ラブライブ!のうみえりssです。
バレンタイン前に投稿しようと思っていたらバレンタインがいつの間にか過ぎ去っていました。
百合要素と地の文(というより独白)が主となっているので、苦手な方は避けていただく様よろしくお願いします。
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「海未のバカっっっ!!!!!!!」
そう言い捨てて怒りに任せて家を出たのはいいけれど、外に出てから後悔するのにそう時間はかからなかった。
「……寒い」
真冬の夜空は、薄いセーター一枚だけで耐え切れるものではなかった。せめてコートを羽織ってくればよかったと思ったけど、そんなこと考える余裕がないほど私は怒っていたのよ。仕方ないじゃない。
絢瀬絵里21歳。大学3年生。一つ年下の恋人と同棲中。そして現在、喧嘩して家出中。
喧嘩というか私が一方的に怒鳴り散らして家から飛び出しただけだけど、細かいことはどうだっていい。
「なんでこんなに寒いのよ!!」
半ばやつあたり気味に空に向かって叫んだものの返事はもちろんあるわけもなく、痛々しい大人の咆哮は暗闇に飲み込まれていった。
苛つく。寒い。暗い。怖い。どうして追いかけてきてくれないの。変な人に捕まったらどうするつもりなの。
自分の無様さに半泣きになりながら歩いていたらいつの間にか近所の公園に着いていて、なんとなく入り口の近くにあったブランコに腰掛けた。
これからどうする?まず家に帰るのは絶対無し。向こうから謝りに来ない限り戻る気はないんだから。
ここで寝る?そんなことできるわけないじゃない。寒さで死んじゃうわ。
ホテルに泊まる?残念ながら持ち合わせがない。財布もスマホも家に置いてきてしまった。
出て行くにしてももっと準備を整えるべきだったわ。
……となると。
……………………
「ごめんなさい、二人にまで迷惑をかけてしまって」
「全くよ」
私の謝罪に不機嫌そうな表情で答えたのは、希……の隣に座るにこ。
「折角のお泊りデートだったのに、あんたらの痴話喧嘩のせいでぶち壊しだわ」
「まぁまぁにこっち。お泊りならいつでもできるやん」
たしなめながらも幸せそうに笑う希を見ているとなんだか海未のことが恋しくな……らない。一切ならないわ。なるわけない。恋しくなんてなってない。
「それで、喧嘩の経緯は何なの?」
何よ、そんな面倒くさそうな顔しなくてもいいじゃない。でもにこは何だかんだ言いながら私の話をちゃんと聞いてくれるって知ってるわ。そこがにこのいい所だもの。
「何ニヤニヤしてんのよ。張っ倒すわよ」
だからこんな暴言も笑って許せちゃうのよね。
「話す気ないならとっとと帰りなさいよね」
笑って……
「まぁどうせあんたらのことなんだから大した話じゃないんだろうけど」
……
「ちょ、にこっち。何かもうえりちちょっと泣いてるから」
「わ、悪かったわよ……」
いいのよ。どうせ私は二人の時間を引き裂いた邪魔者でしかないんだから……
「謝るから、何があったのかちゃんと話してみなさい」
「……実は、見ちゃったのよ」
「見ちゃった?」
「海未の……浮気現場」
「「……」」
「何を言い出すかと思ったら……妄想も大概にしなさいよ」
「妄想じゃないわよ!!!」
本当に見たんだから!!この賢い目で!!!あれは絶対に海未よ、間違いないわ。
「詳しい話、聞かせてもらえへん?」
「……ええ。今日、大学から家に帰る途中のことよ」
ーー
(まさか教授の体調不良で休講になっちゃうなんて……こんなことってあるのね)
(海未はまだ帰ってきてない……わよね。今日は道場に顔出すって言ってたし)
(夕飯、何がいいかしら)
(……!)
『ーー』クスッ
『~!ーー?』ニコニコ
(あれって……海未と………ことり?)
(この時間なら道場に行ってるはずよね?)
(遊びに行くなら嘘なんてつかないで言ってくれればいいのに)
(……恋人に内緒で会って、楽しそうに腕を組みながらジュエリーショップに入っていく、なんてただ遊んでいるだけのようには見えないけど)
(……っ)
『ただいま帰りました』
『おかえりなさい、海未』
『やはり身体を動かすのは気持ちがいいですね。少し張り切りすぎてしまいました』
(……)
『絵里?』
『……少し話があるの。向こうで話しましょう』
『? 分かりました』
『単刀直入に聞くけど、今日ことりと何をしていたの?』
『……見ていたのですか』
『ええ。……見られたくなかった?』
『……正直、そうですね』
『っ……わざわざ私がいないときを狙って、道場に行くって嘘をついてまで二人で会いたかった?私じゃ不満なの?』
『ま、待ってください、絵里。誤解です』
『~~っ!腕まで組んであんなに楽しそうに歩いてたのに!!!!あれのどこが誤解なのよ!?』
『ただことりと遊びに行くって一言言ってくれればこんな気持ちになることなんてなかったのに……っどうして嘘なんてついたのよ……!』
『え、えり』
『正直見られたくなかった?そうでしょうね、お揃いのアクセサリーでも選んでたのかしら』
『違います!絵里、私の話を聞いてください!』
『言い訳なんて聞きたくないっ!!嘘をついて二人で会ってたのは事実じゃない!!!』
『ーーっ』
『最っ低……最低よ……!』
『海未のバカっっっ!!!!!!!』
ーー
「……というわけなの」
「なんというか……バカね」
「やっぱりそうよね!?」
「いや、あんたがよ」
「な、なんで……?」
にこは呆れながら、希は苦笑いを浮かべながら顔を見合わせるだけで何も答えない。
……何よ、私だけ除け者?
「どうして海未の話を聞いてやらなかったのよ。何かあんたが納得できる理由があったかもしれないでしょ」
「……嘘をつくまでして納得できる理由なんてないわよ」
第一、ことりと海未がデートする納得のいく理由って何?デートしてる時点でアウトじゃない。
「例えば、えりちのための嘘やったとしたら?」
「どういうこと?」
「好きな人を喜ばせたいって気持ちは、誰にでもあるんやないかな」
「海未は私のために嘘をついたってこと?」
「そうかもしれんやん?」
なんでそこでぼかすのよ。高校の頃からそうだったけど、希はたまにすごく難しいことを言うのよね。いくら賢いと謳われた私でも理解できないときがあるわ。
「大体ねぇ、海未が浮気なんてできる性分じゃないってことはあんたが一番わかってるでしょ。何より相手はことりよ?ありえないわ」
「そんなの……分からないじゃない」
「なら、直接聞いてみたらええやん?」
そう言って、希は自分のスマホを取り出して私の前でひらひらと振ってみせた。
「……無理よ」
「それが一番手っ取り早いと思わへん?海未ちゃんの話を聞いて、それでもえりちが納得できんのやったら別れるなりなんなりすればええんやないかな」
希の言っていることは筋が通っていると思う。だけど無理よ。無理なのよ。だって……
「喧嘩して家を飛び出してきたばかりなのよ?今すぐ電話なんて気まずくて何話したらいいのか分かんないわよ……」
「あんたねぇ……そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!仮にもし海未が本当に浮気してたとしたら、今頃ことりと二人でいちゃついてるかもしれないわよ?海未を取られてもいいわけ?」
頭に海未とことりが二人で抱き合っている光景が浮かんだ。
潤んだ瞳で海未を見つめることりを、海未が……ってそんなのダメ。絶対にダメ。無し無し。ことうみなんて認められないわ。
「嫌よ!絶対嫌。そんなの許さないわ!」
「だったら観念して電話しなさいよ」
「……無理よ。今回ばかりは私から折れないって決めたんだから」
「はぁ……あんたほんっとめんどくさい性格してるわね。昔からだけど。海未に同情するわ」
う……でも、やましいことが何もないなら追いかけるなり何なりしてくれれば良かったじゃない。お金も持ってない私の行き先なんて限られてるのに。
……全く、海未ったらどこで何してるのよ、もう。
「えりち、海未ちゃんと喧嘩したことないわけやないよね?」
「もちろんそれはあるけど……こんなことは初めてだし、私だってどうしたらいいのか分からないのよ」
私達は二人とも頑固だから喧嘩したことなら数えきれないほどあるけど、あまり感情的に怒ることはないし、喧嘩してもその場で話し合ってすぐに仲直りするようにしているもの。
「じゃあ、海未ちゃんのこと嫌いになったわけやないん?」
「当たり前じゃない。好きよ」
「なら海未ちゃんの話、聞いてあげてもええんやない?」
「……そう、ね」
「海未ちゃんに嫌われたかもしれない、って思ってるんやろ?」
「……!」
私が密かに心配していたことを言い当てられて思わず顔を上げると、希がいつものように笑みを浮かべていた。
……私の考えることは全部お見通し、ってわけね。流石だわ。
「……怖くなったの。海未はもう私のことなんか好きじゃなくて、同情で付き合ってるだけなんじゃないかって」
「だからちゃんと確認したかった。嘘をついたのは何かの間違いだって言ってほしかった。そうすれば安心できると思ってたから……だけど海未は、嘘をついてことりと二人で一緒にいたことを認めた」
「それにそれは私が追及しなかったら分からなかったことで、海未は私を騙すために、わざと嘘をついたっていうことになるでしょ?それが分かったとき、怒りと不安が入り交じって、海未に向かって滅茶苦茶に怒鳴り散らしたわ」
「海未が何かを言おうとしたとき、もしかしたらここで別れを告げられちゃうんじゃないか、私は捨てられるんじゃないかって考えが頭をよぎって、怖くなって、後先も考えずに逃げたの」
「でも家を出た後も、少しだけ期待していたのよ。もしかしたら追いかけてきてくれるかもしれないって。だけど、海未は追いかけてこなかった」
「さっき希に電話を勧められたときに断ったのも……怖かったからよ。電話して、もしふられたら?そんなの生きていけないに決まってるもの」
「本当、笑っちゃうわよね。逃げてばっかりで、無様にも程があるわ」
「はぁ………」
「……冗談抜きで救いようのない女ね」
長い溜息のあと、頬杖をついて、眉間に皺を寄せたにこが吐き捨てるようにそう言った。
「あんたは本物の馬鹿よ。自分だけ言いたい放題で、逃げて、その上勝手に傷ついて……被害妄想が激しすぎるのよ。めんどくさいし。私だったら絶対パスね。事故物件だわ」
「っ……」
「でもね」
「そんなあんたのことを、高校の頃から一途にずっと想い続けてる奴だっているのよ」
「あんたがどんなにめんどくさい性格だったとしても、そいつがあんたに心底惚れてんのは目に見えて分かるわ」
「なのに、あんたはそいつのことを信用してあげないの?これから先どんなに探しても見つからないくらいあんたのことが好きで、何よりもあんたを大切にしてくれる奴を、そのつまらない被害妄想で諦めるつもり?」
「絵里、あんたは海未のこと、その程度にしか思ってないの?」
……そうね、その通りだわ。一体私は海未の何を見てきたのかしら。
海未はいつだって私のことを信じてくれたのに、私は海未のことを信じてあげようとしなかった。勝手に勘違いして、海未を傷つけた。
「……私に、海未に謝る権利なんてあるのかしら」
「権利も何も、今すぐ行かないとにこがぶっ飛ばすわよ」
「もしダメだったら、そのときはまた戻ってくればいいわ。反省会でもしましょ」
こうして背中を押してくれる心強い友達がいるなんて……私は幸せ者ね。
「私、海未に謝ってくるわ。許してもらえなくても、後悔しないように」
「ええ、行ってきなさい!」
「……その必要はないみたいやけど」
「「えっ」」
このくだりは何だったのよ。
にこと二人で間の抜けた声をあげた瞬間、希の家の呼び鈴が鳴り響いた。
「ほら、ね?」
そう言って、希が玄関のドアを開ける。
「っはぁ、はぁ……見つけました……!」
肩で息をしながら入ってきたのは、紛れもない、海未だった。
「じゃ、ごゆっくり~」
にこと希が他室に引っ込んで、海未とリビングに二人きり。机を挟んで、向かい合って椅子に座った。
俯いているせいで、表情はよく見えない。
「……」
「……」
言いたいことは山ほどあるはずなのに、いざ本人を目前にすると言葉が出てこない。
喧嘩したときのあの威勢はどこにいったのよ。言いなさい、言うのよ、絢瀬絵里。
「あのね、海未」
「すみませんでした」
「海未……?」
「私の軽率な行動が、絵里を不安にさせてしまいました」
「謝っても絵里の気は晴れないとは思いますが、謝らせてください」
「すみませんでした」
椅子から立って頭を深く下げる海未。
「……絵里が望むのなら、今すぐにでも帰ります」
顔を上げた海未は今にも泣き出しそうで、海未にこんな顔をさせているのが自分だということが嫌になったけど、だからこそ笑顔に変えられるのは私しかいないのよ。
私以外、認められないわ。
「海未、聞いてくれる?」
「……はい」
椅子に座った海未の目を真っ直ぐに見据えて、私は続けた。
「謝らなくちゃいけないのは私の方なの」
ゆっくり深呼吸をする。
「あなたの言い分をまともに聞かずに、感情に任せて怒鳴り散らして、勝手に家を出て、あなたにたくさん心配をかけた」
海未は黙って私を見つめている。
「本当に、ごめんなさい」
「もし私に愛想を尽かしていないのなら、あのときに海未が言おうとしたこと、聞かせてくれる?」
沈黙。どんな言葉が返ってくるか分からない。……怖い。
怖いけど、今度は逃げるようなことはしない。拳をぎゅっと握って海未の言葉を待っていると、やがて海未が口を開いた。
「……バレンタインの日に、渡そうと思っていたのですが」
海未が持っていたハンドバッグから出したのは、ことりと海未が入っていったジュエリーショップの名前が書かれた細長い小箱。
「これって……」
「私はこういう物のセンスに自信がないので、ことりに頼んで一緒に選んでもらったんです。……開けてみてください」
箱を開けると、縁に水色と青色の宝石が散りばめられた、銀色の小さなハートのネックレスが輝いていた。
「ど、どうでしょうか……」
不安げに私を見つめる海未の顔が、涙で歪む。
つまり海未は、これをバレンタインの日に内緒で私にプレゼントしようとしてことりと一緒に買いに行ったのを私に見られたってこと?
何よそれ、何もかも私の勘違いだったってことじゃない。
「ごめんなさい……ごめんなさい……っ」
「え、絵里!?」
慌てて席を立って私に駆け寄る海未が、私の背中を擦る。
「私……っ怖くて、海未に嫌われたんじゃないかって不安で、海未のこと信じてあげられなかった……!」
涙が拭っても拭っても止めどなく溢れてきて、床の上に滴り落ちていく。
「ごめんなさい……海未…っ!勝手に勘違いして、あんな酷いこと言って……海未を傷つけてごめんなさい……っ」
今度こそ私の気持ちを、海未に伝えるのよ。
「私……、海未のこと、本当に大好きだから……っ」
「身勝手だけど、こんなところで終わらせたくない……っ別れたくないっっ!!!!!」
涙でぐしゃぐしゃになりながら、ありったけの声で叫んだ。なんて格好のつかない告白なのかしら。でもそれが私だもの。弱くて、かっこ悪いけど、それでもいいって海未は言ってくれた。
「そんなの……っ私だって別れたくないに決まってるじゃないですか!!!!!」
涙声の海未が、私に負けないくらいの声で叫んだ。
元々よく通る声質だから、部屋中に海未の声が響いた。私はその言葉が嬉しくて嬉しくて仕方がなくて、いつもよりも強く海未に抱きついて、それからまた馬鹿みたいに泣いた。
「このまま絵里に許してもらえなかったら、追いかけて拒絶されたらと思うと怖くて、脚が震えて……っすぐに追いかけられなかったんですっ……」
「絵里に嘘をついて傷つけるくらいなら、サプライズなんて考えなきゃ良かったって思って……ひぐっ…でも渡せて良かったです……」
「好きです……好きなんですっ……絵里っ!」
「私もよ、海未……!」
「えりっ……えりっ!」
しばらくの間、二人で泣きながら何度も何度も謝り合った。
「……こんなに泣いたの、いつぶりかしら」
「そう、ですね……」
散々泣いたあと、私達はカーペットの上に寄り添って座っていた。
「ねぇ、海未?」
「なんですか?」
「あのネックレス、折角貰ったんだからつけてほしいわ」
「……すっかり忘れていました」
私はちゃんと覚えてたわよ。大好きな海未からのプレゼントだもの。
「……失礼します」
「ふふっ、はーい」
チェーンが首に擦れたときのくすぐったさも、微かにうなじに当たる海未の指も、何もかもが愛しい。海未すごい。ハラショー。
「どう?」
海未に向き直ってみせると、海未は優しく微笑んだ。
「とても似合っていますよ。綺麗です」
どうしよう。嬉しい。にやにやが抑えられない。
抱きしめて、思い切りキスしたい。
っていうかするわね。海未の唇にススメ→トゥモロウするわね。
「まぁここ、うちの家なんやけどね」
「人んちで盛ってんじゃないわよ。てかあんたたち……向こうの部屋まで丸聞こえだったんだけど。聞いてるこっちが恥ずかしかったじゃない」
「希!」
「希……」
「どっちかはにこの名前呼びなさいよ!!!」
そういえばここ、希の家だったわ。
「で、仲直りはできたの?」
「ええ、おかげさまでね」
「いい顔してるじゃない」
「迷惑かけたわね」
「今度ケーキバイキング奢ってもらうわよ」
「う……」
まぁ、致し方ないわね……
にこと話していると、そういえば、と希が口を開いた。
「海未ちゃん、ことりちゃんと腕組んでたらしいやん」
そういえばそうだったわね。すっかり忘れていたけど、一応聞いておかなくちゃね。
「あ、そうよ。あれは何だったの?」
「あぁ、あれはですね……」
ーー
『海未ちゃんがサプライズなんて珍しいね。そういうのあまり得意じゃないって言ってなかったっけ?』
『そうですね、隠しておくのが苦手なので。でも……絵里の驚く顔が見たいんです!』
『ふふ、そっかぁ。絵里ちゃんきっと喜ぶと思うよ♪』
『そのためにも、何としてでもバレンタインデーまで隠し通さなきゃいけませんね!』
『そうだね!……絵里ちゃんいいなぁ』
『ことり?何か言いましたか?』
『ううんっ!ねぇ海未ちゃん、ことりにも何か買ってよぉ~!お願いっ♪』
『うっ、残念ながら予算が……というかことり、腕を絡ませるのはやめてください!恥ずかしいです!』
『え~……?だめ?』
『しっ、仕方ないですね!少しの間だけですよ?私には絵里がいるんですから……』
ーー
「というわけです」
「ふふ、ことりちゃんも変わらんね」
「というわけですじゃないわよ」
完全に流されてるじゃない。ちゃっかりねだられてるし。
「……まぁ、いいわ。ことりだし」
「私が愛しているのは絵里だけですよ?」
「ええ、知ってるわよ。そんなこと」
「そのにやけ顔かなりキモいわよ」
失礼ね。海未が可愛すぎるんだから仕方ないでしょ?
「絵里はどうして私とことりが出かけていたことが分かったんですか?一応絵里のいない時間を狙ったのですが……」
「あぁ、講義が休講になったのよ」
「そういうことですか……さすがにそれは予想できませんでした」
そう考えると、私って海未の企画したサプライズを台無しにしたってことになるのかしら。事情が分かった今、何だか申し訳なくなってきたわ。
「海未、折角企画してくれたサプライズ台無しにしちゃってごめんなさい」
「いえ、絵里の驚いた顔よりも笑顔の方が大切ですから」
「海未……!」
「あんたら仲直りしたらしたでうざいわね」
ちょっとは大目に見てくれたっていいじゃない。
「っと、もうこんな時間ですか……絵里、そろそろ」
「何言ってんのよ」
席を立とうとした海未を、にこが制した。
「にこたちを散々痴話喧嘩に付き合わせたんだから、あんたらにも付き合ってもらうわよ!希!」
「はーい」
希が冷蔵庫から出してきたのは、ビールにワイン、焼酎といった数々のお酒だった。
さっきから大人しいと思っていたら、これを用意していたのね。
「さ、今日は飲むわよ~」
「お泊りの準備もできとるで~」
「わ、私は明日も学校が……!」
にこと希にじりじりと追い詰められながら海未が目線で私に助けを求めてきた。
全く、仕方ないわね。
「ふふふ、私には酒豪の国ロシアの血が混ざっているのよ?お酒なんてジュースでしかないわ!!」
「え、絵里っ!?」
だって何だか楽しいじゃない。昔に戻った気分。
「えりち、無理はあかんよ?」
「ええ、大丈夫よ」
「お酒片手に語り尽くすわよ!!」
「ここには悪い大人しかいないのですか……!」
「つべこべ言わずに乾杯!はい続いて!!」
「「かんぱーい!!」」
私達の夜はまだまだ続く。
「えりちは相変わらずお酒弱いなぁ」
「口だけは達者なのにすぐ潰れるわよね」
「そんらことないわよ~」
「呂律回ってないじゃない」
「成人式の時もチューハイ一本で酔いつぶれて、海未ちゃんが迎えに来たんよね」
「そうでしたね。あのときは大変でした……」
「うみ~、うみちゃ~ん?えりですよ~」
「最早誰よこいつ……」
「絵里は酔っ払うといつもこうなってしまうので、私のいないところで飲ませるのは少し心配です……」
「ふふ、うみ大好き~」
「どっかの誰かさんみたいに悪酔いされるよりはマシよ」
「誰のことやろ~?」
「あんたしかいないわ」
「見て見て、希。これ海未から貰ったのよ。どう?かわいい?」
「うんうん、かわええな。よく似合っとるよ~」
「ふふふふ」
「……それにしても、こいつも海未と付き合い始めてから変わったわよね」
「そうですか?」
「酔っ払ってるっていうのを抜きにしても、そんな風に誰かに甘えるなんて前の絵里だったら考えられなかったじゃない。無理に背伸びしようとしなくなったって感じね」
「えりちは元々甘えん坊さんやからねぇ」
「あんたも人のこと言えないでしょ」
「えへへ、にこっち大好き~」
「はいはい、ありがとねー」
「私もにこのこと大好き~」
「……」
「……」
「今のは私は悪くないでしょ!?」
「にこっち、浮気は許さへんよ?」
「にこ、絵里に手を出したら……分かっていますね?」
「ダメじゃない、にこ」
「誰のせいよ!!」
「うみ~、だっこ」
「はいはい」
「にこっち~うちも」
「馬鹿なこと言ってんじゃないわよ」
「にこっちのいけずぅ」
「あんた酔っ払ってんの?」
「……あの」
「「?」」
「二人がいなければ、私と絵里はどうなっていたか分かりませんでした。……なので改めてお礼を言わせてください。ありがとうございました」
「何よ突然、堅苦しいわね。長い付き合いなんだしそんなの気にしなくていいのよ」
「仲直りできて何よりやん?」
「にこ、希……ありがとうございます」
「海未の匂い、ハラショーね」
「あんたもよくもまぁそんな……めんどくさいのと付き合ってられるわよね」
「……そんなところも好きですから」
「ふーん……惚れた弱みってやつ?」
「ふふっ、そうかもしれませんね」
「海未ちゃんとえりちはお似合いって、カードを使わなくってもうちにははっきり分かるんよ」
「な、何だか照れますね……」
「無理をしてまで頑張る人は、それだけ無理をしてしまう人のことが分かるのよ」
「せやから、本当に倒れてしまう前に止めることができるんやね」
「あー……なんとなく分かった気がするわ」
「海未ちゃん、えりちのこと、これからもよろしくね」
「はい、もちろんです!」
「……よし、もう一回飲み直すわよ!」
「おー!」
「飲み過ぎには注意ですよ、二人とも!」
「……」
ふと目が覚めて、身体は寝かせたまま頭だけ動かして辺りを見回す。
何だかぼーっとする。というかどこよ、ここ。……あ、希の部屋だわ。確かみんなでお酒を飲み始めて……その先の記憶がない。
「海未……?」
机に向かって本を読んでいる海未の背中に声をかけると、振り向いて私と目が合って、それからにこりと微笑んだ。可愛い。
「おはようございます、絵里。調子はどうですか?」
「少し頭が痛いけど、大丈夫よ」
「そうですか。お水を貰ってきたのでどうぞ」
海未に差し出されたペットボトルのミネラルウォーターをごくごくと喉を鳴らしながら半分くらいまで飲んで、ぷは、と息をついた。
「ありがとう」
「どういたしまして。希とにこはリビングで寝ていますが、私達はどうしますか?」
え?寝てる?今って朝じゃないの?部屋の時計をちらりと見ると、時計の短針が3を指していた。
3時。丑三つ時。普段の海未なら間違いなく熟睡している時間。
つまり海未は、私の様子を見るためだけにこんな時間まで起きていたということになるわね。
「ご、ごめんなさい!」
「気にしないでください。好きでやっていることですから」
「海未だって眠かったわよね……」
「全然眠くないですよ」
口ではそう言っているけど、明らかに眠そうじゃない。目なんてほとんど閉じかけてるし。
「私はまだ眠いし、寝ましょう」
「はい、分かりました」
幸いまだ眠気が完全に取れたわけではないし、何より海未を寝かせてあげたい。
もそもそとベッドに潜った海未が、布団を少しだけ持ち上げて手招きをしてきた。どうしよう、可愛いわ。
「電気はつけておきますね」
「ええ、ありがとう」
貰ったネックレスを傷がつかないように箱にしまってから机の上に置く。
ベッドに入ると、海未が私の胸元に顔を埋めて背中に腕を回してきたので、頭を優しく撫でた。
海未は眠いときはいつも甘えたがりなんだけど、今日は特にそうみたい。可愛すぎて困っちゃうわね。
「おやすみなさい、絵里……」
「おやすみ、海未」
……あ。大切なことを言い忘れていたわ。
「ねぇ、海未」
「はい……?」
いつも受け答えがはっきりとしている海未にしては珍しく不鮮明な返事から、余程眠いのだということがよく分かる。
ごめんね、だけどこれだけ言わせてほしいの。
「ありがとう」
私のことを好きでいてくれて。
「大好きよ」
これからもずっとね。
「私もですよ」
幸せそうな笑みを浮かべる海未の唇に、私は優しくキスを落とした。
HAPPY END
以上で終了となります。
面倒くさい絢瀬さんを書きたかったのですが難しかったです。
読んでくださった方、ありがとうございました。
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