ツンデレ「ツンデレ冒険記」(52)

そこはある森の中、木漏れ日が少し差す木々の下に少女はいた。
 
 金色の柔らかい色の髪は紺色のリボンで双方に括られ、かわいい尻尾が二つゆらゆらと揺れている。
気分が良さそうに歩いてる姿は、森林浴に来た少し上の身分の可憐な少女にも見えなくもない。

 だがこの少女、ツンデレは街で容姿には似合わない依頼を受けてこの地に出向いて来ているのだ。

 その依頼とは今城下町の住民達の脅威となっている連続殺人鬼を捕まえること、殺人鬼は容姿は髪の長い
女らしく、口が開いたときに見える攻撃的な印象を見せる歯が特徴的だという。
 
 そしてこのツンデレがいる地方に憲兵に追われ逃げ込んだという事と、これだけの曖昧な情報だけが記されている
メモだけを渡され依頼を受注するに至ったわけだが

 ツンデレとしては情報が頼りなく、まずは目撃情報などを知るため聞き込みをするべく、この森を
抜けた先にある村へと足を運んでいた、というのがツンデレの現在の事情である。

 その証拠と言っては何だが軽装ながらも討伐用か、護身用か、腰に短剣よりすこし背のある剣をぶらさげていた。

ツンデレは不穏な気配を察し、剣の柄に手を掛け、構えを取った。
 
 前方に2、3人、小中大と見事に体の大きさが違う人相の悪い男組が現れたのだ。

小柄のチンピラ「おい、姉ちゃんこんなところに来ちゃ危ないぜ」

 小さい男が前に出て小さい胸を張って威張り散らした、絵に描いたような
小悪党を目の当たりにしたツンデレはもう見飽きているのかため息をついた。

中柄のチンピラ「なぁ俺たち金に困ってるんだけど、その剣譲ってくれない?」

 次に背の順とでもいうのか中柄の男が前に出る、ツンデレが腰かけている剣は
質屋に売れば多少の金になりそうなものだったので目をつけたようだ。

 大柄の男は動かずじっとツンデレのことを見下ろしていた。

ツンデレ「お金を少しあげるからどこかへ消えなさいよ」

 ツンデレは身に着けていたポーチから小さな小袋を取り出すと前に放り投げた。
地に落ちた小袋を見て小さいのはツンデレの態度が気に入らなかったのか眉に皺を寄せ

小柄のチンピラ「なめんじゃねぇ!この女剥いじまおうぜ!」

 腰のナイフを引き抜き他の二人にツンデレに攻撃すると煽るように声をかけた。ツンデレの
身に着けているものを女でも容赦なくと奪い取るつもりでいるのだろう。

 武器も身丈に合わせているのか、中くらいのはツンデレと同等の大きさの剣
大柄の男は結構な重量を感じさせる斧をそれぞれ取り出した。

 それに対応し、ツンデレも鞘から剣を引き抜く。

最初に小さいのが腰を落として、相手の胸元に打突を決めようとナイフを構える。

 そして地を蹴った、ばねをギリギリまで縮め離したかのように跳躍しツンデレの方へと飛び込む!

 その真っ直ぐな狙いはどうやら甘かったようだ、ツンデレは難なく剣で突き出されたナイフを薙ぎ払った。

 自分の頼れる武器を飛ばされて呆気にとられたのか、小さいのは目を丸くして前傾姿勢でひるむ。

 その隙を見逃さずツンデレは小さいのをボールのように蹴飛ばし、一時再起不能にすることに
成功させる事ができた。

 実は中々小さい男の打突のスピードは速く、それを牽制しようと捉えるには並の人間には難しそうだったのだが
ツンデレは持ち前の動体視力で見極め、攻撃に凌ぐことに成功できたのだ。
やはり伊達に危険な依頼受けてはいない、それなりの腕を持っている。

中柄のチンピラ「うおぉぉぉ!!」

 今度は大中と二人掛かりでツンデレに攻めかかる!中くらいのはこれも中々の
速さで、勢いよく剣を振り下ろした。

 だがそれは音だけが威張り、肝心の獲物は捕らえていなかったようだ。
ツンデレは横に身を寄せて、数センチという距離を残しその攻撃を交わしていた。

 それでも油断は禁物、大きいのは体を捻らせ斧を薙ぐ準備をしている。
くらっては一溜りもないと判断し、ツンデレは曲芸のように剣を回して見せ、大きいのの上腕にそれを突き立てた。

 そして勢いよく引き抜く!!痛みに大声を上げ、斧を手落とした大きいのを他所に
あまりにも忙しいが、追撃を繰り出そうとしている中くらいのに目標を換える。

追撃は縦横無尽に繰り出される、小物に見える外見とは裏腹に
剣の腕はツンデレの引けを取らない。剣戟が激しいせいか尻尾が慌ただしく踊る!

 甲高い音が鳴り響き続け、中くらいのは勝負を決めようと大きく剣を振り上げるが、
それがいけなかった、決め手になるはずだった攻撃はまた交わされた

 慌てて守りの体勢に入ろうと剣を前に出し固く握りしめる。
ツンデレは戦意をなくさせようと体をコマのように回し遠心力を一つの
回転で十分につけ、剣を薙いで相手の剣を払った!

 一際高い音が鳴り響き、剣は宙を回り、地面に刺さる!完全に勝ち目が
なくなった男たちは情けない表情をそれぞれに浮かべる。

 こんな華奢で温室育ちそうな少女に負けるなど、女より基本的に力が強い男である
自分たちが負け、悔しくやるせない気持ちなのであろう、世の中人は見た目に
よらないことばかりであるということを思い知らされる。

中柄のチンピラ「殺すのか」

 もう抵抗の色もなく、俯く男たちの前に袋が置かれた。

ツンデレ「それで治療したら?」

 中は治療の道具のようで、仄かに消毒液の匂いが漂った。

 ツンデレは普段は素直な態度は見せず、しばしば相手に攻撃的な
態度を取ったりする性格なのだが、本質は仏顔負けのお人好しなのである。

 今回の依頼を受ける際にも若干のいざこざはあったものの、最後には
しょうがないわねと言ってちゃんと受けたのである。
 受注の理由もこの性格が一枚噛んでいた。

中柄のチンピラ「なんでそんなことするんだ」

ツンデレ「別にあんた達を助けたいわけじゃないわよ」

ツンデレ「ただ人を傷つけて終わるのは性に合わないだけなんだからね!!」

 照れくさくなったのか顔を赤らめ、それを見られたくないのかツンデレはそう言うと、村の方へと走り去っていった。

中柄のチンピラ「なんだよあいつ...」

ちょっとしたトラブルも過ぎ、順調に進んでいると森の出口が見えてきた。

 ようやく森を抜け、そこは村ーーーーのはずだったが

 実際は村などとは呼べた代物ではなく、多くの家屋は焼け焦げ
とても移住などはできないというものがほとんどであった。

ツンデレ「なにこれ...」

 ツンデレは、異様な光景に動揺する。ツンデレの記憶ではこの村は
少し小さく質素ではあったが、ほどよく賑わい、治安も良い平和な村だったのだ。

 無残に焼け焦げ落ちた木材を避けながら、どんどん村の奥へと歩を進めるが
一向に人らしき者は見つからない。

ツンデレ「ちょっとー、誰かいないのーー!!」

 呼びかけても返事は帰ってこず、ますます無人の色を強くするだけだった。
しかし、遠くに子供らしき人が目に入った。

ツンデレ「ちょっと」

 ツンデレは駆け寄って声をかけるが、膝に顔を埋めて鳴き声一つ出さず死んだように動かない。

ツンデレ「ねぇ、聞いてるの!?」

 子供の肩に手をかけたその時だった!!

男の子「うわーーーーー!!!」

 いきなり立ち上がったのに驚いてツンデレは思わず尻餅をついた。
驚いたのはそれだけが理由ではない、まるで子供らしい表情はしておらず
何かに苦しめられているような様子で頭を抱え足元もおぼつかないようだった。

ツンデレ「ちょっと!いきなり驚かせないでよ!!」

 その声でなのか定かではないが、糸が切れたように男の子は倒れこんだ。

ツンデレ「ちょっと、しっかりしなさいよ!ねぇ!!」

一体村で何が起こったのか、もしかするとこの悲惨な光景を作り出したのは
例の殺人鬼かもしれない。
 
 でもツンデレが追っている殺人鬼は刃物を使って人を無作為に殺し、
殺されてそのままにされた死体は数多く見られてきた、がしかし

 今回は殺人鬼の仕業と仮定しても不可解な点が数多くある、死体らしきものがまったく
見当たらないのだ。従来の犯行と手口を変え、死体を焼き払ったなどとは考えにくい。

 一連の後、ツンデレは少し村を見回ったが、農具や食器などが見つかるだけで
人のようなものはやはり見つからなかった。

ツンデレ「一体どういうことなのよ...」

 ツンデレは、ほっとけないのもあるが何か事情を知ってるのではないかと思い
ここから近い町の宿屋へと男の子をひとまず連れていくことにした。

暫く歩いて、男の子を背負ってツンデレは町へ来た。

 さっきの雰囲気とは打って変わり、比べてこっちは人の密度もそれなりに濃く
行商人がカーペットを敷いて陽気に客を引き寄せたり、大道芸をやっている半裸の男を
おそらく町人であろう者たちが囲っていたりと、活気が感じられる。

 ツンデレはとりあえず最初に目についた宿屋に入ろうとドアノブを回す。
入ってみると観葉植物が客を出迎える、中は落ち着いた雰囲気だった。

 受付へ向かうと若い女が新聞を広げていた、彼女は客に気付いたようで
横目でツンデレを見るとまた字に視線を戻す。

女「二人ね」

 適当な接客態度ではあったが、事が早く済んだようで、言い渡された部屋に
ツンデレは向かった。それから背負っていた男の子をベッドへ寝かせ
凝った肩を鳴らす。

ツンデレ「よく眠ってるわね」

 まだ男の子は起きそうもなかったので、部屋に残して
外の方で聞き込みをしようと簡単な持ち物を持って出かけたのだが

 ツンデレは思わず顔をしかめた、会いたくない人物がいたからだ。

クーデレ「...」

 どうやら女のようで黒い髪は後ろで括られ、やや重装で腰には双剣、凛々しい瞳
と第一印象はIt`s so cool!とでも言いたくなる容姿である。

 彼女の名前はクーデレ、王家直属の騎士で国からも腕を見込まれてるツンデレとは
一緒に仕事もしたこともあり、一言で表すと元同僚というわけだ。

 さらに彼女の腕は、ツンデレと比肩しても差がないくらいの実力である。
 
 ぶらさげた双剣は、攻撃に転じれば飢えた肉食獣の牙に例えられるほどに
容赦ない連撃を放ち、防御に転じれば打ち込みようもない鉄壁の盾にも変わる。
 
 ツンデレも手を合わせた事があるが、できれば敵に回したくない相手だと
思わせられたらしい。

ツンデレ「なんであんたこんな所にいるのよ」

 ぶっきらぼうに言い放つと、クーデレは歩む足をピタリと止めた。

クーデレ「...あなたと同じ目的」

 小さくそう言うと、ツンデレは八重歯を見せて鼻を鳴らす。

ツンデレ「別に、あんたが出てくるまでもないんじゃないの?」

クーデレ「あの害虫は暴れすぎた、徹底的に黙らせる」

ツンデレ「ふーん、まぁせいぜい頑張りなさいよ根暗女」

ツンデレのからかいを気にせず、クーデレはさっさと横を通り抜ける。

 必要以上の事はしゃべらず、話を振られなければ永遠としゃべり続けないような
女、それがクーデレ。

 無視されたのが少し気に障ったのか表情をこわばらせながら、去っていく背中を
見つめるツンデレ...すると急にクーデレの足が止まる。

クーデレ「あ、あんまり無茶したらダメだからな」

 女の本音は背中で語る!それがクーデレ美学!普段は冷たい態度を取っているが
それは仮の姿、実は人一倍の人情がクーデレにはあるのだ!!

 人のいないところで捨て猫は拾う!泣いてる子供は見過ごせない!困っている人がいれば
無愛想に接しながらも必ず助ける!ツンデレに続くお人好しである!

ツンデレ「別に、あんたなんかに心配してほしくないわよ!」

 二人とも表面上いがみあってると第三者から見られがちだが、絶妙な相性が
功を奏してるのか仲は悪くない。

微笑ましい掛け合いの後別れ、ツンデレは聞き込みを再開し、一通り
し終えて宿屋へ帰ろうとした。

 殺人鬼を見たという情報はあったにはあったのだが、ここ最近の目撃情報はないのだという。
もしかするともうこの辺りから逃げているのかもしれない。今日はこの村の宿屋で泊まって
明日出て他の場所でも聞き込みをしようと、ツンデレは当てもなく思う。

 やがて宿屋に着きドアを開けたのだが、中は穏やかではなかった。

 絨毯の上に散らばったガラス片、奥を見ると、背負ってきた男の子が
大の字に倒れているではないか。

ツンデレ「な、何があったの!?」

 慌てて男の子に駆け寄る、固く握られた拳は切り傷ができており、そこから
流れ出した血によって赤く染まっている。

男「あんたこの子の知り合いか?」

男「こいついきなり姿見を殴ったのさ」

 男の言う通り姿見は綺麗な蜂の巣を作るように割れており、男の子が
殴ったのだとはっきりとわかった。

ツンデレ「と、とりあえず治療しないと...」

ツンデレ「あんた、早く救急箱持ってきて!!」

男「え、俺?」

ツンデレ「あんたしかいないでしょうが!早く!!」

男の証言だとこうである。

 まず部屋から出てきたようで階段をゆったりと降りて来て、客が
くつろげる間に行ったところ、女のような叫び声をあげて姿見を見るや
否やいきなりそれを殴ったのだという。

 はっきり言って異常である、精神が正常であればそんな行動は絶対にしない。
もしかして殺人鬼に襲われ、そしてその精神的ショックのせいか鏡に殺人鬼の姿が見えて
殴ったということなのかとツンデレは考えたが、いくら考えても答えなど本人しか知らないので
考えるのをやめた。

 治療を終えて包帯を巻き終わるとベッドに寝かせて、ツンデレは4本足の木椅子に腰を下ろして男の子の顔を
見つめる。初めて会ったときの印象とは違く、ちゃんと子供らしい寝顔をしているので
ツンデレはどこかホッとした面持ちだった。

男の子「ん...」

 やがて男の子は目を醒まし、ゆっくりと身を起こす。

ツンデレ「気が付いたのね」

男の子「誰」

 どうやら記憶はないらしく、ツンデレの顔はわからないようだった。
精神的に参って防衛機制が働いているのだろうか?

ツンデレ「初めまして、私ツンデレっていうわ」

 普段の性格は抑え、あまり刺激を与えないようというツンデレの心がけが
窺える。男の子は、何も反応せずに自分の包帯の巻かれた手に目を向ける。

男の子「これは」

ツンデレ「あんた、鏡を殴ってケガしたの、覚えていない?」

男「」

 また無反応である。ツンデレは、やはり村での光景と何か関係があって
ショックを受けて記憶を一時的に失くしてる、のだとして回復するまでできるだけ丁重に扱おう
と思う、無理に自分の得たい情報を追及して記憶がぶり返しでもして
暴れられたら溜まったものではないからだ。

ツンデレ「何か、食べたいものはない?」

 男の子はこっちの方を向き直る、だが返事をすることなくずーっと
ツンデレの目を見ている。

 かれこれ3分は経っただろうか、注文を聞いてからというものの何もせず、
何も言わず、男の子のツンデレに対する視線は一向に剥がれない、瞬きすることなく、ずっと、ずっと

>>222行目男の子

ツンデレ「適当に買ってくるわ」

 ツンデレは気味が悪くなり席を立った、というのも男の子の瞳を見ていると
何か見知らぬ人のようなものが見えた気がしたのだ。

 瞳の奥に見えた幻覚は曖昧で、見えたという人のものが殺人鬼と同じ
姿のようにも思え、しかし他の人物のようにも思え...

そう思うとますます不可解になり、疲れているのもあるし一種の催眠にでもかかったの
だろうと考え、ツンデレは思い過ごす事にして宿屋を出た。

ツンデレ「はい、料理できたわよ」

 食材を買ってきたツンデレは、部屋にある簡易なキッチンを使ってオムライスを作った。
ぱっと見ると卵はきれいにライスを巻けているようで金色の輝きすら見えるようだ、
食欲をそそる出来だと評価できる。

ツンデレ「.........」

 そして今度は男の子の目の前でケチャップを取り出したかと思うと黙々と
弘法よろしく熱心に何かを慎重に書いているようだ。そしてそれははっきりと
浮かび上がった。

ツンデレ「猫ちゃん完成ーーー!!」

 ...絵の完成に拍手喝采などもなく、部屋に沈黙が訪れた。
 男の子は無反応で、ツンデレの事を変わらぬ視線で見ている。

ツンデレ「珍獣を見るような目をしてるんじゃないわよ!」

 思わず自爆をしてしまったのだろうが、プイッという可愛い擬音が出そうな様子で
そっぽを向く。

 それに対して、男の子はかすかだが、微笑んだように見えた。

ツンデレ「...食べなさいよ、せっかく作ったんだから」

 男の子はスプーンに手を伸ばし、オムライスをすくって口元へ持ってくる。

男の子「おいしい」

ツンデレ「べ、別にあんたのために作ったんじゃないから!私の料理の腕が上がるための
     布石でしかないんだから!」

もはや本能というべきか、ツンデレは自分で作った料理の本来の存在意義を
否定して自分の照れを隠そうとする。 
 
 というか子供にまでツンデレを発動する必要はあるのだろうか、そこは彼女の
ポリシーなのだろう。

 それから淡々と食べ続け、男の子は完食する。

男の子「...」

ツンデレ「気分転換に外にでも出てみる?」

 なんやかんやで、機嫌がよくなったツンデレはリハビリも兼ねてとの事なのか
提案をして、あいかわらず無反応な男の子の意思もわからないが特に抵抗もなかったので
連れ出すことにした。

特に目的もなく、ツンデレ達はぶらぶらと歩いた。

 時には、地方の名物の物を食べたり、芸を見たり、
ちょっとしたゲームをしたりもした。

 男の子は、口数こそ少なかったが、ツンデレと遊ぶのが嫌というようには
見えなかった、順調に打ち解けてきているとも見える。

 娯楽などに興じた後、ベンチに腰かけようと座ったところ、
間が悪かったようで、何やら若いカップルが、自分たちの世界を
展開している最中だった。

ツンデレ「あ...」

 それを見たツンデレは、場違いなような気がし、いてもたってもいられない
と思っていた、が。
 それも束の間だったようで、カップル達は笑いながら再会を約束し、
後に別れた。

ツンデレ「あんなの見せられちゃたまんないわよ、あームズ痒い」

 そんなことを言いながらツンデレは男の子に目を向ける、彼は何故か
去っていくカップルの片割れをずっと見ていたようだった。

男の子「仲間と、いるときって楽しいよね」

 無口な少年には、少々意外な言葉だったのかツンデレは不思議そうな顔をする。

ツンデレ「まぁ...」

男の子「けど、別れた後は寂しい」

男の子「だって、それが最後の別れになるのかもしれないから」

ツンデレ「......もしかして」

男の子「村の友達は、昔盗賊に殺された、そして会えなくなった」

 まだ、村の方の話は切り出そうとしていなかったツンデレにとって
は面を喰らった気分だった。

ツンデレ「それって、今噂になってる殺人鬼?」

 男の子は首を横に振る、どうやら名も知れぬゴロツキの仕業なのだという。

男の子「でも、殺人鬼は、村に来た」

ツンデレ「奴は、何かしたの?」

男の子「......」

その時だった、男の子が気味の悪い表情を浮かべたのは。

男の子「それを聞いて、どうしたいんだい小娘」

 ツンデレはゾッとした、村で初めて見たときも変な印象を
受けたが、これはまた違うのだ。まるで快楽殺人を好む、
悪魔のような貫禄さえ感じる。

男の子「......」

 ツンデレは驚愕した、邪悪な雰囲気に圧倒されたのか無意識に
男の子の首元に剣を突きつけていたのだ。

男の子「ほう」

いくら恐れをなしたからとはいえ、子供に剣を突きつける
などあってはならない事だ、ツンデレはそう思うが、手が
思うように動かない。

 さらに最悪の事態が起きた、その現場を見られてしまったのだ。

中年「あ...ああ」

 40代半ばと思われる歳の男は、この状況を見て口を大きく開け
言葉にならない声を出している。

 誤解をされたと思ったツンデレは弁解を試みようと思った、
だがツンデレはまた驚く事になった。

中年「は、早くそいつの首を刎ねてくれ!!」

ツンデレ「あんた、何言って...」

男の子「あぁ、まだいたのか」

男の子「お前も、こっちに来い、楽しいぞ」

 ツンデレは思う、この男の子の言っていることが理解できない。
自分が剣を突きつけられているというのに怖がりもせず楽しいなど
、普通の子供ならばありえない。

中年「い、いやだーーーー、死にたくない!!死にたくない!!」

 中年は泣きっ面を浮かべて、その場から逃げるように走り去った。

ツンデレ「一体何なの......」

男の子「お、お姉ちゃん!!」

ツンデレ「わっ!?」

 また雰囲気が変わった、さっきとは違い無垢で純粋そうな
様子だ、だが起きた時の少年とは何か違う。

男の子「助けて!助けて!!助けて!」

男の子「助け...」

 さっきの肝っ玉はどこへ行ったのか、恐怖に怯え切った様子で
ツンデレにしがみつく、これにはツンデレも深く混乱した。

 しかし、救済を求める言葉は小さくなってゆき、その場で男の子は倒れた。

一連の流れの後、ツンデレは男の子を宿屋へ連れ、休ませることにした。

 そして、男の子の顔を見て、ツンデレはこんがらがった頭を整理しようとした。

 

 まず、男の子の変貌。いきなり人格が変わったのは、私の質問がトラウマを
引き出したからに違いないわ。村でいきなり叫んだのも、鏡を殴ったのも
そのトラウマが関係していて、自分の心を守ろうとして新たな
人格を作るように、『自我の分裂』が行われてしまったのだと思う。

 今回は話を聞きそびれた。でもいずれはこの子から話を聞かなかきゃいけない、何か重要な
事実を知っている気がするから。

 次に中年の男、この子をしっているような雰囲気だった。
見世物と勘違いして首を刎ねろなどと言ったという可能性は低い、
何故なら彼は泣きべそをかいていたからだ、あの焦りようは尋常じゃなかった、
この子の事を恐れていた...とも取れる。

 あの男...あいつも何か知っているんじゃ...、できれば話を聞いてみたいわね。

その日の夜の事だった、ツンデレが男の子の料理を作るため
再度食材を買いに行き帰ってきたところ、部屋がもぬけの殻だったのだ。

ツンデレ「あの子......」

 ツンデレは受付で男の子が出て行ったという話を聞き、すぐさま探しに
出ていったのだが。

 森の奥で不穏な叫び声が聞こえた、男の声だ。

 昼は、きれいで神秘的な風情さえ感じる森だが、夜になると一変
そこは別世界のようで、一寸も先も見えない闇になる。

 だがそんなことはお構いなしに、声の聞こえた方へと松明を掲げ、ツンデレは闇夜を駆ける!

ツンデレは足を止めた。

 そこには男の子がいたのだ。

ツンデレ「何やってるのあんた!!」

 男の子は肩に手をかけられても反応しない。
しかも、何故か薄汚い靴を持っているようで、それにポツンと
目を落としているだけだ。

男の子「あのおじさん、一人さびしそうだったからね」

男の子「仲間に入れてあげた」

ツンデレは、わけのわからない事を言っている男の子に嫌気がさし
背を向けている男の子を振り向かせて視線をあわした。







 その目の中には、あの中年の男が見えた。



ツンデレ「ひっ...」

 また見えた瞳の人物にツンデレは怪訝そうな顔をした。
見えた中年の男は、まるで死ぬ前の顔みたいに歪んで...

 誰かの叫ぶ声がする、帰りたいと。

 誰かの泣く声がする、助けてと。

 誰かの細い声がする、もう誰とも離れたくはない

男の子「寂しいのは、嫌だよね」

男の子「さぁ、おいでよ」

ツンデレ「ん......」

 ツンデレが目を醒ましたのは、朝のようだった。

森の中のようで、ツンデレは木の根元を枕にして寝ていたことに気付く。

ツンデレ「気を...失ったのかしら」

ツンデレ「そういえば、あの子は......」

 そう言って起き上がると、ツンデレは男の子を呼ぶ、が返事はない。

ツンデレ「宿屋に戻ったのかしら......」

 男の子を探しながら、ツンデレは宿屋へ戻ろうとする。

殺人鬼「あら」

ツンデレ「!!」

 黒い髪、攻撃的な歯、持っている血に染まったナイフ......
その容姿の人物の足元には、首を斬られた人が倒れていた。

ツンデレ「あなた、殺人鬼?」

殺人鬼「ええそうよ、久しぶり、また会ったわね」

 ツンデレは、首を傾げた。
 実はツンデレは、この女とは初めて顔を合わせるのである。
なのにどうしてか馴れ馴れしい。

殺人鬼「あら...」

 ツンデレは剣をゆっくりと引き抜き、殺人鬼へと向ける。

殺人鬼「面白いじゃない...、その好戦的な目」

殺人鬼「来なさいよ、相手してあげるから」

ツンデレ「言葉はいらないようね、助かるわ」

 ツンデレは、踏み込んで殺人鬼の懐へと飛び込んだ!

ツンデレ「やぁっ!!」

殺人鬼は避ける事無く、自分の獲物で剣を受ける。

 だが、ツンデレの攻撃は終わることはない、さらにナイフでは受けの難しい
突きを幾度となく放つ!だが殺人鬼は、指揮棒を振るごとく、攻撃をナイフで捌く!

 斬撃が交わりあい、その激しさを象徴するように火花が散る!

 間合いの違いもあってか、実力はほぼ同等と見れるのだが少し
ツンデレのほうが優勢のようだ。

殺人鬼「くっ...」

 押されに押されて殺人鬼はついに片手を刎ねられ

ツンデレ「とどめよ!!」

 ツンデレは、相手の胸元へ、自分の剣を突き刺した!!

殺人鬼「やるじゃない......」

 刺した剣を引き抜くと、殺人鬼は口から血を吹く。

殺人鬼「」

 そしてやがて息の根が止まり、崩れ落ちた。

ツンデレ「これで、仕事は終わったわね...」

 脈を確認して、死んだことを確認すると
ツンデレは、殺人鬼の亡骸を背負って町へ足を向けた。

ツンデレ「これで、私の仕事も終わりね」

彼女はどれだけ歩いただろうか、森を歩いても歩いても外へ抜けれない。

 そして、何故かさっきから人がちらついて見える。

 木の下で意気消沈したようにうなだれる老人。

 さらには、泣く赤子を宥める母親。

 何か、不自然な光景である。

 終いには、ツンデレを見て、うんざりしたような顔をする男達...

 ツンデレは、道に迷ってしまったのだろうか。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 クーデレは、ある噂を聞いた。

 ある村が、燃やされ、火事になったと。

 そして、そこでは人喰いが村人を全員喰ったのだと。

 クーデレが殺人鬼を追って5年、目撃情報はそれから全く無く
どこかへ逃げ切ったか、死んだのではないかと思われ
捜索も、いい加減なものへと変化していっている。

 今でもクーデレは、捜索を続けているが未だに見つからない。
だからと言っては何だが兼業として村の噂である人喰いを追っているようだ。

クーデレは、街を歩いていると、行方不明者の張り紙を見る。

 そこにはツンデレの顔が映っていた。

クーデレ「お前はどこへ行ってしまったのだ」

 クーデレは、ツンデレと町で会い、言葉を交わしたきり
会っていない。
 やる仕事が違えど、年に一度は顔を合わせていたのにもう
5年もクーデレはツンデレに会っていなかった。

 クーデレは、少し寂しそうに肩を落とす。

 そんな様子でいると、クーデレの前にある少年が立ち止った。

「お姉ちゃん、友達が、寂しそうにしているよ」


「こっちにおいでよ」


「寂しいのは、嫌だもんね」






「クーデレ、助けて!!!」

終わりです、読んでくださった方ありがとうございました。

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