男「はじめての国会図書館」(34)

男「たまにさ、急に昔の漫画を読みたくなるってことあるだろ?」

友「あるある!」

男「でさ……今、すっげえ読みたい漫画があるんだけどさ……」

友「読みに行きゃいいじゃん。近くに漫画喫茶もできたじゃんか」

男「いや、ああいう場所にはないんだ……」

友「ああ、あんまり有名じゃない漫画なのか?」

友「だったらブックオフ巡ったり、アマゾンで探せば……」

男「ダメなんだ」

友「へ? なんで?」

男「実はさ……その作品ってのが単行本化されてないんだ」

男「雑誌に一回こっきりだけ掲載された、読みきりなんだよ」

友「あ~……そういうことか」

友「だったら……どうにかしてその雑誌のバックナンバーを手に入れるしかないな」

男「そうなんだけど……それもダメなんだ」

男「その雑誌がさ……『月刊少年マイナー』でさ」

友「なるほど……知る人ぞ知る雑誌だな。たしかもう廃刊になったはずだし」

男「そうなんだ」

友「でも、お前『月刊少年マイナー』なんか読むタイプだったっけ?」

男「ガキの頃、お袋が一回だけ間違えて買ってきたのを読んだんだ」

友「ああ、そういうパターンね」

男「で、大半の作品はつまらなかったけど、その読み切りだけすっげぇ面白かったんだ」

男「ジャンプとかだったら、古いやつの入手もそこまで困難じゃないって聞くけど」

男「『月刊少年マイナー』じゃなぁ……」

男「もう読むのは諦めて、どんな漫画だったかだけでも情報かき集めようとしたんだけど」

男「なにしろ、作者名もタイトルも忘れちゃったからいくら調べても出てこなくて」

男「このところ、ずっとモヤモヤしてるんだよ」ハァ…

友「…………」

友「だったら──図書館しかないな」

男「図書館? なにいってんだ、あるわけないだろ?」

男「図書館にある漫画なんて、せいぜいドラえもんやコナン──」

友「ちがうよ」

男「?」

友「国会図書館だ」

男「国会図書館?」

友「日本の出版物の全てを保管してあるっつう図書館さ」

男「全て!? ──ってことは俺のつけてる日記帳も!?」

友「あるわけねーだろ! 出版物っていっただろ!」

男「いや……実は自費出版したんだよ」

友(なにやってんの、こいつ!?)

男「まぁ、一冊も売れなかったけどさ」

友「……俺にいえば、一冊ぐらい買ってやったのに」

男「いや……知り合いにあれを読まれるのは、ちょっと」

友「……まぁいいや」

友「全てってのはさすがに誇張らしいが、かなり網羅してるってのは本当だ」

友「たとえばさ」

友「漫画で、内容がヤバイって判断されて単行本に載らなかった回ってあるだろ?」

男「あ~、欠番ってやつな」

友「そういうのも、ここに行けば見られるんだよ」

友「その回が載ってる雑誌を借りて、読めばいいんだから」

男「へぇ~」

友「……で、どうする?」

男「行くか! 国会図書館!」

友「そうこなくちゃ!」

男「さっそくホームページを見てみるか」

男「場所は……東京と京都にあるのか。俺らが行くとしたら東京の方だな」



・月~土曜日営業、日祝日はお休みだ!
・利用には登録が必要だから身分証明書持ってこい!
・不透明なでかい袋は持ち込めないぞ! カバンはロッカーへ!



男「細かい注意点は色々あるけど、特に注意すべきはこんなとこか」

男「じゃあ、今度の土曜にでも一緒に行ってみるか!」

友「おう」

昔国会図書館行った事があったが
最近行ったらハイテク化されて
1日楽しめるぞ。

次の土曜──

男「ここが永田町か……」ゴクッ…

友「ああ」

友「ほら、あっちに国会議事堂があるぜ」

男「なんつうか、“エリート”になった気がしてくるな」

友「まぁ、気は引き締まるよな。どことなく雰囲気ピリピリしてるし」

男「さてゆこうか、マイフレンドよ。我が記憶に眠る書物を探しにな」

友(こいつのエリート観はどこかおかしいな)

国会図書館──

男「本館と新館があるが、どっちに行けばいいんだ? やっぱ本館か?」

友「いや、初めての場合は新館だな」

友「ついでにいうと雑誌を借りられるのも新館だから、どっちにしろ新館だ」



男「こんにちは、初めて来たんですが……」

職員「ここは国会図書館です」

男「いや、それは知ってますから」

職員「ここは国会図書館です」

男「もしもし!?」

職員「ここは国会図書館です」

男「どうなってんだ、これ!?」

友「ああ、その人はそれしかしゃべらないから」

男「村人Aポジションの人か……」

男「まず、どうすりゃいいんだ?」

友「利用者カードを作らなきゃならない。身分証明書準備しとけよ」

友「ちょっと時間がかかるが、登録自体は簡単だぞ」

男「ふ~ん、でも意外と人がいるもんだな」

友「ホームページに土曜は混むって書いてあったしな」

男「中にはカップルもいるぞ。くそう羨ましい……」ギリッ…

男「きっと、江戸時代の春画を二人で眺めながら、今夜は私たちも……みたいな」

友「おいやめろよ。声出てんぞ」

男「カードができた!」シャキーン

男「図書館のカードのくせに、なかなかイカすデザインじゃんか」

友「これをあっちにあるゲートにかざせば、中に入れる」

友「本を探す、借りる、返す、複写、全部カードが必要になるからな。なくすなよ」

男「分かってるって。カバンもロッカーに預けたし、さっそく入るか」



職員「カードはちゃんと装備しないと意味がないぞ!」

男「セリフが変わった!?」

友「カードを作ったから、セリフが変わるフラグが立ったんだろう」

中に入ると──

男「うわぁ~、すっげぇ~、すっげぇ~!」

男「広い! キレイ! 未来的! アカデミック!」

男「なんかここに来ただけで、IQが50ぐらい上がった気がする!」

友「ホント影響されやすい奴だな。元が低いんだから大して意味ないっての」

男(こいつ、たまにものすごい毒吐くよな……)

友「それに、図書館なんだからあまり騒ぐなよ。騒ぐと──」



警備員「お前たちは騒ぎすぎた……。あと三秒で、ボンだ」

利用者A「と、と……としょっ!」ボムッ!

利用者B「らららら、らいぶらりっ!」ドッパァァァァン!



友「秘孔を突かれて、ああなる」

男「国会図書館ともなると、警備さんも超一流ってわけか……」

男「うわぁ、パソコンがいっぱいある! まるでパソコンの牧場だ! ヒャッホー!」

男「でも、なんでこんなにパソコンが? ヤマダ電機じゃあるまいし……」

友「ここに保管されてる本は、職員の人に持ってきてもらわなきゃならないんだ」

男「え、そうなの?」

友「だから、これらの端末からどの本を借りるか申し込むんだ」

友「お前パソコン苦手だし、俺がやってやるよ」ガタッ

男「えぇっと、まず……雑誌名は『月刊少年マイナー』」

友「『月刊少年マイナー』……と」カタカタ…

友「何年の何月号だ?」

男「えっ」

友「えっ」

友「調べてないのかよ!」

男「う、うん……」ショボン…

男「だ、だって……普通の図書館みたく、本棚から自分で探せると思ってたから……」

友「そんなにションボリするなよ! 気持ち悪い!」

友「だったら……お前の記憶を頼りに、推理するしかないな」

友「例の読みきり漫画を読んだのは、いつ頃の話だ?」

男「いつだったかなぁ……」

男「小学校……五年生ぐらいだった気がする」

友「だとしたら、このあたりの号か」カタカタ…

男「どの号にする?」

友「雑誌は10点まで借りられるから、このあたりの号、全部借りちまおう」カタカタ…

男「下手な鉄砲数撃ちゃ当たる、ってやつだな!」

友(下手な鉄砲呼ばわりされると、なんかちょっとムカつく……)

友「ついでに俺も前々から読みたかった雑誌を借りることにしたぜ」

友「申し込んでから、貸出カウンターに本が届くまで、2~30分はかかる」

友「ソファにでも座って、大人しく待ってよう」

男「…………」ソワソワ…

友「おい、なにをそんなにソワソワしてんだよ? 妻の出産を待つ夫かよ」

男「だってさぁ~……」ソワソワ…

男「いよいよ、あの漫画が読めると思うと……とても落ちつけねえよ」ソワソワ…

友「もし、さっき選んだ10冊の中になかったら、もう一回やり直しだからな」

しばらくして──

受付「こちら、資料になります」ガラガラ…

男(うわぁ、『月刊少年マイナー』10冊が台車に乗って運ばれてきた……)

男(別に悪いことしてるわけじゃないのに、メッチャ恥ずかしい……)



男「あのさ……」

友「ん?」

男「ここって、基本的にはここでしか読めないような貴重な資料を使って」

男「研究したり論文を書いたりする人のための施設なわけじゃん?」

男「回りの人も、なにやら難しそうな本とにらめっこしてるような人ばかりだし」

友「まぁな」

男「そんな施設を、たかだか読み切り漫画一つのために使うなんて」

男「どことなく背徳感があるんだけど」

男「最高級の万年筆でしょーもない落書きをする、みたいな」

友「そういうカオスさも、国会図書館の魅力の一つなのさ」

男「じゃあ、俺は『月刊少年マイナー』を調査することにするよ」

友「おう、がんばれよ。俺は俺で、借りた雑誌読んでるからさ」



男(この10冊の中に、俺が探し求めていたあの作品があるかと思うと)

男(やだぁ~、ドキドキが止まらな~い!)

男(初恋の女の子に校舎裏で告白したら──)

男(コブラツイストでやり返された、あのほろ苦い青春がよみがえるようだ……)

男「…………」パラパラ…

男「!」ハッ

男(あ、これだ! この作品だ! まちがいない!)

男(さすがに記憶とちょっと絵がちがうけど……まちがいなくこれだ!)

男(やっと見つけた……! ずっと読みたかったんだよな、これを!)ジ~ン…

男(国会図書館の資料は持ち帰ることができないし)

男(よぉ~し、1ページに1分ぐらいかけるつもりでじっくり読むぞ!)ペラ…

……

……

……

……

……

……

男「…………」

友「お、どうだった? “子供の頃の思い出”とのご対面は?」

男「うん……」

男「“思い出補正”ってのはホントにあるんだな、と思い知らされたよ」

友「…………」



友は、これ以上男に問いかけることはしなかった。

なぜなら、それが彼にできる唯一にして最大の心配りであると知っていたから……。

出版された物は全部保管されてるんだよな、確か
一度行ってみたい

男「──あ、だけど、もちろん収穫もあったぞ」

男「当時は『月刊少年マイナー』の漫画ってどれも難しくてつまんねーなと思ってたけど」

男「今読んでみると、結構面白くてビックリしてるんだ」

男「今ではメジャー雑誌でバリバリやってる漫画家の隠れた名作もあるし」

友「たしかに……少年誌のわりに大人びた雰囲気の漫画が多いな、これ」パラパラ…

友「だから、メジャーになれず廃刊になった、ともいえるけど」

男「まぁ、なんだな」

男「こうして少年時代の思い出に浸ってると──」



男「ちょっと死にたくなるよな」

友「まぁな」

友「とはいえ、まだ死ぬわけにはいかないし」

友「ひととおり漫画読み終わったら、喫茶店で休憩しようぜ」

男「図書館なのに、喫茶店があるのかよ」

友「ああ、ただし本を持ち込んだりはできないけどな」

友「他にも食堂や売店なんかもあるぜ」

男「まったく……至れり尽くせりだな! 国会図書館って場所は!」

>>23

出庫してもらってから
その待ち時間に喫茶やら食堂に行くのが
効率的なのだが、お前らはまだまだだな。

男「ところでさ、お前はなんて雑誌を借りたんだ?」

友「ああ、これか?」スッ

友「1号出ただけでヤバすぎて廃刊になった、『月刊グロキング』さ」ペラッ…

男「うっ!」

友「もう、ヤバイ写真やイラストが満載でさぁ~、サイコーだぜぇ~、ホント」

友「うひひひひひ……」ペラ…

男(俺の思い出だけじゃなく、親友の新たな一面さえも浮き彫りにしちまうとは……)

男(国会図書館ってすげえ!)







─ おわり ─

この物語はフィクションです
実在の国会図書館とは一切関係ありません

>>21
全部ってことになってるけど意外と抜けも多いらしい

だけどすでに書かれてるが一日楽しめる場所なので一度行ってみるといいでしょう

>>19
ネタバレになるかと思って書かなかったんだけど
なんでコピーを取ろうとしなかったんだ?

>>29
コピーするとこまでやって

友「この書類に複写したいページを記入するんだ」

男「で、ここにある複写する理由ってどうすればいいんだ?」

友「この“調査・研究のため”のボックスにチェックすればいい」

男(調査でも研究でもなんでもねえ……)

みたいな小ネタ入れることも考えたけど
自分としてはこの話は「思い出の漫画が今読んだら大して面白くなかった」な話なので省きました

おつ
一度行ってみたい

>>30
了解
図書館好きだから楽しく読めたよ。

貸し出しカウンター前でおっさんが堂々とHな本を読んでいたのを思い出す

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