいいけど……」
恒子「アラフォーだからって精神まで老け込むのはどうかと思うよ?」
健夜「アラサーだよっ!!」
恒子「てゆうかさ、どうせ決勝の解説のために試合は見るし、私らだと素で実況解説と同じ会話するわけじゃん? なら仕事してお金もらえる方が良くない?」
健夜「……それ、普段の実況を素でやってるってことになるけど、いいの?」
恒子「え? うん」
健夜「そこは否定してよアナウンサー!? ちなみに私の解説はちゃんと仕事としてやってるからね!?」
玄「では……行ってまいります!!」
宥「玄ちゃんふぁいとー」
憧「玄、ガンバ」
玄「お任せあれ!!」
玄(……昨日、結局天江さんには一度も勝てなかった。妹尾さんにも……)
玄(なのに、今日の相手には、天江さんと同格と言われる人が二人いる)
玄(お任せあれ、なんて言っちゃったけど……正直、自信はない)
コツ……コツ……
玄(あ、誰か来る。ここを通るってことは先鋒戦の相手かな?)
小蒔「あ、松実さん、今日もよろしくお願いします」ペコリ
玄「は、はい……」
小蒔「先日の闘牌は、お見事でした。あなたのような相手と出会えたことを嬉しく思います」ニコッ
玄「い、いえ、それほどでも」
小蒔「ただ、今日は、あなたにとって辛い試合になるかもしれません。私自身にも制御が出来ない力なのでご容赦願います」
玄(これ、前回は手加減してましたって宣言ってことでいいのかな? 分かってはいたけど、改めて言われると気が滅入るなあ……)
小蒔「それに、今日は、前回の私など及びもつかない強者とまみえることになります」
玄「……荒川さん、ですね?(「前回の」ってことは、やっぱり手加減してたんだ……)」
小蒔「卓外では菩薩のような笑顔を振りまく彼女も、ひとたび卓につけば鬼神の類に化けます。くれぐれも油断なされぬよう」
玄「は、はい……(それをあなたが言っても自己紹介にしか聞こえないのです)」
小蒔「……」テクテク
玄「……」
玄(忠告が済んだらこれ以上話すことはない、か。そうだよね、これから四校のうち二校しか進めない決勝の椅子、たった二つの椅子を奪い合う関係だもんね)
憩「あ、小蒔ちゃん、今日も巫女服おしゃれやなー」
小蒔「憩さん……毎回それですけど、他に褒めるところはないんですか?」
憩「他は褒められ慣れとるやろ、顔はかわいいし、胸は大きいし、気品はあるし、麻雀強いし、そしたら誰も褒めなそうなとこ褒めたいやん?」
小蒔「胸と麻雀以外はあまり言われたことがないですが……あと、胸の話はやめて下さい」
憩「マジか、普通に顔褒めてええんか……うちとしたことが好感度上げ損ねたわ」
玄「……はい?」キョトン
憩「お、そっちは松実さんですね。二回戦見ましたよーぅ。うちは全力で行きますけど、お手柔らかにー」
玄「あ、ど、どうも……って、それハンデ戦じゃないですか!? お断りなのです!!」
憩「あはは、冗談やって。いやー、こんな楽しそうな面子で打てるの久々ですわ。うちとまともに打てる相手は大抵顔見知りやし」
小蒔「あの……顔見知りだとダメなんですか?」
憩「色々手の内読めるからワクワク感がないやん。小蒔ちゃんは毎回打ち方変わるから顔見知りでも全然オッケーやけど」
小蒔「ご機嫌取りをしても何も出ませんよ?」
憩「奥の手とか出してくれると嬉しいんやけど、それもダメ?」
小蒔「……それがお望みなら、期待に応えられるかもしれませんね」
?「なんか三人で盛り上がってる……ダルい」
憩「あ、小瀬川さん。今日は本気で打ってもらいますよーぅ?」
白望「だるいけど、手加減する余裕もないから本気は出す。勝てる気はあんまりしないけど」
小蒔「……憩さんが気にかけているということは、油断ならない方のようですね」ニコッ
玄(……な、なんだろう、思ってたのと違う……もっとライバル同士で重たい沈黙とか、その中で静かに散る火花とかがあるものだと……)
玄(てゆうか、さっき廊下で私にした忠告はなんなんですか神代さん? あなたが一番荒川さんのペースに飲まれてるじゃないですか!?)
憩「一昨日の様子からして小瀬川さんは開始ギリギリに来ると思ってましたけど、早いんですね?」
白望「たまには早く行けって塞が……ダルい」
憩「じゃ、ちゃちゃっと場決めしましょーぅ」
白望「早く来てダルいから時間までだらけたい……」
憩「そんなこと言わんで下さいよーぅ」
『えっと……随分和やかですね、対局室』
『んー? 対局前は基本あんなもんじゃね? 私とか瑞原さんとかもああいう感じだよ』
『インハイの準決勝でも、ですか?』
『もち。てゆうか、トッププロは誰とでも打ち解けるぐらい社交的な雰囲気か、じゃなければ人付き合いが下手の二択が基本だよ』
『えっと……何か理由が?』
『いや、分かるっしょ? 一回麻雀打ったら二度と口きいてもらえないからね。それをフォローするか、同類同士、麻雀だけで繋がった下手な付き合いするかしかないんだよ』
『そりゃ、大人になれば他の付き合いもあるし、ボッコボコにしても気にしない変なのにも出会えるけどね。麻雀特待で進学したら麻雀部が人間関係のメインだから、そうなるんだよ』
『……え?』
『普通はまともに打てる相手以外との人付き合いを諦める、そうじゃない奴は対局中の恐怖を補って余りあるぐらいに社交的、それがあたしらトッププロ』
『えっと……』
『あたしは一人だと寂しくて死んじゃうからね、無理にでも社交的になるしかないのさ。手加減も覚えて、今じゃ指導対局もそつなくこなすよ』
『(こないだ指導対局って言って飛ばされたんですけど)最後に同意しかねる発言がありましたが……華やかなようで、トッププロの皆様も苦労されてるんですね』
『あははは、大沼さんとかまともに会話するのも大変だからねー、あたしらぐらいの代だと麻雀ブームでお仲間も多かったし、大した苦労はしてないよ。知らんけど』
起家 玄「よろしくお願いします」
南家 白望「よろしく」
西家 小蒔「……」スヤスヤ
北家 憩「……みなさん準備は出来とるみたいやな。始めましょか」
東一局 ドラ:中
玄(……天江さんもそうだけど、トップクラスの選手は一局目で様子見をすることが多い)
玄(ここは何としても様子見のここで倍満以上に仕上げて有利に運びたい……幸いなことに翻牌のドラ、和了るのに苦労はしないのです)
玄(……って、あれ?)
玄配牌
24赤59m3赤58s14赤5赤5p東 ツモ:北
玄「……え?」
やえ「……二回戦はやはり6番目、リスクを避けるかとも思ったが、予定通りの七番目か、結果から察するに、松実より上らしい」
良子「おい、今お前が言った言葉が一つも理解できねえぞ。どういうことだやえ?」
紀子「徹夜してる人間に無理をさせない。私と由華が答える」
由華「まず、六番目とか七番目というのは神代さんの能力ですよね。9通りの能力が決まったローテーションで出てくるというのが先輩の仮説です」
紀子「そして、七番目の能力は、赤ドラに作用しないことを除いて松実とほぼ同じ。独占ではなくドラの引き寄せらしいけど、効果が強力過ぎて起きる事象は独占と大差ない」
由華「同種の能力がぶつかり合って負けた場合、神代さんがなんの能力もない状態で打つことになりますから、リスクを避けるというのはそれですね」
紀子「ということ、理解した?」
良子「なんでお前らは神代の能力を知ってるんだ?」
日菜「良子ちゃんが寝てただけで、神代さんの能力については何度もミーティングで話した内容だよ」
衣「ほう……やるな、クロのドラを奪うとは。衣ですら後に槓ドラになる牌を奪うのがせいぜいだったというのに」
咲「えっと……松実さんの能力を詳しく知らないんだけど、そういうことでいいのかな?」
純「ああ、ドラの独占だ、後に槓ドラになる牌を含めてな」
京太郎「ちなみに、それ、俺たちに話していいんですか? コーチしたから知ってるのは良いとしても、対戦相手に話すのは不味いでしょう?」
智紀「ラーメン六杯と彼女達五人の能力の情報が昨日のコーチ料の対価。問題ない」
咲「足元見すぎじゃないですか!? ラーメン六杯って聞いたときは逆に安いと思いましたけど、それ込みだとまた話が違うよ!?」
純「そもそもこっちは麻雀好きが麻雀打つだけの完全ノーリスクだしな。衣は面白い相手が居るって聞いたらタダでも飛んで行っただろうし」
智紀「妹尾さんにも、特殊な打ち手との経験を積ませたがっていた。よく、この自分たちにメリットしかない交換で更にラーメン六杯を吹っかけたと思う」
純「交渉役は加治木さんだろ? やっぱあの人すげえわ。その場にいたわけじゃねえけど、自信満々に『もう一声ほしいな』とか言ってるのが目に浮かぶぜ」
咲「まあ、衣ちゃんと妹尾さんなら、次の相手を考えれば喉から手が出るほど欲しいコーチではあるけど……本当に随分と足元見たね」
京太郎「あの人相手に交渉事はしちゃいけないってのだけはわかった」
咲「部長は対等の条件を引き出したりしてるけどね」
純「あのひとはあのひとで交渉持ちかけちゃいけねえ相手だろ。今日の透華なんか明らかに有利な条件出してるのに一蹴されてたぞ」
智紀「ちなみに、何故、透華抜きであなた達だけがこっちに?」
咲「原村さんはお姉ちゃんにご執心、お姉ちゃんは部長に手綱握られてるから、透華さんのお目当てが原村さんなら勝ち目ないよね」
智紀「理解した、やる前から負けの見えた戦だったらしい」
ゆみ「くしゅんっ!」
モモ「風邪っすか?」
佳織「夏風邪を加治木先輩が引くとは思えないけど……」
睦月「うむ」
ゆみ「そんな迷信を信じるな。少し冷えすぎだな、設定温度を上げるか」
モモ「了解っす」
ゆみ「蒲原は流石に寝てるか。徹夜で課題を終わらせたらしいからな」
佳織「加治木先輩は寝ないんですか?」
ゆみ「『らしい』と言っただろう? 私は寝ていたよ、分からないところを聞きに来ることもなかった」
モモ「ちなみに、課題は終わってたんすか?」
ゆみ「正誤は見ていないが、それなりに考えて解いてある風の解答で指定された範囲まで終わっていたな」
佳織「ちゃんと勉強の成果も出てるんですね」
ゆみ「出てもらわないと困る、ようやく高校一年の内容に入ったところなんだからな。とはいえ、中学レベルから基礎を固めに固めたのが生きて来たな」
玄(おかしい……ドラの中が来ないのもそうだけど、河に見えてない牌がもうほとんどない)
玄(でも、河に見えてない牌で私が持ってる牌が一枚もない。なにこれ? どうなってるの?)
玄(こんなこと、今まで一度もなかった……私、どうすればいいの?)
小蒔「……槓」
槓:中中中中 槓ドラ:1s
玄「……え?」
小蒔「もう一つ、槓」
槓:1111s 槓ドラ:西
玄「うそ……それ、私の……」ゾワッ
小蒔「……ツモ。8000・16000」
23477s西西 暗槓:中中中中 1111s ツモ:西 ドラ:中 1s 西
白望「混一色ドラ11で役満……ついでに面前ツモ、嶺上開花、中、西、三暗刻。翻数数えるのダルい……」
憩「青天井ならこれ一発で終わりやなー」
玄(な、なにこれ……なにがどうなってるの!?)
霞「あらあら、取り乱しちゃって。いつも自分がやってることのはずなのに」クスクス
初美「いつも自分がやってることだからこそですよー」
春「経験者は語る」ポリポリ
巴「はっちゃんは北家の時に東をドラにされたんだっけ?」
初美「ドラ表示牌の北が見えた時は『真っ向勝負だー』ってやる気満々でしたけどー、東は一枚もツモれないままあっさり槓されましたー、人が神にかなうはずもないって思い知らされましたねー」
霞「完全に木偶にされた初美と違って、姫様の引き寄せは赤には及ばないから彼女は赤を引き寄せることが出来ている。だから打つ手はあるけど、ちゃんと対応できるかしら?」
初美「自分のよりどころを根っこからぶち抜かれた人間はそう簡単に立て直せませんよー」
巴「……新道寺の鶴田もそうだったね。まだ対抗できる手は残っていたのに、立て直せないほどの精神的なダメージを受けて何も出来ずに終わってしまった」
春「ドラ独占が赤の独占に変わるだけでも普段とかなり違う打ち方になる。精神的に立て直せても技術的に立て直せないはず」ポリ
霞「ふふふ……小蒔ちゃんは万が一ドラ支配で負けても二度寝で次の切り札があるけど、あの子にはない。分のいい賭けよね」
初美「そもそも、神様の力を使う姫様が、能力をぶつけ合って人間に負けるはずないですー。木偶になった阿知賀をおいしくいただいて、準決勝も楽々通過ですよー」
東二局 ドラ:4s
玄「……こんなこと、あるはずない」カタカタ
玄(いや、あるのかもしれない……私は、槓やドラの支配が得意じゃない天江さんにすら、ドラを奪われた)
玄(天江さんの本領は、ドラとか槓とかの局所的な戦いじゃなく、海底まで何もさせずに対戦相手三人を支配する、一局全体の支配)
玄(半荘全体なら相手の点数を0点ピッタリにするとかの離れ業もお手の物。三人全員が必死に抵抗しても卓上全体を易々と支配してみせるのが天江さん)
玄(一局全体、試合全体、卓全体……そんな全体を支配するのが得意な天江さんが、戯れで局所的な勝負を仕掛けて私のドラを奪ってみたのがあの槓)
玄(あれ以降は、普通に……海底はそもそも普通じゃないけど、海底で和了ることを優先し始めて、槓されることはなかった。けど、やろうと思えばできたはず)
玄(そして、天江さんと同格と言われる神代さんが、私と同じ能力を使った……天江さんと同格の人のテリトリーで勝負すれば、今の私が勝てる道理はない)
玄(なら、これは勝負に負けた当然の結果なのです)
玄(私は、何度も負けて来た。天江さんに、妹尾さんに、小走さんに……負けるのは慣れっこ!!)
玄(そりゃ、一番大事にしてたドラまで奪われるのは、いくらなんでもショックだけど……)
玄(まだ、赤は来てくれてる!! 戦えないわけじゃない!!)
久「あれの直後でこの表情? ドラが奪われたぐらい大したことないってことかしら?」
和「……玄さんに限ってそれはあり得ません。リーチをかけてる時にドラをツモったら、山を崩すぐらいのことは平気でやりかねない人です」
久「……そう。ならきっと強いのね、彼女は」
照「神代さんがあまりに酷すぎて目が覚めた。びっくりした」
まこ「普通のドラは全部取られたが、赤は来るんじゃな?」
和「神代さんも、手作りに時間がかかりそうなので対処は出来そうですね」
まこ「しかし、松実の奴……切り札のドラ爆を逆に自分が喰らう立場っちゅうのは辛いの」
透華「とは言いますが、赤が集まるだけの能力の方が私は打ちやすいですわ」
まこ「照さんと咲の見立てだとドラを切るとドラが来なくなるらしいから、赤が必ず入るとなると染め手が出来ん、わしは遠慮したいのう」
透華「赤四枚で四翻……純チャンや面前混一色などの三翻を上回る火力が常に約束されているのですから、手役が限られるなど些細なことですわ」
優希「むにゃむにゃ……きょーたろー、あのタコスをとってきてほしいじょ……」スヤスヤ
久「心が折れてないのは結構。けど、あの子、ちゃんと対応できるかしら? 強力な能力には、それに合った打ち方が要求されるわよ?」
照「多分、基本の牌効率ぐらいは分かってると思うし、動揺してなければ普通に手作りする技術はあると思う」
和「赤は使いやすい牌です。基本が出来ているなら打ち方に苦労することはまずないでしょう」
憩「ツモ。リーチ一発ツモ、ドラ1。2000、4000」パタン
35s123789p88m北北北 ツモ:4s
玄「……え?」ゾワッ
小蒔「……」
白望「ツモばっか……ダル」
憧「ちょおーっと待てーい!!!」
穏乃「うわっ!? どしたの憧?」
灼「玄は諦めてない、荒川の能力も小走さんから聞いた通りだし、まだいける」
宥「う、うん……神代さんの能力でドラはとられちゃったけど、赤はあるし、むしろ普段より和了率は上げられるはずだよ」
憧「みんな、ホントに気付いてないの!? どう考えたって今のヤバいでしょ!?」
晴絵「……ここまでとはな。あれが常時発動するのか。流石インターハイチャンピオンというか、化け物というか……全然違うけど嫌なもん思い出した」
穏乃「赤土先生まで……どういうことですか?」
憧「わかんない? 玄のドラが奪われる以上のことが起きてるんだよ、今、目の前で!」
宥「ふえ? どういうこと……」
晴絵「神代の能力があっても、玄の力は消えてない。ただ、神代の力が強すぎて玄が独占出来てないだけだ。多分、5の数牌がドラなら赤も持って行かれるな」
灼「うん、それはわか……あ!?」
晴絵「つまり、あの場には、玄以上に強くドラを支配している化け物がいる」
宥「あっ……!? ……だとしたら、とんでもないことになってる?」
憧「そうだよ宥姉。本当にとんでもないのが居たもんだわ。あれが、全国一万人の頂点か……」
穏乃「だから、どういうことなんだよ憧、分かるように説明して!」
憧「シズ、神代さんがとんでもない化け物なのは分かる?」
穏乃「そりゃ、さっき玄さんに赤以外のドラが一枚も来なかった時に散々驚いたから分かってるよ」
憧「少なくとも、ドラに関しては玄が手も足も出ないぐらいの力を使う化け物が神代さんなわけ」
穏乃「だからそれは分かってるってば!」
憧「……じゃあさ、その神代さんからドラを奪って和了りに使った荒川さんのヤバさ、わかんない?」
穏乃「…………?」
憧「……シズ、大丈夫? 頭から煙出したりしないでよ? 荒川さんがドラで和了ったの、分かるよね?」
穏乃「…………」
憧「おーい、シズー?」
穏乃「……あ」
憧「……『あ』?」
穏乃「ああ―――――!!!? どうなってんの憧!? なんで神代さんからドラ奪ってるのあの人!?」
憧「遅っ!?」
照「なにあの卓? 化け物の見本市でも開いてるの? 松実さんだけでも十分すぎるぐらいおかしいのに」
久「あんたの発言が全て自分を棚上げしてるのは昨日の清水谷さんの件で証明されたから、何を言っても驚かないわよ?」
透華「松実玄のドラ独占を崩すのは、満月ではないとはいえ、夜の衣がひと苦労するとのこと。しかも、一部を崩すのが精いっぱいと聞きました」
まこ「……それをぶち抜いてドラを持って行っとる化けもんがおるのう。しかも二人」
照「同じ能力がぶつかり合ったら、大抵の場合、効果は半々になる。強さが同等なら松実さんに二枚、神代さんに二枚のドラが入るはず」
久「神代さんは全部持って行ってるけど?」
照「それは、松実さんとは比べ物にならないぐらい強い力でドラを引き寄せてるからだろうね」
まこ「おいおい……天江が苦労してちびっと崩すのがやっとの能力と比べて、比較にならんほど上ってか?」
久「……それは大した化け物ね、照を先鋒にして本当に良かったわ」
照「少しは私が負ける心配をしてほしいのだけど……」
久「で、荒川さんがドラをツモって和了ったわね。さっき言った神代さんの強力な力をあっさり打ち破って」
照「まさかの無視!? え? 本当にアレ見てもまだ私が勝てると思ってる!?」
和「当たり前でしょう。あなた自分が誰だと思ってるんですか?」
透華「となると、あの場では衣ですら手を出せないほどの強力な能力の応酬が繰り広げられているわけですね?」
照「その通り……って、龍門渕さんも、天江さんでもどうにもできないほどの事態を目の当たりにしてる割に反応が薄いね?」
透華「ドラを独占するだの、その独占を崩すだの、些事に過ぎませんもの。独占を崩せないとしても、衣があの場に居れば試合に負ける気はしません」
照「まあ、確かにそうなんだけど……もう少し驚いてほしい」
和「昨日の試合であれだけ狼少年みたいなことをしておいて何を今更」
まこ「結局、コンボも破ったし、最善の手順が見えてる相手も力技で潰しおったからのう」
照「それやったの咲だし……」
久「どうせあんたも出来るでしょ。さて、試合見るわよ」
照「なんだか扱いが酷い気がする……」
優希「じごーじとくだじょー……このいぬめー……」グーグー
照「片岡さんの寝言にまで酷い扱いを受けている……」
東四局 1本場 ドラ:8m
玄(あっという間に満貫、5200、親満の三連続和了……どうすればいいの、このひと? リーチしたら一発でツモるし、牌譜通りならズラしても和了るし……)
小蒔「……」
白望「……」
憩(さーて、小蒔ちゃんは射程圏。二位に五万差のいつものノルマ、小蒔ちゃん相手には厳しいと思っとったけど、いけるかもなー)
憩(一発は大きいけど、役満といえど所詮満貫四回分、リーチ一発ツモでほぼ毎回満貫を和了るうちからしたら、手数で十分追いつける範囲)
憩(今回は大物。しかも四巡で決まってまうでー。頑張ってな、みんなー)
憩手牌(配牌)
12s136p1379m東東北白発
打:白
次巡
12s136p1379m東東北発 ツモ:3s
打:北
――
次巡
123s136p1379m東東発 ツモ:2p
打:発
――
次巡
123s1236p1379m東東 ツモ:2m
憩「リーチ」
打:6p
玄(早すぎる……こんなのどうしようもない)
白望(……ズラしても無駄、荒川さんのツモを飛ばし続けて他の誰かが和了るしか彼女の和了りを防ぐ方法がない。それはダルいどころじゃなくて無理)
咲「なんであんな酷い配牌に怯えなきゃいけないんだか……」
京太郎「実際酷い配牌だよな? さっきからツモが神がかってるけど」
衣「ふむ、奴とは一度手合せしたいな。楽しめそうだ」
智紀「……カンチャンとペンチャンを次巡で100%埋める。単純明快ゆえに、能力自体は数局の牌譜を見ただけで誰の目にも明らか」
純「制約らしきものは一切なし、副次的な能力もない。能力以外の部分の運は多分人並み程度だ」
咲「ただし、単純な能力だけど、100%っていうのがあまりに異常過ぎてどうしようもない」
智紀「そう。能力は分かる、けど、対策が何もない。ゆえに、彼女の能力は誰も議題に上げない」
咲「私やお姉ちゃんなら向こうが和了る前に和了れるけど……手が高くなったり向こうの配牌が良かったりするとすると怪しいね。火力だと負けそうだし」
智紀「ペンチャンやカンチャンが多い配牌だと手におえない、両面が多いと多少ましになる。ただし、それでも人並みに有効牌をツモるから厳しい」
やえ「3567や3334555なんかの35もカンチャンとして認識するからな、あいつは。対策は奴のツモを飛ばすことのみ」
日菜「孤立牌でもペンチャンかカンチャンになれば確実に面子が完成するから実質的には両面塔子みたいなもの、牌効率が異常に良いんだよね」
由華「あいつにかかると147s258p1359m東東北西みたいなクズ手が私の普通の手と等価値ぐらいですからね」
良子「ただの孤立牌が両面塔子と等価とかマジで卑怯だろ……」
やえ「まあ、確実に面子になるとはいえ、二枚のどちらかをツモってから面子になるまで二巡かかるから両面待ちと完全に等価とは言えないがな」
日菜「と言っても、どの数牌にもペンチャンかカンチャンになる組み合わせは二通りある。そうなると待ちは両面と同じ8枚だし、等価みたいなものだよ」
由華「しかも、両面塔子は二枚使いますから6組しか持てませんけど、数牌の孤立牌は最大9枚持てます。その分受け入れも広くなります」
良子「タチが悪いのは、能力がわかってても止められねえってことだな。調べれば調べるほど、対策が何もないってことだけが分かる」
紀子「そして、そういう対策のしようがない相手はやえの最も苦手とするところ」
やえ「ほっとくと高目を軽々ツモる愛宕や江口を更に手に負えなくした生き物だからな。ああいうのはあっち側同士で潰しあいをしてもらうしかない」
良子「去年、やえは荒川と辻垣内の卓に入ってたな。酷い目に遭ってたが」
やえ「タチの悪いことに、荒川は全て自力でツモるから私の介入を受け付けない。荒川と辻垣内以外和了れないような卓だから辻垣内のフォローに徹するわけだが……」
紀子「それでも荒川は止まらないと」
やえ「しかも、辻垣内の奴はサポートした恩を私の親番での倍満ツモとかいうこれ以上ない仇で返すし……おかげさまで東場でトビ終了だ、思い出したくもない」
紀子「ニライカナイ……」ボソ
やえ「思い出させるなと言ってるだろうが!! 脇二人が木偶でなければ……むしろあいつが居る時こそ荒川と当ればまだ勝ち目が……」
『リーチ一発ツモ、チャンタ、三色、ドラ1。8100オール』
やえ「しかし、この展開は不味いな……私に勝ったんだから松実には踏ん張ってもらいたいものだが」
『圧倒的―――!! これがミスインターハイ 荒川憩――!!』
『いやあ、二年後に手合せするのが今から楽しみだねぃ』
『彼女の闘牌の特徴は有名ですよね』
『ああ、ペンチャン、カンチャン、いわゆる悪形を埋める。いや、【治す】のかねー、あれは』
『治す……ですか?』
『そ。えりちゃん、囲碁か将棋は出来るかい?』
『囲碁ならそれなりに……』
『石の繋がりの中で弱いところをキズって言わない?』
『えっと……切れる部分などですか? キズというと、死活問題などで「白の形にキズがある」とか、そういう言い方はよく目にしますけど』
『それを麻雀に持ち込んで、悪形とか弱い部分を傷(キズ)と認識する。なら、それを【治す】って認識も出来るんじゃないかね。知らんけど』
『荒川選手は、プライベートで病院のボランティアスタッフをしているそうです。それと何かしら関係が?』
『いや知らんし。ところで、囲碁打てるなら今度打とうよ。麻雀ほどは強くねーから安心だぜ?』
『あなたの強くないとか手加減するという言葉はあてにならないんですよね……コホン。放送中ですから、そのお話は後で伺います』
『囲碁はホントに強くないって、初段もないよ。ちなみに、あとって、五分後ぐらいでいい?』
『放送が終わってからに決まってるでしょう!! まったく、あなたという人は……』
前半終わるまで行くと今回分が50KB超えるので、微妙にキリがわるいですけど今回はここまでです。次回も月曜の予定です。
東四局 2本場 ドラ:3m
憩(さっきの倍満で逆転。さて、今回は……まあ、そうそうツキは続かんわな)
19s1488p2478m東北西西
憩(ま、小蒔ちゃんのドラ一枚喰いとれるだけでも大きいな。理屈はわからんけど、あれ、一回は槓せんとダメっぽいし、その槓もいつも最初に見えてるドラや)
憩(てことでこの局、配牌が悪いからうちの足は遅い、小蒔ちゃんもうちにドラ一枚喰われて遅くなるか、下手すると和了れんはず)
憩(と言っても、カンチャンペンチャンが出来たら確実に埋まるし、両面は普通に確率通りツモる。うちの速度は通常の倍以上)
憩(こんな配牌からでも、10巡あたりがデッドラインや。お二人さん、うちと小蒔ちゃんの足が止まるこの局で動かんと、なんも出来んまま死ぬで?)
憩(点差も、こんな感じやしな)ポチッ
白糸台 141500
永水 115300
阿知賀 68600
宮守 74600
咲「荒川さん、速度も異常だけど、カンチャンやペンチャン待ちなら完全役なしからでもリーチ一発ツモで最低4000にしてくるんだよね」
衣「あの場だからその程度だが、普通はドラや裏ドラもある。何せほぼ毎回リーチするのだ、裏ドラの期待値もかなりのものだろう」
智紀「役が一つでもつけばほぼ満貫。倍満の手作りをするぐらいなら次でもう一度満貫を和了ればいいというスタンスだけど、それでも平均打点は一万を超える」
純「流石はインターハイチャンピオン。7割を超える和了率だけ見ても十分化け物なのに打点も高いと……衣と同格とか言われるだけはある」
京太郎「和了率7割オーバーで平均打点一万って、流石におかしいでしょ!?」
咲「今更だよね。怪物ひしめくインターハイで個人戦優勝、団体でもエース区間で二位に対して半荘一回につき5万点差のノルマをこなし続けるインハイ史上最強クラスのモンスターだよ?」
衣「衣も去年は和了率7割で平均打点2万弱だぞ。相手に恵まれはしたが」
咲「あ、私も個人戦では和了率9割超えたよ。平均打点は一万行かなかったけど」
京太郎「もうやだこいつら……」
純「ばっかお前、俺たちがいるだろ?」
智紀「私たちはそんな頭のおかしい数字は出さない」
京太郎「い、井上さん……沢村さん……」ウルッ
智紀「私の和了率は三割を少し超える程度。並みの数字と言えなくもない」
純「俺もそんなもんだ。安心しろ」
京太郎「いや、十分高いような……」
純「まあ、一応全国ベスト8チームのメンバーだしな」
智紀「本当の平均と比較して高い数字になるのは仕方ない」
京太郎「こいつらを信じた俺が馬鹿だった……」
咲「むしろリアルな数字で現実的な差を感じるから、私みたいな現実感のない数字の方がマシな気がしない?」
京太郎「いやそれはない」
咲「うぐっ……」
玄(荒川さんが三巡目でツモ切りした……多分、この局はそこまで早くないんだ)
玄(荒川さんの隙らしい隙と言えば、能力を除いた運の部分は普通の選手ってところ。普通の両面は普通の確率でしかツモれないし、出来たら確実に埋まるとはいえ、カンチャンやペンチャンにしてもそれを作るまでは確率通り)
玄(それから、ツモった方が高いから、リーチした場合でもアタリ牌を見逃すことがある)
玄(まあ、見逃す場合は一発でツモるからそれがどうしたって感じだけど。両面待ちではリーチをかけないのも隙と言えば隙かな、逆に厄介だけど)
玄(運は並程度……今回はきっと、配牌が悪くて手が遅いんだ)
玄(先手を取れば、荒川さんはカンチャンかペンチャンで聴牌してる時以外は通常のデジタルの判断でオリを選択することが多い)
玄(ここは、何としても先手を取らないといけないわけで)
玄手牌
34赤5s34赤5赤5p4赤5m北北北発 ツモ:2p
玄(では、行きましょう)
玄「リーチ!!」
打:発
やえ「何をやってる松実!? 自分の力を相手にしているのを忘れたのか?」
紀子「……東一局から異常続きで動揺している。自分の手を仕上げただけでも上出来、周りを見渡す余裕が持てるとは思えない」
由華「けど、やっちゃいましたねこのリーチは」
良子「いや、3萬はドラだから仕方ないとして、6萬待ちリーチでもいいんじゃねえか? 3萬がドラな時点で三色は元々無理なんだし」
紀子「……良子があそこに居たらなすすべもなく飛んで終わることが判明した」
日菜「良子ちゃん、河に見えてない牌」
良子「あ、そうか……槓ドラか」
やえ「6萬は神代が3枚持っている。ほぼ間違いなく槓ドラだ。それは松実からは見えていないにしても、6萬が槓ドラである可能性を考えていない迂闊なリーチだな」
紀子「これで松実の手は死んだ。ここで神代が和了ると辛い」
やえ「和了るとしたら、赤抜きで打った松実と同様に確実に役満だろうからな。ゲームオーバーだ」
良子「今の点差で神代に役満をツモられたら完全に荒川と神代の一騎打ちになるな。蚊帳の外で削られてそのまま終わりか、良くて次鋒が弘世に仕留められる展開がみえる」
やえ「それよりは荒川の親が続く方がマシだが、出来ればもう一人になんとかしてもらいたいな」
白望「ちょいタンマ」
憩「どうぞー」
白望手牌
234678s24m23478p ツモ:8s
玄(小瀬川さんの小考……これが出たらほとんど確実に和了る上に、手が高くなる……だっけ? 和了れない場合は鳴かせたりして大物手を回避する)
玄(私のリーチの直後、嫌なタイミングだなあ……ちょっと状況を整理しよう)
玄(……荒川さんはさっきもツモ切り、まだ余裕はありそう)
玄(そういえば神代さんは……あっ!?)ゾワッ
玄(あ、あわわわわ……6萬が河に見えてない!? これ、もしかしてやっちゃった!?)
憩(松実さん、河見てめっちゃ動揺しとるなー、おそらく槓ドラ候補待ちのリーチ、小蒔ちゃんが全部持ってくからシャボと単騎はあり得ん。慌てようから察するに、完全に死んどる3-6萬あたりやな?)
白望「……変だけど、これで」
打:2m
憩(小瀬川さん……この巡目にドラ周りが出てくるってことは、小蒔ちゃんとか松実さんの能力、宮守では完全に解析できてないんやろな)
憩(けど、分かってなくても迷った末に正解にたどり着く、ええな、めっちゃええよ小瀬川さん)
白望「ツモ。リーチ・ツモ・タンヤオ・ピンフ・一盃口。2200、4200」パタン
23467788s44m234p ツモ:6s
玄「……」ホッ
憩(松実さん、うちの親が続くとか小蒔ちゃんが役満和了るのに比べたらだいぶましやけど……ほっとしとる場合と違いますよ?)
玄(……危なかった、動揺して河を見落としてたのです。一つのミスが命取り、ミスしなくても飛ばされかねない。ここはそういう卓)
玄(今の一局は小瀬川さんに助けられた。そんな幸運は続かない……しっかりしなきゃ)
玄(天江さんや妹尾さん相手に今みたいな打牌をしてたら南場まで行けない。事実、25000持ちならとっくに終わってる)
玄(昨日の特訓を無駄にしちゃダメ。ここから立て直さないと!)
憩(……って、言わんでも分かっとるみたいやな。さて、うちもノルマがあるから手加減はしませんよーぅ?)
南一局 親:玄 ドラ:1p
玄(落ち着こう。小走さんに教えてもらった私の力、それをちゃんと思い出すんだ)
玄(……小走さんが言ってた私の能力の隠れたメリット、それは34種の牌の中にいくつかの地雷が仕込めること)
玄(絶対にツモれない牌、しかも、それが分かるのも巡目が遅くなってから)
玄(例えば、ドラと槓ドラが4索、8索、2萬、6筒、南なんて組み合わせだったとして……これが絶対にツモれないというのは他家にとって大きな負担になる)
玄(特に、三色を積極的に狙う上級者だと、高確率で三色に使う9種の中のどれかが地雷になってるから苦しめられる)
玄(自分はドラを集めて槓すればいい、他家は見えない地雷を探りながらの手作りを強いられる。小走さん曰く、私は能力をちゃんと使いこなせば速度でも有利)
玄(……敵に回すと本当に厄介だね。けど、私は小走さんに対策を仕込まれてる)
玄(相手がどういう手を打って来るか、それを知れば自分がどう打つべきかも見えてくる。対策を教えてもらったのはそんな理由だった。まさか対策をそのまま使う日が来るとはね)
玄「ツモ。面前ツモ・タンヤオ・ドラ4。6000オール」
234赤5赤5888p赤567s赤55m ツモ:5m
憩(ほうほう、赤は松実さんとこに行くんやな。小蒔ちゃんの手にはなかったし一枚も見えてないしで多分そうやとは思っとったけど、ようやく手を開けて確認させてくれたな)
白望(赤4……こっちはさっきからドラも赤も一枚も来ないのに……ダルい)
玄(1枚でも自分のところに来た牌はドラじゃない。順子での手作りよりは縦に伸ばして手作りする方が地雷を気にせずに済む。これが対策その一)
玄(親での跳満、まだまだマイナスだけど、すこしは形勢を立て直せたはず……ここから仕切り直し!)
貴子「……なるほど、ドラと槓ドラが絶対にツモれないから、横に伸ばすと高確率で手が死ぬわけか、今のはそれを念頭に置いた打ち方。自分の能力だけあってよくわかってるじゃねえか」
美穂子「自分の能力の対策も怠らない、ドラを集める能力以上に、その柔軟さと能力を奪われても折れないメンタルの強さが脅威かもしれませんね」
星夏「この人が来年も出てくるわけですか……神代さんと荒川さんもですけど」
純代「……」
一「まあ、松実さんの相手をするのは純くんの予定だけどね。文堂さんが心配する必要はないんじゃないかな?」
貴子「言ってろ、ほえ面かかせてやる」
一「あはは、ボクたちより清澄の対策をした方が良いんじゃないかな? 何なら手を組むのもありだね」
貴子「手を組んだとしても代表は一校だけだからどっかで出し抜く必要がある。そしたら最後に天江が出てくるお前らが有利じゃねえか、却下だ」
一「残念、バレたか」
美穂子「もう、国広さんはどこまで本気なんだか……」
ハギヨシ「一、客人に無礼はいけませんよ?」
貴子「構わない。あの化け物どもの対策で気が遠くなってたところだ。軽口を叩いてる間は気が紛れるから、むしろ助かる」
一「だから僕らが相手するから県外の相手の対策は要らないって。てゆうか、長野予選が抜けられる戦力があったら多分どうにかなるよ」
貴子「まだ言うかこいつは……しかしその通りだな。県予選を抜けるってことは宮永と天江をどうにか出来るってことだ」
一「まあ、うちは咲に衣をぶつけて真っ向勝負するだけなんだけどね。それに、見たところ荒川さんは運……つまり流れの影響を受けるらしい。なら、純くんがある程度はどうにかするでしょ」
貴子「鶴賀も妹尾が居るからな……そこまでのリードなんか消し飛ぶだろうから大将戦で三つ巴の中に無理やり割り込むしかないんだろうが、あいつら相手に池田に期待しすぎるのもなあ……」
美穂子「吉留さんが居たら、『華菜ちゃんなら大丈夫ですよ』と言いそうですね」
星夏「あー、言いそうですね……池田先輩たち、今どうしてるでしょう?」
南一局一本場 ドラ:3p
憩「ツモ。1100・2100」パタン
24567m345s66789p ツモ:3m
玄(速い……)
白望(うーん……キツイなあ。ドラも来ないし、逆転手を作るのもしんどい)
やえ「ふむ、断言はできないが、通常のドラに関しても松実の能力はまだ生きてるようだな」
紀子「……え?」
由華「あの、流石に意味が分かりません。ドラは一枚も松実さんの手に入ってないですよね?」
やえ「裏ドラだ。ここまでめくった裏ドラが、一枚も小瀬川に入っていない。おそらくだが、さっきの松実の8筒や5萬も裏ドラだったんじゃないか?」
紀子「……松実の能力は、ドラの【独占】。たとえ自分が使わなくても他家に入ることはない」
やえ「神代の場合、例えば四暗刻四槓子で二枚余ったドラは他家が使うことも出来るし、手牌に使わない裏ドラは普通に他家に乗る。これが【独占】と【引き寄せ】の違いだな」
やえ「ちなみに、ざっと見たところでは荒川の奴もペンチャンやカンチャンで引いた以外では裏ドラを手に入れていない」
日菜「表示牌が上手く被ってくれたとしても、地雷候補の表示牌は最低10枚、なにが起きても3種は地雷になるんだね」
由華「いえ、10枚開けて3種だとすると表示牌で一種枯れるから地雷は最低4種ですね。他にも、残り一枚しかない実質地雷みたいな牌が2種出来ます」
やえ「松実の場合、大抵は表と裏で表示牌が被るんだがな。神代が表ドラを引き寄せる影響でおかしなことになってるのかもしれない」
紀子「普通に打てば和了るまでに役満が確定するから実戦ではめったに裏までめくらないけど、実験ではほとんどの場合に真下ではないにしろ。表ドラと裏ドラが被っていた」
やえ「神代が引き寄せて5種がほぼ枯れる、松実の裏ドラが表とズレて更に何種かが絶対にツモれないとなると……嫌な卓だな。小瀬川に同情するよ」
紀子「字牌ならまだしも、数牌で6種7種とツモれなくなったら麻雀にならない」
由華「一色で367とか止められたらもう順子は作れませんからね。そしたらその色の数牌は字牌と同じになります」
良子「しかも、自分以外の奴らは平気でツモるから独占されてることにも気付けないのか。小瀬川にとっては本当に最悪だな」
南二局
憩「ツモ。面前ツモ、タンヤオ、平和。700、1300」
234456m34s22567p ツモ:5s
玄(両面待ちではリーチしない、か。普通に考えたらおかしいんだけど、この場だとツモれない牌があるからそれもセオリー通り。と言っても、荒川さんは普段からこうだけど)
玄(カンチャンに変化してからリーチした方が確実に和了れるし、一発ツモがついて高くなるからね)
霞「それにしても、あの子は本当にどうなってるのかしら?」
初美「あの子ってどれですかー? あの卓はおかしいのばっかりですよー」
巴「あれだけのことがあったのにもう立て直してる阿知賀、姫様達の中でまともに勝負が出来ている宮守」
春「なにより、姫様からドラを奪ってる荒川さん」ポリ
霞「荒川さんに決まってるでしょ。一体どうなってるのかしら?」
初美「あの化け物は今更ですよー。あれは人間じゃないですー、姫様の土俵に上がって普通に勝負できる奴が人間のわけねーですー」
巴「はっちゃん、自分が姫様に手も足も出なかったからってその言い方は……」
春「でも、あれは実際に異常そのもの」ポリ
霞「それに、巴も言ったけど、阿知賀が思ったより崩れてこないわね。どうしようかしら?」
巴「次鋒以降の選手は阿知賀も宮守も得体が知れませんからね。何か手は打った方が良いかもしれません」
南三局 ドラ:2m
白望「ちょいタンマ」
玄(……うーん、うちが二位ならともかく、三位の状態で宮守があんまり沈むと後が辛い。喜ぶべきかな?)
白望「……決めた、変だけど、これで」
打:3m
玄(変と言いますが、この場だとセオリー自体が変だったりするわけで……)
白望「ツモ」
11199m北北 ポン:白白白 東東東 ツモ:9m
白望「3000・6000」
玄(あれから4萬、6萬、8萬と落としてこの形……多分、ただの混一色から縦に伸ばす手に移行したんだ。それは多分正解だし、この場ではそれがセオリー)
玄(単騎やシャボ待ちなら、地雷だらけのこの場でもリーチがかけられる。小走さんの私への対策……つまりセオリー通りの打牌)
玄(多分、直感で打ってるんだよね。小走さんの対策通りの打ち方を。これはなかなかのなかなかなのです)
憩(さて、南四局、親番や。この親で稼がんとな)
久「下が平たくなってきたおかげで白糸台が一校だけ浮いてるわね。やっぱり荒川憩は頭一つ抜けてるってことかしら?」
透華「阿知賀がふがいないですわね。衣と勝負になって来たというのは虚言でしたの?」
照「神代さんがあんなことになってたから仕方ない」
和「というか、神代さんが大人しいですね。いえ、ドラを独占している時点でおとなしくもなんともないのですが」
優希「状況がよくわからないじぇ……なんで龍門渕のお嬢様がここにいるんだじょ?」
透華「そのような些事にこだわっては大成しませんわよ?」
優希「そして、咲ちゃんと京太郎はどこ行ったんだじょ? おトイレか?」
まこ「成り行きで龍門渕の部屋で観戦することになったんじゃ。向こうには天江と沢村と井上がおるんじゃったか?」
透華「ええ、不自由はないはずですわ」
優希「二人で出かけただと!? な、何故あの二人を止めなかったんだじょ!?」
透華「止めるも何も、私は原村和と宮永咲を迎えに来たわけですし」
優希「迎えに来たならなんでまだここに居るんだじょ!?」
透華「うぐっ!? そ、それは……」チラッ
久「色々あるのよ。ねえ?」チラッ
透華「そ、そうです! 竹井さんの言うように、色々と事情があるのです!」
和「あの、何故ふたりしてこっちを見るんですか?」
照「……須賀君が居ないとお菓子をくれる人がいない。寂しい」
まこ「それは京太郎全く関係のおて、単にお菓子が欲しいだけじゃな。まったく……ほれ」
照「おお……天使が居る……」
まこ「一箱しか用意しとらんけえ、ゆっくり食べんさい」
照「おかわり」モグモグ
まこ「言ったそばから平らげたじゃと!?」
南四局
憩「リーチ」
玄(だから、早すぎますってば!)
白望(だる……今からじゃ止まらないだろうしなあ……)
小蒔「……」
憩「ツモ、4000オール」
13s123p123567m北北 ツモ:2s
玄(うう……)
憩「一本場入りますー」
南四局 一本場 ドラ:北
憩(和了りやめがあればさっきので終わりにしとるんやけどなあ……五万差ついたし)
憩配牌
147m2s45678p東西西南南
憩(字牌のドラはペンチャンにもカンチャンにもならんから喰いとることも出来ん。先に和了ろうにも今回は手が遅い)
憩(ま、なるようにしかならんか。萬子はなにツモってもオッケーな好形、筒子も三面張、場風牌の対子まであって遅いってのも贅沢な話や)
打:2s
憩(さて、誰がどんな手を見せてくれる? このままうちの連荘で全員飛んで終わりってことはないやろ?)
塞「100%の確率でリーチ一発ツモとか、あんなのどうしろってのよ!! インチキよインチキ!!」
豊音「荒川さんちょーすごいよー。サインほしいよー」
エイスリン「イチマンニンノ、チョウテン」
胡桃「てゆうか、シロってば話聞いてなかったでしょあれ」
トシ「永水の子の能力は9通りあるからダルいって言って聞かなかったけど、阿知賀の子のは説明したはずなんだけどねえ」
エイスリン「シロ、オキテルフリ、トクイ」
塞「つまり、寝てやがったわけね。後で折檻してやるわ」
胡桃「シロは対策知らなくても勝手に正解ルート通るから、そこまでしなくても……」
トシ「それにしたって対策出来てた方が良いんだけど、困ったもんだねえ……」
豊音「それより神代さんがちょー凄いことになってるよー」
塞「うげっ!?」
トシ「どうやら、前半はこれで決まりかねえ。後半もこの点差になるとちょっと苦しいねえ」
エイスリン「ワタシ、ガンバル!」
塞「まあ、手薄な次鋒にエースを持って来てるオーダーなわけだから、頑張ってもらわないと困るけど……」
小蒔手牌
1115888m白白白 暗槓:北北北北 ツモ(嶺上牌):1m
小蒔「槓」
槓:1111m 槓ドラ:8m 嶺上牌:8m
憩(あっちゃー、こらダメやなー)
小蒔「槓」
槓:8888m 槓ドラ:白 嶺上牌:白
玄(寒気が止まらない……敵に回すと本当に嫌な相手だけど、私も赤なしだとこんな感じなのかな?)
小蒔「槓」
槓:白白白白 槓ドラ:5m 嶺上牌:5m
白望(四暗刻四槓子確定。単騎だから全部が危険牌。もう現物以外切れない……まあ、切る必要なさそうだけど)
小蒔「ツモ」
5m 暗槓:北北北北 1111m 8888m 白白白白 嶺上牌:5m ドラ:北 1m 8m 白 5m
小蒔「8100、16100」
『神代選手の二度目の役満――――!!』
『流石のあたしもアレには降参だね。四暗刻だから関係ないけど、数えたら何翻あるか分かったもんじゃない。数えでダブル行けるっしょ多分』
『とはいえ、インターハイのルールにダブル以上の役満はありませんので、通常の役満として扱われます』
『役満二回も衝撃だけどさ、半荘一回で役満二回和了られても、それを凌いでトップ取ってる子が居るんだよねえ』
『インターハイの頂点 荒川憩、その王座は二度の役満にも揺るがず!! しかし、これは―――』
菫「……なるほど、神代小蒔か。大したものだ」
淡「むー……ケイのライバルは私なのに―」
尭深「淡ちゃんの発言は置いといて、手を抜いたりはしてないよね?」
誠子「むしろどうやって手を抜くんだよ、あいつの力で手抜きも何もないだろ」
菫「二位との差が3600……あいつ自身が課したものだから別に達成できなくても何があるわけでもないが」
淡「初めてノルマを阻止するのはわたしの予定だったのに……」
誠子「いや、おまえは同じ学校だろ」
尭深「校内戦で別チームになる気なら、私たちは憩ちゃんにつくからね?」
淡「なっ!? た、タカミの裏切り者ー!」
菫「その場合、最初に虎姫に弓を引いてるのはお前だろうが。さて、どうしたものか……」
やえ「これは松実の手柄だな。本来なら神代の七番目の能力で荒川がここまで競られることはない」
紀子「どういうこと?」
やえ「ペンチャンカンチャンになれば絶対にツモる荒川だが、それを作るまでは並の打ち手だ。そこで松実が枷になる」
紀子「なるほど、そういう……」
日菜「ごめん、私まだわかってない」
やえ「そうだな、分かりやすい例を出そう。ある色の牌が367と絶対にツモれないとする。ペンチャンとカンチャンは何通り作れる?」
由華「12、24、89の三通りです」
やえ「速いな、そして正解。ペンチャンやカンチャンを作る段階で制約がかかっているわけだな」
良子「おお、確かに」
日菜「普通なら12、13、24、35、46、57、68、79、89の九通りあるのに、さっきの例だとそれが三通りしかなくなるんだね」
やえ「神代だけ、あるいは松実だけを相手にするならツモれないのは34種のうちの5種。字牌にも散るから荒川なら大した制約にはならない」
紀子「しかし、二人同時に相手をして、表と裏がズレるというイレギュラーが起こると無視できない」
由華「神代さんのせいで最低五種、松実さんのせいで更に何種かの【絶対にツモれない牌】があって、しかもドラ表示牌で隣の数字が薄くなる」
良子「一色で三種四種と枯れたりツモりにくくなるのが珍しくないわけだな。小瀬川にとっても最悪だが、それは荒川にも無視できない負担になっていたと」
日菜「能力以外の運は並、普通の打ち手が苦しむ状況では荒川さんも同じように苦しむことになるんだね」
紀子「苦しくなってもアレの速度は通常の倍以上、おそらく三倍前後。打点も然り。普通なら多少の不利はものともせずに圧勝する」
由華「けど、相手が神代だった。流石にハンデ付きで勝てるほど楽な相手じゃないと、そういうわけですね」
やえ「本来、荒川の手はあんなに遅くない。十三不塔の配牌からでもあっさり和了るような生き物だ。9種9牌でも流すより続行して面子手を和了る方が期待値が高い」
やえ「まあ、当人は今の段階では『今回は運が悪い』ぐらいにしか思ってないだろうが、その運の悪さには理由があるわけだな」
紀子「やえの不運と違って、荒川の不運には理由がある」
やえ「ぐっ……ま、まあ、そういうことだ」
先鋒戦前半終了
白糸台 131200
永水 127600
阿知賀 65500
宮守 75700
和「玄さん……」
久「シードの二校が競り合いながら下二校に大差をつけているけど、まだ前半が終わっただけ」
透華「厳しいですわね。単純にこの点差が倍になるとしたら、その時点でほとんど勝負が決まってしまいますわ」
照「あの二人の相手するのやだから阿知賀と宮守には是非頑張ってほしい。最低でも永水だけはどうにかしてもらいたい」
まこ「白糸台は抜けて来るとして、もう一校……照さんが嫌と言い出すほどの相手か、これは決まりかのう?」
和「そんな……何とかならないんですか照さん!?」
照「……なぜ今のセリフで原村さんのその反応になるのか理解に苦しむ」
久「阿知賀と宮守はとにかく先鋒を凌がないとね。荒川憩と神代小蒔相手に勝つのは流石に無理でしょうし」
透華「あの二人相手に真っ向勝負を挑むなら照さんか咲か衣をぶつけないと話になりませんわね」
照「あの二人に潰しあいをさせようにも、二人とも基本的にツモ和了りするから辛い。私パスで」
久「残念ながら、うちの先鋒はあなたなのよねえ」
照「阿知賀と宮守頑張って、超頑張って」
優希「ところで、次鋒以降は勝てるのかじょ?」
久「阿知賀は何とかなるんじゃないかしら? 全員が衣相手に半荘一回打ち切れたって言ってたし」
透華「宮守も、次鋒がエースのような節がありますわね。大将も衣が気にかけていましたから期待できるのではないかしら?」
照「おお、希望が持てる情報」
まこ「永水の薄墨と石戸も春大会の大暴れの立役者じゃが?」
和「というか、白糸台は荒川さんがどうしても目立ちますけど、五人全員がエース格という評判です」
久「あら、前途多難ね。先鋒を乗り切ってもチーム虎姫は五人全員が虎、永水も切り札を残している、か」
透華「その前に、まず先鋒を乗り切りませんと。先の障害のことは目の前の障害を乗り越えてからですわ」
今回は以上です。次回は八日後の火曜日の予定です。
先鋒大暴れしてても、中堅以降が原作通りの実力なら、宮守-阿知賀の2トップまでありえる感じにみえるなぁ
塞さんは-59400を鳴かせても塞げるし、はっちゃんは原作通りに塞げばいいし
あわあわちゃんは
白糸台 170000→180000→165000→120600→100000
永水 145000→115000→105000→ 95400→ 93000
宮守 45000→ 53000→ 55000→ 75000→106000
阿知賀 40000→ 52000→ 65000→100000→101000
案外こんな展開もありそうだし。阿知賀の副将が無茶しすぎてるけど天江、妹尾と戦ったうえiPSパワーあるからなんとかするでしょ
白望「……変だけど、これで」
打:2m
憩(小瀬川さん……この巡目にドラ周りが出てくるってことは、小蒔ちゃんとか松実さんの能力、宮守では完全に解析できてないんやろな)
憩(けど、分かってなくても迷った末に正解にたどり着く、ええな、めっちゃええよ小瀬川さん)
引用してきたけど、ここ見て宮守が能力解析できてないってことを他の人に伝えてしまったら白糸台はとんでもなくまずいことになりそう。
亦野「まぁ淡が気を付ければいいだけ。私は(ry」→ロン!
が目に見える
監督「多分、ペンチャンカンチャンを『作る』段階で邪魔されて手が遅くなってるわね。後半は気を付けて」
憩「あ~……なるほど、松実さんと小蒔ちゃんの合わせ技で効果二倍ってことか。やけに手が遅いと思っとったんですわ。道理で」
淡「えっと……ごめん、タカミ、解説して?」
尭深「ごめん、わたしも分かってない」
誠子「弘世先輩、分かります?」
菫「神代と松実は裏も含めてドラをすべて持って行くからな。憩がペンチャンやカンチャンを作るのに必要な数牌を奴らが押さえてしまうということじゃないか?」
尭深「ああ、なるほど。45みたいに連続した牌を抑えられたらカンチャンがそもそも作れないわけですね。道理で憩ちゃんの手が進まないわけです」
監督「神代が八番目を持って来る可能性もある、気を付けて」
憩「了解です、ほな、後半はきっちり勝って来ますんで」
玄「うう……ごめんなさい……」
晴絵「いや、あれだけのことがあったのに良く持ちこたえたよ。流石、阿知賀のエースだ」
憧「てゆうか相手が悪すぎだって。良くやってる方でしょ」
宥「だ、大丈夫だよ玄ちゃん、私がなんとかするから……」ブルブル
灼「うちの次鋒は宥さんだし、宮守も次鋒が強いから、後半を凌ぎさえすれば次鋒で立て直せるとおも……」
晴絵「動揺してのミスはあったが、ここまではいい感じだ。この調子で行ってくれ」
玄「は、はい!!」
白望「ダルい……」
塞「ダルい、じゃないわよ!? また監督の話聞いてなかったでしょ!?」
白望「荒川さんは聞いても無駄だし、神代さんはどれが出て来るかわからないし」
塞「阿知賀の松実! あいつが居る卓ではドラは絶対ツモれないって言ったでしょ!!」
白望「あ」
豊音「シロ、普通にドラカンチャン待ちの三色を狙ってたよー」
胡桃「まあまあ、それを修正すればもっといい勝負出来るってことだから」
トシ「そういうことだね。分かったかい、シロ?」
白望「変な打ち方するのダルい……とりあえず分かった」
小蒔「……あれ?」
霞「どうしたの?」
小蒔「何があったんですか? 憩さんが、七番目の神様相手にここまで競られるはずが……」
初美「私をボッコボコにした七番目の神様を持ってして姫様のこの発言、改めて荒川憩が人間じゃないと思い知らされますねー」
春「見てた限りでは、特に変わったことはなかった。というか、変わったことしかなかったから何かあったとしてもどれが原因か分からない」ポリ
巴「思ったよりも阿知賀と宮守が善戦していました。そのせいで荒川さんが予定ほど稼げなかったのでは?」
小蒔「むー……憩さんがその程度で止まるとは思えないのですが」
初美「姫様のアレへの入れ込みも困ったもんですよー。ぶっちゃけ七番目に対抗できる時点でまともな人間じゃねーですー」
春「それに対抗できる人間二人と七番目を降ろした姫様本人の三人がかりでどうにもならない生き物を人間とは認めたくない」ポリポリ
巴「そういうことです。そして、それは逆に言えば、あの二人は荒川憩を止められるほどの相手ということ」
霞「荒川さんを止めようとしてるうちはいいけど、こっちに牙を向けるようなら厄介よ。油断しないでね」
『後半戦のポイントなど、何かありますか?』
『とりあえず点差だね。先鋒戦で終わりってわけじゃないんだから、負けてる方は次鋒以降で逆転しなきゃいけないわけだし、勝ってる方は盤石なリードを作りたい』
『そのラインはどれぐらいでしょうか?』
『そりゃ後のメンバー次第だよ。次鋒以降に荒川さんみたいな子が居るなら10万差でも余裕で許容範囲だし、先鋒がエースなら3万差でもキツイ』
『次鋒以降のメンバーからある程度推測できませんか?』
『いやー、あの子らどいつもこいつも飛ばして終わらせてるから全力で打った場合の実力が未知数なんだよね。まあ、とりあえず上二校と下二校の差が10万開いたらアウトってことで』
『10万点という数字の根拠は?』
『常識。いや、だってあの子らホントにわかんねーし。常識的に考えてアウトなラインでとりあえず見とけばいいんじゃないかねえ、知らんけど』
『まあ、そうなりますか。他に見どころはありますか?』
『そうだねえ、四人全員が満貫跳満ぐらいは当たり前の高火力型だから、派手に試合が動くと思うよ』
怜「アカン、めっちゃ眠い……」
セーラ「無理せんと寝たらええやん」
怜「いや、当たるかもしれん相手は直接見ておきたい。先鋒戦終わったら寝る」
竜華「怜、無理したらアカンよ?」
怜「無理せんと話にならんやろ。私が荒川に勝ってるとこなんか一個もないんやから」
浩子「まあ、リーチ一発ツモが標準装備ですからね、あれは」
怜「しかも、私と違ってズレてもお構いなしやからな」
浩子「リーチ一発ツモで火力は同等、園城寺先輩と比べて和了率が倍以上ですから、純粋に上位互換ですね」
怜「あ、けど、今の高校生で唯一、私だけはあの一発ツモを止められるかもしれんって小走さんが言うとったで」
浩子「へ? ああ、そうか、なるほど。いくらあれがインチキでも確定した牌の並びを変えられるはずないしな」
怜「とはいえ、私の未来視はあくまで『私が見る』だけやから、実際の牌の並びを観測したわけやない。せやからダメかもしれんとも言ってた」
浩子「まあ、荒川はアレに関してはホンマに人外ですからね。極端な話、五枚目をツモったとしても荒川なら納得します」
起家 憩「ん? 起きてもうたんか小蒔ちゃん?」
北家 小蒔「あ、はい。おはようございます」
憩「対策して来たのに無駄になってもうたなー。まあ、それでもまだ松実さんがおるから多少は影響が残るやろうけど」
小蒔「あ、やはりなにかあったんですね? 憩さんがそんな簡単に止まるはずがありません」
憩「止めた本人に言われてもなあ……」
西家 玄「お待たせしました」
憩「まだ来とらんお人がおるから大丈夫やでー」
玄「えっと……? あ、小瀬川さんがまだですか」
小蒔「道に迷ったのでしょうか?」
憩「いやいやそんな、うちの監督じゃあるまいし。迷うのは打牌だけやろ」
南家 白望「ドラ無し麻雀とかダルい……対策覚えて来た」
憩「ん? あれ? 宮守でもそのへん分析出来とるんですか?」
白望「……うちの監督、誰だと思う?」
憩「ああ、言われてみれば。じゃあ前半のアレは? 普通にドラ待って手作りしてたように見えましたけど?」
白望「……忘れてた」
憩「あははっ、忘れてたて、やっぱ小瀬川さんおもろいなー」
東一局
憩「ロン、2900」
34567s345m22345p ロン:2s
小蒔「あうっ」
玄(リャンカンチャンが必ず三面張になるのも荒川さんの強み。そして、普通なら即リーの三面張でもダマなのが荒川さん)
白望(早いなあ……前半より早くない? たまたまかな?)
玄(リーチするのは一発でツモれるときだけ。あらゆる状況を突破する最強の矛を持っているからこそ、放銃率ほぼゼロの鉄壁の守備と最強クラスの攻撃が両立する)
玄(そして、しれっと私の槓ドラ候補の四萬を持って行ってる……神代さんの力が無くなってドラが来るようにはなったけど、荒川さんはやっぱり規格外)
憩(さっきのままなら、滅多にやらん縦に伸ばす手ってのをやるいい機会やと思ったんやけど、松実さん一人なら横に伸ばしてもあっさり突破出来てまうなー)
憩(そして、起きとる小蒔ちゃんは並の打ち手に過ぎん)
憩(ちょっと残念やけど、ここはインハイの準決勝。楽しむことよりきっちり勝つことが優先やな)
東一局一本場 ドラ:北
玄(五巡目……槓ドラ候補もある程度絞れてきた。赤を使った面子も両面待ちで悪くない形)
赤56m赤5赤567p北北北西西発発 ツモ:中
玄(槓ドラ候補は切ってもリスクがない。いや、無いわけじゃないけど、赤を使い切らなきゃいけない私は槓ドラを全て集めるわけにもいかない。槓ドラ候補はいずれ切る)
打:中
憩「リーチ」
打:東
玄(って、もうリーチ? 早すぎる……これが平常運転とか、反則だよお)
やえ「あれは本来こういう生き物だ。前半は松実と神代のおかげで足止めが出来ていたが、その枷が緩まった。依然として松実が居るから有効ではあるはずだがな」
由華「本当にタチ悪いですよね、ようやく形になって来たあたりで容赦なく次巡で終了のお知らせしてくるんですから」
紀子「伊達に高校生一万人の頂点なんて呼ばれてるわけではない。その一万人にはやえと私も含まれている」
由華「むー……その一万人に含まれるのは拒否します。同い年に負けるのは先輩に負けるのとわけが違います」
やえ「大きく出たな。まあ、来年のエースが勝つ気でいるのはいいことだ」
日菜「だね。頑張れ由華」
良子「勝ち目は薄そうだけどな」
紀子「良子、やる気になってるところに水を差さない」
憩「ツモ。リーチ一発ツモ、一盃口。裏は一枚か、4100オールやな」
123678s2234477m ツモ:3m 裏ドラ:7s
小蒔(やはり強いですね。普通に打って勝てる相手ではない、分かってはいましたが……)
玄(裏ドラもツモるんだ……まあ、それはそうか)
白望(アレもカンチャン扱いか、どうしようもないなあ……)
東一局二本場 ドラ:5p
小蒔(二度寝と言っても、そうそう都合よく眠れるわけではないですし、とにかく今出来ることを……)
玄(うーん、参った。打つ手がない。荒川さんの配牌が悪かったりして偶然止まることを祈るしか……)
白望(そんなド真ん中をドラにされたら筒子は使いにくいなあ……)
憩(親で稼がんと五万差とか無理やし、遠慮なく行きますよーぅ?)
玄手牌
3赤5m4赤5赤55p139s発発中中
玄(さて、この手……どういう方針で進めよう? 発と中は槓ドラ候補だけど、この状況だと……)
憩「」タン
打:中
玄(うっ……これは……)
ゆみ「いくら松実でも鳴くべきだな。相手が悪い」
モモ「ドラを全て抱えてドラ18で和了るなら、ドラじゃないことが確定した中二枚を切って行けばドラを見極めるための巡目を稼げるっすけどね」
佳織「荒川さん相手にそんなの無謀です……前半の神代さんは異常でした」
ゆみ「松実の場合、赤がある分だけ神代より手が窮屈だ。神代のようにひたすらドラを集めて槓するというわけにはいかない」
睦月「うむ」
ゆみ「ここはドラ6を生かして中を鳴いて進めるべきだろうな。荒川の速度を考えれば、全力の速攻を仕掛けても間に合うかどうかだ」
モモ「ドラ18が理想だからドラポン以外は鳴かない、そして自分がドラを独占するからドラポンなんかあり得ない、だから鳴きはNGと言ってたっすけどね」
ゆみ「それが通じる相手じゃない。中ドラ6の12600で満足……いや、それすら和了れるかどうか怪しい」
久「鳴く一手でしょ」
照「相手が荒川さんとか咲とか竹井さんあたりじゃなければ、松実さんはスルー推奨。ここでは相手が悪いから鳴くほうがいい」
まこ「こがあなんわかりゃせんわ。見たことない顔しちょるけえ」
和「鳴いて9索切りが自然ですね」
透華「ドラ6で打点は十分ですし、面前にこだわる理由はありません。翻牌ですし、当然鳴きますわ」
優希「チャンピオンを警戒して安牌に持っとくのはダメか?」
久「あの手でそれは一巡目から卑屈過ぎだし、あの子はカンチャンやペンチャンなら必ず一発でツモるのよ? ツモに対して安牌とか意味ないわね」
まこ「リーチせん時は安いことが多いしのう」
透華「しかも、リーチしたなら見逃すことが多い。荒川憩を警戒するなら防御は不要、全力で前傾、和了られる前に和了るのみですわ」
玄「ポン!!」
ポン:中中中 打:9s
憩(ほえ? ドラ独占するから鳴かんもんやと思ってたけど、そうでもないんやな)
衣「ふむ、ドラを生かした高火力の速攻か。大局を見据えれば己の能力を生かすことよりも勝利が優先、些事に拘泥せず機に応じた適切な打牌であろう」
京太郎「前半戦での自分の能力対策とかもそうですけど、本当に引き出し多いですよね、松実さん」
咲「能力に沿って打つ機械だとしても十分強いぐらいの強力な能力を持ってるのに、それにこだわらない。手ごわいなあ……」
純「俺と打った時はそうでもなかったぜ? ドラ集めて窮屈な手作りするいいカモだったんだが、化けたもんだ」
智紀「無名校ゆえの経験不足は伸びしろの多さでもある。とはいえ、あの時は彼女がここまでやるようになるとは思わなかった」
咲「……うちは伸びしろとかあんまりないですけどね」
京太郎「お前らにこれ以上伸びられたら俺の居場所がなくなるだろうが」
咲「京ちゃんの居場所って、麻雀の実力差とか気にしたら最初からないんじゃないかな?」
京太郎「なにも言い返せねえ……泣いていいか?」
咲「……麻雀が弱くても京ちゃんには居場所があるってことなんだけど」ボソッ
京太郎「ん? すまん、聞こえなかった」
咲「京ちゃんが居ないと雑用が私に回って来るから、京ちゃんは居てくれなきゃ困るってことだよ!!」プイッ
京太郎「前言撤回、殴っていいか?」
咲「暴力はんたーい」
京太郎「お前の振るった言葉の暴力への反撃だ!!」
衣「なあ、夫婦漫才は余所でやってほしいのだが」
咲「嫁さん違います!!」
智紀「などと供述しており」
純「余罪があるとみて引き続き……」
京太郎「からかわないでくださいって。本当にそんなんじゃないですから」
玄「ロン、中ドラ7。16600」
34赤5m赤5赤55p3赤5s発発 ポン:中中中 ドラ:5p ロン:4s
小蒔「あうっ!?」
憩(ま、ノルマは二位に5万差。親は流れたけど、小蒔ちゃんへの直撃は歓迎や)
健夜「やっぱり固いね、荒川さんは。私から見た限りでは攻撃より守備の方が得意な印象かな」
恒子「えー? リーチ一発とかバシバシ決めるし、攻撃型なイメージだけど?」
健夜「ところが、今大会では放銃がまだないんだよ。鉄壁と言っていいぐらいの守備と、最強クラスの得点力を併せ持ってる」
恒子「……あー、20年前に解説がそんなセリフ言ってたなあ。あれと同類かあ……」
健夜「10年前だよっ!!」
恒子「すこやんのこととは言ってないしー?」
健夜「うっ、確かに……いや、二十年前ってあなた幼児でしょ!? 二歳!? 三歳!? 解説のセリフとか覚えてないでしょ!?」
恒子「ん~? 10年前のすこやんが優勝した時に中二だったから、四歳?」
健夜「ギリギリ覚えててもおかしくない年齢っ!?」
恒子「ま、攻防ともに大会最強のモンスターとかすこやんと荒川さんぐらいだからすこやんのことなんだけど」
健夜「他にも居たよ? 私たちが引退した後は春まで理沙ちゃん一強だったし、その後に出て来た咏ちゃんも火力でねじ伏せてるように見えて実は固い、三年の時は攻防ともにトップだったんじゃないかな?」
恒子「見事にトッププロの名前が並びますなあ」
健夜「ま、まあ、インハイの時点で世代最強クラスなんだから、そのままプロ入りしてプロの世界で揉まれたらそうなるよ」
恒子「さあ、果たしてそんな守備も固い怪物を引きずりおろせるのか――!? それともこのまま白糸台が独走態勢を築くのか――!?」
健夜「唐突な実況っ!? え、それホントに素だったの!?」
貴子「まあ、引きずりおろせるはずもなく東四局、神代の親番まで荒川が和了り続けてるわけだが」
美穂子「そして、ここも荒川さんが和了りそうですね」
星夏「神代さんが大人しいですね。さっきと違ってドラも松実さんに入ってますし」
貴子「あれの能力は少なくとも9通り確認されてるが、今はどれも使ってないみたいだな」
一「考えられる理由はいくつかあるね。一番有力なのが能力の発動が任意でないこと。あるいは、何らかの規則性があって決勝のために温存している」
貴子「もしくは、一番厄介な白糸台をここで蹴落とす狙い。次鋒以降でなんとか削って白糸台を三位に叩き落とせればってことで下を引き上げてるってのもあり得なくはねえな」
美穂子「それにしては東一局で荒川さんに振り込んでいます。国広さんの推測が有力でしょうか?」
貴子「ま、言ってみただけだ。私の推測も国広と同じ、有力なのは能力が任意に発動出来ない可能性だな」
小蒔(松実さん、七番目の神様と同様にドラを引き寄せるのに加えて、赤ドラも引き寄せる体質……)
小蒔(初美ちゃんがいつも言っているように、七番目の神様でも十分すぎるほどに強力。敵に回すと良くわかります)
小蒔(まず、数牌は全てツモれない可能性を疑わなければならない。普通なら一番ツモりやすい「一枚も見えていない牌=四枚残っているはずの牌」がツモれるとは限らない)
小蒔(一枚見えて少し薄くなったところでようやく安心できる。普通に麻雀を打っていればあり得ない価値観を強いられる)
小蒔(打ちにくいことこの上ない。人によっては、彼女が卓に居るだけで何も出来なくなるでしょう)
小蒔(そんな松実さん……七番目の神様を相手に、憩さんは圧倒している)
小蒔(……神の力を使わずに彼女と渡り合おうなどというのは、無謀なのでしょうね)
小蒔(けど、私は……)
23444m666s西西白白中 ツモ:白
小蒔「リーチ」
打:中
『ここで神代選手がリーチをかけました! 1-4萬と西の変則三面張、このリーチはチャンピオンに届くのかー!?』
『残念だけど、届かないね。1萬は阿知賀が3枚持ってるし、4萬は自分で3枚使ってる。西は……』
『チャンピオンが雀頭に使ってますね。残り2枚の1-4萬をツモるしかないとなると、厳しいですか?』
『いや、0枚だよ。荒川さんがさっき3ー5萬のカンチャンを作ったからここでツモる、てゆうか今ツモった』
『残り1枚の1萬は?』
『それは内緒。ただ、今の神代さんがツモるのは不可能だろうね。出てくる可能性もない』
小蒔「……」タン
打:3s
憩「ロン。1000点」
345m45s234789p西西 ロン:3s
小蒔「……はい」
霞「なかなか寝ないわね。あの面子ならそろそろだと思ったのだけど」
初美「リードは十分ありますし、決勝に向けて二度寝を温存してくれても構いませんよー」
巴「二回戦も東二局では寝てましたし、今回なんか最初から寝てましたからね」
春「強い相手ほど眠りに落ちやすい。あの相手ならとっくに寝ていてもおかしくない」ポリ
霞「まあ、今回は私たちで何とかしましょう。ここは二位通過でも構わないわ」
初美「姫様が荒川と五分に戦える八番目以上を降ろす決勝が本当の勝負ですよー」
巴「白糸台対策のオーダーですが、他の二校に対しても上手くハマってるように思います。今のリードを保ってくれれば大丈夫かと」
春「阿知賀の中堅以降は未知数。楽観は出来ない」ポリ
初美「はるるは心配性ですねー、荒川みたいな化け物じゃなければ私が何とかしてしまいますよー」
南一局 ドラ:4p
憩(さて、後半ではノルマを達成したわけやけど……前半でダメやったから、ダメ押し行きますよーぅ?)
憩(なんて、自分では基本的に制御できんだけやけどな。守りに入るにしても、サクッと和了ってもうた方が失点減らせるし)
玄(……神代さんが落ちて来たから、荒川さんを止める必要はあまりない。むしろ、直撃で削ってもらう方が早いかもしれない)
白望(勝ち目がないまま二位狙いで決勝に行ってもなあ……何かしら抵抗できる手段を見つけないと決勝でも同じ結果になる。ダルイけど、試せるものは試しておきたい)
白望手牌
12356s237p136m西北 ツモ:2m
打:西
白望(この手ぐらいは和了りたいなあ……)
四巡後
白望「ん?」
123567s237p1236m ツモ:7p
白望「ちょいタンマ」
憩「どうぞ―」
塞「そこで止まるの? 高目とかなさそうだけど……」
胡桃「ここまで来たら三色ピンフで最終形だよね? ドラも事実上ないわけだし」
トシ「でも、あの子の手が止まったからねえ。何かあるんだよ」
塞「でも、その何かがさっぱり見えないんですけど?」
エイスリン「シロ、2筒キッタ!!」
塞「ちょっ!? なにやってんのシロ!」
玄「……」
11144p444赤56s4赤58m ツモ:4p
玄(うーん、4索が槓出来ないからリーチは出来ない。赤5筒も来そうだし……けど、とりあえず8萬を外して聴牌には取るかな?)
玄「」タン
打:8m
白望「ロン。1000点」
123567s77p12367m ロン:8m
憩(その手で23筒切ってダマですか……確かに4筒はドラやから待ちは狭いけど、和了ったら三色確定や言うて三色狙いません?)
『連荘ならず! 荒川選手が親で連荘出来ないのはいつ以来かー!?』
『いやいや、大したもんだよ。あの手順はなかなか踏めないね。あたしでもよっぽどのことがなければ7筒ツモった時に6萬切ってリーチだよ』
『はい、というか、それ以外ないところです。三色にとっても和了れたかもしれませんし……とはいえ、荒川選手の親を止める価値は高いですよね?』
『もち。普通なら積み棒を3本は積まれてマイナス15000程度は覚悟するとこだよ。マイナス1000で済んだ阿知賀も助かったって言っていい』
『これで、後半戦も残り三局凌げばよいことになりました』
『いや、それはどうかねえ?』
『はい?』
『どんな状況だって親が和了り続ける危険は常にあるんだぜ?』
『しかし、一番危険な荒川選手の親は流れましたよ?』
『あの卓で一番危ないのは、本当にあの子なのかい?』
『それはまあ、チャンピオンですし……一体何が言いたいんですか?』
『……ヤバいののお目覚めだよ。いや、眠ったのかね? よくわかんねー』
照「げっ」
久「女の子が上げていい声じゃないわね、どうしたの?」
照「さっきのアレより上があるんだ……阿知賀か宮守、本当に頑張って。私、アレの相手するの本当に嫌」
まこ「……照さんにここまで言わせるとは、決まりかのう?」
和「そんな……なんとかならないんですか照さん!?」
照「その流れはさっきやったからもういい」
透華「ちなみに、アレは今回なにをやらかしますの?」
照「……まだわからないけど、見た感じ、相当ヤバい」
久「さっきのひたすらドラをツモって槓するのも大概だったけど……」
和「なにをされても、ドラを延々とツモり続けて役満確定の和了りをされるよりはマシに思えます」
照「まあ、見てれば分かる」
霞「あら……来たわね」
巴「霞さん、大丈夫ですか?」
霞「ふふ、大丈夫よ。もう離れた場所に居る神様に当てられてしまうほど未熟ではないもの」
初美「二度寝ですよー、こうなったらあとは安心して見てられますねー」
春「親も残ってる。とはいえ荒川が居る」ポリ
霞「あまり稼げないということはあり得るけど、ここから削られるということはないでしょう。一安心ね」
南二局 ドラ:9s
憩(……小瀬川さん、やってくれましたね。親で稼げんかったところでこいつはちょっと不味いですよーぅ?)
小蒔「」ゴゴゴゴゴゴ
玄(……ダメだ、これ、ヤバい。荒川さんに差し込んででも何とか……って、荒川さんって鳴きもほとんどしないんだっけ!? どうするのこれ!?)
白望(だるっ……)
小蒔配牌
119s99m東東東南北北西西
小蒔「」ゴゴゴゴゴゴ
照「お分かり頂けるだろうか?おそらく、公九牌しかツモらない……いや、それよりタチが悪そう」
久「……公九牌の13種からランダム、ではないわね」
優希「公九牌が対象だって言うなら、あの偏りは異常だじぇ」
まこ「三元牌が一個もないのう」
和「で、どうなってるんですかアレは?」
照「もう少し見ないとわからないけど、多分、なにか規則性があって7~9種ぐらいに絞り込んでるんじゃないかと思う」
透華「おそらく、数牌は完全ランダム、字牌は風牌か三元牌のいずれか、合計8種からツモる能力ですわね。過去にそのような牌譜がありましたわ」
照「つまり、どう転んでも四暗刻に加えて大小いずれかの四喜和または大三元がついて……これは酷い」
久「8種32枚からランダムにツモるなら、四暗刻だけに絞れば終局までに確実に和了るわね」
まこ「……わしにはどうしようもないの、照さん、任せた」
照「いや、あんなの任されても困るんだけど」
久「(無視)あら? でも、松実さんがドラの9索を三枚持ってるわよ? さっきよりも独占に関しては力が弱いってこと?」
照「(久に関してはもう諦めた)そうだね。そして、それは状況を悪化させてるね」
透華「8種のうち、ドラが既に枯れています。残りの7種からツモって手牌に少ない牌を捨てる、それで四暗刻を作るのは何巡かかるかしら?」
照「普通に打てば途中で確実に和了るから余りは他家の手にも入る。ただ、それは彼女のツモを圧縮するだけになりかねない」
久「他家の手に入って山が圧縮されるというか、和了りが確定してるから余りをくれるって感じかしら?」
憩(まあ、小蒔ちゃんが端っこと字牌を持って行ってくれるからその分圧縮されて他家の手も進みやすいんやけど、速度で勝負出来ても火力が違いすぎてなあ……)
玄(私が勝つっていうのはまず無理、なら、せめて最悪を回避したい……じゃあ、この状況で一番不味いのは何か?)
玄(荒川憩が独走すること? いや、違う。決勝ならそれが最大の問題だけど、ここは準決勝)
玄(自分が和了れないこと? それも違う。まだ先鋒、後に控えてる仲間がどうにでもしてくれる)
玄(この状況で最大の問題は―――)
咲「神代さんが高い手を和了ること、だね」
智紀「その通り。準決勝なら、白糸台は独走させてもいい。しかし、二位まで遠く離れていくとなると話が違う」
衣「左様。咲と照に幾度となく煮え湯を飲まされて、衣も少しは駆け引きというものが理解出来た。この状況、クロたちにとって非常に不味い」
京太郎「荒川さんの守備は鉄壁、荒川さんが沈んでくることはまずない……でしたっけ?」
純「なら、神代が和了るのはツモか、阿知賀や宮守からのロン和了りだな」
咲「後者はゲームオーバー。直撃を受けた方を次鋒以降で上位二校が徹底的に狙えばいい」
智紀「前者でも、永水の背中は遠く離れていく。一回でも相当辛いし、二回和了られたらゲームオーバーと考えていい」
京太郎「先鋒でゲームオーバーとか、10万点持ちの団体戦とは思えないっすね」
咲「各区間が着順でポイントを獲得するっていうルールならそんなことは起こりえないんだけどね」
智紀「このインハイは、それとは違って点数持越しの10万点持ち。場合によっては一人の力で勝負が決まるルールを採用している」
衣「まるで、一人の力で勝負を決められるものを選び出しているかのようだな」
純「マジでそうなのかもな。俺が居たドイツでは、団体戦って言ったら25000持ちの半荘を各区間で打って、着順によるポイントを競うもんだったぜ」
小蒔「ツモ、四暗刻。8000、16000」パタ
11s999m東東東北北北西西 ツモ:西
玄「あ……」ブルッ
白望「くっ……」
憩(……五万差とか、もう無理やなー。むしろ、勝てるかどうかすら怪しい)
玄「……」
『す、四暗刻――!!!! この先鋒戦で、またまた役満が飛び出しました――!!!』
『えっぐいねえ……相手からしたらたまったもんじゃない』
『永水女子が再びトップの白糸台を射程に捉えました――!!!』
『というか、デッドラインが見えて来たねえ。二位と三位に七万近い差が出来た。10万差ってのも確実な指標じゃないから、下手すりゃもう土俵を割ってるかもしれない』
『この準決勝から決勝に進めるのは二校だけ! 二位の永水女子、三位から一度は見えたその背中が、再び遠ざかる――!!!』
由華「……ここまで、ですかね」
良子「まあ、ベスト8でも県民最高記録と並んでるんだ。俺たちの代わりに代表になった分の義務は十分果たしたさ」
日菜「……荒川でも止められないなら、打つ手はないよね。もう一度和了れば10万差がついて事実上の決着」
紀子「……いや、そうでもない」
やえ「そうだ、手はまだある。ただ……それはあまりにも……そもそも気付けるかどうか……」
紀子「気付いてはいると思う。あの表情は、怯えや諦めではなく、迷い」
やえ「……松実が親か。第一打で迷っている。それはつまり、気付いているということか」
由華「えっと、どういうことですか?」
やえ「荒川には、今、制約がかかっている。全開の荒川なら、アレを止められる見込みは大きい」
日菜「制約って……あ、そうか! けど、それって……」
由華「松実さんには……それは……」
やえ「……そもそも私たちの声が届くわけじゃないが、これは私たちが口を出すことではない。あいつが決めることだ」
やえ「あいつ自身の想いと、仲間の想い。それを天秤にかけて、どちらが重いか、あいつが判断するんだ」
玄(知ってはいたんだ。私の力は、荒川さんと相性が良いって)
玄(勝てないのは、私の力が通じないんじゃなくて、荒川さんはそれでも歯が立たないほど強いだけだって)
玄(分かってるんだ、私の力が、未だに荒川さんを縛ってるって)
玄(だから、その枷を解き放てば、きっと荒川さんが神代さんを止めてくれる)
玄(それでここを乗り切れば、きっとお姉ちゃんたちが何とかしてくれる)
玄(けど、荒川さんを縛る枷を解き放つということは、つまり――)
玄(――私が、ドラを、切るってことだよね)
憧「え? ちょっと、何やってんの玄? それ――」
穏乃「く、玄さん!? あ、もしかして表示牌を見まちがえてるんじゃ!?」
宥「それはないよ。他の誰がどんなミスをしたとしても、玄ちゃんがドラを間違える事だけは絶対にない」
憧「いや、だって、現に――」
宥「それは、ミスじゃない。私たちを信じて、繋いでくれようとしてるんだよ。ドラまで切って賭けに出て、繋ごうとしてる」
灼「ゆ、宥さ……?」
宥「だから、私は頑張らないと」
晴絵「……そうだな。玄は、お前たちを信じて、ドラを手放そうとしてる。宥だけじゃなく、お前たち全員を信じて、だ」
憧「賭け……って、そういうことか。 いや、ちょっと重すぎるってそのバトン」
咲「……この人が、一番強いかもしれないね」
衣「そうだな。次にまみえるときは、衣も気が抜けん」
京太郎「おい、松実さんがドラを切るとどうなるんだ?」
智紀「聞いた情報では、ドラが一切来なくなる。裏も表も、槓ドラは未検証だと言っていた」
純「おいおい、それ最悪じゃねえか。槓ドラはわかんねえとしても、裏ドラなんていう見なきゃわかんねー牌が絶対ツモれないって、ハンデありすぎだろ」
咲「普段と違って他の人の捨て牌を見てもわからないしね。自分の手に来ないから裏ドラだなんて決めつけたら次の巡目にあっさり入ったりするし」
衣「もはや、あの卓でクロが勝つ見込みはないだろうな」
京太郎「って、それダメじゃないですか!?」
咲「ううん。それでいいんだよ。自分が勝つことより、チームが勝てる可能性に賭けた」
京太郎「ごめん、全く理解できてないからもう少し前の段階から説明してくれ」
咲「もう、しょうがないなあ……」
憩「ツモ、2000、4000」
24赤567s34赤5678p白白 ツモ:3s
玄(さっきの手と捨て牌を見る限りでは神代さんは中張牌をツモらないみたいだし、私も赤をツモれない。赤四枚は荒川さんと小瀬川さんに均等に行く計算)
憩(第一打にドラ切ったのは、うちに小蒔ちゃん止めさせるためやろな。なら、その期待、全力で応えましょ)
白望(……ごめん、全く意味が分かってない。第一打にドラ切って動きなし……阿知賀は何がしたいんだろ? 考えるのダルいし、悪いことじゃなさそうだから、後で監督に聞けばいっか)
霞「あらあら……? どうなってるのかしら?」
巴「阿知賀がドラを切ってから、他家にドラが入り出した……」
春「それは多分、能力の反動。ドラを集める代わりにドラを切れない、切るとこうなる。十分あり得る話」ポリ
初美「それより、荒川が勢いづいたように見えるですよー? どうなってるですかあの化け物ー?」
霞「まあ、どう転んでもうちの優位が揺らぐことはないでしょうけど……後で話を聞いてみたいわね。何を思ってドラを切ったのか……」
憩「ツモ! 3000、6000!」
123456s赤5赤5p33455m ツモ:4m ドラ:1m
玄(痛いなあ……けど、神代さんとの差は3000縮んだ。 二位狙いならこれは歓迎)
白望(トップは高みの見物が出来るだけのリードを確保、かあ……まあ、手の内を探りながら二位を狙うしかないかな。あとはみんなに任せた)
玄(神代さんの気配が変わった時にすぐ決断してれば、二位の背中はもっと近かったのかな? って、それは今更か……)
先鋒戦前半終了
白糸台 172300(+41100)
永水 123000(ー 4600)
阿知賀 57100(ー 8400)
宮守 47600(ー28100)
『ほうほう、厳しいけど、二位まで10万差とはいかなかったか。踏みとどまったとみるべきかね、知らんけど』
『しかし、一、二位ともに盤石と言えるリードを築きました。特に一位の白糸台は、三位に対して10万を超えるリードです』
『白糸台は最低でも二位通過に関してはもう盤石、阿知賀と宮守はとにかく永水を狙っていくことになるだろうね。次鋒の段階で山越しとかまでするかは微妙だけど』
『次鋒戦をどう見ますか?』
『ん~? 阿知賀も宮守もここは明らかに永水に地力で勝ってる区間だから差を詰めたいところだね。ただ、二校で潰しあいをするのは避けたい』
『難しいですね……稼ぎたいのに相手にも譲らないといけないとは』
『あとは、弘世さんがどう動くかだね。彼女に狙われた獲物は巣穴に閉じこもるしかなくなるだろうから』
玄ちゃんがドラ切るところが淡泊ですが、阿智賀控室でしゃべってる間に原作ぐらいの葛藤があるんだと思います。
次回は一週間後の火曜日の予定です。
玄「……おねーちゃん」
宥「ありがとう、玄ちゃん」
玄「……ごめんなさい、私がもっと早く荒川さんに任せてれば、永水はもっと近かったかもしれないのに」
宥「十分近いよ。たった7万点の差、私一人でだって詰めてみせる。だから、泣かないで」
玄「う、うう……」グス
宥「大丈夫だよ、おねーちゃんが取り返してきてあげるからね」ギュッ
小蒔「……戻りました」
霞「お疲れ様。どうして浮かない顔をしているのかしら?」
小蒔「いえ、個人的なことです。気にしないでください」
初美「それだと、姫様の個人的なことは私たちに関係ないみたいですよー?」
巴「そうですよ! 私たちに話せないほどのことですか?」
春「……まあ、大体分かるけど」ポリ
霞「あら? 教えてもらえるかしら?」
春「これに関しては姫様の意志を尊重する」ポリ
小蒔「本当になんでもないんです、永水女子も、神代の姫としての私も関係ない、ただの私自身のこと」
霞「……私は、ただの神代小蒔の友人でもあるつもりなのだけど」
初美「ですよー」
巴「あ、すみません、私は時間なので行きますね。もちろん、私も姫様本人の友達のつもりですよ!」
バタン
霞「で、話してはくれないのかしら?」
小蒔「うう……ごめんなさい、これは流石に話しにくいです」
憩「てなわけで、前半も後半もダメでした。エース失格です」
菫「アホか。あんな化け物相手にトップで帰って来た奴がエースでなかったらなんだと言うんだ?」
尭深「てゆうか、二位に五万差がエースの仕事とか、憩ちゃんが勝手に言ってるだけだよね?」
誠子「少なくとも、私が入るまではなかった伝統だな」
淡「ふふふ、ついにケイも私にエースを譲る気になったみたいだね!」
憩「淡ちゃんだけ空気読めとらんな。本気で言っとるわけないやろ。うち以外の誰が小蒔ちゃん止めるんや?」
菫「さっきは小瀬川に親を流されたのが痛かったな。ま、この結果なら十分すぎるぐらいだ。後は任せろ」
尭深「ですね、私たち五人が普通に打てば結果は勝手について来ます」
誠子「淡も言動はともかく麻雀は本物だしな」
淡「えっへん!」
監督「そうね、少なくとも、この準決勝には不安要素はないわ。まさかあなた達が三位に10万点差を逆転されるなんてことはないでしょう」
菫「さて、時間だ。行って来る」
白望「ダルかった……」
胡桃「あー……お疲れ様、シロ」
塞「荒川の親を流したのはファインプレーよね、お疲れ様」
トシ「じゃあ、頼んだよエイスリン」
エイスリン「」カキカキ
豊音「えっと…黒塗りの誰だかわからない人と、シロと、荒川さんと……このツノ生えた人は?」
胡桃「清澄の先鋒かな? 麻雀打ってるところだよね?」
シロ「『決勝に行こう』、だって」
トシ「頼もしいねえ」
エイスリン「イッテクル!」
塞「頑張れー!」
やえ「さて、寝るか」
紀子「おやすみ」
良子「え、マジで寝るのか? 解説は?」
やえ「三尋木プロが一般人向けにやってくれるさ。お休み」
由華「先輩、ごゆっくりお休みください」
日菜「おやすみー」
怜「はあ……マジであんなん相手にするんか……生きるんて辛いなあ」
セーラ「若くして真理に到達したな」
泉「なんですかそれ?」
雅枝「園城寺はもう休んどけ。今夜も特訓や、無理すると明日に響く」
怜「……」スウスウ
竜華「……言われるまでもないって感じやな。相変わらず寝つきがええわ」
浩子「もともと体も弱いんです、しっかり休んでもらいましょ」
咲「で、宥さんはどんな能力なの?」
京太郎「宥さんを下の名前で呼んでるので思い出したけど、お前、昨日玄さんと名前で呼び合うって話してただろ?」
咲「対局中の玄さんってなんか雰囲気違うからつい……直接会ったら名前で呼ぶよ、直接会ったら」
智紀「質問に答えるけど、配牌はランダムでツモでは必ず赤い牌をツモる、というのが現在の松実宥の能力のはず」
京太郎「『はず』ってなんですか?」
衣「昨日、最後に打った時はそうだったということだ。あやつの能力は不安定でな。萬子に偏ったり筒子に偏ったり索子中心だったり赤ドラメインだったりする」
純「確実なのは、赤い牌を多めにツモる能力ってことだな。その中でいろんなスタイルになる」
咲「お姉ちゃんが嫌がりそうだね。照魔鏡はその時点の相手を見るから、対局中に変化とか成長とかされると困るはず」
衣「衣相手に半荘打ち切った時は、先ほどのクロに近い能力だったな」
咲「さっきの玄さん……前半の赤ドラ独占かな? 配牌で常に四枚入ってたよね」
智紀「本人の体調や精神状態で、赤い牌を引き寄せる力が増減する。弱い時は少し偏る程度だけど、好調時は妹の方から赤ドラを奪うぐらいのことをやってのけるそうな」
起家 宥「よろしくお願いします」
南家 菫「よろしくお願いします」
西家 巴「よろしくお願いします」
北家 エイスリン「ヨロシク!」
絹恵「お姉ちゃんたち、起きて来んなあ……」
由子「なのよー」
漫「昨日、二人でどっか出かけたみたいやしな……」
絹恵「インハイで敗退した直後……末原先輩がおって間違いも起こさんと思うけど、まさか飲酒とか……」
由子「代行も起きてこないのよー。万が一があるのよー」
漫「真瀬先輩、なんか聞いてませんか?」
由子「それが何にも聞いてないのよー、まさか恭子と洋榎にハブられるとは思わなかったのよー。ショックよー」
恭子「すまんな、色々と急な話ばっかで余裕がなかったんや。漫ちゃんと絹ちゃんだけにするわけにもいかんしな」
絹恵「あ、末原先輩。おはようございます」
恭子「おはよう、試合はどんなかん……なんやこの点差、また暴れたんかあの化け物ども? 松実でもダメやったか」
由子「善戦してた方よー? 荒川は言わずもがな、神代も大暴れで、飛ばずに半荘二回耐えたのは大健闘よー」
恭子「そっか……後で牌譜見んとな、普段の研究の大事さを昨日思い知ったわ」
漫「昨日はどこ行ってたんですか?」
恭子「……地獄の釜の底を見物にな。いつか私もあそこに行きたいもんや」
由子「なんか恭子が物騒な話を始めたのよー。本当に何があったのー?」
恭子「で、次鋒の前半が始まったとこか。この局の結果だけは私でも読めるで」
絹恵「どうなるんです?」
恭子「宮守が和了る。多分満貫程度の手やろな、これはほぼ確定や」
漫「根拠は?」
恭子「他が三人全員様子見するからな、そしたらあいつは和了るやろ」
由子「他が様子見だとしても、普通は自分に手が入らなくて流局ってこともあるのよー」
恭子「エイスリン=ウィッシュアートに限っては、それは絶対にあらへん」
絹恵「ああ、そういえばそんなん言うてましたね。あいつの居る卓で流局は絶対に起こらんとかなんとか」
恭子「他が誰も和了らんかったらあいつが絶対に和了る。止めるにはあいつより先に和了るしかない」
絹恵「てことは、リーチにベタオリしたら確実にツモられるってことですか」
由子「流局が絶対にないとなると、オリるという決断がしにくいのよー」
恭子「もちろん、直撃喰らうよりはツモられた方がマシなんやけどな。しかし、誰かが行かんとあいつは永遠に和了り続ける。ベタオリはしにくいな」
漫「ベタオリ禁止とか、キツいですわ……」
恭子「普段からベタオリ出来とらんやろ。毎度のように聴牌気配読み損ねよってからに」
漫「うっ……」
恭子「まあしかし、あの卓にはおかしなのが二人おるからどうにでもなるやろな」
エイスリン「ツモ! ニセン、ヨンセン!!」
567m23567s赤567p北北 ツモ:1s
菫(三色確定の両面リーチ、北家だから平和はつかないが、良い手だ。お手本のような手で、普通に打って普通に和了る……狙いやすい獲物だな。自分に手が入ればどうにでもなる)
宥(……弘世さんに動揺はない。想定内っていうことかな?)
巴(なるほど、これはなかなか……ただ、誰かが行かなきゃいけないとしても、私は攻めない。他の二人がどうにでもするだろうから)
菫(問題は阿知賀だな、親番なのに動きを見せなかった。それは、様子見のために親番を一回捨てるだけの余裕があるということだ、この点差でな)
照「松実さんは、龍門渕さんが言ってた天江さん相手にいい勝負した能力ではなさそう」
久「宮守が赤ドラを持ってたしね」
透華「そもそも、昨日の最後の段階では自分のツモで赤い牌を確実にツモる能力だったと言いましたわよ?」
まこ「さっきのがおかしすぎて麻痺しとるが、それも大分おかしいのう」
照「赤い牌は20種。34種の牌のうち、14種の受け入れを考慮しなくてもいい。かなり有利」
優希「でも、国士とかが作れないじょ?」
照「国士の可能性は元々そんなに高くないからそのデメリットは小さい、そうなると明らかにデメリットを上回るメリットがある。中以外の字牌を引かないだけでも相当有利」
久「牌の種類が少ないから七対子なんかの対子手も作りやすいわ」
和「照さんも今回は過大評価せずに妥当な評価をしますね。さっきは大げさに騒ぎ立ててましたが」
照「私はいつでも正当な評価をしている、さっきの卓の人はみんなおかしい」
久「ま、単純計算で無駄ヅモが三分の一は無くなるんだから強いは強いんだけど。さっきと比べると物足りないわよねえ」
照「そこから更に踏み込んで萬子か中が確実にツモれるなんてチートを使われたらたまらない。このぐらいが麻雀の限界……いや、この次鋒戦も十分おかしい」
透華「ですわね。さっきの卓を基準にしないでくださいまし。四人全員に対等なチャンスがある、流局もあれば振り込みもあるのが麻雀ですわ」
和「神代さんも、妙な能力を使わなくても相当な打ち手でしたね。あの卓では通用しないようでしたが」
優希「振り込みマシーンみたいになってたけど、あれは強かったのか?」
照「あのままでも、個人戦に出られるぐらいの実力はあると思う。さっきの卓は本当におかしい」
『ツモ。イチサンニンロク』
透華「で、今回もおかしなのが居ますわね」
照「チャンスは四人に平等じゃない。明らかに彼女がより多くのチャンスを握ってるし、なにより流局がない。染谷さんでもいれば話は別だけど」
まこ「わしが居るとどうなるんじゃ?」
照「多分、彼女の目論見が全て崩れる……というか、染谷さんが崩す」
まこ「それはまた随分と買いかぶられたもんじゃな」
東三局 ドラ:9m
宥(……さて、そろそろ私も動かないとね)
菫(いつまでも様子見をしてもいられん、射抜ける奴を射抜いておくか)
巴(私の親番で暴れるのはやめてほしい、ロン和了り中心の弘世に頑張ってほしいんだけど……)
エイスリン(~~♪)
宥(ご機嫌だけど、こういうことをしたらどうなるのかな? 調子が狂ったりしない?)
宥手牌
234赤55s13赤5p48m中中中 ツモ:1m
打:赤5s
菫「(赤……鳴いておくか)チー」
チー:4赤56s
打:西
エイスリン「!!?」
咲「まあ、そうなるよね」
京太郎「全否定したいレベルでおかしい一打を見た。なにしてんだ宥さんは?」
衣「打っているのがユウだとしても多少おかしな打牌だな。高目を狙いにいったか?」
京太郎「多少じゃないでしょ!? あの手から赤切って狙う高目ってなんですか?」
咲「もちろん、萬子の混一色だよ。筒子かもしれないけど」
京太郎「よりにもよって赤5筒まで切って、萬子と字牌合わせて6枚からの混一色かよ!? 赤二枚切って三翻役狙ってどうする!?」
衣「ユウが萬子に染めたのならおそらく一通がつくから、5翻だ」
京太郎「しらんがな!?」
咲「宥さんと同じ能力を持っててこの相手と打つなら、私やお姉ちゃんも一回は同じように打つと思う。お姉ちゃんなら東二局で動くかな?」
衣「まだ序盤、自分の調子の確認と、あの異人への牽制も兼ねているのだろうな。変化球ではあるが、ユウにとっては常識の範囲内だ」
智紀「確かに萬子が一番種類は多いとはいえ、枚数を見ればまだしも索子の混一色の方が近いのだけど……松実宥なら仕方ない」
純「衣が海底持って来るためにわけわかんねえ鳴きするようなもんだろ、そりゃ仕方ねえ」
京太郎「ダメだ、こいつら全員手遅れだった」
トシ「はあ……こうならないように、デジタル主体の面子が多い次鋒にエイスリンを持ってきたんだけどねえ」
塞「白糸台みたいな特殊な事情がなければ次鋒は五番手、どんな名門でも五番手まで能力者を揃えるのは困難、ですよね?」
トシ「まったく、やってくれるよ、晴絵のやつ。あの子には監督じゃなく選手としての能力に目をかけてたんだけど、私の目も節穴だったかねえ……」
胡桃「えっと、もしかして結構マズイ?」
トシ「あそこまでおかしな打牌を繰り返されるとマズイね。といっても、あの卓には弘世も居るからあんまり無茶は出来ないはずだけど」
白望「ダルい……寝ていい?」
豊音「ちゃんとエイスリンさんの応援しようよー」
塞「誰のせいでエイスリンが頑張らなきゃいけなくなったと思ってんのよ、ちゃんと見なさい」
白望「その件については全面的に荒川さんと神代さんと松実さんが悪いんじゃない?」
トシ「自分で言うのは感心しないけど、それは間違いないねえ。あんたはよくやったさ」
浩子「真似出来んから手本にはならんけど、引き出しが多いっちゅうのはああいうことや」
泉「いや、ただの暴牌ですよねあれ!?」
竜華「泉、声デカい。怜が起きてまうやろ」
泉「あ、すんません……」
浩子「アレにとっては暴牌ではないな。ちょっとした変化球、ストライクゾーンにちゃんと入る見込みがある範囲や」
泉「顔面狙いが外角低めに落ちるような曲がり方せんと入らんと思いますけど……」
浩子「そんだけの曲り幅のある能力や。だから、手本にはならんけど、参考にはなる。能力次第じゃあんな打ち方もあるんや」
泉「マジですか……それを考慮して対策してって考えるとキツイですね」
浩子「キツイで? 先輩らにはわけわからん連中の打ち方見て『なんか分かるか?』とか無茶ぶりされるしな」
セーラ「それは分からんって言えばええだけやろ。答えるからアテにされるんやで?」
泉「それを普通にやってのけてた船久保先輩の凄さが分かって来ました……」
浩子「ま、上には上がおるけどな。とにかく、よく見とくことや。松実宥、あれは相当打てる。能力以外の部分でな」
『ロン、5200』
『アウッ!?』
浩子「とはいえ、流石に6枚から染め手は遠すぎたみたいやな。一向聴までは行ってたけど、弘世に先を越された」
東四局
宥(流石にさっきのは無茶しすぎたか……ここは全国大会の準決勝、あんなのが通る相手じゃないよね)
菫(さっきはウィッシュアートが明らかに動揺していた。おそらく松実が第一打の赤5索でなにかを仕掛けたんだろうな)
巴(弘世が下二校を狙ってくれるなら、私は守備に徹すればいい。とはいえ、油断は出来ない)
菫(しかし、【視えん】な、松実宥。 仕方ない、普通に狙うとするか)
憩「菫さんは菫さんで監督のお気に入りやからなー。楽はさせへんよー」
尭深「弘世先輩、私たちにもどうやって狙ってるのかとか教えてくれないんですよね」
憩「ま、将来プロになったら敵同士やからな。うちはどうせバレるから話すけど」
監督「そうね、今は仲間とはいえ、ほぼ確実にプロになって将来の敵になる相手。特に憩にだけは絶対に話さないでしょうね」
憩「それだけ力を認められてるってことやな」
誠子「ああ、なるほど……そんな先のことまで考えてるのか。部内の対抗戦ぐらいしか考えてなかったよ」
淡「わ、私だって先のこと考えて能力は秘密なんだよ!!」
憩「いや、全部しゃべっとるやん。初対面の頃からなんかお披露目するたびに余すところなく説明してたやん」
淡「ま、まだ隠された能力があるから! ケイ対策の切り札があるんだから!!」
憩「あったら絶対使っとるやろ。ところで、監督は菫さんの能力知らんのですか?」
監督「知らないはずがないわ。教えないけど」
淡「えー? 監督だけ知ってるとかずるい―!」
宥(……もう無くなったと思ったけど、まだあるんだ、例のクセ)
菫「……」グッ
宥(ターゲットは……)
菫「」
宥(――私、か)
晴絵「へえ、最近の試合ではほとんど出なかったんだがな、あのクセ。教えておいて正解か」
憧「へ? 弘世さん、今なんかした?」
穏乃「言われてみれば、腕が少し後ろに動いてから視線を宥さんに向けたような……」
晴絵「……説明せずに言い当てたのはお前が初めてだよ。どんな目してるんだ?」
灼「教えてもらった時は言われても全然わからなかった……むしろ気付いたはるちゃんがすご……」
憧「そして、なんで灼は知ってんの!?」
灼「部長だから」ドヤ
玄「私はお姉ちゃんから聞いたよ。けど、言われても注意して見ないと分からないね。今動いたのも気付かなかった」
晴絵「さて、狩宿は守勢に徹しているし、ウィッシュアートは動揺が収まってない。この局は宥と弘世の一騎打ちかな?」
菫「」ギリリ…
223344p3456s東東東
宥(和了りへの道を素直に進むと射抜かれる……だから)
4赤556688m赤566677s ツモ:5s
打:5m
菫(躱された!?)
宥(回り道をして、目的地も変えてみる。私なら赤い牌である5索や7索、8萬あたりはツモれる、タンピンの高目二盃口から、三暗刻への変化でどうかな?)
菫(偶然か否か――試させてもらう)
223344p3456s東東東 ツモ:6m
打:6s
宥(狙いを変えた――それなら、私も)
4赤56688m赤5566677s ツモ:8m
打:6s
菫(……また躱されたな。深追いは危険、ここでの安全策は東だが、どうしたものかな?)
223344p345s6m東東東 ツモ:7m
菫(リードは十分にある。ここは松実の手を見ておきたいな)
打:7m
宥「ロン、タンヤオイーペーコ―ドラドラ。8000」
4赤566888m赤556677s ロン:7m
菫(3-6-7萬の三面張。無理して単騎で狙っている私と比べて随分といい形だな。放っておいてもツモっただろうか)
菫(そしてあの手、まっすぐ行けば二盃口。リーチかツモで倍満まで見える手だったはずだ、躱されたのが偶然のはずはない。何らかの原因があるだろうな)
菫(狙いが読まれたか、あるいは危険を察知する能力でも持っているのか? なんにせよ視えない相手を無理に狙う必要もない。宮守を狙うとするか)
憩「へえ……面白い人がおったもんやな。さっき打った松実さんのお姉さんでしたっけ?」
監督「ええ、そのはずよ」
憩「菫さんとの読み合い、楽しそうやな~。うちはカンチャンが出来た時点でチェックメイトやからああはならん」
誠子「ゴリ押ししてるように見えて、憩って読み合いでも弘世先輩に勝てるんだよな」
尭深「じゃなきゃ放銃率ゼロとか無理だから。弘世先輩だってミスすれば今みたいに振り込むわけだし」
憩「今のは、読めててあえて答え合わせしたっぽいけどな」
尭深「え? なんでそんなことを……」
憩「自分が間違っていないことと、本当に警戒に値する相手かどうかの確認。これには8000払う価値がある」
監督「変化が豊富で直撃が取れない相手に対して、自分の読みが鈍っているのかと疑いながら半荘打つぐらいなら8000払って確かめてしまった方がいい」
憩「特に、菫さんは読みで勝負する選手やからな。自分の読みへの疑いは打牌すべてを鈍らせて8000どころじゃない損を招きかねん」
菫(また、松実も狩宿も視えない。こいつらはまだ一度も視えていないな、他と何が違うのだろうか?)
菫(視えない理由も分からなければ、視えるものに関しても【それがいつか余剰牌として切られる】ことしかわかっていない。私は自分の力について無知だ)
菫(いっそのこと、憩たちに話してしまって分析を頼めば、分かるのかもしれない)
菫(だが、先のことを考えればそれはあまりに危険だ。プロに進んだ時、私にとっての最大の障害は他ならぬ荒川憩なのだから)
菫(【最大の敵は味方の中にいる】……校内でチーム戦を行って代表を決める白糸台ではよく言われる言葉だ)
菫(そして、皮肉なことに、味方のはずの人間が最大の敵という状況がうちは本当に多いように思う。意識してしまってそう感じるだけかもしれんがな)
菫(例えば、優勝への最大の障害は監督の身内、個人戦に目を向ければ全国でも最大の敵は憩だ、そして、将来のプロ生活を考えてもな)
菫(自分自身の能力、それを研究する機会はいくらでもある。焦って将来の最大の敵に手の内を明かしたくはない)
菫(いつか切られる牌が分かる。いまの私が戦うのは高校生の大会、それだけで十分過ぎるほどのアドバンテージだ)
菫(さて、【視えた】ぞ、エイスリン=ウィッシュアート。その4萬、私が撃たせてもらう)
南一局 ドラ:4s
エイスリン手牌
33467m3467s2278p ツモ:6p
エイスリン「……」
【33678m34567s678p ツモ:8s】
エイスリン(ウン! コレデハネマン! コンドハ、キットアガレル!)
打:2p
『いやあ、綺麗な夢見てるねえ。萬子か索子で三面張の好形聴牌に持って行って、高目の678の三色をツモって跳満ってとこかな?』
『彼女の手は綺麗に伸びる印象ですね。もちろん、上級者の麻雀は大抵がそう見えるものですが』
『いや、彼女の場合はガチだね。受け入れを広く持ってるからいい方向にハマりやすいとかじゃなく、本当に綺麗に手が伸びる』
『えっと、荒川選手の悪形を治すのと同じような、能力的なものだということでしょうか?』
『ま、本人は普通に打ってるだけだし、起きてる現象も少し運が良いだけで普通のことなんだけどね。積み重なれば無視できない異常だよ』
『たしかに、「そういうこともある」という程度の幸運も、毎局続くとなると異常ですね』
『荒川さんも一応それなんだけどね。あそこまで行かないと普通は認識できないかな』
『そうですね。一局だけなら荒川選手の牌譜ですら普通に流してしまうでしょう。まして、ウィッシュアート選手は好形を普通より少し順調にツモるだけですから、言われなければ気付きませんね』
『しかし、綺麗過ぎるのが玉に瑕だね』
『綺麗過ぎる、ですか?』
『そ、綺麗過ぎて読まれやすい。まるで絵に書いたような理想の手牌、牌譜。彼女はそれを卓上に描き出すって感じかな、知らんけど』
照「そう、一局だけなら国士に暗槓で差し込むことも普通にある。なのに何故スルーされないのか」
久「あるわけないでしょ。漫画以外で国士の暗槓和了りなんかお目にかかる機会ないわよ?」
和「振り込むならまだしも差し込むってなんですか、差し込むって」
優希「照さんのは一局どころか一打でおかしいって分かるじょ」
透華「それどころか、廊下ですれ違っただけで分かりますわ」
照「……この扱いである」
和「自業自得です……しかし、玄さんのお姉さんも相当ですね」
久「そうね。弘世菫から逆に直撃を取るなんて大したものだわ」
照「松実さんは打ち方が柔軟で聴牌気配を読んで切る牌を変えるから、なかなか直撃出来ない。だから弘世さんにも視えてない」
久「ん?」
照「永水は守りに徹してるから、聴牌気配を感じたら勝負をしない。そうなると、宮守だけが余剰牌が視えて狙われる」
和「えっと、弘世菫は余剰牌が視えるということですか?」
照「うん。彼女には【リーチ宣言時に切る余剰牌を視る】能力がある。相手がリーチしなかったり、リーチまでに聴牌できなくて直撃出来ない場合は視えないみたい」
透華「初耳ですわ。確かにもともと狙い撃ちを売りにした選手ですからそれぐらいあっても良さそうですが」
照「うーん、能力があって狙い撃ちをしてるというよりは、もともとの打ち方を補助する能力、かな? ただの勘だけど」
咲「今の宥さんは、赤い牌の中からツモる牌をある程度自由に選べるみたいだよ」
京太郎「酷いチートだな。赤い牌を確実にツモるだけでも大概なのに、更にその中から選べるのか」
咲「確実にではないよ、成功率は5択の場合で6割ぐらいで、失敗すると普通に34種からツモる。選べる範囲は限界まで絞っても三種類ぐらいまでしか絞れなくて、その中からはランダムだと思う。
広くすれば成功しやすいし、二種とか一種に絞ろうとすると成功率が激減するはずだよ。多分だけど、赤い牌全体ならほぼ確実にツモるかな?」
智紀「6割の確率で任意の五種まで引く牌を絞って、失敗しても普通のツモが来るだけ……ノーリスクハイリターン。また、赤い牌を確実にツモる能力としても使える」
純「そう聞くと、やっぱり酷いチートだな」
衣「任意の牌をツモるぐらいは造作もないこと、よしんば五種が一種でもさして問題ではあるまい」
京太郎「大問題だよ!! あんたを基準にすんな!!」
咲「全くだよ。有効牌どれかっていうならともかく、任意の牌を自在にツモるとか簡単にされたら困るよ」
京太郎「有効牌どれかなら自在にツモれるみたいなこと言われましてもねえ!?」
咲「あはは、冗談冗談、流石にそれは無理だって」
衣「ふむ、こやつの反応はなかなか面白いな。咲が気に入っているのもわかるぞ」
京太郎「どこまで冗談かわかんねえなもう」
智紀「冗談というのが冗談かもしれない。衣なら任意の牌を自在にツモれてもおかしくない」
京太郎「やめて、シャレになってないからやめて」
純「え? てゆうか、ツモれねえの? 自分と相手のツモ全部操ってると思ってたんだが?」
衣「衣をなんだと思ってるのだ。少なくとも照や咲相手には無理だ」
智紀「純相手にできないとは言っていないことに注意が必要」
京太郎「あの、冗談なんですよね!? どこからどこまでか知りませんけど、どこか一部は本当に冗談なんですよね!?」
衣「ふむ、本当に面白いなこやつは」
菫(……)タン
打:3m
巴(……弘世が聴牌したかな? 警戒っと)タン
打:西
エイスリン(キタ!)
33467m34567s678p ツモ:8m
エイスリン「リーチ!」
打:4m
菫「出たか。ロン、8000」
4567m34赤5666s赤567p ロン:4m ドラ:4s
宥(……一巡前に3萬を切ってその手? さっきの混一色狙いをやった私が言うのもどうかと思うけど、あり得ないよね?)
巴(3萬の代わりに6索を切って 34567m34赤566s赤567p の形ならピンフも付くし、待ちも倍近く多い)
宥(常識的には6索切りでリーチ。跳満確定の三面張で、裏ドラ次第で倍満まである。けど、そうしなかった)
宥(……ということは、狙ったっていうことだよね? 例のクセは出なかったと思うんだけど)
エイスリン(ナ、ナンデ……? サンメンチャン二デキタノニ、ヤスクシテ、ノベタン?)
宥(三年生になってからの試合では例のクセがほとんどなかった、今もそう。さっきのは運が良かったのかな?)
宥(もしくは、ウィッシュアートさんが普通で、私はクセを出すぐらい集中しないと狙えない、とか? 自惚れかな?)
南2局
菫(親番だが、誰も視えんな。ここは自力で打つしかないか。ならば……)グッ
宥(また例のクセ……狙いは)
菫「」
宥(ウィッシュアートさん? あれ? さっきはクセが出なかったと思ったけど、見落としただけだったのかな? 良くわからないなあ……)
宥(けど、このまま宮守が狙われるのは不味い。いまの永水との点差で最下位が離され過ぎると自由に打てなくなっちゃう……いや、そう考える時点で既に自由に打ててないのかも)
宥(弘世さんは宮守を狙ってる……意識がそっちに行っていて、私への警戒は薄い)
宥(弘世さんが待ちを寄せていくタイミングで、私が弘世さんを撃つ。それ以外に宮守を守る方法はない)
宥(役なしにならないように中を暗刻に。あとは弘世さんの動きを見て決める)
宥(難しいけど、やらないと……)
浩子「泉、今、松実さんが何しとるか分かるか?」
泉「えっと……この状況やと高目を作りに行くはずやと思ってたんですけど、ちょっと分かりません」
浩子「高目を作っても、役満直撃でもせん限り永水は遠い。試合展開を考えると、それより先にやらないかんことがある」
泉「やらないかんこと、ですか?」
浩子「弘世への牽制や。どうやら、ウィッシュアートは弘世と相性が悪いらしい。このまま宮守が狙い続けられて沈められたら不味いやろ?」
泉「まあ、四位を飛ばされたら負けですからね。でも牽制言うてもどうやって……?」
浩子「狙いは単純。ウィッシュアートを狙って警戒がおろそかになっとる弘世を後ろからズドンや。それで、弘世は迂闊に狙いを絞れんようになる」
雅枝「となると、あいつは弘世の真似事まで出来るっちゅうことか?」
浩子「上手い下手はともかく、選択肢にはそれがあるでしょうね」
泉「……でも、狙い撃ちなんてそうそう出来るもんじゃ……」
浩子「これは技術の問題や。 相手の手恰好を読み、そこから余剰牌を推測して、そこで和了れるように待つ」
泉「そこで待つって、そうそう都合よく……待てるのが弘世菫やけど、松実宥までそんな……」
浩子「弘世はそうやな。そして、最悪単騎で待つとして、松実は20種の単騎待ちが作れる。くっつけての両面待ちなんかも考慮すれば字牌以外のほぼすべての範囲をカバーできる」
竜華「なるほど、弘世はまあ置いとくとして、松実さんも狙い撃ちに向いた能力なんやな?」
泉「字牌が中以外引けんから向いとるとは思えませんけど、応用すれば狙い撃ちも出来るって感じですかね?」
浩子「そんな感じやな。ほれ、索子の6、明らかに要らん孤立牌なのに残しとるやろ?」
泉「ホンマですね。狙い撃ちかあ……」
浩子「一局ごとの結果だけやない、半荘全体、試合全体、そういうのを見た打ち回し。そのためのオプションとして狙い撃ちがある。どこで覚えて来たんやろな、あの姉妹は」
宥(そろそろ、狙いを絞るはず……この手ならある程度対応できる。筒子は単騎で6種カバーできるから大丈夫だよね?)
111234赤567m6s中中中
菫(ウィッシュアートから8索がこぼれそうだな。そちらに寄せよう)
34567m77s222345p ツモ:7m
打:6m
宥(ウィッシュアートさんの手からこぼれそうなのは、索子。だから、弘世さんは索子に狙いを定めたはず)
宥(おそらく、今のは萬子の形を固定したんだ……多分、索子はまだ形が出来てない)
宥(なら、弘世さんからこぼれるのも索子……私が次にツモるのは5、7索と……あとは萬子の形を固定できる1247萬あたりでいいかな?)
宥(あったかい牌、来て……)
菫(よし、良いツモだ。あとは奴から8索がこぼれるのを待つだけ……)
34577m77s222345p ツモ:6s
打:7s
『ロン』
菫「なにっ!?」
宥「……5200」パタン
11234赤567m赤56s中中中 ロン:7s
菫(……ウィッシュアートに気を取られたか。阿知賀のこいつには先ほどの撃ち合いの件もある、迂闊に動くと痛い目に遭いそうだな)
菫(視えたときは寄せるべき牌が分かるから周りを見る余裕があるが、普通に狙うと読みに集中して警戒がおろそかになりがちだ)
菫(その隙を狙いに来るとなると、攻めるのは視えた時だけにしておくべきか?)
南3局
宥「ツモ。3000、6000」パタン
123456789m赤5赤5p中中 ツモ:中
菫(阿知賀の松実宥……これはかなり手強いな。現状では阿知賀にはあまり目がないが、もし阿知賀が準決に上がって来るなら手こずりそうだ)
巴(親番で大きいの和了られると困るなあ……後半は少し攻めないとダメかも)
『阿知賀は跳満ツモで一気に浮上しましたね』
『そうだねー、これで一応、最下位が沈んでも役満ツモなら飛ばしながらまくりってことが出来るようになった』
『とはいえ、役満は現実的ではありませんよね?』
『そりゃそうだ。けど、更に差が詰まればその役満が3倍満、倍満、跳満と現実的になっていく。永水の安全が脅かされ始めたわけだ』
『そして、3位から2位の背中が見えてくると、別の方向でも駆け引きの前提が変わります』
『そう。3位の阿知賀は4位の宮守を沈めることを許容できるようになる。流石にまだすぐには飛ばないしね』
『宮守女子はこの親番で盛り返したいところです!』
豊音「エイスリンさん頑張れー!」
トシ「阿知賀の子もここしばらくはそこまでおかしなことはしてない、弘世さんも、さっきの阿知賀からの直撃で警戒してるみたいだね」
塞「ということは……」
トシ「この一局はエイスリンが自由に動けるはずだよ。こういう状態がちょこちょこ訪れてくれれば予定通りぐらいには巻き返せるかねえ」
胡桃「おっ、来た来た。行け―!」
『ツモ、ロクセンオール!』
白望「一本場か……エイスリンは普通なら3本くらい積むのが当たり前なんだけど」
塞「ガンガン行っちゃえー! ここで2位まくってもいいわよー!」
南4局1本場 ドラ:2p
菫(調子に乗るな……貴様は他の二人と違って視えてるんだからな)
エイスリン「リーチ!」
打:西
菫「ロン。西ドラドラ。5500」
123789s22456p西西
エイスリン「ソンナ……ナンデ!?」
宥(あの手、西でしか和了れない……途中で3筒や7筒なんかも切ってるから、西を切ってピンフに向かったり三面張でリーチするのも有力だったはずだけど、西で和了れる形にこだわったように見える)
宥(……もしかして、ウィッシュアートさんが西を切るのが分かってたっていうことかな?)
次鋒戦前半終了
白糸台 164200(ー 8100)
永水 107700(ー15300)
阿知賀 71000(+13900)
宮守 57100(+ 9500)
久「先鋒が終わった時よりはマシになったかしら?」
照「そうだね。と言っても、永水も切り札を残してるっていうのが本当なら見たままの数字よりは遠いと思うけど」
和「それでも希望は見えて来た、というか、現実的に逆転があり得る点差まで詰めましたね……あれ、染谷先輩、どちらへ?」
まこ「休憩じゃからな。今のうちにお手洗いを済ませとこうかと思っての」
次鋒戦終了
白糸台 169600(+ 5400)
永水 101500(ー 6200)
阿知賀 73500(+ 2500)
宮守 55400(ー 1700)
照「お手洗いに行くと言ってお菓子買ってきてくれる染谷さんマジ天使」モグモグ
まこ「ついでじゃついで。昨日のスイーツも結局そこのお嬢さまが払ってくれたから部費も余っとるしのう」
>>765ですが、直前に書き加えたものの、3と7両方切ってたらどっち先でも横に伸ばしちゃダメですね。
頭が寝てる時はまともな時に書いたものを信用すべきでした。
次回は8日後の水曜日の予定です。なんかリアルのほうがドタバタしててペース上がりませんが、気長にお待ちください。
コンボぶち破るあたりまで自分でもはっちゃん副将のつもりだったので、どっかではっちゃん副将を明示してそうで怖い。
多分ないと思うんですが……とりあえず投下します。
霞「ちょっと差が詰まったわね」
巴「面目ない……」
小蒔「しかし、宮守の中堅と副将は一回戦ではあまり大きく得点した印象はありません」
春「地区大会でもそう。安定しているけど、稼ぐタイプではない」ポリ
初美「それよりも阿知賀ですよー」
霞「未知数の阿知賀よりも、はっきり危険と分かっている白糸台のほうを警戒したいわね」
初美「そうですかー? どれぐらい危険か分かってる危険なものよりも、良くわからないものの方が怖いですよー?」
春「一理ある、それは宮守にも言える」ポリ
巴「なんにせよ、渋谷の役満に対抗できるのははっちゃんだけだから、よろしくね」
初美「お任せあれですよー」
晴絵「憧、わかってると思うけど……」
憧「言われなくても分かってる……んだけど、席順次第じゃどうしようもないんだよねえ」
灼「薄墨の下家だけは引かないように」
憧「むしろそこはやりやすいわよ。確かに親被りのリスクはあるけど、他家に和了ってもらえば渋谷尭深の対策にもなる」
玄「でも、この状況だと親で連荘を捨てるわけにもいかない。役満覚悟でそれより稼ぐ方がいいかも」
穏乃「よくわかんないけど、憧は勝ってくれるって信じてる!」
憧「へいへい、あんたホントに根拠なしでモノ言うわねー。じゃ、行って来る」
晴絵「席順には気をつけろよー」
憧「分かってるってば」
憧「お疲れ、宥姉」
宥「憧ちゃん……ごめんね、あんまり稼げなかった」シュン
憧「えいっ」ギュッ
宥「ふ、ふえっ!? どうしたのっ!?」
憧「ん~? 頑張った宥姉を暖めてる?」
宥「そ、それは嬉しいけど……暑くない?」
憧「……震えてるよりマシだよ」
宥「……憧ちゃん?」
憧「えっとね、ほら、私、これが全国で初試合だからさ……」
宥「……震えてるね。緊張してるの?」
憧「うん。薄墨の下家引いたらどうしようとか、親でいい手入ったらどうしようとか、そんなことばっかり考えてる」
宥「……そっか。北家で役満を和了る薄墨さんと、オーラスでそこまでの第一打を回収して役満を和了る渋谷さんだもんね」
憧「……うん、でも、もう大丈夫。震え止まったから」
宥「憧ちゃん」
憧「ん? なにゆうね……ふきゅっ!?」
宥「私、あんまり稼げなかったから、まだ打ち足りないんだ」ギュッ
憧「そ、それとこれと何の関係が!?」ジタバタ
宥「……憧ちゃんにあったかい牌がたくさん来ますようにっていう、おまじない」
憧「……」
宥「頑張ってね、憧ちゃん」
菫「戻った。思ったより粘られたな」
尭深「お疲れ様です」
憩「ま、このリードならトントンで終わっても十分。残り局数が減って有利になるだけや」
誠子「だな。無風で凌げばそれだけ逆転の可能性が減る、逃げきり狙いなら稼ぐ必要はない」
監督「ただ、阿知賀はここから完全に未知数、もう少し削っておきたかったわね」
菫「すみません、そのつもりだったのですが……」
監督「いえ、責めてるわけじゃないのよ。彼女は手ごわかった、無理に狙えばこちらがやられていてもおかしくなかったわ」
尭深「中堅以降は未知数……今回は、無理せずオーラス勝負で行きます」
監督「……薄墨が開始時に西家の時だけは気を付けてね。オーラスで薄墨が北家になると目論見が崩れかねないわ」
憩「数牌の多面張を作って確実に逃げる手と、一か八かの勝負手がある。もしそうなったらここで勝負手の方を試しておくのもアリやな」
尭深「うん、そのつもりだよ。じゃあ、行ってきます」
エイスリン「ゴメンナサイデシタ……ッ」
トシ「思ったより苦しい展開になったねえ。エイスリンのスピードなら弘世さんが狙いを定める前に和了れると踏んでたんだけど……」
胡桃「私とトヨネがなんとかするから、エイちゃん大丈夫!」
塞「ちょっ、私は!?」
豊音「ここまでエイスリンさんには大分助けられてるんだから気にしなくていいよー」
白望「てゆうかプラスだし。勝ったんだから泣かないで。泣かれるとダルい……」
エイスリン「……」グスン
初美(お面装着)「……」
憧(にしても、薄墨さんはなんでこんな被り物してんのかしら?)
バタン
尭深「あ、来ましたね」
胡桃「じゃ、場決めし……って、なにあれ!?」
憧「よろしくお願いしまーす」
初美(お面装着)「ですよー」
胡桃「ですよーじゃない! なにそれ!? なんで対局室にそんなもん持ち込んでるの!?」
尭深「電子機器の類は仕込んでないらしいので持ち物検査は通ります、いつも対局室まではあれを被って来ているそうですよ」
胡桃「毎回って……頭痛くなってきた……」
初美「なかなか詳しいですねー、その通りですよー」スポッ
憧「じゃ、場決めしよっか」
久「渋谷さんが起家、そこから薄墨さん、新子さん、鹿倉さんの順ね」
照「無難な席順だね」
まこ「薄墨が北家の時の親は新子、あいつなら上手く立ち回るじゃろ」
和「北家で東と北を鳴いた場合に四喜和で和了ることが多い……でしたっけ?」
透華「その通りですわ。理屈は分かりませんけど」
優希「てことは、あいつが北家の時は東と北を切らなければいいのか?」
久「といっても、切らないわけにもいかないけどね。抱えたままじゃ手が死ぬもの。ある程度手が形になってるなら切って自分が和了る方がいい」
和「彼女が北家の時の親は、その局で和了っても次の局で役満を和了られる可能性が高い、和了るにしても5800程度は欲しいところですね」
照「5800なんだ? 親かぶりの16000じゃなくて?」
和「役満を確実に和了るわけではないですから。流局や自分を含めた他家が和了る可能性を考えれば5000程度で十分連荘のリスクに見合うかと」
久「それでも5800ぐらいはないと期待値がマイナスなのね?」
和「連荘が期待値マイナスなどという状況を想定したくないですが、役満を和了る確率が高いということですので、残念ながら三人が役満に警戒するとしても期待値はマイナス4~5000程度でしょう」
まこ「警戒するっちゅうても、勝負手なら行くじゃろうからな。役満を封殺ってわけにはいかんか」
和「とはいえ、並の打ち手の話です。うちと当たるとして、部長の和了率なら1500点を和了って連荘しても何の問題もないでしょう」
憧(っちゃー、マジで下家引くとはね……どうしよっかなー)
憧(うちらの今の標的は永水女子、ここに役満を和了られたら致命的。だから流すしかないんだけど……)
憧(あたしの得意分野は速攻。対して、この面子はそれほど和了率が高いメンバーじゃない)
憧(鹿倉さんが平均的だけど、他の二人は火力に偏ったタイプで、この中でなら私は高い和了率が期待できる)
憧(悩ましいなあ……まあ、当初の方針通り流すか。迷いが一番よくないからね)
憧「ツモ、500、1000」
13789p55678m チー:4赤56p ツモ:2p
尭深(早い……)
初美(ふむふむ、予選でもこういう鳴きを使った早和了りがあったはずですよー、予選からそれほど大きな変化はないと思っていいですかねー?)
胡桃(……潰さないと、阿知賀と永水を)
東二局
初美(さーて、私を北家だけの女だと思ってもらっちゃ困りますよー)
初美(いえ、まあ、ぶっちゃけ昔は北家だけの女でしたがー、姫様が起きてる時にも頑張ってるのを見て触発されてですねー)
初美(というか、七番目の神様にぶっ潰されて以来、万が一を考えて北家以外の時にも稼ぐようにしたわけでー)
初美(今の私は鬼門に頼るだけの打ち手ではないわけですー)
3456m34s56p東東北西白 ツモ:5s
初美(さあ、親でもきっちり稼ぎますよー)
初美「ツモですよー」パタン
34567m345s5赤5p ポン:東東東 ツモ:8m
初美「ダブ東ドラ1で2000オールですー」
憧(比較的小さい和了りだけど、こういうのが地味に効いて来たりするのよね……つか、なに連荘してくれてんのよ!? 渋谷尭深がいるってわかってないの!?)
尭深(仕込みが最小の7牌の場合と8牌では、和了率に大きな差が出る。32000点の和了率が10%違うとするなら、2000程度の出費は歓迎かな)
胡桃(永水に和了られた……まずいかな?)
小蒔「初美ちゃんは安心して見ていられますね」
霞「北家なしの三麻でも私と五分に打てるぐらいまで腕を上げたしね」
春「それは初耳……」
巴「わたしも初耳です」
霞「去年の個人戦の後かしら? 小蒔ちゃんがもっと強くなりたいって言いだしたじゃない?」
巴「え、ええ……」
霞「で、その後の練習の中で七番目の神様を降ろして初美をボッコボコにしたわけだけど」
春「それ以降は練習の頻度が下がったはず。練習しても神様を降ろしてしまって姫様の地力が上がらないから」ポリ
巴「次の一手とか牌譜の検討とかのために打つ時間を減らしたんですよね? まさか、空いた時間の分だけ私たちに内緒で……?」
霞「そのあと、私たち二人だけで小蒔ちゃんに付き合ってたんだけどね。どうやら三麻だと神様を降ろせないみたいなのよ」
巴「へ?」
小蒔「四人打ちでしか成立しない打ち方をなされる神様も多いですからね。そのあたりが関連しているのだと思います」
春「姫様が眠らずに麻雀の地力を上げるには、三麻しかなかった?」
霞「で、三麻には北家がないじゃない? 小蒔ちゃんだけじゃなく初美の地力上げにもいいかなってことで、ずっと打ってたのよね」
春「……そのわりには三麻特有の変なクセがついてないように見える」
霞「元々四人打ちのための練習だから、最近じゃ準備が面倒なのもあって普通に積んだ山を一つ除外するだけにして打ってるわ」
小蒔「練習に付き合って頂いて、二人には本当に感謝しています」
巴「……ところで、なんで私たちは除け者にされたんですか?」
霞「今言った理由で初美と小蒔ちゃんは固定、練習なら、もう一人は強い方が良いでしょう?」
春「確かに」ポリ
巴「私たちの中で普通に打って一番強いのは霞さんですからね、けど、呼んでほしかったです」
霞「ごめんなさい……あなた達が居ると、甘えて降ろしてしまいそうだったから……」
春「霞さん自身の特訓でもあった?」
霞「そうよ。私も強くなったつもり」
巴「はあ……道理で最近はっちゃんにも霞さんにも起きてる姫様にも勝てないわけだ。酷いですよぉ……」
春「巴さん、私にも勝ってない」
巴「春、追い打ちやめて……」
東二局一本場 ドラ:東
初美(大物ですよー)
12245689m15s2p東東 ツモ:北
初美(東が暗刻になればダブ東ドラ3、そして混一色、うまいこと一通でもつけば倍満、更に面前でツモれば三倍満ですよー)
胡桃(つぶす)
尭深(安手なら連荘はしてくれて構わないけど、良い手入りましたって顔だね。私はどうするのがいいかな? 永水に和了らせるのも悪くないんだけど……)
憧(調子に乗せてらんないでしょ。こっちはただでさえ親で連荘出来ないハンデ背負ってるんだから、速攻で流す!)
憧手牌
12367m23s136788p
初美(混一色一直線ですよー)
打:2p
憧「チー」
打:6m
憩「まあ、うちらとしては薄墨さんにあの手を下二校のどっちかから和了ってもらうのが手堅いやろな」
菫「そうだな。もう中堅戦、ここで下を引き離せば、あとは二校で協力して流してしまえば良い」
淡「ふむふむ」
誠子「私と滝見も、流すという目的なら強力なコンビになります。淡と石戸さんなら大将で逆転もないでしょう」
憩「とはいえ、阿知賀と宮守もそうなったらマズイってのは承知やろ。なりふり構わず止めに来るはず」
菫「そうだな。特に阿知賀の新子、あれはなかなか手が早い」
憩「地区大会の牌譜だと鳴きが上手い印象ですね。役なしにならんように上手く加速してくる」
監督「タンヤオも混一色も遠くて役牌もない時に、三色や一通を早和了りの手段に使えているわね」
憩「松実姉妹と違って能力ってわけじゃなさそうやな。純粋な技術って感じや」
淡「アレは三色狙いかな?」
憩「薄墨さんから1索も出そうやし、三色にはなるやろな」
憧「ツモ。三色ドラ1、600・1100」
123m6788p チー:123p 123s ツモ:赤5p
初美(ちょっ、まだ四巡ですよー?)
尭深(早い……けど、安い)
東三局 ドラ:1s
憧(さーて、来ちゃったか、親番。しかも、この手……)
憧手牌
1113467s27m中中白白 ツモ:4p
憧(ドラ3と役牌対子が二つで和了れば確実に親満……役牌混一色ドラ3をツモっての親倍なんかも目につく)
憧(なーんで流そうと決めてるときにこんな手来るかなあ? こんなの行くしかないでしょ)
打:2m
晴絵「薄墨と渋谷の両方の役満があるから連荘を避けたいとはいえ、これは行くしかないな」
玄「他家の手も間に合いそうにないですね。東と北が切れないから止まってます」
宥「憧ちゃんがんばれー」ブルブル
憧「ツモ。白・中・ドラ6。8000オール」
11167s赤5赤5p ポン:中中中 白白白 ツモ:赤5s
初美(よりによって赤をツモるですかー!?)
胡桃(……阿知賀はドラ爆する伝統でもあるの?)
尭深(うーん……オーラスの仕込みが増えるのは嬉しいけど、これは流石に大きいかなあ?)
和「憧……」プルプル
久「おや、旧友の見事な和了りに感動してる?」
照「分からなくもない」
透華「かつての友と敵になるかもしれないと思いつつも、友の活躍を願う複雑な心境……ですか」
優希「のどちゃん……」
和「……途中の3索切りはあり得ません!! 和了れたから良かったものの、何をやってるんですか!!」
久「ありゃりゃ」
照「1113467s4p白白 で白を鳴いたところだね。確かに4筒を切るのが自然」
まこ「その後で赤5筒を二枚重ねて正当化しおったが、おかしな打ち方じゃったの」
憧(……いやー、なんでかなー? なんか、あの時赤5筒が絶対来る気がしたんだよね。二枚来たのは予想外だったけど)
憧(赤が来るにしても混一色の2翻と赤の1翻で赤を選んだのも変なんだけどさ、なんであんな打ち方したんだろうね本当に?)
憧(普通に打ってたら和了れてなかったっていうのは結果論。普段ならあたしだってあんなの見たら説教する)
憧(けど、どういうわけか、今回もそんな打ち方しちゃってるんだよね。どうしちゃったんだろあたし?)
憧(で、今回も来ちゃうんだよね、やっぱり)
憧「ツモ。面前ツモ・三色・ドラ3。6100オール」
1234赤5699m4赤56s46p ツモ:赤5p
初美(ちょっと調子に乗りすぎですよー?)
尭深(これでオーラスの仕込みは10牌確定。ほぼ確実に役満を和了れる。そろそろ流すのに集中しよう)
胡桃(……うーん……不味いなあ)
『新子選手が大物手を二連続でものにしましたー!! これで阿知賀が二位に浮上――!!』
『いやあ、ついてるねえ。ドラにも恵まれてる』
『ところで、先ほどからまるで赤をツモる確信があるような打ち方ですが、これはそういうことでしょうか?』
『いや、多分偶然だね。「そういうこともある」で流していいと思うよ』
『根拠は?』
『あたしの直感。実際どうかは知らん』
『先ほどのウィッシュアート選手よりは分かりやすく変な打ち方でしたけど、偶然ですか?』
『偶然だね。変な打ち方がたまたま上手くハマっただけだよ。知らんけど』
東三局二本場
憧(……さっきのおまじないのおかげなのかな? 宥姉に守られてる感じがする、ありがと、宥姉)
憧手牌
12333578m57s中中東 ツモ:9m
憧(ツモったのはあったかい牌か。よし、行ける!)
打:東
初美「ポン」
憧「あっ!?」
咲「そりゃ、あんな和了りを二度も続けたら気が緩みもするよね」
京太郎「宥さんとみまごうばかりの和了りだったからな」
衣「情けない、あの程度で浮かれるとは……衣と打った時は常に注意深く他家の気配を伺っていたというのに」
一「いや、浮かれるでしょ。あんなの親で立て続けに和了ったら」
星夏「ええ、天江さんには日常茶飯事でしょうけど、私なんかにとってはまれにみる幸運ですから」
美穂子「そうね。しかも、新子さんはこれが全国での初舞台、経験の少ない一年生には刺激が強いわね。私でも同じ状況では冷静でいられるかどうか……」
純「国広くんたち、来てたのか?」
智紀「少し前にハギヨシさんから風越の面々がこちらに来ると連絡があった。それがさっき着いた」
純「そういうのはちゃんと言えよ」
智紀「連絡が来てすぐ、具体的に言うと次鋒戦の後半が始まったあたりで、ちゃんと話したはず」
純「あれ? そうだったか? わりい、よく聞いてなかったみたいだ」
憧(だ、大丈夫……まだ東を鳴かれただけ……北まで晒さなければ西と南は入らないはず)
憧(誰かが北を切ったとしても、北を晒してから最短でも5巡の猶予がある。大丈夫、この手なら行ける……)
初美「槓」
暗槓:北北北北
憧「なっ!?」
尭深(暗槓……確かに、晒すことが重要だというならこれでも行ける)
憧(そんなのアリ!? これじゃ東や北は一枚も迂闊に切れないじゃない!! いや、下手すりゃ一度も鳴かなくても……あ、その時は私の手にないからいいのか)
初美「ツモですよー!」
234p西西西南 ポン:東東東 暗槓:北北北北 ツモ:南
憧(逆転された……あの東切りが迂闊だった)
尭深(東三局だけでマイナス22300……流石に不味いかな? けど、うちよりも……)チラッ
胡桃(ヤバイヤバイヤバイ……なんとかしないと)
初美「第一打の東は無謀でしたねー、一年生?」
憧「ぐっ……」
胡桃「そういうのいいから点数申告! まだ言ってないでしょ!」
初美「あ、8200、16200です」
胡桃「あと、服をちゃんと着る!!」
初美「は、はいですよー!?」
胡桃(……あ、なんかちょっと落ち着いてきた。いけるかも)
東四局
憧「チー」
チー:234s
初美(うっとおしい鳴きですよー。こいつが234で鳴いたってことはおそらく三色、その辺の数牌は切りにくくなりましたー)
憧(と、思うじゃん? 実際そういう風に打ってきたしね。けど、今回はただの後付けなんだよね。 毎度同じ手ばっかりなわけじゃないっての)
567p6789m東東白白 チー:234s
打:6m
胡桃「ロン」パタ
憧「へ?」
胡桃「タンヤオピンフ。2900」
45678m23445688s ロン:6m
憧(聴牌に気付かなかった上に高目切っちゃったか……って、この点差でその三面張をダマ!? 何考えてんのこの人!?)
憧(そりゃ、確かにリーチしてたら私はオリて振り込まなかっただろうけど……その三面張ならリーチするでしょ?)
憧(渋谷尭深と薄墨初美だけじゃない、この人も十分おかしい……)
憧(あーもう、三人全員ヤバいってどんな卓よ!? いや、慣れてるけどさ。それでもキツイもんはキツイのよ)
トシ「ようやくエンジンがかかって来たねえ」
白望「胡桃はちっこいくせに小回り利かないから……」
塞「豊音は大きいけど色々使い分けて小回り利くよね」
豊音「えへへー。それほどでもー」
エイスリン「……」ジワッ
トシ「あんたの責任なんかこれっぽっちもないよ。いい加減になくのはおやめ」
エイスリン「!!」
トシ「調子の悪い時や相性の悪い相手にあたることはあるさ。それをフォローし合うのがチームだよ」
エイスリン「♪」パアア
塞「監督はどうやってあれで会話を成立させてるのかしら? いまだに謎だわ」
トシ「手牌を読む要領だね。この子くらい表情豊かな相手なら造作もないことだよ」
豊音「いやいや、それちょーすごいよー!?」
東四局1本場
憧(聴牌気配が読めないっていうなら聴牌する前に速攻で……)
胡桃「ツモ。1400オール」
34赤5p11134m678s東東 ツモ:5m
憧(嘘っ!? 早い……)
東四局四本場
憧(調子づいてるわね……まあ、最下位の親がツモるのはまだいいわ。二位との差は広がらないしね)
憧(で、もうここまで来たら連荘もどうでもいいわ。オーラスまでにどうやっても14局、つまり、役満……下手すりゃ地和が確定だもん)
憧(じゃあ何が問題かって、そしたら私だけが親番が不利になるってことよ)
憧(だってそうでしょ。渋谷尭深を警戒して連荘を控える必要がもう全くないんだから、薄墨初美の四喜和だけが警戒の対象)
憧(それで親かぶりするのは私なんだから、やってらんないっての)
憧(そう言えば、ここまでの渋谷尭深の第一打は何だっけ?)
憧(白発白中中発白中発4s……ここで5索。大三元確定で、残りの面子を作りに来てるって感じか)
尭深「ツモ。700、900」
444678p45566m33s ツモ:7m
憧(連荘終了。11局打ってようやく南入か、長い半荘ね)
南一局
尭深(既にオーラスまでに14局以上あることが確定している……隠しておいてもいいけど、点差が少し心もとなくなって来てもいる)
尭深(この親番で使っちゃおうか? 憩ちゃん以外を相手に使うことが出来るとは思ってなかったけど)
憩「おや? 尭深ちゃん、アレ使う気なんかな?」
誠子「ああ、アレか。確かに使えるな。起家で使えるとは思わなかったけど」
淡「あ、アレね! もちろん知ってるよ!」アセアセ
監督「決勝の相手を考えると、使って牽制した方がいいのか、それとも使わずに隠すほうが良いのか、微妙なところね」
憩「この試合を勝ちぬくことも少しは考えた方がええような気がします。思ったより大きな手が多い、このままやと危ない気がしますね」
菫「10牌以上を仕込んだ場合にしか出来ないんだったか?」
憩「正確には、オーラスを迎えた時にそれまでに仕込んだ配牌が余る場合、ですね。親以外で使うメリットないですけど、一応、子でも使えるみたいです」
誠子「自分の親が流れた後で条件を満たして、オーラスより削りたい相手の親番で和了りたい場合とかなら子で発動する意味もあるんじゃないか?」
淡「親で連荘しながら条件満たせばいいんだよ! これで最強!」
憩「出来たら苦労せんわ。誠子ちゃんのはその通りやな」
菫(やはり、憩に依頼して能力を分析するのは抗いがたい魅力だ。ほぼ完璧に自分の能力を把握できるのは大きい)
憩「尭深ちゃんのコレには苦労しましたねー。そもそも条件満たすのが大変な上に、最初は14局目の時点で自動発動しかなかったんが任意に発動できるようになったりしたんで」
菫(が、高い分析力は、それゆえに危険だ。その後で能力が変化するなどしても、元の能力を手掛かりに簡単に見破られかねない)
尭深配牌
45s66p白白白発発発中中中 ツモ:6s
尭深(うわっ!? これは予想外だよ……)
尭深「ツモ」
初美・憧・胡桃「は?」
尭深「天和・大三元。16000オールです」
憩「……そういえば、地和とか天和を出した半荘のオーラスがどうなるか検証したことありませんでしたね。切った牌がないからなにが起きるかわからん」
誠子「これを見て最初に言うセリフがそれか!?」
憩「いや、だってアレ使ったんやから、残り三牌が和了れる組み合わせになっただけ。大して驚くこともないやろ」
菫「まあ、その研究熱心さに助けられてもいる。そして、これは憩の言うとおり起きてもおかしくないことだ」
監督「それにしてもラッキーね。天和なんていう目立つものがついてくれたおかげで、他校の研究を妨害できるわ。流石に決勝までに研究が間に合うということはないでしょう」
『て、天和です!!! 天和が飛び出しましたー!!』
『おおうっ……これは流石に驚いたねえ。ちなみに、記録上、インターハイで天和が出た対局はない。インハイ史上初の天和だね』
『こ、これはどういうことでしょう三尋木プロ!?』
『いやあ……仕組みはわかんねーけど、多分、ある程度は必然なんじゃないかね? 本人あんまり驚いてねーし』
『で、でも、天和ですよ!?』
『落ち着けアナウンサー。天和っていってもただの役満だぜ? そんなもん先鋒でポンポン出てただろ』
『し、しかし……』
『あと、本人あんまり驚いてねーけど、全く驚いてないわけじゃない。本人にとっても予想外ではあったはずだねい。天和を和了る能力なんていうインチキではないわけだ』
『そ、そうなんですか?』
『例えば……そうだね、配牌で3面子を確実に確保する能力だとして、残り5牌が1面子1雀頭になってれば天和になるわけだろ? あり得ると思わない?』
『な、なるほど……三面子というと、例えば、あの大三元の部分ですね?』
『そそ。てなわけで、天和については偶然なんじゃないかと思うよ。 どこまでが必然かは知らんけどねい』
久「照、アレどうなってるの?」
照「なんでも私に聞けば分かると思ったら大間違い、私にもわからないことはある」
和「そういうのいいから早く教えてください」
透華「原村和の言うとおりですわ」
まこ「まあまあ、マジでわからんっちゅうこともあるかもしれんじゃろ」
照「多分だけど、そこまでに捨てた第一打が配牌になって戻ってくる能力だと思う」
まこ「って、わかるんかい!!?」
優希「まこ先輩、照さんをなんだと思ってたんだじょ?」
まこ「少しでも情けをかけたわしが馬鹿じゃった」
久「第一打……そういえば、三元牌ばかり切ってたわね」
照「オタ風より三元牌優先だったから気になってた。さっきの二本場では配牌で対子であった形から発切ってたし。そして、直前の二局の第一打」
和「4索と5索ですね」
照「それがそっくりそのまま配牌になってた。三尋木プロの解説に沿うなら、そこまでが必然。天和になったのは偶然」
久「つまり、天和は偶然だけど、その11牌については必然なのね? 3ー6索のいずれかと適当な対子……まあ、あり得ない確率ではないか」
照「あと……いや、なんでもない。本人が意識してないみたいだからこれも偶然かもしれないし」
久「まだなんかあるの?」
照「その局の最後に切った牌が次の局の最初のツモに、最後の一つ前に切った牌が次の局の二番目のツモになる……と思うんだけど、本人がそれを意識してる様子がない」
久「この前の局の最後の捨て牌は6索のツモ切り……他の局はどうなってるかしら? 私の記憶だと確かにその通りなんだけど」
透華「覚えている限りでは私もその通りのように思いますが……」パチン
?「中堅戦のここまでの牌譜でございます」スッ
透華「ご苦労」
まこ「……い、今のは?」
透華「……確認しましたわ。確かに、照さんのおっしゃるとおりになっていますわね」
照「それを前提にすると、さっきの天和は二牌が対子で来ればいいという条件だったことになる。天和でなくとも、どうせ大三元で役満。いずれにしても役満を和了る手だった」
咲「天和は偶然だと思いたいな。解説でも言ってるけど、大三元までが必然で、天和は偶然」
京太郎「大三元が必然っていう時点でアウトなんだが」
咲「それにしても、もったいないなあ渋谷さん。あれ、色々応用できそうなのに」
衣「む? なんの話だ?」
咲「最後とその前に切った牌が、次の局の最初と二番目のツモになってるんだよ」
衣「……ふむ、言われてみれば確かに。ならば、少なくとも最初の一打は先を見越した打牌ができるな。前の局の状況次第では赤ドラなどを確実に入手することもできよう」
京太郎「……え? 言われて一瞬で納得するってことは、もしかして覚えてるんですか!? ここまでの牌譜を、全部!?」
智紀「……それは普通では?」キョトン
星夏(えっ!?)
純「普通じゃねえよ。自分が打った手ならともかく、観戦して四人分覚えてるのは流石におかしい」
星夏「で、ですよね!?」
美穂子「……え? 文堂さん?」
星夏「え? キャプテン?」
美穂子「ダメよ、二年後にキャプテンになるつもりならそれぐらい出来ないと。78位だった頃の文堂さんの牌譜、私、全部覚えてたでしょう?」ニコッ
星夏「」
京太郎「え? マジで? それが普通なの? 俺、自分の手も完全には思い出せないんだけど」
一「須賀君、落ち着いて。このメンバーは基本的におかしいから(ボクも覚えてるけど)」
京太郎「国広さん、なんか小声で言いませんでした?」
一「ん? 気のせいじゃないかな?」ニコッ
咲「なんだろう、多分、繋がってるんだよね。前の代の種を回収して新しい芽が育つみたいな感じで、前の局と次の局が繋がってる」
貴子「長野だけでほとんど埋まってもおかしくないと思ってましたけど、今年は本当に豊作ですね」
靖子「そうだな……ところで、おまえ、教え子はいいのか?」
貴子「龍門渕と清澄が一緒ですし、福路が居れば変なことにはならんでしょう」
靖子「まあ、本当の子供と違って高校生だしな。一通りの分別はつくか」
?「ん? あれ、藤田プロ?」
?「へ? おおー、お久しぶりですー!」
貴子「小鍛治プロ……と」
靖子「福与アナか。久しぶりだな」
健夜「二人はどうしてここに?」
靖子「インハイの観戦ですよ。そちらは?」
恒子「同じく観戦。ただし、打ち合わせを兼ねて」
健夜「打ち合わせ要素皆無だったよね!?」
靖子「……苦労されてますね、小鍛冶さん」
健夜「……分かる?」
靖子「以前、それと一緒に仕事したことがあるので」
健夜「や、やっと理解者が……」
南一局一本場
憧(て、天和とか……冗談でしょ? そんなのどうしろって言うのよ……)
初美(天和を和了る神様とか姫様の降ろす神様にもいないですー。そんな能力あるはずないから多分偶然ですねー)
胡桃(せっかく少し浮上したのにまた三万まで減った……天和とかふざけてる)
尭深(動揺してるのは新子さんだけか……天和なんだからもう少し、せめて私と同じぐらいには驚いてほしいんだけど)
穏乃「先生、あの天和どうなってるんですか!?」
晴絵「わからん」キッパリ
玄「断言!?」
晴絵「ここまでの第一打がそっくり手牌にあったから、オーラスの役満に関連した能力だな。それ以上は不明。多少のアタリはついてるけど、オーラスを見てからだな」
宥「って、あ、憧ちゃん、それは!?」
『ロンですよー。4200ですー』
晴絵「うーん、振り込みは仕方ないとはいえ、憧なら読めたはず。少し動揺してるな。とりあえず南場を凌いで戻ってきてくれれば落ち着かせられるんだが」
南二局
胡桃「ロン。タンヤオピンフ三色ドラドラ。12000」
34赤555m34赤5s34567p ロン:8p
尭深「はい……」
初美(こいつは本当に聴牌気配がないですねー。てゆうか、この点差でもダマを貫きますかー?)
南三局
憧(あ、親じゃん……てことは薄墨初美に警戒しないと)
初美(前半で暗槓を見せたから、他家が東も北も一枚も切らないだろうことは想像に難くないですー)
初美(ですがー、東と北が対子以上で揃うだけでもそれなりのアドバンテージなんですよー? 最悪でもオリに使えますしー)
初美(一枚も切れない東と北。五巡以内に和了れる確信がない限り、私の役満を警戒して手を引っ込めることになるですよー)
初美(一方、私は別に役満で和了る必要は全くなくて自由に打てるわけですー)
初美(そしてー、字牌が手に入るアドバンテージを生かす手役といえば混一色ですよー)
初美「ツモ、2000、4000」
1237899s東東東北北北 ツモ:6s
初美(ちょっともったいないですけどー、聴牌気配が読めない奴がいるから和了れるときに和了っとくですー)
憧(役満親かぶりよりはマシ、かな? さて――)
尭深(……南場は連荘がなかったから、残念だけどこのオーラスには大したものは仕込めてない。プラスで終われれば十分、かな)
憧(――冷静に考えてみればさ、さっきの天和、第一打の牌を全部使い切ってたじゃない? つまり、オーラスに仕込んだ役満があそこで出ただけの可能性が高い)
胡桃(オーラス……とりあえず渋谷尭深の役満に警戒)
初美(さっきのがあるからもう弾切れだと思いますがー、万が一があるから警戒ですよー)
憧(あの時点でオーラスに仕込む第一打が14牌確定……配牌の数を超えてた。そのあたりが発動キーかな?)
憧(なら、ここは渋谷尭深はほぼ無警戒でいいはず。他の二校は渋谷尭深の役満の秘密が分かってなければ警戒して手が縮むはずだから……ここはチャンスね)
南四局
憧(って、つくづく宥姉に助けられてるなあ、今回。ここまで赤い牌しかツモってないよ)
憧手牌
112233m赤5赤5p11578s ツモ:赤5s
憧(宥姉なら赤い牌が来るよね。なら、ここで切るのは当然……)
打:8s
宥「憧ちゃん……」
晴絵「まるで宥みたいだな。ここで迷わず7索待ちか。字牌をツモっても中以外なら待ちを変える気はなさそうだな」
玄「ここまでの打ち方が憧ちゃんの打ち方って言われるとちょっと違和感があるね。お姉ちゃん、憧ちゃんとなにかあった?」
宥「え、えっと……ないしょ」///
玄「なっ!? お、お姉ちゃんが、私に隠し事を……?」
『ロン、チートイドラ3。8000』
晴絵「直撃したのが永水なら最高だったんだがな。しかし、これでこの半荘をプラスで凌いだことになる」
灼「役満の親被りと親役満のツモを喰らってプラスなら上出来だとおも……てゆうか収入だけ見ると5万点を超えてる。普通にすご……」
久「ねえ、照?」
照「なに?」
久「新子さんのアレ、本当に能力じゃないの?」
照「断言するけど、違う。ただの偶然」
久「赤い牌は34種中20種。確かにツモる確率は高いけれど、それが十回、二十回と続いたら十分異常よ? 偶然とは思えないわ」
照「と言っても、偶然なものは偶然としか言えない」
久「いくらあなたの言葉でもねえ……」
照「私の言葉を疑うのは良い兆候と見るべきか……」
和「しかし、アレを見て偶然で済ませるのはいくらなんでも……阿知賀にはそれに近い能力の宥さんも居ますし、何かあるのでは?」
照「……もし、松実さんと新子さんになにかあって、それであの偶然が起きているとするなら」
久「するなら?」
照「……素敵な偶然だと思わない?」
和「……もういいです。確かに確率的にはないことではありません。あれは偶然、それでいいんですね?」
照「原村さんは物分りが良くて助かる」
久「そんなこと言い出したら麻雀では全てが偶然あり得ることになるのよ? 私は納得しないわ」
和「照さんや咲さんと会っていなければ、全て偶然なのは当たり前だと反論していたところですね」
中堅戦前半終了
白糸台 158200(ー 6000)
永水 120600(+12900)
阿知賀 77000(+ 6000)
宮守 44200(ー12900)
恭子「こいつら、役満がポンポン出る荒れ場でようやるわ。宮守のとこに座ってるのが私やったら飛んでるかもしれんな」
由子「鹿倉はそんなに得点力がないはずだったのよー」
絹恵「リーチかけないから安手が多かったし、勝ってるから連荘伸ばす必要もない場合が多くて連荘もろくにせんかったからそう見えただけかもしれませんね」
漫「言われてみれば、和了率は高いんですよね。やろうと思えばこれまでの試合でも清澄の竹井みたいな真似が出来たかもしれんってことですか?」
恭子「流石にアレと比べたらアカンやろ。洋榎があそこに座ってればトップか、悪くても二位は取るはず。この状況で出し惜しみはせんはずやし、トップ取れんかった以上は洋榎より下と見ていい」
由子「けど、洋榎あたりに勝てるほどじゃないにしても鋭い爪を隠してたってことなのねー?」
恭子「せやろな。薄墨初美は、まぐれで勝負になる相手やない。ちゅうことは、この卓で打った四人は結果に相応しい実力を持っとるはずや」
次回は一週間後に。
はっちゃん副将がどこかで明示されてたらごめんなさい。
『そして始まる後半戦。荒川選手が開始早々に親で連荘します』
『あんたどんだけ稼ぐのさって感じだね。先鋒で10万削られて終わるとかマジであり得る流れだったよ』
『しかし、この試合で初めてのロン和了りがここで出ます』
『ここまで全部ツモとかマジっすかー。やってる競技違くね?』
『私もそう思いたいですが、残念ながら間違いなく麻雀です。神代選手も決して守りが薄いわけではないんですが、初めての放銃は神代選手になりました』
『三位の阿知賀はこれがあったから戦えてるね。この一発で二位の永水とは33200点も差が詰まった。これは中堅戦まで生きてるよ』
『その後、荒川選手が再び連続和了を伸ばします。東四局では神代選手のリーチを1000点で蹴りました』
『その直後に小瀬川さんに1000点で親流されたけどね』
『二連続で1000点という最小点数での進行。これは嵐の前の静けさでしたね』
『1000点でリーチを蹴られたところが変わり目、そして、凪の一局をはさんで怪物が目覚めた』
『オーラスまで終始手牌が公九牌のみでした。和了れば最低でも混老頭対対で満貫』
『いやいや、あの状態のあの子は鳴かない。公九牌のみで順子はつくれないから、七対子以外で和了れば四暗刻が確定だよ。しかも七対子は眼中になさそうだしね』
『ということは和了れば役満、圧倒的な火力を武器に勝負を決めにかかりますが、ここでも彼女がそれを阻止します』
『流石の荒川憩。まあ、神代さんも一回は役満和了ったんだけどね。しかし、南三局、南四局ときっちり止めてみせた。ただ、神代さんがもう一回和了っていてもおかしくなかったね』
『もし、もう一度神代選手が和了っていれば後半戦は神代選手に軍配が上がっていました』
『いや、そしたら試合の結果が決まってたんじゃないかな? 役満一回はデカいぜ、和了るのが永水なのもね』
『点数が減ることももちろんですが、何より二位との差が10万点を超えて開くのが大きいですね』
『トビそうなもう一校を気遣いながら10万差をまくるってのはキツい。次鋒は弘世さんも出て来るし』
『三度の役満が飛び出し、試合が大きく動いた先鋒戦でした。続いて次鋒戦ですが……』
『あ、もう一言。こうしてまとめると和了りっぱなしの荒川さんと、和了ると役満の神代さんが大暴れしてただけのように聞こえるっしょ?』
『けど、実際には松実さんと小瀬川さんが要所で二人を牽制しながら均衡を保ってたんだよ。二人の今後に影響するからこれだけははっきり言っとく、彼女たちは強い』
『特に松実さんだね、詳しくは話せないけど、色々あって本当に苦しい中で上手く立ち回ってたと思うよ』
『で、次鋒戦ですが……』
『まず、熊倉さんがどこからあの留学生を拾って来たのか気になるね。あの人、海外までネットワークあるの?』
『私に聞かれても知りませんよ』
『そこをなんとか!』
『いや、しらんもんはしらんし……この返しでいいですかね?』
『えりちゃんもちょっとはノリが良くなったね。オッケーオッケー、じゃ、進めようか』
『まず、ウィッシュアート選手が好調な出だしを見せます』
『そこそこの火力で二連続和了。先鋒の負けを一気に取り返しそうな雰囲気だったね』
『しかし、東三局で雲行きが怪しくなります。白糸台の弘世選手からの直撃を受けました、この後もウィッシュアート選手は弘世選手に苦しめられることになります』
『どっちかって言うと不調は松実さん……先鋒と紛らわしいから宥ちゃんと呼ぼう、宥ちゃんのせいだと思うけどね』
『どういうことでしょう?』
『まあ、分かりやすく言うと、あの6枚から混一色に行った打ち方が計算外だった。彼女の常識にない打ち方だから読みが狂ったんだね』
『読みが狂う……なるほど』
『実際には読みが狂うってのもちょっと違うんだけど、理解されないと思うからそういうことにしといて』
『そして、東四局。松実宥選手と弘世選手の高度な読み合い……ですよね?』
『読み合いだね。あの二人、どこまで読めてたんだろうね? 牌がいくつか見えてなきゃわかんないようなとこまで読んでたように思うけど』
『えっと……牌が分からないと読めない読みですか? それは実際に出来るものなのでしょうか?』
『透視能力で牌が視えれば……ってのは冗談として、捨て牌だけだと手出し考慮してもあの読みは無理だね、しらんけど』
『だけでは、ということは、それ以外の情報があると?』
『ま、卓上のアナログの情報を全部拾って全力で読んで、そこまでやって出来るか出来ないかだね。あたし、そっちは専門外だからわかんねー』
『読みが専門外ですか……? しかし、三尋木プロは何が切られるか分かっているとしか思えない待ちに取ったりします』
『それは勘。あたしの場合、捨て牌とかの情報なしでもなんとなく相手の手牌こうなってるんじゃねーかなーみたいな勘が働くんだよ。多分ね』
『……何か隠してますね?』
『おっと、なかなか鋭いね。けど、こっから先は企業秘密だぜアナウンサー? 知りたきゃプライベートでな』
『プライベートなら話していただけるということでしょうか?』
『さあどうだろ? わっかんねーなー』
『振り返ると、留学生が試合の中心を制圧してはいるんだけど、宥ちゃんと菫ちゃんが容赦なく攻め落としてる感じだね』
『なにもなければウィッシュアート選手が和了る、しかし、松実宥選手と弘世選手がそれを許さないという展開でした』
『後半は巴ちゃんも攻めに転じたりしてたんだね。三年生四人の意地のぶつかり合い』
『終わってみれば阿知賀と宮守が息を吹き返し、白糸台はほぼ現状維持、永水がリードを多少手放したといったところですね』
『三位の阿知賀と四位の宮守にはありがたい展開だね。特に二位が近くなったのは希望が持てる』
『そして、先ほどの中堅戦前半です』
『二位の永水と三位の阿知賀の小競り合いからスタートだね』
『比較的早い流れで試合が進みます。新子選手の速攻に対応して薄墨選手も速度重視で打ちまわしていた印象ですね』
『北家での役満が目立つけど、あの子も地力が高くて引き出しが多い、小細工じゃ崩せないだけの地力がある、押しも押されぬ強豪のひとりだよ』
『事実、新子選手に競り勝って連荘をしていますね』
『しかし、それを一本場で止めて親を引いてくる。ここからの新子さんは凄かったね。豪運って感じだった』
『赤5索をツモって白中ドラ6の8000オール、やはり赤をツモって三色ドラ3の6100オール 一時的に二位を奪還します』
『が、しかし、次の一局、早々に東を切ったのが迂闊だったね。役満をツモられて再逆転される』
『更に、その後の鹿倉選手の大連荘ですね。これは予想されていましたか?』
『四本場まで積むとはね。和了率の高い子だとは思ってたけど、ここまで出来るとは思わなかったよ』
『この親番で宮守は2万点を超える点棒を獲得、沈んだ分を一気に取り返します』
『しかし、現実は非情だね』
『現実と呼ぶにはあまりに非現実的な手でしたが』
『天和・大三元。 雀荘なら真っ先にサマを疑う』
『天和だけでも疑うところに役満が複合したら、自然な反応ですよね』
『ところがどっこい、サマじゃないんだなこれが。一切の不正はない正真正銘の天和だよ』
『ダブルはないので親の役満、16000オールでした。この準決勝で5つめの役満になります』
『半荘五回で5つの役満ってのも酷い話だね。これも大会新記録じゃないの?』
『スタッフが確認していますが、おそらくそうではないかと思います』
『でも、せっかくの役満で得たリードだけど、ここから削られるんだよね。渋谷さんは少し防御が薄い印象。もちろん、他と比べての話で、十分固いんだけど』
『全体を見返していかがでしょう?』
『四校共に良く打ててると思うよ。特に、差がついたとはいえ、先鋒はそれぞれが力を出し切ったと思う』
『ここからの展開について何かあればお願いします』
『やっぱり、阿知賀が一瞬とはいえ二位を奪還したのが大きいね。射程圏内ってことだから、永水はもう油断できない』
『宮守は苦しいけど、中堅まで来たらもうトビ終了を狙われることはないんじゃないかな? 二位を目指してなんとか争いに加わって行きたいね』
『あと、白糸台は大崩れしない限り大丈夫だろうね。必然的に二位争いが焦点になるけど、どうなるかは読めない』
『なんだかんだで戦力的には白糸台が頭一つ抜けてるから、彼女らが静観を決め込むか試合を決めようとして動くかも重要じゃないかな? まだまだ波乱がありそうだよ』
次スレ立てました。
こっちが埋まったらこちらをご利用ください。
【咲-Saki-】咲「お姉ちゃんまでプラマイゼロをやりだした」3 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1434779153/)
起家 憧「よろしくー(よかった、今回は一番楽な席だ)」
南家 尭深「よろしくお願いします(薄墨さんがオーラスで北家、かあ……)」
西家 初美「よろしくですよー」
北家 胡桃「よろしくお願いします(ラス親……渋谷尭深に警戒……だけじゃなく親番で薄墨にも警戒しないと。って、最悪の席じゃん!?)」
菫「と、解説は言っているが、どうする?」
誠子「私は静観……うちと永水がリードして副将に回るようなら滝見と協力して流します」
監督「臼沢に警戒は必要だけど、滝見も居るから二人とも止まるということはないでしょうね」
憩「あの人もやらしい麻雀打ちますからね。薄墨さんが稼いだ後で副将大将と何もさせずに終わるってのが今の永水の勝ちパターンです」
淡「あれ? 大将のあの人もエース級なんじゃなかったっけ? あたし、気をつけろって言われたよ?」
菫「地区大会ではスタイルが違っていたな。守備重視でシャットアウトするタイプになっていた」
監督「攻撃重視の虎姫に合わせて身につけたスタイルかしらね。永水は完全にうちをターゲットにした布陣になっているわ」
憩「うちに切り札の小蒔ちゃんをぶつけて、菫さんは狩宿さんで凌ぐ、尭深ちゃんは薄墨さんで稼ぎ勝って……誠子ちゃんと淡ちゃんの対策が逆な気もするけど……」
誠子「私を石戸で叩き潰して、淡を滝見で抑え込むのが妥当に思えるな。悔しいけど」
菫「最後の抑えを任せるには滝見では不安だったのだろうな。淡を抑え切れる確証もない」
憩「薄墨さんの作るリードを生かして、誠子ちゃんに多少稼がせても淡ちゃんと石戸さんのとこは真っ向勝負になるって感じの目論見やろな」
淡「けど、大将に互角で回ってきたらうちの勝ちなんだけどね!」
憩「そうなると信じとるんやけどな……なんや最近の言動見てると不安になるな」
誠子「麻雀打たないとただのアホの子だからな。早く麻雀打たせないと……」
淡「えっへん」
菫「褒めてないぞ」
東一局
尭深手牌
34568m234s23477p ツモ:2m
尭深(……ただ守るだけじゃこの相手には勝てない。和了っておきたい)
尭深(1-4-7萬待ち、安目の1萬を引いた時は痛いけど、4-7萬ならダマで7700、巡目も早いし、これなら……)
打:8m
胡桃「ロン、5200」
234赤5678m34赤5s中中中
尭深(捕まってる……か。私も弱いわけじゃないはずなんだけど、この相手だと役満で稼ぐ分がなかったらボロボロだなあ)
憧(まあ、上を落としてくれるだけならいいんだけど、あたしのことも容赦なく狙って来るんだよね)
胡桃(うん、好調好調。トヨネだけに負担かけらんないからね)
初美(リーチしないのは別にいいんですがー、それだけじゃなく聴牌気配が全く読めないですー)
胡桃(聴牌気配が読めない上に聴牌速度が早いとなると、迂闊に動けないでしょ? そうやって手を引っ込めてくれればこっちのものなんだけど……)
初美(このがきんちょ……私は高三ですよー? 小細工で私の手を縛ろうとか、年上に対して生意気ですー!)
胡桃(なんか失礼なこと考えてる気がするけど、私も高三だから!!)
初美(年上の強さを見せてやるですよー!!)
胡桃(どうでもいいけど服をちゃんと着ろ!!!)ゴッ
初美(うっ!? 威圧感を感じるですー……)ビクッ
晴絵「宮守の中堅は憧と相性が悪いな。憧の持ち味のスピードで勝負してくるからたとえ競り勝ったとしても憧は相対的に不利になる」
穏乃「薄墨さんと渋谷さんも火力が持ち味で被ってますよ?」
宥「火力は二人とも和了ればそれぞれ持ち味が生かせるけど、スピードはそうはいかないからね」
玄「火力控えめの和了率重視だとより多く和了って連荘で稼ぐ、速さで競い合う相手が居るとそれが出来ないからね」
穏乃「なるほど……」
晴絵「憧が連荘したら鹿倉が潰す、鹿倉が連荘したら憧が止める。本当なら協力して永水を追いたいのにな」
宥「鹿倉さんは聴牌気配だけじゃなくてどこで鳴きたいかとかも読めないって言ってたから、協力はしにくそうですね」
玄「憧ちゃんは東横さんと打った経験があるから対応は出来てるけど、対応するのと協力するのはまた違うからね」
晴絵「東横と違って発動までのタイムラグがない、そのかわり、本気で警戒していれば振り込みは避けられるし、直撃や鹿倉の捨て牌を鳴くこともできる、か。しかし厄介だな」
東四局
尭深(薄墨さんが北家。役満があるから考えなしに押すわけにはいかない。けど、自分の手に東や北がなければ自由に打てる……)
憧(配牌に足かせはなし。ツモるってこともあるかもだけど、とりあえず普通に手を進めて行こう)
胡桃(よし、東も北もなし! 親番だし稼がせてもらうよ)
初美(……自分の手に東も北もないってことがどういうことかわからないおバカさん達に、ちょっと地獄見せてあげますよー)ゴゴゴゴ
初美「槓ですよー」
暗槓:東東東東 槓ドラ:2s
憧(は? 槓って、北が鳴けてない今の時点で東を晒したら誰も北を切らなくなるんじゃ……)
初美「で……」ゴゴゴゴゴ
憧(……いや、違うか。こんな派手な動きをしたら誰も北を切らなくなる、それが分からないはずはない……なら、それでも大丈夫ってこと。つまり……)
初美「もう一個、槓ですよー」
暗槓:北北北北 槓ドラ:2s
憧(うっげ、槓ドラ被ってるし……二回も槓したらこっちに一枚ぐらい乗ってくれていいでしょうよ)
照「これはまた随分と……」
久「無茶するわねえ」
まこ「しっかし、なあ?」
和「照さん、これは偶然だと思いますか?」
照「多分偶然だけど……いやはや、酷い卓もあったもの」
優希「こんなん反則だじょ……」
初美手牌
1222239s 暗槓:東東東東 北北北北 嶺上牌:8p
照「槓子に槓ドラが二回モロ乗り。敵にやられるとここまで嫌なものなんだね」
まこ「そう思うなら少しは控えてくれると助かるんじゃが」
照「しょっちゅうやってるみたいな言い方はやめてほしい。あんまりやってないはず」
和「東・北・混一色・ドラ8。小四喜にするまでもなく役満ですね。この巡目では待ちも読めませんし」
照「これ、多分、待ちが読めないとか関係なく二~三巡後に和了るんだよね。北家だから連荘は出来ないのが救いかな」
優希「じょ?」
久「西か南ね。 122223s西 みたいな形になるでしょ。東と北を晒した薄墨初美には南と西が集まる」
透華「今回は二巡で和了るから止めようがありませんが……これが毎回出来るなら、北家の薄墨はほぼ毎回五巡で役満を和了れるということになりますわね」
和「配牌で一面子ぐらいはあるものですし、開幕で東と北を晒してしまって西と南を順調にツモればそうなりますね」
貴子「この面子だと、やっぱり薄墨ですか?」
健夜「そうだね。これが出来るなら頭一つ抜けてるかな」
靖子「薄墨は能力をよく使いこなしてるし、地力も高い」
健夜「半荘で二回チャンスがあるけど東や北を止めることで他家に対策されるのがネック……だと思ってたけど、これが出来るなら話は違うね」
靖子「半荘で一度、オーラスしかチャンスがなさそうな渋谷よりは薄墨の方が現時点では上だな。地力の差もありそうだ」
貴子「地力だと鹿倉、新子も相当高い。ただ、渋谷はやはり役満が強烈で、総合だとこの二人より上な印象です」
靖子「それで合ってるだろうな。小鍛治プロの印象は?」
健夜「私は、新子さんたちの方が総合でも渋谷さんより上に感じるけど……鹿倉さんと新子さんは持ち味のスピードを潰しあう関係だからここでは厳しいけど」
靖子「ああ、そうか、お互い早さを持ち味にして潰しあいをしている不利を考慮すれば……」
貴子「流石、視点が鋭いですね」
健夜「ふ、普通だよ……純粋に実力を測った結果だから」
恒子「やっべ、ついて行けない……藤田さんと久保さん相手だと茶化しにくいし」
靖子「お前に喋らせるとグダグダになるから黙ってろ。で、将来性まで視野に入れるとどうですか?」
健夜「うーん、渋谷さんはまだまだ伸びる余地がありそう。今も新しい能力を身に着けたみたいだし」
貴子「最後の二牌と最初の二牌、ですね? 後半からは意識しているようです」
靖子「本人に自覚なく能力が目覚めている。それにすぐ気付けるような指導者をつければどんどん化けるかもしれませんね」
健夜「この東四局も山場だけど、この半荘の最大の山場はオーラスだよね」
貴子「ええ、特に渋谷の捨て牌……東を三枚、北を二枚、さっきは手になくてやむなく6索でしたが、明らかに被せに行ってますよね?」
靖子「こういうのは、よほどの格上や格下相手でない限りはぶつけてみるまで分からんからな。決勝を見据えた手だろう」
健夜「これで対抗できるようなら、薄墨さんが場決めでラス北家を引いたら同じようにする。無理なら決勝では安全策を取る」
貴子「一か八かのぶっつけ本番は避けたいってことでしょうね、試す余裕があると踏んでいる」
健夜「四校とも決勝に進んでもおかしく……ううん、今年以外なら決勝に行けないはずがないぐらいのチームだよ。このうち二校がベスト8止まりなんてね」
靖子「四校とも、シード常連の千里山、新道寺、姫松の三校の例年の水準を大きく上回ってますね。今現在四位の宮守でも、例年の水準ならその三校相手にトップで抜けるでしょう」
健夜「今年は本当にレベルが高い、白糸台高校ですら油断を許されないほどに」
靖子「団体の舞台に上がれなかった連中でもとんでもないのがゴロゴロしてます。去年の大豊作ですら、今年の前兆に過ぎなかったってことですかね」
『再び役満―――!!! 永水女子 薄墨初美選手が数え役満を和了りました――!!』
『いやあ、盤石だと思ったんだけど、こう役満がポンポン出ると流石にそうもいかないか。ここの順位が入れ替わるとはね』
『この役満で永水女子がトップを奪還! 白糸台がここまで守り続けてきたトップの座を明け渡しました!!』
『そこで逆転があるとは思わなかったね、どうなってんのかさっぱりわかんねー』
『ここから試合はどう動くのか!?』
『最大の山はオーラスだけど、そこまでに何とかしようと阿知賀と宮守が動くだろうね。薄墨さんも北家じゃない時に普通に打っても十分強いから黙ってはいない』
『となると、三つ巴ですか?』
『渋谷さんが普通に打って弱いわけじゃないんだけど、あの三人は異常だからね。無理すると大けがするよ、守りを固めてオーラス勝負が無難かな』
『無難な判断を、渋谷選手は実戦で的確に下せますか?』
『多分出来るね、あの子は引く判断が的確。それが前に出る時には足かせになってる気もするけどねぃ』
【蒲原祖母邸】
智美「……多分、今頃はみんな準決勝で盛り上がってるんだろうなー」カリカリ
智美「そんななか、私は大量の宿題を押し付けられてるわけだー」カリカリ
智美「サボりたいぞー、サボりたいんだけどなー」カリカリ
智美「サボると後で更に倍になるんだぞー」カリカリ
智美「増えたらそれもサボってしまえばいいんだけどなー」カリカリ
智美「あんまりサボると先生に呆れられそうだからなー」カリカリ
智美「わははー」ピタッ
智美「さて、宿題が終わったぞー、下に降りてゆみちんたちと一緒に観戦するかー」ワハハ
ゆみ「ん?」
桃子「どうしたっすか?」
ゆみ「いや、早いなと思ってな」
桃子「確かに、さっきから新子さんも鹿倉さんもやたら手が早いっすよね……」
睦月「うむ」
ゆみ「あ、いや、そうではなく……」
ガチャ バタン
佳織「あ、智美ちゃん!」
智美「宿題が終わったぞー」
ゆみ「答えを丸写ししてないだろうな?」
智美「先生が答えを置いていくようなヘマをすると思うか?」
ゆみ「いや、沢村ならそんなヘマはしない。しかし、随分早いな?」
智美「漫画読んだり部屋の掃除始めたりしないで真面目にやってたならむしろ遅いぐらいだろー?」ワハハ
ゆみ「お前が真面目にやってたいたというのが疑わしいと言ってるんだ」
智美「先生のお仕置きは怖いんだぞー」
ゆみ「それぐらいでお前が真面目に……まあ、言い争っても仕方ないし今は信用するか。お疲れさま」
智美「で、試合はどんな感じなんだー?」
ゆみ「大荒れだよ。どいつもこいつも羨ましいぐらいの強運だ。勝てる気がしないな」
智美「ワハハ、これは決勝で勝てなくて良かったのかもしれないなゆみちん」
ゆみ「もし代表になっていたら何か手を打ったさ。引退が決まってからは引継ぎに重点を置いていたから今すぐ相手をするのは無理だがな」
睦月「もうすぐオーラスです。永水が連荘してますけど、多分阿知賀が宮守に振り込んで止まるかと」
智美「おっ、この時間にオーラスってことは中堅かー、勝ってれば私と当るかもしれなかった相手だなー」
久「渋谷さんが和了れてない一方で、新子さんと薄墨さんが着実に和了を重ねてる、しかも役満まで出れば逆転はするでしょうけど……」
照「永水は先鋒前半の東四局で荒川さんに逆転されて以来のトップ。試合が大きく動いたね」
久「渋谷さんはオーラスでの一発がある。ここまでで、オーラスの仕込みは12牌以上になることが確定。普通に考えたら確実に和了れるから再逆転するはずだけど……」
まこ「そうとも言い切れん要素があるのう」
久「東と北を仕込みに使ったのよね。狙いは四暗刻みたいだけど、東と北はちゃんと来るのかしら?」
照「それはやってみないと分からないし、分からないからぶつけてるんだと思う」
透華「それにしても、新子さんも薄墨さんもやたらと好調ですわね」
まこ「そうじゃのう。今は南場で薄墨の二本場じゃが、新子も南場では二本場までいった。前半でも親で一回ずつ和了ったしのう」
優希「その親番を止めてるのは宮守のちっこい人だじぇ!」
和「完全に三つ巴といった様相ですね」
久「三つ巴の争いになって、直撃が増えて来たわね」
照「ツモでしか決まらないぐらい守りの固い面子だったけど、鹿倉さん『に』振り込むならともかく鹿倉さん『が』振り込むとは……」
久「むしろ、この点差をまくらなきゃいけないのに今まで振り込まなかったのが異常なのよ。役満の親かぶりで流石に焦りが見えて来たんじゃない?」
『さあ、この試合で六つ目の役満が飛び出しましたこの中堅戦、盤石と思われた白糸台の首位も陥落、試合は大荒れの様相です』
『渋谷さんは守りに徹してるね。首位から陥落したのがむしろいい方に作用してる。首位を守ろうとして攻めっ気出すより失点を抑えられてるんじゃないかな。知らんけど』
『後半になってからは直撃も増え始めました。点数の移動はあるものの、トータルでは阿知賀と宮守の点数は中堅戦開始時と大きな変化はありません』
『まあ、変化なしってことは役満のツモを食らった分を取り返したってことなんだけどね。その分は渋谷さんがツモで削られてることになる』
『そして、注目のオーラス。渋谷選手はオーラスで役満を和了ることが多いと言われています、とすれば、ここで七つ目の役満が飛び出すのか――!?』
『いやいや、薄墨さんだって北家で役満和了るんだぜ?』
『となると、役満手のぶつかり合いになるわけですか?』
『……えりちゃん、矛盾って知ってるかい?』
『知ってますよ。最強の槍と最強の盾の話ですよね?』
『そ、あの話は全てを防ぐ盾と全てを貫く矛だからおかしなことになる』
『えっと……?』
『全てを打ち砕く最強の矛と、全てを打ち砕く最強の矛だったら、変な話にはならないのさ』
『ま、まあ……? 砕かれる盾は普通の盾ですからね?』
『そうだね、矛が二本なら普通はそう。で、どっちが早く目標を砕くかって話になるよね』
『そうなるのが自然ですね』
『でも、盾と矛の話で矛盾を指摘した人は聞くだろうね』
『なにをですか?』
『その矛同士がぶつかったらどちらが砕けるのか、ってさ。知らんけど』
『……あれ? それだとおかしなことになるじゃないですか?』
『なんねーよ? 矛盾しない結末があるじゃん』
『えっと、でも、盾だけじゃなく矛でも砕くんですよね? どっちの矛も。 それはやっぱりおかしいですよ』
『……まだまだだね、アナウンサー』
『はっきりおっしゃってください、じゃあどうなると言うんですか?』
南四局
初美(……まあ、基本は配牌で東と北の対子が入るんですがー、私はここでも槓子を引き込んだつもりだったんですよー? どうなってるですかー?)
初美手牌
24789m1589p東東北北
尭深(私は東と北を三枚ずつ仕込んだはず……なのにこれは……)
尭深手牌
555666s139m東東北北
初美(せめて北が鳴ければって感じですがー)
初美(なにも妙な力を使わずにこうなるってことはあり得ないのでー、確実に『なにか』をされたはずですよー)
初美(どうやら、なにか私の北家と張り合えるような力を持ってるらしいですー。今回の結果はこいつの役満の秘密のヒントにもなりそうですよー)
初美(私の北家と張り合えるってことは、『特定の牌を引き寄せる力』でその特定の牌に東と北を設定したということ。この半荘にこいつが打った東と北に絡む手を総ざらいですよー)
初美(オーラスで役満を和了ることが多い、その秘密、分かってしまうかもしれませんよー)
尭深(おそらく、能力のぶつかり合いが五分だった……ということは、この東や北を切ったら鳴かれる……これが切れない上に持ち持ちということは、四暗刻を狙う限りこの手は死んでる……)
尭深(ここから東や北を切って薄墨さんに息を吹き返されても嫌だし……そうしたとしても本来の目的の四暗刻には遠い)
尭深(字牌を処理して手を進めるとしても、流石に字牌二種ともは切れないから頭が東か北で固定、役は混一色か対対あたりかなあ……)
尭深(あるいは、暗刻を一枚ずつ切ってしまって七対子? うーん、最後まで東と北を切らずに進められるから一番ましかなあ?)
久「全てを砕く最強の矛をぶつけあったら、互いに砕けるってことね」
照「詭弁にもほどがある。矛盾の話を持って来るなら両立する内容にしちゃダメ」
和「『どんな盾も貫き通す矛』と『どんな矛も通さない盾』ならば矛盾しますが、これが『砕く』や『防ぐ』だったら矛盾はしないということですね」
久「砕かれても相手を使用不可の状態にすれば防ぐことは出来るからね。同時に起こりえることは矛盾にならない」
優希「難しい話はわからないじぇ……」
透華「矛盾のたとえに矛と盾を持って来るとややこしいですわね」
まこ「そうじゃのう……とはいえ、それが一番わかりやすいしのう」
照「『全てを貫く矛』と『最強の盾』、あるいはその逆の『最強の矛』と『全てを防ぐ盾』なら両立する」
久「そうね。そして、最強の矛と最強の盾を一人で持つことも出来る。というか、実際に持ってる人間が居る」
照「だから荒川憩は強いんだね、鉄壁の守備と絶対に一発でツモる高速高打点の攻撃」
久「だから照は最強なのよね、最強の盾と最強の矛を同時に使いこなす」
照「……」
久「……」
照「まったく、買いかぶりもここまで来ると嫌味だね」
久「やれやれ、謙遜もここまで来ると嫌味よね」
照「……」
久「……」
照「……私、盾とか矛っぽい能力使わないし……」
久「絶対にマイナスにならない最強の盾と絶対に5000点稼ぐ最強の矛を持ってるくせに何言ってんのかしらこの子は?」
久「読み通りね」ニヤリ
照「台詞を先読みしないで! 被せないで!」プンプン
まこ「なにをやっとるんじゃおんしら」
和「はあ……まったく緊張感のない。確かに他人の試合ですが、うち二校は決勝に行けば必ず当たる相手ですよ? 遊んでないで真面目に観戦してください」
透華「まったく、仲がよろしいことで」
胡桃(二人が牽制し合ってるっぽいね。この隙に連荘……すると不味いかな? 役満の親かぶりを考慮するなら16000、跳満以上じゃないと割に合わない?)
胡桃(二位の白糸台との点差で考えるなら満貫でもオーケーなのかな? あー、よくわかんない!)
胡桃(とにかく高ければいいんでしょ!! ならこれで!!)
胡桃「ツモ! 6000オール!」パタン
34赤5s34赤5m1134赤5p発発 ツモ:発
初美(今回はこれで勘弁してやるですよー! 親が和了ったからわたしの北家は続いてますしー!)
尭深(十分な収穫があった。東か北のどちらかだけを仕込めば、それを対子にして四喜和を防ぎながら役満を狙うことも出来る)
尭深(三枚仕込んで二枚だから、もしかしたら四枚仕込めば三枚になったかもしれないし、仕込みが二枚だけだと手元に一枚しか来ないかもしれない)
尭深(失敗したなあ……片方だけを四枚仕込めば良かった。確認だけならそれで十分だし、その方が良かった)
南四局一本場
憧(渋谷尭深の役満は不発。表情からして、『南四局であれば仕込んだ牌が何度でも来る』ってわけじゃないみたい)
憧(オーラスで渋谷尭深が親だったことと渋谷尭深が居る卓のオーラスで親が和了ったことが一度もなくて不確定だったんだけど……)
憧(まあ、そりゃそうだよね。じゃなきゃ親とのダブロンで進めれば二回同じ手を作って役満を和了るとか出来ちゃうし……)
憧(さっきの6000オールで、私の中堅での収支はマイナス)
憧(このままじゃ終われないよね。私だって、決勝に行って和たちと戦いたいんだからさ)
憧(だから、もう一回だけ……力を貸して、宥姉)
宥(憧ちゃん……)
玄「配牌で赤3、勝負手なのです!」
宥(私には、ほかの人があったかい牌を引けるようにする力なんてないんだよ?)
穏乃「頑張れー、憧ー!!」
灼「いや、頑張ってもツモは変わらな…………」
宥(おまじないは、あくまでおまじない。ただの気休め)
晴絵「赤5索を切った、混一色に向かう気か? いや、混一色なら筒子の赤二枚も切らなきゃいけない。赤三枚切って混一色にする意味はない……まさか!?」
宥(じゃあ、今起きてるあれはなんだろう? 偶然、なのかな?)
玄「お姉ちゃんもちゃんと応援して! ほら!」
宥「あ、あこちゃんふぁいとー!!!」
久「で、あれでも偶然だって言うの?」
照「私の中では『偶然』に入る」
和「照さんの中ではって……そういえばこの人は国士に暗槓で差し込むのを偶然と言い張る人でした。私としたことがなんと愚かな……」
まこ「やっぱり、なんかあるんか?」
照「なにもない。強いて言えば、彼女にとっての『運がいい』とはああいうこと」
和「憧にとって、とは?」
照「例えば……原村さんにとって運がいいって何?」
和「好配牌が来て、多面待ちが出来て、順調に埋まって、ツモが高目に寄って……オリる場面では安牌をツモったりですかね」
照「じゃあ、松実玄さんにとっては?」
和「……槓ドラなどの潜在的なドラが分かりやすい手になることですね。多面待ちになることなどはむしろ不運、私とはかなり違いますね」
照「荒川さんにとっては?」
久「カンチャンペンチャンばっかりの酷い配牌が来ることね。それが彼女にとっては幸運になる」
照「私にとっては?」
和「プラマイゼロにしやすい点数、26000~28000程度でオーラスを迎えること、ですか?」
久「なにやっても勝つから運とか関係ないでしょ、あなたは」
照「……どっちも不正解。正解は、道が分からない時に勘で選んだ道が正しい道であること」
和「だとしたら幸運だったことなんて一度もないじゃないですか!?」
照「原村さん酷い……交差点を15回ぐらい正しい方に進むとか結構あるのに……」
まこ「道が分岐する度に判定するんかい……そりゃ照さんの豪運でも駄目なわけじゃ」
咲「今の新子さんはツイてる。そして、新子さんにとって運が良いっていうのはあれなんだよ」
京太郎「それって能力とは違うのか?」
咲「私の中では、今の新子さんぐらいだと偶然にカウントするかな。宥さんみたいに不調でも赤い牌を引くようだと能力だけど」
衣「そうだな、例えば、京太郎が満月の夜の衣と同じ配牌と同じツモを与えられたとしても幸運とは言わんだろう?」
純「打ち方間違えて和了れないってオチがみえるな」
智紀「海底でしか和了れない配牌とツモ、常識的には不運と言える」
咲「けど、衣ちゃんにとってはそれが幸運。衣ちゃんが好調な時に起きるのは衣ちゃんにとっての幸運」
京太郎「で、新子さんが好調な時に起きるのは、赤い牌をツモる現象だってのか? それ、やっぱり能力なんじゃ? 天江さんと似たようなもんって言われるとますます能力くさい」
一「ボクが好調な時はツモが三色とか一通とか混一色なんかの役に向かって真っすぐ伸びるけど、これは能力かな?」
星夏「それは……運が良いだけかと」
美穂子「そうね、それは運が良いだけという認識でいいと思うわ。そして、宮永さんにとっては新子さんのあのツモも『運が良いだけ』に分類されるのね?」
咲「はい。特にルールもなく、手が伸びるだけですから。『好調時に有効牌を引く』っていうのは能力かと言われると……」
智紀「ただ好調なだけだと?」
咲「ですね。それに『引く有効牌が赤い牌になっている』というのがついてますからグレーゾーンですけど、私はただの好調に分類します」
京太郎「なら、突然好調になった理由は?」
咲「気合を入れなおしたとかじゃないかな? 内面の変化の理由までは私にはわからないよ。 自分の意志で切り替えられるなら能力かもね」
憧(やっぱり宥姉は頼りになるなあ。いや、玄とかハルエとかが頼りないってわけじゃないんだけどさ)
憧(あたし、役満和了るの何年ぶりかな? 小学生の頃以来かも)
憧「ツモ」
1112225m5赤5赤5p中中中 ツモ:赤5m
憧「四暗刻。8000、16000」
胡桃(うそっ!? そっち!? 赤切ってなんかしてるとは思ったけど……)
初美(ヤバげな捨て牌を見て様子見しましたがー、振り込んでたら大惨事でしたよー)
尭深(あ……これは流石にまずいかもしれない。こうなるぐらいならさっきの局で薄墨さんに役満を和了ってもらうほうがマシだった……)
『役満が出るのは予想してたけど、あんたが和了んのかい!? これはホントに知らんし、マジで』
『この試合七つ目の役満が飛び出しました――!! 荒れ場も荒れ場、半荘6回で7つの役満が飛び出す大荒れの準決勝――!!』
『いやいや、これは衝撃だね。ここまでは神代さんと渋谷さんと薄墨さんっていう、役満和了るのが当たり前な面子だったからまだいいけど……』
『オーラス、そして薄墨選手が北家、渋谷選手か薄墨選手が役満を和了ると思われた中で阿知賀女子 新子選手が役満を和了!! 二位の白糸台を一気に射程に捉えます』
『いやー、そりゃ役満が偶然出ることもあるわけだけど、ここでそれ引いてこれちゃうかー。前半でもそうだったけど相当な強運だね』
『そして、この役満で試合の展開も大きく変わって来ました』
『おお、そういえば。まさかが見えて来たね。残りの半荘は四回、これは現実的な数字かもしれないね、知らんけど』
中堅戦終了
白糸台 119500(ー38700)
永水 135500(+14900)
阿知賀 96700(+19700)
宮守 48300(+ 4100)
トシ「二位まで7万差。ようやく背中が見えて来たねえ」
塞「と言っても、ここからじゃ豊音頼りになりますけどね」
白望「阿知賀が良くわからないのが痛いなあ……」
豊音「大丈夫だよー、私ちょー頑張るよー」
エイスリン「トヨネ、オネガイ!!」
塞「え? いや、豊音頼りって言ったのは私だけど、ちょっとは私にも期待してくれていいんじゃ……」
白望「この点差のまま豊音に繋いで、期待してるから」
塞「え? 期待されてそれなの!?」ガーン
豊音「8万点差までならちょー頑張ればなんとかなるかもしれないよー」
塞「なんで離されること前提にしてんの!?」
トシ「ぶっちゃけると稼ぐのに向いてないしねえ……守りの切り札ではあるんだけど」
塞「いやいや、向いてますって。相手の和了りを止めて自分だけ手が進むとかもう必勝!」
白望「けど、副将は早和了りするのが二人いるしなあ……塞は1人しか塞げないし」
塞「ぐっ……確かにそれは辛いんだけどさ」
監督「22800差……あまり余裕はないわね」
誠子「どうしましょう? 攻めますか?」
監督「いいえ、流しましょう。滝見は間違いなく流しにくるはずだから、逆らうぐらいなら乗ってしまった方がいい。大将は淡、二万は十分なリードだわ」
憩「同感や、リードなんか二万もあれば十分、変に安全を求めると逆に酷い目に遭うっちゅうのが経験則やな」
菫「それに、亦野は攻めるよりも守り気味の安い早和了りの方が向いているしな。案外、攻めに出るより良い結果になるかもしれない」
誠子「それはそうなんですけど……」
淡「セーコはケイみたいに稼ぎたいんだよねー!」
憩「およ? そうなん? 自分で言うのもなんやけど、流石にうちと同じぐらい稼ぐってのは無茶やで?」
誠子「いや、そこまでは望んでない。速度は十分あるから、何とか打点を乗せて大きく稼ぎたいというか……」
菫「その考えは隙になるぞ。普段の相手ならそれで押し切れるだろうが、今回はそれが通じる相手ではなさそうだ」
監督「そうね。今は勝負に徹してちょうだい。あなたのスタイルについては大会が終わってから検討するわ」
誠子「……はい」
バタン
尭深「戻りました……ごめんなさい」
監督「いえ、指示に従った結果の失点は仕方ない。それは指示を出した私のミス。あれがなければオーラスはあなたが役満を和了っていたはずよ」
菫「その通りだ、気に病むな渋谷。ここは二位通過でも構わないと、そう考えての指示だ」
憩「二位になっても構わん、そこまでは織り込み済みや。計算外は役満を和了ったのが阿知賀だったことやな」
淡「私がいるから大丈夫だよー」
尭深「うん、ありがとう淡ちゃん」ナデナデ
誠子「じゃあ、行って来るよ」
尭深「あんまりリードを残せなくてごめんね誠子ちゃん」
誠子「いや、仕方ないさ。それに、憩がさっき言ってたけど、下手に余裕があるより追い詰められてた方がいいのかもしれない」
尭深「……頑張ってね」
誠子「ああ、もしなにかあったらその時は頼むぞ、淡」
淡「はーい! お任せあれ!!」
今回はここまでです。次回は水曜日の予定です。
先に明言しますが、憧に関しては能力的なもの一切なしの完全な偶然という設定です。
副将戦後半 南四局
塞(……)
打:4s
誠子「ロン、1000点」
4567s チー:123s ポン:777m 白白白
塞「ようやく……終わった……」ゼエゼエ
春「……お疲れ様」スッ
塞「黒糖……? ありがたいけど、今食べたら吐くわ……」
春「残念」ポリ
『最後まで持ったね、大したもんだよ』
『1000点での決着、全体を通しても異常なほど安手ばかりの進行になりましたね』
『そりゃ、意図してそうしてるんだからそうなるさ。最高点が2600だっけ?』
『はい。役満の嵐が吹き荒れた中堅とはうってかわって穏やかな展開でした』
『穏やか、ねえ? 個人的には副将の方がよっぽど剣呑だったと思うけど』
『とは言っても……』
『とりあえず、軽く流れをを振り返っておこうか』
『あ、はい……早い進行でしたから、時間も空いてしまってますしね』
やえ「おはよう」
良子「起きたか、おはよう」
紀子「まだ試合は終わってない。もう少し寝ていてもいい」
やえ「そうは言ってもな。目が覚めてしまったものは仕方ないだろう」
由華「牌譜いります?」
やえ「もらおう」
洋榎「ふああああ。おーう、絹、元気かー?」
絹恵「お姉ちゃん、副将戦終わるまで寝とるってどういうことやねん? 末原先輩は次鋒戦で起きたで?」
恭子「洋榎は夜更かししたことないおこちゃまやからしゃあない」
洋榎「誰がおこちゃまやねん!! 夜の9時過ぎても起きとる連中がおかしいんや!」
絹恵「……お姉ちゃん、いつも言っとるけど、その年で9時に寝るのは流石に……」
漫「そういえば、確かにこっち来てから毎日9時には寝入ってたような……」
由子「一年の合宿の頃からそうなのよー」
?「ふああ~、お姉ちゃん、うるさいで~。起きてもうたわ~」
恭子「……もう一人のねぼすけも起きたみたいやな。こっちは起きとっても寝言ばっか言う人やけど」
郁乃「末原ちゃん酷い~」
恭子「しかし、なんで寝てたんや? てゆうか教え子ほっぽって監督が寝とるってどういうことや?」
郁乃「結構前に起きたんやけど~、末原ちゃん起きてるからええかな~って思って、昨日の記録とかをまとめてから二度寝してたんよ~」
恭子「そうですか、お疲れ様です」
郁乃「末原ちゃん冷たい~」クスン
やえ「……副将戦はそれほど荒れた展開にはならなかったのか」
紀子「荒れる要素が徹底的にそぎ落とされていた。いや、ある意味荒れていた」
由華「亦野が全力で早上がりに徹して、滝見もそれに追随してました。点数だけ見ると穏やかですね」
やえ「協力して速攻で流す、リードしている側の特権だな。それで、鷺森は……焼き鳥だと? 地力的にはあいつが圧倒する場だろう?」
日菜「原因は臼沢さん。で、分かるよね?」
やえ「……ちょっと待て、寝起きで頭が回っていない。あいつが鷺森を止める理由はなんだ? この点差なら鷺森に暴れさせて上を引きずりおろす方が良さそうだが」
紀子「それは……」
やえ「ああ、そうか。逆転は姉帯に任せて危険な鷺森を止めに行ったのか」
紀子「そう、理由としては……」
やえ「それでも鷺森を暴れさせた方が得な気もするが……鷺森には二位になった時点で宮守を飛ばして終わらせるという選択肢もあるから上を削れるメリットを放棄してでもリスクを避けたんだな」
紀子「そこから窺えるのは、宮守の……」
やえ「一か八かの賭けに出るぐらいならリスクを避けて大将に任せる、か。姉帯は随分と信頼されているらしい」
紀子「……説明しようとしたこと全部言われた」ショボーン
由華「あはは、ドンマイです」
郁乃「早和了り二人が臼沢さんの妨害もなく速攻で流し続ける。そしたら小場になるんやな~」
恭子「鷺森だけが高打点で速度もあるけど、それは臼沢に止められとる状態ですからね、臼沢は最初から鷺森に怯えとる様子でした」
洋榎「亦野や滝見はお互いに安手で和了ることで協力体制を取ってるわけやから、終盤までは裏切らんやろな」
漫「えっと、なんか末原先輩も副将戦の最中にそんなこと言っとったな……」
絹恵「高い手で和了ると思われたら、差し込みも期待できんし、サポートもしたくないやろ? せやから意図して安手を作って相手の警戒を解くんや」
恭子「そう思わせておいて高い手に差し込ませて出し抜く……とかをやるにしても終盤や。後半の南場ぐらいまではドラも自分から手放して安手をアピールして協力体制を取る」
洋榎「にしても阿知賀の、めっちゃ気合入っとるな~。録画からでも伝わってくるわ」
由子「阿知賀は前回出場した時も準決勝で敗退、部長さんは並々ならぬ思いを抱いてるのかもしれないのよー」
恭子「といっても、臼沢にマークされたらしまいや。まともな打ち手は絶対に和了れん。神代とか荒川あたりなら分からんけどな」
やえ「……鷺森の立場なら臼沢のマークが外れるまでやり過ごすのが賢明だな。点差があるまま局数が進むのは辛いが、それは臼沢も同じこと」
紀子「むしろ、二位が遠い宮守の方が辛いはず。分の良い我慢比べ」
やえ「が、鷺森は我慢できなかった。臼沢の能力を破ろうともがき、臼沢は更に警戒して鷺森を押さえつける。いたずらに局数だけが過ぎていく」
由華「そして、そのままの状況が続いて気付けばゴールです。滝見はそもそも高い手が作れない能力なのかもしれません。亦野は安手に徹しているようでした」
やえ「欲を出さずに、しっかりオリつつ早和了りに徹したならば奴は相当強い。三位転落が現実味を帯びた点差で回って来て、奴も一つ階段を上ったか」
紀子「筋に頼って中途半端なオリ方をしたり、高目を目指して鳴きを見送るとか、色々と隙が多い選手だったのが見違えるよう」
日菜「彼女も経験の浅い新レギュラー、麻雀の粗さはすなわち伸びしろ。弱点の分だけ成長の余地があったわけだね」
やえ「勝負に徹することが出来たのは、鷺森という脅威があったのも大きいだろうな」
良子「安全は毒、セーフティーリードが常にあったことが亦野の成長を遠ざけてたってか」
やえ「安全は毒、か。上田にしては気が利いたことを……鷺森は手を緩めてその毒を飲ませるべきだったな」
紀子「三尋木プロの解説のセリフだから気が利いているのは当然」
良子「おいこら、バラすの早いって」
やえ「で、結果を見ると……亦野と滝見の互いへの差し込みや安手のツモだけで場が進んで、点数は副将戦開始時と大差ないまま大将に回ったか」
紀子「苦しいのは宮守。阿知賀は元々逆転圏内だったからまだ戦える」
やえ「……なるほど、二位の白糸台と三万ほどの差で高鴨か」
良子「この展開をどう見る?」
やえ「……寝る」
良子「は?」
紀子「……見るまでもないと?」
やえ「三万差で、残り半荘二回あるんだろう? そりゃ高鴨なら決まりさ。白糸台が準決で落ちるとは思わなかったがな」
由華「でも、大星淡も他家の配牌に干渉したり、あと、ダブリーかけたりしますよ?」
やえ「その辺の能力はむしろ高鴨の餌食だ。それ以上の奥の手がなければ負ける要素はない。おそらくダブリーが奥の手のはずだから大丈夫だろう」
紀子「奈良県初の決勝進出は決まったようなもの?」
やえ「だと判断する。未知数の姉帯が序盤から高鴨を狙った場合は危ういが、おそらく高鴨が逆転するのは終盤。そこまでは姉帯も現時点の二位……すなわち大星を狙うだろう。そして、終盤の高鴨に隙はない」
由華「でもでも、何か起きるかも……」
やえ「その何かが起きたならその後で確認するさ、観戦者に過ぎない私が起きて見ていたところで結果が変わるわけじゃない」
恭子「代行が起きたなら、私は少し寝させてもらうわ」
洋榎「は? うちが起きたばっかやっちゅうのに寝るんか?」
恭子「おんなじ時間に寝たのに、私は次鋒戦から起きてて、洋榎はさっきまで寝とったよな?」
由子「なのよー」
恭子「せやから私は眠いんや。誰が何と言おうと寝る」
郁乃「あ~、ならうちも一緒に~」
恭子「」ビシッ
郁乃「いたた~、無言で突っ込むなんて末原ちゃんのいけず~」
副将戦終了
白糸台 123700(+4200)
永水 138500(+3000)
阿知賀 94000(ー2700)
宮守 43800(ー4500)
穏乃「灼さん……」
晴絵「結果だけ見れば悪い成績じゃないが……辛そうだな」
宥「……」
玄「……」
憧「で、なにしてんのハルエ?」
晴絵「え? いや、玄のドラ復活の相手をしようかと……」
憧「殴るよ?」
晴絵「おいおい!? 望じゃあるまいし、その理不尽なキレ方はやめてくれ!」
玄「赤土先生、私からも一発お見舞いしますよ?」
晴絵「玄まで!? どうしたんだお前たち!?」
宥「早く行かないと、私も怒りますよ?」
晴絵「現代の若者に広がる理不尽な怒り!? 宥が怒るとかあり得るのか!?」
憧「いいからさっさと灼を迎えに行けって言ってんの!! マジで殴るよ!? 5、6発!」
晴絵「殴る回数多いな!? 分かった分かった、行くから落ち着け! 振りかぶるな!」
ドタドタ……バタン!
憧「ったく、アレはマジで天然なのかねー?」
玄「かける言葉が思いつかなくて行くに行けないだけ……と信じたい」
宥「灼ちゃん、大丈夫かな?」
穏乃「憧ー、私が迎えに行ったらダメだったの?」
憧「こいつは天然だよね、はあ……」
灼「うっく……私、絶対勝つなんて言っておいて……何も……ううっ!!」グスッ
晴絵「……まだ対局室の中だったらどうしようかと思ったよ。選手しか入れないからな」
灼「は、はるちゃ……!?」ゴシゴシ
晴絵「お疲れ様、二位と三万差、逆転圏内で繋いでくれた。お手柄だぞ灼」
灼「……」
晴絵「どうした? よく打ってたじゃないか。少なくとも打牌にミスは一つもなかった」
灼「そんなはずな……ミスがないなら半荘二回の間焼き鳥なんてありえな……」
晴絵「臼沢の能力については教えたな? 仕方ないんだよ」
灼「でも……あそこに座ってたのがはるちゃんならきっと……」
晴絵「まあ、アレ相手でも跳満ぶちあてるぐらいはできたから、私なら何か出来たかもな。だからどうした?」
灼「だからどうしたって……なのに私は何も……」
晴絵「思い上がるなよ、灼。私に出来ることならお前にも出来るとでも思ったのか?」
灼「それは……」グスッ
晴絵「って、こんなことを言いたいわけじゃないんだ! 灼は本当によくやってたんだってば!」アセアセ
灼「さっきのセリフの後だと取り繕ってるようにしか聞こえな……」
晴絵「おおうっ……私はそんなつもりじゃ……」
灼「で、私はどういうところが良く打ててたの?」
晴絵「まず、結果を冷静に見てくれ。全国の準決勝で半荘二回打って失点が5000を切ってる。一回も和了らずにだ。放銃ゼロは立派なことだ」
灼「けど、一回も和了れてな……」
晴絵「それも裏を返せば凄いことだな。前半の東一局から臼沢のマークは灼だけに集中していた。それだけの脅威だったんだ」
晴絵「臼沢にとって、灼は白糸台の副将や永水の一年レギュラーなんか眼中に入らないぐらいの大物だったってことだ。これは凄いことだぞ」
灼「でも、臼沢の能力を破っていれば和了れたはず……」
晴絵「実は、臼沢はオーラスの時点でもう限界だった。だから、最後はお前を止めるのを諦めて亦野に差し込んだ」
灼「……」
晴絵「地区大会ではマークした相手を全て封殺し、自らはツモ以外では失点しなかった、まさに鉄壁と言える守備を誇る臼沢塞が、振り込んで失点したんだ」
灼「もう少し頑張れば、和了れた?」
晴絵「そうだな。しかし、あの状況じゃ和了れないのが普通だ。もう少しで和了れるところまで行ったのがそもそも凄い」
灼「……」
晴絵「亦野も滝見も、お前を警戒するからこそ、臼沢がお前のマークを外さないようにしていた。臼沢の負担にならないように互いへの差し込み中心で流し続けた」
晴絵「あの卓の三人は、全員がお前に怯えて逃げていたんだ。灼があの卓の中心だったんだよ。これは解説の三尋木プロも、逃げたとは言わないけど似たようなことを言っていた」
灼「……」ポロポロ
晴絵「なっ!? ま、まだ足りないか!? なら、実際に打った手だけど、東一局の三巡目――」
灼「もういい……」グスッ
晴絵「いいや、聞け! あの段階で灼は違和感を感じて臼沢にマークされていることに気付いた。たった三巡で臼沢に揺さぶりをかけ始めたんだ! この判断があったからこそ……」
灼「もういいってば!! 自信、持てた……ありがと……」ポロポロ
晴絵「し、しかし、お前、泣いて……」アセアセ
灼「嬉し泣き……ちゃんと見ててくれたのが、嬉しいだけだから……」ギュッ
晴絵「そ、そうか? まあ、見るのが仕事だからな。監督だし。あはははは」
【曲がり角】
憧「そこでキョドるな! せっかく上手くフォロー出来てたのに、全くハルエったら!」
宥「し、仕方ないよ、赤土先生だし……そこまでは……」
玄「しっかり決めないと灼ちゃんがかわいそうなのです」
穏乃「あこ~? まだ会場行っちゃだめ?」
憧「ダメ」
穏乃「ちぇー」
憧「まあ、ハルエにしては合格点か。お姉ちゃんから聞いたドン引きエピソードに比べれば」
宥「あ、それ聞きたい」
玄「先生は今まで何をやらかして来たの……?」
憧「本人の名誉のため黙秘」
宥「あ、名誉が傷つくレベルなんだ……」
憧「今のを見て灼に同情してる玄なら、全部聞いたら義憤に駆られてハルエを殴りに行くと思う」
玄「そこまで!?」
『いやあ、てなわけで、ギリギリもギリギリって感じだね。あとちょっと何かが違えば鷺森さんの大爆発が見れたかもしれないよ。知らんけど』
『亦野選手も滝見選手も三校での協力体制を取るため……臼沢選手に負担をかけないように安手を作り、可能な限り互いへの差し込みで場を進めていたんでしたっけ?』
『高度な読みが必要で、臼沢さんなんか目に見えて消耗してたからね、三人とも限界だった。いやあ、よく半荘二回抑えたよ。見た目地味だけど、めちゃくちゃ熱い攻防だったね』
『怪物が解き放たれたら終わり、三人で協力して怪物を時間いっぱいまで抑え込む。余裕はほとんどない……最悪なことに鷺森選手がラス親と』
『手を取り合えば化け物相手でも戦える、なにせ、持ってる牌の数は変わらないわけだからね。三対一で勝てるのがまずおかしいんだよ』
『三校で協力する場合、どこかで出し抜くものだと思いますが……最後の最後まで、出し抜く人間が現れませんでしたね』
『そんな余裕ないっしょ。灼ちゃんサイドから見るなら、暴れ続けたことがミスかな? 死んだふりして油断させて連携に綻びを入れれば勝てたんじゃないかねえ。知らんけど』
『安全は毒、でしたっけ?』
『そそ。ギリギリの勝負で安全に勝とうとすると逆に勝ち目を逃すことになるからね。優勢を意識するってのは危険なんだよ』
『運も絡むようなゲームでは完全に安全ということはありませんからね。よほどの幸運に恵まれない限りはどこかで勝負に出る必要があります』
『運の要素がない将棋なんかでもそうなんだけどね。一手違いの局面で、優勢だから安全にとか思ったらそこで簡単に逆転する。ギリギリを読み切って踏み込まないとね』
『劣勢だと思っているからこそ思い切った手で逆転を掴めるなんて話もありますからね。逆に優勢を意識してしまうと手が縮む』
『そゆこと。灼ちゃんは相手を追い込み続けたけど、余裕という毒を飲ませれば仲間割れを誘えたんだよ。三対一は三の側に常に連携の隙がある』
『圧倒的な力があればねじ伏せることも出来たでしょうけど、拮抗していましたから、そういう駆け引きが重要だったんですね』
『本来敵同士の連中が手を組むんだから、共通の敵が弱れば連携は切れる。まあ、その判断をして実行するのは並大抵のことじゃないけど』
『水面下で激しいせめぎ合いがあった副将戦でした。一歩間違えれば試合の展開は大きく違っていたのかもしれません』
『実際はなにも起きずに静かなまま終わったんだけどね』
『それで、大将戦ですが……』
『永水と白糸台の格付けにも興味があるけど、宮守がこの点差でも最後まで包囲網に加わり続けたのが怖いねえ。上を削るためにどこかで鷺森さんを暴れさせると思ったよ』
『大将戦にこの点差を維持して臨むよりは、一か八か鷺森さんに暴れさせた方がいいというお話でしたよね?』
『そうしないってことは、そのリスクを冒すより副将戦をこのまま流した方がいいと判断したってことだ。休憩をはさんだ後でもね』
『休憩をはさんでも、ということは、監督からもゴーサインが出たということですよね』
『つまり、熊倉さんは姉帯さんならこの点差をまくれるって判断したんだよ。まさかボケたわけじゃないだろうから、それだけの選手ってことだねぃ』
『白糸台と永水はともにエース格の大星選手と石戸選手ですからリードを持った上の大将での勝負は望むところ、宮守も姉帯さんなら行けると』
『さあ、どっちの判断が間違ってるのかね? 点差を考えたらいくらなんでも無茶な気がするけど、宮守の監督は熊倉さんだ』
『もう一校、好位置から追いかける三位の阿知賀女子はどうでしょう?』
『あの子もあの子で、あの集団の大将だからね。セオリー通りのオーダーなら玄ちゃんに次ぐ二番手なわけだけど……』
『ここまで、阿知賀女子は四人全員が非常に高レベルの選手でしたね。期待できますか?』
『期待はいくらでもするけど、どうだろうね? 地区予選の記録を見る限りじゃほかの四人に比べて平凡な選手に見えるよ。ただ、同じ一年の新子さんも化けてるから、地区予選のデータでは判断出来ない』
『それでは、四人の力と点差を踏まえて、この大将戦をどう見ますか?』
『エース格の二人が大きなリードを持って迎え撃つのを突破できるかどうかだね。並の選手じゃ絶対に超えられない壁が立ちはだかってる』
『荒川選手の後継者とも言われる大星選手、春の大会でほとんどの試合をトビ終了で終わらせた永水のトリプルエースの一人、石戸選手……』
『その二人が強いのは言うまでもない。さあ、熊倉さんの隠し玉と、ここまで散々驚かせてくれた阿知賀の大将は、いったい何を見せてくれるんだろうね?』
再掲 次スレ【咲-Saki-】咲「お姉ちゃんまでプラマイゼロをやりだした」3 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1434779153/)
今回はここまでです。次回は来週の水曜を予定してます。
亦野さんと滝見さんのキャッチボールが延々と続くのと、そこに起伏をつけようとすると鷺森さんが暴れて臼沢さんが苦しむという展開が、やはり延々と続くことになるのでこういう形になりました。
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