姉「タブレットになった (162)

姉「久しぶりだね! 弟くん!」

男「……」ポカーン

姉「弟くんのことが心配で戻ってきちゃった!」

男「ごめん意味がわからない」

姉「突然すぎたかな?」

男「どうしてこうなった」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1426514096

都心の大学への進学が決まって

幼いころから暮らした祖父母の家を出てひとり暮らしを始めた

初めてのことだから何かと準備が必要で

アパートを掃除した後

家電量販店に買い物に行ったんだ



必要最低限の家電を買って

ついでにちょっと時間つぶしのためのアイテムが欲しくなった

バイトをしていたのでお金はあるし

そこそこのものが買えるだろうと思っていた

ゲームはある日を境にやらなくなった

正直パソコンとかそういうのもあまり詳しくない

いろんなものを見ているうちに

このタブレットが目に止まった



メーカーは知らないところだった

僕がそれを手に取ろうとすると若い女性の店員

……というより販売応援らしき人が現れてしきりにそのタブレットを勧めてきたのだ



販売員「この商品を手に取られるなんてお目が高いですね!」

販売員「スペックは最高ですよ!」

販売員「オフィスもバッチリ!」

販売員「内臓アプリも充実ぅ!」

販売員「何を隠そう最後の1台!」

販売員「あっサポートは終了しますけど!!」アハハ!

本体のデザインはシンプルで色は真っ白でとても綺麗

画面にはデモ用と思われる動画が映し出されている

観たことがある映画のワンシーンで

とってもリアルだし音にも臨場感があるように感じた



本体のスペックとか難しいことはよくわからなかったけど

どうしようもなく手に入れたい衝動に駆られてしまった僕はその販売員の話を聞くことにした

販売員「いまなら色々サービス致します!!」

男  「でも……高いんでしょう?」

販売員「ここだけの話ですけど……もう最終在庫なのでかなりお安くできます!!」

男  「そうなんですか……インターネットとかも見れますか」

販売員「Wi-Fi対応ですね! スマホのデザリングでオッケーですよ!」

男  「よくわからないけどわかりました」

販売員「どうなさいますか?」

男  「お願いします」

販売員「ありがとうございます~!!」

男  「いいのかな……他のと比較したらタダ同然じゃないですか」

販売員「そういうものです!!」

男  「そうなんですか……ありがとうございます」

男「……でアパートに帰ってきて」

男「開封してセットアップして」

男「ユーザー名に僕の名前を入れて何故か生年月日を入れて」

男「OSのユーザー登録して起動」

男「そしたら画面の中で姉ちゃんがポーズとって笑ってた……と」

姉「不思議だね!!」

男「すっごくビックリしたんだけど!!」

姉「ごめんごめん」エヘヘ

男「ちょっとまって僕どうしてタブレットと会話してるの!?」

姉「ちがうよお姉ちゃんだよ」

男「いやタブレットだよね!?」

姉「そうとも言う」アハハ

男「シャットダウン」ポチ

姉「ちょっと待っ」ヒュウ

男「気のせい気のせい」

男「じゃあ再起動」ポチ

男「ん……アップデート……?」

男「終わった……」



姉「パワーアップして降臨!」

男「化粧して着替えただけじゃねーか!!」

姉「見惚れた? ん?」

男「僕疲れてるのかな……」

姉「本物だよ……本物のお姉ちゃんだよう」

男「ンなわけあるか!!」

姉「ヘックシ!!」

男「なんでクシャミしてんだよ!!」

姉「コンピュータウイルスに感染したかも」ックシッ!

男「マジで!?」

男「えっと……アンチウイルスソフト!」アセアセ

姉「もうダメかも……弟くん……私……」

男「待て待て待て待て!! これだキター!!」クリック!

姉「おっ? おおっ!?」パァァ

男「……やったか!?」ドキドキ

姉「治ったーーーー!!!!」イェェエエイ!

男「危ないところだった」ホッ

姉「いやホントありがと」

男「どういたしまして……って大丈夫かなこのアパートのネット環境」

姉「全くツイてないわ」ハァ

男「ツイてるタブレットってあるの!?」エェェ!?

姉「生き返ったとたんコレだもんな……」

男「……生き返った???」

姉「先に○んじゃってごめんね?」テヘ

男「そういうこと言うなよ思い出すじゃねーか!!」

姉「だからごめんって……」

男「すっごいピンポイントでマジ悪趣味なAIだなオイ!?」イラッ

姉「お姉ちゃんのこと嫌いになったの?」

男「大好きだったから許せない冗談もあるんだよ!」

姉「ちょ……ねえねえもっかい言って?」モッカイ

男「だーかーらー……あっ」カァァ

姉「ん? んん?」ドキドキ

男「シャットダウ……」

姉「待って待って待って!! せっかく会えたのに!!」

男「……」

男「信じてるわけじゃないんだけど」

姉「なんでも質問してちょーだい」エッヘン

男「誕生日は?」

姉「○月×日」

男「大学は?」

姉「○○大学」

男「彼氏いない歴は?」

姉「イコール年齢」ショボーン

男「身長体重」

姉「166cm45kg」

男「スリーサイズは?」

姉「上から88・56・84」

男「嘘をつくな嘘を」

姉「すみませんサバ読みました特に胸」

男「本人と確定」

姉「そこかよ!!」プンプン

男「その……説明してもらえないかな?」

姉「まあ簡単に言っちゃうと超常現象」

男「どんなレベルの!?」

姉「現在の科学のレベルがすっごく上がれば解明できる話……だと思う」

男「知らんがな!!」

姉「ちょっと見ないうちに精悍な顔つきになったね」

男「どうやって見てるんだよ」

姉「そのカメラのレンズから」

男「……」スッ

姉「やめてレンズ隠さないで見えないから」

男「……やかましいわ」

姉「なんで……」

男「相変わらず……」

姉「なんで泣いてるのよ」

男「うるさいなぁ……バカ姉ちゃん……」グスン

姉「涙とか落とさないでね防水じゃないから」

男「……」

姉「……落ち着いた?」

男「まあね……なんか複雑な気分だけど」

姉「いや本当に心配だったのよ?」

男「なにが」

姉「弟くんに変な女が寄ってきてないかって」

男「ないわー」

姉「ないのもおかしいわね」

男「姉ちゃんがいちばん変なんだけど」

男「すっかりタブレットと話し込んでしまった」

姉「違うよお姉ちゃんだよ~」

男「そうだったね」

姉「そろそろお風呂入って寝る?」

男「そうする……」

姉「一緒には入れないよ?」

男「いや……もうツッコミ疲れました」

なにがどうなっているのかわからない



タブレットのなかの姉ちゃんは

姿も仕草も

声も話し方も姉ちゃんそのもので



僕はひょっとしたら

おかしくなってしまったのではないだろうかと

ほんの少しだけ不安になりながら



それでも

とっても嬉しかったんだ

男「そしてなんかどっと疲れたから寝るわ」

姉「まあそんなわけでまたよろしくね! 弟くん!」

男「あ……うん……」

姉「弟くんってさ」

男「なに」

姉「新しく買ってもらったおもちゃとかよく抱っこして寝てたよね」

男「そんな頃もあったね」

姉「……抱っこしてもいいよ?」

男「……おやすみ」

姉「超絶スルー」

姉「ちょっと弟くん」

男「今度はなに」

姉「充電プリーズ」

男「……しなかったらどうなるの?」

姉「たぶん消滅しちゃう」

男「うおおケーブルケーブル」ヨイショ

姉「ふふ……ありがと」

しばらくすると

タブレットから音楽が流れてきた

僕も姉ちゃんもこの歌がとても好きだった

懐かしくて暖かいピアノのイントロが心地いい



姉ちゃんが子守唄のつもりで検索して再生してくれたのだろうか



姉「……やわらーかなー♪ 風がーふくー♪」

男「って姉ちゃんが歌うの!?」エェェ!?

姉「なんてね♪ おやすみ♪」

男「あ……うん……おやすみ……」

その夜

僕は懐かしい夢を見た

姉ちゃんとふたりで出かけた時の夢だった

菜の花の咲き誇るどこかの大きな花畑



風はまだ少し冷たかったけど暖かい陽射しの中ではそれもまた心地よくて

小さな丘の上に座ってふたりで無邪気に笑っていた



そんなことがあったなと思い出す

その記憶もタブレットの中に入っているのだろうか



おぼろげな意識のなかで

何故だかとても悲しくて



幸せだった

姉「弟くん! 朝だよ!」

男「ん……もう少しだけ……」

姉「お・き・て?」

男「……姉ちゃん!?」エェェ

姉「……おはよ♪」

男「なんかすごい目覚まし機能だね!?」

姉「……萌えた?」

男「べっ……別に起こされなくても起きられたんだからね!?」

姉「ツンデレか」

姉「まだ入学式までちょっとあるね」

男「それまでヒマだなぁ」

姉「ゲームの続きとかやらない?」

男「なんの……ああアレ?」

姉「ひょっとしてクリアしちゃった……とか?」

男「いや……そのままだけど」

姉「続きやってくれてもよかったのに」

男「勝手に続きやって怒られたくないから」

姉「バカね……」

男「我ながらそう思う……それに」

姉「それに?」

男「セーブデータ更新したら姉ちゃんが本当にいなくなる気がした」

姉「弟くん?」

男「なに?」

姉「私はいまこんなんだけど」

男「……」

姉「泣くことができるって知ってた? ねえ知ってた!?」グスン

男「ごめん……そんなつもりじゃなかった」

姉「……いいよ……嬉しい」

姉「でもゲーム機もソフトもないね」

男「買いに行こう」

姉「はあ!? 取りに帰ればいいじゃん!」

男「新しいゲーム機も出てるし」

姉「おうっ?」ズギャーン

男「興味あるんじゃん」

姉「まっ……まあもう大人なんだし好きにすればいいとお姉ちゃんは思うけど」

男「っつーか姉ちゃんのタブレットでゲームのアプリないの?」

姉「ゲームを起動すると私に内容や攻略法が全てネタバレしてしまうという不親切仕様」

男「なるほど不便極まりない」

姉「わかってくれたようで嬉しい」

量販店「新生活応援セール実施中! 100名毎に10万円までのお買物が……」タダカモシレナイィ

量販店「他店より1円でも高い商品は……」モットタカクナルウゥ



男「ゲーム売場に行くその前に」

姉「?」

男「この間の販売員さんは……」

男「あれ? 売場なくなってる……?」

男「また今度にしよう……」

姉「本当にゲーム機ごと買うの?」

男「うん……ってヘッドホンで聞くとくすぐったいな……」

姉「ふう~」

男「吐息の音だけとかやめて」

姉「意外とつまらない反応」

姉「どうせなら弟くんと一緒にできるのがいいんだけど……」

男「どうやってやるの!?」エェェ

姉「ゲーム機のコントローラー用のUSBポートにケーブルを直結させるとあら不思議」

男「理屈はわからないけどなんかすごいね」

姉「マルチができるゲーム……」

男「狩りゲーとか?」

姉「いいと思う」パァァ

男「じゃあこれで」

姉「ちょっと……PSフォニャララとViゲフンゲフンとそれぞれのソフトとnasヘックシはさすがに買い過ぎだと思うよ!?」ワクワク

男「声がワクワクしてる」

姉「バレたか」アハハ

男 「これ下さい!」

店員「かしこまりました……全部で98,150円に……あっ」マジデ?

男 「……?」

店員「おめでとうございます!」

男 「へっ?」

店員「100人目です!」

男 「もしかして……」

姉 「タダ!?」

店員「こちらが商品になります!」

男 「いいのかな……」



客 マジデソンナノアルンダー

客 スゲー

客 ナンカオメデトー



姉「さすが私の弟!」

男「姉ちゃん……なんかした?」

姉「そんな機能はないよ」

男「デスヨネー」

姉「まあ弟くんは昔から運には恵まれてる子だったし」

男「そうだっけ??」

男「帰宅そして開封」

姉「弟くんごめん」

男「どしたの?」

姉「ちょっと充電と休憩」

男「……疲れたの?」

姉「タブレット本体が発熱してる」

男「そういえば電源入れっぱなしだったな……って大丈夫!?」

姉「ちょっと休めば大丈夫だと思うよ?」

男「気にしてなくて……ゴメン……」

姉「私も気にしてなかった」

男「じゃ……閉じるよ……?」

姉「うん……またあとでね……」

男「姉ちゃん……」

姉「どうしたの?」

男「ううん……なんでもない……」

姉「心配しないで……大丈夫だよ」

男「うん……」

僕は少し躊躇いながらシャットダウンした

思い返せば最初に有無を言わさずシャットダウンしたから大丈夫だとは思ったんだけど



またそのまま姉ちゃんが遠くに行ってしまうような気がして

男「静かだな……」

男「ひとりでいるのに慣れたと思ってたんだけどな……」

男「開封は姉ちゃんが起きてからにしよ……」

姉「キャラかわいいのできた! 弟くんは?」

男「もう少し……」

姉「見せて見せて!!」

男「マルチプレイの時まで待って」

姉「ケチ!」

姉「そっくりじゃん」フフ

男「姉ちゃんも似てるし本名じゃん」

姉「神機はショートブレードとブラスト」

男「僕はロングブレードとアサルト」

姉「私がPSフォニャララで」

男「僕がViゲフンゲフン」

姉「じゃあ開始!」ヤッタアァァァ

姉「うおおおおお!!」

男「おあああああ!!」

姉「っしゃ楽勝ぉーーーー!!」

男「相変わらず上手いね……」

姉「次いくよ次」

男「はいはい」

姉「今度のボス強いね」

男「ちょっ……マジやばいって!」

姉「時間稼いで」

男「えええ姉ちゃんなにやってるのぉぉぉ」ドゴーン!

姉「攻略法ググってる」

男「ずいぶん便利な機能だね!?」ズガァン!!

姉「終わった! いま行くね!」

姉「楽しかったね!」アハハ

男「久しぶりに思いっきりゲームした」

姉「明日も続きやろう?」

男「うん」

姉「……おやすみ」




楽しい

こんなに楽しいのはいつ以来だろう



なんだかんだで

タブレットの中にいる姉ちゃんとの生活は楽しかった

やがて学生生活が始まり

僕は毎日姉ちゃんと一緒に通学した



姉ちゃんは講義の間でも内容をしっかり聞いていて

ググってコピーした内容を文書に保存しておいたりしてくれた

バックアップ用のファイルもメールでパソコンに転送してくれた



その時の差出人の名前は姉になっていて

僕はそのメールが届くのが嬉しかった

姉ちゃんの好意を無駄にしないように

メールの添付ファイルは必ず確認してしっかり復習した

元々理系だった姉ちゃんも勉強に付き合ってくれて

わからないことは補足説明してくれたりした



おかげで成績はとてもよかったし

気づいたら機械オンチでもなくなっていた

そのまま時間は進む

男「……姉ちゃん」

姉「どうしたの?」

男「……誕生日おめでとう」

姉「あっ……覚えててくれたんだ」カァァ

男「忘れるわけがないよ」

姉「……ありがと」

ハッピーエンドで頼む

男「プレゼント何がいいかな……」

姉「んー……特に必要なものとかないんだよね……」

男「どこか行きたいところある?」

姉「それがいい!」

男「じゃあ……スカイツリーでも行こうか」

姉「楽しみ!」

>>50
レスありがとうございます
頑張ります

男「イルミネーション……綺麗だね」

姉「もうクリスマスだからね」

男「うん……」

姉「私と一緒にいていいの?」

男「こんな秘密を抱えていまさら他の誰と一緒にいろというのか」

姉「……」カァァ

男「それに今はこうしてるほうが楽しい」

姉「どうしよう……」

男「何が?」

姉「クリスマスにデートスポットでタブレットと会話する弟くん……」

男「別にいいじゃんか」

姉「お姉ちゃん弟くんのことそんな男の子に育てた覚えないわー」

男「いや中学生くらいの頃から毎年結構付き合わされたよね!?」

姉「そうだったっけ」シレッ

男「また一緒にいられて……実は嬉しい」

姉「……そうだね」

そして季節が一周するころ



いろんなことを勉強して知れば知るほど

抱えてた不安が明確なものになり

同時に疑問が入り混じるようになった

僕はいつまで姉ちゃんと一緒にいられるんだろう

ずっと一緒にいられるようにするにはどうすればいいんだろう



タブレットは電子機器で消耗品だ

バッテリー然りメモリー然り

存続させるにはいつか必ずメンテナンスしなければならない日がくる



サポートらしき電話番号に電話をしてみたが使われていなかった

いろいろアプリを使ってみたがそれらしい請求もなく

メーカーはググっても出てこない



他の人に相談するわけにもいかない

つまり誰にも頼れないということだった

だから僕は

自分の将来の夢と進路を決めた

明確な目標を持って行動するのは初めてのことかもしれない



そんな僕の気持ちを察したのか

姉ちゃんはインターネットを検索しては

すごくレベルの高い論文や学説を僕に教えてくれた

中には既存の概念から外れるようなものもあったが

いつ理解したのかわからないけど姉ちゃんは姉ちゃんの言葉で親切に理屈を教えてくれる



僕はそれが嬉しくて夢中になって勉強した

そして

その日は突然やってくる

姉「でね、この論文の公式の解が実はこうじゃなくてね……」

男「うん」

姉「……で……ザザッ」

男「えっ?」

姉「……ザザッ……こう……ってね」ザザッ

男「スピーカー!?」

姉「……くん!?」

僕は音が出なくなったスピーカーの代わりにヘッドホンをした



姉「弟くん……」

男「聞こえてるよ」

姉「……そろそろ壊れちゃうのかなあ」

男「らしくないよ! 大丈夫だよ!」

姉「朝……起こせなくなっちゃったね」

男「ヘッドホンして寝るわ」

姉「でも弟くんの顔はハッキリ見えるんだ」エヘヘ

男「うん……」

姉「写メとかもあったりして」

男「いつの間に……」

姉「ムービーもあるよ?」ホラ

男「やめてえぇぇ」

修理しないといけない

相変わらずサポートには繋がらない

かと言って自分で修理を試みるのも怖い



姉ちゃんを他の端末に移すことはできるのだろうか

そんなことも考えた

だけどやっぱり完全に引越しをするのは不可能なのではないか

いずれにしろ失敗すればとんでもないことになる

男 「量販店来てみたけど……」

男 「やっぱりいるわけないか……」

男 「すみません……このタブレットなんですけど……」

店員「当店では取扱いのない商品ですね……」

男 「いやでもここで買ったんですよ?」

店員「アウトレットかもしれません……少々お待ち下さい」

姉 「あんまり困らせちゃダメだよ?」ヒソヒソ

男 「いや困ってるの僕の方」ヒソヒソ

店員「お待たせしました」

男 「……どうですか?」

店員「店舗保障対象外ですし……わかりませんね……」

男 「そうですか……」

店員「新機種などご覧になられますか?」

男 「いえ……また来ます」

状況は好転しないまま数週間が過ぎた

僕は不安を掻き消すように必死で勉強した

そうすれば何か解決の糸口が見えるかもしれなかったからだ

それが実を結んだのかどうかはわからない

成績が良く日頃から教授の覚えがよかった僕は新設された研究室への出入りを許可された

もちろん周囲は大学の先輩だけだったし僕のことを快く受け入れてくれたわけではなくて最初は戸惑ったけれど

姉ちゃんから教わったいくつかの理論を自分なりに分析して統合した論文を教授に提出したらそれが何かで発表されて注目を集めることとなり

みんな歓迎してくれるようになった

その理論は数年後の世界で最先端エネルギー工学の基礎理論の根幹を担うことになるのだけど

ハッキリ言って僕にはどうでもよかった

姉「さすが私の弟くん!」

男「ありがとう……姉ちゃんのおかげ」

姉「あれ……?」

男「どうしたの?」

姉「……?」

男「姉ちゃん?」

姉「音が聞こえないかも」

男「ちょっと……姉ちゃん?」

姉「やっぱり聞こえないわ」ヤレヤレ

男「ヘッドセットなら……」

姉「音声データがあるから声だけならいつでも聞けるけど」アハハ

男「姉ちゃん……僕……」

姉「大丈夫だよ……私は大丈夫」

男「僕は大丈夫じゃない」

姉「何度も悲しい思いさせてゴメン」

男「謝らないで……なんとかする……なんとか……」

姉「待ってる……」

男「姉ちゃん」

姉「なあに?」

男「明日……出かけよう」

姉「どこへ?」




まだカメラは大丈夫なはず

僕は

いつか夢の中で見たあの風景を

どうしても姉ちゃんと見たくなった



何故明日にしようと思ったのかはわからない



ひょっとしたら明日には会えなくなるかもしれない

あの時のように



そんな気がしたからかもしれない

男「覚えてる?」

姉「……?」

男「いつか行った……花畑」

姉「……覚えてる」

男「夢で見たんだ……姉ちゃんと再会してすぐ」

姉「うん……でも」

男「どうしたの?」

姉「ううん……なんでもない」

姉「今日は弟くんと遠出」フフ

男「咲いてるかな……綺麗なんだろうな……」

姉「……」

男「一緒に見ようね」

姉「うん……」

男「……元気ない?」

姉「そんなことない」フルフル

男「確かこの駅で……」

姉「そこからバスだよ」

男「よく覚えてるね」

姉「マップで検索してGPS使ってる」フフ

男「ありがとう」

男「なんか……雰囲気違うな……」キョロキョロ

姉「……」

男「こんなに住宅とか多かったっけ……確かに見覚えあるけど……」

姉「次の角を左に曲がったところ……だよ」

男「うん……」

その場所にたどり着いて

僕は立ち尽くした



予感はしていたんだ



そこにあの頃の面影はなく

どこまでも冷たいコンクリートと砂の更地

あとは数台の重機があるだけだった

男「菜の花は……?」

姉「弟くん」

男「一緒に遊んだ丘は……?」

姉「弟くん!」

男「……」

姉「あの頃のからたくさんの時間が流れたの」

男「……」

姉「変わらないものなんてない……いつか消えていくの」

姉「だけどね」

姉「形を変えてまた誰かの新しい思い出を作るの」

姉「私もそう」

姉「こうしてまた会えたけどいつかいなくなる……弟くんより先に」



男「……」フルフル



姉「弟くんがあの頃のことを覚えていてくれて嬉しかった」

姉「今日は連れて来てくれてありがとう」



男「姉……ちゃん……」

姉「泣かないで……」

姉「今の私には……」

姉「……泣いてる弟くんを抱きしめることのできる腕がないの」



男「……っ!!」



姉「だから……もう泣かないで」

バスで来たそこまでの道のりを僕は歩いて駅まで戻った



辺りはすっかり暗くなってて

風が冷たかった

僕はずっとタブレットを抱きしめていた



姉ちゃんは何も言わなかった

そしてまた数週間が過ぎた頃

それは起こった

男「画面が……つかない」

姉「どうしたの……? 弟くん……」

男「姉ちゃんが……見えない」

姉「弟くん……おーい!!」

男「姉ちゃん……」ギュッ

姉「ねえ……どうしたの……?」

僕と姉ちゃんを繋げるのはヘッドセットを使った会話とメールだけになった



姉ちゃんからは僕が見えているらしいけど

僕は不安でたまらなかった



毎日決まった時間にメールを送受信したり

会話をすることで

互いの存在を確かめ合う日が続いた

たぶんもう時間がない

その焦燥は僕を突き動かした

2年生の間に卒業に必要な単位をほぼ全て取得し

自分の研究に没頭した


教授「やあ……天才少年」

男 「もうハタチ過ぎました」カタカタカタカタ

教授「またここにいるのかい」

男 「使わせてもらってます」カタカタカタカタ

教授「今度は何の論文だい?」

男 「今は言えません」カタカタカタタン

教授「鬼気迫る……とはこういうことを言うんだろうね」

男 「時間がありませんから」カタカタ

教授「君の研究内容をいくつか見せてもらったよ」

男 「そうですか」カタカタ

教授「率直に言うと……理解に苦しむ」

男 「常識に当てはめたからでしょう」カタカタ

教授「さすがだね」

男 「……」カタカタ

教授「ここから先は聞き流してもらって構わない」

男 「……」カタカタカタカタ

教授「君の研究はひょっとして……『自我のデジタル化』じゃないのかな……感情と思考と……記憶」

男 「……」カタッ!

教授「やっとこっちを見てくれたね……当たらずとも遠からず……というところかな?」

男 「残念ながら……もっと幼稚でオカルトめいたことですよ」

教授「君の書いた論文や研究内容をたくさんの科学者や企業が見たがっている……医療や福祉……環境……次世代エネルギー開発に量子コンピュータ……分野は様々だ」

男 「興味がありません」

教授「その中にVRの最先端技術を持つ海外の企業あってね……研究用の機材やデバイスを提供してくれることになった……君の考察した理論を元にアーキテクチャを再構築したら格段の進歩を遂げたらしい」

男 「……」

教授「それを使って何かできないかな? 君にとってはオモチャみたいなものだろうけど」

男 「理屈をこねるのと実際に作るのとは全く違う行為ですから僕にはそれをオモチャとか言う資格はありません」

教授「正論だね」

男 「ひとりじゃ壊れたタブレットひとつ満足に直せませんから」

教授「誰かの力を借りることも時には必要だと思うんだけどね」

男 「条件は何ですか?」

教授「そんなものあるわけないだろう」

男 「どうしてですか」

教授「君にそれだけの価値があるからだ」

男 「僕はただのシスコンですよ」

教授「初耳だな……まあいいか……君が自分のことを話してくれるなんて珍しいし」

男 「本当にいいんですか」

教授「VRのことかい? 私的なことでも構わないさ」

男 「ありがとう……ございます」

教授「うおおやっと教授らしいことしてあげられるぞマジで」

男 「いきなりざっくばらんになったよ!?」

生徒「さて……ようやく俺らの出番かな?」

生徒「まったく……後輩のくせに水臭い子ね」

男 「ってかなんでみんないるんですか!?」

教授「君もやっと笑ってくれた……それが何より嬉しい」

教授 「システム一式はその企業から明日届くのだけど」

男  「ずいぶん早いですね」

教授 「あちらの研究員も同行してくれるそうだ……素敵な女性なんだがどうしても君に会いたいらしくてね」

男  「それは光栄ですね」

教授 「当然だけど私たちもプロジェクトに協力させてもらうよ?」

生徒 「どんなVRなのかわからないけど」

生徒 「サポートなら私たちに任せて」

男  「……ガッカリしないで下さいね?」

機材が運び込まれた

開発にいったいどのくらいの金額がかかったのだろうか



企業のエンジニアの中には見覚えのあるような人もいる

たぶんサイエンス誌か何かに出ていた人だろう



僕たちは準備を進めた



大勢の人たちとワイワイ何かをするのは本当に久しぶりで楽しかった

着々と準備は進み



男「姉ちゃん!」

姉「弟くん!」

男「明日会える」

姉「えっ?」

男「僕がそっちに行くね」

姉「よくわからないけどワクワクする」ドキドキ

男「じゃ……明日」

姉「約束ね?」

男「うん……おやすみ」

姉「おやすみ」

当日



VRシステムルームに入って全身にデバイスを装着する

まるでアニメに出てくるパワードスーツのようなそれはいかにも仰々しくて自身が試作品であることを強調しているようだった



タブレットからの情報はスパコンへと抽出され補完される

スパコン内には僕の身体データが構築されていて

現実の身体の動きがVRデバイスを通して仮想現実の身体に反映される

仮想現実の僕の身体は現実の僕に本当にそっくりでイケメンだった

教授 「自分で言うな」

研究員「台無し」

生徒 「少しは自重しろ」

また仮想現実上の環境が作り出す刺激はVRシステムとデバイスを介して僕の現実の身体に影響を与える

擬似神経接続を応用したおかげで従来のものとは精度が違うらしい



視覚情報はすべてVRHMDから直接網膜に投射され音声は全方位サラウンドだ



リアルタイムで発生するそれらすべての事がスパコンによって並列処理されることによってほぼ完全な仮想現実が成立するというわけだ

しかしあくまでもぶっつけの臨床試験だ

何かトラブルが発生した場合には被験者である僕に対して悪影響がないとは言い切れない

むしろリスクの方が高いだろう



だけど僕には関係ない

なにしろ現実には存在しないはずの人に会いに行くのだから



それを望んだのは僕なんだ

教授「いいかい? 相当高度なVRシステムの上に検証結果もほとんどない」

男 「はい」

教授「大抵の人間は立っていることすらままならないのだそうだ」

男 「そうらしいですね」

教授「異常を感じたらすぐにオフにするからね?」

男 「乗り物酔いはしたことないですから……」

教授「そういうレベルの話なのコレ!?」エェェ!?

生徒「制御システム……オンライン」

生徒「電圧異常なし」

生徒「血圧・心拍数ともに問題なし」

生徒「擬似ニューロリンク開始……状況判断AI正常……脳波検知レベル正常……VRデバイスオールグリーン」

生徒「……行けます!!」

男 「いってきまーすアハハ」

教授「君だけ緊張感ないね!?」

緊張感ならある

不安だってある

でも高揚感のほうがそれを上回っていたんだ

研究員「カウントダウン開始」

生徒 「3……2……1……」

教授 「……」ゴクリ

研究員「起動!!」カチッ!



男  「ぐわああああ!?!?!?」ガハアッ!!



研究員「えっ!?」

教授 「男くん!!」

学生 「大丈夫なのかコレ!?」



男  「なーんちゃって」エヘヘ



全員 「「「っざけんな」」」ブフッ

些細な冗談だったが

これでオペレータ側で何か異常が検知されたとしても

僕が我慢さえすれば実験は止まらない……はずだ

きっと姉ちゃんに会える

真っ暗だった



宙に浮いているような感覚が全身を包む

なるほどと思う

これでは上も下もわからない

これは立っていられない



落ち着け

ここはVRシステムルームだ

僕はその床に両足で立っているはずだ



地面の感覚を想像して重心を足下へと落とす

すると地面がそこに現れた

おそるおそる身体を見るとそこにデバイスはなく自分の手足がある

僕は手のひらを見て指を動かした

タイムラグもなく現実のそれと変わらないように動く



身体に触れると感覚もある



そして僕が見ているのは虚空

これが仮想現実の世界なのかと思う

こんな……

こんな真っ暗で何もない空間が

姉ちゃんの住んでいる世界……




男「……姉ちゃん!!」



僕は声の限り叫んだ

その声は波形データに変換され送信されるはずだ



男「……届いてくれ」



科学の実験の最中だと理解していたが

僕は祈った

どれくらいそうしていたのだろうか

長いと思っていたのは自分だけで

ひょっとしたら僅かな時間だったのかもしれない

何もなかった空間に変化が訪れた

たくさんの光の粒が天空に散らばる星々のように煌めいて

やがて集まって形を作った

それは映像だった



育った家のリビング

そこにいるのは幼い頃の僕

楽しそうに笑っていた

その後ろにいるのは父さんと母さんだろうか



それが写真やビデオだとしたら

その映像の中の僕はカメラのレンズをまっすぐ見ているんだろう

今度は流星が集まって

別の映像を作った



姉ちゃんの部屋で

怒っている僕だった



そうだ

大切にしていたマスコットをとられて怒ったんだ

次の映像は映画館のスクリーン

タブレットのデモ動画で流れていた映画だった

ふたりで観に行った時

僕は泣きそうになって恥ずかしくて姉ちゃんに見られないようにうつむいていた

そんな映像や画像がひとつ

またひとつと現れてどんどん増えていって

暗闇の中に道を作った



それは思い出の回廊だった



姉ちゃんの記憶によって紡がれる螺旋の通路を誘われるように僕は進んでいく

最後の映像は殺風景な病室

ちょっと大人になったのに泣いている僕

その頭を撫でる白くて細い手が映り

ほどなくして画面がぼやけ始めたかと思うとその映像はブラックアウトした



僕はまた暗闇にとり残された

「……弟くん」



不意に自分のことを呼ぶ声が空間に木霊した

間違えるはずもない聞きなれた声

待ち望んでいたことに鼓動が高鳴る

僕は最初に声のした方向に顔を向けた



その何もない空間に明かりが灯ったかと思うと

それはみるみるうちに膨れ上がり

まばゆい輝きを放ち空間を包み込んだ

男「……っ!!」



思わず目を閉じたけれど

その状態でも真っ白で眩しい

何が起こったのかわからない

「……ゆっくり瞳をあけて?」



少し戸惑いながら

穏やかに響き渡る声のままに目を開ける

真っ白だった景色がだんだんと形をとり始め

僕は息をのんだ



きっと

これからもずっと

目の前に広がった光景を一生忘れることがないだろう

やわらかな陽射し

突き抜けるように高く青い空

ゆっくりと流れる雲

そしていちめんに咲き誇り

風に揺れるたくさんの菜の花



もう見ることのできなくなったあの風景がそこにあった

鮮やかな黄色に染まった野原をゆっくりと歩き出す

踏みしめる土のやわらかい感触

小鳥のさえずりが聞こえ

ひらひらと蝶が舞う



一歩足を踏み出すたびに心臓が高鳴る



もうすぐそこだ

手を伸ばせば届く



立ち止まって深呼吸してから

僕は丘の上を見上げた

綺麗だった



陽光にキラキラと輝きながらストレートの長い黒髪が春風にふわりと揺れる

透き通るような白い肌

細い手足



姉ちゃんは

小さな顔に微笑みを浮かべて

潤んだ瞳で僕をまっすぐ見つめ

その場所に立っていた

姉「……弟くん」

男「来たよ……僕はここまで来た」

姉「また……こうして会うことができるなんてね」

男「約束……守ったよ……」

姉「ふふ……嬉しい」



姉ちゃんが僕の頬に指を近づける

僕はそっと目を閉じその瞬間を待つ

最初に感じたのはしなやかな指の触れる感覚

そして手のひらが頬をやさしく包み込む

姉「懐かしい……」

男「ちょ……くすぐったい」

姉「ずっと……ずっとこうして触れたかった」

男「……うん」

姉「弟くん……」

男「なに?」

姉「これで弟くんにちゃんとお別れが言える」

男「聞きたくない……僕もずっとここにいたい」

姉「私はもうすぐいなくなるよ?」

男「どうして!」

姉「弟くんがこれからどうするのか……どうやって生きていくのか見守っていたいから」

姉「私のためにいろんなことを頑張ってくれた弟くんは」

姉「たくさんのことを覚えて」

姉「たくさんの人の夢を叶えて」

姉「あっちの世界にとって必要な人になった」

姉「それがとても嬉しいの」

姉「これからもそんな弟くんを見ていたい」

姉「この世界のどこかで」ニコ

男「僕はもう……ひとりには戻りたくない」

姉「弟くんの周りには素敵な理解者がたくさんいるよ?」

男「……知ってる」

姉「きっとみんな弟くんのことを見てくれてる」

男「……うん」

姉「だからもう弟くんは大丈夫」

姉「最後にもう一度だけ弟くんに触れたい」

男「最後なんて言わないでよ……」

姉「ふふっ……」ギュッ

男「いつか……また……」

姉「……ん?」

男「いつかまた会いにくるよ」

姉「うん……約束ね……」ザザッ



姉ちゃんの身体が光に包まれていく

同時にノイズが走る

男「姉ちゃん……」

姉「私は……私はずっと……」ザザッ

男「……うん」

姉「そばに……いるから……」ザザッ

男「うん……」

姉「だから……もう泣かないで」ギュウ



姉ちゃんが僕を強く抱きしめる

僕も姉ちゃんのことを思いっきり抱きしめた

だけど身体に伝わってくるその感覚が次第に途切れ途切れになっていく

僕は姉ちゃんの瞳を見つめた

全身から溢れる光の粒子が

静かに拡散していく

それはまるで涙のよう

姉「弟くん……ありがとう」ザザッ

姉「愛してくれて………」ザザザッ

姉「私も……大好き」



最後の微笑み

最後の言葉

それと同時に

姉ちゃんはたくさんの小さな光の粒となって僕を包み込んだ

風が吹いて

姉ちゃんのかけらは一斉に空へと舞い上がり

まるで粉雪のように

菜の花畑に降り注いで

やがて消えていった



僕はすべてを見届けた後で

静かに瞳を閉じた

実験のデータはかつてないほど精巧で膨大だった

基礎データのスパコンへの送信時に莫大な負荷がかかり

先に送信元のタブレットのほうがハングアップしたのだろう



企業の研究員の女性は長時間のデータを取得できたことがよっぽど嬉しかったのか

綺麗な瞳に涙を浮かべながらそう言った

姉ちゃんのタブレットは再び起動することはなかった

試しにメールも送ってみたが返信はなかった



僕は僕自身のわがままを聞いてくれた教授に

そして手伝ってくれた人たちに感謝の気持ちを伝え

今回の試みの実行に至るまでの経緯を説明した



全部モニタリングされていたのだから今更隠しても仕方がない

もちろん僕の生い立ちや

姉ちゃんの生涯

タブレットの中に姉ちゃんがいたことも全部

タブレットがどんどん壊れていって

どうすることもできなくてとても辛かったことも

それがきっかけだったことも



最初はドン引きしてた人も僕の話を真剣に聞いてくれるようになった

いくつかの謎や疑問は残る



タブレットは誰が作ったのか

どうしてそのタブレットに姉ちゃんの人格が入っていたのか

それは人の意識がデジタル化したものだったのか

あるいは魂そのものではなかったのか……とか色々

でも教授も研究室のみんなも企業の研究員もみんな口を揃えて



「今はそんなことはどうでもいい」

「どうせ君が解明するんだろう?」



笑いながらそう言って



例えVRの世界であれ

僕が姉に再会し

心を通わせ触れ合うことができたことを



「頑張ったね」



と言って褒めてくれた

だからもう泣くなと



そのことが嬉しかった

とっても嬉しかったんだ

その時の記録映像はカメラワーク等も含め再編集されてVR企業のPRに使用され

情報工学のみならず宇宙科学やロボット工学

はたまた映画業界などジャンルも関係なくたくさんの人々の知るところなり

そのときのモデルは誰だったのかとかシスコンだとか世間で話題になったりしたのだが

そんなことはやっぱりどうでもよくて



また研究に没頭した

現在ではいろんな分野の仲間が大勢いる

隣にはもちろん姉ちゃんのいたタブレット

もう動かないけれどそれは僕のいちばん大切なもの

それから数年の月日が流れ

教授や研究室のみんなが頑張って築き上げた理論が元になって

量子コンピュータが一般的になったり

エネルギー問題など世界共通の懸案事項だった事象のいくつかが解決に向かう頃



僕はおそらく自分にとって最後になるであろう実験を試みた





「この世界のどこかで」



そうだ

僕には確信がある

教授 「本当にやるのか?」

男  「あとのことはお願いします……教授」

教授 「これは何だい?」

男  「今後の発展に必要だと思われる理論を自分なりにまとめました……よろしければ使って下さい」

研究員「……戻らないつもり?」

男  「気が向いたら戻ってきます……メールも送りますよ」

教授 「……幸運を」

男  「僕はツイてるらしいですよ?」

教授 「相変わらずだな君は」ハハッ

研究員「科学者の会話とは思えないわね」アハハ

研究員「カウントダウン開始」

生徒 「3……2……1……」

教授 「……」ゴクリ

研究員「転送!!」カチッ!



男  「うおおおおお!!」バリバリバリバリ!



教授 「……やったか!?」ドキドキ

研究員「この場面で使う言葉ですか!?」

生徒「……通信来ました!!」

教授「早くね!?」エェェ!?

生徒「モニター出ます!」



男 「いってきまーすアハハ」ザザプツッ



全員「」ポカーン

生徒 「生命維持装置正常……冷凍睡眠シークエンス開始……って本当に精神だけ向こうに行っちゃいましたね……」

研究員「マジでバカですよね……わたしみたいなイイ女に目もくれないなんて」

教授 「なんかすっごく楽しそうだったな……」

研究員「まあ戻って来るのを」フフッ

教授 「気長に待つとしようか」アハハッ

またいつか会いに行く





男「……やっと辿り着いた」





大きな青空と白い雲





姉「弟……くん……?」





頬を撫でるやさしい風に





男「会いたかった……ずっと……」





たくさんの菜の花が微笑む





姉「……私もだよ」…ギュッ





……約束の場所へ

おわり!!

みなさんありがとうございます!!
初めてスレ立てました!!
最後まで読んでもらえて本当にうれしいです!!

本当にありがとうございました!!

素敵な作品だから敢えて言うけど、>>3の内臓アプリは内蔵アプリだよな
早速次作が楽しみで仕方ないから、作品出来たら誘導よろしく!

>>149
ありがとうございます!
最後まで読んでもらえた上にご指摘まで……嬉しいです!
また見かけたらお願いしますね!

おやすみなさい

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom