ベルトルト「もぐもぐごっくん」(158)


現パロ
エロ・グロ注意

子供の頃、友達とかくれんぼなんかしていて、親の隠したい物ものを見つけてしまったという経験はないだろうか。

俺たちもその例に漏れなかった。9歳のときだ。
幼馴染のアニとベルトルトが寝室で、父のDVDを見つけてしまった。

タイトルもないまっさらなDVD。その不親切さがかえって
好奇心をそそり、呪いのビデオあたりを期待して再生ボタンを押した。

……画面に女が映る。いいケツしていると思った。
女の背後には男が見切れながら立っている。
女がこちらを見ながら服を脱ぎだした。ませた子供だった俺は
ホンの少しその期待もあったので、つい身を乗り出した。
ベルトルトとアニは顔を背けていたろうか。
男が女の首を撫でて、

その次の瞬間、首が飛んだ。


・・

シガンシナ区 区立中学校

モブ「ニュース見た? 首なし死体の」

モブ「見た見た。首なしっていうか、バラバラ死体でしょ? 噛みちぎられたみたいな痕があったって」

モブ「怖いよな~、熊かな? もし熊に会ったらどうする」

モブ「まあ、そのときは生徒会長が守ってくれるだろ?」

ライナー「あのな……俺は熊とやりあえるゴリラじゃないんだぞ?」

ハハハハ……

モブ「でもそのライナーでも、人2人を庇ったら、さすがに手首傷めちまうんだな」

ライナー「ああ……、大した傷じゃないさ、大会近いだけに、練習できないのは痛いけどな」

クリスタ「あの、ライナー」

ライナー「クリスタ……」

クリスタ「さっきは本当にごめんなさい。わたしが窓にぶつかりそうになったのをかばってくれて……
それでそんなひどい怪我を」

ライナー「ああ……、見た目ほどじゃないんだ。それより、お前は大丈夫だったのか」

クリスタ「あ、うん。ライナーが手で頭を守ってくれたから、窓ガラスにぶつけなくて済んだよ、本当に……ありがとう」

ライナー「ふざけていた男子に突き飛ばされちまったんだよな。まあそれならよかった。気にするな」

クリスタ「ううん……、手首を怪我しちゃ、大変でしょう。生徒会の仕事以外でも、困ったことがあったら言ってね。
     なんでもするから」

クリスター アッジャアマタネ

モブ「……やっぱり可愛いなあ、1年のクリスタちゃん。生徒会の書記だっけ?」

モブ「射止めるならおまえだって言われてるぜ。
   実は今日のもそれを狙って? ライナー」

ライナー「そんな漫画みたいにいけばな。じゃあ俺は先に帰るぜ、おまえらも部活だろ」

オウ マタナー

・・

数十分後 ブラウン宅

パチン ガチャ

ライナー「ただいま」

シーン

ライナー(ああ、……誰もいないのか。……そりゃあ、いつもなら練習に行ってる時間だもんな。
     ……じゃあ、これはチャンスだ)

ガチャ

ライナー(父さんの書斎に忍び込んで……恐く母親も知らないコレクションから一つ拝借する)コソコソ

ライナー(家族がいない貴重な時間、青少年のやることなんて一つだろ。

     ……父お手製の、とっておきのコレクション)ペラ

カチャカチャ ゴソゴソ

ライナー(今日は……腹を裂かれて挿れられてる、金髪小柄の少女の生写真だ)

ライナー「……」ゴシゴシ

ライナー(腹から溢れる、少女の血は栄養に富んでさぞうまいんだろうな)

・・

同時刻 レオンハート宅

アニ「ただいま」

「アニ。聞いたか、お隣のライナーくんのこと」

アニ「お父さん。……耳が早いね。聞いたよ、怪我したんでしょ?」

「練習に行く前に、お見舞いに行きなさい。ほら、母さんからザクロをたくさんもらっていたろう」

アニ「お使いに行ってって、そう言ったらいいでしょ。……まあついでだし、行ってくるよ」

・・

ライナー「……うっ」

ピンポーン

ライナー「!」

ピンポーン

ライナー(誰だ? ……出窓から、玄関を……)ガラ

アニ「ライナー」

ライナー「……アニ」

アニ「生徒会のプリント、と、果物。危なかったね、あと少し出るのが遅かったら、1個わたしのお腹に入ってたよ」

ライナー「……。ああ……。悪いな」

アニ「上がるよ? これ冷蔵庫入れておくから」

ライナー「あ……おい、おい! ちょっと待て。……」

ガチャ ドタバタ

アニ「あ、これ野菜室で冷やして」

ライナー「お前な。自分で冷蔵庫開けて……家族か。……喉渇いてるだろ、茶くらいだす、部屋に行っといてくれ」

アニ「どうも」

パタパタ

ライナー(……生徒会の資料か。わざわざ来てくれたのか……帰る前に生徒会室によるべきだった、な、……)

ライナー(……待て)

バタン!! タタタ

ライナー(まずい)

ライナー(まずい、……まさか、俺は父の画像集を、放って……)

ガチャ!!

ライナー「アニ、」

アニ「……」

ライナー(……ベッドに座り込んで、背を向けて動かない。

     何を眺めているんだ。
     部屋に駆け込んで来て反応がないということは、……それだけの衝撃を受けるようなものを見ちまってるってことか)

アニ「……ライナー。これ……?」

ライナー「……」

ライナー(どうする。何と言い訳できる。
     
     それは間違って買ったものだというか? イヤ、アニは察する。妙に勘が良くて、かつ真面目なヤツだから。
     
     人食いの性癖なんて知られれば社会的に死んだも同じだ)

アニ「……あんたさ」

ライナー(もういっそ殺すしか?
     ……殺しても、致し方ないんじゃないか?

     殺して、食っても)

アニ「やっぱり、金髪小柄が好きだったんだね」

ライナー「ああ。あ?」

バサ

アニ「この、別冊マガジンカラーグラビアの……この子さ……。
   金髪碧眼小柄なんて、どう見てもクリスタなんだけど……」

ライナー「あ? おう。……」チラ

ライナー(アニが差し出したのは雑誌のグラビア。

     なら、父の冊子は。閉じたままだ。
     見られてない)

アニ「……ライナー?」

ライナー「……。……おまえな、勝手に男の雑誌を見るモンじゃないぞ」

アニ「ねえ。妙に動揺してたけど……、やっぱりやらしい目で見てんの……? この人と似てるクリスタのこと」

ライナー「ああ、クリスタとはけっこ……オイ」

アニ「……。恋も結構だけど。40センチも差があると、児童ポルノ引っかかりそうだから、気をつけなよ。
   それを心配してたら、つい色々考えちゃった」

ライナー「余計なお世話だ」

ライナー(……余計なお世話だ!)ガバ

アニ「うわ……襲ってきた、照れてるんだ? 出た。頭の中は少女! だけど腕力はゴリラ! さながら雌ゴリッ」

ドタバタ

・・


翌日 放課後 生徒会室

モブ「あの……副会長! サインください!」

アニ「……」

キャーッ

モブ「副会長のサインもらっちゃった! すごーい、格闘技も区で一番、それも美人の!」

モブ「サイン帳で一番価値あるよ~それ!」

ライナー「……モテモテだな、アニ。妬けるぜ」

アニ「……後輩の女の子にモテてもね」

ライナー「ほお……。その言い方、モテたい男でもいるのか」

ビュッ!!

ライナー「……っアニ、いきなりローキックはやめろ……! 図星なのか!?」

アニ「少女漫画好きは結構だけど。セクハラはやめて」ビュンッ ビュッ

ライナー「これだけでセクハラなのか……? ……おいっアニ! 本当に一回キックやめろ、やめっ」

バキッ!!

ライナー「!」

アニ「!」

……ツー

ライナー「……ああ、ほら。血……、鼻血出ちまったじゃねーか。うわ、アニ、おまえティッシュ持ってるか?」

アニ「あー……。あるよ。ホラ。鼻見せて」ゴソ

ライナー「ああ。手え汚れてるからそれを、……!?」

ガブッ

ライナー(……アニは、ティッシュを差し出したかと思うと、いきなり俺の鼻を噛んだ)

アニ「ん………」

ライナー(……イヤ、鼻を噛んでるというか。血を舐めてる)

ライナー「……アニ、……おま……汚いぞ……」

アニ「んっ」

ガブッ

ライナー「ん?」

ライナー(鼻血を追って舐めていたアニの舌は、飽き足らずに俺の口内に侵入した。

     侵入した)

ライナー「……ファーストキ」

・・

同時刻 生徒会室前

キャーッ

モブ「副会長のサインじゃん! よくもらえたねー」

モブ「生徒会入ってて、格闘技もできて、美人なんて、カッコイイよね。わたし憧れちゃう」

キャッキャ

ベルトルト「……」チラ

ベルトルト(ライナーとアニは、幼馴染だ。でも僕と違う)

ベルトルト(金色の髪、白い肌。親も優秀な優等生。華やかな彼らには多くの人が集まる。

      二人とは、注ぐ日の色が違うとさえ思った。

      きっと、これから、彼らは華やかな人生を送るんだろう。僕にはできない。
      でも二人のことが好きだから、できれば近くにいたい。

      だから……僕は、とにかく、彼らの邪魔にならないように、……)ガチャ

ベルトルト「……」

……ボト

コロコロコロ

ベルトルト「……?」

ベルトルト(ライナーとアニがディーブキスをしている)ドクン

ベルトルト「……!!」クル ダッ

ベルトルト(―――僕は足元に転がった給食エプロンを拾うと、まるでそんな球技があるかのように、
      低姿勢から加速してそこを逃げた。

      生徒会の人が声をかけてくれていた気もする。
      でも構ってられない。僕は現実から逃避した)

・・

ユミル「……ベルトルさーん、今日の生徒会の……、行っちまった」

クリスタ「どうしたんだろうね」

ユミル「それより、おまえ、その傷」

クリスタ「え?」

ユミル「手首。痣があるけど、なんだそれ」

クリスタ「ああ……、これ、転んじゃって。大したことないんだけどね……」

ユミル「でも、そんなとこ怪我するかあ? なんていうか、掴まれた痕みたいに見えるんだけど。もっとよく見せろ」

クリスタ「え、ちょっと、……あ! ごめん用事があるのを思い出した! 先に帰るわ」バッ

ユミル「え? おいクリスタ、……」

タッタッタッ

ユミル「演技がヘタなやつめ。……一人で生徒会室行くかあ……あ? ……」ガラ

・・

数十分後

アパート 廊下

クリスタ「……」ハー

ガチャ バタン

クリスタ「ただいま。……あ」

バシッ パシッ

「ぁあ……。誰、クリスタあ?」

クリスタ「はいはい、クリスタよ、母さん。……もう、昼間からまたお酒?」

「これくらい、なんてことないわよ。で、勉強は?」

クリスタ「今日の小テストはクラスで一番だったよ。……もう、また叩いてるの? ヒストリアを」

ヒストリア「……」

「あぁいい子ねクリスタ。 ……これからお店だから。こいつ、片しといて……。
 ご飯は適当にして、でも、彼が来たらちゃんとしたの食べさせたげるのよ」

クリスタ「はあい、いってらっしゃい。……まーた、ヒストリア、叩いたりして……。ほら、早くおいでヒストリア」グイ

ヒストリア「……」


・・

同時刻 フーバー宅

ガサゴソ

『手帳 2016』

ベルトルト「……」ハアー

ペラッ

ベルトルト「……」カキカキ

『今日、ライナーとアニがキスしているとこを見た。
 ただのキスじゃない。深いやつだ。
 それこそ、大人がするような。
 僕は二人が好きだから、彼らが好き合うのは喜ばしいことだ。
 よかったよかった。
 でもおかしいのは僕で、僕はそれを見て興奮してしまって、
 食べたいと思っ』

コンコン

ベルトルト「!」

「ベルトルト、入るわよ?」

ベルトルト「か、かあさん」(に、日記隠さないと……ポケット)「はい、どうぞ……」

ガチャ

「ご飯いらないなんて、どうしたの? 体調悪い? ……少し熱があるようだし」ペタ

ベルトルト「平気だよ。熱なんてないから」

「そう? ……はい、洗濯物。あと、宝物の鍵も、磨いてたでしょう。はい」チャリ

ベルトルト「あ……ありがとう」

ベルトルト(僕の宝物……。僕の家族がくれた、金色の鍵)チャリ

・・

同時刻 アッカーマン宅

エレン(金色の鍵)チャリ

エレン(父さんの。……はあ、いつになったら、父さん抗体開発の研究から帰ってくるんだよ……)

コンコン カチャ

ミカサ「エレン」

エレン「ミカサ。なんだよ」

ミカサ「お風呂あがったから、入ってって」

エレン「わかった……ツイッターしてるから、ちょっと待っててくれ」

ミカサ「また、アニとライナー?」

エレン「まあな。二人は格闘技の目標だから、いろいろ聞きたいんだよ。特にアニは親父さんがコーチなだけあって、技術が違うぜ」

ミカサ「わたしの方がアニより筋力はある」

エレン「だから、技術が知りたいんだって……。おまえの力技とは違うんだよ。大体、おまえだって俺といっしょに始めたんだから、
    まだまだ初心者だろ」

ミカサ「でももう先輩に勝てる。エレンが勝てない人にも」

エレン「う……っ」

カチャ

「エレン、洗濯物よ」

エレン「あ、ありがとうございます、おばさん」

「敬語を使わなくていいのに、あなたは私たちの親友の息子なんだから。
 ……ミカサ、せっかくエレンの個室なのに、入っちゃ意味がないでしょう」

ミカサ「去年までいっしょの部屋で寝てたのに」

「もうエレンも12歳なんだから。エレンもお風呂に入って、早く寝なさい。明日の朝も走るんでしょう」

エレン「はい。……よし、明日も早朝ランをして、お前なんてすぐ追い越すぜ、ミカサ」

ミカサ「エレンの早朝ランは早朝じゃなくて深夜」

・・

深夜

ベルトルト「……!!」ガバッ

シーン

ベルトルト(ゆ、夢……? ……!! あ、ああ……僕はなんて……!)ドクンドクン

ガチャッ バタバタバタ

「……ベルトルト? どうしたの、どこいくの? ベルトルト!」

バタン!

タッタッタッタ

ベルトルト「はあ、はあ、はあ……っ、!」

ドンッ!!

ベルトルト「……!」ドサ

エレン「……っいってえ……、す、すいません、大丈夫ですか……、ちょっと?」

ベルトルト「!」ムク タタタタタ

エレン「あの、ちょっと! どうしたんだあの人……。……ん? なにか落としてる……手帳?」ペラ

タッタッタッタ

ベルトルト「!」

ベルトルト(橋……、ここから、飛び降りれば……!!)ガチャン

ベルトルト「死にたい……死にたい……!」ガチャ

ガシ!

ベルトルト「……!」ドサ

新聞配達「おい、馬鹿か! なにしてんだ!」

ベルトルト「離してください! 僕もう死にたいんです!!」

新聞配達「ハア? なんでだよ!?」

ベルトルト「僕は異常なんです、と、友達の子を殺して、食べたいと思っていて……、あまつさえ、それで興奮して……!!
      いつか僕は大事な人を食い殺すんだ! 自分の欲求に負けて! だったら今死んだほうがましだ!!」

新聞配達「あのな、……しっかりしろ、あんたはただこじらせてんだ!!」

ベルトルト「こじらせてる?」

新聞配達「そうだよ、恋かなにかだ!」

ベルトルト「……恋……?」

新聞配達「そう。……いいから帰って寝ろ、親御さん心配させんな。あーもう時間がねえ、そうだ、おまえ新聞はどことってる?」

ベルトルト「は? ……区内新聞」

新聞配達「じゃあサービスでいいよ。大人になってもとれよ!」ガチャン ……シャー

ベルトルト「……。恋?」

・・

翌日 放課後

廊下

モブ「……ていうか、ユミルの噂知ってる?」

モブ「あー知ってる。ウリやってるっていう」

モブ「夕方繁華街で見かけたって、よく聞くもんね。親に捨てられて、でも内申点は取るために生徒会に……」

ユミル「なあ」

モブ「!!」

ユミル「クリスタどこにいるか知らない?」

モブ「ぶ、部室じゃないかな」

ユミル「そう。サンキュー」

スタスタスタ


モブ「……あ、焦った……」

モブ「あ、そういえばクリスタの双子の妹のことは知ってる?」

モブ「知ってる知ってる! 元々は超有名な子役だったもんね。
   クリスタも演技うまいから、やっぱり血だよ。
   何年か前に、精神病んで、声が出なくなっちゃったんだっけ」

モブ「可哀想だよね。それ以来、学校も行けてないんだって……」

演劇部 部室

クリスタ「……そう、わたしはわたし。誰にも、わたしの人生を邪魔させはしない!」

パチパチパチ

クリスタ「! ユミル」

ユミル「相変わらず、演技が上手い奴だな。さすが演劇部期待のエース」

クリスタ「来てたなら言ってよ。恥ずかしいじゃない。そっか、そろそろ生徒会の時間だね」

ユミル「ああ、わたしは今日用事あるんだ。これ生徒会室の鍵。……後からライナー来るから、全部押し付けとけ。
    大丈夫、あいつ優秀でお人好しだから」

クリスタ「駄目だよ、わたしこないだ助けてもらったくらいなんだから……」

ユミル「いいんだって。ああいうのは頼られると燃えるタイプだ。間違いなく。これはサービスなのさ」

クリスタ「ちょっと。人を小馬鹿にしてるような発言はやめて」ゴン

・・

翌朝

タッタッタッタ

ベルトルト(……恋、そうか、恋か)

ベルトルト(僕は、成長するにつれ、ライナーとアニを食べたいって欲求が大きくなっていて……。
      自分でも気持ち悪いと思うし、いっそ死にたいくらいだったんだけど)

ベルトルト(これは恋ってやつなんだ。僕は普通だ!)

ベルトルト(……昨日の橋……。……よ、よし、気分を変えるために……)ピタ

ベルトルト「……~~好きだーーーーー!!」

新聞配達「若いねー」シャー

ベルトルト「!?」


ベルトルト(うああああ……待てよ)

ベルトルト(これが恋だったら……ライナーとアニは好き合ってたんだから……僕は即フラれたってことじゃないか)

ベルトルト「……はああ……」

ベルトルト(……。アニだけじゃなくライナーも好きだし。下手に口にして気まずくなるなら、見なかったことにしよう。
      それで、永遠片思いだ。そうしていつか二人の結婚式で、ビデオを回して、それを見ながら泣きながらビールを飲むんだ……。
      きっとそれはいつもより苦くて……。それが分相応だ)

ベルトルト「……死にたい……けど、……水、冷たいから、あったかくなってからにしよう……」


ガチャ

ベルトルト「ただいま。……!」

「ベルトルト。早朝ランは結構だが、明日からは日が昇ってからにしなさい。母さんが心配している」

ベルトルト「は、はい……とうさん」

「まだ子供なんだから、わたしたちの言うことはきちんと聞くんだぞ」

ベルトルト「はい……」

スタスタ カチャ

ベルトルト(……あ、そうだ、今日思ったことを日記に……)ゴソ

ベルトルト「……。!?」

ベルトルト(手帳がない!? え!? 嘘! ……あ、そうだ、昨日ポケットにつっこんで……そのまま……、ま、まさか落とした!?)

ベルトルト(どうしよう! 誰かに見られたら!? 死にたい! イヤ死ぬ前に見つけなきゃ! 誰かスイッチ押したら爆発する日記帳を作ってくれ!)


数時間後 中学校

オハヨー オッス

ベルトルト(……手帳、見つからなかった……。今日は厄日だな……)

モブ「あ、あの! フーバーくん。ちょっと来て」

ベルトルト「あ、おはよう。なに?」

モブ「……あの、格闘技してるときのギャップがかっこよくて、好きになりました! 付き合ってください!」

ベルトルト「えっ」

イッタ! ガンバレー

ベルトルト「……。ごめん……僕、……今は練習だけでていっぱいだから」

モブ「……そ、そっか。そうだよね。……あ、急にごめんね! じゃあ!」タッ

ダイジョウブ? ナカナイデ……

ベルトルト(……いつもなら、めんどくさいって思っちゃうんだけど。どうせ付き合っても、思ってたのと違うって、
      すぐふられちゃうんだし。……でも、今日は胸が痛いな……)

・・


同時刻 ベランダ

アニ「……ふったね、アイツ」

ライナー「まあ、まだ恋とかできないだろ、ベルトルトは。……」

アニ「やっぱり、まだ話さないほうがいいってこと」

ライナー「そうだ……。仮説の実証は、もう少し待ってやれ」

アニ「……そうだね。一昨日考えた仮説は、しばらくは秘密だ」

~回想~

二日前、生徒会室 放課後

アニ「……ぷはっ」

ライナー(……俺のファーストキス……)

アニ「……実は昨日、生徒会記録と間違えて、あんたのベッドにあった画像集を見たんだ」

ライナー「!」

アニ「女の子のお腹を開いて、それに性器を突っ込んだり……、内蔵を食べていたり……」

ライナー「……」

アニ「生写真だったようだけど、出処は聞かないでおくよ。興味もないんだ、そこは……。
   そのときは気持ち悪いとしか思わなかった。ライナーも怖いもの見たさなんだろうと。

   ただ……、その夜。つまり昨日の夜、思い出して、興奮した。
   それには覚えがある。子供の頃、あんたの家で、間違って人食い映像を見た夜と同じ。

   ……つまり……あんたに変なの見せられて、性癖歪んだのかも。
   昨日の興奮を引きずってて、今、血を見たら、我慢できなくなった」

ライナー「……察してるだろうからいうが、あのDVDも写真も父の私物だ。
     それを初めて見たときは軽蔑した。父を人間的に尊敬できないと思ったくらいだ。

     ただ下半身はそれにしか反応してくれなくて、血を恨んでたんだが……。
     お前の言うとおり、子供の頃の刷り込みのせいかもしれんな。
     それなら、まだ治る見込みがありそうだ。初めて気づいた」

アニ「とにかく。もしそうなら、あんたに乙女の純潔を汚されたようなもんだ」

ライナー「ファーストキスを奪ったヤツのセリフとは思えん」

アニ「……この仮説を実証するなら。ベルトルトにも聞かないと」

ライナー「まあ然るべきときにしてやれ」

アニ「なんで?」

ライナー「あいつ精通もまだだから」

アニ「……」

~回想終わり~

アニ「……早く精通しないかな、あいつ……」

ライナー(……。そういえばベルトルトはアニのことが好きだったんじゃないか……?
     一昨日のことを知ったら憤死するのでは)ハッ

・・

放課後 廊下

ベルトルト「はあ……」トボトボ

ユミル「よう、元気でたか!!」バシッ

ベルトルト「いっ!?」ガクン ガシャン!

ベルトルト(痛、……なんだ、生徒会の人に……、ぶっ叩かれて……生徒会室のドアに顔からいっちゃったんだけど……)

ベルトルト「……あ」タラ

ベルトルト(うわー鼻血だ。カッコ悪い。とにかくティッシュ……)ガラ

ライナー「ようベルトルト」

ベルトルト「ライナー、アニ、悪いけどティッシュ……」ダラダラ

ライナー「あ”っ」

アニ「……」ダッ

ガブッ

ベルトルト(……?)

ライナー(あっちゃー)

ベルトルト(……アニにディープキスされている?)ドクン

アニ「ン……」

ベルトルト(……アニに、た、食べられ……、アニを食べ……)ドクンドクン ドクン! ……ガクッ

アニ「……ぷは。……あ」

ベルトルト「……」ダラン

ライナー「死んじまった……。アニ、おまえのソレ、重症だな」

アニ「おかしいな、他の人の血だとここまで反応しないんだけど」

ライナー「まあ俺はベルトルトを介抱してくるから」ガラ

アニ「え? どこ行くの、ここで寝かせればいいじゃない。
   それになんで体操着持っていくの? ……あ」

ライナー「察したようだから言うが、アニ」

ライナー「ベルトルトは言っちまえばせ―「ライナー」

アニ「あんたは、それが乙女に言うべきことだと思うの?」

・・

ライナー「……と、これが俺達の考えた仮説だ。ベルトルト」

ベルトルト「……う、うん。血に興奮するようになったのは……子供の頃の刷り込みってことか」

アニ「結構冷静だね」

ベルトルト「もう混乱通り越して、逆に……」

ライナー「しかし、ベルトルトは自分でしたことないから、なんで興奮するかは不明だな。
     強いて言うならアニだが。これじゃ結局仮説の実証はできてない」

アニ「どうするの?」

ライナー「……おまえらがこうなったのは、俺のせいでもある」チャキ

ベルトルト「ハサミを持って……どうしたの」

ライナー「だから……俺は年上として、責任を果たすことだ」ズパッ!

ベルトルト「!?」

アニ「! ちょっと。自分の腕を切ることないでしょ」

ライナー「普段、練習で怪我してるのに比べれば大したことないさ。
     ……で、なにか感じないか、ベルトルト。……ベルトルト?」ポタポタ

ベルトルト「……」

ベルトルト(なんだろう……ライナーが自分の腕を……既視感がある。
      ……僕は昔もこんな光景を……、ライナーに……)

アニ「!」

ガブッ

ライナー「……」

アニ「仮説成立だね」

ライナー「よし……じゃあこれからは、困ったときにはお互い助け合おう」

アニ「そうだね……。お互い食べさせ合えば合理的だ」

ライナー「ベルトルト。これは3人だけの秘密だぞ」

アニ「3人で墓まで持っていくんだ。いいね」

ベルトルト(! ……2人といっしょに……!)

ベルトルト「……うん! ?」

ライナー「ベルトルト?」

ベルトルト(なにか音が……気のせいかな)

クリスタ「……」タタタタ

・・

翌日 区内ジム

バシッ バシッ

エレン「ライナー! 久しぶりじゃねえか。腕は大丈夫なのかよ」

ライナー「ああ。しびれてる感じはあるが、これは前からだしな。
     もう問題ないぜ」

エレン「えっしびれてる感じ……? ソレって大丈夫なのかよ」

ライナー「問題ないね。ホラ、俺の筋肉を触ってみろよ」

エレン「おお……、固くて太い! 休んでたのにさすがライナーだな!」

ライナー「おまえも頑張れよ」

エレン「ああ! 来週の大会で、トリプル優勝だ!」

ライナー(……優勝の一つは、初試合のミカサで間違いないだろうな)チラ

ミカサ「……」バシッ バシッ

アニ「……。おとうさ……コーチ。ミカサのジョブ、また速くなってない」

「ああ。彼女はすごいぞ」

アニ「……。そう」

「まあ、技術はアニが頭超えてるがな」

アニ「……! そう」

・・

同時刻 生徒会室

クリスタ「……ユミル」

ユミル「ん? ポスターの整理終わったか。区内祭りの一件、めんどくさくってかなわねえよ」

クリスタ「あの……変なこと聞くんだけど。わたしのこと好き?」

ユミル「はあ? 決まってるだろ。愛してるぜクリスタ。
    この一件が終わったら結婚してくれ」

クリスタ「そう。……なら、証明してみせて」    

ユミル「証明って? ……」

クリスタ「わたしの血を飲んで、愛してるって、証明して」チャキ

・・

同時刻 区内ジム

アニ「ベルトルト。今いい? 手合わせしろって、コーチが」

ベルトルト「ああうん、もちろん」

バシッ シュッ

アニ(……相変わらず、そつなく技を避けてる。
   消耗させたとこで、長い手足の思い一撃を入れるのがコイツのやり方)

ベルトルト(……相変わらず、見事な技術だ。
      打撃の侵入角度が完璧で……、……最高に華麗だ)

アニ(……!)

アニ「そこ!」バシッ

ベルトルト「!」……ガク

アニ「あんたさ……手合わせしてると、急に動き悪くなる瞬間があるよね」

ベルトルト「!! ……そ、そうかな……」

アニ「手加減してるとかなら蹴り入れてやるから。ふう……」サスサス

ベルトルト「……ねえアニ。やられといてなんだけど……。
      少し、腕の振りが違ったよ。もしかして調子悪い?」

アニ「ああ……腕がしびれる。成長痛かもね」

ベルトルト「成長……」チラ

「アニ。ベルトルト」

ベルトルト「!」ギク

アニ「コーチ」

「そこでミカサとライナーが手合わせしているから、よく見とくんだ。

 ……ライナーはやはり素晴らしいぞ、アニ。現状、このジムで一番だ。
 このジムを継いでもらいたいくらいだな……」

・・

翌日、生徒会室

クリスタ「生徒会長。お疲れ様」

ライナー「クリスタ。おまえ一人か」

クリスタ「うん、ユミルは用事がある日みたい。
     来月の区のお祭りの準備の手伝いで、仕事が多いのに、ごめんね」

ライナー「俺も早く帰ることがあるし、お互い様さ。期日内に終わればいいんだ。
     じゃあクリスタ、冊子作りの続きをしよう」

クリスタ「うん!」ニコ

ライナー(天使か)

ライナー「……うっ」チク

クリスタ「ライナー?」

ライナー「ああ……スマン、ちょっと指切っちまった」

クリスタ「大丈夫!? あ……、血が冊子についちゃうね。……そうだ」

パク

ライナー「……!?」

クリスタ「あ……、口に含んだら、ついでに消毒もできるから……。
     でも、こんな汚いことして、ごめん……」

ライナー「……イヤ、助かる」

ライナー(結婚しよ)

クリスタ「ん……ん……。……」チラ

ライナー(あ……? ……マズイ)

ライナー「クリスタ、もういいぞ」

クリスタ「あ、うん。そうだよね。じゃあ、これ、絆創膏」ペタ

ライナー「ああ、ありがとう」

クリスタ「ごめん、こないだ助けてくれたお返しがしたくて、妙に張り切っちゃった」

ライナー「ああ……そういうことか」

クリスタ「ライナーはとっさに庇ってくれて、本当にいい人だよね」

ライナー「そりゃあ……男は女を守るものだろ。暴力なんかからさ」

クリスタ「……!? ……そうなんだ」

ライナー「? そうだろ」

クリスタ「そうなんだ……」

ライナー「そうだろ……」

・・

イエーガー宅

エレン「……ただいま」

シーン

エレン(たまに家に帰って掃除しねーとな)ゴシゴシ

エレン「地下室の方も……」

カツン、カツン、カツン

エレン(父さん……、『本当に困ったときは地下室に行け』って、真面目な顔して言ってたけど。
    地下室の扉の南京錠、2つあるんだよな)チャリ

エレン(もう1つの鍵はどこにあるんだよ……)ゴシゴシ

・・

商店街

アニ「先生の用事、結構早く終わったね」

ベルトルト「そうだね。アニは練習に行くの?」

アニ「大会前だしね……。アンタは行かないの?」

ベルトルト「行くけど、ちょっと本屋に用事があるんだ。
      ついでだし、寄ってから行くよ」

アニ「わかった。じゃあね」

ベルトルト「うん」

カランカラン

イラッシャイマセー

ベルトルト(アニもいっしょに……なんて言えたら……迷惑だよな、普通に)

ベルトルト「……ん」

『小説の書き方 ハウツー本』

ベルトルト「……」

ユミル「お、ベルトルさん」

ベルトルト「! ……ユミル」

ユミル「おう、同じ生徒会のユミルだよ。……なに見てんだ? ……ハウツー本?」

ベルトルト「あ……! イヤ、これは別に」

ユミル「また小説書くのか?」

ベルトルト「え?」

ユミル「結構前にさ。廊下で拾われた手帳に小説が書いてあって……。
    笑いのネタにされてたことがあったろ。

    それ、わたしも読んだんだよ。筆跡で分かった、あんたのだろ」

ベルトルト「……、……あ、そ、……うなんだ」

ユミル「安心しろ、誰にも言ってやしねーよ。わたしは面白いと思ったぞ」

ベルトルト「! ……ほ、本当に」

ユミル「ああ。最後のオチがいいと思ったな。
    あそこまで読まないと、わかりにくい話なんだよな。
    序盤で笑いものにしてるヤツは浅いなと思ったもんさ」

ベルトルト「……!」

ユミル「……ん?」

子供「うーん……届かない……」ググ…

ユミル(脚立に立って背伸びして、危ねーな)

ユミル「オイ、おまえ……」

グラッ

ユミル「! 危ない!」

ガシャーン!!

ザワザワ

ベルトルト「……ゆ、ユミル!」

ユミル「……ってえ~。オイ、大丈夫か……」

子供「あ、ありがとうございます……庇ってくれて……」

ユミル「危ねえんだよ、全く……。っつ!」

ベルトルト「ユミル。手首を捻ったんだよ、ちょっとリストバンドを外して見せて」グイ

ユミル「……! オイ!」

ベルトルト「……あ……」

ベルトルト(リストバンドの下……絆創膏だらけだ。……真新しい切り傷が……?)

ユミル「チッ」バシッ

ベルトルト「あっ」フラ

タタタタタ……

ベルトルト(走って行ってしまった。……僕はまた余計なことを……)

・・

数時間後 交差点

アニ「あ。エレン」

エレン「おう、アニ。練習帰りか?」

アニ「うん、あんたは今日来なかったね」

エレン「ああ、ちょっとな。ランニングだけはこうしてしてるんだけど」

アニ「わたしも走って帰ろうかな……、ん?」

エレン「? なんだよ」

アニ「あんた、それ、首……。鍵をかけてるの?」

エレン「ああ、まあな」

アニ(鍵っ子か。ベルトルトみたいだ)

エレン「……なあアニ、背の高い幼馴染ってどんなヤツなんだ」

・・

同時刻、繁華街の外れ

ガチャ

「おや、ユミルちゃん」

ユミル「こんばんはおじさん。会長さんいる?」

「ああいるよ。会長! ユミルちゃんだ!」

「……ああ、ユミル。どうしたんだい、アルバイトは」

ユミル「今日、早く終わったんだよ。帰って早めにご飯作りたいからさ。
    鍵貸して」

「すまないね、いつも家事を任せて。朝には区内新聞の配達までして」

ユミル「全然。足りないくらいさ、命の恩人なんだから。……」チラ

テレビ『……昨今のバラバラ死体事件は、食いちぎった痕から、
    不特定多数の人間によるもので……』

ユミル「……」

「おお、ユミルちゃんだ!」

「大きくなったなあ」

「美人になったね」

「体調はどうだい。もうすぐ、君の晴れ舞台だからね」

「そうだよ。祭りの日に、とうとう大仕事をするんだから」

「成功は、君にかかってるんだからね。頼むよ」

ユミル(……)

ユミル「ええ。勿論。……必ず、食人族に復讐します」

・・

同時刻、レンズ宅(アパート)

クリスタ「ただいま」

ヒストリア「……」

クリスタ「宝物はちゃんとある?」

ヒストリア「……」コク

クリスタ「そう」

「クリスタ! 仕事行くから、彼にご飯作るのよ!」

クリスタ「はーい! いってらっしゃい、お母さん!」

ヒストリア「……ねえ、ヤツがくるわ。早く」

クリスタ「う、うん。……はい、ヒストリア。制服」ヌギヌギ

ヒストリア「うん。はい、クリスタ。パジャマ」ヌギヌギ

ヒストリア「うん。じゃあね、クリスタ」

クリスタ「うん。じゃあね、ヒストリア」

バタン

ヒストリア「……」

ヒストリア(……わたしは本当はヒストリア。
      クリスタは双子の姉で、わたしは彼女の演技をしている。
      部活のある日は、入れ替わる。

      ……部屋にいるあいだは地獄だけど、宝物もあるし、大丈夫)ギュ

ヒストリア(イヤ、嘘だ……。部活動もいいけど、子供のときみたいに……
      もっと多くの人の前で……)

ガチャ

ヒストリア「!」

「おう、ヒストリア、元気にしてたか?」

ヒストリア「……」コク

「じゃあちょっと頼むわ」カチャカチャ

ヒストリア「……」コク

カプ

……ジュブジュブ

「おお、いいぞ……気持ちいい……」

ヒストリア「……」ジュブジュブ

「おまえが可愛いから、こうして閉じ込めてるんだからな。
 コレや殴るのは愛情表現だ。わかるだろ」

ヒストリア「……」ニコ

「良い子良い子……なんにも知らないお人形さんでいろよ……! ウッ」ビュビュ

ヒストリア(……。あ、……ためらわずに、飲み込むこと……)ゴクン

「よしよし……。ないと思うけど、ママには内緒だぞ。
 いやー悪いな、午前中にもさせたのによ、じゃあな」

バタン

・・


同時刻 ブラウン宅

ライナー「……」

ライナー(女子の絆創膏ってやたら可愛いのな。
     ……。さすがにこの手でシコるのは……。

     ……しかし、なんでだ。
     誰かを傷つけてないのに勃ちそうになった。

     ……治ってきてるのか。それともあの子相手にならちゃんとできるのか……)

コンコン

「ライナー」

ライナー「父さん」

「練習はどうだ。来週が大会だろう」

ライナー「ああ、問題ないよ。怪我の影響もない。
     不思議と、最近、妙に筋肉の付きもいいんだ」

「へえ、そうか。良いことだな。お前はまだまだ強くなる。
 いずれ本物の戦士になれるんだ。その名前みたいにな」

ライナー「そういう意味なんだってな。気に入ってるよ」

「それもあるし……お前の名前は、ブラウン家のかつての英雄の名前でもあるんだ」

ライナー「……先祖の名前をもらってたのか。初めて知った。
     ……他にも何か?」

「ああ。祭りの日は必ずあけておけ」

ライナー「? 当日は生徒会の仕事はないし、大丈夫だ」

「頼むぞ」バタン

ライナー(祭りの日……なにかあんのか?)

・・

同時刻、フーバー宅

ベルトルト(小説……書こうかな。とりあえずルーズリーフに……)

ガチャ

「ベルトルト」

ベルトルト「! と、とうさん」グシャ

「今度の大会で使いなさい、新しいグローブだ」

ベルトルト「あ、ありがとう」

「ベルトルト、おまえは俺の言うとおりにしていれば、必ず立派な人間になれる。
 能力はあるんだ。そして、華やかな人生を歩めるんだからな」

ベルトルト「うん……」

「……最近、ニュースで人を食べるだなんてやってるけど。
 あんなのは軟弱者がするんだ。おまえみたいに、心身を鍛えれば、あんな人間にはならない。

 よくニュースを見ているようだけど、影響されるなよ」

・・

同時刻 イエーガー宅

エレン「はい、麦茶」

アニ「どうも。誰もいないんだね……ご両親は仕事?」

エレン「父さんは仕事だよ。なんか、抗体の開発とかしてるから……
    区外にいるんだ」

アニ「そうなんだ……、あれ。この写真……女優のカルラじゃない」

エレン「あー、うん……俺の母さんなんだよ」

アニ「! ……すごいね。ウチの父さんが好きなんだよ、……」

アニ(……そういえば、カルラって3年前くらいに殺されて……)

アニ「あ……ごめん」

エレン「イヤ、ちょっと経つし、もう平気だ。俺は……母さん殺したヤツのこと、
    絶対に許せねえけど。
    俺が強くなりたいのって、母さんを守れなかったためでもあってさ」

アニ「そう」

エレン「……あー……、そのときから、父さんも異常なくらい、研究にのめり込んじゃってさ。
    仕事で忘れたいんだろうけど……。それでこんな状態なんだよ」

アニ「そうなんだ。……ウチの父さんも、コーチの仕事にのめり込みすぎでさ。
   家でもわたしを生徒みたいに扱うんだ」

エレン「ハハ。……お互い、父親には困ったもんだな」

アニ「ふ……そうだね。
   お茶ありがとう、エレン。……そうだ、今度稽古つけてあげようか?」

エレン「!! いいのか!」

アニ「いいよ。……誰かを守るためなんて、なかなか言うじゃん」

・・

翌日 放課後
公園

コニー「しっかし、祭り、すごい数の花火あげるんだなあ」

ジャン「重たくってかなわねえよ。見てるだけが一番だ。……ん?」

ジャー

ユミル「……」ジャー

コニー「公園の花に水やり? ……え、アレユミルか?」

ジャン「ユミル……だな。以外な趣味もあったもんだ」

ユミル「? ジャン、コニー……おい、何か言ったか」クル

ジャン「いやあ、別に」

コニー「クソ女がお花の水やりなんて似合わねーな」

ジャン「……」

ユミル「こりゃバイトの一環なんだよ。金稼ぎだ。
    ……さあ、生徒会の使い走りは帰った帰った。
    お、コニーの頭も水やれば、なにか生えるんじゃねえか?」バシャ

コニー「は? ……うわっぷ、馬鹿、やめろ! 花火湿気るだろ!」

ジャン「うわ!? クッソ、マジでやめろ! 担任に殺されるだろうが!」

クソー コノクソオンナー

ユミル「ダハハハハハ……」

クリスタ「ユミル!」

ユミル「お、クリスタ。なにしてんだ」

クリスタ「わたしも買い出しだよ。二人と合流しようと思ってたんだけど……。
     綺麗に咲いてるね、花」

ユミル「祭りにあわせて育ててるんだとよ」

クリスタ「白い百合。純潔って意味があるんだよ。ユミルににあってる」

ユミル「……。口説いてんのか、クリスタ」

クリスタ「違うよ……」

・・

翌日 放課後

生徒会室

ベルトルト「……うっ、痛」チク

アニ「なに?」

ベルトルト「指、切っちゃったよ……」

アニ「貸して」カプ

ベルトルト「あっちょっと」

ベルトルト(アニに指を食べられちゃった)

ライナー「おいおい……」

アニ「はあ……おいしい。まるで吸血鬼だね。ライナーももらったら」

ライナー「……そうだな」ガタ

ベルトルト「えー……」

パチン ガラガラッ!

3人「「「!」」」

ユミル「おう、お楽しみ中のとこ悪いが……、わたしたちもちょっと混ぜてもらえないか……?」

クリスタ「……」ハアハア

・・

ライナー「……そうか、俺達が食い合ってるの、クリスタが見てたのか……」

ユミル「ああ。それ見て、妙なモンに目覚めちまったみたいなんだよ」

ベルトルト(ユミルの手首の傷は、そのときついたものだったんだな)

アニ「……それで? いっしょにしたいって、どうしろって言うの」

ユミル「こいつ、食欲尋常じゃねえんだよ。わたし一人じゃ身がもたねえ。
    貧血気味だ、マジで。だからたまに血を飲ませるなりなんなりしてくれねえか」

ライナー「……そうだな。俺達にはその責任がある」

アニ「……」

ベルトルト「だけど、彼女らに見られてたなら、なおさら……。
      ここでそんなことをするのは危険ってことじゃないのか」

ユミル「うーん……口でするから、やらしく見えるんじゃねえの」

ライナー「どういうことだ」

ユミル「ライナーさん。責任とってくれるなら、ちょっと手切ってもらっていいか?」

ライナー「……。……ああ、そうだな」

スパ

ユミル「よし。わたしもさっき切られた痕があって、ちょっといじると血がでる……イテテ。

    傷口同士をくっつければ……」

ライナー「おいおい……」

ピタ

ユミル「血の交換だ。これなら、いやらしくない」

アニ「ふうん。わたしは、食べたい衝動さえ収まれば、なんでもいいんだけど」

クリスタ「……少し、試してみようよ。全員で……血を交換しよう」

ベルトルト「……」

スパ スパ

ベルトルト(やらしくはないけど……集団リストカットみたいで……こっちのほうがヤバイような……)

ライナー「……多少、興奮はあるが。食ったときほどじゃないな」

ユミル「だめかあ」

ライナー「……イヤ、見られることについては、俺も危惧していたんだ。
     いい場所がある」

・・

数十分後 交差点

アニ「……空いてる部室を使おうなんて。生徒会長は言うことが違うね」

ベルトルト「そうだね……。大丈夫かな」

アニ「大丈夫かどうかでいえば、大丈夫じゃないよ。
   わたしたちが傷つけ合ってる時点で。知られれば世間の目は冷たいよ。
   できることなら治したいよね」

ベルトルト「……。……そういえば、アニ、このあいだエレンといっしょに帰ったんだってね。
      稽古もつけてたし、仲がいいね」

アニ「え? ああ、うん……。帰りにエレンの家にも寄らせてもらったんだ」

ベルトルト「エレンって、どこに住んでるの?」

アニ「割と近いよ。……でもご両親今いないから、ミカサの家で暮らしてるんだって」

ベルトルト「へえ……。ご両親いないって、仕事?」

アニ「……ああ。……言いふらすようだけど。おじさんはそう。おばさんは亡くなったって」

ベルトルト「……。そっか」

・・

数十分後 フーバー宅

ベルトルト(エレン……家族を亡くしてたのか……)

ピッ

テレビ『……この一連の事件で思い出させるのに、3年前の
    女優、カルラ・イエーガーの惨殺事件があります』

ベルトルト「……。……!」

ベルトルト(カルラ・イエーガー? ……エレンにそっくりだ。
      まさか……)

テレビ『イエーガーさんは結婚後芸能界を去りましたが、
    3年前に自宅で殺され、無残な姿で見つかりました。
    第一発見者は息子さんで、食べられるところを見たと……』

ピッ

ベルトルト「あ」

「……ベルトルト、食事にするから、消しなさい」

ベルトルト「……は、はい」

・・


数日後
第一ジム

ワーワー

司会「中学の部、優勝はライナー・ブラウンくん!」

ワイワイ

アニ「……すごい、取材に囲まれてるね、ライナー」

ベルトルト「うん。……でも、腕、まだ悪そうだよね」

アニ「そうだね」

ベルトルト「君もさ」

アニ「……わたしが準優勝なのは怪我のせいだよって言いたいの?」

ベルトルト「い、イヤ、そんな……。準優勝でも十分すごいよ。
      僕は万年3位で、表彰すらされてない」

アニ「本気だしてないクセに……。子供のときのこと、覚えてる?
   あんたでかいくせにいじめられっ子でさ……。

   3人の誰かが助けてって叫んだときは必ず駆けつける、なんて決まりも作った。
   で、あるときわたしが助けてって叫んだら、相手ボコボコにしてくれたじゃない」

ベルトルト「イヤ……そもそも向いてないんだよ……戦うこと。向いてるといえば、ミカサだね。
      アニと違う階級だけど、初心者で優勝だなんて……」

アニ「そうだね。認めざるをえないな。……」チラ

エレン「……」ギリ

・・

翌日 区内ジム

バシッバシッ

エレン「アニ、どうだ?」

アニ「……駄目だね。力みすぎだよ。空回ってる」

エレン「クソッ。……いや、悪い……落ち着かねえと……」

「アニ。ちょっとこっちに」

アニ「はい。……エレン、コーチが呼んでるから……。
   ……あ、ベルトルト!」

ベルトルト「え、なに?」

アニ「今自主練でしょ。ちょっとエレンとやってて」タタタ

ベルトルト「え……、うん」

エレン「よお……初めてだな。いいか?」

ベルトルト「ああ。君、気合入ってるから、すごいなと思ってたんだ。
      お手柔らかに頼むよ」

エレン「ああ。……」

バシッ バシッ

ベルトルト(アニの言うとおり、力みすぎてるかもな……。
      にしても、すごい気迫……。相手選手は相当ひるむぞ)

エレン「……ッ」

バシッ!!

ベルトルト(……本当に、殺されてしまいそうだ)

エレン「……ああ、ベルトルト、ちょっとストップ」

ベルトルト「うん、休憩する?」

エレン「イヤ、思い出したんだ。おまえに渡すものあってさ。
    カバンに入れてきてたんだ」ゴソゴソ

ベルトルト(? 渡すもの? ほとんど初めて話したのに……なんだろう)

エレン「コレ、おまえのだろ」

ベルトルト「え、……」

ベルトルト(……僕の手帳。……この間、なくした……)

エレン「悪い。開いてたから、中身、見ちまった」

ベルトルト「え……あ、……」

ベルトルト(中身。……食べたいって、散々、書いて……)

エレン「続きやろうぜ」

ベルトルト「……」

バシッ バシッ

ベルトルト(……エレンのお母さんは、食われて、殺された……エレンはそれを見て……。!)

バシッ!!

ベルトルト「……っう!!」ドサ

エレン「……!!」

ベルトルト(マウントポジション……、!)

ガンッ バシッ

ベルトルト「……っつ……!!」

ベルトルト(顔に、思い切り……)

エレン「……ッ!」ガバ

ガブッ

ベルトルト「!?」

ベルトルト(首を、噛み……!? なんで、……く、食われ……)

エレン「……!!」ガジガジ

ベルトルト(か、噛み切りは……しない……よな……。?)

カチャ

ベルトルト(……鍵だ。僕と同じ?)

ミカサ「エレン」

エレン「!!」ハッ

ミカサ「エレン。それは反則」

エレン「……。わかってるよ」ムク

アニ「ベルトルト……ちょっと、大丈夫? 鼻血でてるよ」

ベルトルト「……」

ベルトルト(……殺されるかと思った)

・・

数十分後 イエーガー宅前

クリスタ「……エレン」

エレン「クリスタ。久しぶりだな。何か用か?」

クリスタ「……カルラおばさんの写真、見てもいい」

ガチャ

エレン「本当に久しぶりだなあ。おまえがうちに来るの」

クリスタ「下手したら、カルラさんが亡くなったとき以来ね。
     グリシャおじさん、それから仕事が忙しかったから」

エレン「そうだな。学校でもクラス違うから、みんな従兄弟って知らないと思うぜ」ハハ

クリスタ「……エレン、なにかあったの?」

エレン「え?」

クリスタ「怖い顔をしてるよ。……カルラおばさんが亡くなってすぐのときみたい」

エレン「……そうか」

クリスタ「うん。犯人も捕まったんだし。そんなに気にしてたら、
     かえってカルラさんが不憫だよ」

エレン「……母さんが不憫?」

クリスタ「気持ちが先走りすぎてるって、いつも言ってたじゃない。

     もう少し、気楽に生きなよ、エレン」

エレン「……そういうものなのか。……」

・・



エレン「……」ゴロ

エレン(妙に目が冴えて、眠れん……。……あークソ、……)

ガブッ

エレン(……あ。気がたつと、手を噛む癖……。
    母さんからも治せって、言われてたのにな。
    亡くなってからは、なおさらひどくなっちまった。
    一時は血だらけにしちゃってたんだっけ)

エレン(……治るかな……イヤ、治さねえと……。
    もう、俺の仇はいないんだから……。そうしないと、いつか、
    今日みたく誰か殺しちまいそうだよ)

・・

翌日 放課後

エレン「よっと……」

エレン(ウチのクラスが担当の花火は、これで全部だな。
    校門の側の倉庫に……)フラ

エレン「あ!」ズルッ

バラバラバラ

エレン(マジかよ……手がすべって、花火ぶちまけちまった)

エレン「あーあー。……、!」

アニ「どうぞ」

エレン「……ああ、ありがとよアニ」

アニ「……やけに顔色悪いけど。寝不足?」

エレン「イヤ、別に……」

アニ「大会の後で疲れてるんだから、無理しないほうがいいよ」

エレン「ああ……」

アニ「……。……っつ!」バッ

エレン「! 大丈夫かよ」

アニ「ガラスの破片かな……。切っちゃったよ」

エレン「……ああ」

エレン(おかしいな……不思議とアニの指先に目がいく)

アニ「……。砂とか、入ってないかな」

エレン「ちょっと見せてみろよ」

エレン(アニの指先が近づいて、……)

カプ

アニ(……)

エレン「! あれ……? なんでだろうな。舐めちまった。悪い」

アニ「いつもそうなの?」

エレン「いつもって? 初めてだよ、こんなことをするのは」

アニ「昨日、ベルトルトを噛んでたのは?」

エレン「ああ、アレ、反則なんだな。知んなかったんだ。ただ夢中で。……」

エレン(昨日から、おかしいな。……なんで血を見て食いたいとか興奮したりするんだ。気持ち悪ぃ……)

アニ「……。ちょっと来なよ」

・・

エレン「空いてる部室……、入れるのかよ」

アニ「特別だよ。……ほら」グイ

エレン「な、なんだよ」

アニ「もうちょっと頼むよ。血、止まんないんだ」

エレン「自分でやれば……、……わかったよ。そんな怖い顔するな」

カプ

アニ「……」

エレン(う……やべえ。なんだこれ。妙にうまい。

    でもこれじゃまるで……、母さん殺したヤツと同じじゃ……)

プハッ

エレン「アニ、おまえさ、なに考えて……」

アニ「おかしいと思う?」

エレン「あ、当たり前だろ!」

アニ「そうだね。でもそれが自分の本質なら、それから逃げることはできないんだ。

   ……ならいっそ、うまく付き合う方法を探したほうがいいと思わない?」

エレン「はあ? なんだそれ、……!」

アニ「……」グイ ガブ

エレン(いって、……指を噛まれて……。……)

アニ「ハア……。おいしい」

エレン「……お前もそうなのかよ、アニ……」

エレン(母さんを殺したヤツと……、イヤ、俺と同じ? ……)

アニ「こうしていれば、誰にも迷惑かけないで済むよ。
   わたしやあんたの他にも、この衝動で悩む人はいる。
   ……まあ、無理にわたしたちに加われとは言わないけどさ。
   一応善意で言ってるんだ。来たかったら来なよ。歓迎する」

・・


数日後 

1年教室 昼休み

ミカサ「エレンがおかしい」

アルミン「ああ……放課後の生徒会のこと? エレンは委員長だから、仕事があるのは
     仕方がないとは思うけれど」

ミカサ「妙によそよそしくなった」

アルミン「エレンも年頃だからね……」

ミカサ「それに、変な傷がある」

アルミン「え、傷?」

ミカサ「ええ。……先輩にいじめられているに違いない……」

アルミン「うーん……。確かに、エレンの正直さは反感を買わないとは言えないからね。
     でももしいじめられてるなら、そんな従順に毎日向かわないと思うよ」

ミカサ「アルミンがそう言うなら、信じよう」

アルミン「でも何かに騙されて、利用されてる可能性はあるね。エレン素直だからさ。
     中学に入ったばかりで、勝手もよくわからないし」

ミカサ「……もしかして、あの女狐に……」

アルミン「……。仕方ないよ。1年の僕らは、ここじゃ弱者なんだから。

     不思議とこの学校じゃ、年齢による上下関係をほとんど感じないんだけど。
     能力は確実に、年齢と比例しているんだから。僕らはここじゃ子羊と同じだ」

ミカサ「……。子羊?」

・・

放課後 部室棟前

「コレが、湿気っていた花火だな。……確認するが、初めから湿気っていて、
 おまえたちがふざけて水に濡らしたんじゃないんだな」

コニー「は、はい」

ジャン「もちろんですよ、先生。そんなことしませんって……」

「そうか。……しかし、勿体無いな。試しに、コレで一度火をつけてみろ。
 くれぐれも悪ふざけはするなよ」

コニー「はい」

ジャン「……はあ、ユミルのおかげで余計な手間だ」

コニー「一つ試し打ちするんだよな」

ジャン「小さいのにしとけよ……ん?」

ズルズル……

エレン「おいミカサ、離せよ! 俺はいくとこがあるんだって!」

ミカサ「だめ。そこに行き始めてからエレンはおかしい。今日は休んで」

ジャン「チッ、なんだよミカサに構われやがって……」

コニー「ジャン、点火したぞー」

ジャン「おう。……!? オイッ、バカそれ打ち上げ花火だろ!!」

コニー「え? マジ?」

ジャン「早く火を消せ! 火を……、ダメだ導火線が短けえ……ッ」

ドオ……ン

「なんだ!? 部室棟で爆発があったぞ!」

コニー「……や、ヤベエ! 先生すいません! 俺達です、花火が暴発して!」

ジャン「俺達じゃなくてお前だけだし花火だって暴発してねーよ!! お前がバカなだけだバカやろー!!」

「危なかった……爆発したのは空き部屋だ……」

「イヤ今は生徒会が使ってる! 大丈夫、か……!」ガチャ

・・

エレン「ミカサ、だから生徒会の人は危ないことなんてないんだって!」

ミカサ「駄目。アルミンが言っていた。あなたはここじゃ子羊と同じ」

エレン「はあ? 子羊?」

ミカサ「アルミンのおじいちゃんの牧場の子羊のこと。

    弱い子羊は成長させず子羊のまま出荷される。
    食われると知らず、散歩のリードでトラックに乗せられる、うれしそうに……。
    ……その子羊みたいに、エレンは年上相手に騙されて利用されてもおかしくない」

エレン「お、俺は家畜じゃねーよ!」

ミカサ「アルミンの方が、危機察知ができる。
    ……アルミンは言ってた。自分も子羊だけど、
    いつか強くなれたら、子羊のような人を守りたいって。

    アルミンはあなたを守ろうとしているの。だから言うことを聞いて」

エレン「……っ俺だって強いんだから、大丈夫だよ! いいから離せ!」

ミカサ「力の強い弱いだけじゃない。少数派も多数派からすれば子羊なのだと。
    あなたみたいに目立つ人は少数派だから、ここじゃ子羊になりうる。
    わたしたちは心配しているの。

    ……それに、わたしの腕を振りほどけない時点で強くない」

エレン「へ、屁理屈いうなって! お前は例外なんだよ! もー! ……?」

ザワザワ

エレン「……なんか、向こうで人だかりができてるな」

ミカサ「部室棟の方だ……」

ザワザワ

エレン「おい、なにかあったのか」

モブ「ああ……なんでも、生徒会の人たちが、部室でふしだらなことをしてたとかなんとか……」

モブ「俺は血がでるくらいひどいいじめをしてたって聞いたぜ。流血騒ぎだって……」

モブ「とにかく、生徒会の信用は失墜だな……受験が近い人もいるのに、どうなるんだろう……」

モブ「明日のお祭り、うちの学校ちゃんとできるのかな……」

・・

夜 フーバー宅

ドンッ!

ベルトルト「……」

「おい、なにを考えているんだ。下級生を刺したあげく、婦女暴行未遂だと聞いたぞ」

ベルトルト「……なにも間違ってない……僕は女の子を刺したくて刺したし……興奮もしてた……。
      僕は人間の屑だよ……。あなたたちとは違う」

「ああ、なんてこと……」

ベルトルト「僕を捨てる?」

「は……?」

ベルトルト「僕、とうさんたちの子供じゃないんだろ。
      その……僕、もう捨てられたくなくて……言うこと聞いていた……けど……。
      とうさんたちとは違うんだってわかった。生まれつき……。

      迷惑がかかるなら、むしろ捨ててくれたほうがいい。
      今日、学校の人に非難されてよくわかった」

「……。とにかく、一度、自分の部屋に行きなさい」

ベルトルト「……」

・・

同時刻、公園

クリスタ「……。! ユミル」

ユミル「……よう。親御さんに怒られてきたのか?」

クリスタ「お母さんは仕事……。まだ知ってもないよ」

ユミル「ふーん……。……おまえさ、あいつらとは違ったろ?」

クリスタ「違うって?」

ユミル「本当に人を食いたかったんじゃないだろって言ってんだ」

クリスタ「そんな……」

ユミル「いいやそうだ。気づかなかったのか? 客観的に見てる分、わたしのがよくわかる。
    お前は、誰かと特別な繋がりが欲しかっただけだ。
    それがたまたま、食い合う秘密を持つことだったのさ」

クリスタ「そうなのかな……」

ユミル「……なにか困ってるのか。精神を病んでいるぞ、おまえ」

クリスタ「なにも。むしろ幸せだよ、こうやって自由にやってるんだから。

     ……あなたでしょ。困ってるのは」

・・

同時刻 ブラウン宅

「何も気にするな。世間の非難なんて」

ライナー「……」

「男は若いうちは少しくらいはやんちゃなほうがいい。俺も昔はそうだった。
 いいから今日は早く寝るんだ。明日もある」

ライナー「……わかった」

数十分後

ライナー「……。っつ、うぐ……!?」ハッ

ライナー(いって、……いってえ!? 急に眠くなって……寝てたら、いきなり、腕が、……!!)ビキビキビキ

ライナー(つってるのか!? イヤ違う、皮膚が……、!? 携帯の明かりで……)ガシ

パッ

ライナー「!」

ライナー(明かりが……、!!)

ライナー「う、うわああああ!?」

・・

同時刻 レオンハート宅

アニ「きゃあああああ!!」

アニ(腕が! 固い甲羅みたいなので覆われてる!? 違う、皮膚が変質して、硬くなって……っ、
   引きちぎれるように痛い! なんで!? 腐ってるの!? 気持ち悪い!!)

バタン!

アニ「お、お父さん!」

「アニ、……でかしたぞアニ!!」キラキラ

アニ「は、はあ?」

「お前は本当の戦士に選ばれたんだ!!」

アニ「は、戦士……!? なに、格闘技の話? 何言ってるの……?」

「よく聞け。それは先代から伝わる巨人化薬のテストによるもので、
 お前にはこの通り、強い適正があった。
 
 明日、戦士として、きたる聖戦で戦うんだ!

 いいか、うちの地下室には、先祖の英雄が凍って眠っている。
 おまえと同じ名前、おまえにソックリの英雄だ。
 親戚みんな生まれ変わりだと声を揃えるくらい、ソックリの……。
 今から巨人となり、それを食べるんだ! そうすれば、お前は本物の戦士になれる!!

 そして聖戦で勝利し……ライナーくんと完璧な戦士の子供を……!」

アニ「ほ……本当に何言ってるのお父さん。頭おかしいんじゃないの!?」

「おまえの腕がその証拠だ。さあ、残りの薬も使い巨人になるんだ。

 最初は正気を失うらしいが、英雄を食べて一つになれば問題ない。
 おまえは英雄そのもの、本当の戦士アニ・レオンハートになれるんだよ!

 明日の聖戦は、ついに我々食人族と非食人族の長い戦いの終止符となるんだ!」

アニ「しょ……食人族? 待って! わたし戦士なんかじゃないよ!」

「ホラ、早く地下室へ来なさい! 薬を飲むんだ!」

アニ(ど……どうしよう、……! ポケットの携帯で……っ)ゴソゴソ

・・

同時刻 ベルトルト宅

ピコン

ベルトルト(! 携帯……ライナーとアニからだ。……!)

ガチャ ダダダダ バタン!!

「ベルトルト!? どこにいくんだ!」

『たすけて』

ベルトルト(助けて、って僕じゃなく二人が言う時は、本当にヤバイときだ……!!)タタタ

ベルトルト(隣のライナーの家、……明かりはついてるけど……!)

ピンポンピンポン

ベルトルト「……!」

ベルトルト(誰も出ない……電話もずっとかけてるのに……!)ドンドン

ベルトルト(人の気配はある。なにかしているんだ。家の中で!)ドンドン

ベルトルト(アニの家も同じ……、どこも鍵がかかってる……)

ベルトルト(窓をぶち破って……イヤ、強化ガラスだ。ビクとも……。なにもできない……)

ベルトルト(二人が……助けを求めてるのに、僕は……)

エレン「オイ」

ベルトルト「!」

エレン「なにしてんだよ。……ライナーたち心配で、こっちまでランニングにきたんだけど……」

ベルトルト「……イヤ、なにも……」

エレン「なにか困ってんのか」

ベルトルト「……」

エレン「?」

ベルトルト「……すまない、エレン、君を巻き込みたくはないんだけど……、
      ……力を貸してくれないか……」

エレン「……。!」

エレン(ベルトルト、服が乱れて、首から下がってるペンダントが見える。
    ……同じものだ)

エレン「本当に困ってんだな」

ベルトルト「え……、あ、ああ」

エレン「じゃあちょっとやってみるよ。貸しもあるしな」

ベルトルト「か、貸し?」

エレン「前、お前を殺すつもりで殴ったろ。気持ち悪いって思いながら……。
    母さん殺したヤツとおまえは関係ないのにな。謝るよ」

ベルトルト「え……や、やってみるって? ……なにか当てがあるのか?」

エレン「ああ。ある」グイッ

・・

公園

クリスタ「ユミル。あなたこそ、なにか困ってるんでしょう」

ユミル「は? ……なんだそれ」

クリスタ「顔を見ていればわかるわ。わたしを見るたび、辛そうにしている」

ユミル「ふーん。……別に大した問題じゃないよ。
    それより、腹減ったな。おまえもそうじゃないか。なあ、何が食いたい? クリスタ」

クリスタ「……。あなたは? あなたは何が食べたいの」

ユミル「おまえって言ったらどうする。食い殺してしまうぞ」ニヤ

クリスタ「そう。……素敵ね」ニヤ

ユミル「……。そうか。……」

クリスタ「……ユミル? ユミル、大丈夫? ……?」

ユミル「ああ……困ったな」

クリスタ「ユミル!? 泣いているの? ……!?」

ユミル「オイこれやるよ」ブチ

クリスタ「百合? ……あなた、大事に育ててたのに」

ユミル「やさしいな。さすがクリスタ。この一件が終わったら結婚してくれ」

クリスタ「……? ……あ」スウ

クリスタ(百合の香り……久しぶり。……前、いつか、大事なときにも匂ったような。……あ)

クリスタ(葬式の日だ。……お母さんの、妹……カルラさんの……。
     グリシャさんが、百合の花束を持って、墓地の前で、なにか言っていた。そうだ)

(グリシャ「クリスタ……ヒストリア……、君たちは、レイス家の娘だったのか。
      なんということだ……ならば、この鍵を君にあげよう。

      コレは誰にも見せてはいけないよ。秘密の鍵だ。大事にとっておくんだ……。
      決してなくさないようにね。

      そうして、本当に困ったときや、誰かを守る必要があるときに、使いなさい。
      これはわたしの家の地下室の鍵だ。

      地下室には、君たちへの答えを用意している。そこでためらわず飲み込むんだ」)

ユミル「クリスタ?」

クリスタ「……。ユミル、待ってて、きっと助けるから!」ダッ

クリスタ(なんで忘れていたんだろう? 宝物の鍵は、エレンの家の地下室の鍵だ!)タタタ

ユミル「……すまないクリスタ」

・・

数十分後 イエーガー宅

カツン、カツン、カツン

ベルトルト「……秘密の地下室?」

エレン「ああ。困ったときには開けろって言われてるんだ。
    でも鍵は二つあってな。もう一つをずっと探してたんだが……。

    それがおまえのにソックリなんだよ」

ベルトルト「……もし、この鍵が違ったら?」

エレン「八方塞がりだ」

ベルトルト「……」

エレン「その鍵、どうやって手に入れたんだよ」

ベルトルト「コレは……。親に、大事に持ってろって言われたんだ。
      僕も、これはなんだか懐かしくて……。
      ほとんど肌身離さず持ってた」

ベルトルト(戸籍書で、僕はとうさんとかあさんと、血液型が違うと知った。
      それで、実の親子でないとわかったんだけど……。
      だから……コレはたぶん、本当の親が、渡してくれた……)

エレン「ここだ。……入れろ」

ベルトルト「あ……ああ」

・・

同時刻 クリスタのアパート

「……はあ。仕事から帰った途端に何事かと思ったら……。
 クリスタが帰ってきたら、家に監禁したらいいのね。
 実の娘に監禁ってのも変だけど」

「ええ。謝礼は弾みます」

「あんたたちなんなの? って聞きたいけど……。
 この遅い時間に出歩いてる娘なんて、言われなくても、閉じ込めるわよ……。

 クリスタは大事な娘なんだから」

・・

イエーガー宅

ガチャン ……パチン!

エレン「……開いた」

ベルトルト「や、やった!」

エレン「……これでエロ本とか置いてたら、俺はどうしたらいいんだろうな……」

ベルトルト「頼むよ……」

ギイイ

エレン「……書庫……」

ベルトルト「この本を……困ったときに見ろってことなのか」

エレン「……一体なにが」ゴク ペラ

『アルバム 2008 vol.1』

エレン「……これはアルバムか」ス

ベルトルト「……」ゴクリ

エレン「……」パラ

『アルバム 2010 vol.99』

エレン「どんだけだよ!!」バシイッ

ベルトルト「え、エレン。アルバムをそんなふうにしちゃ」

エレン「他にあるんじゃねえか、なにか……、!」ゴソ

バサッ バサッ

ベルトルト「エレン? アルバムをぶちまけて、どうしたんだ」

エレン「本の向こうに扉みたいなのがあるんだよ」

ベルトルト「!」ゴク

エレン「……鍵がかかってる」

ガチッガチッ

エレン「……俺のじゃないな」

ベルトルト「じゃあ僕のか」

ガチッ ガチッ

エレン「まだ鍵あんのかよ!」バシイッ

ベルトルト「え、エレン……落ち着け」

エレン「ああそうだ……ライナーとアニがピンチなのにこんなことしてる場合じゃねー……、
    けどなんでおまえの鍵で開かないんだよ!」

ベルトルト「ぼ、僕に突っ込まれても」

エレン「あ、ああ、そうか……悪い」

ベルトルト「……ああ、でもそうだ、僕のせいだ……僕が悪いんだ、
      やっぱり僕は駄目なんだ!!」

エレン「お、落ち着け! 八方塞がりなだけだろ!?」

ギイイ

エレン・ベルトルト「!」

カツン カツン

クリスタ「……」

エレン「く、クリスタ……? どうしてここに」

クリスタ「……」スッ

エレン「鍵……? お、おまえも持ってたのか」

カチャ パチン!

ベルトルト「開いた……!」

クリスタ「……。!」ゴソ

エレン「……なんだそれ。……瓶に入った……水?」

クリスタ「……!」キュポンッ 

ゴクッ

エレン「クリスタ!? ……そ、そんなもの飲んだらダメだろ! 3年前のだぞ!?」

ベルトルト「……!?」

クリスタ(……『ためらわずに飲み込むこと』……)ガシ

エレン「クリスタ、おまえ一体うぶっ!?」

クリスタ「……」チュウ

ベルトルト(!? え、エレンが口移しされて……!)アワワ

エレン「んー! ……!」ゴク

クリスタ「……!」ガシ

ベルトルト「……えっ僕も? 待って、なんで!? あ」

クリスタ「……」チュウ

エレン「……、おまえ、なにしてるんだ?」

クリスタ「……わたしの実の父は。脊髄液に残る持ち主の記憶を再生できる血族なの」

ベルトルト「え? 脊髄液……?」ゴク

クリスタ「二人が今飲んだものだよ。さあ、わたしに触れて。
     この脊髄液に残る記憶こそが、グリシャさんが伝えたかったことのはず」

エレン「クリスタ、おまえ……なにか知ってるのか?」

クリスタ「……子役をしていたときに……。縁があって、実のお父さんに会えたことがある。
     そのとき、血筋のことを教えられていたの。でも、今はそんなことどうでもいい。
     さあ、手を」ガシ

・・

エレン(……クリスタの手を握った瞬間、頭に映像が流れ込んできた。
    
    父さんが映る。鏡の前のようだ。そして、鏡の中の父さんはこんなことを話した。

    父さんらは、先祖が人を食べる『巨人』であったこと。
    その遺伝子が残っている俺たちは、『食人族』と揶揄され、人を食べたくなる衝動をもつこと。

    同時に、その遺伝子は、巨人になれる人間のもつ超人的回復力も伝えており、    
    それは脊髄液を経口摂取することで他人に移せるということ。
    これまで多くの食人族が、回復力目当てに食い殺されてきたこと。
    
    そして今。この脊髄液を戦争に利用しようという流れがある。
    国のため、食人族は脊髄液を搾取されようとしている……家畜のように。
    現に、『ユミルの一族』という食人族の純血統は皆殺しにされ、脊髄液を奪われたそうだ。

    父さんは、この遺伝子により変異した特異的な細胞を殺す抗体を作り、食人族を普通の人間に戻そうとしている)

エレン(それで、明日は、巨人と人の争いが起こったのと同じ日らしい。
    それを戒めるために祭りができたそうなんだけど……。
    
    今年はその争いから1000年。
    つまり明日……同じことを繰り返そうとしている可能性があるという。
    だから父さん、今年は帰るって言ってたんだ。結局、開発が間に合わなかったみたいだけど)

エレン「……信じられねえけど、」

クリスタ「本当だよ」

ベルトルト「クリスタ?」

クリスタ「ユミルが悩んでいたのはこれだったんだ、……ユミルが危ない!」

・・

タッタッタッタ

クリスタ(悩んでるユミルが心配で、後をつけたことがある。
     ユミルはとある国家組織の一つに出入りしていた。
   
     グリシャさんの記憶で名指しされた、食人族を利用しようとする組織の中に、それがあった……)

クリスタ(ユミルも、きっと食人族で、悪いやつらに利用されているんだ!)

クリスタ(だから、あんな思いつめた顔を……明日、利用される前に……、
     真実を教えなくっちゃ……!)

ガシッ

クリスタ「!?」

「クリスタ・レンズだな」

「捜索願が出ていたぞ。家に帰りなさい」

クリスタ「あなたたち、誰? ……やめて! 離して、行くところがあるんです!
     早く……行かないと……!」

「ダメダメ、こんな夜みたいな早朝に子供がなに言ってるんだ」

「悪い大人に捕まる前に、帰りなさい」グイッ

バタン!

・・

同時刻 レオンハート宅 地下室

「……ああ、お待ちしてましたよブラウンさん」

「レオンハートさん。すいませんね、ライナーが暴れて。今はこの通り眠っていますが」

「うちのアニもですよ。鍛えさせすぎましたかね」

「さあ、薬を注入しましょう」

「ええ。二人にかつての英雄を食べさせ、我らの血族に勝利を」

「早く二人を戦士にしないと、奪われた巨人化の力で、我々が殺されてしまう」

チク

「……よし。最初は暴れるとのことですから。英雄を食べるように、二人をこの地下室に残して、
 我々はでていきましょうか」

バタン

・・

タッタッタッタ

エレン「ヒストリアが、ユミルのところへ先に行くらしいから……。
    俺達は、教えられた場所の人払いをするんだ」

ベルトルト「……ライナー、アニも同じところにいればいいんだけど……!
      情報が多くて、もう訳がわからないよ」

エレン「……。しかし、祭りの前夜祭だけあって、賑わってるな。
    区外の取材も来てるみたいだし。
    コレを人払いするとなると、一筋縄じゃいかねえぞ」

ベルトルト「どうする……」

エレン「……。そうだ。祭り開始の合図の花火だ」

ベルトルト「ウチの学校が担当してたっていう?」

エレン「ああ。それを、ユミルが捕まってる研究施設の周りで打ち上げまくろう!」

ベルトルト「……? ……あ……ああ!」

ベルトルト(それって返って人が集まるんじゃ……)

・・

同時刻 区の外れ

「ユミル……気分はどうだ」

ユミル「ああ……いいよ」

「そうだろうな。……とうとう、仇を討てるときが来たんだ」

ユミル「……あっという間だったな。3年前、いきなり家族が食人族に食い殺されて……。
    わたしだけが納戸に隠れて生き延び、途方に暮れてたところで、
    食人族を監視していたみんなが保護してくれて……それでここまで育ててくれたんだ。
    本当に感謝しているよ。

    おまけに……わたしに力を与えてくれて、この手で食人族を皆殺しにできるんだ。
    この食人族集落のヤツらを、皆殺しに」

「その通りだ。今日は祭りで、区外にでてる食人族も帰ってきている。
 復讐には絶好のチャンスだ」

「……祭りが始まってすぐ、一番食人族の多い時間がいい。開始の合図の花火を待とう」

ユミル「ああ。……」

ドーン ドーン

「ほら……、花火の音がする。少し早いようだが、祭り開催だ」

「さあユミル、わたしたちもやろう。……この薬で、お前に力を授けるからな」

ユミル「……。ああ……」

ユミル(みんな……コレで終わりに……。……イヤ、……だけど、)

「……ユミル。どうした、なぜ注射を打たない」

ユミル「……待ってくれ、やっぱりわたしは殺したくない!
    いくら仇でも、……ただ食人族だってだけで殺すのは無理だ!」

「……な、なにを言うんだユミル」

「今更なにを……おまえが殺さないと、悲劇は繰り返されるんだぞ!」

ユミル「話が違うぞ! 食人族でも、殺人衝動のないヤツなんかごまんといるじゃないか!
    その人を殺す資格はない!」

「ユミル! ふざけるな! おまえをここまで育てたのはなんのため……」

ユミル「育ててくれたのには感謝してる。だがそれとは話が別だ!
    それにわたしも食人族なんだろうが!」

「ユミル……!」

ユミル「同じ民族の共食いの結果、わたしの家族は死んだんだろ?
    だから、わたしも食人族だけど、食人族の被害者のあんたたちの気持ちもわかるんだよ!
    それで、食人族を殺すついでに、脊髄液を集めようってのも合理的で、」

「!! オイ、捕えろ!」

「クソ、この食人族の末裔め、頭のいい子供なんざ最悪だ!」

「生かしてやった恩を忘れやがって!」

「!! オイ、捕えろ!」

「クソ、この食人族の末裔め、頭のいい子供なんざ最悪だ!」

「生かしてやった恩を忘れやがって!」

ユミル「!? ……やめろ! 離してくれ! ……!」

チクッ

ユミル「う……」

カッ 

ズウウウン……

ユミル巨人「ぎああああああ!」

「やった……やったぞ」

「危なかった。さすがユミル、……イヤ、……憎き食人族の、純血統の娘だな。狡猾だ」

「ああ。食人族の一族で唯一殺さないでやったユミルを騙して薬で化物にする。
 一方で非食人族が力を奪い食人族を殺戮しようとしているとデマを流し……。
 そうして食人族同士……ユミルの一族と、ブラウン一族・レオンハート一族で殺し合わせる。

 それを祭りの中継で、区外に報道……。食人族のおぞましさを世間に伝え……」

「食人族から人権を奪う」

「ああ。そうすれば、有力な巨人もいなくなり、食人族は狩り放題……。
 食人族の脊髄液は、飲むと食人族の超人的な回復能力を伝える秘薬になる。

 これを培養して売れば大金が得られ、更にこれまで食人族に食われた遺族の思いも報われるわけだ」

「長かったな。……さあ、変身ができたユミルが、そろそろ動く。

 真相をいくらか察していたようだが、食人族は食人族。
 家族を殺された恨みからユミルは、その衝動のまま、集落の人間を皆殺しにするしかない」

ユミル巨人「ウ……ウウ……」

ユミル(……。すげえ、血が熱い……、憎いとか食いたいとかいう衝動で、焼き切れそうだ。
 
    憎い……憎い、家族を殺したヤツらが、……。だけど……クリスタ……)

・・

同時刻 レオンハート宅 地下

ライナー「……」

アニ「……」

「……おかしい、あれから時間が経つのに……、なぜ完全に巨大化しない……」

「二人が巨人になりたくないと思っても。気持ちだけでどうにかなることじゃないのに……」

・・

同時刻 区の外れ

ユミル(……イヤ……待てよ)

ユミル(……そういえば、助けに来てくれたとき、研究所のみんなは生傷だらけだった。
    ……家族が共食いの餌食になるのに間に合わなかったなら、
    ……なぜ傷つくんだ。

    ……もしかして、家族を殺したのはこいつらなのか。
    ……イヤ、……間違いない。それでさっき鬼のような顔で「生かしてやった」だなんて……! 
 
    そう思うと、今まで矛盾に感じてたこと全部にカタがつく!
    この人たちに感謝してたから考えないようにしてたけど、クソ!!)ダッ

「……ど、どういうことだ」

「ユミルが、集落とは反対方向に向かうぞ。……!? そっちは、培養された脊髄液が……!」

ユミル(……うまく走れねえ……、建物にぶつかってばっかで、馬鹿みたいに痛い!
    ……あそこだ……研究施設!)ダッダッダッ

ユミル巨人「ぎああああああ!!」

ガッシャアアアアン

ジリリリリリリリリ!!

「……!!? 培養液の水槽が壊された!」

「これは、何百人という食人族の脊髄液でできてるのに……!」

「……! 化物の背中がうごめいてる……」

ブチブチブチ

ユミル「……っ」ムク

ユミル(……。動けねえ。……訳分からない能力使ったんだから、当然か)ゼエゼエ

ユミル「……」

チャキッ

「恩をあだで返してくれたな、ユミル……! 撃て」

ユミル「会長さん……」

ユミル(これで終わりか……わたしの3年は……一体……)ギュッ

ドンッ

・・

ユミル「……。!?」

ドサッ

エレン「ユミル! 無事か!?」

ベルトルト「……!」

ユミル「……エレン、ベルトルさん!? おまえらなんでここに」

「なんだこのガキは……」

エレン「俺たち、ここの側まで来てたんだよ。それで騒ぎに気づいて駆け込んできたんだ!」

ベルトルト「いいから逃げるぞユミル!」ダキ

ユミル「……馬鹿野郎、子供だけでどうにかなるもんか! 全員撃たれてしまうぞ!!」

「このクソガキども……。そのとおりだ、ユミル、お前から撃って……」


ユミル「……! ……?」

ユミル(撃たない。……わたしに銃口を向けてるのに……)

バタン!

「……3年もいっしょに暮らすものじゃないな」

・・


数分後 施設の外

クリスタ「……! ユミル、エレン、ベルトルト!」

エレン「クリスタ! どうしてお前が後に来てるんだ!? 先にユミルのとこに向かったはずだろ!?」

クリスタ「ごめんなさい! 捕まってしまって……、とにかく、
     こっちに来て! 繁華街を抜けないと、追っ手がくるわ!」グイ

タタタタタ

エレン「クリスタ……おまえ、なんでこの道、こんなに詳しいんだ?
    大人とじゃないとこんなとこ来ないだろ」

クリスタ「……ちょっとね。
     さあ、この道を行ったら、表通りにでられるよ! 行って!」

タタタタ……

クリスタ「はあ……、……!」

テレビ『こちら、現場は騒然としています! 突然開始予定より早い時刻に
    花火が暴発し……、その数分後、繁華街方向で爆発のような騒ぎが……。

    この地域では、バラバラ死体の連続殺人事件も起こっていたこともあり、
    関連があるのではないかと……』

「なにが起きたの? また事件?」

「噂じゃ、人食いの集団がやったって……」

「今日って、人食いが人間と戦った日なんでしょ?」

「テレビでよく言ってるもんね……」

「正直、人食い民族なんて、いなくなって欲しいよ」

クリスタ「……!」

・・


同時刻 レンズ宅(アパート)

「なあ、部屋にヒストリア見当たらないんだけど。トイレか?」

クリスタ「……知らない」

「ふーん。最近出歩いてるみたいだけどさ、どうしたの? クリスタちゃん」

クリスタ「別に……。関係ないでしょあんたには」

「あ? ……オイ、母親の彼氏に対してその口の聞き方ねえだろ。
 別に俺はいいんだぜ? ヒストリアじゃなくておまえをボコっても!」

クリスタ「……!」

「勉強できるからって調子乗るなよ。馬鹿のヒストリアとは違っても―――」

クリスタ「ヒストリアは……ヒストリアは馬鹿じゃない!」

「馬鹿だろうが。子役やって調子乗ってたくせに、ちょっとしたことで、
 声がでなくなって以来引きこもりだっけ?
 9歳から学校行ってない奴なんか、社会じゃゴミ同然なんだよ」

クリスタ「ちょっとしたこと……? あなたにヒストリアの何がわかるの?

     ヒストリアは母さんに認められたくて子役をしてたのに、
     叔母のカルラさんが死んだとき、『カルラさんを目標にしてた』って話しただけで!
    
     カルラさんにコンプレックスを募らせてたお母さんの逆鱗に触れて、
     暴力を受けてたのよ。

     仕事ばかりで家にも学校にも行けず、あの子にはお母さんしかなかったのに!!
     それがどんなに辛いことかわかるの!?

     そのショックで声がでなくなって……あの子は、誰かの演技をしてないと、
     人と話すこともできなくなった……!
     自分の意思もなくしてしまったの!」

「知るか! おまえも一回痛い目みて、声だせなくしてやるよ!!」グイッ

クリスタ「!」ドサ

「小せえなあ。体重なんて俺の1/3くらいか? 背も2/3くらい……。
 そんな弱い生き物が、大人にたてつくとどうなるか。思い知らせてやるよ!」ガシ

クリスタ「うっ! ……やめて、足を持って……逆さ釣りに……!」ジタバタ

「ほら! このままじゃ頭に血が集まって、頭パンクしちまうぞ!
 賢い頭に一生治らない傷がつくんだ!!」ブンッブンッ

クリスタ「やめて! 上下に揺すらないでっ、……!! ああ……!」

「……ハア、ハア、どうだよ。おとなしくなったな。言うこと聞くか?」

クリスタ「う、あ、……」コク

「よし、おろしてやろう。……ホラ、じゃあごめんなさいの証拠に、これしゃぶってみろよ」カチャカチャ ズル

クリスタ「い、……や、……んぶっ!」ジュブッ

・・

同時刻 繁華街

「こちら現場です。人食いの民族が起こしたと思われる事件は―――、えっ!?」

クリスタ「この報道は間違ってます!!」グイ

「ちょ、あなた……マイクを返しなさい!」

ザワッ

「な、なんだあの美少女……かわいすぎる……」

「アレ、子役のヒストリア・レイスじゃないか!? 3年前に声がでなくなった……」

「な、なんだ、演出か……?」

クリスタ「この事件の首謀者は、戦争を企む組織です!

     これまでの人食いの事件だって、被害者は人食い民族だった!
     人食い民族は、被害に遭うだけじゃなく、これまで不名誉を着せられていたの。
     わたしは真実を知っている!
     それを全て話します! それが叔父さんからの使命!!」

アナウンサー「何言ってるの? あなた、なんなの!?」

ヒストリア「わたしはヒストリア・レイス。
      叔母で女優のカルラさんは、人食い民族じゃなく、国家組織に殺されたんです!」

・・

同時刻 レンズ宅(アパート)

「う、……うっぎゃああああ!!」

クリスタ「……」ペッ

「お、俺のチンコが! こいつ噛みちぎりやがった……ッ!」

クリスタ「はあ? おまえがわたしたちにつけた傷はこんなモンじゃないんだよ!!」チャキ

「は!? ……カッターを、どうするつもりだおまえ、さ、刺すのか?
 どうせハッタリだろ、おおお!?」ズパッ

クリスタ「……切り傷くらいで騒がないで……。これで傷つけるくらい、慣れっこなのよ!
     これで傷つくのがなんでもないくらい!
     わたしたちは傷ついていたの! わかる!?」

「は……はい……」

クリスタ「お母さんのことも殴ってたの、知ってるから……。
     不能でロリコンのヒモ野郎。二度と近づくな!!」ゲシッ

・・

同時刻 表通り

エレン「はあ、はあ、……なんとか、追っ手は撒けたみたいだな」

ユミル「ベルトルさん、ありがとよ。もうおろしてくれていいぜ。……ベルトルさん?」

ベルトルト「……」

ユミル「ちょ……あんた、撃たれてんじゃねえか!? それも太ももを……!! なんで走れたんだよ!」

ベルトルト「……ごめん、出血ひどくて……、もう駄目……」ガク

エレン「あ、当たり前だろ! 太ももなんて一番血管多いところじゃねーか!!」

ユミル「く、詳しいなエレン」

エレン「俺の父さん、母さん殺されるまでは医者してたから……、って、
    どうでもいい! とにかく応急処置を、えっと……」

「患部の上部を縛って血流を止めるんだ」

エレン「そ、そうだ! ……え?」

「遅くなってすまない、エレン。昨日着くはずだったんだが……、
 便に遅れが出てな……」

エレン「と、父さん!?」

「処置をしよう。失血死してしまう。変わりなさい」グイ

エレン「頼むよ、……父さん、研究は終わったのか」

「ああ……後から詳しく話すが……、薬に不可欠な抗体の在り処がわかって、
 それで日本に帰ってきたんだ」

エレン「抗体……?」

「かつての王族レイス家の血にのみ流れる、特異的な抗体だ。

 それは1000年以上前、人為的に作られたもので……。
 『脊髄液なしでも、巨人の力をコントロールできる』特異抗体だ。

 それが血液に混じれば、人食いの衝動も抑えられるし、
 調合すれば普通の人間と同じ細胞に作り替えられる……」ギュッ

ユミル(……! レイスって……クリスタの旧姓か。
    そうか。わたしたちは、クリスタの血液が流れている。
    傷口を合わせたことがあるから……。
    それで、わたしにその抗体が入って……、だから、
    初めてでも思うように動くことができたのか。

    ……クリスタを助けたつもりだったけど、結果的には、助けられてたみたいだな)

ベルトルト「あの……エレンのお父さん……」

「ああ」

ベルトルト「なんで僕は……地下室の鍵を……」

「ああ……それはお前とエレンは兄弟だからだ」

ベルトルト「えっ」

エレン「えっ」

「この物騒な状況だ。子供一人は違うとこにいないと、一族根絶やしにされかねないだろ?」

ベルトルト(……捨てられたことを悩んでたこれまでの僕はなんだったんだ……)ガク

・・


数日後 病院

ベルトルト「……?」

ライナー「! ベルトルト」

アニ「!? 気がついたの?」

ベルトルト「ライナー、アニ……。あ、ああ……! 助けに行けなくてごめん! 無事でよかった……!」

ライナー「ああ、いいんだよ。あれからな……、親が戦おうとしてた相手が
     ユミルだってことが、ユミル自身の口から語られて、明らかになって」

アニ「それで騙されてた自分たちの馬鹿さに気がついたみたい。
   考えを改めてくれるってさ。あんたがユミルをかばったおかげだよ。
   やるじゃん」

ベルトルト「……! あ、あはは……」

アニ「それでさ。グリシャさんの完成させた薬で、わたしたちみんな、普通の人間の脊髄液にしてもらったから。
   もう変なことに巻き込まれることもないよ」

ベルトルト「本当に……! よかった……」

ライナー「しかし、これからどうするかなあ……」

ベルトルト「? なにが?」

ライナー「現実問題。俺達の性癖が血のせいってことが
     証明されても、学内で違反行為をやったことに代わりはないからな」

ベルトルト「え?」

アニ「学内でふしだらな行為をしたことだよ。どんな理由があっても違反は違反だ。
   これで失われた内申点は取り戻しようがない。進学の条件は絶望的になったよ。
   下手に格闘技で名前が知れてるのも仇になったね。ネットとかでちょっとした騒ぎになってる」

ライナー「それに調子に乗って食いあったせいで、本当に性癖歪めちまったみたいでな。
     薬を使って普通の人間になったはずなのに、結局、未だにおまえたちじゃないと勃たないんだ」

ベルトルト「えええ……」

アニ「優秀な血族としての自分も、優等生としての自分もなくして、
   残ったのは変態の烙印なんてホント笑えないんだけど……」

ライナー「イヤ、別に全部なくしちゃないだろ。普通の人になったんだ。
     戦士でも優等生でもない。案外楽そうでいいじゃねえか」

アニ「普通の人に、変態ってマイナスがついてるんだから、
   世間的の目は厳しいよ、まったく……。わたしたちの他に誰が理解してくれるっていうの」

ベルトルト「でも……僕ら若いんだから、なんとかなるよ」

ライナー「前向きだな」

ベルトルト「う、うん……僕、君たちのためなら頑張れそうな気がする」

・・

性癖のことや、軽犯罪を犯したことで、僕の人生は
あの日を境に一気にハードモードになった。

でもライナーとアニといっしょにいれたら不思議と多幸感に包まれるので、
あのとき死ななくてよかったと僕は思った。

大人になった今は書く事を仕事にしているけど、いつか、そのときの
経験を書いて一発当てれないかと思っている。

そしたら、人気女優になったヒストリアが、広告に一役かってくれるって
約束だけはもうしているんだけど……。

そうそう、クリスタとユミルは結婚した。

エレンはミカサとアルミンと暮らしてるらしい。
最近、子供の写真をもらった。どっちの子かはわからなかったけど。

それでアルミンは今や著名な学者で、元食人族を擁護する論文を書き、
僕らを大いに守ってくれた。

僕ら以外の、同じようにカニバリズムの性癖に悩む人たちにとっても、
今後大きな助けとなることだろう。

グリシャさんの抗体で、食人族って言われてた人たちは恐く完全に
いなくなったんだけど、僕らのように性癖だけ残った人はいるはずだ。

性癖って神様のギャンブルみたいなもので、努力でどうにもならないものだから。

ライナー「ベルトルト、子供が寝たらもぐもぐごっくんするぞー」

「ベルトルト、ライナーが言ってるもぐもぐごっくんってなに?」

ベルトルト「大人だけがしていい遊びだよ~」

アニ「ベルトルトは寝かしつけるのが下手だね。お母さんに代りなよ」

ベルトルト「もう少し……。金髪でむちむちで……本当に食べちゃいたいくらい可愛いなあ。
      僕は君のためならなんでもするからね……」

「ベルトルト、わたしももぐもぐごっくんして!」

3人「「「それは駄目」」」


終わり

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom