男「死にマス」(16)
深夜 深い山の中 川辺
男「仕事でいくら頑張っても、怒られるし…」
男「失敗は少ないし、人並みに仕事してるはずなのに…」
男「上司が…」
男「死んでやる~!バカヤロ~!」
男「なるべく人に迷惑かけないように、山奥まで来たけど…」
男「あの辺深いな…死体が浮かないように~足にオモリを付けて~穴のあいた浮き輪でlet's 入水!!」ズリズリ…
?「…何やってるんですか?」
男「!!」ビクックルッ
女「夜中に川で泳いだら危ないですよ…?」
男「…うわぁぁぁぁ!!」ヘタッ
女「!!」ビクッ
男「……ブツブツ」ガクガク…
女「?」ソソソッ
男「ぎゃぁぁぁ…ナンマイダ…」ザザザッ
女「…あ~すいません…驚かせてしまいましたね」
女「安心してください?幽霊…ではないので」ニコッ
男「…(幽霊じゃなくてもキツネとか…)」
男「…(人だとしても、こんな深夜の山奥に女の人って…)」
女「落ち着きましたか?」
男「ん…まぁ…(きっと、死のうとしてる精神状態のせいで変な幻が見えてるんだな)」
男「(まぁ幽霊でも人でも幻でもどうでもいいや、軽くあしらって…)」
男「いや~なんだか水遊びしたくなってさ。危ないのも自己責任ってことで邪魔しないでね?」ズリズリ…
女「えっ…?ちょっと…」
男「邪魔しないでね?」キッ…ジャバジャバ
女「…」
男「(オモリが上手く深みに落ちるように上流から…)」プカプカ
男「(あっこの辺!!空気抜けるの遅い!!いいや、離しちゃえ)」パッ
チャプン…
男「(…オモリが底についた…暗いな…水面は泡が月明かりでキラキラ光ってる…キレイだな)」
男「(…息が…もう続かない…お疲れ、俺。)」ゴポゴポ
ザバッ…キラッ…
~~~~~
~~~~~~
男「…はっ!!」ゲホゲホ
男「…月?」ケホケホ…ボ~ッ…
女「お目覚めですか?」
男「あれ…俺死んだんじゃ…」
女「私が助けちゃいました」エヘヘ…
男「…そうなんだ…」
女「…怒らないんですか?」
男「…」
女「冷たい水に入って冷静になれた…って感じですね」
男「…あぁ…」
男「…助けてくれて…ありがとう…」
女「いえいえ」
男「あのさ…足にオモリつけてたんだけど…」
女「…ほどけてました」
男「見た目華奢な女の人が深みに沈んだ俺を助けられるなんて…」
女「…浮いてきたんです」
男「水中で気を失う直前、何かが飛び込んで来るまでは覚えてるんだけど…その何かがさ…」
男「意識が朦朧としてたからかな…人魚というか…気のせいだよね」アハハ…
女「…」
男「で、こんな時間こんな場所になんであなたが?近くに民家はないしさ…」
女「えっと、それなんですけど…」
男「?」
女「…見せた方が早いかな…」ボソッ
女「ちょっとここに居て下さい。このあとお説教があるので逃げたりしないでくださいね。」スッ…スタスタ
スタスタ…ジャバジャバ…
男「えっ…お…おいっ!」
女「大丈夫です」クルッ…ニコッ
ザブン
男「(彼女も死にに!?助けなきゃ)」バッ…タッタッ
ザバッ
唐突に水面から何かが勢いよく高く跳ねた。男は視線を向ける。
月明かりの下、巻き上げられた水しぶきがキラキラと輝きながら水面へと還っていく。その中に大きな黒いもの。
男「(そっか泳ぎ得意なんだよな…って…あれ…)」
黒い影の上半分は女性のしなやかな体。下半分は魚の…
チャプン…
男「…」
~~~~~~
ジャバ…ジャバ…スタスタ
ギュゥゥピチャピチャポタポタ
女「…ふぅ」
男「…人魚さんだったんですね」
女「人魚とはちょっと違うんですけどね。女でいいですよ?」
男「あっ…俺、男…」
女「どうですか男さん?目の前にいるのは人じゃないっていう感想は?」
男「まぁ…驚いたけど、怖いとかはないかな」
女「それはよかった」
男「悪意とか感じないし、助けてもらったし、今はちゃんと人の姿だから少し信じられない感じ」
女「さっきも暗い中で一瞬でしたからね」
男「あの人魚の時の姿なんだけど、すごく神秘的で…美しく感じた…」
女「…えっ…」
男「ほんの一瞬がさ、見とれちゃって時間が止まったような感じ」
女「そんな…まさかそんな風にとられるなんて、なんだか恥ずかしいです//」カァァ
女「え~それはさておきですね」コホン//
男「(さておきって女さんから聞いてきたことなのに…)」
女「お話があるので、ここに座って下さい」キリッ
男「は…はぁ…」ヨイショ
女「お見せした通り、私はこの川で住んでます。女の人の姿で怪しく思われたでしょうけど、そういうことです」
女「怪しいのは男さん、あなたなんですよ?」
男「…すみません…」
女「自殺をしにきた…でいいんですよね?」
男「…はい」
女「…自殺はダメです」
男「女さんに迷惑かけちゃうもんね」
女「そんな理由じゃありません」
男「えっ!?」
女「命を粗末にすることがダメなんです」
男「なんで…!?住処が汚されるのが嫌なら分かるけど、気にならないなら放っておけばいいんじゃない?」
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