千年後に結ばれた二人 (19)



【出逢い】


「……森?」


いや待て、何故こんな所にいる?

僕はさっきまで、さっきまで……

そうだ。

僕は確かさっきまで……あれ?


「痛っ……」



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一体何なんだ?頭が酷く痛む。

【何かが】思い出す事を阻んでるような感じだ。

此処に来た経緯、理由の一切思い出せない。


ただ、それ以前の記憶はあるし名も言える。


なのに何故この場所にいるのかがちっとも分からない。

どういった経緯、誰の決断でこの場所にいるのかが分からない。


「何故だ。何故僕は【人界】にいる?」


頭痛に耐え、薄暗い森の中で頭を抱い地に蹲う。

確かなのは魔族である僕が人界にいるということ。


何故人界にいるのかは分からない。

何故人界に来たのかも分からない。

確実なのは禁を犯したことだけだ。


【どのような理由であれ人界に影響を与えてはならない】


僕のような下級の魔族でも知っている【法】。

【誰か】に【何か】をされて此処に来たのだとしても許されないだろう。


しかもそれを思い出せないときてる。



帰る術など知らない。

と言うか、魔力のない僕に魔界に帰る術などない。

魔族と言えるかどうかも怪しい、下の下の僕には何も仕様がない。


「どうしようもないって、正しくこういうことを言うんだな」


木に背を預けて座り込んでから何時間経っただろう。

ただただ呆然としながら辺りを見渡して地面を見ることの繰り返し。


無闇に動いても迷うだけだ。

何しろ人間と接触するのは拙い。

いや、魔界へ帰れないのならそれも関係ないか……


尻尾もなければ角もない、肌は青白く痩せぎすだ。

姿形は人間と変わりない。


寧ろ『僕は魔族です』と主張証明する方が難しいだろう。


主張出来るとすれば尖った耳と犬歯くらいだ。

なんて風に人間と出逢った時のことを考えている時……


「少年、怪我はないか?」


彼女と出逢った。



【彼女の苛立ち】


「入口は、これで最後か……」

全くつまらない。

あの時、騎士試験を女ながらに受けたが話しにならない。


私の技量力量が上であるのは明らかなのに、認めなかった。

やれ手加減しただの、女だから油断しただの……

見苦しい言い訳だけで何も得られはしなかった。


女が武勲を望んで何が悪い。

女が戦を求めて何が悪いのだ。



私にはこれしか(剣術)しかない。

これでしか生きて往けない。

だというのに、女だというだけで弾かれた。


どれだけ強かろうと【女】は【私】は認められない。


最初から分かっていたが、性別を偽ることは出来なかった。

これは【女】として譲れなかった。

【強さ】という価値において、性別は関係ないと判断したからだ。


だが、それは甘かった。

今の世は、女が戦士又は騎士として認められる世ではない。


生まれた時を恨む他無い。

界の歪みから現れる化け物を狩りながら何とか生きて行ける状態だ。

殺した者に生かされるというのは随分可笑しな話しだが、それも仕方がない。

私には、それしかないのだから。


化け物……


【魔物・魔獣】と呼ばれる異業の種。

人界に存在してはならない獣。

それを狩り、人々を守るのが私の出来る唯一だ。


下級。

犬、鳥、百足程度ならば簡単に退治出来る。

訊くところによれば架空、例えるなら龍のような上級もいるようだ。

嘘か誠か分かりはしないが……


ただ、今日は違った。


いるべき場所にいるべきモノがいない。

聞き慣れた威嚇、荒々しい咆哮の一切がない。

森は口を塞がれ静まり返っている。


いつもなら……

と、一応の警戒を解かずに獣道を進む。

暫く歩くと少しばかり開けた場所に出た。


ついこの間は此処で数対の魔物と戦ったのだが気配ない。

代わりにいたのは、黒髪で痩せぎすな青年。


いや、少年か?

肌は青白く、酷く弱々しい。

随分と憔悴しているように見える。


「少年、怪我はないか?」

この森で生きた人間と出逢うのは初めてだ。

というより、生きているのが不思議な程だ。

余程運が良かったのだろう。


見捨てる訳にはいかない、取り敢えずこの森から連れ出さなければ……

枝葉が邪魔をして空は分からないが、もうじき陽が暮れる筈。

早々に出なければ拙いことになる……

また明日書く寝る


【装い】

少年「(案の定、人間だと思われた。ちょっと複雑な気持ちだ)」

女「随分やつれているな。ほら、水を飲め」

少年「いや、別にやつれてるわけじゃ


女「その面で何を言う。今にも気を失いそうじゃないか」


少年「いや、だからこれは元々で決して具合が悪いわけじゃなくて、えーっと…」

女「……何か、あったのか?」


少年「(あ、何か勘違いしたなこの人……)」


女「いや、いいんだ。嫌なら無理に話さなくともいい」ウン

少年「(いやいや、嫌も何もそんなことないですよ)」

女「だがこの森は危険だ。もうじき陽も暮れる、私に付いて来い」


少年「(まあ、此処から出られるならいいか)」


女「ほら、行くぞ」グイッ

少年「うわっ」

女「軽いな。少年、歩けるか?」

少年「えーっと……はい、何とか歩けます」


女「無理はするなよ?」


少年「……」

女「おい、本当に大丈夫なのか?」

少年「ごめんなさい、ちょっとぼうっとしちゃって」


少年「あの、ありがとうございます」


女「気にするな。さあ、行くぞ」

少年「(【いい人】どころじゃないな、この人は【優しい人】だ……)」


彼女の笑みは強くて優しくて、何より温かかった。

僕の知らない笑みだ。

嘲り罵り見下す、そんな不純物が一切混じらない笑顔。

これが彼女にしか出来ない笑顔だと知るまで、そう時間は掛からなかった。

これから出逢う【人間】と彼女は随分と違っていたから。


【同じ種】なのかと疑いたくなるくらいに……

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