女「アタシと仕事、どっちが大事なのよ!」男「……」(36)

女「──んもう! いっつもアナタはそうなんだから!」

女「アタシのことなんか、全然考えてくれてないんでしょ!?」

男「……」

女「いい機会だし、この際ハッキリしてもらうわ!」

女「アタシと仕事、どっちが大事なのよ!」

男「……」

男「仕事は……大事じゃない」

女「!」

男「なぜなら俺は仕事が嫌いだ」

男「仕事は金のため、仕方なくやってるだけだ」

男「もし一生遊んで暮らせるような大金が入ったら、迷わず辞めるだろう」

女「!」ドキン…

女「……ってことは、アタシの方が大事なのね!?」

男「いや……お前も大事じゃない」

女「え!?」

男「お前と結婚したのは、世間体というものがあるからだ」

男「独身のままでいるより、結婚していた方がなにかと都合がいいからな」

男「もし、世の中の風潮が結婚などしなくていい、というものだったなら」

男「俺はお前と結婚してはいなかっただろう」

女「な……!」

女「なによそれ! じゃあ、アタシも仕事も大事じゃないってわけ!?」

男「そういうことになるな」

女「じゃあ、じゃあ……アナタにとって大事なものってなんなのよ!」

女「なんだっていうのよ!?」

男「……」

男「あえていうなら──」

男「地球かな」

女「は……!?」

女「なにをいうかと思えば……地球ですってぇ!?」

男「そうだ」

女「なにいってんのよ! 地球なんか、全然大事なんかじゃないわよ!」

男「じゃあ君に聞くが──」

男「君は地球がなくなったら、生きていけるのかな?」

女「!」

男「森林がないから、光合成による酸素供給は望めない」

男「大地がないから、石油を始めとした化石燃料もない」

男「というか、地球がなければ宇宙空間に放り出されてしまう」

男「そんな状況下で、君は生きていけるというのか!?」

女「いけるわ!」

男「な、なんだと……!?」

女「…………」ブゥゥゥン…

男(なんだあれは!? 両手から高エネルギーを持つ球体を生み出した!)

女「アタシは宇宙空間でも生き延びられるわ」ブゥゥゥン…

女「だけど、アナタはどうかしらね?」ブゥゥゥン…

男「!」

女「この星を消す!!!」バッ

男「し、しまったぁ!」

女「ふっとべ──────っ!!!」







ズアッ!!!!!

火星──

老火星人「────!」ハッ

火星人「長老! 勝負は……勝負はどうなったのですか!?」

老火星人「男はよくやった……」

老火星人「ワガママな女を相手に……圧倒的な強さで、口では完全に勝っていた……」

老火星人「だ、だが……追い詰められた女は……」

老火星人「地球そのものを消し去ってしまったのだ……」

火星人「そ、それはいったい……」

老火星人「地球がなくなれば、だれも生きてはいられまい……」

老火星人「あの女を除いてはな……」

火星人「そ、そんな……!」

火星人「ちくしょう……! なんてことだ……!」

老火星人「!」ピクッ

老火星人(つい先ほどまで地球が存在した場所を、超感覚で探ってみると──)

老火星人(まだ地球が存在する……!?)

火星人「どうしましたか、長老!?」

老火星人「も、もしかして……!」ピッ

女「ウソ、まだ地球が残ってる……!?」

女「ち……爆発に巻き込まれるのを恐れ、パワーを抑えすぎてしまったようね……」

地球「いや……」

女「!?」

地球「たしかに一度、君によって地球は消滅した」

女「なんなのよ! なんで地球がしゃべるのよ!?」

地球「俺は……さっきまで男だった者だ」

女「なんですって!?」

地球「宇宙空間では生存できない俺が、地球を消されても生き残るにはこれしかなかった」

地球「そう……」

地球「俺自身が地球になることだ!!!」

女「えええっ!」

女「アナタが彼だっていう証拠は……証拠はあるの!?」

地球「……」

地球「君はベッドの上で絶頂に達すると、決まってソーラン節を唄い始める」

女「!?」ギクッ

地球「君の下着はアリゲーターの皮で作った特注品──」

女「やめて、やめて、やめて! 分かった、もういいわ!」

女「だけど、地球になっちゃって、これからどうするつもり?」

地球「地球になってしまったからには、俺は再びこの大地に生命を繁栄させねばならない」

地球「俺はこの大仕事を、嫌々ではなくやりがいを持ってやっていくよ」

女「……」

女「結局、アナタにとって大事なのは、仕事だった……ってことなのね」

地球「いいや、それはちがう」

女「え……?」

地球「俺は地球になってようやく、君という存在の大事さが分かった」

地球「人間だった頃、俺は君がいたから嫌いな仕事を続けてこれたんだ」

地球「だけど、今の俺は地球であって、かつて君の恋人だった男ではない」

地球「だから、あえてもう一度いいたい」

地球「俺と……付き合ってくれないか?」

女「!」ドキッ…

女(付き合ってくれないか?)

女(つきあってくれないか?)

女(つきなってくれないか?)

女(つきになってくれないか?)

女(月になってくれないか?)シャキーン!!!



女「なる! アタシなるわ! アタシがついでに消しちゃった月に!」

こうして男と女は地球と月になった!!!









~ END ~

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