小林オペラ「神津が結婚したらしい」 (29)
小林(世界中を飛び回っている僕のもとにその連絡が入ったのは、数分前のことだ)
小林(友人の吉報を嬉しく思う一方、焦りを覚えている自分がいることに憂鬱を感じる)
小林(今後知り合いの吉報を聞くたびにこんな気持ちになるのかと考えると、気分が重い)
小林(ましてや、シャーロック達の結婚報告なんて聞いた日には、トイズが戻るかもしれない)
小林「…結婚、か」
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――――コンコン
小林「どうぞ」
――――ガチャッ
姫百合「失礼します。先日任されていたIDOへ提出する書類の件なのですが、確認をお願いします」ペラッ
小林「ありがとう、受け取るよ」
姫百合「…あの、先ほど誰かと話されていたようですが、何かあったんですか?」
小林「あぁ、ごめん。手間を取らせたね」
姫百合「いえ、それは問題ないのですが、随分驚いた様子だったので…」
小林「…んー、まぁ、口止めもされてないし大丈夫かな」
小林「…神津が結婚したらしい」
姫百合「神津警視が結婚?…神津警視が結婚!?」
小林「今は、警視長だけどね」
姫百合「そ、それより本当なんですか?」
小林「うん、本人から聞いたから間違いないと思うよ」
姫百合「…誰とですか?」
小林「小衣クンだよ」
姫百合「……あぁ(納得)」
姫百合「明智警視、遂に想いが通じたんですね」
小林(神津が言うには、いつの間にか外堀が完全に埋まっていたらしいけど…)
姫百合「お祝いに行けなかったのが残念ですね」
小林「そうだね。まぁ身内だけで式を挙げたらしいから、後で皆の分の御祝儀を送っておくよ」
姫百合「お願いします。…シャーロックさん達はこのことを知っているでしょうか?」
小林「どうだろう…小衣クンが伝えているかどうか、かな」
姫百合「確か明後日でしたよね、皆さんが帰ってくるの」
小林「うん、これでようやくひと段落つきそうだよ」
姫百合「…長かったですね。IDOと怪盗による自演疑惑、探偵の迫害…小林さんがいなければどうなっていたか」
小林「僕がやったことは大したことないよ。今まで前に立って活躍してきたのは、君たちだからね」
姫百合「そうだとしても、こうして今も探偵という存在が世界で認められているのは、小林さんのお力添えがあったからです。もっと誇って下さい」
小林「…ありがとう、姫百合クン。そして、お疲れ様」ニコッ
姫百合「…はい、お疲れ様でした」
姫百合「あ、あの…話は変わりますが、小林さんは明日の予定ってありますか?」
小林「ん、明日かい?えーっと…」
小林「…うん、特にはないね」
姫百合「なら、シャーロックさん達が帰ってきた後、皆でお祝いをしませんか?」
姫百合「そのために、買い出しに行きたいのですが…」
小林「それは良いね。なら、明日は2人で買い物に行こうか」
姫百合「は、はい!ありがとうございます!」
小林「…そうだ、ついでに前々から用意していた物もその時に渡そうかな」
姫百合「用意していた物?プレゼントですか?」
小林「そう、なかなか機会が無くて渡しそびれていたけど、明後日は全員集まれそうだからね」
小林「後は店に受け取りに行くだけなんだけど、その店に寄ってもいいかな?」
姫百合「はい、大丈夫です」
小林「ありがとう、それじゃあ何時ごろに行こうか?」
姫百合「そうですね…」
―――――バタンッ
姫百合「………」
姫百合「大丈夫、だよね」
姫百合「ただ買い物に行くだけだし、うん、きっと…」
姫百合「…はぁ」
姫百合「仕事しよう」
小林「…ふぅ」
小林(これで今日中にやらなければいけないことは終わった、後はまだしばらく猶予がある)
小林(明日はあまり時間が取れなさそうだし、今のうちに少し調べておこうかな)
小林(…結婚相手、基準…っと)カタカタッ
小林(20XX年の現代、少子高齢化が止まらない日本では、政府が若者の結婚を全力で後押しするようになった)
小林(行き過ぎとも思われる政策の数々に最初は批判も多かったが、成果が出始めると小さくなっていった)
小林(今では30代はもちろん、20代後半で結婚しているのは当たり前の風潮が強くなってきている)
小林(…とは言っても、まだ結婚していない男女がいることも事実で、情報や意見がネットで飛び交っている状況だ)
小林「…しかし、偏った意見が多いな」
『男はコミュ力の高い女性なら誰でもいい』
『女は経済力があって話を聞いてくれる男性が最低ライン』
『男は無口が多く会話が続かない人が多いので、会話し慣れているか判断が必要』
『女はとにかく上に立ちたがる生き物、自分が一番じゃないと気が済まないため注意』
小林(筆者によって違いはあっても、こうも異性に否定的な内容ばかりだと、気分が萎えてくるな…)
小林「…ん?この記事は――――」
小林「――――ごめん、待たせたかな?」
姫百合「いえ、私も今来たばかりですから」
小林「…次からはもう少し早く来ないといけないね、気を付けるよ」
姫百合「ほ、本当に来たばかりですから気にしないでください」
小林「…ありがとう、この謝礼は後でするとして、さっそく向かおうか」
姫百合「はい。あ、先にプレゼントを受け取りに行きますか?」
小林「いや、順序的に後に回した方が効率がいいし、帰りに寄ろうと考えているかな」
姫百合「分かりました、では先にお祝いの食材を買いに行きましょう」
小林「そうだね、そうしよう」
小林「…さて、メインの料理はこれでいいとして、後はデザートかな」ドサッ
姫百合「結構買い込みましたね、食べきれるでしょうか?」
小林「その時はその時だよ、足りなくなるよりはマシだからね」
姫百合「それもそうですね、デザートはどこで買いますか?」
小林「ちょっと距離があるけど、おいしいケーキ屋があるんだ。そこに行くつもりだよ」
姫百合「へぇ…楽しみです」
小林「それに、それとは別に注文しているものもあるからね」
姫百合「というと、例のプレゼントですか?」
小林「うん、そうだよ。それじゃあ行こうか」
―――チリンチリン
店主「いらっしゃいませ」
小林「……」キョロキョロ
店主「…?どうか、されましたか?」
小林「…大丈夫かな。こんにちは、お変わりないですか?」スッ
店主「!?、小林さんでしたか!いやはや驚きました」
小林「はは…少し前まではこんなことしなくても良かったのですが…」
店主「今ではまたすっかり有名人ですからねぇ。大変でしょう」
小林「まぁ隠れるのも探偵の仕事ですから、慣れたものですよ」
店主「はっはっ、違いない。…ところで、お隣の美しいお嬢さんは?」
小林「あぁ、すみません。彼女は探偵の…」
姫百合「私は小林さんの助手を務めています、エラリー姫百合です」
店主「おぉ、小林さんの助手の方でしたか」
小林「…」
店主「おっと、長々と話してしまいすみません。例の物ですよね?すぐにお持ちします」
小林「あ、はい、お願いします。後、このケーキを頂けますか?」
店主「ありがとうございます。では少々お待ちください」
小林「…姫百合クン、君はもう探偵だし、僕の助手と言うのは…」
姫百合「…私はまだまだ未熟です、小林さんのご助力が無ければ今の私はいませんし、受けた恩も返せていません」
小林「助けてもらったのはむしろ僕の方だ。姫百合クンが返すべき恩なんてないんだよ」
姫百合「…そうだとしても、私は、小林さんの助手でいたいんです」
姫百合「皆さんの…小林さんの傍にいさせてください」
小林「…姫百合クン」
~一週間前~
小林「姫百合クン、君宛てにIDOから手紙が届いているよ」カサッ
姫百合「手紙…ですか?」
小林「うん、どうも重要な内容みたいだね。すぐに見た方が良さそうだ」
姫百合「分かりました、開封しますね」
姫百合「…えーっと、貴方の働きを認め、探偵としての、権利を主張することを、許可する…って、これって!」
小林「あぁ、おめでとう姫百合クン。特例ではあるけど、君に『ディテクティブ・ライセンス』をIDOは認めるみたいだね」
姫百合「そ、それじゃあ…私、探偵になれるんですか?」
小林「うん、その通りだ。さらに、他の探偵を半強制的に指揮できる『特事捜査指揮権』も与えると、IDOから伝達があった」
小林「これはIDOが創立されてから初めて発行されるもので、全探偵の中でこれを持っているのは君だけになるね」
姫百合「…そんな凄い権限、私なんかが所持していてもいいのでしょうか?」
小林「これまでの姫百合クンの働きから考えれば当然だよ。むしろ、遅かったくらいさ」
姫百合「…ありがとうございます。私、探偵として頑張ります!」
小林「うん、その意気だ。…それと、もう一つ君に伝えなければならないことがあるんだ」
姫百合「?、はい、なんですか?」
小林「ライセンスの発行に当たり、イギリス本部へ行く必要があること…そして」
小林「その後は別の探偵チームを編成し、事件に対応していくこと…以上が、IDOの命令なんだ」
姫百合「……え?」
小林「事件の事後処理もあるし、今すぐにという話じゃないけどね…」
小林「でも、いずれは僕たちと別れて活動しなければならない」
姫百合「…」
小林「まぁ、細かなことはシャーロック達が帰ってきてからでも…」
姫百合「小林さん」
小林「…なんだい?」
姫百合「ライセンスを受け取らないことって、可能なんですか?」
~回想終わり~
―――バタン
小林「…よし、これで全部だね。それじゃあ帰ろうか」
姫百合「…はい」
小林「……ちょっと、寄り道してもいいかな?」
姫百合「…え?あ、はい」
小林「ありがとう、じゃあ港にいこうか」
―――ブゥゥゥゥゥゥゥン
―――バタンッ
姫百合「…港に、何か用事があるんですか?」
小林「いや、そうじゃないんだ。ただ、少し話がしたくてね」
姫百合「………」
小林「姫百合クン」
姫百合「…はい」
小林「僕と結婚してくれないか?」
姫百合「………はい?」
小林「僕と、結婚してください」
姫百合「………えええええええええ!?」
姫百合「ちょ、え?…は?、え?」
小林「…はは、まぁそうだよね」
姫百合「…ど、どど、え?あれ?」
小林「いきなりでびっくりしただろうけど、ちゃんと考えた上で告白したから、そこは安心していいよ」
姫百合「…と、とても信じられません。唐突すぎます…」
小林「それじゃあ、僕がこの答えに辿り着いた過程を話すね。いいかい?」
姫百合「…はい」
小林「まず、きっかけはIDOによる姫百合クンのライセンス発行の知らせだ」
小林「初めはとても嬉しかったけど、今後は別々に活動しなければならないという内容を見て、僕は…辛く感じた」
姫百合「!」
小林「それでも、姫百合クンの栄転に水を差さないよう、努力したつもりだよ」
小林「僕の個人的感情で、君を縛るわけにはいかないからね」
小林「でも君は、僕たちと別れて活動することになることを拒否した。ライセンスを受けとれなくなってでもね」
小林「あの時はなんとか説得しようとしてたと思うけど、内心嬉しかったよ。姫百合クンも僕と同じ気持ちなんだって、分かったから」
姫百合「…」
小林「そのあと僕はIDOに連絡して、ライセンスの発行のみを申請してみたんだけど…残念ながら却下されてね」
小林「僕たちほどの探偵を一つのチームにしておくには、もったいないといわれてしまったよ」
姫百合「…ライセンスの件は理解できました。でも、それがどうしてプ、プロポーズに繋がるんですか…」
小林「うん、それなんだけどね。何とか他に方法はないか、IDOとの交渉を何度も行った結果、ようやく妥協案が通ったんだ」
姫百合「そ、それがまさか…」
小林「僕と姫百合クンが結婚して、夫婦としてなら活動を認める…これがIDOの出した答えだよ」
姫百合「」
小林「僕も最初は驚いたけど、姫百合クンとなら悪く無いと思ってね。それで納得しちゃったんだ」
姫百合「で、でも…あの…」
小林「聞けば神津も結婚してしまったし、ネットでも22歳の男と16歳の女の子が結婚したって話もあってさ」
小林「後は姫百合クン次第だけど…どうかな?」
姫百合「………」
姫百合「はい、喜んで」ニコッ
その後、帰ってきたミルキィホームズ達と修羅場になるのは、また別のお話…
完!!
以上、俺得「小林×姫百合」でした
また、このSSは「劇場版 探偵オペラミルキィホームズ ~森アーティの野望~」及び「探偵オペラミルキィホームズ 3」の後日談です
まだ見たことのない方は、未来から取り寄せてご覧下さい
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