まゆ 「まゆ、プロデューサーさんの子種が欲しいんです…」 (327)

書き溜めなし

亀更新

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??年前

Search for ExtraTerrestrial Intelligence

地球外文明探査計画によって送られたメッセージは
“あるDNA塩基配列”と言う形で返信された。

……それは遠い惑星からの贈り物……

に、見えた…



だが………

頭の禿げ上がった男は手元の書類を尻目に、目下の強化ガラスに囲まれた“部屋”を見詰めた。

ガラス張りの飼育ケースの中には7歳程のまだ年端もいかない女の子が脚を抱えて踞っている。

一見すると年端もいかない女の子に対して非人道的な扱い――つまりは人体実験をしている様にしか見えない。

そう、中の女の子が本当に人間ならば。

男は手元の資料をもう一度眺めて感嘆の溜め息をついた。

資料には女児の三ヶ月前の写真が写っている。

それは知らない人が見ればまず混乱する写真だろう。
何せ写っているのは胎児よりも前の状態なのだ。

「……信じられん。」

そう。

ゲージ内の彼女は人間ではない。

たった三ヶ月で7年分の成長を果たし、そして、今まさにまた成長期を迎えようとしている、“人類”と“謎の塩基配列を持つ生物”のハーフなのだ。

……そして、まだあどけなさを残す顔付きの彼女は少し眠たげに外を眺め……


男と目があった。


「……」

「……」

暫く無言のまま、見つめあった男は彼女の目に潜む得も言われぬ恐怖に襲われ、目をそらした。

彼女は不思議そうに眺めていたが興味を失ったのか、ガラスから離れていった。

これから一体どうなるんだ。男は研究者らしく自問自答しながらガラス張りのゲージを眺めた。


もしかしたら……


もしかしたら……“これ”は人類を滅ぼしかねない生き物で……


我々はその手伝いをしているだけなのでは……?


そんな不安に答えるかの様に彼女は遊び道具の知恵の輪を瞬く間に解き、飽きたのか引き千切って見せた。

男には知恵の輪が人間に見えてきた……


数日後……


男の予想通り、研究所から命令が下った。


『研究対象No.01を廃棄処分せよ。』


男は予感が当たってほっとしながら、人の形をした物を殺す、と言う事に対して罪悪感が膿のように浮き出ている事に気付かない振りをした。


やっとおさらば出来る。


男は研究員達に毒ガスを外から注入する様に言い渡し、意気揚々とガラス張りのゲージの一部の注入口のバルブを緩めた。



研究員達が一切の躊躇いを見せずにガスを注入し始めた。


少女は眠りから覚め、異変に気づいた。


白いガスがゲージ内の空間に充満していく。


直ぐに呼吸が苦しくなり、少女は咳き込み始めた。


男は見て見ぬふりをしながらガスを注入させる様に指示を下した。


少女が咳き込みながらガラスを小さな拳で叩きだした。


無駄な抵抗を。

男は嘲笑うかの様にガスを注入させる指示を止めない。


だが少女がガラスを叩き続けたその時だった。

ガラスに細かいヒビが入り、蜘蛛の巣の様に拡がった。


「なっ!?」


少女は間を入れずガラスを叩き続け、そのままガラスをばりばり、と破るように割った。


充満していた毒ガスが向きを変えて今度は施設に立ち込める。

まるで遠くに聞こえる様な研究者達の悲鳴を聞きながら、男はパニックを起こしそうになった。


だが、大丈夫だ。ドアを開けるスイッチはここだし、非常用ボタンでも押さないと、ここは開かない。ボタンに彼女が気付く筈は…


だが、少女は真っ直ぐに施設の非常用ボタンに向かい―――


おい、あいつ、まさか…


迷う事なく、押した。


今まで、全て観察して…?

ドアが開き、外に繋がる壁が一つ無くなった。


まずい。


その一言だけが不思議にも彼のごちゃごちゃになった頭を沈静化させた。

男は拳銃を手に、少女の後を追いかけた。


早くしなければ!


少女は後ろから響く足音に気付き、先程の様に非常用ボタンを探した。


が、それよりももっと良い物を彼女は見付けた。








男が辿り着いた時に見たのは辺りに散らばる割れた強化ガラスで出来た窓の破片だった。


夜の闇に紛れ、彼女は外の世界に躍り出た。


本能の赴くままに……








それから暫くして、警察の協力もあって美人の凶悪殺人犯が射殺された。と言う見出しで新聞に載る形でこの話は一旦落ち着いた。












様に思えた。


よもや彼女の子供が生き延びており、人間と交配をして三世代目が出来ていた事など誰も知り得ない。


数年後、狡猾な親から産まれた子供は祖母――“シル”の様に外の世界を学ぶ為、親の元を離れた……







導入終わり







日本のどこかのモデル事務所。

そこはティーンズ雑誌を監修する程の大きさを誇る年頃の女の子にとっては憧れの場所。


そしてその中に彼女はいた。


“普通”の皮を被り、さも自分が当たり前の人間の様に。


エイリアン
火星からのありがたくない異性人来訪で危険となった故郷から海を跨いで離れた呆れるほど平和な国に彼女は潜伏していた。




本能が求める“運命の相手”を探す為に……



「……それにしてもいないものですねぇ……」


健康体で、理想的な遺伝子を持ち、尚且つ“相性”がぴったりあう人間。



シル
祖母は誰彼構わずヤろうとしたから直ぐに足を掴まれた。

パートナー
だから相手を選ぶ時は慎重に動かなければならない。

で、その相手の見付け方が――


「もしもし、まゆちゃん?おーい?」

母の回想を邪魔されて軽く苛立ちを覚えて呼び掛けに応じる。


「はぁい、何ですかぁ?」

上手く振り仮名がふれない
くそが

誰か教えてくだはい

とりあえずスペース使う時は半角を二つ重ねるのはNGだよ
これやると>>20みたいに専ブラのポップアップでは問題ないのに、実際の書き込みではおかしいという事態になる
やるなら↓みたいにスペースは全角で(これで自分もミスってたら赤っ恥どころではないから怖いが)

    パートナー
だから相手を

>>28
     サンコウ
ありがとう参考になったよ

後ろを振り返ると自分の担当者が汗を拭きつつ不機嫌そうな表情を浮かべて立っていた。


「いや、この前の収録なんだけどね……」


ああ、また小言か。
心の中で盛大にため息をつく。
まあ、こんなのは適当にを打っておけば良いのだ。そこに申し訳なさそうな表情を追加して上目遣いを絡めれば直ぐに終わる。

楽なものだ。

そうしていつものように口ではい、はい、と適当に相槌を打ちながら、まゆは母が相手の選び方でなんて言っていたか、記憶の糸を手繰り寄せ始めた。





……いや、選び方じゃなかった。

肝心なのは見付け方、だった筈。

えーと、確か……



「見付け方、は意外と簡単そうで難しくてね…

そうね、相性があう相手って見付けるとそれとなく分かるわ。

体が、脳が、電気に打たれるような感覚がある筈よ。」



体が求める……

そうだ、そんな感じだった。
母の回想に浸りつつ、目の前の男に照準を合わせる。


……何も感じない。

少なくとも私はこの男は求めていないみたいだ。

と言うかむしろ不快感すら沸いてくる……

本当に、相性が合う人間なんているんだろうか…?

この小言が多い男に声をかけられて付いていったは良いもの、まるで健康的な男には出会えていないし……





「……まゆちゃん、聞いてた?」


「え、あ、はぁ、聞いてますよぉ。」

「いや、上の空に見えたからね。」

担当者は不機嫌そうな表情を変えないまま、ねちねちと小言をぶつけながら次の仕事の資料を渡してどこかに歩いていった。



まゆは担当者の姿が消えるや否やため息をついた。
そして手元の資料をぱらぱらと流し読み、飽きたように資料をゴミ箱に放り込んだ。


「暇、ですねぇ…」

眼科に拡がる人混みを眺めて誰に聞かれるわけでもなく、そう呟いた。


……あの中に、もしかしたら“相手”がいるかも知れない。

どうせ暇だし、見てみるのも悪くはないかも…


そう思い立ち、まゆは席を立った。


数分後。

ビルの下の人混みに紛れて相手を探す彼女の姿があった。


あれは、病気持ち。

あれは、肉体が弱そう。

あれは、まだ成熟してない…


そして、何よりも……

今物色した男達の中には惹かれる者はいない。



「うーん…」


やはり無駄足か…

そう考えて踵を返して事務所に戻ろうとしたその時だった。


「あ、あの!」


後ろから若い男の声が響いた。

それは雑踏の中でも一際、通るように聞こえた。


「はい?」


返事をしながら振り返った彼女は母の言っていた事が正しかった事を直感で感じ取った。







孕みたい!




今日はここまで

尚、かなり下卑た表現があったことをお詫び申し上げます

まるで体に電気が走ったみたい!
ママ
母が言った通りだった!
私、私今、猛烈にこの人の子種が欲しい!
今すぐにでも押し倒したい!
でもどうやって!?
今こんな所で押し倒したりなんかしたら通報される!ああ、でもこの気持ち、抑えられない、止まらない!好き好き大好きどうしよう!
どうやったら子種が

「あ、あの、アイドルに興味は有りませんか?」


「…はい?」


男は名刺を差し出しながら少し困った様な表情で、そう言った。

困った様な表情の中に浮かぶ真剣な眼差し。

ああ、この瞳、吸い込まれそう……

「アイドル…?」

「はい。アイドルです。宜しければ、是非……」

あ!

これでこの人と一緒になれる!?

「はい!よろしくお願いします!」

まるで本能がそうさせたかの如く二つ返事でそう答えていた。

「あ、あの、いえ、まだ話を…」

「なります!貴方のアイドルに…私なります!いえ、やらせて下さい!」

物凄い剣幕に押されたのか男――プロデューサーも頷いていた。
どこか少し危うい印象を与えつつも漂う本能をたぶらかす魅力。
この子なら……?



「ま、まずはそこの喫茶店で御話でもしましょうか…」

「はい」


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――――――
――――
―――
――



数刻後

事務所にて荷物を纏めているまゆの姿があった。

「ちょ、ちょっと、まゆちゃん!?どうしたの、辞めるって!?」

話を聞き付けたのか、担当者が慌ててやって来た。

煩いのが来た。

まゆはなるべく男を視界に入れない様にしながら荷物を淡々と片付け続けた。

「はい、お世話になりました。」

「いやいやお世話になりましたじゃないよ!?なんで辞めるの!?」

適当な嘘で繕いながら荷物を片付けていく。

「親がもう辞めろ、と言いましてねぇ…残念です。」
荷物を片付け終わり届け出の書類を机に置いて、まゆはちらり、とゴミ箱を眺めた。

中からさっき捨てた資料が見える。

まゆはそれを見て何か満足そうに口元に笑みを浮かべてカバンを抱えた。

担当者が口煩く何かを言っているがもうまゆには届く事はなかった。








古巣を抜け、彼女は新しい愛の巣へと飛び立った。

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―――――
――


2日後、とあるアイドル事務所前

 「うふ、ここですねぇ。」

手の中の名刺を頼りに遠路はるばる辿り着いた彼女は誰に聞かれるでもなくそう呟いた。

電車を乗り継いで乗り継いで数時間。
途中で迷って別の駅に行ってしまい警察に怪しまれたり、間違えて乗り過ごしたりしたがなんとか辿り着けた。

 「なんとか…なんとか辿り着けましたねぇ…」

疲れたが、辿り着いた愛の巣を目の当たりにするとそんな疲れも吹き飛ぶみたいだ。

 「さあ、待っていて下さい、プロデューサーさん!」

階段の上の小さな事務所。
しかし彼女にはその小さな事務所は前までいたモデル事務所よりも遥かに素晴らしい物に見えていた。


 「ここがまゆと貴方の新しい愛の巣です!」


今日は更新できなさそうに有りません

申し訳ないです

階段を登り、躊躇う事無くドアに手をかける。

 「こんにちはぁ…」

 「あら、新しい子?」

ドアを開けた先には少し短めな髪に痩せ型で背が少し高い、唇が印象的な少女が立っていた。

 「はい、プロデューサーさんにスカウトされて…」
そう言いかけた所でまゆは思い留まった。

ここは、強気でいきますかねぇ……

一呼吸おいてまゆはもう一度喋りだした。

 「…まゆ、プロデューサーさんにプロデュースしてもらうために来たんですよ。うふ…ステキですよね…」

あら、宣戦布告かしら?

面白くなりそうね。


 「あら、そうなの。私は速水奏。ここでアイドルをしてるわ。よろしくね、まゆちゃん。」

そう言って彼女は手を差し出した。

速水奏。

その名を聞いてまゆは目の前の少女がかなり名前の知れたアイドルだという事を思い出した。

だが、まゆは臆する事無くその手を握り返した。

 「うふ、よろしくお願いしまぁす…」

にこやかに、少しの悪意を込めつつ。




  センセンフコク
 “ 挨拶 ”をしてからまゆはプロデューサーの存在を感じられない事に気付いた。

速水奏の存在が邪魔をしているのかと思ったがそうではないようだ。

探っていても埒が明かない、と判断したまゆはプロデューサーについて訪ねる事にした。

 「…ところでプロデューサーさんは?」

速水奏はくすり、と笑いながら応えた。

 「焦らなくても彼は逃げないわ。今は営業よ。ゆっくりしたら?」


 「そうですかぁ。ではそうさせて貰いますぅ…」

まゆはそう言って近くの椅子に座ろうとして、何かが足に当たるのを感じた。



不思議に思って机の下を覗き込むと、“机の下”から目が合った。



 「…フヒッ」


 「!?」

 「ど、どうも……フヒッ……」

少し小さめの女の子が机の下からのそのそと出て来た。
理解出来ない状況に頭の中が混乱する。

そして女の子の次の行動はまゆの混乱を更に加速させる事になった。


 「え、えーっと……そうだ……」

女の子は机の奥に手を伸ばしごそごそとして、何かを出した。

 「は、はい……どうぞ……」

差し出した女の子の手のひらにあったのは、――そこそこの大きさで――傘が程好く開いた――キノコだった。


何がしたいんだろう。



まゆの混雑した頭の中はこの言葉で占められた。


女の子はもじもじしながらキノコを差し出したままだ。

ゼノモーフ
異星人の遺伝子を含んだ女子にキノコを差し出す女の子という異常な構図。

状況を見かねたのか速水奏が助け船を出してきた。

 「ほ、ほら、輝子ちゃん、名前位先に挨拶でも……」

輝子と呼ばれた女の子は、はっ、とした様な表情になって自己紹介をし始めた。

 「ほ、星輝子、です……よ、よろしく、フヒッ……」

暫く沈黙が流れた。

 「え、それだけ?」

沈黙に耐えられなくなったのか速水奏は不満を漏らした。

 「だ、だって……わから、ない……」

星輝子は今にも泣きそうな表情で速水奏を見た。

溜め息をつきながら、奏は助け船を出す事にした。

 「なんで、キノコを出したのかしら?」


 「あ、そうだ……え、えーっと、これは、お近づきの……」

 「お近づきの……」

 「お近づきの……」

やれやれ、と首を横に振りながら奏はまたも助け船を出した。

 「しるし、ね。」

星輝子の顔が幾分か明るくなった。

 「お近づきの、しるし、です……」


ああ、成る程。

やっと理解出来た……

どっ、と疲れを感じながらまゆも自己紹介をした。

 「まゆ。佐久間まゆ、と言いまぁす。好きな物はプロデューサーさんです。これからよろしくお願いしますねぇ…」

輝子はどこかおどおどしながら応えた。

 「へ、へえ、よ、よろしく……」


その様子を見たまゆは威嚇が効いた、と考えた。


ただ単に酷いコミュ障なだけで目を合わせられないなんてまゆは知る由もない。

勝ち誇った表情を浮かべながらまゆは周りを見渡して何気無く尋ねた。

 「他には居ないんですかぁ?」

そしてそんな問いをした事をすぐに後悔する事になった。

 「そうね、一番濃い子がまだ来てないわ。残るはその一人よ。」


こんな人達より更に濃い人間が居るのか。


まゆは聞いただけで胃が重くなる気がした。

さっきまでの勝利の優越感が嘘の様に気が重い。

まるでラーメンとか言う体に悪い食物を肺に詰め込まれた気分だ。

 「……それでその人は何時くらいに……?」

速水奏は時計を見上げた。
 「そうね……」

 「そろそろじゃない?」 「こんにちはー!ムムムーン、サイキックドアオープン!!」

ドアの向こう側から聞こえてくる有り余りすぎる元気な声を耳にしてまゆは更なる絶望を噛み締めた。



まゆは……まゆは、ここでやっていけるんでしょうか……


第一部

完。

 「さて……」

プロデューサーはコーヒーを出して一息をついた。

 「ああ、そんなに固くならないで大丈夫ですよ。」
プロデューサーは湯呑みをじっと見詰めるまゆにそう言った。

 「はぁい、分かりました。」

温めにミルクと角砂糖1つ……

覚えておきましょう。

プロデューサーは困った顔で話し始めた。


 「まずは先程の事を謝罪させてもらいます。うちのアイドルが来て早々迷惑をかけてしまい申し訳ない……」

ああ、困った顔のプロデューサーさんも素敵。

そう思っていたまゆだが、今のプロデューサーの一言で思い出したくもない事を思い出すはめになった。






――忌まわしい記憶――
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―――――
――



 「ムムムーン!サイキックドアオープン!」

勢いよく開けられたドアと後ろから聞こえてくるよく分からない単語にまゆは最早疲れを通り越して戦慄すら覚えていた。

振り向くのがいやだ。

事務所について数十分で彼女は疲れ果てていた。

そこに追い打ち、いや、止めを刺しにきた刺客。


なんでこんな仕打ちに…


まゆが嘆きかけたその時だった。

 「おいユッコ、走るな!お前はすぐ転ぶんだから!」

待ちに待った声。

本能が求めたその声。

聞くだけで下着が濡れるような魅惑的なこの声。

間違いなく、プロデューサーさんだ!


そう思って振り返った先には――


ポニーテールとくりっとした目が印象的な女の子が立っていた。

一見、元気な普通の女の子……に見えた。

だが、非常に残念な事に女の子が首からぶら下げている物は幾ら世間に疎いまゆでも有り得ない、と分かる代物だった。

 「あ!あなたが新しく来る新人さんですか!私はサイキッカーアイドル!堀祐子です!」

 「なんで……なんで……」
 「?」

言いたい事が沢山有りすぎて、混乱が頭を埋め尽くしたまゆは“一番してはいけない質問”をしてしまった。


 「なんでスプーンをぶら下げてるんですかぁ?」


質問を間違えた。

まゆがそう感じるのと同時に堀祐子の顔が太陽の様に明るくなった。

ぼきっ。

その笑顔を見た瞬間まゆの心が折れた気がした。

旅の疲れもあったのか、まゆはソファーに倒れ込み、気絶するかのように眠り込んだ。


 「ふふふ、よくぞ聞いてくれました……あれ?」


堀祐子が何か言っている気がしたが無視した。

そして死んだように眠った状態でまゆとプロデューサーは対面したのだ。


もうちょっといい出会い方があった筈……


まゆはそう思いながらプロデューサーを見て疲れを癒し始めた。


……プロデューサーは自分に向けられている目が普通の人間の目ではない事には気付かない……

――1年前、アメリカのとある廃屋にて――
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―――――――――
―――――
――


男が最初に“繭”から目覚めた時に有ったのは酷い乾きだった。

次に感じたのは呼吸をする度にきりきりと走る痛みだった。

目覚めた時の快感等ある筈も無く。

彼は耐え難き苦痛と共に目覚めた。


体が、重い。

肺が、軋む。

一体何が……


そう考えながら自分の周りを見渡した男は一目で何が有ったのかを理解した。

未だに孵らない同種、繭からは出たが極端に弱っている同種、産声と共に死を迎えた同種……

そして遠くから聞こえてくるパトカーのサイレン。

何があったかは明白だ。


やってくれたな、人間共め。


男は毒づきながら追跡を逃れる為に、生き抜く為に、行動を始めた……




暫くした後、“繭”が乱雑に動き、割れた。

中から這い出た女も一瞬で状況を判断し、逃走経路を獲得する為に動き出した……


――現在――
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―――――
――


 「む、……」

男は伸びをして欠伸をした。

 「忌まわしい夢だったな……」

そう呟いて机を見る。

また体から出たのであろう体液が机を濡らしている。
転た寝をしただけなのに、最早ここまで体が弱ってきているとは……

人間共が我々を駆逐する為に“繭”その物に何らかの病原菌を吹き付けてからだ。

あの後、追っ手を撒きながら、見ず知らずの飛行機とやらに乗って今ではこんな場所にいる訳だ。

刻一刻と近付く死。

それは自分だけでなく種そのものの死を表してもいるのだ。

逃れる為なら何でもしてやる。

だがもう限界も近い。

そんな時だった。

あの“純粋種”が現れたのは……

 「ふ、ふふ。」

男は気持ちを押さえきれずに含み笑いをした。

助かる。

まだはっきりとはしていないがこれで俺の命は延びるかもしれない。

この国に渡って正解だったな。

常に憂鬱の対象だった太陽の光が、今は希望に見える!

 「ふ、ふふ、ふふふ、ふははははは……」

男は狂ったかのように高笑いを上げた。


 「くちゅん!」

話の腰を折るかの様にまゆは小さなくしゃみをした。
 「大丈夫ですか?」

プロデューサーが心配そうに除きこむ。

大丈夫です、と答えながらまゆは居住地について詳しく聞き直した。

 「以上となります。何かご質問や言いたい事はありますか?」

プロデューサーさんはこの事務所の中の誰かとお付き合いしていますかぁ?

そう聞きたくなったが気分を損なわれても困る、と考え直したまゆは言いたい事を我慢した。


 「……特に、ないですねぇ……」


 「そうですか……それでは、こちらから聞きたい事が有ります。」


 「はい?」


そう言うと突然プロデューサーの顔が厳しい顔つきになった。

 「まず1つ。親御さんのお話が全く出ませんが、親御さんの許可等は頂いていますか?」

まゆは思わぬ質問に息が止まった。

どうしよう。

何て答えれば……


そうだ!

今確かやっているドラマとか言う物に「孤児院」という物があった筈。

よし、それでいきましょう……

 「……まゆは、まゆにはお母さんが居ないんです……孤児院を出てからは独り暮らしをしていまして……」

ドラマの技術をほぼそのまま盗めるこの演技力。

 「そ、そうだったんですか。申し訳ありません。」

……少々心が痛みますが人間1人、騙すくらいの演技はあるつもりなんですよぉ。

確かこう言うのを「嘘も快便」って言うんです。

まゆもやるものですねぇ。

 「いいんですよぉ、気にしなくて。」

まゆは微笑みを作りながら言った。

 「別にまゆも気にしていませんし……」

プロデューサーは申し訳ない、と言う通りに表情が浮かない。

 「しかし……」

 「大丈夫ですよぉ。さあ、お話の続きをしましょう。確かまゆが泊まる家はプロデューサーさんの家でしたねぇ?」

 「いえ、そんな事は申しておりませんが。」





――――
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―――――
――


 「それでは、今日はここまでとしましょう。お疲れ様でした。」

時間も経ち、日が傾きかける頃になってようやくやたら気難しい書類等が終わりを告げた。

 「お疲れ様でしたぁ。」

まゆはもうどこでもいいから体を休めたくて堪らなくなっていた。

だが寮に入って寝る前にやる事が一つある。

まゆはそう考えて口を開いた。


 「プロデューサーさぁん……」







 「まゆは貴方を虜にして見せますよぉ。」





――事務所から遠く離れた場所にて――

男はふう、とため息をついた。

あの“純粋種”が何処にいるかはもう見当がついている。

自分から場所を示してくれるなんて馬鹿な奴だ。

自分の運命がどうなるかも知らないで。


 「さて、どうやって行くか……」


そう呟いて辺りを見回すと丁度近くに車が止まった。
聞き耳を立てると、どうやら友達を送ったみたいだ。

……女、か。

だが今はそんな暇も無いな。

急に胸を圧迫される様な感覚に陥り、げほげほ、と咳き込む。

発光色の体液が口から迸る。


……さっさと車でも奪うか。


男はそう思い立ち、車に向かって歩き出した。



車のすぐ側に立ち止まるとどうやら相手も気付いたようだ。


 「ん?なんだい」


最後まで言わせずに窓から腕を滑り込ませて首元に手刀を喰らわせる。

女は一声呻き声を上げるとハンドルに突っ伏した。


さて。殺してもいいが前みたいに死体の置場所に困るな。

車を盗まれた位なら全力で捜査もしない筈だ。

そう考えて、男は女を外に引きずり出した。


 「さて、行くか。」


そう呟いて男は車を走らせた。



――翌日――
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―――――――――
―――――
――


 「さあて、それじゃあ佐久間さんの企画でも練りますか……」

プロデューサーは少し浮わつきながら、パソコンに向かった。

いつになっても新人をプロデュースするのは楽しい。

どう売るか、どう魅せるか、どういった方向にするか。

この判断が彼女達のこれからを左右するのだ。

責任が付きまとうが、どう育てていくか、を考えながらプロデューサーは企画を検討し始めたその時だった。

階段を上がる音を立てずに何者かがドアを開けた。
プロデューサーは一瞬、身を固くした。


 「おはよう、プロデューサーさん。」


ドアを開けて入ってきたのは奏だった。
プロデューサーは一瞬冷や汗をかいた事に腹を立てた。


 「……奏か。それやめろ、って言っただろ。」


奏はくすくす、と笑いながらうるさいよりはいいじゃない、と返した。


 「いや、ユッコみたいなのも困るが突然ドアが開くのは心臓に悪いんだよ。」

 「それが面白いのに。つれないわね……」


奏は若干不満げに言った。とは言え口元には何時ものように妖艶な笑みを浮かべていたが。


 「……で、何をしているのかしら?」


 「佐久間さんの企画を練っているのさ。ほら、後で迎えに行ってやるから早くレッスンに行った、行った。」


奏はむすう、とした表情になって何か言いたげだったがすぐに外に出ていった。

 「ふう、これで企画を練れる。」


プロデューサーがそう呟いた時だった。


 「ムムムーン!サイキック走り!うわあ!」


外から聞こえてくる聞き慣れたアホ声にプロデューサーは頭を抱えた。


どうしてあいつなんだ!

しかもまた転んでるし!



…………
………
……


 「えへへ……プロデューサー、すいません……」


数分後、事務所で足にバンドエイドを貼られるユッコの姿があった。


 「全く……お前はすぐ転ぶんだから……」


慣れた手付きでバンドエイドを貼り終えると救急箱からティッシュを出して傷口の周りを拭く。

ついユッコの健康的な生足が、艶のある脹ら脛が目に入った。


あ、やばい。


反射的に目をそらしたが、ここ数日働き詰めなのもあって股間が熱を帯びそうな事に気付いた。

当の本人はそんな眼差し等には全く気付いていない事が救いだ。


 「よし、終わったぞ。今日は収録か?送るぞ。」


 「いえ、お気になさらず!今日は近いので走って……」

プロデューサーに睨まれてユッコは首をすくめた。


 「……歩いていきます!」

 「そうか、終わったら連絡しろよー。」


ユッコがひょこひょこと歩きながら居なくなるのを見届けるとプロデューサーはパソコンの前に座り込み、迷う事なくお気に入りのアダルトサイトを開いた。


まさかユッコで欲情するとは。

このままでは集中できん。
仕方がない。


そう自分に言い聞かせた時だった。


 「キノコーキノコーボッチノコーホシショウコー♪」


特徴的な歌を歌いながら階段を登る足音が聞こえた。

俺が何をしたっていうんだ。


プロデューサーはそう思いながら立ち上がった。

 「お、おはよう、し、親友……」

 「ああ、おはよう、輝子。」

プロデューサーは出来うる限りの邪念を含まない笑顔で輝子を迎えた。

自分の事を親友と言ってくれている彼女で反応してしまうのは罪悪感に押し潰されそうになるのでなるべくそういった目で見ないようにしている。


輝子の今日の予定は……


そう考えながらホワイトボードを見たプロデューサーはとてつもない絶望を味わう事になった。


『しょうこ 1:30 レッスン』


午後からだと?

何て日だ!

まるでパンドラの匣を開けてしまったかの如く運がない!


 「し、親友、どうかしたのか……?」


どうやら酷い顔をしていたらしい。
輝子に心配をかけたくはない、と考えたプロデューサーは直ぐに作り笑いを顔に浮かべた。


 「いや、何でもないよ、輝子。」


 「そ、そうか?気分、悪そうだけど……」


 「いや、大丈夫だから。マジで。」


 「そ、そうか……それなら、よかった。じ、じゃあ苗木を買ってくる……」


パンドラの匣から最後に出て来たのは“希望”だったっけ?


輝子、気を使わせて済まないな。


今の俺にとって君の行動は救いに等しい!




 「そ、それじゃあ、行ってくる……」


 「おう、気を付けてな。」

輝子にそう言って送ろうとしたその時だった。

コンコン、と誰かがドアをノックした。


 「奏か?忘れ物でもしたのか?」


そう言いながらドアを開けたプロデューサーは予想外の来訪者に一瞬目を疑った。

ドアの前に立っていたのは、警察官だった。


 「すいませんね。最近、この近くで不審な人物が出没しているらしくて……」

――遡る事、数分前――
――――――
――――
――
――――



 「この辺で、いいか。」


男は車を停めて、呟いた。そしてポケットから取り出したメモを片手に目指した場所に到達した事を確認し、事務所に向かって歩き出した。

階段を一っ飛びに上がり、ドアを叩く。


大丈夫だ。この姿なら怪しまれない……

そうだ。適当な言い訳でも考えておくか……




不審な人物。その単語に当てはまる人間が一瞬、頭に過った。


 「……それは、もしかしてサイキックなんたらって走り回る奴でしょうか……?」


警察官は少し意外そうな顔をした。


 「さあ、そこまでは……」

どうやらユッコの事ではなさそうだ。
プロデューサーは、ほっ、と胸を撫で下ろした。


 「いえ、すみません、お気になさられず……」


プロデューサーは警察官の顔を見ようとして見上げて違和感に気付いた。

それは普段ならよく見慣れたようなズボンについた傷痕だった。

だが、傷痕と共にうっすらと見える血痕らしき物は明らかにその傷痕が転んで出来たような物ではない事を示していた。

勿論、それだけではただの疑惑の種に過ぎない。

だが、プロデューサーはこの警察官が明らかにおかしな点がある事に気付いてしまった。


……あれ?


……何か。


……何かおかしくないか?

何で……この警察官は……

警察手帳を見せるどころか名前すら名乗らず、あまつさえ職業を名乗らずして訪問して来たんだ?


 「どうか、しましたか?」

そして、不思議そうな表情をする警察官の胸元についたマーク。

それは

明らかに

この区間の警察署のマークではなかった。


冷や汗が湧いてくる。

今は春だと言うのに背筋はまるで真冬の如く寒くなった。

玉のような汗が顔に浮き上がり、垂れた。

疑惑が次々と浮かび続ける。

警察官の格好をした何者かは



 「どうかしました?体調が優れないようですが……」


と、言いながら足を一歩、踏み入れて来た。


話している途中で突然様子がおかしくなったプロデューサーを見て男は思考を駆け巡らせた。


………何だ?


何故かは知らないが、この男、突然様子がおかしくなったな……


まさか気付いたのか?


もし、そうだったら……


ふと、視線に気付き、視線の主を辿ると、プロデューサーの隣の背の低い少女が不安そうな目でこちらを見ていた。


“一人分”ではなく“二人分”の死体の遺棄場所を考えなければいけないな……

“反応”もこの近くから検出出来たし、第一段階の目的は達した。


後は気付いたかもしれないこいつ達の“処理”だな。


そう考えながら男は一歩、足を踏み入れた。

その時だった。

――ほんの――

――ほんの“一瞬”――

男は何者からの視線を“もう一つ”感じた。




……何だこれは……


……“見られている”……

……一体誰だ?


……少なくとも、事務所内ではないな。


……成程。


“警告”か……






一歩、足を踏み入れてから突然宙を眺める様にして言葉を発しなくなった男を見てプロデューサーはどうかしたのか、と考えた。

場を沈黙が支配し、何故だかは分からないが先程よりも緊縛した状況が生まれた。

男は宙を眺める体制のまま動かない。

最早男が警察官どころか普通の人間ではない事は誰の目から見ても明らかだった。

暫くして――と言っても1分程――男の異常性を確認させるには充分すぎる時間だが――


 「……すみませんね、時間をとらせて。また来ます。」


――沈黙を破り、男はドアを開けて出ていった。

男の姿が人混みに紛れて見えなくなるのを確認するとプロデューサーはどっ、と遺棄をはいてその場にへたりこんだ。

あ、息が遺棄になってる

ミスった…

 「し、親友、大丈夫か……?」

不安そうな顔で覗き込む輝子に心配をかけまいと、プロデューサーは大丈夫、と応えた。


 「……ちょっと警察に電話してみる。本当に巡回しているのか。」


 「う、うん……そうした方がいい……」


そしてプロデューサーは自分の疑惑を確信へと繋げるために、ポケットから震える手で携帯を取り出した。

数回の着信音の後に警察が出た。

プロデューサーは深呼吸をして、話し始めた。




数分後、話し終えたプロデューサーは恐怖を浮かべた面持ちで携帯電話を閉まった。

輝子がおずおずとした様子で聞いてきた。


 「し、親友、どうだった……」


 「……この近くで不審な人物が出たなんて通報は無いし、そんな人物も巡回させていない、だとさ。」


当たっては欲しくなかった予想が当たってしまい、輝子は絶句した。

そして二人とも男が最後に言った言葉を思い出していた。

男は確かにこう言っていた。


 「また来ます。」


と。


…………
………

雑踏の中、男は歩きながらこれからの計画を練っていた。


今日の夜に探査神経を使いながらあの事務所に行ってみるか。


しかし、もし、純粋種が暴れたりした場合は……


又、俺が万が一死んだ場合――


……“仲間”を呼ぶか


そう考えて男は携帯電話を取り出した。


それにしても、これは本当に便利だ……


そんな事を考えていると、数回のコールの後に仲間が電話に出た。


 「はい?」


若干、声が若く感じられたが、気のせいだろう、と考え直して男は電話を続ける事にした。


 「俺だ。純粋種の居場所に辿り着いた。」


だが、若干声が若く聞こえたのは気のせいでも何でもなかった事を男は知る事になった。


 「だれ?言っておくけどママなら死んだわ。」


……あいつ、死んだか。


男はその一言で自分達と言う種に寿命が迫りつつある事を嫌でも思い知らされた。

そして……





男は急に胸に痛みを感じて大きく咳き込んだ。
押さえた手の平にはべっとり、と血と体液が付いていた。

……男自身の寿命も刻一刻と短くなっているのは誰の目にも明らかだった。



 「ちょっと、大丈夫!?」


電話から仲間の子供の声が聞こえたが、対応すら出来ない。


手短に要件を済ますか。


咳き込みながら電話を片手に、男はそう思った。




 「……俺は、君の母親の知り合い、だな。母親から聞いているか?」


 「ううん、私が起きた時にはもうママは死んでいたわ。けど……」


子供を生んだ事で体力が尽きたのか。
無理をしたな。
教育はどうするつもりだ?
少なくとも、俺にはそんな時間はないな……

様々な考えが頭の中に現れは消えていく。

男は自分達自身の運命を呪いながら、電話を耳に近付けた。


 「アタシが何なのか、アタシ達に何が起きているのか、何をするべきか、は知っているわ。」


 「どう言う事だ?」


 「アタシが起きた場所にはいっぱいのメモがあったから知識を身に付けるのには時間はかからなかったわ。」


そう言えばあいつは計算高い奴だったな。
自分の運命を熟知して、次の手を打っていたのか……

男は彼女の生への執念と、その用意周到さに感心した。


 「今アタシが知らないのは貴方が何処にいるか、そして自分の名前って所ね。」


男は計算高い彼女の少し意外な欠点を見せられた気がした。

名前なんてどうでもいい物に気が向かうのか。

まあその位なら……

男は少し考えて口を開いた。


 「なら俺が名前をつけてやろう。そうだな……」


   サリー
……あいつの名前を捩ったような名前でいいか。


 「サリナ、でどうかな?」

 「いいじゃない。気に入ったわ。」


偉そうな態度だな。
男はそう思ったが口には出さなかった。






 「それではよろしく、サリナ。」


男はそう言って咳き込んだ。


 「……長くはないみたいね。今、貴方は何処にいるの?」


サリナの問いに男は途切れ途切れになりつつも、一つずつ答えていった。
この行為が、自分達を救うであろう事を予期しながら。
暗闇に見えた自分達という種の未来は、僅かながら確かに光が指して来ていた。

 「それじゃあ、この情報を仲間達に連絡すれば良いのね。」


男は激しく咳き込みながら、そうだ、と応えた。


 「……分かったわ。そろそろ“変態”が近そうだから切るわ。」


自分の“変態”すら想定済か。

優秀な子だ。


 「ああ、それと……」





 「……アタシの名前、つけてくれてありがとう。それじゃあね。」


そう言って切れた電話を片手に男はさも意外そうな表情で立ち尽くした。

人間らしい部分が少しあるんだな。

まだ聞きたい事はあったが、それは今必要ではない。
俺のやるべき事は……


男はそう考えながら事務所の方角を見上げた。


種を救うであろう純粋種を手に入れる事だ。

保険もかけた。

決行は、明日までに……!



男との電話を終え、サリナは自分の名前について考え事をしながら立ち尽くしていた。

日本名だと違和感ない漢字は何かあったかな……

部屋の隅に落ちていた名刺を弄びながらそんな事を思っていると、皮膚の下で何かが動いた。


 「そろそろね。」


そう呟いてサリナは壁に寄りかかった。

メモには丁度生後暫くしてから、と書かれていたから驚きはしない。

けれど……

自分の皮膚を突き破りながら伸びていく触手をぼんやりと、眺めながらサリナは考えた。

この後、アタシの姿はどうなるんだろう……?

アタシの意識は、一体……?


そんな事を考えながら彼女は眠りについた。


――同時刻――
――――
――



 「ん……」


朝早く、とは言い難い昼近くになってまゆはベッドから身を起こした。


 「よく眠れましたねぇ……」


誰に聞かれる訳でもなく呟いて時計を見る。
時計の針は10時を超えていた。
ここまでゆっくり眠る事が出来るのは体が健康的な証だ。
まゆはそう自分に言い聞かせながらベッドを降り、朝御飯を作ろうとして、食料を買っていなかった事を思い出した。


……今日は生活必需品を買う日にしましょうか




そんな呑気なまゆの思考とは裏腹に、少しずつ、だが確実に普遍的な日常は崩壊へと歩み出していた……

――数刻後――
――――
――


事務所には警察官が何人か集まり事情聴集をしていた。
プロデューサーは先程の不審な人物の特徴等を話していた。


 「……はい、そうなんです。制服も違いましたし、警察手帳も開示しませんでした。」


警察官は難しい顔をして唸ってこう言った。

 「恐らく、と言うよりほぼ間違いなく危険な人物の可能性があります。

直ぐに御宅のアイドル?を家に帰し、寮や独り暮らしの子は絶対に家から出ないように勧告して下さい。」

 「分かりました。」


プロデューサーがそう応えて彼女達にどう伝えるか考えだした。


暫くしてから警察の事情聴集を終え、プロデューサーはため息をついてデスクトップを眺めた。

まだ企画も練っている途中だったんだがな……

何だか今日はついていないな。

プロデューサーはそう思いながらアイドル達に電話をかけ始めた。



数十分後、プロデューサーはアイドル達に連絡ををしていた。

と言っても事務所に不審者が現れた、とも言えないので若干不明瞭ながらも不審者が近くに出たから迎えに行く、と言う形で伝えていた。

丁度今、休憩で外に出掛けているらしい奏を最後に連絡をし終える時だ。


 「……そう、分かったわ。じゃあまた後で迎えに来てね。」


 「ああ、レッスン場で待っていろよ。」


 「はーい。あ、それとプロデューサー?」


 「ん、何だ?」


まさか何かおかしい点でもあったか?
プロデューサーはそう考えながら不安げに応えた。


 「送り狼になっちゃダメよ。ふふふ……」


そう言って電話は切れた。

何時もの冗談に翻弄された、プロデューサーは顔をしかめて呟いた。


 「恥ずかしいならやるなよ……」




 「まあ、これで全員……じゃないな。」


肝心の新人、まゆを忘れていた事に気付き、プロデューサーは電話帳を開いた。

数回のコールの後、留守電が入り、プロデューサーはやれやれ、と首を振った。

 「仕方がない。携帯にかけるか。」


そう呟いてプロデューサーは携帯を手にした。

今度は数回のコールどころかコール一回で出た。


 「もしもし?」


まゆがちゃんと電話に出た事にプロデューサーは安堵した。


 「どうしましたかぁ、プロデューサーさん。」


 「ちょっと困った事が起きまして……今どこにいますか?」


 「困った事?……今は事務所の近くのスーパーですねぇ。」


良かった。
彼処なら人も多いし大丈夫だろう。


 「それでは、お買い物が終わり次第此方へ来てください。」


 「はぁい、分かりましたぁ。」


そう伝え終わるとプロデューサーは電話を切った。

これで全員か。

後は佐久間さんがここに着き次第車で拾っていくか。
プロデューサーはそう考えながらパソコンを開いた。

事務所からそう離れていない路地裏で、男は“仲間”と連絡をしつつ周囲の状況を探っていた。


……まさかバレていたとは。
これで少しやりにくくなってしまったな……
何故バレたのかはこの際置いておいて、どうやって純粋種をこの手に収めるか……

 「取り敢えずまずは周囲の状況を“探る”とするか……」

男がそう呟くと、目がルビーの様な朱色に輝いた。

見た目こそ普通の人間の瞳だが性能は全く別物クラスの目を凝らし、辺りの様子を“路地裏から”視ていく。


……どうやら警察達が嗅ぎ付けているようだ。

遺体こそ処理したがやはり、気付かれてしまうのか。
だが、まだただの殺人事件として考えている様だな……

そんな事を考えながら他に何かないか、目を凝らして男は辺りを視察していった。

数分間辺りを“視て”いった後、男はもう一度事務所の方角を“視た”。


……!


丁度事務所に入ろうと歩いていく純粋種を男は見付ける事が出来た。

チャンスだ。

男は服を脱ぎ捨て、もう片方の遺伝子が織り成す姿へと変身した。

そして常人とは思えない脚力で路地裏の壁へと飛び付き、事務所への最短ルートを伝い始めた。



時を同じくして、まゆは事務所に早足で向かっていた。

困った事が何なのか思考を巡らせながら、ドアを開けると、少し驚いた様にプロデューサーが反応した。


 「おはようございまぁす。どうしましたかぁ……?」


 「いえ、近くで不審者が出た、って通報が有ったみたいでしてね、危ないので本日のお買い物等は私が付き合います。」


聞いた事のない単語が聞こえてきてまゆは困惑した。

フシンシャ?ツウホウ?一体何だろう……
解らないけど取り敢えず解ったフリをしますか。
それになんだかよく知りませんが買い物に付き合って貰えそうで何より……


 「そうだったんですか……ありがとうございます。では、まゆのお買い物に付き合って貰えますかぁ?」

 「はい。では車を止めてあるので一緒に行きましょう。」


プロデューサーはそう言いながらドアを開けてエスコートするようにまゆを手招きした。



プロデューサー達が事務所を立ち去った直後、入れ違うかの様に男は事務所の天井裏に辿り着いた。


……少し、遅かったか。


自分に運が向かないことを呪いながら、天井裏から板を外して男は事務所内部に潜り込んだ。
情報だけでも手に入れようと考えた男は机の上に散らかっている書類を一瞥した。


……これは当てに成らないな。


男はそう考えて次にパソコンに向かったがパスワードがかかっていて開かなかった。


舌打ちをしながら床をさりげなく見下ろした男は机に引き出しがついている事に気付いた。

迷う事無く、力任せに男は引き出しをこじ開けた。


ビンゴ!


中に入っている名刺等の書類をよく見ようと手を伸ばした瞬間だった。

本当に一瞬だったが男はどこからともなく突き刺さるような視線が自分に注がれた事を感じた。

だがその一瞬は男に生命の危機を感じさせた。


まずい。
何故かは分からないが――“敵意”を感じた。


逃げろ、と本能が叫び、男はその叫びに従った。

書類を鷲掴みにし、自分の入ってきた所に一瞬で舞い戻ろうとして男は、はた、と思い止まった。


待てよ。
この視線の主はどこから入ってくる予定――


そう考えて足を止めた瞬間、その問いに答えるかの様に鍵が回され勢いよくドアが開いた。


開け放たれたドアから背後に伝わってくる意思。

後ろを振り向かないでも男は空気を侵食するかの様に蠢く敵意を感じていた。


空気が、重い。

何だ、この威圧感は。

まるで……

まるでこの事務所その物が後ろの奴と一体化しているみたいだ……


時間にしてほんの一瞬だったが男は弱りきった体では戦えない、と判断して一回咳き込んで、力を振り絞って天井裏に潜り込もうとした。

その時、後ろの混合種が初めて口を開いた。


 「私達ももう永くはないみたいね。」


たった一言。

だがその一言が男の判断を鈍らせて、行動をワンテンポ遅らせた。

その隙を逃す筈もなく、混合種は一瞬で男の首に伸びた舌を巻き付けて、締め上げた。


 「かっ……」


そしてそのまま、うつ伏せに男は地面に叩きつけられた。
混合種の顔だけでも人目見ようとするが、どうしても首が回せない。
何とか外そうと、最後の力を込めて舌を掴み千切ろうと手を伸ばした瞬間。

ヒュンッ、と空を切る音と共にドスン、とくぐもった音が響いた。


 「ぐっ」


伸ばされた指が、自分の体に深く突き刺さっている事を確認するのには時間がかからなかった。
がぼごぼ、と血液と体液が体の中を暴れまわる音が聞こえる。


こんな、所で……


激痛と自分の血で窒息しそうになりながら、男は薄れていく意識の中で、最後に混合種の声を聞いた。

それはこの混合種が先程言った言葉の意味でもあった。


 「私の生活を崩さないでくれるかしら?私達の種の末路なんて興味がないの……おやすみなさい。」







……死んだわね。


“混合種”は横たわる男の遺体の心臓を指で触り、脈がない事を確認し、床に広がっていく体液を目下にしながら彼女は遺体を拾い上げて天井裏に押し込んだ。

 「ふー……」


飛び散った体液を拭きながら、男が最後に掴んだ書類等を机に戻し、ため息をつく。

壊れた引き出しは無理矢理閉めて歪ませる事でロックがかかったかの様にする。
一巡の手慣れた作業で何事も無かったかの様に事務所を仕立てあげる事なんて造作もない。

彼女は最後に落ちた天井板を嵌め直して満足そうにしてドアを閉めた。

鍵が回る音がし、事務所はまた静寂に包まれた。



その夜。

遠く離れたあるアパートで異変が起きていた。

そこは一見するとただの散らかった部屋だが、一つ、散らかっている物とは明らかに違う物が壁からぶら下がっていた。

それは何処と無く、蛾の繭に極似していたが、同時に人間の女性器にも似ていた。

“繭”は蛾が羽化する時が近いかのような呼吸の様な動きを続けている。

そして呼吸の幅がだんだん早くなり、一瞬深呼吸をするかの様に膨らむと、繭は大きく痙攣をし、中の液体と共に成長を終えた成体を吐き出した。

薄い膜に被われながら、出て来た“それ”は喘ぎ声にも聞こえる、ため息に似た産声を上げた。




……永い……


……永い悪夢を見ていたみたいだわ……


頭痛がする頭をふらふらと振りながらサリナは生まれたての小鹿の様に立ち上がった。

上を見上げて自分がさっきまで入っていた繭を感慨深く眺め、処分方法を考え出した。

だが、その前に――

サリナは一糸纏わぬ姿で部屋の隅の鏡に向かった。

あどけなさが消えた顔立ち。

伸びた身長。

肉付きが良く、すらり、と伸びた四肢。

そして豊満な胸と引き締まった肉体。

神が作りし肉体美がそこにはあった。

サリナは満足げに自分の肉体を眺めると住処を捨てる準備を始めた。


時を同じくして、まゆは寮で暇を潰すかの様にぼんやりとテレビを眺めていた。
テレビと言う物は便利ですねぇ……

こうやって座っているだけで情報が入ってきて……

何かこれからの生活に役立ちそうな情報が入ってきそうです……

そうぼんやりと考え事をしながらテレビを眺めるまゆを物陰から見ている者が居た。




……何でソファーの上で正座してにやにやしてるんだろう……?


今日の事を思い出してにやにやしているまゆを見つけた輝子は不思議に思って声をかけようとした。


 「あ、あ、あの……」


後ろから聞こえてきた聞き覚えのあるか細い声。

まゆは反応するべく後ろを見た。

が、返って来たのは何かに驚いたかのような短い悲鳴だった。


 「ひっ……」

目に写ったのは恐怖を顔に浮かべながら立ち尽くす輝子がいた。

まゆは何に驚いたのか不可思議に思いながら喋ろうとしてうっかり自分が“首だけ”を160°回している事に気付いた。


 「そ、それ、なに……?」

どうしよう。


まゆが言い訳を考え出したその時、テレビの内容が変わった。

どうやら他のアイドルが隠し芸をしている様だ。

……隠し芸?


 「……まゆの、隠し芸ですよぉ。」


誤魔化せただろうか。

不安になりながらまゆは輝子の顔色を伺った。


輝子は見てはいけない物を見てしまったような気がしたが多分隠し芸なのだろう、と自分に言い聞かせた。

 「……凄い隠し芸なんだな……」


 「え、ええ、そうなんですよぉ。まゆは隠し芸がいっぱいあるんでこのくらいは……」


ただ……

首だけを後ろに回しながら喋られるのは怖いな……


 「……首を、戻して喋らない、か……?」


 「あっ……」


………
……



 「……ところで輝子さんはなにか用があったんですかあ?」


正座している事を突っ込まれたまゆは姿勢を崩しながら輝子をソファーに座らせて話をしだした。


 「う、うん……」


まさかなんで正座しているのか聞こうとしたなんてどうでもよすぎて……

どうしよう……

話の糸口が掴めない……

何て言えば……

輝子の頭の中は話の糸口を掴もうとごちゃごちゃのパニック状態になっていた。
どうしよう、を頭の中で数回程繰り返して会話の糸口を取り敢えず見付けた。


 「あ、えと……いや、先日の、急にキノコを押し付けてしまって……」


 「キノコ?……ああ、あれですか。」


 「……いえ……本当に、突然、押し付けちゃって……」


ああ。

私はなんで、こう、

喋るのが苦手なんだあ……


 「その……ご、ごめんなさい……」


まゆは予想だにしていなかった出来事に目をぱちくりさせた。

なんで謝ったんだろう。

会話の切り出しに謝罪が入って来る。

生後一年にも満たないまゆには初めての経験だった。


んあああ

んあああ

102枚全て突っ込んだのに三船さあああん……

寝込んでた

夜再開ね

ああ、またやってしまった。

輝子は目の前が暗くなっていく感覚に陥りそうになった。

どうしても、会話と言う行為には慣れはしない。

そしてそれ故に輝子には友達を作る、と言う行為に歯止めがかかるのだ。

そしてこの状況から生まれた自分自身の自信のなさがまた似たような状況を生む。

 「友達になってください。」

この一言が言えない負の螺旋階段を輝子はいつも廻り続けていた。


まゆさん、私の事、変な人だって思ったに違いない……


輝子はそう考えて顔を上げた。

ところが輝子の予想とは外れ、目の前には腕を組んで頭を捻るまゆの姿があった。
そして腕を組んで頭を傾かせながらまゆは一言呟いた。


 「……分かりませんねぇ。」


予想外の言葉に虚を付かれ、戸惑いながら輝子は返した。


 「な、何が……?」


 「何って……」


まゆはさも当たり前の事を聞かれたかのような意外そうな顔をした。


 「あなたが何をしたいのかですよぉ。うーん……」

そう言いながらまゆはまた頭を捻りだした。

“人間”ではないエイリアン達には本音と建前が全く理解が出来ないのだ。

“人間”が雑ざって狡猾さを磨いた混合種ならともかく、如何せん“人間”が持つ特殊な“感情表現”を理解するには、まゆはまだ純粋すぎるのだ。

だから輝子がいきなり謝ってくるなど理解も出来ないし、予想もつかなかったのだ。


 「うーん、分かりませんねぇ……」


勿論、まゆがエイリアン故に自分の行動を理解できていないとは輝子には知る由もなかった。

そしてまゆの行動を輝子は意味があるのでは、と考えて盛大な勘違いをする事になった。


まゆさんは、私を試している……?

これは会話がろくに出来やしない私への計らい……!?


輝子は息を深く吸い、言いたい事を頭で纏めた。

言える。

まゆさんが態々こうやってチャンスをくれているんだ。

今やらないでいつやるんだ。


頭を捻って考え続けるまゆに輝子は思い切ってもう一度声をかけた。


 「あ、あの、まゆさん!」

 「?」




 「わ、私と、と、友達に……なって……くれます、か……?」


言えた。

この一言を言うのに昔から躓いてばかりだったけど、今は言えた。

輝子は治まらない体の震えを感じながらまゆの返答を待った。



 「わ、私と、と、友達に……なって……くれます、か……?」


今にも消えそうな声でそう言った“人間”の少女を“異星人”の少女は驚いた目で眺めた。


友達?


友達。

自分の頭の中の知識を総動員させて“友達”と言う単語の意味を引っ張り出す。

友達――トモダチ

互いに心を許し合って、対等に交わっている人。一緒に遊んだりしゃべったりする親しい人。


確かこんな筈。

でもなんで突然?

“異星人”はやはり目の前の人間の行動原理が分からず困惑した。

そして考え出した結論は、彼女は最初から友達になりたい、と言いに来たのだろう、となった。


……

……友達に、ですかぁ。


その単語からまゆはふと、前居た事務所を思い出した。


あそこは常に他人に興味が無い人達が集まっていましたねぇ……

まゆはそれはそれで良かったんですけど……


そこまで考えてまゆは目の前の人間をもう一度眺めた。


……前とは違うやり方も良いのかもしれませんねえ。
それに、同じ事務所の中では良好な関係を築いておけば、プロデューサーさんからの印象も……



 「……よろしくお願いしますねぇ、輝子ちゃん。」

輝子の顔がぱあっと明るくなった。


 「よ、よろしく、お願いします……」


フヒッ、と輝子は短く笑った。


…………
……



 「……よし。」


荷物を持ち、母が残したメモを纏めたサリナは多少の満足感を滲ませながら呟いた。

繭は既に砕いてトイレに流してある。

流れきれない部分はごみ袋に詰めれば良い。

取り敢えずここまでは順調に進んでいるのは確かだ。
サリナは次に自分のやるべき行動を知るべくメモを開いた。
メモの内容を見たサリナは驚愕を露にした。


家を出たらこの電話番号に電話をする。人間だが良い協力者だ。


協力者?

人間が?

サリナは不可思議に思いつつメモをごみ袋に突っ込んだ。

数十分後、荷物を粗方片付け終えたサリナは生まれ落ちた家を捨て、夜の町に飛び出した。


まだ見ぬ世界に心を踊らせながら……




数日後


仲が良くなったように、まゆと輝子が談話をしていた時だった。

点けっぱなしのTVから流れてきたその臨時ニュースはそれまでの楽しげな空間にヒビを入れた。


 「臨時ニュースを御伝えします。先日、◯◯県の××市で身元不明の遺体が見付かった事件で、先程、警察は遺体が行方不明の警官だった事を発表しました。」


 「あら、物騒な話ね。」


何時の間にか来ていたのか奏が近くのソファーに寄り掛かって呟いた。

いつの間に、と二人が驚く間を与えず、続くニュースは更なる驚愕を二人に与えた。


 「また、容疑者は被害者の服を奪い、逃走したと見られています。警察は防犯カメラ等の映像から容疑者の似顔絵を公開しました。容疑者は警官を騙って逃走をしている可能性があり……」


テレビに写し出された容疑者の顔と服装。

それは数日前の来訪者であり――

まゆが駅で声をかけられた警官と一致していた。




まさかあの時の警官が偽者だったなんて……

この偽警官は幸運ですねぇ

まゆに手を出したら今頃は大地の一部になっていたでしょうに……


偽警官が自分のすぐそばまで近付いていた事を知らないまゆは暢気にそう考えた。

よもや彼が自分達に親い存在等知る筈もなく、彼が既に何者かに殺害されたなど思う由もない。

まゆの中では偽警官のニュースは対岸の火事と同じになっていた。

それがどれだけ危険な事だったのか気付かないまま……




 「佐久間さーん、今大丈夫ですかー?」


向こうから自分を呼ぶ声が聞こえて来てまゆは刹那的に反応を示した。


プロデューサーさんだ!


 「はぁい、大丈夫ですよぉ。」


頭で考えるよりも早く本能が先に働いてまゆは返答した。

そしてうっかりまた顔だけを勢いよく動かしていた事に気付いて慌てて体を動かした。

輝子はまた見てはいけない物を見てしまった気がしたので見なかった振りをした。

奏は興味深げにまゆの様子を眺めた。

ユッコはカードのシャッフルに失敗した。



 「ちょっとお仕事でお話が……」


 「はい」


あれはお仕事の話なんて耳に入らなそうね。

まあ心配入らないけど釘くらい刺しますか。

奏は先輩としての貫禄を感じさせる、やれやれ、と言いたげなため息をついてまゆの方に向かった。

残された輝子はユッコのカード捌きを見ることにした。

ユッコはギャラリーが増えた事に喜びを感じながら小さなマジックショーを開きだした。

…………
………
……


 「うおっ。」


群衆の中でたった今すれ違った女を見て男は思わず声を出した。

直ぐに後ろを振り返ったが女の姿は人混みに紛れて消えてしまった。

暫くは脳裏に焼き付いて離れなさそうな見た目の女。
声をかけておけばよかったな、と若干公開しながら男は歩き出した。




この姿はどうも目立ちすぎるみたいね。

まあ、それだけアタシの体が魅惑的、って事かしら?




10人に9人は思わず振り返るであろうスタイルと遺伝から来る整った顔立ちとブロンド混じりの髪。

そして大体の男の夢と希望がつまった豊満なバスト。

完全に成熟したサリナは前の住処を棄てて、純粋種を手に入れる為の計画を少しずつ練っていた。


そろそろ協力者、とやらと連絡を取らないとね。


そう考えながらサリナは人目のつかない場所を探し回っていた。


……この辺でいいかしら?

狭い路地裏に潜り込んで周りに人が居ないか確認をしてサリナは携帯を取り出した。

数回のコールの後、“協力者”と思わしき人物が電話に出た。



 「にゃっふっふ~。この回線を利用して電話をして来た、と言うことは……」
  スピーシーズ
 「“混合種”で間違いないかな?」




想像していた声よりも随分と若いわね……助手さんかしら?


サリナは電話口から聞こえてくる若くて飄々とした声に若干の戸惑いを得た。

刺が刺さるかのような不信感が僅かながらにサリナの心に生まれた。


だけど――


不信感を吐き出すかの様にサリナは大きく深呼吸をした。


よく分からない相手だろうと使えるのなら、すがらなきゃやってらんないのよね。


 「……アタシはサリナ。あなたが協力者?
あなたがアタシ達の助けになってくれるって本当なの?」


電話口の相手は少し黙った後、飄々とした態度を崩さずに質問に応えた。


 「そう言えば名前を言ってなかったね~。あたしは一ノ瀬志希。

キミ達に強く惹かれた人間だよ。

あたしが“協力者”と呼ばれているならそうなんだろうね。」


電話口から告げられた事実にサリナは面食らった。

この年端もいかない様な女の子が自分達の助けになるとは到底考えにくいからだ。

そしてそうサリナが考えたのを見越してか、志希は返答を続けた。


 「んっふっふ、もしかしてあたしがキミ達の助けになるかどうか分かんなくなっちゃったかな~?」


考えている事を当てられた様でサリナは眉をしかめた。


 「疑うのもムリはないね~。丁度この近くに居るから何処かでお話でもしようか。」


 「え?」


サリナが驚いて後ろを振り返るのと同時に、路地裏の曲がり角から人影が入り込んできた。


…………
………
……


 「こっちこっち~」


 「話す場所って……ここ?」


数分後、成すがまま連れて来られた近くのファミリーレストランの席に2人は座った。

各々料理を頼んで一息をついてから目の前の少女――一ノ瀬志希は喋り出した。


 「その顔はまだあたしが一ノ瀬志希かどうか疑っているね~?まあ、ムリもないか。」


にゃっふっふーと変な笑い方をしながら志希は喋り続けた。


 「まあそんなに身構えなくていいよ。あたしはキミ達の味方だと考えてくれると嬉しいかな~」


 「……」


にゃはは、これは警戒心が強いなー

こりゃちと手を焼きそうだな~

それにしても今まで見た個体でここまで警戒心が強いのは居なかった筈……

この“変化”は“順応”か、それとも……



“進化”かな?



志希は目の前の生命体の変化に何か思う所を見つけ出したかの様ににんまり、と笑った。


 「……」


サリナは押し黙って下を向いて考え事をしたままだ。

料理が運ばれて来る頃になってサリナは重い頭を上げた。


 「いいわ。あなたを信用しきった訳じゃないけれど、どの道一人では何も出来そうにないわ。アタシに協力して。」

      スピーシーズ
志希はこの若い“混合種”が今まで見てきたどの個体よりも狡猾な事を確信しながら頷いた。


 「んっふっふ~、ヨロシクね~。さて、それじゃあ料理も来た事だしお喋りしながら食事といこう♪」


熱々のハンバーグを自分の元に引き寄せながら志希はそう言ってナイフを手に取った。




時を同じくしてまゆはプロデューサーから方針を話されていた。


 「……と言う訳で暫くレッスンをして頂き、その後CDデビュー、ミニライブ、と言った形にしようと考えています。何かご質問等は?」


まゆは書類に一通り目を通して自分がどうやってアイドルになっていくのかを何と無く考えていた。


仕事は真面目にやっておかないと後から面倒になりそうですし……

それにプロデューサーさんの期待に応える為にも頑張らなきゃ!


 「……佐久間さん?」


書類に目を落としたまま動かないまゆを不思議に思ってプロデューサーは優しく呼び掛けた。


 「……え、あ、はい!大丈夫ですよぉ。」


慌てて顔を上げたまゆを見て一瞬、プロデューサーはどきり、と心臓が体を揺らすのを感じ取った。

それは学生時代の初恋の感触に少し似ていた。


この娘をトップアイドルにしよう。


プロデューサーは新たに湧いた決意を胸に、微笑みながら話を続けた。

その様子を眺めていた奏は心配が杞憂だった事を感じ取り、部屋を出た。


…………
………
……

平和な事務所とは対極的に、ファミリーレストランの2人は不穏な雰囲気を漂わせていた。

ハンバーグを夢中になって食べる志希を眺めながらサリナは自分の手元のソーセージをつついて口を開いた。


 「……ところであなたは何でアタシ達に協力してくれるのかまだ言ってないわね。」


志希のナイフを持つ手がぴたり、と止まった。


 「………“ソレ”聞きたい?」


 「“ソレ”を聞かなきゃ協力者として信用しづらいわ。あなたが逆の立場ならこうすると思うけど?」


サリナの瞳に映る自分の姿を見て志希は目の前の“混合種”は今まで見てきたどの個体よりも狡猾な事を改めて認識した。


 「いいよ、話してあげよう。」


――時は一年前に遡る――
―――――
――――
――
―――



アメリカ。

それは世界経済を牛耳り多くの若者の夢が集まった場所。

手に入れようと思って手に入らない物等ない。

だが苦せずして、何でも手に入る場所は一つ、“余計な物”を作り出す。

それは古来から神話に登場する神々すら悩まされた物。

退屈だ。

この国の人間は一部を除き、退屈に際悩まされていた。

そして、ここにも“退屈”に悩まされている女が1人――




 「ふわぁ……」


一ノ瀬志希はベンチで大きく欠伸をした。


折角日本を離れてこっちに来たけど……

何も変わらないなー


志希はベンチに横になってそう思った。

天才、天才と持て囃されて飛び級と留学をしたものの、自分の興味を特別引くような物は見つからない。

面白そうな匂いもしないし学生の頭の中はSEXとドラッグ、そして酒。

脂ぎったハンバーガーは体に合わないし一度食べたらもう充分だ。


 「はあ……」


何か面白い事、ないかなあ。

この退屈を紛らわしてくれる何かがないか志希は願いながらスマホを見た。


 「……何コレ?」


学生ポータルに下手くそな英語と可笑しな文言が表示されていた。


“アタシはアメリア。ある情報を探しているのだけれど誰かアタシに協力してくれない?”


 「何だろう、コレ……」


不思議に思いながら添付ファイルを開くと実にセクシーなまるで女優の様な女の写真が表示された。

普段ならば只の気違いか誰かの悪ふざけ程度に思っただろう。

だが今の志希にはこれがどこか面白そうな匂いがする格好の具材に見えた。


“初めまして。あたしは志希。ちょっと気になるからお話をこちらのアドレスまで送ってくれない?”

>>238
際悩まされていた。→苛まれていた。
ではあるまいか

>>240
やっちまった
さいなまされるを何故……
あと所用で二日ほど休むわ

志希がそう送ってから少しの間を開けて“アメリア”から返信が来た。

そしてその内容を見た志希は首を大きく傾げた。


“エイリアンの遺伝子について知っているの?”


エイリアン?

志希はその単語を聞いて、男性器を模した顔が腹を食い破って出てくる例の映画を思い浮かべた。

いや、まさか……

志希は首を横に振りながら画面をもう一度眺めた。


“エイリアンの遺伝子?ハロウィーンは過ぎたよ。”


そう書き込んで送り返そうとして、志希ははた、と思い止まった。

一瞬だが、荒唐無稽な説が頭に展開されたのだ。


いやいやそんな筈はない、と志希は状況を整理し始めた。




イタズラだと思ったんだけど何かおかしい気がする……


何か……イタズラにしては手口が雑すぎる……


普通、こう言う類いのイタズラはリスクも考慮して掲示板とかに貼ったり、ジャンプ先を作る筈。


なのにこれは学校のポータルに送っている。


まるで使い方が分からない子供みたい。


聞いてくる事もかなりぶっ飛んでるのにふざけている感じがしない。


何だろう、あまりにもおかしい部分がある気がする。


……


少し考え込んでから志希はメールの内容を書き変えた。


“まさかとは思うけれどキミは、エイリアンなのかい?”


数分と経たずに返信が来て、それを見た志希は目を丸くした。


“そうだとしたらどうするつもり?アタシがエイリアンだとして何か困る事でも?”


やっぱり悪戯にしてはおかしい。

まるでこの程度の低さは子供を彷彿させ……




……子供?






子供の悪戯……?


確かにそう考えると手口は似ていなくもない。

だがそうだとするとこの添付された写真が不可解だ。

体は大人。だが知能はまだまだ子供。

もしかしなくともこの“アメリア”と言う人物は……


…………
………
……

数日後。

駅の構内で待ち合わせる事になった志希は彼女の到着を待ちわびていた。

本当に来るのだろうか、と不信に思いつつ駅をぐるぐると回っていると人混みが少し波打った。

電車が到着し、降りてきた乗客の反応から志希は中に“彼女”がいる事を確信した。

何故なら歩いてきた男は殆どが何度も後ろを振り向いたり、性欲を顔に滲ませているのだ。

そして人混みがモーゼの十戒の様に割れ、背の高い、正に絶世の美女と言うに相応しい女が現れた。


志希は添付ファイルと同じ見た目と“人成らざる者の匂い”から彼女が人間以外の何かである事を確信しながら声をかけた。



  ・ ・ ・ ・ ・
 「初めまして。」


 「は、初めまして……あたしがシキ。よろしく……」


本物、か……

凍り付く様な眼差しから発せられる威圧感に気圧されながら志希は彼女に手を差し出した。

“アメリア”はちらり、と手を一瞥して握手に応じる事なく、志希の顔を覗きこんだ。


 「う、うわっ。」


赤みがかかった瞳の奥底に化け物が見えた気がして志希は思わず声を出した。

志希の反応を無視してアメリアは顔を離した。


 「ウソはついていないみたいね。」


 「さて、それじゃあお話出来る場所に案内してくれるかしら?」


アメリアは志希の目を見て言った。


ヤバい事に足を突っ込んでしまったかもしれない……

志希は本能的な恐怖とスリルを感じてぞくぞくした。

…………
………

……

数十分後、志希の部屋に連れられて来たアメリアは置いてある本に次々と目を通す作業を繰り返していた。

本を開いて、目をざっと通したら閉じる。

この繰り返しで大量の情報を仕入れ、選別し、繋げてていく。

十分も経たない内に大量の本を読み終えたアメリアは志希が参考に、と持ってきた論文の山に手を伸ばした。

その様子を見ている志希はこの人成らざる者がいずれ人を滅ぼすかも知れない、と考え出した。


 「……まあ、どうでもいい、か。」


アメリアが少し気になったのかこちらを見て、また論文を片付けだした。


数分後、アメリアは山の様に積み上げられた論文と本を前にため息をついた。


 「何か参考になる物はあった?」


志希の問いにアメリアは苛ついたように首を横に振った。


 「駄目ね。一番欲しい情報は無いわ。」


 「一番欲しい情報?」


志希の問いに答える様に、アメリアはいきなり服を脱いで、右肩を見せ付けた。

右肩にはほんの少しの擦り傷の様な物が走っている。

 「……これは?」


アメリアはため息をついて喋りだした。


 「アタシ達は個人差はあれど、人間よりも遥かに知能が高く、肉体も強い。……だけれども。」


アメリアはそこまで言ってから一端言葉を切った。


 「だけれども?」


アメリアは表情を歪ませながら言葉を続けた。

まるでそれを口にすること事態その物が憎くて堪らないかの如く。


 「唯一、遺伝子だけは劣っているの。」


……遺伝子が、“劣る”……?


聞いた事がない内容に志希は首を傾げた。




 「私達は人間よりも遥かに“勝る”再生力を持っているの。指や腕が欠損しても、直ぐに再生出来る。……本来ならね。」


右肩の治らない擦り傷をティッシュで拭きながらアメリアは呟いた。


 「何でその傷は治らないの?」

   パトリック
 「“父親”が私達を作った時。彼は致命的な“バグ”に気付かなかった。」


パトリック。

人類史上初の“火星に立った男”。

だが、彼は地球に帰ってから発狂し――

自殺した。

そう聞いていた筈だけれど……


 「“彼”は手当たり次第に地球人を孕ませていった。結局大体の“子供”は殺されたけれど、何人かは生き残った。それが私達。」

 「そして、私達は変態をしてから直ぐに気付いたのよ。」


 「私達の遺伝子には免疫システムが付いていない。エイリアンの遺伝子を色濃く受け継いだ個体は特にそれが顕著に表れている。」


成る程。

合点が入ったよ。

志希は先程の言葉と“傷”を見ながら頷いた。

確かに“時間がない訳だ”。




 「成る程。合点が入ったよ。それで、どうするつもりだい?」


 「それは……」


志希の若干意地悪な問い掛けに困ったアメリアは下に俯いた。


 「答えは簡単。」


 「免疫が無いなら作ればいい。」


アメリアはハッと気付いた様な表情をして頷いた。

電球が頭に浮かんだ表情ってこんな感じなのかな。

志希はそんな事を思いながら話を続けた。


 「どんな手段だって使うし、探す。その為の協力は惜しまない。」


 「だから、あたしと組まない?」


そこまで言って志希は深呼吸をして手を差し出した。

アメリアは少し考える素振りを見せて腑に落ちない事があったのか、一つの問いを投げ掛けた。


 「一ついい?」


 「ん?」


 「私達の繁栄。それは将来的なあなた達人類の滅亡を意味する。」


 「つまりあなたのしている行為は他ならぬ利敵行為。」


 「それなのに、何故協力しようとするの?」


志希は今まで他の人間は見たことがないであろう表情を浮かべて言った。


 「……人類のリセットプログラムが目の前にある。そしてそれを起動することが出来るのかもしれない。人類の最期を見る事が出来るかもしれない。考えるだけでも震えが止まらない。」


 「つまり、沢山の理由があるけど何が言いたいかって、知的好奇心って事さ。」


捲し立てた志希を見ながらアメリアは人間を理解する事は一生ないだろう、と思いながら頷いた。


そして、差し出されたままのその手を握った。


志希はアメリアのその体温の冷たさに少し驚き――


アメリアは志希のその体温の生暖かさを不審に思った――



しかし……
―――――
――――
――
―――


1ヶ月後。

志希は混合種達の連絡先とかき集めた大量のエイリアン達の資料をUSBに纏める作業に移っていた。

アメリアは人間生活を生き抜く知恵と狡猾さに磨きをかけて、純粋種を見つけた、と言う連絡を頼りに昨日出発したばかり。


アメリアは上手くやっているかな?


そう考えながらパソコンを弄っていた時だった。

切れた集中力に合わせたかの様に玄関のチャイムが鳴り響いた。


誰?


うんざりしながらインターホンの画面を見ると三人のコートを着た大柄な男性達が覗きこんでいた。

なんとなく、本能的に嫌な気がしたが、仮に警察だった場合居留守を使うと後々面倒になるな、と考えながら志希はインターホンに喋りかけた。


 「どちら様?」


だが、その答えは警察よりも最悪の答えだった。


 「FBI、と言えば要件も分かるかね?Ms.シキ。」

やられた……!




相手が悪すぎる。

これはシラを切ろうと無駄だな……


 「時間は取らせないので少しお話はいいかね?」


 「……どうぞ。」


吹き出る冷や汗を拭きながら志希はドアを開けた。


 「お邪魔します。」


慇懃無礼な態度を崩そうともせず、乱入者達はずかずかと土足で部屋に上がり込んで来た。




 「ほう、これは素晴らしい論文の山ですな。」


上がり込んだ乱入者達は感情を一切含まない機械的な声でそう言った。


 「世辞は聞き飽きているんだ。本題に移って。」


そう言うと右側の男が少し苛ついた態度を見せた。

しかし真ん中のリーダー格らしき男は貼り付いた表情を一切変えることなく、左側の男は書類の山を眺めたまま動きを止めたままだ。


 「それは失礼。では本題に移ろうか。まあ、分かってはいるだろうがね。」


男は立ったまま喋りだした。


 「エイリアン。」


 「この単語について何か知っている事があるかね?」




来たか。

心臓が早鐘の様に打ち、冷や汗が流れそうになる。

平常を装って志希は茶化すように答えた。


 「あのギーガーの作品から生まれでた映画の事?」


男達は顔を見合わせると何かおかしい事でもあったかのように突然笑いだした。


 「いやぁ、あれはいい作品だ。因みに私は駄作と言われている4も好きだがね。それにしてもいいジョークだ。」


 「でも私達が求めているエイリアンはあんな見た目ではない。」


 「人間の姿をしているエイリアンだよ。」


全部お見通しって所か。

まいっちゃったね……


 「Ms.シキ。君が保有するエイリアンの知識とその携帯に残る連絡先、その他エイリアンに関係する物全てを廃棄してくれないかな?」


 「嫌だといったら?」


男はにこやかな目を細めて一言、言った。


 「事故に会う確率が増す。」


部屋の温度が急に下がり、つう、と冷や汗が頬を流れるのを志希は肌身に感じた。


 「分かった。全て棄てるよ。」


 「理解が早くて助かるよ。」


ふん。論文を棄てようが知識はあたしの頭の中だ。ほとぼりが冷め次第……


そんな志希の考えを見透かすかのように男は何か思い出したかの様に声をあげた。


 「ああ、そうそう。これはちょっとした小話程度なんだけれど。」





 「当初は強盗が金目当てに入って殺害、放火、自首、となる“予定”でね。」


志希は恐怖の余り、息を止めた。


 「まあ、留学生と言う事が分かったので流石に騒がれるな、となってね。」


 「一通り研究を終えて帰って貰う事になった。」


 「そう言うわけでさよならだ。3日後に迎えに行くからそれまでに準備をしている事を勧めるよ。」




 「君はアメリカの土地を二度と踏んではいけない。」





――――――
――――
―――

―――――
――――――――
――――
――

――――――
――――
―――



 「……と言う訳であたしはアメリカ合衆国を追い出されたのさ。」


ハンバーグを食べ終えて口元を拭きながら志希は過去を語り終えた。


 「……フーン。」


サリナはすっかり溶けきった氷が入ったコップをストローでかき混ぜながら鼻を鳴らした。


 「で、なんで今はまたアタシ達のケンキューが出来る様になったの?」


 「それはまた後でに話すよ。」


そう言って志希はイタズラっぽく笑った。



 「今は名前を決めようか。」



と言う訳で過去編、終了です。

時間かかっちまって申し訳ない。



 「名前?」


 「そっ。名前。あった方が色々と便利だからね。」

名前?

どういう事だろう。

名前なら既にあるのに。

疑問に感じながらサリナは口を開いた。


 「アタシにはサリナって言う名前が……」


志希はその一言を聞いた瞬間、きょとん、とした表情になった。

名前に執着がややある、と見ていいのかな。

これは始めて見るタイプだ……


 「……まあ、名字を付けるだけさ。キミは日本人の血も混ざっているんだから日本風にした方が何かと楽だよ。」


 「ふーん……」


サリナは気の浮かない返事をした。

ちょっと待ってね、と言って名刺入れから名刺をばらばらと取り出す志希の様子を見ながらそう言えば自分の父親はどんな人間だったのだろうか、と不意に思った。


 「確かこれはもう使っていた……これは目立ちすぎる……うーん……」


ぶつぶつ、と呟きながら名刺をめくり続ける。


 「あ、これはまだ使ってないな……」


志希はそう言って一枚の名刺を取り出した。



志希が取り出した名刺には松本太郎、と書かれていた。


 「何?アタシは松本太郎になるの?」


 「違うよ。松本。松本さりな。」


志希はそう言うと伝票の裏にさらさら、と名前を書いた。


松本沙理奈


まつもとさりな。

松本沙理奈。

サリナは自分の中でそう言い聞かせた。


 「どうかな?」


 「いいんじゃない?これからアタシは松本沙理奈ね。よろしく。」


沙理奈はそう言って頭の中で名前を復唱した。


いい“日本風”な名前じゃない♪



……?


笑っている……?


“自分の名前”を告げられた沙理奈を見た志希は今までとは違う“何か”を感じた。

少なくとも今まで出会った個体で笑顔を浮かべた者は皆無だった。

だが、この個体――松本沙理奈は自分の名前に僅かだが執着を見せ、“名前がある事”に何らかの意味を求めようとしている様に見える。

まるで……

まるで人間に近付きを見せているみたいだ……




 「……どうかしたの?」

自分の思考の波間に深く沈み込んで黙り込んだ志希を不思議に思った沙理奈は声をかけた。


 「え、あ、ああ、ゴメンね。ちょっとぼんやりしてたよ。」


心ここにあらず、と言った感じになった志希は慌てながら答えた。


 「ふーん。それで、どうやってあなたは日本でケンキューを続けられるようになった訳?」


ああ、そう言えばそうだった。

種明かしの時間だ。


志希は笑顔を浮かべて頷いた。



 「どうしてあたしが日本に強制送還されてからまたこうやって研究をを続けられるようになったか話してあげよう。」


不敵な笑みを浮かべて志希はそう言って語り始めた。



1日。

1日あれば充分だった。
イヌ
FBI共が勝手に決めた約束の日の1日前。

志希は然程慌てる様子もなく、着々と帰国の準備を進めていた。


 「……よし。」


最後に荷物を紐で縛って志希はため息をついた。


 「……あーあ。これでアメリカ生活も終わりかぁ。」


 「そうだ。教授に挨拶でもしてこよう。」


わざとらしく心にもないことを呟きながら志希は自分の家を出た。



どこで盗聴されたかたまったものじゃない。


本当に厄介だよ。




だけれど……


あの場であたしの“口封じ”をしなかったのはミスだとしか言い様がないね。


携帯電話を始めとしたツールを実質使えないも同然の状態でも連絡を取る手段はある。


こんな事もあろうかと、既に手は打ってある。


“アメリア”が見つけ出した仲間。

彼等には定期的に1日一回連絡を送っていた。

もし、あたしの連絡が途絶えた場合――


彼等の内の1人が大学に来る様に言ってある。


万事において抜かり無し――

志希は狂気に満ちた笑みを浮かべながら徒歩で大学へ向かった。



……学校とやらに着いたはいいが、肝心の一ノ瀬志希がいないな……


予定より早く大学に着いた混合種――サリーは暇をもて余していた。

志希からの連絡が途絶えた場合、一番近い距離に住んでいる者が二日後に彼女の指定した場所に行って1日待つ。

最良のケースは勿論、一ノ瀬志希と直接話し合える事。

最悪は一ノ瀬志希が何か“不幸な事故”にあってこの世にいない事。

折角の協力者が居なくなる、と言うのは我々にとってまた一歩、死に近づいている事になる。

出来れば直接会えればいいのだが……

まあ、ここで考えても無駄だな。

取り敢えず情報収集をするか。

そう結論に至ったサリーは目を閉じて耳をすませた。

様々な雑音の中で、自分に取って必要な情報、単語のみを頭に残し、繋げていく。

………………

サリーは暫く黙って単語を繋げる作業に没頭し、まだ一ノ瀬志希が生きている事を知った。


そしてそれは、最悪のケースが避けられた事を意味していた。


サリナの母親(生存時)登場。
父親との馴れ初め(一方的)もあるかな?



さて、大学に着いたけれど……


どうやって彼等に見つけて貰おうか?


家を出た辺りから背後に注がれている視線を感じながら志希は考えた。


……“情報”を流そう。


そうすれば彼等はいずれ気付いてあたしの後を追って来る筈……


そう考えた志希は一先ず近くのクラスメートに話し掛けた。


 「今度日本に帰る事になっちゃってさ……」




一ノ瀬志希が急遽帰国する。


その情報は波紋の様に学生達の間に広がっていった。

突然の帰国に驚きを隠せない学生や教師に囲まれながら、志希はお目当ての者にも伝わる様に自分の転居先を言った。


 「あたしは××県◯◯市にいるから日本に来たら会いに来てね~」




……なんだ、転居先を告げるだけか。


転校や帰国する人がいる教室ではよく見られる風景がそこにはあった。


後をつける必要も無かったな。

少し損をした様な気分になった男は志希のいる教室から離れた。


廊下ですれ違う人を流し目で見ながら男はまた志希の後を追える様にバレにくい場所を探し始めた。


途中ですれ違った恐ろしい程の美人が人間ではないなど思う筈もなく……


テスト終わるまでお待ちを



成る程。


敢えて私達に連絡を取らなかったのはそう言う事か……

私達の“特性”を活かせば情報など直ぐに集まる。

そしてその情報を発信する場所で伝えたい内容も動かせる。

必要な情報は特定の場所に来れば“私達”なら入手できる訳か。


頭のいい人間だ……


人間に対して初めて抱いた“感心”と言う思いにサリーは困惑しつつも情報を採取していった……






志希が日本に渡って数週間後。


 「ここか……」


サリーは記憶通りの住所の場所に来ていた。

記憶に間違い等無い……

言われた事を覚える。

それだけではないか。

何故人間が物忘れをするのかは永遠の謎だな……

そんな事を考えながらサリーはインターホンを押した。





 「……やあ。君か。」


志希はインターホンに映ったその姿を見て聞こえない様な小ささの声で呟いた。

こんな乱暴なやり方でも来るって事は……


もう時間がない、って事だね。


無表情で映る彼女の顔に焦燥を感じ取った志希はドアを開けた。

……………
…………
………


 「長旅、お疲れ様。」


コーヒーをカップに注ぎながら志希はサリーに声をかけた。


 「そこに置いて貰える?」


疲れた様子でサリーはそう言って椅子に座った。


……疲れている?


どうやら体が弱り始めているみたいだな……


自分のコーヒーに角砂糖を入れながら志希はサリーの様子を観察してみることにした。

少し髪が痛み、ふっくらとした頬は少し痩せ、肉付きもやや衰えたように見える。

しかしそれでも尚よく見る人間よりは輝いて見える。

当たり前か。

ダイヤが多少傷付いた所で道端の石ころより価値が下がる筈もない。


 「……私をじろじろ見て楽しい?」


視線に気付いたのかサリーがやや不快そうな顔で言った。





“症状”が進んでいるみたい。

ただ、アメリアが言っていた寿命よりは幾分か長そう。

だが、それでも本来の寿命は愚か、人間よりも短く、蟲と良い勝負かな。

美人薄命と言った物だね。

 「ちょっと聞いてる?」

不機嫌さを諸に出しながらサリーは再度問い掛け、志希はようやくサリーの態度に気付いた。


 「ありゃ、ごめんね。ちょっと君の体調が気になっちゃってさ。」


サリーが体調、と言う言葉の部分で苛立ちを露にしたのを確認して志希はほくそ笑みを心の中で浮かべた。


この対応、間違いないみたいだね……


生存報告

最近余りにも忙しい……



「体調、ね。分かっているんでしょう?」


サリーは明らかに不愉快な態度を表に出しながらその単語を呟く事すら苛立つかのように言った。


 「ん~何をかな?ちょっとあたしは分かんないかも。」


どのくらい焦っているかでこの娘に話すかどうか決めるとしよう。

そう考えた志季が意味の無い猫なで声で返した瞬間、サリーの姿が一瞬で目の前に来ていた。


「!?」


サリーは、人間を遥かに超越した動きの早さに驚きを隠せない志季を勢いよく壁に押し付け、首に手をかけた。
そして凍てつくような声でこう言った。


 「惚けないでくれる?あんたが私達の体について知らない筈がないでしょ?そうじやなければ私達と手を結べる訳ないものね。アメリアをそそのかしたのはあんたでしょ?」


ちっ……


侮っていたかな。

この個体は今まで出会った個体の中では最も“完成度”が高いみたい。


こいつは一筋縄じゃあいかないかな……


首に手刀を当てられながらも志季はにんまり、と笑みを浮かべていた。

それは今にも命を奪われそうな人間とは思えない笑みだった。

そう。まるで、無邪気な子供が初めてレゴに触った時の様な満面の笑み――――




……?

サリーは表情こそ変えなかったが、押し付けられた志季の表情が不気味に変わった事に一瞬混乱した。

……なぜこの状況で笑える?

知っているぞ。

“笑顔”と言うものは本人が楽しみを感じている時が最も出やすい。

そして、このシチュエーションに対して当てはまるべき最も適当な表情は“恐怖”の筈だ。

なのに……

なのに、何故こいつは今笑みを浮かべている?

裏があるのか?

それとも狂ったか?


 「取り敢えず手をどけてもらえないと喋ることも出来ないかな。」


映るもの全てを吸い込みそうな瞳を輝かせている志季の声にはっ、としたサリーは手を離した。


読めない……

こいつの奥底に眠る物は一体……


 「さて、どこから話そうか。まずは君の寿命からかな?」


志季は今命の危機にあったとは思えない飄々とした口ぶりで話始めた。

サリーはそんな志季の姿に警戒心を隠せないまま椅子に座る事にした。





 「まずは君自身の寿命だね。まあ、多く見積もって1年は持たない、と言った所かな。」


志季は淡々とした口調寿命を告げた。


 「……1年も持たないのね。」


サリーは表情を変えることなく、志季の口から出た言葉を繰り返した。

まるで自分に言い聞かせるかの様に。

1年。

それが示す時の長さはあまり分からない。

何故なら自分も数ヶ月しかまだ生きていないのだ。

それなのにあと1年ないしは数ヶ月?

……余りにも……

いや、よそう。


 「……なんで1年なのかしら?」


思わずサリーの口から出た素朴な疑問に志季はすぐに答えた。


 「それはね、個体差はあれど君たち“混合種”は皆エイリアンと人間のキメラだからさ。」


 「キメラ?」


聞き慣れない単語がまた一つ増えた。



 「そう、キメラ。キメラって言うのは別種同士の交配によって産まれた“混じり物”さ。
大体は体も弱く、生殖機能もない。
生きることすら難しいのがキメラなのさ。」


別種同士の交配。

サリーにはそれが何を指しているのかすぐに分かった。
   パトリック
あの“父親”か。

話には聞いてはいたが、いざその事実を知らされると憤りが体を駆け巡る。

そんな理由で……


 「……そんな理由で黙って自分の寿命が尽きるのを待つ程あたしは諦めが悪くないわ。」


気付くとサリーの口がそう動いていた。

 「アメリアが死んで、仲間も減って、追っ手を撒いてこの国に来たのは自分の死刑宣告を聞きに来るためじゃない!!」


サリーの口はそのまま止まることなく――――


 「あたし“達”は生きたいんだ!!」

 「残された時間が少ないならば、その時間を使ってあたし達、“種”が生きる為に尽力してやる!!」


生への意地を見せつけるかの如く捲し立てた。


 「教えろ!あたしは何をすればいい!?何が出来る!?」




荒らしその1「ターキーは鶏肉の丸焼きじゃなくて七面鳥の肉なんだが・・・・」

信者(荒らしその2)「じゃあターキーは鳥じゃ無いのか?
ターキーは鳥なんだから鶏肉でいいんだよ
いちいちターキー肉って言うのか?
鳥なんだから鶏肉だろ?自分が世界共通のルールだとかでも勘違いしてんのかよ」

鶏肉(とりにく、けいにく)とは、キジ科のニワトリの食肉のこと。
Wikipedia「鶏肉」より一部抜粋

信者「 慌ててウィキペディア先生に頼る知的障害者ちゃんマジワンパターンw
んな明確な区別はねえよご苦労様。
とりあえず鏡見てから自分の書き込み声に出して読んでみな、それでも自分の言動の異常性と矛盾が分からないならママに聞いて来いよw」

>>1「 ターキー話についてはただ一言
どーーでもいいよ」
※このスレは料理上手なキャラが料理の解説をしながら作った料理を美味しくみんなで食べるssです
こんなバ可愛い信者と>>1が見れるのはこのスレだけ!
ハート「チェイス、そこのチキンを取ってくれ」  【仮面ライダードライブSS】
ハート「チェイス、そこのチキンを取ってくれ」  【仮面ライダードライブSS】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1450628050/)


>>1を守りたい信者君が取った行動
障害者は構って欲しいそうです
障害者は構って欲しいそうです - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1451265659/)



 「……」


志季は気圧されつつも目の前の人の姿をする怪物の目をそらすことなくじっ、と見つめた。

その目はただ、生きたい、と訴えていた。


なんて……


なんて美しい目をしてるんだ……


生きようとする姿勢ってこんなにも……


“生”への執念を改めて見せられた志季は数分間言葉を発する事が出来なくなっていた。




 「……どうなの?何をすればいい?」


サリーの問い掛けに志季は言葉をつまらせた。

本来言うべきである“予定”を言うだけの事が、今目の前のエイリアンには中々言えなかった。

しばらく下を向いて考えた志季は予定を話す事に覚悟を決めた。


 「君はもう長くは生きられない。それは変えられない事なんだ。だけど……」

ここまで言って志季は口をつぐんで真っ直ぐサリーの目を見つめた。


 「だけど?」


怪訝な表情を浮かべながらサリーは聞き返した。
その顔には“自分が死ぬ事への恐怖”はなかった。

志季はその表情から彼女は何でもやる気という事に気づき、その後を続けた。

 「“君達”は生きられるかもしれない。純粋種の遺伝子があれば君達は正式なつがいが出来る訳なんだ。でも、それには時間が足りない。純粋種を確保するよりも先に君達は全滅してしまうかもしれないんだ。」

 「……何が言いたいの?」


 「……子孫を残して欲しい。例え残り少ない寿命が尽きようとも。それ以外現状を悪くさせない方法はないんだ。」


 「あたしに死ねと?」


 「無駄死にじゃなくなる。」


いつの間にか立ち上がっていたサリーは椅子に腰を下ろしてため息をついた。



長い沈黙のあとサリーは一言言った。


 「分かった。」


再試なのでお待ちを

…………
………

……

「・・と、君はこうして生まれた訳さ。」

志希は沙理奈の出生を明かし終えて喉の渇きを覚えた。
沙理奈は表情を変える事なく興味が無さそうに手元のグラスのストローを手持ち無沙汰に掻き回していた。

「・・何かあればどうぞ。」

志希の言葉に対して沙理奈の表情は能面の様にぴくりとも動かないままだ。
少しの沈黙の後に沙理奈は口を開いた。

「母が私を生んだのは、“種”の存続の時間稼ぎ?」

“聞かれたくない質問”ではない質問に安堵しながら志希は問に答えた。
嘘を吐くのは慣れたモノさ・・

「まあそういう事かな。いや、多分・・君の母親に限らず生きて、子孫を残す事事態は種の存続の“時間稼ぎ”なのかも。」

「ふーん・・じゃ、私がやるべき事は母の後を継いで純粋種を見つける。出来そうにないなら次に託す・・と言う事ね。」

沙理奈は髪を弄りながらそう自分に言い聞かせる様に呟いた。
それは少し、この種族には見られない──”迷い”に近い物が見えた気がした。

「・・喉が渇いたからドリンクを取ってくるよ。それを飲んだらここを出よう。」

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年03月18日 (水) 21:02:04   ID: _CKTMkLU

孕みたい!クソワロwwwwwwwwwwwwwwww

2 :  SS好きの774さん   2015年03月24日 (火) 20:57:16   ID: LZFISSCy

ギャグもの決定!

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