菫「日本語には小躍りするという表現はあるが、しかし本当に踊る人間を始めてみたな」

照「私は踊りたいから踊っただけ。理由はない」

菫「……いやまぁそれはそれでもいいんだが。何で今度はヒップホップなんだ？」

照「踊りたいからだＹＯ。理由は無いＹＯ」ﾖｰﾖｰ

菫「そうか。まぁいいんだが、その中途半端なラップ調やめてくれないか。腹立つから」

照「分かった。やめる」

菫「そうか助かる」

照「分かった、やめるんば」

菫「……」

菫「照……お前、嬉しいだろ」

照「何が？」

菫「咲ちゃ」

照「嬉しくない」

菫「否定が早いな！　嬉しいんだろ、絶対」

照「嬉しくないＹＯ」

菫「……どうでもいいんだが、そのテンション止めてくれないか。本当、こっちまで調子が狂うから」

照「分かった。もう少し落ち着く」

菫「そうしてくれ」

照「……」

菫「……」

照「」ｳｽﾞｳｽﾞ

菫（限界来るの早いなぁ……）

照「咲に会いに行く」の人？

照「」ｳｽﾞｳｽﾞｳｽﾞｳｽﾞｳｽﾞｳｽﾞ

菫「……ところで咲ちゃん」

照「」ﾋﾞｸｯ

菫「……」

照「……さ、咲がどうかした？」

菫「何時くらいに着くんだ？」

照「たぶん……四時ごろ」

菫「そうか。じゃ、今から帰れば間に合うし、今日は早めに帰るといい」

照「そんな、麻雀の練習もあるし……」

菫「とはいってもな、久しぶりに会うんだろうし、早めに帰ってやれば喜ぶんじゃないか？」

照「分かったありがとう帰る」

菫「決断早い！？」

照「また明日」ﾀﾞｯｼｭ!

菫「あ、またあし……もういない」

>>4　違う

照「……」ｳｽﾞｳｽﾞ

ﾋﾟﾝﾎﾟｰﾝ

照「来た！？」ﾀﾞｯｼｭ

照「今開けるから待ってー」

ｶﾞﾁｬ

男「宅急便でーす」

照「……」

男「ここにサインお願いできますか？」

照「……はい」

男「どうもありがとうございます」

ｶﾞﾁｬ

照「……」

照「こんな時に一体何が……」

伝票『特注　写真プリント抱き枕』

照「こ、これはちょっと頼んでおいた咲の抱き枕……なぜこのタイミングで」

照「とりあえずこれは咲が帰るまでしまっておかないと……でもちょっと今見てみたい……いやでも玄関で広げるのは」

照「……まだ来てないし。開けてみてもいいか」ﾋﾞﾘﾋﾞﾘ

照「お、おお……すばらしい完成度。これは家宝にするしか」

ｶﾞﾁｬ

咲「あれ？　開いてる……」

照「……」

咲「あ、お姉ちゃん。ただいま」

照「」ｻｯ

照「お、おか、おかか、おか、おおか」

咲「？」

照「おかか、食べる？」

咲「え？　お昼にお弁当食べたから別にいらないけど……」

照「そ、そう。よかった。うん。えっと。おかえり？」

咲「ただいま……でいいのかな？　とりあえず、お邪魔します」

照「うん……お邪魔されました」

照「じゃ、そこのドアがリビングだから」

咲「うん。ありがとう……あれ？　お姉ちゃんはここで何してるの？」

照「え？　いや、別に……」

咲「あ、これ荷物？　宅配来てたの？」

照「そ、そう。さっき宅配が来て、そのすぐあとに咲が」

咲「そっか。えっと……何が来たの？」

照「え？　ああ、うん。大丈夫。咲には関係ないもの」

咲「そうなの？」

照「そう。いや関係なくは無いけれども、関係ないもの」

咲「……どっち？」

照「……わ、私の私物だから。咲には関係ない」

咲「そっか。ごめんね」

照「別に……」

照「それじゃ、私は荷物を部屋に持っていくから。とりあえずリビングで休んでて」

咲「分かった」

照「……行ったか。危なかった」

照「……とりあえずこれを私の部屋に」

咲「お姉ちゃん」

照「」ﾋﾞｸｯ

咲「トイレ、どこにあるのかな？」

照「リビングの反対のドア」ｻｯ

咲「ありがとう」

照「……ふぅ。本当に危険。早く持っていかないと」

照「よし、咲グッズコレクションは見えないように隠したし。これで大丈夫。いつでも咲を部屋に呼べる」


照「お待たせ」

咲「あ、お姉ちゃん。私の荷物、どこにおけばいいかな？」

照「部屋用意してるから、そこに置けば良い」

咲「分かったよ。ありがとう。部屋、どこかな？」

照「こっち」

咲「あ、ちょっと待ってね……よいしょ」

照「……私も持つ」

咲「あ、ありがとう」

照「……こっち」

照「ここ」

咲「結構広いね」

照「ベッドは無いから布団を敷いて。机は私が前に使ってたやつで、文房具とかはあるから勉強したければ使えば良い」

咲「ありがとう、お姉ちゃん」

照「……物置代わりに使ってるから置いてあるぬいぐるみとかは、我慢して」

咲「大丈夫だよ。ぬいぐるみ好きだし」

照「じゃあ思いっきり抱きしめて寝てくれても良い」

咲「うん、そうする」

照「そしてあとで私がそのぬいぐるみを回収する」

咲「え？」

照「なんでもない。こっちの話」

照「机もぬいぐるみも置いてあるものは好きに使って良いから」

咲「分かった」

照「あ、でもそこの時計だけは動かさないで」

咲「え？　何で」

照「その角度じゃないと綺麗に撮れなくなる」

咲「えっと……何が？」

照「寝顔が」

咲「ネガオ？　ネガオって？」

照「……大丈夫、害はないから」

照「何かあったら呼んで」

咲「分かったよ」

照「……あと、部屋に入る時はノックして」

咲「うん」

照「それじゃ」

――照の部屋――

照「」ﾌﾟﾙﾙﾌﾟﾙﾙ

菫『はいもしもし』

照「あー俺俺。かあちゃん、俺なんだけど」

菫『……おい、照』

照「あれ？　ばれた」

菫『これ携帯だぞ。名前が表示されるから』

照「……そっか。それじゃ、また」

菫『おい』ﾌﾞﾁｯ

照「……ふぅ」

ﾌﾟﾙﾙﾌﾟﾙﾙ

照「はい、もしもし」

菫『おい照。何だ今の電話は』

照「いや、ふと思いついたので嫌がらせしてみた」

菫『思いつきで嫌がらせをしてくるな。何だお前。どうした』

照「何か今ちょっとテンションがやばい」

菫『……咲ちゃんが着いたのか』

照「確かに咲はついたし、久しぶりに咲と会話したけれど、このテンションとは関係ない」

菫『そうか。どうでもいいが、嫌がらせの電話をしてこないでもらえるか。私も暇じゃないから』

照「そう良いながら、実は暇」

菫『……何を断言してるんだ。お前に私の何が分かる』

照「生年月日。好きな科目。癖。とかは知ってる」

菫『……いや、そういう意味じゃなくて』

照「あとどんな下着持ってるかとか、お気に入りの下着はどれかとか、知ってる」

菫『いやそういう意味でも……なんで知ってるんだよ！』

照「あと実は私のこと好き、とか」

菫『それは無い』

照「それはともかく。今ちょっとやばい」

菫『何がどうやばいんだ？』

照「久しぶりすぎて、咲との距離感が分からない」

菫『……そんなもの、適当に会話しておけばいいじゃないか。姉妹だろう？』

照「そうだけど……何ていうか、かなり長い間離れていたし、今の咲とはどう話していいか分からないというか」

菫『……』

照「話す前に、襲いたくなるというか」

菫『……』

照「菫？　聞いてる？」

菫『ああ。聞いてる聞いてる。結構複雑な話かなと思ったら、ただの変態だった』

照「？　良く分からないけど。私どうすればいい？」

菫『とりあえず近くの交番に駆け込めばいいんじゃないか』

照「え？　確かに咲は重犯罪級可愛さだけど、警察のお世話になる必要は無い」

菫『いや、咲ちゃんの可愛さではなく、お前の変態さがだな……』

菫『まぁともかく、法律に抵触しない程度に戯れておけばいいんじゃないか？』

照「それってベッドに押し倒すのはありということなの？　なしということなの？」

菫『普通になしじゃないか……？』

照「でも法律には姉妹でいちゃいちゃしてはいけないという規定はない」

菫『押し倒すはいちゃいちゃの範囲を出るだろう？』

照「……出るかもしれない」

菫『それじゃ、駄目じゃないか』

照「いや、でも出るといっても精々片足程度。キスしたり、太ももを弄ったり、ちょっと舐めたりする程度だから」

菫『十分駄目だろ。お前の片足はどれだけ長いんだ……』

照「これくらいスキンシップの範疇」

菫『……お前にとってスキンシップを超えた行為って何だよ』

照「それで、結局私はどうすればいいの？」

菫『まぁだから、犯罪にならない程度に適当にやっておけ』

照「わかった。ヤっておく」

菫『……なぜか上手く意思疎通できてない気がするのだが。大丈夫か？』

照「大丈夫大丈夫。任せておいて」

菫『いや、お前の妹だから任せるも何も無いが……。まぁほどほどにな』

照「うん。分かってる」

菫『それじゃ、また明日』

照「また明日」ﾋﾟｯ

照「さて、と……とりあえず咲を押し倒しに」

ﾌﾟﾙﾙﾌﾟﾙﾙ

照「はい？」

菫『今、良く分からない不安が胸の辺りに渦巻いたんだが。大丈夫か？　とりあえず押し倒しに、とか考えてないか？』

照「……エスパー？」

菫『やっぱり考えていたのか……止めてくれ、新聞一面で『白糸台麻雀部エース妹に性的暴行』とか書かれるの嫌だぞ』

照「大丈夫、そこまではしないから」

菫『お前のそこまでがどこまでなのかがすごく不安なんだが……まぁ、何度も言うけどほどほどにな』

照「うん……でもさすが菫、よく私の思考を読んだ」

菫『読みたくて読んだわけではないけどな』

照「さすが白糸台の部長」

菫『こんなことで流石とか言われたくない』

照「……うんうん、分かった分かった。それじゃ、また」ﾋﾟｯ

照「ふぅ。やっと説教が終わった。菫の説教は長すぎる」

照「さて、と。押し倒すのは諦めるとして、とりあえず何か理由をこじつけて咲の様子を見に行こう」

――咲の部屋――

咲「えっと、これは明日の服で。これは……うん、大体終わったかな」

咲「……久しぶりにお姉ちゃんと会ったけど、久しぶりで何を話せばいいか分からないな」

ｶﾞﾁｬ

照「咲？」

咲「あ、お姉ちゃん。どうしたの？」

照「……お風呂と晩御飯どっちが先がいいか聞きに来た」

咲「あ、えっとね……」

照「お風呂にする？　ご飯にする？」

咲「……どうして言い直したの？」

照「それとも、あ・ち・き？」

咲「どうして廓言葉？」

照「特に理由はない。それで、どうするの？」

咲「えっと、お風呂先でいいかな？」

照「分かった。今から入れるから、たぶん三十分位したら入れる」

咲「ありがとう」

照「……」

――30分後――

咲「えっと、もうそろそろかな……」

ｶﾞﾁｬ

咲「うん、もう入ってる。それじゃシャワー浴びてから入ろうっと」ﾇｷﾞﾇｷﾞ

〜シャワー中〜

咲「リンスとか分からなかったけど……いいや。それじゃ、入ろう」

咲「……気持ちいい。今日は疲れたし、ゆっくり入らせてもらおうかな」

照「ゆっくり入るといい」

咲「うん、ゆっくり……お姉ちゃん！？」

照「……やぁ」

咲「ど、どうしているの？　ていうか、いつからいたの？」

照「咲が『えっと、そろそろかな』って言ってた辺り」

咲「最初からっていうか、お風呂入る以前だよね……全然気づかなかったよ」

照「現代に生きるくノ一とは私の事」

咲「本当に忍者みたいだよ。お姉ちゃんって何者……？」

照「ある時は咲の優しいお姉ちゃん。またある時は咲の尊敬する姉。そしてある時は咲が愛するお姉さま」

咲「それ、三つともほとんど変わってないよ」

照「いや、三つ目だけは少し意味が変わる」

咲「どう変わるの？」

照「マリア様がご覧になられている的な。スール的な。義兄弟ならぬ義姉妹的な」

咲「うちは仏教だし、私たちは本物の姉妹だけど……」

照「まぁ、分からないならそれでいい。私も姉妹愛ものだというからちょっと目を通したものの全部見たわけじゃない」

咲「？」

咲「良く分からないけど、とりあえず私は出るね」

照「な、なぜ……？」

咲「湯船二人で入ると狭いから……」

照「大丈夫。これくらい問題ない」

咲「でも……」

照「咲が私の膝の上に載るといい。それで解決」

咲「は、恥ずかしいよ」

照「姉妹だし、別に恥ずかしくない。誰も見てないし」

咲「……」

照「それとも咲は私の事嫌いになった？」

咲「……わ、分かったよ」