勇者「ルーラ教習所?」(131)
勇者「レベル20になってやっとルーラを覚えたぜ! これで好きな街に飛び放題ヒャッホィ!」
魔法使い「は……? まさかあんた今の今まで覚えてなかったわけ?」
勇者「そうだけどどうかしたか?」
魔法使い「プッwルーラなんて普通レベル7.8で覚えるものじゃないw それをあんた20ってw」
戦士「勇者は実にバカだな!」
勇者「お前に言われると相当腹立つな……!」プルプル
勇者「まあもう覚えたわけだし過去のことは忘れてさっそく使って……」
賢者「勇者様!? まさかいきなりルーラを使う気ですか!?」
魔法使い「ほんっと筋金入りのバカね~www」ケラケラ
勇者「なんだよ二人して。覚えた魔法使うのがそんな悪いことかよ?」
賢者「いえ、そうではなくて……」
魔法使い「こいつ勇者のクセになんも知らないのよw 賢者が一から教えてあげなさいよw」
戦士「勇者は実にバカだな!」
勇者「お前次言ったら遊び人に転職させて俺よりもバカにさせてやるからな」プルプル
賢者「勇者様、ルーラと言うのは実は大変危険で難しい呪文なのです。身体状況や精神状況、飛んでいる時のバランスの取り方や飛ばす物の重さや目的地までの飛距離、総mp数による安定度の違い、着地の制御等々……それらを一遍にやらなければいけないのです」
勇者「なるほど……ただ唱えるだけじゃダメなんだな……」
賢者「故にルーラは勇者と一部の大賢者にしか使えない秘術なのです。だから覚えると言うことだけでも素晴らしいのですよ、勇者様」ニコッ
勇者「賢者ぁ……俺の味方はお前だけだよ」シクシク
勇者「それで使うにはどうすればいいんだ?」
賢者「それはですね」
魔法使い「ルーラ教習所ってのがあんのよバカ勇者」
勇者「ルーラ教習所?」
賢者「はい。ルーラを使うにあたっての訓練や教習何かをする場所らしいです」
勇者「ほ~そんなもんがあんのか」
魔法使い「あんたの同期の勇者達はとっくの昔に習って今頃ビュンビュン飛び回ってるわよ」
勇者「くっ……! そう思うと何か急かされるな」
魔法使い「場所は地図に書いといたからさっさと行ってきなさい。私達はここでしばらくゆっくりしてるから」
勇者「ああ、すまない」
魔法使い「まあ……けがとかしないようにね」
勇者「おう!」
賢者「あらあら」フフフ
魔法使い「っ/// は~せっかくだし転職でもしてよっかな~っと」
勇者「ルーラ教習所か……」
勇者「ってここほぼ始まりの街付近じゃねぇか!!! 来るのに二日かかったぞ……」
勇者「まあいいや。帰りはルーラで一っ飛びだしな!」
勇者「たのもー」
受付「ん……貴方は」
勇者「中央王都の勇者です! ルーラの教習を受けに来ました!」
受付「ああ……。いつまでも来ないからもうとっくの昔に死んだかと思ってましたよ」
勇者「じ、村民解放戦線が長引いて……なかなか来れなかったんですよ!」
受付「……。そうですか。ご苦労様です。ではここに記入を」
勇者「はい(このレベルになってようやく覚えたなんて言えないな……)」
受付「教習は早くて三日、遅くてもまあ一週間ぐらいで終わります。それまではここの宿を提供しますのでご自由にお使いください」
勇者「わかりました!」
勇者「へぇ~中は結構広いな。え~と一時間目はルーラについての基本知識、か」
勇者「第三教室第三教室……」キョロキョロ
ドンッ
「あっ」
勇者「おっと」
グシャ
勇者「すいませんちょっと考え事を……」
「いえ、私の方こそすみません。ここには来たばかりの若輩者ですので。お気になさらないでください」ニコッ
勇者「(か、かわええ……!)」
勇者「ピオリム」ボソッ
勇者「」サササッ
勇者「はいこれ」
「ありがとうございます。素晴らしい身のこなしですね! さぞ名のある勇者様に違いありません」
勇者「いや、それほどでも」キリッ
「まあ、王都の勇者様でらしたのですね。通りで凛々しい方だと思いました」
勇者「それほどでもないよ。君はどこから?」
東の勇者「私は東のイースタッドから来た田舎の勇者です……」
勇者「何言ってんだよ。勇者に田舎も都会もないさ。その街や村から見ればそいつは勇者で、みんなの為に魔王を討つ。だから勇者なら自分に誇りを持って、な?」
東の勇者「……! そうですね、勇者様の言う通りです!」
勇者「うんうん。あ~、ちなみに東の勇者ちゃんは今レベルいくつかな?」
東の勇者「この間8になったばかりです」
勇者「……」
東の勇者「勇者様?」
勇者「(俺よりめっちゃエリートやん……王都から来ましたwwwwwwドヤァ とか恥ずかしい……)」
東の勇者「ここですね」
勇者「うん……(レベルのことは伏せとこう……)」
「あら、また冴えない顔の勇者が来ましたわね」
勇者「ん(なんだあの如何にもお嬢様みたいな装飾のやつは)」
「まあ、少しの間ですけど共に勉学を学ぶ者同士自己紹介ぐらいはしておきましょうか」
西の勇者「聖央教徒十字から参りました西の勇者ですわ。以後お見知り置きを」
勇者「あ~あの胡散臭い宗教団体の本拠地か。未だに神託ガー、由緒正しい勇者ガーとか言ってるとこだろ?」
西の勇者「なっ……! あなた……我らが主を侮辱するおつもりでして?!」
勇者「別にー」
西の勇者「キィィィ腹が立ちますわ! 田舎勇者の分際で!」
東の勇者「田舎勇者……か」
「……勇者に田舎も何もないのに」
東の勇者「あっ、あなたは」
北の勇者「北の勇者。ノースランド出身」
東の勇者「私は東の勇者です。少しの間ですけどよろしくお願いしますね」
北の勇者「…よろしく」
勇者「」ガミガミ
西の勇者「」ギャアギャア
ガラガラ
教官「うるさいわよ。さっさと席につきなさい」
西の勇者「くっ……! この屈辱は必ず晴らしてみせますわ!」
勇者「はいはい……」
教官「では今から講習を始めます」
教官「まず先に言っておきます。ルーラという呪文は非常に難しい呪文です」
教官「それは制御のやり方などもありますが一番問題となっているのは……はい、北の勇者さん」
北の勇者「死亡率です」
教官「その通り」
勇者「えっ? ルーラで死ぬの?」
西の勇者「はあ?」
勇者「いやいやいや自分の呪文で死ぬなんてメガ系の呪文しか聞いたことないけど……」
西の勇者「はあ……これだから田舎者は」
西の勇者「いいですこと? 冒険者の実に4割はルーラによるもので死亡しているのよ」
勇者「マジかよ!? ……ルーラこえぇなおい」
教官「その通りよ。まず一番多いルーラ事故が建物内での使用ね」
勇者「建物内で使うとどうなるんですか……?」
教官「建物の材質にもよるけど石膏や煉瓦ならまず首がへし折れて即死ね」
勇者「……」
教官「しかもルーラによる死亡は体に魂を戻せないから教会での復活もなし。本当の意味で死ぬってことよ」
勇者「……ルーラこわっ」
勇者「そんなに人死んでるのになんでまだ使おうとしてんだよ他の勇者共は……」
教官「それはね、ルーラが勇者の証だからよ」
勇者「勇者の証……?」
東の勇者「私が幼かった頃、魔物が襲撃してきた際勇者様が助けてくださいました。その勇者様は魔物退治が終わると颯爽とルーラで飛んで行きました……。
他の街もああして守っているのだろうと思った私は感銘を受けました……。いつか私もああなろうと……」
勇者「なるほどな~確かにルーラがあれば複数の街や村をほぼ同時に守ることも可能だもんな~」
北の勇者「…移動も楽になって魔王討伐も必然的に早くなる」
勇者「うんうん」
西の勇者「ま、わたくしはルーラ死なんて頭の悪いことはしませんけど、あなたは注意した方がよろしくてよ?」
勇者「誰が建物内で『ルーラ』テレテレテレ♪ なんか使うかよ!」
東の勇者「あ」
北の勇者「…あ」
西の勇者「あ、」
教官「あ」
ビュォーンビュ(ry
ゴスゥゥゥゥゥゥゥ
東の勇者「大丈夫ですか? 勇者様」ホイミ中
勇者「頭がもげたかと思った……」
西の勇者「プーックスクスクス」
北の勇者「…はあ」
教官「このように暴発する恐れもあるのがルーラの怖いところです。
この教室はもしもの時を考慮して天井は柔らかい材質で作っているけどこれが城の中等なら間違いなく即死だったわよあなた」
勇者「」シュン
東の勇者「ドンマイですよ勇者様」ニコリ
勇者「(今はその作り笑顔が辛いです……)」
教官「じゃあ今日から数日間、ビッシリ教えていくから覚悟しなさい!」
一同「よろしくお願いします!」
────
勇者「はあ……疲れた」
東の勇者「一日目お疲れ様です勇者様」
勇者「……さっきのでわかったと思うけど様なんてつけられるような勇者じゃないんだ……俺」
勇者「落ちこぼれで……同期のみんなはもうとっくに終わってる教習を今更受けてて……」
東の勇者「……それでも勇者様は勇者様です」
勇者「えっ……」
東の勇者「勇者はどんな境遇だろうと誇りを持って行動すべし、勇者様が言ってたことじゃないですか」
勇者「はは、そんな立派なこと言ったつもりじゃないけどね。でも……ありがとう。東の勇者」
東の勇者「いえ。これから一緒に頑張って勉強しましょう」ニコッ
勇者「(ええ子や……くっ……! 勇者じゃなければ即パーティーに誘ってたのに……! クソ戦士外して)」
※勇者規定により勇者はパーティーに一人までとされている
勇者「ところで……どこまでついてくるんだ? もう俺の部屋の前なんだけど……」
東の勇者「あれ? 私の部屋もここですよ」
勇者「えっ」
東の勇者「二人一部屋と聞いてましたから、勇者様と同室なんですね。これもロトのお導きでしょう」
勇者「えっ」
東の勇者「しばらくの間よろしくお願いしますね、勇者様」ニコッ
勇者「……えっ?」
勇者「」ムシャムシャムシャムシャ
ザァァァァ
勇者「」ムシャムシャムシャムシャ
ザァァァァ
勇者「(なんだこれ……)」ムシャムシャ
勇者「(教習所に来たらなりたての勇者と知り合って? それが可愛い女の子で? 部屋が一緒になって? 汗をかいたので身を清めて来ますってシャワー行って?)」ムシャムシャ
勇者「(昔兄貴にやらされたエロゲ伝説Ⅲみたいな展開だなおい……)」ムシャムシャ
東の勇者「お先に失礼しました、勇者様」ポカポカ
勇者「(やっぱりここは勇者同士親睦を深め合った方が良いのだろうか……)」ムシャムシャ
東の勇者「勇者様~?」
勇者「(素振りとかを手取り足取り……そしてベッドの上では俺がモンスターとなり彼女に勇者ならば倒してみろ! とか言いつつでも彼女は優しいから何も出来ずにあれよあれよと……)」ムシャムシャ
東の勇者「ゆーしゃさまー?」
勇者「……あ、ああ……東の勇ぶっ」
勇者「(布の服がこんなにもエロく感じたのは初めてだぜ……!)」
東の勇者「何を食べてらっしゃるんですか?」
勇者「い、いや……ちょっと薬草を……」
東の勇者「まだあの傷が痛むのですか!?」
勇者「いや、ちがっ」
東の勇者「いけません勇者様! 早く横になられて!」
勇者「だからこれは」ボフッ
東の勇者「私が未熟なばかりに……すいません勇者様」ホイミーッ!
勇者「(これはまさか……膝枕というものか!!!)」
勇者「(太股の感触とホイミのくすぐったさでもうこれは……ベホマズンッ!!!!!)」
勇者「」チラッ
東の勇者「んーっ」ホイミーッ!
勇者「(精神統一の為に食べてたとは今更言えんな……)」
二日目
教官「今日は昨日に引き続きルーラにおける知識や注意事項、そして午後からは実践訓練等を行う」
勇者「いよいよ実践かー」
東の勇者「ワクワクしますね勇者様!」
勇者「だな!」
教官「そこ、私語は慎むように」
東の勇者「す、すみません」
勇者「怒られちまったな」
東の勇者「ふふ」
西の勇者「(なんですのあの甘ったるい空気は……! あれが同じ勇者とは情けない!)」
北の勇者「……」
教官「じゃあ教科書の23ページを開いて」
教官「ルーラは呪文としては空間魔法に定義されています。上級魔法にはバシルーラやトベルーラといったそれを応用した呪文もあります」
教官「では、ルーラにかかるmpはいくらでしょうか? じゃあ勇者君」
勇者「えっ!?(やっべぇわかんねぇ……!)」
勇者「(すげぇかかりそうだけど低レベルで覚えるなら10以上はないか……あんな便利な魔法が3以下ってこともないだろうし……7か8……レベルに合わせとけばニアピンはいけるはず)」
勇者「8……です」
教官「うん。まあ半分正解かな」
勇者「半分?」
教官「なんで半分なのかわかる人~……じゃあ東の勇者ちゃん」
東の勇者「はい。ルーラは他の呪文と違い周りの環境や一緒に飛ばす人数、距離、そして熟練度によって使うmpが異なります」
東の勇者「中にはmpを全く使わずにルーラを使える人達もいるようです」
教官「正解よ。ルーラは使えば使うほど上達する呪文なの。だからこの教習所でも実践訓練をとっているわ」
勇者「なるほどね~」
教官「ルーラを唱える前にやること。まずは飛ばす物、人数の確認、そして認識よ」
教官「ルーラは自分から最大半径10m以内のものを飛ばすことが出来るの」
勇者「ちょっと質問なんですけどその中に岩や木とかあったらそれも一緒に飛んでっちゃうんですか?」
教官「いいところに気がついたわね。未熟な人のルーラは認識判定が甘いから地面まで一緒に飛ばしたり、なんてこともあったそうよ」
勇者「それはカッコ悪いな……」
教官「他にも街中で飛んだりする時に範囲内にいる街の人を一緒に飛ばしちゃったりとか。そんなことをしないように呪文を唱える前にしっかり認識判定をしましょう」
教官「認識判定も終わり実際唱えた後、呪文によって移動するわけだけどそれも完璧オートでやってくれるわけじゃないの」
勇者「ええっ!? 勝手にビュォーンビュォーンって飛んでついて終わりだと思ってました!」
教官「大体はそうなんだけど中にはルーラ酔いする人もいるらしいから出始めはゆっくり、着地もゆったりを心がけて」
西の勇者「」ビクッ
勇者「(ん……? なんだあいつ)」
────
教官「さ、いよいよ実践訓練よ」
勇者「やっとか! 気合い入るぜ!」
東の勇者「」ドキドキ
西の勇者「」ブルブル
北の勇者「……」
教官「じゃあまずは近くの始まりの村に一人づつ飛んでもらいます。とりあえず見本を見せるわね」
勇者「教官も使えるんですか!?」
教官「ふふ、こう見えても昔は勇者だったのよ? 私も」
教官「結局全盛期時に魔王を倒せなかった脱落組だけれどね……」
※勇者は16~18歳が全盛期と言われそれを過ぎると後は力が落ちていく、らしい
教官「じゃあ良く見ててね」
教官「……ルーラ」テレテレテレ♪
ビュォーンビュォーン♪
勇者「おおおおおおおおおすげぇ!!!! ルーラだ!!!」
東の勇者「あ、戻って来られましたよ」
ビュォーンビュォーン♪
ズォッ
ゴズッ
ズッパァッン
ズサーーーーー
勇者「えっ」
東の勇者「先生ーっ!」
教官「ぐふっ……ちょっと着地失敗しちゃったみたいね……久しぶりのルーラ教習だから気合い入れすぎ……ちゃった」ガク
東の勇者「先生しっかり!」ホイミーッ!
勇者「(……ルーラ怖すぎだろおい)」
西の勇者「」ガクブル
北の勇者「……」
教官「と、言うように着地にも気をつけてください。じゃあ東の勇者ちゃんからやって行きましょうか」
東の勇者「はいっ! よろしくお願いしますっ!」
勇者「頑張れよー!」
東の勇者「はい!」
教官「力を抜いて、楽な姿勢で唱えなさい。皆さんは10m以上離れて」
東の勇者「ふーーーー……ルーラ!」テレテレテレ♪
ビュォーンビュォーン♪
勇者「おー見事なルーラ!」
……
…………
………………
教官「戻って来ないわね……」
勇者「何かあったのかな……? (心配だ……)」
北の勇者「あ、帰ってきた」
ビュォーンビュォーン♪
スタッ
東の勇者「遅れてすみません!」ペコリ
教官「どうかしたの? あっちで着地に失敗したとか?」
東の勇者「いえ……その……///」
東の勇者「mpが一回分しかなくて/// 道具屋のおじ様がまほうのせいすいをくださって……それで///」
始まりの村────
東の勇者「ルーラ! ルーラ! あっ……mpがないよぅ!」
東の勇者「トホホ……走って帰るの恥ずかしいな……」
道具屋の親父「嬢ちゃんルーラ教習の勇者かい?」
東の勇者「あっ、はい! 東の勇者と申します。いきなりの転移、失礼致しました」ペコリ
道具屋の親父「ははっ! 礼儀正しい子だな! 気に入った! これを使いな!」
東の勇者「わぁ! まほうのせいすい! よろしいのですかっ!?」
道具屋の親父「構わないさ。勇者はみんなの勇者だからな。早く強くなって魔王を倒してくれよ!」
東の勇者「はいっ! ありがとうございます!」
教官「ああ。ごめんなさいね。せいすいを渡すのを忘れてたわ。個々によってmp総数も違うものね」
東の勇者「すみません……」
西の勇者「ふん、ルーラを覚えるレベルになって未だ一回分のmpしかないなんて……勇者失格ですわねあなた」
東の勇者「っ……」
勇者「聞き捨てならねぇなそいつは」
西の勇者「勇者とは剣魔法共に優れた者を指す言葉。わたくしは当然のことを言ったまでですけどね。次は私が行きますわ」
勇者「けっ……(高飛車勇者め。失敗しちまえ!)」
教官「じゃあみんな下がっ……」
西の勇者「いりませんわ。認識判定も既に完了しておりますので。なんなら一緒に飛ばしてあげても良くってよ?」
勇者「(キーッ腹立つわこいつ!)」
西の勇者「ルーラ」テレテレテレ♪
ビュォーンビュォーン♪
東の勇者「……ハア」
勇者「気にすることねぇさ。色々な勇者がいるからこそ魔王を倒しうるんだからな」
東の勇者「勇者様……」
ビュォーンビュォーン♪
スタッ
西の勇者「どうでしょうか?」
教官「着地も認識判定も完璧ね。合格よ」
西の勇者「まあ当然ですけど……ッ!」
西の勇者「……ちょっとお手洗いに行ってきますわね……」
教官「ん、ああ」
勇者「?」
北の勇者「…最後は私。ルーラ」ビュォーンビュォーン
ビュォーンビュォーン
スタッ
北の勇者「……」
勇者「はやっ!!! もう戻って来たのかよ!」
教官「素晴らしい速度ね。(さすが北の神童……噂に違わない実力ね)」
教官「じゃあ今日はこれにて終了よ。明日は複数の人を連れて飛んでもらう訓練だからしっかりとmpを回復するように、以上」
勇者「ちょっと!!! 俺まだやってないんですけど!?」
教官「ああ。そうだったわね。すっかり忘れてたわ」
勇者「頼むぜ全く……」
教官「じゃあ最後は勇者」
勇者「ふぅ……。(始まりの村じゃ近すぎてつまらないな……あいつらの顔も見に行きたいしダーマに飛んでみるか)」
勇者「ルーラ!」ビュォーンビュォーン♪
東の勇者「勇者様お見事です!」
教官「あれ? 何かおかしくなかった?」
北の勇者「…方向が違う」
ズォッ
勇者「着地成功っと。なんだ簡単じゃんルーラ」
賢者「あら、勇者様」
勇者「おう賢者久しぶり! 元気してたか!?」
賢者「ええ。ルーラ教習の方はもう終わったのですか?」
勇者「いや、今まさに教習中だよ。始まりの村に飛ぶはずだったけどみんなの顔見たくてこっちに飛んで来たんだ」
賢者「ふふ、勇者様らしいですね」
勇者「魔法使いと戦士は?」
賢者「今はレベル上げに勤しんでますよ。この辺りはメタルスライムが出ていい稼ぎになるんだとか」
勇者「くっ……! あいつら着々と俺とのレベルの差をつけてるな……!」
賢者「ここの神官の話によるとここ最近でまたかなり魔王軍の勢いが増しているそうですから……二人も気が気でないのでしょう」
勇者「魔王め……!」ギリッ
勇者「俺もこんなことしてる場合じゃないな……!」
賢者「しかしルーラは大変危険な呪文ですから。しっかり教習した方が後の為ですよ勇者様」
勇者「わかってるさ……」
勇者「おっとそろそろ戻らないと。じゃあな賢者! 二人にもよろしく言っといてくれ! 後二、三日したら戻るからよ!」
賢者「はい。お待ちしています」
勇者「ルーラ!」ビュォーンビュォーン♪
賢者「勇者様……ご無事で」
ビュォーンビュォーン
ズサーーーーースタッ
勇者「へいお待ち!」
教官「全くどこに飛んでたのよ」
勇者「いやぁちょっと……」
教官「まあいいわ。ルーラ自体に問題はないしね。じゃあ今日の訓練はこれでおしまい。明日の訓練次第じゃ卒業出来るからみんな頑張ってね」
一同「はい!」
勇者「(あれ……あいつまだトイレか?)」
勇者「(……。ちょっと様子見に行ってやるか……ルーラの後遺症とかあるらしいし。一応この教習所じゃ同期だしな)」
────
西の勇者「ゲホッ……ゲホッ……ハア……ハア……」
西の勇者「なんで……なんでですの……何もかも完璧な筈なのに……!」
西の勇者「勇者にとって出来て当たり前の呪文でこんなっ……!」
西の勇者「っ!!!」
西の勇者「ゲホッ……!」
西の勇者「私は……本当は勇者なんかじゃないのかしら……」
西の勇者「なら……私は……」
勇者「……」
────
勇者「ただいまー」
東の勇者「お帰りなさい勇者様」
勇者「ふ~腹減った。売店に何か買いに行くかねー」
東の勇者「あっ、あの……勇者様」
勇者「ん?」
東の勇者「お口に合うかわかりませんが……晩御飯を作ってみました」
東の勇者「もしよろしかったら……ご一緒に」モジモジ
勇者「マジか! いや~助かるわ。 売店のだとゴールドもかかるわまずいわで……」
東の勇者「ふふふ///」
────
勇者「あ~美味かった」
東の勇者「ふふ、それを言うのもう何回目ですか。嬉しいですけど///」
勇者「いや~うちのメンバーは料理下手くそな奴らばっかりでさ~。一番美味いのが戦士の男料理ってんだから……」
勇者「賢者なんて『食事とは効率よく体に良いものを取り入れなければなりません』とか言ってあのクソ不味いかしこさの種とか砕いて入れるんだぜ?
それがもう不味いのなんの」
東の勇者「ふふっ。お姉ちゃんみたい」
勇者「東の勇者は姉さんいるのか~」
東の勇者「はい。とても立派で、今はもう旅立ってしまわれましたけど……元気にしてるかな」
────
勇者「じゃあ電気消すぞー」
東の勇者「はい」
……
…………。
東の勇者「勇者様……まだ起きていらっしゃいますか?」
勇者「ん? ああ。どうかした?」
東の勇者「……勇者様はどうして勇者になったんですか?」
勇者「……」
東の勇者「今は勇者システムが確立されて神託がなくともある程度適正があれば村や街から一人勇者になれる……けれどそれでも今の魔王は倒せず実質勇者は現状を維持する為の生け贄と言われてます……なのに何故」
勇者「まあ、な。実際神託が降りて勇者になった人は今はいない……」
東の勇者「ええ……。前王都の勇者は魔王に破れたと聞きます……」
勇者「その王都の勇者は……俺の兄貴だったんだ」
東の勇者「勇者様の……」
勇者「兄貴は強くてさ……15にしてほとんどの魔法を習得してたって言われてるのは本当だと思う。俺も良く色々教えてもらったよ」
勇者「剣でも一度も勝ったことはなかった。そんな兄貴が魔王に負けたって聞いた時、最初は信じられなかったよ」
東の勇者「勇者様……」
勇者「あんな強く、誇りを持っている人でも勝てないやつがこの世界にはいる……。そう思ったらなんだか我慢出来なくてさ」
勇者「それに街のみんなを守れるのは自分しかいないって言われたら、やっぱり行くさ。兄貴の仇討ち、強いやつと戦ってみたいっていう衝動、世界のみんなを自分の力で守れるかもしれないっていう勘違いで……俺は勇者になった、かな」
東の勇者「……やっぱり……勇者様はとても素晴らしい方です」
東の勇者「流されて勇者になった私なんかとは……」
勇者「……」
東の勇者「実力もなくて……ptの皆さんには迷惑かけてばかりで……」
勇者「そんなことないさ。それに戦うだけが勇者じゃない。このルーラだって使いようによっては凄い力になる」
勇者「勇者がモンスターを倒しそこに人が集まり村が出来る。その時色々な物資が必要だからルーラを使って手伝ったりすることもあるだろう」
勇者「村が段々大きくなって人が集まって平和に暮らす……。これほど幸せなことはない。こういう幸せへの手助けをするのも勇者の力だと俺は思う」
東の勇者「……素敵な考えだと思います。勇者の力……か」
勇者「ああ。だから東の勇者は東の勇者にしか出来ないことをすればいい」
東の勇者「はいっ。ありがとうございます……勇者様」
三日目
教官「いよいよね。この複数同時転移訓練が無事終われば最終試験、筆記試験両方合格で晴れて卒業よ。頑張って」
東の勇者「はい!」
勇者「ういーす」
西の勇者「……」
北の勇者「…」
教官「じゃあまずは東の勇者! 私達4人を含めてルーラしてみて」
東の勇者「は、はいっ!」
勇者「気楽に行けよー!」
東の勇者「はいっ!」
東の勇者「(まずは認識判定……。教官、西の勇者さん、北の勇者さん、勇者様……)」
東の勇者「(勇者様……。お兄様を亡くしてきっと辛いのに……それでも勇者になってみんなを守ろうとしてる)」
東の勇者「(同じ勇者でもやっぱり違うんだな……。ううんっ! ダメダメッ! 勇者様に言われたじゃない! まずは自分に出来ることを精一杯やろう!)」
東の勇者「(ルーラを覚えればパーティーのみんなの移動も楽になる! 戦闘じゃ守ってもらってばかりだけど……私だって勇者だもの! みんなの為になりたいっ! だから……!)」
東の勇者「……ルーラ!」テレテレテレ♪
ビュォーンビュォーン────
スタッ
教官「見事なルーラね。認識判定も完璧よ」
東の勇者「ありがとうございます!」
勇者「やったな東の勇者!」
東の勇者「はいっ!」
教官「じゃあ帰りも頼むわね」
西の勇者「っ……わ、わたくしはちょっと……」
教官「どうかしたの?」
西の勇者「……ちょっと私用を思い出しまして」
教官「訓練中よ、後になさい」
西の勇者「っ……!」
勇者「……あ~そういやお前この村の村長に言付けがあるとか言ってたよな。聖央教徒からの」
西の勇者「!?」
教官「……ふぅ。そっち方面のことなら口出し出来ないわね。行って来なさい」
西の勇者「は、はい」タッタッタ…
勇者「帰りついでにテストってことで俺も残ってますよ。あいつのルーラで帰るってことで」
教官「ほんと勝手ねあなたは……まあいいわ。彼女は昨日既にやってるし問題ないでしょう」
東の勇者「」ゴクゴク……プハーッ
東の勇者「では勇者様、また後で」
勇者「おう!」
教官「東の勇者ちゃんはmp総数を上げるのが目標ねぇ」
東の勇者「ハイ……ガンバリマス」
ビュォーンビュォーン
勇者「さてっと……」
西の勇者「……」
勇者「やっと見つけた。なーに辛気くさい顔してんだよ」
西の勇者「……知ってましたの? 私が……その」
勇者「ああ。昨日見ちまってな……」
西の勇者「……。笑いなさいな。ルーラ酔いする勇者なんて落ちこぼれもいいところですわ」
勇者「あのなぁ~……そんなことで卑屈になるなよな」
西の勇者「そんなこと……ですって?」
西の勇者「わたくしがこのことでどんなに悩んでいるかあなたにはわからないでしょうねっ!!!」ウルッ
勇者「そうじゃないって。そうなるなら克服すればいいってだけだろ?」
西の勇者「克服……出来るのですか?」
勇者「当たり前だろ」
西の勇者「でも……ここに来る前も昨日も散々練習したのに一向に治らなくて……」
勇者「原因がわかってないと治せるもんも治せねーよ。いいか? 酔いって言うのは三半規管が刺激されて起こるものなんだ」
西の勇者「そ、それぐらい……(し、知りませんでしたわ……てっきり何かの病かと)」
勇者「ルーラっていきなり飛び出して曲がって急降下して落ちるだろ?
だから酔い易い奴にはかなり来るんだろうな」
西の勇者「な、なるほど……」
西の勇者「じゃあどうすれば?」
勇者「体がそれをわかってれば大丈夫な筈だ」
西の勇者「体が……?」
勇者「じゃあちょっとやってみっか」
西の勇者「な、な、なんですのこれはっ!?///」
勇者「いいからいいから。お前がルーラ完璧なのは昨日でわかったし、後は酔いさえ克服すりゃあ合格間違いなしだろ」
西の勇者「でも……(お姫様抱っこだなんて……恥ずかしいですわ///)」
勇者「よ~し行くぞー」
西の勇者「ちょ、まさかこのまま飛ぶ気っ!?」
勇者「それ以外ないだろ?」
西の勇者「でもっ(こんな姿で着地したらみんなに見られて……でも酔いは克服したいですし……ああもうっ!)」
西の勇者「絶対治るんでしょうねっ!?」
勇者「任せとけって! ちゃんと体に意識させれば酔わないはずだ!」
勇者「じゃあ行くぜ! ルーラ!」ズォッ
西の勇者「んっ」
ビュォーンビュォーン
ルーラ中──
勇者「ルーラは目的地まで半円を描くように飛んでいくんだ」
西の勇者「っ──」
勇者「だからここまで上がるとくいっと曲がる」
西の勇者「んんんっ───」
勇者「でもってこっからストーンと落ちる」
西の勇者「んんんんんんんっ────」
勇者「後は地面にドーンってわけだ」
西の勇者「」
勇者「っと到着」
スタッ
教官「あら?」
北の勇者「……」
東の勇者「えっ……」
勇者「どうだった? 簡単だろー?」
西の勇者「どこがですのっ!!? そもそもあなたのルーラは荒々し過ぎ……あれ? 酔ってない……?」
勇者「だから言ったろ? ちゃんと体に意識させれば酔わないって。大方最初の方に怖くて目瞑ったりしてたのが癖になってたんだろ」
西の勇者「ふ、ふんっ(図星ですわ……)」カァァ
教官「なに~二人とも。急に仲良くなっちゃって」
西の勇者「ハッ! 下ろしなさいバカ!」
勇者「へいへい……」
西の勇者「ま、まあちょっとは感謝してあげるわっ!」
勇者「そうかよ。まあ次からは一人で頑張るんだな」
西の勇者「……うん。ありがとう、勇者」
勇者「ん? 何か言ったか?」
西の勇者「なんでもないわよっ!」
東の勇者「……」ジーッ
勇者「よぅただいま東の勇者!」
東の勇者「」プイッ
勇者「ええっ!? なんで!?」
教官「若いわね~」
教官「何かもうみんな大丈夫そうね。今年は優秀な子達ばかりで先生楽だわー」
教官「じゃあ北の勇者ちゃん、パパっとお願いしようかしらね」
北の勇者「……出来ない」
教官「えっ?」
北の勇者「……そもそもする必要がない」
教官「どうしてかしら?」
北の勇者「…私にはパーティーがいないから。一人では問題なく転移出来るので明日からは旅に戻ります」
教官「合格認がなければ二度と誰かを連れて飛べないわよ?」
北の勇者「……構わない。私はこの先パーティーを組むことはないから」
教官「はあ……ならもう勝手にしなさい」
勇者「……」
────
勇者「結局試験は明日に持ち越しか……」
東の勇者「そうですね」
勇者「北の勇者……なんであんなことを。あいつの力量なら複数転移なんて余裕だろうに」
東の勇者「そうですね」
勇者「……」
勇者「明日も晴れるかな?」
東の勇者「そうですね」
勇者「また来てくれるかな!?」
東の勇者「そうですね」
勇者「……(東の勇者が恐い)」ガクブル
東の勇者「(勇者様が他の誰かと仲良くしてると凄く嫌な子になっちゃう……なんでだろう)」
東の勇者「(……好きなのかな。わかんないよ、お姉ちゃん……)」
────
勇者「ふぅ……。東の勇者どうしたんだろう」
勇者「(まさか焼きもちか……? 焼きもちなのか……? いや、人生そんな簡単じゃないだろ……!)」
勇者「(きっとチャラい奴だと思って幻滅してるんだ……)」ズーン
勇者「(同期の為とはいえあんなことするんじゃなかったかな~……)」
ビシュンッ
ズバァッ
勇者「なんだ?」
勇者「こっちの方から聞こえたな……あれは、北の勇者か」
北の勇者「はぁっ! 」バシュッ! ズバァッ!
北の勇者「ルーラ!」ビシュンッ
北の勇者「はああっ!」ザンッ!
勇者「(すげぇ……! ルーラの勢いを使って斬りかかりを……!)」
北の勇者「ふぅ……」
勇者「凄いな。あれだけ使いこなせるなら複数人連れたルーラなんて余裕だろう?」
北の勇者「…見てたのか。覗き見とは感心しないな」
勇者「たまたま通りすがっただけだよ」
北の勇者「……そうか」
勇者「なぁ、聞いて言いか? なんで複数転移しないのか」
北の勇者「……。それを聞いてどうする」
勇者「ただちょっと気になっただけさ。嫌ならいいんだ。俺に話す義理もないしな」
北の勇者「……。戒めだよ。」
勇者「戒め?」
北の勇者「…私は昔、ルーラで仲間を見殺しにしたことがあるんだ」
北の勇者「モンスターに寝込みを襲われてな……全員がパニック状態でまともに戦えなかった」
北の勇者「私はみんなで逃げる為に何とか精神状態を保ち、認識し、ルーラを唱えた……けれど」
北の勇者「飛んだのは私一人だけだった……。戦闘中だったのもあるけど……私にはその場を早く逃げ出したいという意志が確かにあった!
それをルーラは読み取り私一人を飛ばしたんだっ……!」
北の勇者「そこはルーラで飛べないただの森だったからすぐには戻れなかった……。そして翌朝、そこに戻ってあったのはただの骨とちょっとの肉片だったよ」
北の勇者「体の3割あれば蘇生出来るが骨も誰が誰のかわからない……。残りはあの魔物達が持って行ったのかと思うと体がすくんだ……!」
北の勇者「これが北の神童なんて言われている勇者の本性だよ。弱くてどうしようもない仲間を置き去りにするクズさ」
勇者「……」
北の勇者「……野営してたのは私の新しい剣を買うためだったんだ……! 宿代をちょっとでも浮かせる為に……」
北の勇者「優しい人達だった……! 私みたいな小娘の勇者をバカにせず……本当に優しくて……ずっと……ずっと……!」
勇者「北の勇者……」
北の勇者「…だから、私はもう誰とも組まない。そして複数ルーラもするつもりはない」
北の勇者「…一人で魔物、そして魔王を殺す。それがみんなに唯一報いる道だから」
北の勇者「…じゃあ。短い間だったけど世話になった」
勇者「なら、ならなんでここに来たんだ!?」
北の勇者「……」
勇者「その気がないならこんなとこに来ないはずだ、本当は自分でもわかってるんだろう?」
北の勇者「……それは」
勇者「確かに仲間が死ねば辛いさ。自分の無力さを思い知る。けどだからって一人で立ち向かえるほど簡単な敵かよ!? 魔王は!?」
北の勇者「……」
勇者「本当にそいつらの仇を取りたいならパーティーを組んで本気で魔王を倒す覚悟を死んで行ったみんなに見せてやることだろう!? 違うか?」
北の勇者「……わかってる。わかってる……けどっ」
北の勇者「……人を連れてルーラしようとすると震えるんだ……体がっ」
北の勇者「他の人と組むのを許さないってみんなが言ってるみたいに……」
勇者「バカ。お前の為に宿まで我慢してくれてた奴らがそんな恨みがましいことするかよ」
北の勇者「でも……」
勇者「……じゃあ俺ここで寝てるから。複数ルーラの練習な」
北の勇者「えぅっ!? ここはたまにモンスターとかも出るんだぞっ!?
そんなところで寝るなんて正気かっ!?」
勇者「だから北の勇者がルーラで俺を安全なところまで移動してくれるんだろ?」ニヤニヤ
北の勇者「くっ……!」
勇者「じゃあよろしく!」
北の勇者「おい勇者! ちょっと……」
勇者「zzz……」
北の勇者「…まさか本当に寝ちゃった? 嘘……どうしよう」
明日の深夜には終わりますかね
勇者「くっ!体力も残り少ない…。薬草も無い…」
もんすたー「がおー」
勇者「バシルーラ!」
もうすたー「おいやめr」グシャ
ルーラで宅配、人運びの仕事開業したらぼろ儲けでわろた
北の勇者「……。まあ背負って行けばいいか」
勇者「(甘いな)」
北の勇者「よいしょっ」
勇者「(アストロン)」
北の勇者「ンッ、重たっ。全く持ち上がらない……。と言うか体が硬化してる……これって確かアストロンって呪文じゃ……」
勇者「zzz……」
北の勇者「勇者! 起きてるだろ!?」
勇者「zzz」
北の勇者「くっ……あくまでルーラさせるつもりか」
北の勇者「……わかったよ!」
北の勇者「やればいいんだろやれば……」
北の勇者「落ち着いてやればこれぐらい」
北の勇者「ルーラ」テレテレテレ♪
ビュォーンビュォーン
勇者「えっ、ちょっ、……置いてかれた」
勇者「どうしよう……」
ホゥ……ホゥ……
勇者「なるほど、ルーラで置いて行かれるとかなり切ないな」
勇者「……。」
シュタタタッ──
勇者「お、帰って来た。寝たフリ再開っと……zzz」
北の勇者「勇者ッ! 無事か!?」
勇者「zzz」
北の勇者「良かった……。」
北の勇者「……あの時も、これぐらい近くの場所に飛んでいれば……ッ」
勇者「……」
それからも北の勇者はルーラしては走って戻って来るということを何度も何度も繰り返した。
しかし、やがて諦めた様に勇者の横に腰掛ける。
北の勇者「…お前は優しいな、勇者。こんなことまでして私の過去を克服させようとしてくれてる」
北の勇者「…西の勇者がルーラ酔いしてるのは私も薄々気がついていた」
北の勇者「…でも私は見て見ぬ振りをした。言ったところでお節介だと思ったから」
北の勇者「でも勇者は違った。わざわざあんな芝居打ってまであっちに残って……克服させる為に色々やったんだろう?」
勇者「zzz……」
北の勇者「……私にはもう優しさとか、優しくする意味とか、仕方とか……よくわからないんだ」
北の勇者「それでも……今勇者がやってくれてることは優しさなんだなって……何となくわかるよ。ありがとう」
北の勇者「けど、もういいんだ。やっぱり私には出来ない」
北の勇者「置いて行ったみんなの顔がちらついて……どうしても認識出来ないんだ」
北の勇者「もし成功してもあの時もこうしていれば、とかきっといつまでも後悔し続ける」
北の勇者「だから……もう」
勇者「…………一番最初、置いてかれた時さ」
北の勇者「……うん」
勇者「やっぱり辛かった。なるほど、って思った」
北の勇者「……っ」
勇者「けど、北の勇者が走って戻って来てくれたの見たら……ああ、良かったって思った」
北の勇者「なんだよそれ」フフッ
勇者「その時他のみんながどう思ったのかは俺にはわからないけど、それだけ北の勇者のことを思ってくれてた人達を、北の勇者だって凄く思ってるんだって……わかったから」
勇者「迎えに来てくれた時、良かったって……思ったんじゃないかな」
北の勇者「……ンッ……グスッ……ホントに……そう思ってくれてるかな……?」
勇者「ああ。だからもう、二度とそんなことがないように。ここでちゃんと訓練して行こうぜ」
北の勇者「……うんっ」
勇者「さてと。帰るか」
北の勇者「…待って」
勇者「ん?」
北の勇者「……ルーラで一緒に帰ろう」
北の勇者「スーーーフゥ……」
勇者「いけそうか?」
北の勇者「…今なら出来そうな気がする」
北の勇者「(勇者はああ言ってくれたけど……本当は恨んでるよね。置いて行ったんだから、当然だ。ごめん、みんな)」
北の勇者「(今更許してなんて言わない。恨み続けてくれていいよ)」
北の勇者「(それでも……私は前に行くから。二度こんなことにならない平和な世界にしてみせる)」
北の勇者「(それが、勇者だって……この人に教えてもらったから)」
北の勇者「……」
勇者「……」
北の勇者「(後ろに勇者がいる。それを連れて二人で飛ぶイメージ……)」
北の勇者「ッ~……」
勇者「……北の勇者、手出してみ」
北の勇者「ん? ……あっ」
勇者「こうすれば嫌でも認識出来るだろ」
北の勇者「フフ、そうだな」
北の勇者「……ルーラ」
手を握り合った二人は光となって朝焼けの空に飛んで行った。
────
勇者「た、ただいま~……」
東の勇者「……」
勇者「ふぅ、さすがにまだ寝てるか」
東の勇者「また勇者様は他の子の手伝いですか」
勇者「お、起きてたのか東の勇者!? いや、手伝いって言うか……やっぱり同じ勇者としてこう……見過ごせないと言うかだな」
東の勇者「高説なお考え、さすがは勇者様です。ご立派でございますねー」
勇者「なんか言い方に棘があるな……」
東の勇者「気のせいですよっ」
東の勇者「(なんでこんなにも……嫌な気持ちになっちゃうんだろう)」
四日目
教官「……北の勇者、あなたは昨日でここを去ると聞いていましたが」
北の勇者「…昨日は申し訳ありませんでした。ちゃんと試験を受けさせてください!」
教官「……どういう心境の変化かしら?」
北の勇者「……。勇者は魔王を倒す為に旅をしています。神託がほとんど降りないこの時代、魔王は一人で倒せるほど甘くはありません」
北の勇者「一人で旅をすると言うことは勇者としての責務をも放棄した、ただの甘えです。それを気づかされました」
北の勇者「お願いします! もう一度、私に勇者たる資格を」
教官「……そう。わかったわ」
教官「これよりルーラ教習所、卒業検定を始めます!」
勇者「っしゃあ!」
西の勇者「わたくしにかかれば余裕ですわっ!」
北の勇者「…頑張ろう、みんな」
東の勇者「……(これで、最後。勇者様と居られるのも)」
勇者「よろしくお願いします!」
検定員a「」ジーッ
検定員b「」ジーッ
検定員c「」ジーッ
勇者「前方よし!」
勇者「後方よし!」
勇者「空、以上なし」
検定員a「」ジーッ
検定員b「」ジーッ
検定員c「」ジーッ
勇者「mp残量確認よし!」
勇者「認識判定! 検定員a、b、c様確認!」
検定員a「」ジーッ
検定員b「」ジーッ
検定員c「」ジーッ
勇者「近くにルーラ使用者……なし!」
勇者「行きます! ルーラ!」テレテレテレ♪
ビュォーンビュォーン♪
スタッ
勇者「どうでした!?」
検定員a「帰るまでが検定だから。私語は慎みたまえ」
検定員b「後この石ころは始まりの村のものではないね。一緒に持って来たと見なし減点対象とする」
検定員c「着地はもうちょっとゆっくりしてくれんかのう? じじいの腰にはちとキツイわい」
勇者「ぐっ……!(厳しいぃぃぃいいいい)」
勇者「(筆記試験まであんのかよ……)」
教官「始めてください」
勇者「(何々? ルーラで行くことの出来る街や村の名前を全て挙げよ? わかるかこんなもんパスだパス)」
勇者「(次は……ルーラの速度をxとした時、始まりの村からルーラ教習所までの距離をyとする、その時のルーラの秒速を求めよ? そんなもん知るかあああああああ)」
勇者「(こんな難しい問題わかるわけ……)」
東の勇者「」カリカリ
西の勇者「」カリカリ
北の勇者「」カリカリ
勇者「(うそーんみんなめっちゃカリカリしてるやん……! もしかしてわからないの俺だけか? ヤバいヤバいヤバい)」
教官「終了! お疲れさまでした」
勇者「」チーン
勇者「(終わった……何もかもが)」
西の勇者「筆記は簡単でしたわね」
北の勇者「…うん。実技もみんな上手く行ってたし、みんな揃って卒業出来そうだね」
東の勇者「(勇者様……)」
勇者「(落ちたらまた戦士にバカにされる……)」
教官「3時間後、ここで合否の発表をするのでそれまでにはまた集まってください。尚、今日卒業出来なかった人は更に三日間の追加教習があるのでお楽しみに」
勇者「(三日……だと)」
勇者「(これ以上あいつらとレベル離されたら……!)」
魔法使い『勇者のくせに一番弱いとかw ないわー』プッ
戦士『勇者はバカで弱いな』
勇者「(魔法使いはまだ可愛らしいから許せるが戦士だけには罵られたくねぇ!!! なんとかならないもんか……)」
勇者「(いやならねぇか……試験終わっちゃったしな……はあ)」
受付「大変です!!!」
教官「どうしました?」
受付「始まりの村がモンスターに襲撃されているそうです!!!」
教官「!!」
教官「バカな……あそこには大賢者様の結界があるはず……。
それに周辺のモンスター達は基本臆病で襲いかかって来るのも稀な低級モンスターなのに」
受付「知らせに来た兵から聞いたところによるとここいらじゃ見たこともないモンスター達ばかりらしいです」
教官「……わかりました。ここの職員全員で救助を……」
その言葉を待たずして一人窓から飛び出した。
勇者「……ルーラ」
落ちながらの詠唱、それでも心乱すことなく、
東の勇者「勇者様っ!」
東の勇者の声も届かず、始まりの村へと一目散に向かう。
勇者「(……魔王め!)」
わああああああああ
助けてくれええええ
何故村にモンスターが!?!?
お母さあああんっ
この村はもう駄目じゃあ……
勇者「くっ……! 酷いな」
女の子「きゃあっ」
くさったしたい「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
勇者「ッ! ニフラム!」
くさったしたい「ぎああああああああ」ジュアア
勇者「大丈夫かい?」
女の子「お兄ちゃんありがとう。っつ……」
勇者「足を怪我したのか。ちょっと待ってろ……ホイミ。……立てるか?」
女の子「うんっ。ほんとありがとうお兄ちゃん!」
勇者「みんなに教習所へ避難するよう言ってくれ。出来るな?」
女の子「うんっ! わかった!」タッタッタ
勇者「よし……後は」
勇者「トヘロス」
ガアアアアアア
グォォォォォ
勇者「(村全体に張ったが効果なしか……)」
勇者「(くさったしたいにさまようよろい、バブルスライムにスライムナイト……全部この辺りじゃ見かけないレベルのモンスターだな……)」
勇者「(魔王め、とうとう本気で侵略しに来たか)」
さまようよろい「……」ブンッ
勇者「っとぉ!」
勇者「(考えてる場合じゃないな。今は一匹でも多くのモンスターを倒す!)」
マドハンドabcが現れた
勇者「イオラッ!」
マミーが現れた
勇者「ゾンビ斬り!」
マタンゴabcdが現れた
勇者「ベギラマ!」
ギュェ
グギョギョ
キェップルゥー
勇者「ちっ……何匹倒しても沸いてきやがる!」
東の勇者「勇者様!」
勇者「東の勇者!? バカっ! 来るな!」
東の勇者「私も勇者です! 今剣を取らない勇者など勇者であらず! やぁっ!」
東の勇者の勇者のこうげき
さまようよろいに2のダメージ
東の勇者「えっ」
さまようよろいのこうげき
勇者「くっ……! 間に合えっ!!」
勇者は東の勇者をかばった。
勇者「ぐぅぅ」
東の勇者「勇者様!!! 大丈夫ですかっ」
勇者「うぉぉぉぉっ!」ザンッ!
勇者のこうげき
さまようよろいに80のダメージ
さまようよろいを倒した
勇者「大丈夫、だ。それより村人の避難の方は?」
東の勇者「今教官の人達がルーラで救助に当たってますが何分この混乱なので……一回に少人数しか移動出来ないそうです」
勇者「転移紋章があるのは中央広場だからな……敵も多いか」
勇者「……よし、転移紋章付近を俺達で護衛するぞ!」
東の勇者「は、はいっ!」
ギョギョギョ
クゥェー
キョゥキョゥ
村人「だめだぁ……囲まれてるだぁよ」
村人「わしらも早く転移してくれだ!」
村人「早くしろよ!!!」
村人「私が先よ!」
村人「オギャアアア」
教官「くっ……(こんな混乱の中でまともにルーラなんて。
下手したらモンスターまで連れて行きかねない……!)」
西の勇者「このままでは……」
北の勇者「…大丈夫、必ず、彼は来る。それまで持ちこたえよう」
西の勇者「!! そうでしたわね……!」
くさったしたい「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
女の子「きゃあああっ」
北の勇者「しまったっ!」
西の勇者「(この距離じゃニフラムが届かない……!)」
女の子「(助けて! お兄ちゃん!)」
勇者「ルーラァァァッ!」
瞬時に光の矢が走り、モンスターの目の前にいた女の子を抱き抱えると転移紋章のある場所へと降り立つ。
勇者「間一髪ってとこか」
女の子「お兄ちゃん!」
西の勇者「遅いわよ勇者!」
北の勇者「…待ちくたびれたよ勇者」
勇者「悪い悪い」
勇者「教官、俺達が時間を稼ぐので村のみんなをルーラで避難させてください!」
教官「でもあなた達だけじゃ荷が重すぎるわ!」
勇者「大丈夫です。曲がりなりにも勇者ですから」
教官「……わかったわ。でもくれぐれも無理はしないように」
勇者「はいっ!」
勇者「聞いての通りだ。教官達がここの村人を全員避難させるまで俺達で食い止める、いけるな?」
西の勇者「余裕ですわ!」
北の勇者「……」
東の勇者「……」
勇者「そういやみんなのレベル聞いてなかったな。作戦を組むのに参考にするから教えてくれ」
西の勇者「5ですわ!」
北の勇者「…10」
東の勇者「さっき9になりました」
勇者「ぶっ(低レベル過ぎだろおい……。いやルーラ教習に来るぐらいだから当然と言えば当然だが……)」
勇者「(どう考えても周りのモンスターはレベル15以上はないとキツい……しかも転移紋章付近は四方八方に囲まれてる……
さて、どうするか)」
勇者「……よし、みんなありったけのまほうのせいすいを出してくれ!」
勇者「全部で10か……十分だ」
東の勇者「これでどうするんですか勇者様?」
勇者「まあちょっとしたドーピングだよ」
勇者「すぅ……はぁ……いくぞっ!」
勇者「スクルトスクルトスクルトスクルトピオリムゴクッピオリムピオリムピオリムバイギルトバイキルトバイキルトバイキルトゴクッゴクッバイキルトバイキル……」
西の勇者「力が沸いてきますわ!」
北の勇者「(どれも勇者じゃ覚えられないような魔法ばかり……一体何者なんだこの人は)」
東の勇者「わぁ……」
勇者「ゲッフ……これでちょっとはマシなはずだ。ただ絶対無理はするなよ!」
勇者「俺が南を守る、後はみんなの祖国の方角を守れ、いいな!」
西の勇者「わかりましたわ!」
北の勇者「…わかった」
東の勇者「わかりましたっ」
勇者「いくぞっ!」
くさったしたい「あ゛あ゛あ゛」
北の勇者「くっ……!」
西の勇者「アンデット系はこの西の勇者におまかせあれ! ニフラム!」
くさったしたい「」ジュアア
北の勇者「…助かったよ」
西の勇者「ふふんっ」
東の勇者「やあっ!」
スライムナイトに30のダメージ
東の勇者「これならいけますっ!」
────
北の勇者「はあっ!」
西の勇者「てやっ!」
東の勇者「たあっ!」
ギョギョギョ
キィィィ
グガァ
北の勇者「…キリがないな」
西の勇者「このままでは数に押し込まれてしまいますわ……」
東の勇者「なんとかしないと……」
勇者「……」
勇者「……俺が10秒だけ時間を稼ぐ。その間に三人で協力して今残っている村人全員をルーラで転移させてくれ」
北の勇者「……無理だよ。まだ50人以上もいるのに一斉になんて……」
西の勇者「私達じゃ出来て1pt飛ばすのが精一杯ですわ……」
勇者「教官達もかなり疲弊してる。あれじゃここのみんなを転移する前にこっちが持たない。……頼むやれるのはお前達だけなんだ」
北の勇者「……」
西の勇者「……」
東の勇者「……やりましょう、皆さん」
東の勇者「今自分に出来ることを全力でやる。それが勇者様から教わったことですから」ニコッ
勇者「東の勇者……」
西の勇者「そうでしたわね……。最初から出来ないって諦めていたら何も出来ませんもの」ニコッ
北の勇者「…ああ。そうだな」ニコッ
勇者「持たせられるのは10秒だけだからな!」
東の勇者「はいっ」
村人「わしらはどうなるんじゃ……」
村人「」ガタガタガタ
北の勇者「怯えないでください。きっと大丈夫ですから」
西の勇者「ええ」
東の勇者「私達には……本当の勇者様がついてます!」
勇者「いくぜぇぇぇええええ!!!!!」テレテレテレ
勇者はライデインを唱えた。
転移紋章を囲むように蒼白い稲妻が迸る。
東の勇者「(認識確認、飛ばす人をしっかり頭に思い浮かべるっ)」
北の勇者「(……人が多すぎる。とてもこんな数運べない……)」
北の勇者「(いや、運ぶんだ! もうあんな思いは二度としたくない……!
みんなの思いも勇者の思いも無駄にしたくないっ!)」
西の勇者「(我が主よ、そして……勇者。私に力を)」
勇者「ぐぅ……」
蒼白い稲妻が晴れようとした正にその瞬間──
「「「ルーラッッ!!」」」
テレテレテレ♪
ビュォーンビュォーン♪
稲妻が晴れ、残されたのは勇者ただ一人だった。
勇者「やったな……あいつら」
勇者「さて、俺も行くとするか……ルーラ」テレテレテレ
mp が 足りない
勇者「えっ」
勇者「ルーラ!」テレテレテレ
mp が 足りない
勇者「は、ははは……」
勇者「(まほうのせいすいもないし……もう動く気力もない。万事休す、か)」
ウガァァァァ
ギュルルルル
勇者「(すまねぇな……魔法使い、賢者……戦士はどうでもいいや)」
勇者「(……兄貴。兄貴も死ぬとき……こんな孤独だったのか)」
勇者「(でも……みんなの為に死ねるんなら、勇者としては最高だよな)」
ビュォーンビュォーン
スタッ
東の勇者「勇者様っ!」ギュッ
勇者「うわっぷ。東の勇者!? なんで……」
東の勇者「勇者様が戻って来ないから何かあったんじゃないかって思って……居ても立ってもいられなくて」
勇者「だからってモンスター達の真っ只中に飛んでくる奴がいるか!」
東の勇者「それでも……あなたを失いたくなかったんです」
勇者「東の勇者……」
東の勇者「このまま飛びますから……しっかり捕まっててくださいね?」
勇者「お、おお(認識精度を上げるために抱きついてるだけでやましい気持ちはない……!)」
「グォォォォォ」ゴロゴロ
勇者「ッ!!!」
────
賢者「このモンスターは非常に危険です。自らを犠牲にして放つメガンテと言う呪文を唱えてくるからです」
勇者「ほうほう」
賢者「なので唱えられる前に倒すか逃げることをお勧めします」
勇者「へ~」
魔法使い「大丈夫大丈夫。いざとなったら勇者を壁にしたらいいのよ」
勇者「俺かよ! 普通戦士だろそういう役目は!」
戦士「痛いのはちょっと」
勇者「いや俺も嫌だよ!」
賢者「フフフ」
魔法使い「あははは」
賢者「それでこのモンスターの名前ですが……」
────
勇者「(ばくだんいわっ……! なんでこんなところに!!)」
ばくだんいわ「……メ…ガ」
勇者「(しかも今にも爆発しそうじゃねぇか!)」
東の勇者「行きますよ勇者様」
ばくだんいわ「…ン……」
勇者「(東の勇者は気づいてない……! このまま行けば確実に爆発に巻き込まれる……!)」
勇者「……」
勇者は東の勇者を突飛ばした。
東の勇者「……えっ」
勇者「ごめん、東の勇者。ルーラ」ビュォーンビュォーン
ばくだんいわ「……テ」
ズオォォォォォォォォ
東の勇者「勇者様……?」
東の勇者「勇者さまあああああああああああっ」
────
────
教官「今日、無事ここを巣立つ勇者達よ。先は長く険しくとも、ここで学んだ様々なことを……」
西の勇者「……」
北の勇者「……」
東の勇者「……」
あの後、全てをみんなに話した。
私を庇って勇者様が死んでしまったこと。
あの後、王都の兵隊や大賢者様などが派遣され、始まりの村は無事奪還された。
しかし、そこに勇者様の亡骸はなかった。
そして今日、私達はここを卒業する。
勇者様が死んでしまっても、また別の勇者が代わりとなって魔王を討つために旅をする。
ルーラを唱え、街から街へ、幾つもの死を乗り越えて旅をする。
この世界じゃ勇者が死ぬのは日常茶飯事だ。
それでも……
東の勇者「……」
私はきっと勇者様みたいにはなれないだろう。
誰よりも人思いで、誰よりも優しくて……誰よりも……暖かかった勇者様。
東の勇者「…………グスッ」
涙が止まらない。
気づけば他の二人も涙を流してた。
西の勇者は子供のように泣き、北の勇者は隠すように泣いていた。
他の人達はこれを嬉し涙だと思っているのだろう。時折拍手が鳴っている。
東の勇者「(勇者様……勇者様っ)」
願わくば、勇者様と一緒にここを卒業したかった。
笑うあなたの側に居たかった……。
教官「これにて、ルーラ教習所卒業式を……」
村人「なんじゃああの光は」
村人「おいっ! こっちにくるぞっ!」
ズォォォォン……!
教官「けほっけほっ! なにごとですか一体!」
「ふぅ……何とか間に合ったかな」
西の勇者「この声は……!」
「三日補習追加されたらたまらないからな」
北の勇者「…フフ、生きてると思ったよ」
まさか……まさか……!
勇者「さっ、卒業式の続きをやろう」
東の勇者「勇者様っ!」
────
ん、どこだここは。
勇者「あれ、生きてる?」
魔法使い「あれ? 生きてる? じゃないわよバカ!」バシィッ
勇者「いってぇ!」
魔法使い「心配させやがって……」
勇者「……なんか、ごめん」
賢者「お体の方は大丈夫ですか? 勇者様」
勇者「賢者。ここは?」
賢者「ダーマの神殿です。勇者様覚えてないのですか?」
勇者「いや……全く」
賢者「体が半分しかない状態で転移紋章の前で倒れてる時はびっくりしましたよ」
勇者「……そうか、あの時(東の勇者が爆発に巻き込まれないように遠くに飛んだんだっけ……)」
賢者「もう大変でしたよ。魔法使いは「勇者死なないよね!?ねぇ!?」って泣きながら聞いてきますし……」
魔法使い「う、うるさいっ」
勇者「……なんか色々迷惑かけたな」
賢者「いえいえ」
魔法使い「ふんっ。自爆魔法浴びて体半分残るなんてほんとあんた悪運だけはあるんだから」
賢者「始まりの村のことは聞きました。災難でしたね」
勇者「ああ……。まさかあんな外れの村にあれだけ組織的な動きをしたモンスター達が押し寄せるなんて……」
賢者「ですが派遣された兵達によって村は無事に奪還されたようですよ。あそこは勇者達にとっては第二のふるさとのような場所ですからね」
勇者「ああ……。ん……? ああっ……!」
魔法使い「どうかしたの勇者?」
勇者「あれから何日経った!?」くわっ
魔法使い「えっ、えっと……確か三日間ぐらい?」
勇者「くっ……! 卒業式終わったかな。もしそうだとしたらまた補習受けなきゃならねぇ!」
戦士「勇者、目覚めたか」ムキキッ
勇者「なっ」
戦士「ほら、おかゆ。食べろ」ガチムチッ
勇者「(バカな……! なんだこのオーラは!)」
戦士「あーん、しようか?」
勇者「ふざけんなっ! (これ以上差をつけられるわけにはいかねぇ!)」
勇者「教習所に行ってくる! まだ卒業式に間に合うかもだしな!」
賢者「お気をつけて」
魔法使い「早く戻って来なさいよ~」
戦士「うむ」
勇者「ルーラ!」
ビュォーンビュォーン
────
教官「今日晴れてここを卒業する勇者達に、幸があらんことを」
無事卒業式が終わり、それぞれが旅路に戻る。
勇者「みんな一度自分の故郷に戻るのか?」
西の勇者「ええ。お母様や司祭様にお顔を見せに行きたいですし」
北の勇者「私はまた故郷でパーティーを募ることにするよ。もう二度と誰も失わない」
勇者「……そっか!」
勇者「またどこかで会った時はよろしく頼むよ」
東の勇者「あの、勇者様……」
勇者「ん?」
東の勇者「……(ここで言わないと次に会えるのはいつになるかわからない……けど)」
東の勇者「……なんでもありませんっ」
勇者「?」
東の勇者「(この思いは、今の勇者様にとって重荷にしかならないから。
だから、今は……)」
東の勇者「魔王の城で会いましょう、勇者様!」
勇者「ああ! 必ずな!」
東の勇者「(この旅が終わって、世界が平和になったら……一緒に居てくれますか?)」
勇者「しかしまた魔王の城でとは大きくでたな~」ニコリ
東の勇者「(勇者様)」ニコッ
四方に散り、背を向け合う四人。
勇者「じゃあまたな!」
西の勇者「皆さんに神の御加護があらんことを」
北の勇者「…また、必ずどこかで。勇者」
東の勇者「勇者様っ!」
勇者「ん?」
東の勇者「……私、必ず立派な勇者になりますから!」
勇者「プフッ」
東の勇者「何がおかしいんですかっ」プクー
勇者「だってさ、もうみんな立派な勇者じゃないか」
西の勇者「ですわね」
北の勇者「うん」
東の勇者「……はいっ!」
「「「「ルーラ」」」」
テレテレテレ
ビュォーンビュォーン
四本の光の柱は四方向へ飛散し、瞬く間に消えて行った。
その姿を見たものは彼等のことをこう呼ぶ──
──勇者、と
終わり
ちょっと後日談
──親愛なる御姉様へ
無事ルーラ教習所を卒業出来ました。
最初は、様々な勇者の方達に気後れし、本当にこれから上手くやって行けるか不安で仕方ありませんでした。
けれど、ある方に出会い私は変われました。
その方は私と同じ勇者だけど全く別物で、いつも前向きに、みんなのことを思って行動する立派な方でした。
彼こそが本当の勇者なのだと、私は思っています。
彼ならいずれ、あの強大な魔王をも倒しうるでしょう。
でも彼だけに頼って、平和を待つだけの勇者にはなりたくない、だから自分に出来る精一杯のことを毎日頑張りたいと思います。
そしていつか世界が平和になったら、その時は彼に……なんて
御姉様も体を冷やさないようお過ごし下さいね。
──東の勇者より
賢者「あらあら」
勇者「賢者なに読んでんだ?」
賢者「ほんと勇者様はどこへ行っても大人気ですね」
勇者「へ?」
魔法使い「いいからさっさとレベル上げなさいよ! 勇者がパーティーの中で一番レベル低いなんて聞いたことないわ」
勇者「うぐっ」
戦士「大丈夫だ勇者。勇者は弱くても勇者だ」
勇者「おいそれ慰めてんのかバカにしてんのか迷うだろ!」
賢者「ふふふ」
賢者「(勇者様が今までルーラを覚えなかったのは多分お兄様に教えてもらった魔法のせいでキャパシティが足りてなかったんでしょうね)」
魔法使い「バーカバーカバーカ勇者ー」
戦士「勇者は弱くてバカだな」
勇者「くぉぉぉぉ」プルプル
賢者「(このままの方が面白いので黙っておきましょう)」
勇者「はあ……遊んでないでさっさと次の街に行くぞ!」
魔法使い「はいは~い」
戦士「荷物も忘れずにな」
勇者「わかってるって」
賢者「では、行きましょうか」
勇者「ルーラ!」
そして、彼らは今日も空を駆ける。
魔王討伐のその日まで……。
おしまい
遅くなってすいません
ちょっと色々あったもので
皆さん居眠りルーラや飲酒ルーラはしないように
読んでくださった方はありがとうございました
では
一応>>23が伏線となってますよ!
ドラクエごとに消費するmpが違うんですよねー
9と10だとmpは使わないそうです
勇者様は必死だったからルーラが発動したんでしょうねー
ちょっと言い訳くさいですねー
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