キョン「なに?もう来なくていい……?」 (24)

ハルヒ「……」

はは、なにをふざけたことを
そう口に出そうとした俺を、ハルヒが睨む
いや、正確には睨んでいるのではない
なにか後ろめたそうな、それでいてはっきりとした意思を感じる視線
その視線に含まれる感情も、言葉の真意もわかりかねているうちに、ハルヒがもう一度口を開く

ハルヒ「もう、来ないでいいから。あんた」

キョン「お、おい……なにを」

そして気づく
古泉
朝比奈さん
そして、長門まで

皆、ハルヒと同じ目だ
同じことを思っている、顔だ

ハルヒ「……」

キョン「おい、なんだよ急に……」

聞くことしかできなかった
そりゃそうだろ。他にどうしろって言うんだ

キョン「なんだよ、なんなんだ?」

自分の声が、自分のものではないような気がした

ハルヒ「もう、本当……帰って」

キョン「おいだから一体」

ハルヒ「帰ってよ!」ドンッ

キョン「ぐあっ!?」

思いきり尻餅をつく

キョン「なにしやがる!お前少し変だぞ!ほら古泉もなにか……」

そこまで言って言葉がつまる
古泉は見たことない顔をしていた
もしかすると神人と戦うとき、こんな顔なのかも知れない
はっきり言うと、恐怖した

古泉「……僕からも、お願いします。今日のところはお引き取り願えませんか」

キョン「お、お前まで……なんだ、俺が何かしたのか?長門、説明してくれ」

長門「あなたは帰るべき」

間髪入れずにとはまさにこの事だろう。長門は言い放った
過去に少し、ほんの少しだけ長門の感情の起伏のようものを感じたことがある
今度のそれは、その時よりもはっきりした、感情が込められていた
ように、思えて仕方がなかった

ハルヒ「……」

古泉「……」

キョン「朝比奈さん……こいつらは一体なにを……」

みくる「ひっ!」

こればかりは傷ついた
折れちまったよ、ポッキリと

キョン「いい加減にしろ!なんなんだよ急に!意味がわからんぞ説明しろ!」

ハルヒ「いいから帰ってよもう!!帰って!」

キョン「うるさい!だから説明しろってハルヒ!なあ俺が何かしたのか!?」ガシッ

ハルヒ「やっ……!」ビクッ

バキャッ

痺れを切らしハルヒに掴みかかった瞬間、頬に鈍い痛みが走る
次の瞬間には尻餅をついていた
たっぷりと時間をかけ顔を上げると、肩で息をしている古泉と目があった

古泉「……お願いします、帰って、いただけませんか」

ああ、なんだ
古泉に殴られたのか

キョン「ああわかったよ!帰ればいいんだろ帰れば!!説明の一つもせずに、人をなんだと思ってるんだお前ら!」

ハルヒ「いいから帰りなさいよおおお!!」

みくる「ううっ……」

ハルヒが叫ぶ
朝比奈さんは泣いている
古泉は俺を警戒し、長門はいつもと変わらないようでいて、明らかに見せたことのない表情で俺を見つめる

キョン「ふざけるなよ!こんなとここっちから出ていってやるよ!」

そう言って立ち上がる
目に涙が滲んでいるのがはっきりと感じられたが見せてなるものかと下を向き机の上に放り投げていたパンツを穿く
さっきまではあんなに理由を知りたかったのに、今は一刻も早く部室を出たかった

大急ぎで、肩を怒らせたままズボンも穿き、シャツと鞄を手に部室を出る
ドアを閉める瞬間、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ古泉の悲しそうな顔が見えた気がした
どうせ気のせいだろうがな

ガチャ
バタンッ

ハルヒ「……はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

みくる「うう……」

古泉「……朝比奈さん、申し訳ありませんが涼宮さんにお茶をお願いできますか」

みくる「は、はい……」

ハルヒ「はぁっ……はぁっ……いいわ、あたしがやるから……いいから……」

古泉「一度落ち着かれたほうが……」

ハルヒ「いいって言ってるでしょ!」

みくる「ひっ……」

ハルヒ「あ……」

古泉「……すみませんでした、女性の前で、あんな乱暴なことを……」

ハルヒ「……いいえ、ありがとう古泉君……ありがとう……」

みくる「涼宮さん……」

ハルヒ「……私も、帰るわ。今日は解散……」

古泉「はい……」

ハルヒ「じゃあね……」ガチャ

バタンッ


古泉「……」

みくる「涼宮さん……」

長門「……」

古泉「……」

長門「古泉一樹、あなたは間違ったことはしていない。気に病む必要はないと思われる」

古泉「そう言っていただけると、ありがたいです……」

みくる「……なんで、こうなっちゃったんでしょう……」

長門「……彼がああなった以上、こうなるのは時間の問題だった」

古泉「……今日で丁度一週間、ですね」


古泉「彼がところ構わず脱衣するようになってから……」

ガチャ

キョン「ただいまー」

キョン妹「ひっ……お、お帰りキョン君……」

キョン「おう、帰ってたのか」

帰宅直後、リビングから出てきた妹と出くわす
最近少し距離を感じる
早く兄離れしろといつも思っていたが、いざその時期が来ると少し寂しいものだ
靴とズボンを脱ぎ家に上がる

キョン妹「キョン君、今日は早いんだね……」

キョン「ああ、ちょっとな……」

キョン妹「やっ……!」

嫌なことを思い出しながらパンツに手をかけると妹が少し驚いたような声を出す
顔に出ていたか。いかんいかん
頭をふり出来るだけ明るく声をかける

キョン「今日は団活が早めに済んでな。久しぶりに俺の部屋でゲームでもするか?」

キョン妹「い、いい……っ!」タタッ

走っていってしまった
そんなに怖い顔をしていただろうか
それもこれも……いや、考えるのはよそう
今はシャワーでも浴びて、色々と考えを、整理したい

長門「原因は恐らく涼宮ハルヒ」

古泉「……しかしあれだけ本人が嫌がっていて、彼が未だあの状態なのは」

長門「理由は定かではないが、本人が心の底で望んでいるものと思われる」

みくる「でも、ならなんで……」

長門「情報統合思念体はこの件に対し、ひとつの仮説を立てた。しかし推測の域は出ない」

古泉「お聞かせ願えますか、長門さん」

長門「……彼がところ構わず、例えそれが誰の前であっても、全裸になる今回の現象」


長門「これこそが、現在の涼宮ハルヒの考える『非日常』であると推測される」

みくる「……?それってどういう……」

古泉「……」

長門「涼宮ハルヒの精神は最近、厳密には一週間前まで安定していた」

みくる「そうなんですか?」

古泉「ええ……実際に以前と比べ閉鎖空間の発生は抑えられているように感じました。それも一週間前までですが」

長門「涼宮ハルヒが望んでいるものは非日常、それは間違いない。しかし」

長門「同時に彼女はこの生活を、心から楽しんでいた」

長門「このSOS団団長としての生活を」

古泉「……」

長門「簡単に言えば、彼女はこう思っていたものと推測される」

長門「『日常も、悪くはない』と」

みくる「でも、だったらなんで……」

長門「……しかし、涼宮ハルヒの非日常への憧れが消えたわけではない」

古泉「それで、彼が……」

みくる「どういうことですか……?」

長門「そう」

長門「涼宮ハルヒの望みの範囲は、『実際に再現できること』に狭まった」

長門「そこで『彼がところ構わず服を脱ぐ』という、実際に起こり得なくとも簡単に想像ができる範囲で、望みが叶えられたと推測する。つまり」


長門「これが今現在の涼宮ハルヒの望む、『非日常』」

みくる「そんな……」

古泉「……」

古泉「ですが、不可解な点があります」

長門「なに」

古泉「涼宮さんは本気で、彼のあの姿を嫌がっているように見えました。それは彼女が望んでいないと言うことなのでは」

長門「あなたは昔、涼宮ハルヒの本質は常識人であると言った」

長門「大多数の女生徒が全裸の男子生徒に抱く嫌悪感と言うものは、涼宮ハルヒの中にも確かに存在する。なのでああいう形で改変が起きた。つまり」

みくる「改変が起きているのは、キョン君だけ……」

長門「そう」

古泉「……」

みくる「長門さんの力でも……」

長門「不可能。『誰もところ構わず全裸にならない』この世界で、彼だけが全裸になると言うのが、涼宮ハルヒの望み」

長門「彼が私たちのいないところで全裸になり、警察に捉えられるというのも十分起こりうる」

みくる「そんな……!」

古泉「そちらに関しては機関の方で彼を監視しています。しかし脱ぐのをやめさせない限りは……」ピリリリリ

古泉「……失礼、バイトが入りました。それでは」

みくる「古泉くん……」

古泉「……ここ一週間、神人が彼の姿をしているんです。全裸の」

長門「……」

古泉「……神人と戦うことは、もちろん危険がつきまといます。ですが彼の姿をした神人と戦うことと、彼本人を殴ること。一体どちらが僕にとって、痛みが大きいのでしょうね……」ガチャ

バタンッ

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