撫子「こころちゃんのおまじない?」 (44)

撫子「どのコップにしようかな……」

撫子「……これでいいか」とくとく


日曜の昼。

今日は大室家にお客さんが来ている。妹の花子の友だち……未来ちゃん、こころちゃん、そして最近よく遊びに来るようになったみさきちゃんの三人だ。

特にやることもないため、私はお客さんをもてなす用のお菓子を皿に用意している。

プッキーやドーナツの乗ったそれと、4つのグラスとオレンジジュース。大室家ではこれが定番だ。

両手が塞がっているので、部屋の外から妹を呼ぶ。


撫子「花子ー? あけてー」

花子「あっ、撫子おねえちゃん」ガチャ


未来「おじゃましてまーす!」

こころ「やっほー」ふりふり

撫子「やっほー……ほら、お菓子持ってきたよ」

花子「わぁ、ありがとう」

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みさき「いっぱいあるわね」

未来「さっすが撫子おねーちゃん! 全部美味しそう!」

撫子「これ、このドーナツが特に美味しいよ。私の友達が教えてくれたお店のやつなんだ。仲良く分けて食べてね」

みさき「ほぇ~……///」

未来「さっそく食べちゃお! ……んーおいしー♪」

撫子「ふふ……よかった」


このお店を教えてくれたのは私の友人の藍だ。藍は新しいお店を開拓するのが好きで、雑誌などで良いお店を見つけてはよく私に教えてくれる。そのセンスも折り紙つきで、私も含めて藍の影響を受けている子は多い。

明日、「小学生たちにも評判良かったよ」と言っておこう。


撫子「ん……?」


ふと、テーブルの上にある不思議な道具たちに目が移る。

小さなクマのマスコットや、数個のビー玉、髪留めのゴム、色鉛筆などが……一応規則性に則っているのだろうか? 不思議な形を描くように置いてある。


撫子「これ……なに?」きょとん

こころ「これはね、今ちょうどおまじないをしてたんだよー」

みさき「こころのオリジナルなのよ」

撫子「おまじない……?」


こころちゃんというこの子は、初めて会った時からずっと思っているが不思議な子だ。マイペースというか……何かちょっと変わったところがある。花子は「こころがいると絶対退屈しないし」とよく言っているが、なんとなくわかる。年の離れた私でさえ、この子には何か惹かれるものがある。

未来「そうだ! 撫子おねーちゃんも何かおまじないしてもらえば?」

撫子「えっ?」

こころ「いいよ~。じゃあここに座って?」


小学生たちに勧められるがままに、こころの前に座らされる。別に忙しいわけでもないので付き合うことにした。なんだか気恥ずかしいが、断る理由もない。


撫子「これはどういう効果があるの? 何か事前に決められるの?」

みさき「何がかかるかはやってみないとわからないわ。こころ次第なの」

撫子「あ、そうなんだ……」


花子「でもちゃんと効果は出るんだし。バカにできないよ?」

撫子「ほんとに? じゃあ楽しみだね」


こころ「いくよー。じゃあまず大室撫子さんのお名前を教えてください」

撫子「今言った! 自分で大室撫子って言ってたよ!」

ここら「あ、そっか……お、お、む、ろ、な、で、し、こ……」とんとんとん


いくつもある髪ゴムの中に、クマのマスコットを移動させていく。彼女なりの法則性があるのだろうか、いつになくこころが真剣に見えた。

こころ「次に、お誕生日を教えてください」

撫子「1月、21日です」

みさき「えっ、ついこの前じゃない!」

未来「わーおめでとーー!!」

こころ「おめでと~」ぱちぱち

撫子「あ、ありがとう……///」

未来「何かあげられるものあるかな……あ、じゃあこのドーナツ食べていいよ!」

撫子「いやいや、これは昨日私がみんなのために買ってきたやつだから。これはみんなが食べてよ」

みさき「もっとあらかじめ言ってもらえれば、用意できたのに……」

こころ「ほんとだよねー」

撫子「ご、ごめん……」


花子「ちょっとちょっと、話題がずれてるし。今は占いの最中でしょ?」

こころ「あ、そうだった。えーと、1月21だから……」とんとんとん


ナイス花子。一度興味が移ったらなかなか元のレールに戻らない小学生たちを一声で動かした。

こころはまた真剣な目で、今度はビー玉をいろいろと並べはじめた。私の知りうる限りこんなおまじないは見たことないが、本格的な雰囲気はしっかりと出ている。

未来もみさきも、その元気そうな目を輝かせながら目の前を動く不思議なアイテムたちを見ていた。


こころ「はい、では最後に、ここにある四つの色鉛筆から好きな色を選んでください」

未来「ここ大事だよ! 結果のわかれめ!」

撫子「そうなの? ……んじゃあ、このオレンジ色にしようかな」

みさき「オレンジ……良いセンスね」

花子「さすが撫子おねえちゃんだし」

撫子「ここのセンスが結果に影響するの……?」

こころ「はい、ではオレンジでいきます。真ん中に立てて……と」


こころ「ん、こほん…………めがみよ、そのちからをいまこそ、わがみにやどせ……」ごごご

撫子(なんだそれ……)


こころ「むむむむ…………はぁっ!!」ばっ

ぱたん


未来「倒れた!」

みさき「結果が出たわ!」

撫子「え、何したの今!?///」


不思議な言葉を唱えたこころが両手をばっと上にあげると、直立していた色鉛筆が倒れた。どうやって倒れたのかまったくわからないが……これで結果が出たらしい。

花子「こころ、何がかかったんだし?」

こころ「これは……ふむふむ」



こころ「撫子おねえちゃんには、今から人生でもそうそうないくらいのモテ期に突入するまじないをかけました!」びしっ



撫子「も、モテ期……?///」


未来「わーよかったじゃーん! モテ期だってよ!」ぶんぶん

撫子「嬉しい結果……なのかな。とりあえずマイナスなおまじないがかかるよりは良かったかな」

こころ「どうぞまじないを活かして、今後をお過ごしください」しずしず

撫子「あ、はい。ありがとうございます……」


こころにつられてお辞儀をする。最近の小学生の遊びはこんなことになっているのかと軽く驚いたが……まあ子供らしくていいなとも思った。

そこに、


ぶーっ ぶーっ ぶーっ

撫子「あっ、電話来ちゃった。ごめんみんな、ちょっと出てくるね」

花子「わかったし」

未来「モテ期だからさっそく電話来ちゃったんじゃない!? きっとデートの誘いだよ!」

みさき「ええっ!? デート!?///」

撫子「はははは……じゃあね」ぱたん


はしゃぐ声を背に、私は外へ出て自分の部屋へと向かう。携帯が映す着信表示には、 “三輪 藍” と出ていた。


撫子(藍だ……どうしたんだろ)


撫子「もしもし?」

藍『あ、撫子?』

撫子「どうしたの? 何かあった?」

藍『あ、いや……用は無かったの。ちょっと間違えちゃって』

撫子「間違い……?」


藍『ほら私、携帯をスマートフォンに買い替えたでしょ? まだそこまで操作に慣れてなくて……電話帳をワンタッチしたら、いきなり発信中になっちゃったの。びっくりしちゃった』

撫子「ああ、そういうこと。確かにワンタッチで電話かかっちゃうから、私も気づかないうちに誰かにかけちゃってたことあるよ」

藍『でしょ? すぐに切っても着歴に残っちゃうし、どうせなら繋がるかなあと思ってかけちゃったの。ごめんね』

撫子「いや、全然いいよ。ちょうど藍に話したいことあったんだ……藍が教えてくれた美味しいドーナツ屋さんあるでしょ? 私昨日行ってきてさ……」


学校で言おうかなと思ったが、ちょうど電話が来たならせっかくだし言っておこう。

ちょうど話したいときに偶然向こうも電話をかけてきてくれるのって……確か、シンクロニシティって言うんだっけな。

撫子「……うん、評判よかったよ。ありがとね」

藍『そう、よかったわ♪ あの、撫子……』


藍『今度、また別の新しいお店に案内しましょうか?』

撫子「え?」

藍『いやあのね、ちょうど最近また良さそうなお店を見つけたのよ。まだ誰にも言ってないから、他の人の意見はわからないんだけど……私は結構良いなと思ったの』

藍『撫子も良いって言ってくれたら、自信持って他の人にも勧められるし……どうかな? って』

撫子「それって……デートってこと?」


「えっ! デート!?///」

撫子「うわっ!!」びくっ


未来「今デートって言った! ほんとにデートのお誘いだったんだー!」

撫子「ちょっ、未来ちゃん! いつの間に……!」


藍『撫子?』

撫子「あっ、ああごめん。花子の友達が聞いてたみたい……」

藍『うふっ、まあデートってことになるかもしれないけど……そんなに身構えなくてもいいのよ? 予定が合えばでいいんだけど……どう?』

撫子「うん、大丈夫だよ。いけると思う」

藍「ほんと? じゃあまた詳しいことは学校で話しましょ。撫子今忙しいみたいだし、それじゃあね」

撫子「い、忙しいことは無いけど……まあ、学校で話そうか。じゃあね、バイバイ」



撫子「…………」ぴっ

未来「どうだった? 本当にデートのお誘い来たんでしょ!?///」

撫子「ま、まあ……デートまではいかない、かもしれないけど……一緒にお茶しようって電話だったよ」

未来「ほらーやっぱり! 占い当たってるじゃん!」

撫子(本当に当たってるんですけど……)

花子「あっ、未来! こんなところで何してるし! 撫子お姉ちゃんの邪魔しちゃダメ!」ガチャ

未来「えーだって気になっちゃったんだもん。しかも本当にデートのお誘いだったんだってよ? こころの占いまた当たったー!」

花子「そうなの?」

撫子「ま、まあね……藍とお茶しに行くだけだけどさ。ほら未来ちゃん、花子のお部屋にもどろっか」

未来「撫子お姉ちゃんもってもて~♪」

花子「からかっちゃダメだし……ごめんねお姉ちゃん」

撫子「いいよいいよ。それじゃ、なんかあったら呼んでね」


ぱたん


撫子(本当に……かかってるのかな)


確かこころは、人生でもそうないくらいのモテ期が来ると言っていた。

……それってつまり、どういうことなの?


撫子(藍の誘いが来たのなんて、たまたまでしょ?)


別にいつもと変わらない日常しかそこにはないだろうに、

私の心は何故かドキドキしていた。




ぴんぽーん

撫子(ん? お客さんだ)


バランスボールをフットチェア代わりに本を読んでいると、チャイムが鳴った。


撫子「はーい?」

『あっ、撫子さんですか? 私です』

撫子「おお、ひま子じゃん。待ってて、今開けるね」



撫子「どしたの?」ガチャ

向日葵「撫子さん……見てくださいよこれ」

櫻子「…………zzz」


玄関のドアを開けると、困り顔の向日葵が櫻子を抱っこして立っていた。

当の櫻子は完全に爆睡している。


撫子「何やってんのこの子……」

向日葵「お昼ご飯食べさせろーっていうから作ってたのに、いざ出来上がったらすっかり寝ちゃってて起きないんですわ」

撫子「あーそういえば、確か昨日夜更かししてたみたい。夜中の2時くらいまで部屋から笑い声聞こえてきてたもん」

向日葵「まったく困りますわ。こんな時間に寝ちゃって、もし今日も夜更かししてたら明日の学校に響いちゃいますのに」

撫子「ごめんごめん、この子は預かるよ。迷惑かけたね」

向日葵「いえ、まあいいんですけど……///」

向日葵から櫻子を受け取る。抱っこをしたのは久しぶりで、やっぱり以前よりも重くなっているところに、少しだけ成長の愛しさを感じた。


撫子「もし起きたら謝らせに行かせようか?」

向日葵「いえ、そこまでしなくても……明日遅刻しないようにとだけ、お願いします」

撫子「はいはい、了解」

櫻子「ん……」もぞっ


向日葵「あら、起きました?」

撫子「おーい櫻子ー」


櫻子「ねーちゃん……すき…………」むにゃむにゃ


ちゅっ


撫子(えっ)

向日葵「えっ」


お姫様だっこのような体勢になっていた櫻子は、私の首元に手を回して顔を引き寄せ、寝言(?)を言いながら……唇に的確にキスをしてきた。


向日葵「なっ、なぁっ…………!///」かあああっ

撫子「ちょ、何!? 櫻子寝ぼけてる!」

向日葵「撫子さん! なんなんですの今のは! 何が起こったんですの!?///」

撫子「し、知らないよ! なんか変なこと言ってたけど……たぶん寝言だよ!」

向日葵「いえいえ、はっきり聞こえましたわ! “ねーちゃん好き” って言ってましたもの! しかもその後完璧にキスしてましたわよね!?」

撫子「いや別にキスしろって頼んだわけでもないし! こら櫻子! 起きてるなら私じゃなくてひま子にキスしてあげなよ!」

向日葵「いやそういうことを言ってるんじゃないんですけど!!///」

櫻子「…………zzz」





わあわあと問い詰める向日葵をなんとか誤魔化して、私はさっさと家の中に逃げ込んだ。


撫子(ね、寝ぼけてるだけだよね……?///)


私の唇は潤っているが、さっきのは櫻子が寝ぼけていただけなのだろう。

モテ期とか、そういうのは関係ないのだろう……


撫子(か、関係ないよ……絶対……)

これ以上何か起きても困るので、早々に櫻子を部屋へと運び、ベッドに寝かせた。


撫子「これでよし、と……」ぽすん


撫子(さっきの寝言……なんだったのかな……)


櫻子「ん、ねーちゃ……」がしっ

撫子(わっ!///)


櫻子「んー……」ちゅーっ

撫子「ちょっ! 櫻子っ……///」


櫻子「……ん、……ちゅ……」

撫子(何やってんの何やってんの……!?///)ぐぐぐ


まるで起きてるんじゃないかと思えるほどに、櫻子の腕の力は強かった。

妹の熱烈なキスで腕に力が入らなくなりそうであったが、なんとかして束縛を解き、ベッドから離れる。


撫子「はーっ、はーっ……///」

櫻子「………すぅ……」


撫子(なんなの本当に……櫻子って私のことそんな風に思ってたの……!?///)


撫子(い、いや、寝ぼけてるだけだよね。そういうのじゃ……ないよね……)


この子は昔からよく寝ぼけるのだ。寝言は結構言うし、寝ぼけて私の布団に入ってくることだってしょっちゅうだし、夏は廊下で寝てたりもするし……

撫子(も、もし後で起きたら少しだけ聞いてみようかな……///)


唇をぬぐって身体をたたせ、毛布を整えて部屋を後にする。

すると、


撫子「あっ!」

「あっ……!///」


部屋を出ようとしたとき、わずかに開いていたドアの隙間から、こちらを覗いていた目を発見してしまった。

真っ赤な顔をして覗き見ていたのは、みさきだった。


みさき「ちっ、違うから! たまたまトイレに行って帰ってきたら、少しだけ見えちゃっただけで……!///」

撫子「え、どこから見てたの!?」


みさき「その……いっぱい、ちゅーしてるところから……///」

撫子(えええええええええ!?///)


撫子「いや、違うんだよ! 今のは櫻子が寝ぼけてただけでさ、いつもこんなことしてるわけじゃないからね?」

みさき「う、嘘! だってあんなに強く……もしかして花子ともちゅーしたりするの!? この家では普通のことなの!?」

撫子「しないしない!! したことない!」

花子「なにしてるしみさきち? そこは櫻子の部屋……あれ、撫子お姉ちゃん」

みさき「花子! 今お姉さんが櫻子おねえちゃんのこと……むぐっ」

撫子「な、なんでもないからねー! ちょっと私みさきちゃんにいろいろ聞きたいことがあったんだ! 花子、みさきちゃん借りてくね?」ひょいっ

花子「えっ、借りる……?」

みさき「むーっ! むーっ!///」



ぱたん


みさき「ぷはーっ! な、なにするの!?」

撫子「ごめんね、でも誤解なんだって……さっきのは本当に櫻子が寝ぼけてただけで、そんなこと普段からしないんだから」

みさき「本当に……? じゃあ花子ともまだキスしたことないのね?」

撫子「ないない」

みさき「ふーん……///」


このみさきちゃんという子は、基本的には礼儀正しくて良い子なのだが、焦ったりすると周りが見えなくなるようだ。

時に花子に対して執着を見せるときもあり、しかし普段は普通に仲良くしているらしい。

みさき「キスって、どういうものなのかな……」

撫子「えっ」


長い髪をもじもじといじりながら、上目使いで尋ねてくるみさき。


みさき「みさきはまだ子供だから、一回もしたことなくて……でもドラマとかで大人はするものだって知ったし、いつかするときがくるのかな……」

撫子「あのー……みさきちゃん?」

みさき「ひょっとしたらもうしてないのは私だけで、花子も未来もこころも、もう誰かとしてるのかも……!」

撫子「いやそれはないと思うよ……」


みさき「そんなの嫌! みさきだけ乗り遅れるなんてやだ……! お姉さん、みさきにキスの仕方を教えて!」

撫子(ええええええええええ)


これもモテ期のうちに入るのだろうか、小学生から突然の告白をうけた。

ロップイヤーのようなツインテールをぴょんぴょん跳ねさせ、私に中腰を強要してくるみさき。


みさき「だってお姉さんキスし慣れてそうなんだもん! さっきもそんな感じだったし……お願い、みさきも上手にできるようになりたいの!」

撫子「いやいやいや、私もそんなにしたことないから……! それにキスとかそういうのは、みさきちゃんが本当に好きだと思った人にするものだよ? 私なんかとしちゃダメだって……あはは」

みさき「す、好きな人……?」


みさき「…………でも、お姉さんが相手なら、私はいいんだけど……///」

撫子(なんで!?///)


恥じらいながら大胆な告白をするみさきは、花子と同じ年の子とは思えないほどに可愛く思えた。

……だがしかし、できない。10も歳の離れた純粋な女の子の初めてを自分なんかが、友達の姉なんかが奪っていいわけない。というか、この構図は危ない。

撫子「や、やっぱりだめだよみさきちゃん。初めてのキスって本当に大事なことなんだからさ、もっとちゃんとした人とじゃないと……」

みさき「お姉さんは……みさきのこと嫌いなの……?」

撫子「いや嫌いじゃないよ!……だけど、だめなんだって。いつかみさきちゃんにもわかる時が来るから、そんなに焦らなくても大丈夫だから」

みさき「こんなにお願いしてるのにぃ……ふぇぇ……」ぐすぐす

撫子(なにこの状況……)


ついに小さく泣き出してしまったみさきを前に、自分も泣きたくなる。

なんとかして宥めていると、元気よくドアが開かれて未来たちが入ってきた。


未来「あれー、なんでみさきち泣いちゃってるの?」

花子「何があったんだし……?」

撫子「いや、なんでもないんだけどさ……とりあえずみさきちゃん連れて行ってあげて? 楽しく遊べば元に戻れると思うから」

未来「いこ? みさきち、さっきの続きやろうよ」

花子「ごめんね撫子お姉ちゃん」

撫子「いや……こっちこそ、なんかごめん……」



軽く土下座のような体勢で目線を合わせて謝っていると、いつの間にか隣に来ていたこころが私に話しかけた。


こころ「どう? モテ期、来てる?」

撫子「…………」


とりあえず、女の子がたくさんいるこの家にいるのは危ないと思った。




撫子(なんなの……モテ期って)


言葉自体に馴染みはないが、少しだけ聞いたことがある。確か人間にはモテ期と呼ばれるものが、人生で三度ほど訪れるらしい。

私は今までそんなもの意識してこなかったし、まだ一回も来てないとは思ったのだが……さっきのデートの誘いや妹の熱烈なキスなどはモテ期の影響になるのだろうか。

先ほどのおまじないで、こころに「人生でもそうそうないくらいのモテ期に突入する」と言われた。もしそれが本当なら、さっきのような突発的ドキドキイベントがこれからも巻き起こるのか?

さっきからすれ違う女の子たちがみんなハッとした顔で私を見ているのも、モテ期のうちに入っているのか……?


撫子(いや……気のせいだ。こころちゃんに言われて変に意識しちゃってるだけだよ……)

撫子(おまじないなんて、あるわけないんだから……)



予定なく家を出てきた私は、特に意識もせず街にやってきた。服屋とか本屋とか適当に回って、花子の友達たちが帰って落ち着いた頃に戻れればいいと。

足の向くまま、つい最近も買い物をしたばかりの洋服屋に入る。その時に結構粘って選んでいたため、もしかしたら店員さんに顔を覚えられちゃってるかもしれない。


「いらっしゃいませ」


持ち合わせのお金は少ないが、次に来る時の参考にしようと思いながらいろいろ見てみる。

すると、


「あっ、先日はどうも~」

撫子「えっ……?」


お店の服を上手に着こなす店員さんに挨拶されてしまった。

私より一・二歳上であろう人が、ぱたぱたとこちらにやってくる。

撫子「お、覚えてるんですか、私のこと……?」

「もちろん覚えてますよ~。前いらっしゃった時はちょっとお話できなかったんですけど、お姉さんに似合いそうなのいっぱいあるな~って見てたんですぅ!」


……やばそうな何かを察知した。この人の目は、先ほど大胆な告白をしたみさきと同じだ。


「初めて見たときはモデルさんが来てくれたのかと思ったんですよ~! よく来てくれるってことはこのあたりにお住まいなんですよね?」

撫子「え、あ、いや……」

「確かこの前お買い上げいただいたのってこんな感じでしたよね~、だったら今回は……あ! ためしにこんな感じとかどうですか?」ちゃっ

撫子「や、私今日は……」


お金もってなくて……お店に入ってきた客のくせにそんなこと言っていいのだろうか、でも言わないとこの後もずっと買わないのに試すことになってしまう……どうすれば……!


猛烈アプローチをかましてくる店員さんに気が引けてしまい、後ずさり気味になっていると……弱くなっている私の腰に、急に手が回された。


「な~にしてるのっ、撫子!!」ぎゅっ

撫子「うわあっ!」


小さい何かが突っ込んできた。

振り向いて確かめようとしても、絶妙に身体を逸らして私の視界から外れようとする。


こんなことをしてくる子には想像がついていたが、後ろ腰に手を回して、その正体を掴んだ。


「きゃん♪」


撫子「あっ、美穂! やっぱり……!」

美穂「あ~ばれちゃった~……奇遇ねえこんなところで」


私と大して変わらない身長のくせに、背を縮めて子犬のようにじゃれてきたのは友人の美穂だった。偶然会えたことがうれしいのか、やけにテンションが高い。


美穂が来たのはいいが、今私は目の前の店員さんをなんとかしないといけなくて……

二人のどっちに話しかけるべきかを迷っていると、店員さんの方が先に口を開いた。


「お友達ですか~?」

撫子「ええ、学校の……」


どうしたら店員さんのアプローチから自然に抜け出せるかを考えながら、適当な返事を返すと……ずいっと前に現れた美穂が私の両手を取って、店中に聞こえるような声ですごいことを言った。


美穂「彼女ですぅ♪ 私たち付き合ってて、今日デートなんですよぉ~!」

「えっ!?」

撫子「えっ!?///」


一瞬だけ、時間が凍った。

ちょっと何言ってんの! と手をほどこうとする間もなく、口早に美穂はまくしたてる。


美穂「ねえそろそろ映画いこっ? 早くしないと始まっちゃうよ~」

撫子「あ、え……?」

美穂「じゃあ店員さんすみません、私たち用事があるので失礼します~」

「あ、あの……」

美穂「ほら、行きましょ撫子」ぐいっ

撫子「わぁっ……!」たたた


一連の動作を流れるように矢継ぎ早に済ませ、私はぐんぐんと手を引かれて店から出た。



撫子「ちょっ、ちょっと! なんなの?」

美穂「ん?」

撫子「みんなすごいびっくりしてたよ! 私もうあのお店行けないじゃん!///」

美穂「何言ってるの? これからも安心して買い物ができるようにしてあげたのに」

撫子「はぁ……!?」

いつものようないたずらっぽい笑みを浮かべて、美穂はどこか得意気だった。

握った手を離さないまま、るんるんとあらぬ方向へ歩きながら話す。


美穂「付き合ってるって言ったのは作戦のうちよ。撫子を助けるためのね」

撫子「助けるって……」

美穂「あの店員さんに絡まれて困ってたんでしょ? ちょっと見ればわかるわよそのくらい」

撫子「!」


相変わらず美穂の観察力はすごかった。だいぶ前から私たちのやりとりを見てただけかもしれないが。


美穂「撫子ったら人に強く言えないタイプなんだから。ああいうのは下手に出ちゃだめよ?」

撫子「だ、だからってあそこまで言わなくても……///」

美穂「もう、そういうところも鈍いのねえ……あの店員さん、完全に撫子に気があったわよ」

撫子「へ……」

美穂「目を見ればわかるわ。だから彼女持ちってことを見せつけるのが一番って思ったの♪」

撫子「…………」


……モテ期突入のまじないがかかっているらしいため、なんとなくだがそんな気はしていたのだ。

それにしても、もっとうまい手があったんじゃないかと思う……あの時のみんなの目線が忘れられな……


撫子(あ……///)


向けられている。お店の人とまったく同じ目線が、今まさに街の人たちから向けられている。


いつの間にかしっかり腕を絡めていた美穂にそこでようやく気づき、慌てて離させる。


撫子「み、見られてるって! 今も絶賛見られてるって!///」

美穂「え~? いいじゃないみんな関係ない人たちなんだから」

撫子「そういう問題じゃ……」

美穂「助けてあげたお礼ってことでいいでしょ? 偶然会えたのも何かの縁だし、今日は一日美穂ちゃんとオープンデートね♪」

撫子「えええええ!」


一度弱みを握られると、なかなか美穂は許してくれない。

それにつけても、今の羞恥は耐えがたいものだった。いくら美穂が相手でも、たくさんの人がいる街中でこの勇気は……!


撫子「ご、ごめん美穂! 今日は私帰る!///」だっ

美穂「あっ、ええっ!?」

撫子「ほんとごめん! 明日また学校でー!」

美穂「うそー!? そんなに嫌だった!?」


美穂とそうなることが嫌なのではない。だが私の小心な気持ちは美穂にはわかってもらえないだろう。

助けてもらえたのはありがたいが……


撫子(美穂もおかしくなってるだけなんだよ……このモテ期が終われば元にもどってくれるはずなんだ……!)


行く当てもなく、私はとにかく走った。




撫子(……うわあ)


美穂の怒ったようなLINE通知がぽこぽこ届いている。

今回のことはさらなる弱みに繋がっていくことだろう。だが私に公衆の面前で恋人つなぎはきつかった……


撫子(あんなことする子じゃないんだけどなあ、美穂は……)


さっきの美穂はどこか変だった。これもモテ期の影響になるのだろうか。

確かに無理やりなところもあるし、いたずらっぽいところもあるが……人が嫌がるようなことはしない子だ。


私の性格だって知ってるはずなのに……


撫子(モテ期のせいだ……全部モテ期のせいだ)


櫻子のこともあるし、人の人格を変えてでも神様は私にそういう運びをもたらそうとしているのだろう。

屈してはいけない。時間がたてばみんなもとに戻る。


撫子(……ってか、こころちゃんのおまじない本当にかかってるのかなぁ……?)


相変わらずそこはふわふわしている。ここまでの出来事はすべて偶然と言えば偶然で片付く。

まじないなんて非科学的なものがあるとは思えない。そんなものが本当にあったとしたら、この世はもっと面白おかしい事件に見舞われているはずだ。

さて、逃げるように美穂と別れてしまったが、これからどうしよう……家に戻って、おまじないを解いてもらおうか。


とりあえず、外にいてもおかしな災難に見舞われることがわかったのだ。やっぱり家に戻ろう……そう思って踵を返すと、振り返りざまに誰かとぶつかってしまった。


「きゃっ!」どんっ


撫子「ああっ、ごめんなさい!! すみません気づかなくて……!」

「い、いえこちらこそ……」


ぶつかった人の持っていた荷物がちらばる。映画のワンシーンのように、ばらばらとリンゴが転がっていった。


撫子「わーわーわー……!」さささっ

「あらあら……!」ひょいひょい


撫子「すみません、汚れちゃいましたね……弁償します!」

「いえいいんですよ、洗えば食べられますから…………あっ!」

撫子「え?」


リンゴの人は驚いた声をあげると、被っていたニット帽を外した。

必死にリンゴを拾ったり謝ったりしていた自分は、ようやくそこでその人の正体に気づく。


撫子「な……藍!!」

藍「撫子……やっぱり撫子だったのね」

撫子「び、びっくりしたぁ……こんなところで会うなんて。ってかすごいねこのリンゴ」

藍「ああこれ、知り合いの人に貰ったの。おすそわけだって……それにしてもびっくりした。撫子っぽい後ろ姿だと思ったら、本当に撫子だった」くすくす

撫子「あはは……」


拾ったリンゴを再び紙袋につめる藍。制服じゃない藍を見るのはなんだか久しぶりな気がした。

でも、その声はついさっき電話で聞いたものだ。


撫子「……す、すごいよね私たち! さっき電話で話したばっかりなのにさ……」

藍「びっくりしたのはこっちも一緒よ。撫子さっきまで家にいたみたいだし、だから完全にそっくりさんだと思って跡を付いてたの」

撫子「急に振り返ってごめんね、後ろに人がいると思ってなかったから……大丈夫? リンゴ傷んでない?」

藍「大丈夫じゃない? 汚れは洗えばいいだけだし、それにこれアップルパイにするつもりだったの」

撫子「おお、アップルパイ……」

藍「私好きなのよね、よく作るんだ。あ、よかったら撫子、今からうちにきて一緒に作らない?」

撫子「え!?」


急な提案をしてくる藍。

今日は身を案じて誰とも接さないようにしようと思っていたところに、またもやお誘いである。

これもモテ期なのだろうか……

撫子「や、でも私これから図書館行こうと思っててさ……ほら、この前藍とも話したあの本借りようと思って!」

藍「ああ、あの本?」

撫子「そうそうそう、だから今回はちょっと……」

藍「その本ならさっき私が借りてきちゃったわ。ほら」すっ

撫子「うわっ! え!? なんで藍が持ってるの……」

藍「だってリンゴ貰う前は図書館にいたんだもの。読みたいなら撫子に貸してあげるわ」ぽん

撫子「あー……」


本を渡され、開いた方の手を藍に握られる。

そっちの手はさっきまで、美穂がずっと離さなかった手だった。


藍「じゃ、行きましょ? アップルパイごちそうするから」

撫子「…………」

藍「予定が合えばデートしてくれるって、電話でも言ったじゃない。リンゴ弁償しなくてもいいから、代わりにお付き合いしてくれる?」

撫子「い、行きます……」


藍にはたまに、恐ろしいと思わせられることがある。

今は藍の言う通りにしたほうがいい……そう判断した私は、小さくなって藍の後ろについていった。




藍「それじゃあ作りましょうか。リンゴ以外の材料もちゃんと揃ってるから」

撫子「アップルパイか……ちゃんとしたやつって、作ったことないかも」

藍「そんなに難しいもんじゃないわよ。私は生地の準備するから、撫子にはリンゴさんをカットしてもらおうかな」

撫子「皮むくの?」

藍「お願いしていい? ちゃんと剥ける?」

撫子「全部つなげたまんま剥くとかはできないと思う……変な形になっちゃうかもしれないけど、いいかな」

藍「いいわよそんなの。まるまるかぶりつくわけじゃなくて小さくカットするんだから」

撫子「それじゃ……」しゅりしゅり

藍「皮はアップルティーを作るのに使おうと思うの。これもおいしいのよ」

撫子「へえ、すごいね。普段からお菓子よく作るの?」

藍「そんなことないけど……まあ、趣味の領域ね♪」


ぱっとみただけでも、藍の家のキッチンにはお菓子作りに使いそうな道具とかがいろいろあって、専門的な感じがした。ひま子の家で見たことのあるようなものがちらほらある。

こういう方が普通の女の子なのかな……と考えながら、リンゴの皮を剥いていく。藍の前では上手なところを見せたいけど、きっとこれも藍の方が数段上手いのだろう。

藍「紅玉っていうのよ、そのリンゴ」

撫子「ふーん……いい名前だね」

藍「あんまり聞かないでしょう? 普通のリンゴよりすっぱいから、生で食べるのには向かないの。でも焼き菓子作りにはこういうリンゴの方が向いてるのよね」

撫子「…………」


エプロン姿でパイ生地の用意をしている藍は、いつもより楽しげに見えた。

垂れ下がるエプロンの紐と藍の長い髪は、同じようにしてゆらゆら揺れる。なんだかその様子が、彼女をいつもより可愛く思わせた。

この子はきっと、とてもいいお母さんになってくれると思う。


藍「撫子もエプロン可愛いわよ」

撫子「えっ?///」

藍「あはは、そのエプロンお母さんのやつだけど、意外と似合うのね」

撫子「意外かい」



☆藍ちゃんのお料理教室 ~アップルパイ編~ ☆



藍「細かめにカットしたリンゴを、砂糖やレモン果汁と一緒にお鍋で煮詰めて……」


藍「オーブン皿に広げたパイ生地の上に、全部入れちゃいます。生地には事前にバターを塗ってね」


藍「それとパイ生地はフォークとかでつついて小さい穴を開けておきましょう。空気が抜けるの」


藍「煮詰めたリンゴをいれたら、その上からもパイ生地を重ねます。帯状の生地を織り込むように重ねると、とても綺麗になるわ」


藍「そうしてリンゴを包むようにできたら、表面に卵黄を塗って焼きます。仕上がりがとても綺麗になるのよ」


藍「ポットにリンゴの皮と紅茶の葉、そしてミントの葉を1枚だけいれて、お湯を注いで……アップルティーも添えましょう。パイに入れる用の煮詰めたリンゴを残しておいて、こっちに数欠けいれてもグッドね♪」


撫子(誰に話してんだ……)




ぴーっ♪


藍「あ、できた!」

撫子「すっごいいい香りするね……!」

藍「焼き菓子の匂いって本当に素敵よねぇ……ほら、美味しそうにできたわよ」

撫子「うわぁ……///」


生地はこんがりとした焼き色に仕上がっていた。パン屋さんのクロワッサンに似ている。

バターの香りとリンゴの香りとが合わさって暖かくただよい、その幸せな香りにはついつい口が緩んでしまう。


藍「撫子も頑張ってくれたから、いっぱいおすそわけするわね。妹さんたちに持って行ってあげて?」さくさく

撫子「なんか悪いね……リンゴ弁償するはずだったのに、まさかアップルパイ貰えるとは」

藍「ふふ、友達なんだから難しいことは気にしなくていいの。撫子とお菓子作れて楽しかったわ」

撫子「私も勉強になったよ。簡単そうだし、今度家でも作ってみるね」

藍「これからも勉強したいなら来ていいのよ? というか呼んでくれればいつでも撫子の家に飛んでくし。お砂糖の分量わからなくなったくらいでも、呼びつけてくれていいから」

撫子「さ、さすがに電話で聞くよ……」

藍「ほんと、時間さえあれば私の知ってるレシピを全部撫子に伝授したいくらい……」ぼそっ

撫子「え……?」

藍「あっ、ああいや、なんでもないの」

撫子「今日は色々ありがとね。また明日」

藍「うん。新しいお店デートの方も忘れないでね? そっちも楽しみにしてるんだから」

撫子「わかってるよ。また詳しいことは学校で、ね」

藍「ええ、それじゃ」


本とパイを受け取って、三輪家を後にする。

エプロン姿の藍に見送られるのは、家に帰るというよりも、家から送り出されるような感じがした。

本当に藍は、良いお母さんになると思う。





撫子「ふう……」


夕焼けに染まりつつある道を、暖かいパイを抱いて帰る。

とりあえず、藍がいつも通り(?)でよかった。櫻子や美穂のように普段と人格が変わるほどのアプローチが来なかっただけで、だいぶ心が落ち着く。

撫子(なんかみんな、いつもより積極的だよね……)


こころのおまじないは本当にかかっていると思う。間違い電話からのデートの誘い、ねぼけた妹の事故キス、馴染みのない子からの練習キスのおねだり……

そして何よりも美穂・藍との偶然の出会いが私を確信させている。二人ともいつになくグイグイだったし……こんなこと、普通はあり得ない。


撫子(ばかばかしいけど、このままじゃ困るよ……! 早くこころちゃんに解いてもらわなきゃ)


これ以上変なことが起こっても困る。早くいつも通りの日常を返してほしい……

あとは家にもどって、こころにお願いするだけでいいのだ。それなのに、モテ期の神様はさらなるイベントを用意していた。


……もしかしたら来るんじゃないかと予想していた女の子が、曲がり角から急に現れる。



撫子「っ!」ぴくっ

「あ……」


撫子「め、めぐみ……」

めぐみ「…………」

美穂と藍に偶然会っていたため、めぐみもどこかのタイミングで来る気はしていた。今の私はもはやまじない前提で動いている。

しかし、実際そこに現れためぐみは、私の想像とは違う様子であった。


撫子「どしたの……? なんか元気ないね」

めぐみ「う、ううん……ちょっとね」


めぐみの目は少し赤かった。軽く泣いていたんじゃなかろうか。


撫子「何かあったんでしょ。話してよ」

めぐみ「…………」


たとえ今がおまじないの影響化の出来事だったとしても、

泣いている子を放っておくことは、できない。


めぐみ「ううぅ、撫子ぉ……」ぽろぽろ




近くの公園に立ち寄って、めぐみの話を聞いてあげる。


めぐみ「お皿は割っちゃうし、注文は間違えて怒られちゃうし、今日はめちゃめちゃだったの……」

撫子「…………」


その言い分を簡単にまとめると……つまりはバイトで大失敗したらしい。

やることなすこと裏目に出て、何一つうまくいかなかったのだそうだ。


私も今日一日は変な出来事の連続だが……すごい落ち込みを見せているめぐみにはさすがに同情してしまう。小さい女の子に変なおまじないをかけられてないかと聞きたいくらいだ。


撫子「あるよね、そういうの。何やってもうまくいかない日」

めぐみ「もう今のバイト先いけないよぉ……」

撫子「そ、そんなことないでしょ! 今まで普通に真面目にやってたんだから、一日のミスくらいで誰も悪く思わないって!」

めぐみ「そうかなぁ……」

撫子「落ち着いて気をつければ、悪い流れは避けられるよ。それよりも楽しくいかなきゃ」

めぐみ「楽しく……?」

撫子「そうだよ。今のお店で働くの好きなんでしょ? だったら楽しむ気持ちを忘れちゃだめだって」しゅる


アップルパイの包みをあける。悲しいときには、甘いものだ。

撫子「これ食べてよ。お菓子好きな気持ちを思い出せるかも」

めぐみ「わあ、おいしそう……///」

撫子「さっき作ったばっかりなんだよね。私一人で作ったわけじゃないけど……」


めぐみ「ん……おいしい」もぐ

撫子「ふふ、よかった」


めぐみがかじったそれを、私も一口貰ってみる。

煮詰められた紅玉の酸味はほどよく甘みを引き立て、アップルパイとはこんなにおいしいものなのかと驚いてしまった。


撫子「元気ない顔してる人のとこには、悪い気がまとわりついちゃうものだって。だからこれ食べて元気だそう?」

めぐみ「…………」


ぎゅっ


撫子「わっ……///」

めぐみ「撫子……ありがとう……」


撫子「い、いいってこのくらい」

めぐみ「私、がんばる……撫子の言ったこと忘れないようにするよ……!」

急にめぐみに抱きしめられて、私は忘れかけていたモテ期のことを思い出した。

だが、これくらいは気にしないでおこう。めぐみにはいつだって元気でいてほしいし、今なら……誰も見てないはず。


優しく抱き返してあげようとした時……座ってるベンチの後ろから、予想していなかった声がした。


「おあついねー」

撫子「うわあっ!!///」

めぐみ「?」


こころ「モテ期、ちゃんと来てるみたいだねー」

撫子「こ、こころちゃん!! どうしてここに!?」

こころ「花子様のおうちから帰る途中なの。そしたらお姉さんが見えたから」


めぐみ「な、撫子の知り合い?」

撫子「ああいや、この子は妹の友達で……さっきまで私の家にいたんだよね」


めぐみに会ったことで、こころが帰宅するまでに間に合わないと思っていたが……本日最大のラッキーとでも言おうか、件のまじない師さんが来てくれた。


撫子「ちょうどよかった、私のおまじないを解いてよ! これのせいで今日一日変なことばっかりだったんだから!」

こころ「アップルパイつくるのが変なことなの?」

撫子「そ、それも一応そんな感じの産物で……! いいこともあったけど、いつも通りの私に戻りたいんだ! 原因は君しか考えられないよ……!」

めぐみ「ど、どうしたの撫子? おまじないって……?」

こころ「んー、お姉さんがそこまでお願いするなら……とけるかわかんないけど、やってみるよー」

撫子「ほんと!?」


こころ「じゃあ、ここにしゃがんで?」

撫子「…………」


こころ「そしたら、目をつぶってください」

撫子「……はい」ぱちっ


この意味不明な環境から抜け出すのに、頼みの綱はこころしかいないと思っていた。

とにかくこの子に会えば、すべてが丸く収まってくれると。


……しかし、私はまだまだこころのことをよく知らなかった。



こころ「んっ」ちゅっ

撫子「…………」


めぐみ「わああああああっっ!!?///」

撫子「……え? 今……」

こころ「はい、解けた」

めぐみ「ちょーっ! ちょちょちょ、何!? なんでキスしたの!?」

撫子「き、キス!? やっぱり今キスした……!?」


こころ「いや、おまじない解いてっていうから」

撫子「おまじないの解き方これなの!? しかもよりによってめぐみの前で!!///」

めぐみ「ちょっとなんなの!? 撫子にこんな関係の子がいたなんて! しかも小学生だなんて!」

撫子「いや違うって! 私も今日初めてこの子とこんなに喋ってるんだって!」

こころ「じゃあねー。アップルパイいっこもらうねー」たたたっ

撫子「あーっ、待ってよ!」


どうやらこころちゃんも、相当いたずら好きのようだった。美穂タイプで、櫻子タイプだ。

いたずら好きに特殊能力を与えたら、世界はおかしなことになってしまうと思う……

今日一日の出来事よりも、小川こころという謎の存在が気になって仕方なくなってしまった。


めぐみ「小学生がアリなら私もアリだよね!? そういうことを言いたいんだよね撫子は!?///」んーっ

撫子「いや違う違う! ちょっ、こころちゃん!! まだおまじない解けてないみたいなんだけど~~!!」



~fin~

急いだので雑で申し訳ない

ゆるゆり3期おめでとう!!


三期おめでとうだよぉ〜
その後に続け大室家!

おつし

大室家も短編アニメでいいからみたいよね

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